美しさはわたし達の中に

作品集: 16 投稿日時: 2010/06/06 01:13:27 更新日時: 2010/06/06 01:13:27




















 いとしいいとしいわたしのお人形さん。
 わたしはあなたを作り上げあなたをこんなにも愛しているわ。

 いつかあなたに自我というものが芽生えたとき。
 あなたはわたしを愛してくれるかしら?














 魔法の森、そこに小さな洋館がある。
 七色の人形遣いアリス・マーガトロイドという魔法使いはそこで暮らしていた。

 魔法使いは一つ一つ手間をかけて人形達を作り上げ、また自ら作り上げた人形達を魔法で操った。
 人形達はアリスの操る通りに動き、時に槍を携えて敵に特攻し、時に自爆し、時にアリスが飲むお茶を淹れた。
 アリスは人形達を使役したが同時にメンテナンスという名のいたわり、補修という名のねぎらいをかけることを忘れた事は無い。



「よぉ、邪魔するぜ〜」

 普通の魔法使い、霧雨魔理沙はアリスと同じく魔法の森に住む魔法使いである。但し彼女は人間であり、現在は若い少女だが普通の人間同様に年を重ねることになる。

「あら、いらっしゃい魔理沙。丁度紅茶を淹れようと思っていたところよ、アッサムでいいかしら?」

「ああ、いいね。私も濃い紅茶が飲みたい気分だったところだ。前見せてもらった本、続きを読んでも良いかな?」

「そこにあるわ。栞もそのままのはずよ」

 魔理沙は本を手にしてアリスの向かいの席に着く。アリスはティーカップとティーポットにお湯を注ぎ、十分に熱した後ティーポットの湯を捨て茶葉と熱湯を注いで紅茶を抽出する。
 紅茶を煮出している間にミルクピッチャーとシュガーポット、ジャムの瓶を机の上に準備した。

「私からはこいつを持ってきた。手作りのスコーンだ、ティータイムにはぴったりだろう」

 小麦とオートミールを牛乳で捏ね固めただけの生地。それを魔力のオーブンで焼いた味気の無い菓子。だが森で取れたベリー類果実で作るジャムとアリスの淹れる濃いアッサムティーにミルクとたっぷりの砂糖を入れたものはこの菓子に実に良く合う。

「お待ちどうさま」

 魔理沙の前にソーサーと紅茶を注がれたティーカップが置かれる。魔理沙に紅茶を出した後、アリスは自身の分の紅茶を淹れる。

「ありがとう、相変わらずいい香りで美味そうだな」

 魔理沙はアリスに礼を言いつつシュガーポットから砂糖をたっぷりと掬い上げて紅茶に入れる。ティースプーンでゆっくりとかき回し、溶けきったところでミルクを入れた。芳醇で甘い香りが鼻の奥をくすぐった。
 一口。舌の上を滑って喉の奥に流れ込んでゆくそれはまろやかでコクのある口当たりを感じさせ、糖とカフェインが魔理沙の頭を駆け巡って目の前の本に対する集中力を彼女にもたらしてくれた。

 アリスは魔理沙よりも少し少なめの砂糖を入れ、ミルクは入れずにティーカップに口をつける。彼女の持ってきたスコーンを手にし、ジャムを塗って一齧りする。

「あなたのも悪くないわね」

「まあお前が焼いてくれるクッキーには負けるがな。訪ねてきといて何もかもやらせるのも悪いと思っただけさ」

 魔理沙は少し気恥ずかしそうに頭を掻いてはにかんだ。



 2人は時々取り留めの無いそれでいて短い会話を交わした。魔理沙はアリスの持つ魔術書を借りて読み、アリスは人形の服を補修している。
 魔理沙がこうしてアリスの家を訪ねるようになってそれなりに経つ。魔理沙の家は客を呼べるような状況ではないので逆はあまり無いのだが。

 魔理沙が研究中の魔法理論についてアリスの助言を求め、それにアリスが自身の経験と知識から言葉を返した。それを最後に部屋には長い静寂が訪れた。
 そこに気まずさなど無い。心の置ける友人同士だから出来る空間。必要の無い会話を無理に生み出す義務も無ければ、2人のどちらも静寂を苦痛に感じたりはしない。

 だが今日は少しだけ事情が違うらしい。
 アリスはいつものように手を動かして人形達の服を縫っている。だが魔理沙はそんなアリスを横目でチラチラと見やる。まるで本の内容が頭に入っているとは思えない。来た直後、2人でお茶をしていた時こそリラックスしながら読書に耽っていたのに。

 手元に目線を落とし自身の指が持つ布と針を見つめる2つの蒼い瞳。魔理沙は俯いて本を読んでいる振りをしながら上目でアリスの目を盗み見る。そこから視線を動かしアリスの胸を、腕を、手の甲を、指を舐めるように見る。
 白く細く滑らかな指。細いが決して痩せ過ぎなどではない艶やかな腕。服の上からでは確認できないが自己主張に乏しい控えめな胸。
 魔理沙は思う。所謂セクシーであるというのとは違う、けれどアリスは女の自分から見ても魅力的だと。まるで一つの芸術品のように綺麗だと。美しいというのはきっとこういうことを言うのだろうと。

「なぁ、アリス。その……、さ」

「? なぁに魔理沙」

 両者の長い沈黙を破り魔理沙の方が口を開く。
 魔法の森に住み魔術を志す者同士、そして2人はかなり古い付き合いときている。アリスが幻想郷という場所に移り住んでから再会した2人が交遊を深めるのは当然の流れといえるだろう。

「今日、いや今晩ここに泊まっていっても良いか?」

 2人の関係が友人以上になるのに十分な時間と機会は積み重ねていた。





「まだ外は明るいわよ?」

 魔理沙は顔から火が出るのではないかという思いをしたというのに………。

「いやそうじゃなくて、………わからないかな?」

 魔理沙はあたふたと自分の目的を、それ自体をぼかした表現でアリスに伝える方法は無いものかと思案する。

 その様子を見たアリスは口に手を当ててフフフッっと小さく笑った。

「ええ、わかるわよ。魔理沙の言いたいことは」

「ううっ……」

 アリスにからかわれていたのだ。彼女は自分と違ってなんて大人なんだろう。

「でもね魔理沙、一つだけ教えて欲しいの。あなたが私の家に泊まって行きたいというのは親しい友人としてかしら? それとも…………」

 言われて魔理沙は考える。

(そういえば自分はアリスのことをどう思っているんだろう? 唯一無二の親友? 霊夢やパチュリー、にとりのことも親友だと思ってる、でもあいつらとそれ以上の関係になりたいとは思わない。でもアリスとは………)

「親しい友人として私を泊めて欲しいんだ、アリス。私達がそれ以上の関係になるために」



 その答えを聞いたアリスは僅かに俯いて思案し、ゆっくりと目線を戻して魔理沙の瞳を見つめる。
 それを魔理沙は正面から受け止め2人はしばし見つめ合った。魔理沙は自らの真意と覚悟を表す為、アリスはおそらく其れを見定める為。

「わかったわ魔理沙、今晩泊まっていくのは良いとして沐浴は夕食の前、それとも後かしら?」

 言って魔理沙の顔が徐々に紅潮していくのがアリスから見える。再びアリスは可笑しそうに笑った。



 魔法の森、アリス邸でのディナーは素晴らしいものだった。魔理沙が収集してきた茸で作ったリゾット。普段から魔理沙も良く作る簡単な料理だが、味付けはほとんどアリスが行った。塩っぽい味付けの自分の夕食と違って簡素ながら香りも味も一級品。洋食屋を開いても繁盛するのは間違いない。
 魔理沙は面倒くさがりで茸を油で炒めてから水と米を投入、精々塩と胡椒を入れる程度で済ませてしまう。手が掛からなくて食べれればいい魔理沙にとっては十分だ。対してアリスのリゾットは庭の植木鉢で育てたバジルと粉チーズ入り、味付けも薄味ながら深みがある。捨食の魔法を体得しているアリスに食事は元より不要、だからこそこだわりを持った一品を毎回作れるのかもしれない。

「美味しかったぜ」

「あなたが取ってきてくれた茸のおかげよ」

 魔理沙は2人分のリゾットの皿を下げ台所で食器を洗う。アリスは魔法の冷蔵庫からワインを一本、食器棚からグラスを2つ取り出して机に置いた。

「終わったぜ」

「あなたも飲むでしょ?」

「勿論頂くよ」

 魔理沙の側に置かれているグラスを白いワインが満たしてゆく。友人同士が自宅で飲む食後のワインにテイスティングや肩肘ばった作法も無いだろう。アリスは次いで自分のグラスに同量のワインを注いだ。

「乾杯の音頭は?」

「あなたに任せるわ、私はそういうのすぐに思い浮かばないし」

「じゃあ、………コホンッ。2人の変わらない友情に」

 アリスはグラスを手に僅かに静止した。それは魔理沙には気取られなかっただろう僅かな時間だった。

「2人の変わらない友情に」

「「乾杯」」

チンッ





「ふぇぇ〜、もうらめらぁ。アリスが3にんいるらぉぉ、どれがほんものふぁなぁ?」

 机の上には空のワインボトルが4本。
 アリスは真っ赤な顔をして自分を指差しケタケタ笑う魔理沙を見つめている。最後のボトルを注いだグラスの残りを口にしながら。

「家にあるワインは全て飲んでしまったわよ魔理沙、あなたも飲み過ぎているみたいだし今日はもう休みましょう。ベッドはあなたが使って良いから」

「やっら〜アリスとべっろいんらぁ、えへえへ。ねんがんのえっちだぉー」

「あらあら」

 呂律の回らない舌から日ごろの願望と妄想が駄々漏れている魔理沙。
 アリスはベッドの用意をしてから魔理沙に肩を貸して立たせようとする。だが魔理沙は腰が砕けてしまって立ち上がれず床にへたれこんでしまう。

「もううごけないよぉ。だっこしてぇだっこぉ」

 子供の様にバタバタと手足を振って駄々をこねる。博麗神社の宴会で魔理沙がこんな醜態を晒した事が今まであっただろうか? どんなに飲んでも明るく陽気で弱みなど見せはしない女の子だった。

「………小さな頃に家出してからずっと一人だったんだものね。魅魔をお母様代わりにして修行に打ち込んでいても、ずっとお父様が欲しかったのかしらね」

 アリスは子供をあやすように魔理沙の髪を優しく撫でて落ち着かせる。魔理沙はにへへっ と幸せそうに微笑むと静かに寝息を立て始めた。

(あなたは私に父性を感じたのかしら?)

 そう考えてアリスは自嘲気味に笑う。

「仰せとあらば、姫」

 へたれこんでいる魔理沙の背と膝の裏に両手を入れる。眠れる姫を抱きかかえてベッドまで運んでいき、静かに横たえた。
 ゆっくり静かに胸を上下させて呼吸する魔理沙に布団を掛けてやり、アリスは向かいのソファーに腰掛ける。
 待望していた筈のお泊りの夜。アリスのベッドで寝ているというのに魔理沙は早々に意識を手放してしまった。アリスはその魔理沙を見て安堵の表情を浮かべてから自分の毛布を被ってソファーに横になった。










「うっ……―――つつつ、ここは?」

 頭を押さえながら起き上がる魔理沙。少しずつ昨日の記憶が甦ってくる。泥酔していた時の記憶は完全に欠落しているものの、アリスの家で夕食をご馳走になって2人でワインを飲んでいるところまでは思い出せた。

「はっ! このシチュエーションは巷で話題の“朝チュン”じゃないか!?」

 戸惑いと喜びをごちゃ混ぜにしながらキョロキョロと周りを見渡し、体に掛かる布団を跳ね除けた。
 隣でアリスが寝ているかと思ったけれどそんなことは無かったぜ!

 服もちゃんと着てたしベッドに残るのは自分の汗と酒の匂い。少しだけ離れたところにあったソファーに毛布が掛かっていてアリスがそこで寝ていた事が見て取れた。そもそも今は朝ではない、とっくに昼を過ぎて昨日魔理沙が訪ねたティータイムの時間だ。

 魔理沙はその事実と自分の妄想の酷さという自己嫌悪のダブルパンチを食らってうな垂れた。

「あら起きたの魔理沙? 昨日あれだけ酔っ払っていたら辛いかもしれないけれど、二日酔いに効果がありそうなおじやを作ったわ。二食連続の雑炊で申し訳ないのだけれど、無理にでも入れておいたほうがいいと思うの」

 2人は同じくらいの量の酒は飲んでいる筈なのだが、そんなことは微塵も感じさせない大人の余裕を見せ付けるアリス。彼女は普通に朝に起床し湯浴みでもしたのだろう、服は着替えられシャンプーの香りが鼻をくすぐった。

「い、いや……先に風呂を借りたいんだけれど良いかな?」

 途端に自分の体臭と酒臭さが気になってしまう。

「上がったらちゃんと食べて頂戴ね」



 シャワーを頭から浴びながら熟考。折角のお泊りをふいにした自分自身に腹が立つ。壁に手をつきながら頭を下げてお猿さんのような反省のポーズ。
 湯を温める部分の魔力回路を絞り冷水とは言わないまでも30℃くらいの温度にする。頭からつま先まで火照っていた体も思考もゆっくりと冷めていくのが感じられる。それでもなおアリスに対する想いだけは冷めてはいない。

「酒の力を借りようとしたのが間違いだったんだ、ちゃんと私の意思で思いを伝えなきゃ」

 酒の力で秘めたる想いをカミングアウトしていることに気がついていない魔理沙は再度決意を固めた。



「あ、あのさ………。ええっと、これ美味しいな。アリスにしちゃあ和風なつくりだけれど」

「そう? 二日酔いには梅干が効くって話だから洋風のリゾットより和風のおじやの方がいいと思って。卵と葱を入れてお醤油で味付けてあるわ。あなたも二食続けて同じようなものが出るより食べやすいのではない?」

 昨日の茸リゾットは粉チーズにより黄金色をした米粒に茸の茶と白、バジルの緑が散らされていた。今日のおじやは白くキラキラと輝く米に凝固したとき卵が絡み、葱の青(和的に)と梅干の赤である。

「綺麗だな。アリスは何をやっても上手だし羨ましいよ」

「…………ねぇ、魔理沙は“美しい”ってどういうことだと思う?」

「えっ、そりゃあそのまんまの意味じゃないのか? う〜ん、アリスみたいな女の人のこと! つってな♪ まあ、マジにそう思うんだぜ。実際アリスは私から見ても美人だし仕草も雅って言うか優雅だし……。それにさ、アリスの作るものはみんな綺麗じゃないか。お茶も料理も人形も、生み出すものが美しいってことは心が美しいってことだと私は思うんだ。だからアリスは外面も内面も美しいって思ってる。………これで答えになってるかな?」

「ありがとう。それを食べたら暗くならないうちに帰りなさい、スッキリした顔をしているけれどちゃんと家で休んだ方が良いわ」

 魔理沙がそう評したように綺麗な笑顔を浮かべてアリスは諭すように語りかけた。

(ここで退いたらまた振り出しだ)

「アリスが良ければもう一泊させてくれ。昨日は碌に話も出来なかったしな」

「あら、たくさんお話してくれたわよ。あなたは憶えていないかも知れないけれど」

 軽くふざけているアリスに対して真剣な眼差しで返す。

「そうじゃない、私はアリスと今以上の関係になりたいって言った筈だ。……そりゃ昨日は酔っ払っちゃって恥ずかしいところを見せただけで終わっちゃったかもしれないけれど、昨日泊まった本当の目的はアリスのことを全部教えてもらってアリスに私のことを全部知ってほしいって事なんだ」

「…………」

「だから昨日駄目になったんだったら今日もう一度だ! また今度にしたら何時までたっても進みやしない」

「強引ね。私の気持ちや予定はお構いなしかしら?」

 魔理沙はビクッっと肩を震わせた。そんな事は無いと心に言い聞かせ考えないようにしていた。

「あ、アリスは私の事が嫌いか……? こんな風に押しかけて来て勝手に話を進めて、関係を深めたいなんて思ってたのは私だけか? 迷惑だった? ハハ、これじゃあ私まるっきりストーカーだぜ。気持ち悪い」

「落ち着きなさい魔理沙。誰が嫌いな相手に紅茶を出して食事を振舞ってお酒を酌み交わしてその上そいつを家に泊めるって言うのよ? 鬱陶しいと感じている相手を異変調査に誘うかしら? そんな事無いでしょう魔理沙、私は貴女の事が好きよ。愛しているわ魔理沙。たぶん貴女が思っている以上の好意を貴女に対して抱いているかもしれない」

「ほ、ほんと?」

 告白しようしようと思いつつ微妙な発言しか出来なかった。それなのにまるで流れるようにつらつらとアリスの方から魔理沙に愛を告白してきたのだ。
 情けないやら嬉しいやら様々な感情が魔理沙の中を去来する。

「ええ本当。本当は貴女にキスをしたかった、貴女を抱きしめたかった、それ以上のことを貴女としたかった」

「―――――っ。ああ、やろう! 今すぐやろう! わ、私もアリスの事が大好きだ! 愛してる! いよっっしゃぁーーーっ」

 テンションは最低の位置からうなぎのぼりに上がって今や最高潮、ガッツポーズをして喜びを露にする。

「だめよ」

「は?」

「貴女がさっき言っていたじゃない、先ず互いの事を良く知るべきだって。私が貴女のことを良く知って、貴女が私のことを良く知る。それが済んでからもう一度お互いのことをどう思っているか考え直してみる。それでこそ本物の愛というものではない?」

 淡々と、紅茶に口をつけながら言葉を紡ぐ。

「貴女は私の事を全て知っても私を愛してくれるかしら?」

 ティーカップを置き、立ち上がる。視線は魔理沙を射抜いたままゆっくりとテーブルを回って魔理沙の横に立つ。
 魔理沙は言葉が喉から出なくなり、すぐ傍まで来たアリスを口を半開きにして見上げることしか出来ない。

「うわっ!」

 アリスは魔理沙のシャツの胸元を掴みあげて椅子から引っ張り起こす。そのまま力任せに振り回してソファーに押し倒した。

「…………」

「あ……、アリス?」

 アリスは覆いかぶさっていた状態から起き上がり、半歩後ろに下がってゆっくりとした動作で服の留めを外し、上から一枚一枚と脱いでいく。
 魔理沙が凝視する中やがて一糸纏わぬ姿を晒した。




















「おいで、アリスちゃん」

「はい、お母様」

 アリスと呼ばれ、お母様とその子は返す。まだあどけなさの残る人間で言うところの12、3歳に当たるだろうが、この場所そして件のお母様のことを考えると人間であるとは一概には言えまい。
 2人の関係が母子であると言うならばその光景は異常と言うより他に無かった。
 母はベッドに裸で腰掛け、子はその母の前に立ち同様に裸身をさらけ出す。

「ふふ、アリスちゃんったらもうこんなにして………。お母さんの事欲しがってくれているのね、嬉しいわ」

「勿論です、お母様のことを愛していますもの。それにお母様ってばこんなに綺麗、アリスもお母様のように美しい人になりたい」

「あらあら、お世辞でも嬉しいわ。今日もお願いするわね、アリスちゃん」

 アリスは右手を腰の位置から肘を伸ばしたまま前に挙げ、それをベッドに座る母、神綺という名の魔界とアリスを創造した神が指を絡ませて受ける。
 力強く、それでいて優しく神綺はアリスをベッドに引き入れ自らは横になった。

「お挿れします、お母様」

 そう言うとアリスは自らの股間に生えている一物を右手で支えながら神綺の性器にあてがう。
 年相応にそれほど大きくはないながらも硬く直立したそれは、少年のガイドと共に大きく口を開けた母の胎内に沈んでいった。

「ああっ、とっても良いわ。そのままゆっくり動いて頂戴な」

「わかりました、お母様」

 言われた通りに静かに前後運動を開始した。これからゆっくりと速度を上げ二人は同時に達する。それが数年前から続く変わらぬ営みであり、少年も慣れたもので母の悦ぶ場所や方法は経験的に熟知していた。

「アリスちゃん、少し止めて抜いてくれるかしら」

「はい、お母様」

 だがこの日は少し違ったらしい。とは言えそういうこともままある。時に趣向を変え、時に新しい試みを考える。無論それは神綺がそうしたいからという事であって、アリスはそれに常に従った。
 母の胎内から自身の性器を引き抜き、半身を起こした母の前に正座する。

「ねえアリスちゃん、最近アリスちゃんのおちんちんから精液が出てくるようになったわねぇ。どう、それが出て来る時はとても気持ちいいかしら?」

「ゴメンなさいお母様、アリスよくわからないの。初めて精液っていうこの白いのが出たときにお母様がお祝いをしてくれたのに…………。とても気持ち良いけれど今までと変わらないと思うの」

 自分に対する報告は正直に、事実のみをするようにきっちりと仕込まれている。機嫌を伺い嘘の報告をすることと従順であることは別のものだ。
 神綺はそれを聞いて愛しそうにアリスの頭を撫でてやった。

「いいのよ、アリスちゃん。それは精通が始まる前からオルガスムスに達していたって事ですもの。今日はそれをお母さんのお口の中に出して欲しいの、お母さんも初めてだけど手伝ってあげる。出来るかしら?」

「はい、お母様」

 そう言って少年は立ち上がる。丁度母親の顔の前にまだ半勃ち状態のペニスが向くように。

「とっても可愛いわ。お母さんのことを綺麗って言ってくれたけれど、アリスちゃんだってとっても綺麗で可愛いわよ。大人になれば私に負けないくらい綺麗で美しくなれるわ。だってアリスちゃんは私の大事な大事な一人娘なんですもの」

 頭を撫でてやった時と同じように、さも愛しそうに息子の下半身を撫で回す。太股から始まり、腰、そして睾丸、陰茎というように。
 まだ陰毛も生え揃ってはおらず、薄っすらと産毛が出来始めたくらいである。それもまた彼の中性的な顔立ちとあいまって背徳的な官能感を醸し出していた。

「ふぁっ、お母様の手、とても気持ち良いです………」

「あら、まだ出しちゃ駄目よ。これからなんだから………、あむっ、んぐ」

チュパ、チュパ。れろれろれろ

「ああっ! そんなっ、お母様っ!」

 ソプラノの高く綺麗な声で喘ぎ声を上げる。

「ふふっ、初めて咥えてみたけれど、アリスちゃんのココとっても美味しいわ。それにアリスちゃんのそんな顔を見れるなんて、一粒で二度美味しいってこういうことかしら?」

 母は彼のペニスから口を離し、おどけた様に舌を出して笑みを見せる。
 アリスは性器に対する直接の刺激よりも最愛の母が見せる悦びの顔を、艶美な女の顔を見るとそれだけでイッてしまいそうになった。
 だが勝手に達する訳にはいかない。駄目と言われ、まだ許可が出ていないから。

「お母さんの言いつけを守って、えらい子ね。もういいわ、お母さんの口の中に出して頂戴な」

シュッシュッ

 再度わが子の性器を口に含み、そのまま亀頭を舌先で弄りつつ右手を付け根に添えて扱いてあげる。

「も、もうだめぇっ! だめですっ、お母さまぁぁ、神綺ママぁ―――!」

 長い長い咆哮のあと、アリスは母の口の中に白い精を吐き出した。それは1mL程度という成人男性の数分の一の量であり、そして数倍の濃さだった。

「ングッ、コクン。ぷはっ」

 喉を撃ちつけたそれを嚥下し、舌先で亀頭に残った精液を絡め取った後で名残惜しそうにアリスのペニスを口から出してやった。 

「お、お母様………?」

 口の中で舌を転がし、それが済むと目を閉じて考え込んでしまった母。
 アリスは自分が何かお母様を不快にさせることをしてしまったのではないかと不安になった。
 自分が小水を出している場所から放った白い液体は美味しくないものだったのではないのか。先に自分が舐めて試して差し上げるべきだったのではないのか。それよりもつい絶頂に達したときに母を神綺ママと呼んでしまっていた、幼い頃ならばまだしも今の自分がそう呼ぶことは嫌だったのではないのか。

 直接聞いてみる以外に答えの出ない問い。だが直接聞くことは出来ない。それでママに嫌われてしまうかもしれないから。
 アリスは母を喜ばせることが喜びだった。悦ばせる事が悦びだった。歓ばせる事が歓びだった。なぜなら母を心から愛しているから。
 そのために自分が生まれてきたことを知っているから。

「うんっ、最初はちょっとあれだけれど慣れれば美味しいかもしれないわね。………あら、どうしたのアリスちゃん?」

 母は彼の精液を味わっていただけだった。

「お母様、私の事を怒ってないのですか?」

「あらあら、どうして私がアリスちゃんのことを怒るのかしら? とっても良かったわよアリスちゃん。たっぷりたっぷり褒めてあげたくなっちゃったけれど、ママは良い子のアリスちゃんを怒ったりする事は無いわ。変なアリスちゃんねぇ〜♪」

 神綺はアリスの腰に手を入れ抱き寄せる。安心したアリスは当初の機械的な言葉遣いでなく幼少期の言語が口を付いて出てくる。

「えへへへっ♪ お母さまだぁーいすきっ!」

「お母さんも大好きなアリスちゃんをコチョコチョこちょ〜〜〜」

 背中に回した手の指をわきわきと動かしながら腰から上と下へ、右手は脇を左手はお尻の上あたりの尾てい骨を擽る。

「えへへ〜、アハハハハッ! や〜ん、もうお母さーん」
















     あぁ、親愛なる母よ
     あなたが何をしたのか見るがいい
     運命に見放された、かつての最愛の息子に
     どうして僕は生まれてしまったのだ
     あぁ、親愛なる母よ
    まるででき損ない
    女性願望を隠した、突然変異の男
    どうして僕は生まれてしまったのだ

    すべての恥はあなたのせいだ
    この苦悩と痛み
    鏡は伏せて壁に立てかけた
    僕は軽蔑され、見捨てられている

    「母は、わたし達の中に美しさがあることを知っている」とあなたはいう
     「美しさはわたし達みんなの中に、バラの花のように存在する」
    「わたし達の中の美しさを育てましょう」とあなたはいう
    でもそれはこんなに暗く醜く育ってしまった
















「あ………、う………」

 目の前には憧れであった想い人の裸身。透き通るように白くしなやかな身体。
 そして魔理沙が凝視するそこには、あった。

「…………」

「………あ、あれだ! フタナリ、両性具有ってやつだろ!? 香霖のところで読んだことあるぜ、女同士のカラミを表現するのに手っ取り早いって事で男のそれをくっ付けちゃうってやつ! パチュリーとかアリスみたいに魔法使いなら魔法で生やせるかもしれないしな! な! あ、私も魔法使いだった………。わ、私だって女同士でエッチする方法とか調べたりして、その一環で香霖の持ってた本を読んだり、ちょっとそれ系の魔法を習得しようとして図書館で調べてたらパチュリーにものっそい引かれて諦めたことあるけれど、流石アリスだぜ、完璧だな!」

「…………」

 アリスは言葉を発することなく静かに自分の後ろ、先程まで魔理沙が座っていた椅子に腰掛ける。そのまま手で自分の足を抱きかかえ、所謂M字開脚と呼ばれる体勢を取った。身体が柔らかいのだろう、手を放しても恥部とお尻の穴の両方が見えるような体勢を綺麗に維持した。
 そのまま魔理沙に良く見えるように手で自身の陰茎と睾丸をそっと持ち上げて支えてやる。

「私に女性器は付いていないわ魔理沙。私は先天的な両性具有ではないし、まして後天的に男性器を付けた訳でもない。わたしは―――――」

「黙れ! 聞きたくない! 今まで私を騙していたんだ、女だって安心させて……そうだろアリス!?」

 魔理沙の反応を見て哀しそうにアリスは微笑んだ。

「黙っていた事が騙されていた事と同義だと言うのなら、そうね。さっき私が言いたかったことはこういうことよ、魔理沙。私が男だってことを知って、それで貴女が私とは付き合えない、私に対する想いが全て冷め切って私にもう会いたくも無い。そう言うのなら私は貴女の気持ちを尊重する。出来る限り顔を合わせないようにするし、貴女が他の子達と会いに宴会に参加するというのなら私はそういう所には行かないから………」

 恨むでも怒るでもなくとても寂しそうに言う。魔理沙の中で自分が被害者であるという思いとアリスを傷つけている罪悪感が交錯した。

「…………このことを知っているのは他に誰が?」

「こっちでは貴女一人だけよ」

「向こうだったら……、神綺か……」

「それはそうよ、私のお母様ですもの」

 それを聞いた魔理沙の今まで心の中で渦巻き、こんがらがっていた思考の糸に一つの方向性がもたらされる。
 それはアリスに対する不信感を払拭し、自分の内にある罪悪感を忘れる事が出来るもの。この場にいない者への強い憤り、怒りだった。

「お前をそういう風にしたのは………」

「ええ、お母様。私を産み育ててくれた人。いえ、神ね」

「何が“産み”、だ。あいつがお前のことを腹を痛めて産んだわけがない! 魔界を創ったみたいに自分に都合がいい形でお前を造ったに決まってる!」

 それを聞いたアリスは寂しそうな顔を隠し、明るく取り繕った微笑みと共に言葉を返す。

「良く分かっているわね、そうお母様は私を自分の為に自分の都合の良いような形で造り上げたわ。私は一応人間として作られて魔界で成長したの。今でこそ捨虫の魔法で成長が止まっているけれど、男性器を持ったまま二次性徴以降を迎えるとホルモンの作用とかいうので筋肉が付いたり体毛が濃くなったりしてしまう。神綺お母様は私がそうならないように最初から造っていたみたい。お陰で声も変わっていないから女の子らしい声をしているでしょう? まぁ神様だしそこらへんは自由に出来るのかしらね。ならどうして私は女性的な身体・精神構造をしているのに生物学的には男性なのかしら?」

 そう言ってクスクスっと小さく笑う。

「そんなの………変態だからだろ!」

「実も蓋も無い言い方ねぇ。フフッ、でもそうなの。お母様は夜の御相手をしてくれる男性が欲しかったらしいのだけれど、なんでも筋肉質で力強い男性的な男の人は好みじゃないみたい。女性的で従順な男、もっと言えば中性的な少年が女装するというのが良かったのでしょうね。神であるお母様がその望みを具現化したのが私、という訳。かくして私は産み出され、幼少期からそのように教育されて母を慰め続けたわ。少年期を経ても私は母の理想を体現し続けた、お母様が私をそう造ったから」

「反吐が出そうだ」

 魔理沙はとても嫌そうな顔をしてアリスの裸身から眼を背ける。

「でもね、魔理沙。私が捨虫の魔法を使って成長を止めたのも、魔法使いの人形遣いになってこっちに来たのも全部私が自分自身で決めたことよ。私が自分の意思というものをお母様に示したとき、お母様はあなたの人生はあなたの自由に生きなさいって言ってくれたから」

「だからお前にした事が許されるってか? ふざけんな! 自分勝手に、都合の良い様に人を一人作るなんて許されることじゃない! そのせいでお前は普通じゃない身体で生きなけりゃいけなくなったんじゃねぇか、もっと怒ったらどうだ!」

「あらあら、愛しの魔理沙が私の代わりにそんなに怒ってくれるならそんな必要は無くなってしまうわね」

 おどけた様に話す。
 真剣な眼差しのままに。

「貴女がそこまで怒るのはどうしてかしら? 私をまだ愛してくれているから? それとも貴女が私を愛してくれていた条件というものがあって、それには私が女である必要があったとか?」

 首をぐるりと回してアリスの顔を見る。彼女は既に足を下ろしている、とはいえいまだ全裸で椅子に腰掛けているが。

「黙っていたことは謝ります、御免なさい。魔理沙が男である私に興味が無いと言うなら仕方の無いこと。でも友人としてでもいい、私が私自身の身体について話せなかったことをどうか許して欲しい。そして貴女を信頼して貴女だけに話したのは私が魔理沙のことを愛しているから。魔理沙が私を好いてくれていることに気がついて、私の中で貴女の存在はとても大きなものになったわ。だから全てを話すことに決めた、貴女が私を愛していると言ってくれた時に」

「私は…………。ちくしょう、まだ私混乱してる。あ、アリス……その、さ………。そうだ、服を着てくれよ。そのままで何時までもいられちゃあまとまる考えもまとまりゃしない」

 無言のままアリスはゆっくりと脱いだ服を一枚ずつ着た。その姿はいつも見る美しいアリスとなんら変わらなかった。

 服を全て着て再度椅子に座る。そのタイミングを見計らって魔理沙が先に切り出した。

「わ、私も……その、ゴメン。最初はビックリしちゃってさ、裏切られたって気分になって怒鳴っちまって。でもさ、よくよく考えたらアリスが男で何の問題があるんだろうな? 私は確かに女と思ってたアリスの事が好きになってたし、そりゃあレズの気があるんだろうけれどさ。今こうやって服を着たアリスはやっぱりいつも通りのアリスだし、アリスが女であれ男であれアリスが優しくて綺麗で料理が上手くて、ってそういうことは変わらないものな。私が好きになったアリスが男だったから嫌いになるっていうのは非道いよな」

「あら、レズじゃなかったのかしら?」

 そう言って意地悪くニヤニヤと魔理沙を見やる。

「う、うるさい! 私が心の底から惚れた相手がたまたま女だっただけだ! っと思ったら男で………ああーっ!! もうわけわかんない〜っ」

 頭をガジガジと掻き毟りながら身悶える。

 アリスはニヤニヤ顔のまま涙を流していた。

「アリス……?」

「ありがとう魔理沙。愛しているわ。こんな私でもよかったらどうか変わらず愛して頂けないかしら?」

 椅子から立ち上がりソファーとの短い距離をさらに詰める。詰めて詰めて、二人の唇は触れ合った。















 アリスは自室で本を読んでいます。
 魔法の本、御伽噺、そして実際に外の世界であった昔々の物語を。
 小さい頃から読んでいます。それはお母様がそう言ったから。
 お母様は言いました。“お母さんのこと以外に色々な事を知りなさい。それがいつかきっとアリスちゃん自身になるから”と。
 意味は良く分かりません。お母様の言ったこともこの本の内容も。

 アリスがその意味を理解するのはもっと後。
 もし本当に神綺が性処理の為だけにアリスを創造したのならそんなことをする必要はなかったでしょう。
 もし本当に神綺がアリスを自分の子供として愛するために創造したのなら彼をこんな風に造る必要はなかったでしょう。

 その中で一冊の本がアリスをとっても惹きつけました。
 その本は魔法を使うための本でしたが、町を焼き払ったり石を金に変えたり悪魔を僕として召還する為の本ではありませんでした。その本は役に立たない魔法が一杯載っていました。



「お母様がプレゼントしてくれるお人形さんで部屋が一杯になってしまったわ。この子達が御話をして御芝居をしてくれたらどんなに愉快なことでしょう。ううん、もっとずっと良い方法があるわ。この子達が自分で考えて自分で動くのよ、私がこの子達に魂を吹き込んであげるの。私は人形さんたちのお母さん、ウフフッ、神綺ママみたいに私も可愛いお人形さんたちのママになるの♪」

 アリスは本と部屋に沢山いる人形達を交互に見ながら一人呟いた。

コン、コン

「あ、はーい」

「アリスちゃん、ちょっといいかしら?」

 扉を開いて母を自室に招き入れた。

「ご用件はなんでしょうお母様」

「アリスちゃんも女の子だし、そろそろお化粧をしたり女の子らしいお洋服を着たりしておめかししても良い年頃だと思うの。お裁縫やお料理をするのもいいわね、お母さんが教えてあげるわ」

「お裁縫!? お裁縫が出来るようになったらお人形さんのお洋服を作ってあげることも出来るようになるでしょうか?」

 目をキラキラと輝かせて言う。
 アリスは今までお母様に対して何かを“したい”と言ったことは無い。いや、今だってそうは言っていない。しかしアリスの目を見ればわかる、そう言っているも同じだと。

 神綺は慈愛を湛えた優しい笑顔でアリスの頭をゆっくりと撫でてやった。

「勿論よアリスちゃん、でもそれだけじゃないわ。お裁縫以外にも工作のお勉強もすればお人形さんを一から作ることだって出来るわ。アリスちゃんはお人形さんやお人形さんの着るお洋服を作ってみたいかしら?」

「はい、お母様!」

 一層輝いた目でアリスは答えた。人形もぬいぐるみも自分が造ってあげた子がアリスの意思で動く。いずれは人形が自分の意思で動く。人形達からお母さんと慕われ、子供たる人形達にお洋服を作ってあげる。
 アリスには目の前のお母様が見えていない。綺麗なお花畑の中でアリスを輪になって囲む人形達、そして彼らが奏でる素敵なお歌が見え、聞こえていた。

「………ねえアリスちゃん。お裁縫やお料理もいいのだけれど、今日はおめかしを勉強しましょうね。女の子らしい格好や立ち振る舞いを身に付けることだってお人形さん作りにきっと役立つわ。だってここにあるお人形さんたちは皆アリスちゃんと同じ女の子なのですもの」

「はい、お母様」

 わくわくとした感情は小さな胸いっぱいに仕舞い込みながら母に従う。残念そうな気持ちは表情や声には表さない。そもそもそのようには感じていないのかもしれない、お母様の言うことに間違いは無いのだから。



「とっても可愛いわアリスちゃん。ふふ、やっぱりお母さんとアリスちゃんは親子ねぇ。お母さんもアリスちゃんがお着替えしてくれるのがこんなに楽しくて嬉しいもの。今度はこっちのお洋服にしましょう」

 神綺は次から次へと洋服を取り替えてアリスに着替えさせてゆく。アリスは母が用意した洋服を着て言われた通りのポーズを取って母を喜ばせた。
 母は常にアリスが一度全裸になるように全ての服を、下着まで含めたワンセットで着替えを用意した。アリスは着替えながら母の前で何度も何度もストリップショーを演じている。

(あぁ……、お母様がお悦びになっている。きゃっ! ダメッ、今お母様が望まれているのは別のことなのに)

 ムクムクとアリスの男性自身が隆起してきた。母の前で裸身を晒しているという事実。そして母の目が蕩けるような悦びの目になってきていて、それを見ていたアリスもそういう気持ちを抱かざるを得なかった。

 それを見た神綺は着替えを中断させる。
 少女の下着を履いた姿のままアリスは母の目の前で直立した。彼の男性器は下着を押し上げ、紐のように細い前と後ろとを結ぶ下部の布からは可愛らしい睾丸が中央から二つに分かたれて垂れ下がっていた。

「あの、お母様………」

「そんなに心配な顔をしないで、お母さんは怒っている訳じゃないの。ただあんまりアリスちゃんが可愛かったものだからつい苛めたくなっちゃったの。お母さんを許してくれるかしら」

 そう言って下着姿の息子を抱きしめた。

「ねぇアリスちゃん、あっちのお部屋に良い香りのするお花をいっぱい置いてあるのよ。お着替えはこれくらいにして今度はお化粧したりしましょう。女の子はお化粧をしてみんな綺麗になれるものなのよ、それに素敵な香りを漂わせる女性の魅力というのもあるの。香水を体に振り掛けるというのは一番簡単な方法だけれど、香水は香りのするお花や葉っぱ、木の皮なんかを水に抽出したものなの。………ちょっと難しいかしら? つまりお花の香りがするお部屋にいるだけでも素敵な香りがアリスちゃんのものになるわ、ってこと」

「はい、お母様。私のお人形さんもそのお部屋に置いておいたらいい香りがするようになるでしょうか?」

「ええ、勿論よ。でもお人形さんにはお人形さんに会う優しい香りがあるわ、ラベンダーなんてどうかしら? ローズマリーも良いわね、アリスちゃんが熱心にしているお勉強もはかどるかもしれないもの」

 神綺はアリスの手を引いて着替えをした衣裳部屋から連れ出した。連れて来られた先は母のベッドルーム。普段アリスが入るときといえば母と情を交わす時が最も多い部屋だった。

「うわぁ………」

 部屋に入ったとき力強く刺激的な香りが鼻を突く。だが嫌な感じはせず、まるで全身を香りに抱きしめられているような浮遊感があった。
 部屋を満たす香りは何処となく柑橘系のような甘酸っぱい感じと暖かな体感を嗅ぐ者にもたらした。

「さぁ、こっちにきてアリスちゃん」

 アリスは母にベッドの上に招かれ、母は化粧箪笥の上に準備していたメーキャップセットを持ってくる。

「最初はお母さんがしてあげる。いずれアリスちゃんも覚えて自分で出来るようになるわ、でもお化粧はちゃんとバランスや濃淡を考えてあげないと大変な事になっちゃうから最初は見てお勉強するのがいいわ」

 セットから化粧道具を取り出して下着姿の息子に化粧を施してゆく。

「アリスちゃんは若いから化粧ののりがとってもいいわねぇ、肌がつやっつやでプルプルしてて、ああん、もう食べちゃいたいくらい可愛いわ♪」

 アリスは元々少し色白だったが、肌色のファンデーションをつけ薄いが快活なピンク色をした口紅を差しただけでも見違えるような顔になった。
 病人とまではいかないが元気がなさそうに見える普段の彼は、儚げな雰囲気がそれはそれでそそるものがあったのだが、ぱっと見明るくなった顔と透明感のある唇が放つピンク色の光沢は彼にプリティを卒業させてキュートと言わしめる魔力を有していた。
 いずれキュートもセクシーもビューティフルもKAWAIIも総なめにするのは間違いないと神綺は親バカながらそう思わずにはいられない。

「お、お母様ぁ……。あ、アリス変なのぉ…………」

 化粧をされながら動いてはなるまいと硬直していたアリス。神綺が出来上がりに見蕩れている時、息を荒げながら股間の物を再び勃起させていた。

「あらあらアリスちゃん、どうしたのかしら? 具合でも悪いの?」

 意地悪っぽく聞く。

(今日はお人形さんを自分から作りたいと言った様なものですもの。自分から私を求めてくれないかしら?)

 クスクスっと笑ってアリスを見つめる。

「アリスちゃん、どうしたの? お母さんに何かして欲しいこととか有るのではない?」

「ハァ、ハァ、な、なんか変らのぉおかぁさまぁ。胸がドキドキして苦しくて、おちんちんがおっきくなろうとしてはちきれちゃいそうらょ〜」

「ふーっ、ふーっ、そ、それで、お母さんにアリスちゃんを助けるために出来ることは何かしら?」

 二人とも情欲の我慢比べをしているように恍惚と苦悦の表情を浮かべ、息をまるで狗の様に早く短くついていた。

「お、お母様と、え、エッチさせてください!」

「はーい、良く出来ました♪」

 そう言ってもう我慢できないとばかりに神綺の方からアリスにがばちょ! と、抱きついてベッドに押し倒した。
















     親愛なる母よ
     あなたをこんなにも呪っている
     あなたの惨めな息子がこの世に生を受けたことを
     どうして僕は生まれてしまったのだ
     親愛なる母よ
     あなたをこんなにも愛している
     この魂の怒りを許してほしい
     あなたがいなければ、僕は一人ぼっちだ

     永遠に罰される僕は
     この醜い体に縛りつけられ、破滅した男
     すべては台無しで邪悪だ

     親愛なる母よ
     この苦痛が
     僕の皮膚にしみついている
     巨大でいわずと知れた罪が

     僕の間違いは気づくのが遅すぎたこと
     あなたの間違いは信じすぎたこと
     悲しみのあとには良いことが来ると
     愛は堕落を超えてやって来ると

     「母は、わたし達の中に美しさがあることを知っている」
     「美しさはわたし達みんなの中に、バラの花のように存在する」
     「わたし達の中の美しさを育てましょう」
     でもそれはこんなに暗く醜く育ってしまった
















 両者の息が止まる。互いに興奮しているというのに嫌に冷静で、相手に自分の鼻息を吹きかけるのも躊躇ってしまわれるほどだった。
 故に息が止まる、口を塞ぎあって鼻で呼吸をしないのだから。

「「ぷはぁっ!」」

 唇を離すと同時にアリスは小さくバックステップ、魔理沙も体を後ろに仰け反って距離を開け二人同時に大口を開けて息を吸い込んだ。

「プッ、アハハハハ〜」「フフフッ」

 笑い方をみれば男女が反対だろうという感じだ。魔理沙は腹を押さえてソファーの上を笑い転げ、アリスは口元を押さえて上品に笑う。

「貴女のことがどうしようもなく好きよ、魔理沙」

「先に好きになったのは私だぜ、アリス」

 両者の距離は半メートル程、手を延ばせば触れ合える距離。
 だけどベッタリとくっつく事の無い距離。

「そろそろティータイムの時間だわ、紅茶でもどうかしら?」

「なんだなんだぁ? これから二人の男女がしっぽりぬくぬくとした時間を過ごすんじゃないのか、人にあんなモンを見せておいてさ。レズの気のある乙女な魔理沙さまがトラウマにでもなったらどうしてくれるんだ?」

「自分に生やして私のことを襲おうとしていた人の言葉とは思えないわね」

「そこまでは言ってないがな」

 暗い雰囲気は完全に払拭され、穏やかな空気が部屋の中を満たしている。

「貴女に真実を告げるのはとても辛いことだと思っていたわ。出来ることならずっと黙っていてただの友人で終わっていた方が良いと思っていたくらいだから。でもそうじゃなかった、話したらすごく楽になった。ずっと一人で抱え込んでいたものを貴女にも少し持ってもらったみたい。その分負担をかけてしまうかもしれないけれど」

「まあ、気にするな。………楽になるっていうんならいくらでも話は聞いてやるよ。お茶でも飲みながらな」

「私も貴女の焼いた不恰好なスコーンが食べたいわ」

 そう言って二人は立ち上がり各々の準備を始めだした。
 その間二人はあまり口を開かず淡々と作業を進めている。

 魔理沙は勝手知ったる他人の家と戸棚から小麦粉やオートミール、ドライフルーツなどを漁ってスコーン作りを、昨日自宅から持ってきたものよりも良さそうなのが出来そうだが、とにかく美味しく出来る様に色んなものを放り込んで生地を捏ね始めた。

 アリスはお茶の準備は魔理沙に合わせる為に保留し、部屋に置かれているアロマポットのロウソクに火をつける。ポットに水を入れてインセンスを数滴垂らした。テーブルのクロスを敷き替えてカップやポット、ミルクや砂糖、ジャムなどを準備している頃には部屋の中を暖かな香りが包んでいた。

 スコーンが焼きあがった魔理沙がバスケットに詰めてテーブルに運んでくる。それを見てアリスは紅茶を入れる準備を始めた。

「………良い香りだな。私は香水とかお香とかはあまり良く知らないけれど」

「魔理沙はもっと女の子らしくなるべきね、私と会いに来てくれるときはそれなりにお化粧をしているみたいだけれど」

「ま、まあそんな事はいいじゃないか。それよりこの香りはなんていうんだ?」

「これはイランイランよ。イランイランノキという木に咲く花の香りなの。お香、アロマとか呼ばれるものはそれぞれの香りに薬効みたいな作用があるわ。例えばラベンダーなら鎮静作用・快眠効果が、ローズマリーなら記憶力増大という風にね。さ、お茶が入ったわ。頂きましょう」

 そう言ってアリスはカップに口を付け、イランイランの香りの中で紅茶の味を楽しんだ。

「それじゃあその、いらんいらん?の薬効は何なんだ?」

「催淫作用、つまり性的興奮を誘導する効果」

「ブッ!!」

 アリスにつられて紅茶を口に含んでいた魔理沙がそれを噴出した。それをある程度予測していたのか、アリスはすぐさま魔理沙の正面から上体を横にずらして華麗に回避した。

「$%★&ΘΣ!! お前さっきそっち系の事をする前に話をしたいって言ってたしそういう流れだろこれ!!!」

「ええ、そうよ。ちょっとしたムード作りよ、これは。魔理沙だって今日お茶をしながら私の昔話をしたら帰ってしまうわけではないのでしょう? 勿論泊まっていくわよねぇ?」

「………まったく、さっきまでの上品で優雅なお嬢様っていう雰囲気のアリスは一体何処に行ったんだ? カミングアウトしてからは取り繕う必要が無くなったって事かよ、幻滅しちまうぜ」

「元々取り繕ってなどいないわ。貴女が評してくれた私の女らしさ上品さ優雅さというものは、最初から私の内にあったものよ。つまりは幼少の頃から母に教育されてきた結果と言えるかしら。そして貴女に対して性をオープンにするようになったのも同様の理由。私が男だって事も話したのだしね」

 魔理沙が吹き溢したテーブルの上の紅茶を拭き取りながら言う。
 テーブルクロスは洗濯しなければ色が落ちないだろうが。

「…………そうだな、アリスは私を信用して話してくれたからもう自分の気持ちを偽る必要が無いって事か。聞きたいな、アリスの話。辛いかもしれないけれど話して欲しいと思う」

「そうね………、私のことをもっと良く知って欲しい。ううん、それだけじゃない。私自身が話したいわ、そうする事で楽になれるような気がするから」

 アリスは再びカップに口をつけて紅茶を飲む。魔理沙はせっかく淹れて貰った紅茶を噴出してしまった気まずさもあって、自分で焼いたスコーンをカリカリと小さく齧った。

「最初に私自身の今について話すわ、私がどうして魔法使いになったのか、私がどうして人形遣いになったのか」

「ああ」

「貴女も知っての通り、職業としての魔法使いではなく種族としての魔法使いになるには二つの魔法を自分に使用する事が条件。一つは食物の摂取を魔力で補えるようにする捨食の魔法。もう一つは自分の成長を止める捨虫の魔法。私がこれらの魔法を身につけて魔法使いになった理由は、お母様が私に様々な魔道書を見せてくれて幼い頃から魔術に長けていたというのもあるわ。でもそれ以上に私は捨虫の魔法を使う必要を感じていたから、というのが正しいわね」

「つまるところ寿命を延ばしたかったってことか?」

「ええ、そんなとこ。魔界から出てきたときの私は魔法や人形の事以外は殆ど知らなかったから、色々なことを知るには時間がたくさん必要でしょう?」

「箱入りのお嬢様、いやお坊ちゃんか。しっかし、パチュリーみたいなことを言うんだな。アリスも私に捨虫で魔法使いとして生きろって言うのか?」

「それは貴女の生き方だから私にはなにも言えないわ………。当時の私は姿こそ今とほとんど変わらないくらい成長していたけれど、中身は何も知らない子供。自分がこれからどうすればいいのかもわからなかったし、………なにより自分が一体何をしたかも分かっていなかったわ」

 僅かに言い澱んで付け加える。

「何をしたか?」

「だから知らなきゃいけないと思った、お母様が全て教えてくれる世界を自分の意思で出てきてしまったから私自身が調べなきゃいけないと思った」

 魔理沙の質問を無視する。
 聞かれても答えられないこと、あるいはこの先話してくれるかもしれないこと。魔理沙はアリスの態度からそのように感じ取ってこれ以上は触れないと決めた。

「なんで人形遣いになったんだ?」

「お母様が人形やぬいぐるみをよくくれたから。この子達を動かす事が出来たら楽しいだろうなと思ったの」

「全く、徹頭徹尾、つま先から頭の天辺まで乙女だな」

「もう一つ理由があるわ。人形遣いになることで、完全に自立した人形を作ることで私の生きる道とでも言うのかしら、私が進むべき道を人形が指し示してくれると思ったの。意思を持つ人形を作ることで私にお母様の気持ちが分かるのではないかという期待もあったわ」

「………お前自身が神綺の人形として造られたからか?」

 これは考え至っても聞いてはいけない質問と思うのが普通だろう。先の質問にアリスが答えなかったことからも聞かれたくない事というのは彼にもあるというのはわかる。だがこれは魔理沙には譲れない問いだった。
 彼の話を聞いていると彼女は不安に苛まれる。アリスは未だに神綺のことを信奉しているのではないか? 自分が聞く限り最低のクソ親としか思えないのだが、彼にとっては大きな存在であり続けているのではないかと。

 彼女は認めないかもしれないがそれは嫉妬の表れだった。

 自分は父親とケンカ別れして家を勘当されて飛び出した身、しかし魔理沙とて幼い頃は父を慕っていた。それがただのエディプスコンプレックスだったとしても。

「そうね、私も意思のある私自身の子を創造することで母の気持ちを知りたかった。そして私が生んだ子が私自身に対してどのように接してくれるかを知ることで、私が母にどのように接すれば良いかを知りたかったのよ」

「どうして過去形なんだ? アリスの目標は完全自立型人形の製作で、それはこれから努力して成し得る事じゃないのか? もう諦めちゃったのか?」

「いいえ、確かにそれは私が生きる意味の一つではあるわ。人形自身が自分で考えて行動する、そういう子を作る事が私の夢」

 そう言って言葉を切り、スコーンを手に取りしげしげと見つめた。
 何回かに分けて口に運び、一つを完全に食べきった。そしてもうぬるくなってしまった紅茶を最後まで流し込む。

「昔………、今思うと不完全な状態だったとは思うけれどそれを実現した事があるの。魔界にいた時よ。そしてその子のお陰で私は私の中にある、それでいて今まで見たことも無ければ考えたことも無いような私の気持ちの一つに気がついたの。そしてそれが命じるままに行動したわ、それが良い事だと考えて」

 話しながら手に持っていた空のティーカップをソーサーに置く。
 カチャンという小さな音が静寂の室内にか弱く響き渡った。

「それで私はお母様を殺めたの」




















「わぁ、ど……どうなったのかしら?」

 小さな自室の明かりは消され、魔力で光り輝く魔法陣が床に描かれているのが見える。その中央には一番のお友達、最古参の人形が一体鎮座していた。

「つん、つん」

 擬音を口に出しながら突っつく。

カタ……カタ……

「うわぁ♪」

 小さく手足が動いた。人形が自らの力と意思で動いたのだ。

「あはっ、頑張ってねベティ。コニーとドリー、エリザベスもすぐにあなたみたいに動けるようになるわ」

 人形が口を開いた。





「アリスちゃん!」

 地に塗れたアリスを介抱しつつ治癒の魔法をかける。人や魔法使いの魔法ではない、神たる神綺のそれは奇跡とも創造の力ともいえるもの。傷の部分を再構築して止血と同時に体内に直接輸血し切断面を接着する、部分的手術でアリスの体を一部分ずつ修復していった。
 一時間もすると全ての傷は跡形も無く塞がっていた。

「どうしてこんなことに………」

 周囲を見渡す。ファンシーな内装に並べられたお人形と本棚、眠ったり座ったりするためのふかふかベッドのお部屋。
 だったのも今は見る影も無い。白いベッドはアリスの血に染まり部屋は爆発でも起きたかのようにズタズタに引き裂かれている。人形達はほとんどが粉々で本も魔力の無いもの、小さいものは焼けてしまっているか引き裂かれて落丁していた。

 神綺はすっかり廃墟のようになってしまった部屋からアリスを連れ出す。神の力で移動させるなり魔法で浮かせるなりすれば一瞬だし、あるいは労力を必要とはしない。しかし神綺は中身は少女のままハイティーンにまで成長している息子を背に担ぎ上げ、おぶったまま廊下を進んでゆく。
 自室のベッドに横たえさせてその髪を撫でてやった。
 それら仕草は神ではなく1人の母のものといえるものだ。アリスと過ごした十数年という歳月は彼女を女にし、同時に母にもした。

「う、う〜ん……」

「気がついたのアリスちゃん!?」

 苦しそうに唸り、数度顔をしかめた後アリスは目を開いた。

「お、お母様………ここは?」

「私のベッドの上よ。まだどこか体は痛いかしら?」

「いいえ、平気です」

「もう少しゆっくり休んでいていいのよ、だけれど良かったらお話してくれないかしら。あのお部屋で一体何があったの?」

 アリスは母の顔を見つめている。その筈なのに母はアリスが自分を見ていないような気がしていた。
 まるで自分の真後ろに何かあってそこを見ているような、焦点が自分に定まっていないような視線。
 今まで息子から一度たりとも受けたことの無い視線。この子はいつも自分だけを見ていたはずなのに。

(もしかして脳に何かあったんじゃ? それともただ混乱しているだけかしら、それなら心配無いのだけれど)

「…………魔法の実験をしていました。それで魔法が暴走して、爆発してしまったの。御免なさいお母様」

 部屋には魔力の痕跡もあった。爆発が魔力によるものであることはアリスの傷からもわかっている。
 筋の通った説明、その筈なのに何か違う気がする。
 アリスが自分に嘘をつく筈が無い、なのにその言葉がどうしても引っかかる。

「そう、お部屋のことは気にしなくても良いわ。お人形さん達も可哀想だったけれど、また新しい子達をプレゼントしてあげるもの。いまは体を休めることだけを考えなさい」

「またお人形さんをくれるの? ベティやコニー、ドリーにエリザベスみたいな子達を?」

「ええ、また作って上げるわ。本だってまた作れる、ベッドだって。アリスちゃんが望むのならベティ達と全く同じ物をまた作ってあげる。壊してしまったことは気にしないでも良いから、今はとにかく休んでね」

「はい、お母様」

 そう言ってアリスは目を閉じた。

 神綺はアリスの頭を三度ほど撫でてやり、アリスが眠ったのを確認してから名残惜しそうに部屋を離れた。アリスの部屋に向かい、片づけを始めた。





「目が覚めたかしらアリスちゃん」

 翌朝、朝食を持って部屋に戻る。昨夜は部屋の補修や本の修復、以前プレゼントした人形と同じ物を作るなどの作業に追われて眠っていない。
 神である神綺に睡眠は必要なものではなかったが、魔力や神力を使ってそれが回復していない今の状況は人間で言うところの疲労というものだろう。

「はい、お母様」

 アリスは上体を起こして母を出迎える。

「そう、それは良かった……わ?」

 食事を机に置き、アリスのベッドの直ぐ傍に来たときだった。腹部に違和感を感じた。
 見ると自分の腹腔に小さな短剣が凛と突き立っている。魔法のダガーは神たる自分の身でもたやすく切り裂き、その中に進入してきた。
 柄はアリスに握られていた。力の要らない魔法がかかっていて、少女のような片手で柄まで押し入れられている。

「アリスちゃん………」

「ベティがね、昨日私にこうしたの。ベティにね、魂を入れてあげる魔法を使ったの。魔法はね失敗なんてしていないの、ちゃんと成功したの。そしたらベティが動いてお話してくれて、“どうして私は人形なの? どうして中身が空っぽの人形になんて入れたの? これじゃあご飯も食べられないし全然自由じゃない!”って言ったの。でね、私はベティに“ベティは私のお人形さんでしょう? 私がベティとお話したかったからあなたに魂を入れたのよ、さぁお母さんの言うことを聞いて頂戴”って言ったの。そしたらベティは暴れ回ってこのナイフを私に刺したの」

 人形の魔力が小さかったのだろう、あるいは魂を定着させて動き回り始めたばかりだからそちらに魔力を注いでいたのかもしれない。そのせいで深くまで突き刺さらなかったのだ。魔力のナイフによる傷は魔法の傷と見分けがつかず、部屋の惨状からてっきり魔法の暴発での傷と間違えてしまった。

「アリスちゃん」

 腹にナイフを刺したままアリスの背と後頭部に手を回して抱き寄せる。優しく自分の胸に引き寄せてやり、しっかりとした力で抱擁した。

「お母様、アリスね、お人形さんのママになりたかったの。ママになればお母様の気持ちが分かるかもしれないし、ベティは私の子供になったからベティが私にしてくれる事が私がお母様にすべき事だって………」

「いいのよ、いいのよアリスちゃん。もういいの。アリスちゃんは悪くないわ、悪いのは全部私、お母さんが全部悪いの。だからね、アリスちゃん。アリスちゃんはここから出てアリスちゃん自身にならなきゃいけないわ。いつか言ったでしょう? アリスちゃんは色々な事をお勉強してアリスちゃん自身になるって。もうちょっと後かと思ったけれどアリスちゃんはお母さんが思っているよりずっと成長していたのね、もう大丈夫、アリスちゃんは一人でも生きていけるわ。お母さんが死んでもこの世界から出て好きなように暮らしなさい」

「お母様の言うことは良く分からないわ。ここの外ってなぁに? 一人ってなぁに? 私自身って何のことなの? 死ぬってどういうことですかお母様?」

 神綺は愕然とした。そして様々な感情が、走馬灯のような過去の記憶が奔流となって頭の中を駆け巡る。

(ああ、なんということ。私はこの子に何も教えてはいなかった。私の都合の良い様に私のお人形として今まで扱ってきていながら、今更ながらに母親として振舞う資格など私には無かったのね。そして今の今までそんなことにすら気が付かなかった。ならいっそのことこの子を連れて行くべきかしら?)

 アリスの目を覗き込む。その目は年齢にそぐわない無垢な幼い少女の瞳そのままだった。

「アリスちゃん、今から一日だけこの魔界を持たせるわ。明日になってしまったら魔界と私の体は消えてなくなってしまうの。それまでに外に出ないとアリスちゃんも一緒に消えてしまう、それと私はもうすぐ動かなくなってお話も出来なくなってしまうわ。それが死ぬっていうことよアリスちゃん。もしアリスちゃんが死んだお母さんと一緒に居てくれるって言うのなら一緒に居てもいいわ、でもそれだとアリスちゃんもここやお母さんと一緒に消えてしまう。外に出て好きに生きてもいい。アリスちゃんが自分で決めて選んだのならどちらでも構わないわ」

 アリスはキョトンとした顔をして考えている。立て続けに色々言われてわからない事だらけなのだろう。

(力がもっと残っていればこんな傷はものともしないでいつもの私でいられた、アリスちゃんのことは少し時間を置いてゆっくりお話をすれば何とかなったかもしれないわ。………いいえ、それは違うわね。これは天罰だわ、ええ私は罪深い神。オイディプスを自ら創造して享楽に耽ったジョカスタ。知らずでもなければ自らを罰したわけでもない私は神話の神よりもなお、いえ比較にならない程悪い)

「お母様、もしアリスが壊れてしまっていたらベティと同じようにアリスも作り直したの?」

 否定したい、頭を撫でたい、抱きしめたい、そんなことはないと、私の愛する子はあなただけよと、代わりなど何処にもいないと言ってあげたい。

 神綺の体から力が抜けていく。魔界を僅かな時間維持するだけの術式を世界に張り巡らせて少なかった魔力が底を尽きる。
 腹部の痛みが、口を開くことすら許さない力の衰えが自分の罪の重さを唄っているようだった。

(そんな私の願いを聞き届ける同族などいなくても願わずにはいられない、アリスとして生を受けたこの子が罪の意識に苛まれることなく自らの人生を歩んでくれることを)

 娘であり息子である我が子に看取られながら神綺はゆっくりと眼を閉じ、意識は混沌の中に解けていった。



「お母様?」

 静かに横たわる母の遺体に話しかける。

「これがお母様の言っていた死ぬって事なの? まるでお人形さんみたい」

 アリスは動かなくなった母の体にペタペタと触る。
 母を刺した時からアリスは自分の意思というもので動いている。あるいは人形について色々やっていたときからかもしれないが、その時は母がそれを許可していたからある程度自由にしていた。だが母に対して自分が母の意見を聞かずに何かをしたというのは“刺す”という行為が最初だった。
 最初で最後のアリスが望んだ母とのコミュニケーションだった。

 あれから数時間ペタペタと神綺の身体中を触り、ぴったりと寄り添い合って添い寝などしていたがだんだんと母の体は冷たくなっていった。

 母の温もりを求めて身体中をまさぐる。他が冷たくなってもまだ温かみを残している場所が二箇所あった。
 秘所と腹部、体は外から冷え始めるらしく膣の奥や傷口から覗ける腸や肝臓は手を突っ込んで握ってみるとまだぬくもりが残っていた。

「あぁっ、お母様……」

 勃起していた。

 動きもせず話もしない母、人形のように何でもかんでも自分の思いどうりになるであろう相手。最愛の人がそこにいる。

「お母様が私の好きにしていいって言ってた、私の好きにして良いって。お母さんと一緒に居て良いって言ってた…………」

 母が最後に言い残した言葉をオウム返しのようにブツブツと独り言で呟く。
 言いながら隆起した一物を母の性器にあてがう。

 硬くなったペニスの先からはカウパー腺液が垂れて母の陰唇を濡らす。だが母の膣内から潤滑液が分泌される気配は無く、硬く締まったそこはアリスを拒絶していた。

「お母様っ! お母さまぁっ!!」

 小陰唇と陰核の間を上下に擦っているだけでアリスは達した。
 射精時に膣口に亀頭を押し当てて母の胎内に精液を注ぎ込む。

「あっ、はいったぁ―――――」

 脱力して僅かに柔らかくなった陰茎を自分の体重と精液の潤滑を利用して子宮口の手前まで押し入れた。
 先端で感じていた冷たさと違い、母の膣はいつもほどではないにしろ暖かくきつくアリスを締め上げる。

 アリスは長い時間をかけて何度も何度も亡くなった母の子宮に精液を注ぎ込んだ。
 数度目の射精の後、アリスはようやくペニスを引き抜いた。

「ああ、お母様はまだ満足なさっていないのですね………」

 アリスは母の性処理のために生み出された息子だ。母が絶頂に達しなければ幾度アリスが達したところで萎えたり脱力したりすることは許されない。それは自己の存在理由の否定。反対に母が満足したのならばアリスが絶頂を感じていなくても終わる営みもある。

 母がイかないのであればアリスがいくら肉体的な絶頂を覚えて、とうに在庫がなくなり出なくなった精液を出そうとペニスが震えてもこれをやめるわけにはいかなかった。
 自分の意思で始めたことなのに自分の意思で止められなかった。

「………ここならどうですかお母様?」

 下腹部の傷口から除く内臓にペニスを突っ込む。ナイフで付いた狭い入り口を押し開けて乾き始めて粘度が高くなった血が絡みつく。腸が様々な角度からアリスの男性自身を刺激する。

「ふぁっ、また!」

 またしても軽くイク。何処に残っていたのか僅かな精液を母の内臓に吐き出して。

 アリスは気を失った。精神と体力が限界に来たのだろう、母の腹に陰茎を突っ込んだままその体の上に倒れこんで意識を無くした。





 目が覚めても周囲は何の状況も変わっていない。母が言った一日以上は経っていないのだろう。

 強烈な空腹感と喉の渇きを覚えた。気絶する前のことは良く憶えていない。

 目の前に溜まる赤い液体を舐めてみた。

「っ!」

 辛い。潤いなど無くただただ濃い塩分を取ったようだった。喉の渇きと空腹感は一層増す。

「お母様?」

 そこにあったのは変わり果てた肉塊。アリス自身それがなんなのか一瞬思い出せずにいた。
 まるで壊れてしまった人形のように綿が、……腸が覗けている。

「…………」

 それは無意識の行動だったのか、アリスは傷口を近くの短刀で切り広げて赤茶色の臓器を取り出す。
 それが大くの生物で生食に適していて喉の渇きを忘れさせてくれる甘みがあるものだと知っていたのは母が寄越した本に書いてあった知識なのだろうか? それとも動物的本能というものなのだろうか?

 母の肝臓に小さな口で齧り付く。口の中に芳醇な甘さが広がり、消耗した精力と体力が回復していく。

「外?」

 食事を終えて僅かに体力が戻ったアリスは虚ろな顔のまま歩き出す。母の亡骸に見向きもせずに部屋の外へ出て母が造ったらしい外界との接続点、扉の様なものへと辿り着いた。
 母の最期の願いを忠実に実行したのか、あるいはやはりただの生存への生物的な本能に従っているだけなのか。

 アリスは初めて外の世界へ出た。
















     「母は、わたし達の中に美しさがあることを知っている」
     「美しさはわたし達みんなの中に、バラの花のように存在する」
     「わたし達の中の美しさを育てましょう」
     僕にはもうあなたが見えない

     「母は、僕らの中に美しさがあることを知っている」
     「美しさは僕らみんなの中に、バラの花のように存在する」
     「僕らの中の美しさを育てましょう」
     ああ、親愛なる母よ、この世界から僕を出してくれ
















「そうして私はここへやってきた。それからほとんど独学で勉強して、後はあなたも知っているわね」

「ああ………、くそ。マジかよ……?」

 かなりの覚悟は決めていたはずなのに、それをあっさりと上回るほど重い話を淡々と話される。

「さっきこっちでは貴女だけしか知らない事だって言ったわね。我ながら含みを持たせた言い方だったけれど現実には貴女以外は誰も知らないというのと同じことね。母の話を振るのに貴女の反応を利用させてもらったわ」

「なんで一度失敗、いや成功したのかもしれないが、お前の子供にはなり得ないってわかっている人形の自立行動なんかの研究を続けているんだ? 上海人形達はベティだかなんだかと同じ人形なのか? ん、ベティ? それにコニーとドリーとエリザベスだって?」

「あら、気がついたかしら? あの子達はお母様から私が幼いときに頂いた人形よ。頭文字がアルファベットのB,C,D,Eっていうわけ」

「Aは?」

「ALICE」

「最初から人形扱いってわけか」

 話を聞いてからというもの魔理沙は神綺に対して嫌悪以外の感情は湧きようが無かった。
 幾度目かの“反吐が出る”顔をして眼を逸らす。

「そう言わないであげて、最初こそそうだったかもしれないし私も気づいてあげれなかったけれど、今にして思えば最期は私に命をくれたのですもの。あの方は間違いなく私のお母様だったのだから」

「………わかったよ。まあ話は聞いてやったんだ、これでアリスの心が楽になったっていうならそれでいいさ。どっちにしたって私にはそれ以上のことは出来ないんだしな、人の過去や生まれを変えられるわけじゃあるまいし」

「貴女のそういうところ、本当に助かるわ。貴女といると今を生きているって感じがするもの。それと最初の質問にまだ答えていなかったから言うのだけれど、私が昔にした人形を動かす方法は魂の定着、魔界にあった魂を人形に封じ込めたもので、今私が研究しているのは人工的な自意識の構築。命を吹き込むのではなくて芽生えるのを待つって言い方が正しいのかしら? 自分で考えられるだけの素養を人形自身に与えてやり、最初は私をサポートする時なんかの最適性の判断なんかをさせる。段々と自分自身で考える事を増やしていけばいつかは自我というものが出来るかもしれない、という訳」

「??? すまん、さっぱりわからん」

 首をかしげて頭上にクエスチョンマークを出現させている魔理沙。

「まあ、実のところ魔法使いらしくないって言えばそうなのよ。知能のベース部分は魔力回路で構成しているのだけれど、発想自体は外の世界の本にあった人工知性という機械的なものを魔法で構築しようという試みだから。はっきり言ってそっちは河童の河城にとりという娘が専門だし、幻想郷にはある意味生きた見本ともいえるメディスンっていう娘もいる。私が私のやり方にこだわっているのは意地かもしれないし、もしくはあんまり本気じゃないからなのかも」

「本気じゃないのか?」

「生きる意味みたいなのが必要だったからとりあえずそうしているというだけ。今はあまり必要ないかもね、魔理沙」

 そう言ってアリスは魔理沙の頬に触れる。

「………私がアリスの生きる意味になれるか?」

「…………」

 アリスは何も言わなかった。



「私から脱ぎましょうか?」

「さっきアリスの体は見せてもらったし、ど、同時でいいんじゃないか? あれ、そういえば良く分からないけれどこういうのって一人ずつシャワーを浴びて、バスローブ姿でベッドに座ってるとか……?」

「貴女はさっきシャワーを浴びてきたじゃない。私だってそれほど汗はかいていないわ、うちにはバスローブも無いし」

「じゃ、じゃあ同時でいいじゃないか」

 そう言って二人は服のボタンに手をかけて一つ一つ脱いでゆく。
 魔理沙は下着姿になり、アリスは早々と全ての服を脱ぎ捨てる。

(女物の下着を着たアリス……。横からアレが見えてたな、くそ、ちょっとだけ神綺の気持ちが分かる自分を殴った方がいいのか?)

 あれはある意味全裸よりエロい。それがわかっていたから男の娘が女性物の下着やソックスだけ履いているというマニアックな状況を作らずにさっさと脱いだのかもしれない。

「魔理沙、全部脱いで頂戴」

 下着姿でベッドに座る魔理沙の前に立って言う。必然的にアレが眼前に見える。

「………それはいいんだが、これって確かもっと大きくなるんじゃ? 私はプロポーションに自信があるほうじゃないけれど、これはちょっとショックだぜ。脱いだらまた違うのかな?」

「…………」

 アリスが黙っているせいで独り言のようになってしまう魔理沙の言の葉。

 気まずい中ブラジャーのホックを外して慎ましいながらも形のいい胸をさらす。無言で見つめているアリス。

 パンティーに手をかけゆっくりと降ろしてゆく。布で隠されていたデルタには金色のフワフワした毛が姿を現し、アリスは顔を真っ赤にして再びベッドに腰掛けた魔理沙の恥部を凝視している。

「お、おい! こんなこと言いたくないけどアリスは経験済みだろ! 女のココなんて見慣れてるじゃないか」

「いや、もしかしたら違ってたりするのかなって。人間と神とで」

「ち、違うのか?」

「股を開いて良く見せてくれたら判りそうなんだけど……」

ゴスッ!

 しゃがみこんで自分の下半身を観察している男の頭部に蹴りを入れる。
 フンッ! と言い、プリプリ怒りながらもベッドに仰向けに横になった。

「つつつーーーっ、こんなときでも素直じゃないわねぇ。まぁそこが可愛いんだけれど」

「ば、バカなことを言ってないでするなら早くしてくれよな! お前が部屋中に焚いていた香水の香りとかいうのでこっちはウズウズしてるんだ」

 ベッドの上で自分から股を開いてゆく。アリスもベッドに乗り魔理沙の下半身側から覗き込むように座る。
 露になった花びらにすぐさま顔を近づけて埋めた。

「ふぁっ、あぁん」

 広げた状態の両膝を抱えながら甘い吐息を含んだ喘ぎ声を漏らした。
 アリスは舌先で魔理沙の性器を舐め上げる。陰唇を濡らす魔理沙の愛液を舐め取り、陰核を覆う包皮を舌で持ち上げて勃起したクリトリスを外気に晒した。

「ひあぁっ!」

 これは魔理沙にとっても妄想していた通り、女だと思っていたアリスとの交渉となれば基本はこういうことになるのだろう。

「………ごめんなさい魔理沙」

「? どうして謝るんだ、私は気持ちいいぜアリス。もう男だなんてことも気にして無いし、過去のことは過去のことだ」

「私……、これだけしても……。貴女の裸体を見て、雌の匂いを嗅いで、性器に口づけをして………。それ以前に気持ちを高めるインセンスまで散らしたのに。勃たないみたいなの」

 先程裸身をまじまじと見たときの懸念は的中していた。

「私に対してエッチな気持ちにならないのか?」

「違うわ! 性欲はあるのよ、魔理沙の事が好きなのも本当だしセックスしたいっていうのも本心から、体が求める欲望として湧き出てくるの! でもそれなのに勃たないのよ………。今だって魔理沙の裸にこんなにもドキドキしてるもの」

 手を取り自分の胸に当てさせる。男性の薄い胸板からはっきりと伝わってくる激しく早い鼓動。

「信じるよアリス。でも神綺とはしていたんだろう? じゃあそういう状態になったのって………?」

「こっちに来てからずっと私は性的に不能なのよ。いいえ、たぶんお母様を失ったときからって言った方が良いのかも知れない。あの方の性処理の為に生まれたっていう深層意識が私を縛っているのかしら。扱いたりして射精に導くことは出来る、魔理沙のことを考えてマスターベーションした事だって何度だってある。でも私のペニスが硬く大きく充血することは今まで無かった」

 目に涙を浮かべて話した。

「自分の体や過去のことを話すのも辛かった。でもこの事はもっと辛いの。お母様を捨ててまで得た自分の生が無駄なものであると言われているようで、貴女を心から愛しているっていうこの気持ちが否定されているみたいで辛い―――!!??」

 最後まで言わせずグッっとアリスの頭を胸元に引き寄せて抱きしめる。ベッドの上、二人で抱き合いながら横になる。
 アリスが上、魔理沙が下の構図は変わらない。だが魔理沙はアリスの髪と背中を優しくさすってやった。
 ゆっくりと、子供をあやすように。昨日魔理沙が酔いつぶれていた時と逆の状況だが、彼女は寝ていたので憶えていないだろう。

「全く、つくづく神綺の奴に嫉妬してばっかだな今日の私は。いいよ、許してやる。アリスがこの魔理沙様の裸身を見てチンコおっ勃てないのは腹が立つが仕方が無い。もともとチンコ生えていないって前提で計画を立ててたんだ。最悪、私のほうに生やしてアリスのケツの穴をほじるっていうのも良いだろう? おっ、もしかしてそっちはヴァージンか? ハハハハハッ」

 アリスの悩みを下品に笑い飛ばす。
 下ネタというより本当にしそうな具体性にアリスのお尻がヒュンとなった。

「ちょっと、冗談じゃ―――!」

「でもエッチできるんだろ? その、精液とかいうのも出るんだろ?」

 急にエロいおっさんから恥らう乙女になる。恥らう乙女はそんな事言わない? それはそれ、これはこれ。

「う、うん。たぶん………」

「じゃあ挿れてくれよ、アリスとエッチがしたい。私はアリスが好きだ、どんなアリスだって構わないよ」

 涙を流しながら頷いた。



 柔らかいままのペニスをヴァギナにあてがい、ゆっくりと沈めてゆく。
 魔理沙は両手の指で性器を広げ、アリスは手で支えながらの挿入。

「んんっ」 「あっ」

 二人同時に嬌声が漏れる。
 萎えたままのペニスは処女膜によって押し返され、それを突き破る事が出来ないでいる。

 だがそれが亀頭と膣内部に与えてくれる刺激も両者の快感となって二人を高めた。

「ああっ、いいよアリス! ずっと我慢してきてたからもうイクっ、きちゃうよぉ〜!!」

「わ、わたしも! 魔理沙の中に出しちゃう!」

 短い距離での前後運動。アリスは鍛え上げられたテクニックを駆使してそれを成し、魔理沙は全幅の信頼で持ってそれに答え二人は同時に達した。
 アリスの精液が弱弱しくも大量に放出される。大部分は入り口に戻ってきてベッドを汚し、一部は処女膜に開いている月経血を排出する穴から入って膣の中に残った。

「「ハァ、ハァ、ハァ」」

 二人して荒い息をつきながら抱きしめあった。





「ねぇ魔理沙、私貴女のことを愛しているわ」

「知ってるよ」

「本当に愛しているのよ。だけど―――――」

 アリスはベッドから起き上がって机の上、大事そうな箱を取り出して開けた。

「いいえ、だからこそね。貴女には幸せになって欲しいと心から思うの。それにこれは私のためでもある」

 箱から1本の短剣を取り出した。

「貴女との時間は素晴らしい今を、生きるに値する現在を無限に見せてくれていた様だった。貴女と過ごしている時は過去に苛まれることも無く、虚無の未来に恐怖することも無かった。――――でも現在を無限に重ねることは出来ないわ。貴女だって老いるだろうし、私も今のままじゃいられない。わかっているの、私の体が本当に欲しているのは二度と得られないお母様の温もりだってことは。貴女にそれを代行させようとしているのがどれだけ酷くて惨いことかってことも」

「そんなことない、やめてくれアリス」

「愛しているわ魔理沙、だからこんな報われない事はしちゃ駄目。貴女は私のことを美しいって言ってくれたけれどそれは間違いよ。本当に美しいって言うのは貴女みたいな人の事だわ、だから私は貴女を独り占めしたりしない。私はひどく醜く歪んでいるから、貴女まで歪めたくは無い」

「黙れ、それ以上言うと怒るぞ。そいつを渡せ!」

「お願い上海」

 上海人形達が魔理沙を取り囲む。その際、細く丈夫な操り糸で魔理沙の体を縛りつけた。

「くそ、離せっ! お前達の御主人様が間違ったことをしようとしてたら止めるのも従僕の役目だろ!」

 裸の魔理沙を鋼線で縛り付ける。絶妙な力加減と糸同士の重なりによって美しい肌には傷も圧迫した痕も残らないように。

「愛しているわ魔理沙」

 短剣はさしたる力も加えずに易々とアリスの腹部を貫いてその体内に侵入していった。
 カーペットの床に膝から崩れ落ちゆっくりと楽な姿勢、仰向けになって頭と足を伸ばした体勢をつくる。
 アリスは静かに眼を閉じた。










 あぁ親愛なるお母様、あなたは優しすぎたのですわ。
 もしお母様が私をただの性処理の為の奴隷として扱っていてくれたのなら私はこんなに苦しむ自我を持たずに済んだのに。
 もしお母様が私を手酷く扱って下さったのなら私に自我が芽生えたとしても貴女を怨み憎みながら自分の人生を生きれたかもしれないのに。
 もしお母様が私をこんなにも愛して下さらなければ私はこんなにも貴女を愛することはなかったのに。

「ああ、心から愛しています。お母様」

 それをこれからお伝えしに行きます。
 私もきっと貴女と同じところへ墜ちると思いますから。










「なんで………。なんでなんだよ、アリス」

 まるで子供の様な無垢な微笑みを湛えたまま、アリス・マーガトロイドはカーペットの上に仰向けに横たわっている。
 腹腔からは短剣の柄が天井を向いて凛と立つ。
 それはまるで再現。同じ剣が同じ場所を貫いている一つの状況。
 上海人形達は皆床に落ちてピクリとも動かない。魔理沙を拘束するものは無くなっていた。



 彼は自分の人生の全てを愛する人に語りつくした。
 愛する人は自分の全てを聞いてそれでも愛してくれた。
 彼は自分の罪の重さにようやく気づく事が出来た。
 愛する人が自分の罪を一緒に背負って歩いてくれると言った。

 それら全てが彼の苦痛を和らげ、癒し、そしてより深く重く傷を抉った。



 苦痛に塗れた人生だった。できれば苦痛に気づくことなく、あるいはそれを無視して生きる事も出来たかもしれない。





 だがきっと彼は今、本当の意味で全ての苦痛から解放された。
読んで下さった全ての方に感謝致します。
マジックフレークス
作品情報
作品集:
16
投稿日時:
2010/06/06 01:13:27
更新日時:
2010/06/06 01:13:27
分類
魔理沙
アリス
1. 名無し ■2010/06/06 01:36:27
腹が捩れるぐらい重い話だったぜチクショウ
2. 名無し ■2010/06/06 01:41:04
アリスの顔がFUJIWARAの原西になった
3. 名無し ■2010/06/06 01:49:47
純粋さは、やがて狂気へ
最後まで読んだらこの言葉が浮かんだ、でもこのアリスは最後まで純粋だった。
4. 名無し ■2010/06/06 02:20:07
>>2
詫びろ
5. 名無し ■2010/06/06 04:01:15
素晴らしかったです
男の娘属性は無いはずだったのに、説得力のある作品に触れると一気にアリだと思えてくるな
6. 名無し ■2010/06/06 05:04:38
てっきり魔理沙殺すもんだと思ったら意外でびっくり
7. 名無し ■2010/06/06 09:14:27
魔里沙は漢だな
8. 名無し ■2010/06/06 11:58:50
>なんでも筋肉質で力強い男性的な男の人は好みじゃないみたい。
たくましいのはアホ毛で十分だという事ですね!
9. 名無し ■2010/06/06 12:14:59
驚いたりにまにましたり唖然としたり顔芸しまくったぜ
面白かったー
10. 名無し ■2010/06/06 17:04:59
マジフレさんは本当に多芸だなぁ。
静かな凄味を感じました。
11. 名無し ■2010/06/24 00:56:20
設定の時点で物凄く好みが分かれるし、結末も悲しいね
でも、こういうやり切れない、救われない話ってすごく惹かれます

この歌も知らなかったんだけど、歌詞の和訳見てすごい感じ入って涙出てきた
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