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『永琳先生を脅迫』 作者: 狂い

永琳先生を脅迫

作品集: 17 投稿日時: 2010/06/15 21:38:27 更新日時: 2010/07/01 04:09:10
まずいことになったと八意永琳は思った。
テーブルに置かれた数枚の写真が冷静沈着な永琳の心を波打たせる。それに相対してふんぞり返って座っている若い、人里からやってきたという男を苦虫を噛み潰したような顔で見つめる。
「そんな顔しないで下さいよ……八意先生。綺麗なお顔が台無しですよ」
下卑た半笑いが向けられ永琳に虫唾が走った。
「ねえ先生……ほんの少し僕の言う事を聞いてくれればいいんです。それでこの場は収まります。とりあえずはね……」
体の線がくっきりと浮かぶ永琳の診察服に舐めるような視線を這わせ若い男は呟いた。
月の頭脳の永琳ですら予想できない青天の霹靂だった。


月からの干渉もなくなり幻想郷での市民権を得た永琳は部下の兎たちと医療施設「永遠亭」で充足した日々を送っていた。人妖たちの争いもなく、平和でだらしない時間が流れる幻想郷は永琳にとって安住の土地といっても過言ではない。
「次の方どうぞ」
いつものように外来診察を行う。里人から来たという若い男が医務室に入った。

「体が熱っぽいとのことですが……何か心当たりでも」
外来患者が書く診察カードに目を通しながら永琳は伺った。目の前の若い男は少し呼吸の間隔が短く息が乱れているように見えた。季節性感冒の類か。そう考えながら返答を待った。
「はい……先生。熱が引かないんです。長いこと。動悸も激しくて……」
「そう……」
困惑気味の若い男にうなずきを返しながら
「少し胸の音聞きますね」
聴診器を持ち永琳は上着を上げるよう指示した。永琳の真っ白な指先と冷えた聴診器が若い男の胸に当たる。
「ううぁあ……」

「確かに心拍乱れてますわ。……いつごろから症状が?」
「いつごろから、ですか?」
「ええ。結構長いのかしら?」
指先で胸元を触診しながら永琳は返した。


「はい。初めて八意先生をお見かけした時から」
永琳の指がぴたっと止まった。
「先生の整ったお顔と姿を目に入れてから体の熱が引かないのです……」


「はぁ……」
ここまで聞いて永琳は、仕様がない人ねと思い顔に笑みを浮かべる。決して蔑みで笑ったのではなかったのだが。

患者から好意を持たれ言い寄られることは何度か経験していた。人間の年齢でいうと皺だらけの年寄りから、娘を入院させている中年の男性から、年端のいかない少女からと人間、妖怪を問わずプロポーズを受けてきた。そして全て断ってきた。まず永琳には同伴を持とうという考えは全くなかった。興味がないのが一番の理由でありしばらくは恋愛という感情を持つことさえなかった。それに永遠を生きる彼女の身に合う者など現れることもないという考えがあった。だから
「好意はありがたくお受けしますわ。でも私からお返しすることはできません」
自然と口が動いていた。目の前の若い男、顔立ちは悪くない。むしろ人里では相手に困らない部類だろう。
「そんな」
「あなたほどの人なら私ではなくても困ることはありませんこと? 今は体を治すことに専念して下さい」
何度も使ってきた紋切り型の文句を言うと再び永琳は診察に戻った。

諦めきれないのか必死な表情の若い男は
「どうしてもなんです! 先生。どうしてもあなたを……」
説得に努めたが
「困ります」
目も合わさずに永琳は言い放った。
しばしの沈黙が流れる。永琳は事務的に彼の鼓動を聞いていた。
「でもね……先生。僕はあなたを思うあまり、こんなものまで……用意したんです」
拾っていた鼓動が速まった気がした。彼の鼓動ではなく永琳自身の鼓動の速まりを錯覚したのかもしれない。

男は履き物のポケットから一枚の写真を取り出した。
落ち着き払っていた永琳の瞳がくっと大きくなる。
「ねえ先生……」
急に生唾が分泌され口内に溜まっていく。永琳はそれを如実に感じた。若い男は診察デスクに置いてあるカルテの上にその写真を投げつけた。

写真には暗緑色の液体に満たされた注射器を持った永琳の姿と、顔色悪く横たわっている人間、妖怪がずらりと並ぶ様子が収められていた。
「評判高い永遠亭がまさかこのような」
若い男が2枚目の写真を落とす。
泣き叫ぶ人間の体をメスで切り刻んでいる永琳と部下たちが映っていた。
「拷問まがいの生体実験を行っているとは……」

人里にも妖怪の山にも名の通った永遠亭は高度の医療技術、良心的な施術費用で絶賛とも言える評判を手中にしていた。術後のケアや家庭薬の配布などあらゆる奉仕活動も行う。、瀕死の患者を快復させた時、永琳は“奇跡”の医師という名前さえ付けられた。
天狗たちは発行する新聞に掲載されたことが何度もあった。
「患者を助けたい。それだけですわ」
永琳の、少女のようでありながら豊熟した美貌と患者に見せる穏やかな性分も永遠亭の名声に拍車を掛けた。

非の打ちどころがない“奇跡”の医師。若い男がもたらした写真には誰も知ってはいけない永遠亭の暗部が色濃く映し出されていた。

高度な技術と安価な医療費。裏があった。月人である永琳は地上の人間と妖怪の体の構造を知り得なかった。永遠亭を開設した当初は身体の作りの相違に大きく困惑した。月の頭脳も未知の肉体には敵わなかったのである。

「構造を知り尽くす必要がある」
永琳は部下に伝えた。部下の兎たちは夜な夜な人間や妖怪を永遠亭の地下に拉致した。そしてその体にメスを入れた。時には軽傷の患者を騙し連れ去ったこともある。幼子も手に掛けたが永琳にさほどの罪悪感はなかった。当時は永遠亭を軌道に乗せるために力を割いていたこと。二つ目に地上の者たちは穢れ切った肉袋のような存在だという考えが永琳の根幹にあったからだった。

しかしながら永遠亭が繁盛している現在はそのような行為は行われてはいない。病理データや薬物投与の結果は全て構築されたからだ。人体実験の写真、音声記録は全て焼却し秘密裏に握り潰した。

それなのに、この目の前にいるほくそ笑みを浮かべる若い男はどうして当時の写真を手にしているのだ? 永琳の頭の中を混乱と疑惑が駆け巡る。自分の脈がいつもより速く動いているのを永琳は実感した。

「信じられませんでしたよ。あの名医の八意先生が」
さらに写真を取り出す。包帯を全身に巻かれ虚ろな目をした妖怪が映っていた。
「こんな非道に手を染めていらっしゃるなんて」

永琳はでっちあげだ、精巧な合成写真だとしらを切ろうと考えたが
「この写真の子は……ひどい……生きている屍のようだ」
異常なほど対象や物の質感が高く合成のそれとはとても思えなかった。写真の具合から最近、性能の良いカメラで撮影されているものだとわかった。ゴシップだと紛糾し続けることは不可能だと永琳は考え
「……この写真を……どこで?」
半ば諦念満ちた声で問い掛けた。

若い男は少し考えるそぶりを見せた後に
「まあ……先生それは企業秘密ということで。強いて言えば」
永琳の眉がぴくりと動く。
「僕の友人と協力して手に入れたということにしておきましょう」
永琳の疑問は晴れない。永遠亭の負の部分、非人道的な実験の記録は全て焼却処分したはず。しかも数十年前のことだ。もし残っていたとしても写真は経年劣化して中古になっているだろう。しかし若い男が示した写真は新品そのものだった。まるで当時の現場に舞い戻ってそっくり複写したような、奇妙な印象が永琳の中を渦巻いていた。

「だいぶ考えられているようですね、先生。申し訳ありません。手数を煩わせることをしてしまって」
半笑いの若い男は値踏みするような目で永琳を見つめた。
「でもね先生、僕は先生の顔に泥を塗るようなことはしたくないんです。だから……」
にやにやと卑しい視線を受け続ける永琳は
「もう結構です」
と席を立ち、デスクの傍らの薄い金属ケースを持ち出すと
「写真とその原本を渡してください。そして」
できる限り事務的な声を紡いだ。この若い男の目的を知れている。
脅迫だ。狼狽を見せて図に乗らせるようなことは避けたい。永琳の内心はわずかなあせりと俗物な地上人に謀られているという、不快感に満ち始めていた。

「こちらを持ってお帰りを」
平静を装いつつ永琳は話した。永琳が差し出したケースは大量の紙幣が詰まっていた。突き出すように若い男のそばに置いた。
「お金ですか? 八意先生?」
「ええ、どのような経緯と目的でその写真を撮影されたのか分かりませんが、私たちに少なからず害を及ぼすものです。無論、永遠亭は写真の中の出来事のような非人道的なことは行っておりません」
「先生……」
「写真は買い取らせていただくという形で。額面が少ないとお考えなら加えて用意致しますわ」

「違うんですよ……先生ぇ」
男の口角が引き上がる。
「お金とか権利とか必要ない……」
「それでは何を……?」


「永琳先生、あなたが欲しいんです」


永琳はぞわっとした不快感に襲われた。この若い男に告白を受け脅迫に至るまでの間、永琳は薄々それを予感していた。自分の体の線を舐められるような男の視線を感じていたからだ。

永琳は初めて歪んだ顔を若い男に見せると
「猪口才な男……どこで手に入れたか分からないけれどそんな小道具に頼らないと好きな女も落とせないのね。愚拙で醜悪な地上人が……恥を知りなさい」
逆に挑発するように両腕と黒いガーターベルトに包まれた足を組みかえた。
若い男は半笑いを浮かべたままで
「いいのですよ永琳先生……でもこの写真が幻想郷に巻かれたら先生たちはどうなるんだろうなぁ」
余裕綽々で言葉を続けた。
「僕の住む里の人間、御山の天狗様、博麗神社の巫女様や命蓮寺の先生方が知ったら永遠亭はどんな扱いを受けちゃうのかなぁ」
「……ちっ」
永琳はあからさまな舌打ちをした。

「先生、僕は大それたことは望みません。ただ少しだけ先生の時間を僕に貸していただければいいんですよ。ただそれだけ……」
永琳は天を仰ぐと、
「私の何が……望みなの?」
若い男はくくっと喉を鳴らして笑うと
「まぁ、先生。ここは先生の診察室だ。それに外来中でしょう。あまり時間は作れない。だから今日は……」
若い男が大きく両足を開いた。
「口でしてください。永琳先生」
「なっ?!」
永琳が高い声を上げる。
「永琳先生のお口で僕を射精に導いて下さい。そう言っているんです」
男は続ける。
「とりあえずは僕が今持っている写真は全てお渡し致しますよ。永琳先生が誠意を見せていただけるのなら」
永琳は絶句して男の股間を見た。まるで詰め物をしているかのように大きく履き物の股間を押し上げていた。
「っぐ……」
永琳は唇を噛んだ。無意識にぎりぎりと歯を擦り合わす。今すぐにでも醜く笑う若い男を殺害しようと一瞬だけ目論んだ。室内に立て掛けてある和弓で若い男の脳幹を貫きたくなる感情が沸々と沸いてきたが
「顔が怖い永琳先生。ふふ、もしや僕を亡き者にしようとお思いですか? やめておいたほうがいい。さっき言った僕の協力者に連絡が途絶えたら写真ばら撒くように指示してありますので」
永琳の考えは看破されたようだった。
「ほら、先生。綺麗なお顔が台無しですよ……くく」
「……っ……!」
自然と体が震えてきた。永琳の組んでいた腕はいつの間にか自分の体を抱くような格好になってしまっていた。

「さあ、跪いて下さい」
永琳の焦りを感じ取り
「写真撒いてもいいんですか?」
若い男は口調を強めた。もう少しで永琳を下せると感じたからだ。
永琳は少し唇を噛むと椅子から立ちあがり、診察室のドアをロックすると若い男の足元に正座した。

若い男は履き物の前を開くと
「ううー……」
とうめいた。気味悪い声に永琳は眉をしかめる。
「先生が焦らすからこんなにも」
「……」
永琳は何も話さなかったが顔にはあきらかな軽蔑の表情を浮かべていた。
目の前には膨張した男根が存在していた。亀頭は濡れて光り、若い男はひどく興奮していのだと永琳は嫌悪した。
「早くしゃぶって下さい永琳先生」
「最低の……けだものね……」
そう言い放つと永琳はゆっくりと口を近づけた。

「うう、はあはあ……ううっ!」
永琳は舌をすぼませ亀頭を舐め触った。わずかな塩味が広がったが
「うう、先生……心配しないで……ちゃんと清潔にして来ましたから」
永琳に少しの安堵感が出てきたが、フェラしてもらうのを前提に来たのだなと分かると
「余計なお世話よ……」
と若い男を睨みつけて、一気に根元までくわえ込んだ。
「ああっ! 先生……永琳先生ぇ……!」
耳元の髪をかき上げながら、じゅぶ、じゅぼっと激しい勢いで擦り上げる。若い男の腰ががくがくと震えるのが感じられた。

──調子付かせる前にさっさと射精させてしまうのが得策
と永琳は頭を切り替える。
「永琳先生激し……過ぎる! うおっ! おっ!」
見下している地上人に奉仕させられているという途方もない劣等感がこみ上げてきたが、
「……っく、じゅるる……んん」
目をつむって堪えた。頭の中では“どうすれば早く射精に導けるか”それだけに支配された。

永琳は不本意ながら行動に移す。性的興奮を高めて短時間で射精させようと考え、若い男との間を狭めると自分の豊満で熟れた胸を若い男の膝の上に乗せた。
「永琳先生……? っふふふ。くく……」
若い男は下卑に笑うと
「いいですよ、永琳先生……ううっ……やっと僕に応えてくれているんですね」
永琳は無視して口撫を続けた。胸を敢えて圧し付け、舌で磨くようにごしごしとペニスを撫でまわした。若い男のカウパー液が口内に溜まると飲もうとはせず口の端から吐き出した。穢れを極端に嫌う永琳が飲み込めるはずもなく、垂れ流しの唾と分泌液が永琳の衣服、胸元の辺りを濡らした。
「ああ、永琳先生! 濡れたおっぱいがっ! 当たって……こんなに吸われてぇ……! 永琳、永琳先生ぇ!!」
色濃く染みが広がる永琳の衣服に興奮させられ若い男が声を上げる。
「……気安く下の名前で呼ばないで……! んはむぅ……」
永琳はストロークを速めた。

「清純そうに見える先生が……こんないやらしい……愛撫を身につけていらっしゃるなんて」
ぐっと永琳はこらえる。
「やっぱり、将来の旦那様のために練習されたのですか」
癪に障る事を一々言われ

「僕が永琳先生の物になってあげますからね」

永琳は口を離した。
「さっさと……さっさとイきなさいよ! この汚らわしい豚野郎!!」
ペニスを噛みちぎってやろうかと思うほど永琳は激昂した。若い男は涼しい顔で
「怒った顔も可愛らしい……分かりました。永琳先生。そこまで言われるのなら……!」

若い男は永琳の頭を鷲掴むと
「!?……う、げええっ! っぶ! おえっげええ!」
一気にペニスを喉元まで差し込んだ。
「ほらあ、永琳先生!! こうやって、口の悪い永琳先生にはおしおきしないとなあ!」
流れるような銀髪をくしゃくしゃにして腰を打ち付けた。
「クソエロい巨乳圧し付けてよ……情欲そそる顔しやがって……!」
「うぐほおお……おげええええっ!!」
「ドスケベ永琳の喉穴、チンポの形に押し広げてやるよ!!」
若い男は永琳の頭をまるで玩具のように振り続けた。ペニスを柔い頬肉に擦りつけられてぽっこりと膨らむ。
「ああー永琳のほっぺすごいよお!!」
「っくう! んんんん! っげえ!」

若い男は永琳の頬を堪能すると今度はゆっくりと可能な限り深く喉の奥に挿入した。永琳の大きな瞳がさらに見開かれた。若い男は永琳がどのくらい耐えれるのだろうかと思い奥底でペニスを留めた。
「いっぶぶも……つっつ……いぎげえへえ!」
堪え切れず永琳は野牛が出すような野太い喘ぎ声を漏らした。
「駄目ですよ永琳先生……そんな気持ち悪い声を出しちゃ永遠亭の名が廃れますよ」
「っくぅ……うっえ」
「ああすげえ! 誰かに見せてやりてえよ……! きったねえ鼻水垂れ流して目ぇ剥いてる永琳先生をさあ!」
永琳の、普段見せる柔らかい表情は消え醜女のような顔付きになっていた。
「ほらぁ! 永琳先生! もっと喉締めろよ! 写真が紙面化してもいいのかぁ!?」
ペニスが引き抜かれるたびにまるで空気の漏れた風船が出すような
「づっぶう! ぶぶ……っえ!」
と下品な破裂音を口から出した。
「ああっくそ……!永琳のアヘ顔のせいで……やば……イきそう」
普段見せる澄ました永琳の顔と、ひどく崩れた表情とのギャップが若い男の射性欲を押し上げた。

「ああ、イキそうイキそう!!」
若い男は今まで以上に強烈な勢いと速さで永琳の喉を責める。
「こっ! こっこ! げうええっ! ぶびええげえええ!! おっぶえっへええ!」
ずくっずくっと粘膜同士が当たり合って淫靡な水音を響かせた。
「あっああ! イくよ永琳!! べ、べロ射するよ!!」
くぐもった声を出した若い男は少しだけ腰を引き永琳の柔らかい舌の粘膜に射精した。
「う、ううっう! ……うぐっ!」
勢いよく放たれた精液は永琳の口内半分ほどを満たした。尿道内に残った精液は永琳の唇を使って一滴残らず絞り出した。

「うう、……うごえ」
永琳は即座に口を離すとそのままかがみ込んだ。手の平に溜まった精液を吐こうとしたのだが
「駄目ですよ先生」
若い男が制した。
「口開けてください」
永琳は真っ赤に充血した涙目で若い男を上目遣いで睨みつけた。
「あーん」
催促が飛ぶ。
こみ上げてくる吐き気を抑えながら意を決して口を開けた。若い男は満足げに笑った。恋い焦がれた想い人の口の中に自分の精液が大量に、ぬちゃあっと糸を引いて存在していたからだ。
「咀嚼して飲んでください」
永琳は何も返事をしなかった。
「写真返さないですよ」
こう言われるのは予測していたかのように意を決して
「んん……ぐっちゅぅ……んっぐ……」
口内すみずみに行き渡らせ、喉を鳴らして素直に飲み干した。


「じゃあ先生、今持っている写真はこれで全てです」
若い男はデスクの上に写真の束を置いた。永琳は暗い表情でうつむいたまま沈黙していた。
若い男はこれから仕事に行くかのようなすっきりとした顔をして永琳に話した。
「原本はこの場にないので」
若い男が口角を釣り上げる。
「また後日、ということで。今度はたっぷり時間を取って……ね」
若い男は診察室を出た。

「お大事に!」
エントランスにいた兎の女の子に声を掛けられた。
「ありがとう」
口の端が歪んで思わず笑いそうになったが若い男は自重して永遠亭を後にした。

さて、これから永琳先生をどうしてやろうか? 媚薬を作らせて飲ませ続け、専用の性処理肉便器に仕立ててやろうか? それとも子宮に丹念に種付けして自分の子供を孕ませようか? もし飽きたら次はさっき声を掛けられた髪の長い兎の娘……あの子を手篭めにしてあげてもいい。留まることを知らず若い男は妄想を続けた。


永琳は重い体を引きずりながら歩き、洗面台に立った。人差し指と中指を喉の深くに挿入すると
「……うっえ。……げええ」
と胃の内容物を戻した。口の中にまとわりつく粘液も
「……っくぁっぺっ!」
と痰を切るようにして吐いた。水を勢いよく流した後、ぜいぜいと息を切らしながら永琳は叫んだ。
「ウドンゲ! ウドンゲぇっ!!」
診察室につながる準備室の扉がそっと開いた。
「は、はい師匠……何ですか?」
殺気立った空気を感じ取った、永琳の部下、鈴仙・U・イナバが恐る恐る尋ねる。
「胃洗浄の準備をしなさい」
鈴仙はきょろきょろと辺りを見渡して
「患者さんが……いませんけど」
と返した。永琳は
「私に施術するのよ」
苛立った様子で投げ返した。胃の中の物は全て出し切ったが、永琳にはこみ上げてくる悪心を拭うことはできないでいた。いっそ自殺して、きれいさっぱり体を戻そうとしたが永琳は直接洗い流したい、洗浄したという実感が欲しかった。だから胃を丸洗いしようと考えたのだ。

気だるそうに唾液で濡れた衣服を脱ぎ、鈴仙の前で患者服に着替えようとする。白い肢体と真っ黒な下着に目を奪われた鈴仙は
「えっあ……あ、あの……師匠に……ですか? 何か悪いものでも口に……」
困惑しながら言った。
「あなたに答える義務なんてないわ。理解したらさっさと動きなさい」
きっと冷めた視線を鈴仙に送り口を開いた。
「はっ、はい」
不機嫌そうな永琳を見て鈴仙は小走りで準備に掛かった。

施術室のベッドの上で側臥位に寝かされた永琳は
──なぜ例の写真が存在しているのか?
という一番の疑問を頭の中で浮かべていた。傍らで器機を用意する鈴仙のことなど目にも入らないほど考えに没頭した。

──私たちの中に密告者がいる? しかしあの実験を知る者は側近の部下ぐらいだ。下級職員はその事実さえ知らないだろう。それに永遠亭に属するものが“永遠亭”を売るだろうか? 待遇は悪くないし名声も手に入る。福利厚生も幻想郷では群を抜いている。それに……密告を行った場合、死を与えると何度も私がくぎを刺した。それなのに……私たちを裏切った者がいる?

「それでは施術に入ります」
鈴仙が声を掛ける。

──それともあの若い男が本当に撮ったのか? しかし人体実験を行っていたのは数十年も前のことだ。若い男はまだ生まれてさえもいないだろう。もし仮に撮影していたとしても新品の写真の説明が付かない。数十年前の出来事を撮影した写真なら間違いなく劣化する。あり得ない……

「師匠、口を開けてください」
鈴仙は挿入管を用意した。

──過去に遡って私たちを撮影した……? 過去に戻る、時空間を跳躍できる能力者が存在して、若い男と共謀して……可能性はあるが、そんな能力者の話は聞いたことがない。時の理を解明できる全能の超越者は幻想郷にはいない。胡散臭い地上の低俗な神ならいくらでもいるが……とにかく過去に遡って撮影したことも考えにくい。あの若い男、何も考えていないような痴れ者がそんな高尚な能力を授かっているはずもないだろう。

「挿入します」
鈴仙が管を永琳の喉に挿す。

──分からない。まだ今のところは……
喉を通る異物感が永琳の思考を遮断する。猛烈な喉の痛みに永琳は眉を曲げた。
6月16日付 文々。新聞朝刊 社会面



「いい気味ね」
朝刊を眺めながら永琳はせせら笑った。
狂い
作品情報
作品集:
17
投稿日時:
2010/06/15 21:38:27
更新日時:
2010/07/01 04:09:10
分類
永琳
人里の若い男
共謀
1. 名無し ■2010/06/16 07:59:22
本文の永琳先生にムラムラしてたら最後の新聞で「おー」とびっくりしました、最後まで面白かったです。
2. 名無し ■2010/06/16 08:46:44
永井先生に見えてしまった…
3. 名無し ■2010/06/16 10:09:11
被験者の死後に、閻魔辺りから漏れたのかと思ったらそっちか。
本文中の伏線が上手く回収されていてステキ
4. 名無し ■2010/06/16 20:30:22
妥当なオチだ
5. 名無し ■2010/06/16 21:38:56
月の頭脳にエロマンガのような安易な脅迫すればオチはこうなるわなw
しかし、命一個支払って永琳のお口で一発か……悪くない取引だ
6. 名無し ■2010/06/17 19:57:41
こうやって考えるとはたての能力、凄いな
7. 名無し ■2010/06/17 22:59:48
生体実験ってだめなの!?!?
8. 名無し ■2010/06/18 03:09:58
さすが月の頭脳…
しかしはたての能力は脅しに使うにはこれ以上なく便利な能力だなあ
9. 名無し ■2010/06/18 19:17:43
はたての能力を使った脅しが、紫とか幽香とかに通用するとは思えないけどな
霊夢とかの重要人物を誤って殺してしまったのなら、話は別だが
10. 名無し ■2010/06/19 01:51:58
せっかくはたnを始末したと言うのに写真がばら撒かれたり、別の男が訪れたりしたら
永琳はどれぐらい驚いてくれるだろうか?
11. 名無し ■2010/06/19 04:05:56
膣洗浄する永琳先生も見たかった・・・
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