終・東方惨劇録　序章

霊夢は人里に繰り出した。
博麗神社での宴会を２日前に控えたこの日、買い出しにでも行こうかと考えた。
魔理沙なんて連れてきたら五月蝿いだけだし、
そもそも、本人はあんまり人里が好きじゃない。

「買うって言っても、何買うか考えてないしな」
霊夢は人里を、目を細くして見渡した。
最近、人里に言ってなかっただけだろう。
人里が、やけに、賑やかに見えた。
「明後日の宴会は来てくれるのかしら」
そんなことを考えていたときだった。

「あっ！！！！」
霊夢に、人里の住人がぶつかってしまった。
霊夢は後ろに少しよろける程度ですんだが、村人の方は簡単に倒れてしまった。

子供だった。

その子供は少し、よろよろとしながら立ち上がり、服の汚れを払った。
寺子屋の生徒には見えない。
「だ、大丈夫？！」
霊夢は真っ先に心配する。
「こ、こちらこそ！！本当にすいません！！」
子供なのに、やけに礼儀正しかった。
「な、・・・そんなに謝る事は無いわよ・・・こっちの不注意だったんだから・・・」
既視感。
この子供はどこかで見た事が・・・。
「あれ・・・あんたはどっかで・・・」
「あ・・・あなたは・・・！！！」
突然、村人は目を輝かせた。
「覚えてるの？」
「はい！！もちろん、忘れません・・・！！！」
村人はただの子供だ。
一瞬見ただけで自分のことを覚えるのなんて難しいんじゃないか？

この子供との出会い・・・それは・・・
紅魔館での抹殺予告の事件から１ヶ月後の事だった。


霊夢は無縁塚に来ていた。
魔理沙が「宴会開こうぜ」とか提案して、
文が「小町さんと四季さんも呼びましょう」とか提案したからだ。
誘いに来た。
どうせさぼってるだろうから、小町を誘うのは簡単だろう。
「小町ー？いる？」
返事は無かった。
「寝てるのかしら」
霊夢は、小町がいつもいる小さい丘の上に登った。
しかし、結果は同じで、小町はいなかった。
珍しく仕事をしていたのだ。

そんな時、丘の上から少し外れたところに、人里の住人らしき人が倒れていた。
「どうしたの？！」
自分は博麗の巫女。
村人を助けないなんて無責任。
そう思い、村人に駆け寄った。
体を抱え、呼びかけてみた。
しかし「・・・」返事は無かった。
「彼岸花にやられたのかしら・・・それとも病気？」
村人を背中に抱え、とりあえず、神社に連れて行く事にした。
そんな時、小町が来た。
「おや・・・おまえさん・・・って、その子供はなんだい？」
「そこに倒れていたのよ」
「おおそうか、じゃあ、つれて帰るといい」
「・・・？」
「そいつは、素兎と一緒のようなもんだ・・・いいことが起きるぞ、ただの人間だけど」



「あのときは風邪で倒れてしまっていまして・・・」
「何であんなところにいたのかしら？」
「景色を見にきたんです・・・あまりにも綺麗でしたから」
子供は下を向いた。
「ああ！！そうだ・・・！！！」
その子供は、懐からお金を取り出した。
紐につながれた、銅銭だった。
「これ・・・少ないですが・・・お礼です」
「だ、ダメよ！！こんなもの・・・」
「あの場所にずっといたら、大変な事になったかもしれませんから」
「で、でも・・・」

「命の恩人ですもの・・・霊夢さん」

「え？名前・・・知ってるの？」
「聞きました、阿求さんから」

その子供はペコリとお辞儀をして、そのまま駆けていった。
霊夢は思った。
あの子供がわけてくれた幸福はこんなモノじゃないと。

「名前は？」
「今度逢うときにでも・・・必ず・・・」










「逢いますから」