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『美味しい木苺パイ』 作者: 290

美味しい木苺パイ

作品集: 17 投稿日時: 2010/06/30 14:03:16 更新日時: 2010/06/30 23:16:51
「さくやぁー」
「ここに」
「パイ焼いて。友達来たから、急いで。木苺のパイ」
「かしこまりました」




***




私は紅茶を一口啜り、目の前に座る彼女を見つめた。

「ねぇ」
「なぁに?」

空には薄青色の月が浮かび、月光がテラスと私達を柔らかく照らしている。
帽子の彼女は白い皿にまぁるく並べられたパイを一つ手にとった。
さくり、と一口。
何層にも重なったパイ生地の間から赤い果肉がとろりと落ち、彼女の唇をぬらした。

「……間違い探し。この館の中のどこが違うでしょう」
「どこか違うの?」
「そうよ」

彼女―――私の友人である少女の姿をした妖怪―――は不思議そうな顔をしてわずかに首をかしげた。
すこし癖のある髪がふわりと揺れて、甘い匂いが漂う。
でも、彼女の腐り落ちる寸前の果実のような匂いは嫌いじゃない。

「えーっ……私殆ど何も考えずに動いちゃうからわからないなあ」
「うーん、全然違うんだけど」
「館の色、はいつもと同じだし、門番さんもメイドちゃん達もメイド長さんも同じだしなぁ」
「ふふっ」

私の唇に自然と笑みが浮かぶ。
困った顔をした彼女はとてもかわいらしいな、と思った。

「えー。わーかんないよー」

ぷぅっと頬を膨らませた彼女。
そのうち腹を立てて出て行ってしまうから、さっさと正解を教えることにしよう。
私はぱんぱんと二度手を叩き、

「咲夜ぁ」

忠実なる従者を呼んだ。

「ここに、ご主人様」

一瞬で銀髪の瀟洒な従者は私の横に現れる。

「お代わり」

私がカップを差し出すまでもなく、そこには淹れたての紅茶が湯気を立てて浮かんでいた。
カップのそこには赤い沈殿が生じている。……まぁ、温い紅茶に入れればそうなっちゃうのも当然か。

「ほかに御用はございますか?」
「ないわ、でもちょっとそこに立っててくれる?」
「かしこまりました」

静かに私の横に控える咲夜。
咲夜を指差して、私は椅子で足をぶらぶらさせる彼女に問いかけた。

「ねぇ、気付かない?」
「あっ。目!」
「そっ」

彼女は宝石のような目を丸くして咲夜の目を見つめた。
いつものように深く沈んだ群青色ではなく、私と同じ真紅の瞳。

「えーっ!?すごいっ!」
「あと、館の住人皆目赤いわよ」
「どうやったの!?」

興奮気味の彼女を手で制し、私はちっちっと指をふってみせる。

「眷属にしたのよ」
「何で?」
「だって面倒だったし、世話とか」

ぐーっと伸びをし、横に控える咲夜を見上げる。
咲夜は私にふわりと微笑みかけた。……なんだか気に食わない。

「えいっ」

私は咲夜の頭を力任せに殴り飛ばした。
一瞬で咲夜の笑顔は四散し、びちゃっ、びちゃっと辺りに肉片と灰色の組織が飛び散る。
司令塔を失った体は一瞬ぐらり、と揺れると汚らしい紅を撒き散らしながら倒れた。
半分以上削げ落ちた顔。わずかに残った眼窩から赤い瞳がころりと転がった。

「汚い」

飛び散った肉片をじろじろと眺め、眉を顰めてそう呟く彼女。
私はそんな彼女に向かってため息をついて見せた。

「見てて?面白いのよ」
「えー」

そういうと彼女は、紅茶のカップを両手でしっかりと膝の上に持ち、飛び散った肉片を見つめた。
二、三秒もしないうちに肉片はうぞうぞと蠕動し、元の形に戻ろうと蠢き始める。

「うわぁ」

彼女は心底気持ち悪そうな声を出したが、その顔は笑顔。
肉片はあらかた集まり、再び咲夜の顔を形成し始める。
飛び散っていた血液もそれ自体が意思を持つスライムのように蠢き、咲夜の体へと吸い込まれていった。
咲夜の目に光が戻る。

ぱちり、と瞬きを一度。

のっそり起き上がった咲夜は、頭をぷるぷると振ってから私に頭を下げた。

「お見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした」
「いいのよ、別に。ほら早く行きなさい、あなたにもう用は無いの」

追い払うように手を振ると、咲夜は来たときと同じように一瞬で掻き消えた。

「あの人も大変だねえ。死に損?」
「私達のお茶の肴になるから良いのよ」
「あ、そう。ところでこのパイ美味しいね」

彼女は何個目かのパイを持ち上げてにっこりと笑う。
私は自慢の材料で作ったパイを褒められたことが嬉しくて、顔がほころぶのが判った。

「中身、教えてあげようか?」
「本当に!?」

彼女の顔がぱっと輝く。
私はにっこりと笑んでネタばらし。

「作ったのは咲夜なんだけどね。材料は木苺と、いっぱいのお砂糖と、ちょっとのワインとお姉さま」
「レミリアさんがこのパイ?へぇー」

彼女はしげしげと小さなパイを眺め、少しして口に放り込んだ。
さくさくと咀嚼、幸せそうな笑みを浮かべる。

「おいしー!」
「うん。この間ふざけてお姉さまに噛み付いたら凄く美味しくて。忘れられなくなっちゃった」
「へぇー。いいなぁ、美味しいお姉さんで。で、お姉さん殺しちゃったの?」
「うぅん、地下にいるよ?料理の材料を提供してくれてるの。私の食事は朝昼晩、ティータイムのお茶請けもお姉さま」
「いーなー。私のお姉ちゃんもおいしいのかな」
「わかんない。でもさとり妖怪なら美味しいんじゃない?」
「かも。第三の目とか砂糖漬けにしたら良いかも」
「でも殺しちゃったんでしょ?材料に限りがあるじゃない」

私がそういうと、彼女は口元をぺろりと舐め、鼻の頭をぽりぽりと掻いて、

「貴重だからこそ美味しいのよ」
「そっかー」

それも一理ある。
もうちょっとしたらお姉さまを殺してしまおうか。そうしたらもっと価値が出て、美味しくなるかな。
あぁ、でも殺したら灰になっちゃうから使い道なくなるなぁ。
うぅん。悩みどころ。

「……でさぁ。眷属にしたとはいえ、なんでメイド長さんとかフランちゃんの言うこと聞くの?」
「だって眷属だもん」

正直、それしか言いようが無いし。
強いものが弱いものに従うのは道理だし。
吸血鬼のそれは上司部下なんて生易しいものじゃなくて、命令には完全服従の世界。
死ねって言えば死ぬし。お姉さまのことを今の咲夜が覚えてるかどうかすら怪しい。
咲夜のココロは私のもの。咲夜にも、美鈴にも、パチェにも私しか見えてない。
外部から来たお客様達には普通に対応するように命令してるけど、私が館の中を歩くだけで皆が頭を下げる。
あー。なんて気分がいいんだろう。

「血を分け与えた従者は、主には逆らえないんだし」
「なんでレミリアさんはそうしなかったんだろうね」
「お姉さまがおかしかったのよ。自分より弱いの一杯抱え込んで振り回されて」

ロクに眷属も作れないくせに主気取っちゃったりしてさ。
いつ反乱が起こるかもわからないのに、よく笑ってられるなぁと正直思ったし、すごく心配だったし。
私の事守りたいからとかって地下に閉じ込めて、気が触れてるだなんて噂流して。
悪魔だって自称してたのにおかしいんじゃないの、ってくらい優しかった。

「あー、それちょっとわかる」
「あれ、こいしちゃんも?」
「うん。お姉ちゃんもね、ペットに嫌われる、とか色々怖がっておびえて、見てらんなかった」

こいしちゃんは砂糖をたっぷり入れた紅茶を一口すすり、ため息をついた。

「こっちは心配してるって言うのにさ」
「本当だよねー」

そう言いながらパイに手を伸ばし、大きめなそれを一つとる。
さくり。
軽い食感と、どろりとした甘い味が私の舌を愉しませた。
やっぱりお姉さまは美味しい。

「あー、夕飯はどこを食べようかなー」
「あ、私もご一緒したいなぁフランちゃん」
「しょうがないなぁ。こいしちゃんは特別いいよ」
「やったー!」

月は、まだまだ高い。
夜は、長い。
某バーガー屋のアップルパイまじうめぇ
290
作品情報
作品集:
17
投稿日時:
2010/06/30 14:03:16
更新日時:
2010/06/30 23:16:51
分類
吸血鬼
こいし
1. 名無し ■2010/06/30 23:10:33
咲夜さんの胸の大きさ
2. 名無し ■2010/06/30 23:26:56
木苺と砂糖とワインとお姉様で吹いたWWW
3. 名無し ■2010/07/01 03:14:15
本当にお姉ちゃん大好きなんだね
4. 名無し ■2010/07/02 01:04:11
そこはかとなくズレてるのが良いですね
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