壊れたはたおりき

作品集: 17 投稿日時: 2010/06/21 18:26:32 更新日時: 2010/06/21 22:43:53
蒸し暑い夏の日。
轟々と音を立てて流れる滝を背に、私、犬走椛は御山の警備にあたっていました。
自慢の大きな耳を立て、遠くまで、それこそ千里先まで見通すことの出来る瞳をいっぱいに開いて、私の出来る限界まで感覚を鋭敏に研ぎ澄ませながら辺りを警戒していたのです。

「……ふぅ」

疲れからか、ため息が漏れました。

ここのところ、御山に押し入ろうとする不届きな輩が増えていて、私の仕事も多いのです。
どこぞの氷精に夜雀、宵闇の妖怪に蟲の王。
どの侵入者も私の上司である烏天狗、射命丸文様に用があるということでしたが、やけに殺気を振りまいていたので「穏便に」お引き取り願いました。

射命丸文様。
カラスの濡れ羽色の美しい髪を持つ、私の上司。
あの方の書く新聞は捏造が多い上に人を叩いて面白がるようなものだとはたて様から聞いています。
それゆえ、叩きも苦情も多く、天狗の上層部はその対応に追われているのだとか。
ですが―――

「ねぇっ」

思いがけず背後からかけられた声に、しかし私の体は瞬時に反応しました。
振り向き様に抜刀しつつその声の聞こえた方へ一閃、同時に距離を詰めます。

「ちょっ、ちょ、椛、悪かったから落ち着いてッ」

ぎらりと光る白銀の刃を首元に押し付けられ、わたわたと慌てて手を振る一人の天狗。

「……はたて様じゃないですか」

私はため息をつき、突きつけた刃を下ろします。
そして、目の前に浮かぶ上司――――はたて様を見つめました。
射命丸様とは違う茶色の長い髪、いつもと変わらぬ紫色を基調とした服。
私がかなり失礼な態度をとってしまったのにもかかわらず、はたて様はケラケラと楽しげに笑うと、

「お疲れー。はい、これ差し入れ。お肉」

私の胸元ににずい、と茶色の紙袋を押し付けます。

「そっ、そんな!!肉なんて悪いですよ、受け取るわけにはっ」
「いいのいいの。いつも皆のために頑張ってくれてるんだしー。ただの干し肉だしー。おなか空いてるでしょ?休憩のときにでも食べて。ほらほら」

付き返そうとした私の手に、さらに強く紙袋を押し付けてはたて様はにっこりと笑います。
これ以上押し返しては失礼だ。私はそう判断し、頭を下げました。

「ありがとうございます」

頭を下げた私に対し、はたて様はいいのよ気にしないで、と艶やかに微笑むと、

「で。どうなの?侵入者とかはいる感じ?」
「いえ、今日はいないです。何の異変もなしに任務が終わりそうで安心していたところでした」
「あら、じゃあびっくりさせちゃったわね。ごめんねー」

はたて様はこつん、と自らの額を拳で叩き、ぺろりと舌を出して愛らしく笑います。
茶色いツインテールがふわりと風にゆれ、花のような甘い香りが私の鼻をくすぐりました。

「大丈夫ですよ。取材お疲れ様です」
「えへ、ありがと!じゃあまたねー。頑張ってー!」

はたて様は市松模様のスカートを揺らしながら滝の上へと姿を消しました。


後には、轟々と再び響き渡る滝の音と私だけが残されます。

ふ、と気配を感じて滝の下を見れば、一人の天狗がこちらへと猛スピードで飛翔してくるのが見えました。

「……あぁ」

思わずため息が口を衝いて出ました。
その美しい黒髪の天狗は、私の目の前まで来ると少し上気した頬でふわりと微笑みます。

「あやややや。椛じゃないですか」
「何ですか」

射命丸文様。この人の前では、どうも調子が狂います。
会えた事が嬉しくて尻尾が勝手に動き出しますが、背中に手を回して尻尾を押さえつけることで必死に耐えることにします。
この方にからかわれるのは、凄く恥ずかしいのですから。

「取材ですよ、しゅ・ざ・い。先ほどはたてと何を話してたんですか?」
「別に、ただの世間話ですよ」
「本当ですかあ?」
「そうですっ」

色々詮索されたくは無くて、私はプイッとそっぽを向きます。
が、射命丸様は口元の笑みを崩そうとはせずに私の正面に回りこんできて、楽しげに言うのです。

「んー?顔が赤いですよー?」

あなたの顔が近いから赤いんです。恥ずかしいんです。
私はそれを言葉にすることはせず、

「もう、本ッ当に……今は仕事中です、どっか行ってくださいッ!」

噛み付くように叫んでしまった私に、射命丸様は呆れたような笑みを口の端に浮かべ、

「おぉ、怖い怖い。噛み付かれたらたまらないので私は退散するとしましょう」

ひらりと身を翻して滝の上へと登って行きました。

あぁ。どうしてこんな態度をとってしまうのだろう。
言葉だっていつもそっけなくなってしまうし。

「……一応、憧れなのになあ」

無意識のうちに自分の口からそんな言葉が漏れていたのに気付き、私は一人で苦笑しました。

射命丸様は私にとって、はたて様よりもずっとずっと遠い存在です。
私にとって、まるで太陽のような、眩しくてとても遠い存在なのです。
戦闘も強く、気高くて美しく、幻想郷最速の天狗。
……好きなのに。壊してしまいたいくらいに。

私に力さえあれば、彼女のことを、壊してしまえるのに。


***



「あー、疲れたぁ……」

ようやく任務を終えて自分の家まで帰ってきた私は、河童のにとりに作ってもらった「えあこん」のスイッチを入れ、

「はふぅ」

ぐっと伸びをし、息をつきました。

四角い箱のような「えあこん」はすぐにぶぃいん、と重い音を立てて作動し、冷たい風が私の頬をなでます。
今日ははたて様に貰ったお肉と酒で一杯やるか、と考えていた矢先に、コンコン、と軽いノックの音が聞こえました。

「誰?」
「あー、椛、私!はたて!」

戸の向こうからは上司の声。
私は思わず狼狽し、手に持っていた紙袋を落としてしまいました。

「は、はたて様っ!?どうして!?」

あわてて戸をあけると、そこには赤紫色の液体がなみなみと入った瓶を抱えたはたて様がにっこりと花咲くような笑みを浮かべていらっしゃいました。

「あはは。ちょっと私の家暑くって。椛の家涼しいって聞いたから、ちょーっと飲みに。あ、椛前気になるって言ってた、ワイン持ってきたよっ。紅魔館に遊びに行ったら貰っちゃったんだー。飲む?」
「私もご馳走になって良いんですか?」
「もちろん。椛とお酒飲むために来たんだから」

そういってワインの瓶をかかげてにっこりと笑むはたて様。
いつまでも上司を外に立たせておくことは出来ません。私は彼女を家の中に招き入れました。



***



それから一刻ほど過ぎて。
外は既に夜の帳が下り、窓の外はすっかり闇に閉ざされています。

ワインは殆どをはたて様が一人で飲んでしまわれ、その上私の家にあった醸造酒まで開けてしまいました。
そのため、彼女はもうぐでんぐでんに酔っ払い、いつもの聡明なはたて様は見る影もありません。

「もーみぃじっ」

ふいに、顔を真っ赤にしたはたて様が私にしなだれかかってきました。
私の心臓が大きくドクン、と跳ねます。

「ちょっ、ちょ、はたて様!駄目ですよっ」

押し返そうとしますが、はたて様は体をぐるりと回して私の顔を上目遣いで見つめます。

「いーじゃん。だってー、私は椛のこと好きなんだよー?」
「なっ……」
「やーぁ、椛顔赤ぁーい!かわいー!ちゅーしていい?」
「そっ、その、それは―――」

酔ってるから顔が赤いんですよ、といおうとした所に、はたて様の柔らかそうな桃色の唇が私の顔に近づいてきて、動悸がいっそう激しくなります。

ふわり、と甘いワインの芳醇なにおいが強く香って。

押し返さないと、私は、文様のことが、好きなのに。

ぼんやりとした頭でそう考えつつも、体が動きません。
そうして、はたて様の唇と私の唇が重なろうとした瞬間――――

かしゃり。

軽い音とともに、思わず目を瞑ってしまうほどの強い光が部屋の中を満たしました。
夜なのに、何の光と音なのだろう、と私は考え、その光の正体に思い至ったとたん一瞬で酔いが吹き飛びました。


カメラの、フラッシュ。


とっさに窓の方を振り返ると、何か黒い影が慌てて飛び去っていくのがかろうじて見えました。
先ほどまで頭に上っていた血がさぁっと音を立てて引いていくのが判ります。
撮られた。あれを。はたて様とキスしそうになっている、あれを。

「っ、追いかけてくるッ!」

はたて様は酔いがすっかり飛んだのか、大きな声を上げるとはだしのまま外へ駆け出し、背中の大きな翼を広げて暗い闇へと飛翔してしまいました。
私のスピードでははたて様に追いつくことなど到底敵いませんので、千里眼を使いながらはたて様の後を追うことにいたしました。



***



目を細め、はたて様の髪についたリボンを目印に必死に追いかけます。
自慢の千里眼もこう暗くてはうまく働きません。
普通の天狗よりは確かによく見えるでしょうが、一キロも先の出来事などうっすらとしかわかりません。
私も必死に飛んでいるのに、はたて様に一向に追いつく気配はありませんし。

と、かなりの距離が開いたところではたて様と誰かが激しい弾幕戦を始めるのが見えました。
緑色の米粒団が、四方八方からはたて様に殺到します。
あのスペルは、天狗のものです。密度からして白狼天狗のものではなく、烏天狗のもの。
はたて様は必死に応戦しているようですが、ここ五十年は余り外出されなかった所為か、その速度も密度も相手のものよりは劣っています。

……しばらく飛んでいるうちに、なんとか相手がはっきり見える位置まで近づきました。
はたて様と戦っている相手は、信じたくは無いのですが、あの射命丸様でした。
あの写真を撮ったのは射命丸様。
見ていた?見られた?あの光景を?
頭に血が上りかけ、私は自分の両手で頬を強く叩くことでそれをいさめました。

……千年以上生きている射命丸様と、ぽっと出のはたて様。
弾幕の密度にも、避けるテクニックにも大きな実力の差があり、はたて様が勝つことはほぼ不可能だと私は悟りました。

勝てるわけが無い。私がそう思った矢先、避けきれなかった大玉にはたて様は被弾してしまいます。
射命丸様は被弾してぐったりとしたはたて様に近づき、彼女の顎をもってぐいっと上を向かせ、ふわりと微笑みました。

「―――の事を―――なんて。無理な話だっ――すよ。2対1でも無い限りー―――」

はたて様に向かって何か語りかけていますが、その内容は殆ど耳に入ってきませんでした。

それより、射命丸様。どうして、その笑顔を私以外の天狗に向けるのですか?

ぷつり、と私の中の何かが切れる音がし、考えるより先に体が動いていました。

渾身の力を込め、右腕を射命丸様の頭に向かって振るいます。

後先も何も考えていない、ただ単に殴るだけ。
射命丸様に避けられて終わりだろう、と頭の隅で考え、やはり射命丸様は私が拳を食らわせる前に振り返り、

「もみっ……じ!?」

振り返ったのに。
彼女は私の攻撃を避けようとはしませんでした。

がつん。

拳に激しい衝撃が走ると同時に、射命丸様の体から不意に力が抜け、がくんと首が垂れました。

「……はたて様」
「もっ、椛!」

はたて様は、私の姿を認めると、花咲くような笑みを私に向けて言いました。

「ありがとっ!助かった!」



***



あの後、はたて様と二人がかりで私の家に射命丸様を運び込み、はたて様の命で河童のにとりに作ってもらった「針金」を使い射命丸様のことをぐるぐるに縛り付けました。
二の腕、手首、太もも、膝、両足首と順に縛りつけ、抵抗が一切できないように、とはたて様は言いました。
細い手首やむっちりとした太ももに針金がぎちぎちに食い込んでいます。

痛みに目が覚めたのでしょうか、射命丸様は小さく呻きながらうっすらと目を開け、

「も、もみ、じ……」

泣きそうな顔で私の事を見上げます。
私はその目を受け止めることが出来ず、ついと目を逸らしました。

「何であんなことしたのよ」
「私は何もして無いですよッ!」

はたて様の詰問に、射命丸様は必死に叫び、針金を力任せに千切ろうとします。
が、それは逆効果。
銀色の細い線が手首に食い込み、じんわりと血がにじんでいきます。
今にも泣きそうな射命丸様を見てはたて様は呆れたようにため息をつきました。

「……嘘つき」
「信じてくださいっ!本当なんですよ、椛ははたてに騙されているんですっ!」
「……えっ?」

私の口から出たものとは思えないほど、冷たい声が室内に響きました。
それでも射命丸様は赤い瞳をあふれ出す涙で潤ませながら私に訴えかけます。

「お願いですっ、私の話を――――ぐっ」

はたて様が大きく足を後ろに引き、渾身の力で射命丸様の頭を蹴り飛ばしました。
射命丸様の顔は私の家の石壁にしたたかにたたきつけられ、口と鼻からだらだらと血を流しながらぐったりとしています。

好きな人が蹴り飛ばされて血を流しているというのに、私は自らの口元がにやりと歪むのを感じました。
何か黒いものが私の中でむくむくと膨れ上がります。

「駄目だよう、文ぁ?嘘なんてついちゃ」

はたて様は射命丸様に歩み寄り、顎を持ってぐっと上を向かせます。
射命丸様は何も言わず、その赤い目ではたて様のことを思い切り睨み付けました。

「反抗的ね。どうしてやろうかしら」

はたて様は考え込むように腕を組んで目をつむります。
しかし、いらだったようなその口調とは裏腹に、はたて様の口元には邪悪で凄惨な笑みが浮かんでいました。

「ねぇ、椛」
「何でしょう」
「ウソ吐きの舌は、抜いてしまわないとね」

はたて様はやけに嬉しそうにそう言葉をつむぎます。
私は口元に広がる笑みを抑えることが出来ませんでした。
射命丸様とはたて様の元まで歩み寄ると、私は射命丸様の頭をそっと撫でました。

「もみ、じ……」

味方を見つけたとでも思ったのでしょうか、射命丸様の表情がぱっと明るくなりました。
勢い込んで私のほうを見上げた彼女の希望は、一瞬で潰えたことでしょう。
その希望を叩きのめして、潰して、粉々にしてやれ。私の中の黒い何かが囁きます。

「……射命丸様。舌を抜きますので、口を開けていただきますか?」

私の声は、私が発したものとは思えないほど、冷たく、重く、響き渡りました。



***



「文ぁ、口開けてよーっ」

はたて様は右手に鋏を持って、射命丸様の口に指を押し込んで開かせようとしています。
が、射命丸様は唇からだらだらと血を流しながら、はたて様のことを睨みつけるだけで口を開けようとはしません。

……そりゃそうでしょうね。自分の舌を切り取られると判っていて口を開ける馬鹿なんていません。
私はため息をつくと、はたて様に囁きました。

「悲鳴を上げさせられれば、口を開けるのではないでしょうか?」
「そうね、でも何をしようかな。椛、何かある?」
「任せてください」

私は射命丸様の両手を縛りつける針金をペンチで切断し、右手を足で押さえつけます。
そして左手を射命丸様の前にかかげてニッコリと笑いました。

「あなたが口をあけるまで、指を一本ずつ噛み潰して行きますからね」

涙をボロボロと零しながら、いやいやと首を振る射命丸様。
そんな姿を見て、私の中の黒い何かがむくりと鎌首をもたげました。
私は白魚のように細く優美な彼女の親指をゆっくりと口にふくみました。思わず笑みがこぼれます。
逃げようと必死に腕を引く射命丸様ですが、なぜか力が殆ど入っていません。
縛られていたときにうっ血でもしていたのでしょうか。
私が目ではたて様に合図を送ると、はたて様はニッコリと笑って射命丸様の前で指を三本立てました。

「いくよー、文ぁ。さーん、にーい、いーち」

がりっ。

私の口の中で硬質な音が響き、妙な鉄臭さが口内に広がります。
いつもなら気持ち悪いと思うであろうその味は、射命丸様のものだからかとても甘美なものに思え、私はうっとりと目を細めました。
射命丸様はというと、瞳がこぼれんばかりに目を見開いてはいますが、口はしっかりと閉じたままです。
私は彼女に見せ付けるようにして口からゆっくりとつぶれた指を出します。
私の唾液と指だったものから流れ出す血が私の口とそのつぶれた肉塊の間ににちゃりと糸を引きました。

「どう、文?痛かったでしょ?観念して口を開ける気になった?」

そうはたて様が語りかけます。
が、射命丸様はそれでも鋭い目ではたて様のことを睨みつけ、口を開こうとはしません。
はたて様はむっ、とその形の良い眉を寄せ、

「椛、次いこっか」

そう私に命じました。私は左手の人差し指へと口をつけます。

「さーん、にーい、いーち」

ぐちゃり。



***



両手の十本、全ての指を潰し終えても、射命丸様は口を開けようとはしませんでした。
ふーっ、ふーっと鼻息荒く、目からは体中の水分を出しつくしてしまうかのように涙があふれ出ていますが、それでも口を開けようとはしませんでした。
射命丸様が私に目で何かを訴えるのがわかり、私は首を傾げます。
はたて様に気付かれないよう、射命丸様は目線で床を示しました。

《モミジ》

ぼたぼたと指からあふれ出す血で、彼女は床に文字をつづっていたのです。

《モミジダケナラクチアケル》

ほう、と私は心の中でため息をつきました。
射命丸様が私を頼ってくれている。
十本も指を噛み潰していったというのに、彼女は私の事をまだ信頼できる部下とでも思っているのだろうか。
それか、何か裏があるのか。たとえば、この状態でも私には勝てる自信があるとか。

その希望を、叩き潰してしまうのも悪くない。
私の中の黒い何かは、そう囁きました。

「はたて様」
「何?」
「あとは私に任せてくださいませんか」
「えっ?まぁ、いいけど」
はたて様はいつもと変わらぬ、花咲くような笑みを私に向けて右手に握っていた鋏を手渡しました。

「文が強情すぎて飽きてきたとこだしー。私は取材に行きたいしー。じゃ、後は任せたからねっ!」

ひらりと身を翻して夜の闇へと消えたはたて様。
その後姿が私の目で完全に捉えきれなくなるまで追ってから、扉を閉めます。
私は振り返ると射命丸様を安心させるためにそっと微笑み、鋏を床に置きました。

「……椛、ありがとう」

かすれた声が射命丸様の口から漏れました。
いつもの溌剌とした彼女からは考えられないほど情けないその姿に、私の心は震えます。

「どういたしまして、射命丸様」
「椛、聞いてください」
「何をですか?」

射命丸様の右手をそっと取り、哨戒時用の携帯袋に入っている血止め粉を指先にふりながら聞き返しました。
射命丸様はかすかに肩を震わせ、言葉をつむぎだします。

「……はたてが、私の名前を使って勝手に新聞を発行しているんです」
「ほう」

そんな事に興味はありません。私が興味があるのは新聞ではなく、射命丸様なのですよ。
私はあらかた右手の指先の血が止まったのを確認すると、左手に取り掛かりました。

「そこで様々な人を叩いたり、貶めたりして……。私の立場はどんどん悪くなるばかりです。先程だって、はたてに突然弾幕を撃たれ、わけが判らないままに応戦していただけなんですよっ」
「大丈夫ですよ射命丸様。私は射命丸様の味方ですから。誤解していたようで申し訳なかったです」

私の言葉に、射命丸様はぱっと顔を輝かせます。
あぁ、あの太陽のような人が、私の事を頼ってくれている。

「本当にですかっ!?」
「はい。現にこうやって手当てまでしてるじゃないですか」
「じゃ、じゃあっ、この金属をはずしてくださいッ、痛くて痛くて――――」
「嫌ですよ」

射命丸様の笑顔が一瞬で凍りつきました。
私の唇が喜悦に歪みます。尻尾がぱたぱたと揺れだすのがわかりました。

「外に敵が沢山いるなら、外に出なければ良いんですよ。私がずーっと射命丸様のお世話をしてあげますから。ね?」
「もっ、椛、そんな冗談は良いですから」
「冗談じゃないですよ。大好きです、射命丸様」

私は血で汚れたその頬に唇を落とし、にっこりと微笑みます。
届かないと思っていたものを引き摺り下ろして、自分の手で滅茶苦茶にしてしまえる。
なんて素敵なことなんだろう。
あぁ、次は逃げられないように翼と足を切断してしまわないと。

愕然とした射命丸様を見て、たまらなく愛しい、と思い、私は彼女の体に両腕を回してしっかりと抱きしめました。

あぁ、やっと射命丸様を私のものにできる。

あの笑顔は、私だけのものだ。
ヤンデレ可愛いよ。椛はもっと可愛いよ。

HANU(仮)でした。
>>3様を受け、290と名乗ることにしました。
290
作品情報
作品集:
17
投稿日時:
2010/06/21 18:26:32
更新日時:
2010/06/21 22:43:53
分類
はたて
天狗
1. 名無し ■2010/06/21 18:52:56
このもみじに、もみもみされたいです
2. 名無し ■2010/06/21 21:59:55
DS発売時から仲が悪かったってのに、これは新感覚
3. 名無し ■2010/06/21 22:11:11
モミーのくだりが強引かと思えば、ほたて共々最初から壊れていたのね
HAMU氏の作品と関係ないのに、HANU名義はどうなんだろう?
4. 名無し ■2010/06/22 01:05:49
引き籠もると黒くなるな
5. 名無し ■2010/06/22 01:11:41
黒いはたてもいいですね
6. 名無し ■2010/06/22 06:55:18
お前はやれる!
期待の新星だ!
7. 名無し ■2010/06/22 08:58:35
是非ともこの後の椛と文の血肉が踊るラブシーンを何卒お願い致します。
8. 名無し ■2010/06/22 20:11:10
うん普通に面白い
個人的なアレだけど短編としても調度良い感じの長さだし何より読みやすい

期待の新人が来てくれるとはありがたい
9. 名無し ■2010/12/26 11:40:17
文拘束endに全俺が興奮w
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード