Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『嗜虐神 諏訪子〜紅魔の章・前篇〜』 作者: 紅のカリスマ

嗜虐神 諏訪子〜紅魔の章・前篇〜

作品集: 16 投稿日時: 2010/06/04 16:56:37 更新日時: 2010/06/05 21:04:57
 三日目の朝。

 この日の諏訪子の寝覚めは良くは無かった。

 むしろ悪いくらいだ。

「・・・はぁ」

 思わず溜め息を吐いてしまう。

 昨日までの二日間を思い、自分の愚かさに反吐が出そうな程に気分が悪くなった。

 何時もより帽子を目深に被り、自分の寝室を後にする。

「あれ・・・?」

 居間には誰もいなかった。

 笑顔で「おはようございます、朝ご飯出来ていますよ」と言ってくれる自分の子孫。

 優しく「遅かったじゃないか、朝餉が冷めてしまうぞ」と言ってくれる自分の親友。

 



―――どちらもいなかった。





 辺りを見回してみると、三人で何時も囲んでいるテーブルの上に早苗からのものらしい置き手紙があった。

「えっと・・・『諏訪子様、今日は命蓮寺の方に用事がありましたので起きて来られる前に出掛けさせて頂きました。朝食はお台所に作り置きしてありますので、起きて来たらお召し上がり下さい』ね・・・神奈子もまだ帰ってないから、完全に独りぼっちか・・・」

 取り敢えず、早苗の手紙にある通りに朝食を摂ることにした。

「そういえば、幻想郷に来てから一人だけで食事したの初めて・・・いや、神奈子と出会う前くらいか。私が常に一人で食事していたのなんて・・・」

 諏訪子にとっては、久々の一人っきりの食事。

 だが、その心中に溢れるのはただの寂しさと孤独感のみ。

 楽しさ等、何処にも無かった。

「・・・きっと、このまま私は、昔の様に孤独になっていく運命にあるのかもね・・・フフッ」

 ゆっくりと箸を進めつつ、自虐的な言葉と共に軽い冷笑を零す

 そして、次のものに箸を付けようとした時だった。

「―――ん?」

―――運命?

 自分の口にした言葉を頭の中で反復する。

 何度も何度も、反復する。

 それから己の考えの結論に至るまでは、あまり時間を要さなかった。

「そうだ―――運命を操る吸血鬼。あいつなら、きっと・・・」

 そう言いながら彼女は、神社を後にし紅い悪魔の元へ向かうを決めた。

 最後に残った、たった一つの神様らしくない手を使う為。

 その方法が成功しようとも、失敗しようとも。














―――全てを終わりにする為に。














───霧の湖、紅魔館。

 諏訪子の目の前には、何処までも血の如く紅い館とその門がそびえている。

「しっかし・・・何時見ても趣味悪いわね、この館・・・あの吸血鬼の感性を疑うわ」

 正直、この館の外観は諏訪子には理解し難いセンスであった。
だが、諏訪子がそれを言ったら、自分のことを棚に上げている、と他者に言われかねないだろうが・・・。

───主に帽子的な意味で。

 それにしても───

「変ね・・・何時もなら、あの華人系の門番───美鈴だっけ?彼女がいるはずだけど・・・」

 妙だった。
何時もなら、紅魔館の門を守る門番───紅 美鈴が、門の前にいるはずなのだ。

 それが、今日に限って見当たらない。
諏訪子が何度か散歩中に訪れた時でも、寝ていて門番として機能していない状態だったが、必ず門の前にはいたはずなのに。

 ただ、妙だとはいえ、諏訪子にとっては好都合には違いなかったのだが。

「───まぁ、良いか。吸血鬼に会う前に、余計な力を使わなくて済むしね・・・よっと」

 諏訪子は、飛翔し門を飛び越え、紅い悪魔の館の中へと足を踏み入れた・・・。



「ふぅむ・・・絶対におかしいわ。門番だけならまだしも、あのメイドまでいないなんて・・・」

 流石に館内に入ったら、吸血鬼が最も信頼する従者こと十六夜 咲夜が気付き、時を停めて襲い掛かってくるであろうと思い、諏訪子は身構えていた。
だが、その従者は一向に現れず、館内に気配も全く感じられない。

「それに、これだけの館をあのメイド一人で家事をしてる訳じゃないだろうから、他にもそれ相応の数のメイドがいるはずだろうけど───いない。何か不気味だわ・・・」

 数百近くいるはずの妖精メイド達も、何故か見当たらなかった。

 ここまで誰もいないと、不自然且つ不気味。
何かしらの罠でもあるのではないか、と思わず疑ってしまう。

「───ま、目的を果たす分には、邪魔が無い方が良いのは確かだし、別に良いか。罠が仕掛けられている訳でも無さ気だし・・・そうと決まれば、あの吸血鬼の部屋に行こうかしらね、っと」

 彼女は一先ず、悩むことを止め、館の主人───レミリア・スカーレットの部屋を探すことにした。

「・・・何部屋あるのかしら?ここ」






───紅魔館、レミリアの部屋。

 永遠に紅く幼き月は、実に退屈そうな様子で部屋のベッドの上に寝転がっていた。

「ふぅ・・・流石に退屈ね。働き過ぎの咲夜に無理矢理休暇を与え、美鈴は元々今日は休日。確か、咲夜と里に買い出しに行ったんだっけか・・・てか、結局仕事の一部じゃない、買い出しって。休む気あるのかしら?咲夜は・・・」

 ワーカホリック気味の従者に呆れつつレミリアは、部屋の柱時計に目をやる。
時計は、午後四時を少しばかり過ぎたことを示していた。

───出ていったのが三時位だから・・・帰ってくるのは、大体五時、六時かしらね?

 咲夜は出掛ける前に、「前日に行ったパーティーで、食材が大分無くなっている」的なことをレミリアに伝えていった。

 五〜六時というのは、それに加え、紅魔館と人里の距離も踏まえたうえで想定した時間帯だ。

「パチェとフランは昨日から地下籠もり。妖精メイド共は・・・考えるまでもない、か」

 レミリアの友人である七曜の魔女ことパチュリー・ノーレッジ。
そして、彼女の親愛なる妹であるフランドール・スカーレット。

 レミリアの様子から察するに、彼女らは、パーティーにも参加せず、昨日から共に地下に籠もりっぱなしらしい。

 前者は、図書館に。

 後者は、自分の部屋に。

 一応、レミリアは誘ったらしいのだが、魔女は

「魔法の実験があるから無理」

等と言い断り、妹の方は

「・・・」

返事が無い、無視されている様だ・・・といった感じで反応がなかったらしい。

 後、妖精メイドは咲夜がいない時点でサボることは目に見えていた。
・・・ただ、咲夜が出掛ける前に一通りの仕事を片付けてしまう為、彼女達も暇になるといえば、確かにそうなのだが。

「今頃は、娯楽室辺りで騒いでるんだろうかね。私の部屋からは大分遠いから、声は聞こえないが・・・それにしても」

───暇ね。

 従者達は出掛けて、友人も妹も定位置から動かず。
そんなレミリアの胸中には、その一言だけが浮かんでいた。

 はぁ、と短く溜め息を吐き、何をしようかと考え始めたところ



───コンコン。



 突然響いた、扉のノック音に思考を掻き消される。

「ん、誰かしら・・・?」

 咲夜と美鈴が帰ってきてはいない。
フランドールならば、ノック等しないで入ってくるはず。
それに館外の知り合いは、ノックも挨拶もせず、ドカドカと上がってくる為、まず違う・・・等とレミリアは考え得る限り、あり得ない可能性を一つずつ潰していく。

 そして、最後にレミリアが行き着いた可能性は二通りのみ。

───パチェか、妖精メイドか・・・。

 故にただ一言

「入りなさい」

 そう扉の前に立つ者に入室の許可をする。

 だが、その者は一向に入ってくる気配が無い。

「・・・入って良いわよ」
 少し苛立ちながら、二度目の許可。

 しかし、それでも入ってくる気配が無い。

「───あぁ、もうッ!!」

 業を煮やしたレミリアは、直接扉を開けに向かい、扉を───




───開けた。

「二度も入れと言っているのが解ら───」






───ズブリ。

「な・・・───アガァァァアアッッ!?!?」

 何かが刺さる様な鈍い音と共に、レミリアの視界が赤黒く染まり、その両目に激痛と共に、そこにあるべき物を無理矢理引き抜かれる感触が走る。
同時に部屋の中に紅い悪魔の叫び声が響き渡った。

 しかし、誰一人として駆け付けることはない。
それは運命の悪戯としか言い様が無い、様々な要因が重なった偶然の結果故に、だ。

 そしてレミリアは、全身を何か冷たい液体により吹き飛ばされ、部屋の壁に衝突。

 それが鉄砲水を浴びせられたのだと、彼女が気付くのに時間は掛からなかった。







「フフフッ・・・まさか、こんなあっさり成功するとは思わなかったわよ、吸血鬼?」

 先程の攻撃を仕掛けたのは、館内を回り、ようやくレミリアの部屋を捜し出した諏訪子だった。

 彼女は目の前で眼窩から血を流し、自分の出した神水によってずぶ塗れになった吸血鬼を、嘲り笑いながら見ている。

 その右手から、レミリアから抉り出し、その際に歪んだ眼球が二個床に捨てられた。

「ぐぅうッ・・・お前、山の上の神かッ・・・!?」

 眼球を抉り取られた自分の目を押さえ付け、痛みに耐えつつレミリアは言う。

「お〜、ご名答。一回位しか会ってないのに、よく判ったねぇ」

 少しおどけた様子で諏訪子は返す。

「何故、こんな真似を・・・」

 面識皆無な相手からの突然の仕打ちに、レミリアは混乱している。
同時に何故、自分にこんなことをするのだ、という怒りも沸き上がってきており、球の無くなった目で諏訪子がいるであろう場所を強く睨んでいた。

「別に教える義理は無いじゃない?理由を教えて欲しければ、土下座くらいしなよ。ほらほら、見ててあげるからさぁ?」

 レミリアの威圧的な様子もクソ喰らえと言わんばかりに、見下し、馬鹿にした様な発言でレミリアを愚弄する。
既に最初から、前日や前々日並みの勢いである。

 そんなふざけた神の態度に、レミリアの方は、紅い悪魔としてのプライドを逆撫でされたらしい。

「貴様・・・私を馬鹿にしてェエエエッッ!!!」

 激昂し猛りながら、自分のことを愚弄した諏訪子に向かい、空を切り裂きながら突撃を仕掛ける。

 あまりにも怒り狂っているが故、自分の状態を二の次に諏訪子を倒すことを優先したのかは解らないが、両目を潰された状況では明らかに無謀。

───相手は仮にも八百万の神の一柱。

 軽く身を翻し突撃を躱す。

 その躱した刹那の間に発生したレミリアの隙を逃さず、その背の蝙蝠の様な翅を強引に捕まえる。
そして、そのまま強引に力技で床に叩きつける。

 木造故に多少ばかり床が破散し、木片が軽く舞った。

「う、ぐぅッ・・・!!」

 叩きつけられた衝撃に思わず声を上げる。

 そして、何故、吸血鬼の自分が力負けをしているのか。
それを理解出来ないらしいことを、目を閉じていても、彼女の口元で諏訪子は読み取れた。

「目が見えてなくても、吸血鬼自慢の身体能力や感覚で捉えられと思ってたのかしら?仮にも私は神様。その神の力の源である“信仰”・・・そこから来る神力さえあれば、吸血鬼や鬼にも肉体的に負けはしないわ。身体能力等にそれを回せば・・・ねッ!!」

 そう言いながら、床に叩きつけたレミリアの背を踏み付ける。

「あ、ぎッ・・・貴様、一体何が目的で私に、こんな真似をする、のよ・・・ッ!?」

「何が目的だって?別に複雑な理由なんてないわ、単純なこと───」

 一呼吸置く。

 そして、言い放つ。

「───暇潰しと欲求不満の解消・・・私、こんなでも虐待とか大好きでねぇ。最近、そういうことしてなかったからさ・・・あなたの悲鳴を聞いて、欲求不満を解消したい訳。お分りかなぁ、紅い悪魔さん?」

 嘲るかの様にそう言われたレミリアは、耳を疑った。

───紅い悪魔と呼ばれる私で暇潰しと欲求不満の解消・・・その為に私を虐待する、だと?

 何よりも、その言葉に。

 吸血鬼は、普通ならその圧倒的な力を前に忌避される。

 危険視される。

 へり下られる。

 少なくとも、良い目で見られること等、まず無かった。

 それがどうだろう。

 吸血鬼のレミリアを嘲笑うかの様に、見下し、踏み付けているこの神は、暇潰しと欲求不満の解消等と言った。

 そして、虐待することが好きだとも言った。

 それは、レミリアにとっても初めてのことだった。

 故に思う。

 この神は何と傲慢なのか。

 この神は何と俗物的なのか。

 この神は何と罪深い神なのだろうか。

 この神は───
















───何て自分に近い“悪魔”の様な存在なのだろう、と。

「───ククク・・・ククククク・・・」

 自分の背を踏み付ける神の言葉に、レミリアは堪え切れず笑い始める。

「・・・何が可笑しいのかしら?」

 諏訪子には何故笑っているのか、当然の様に理解出来ていない。
その様子を少し不愉快に感じ、睨み付ける様に自分の足下の吸血鬼を見る。

「クククク・・・本当に面白い、傑作だよ。まさか、そんな理由でこのレミリア・スカーレットに喧嘩を売る輩がいるなんてね・・・」

「悪いかしら?」

「いや、悪く無い・・・むしろ称賛モノだわ、山の上の神。だけれど───」

「・・・ッ!!」

 直後、レミリアの姿が紅い霧となって散る。

───そうか、吸血鬼は霧化することも出来たんだっけか・・・。

 流石に諏訪子は東洋出身の土着神であることもあり、吸血鬼の様な西洋妖怪への知識は申し訳程度のものでしかない。
その為に、吸血鬼が霧になれる等の少し入り込んだ知識は、今の今まで忘れていた。

 結果として、レミリアに逃れられてしまった。

「吸血鬼が霧になれることは知らなかったみたいだね」

 部屋の少し離れた位置、壁のすぐ傍に再び実体を作り出す。
吸血鬼の部屋故、窓が無いが、おそらく壁の向こうは外だろう。

 どうやら、霧になっている間に目を回収。
神経を繋ぎ合わせたらしい。

 目元から涙の様に頬を流れた血はそのままに、紅く血走った両目が諏訪子を嬉々として見据えている。

「ふん、五月蝿いわ。ただ忘れていただけよ」

「あら、そう───それにしても」

 レミリアの右手が振るわれ、純粋な腕力のみで部屋の壁を粉々に破砕する。

 崩れた壁の向こうに外が見える。

 外は既に月夜。

 天高くから月が地上を照らしている。

「・・・外は実に良い月夜だわ。そうは思わないかしら?」

「・・・」

 レミリアの問い掛けに、ただ無言で返す。

 そんなことは気にせずに、レミリアは続ける。

「お前が私を猟奇的なまでに壊してみたいなら、それは結構。だが、私は一方的にやるのもやられるのも好きじゃない・・・だからこそ、私は抵抗させてもらう───」









「───お前を本気で殺す気でね」

 狂喜的な笑みと共に、言葉は紡がれた。

 そして彼女は、背の翅を完全に広げる。

 月光を背にし、己の物とはいえ鮮血に染まったその姿は、幼い外見ながらも紅い悪魔と呼ばれるだけの風格を備えていた。

 そして、その姿を見た諏訪子は、自分で気付いた時には、当の昔に忘れていたものを思い出し始めていた。

 それは神代の頃、神奈子との大戦。

 その戦いの中で己が振るった―――












―――荒々しき、『洩矢神』の軍神としてのサガを。





「・・・面白いじゃない。私は、一方的に虐待するのが好き・・・だけど、それと同じくらいに───」

 両手に神力を込めた鉄輪を顕現させる。

 見かけはただの刃付きの鉄輪でありながら、禍々しい祟り神の気を感じさせる洩矢の神具。

 それを両の手に持ったということは、つまり―――

「―――本気の“殺し合い”も大好きなのよね」

―――本気でレミリアと殺し合う、ということ。







「ほぉ・・・何時ぞや見た時は、蛙跳びしているだけの雑魚だと思っていたけど・・・」

「神様は“遊び”の時くらいは他と対等かそれ以下になってやるのよ。そうでなくちゃあ、遊びは面白くないから―――ねッ!!」

 両手に持った鉄輪を思い切りレミリアに向け放り投げる。

 神力の込められた鉄輪は回転しながら、レミリアに襲来する。

 軽々と避けるものの、鉄輪はそのまま弧を描く様に反転。

 今度は彼女の背後に迫る。

「チッ・・・」

 咄嗟に吸血鬼の瞬発力に任せるまま、月夜の下へ躍り出る。

「外に行くのかい。まぁ、私はその方が全力が出せるしねぇ・・・構わないよっと」

 そう言いながら、諏訪子も戻ってきた鉄輪を受け止めつつ、外へと出て行った。













「―――やはり、一度身体から離れたものをもう一度繋ぎ止めるのは厳しい、か・・・視界が霞む」

 目元を抑えつつ、苛立ちを交えた様子で呟く。

 先程、レミリアが自分の身体を霧に変えた際、抉り取られ捨てられていた眼球も霧に変え、神経を繋ぎ再構成した。

 だが、それは応急処置にしかならない。

 一度、身体から切り離されたものは、元々自分のものであったとしても切り離された時点で異物も同然だ。

 それを無理矢理、自分の身体の一部として再構成するのだから、何らかの障害が発生するのは当然と言えば当然なのだろう。

「今は眼が見えるだけマシかしら・・・奴を相手にするなら」

 振り向き様、自分に飛来する巨大な岩石をその左手で打ち砕く。

 爆散。

 砂煙が舞い、岩石の欠片がパラパラと落ち

「流石は吸血鬼。凄い腕力だわ」

 砕けた岩石の奥から諏訪子が向かってくる。

 疾風怒涛の勢いで両手に持つ鉄輪を振るう。


―――思ったより速い・・・!!


 その速さはレミリアの予測を大きく上回る速度であった。

 視力自体も悪くなっていることもあり、その一撃に対し反応が遅れる。

 だが、何とか右腕で受け止め、諏訪子ごと強引に払い除ける。

 双方共に、一足飛びで距離を取った。

「・・・」

 レミリアはちら、と攻撃を受け止めた右腕を見やる。

 深い裂傷が出来ていた。

 段々と傷を負った場所が回復していくのがレミリアには解った。

「―――私の身体にここまで傷を付けるなんて、神様というのは伊達じゃないみたいだ。神とはいえ所詮は蛙、等と見くびっていたことを謝罪しようじゃないか」

 レミリアはそう言いつつ口元をニィ、と歪ませる。

「それはどうも・・・しかし、見くびってる様な余裕があったとはねぇ。五百年っぽっちしか生きていない蝙蝠の親玉の分際で大したもんだよ」

「・・・ま、何時までもそんな風にほざいているが良いわ」

 諏訪子の視界からレミリアの姿が消え去る。

「ッ!?」

 気が付いた時には、諏訪子の懐ギリギリの間合いまで入り込まれていた。

 鉄輪を持つ腕を振るえる様な距離では無い。

「―――もう油断も慢心も無く、全力で戦わさせて貰うから」

 血走った瞳で諏訪子を見据えたままにレミリアは、その足を限界まで踏み込み、懐ギリギリすら超えた零距離に密着。

 そして、その右手が諏訪子の首に走った。

「ン、グゥッ・・・!!?」

 ギリギリとその手が首を締め上げながら、諏訪子の身体を地面に叩き付ける。

 苦しさの余りに鉄輪から手を離し、ジタバタと足が空を切る。

「ほぉら、さっきまでの威勢はどうした?山の上の神。私を痛め付けるんじゃなかったのか?それとも、私がお前を痛め付ける番かしら?」

 諏訪子の首を締め上げている両の手の爪を立て、首筋に段々と喰い込ませていく。

「ガッ、ァ・・・グゥ、ウ・・・!!」

 苦しみを訴える諏訪子の声は最早、獣の唸り声の様な醜悪さだった。

 無理矢理、自分の首を絞める手を引き離そうとする。

 だが、レミリアの力は想像以上に強く、少しも離そうとはしない。

 むしろ、更に力は強くなっていっている。




―――プツ。




「・・・ッ!!」

「あら・・・フフフッ、力を入れ過ぎたかしら?」

 愉しそうにレミリアはそう言った。

 爪が少しだけ諏訪子の首の皮を破り、肉の内へと進行する。

 肉が裂け、肌の上を血が伝い落ちる。

「中々に良い色の血ね。もっと引き裂いたら、更に沢山見れるかしら・・・ねェッ!!」









―――グジュブッ!!


















―――ドサッ。







 嫌に生々しく不気味な音と、奇妙な落下音と共に一時の静寂が訪れる。






 それは、レミリアがその腕に今あるだけの力を込め、諏訪子の首を握り潰した音。

 そして、握り潰され、千切れ落ちた頭部が下に落ちた音。










 つまり―――諏訪子は死んだ、そういうことだ。

「フン・・・呆気無いわね、山の上の神。所詮は、単なる蛙だったということかしら」

 何処か満足出来ぬ様子のままで、噴き出した神の血を浴びて更に真紅に染まった身体を立ち上がらせる。

 そして、首の落ちた諏訪子の骸を見やる。

 千切れた頭の繋ぎ目から、おびただしい量の血液が流れ出ていた。

 その血液は徐々に拡がっていく。

 まるで、血の池を創り上げるかの如く、ゆっくりと円状に拡がっていく。

 レミリアの足下すら通り抜けて。

「・・・?」

―――妙だ。

 諏訪子から流れ出た血が綺麗な円形に拡がっていくのを見ながら彼女は感じた。

 何故、ここまで綺麗な円形に拡がっていくのか。

 普通なら流れ出た血液には、ある程度拡がり方にバラつきが出るもの。

 だというのに、とても綺麗な円を形作っている。

 そう、まるで、何かの儀式で使う円陣の様な―――。




「―――まさか」




 レミリアが己の失態に気付いた時にはもう遅かった。





「―――祟り神『赤口(ミシャグチ)さま』」









 何処からとも無く聞こえたその宣言に呼応するかの如く、諏訪子の骸が爆ぜ飛び奔流する血の中から“何か”が飛び出してくる。

 その“何か”は、血に塗れながらも、その白く巨大な体躯を月明かりの下にさらす四匹の白い大蛇。

 宣言したスペルカードの名の通り、祟り神としてのミシャグジ神の姿だった。

 レミリアは、その蛇達と向かい合う様な体勢になる。

 見れば、蛇の内の一匹の頭上に諏訪子が鎮座している。

「・・・やはり、あの程度じゃ死なないみたいね・・・しかし、その方が十分に楽しむに値する。あれで死なれたら逆に拍子抜けモノだった」

 諏訪子の姿を見つけ、言いつつ愉悦に口元を歪ませ、心の内の感情の昂ぶりを抑えられずにいた。

 この様な殺伐とした状況で、本当に愉しそうに笑みを浮かべている。

 それはまるで、無邪気に遊ぶ子供の様。

 幼い外見も合わさり尚更そう見える。

「―――神は無限に分かれることが出来る・・・一つ殺した程度で私の全てを殺せる訳が無いわ」

「あら、そう―――それなら、その命。全部纏めてブッ殺してやろうじゃないか」

「出来るものならやってみなよ、次からは手加減しないから」

「・・・」

「・・・」

 双方、無言で睨み合い、数十秒の時間が経過する。


「さぁ、本当の死合開始だ。掛かって来なよ―――」

「えぇ、言われずとも―――」












「―――紅い悪魔」

「―――穢れた神様」





―――そして・・・もうすぐ終わりに出来る。





 祟り神と吸血鬼の殺し合いは未だ始まったばかり。



 そして、この段階に来て、洩矢 諏訪子を中心としたこの小さな騒動に対する動きが各地で起き始めた。




―――紅魔館、正門。


「アハッ―――見ぃ付けた。悪い悪いカエルさん・・・」

 それは、己の“無意識”のままに。









―――守矢神社。

「・・・あれ?諏訪子様、今日も出掛けちゃったのかしら・・・でも、こんな時間まで何をしてるのかしら?」

「おや、早苗、帰っていたのかい・・・諏訪子は?」

「あ、神奈子様。諏訪子様はまだお帰りになられていない様でして・・・何処へ行ったのでしょう」

「・・・遅かったか―――早苗、帰ってきたところ悪いが、すぐに出掛けるぞ」

「え・・・あの、どちらにですか?」

「“あの女”の計算通りなら十中八九、諏訪子は紅魔館にいるはずだ」

「へ?何故、諏訪子様がレミリアさんの館に・・・?」

「詳しい話は移動しながらする―――急いで行かなきゃ、諏訪子が危険だ・・・!!」

「ッ!?」

 あるいは、家族の“情”のままに。
















―――地霊殿。

「貴方程の方がこの様な場所を直接訪ねてくるなんて、珍しいこともあるものですね」

「えぇ、それ程に珍しい事態が起きているということよ―――古明地 さとり。理由は・・・もう解っているでしょう?」

「―――貴方が嘘でこんなことを考える訳がありませんでしょうし、これは実際に起きていることなのでしょう。姉として心が痛みます・・・」

「理解が早くて助かるわ。一先ず、今回の騒動は異変の規模になる前に収めねばいけない・・・最も、貴方がやるのは事後処理。騒動の解決は別の者に任せていますのでご安心を」

「・・・故意では無いとはいえ、あの子の起こした不祥事は私の放任主義が招いたにも等しい・・・仕方ないとはいえ、辛いですね」

「それでは、私が貴方の妹を連れて来ますから―――その後は頼みますわ」

「・・・承りました、妖怪の賢者―――八雲 紫」

 そして、幻想郷の“管理”の為に。








―――各々は動き始めた。


 己の意思に従うままに・・・。
どうも。
おおよそ三カ月振りの投稿になります、紅のカリスマです。

リアル生活の忙しさ故に中々執筆出来ていなかったのですが、ようやく紅魔の章が投稿出来る段階になりました・・・とは言っても、まだ前篇なのですが。
皆様のご期待に沿える仕上がりになっているかは分かりませんが、楽しんで頂けたのならば幸いでございます。

そして申し訳ありませんが、後篇の投稿はまだ未定ということで・・・おそらく、今度は携帯で八割方書いてからPCに送りますので、今回程は遅くならないと思います・・・多分。
紅のカリスマ
作品情報
作品集:
16
投稿日時:
2010/06/04 16:56:37
更新日時:
2010/06/05 21:04:57
分類
諏訪子
レミリア
祟り神
嗜虐神
バトル展開?
1. 名無し ■2010/06/05 15:41:28
またお目にかかれるとは
2. 名無し ■2010/06/05 18:01:25
久しぶりです。
なんかバトルシーン的なのが多かったですね。
3. 名無し ■2010/06/05 23:52:02
やはり貴方の文は良い……
なんというか 頂上決戦ってこういう事を言うんでしょうね
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード