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『満月の夜に』 作者: ギョーザ

満月の夜に

作品集: 17 投稿日時: 2010/06/24 15:10:08 更新日時: 2010/06/25 15:41:51
狭い狭い幻想郷



月明かりの中、一台の車が竹林の一本道をひた走る。



運転しているのは一人の少女。助手席には真っ赤なリボン。



物言わぬただのリボン、しかし少女にとっては大切なリボン。



竹林を抜けちょうど人里に出ようかというところ、車は苔むした墓石の前で止まり、少女は車を降りる。



「今日は満月だな・・・慧音」


銀髪の少女――藤原妹紅は墓石の前にしゃがみこむとリボンを胸に抱きながら墓石に話しかける。


墓石には苔で見えにくくなっているものの、上白沢慧音と読めた。妹紅はゆっくりと立ち上がり、車のボンネットに手を当てながら月を見上げる。



「今お前を思い出せるのは、リボンと満月・・・そしてこの車だけだよ」



愛おしそうに車のボンネットを撫でる妹紅。その手はまるで慧音の頭を撫でているときのよう。ふっ、と寂しそうに笑う。



「この車、寺子屋に止めてあったんだよなぁ・・・」





――この車との出会いからもうどれくらいの時間が経ったのであろう。



あるとき妹紅が久しぶりに慧音の所に遊びに行くと彼女は寺子屋の横に見慣れない物を目にする。その見慣れぬ物体を慧音は、水を含ませた布で拭いていた。


「おはよう、妹紅」
「おはよう慧音、それはなんだ?」
「ああ、これか。これは自動車といってね、人や物を載せて運ぶことができるんだ。便利だろう?」
「こりゃ便利だ。でもこんなものどこで手に入れたんだ?」
「香霖堂にあってね。格安で売ってもらったんだ。それより妹紅、これで人里まで一っ走りしてこないか?」
「いいね。ついでに使い方も教えてくれよ」


二人は車に乗り込み、慧音は手取り足取り妹紅に使い方を教えていった。持ち前の運動神経の良さと相まってかあっという間に妹紅は使い方をマスターしてしまった。これには慧音も驚く。

「すごいな、妹紅は。もうこんなに運転がうまくなった」
「どんなもんだ!すごいだろ慧音。これからいろんなところに行こう」
「ああ、そうだな・・・」




時は流れる。寿命が長い慧音と不死身の妹紅にとって人間の一生など瞬きに等しい。寺子屋を卒業し、大人になり、やがて死んでいく。そんな時の流れを見守る二人。


そしてあの朝。いつもと変わらぬ朝であった。


「おはよう、慧音。・・・慧音?」


弱々しく息をする慧音。起き上がることができないのか、首だけ妹紅のほうを向いている。

「・・・・おはよう・・・も・・・妹紅・・・」
「どうしたんだよ慧音・・・どこか悪いのか・・・?」
「どうやら、もう私は起き上がれないらしい・・・残念だよ妹紅・・・ここでお別れとは・・・」
「えっ?何言ってるんだよ・・・全然わかんないよ・・・」

いくら妖怪といえど寿命はある。妖怪である慧音はずっと少女の姿のままであったが、肉体の方はそうとはいかない。慧音はかなりの無理をしながら衰えからくる体の不調を隠してきた。しかしそれもすでに限界だった。

「・・・今まで無理をして妹紅と一緒にすごしてきたが、とうとう限界らしい・・・本当に残念だよ」
「嘘だろ・・・嘘・・・そんな・・・ああぁ・・・」

泣き崩れる妹紅。慧音は力なくその手を握りふっと儚げな笑顔を見せる。ぽたりぽたりと慧音の手に妹紅の涙が落ちる。

「そんなの嫌だよ!たのむから嘘って言ってくれよ!たのむからさぁ!」
「無理なんだ・・・ごめん、妹紅・・・そうだ、これを・・・」

慧音は車の鍵とリボンを手渡す。

「あの車・・・大事に扱ってくれよ・・・リボンと車を私だと思ってくれ・・・さようなら、妹紅・・・いままで本当にありがとう・・・君と出会えて本当に楽しかった・・・」

慧音はゆっくりと目を閉じ、力なく妹紅の手を握っていたその力も消えてゆく。ここに慧音は生涯に幕を下ろしたのである。

「あああああああああぁぁぁぁぁ慧音ぇぇぇ!目を覚ましてくれよぉぉ!」

嗚咽交じりの絶叫が、部屋に響く。妹紅はもう動かない慧音の手をぎゅっと握っていた。





それから長い時が過ぎ、今では寺子屋のあったところも苔むした墓石が残るのみとなった。


「あんなにやさしく接してくれたのは君だけだったよ、慧音・・・・・・また・・・また会いたいよぉ・・・」


座って車に寄りかかり、涙を流す妹紅。シャツの袖でごしごしと涙を拭きすっと立ち上がり、涙の流れた跡が残る顔を笑顔にして墓石に語りかける。


「また来るからね。慧音・・・じゃあまた」


妹紅は車に乗り込みエンジンをスタートさせる。排気音とともに車は去っていった。



こうして不死身の少女は車を走らせる。


満月の夜に、必ず。
ども、ギョーザです。

今回は寿命ネタをひとつ。

だいぶ細部がはっきりしない文章ですが、あえてこうしてみました。ネタが寿命ネタなだけに細かいところは個人で脳内補完していただければあなただけのけねもこアレンジになるはず。

勢いだけで書いたので誤字脱字があると思いますがそこは目をつぶっていただければありがたいです。すいません。

ところで幻想郷にも車ってあるとは思うんです。何台かは。たぶん。

妹紅の乗っている車のイメージは70年代のダッジチャレンジャーとかのアメ車のイメージで書きました。

慧音とか妹紅が乗っているとそのギャップがまたたまらん。
ギョーザ
作品情報
作品集:
17
投稿日時:
2010/06/24 15:10:08
更新日時:
2010/06/25 15:41:51
分類
妹紅
慧音
寿命ネタ
1. 名無し ■2010/06/25 00:22:09
妹紅だけに日産のモコかと思ったw
2. 名無し ■2010/06/25 05:01:36
「車」「別離」で某歌手の
「いつもより眺めが良い左に少し戸惑ってるよ」
という歌詞を思い出したが
後書き左ハンドルかよ
もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対
3. 名無し ■2010/06/25 07:25:40
妹紅には是非とも煙草をふかしながら峠を攻めてもらいたいなと想ってます。
4. 名無し ■2010/06/25 18:32:43
もこたんなら豆腐屋に勝てるかもしれないね!
5. 名無し ■2010/06/25 19:43:51
頭文字M
6. 無白 ■2010/06/26 21:44:52
自分だけのけねもこアレンジを楽しみました。
7. 名無し ■2010/06/28 00:00:13
マッスルカーだと?
ロックンロール妹紅だなww
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