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『魔界の母と悪魔の妹 2』 作者: 木質

魔界の母と悪魔の妹 2

作品集: 18 投稿日時: 2010/07/06 17:55:26 更新日時: 2010/07/07 02:55:26
【紅魔館】


パチュリーの手には、柔術の指南書が添えられていた。それを読みあげる
「手首を掴んで、やや後めに引きながら。内側に60度」
「えっと、こうかしら?」
言われたとおりにレミリアが実践してみる
フランドールの手首は、本来傾くはずのない角度まで曲がり、垂れ下がった
(ぃ゛!!)
手の筋肉が思い切り引き伸ばされる持続的な激痛。奥歯を噛んで耐えることすら今の彼女には許されない
「この方法なら相手に苦痛を与えないで関節を外したり、脱臼が出来るって」
「なら心おきなくやれるわね」
しかしパチュリーの教え方が悪いのか、レミリアの手際が悪いのか。それは実現していなかった
いつもと変わらぬ苦痛を今日も彼女は受けていた
「えーと『やや後めに引きながら。内側に60度』だったけ」
(あぁ゛!!)
反対側の手を曲げられる。また痛いのに叫ぶことが出来ない
この後、指の関節、生爪、肘、膝と順々に破壊された
「よっと」
仕上げに土踏まずを思い切り指で押して、足の甲にヒビを走らせた

このまま二人の手で、フランドールは異形の生物が蠢く部屋に投げ込まれた




フランドールが魔力を搾取されるのはこれが5回目になる

部屋の中の生物を殺させないために、彼女の四肢を使用不能にする必要があるとレミリアとパチュリーは思っており
これまで万力による圧礫。火による炭化。鉄槌による粉砕。ペンチによる捻り潰しなど、切断しないで四肢を破壊してきた













フランドールが部屋から出ることを許されたのは放り込まれて36時間後だった

部屋に小悪魔が入ってくると、中の生物たちは道を開けた
彼女に逆らってはならないと学習していた
「生きてますか妹様?」
「・・・」
浅い呼吸を繰り返しているだけで返事は無い
「今から思いっきり殴りますからね。今起きたらやめて上げます」
「お、起きてる・・・」
弱々しい声でフランドールは返事をした
「これからお二人の前を通りますけどね。余計なことは言わないって約束できますか?」
「する・・・・・・するからもう痛いことしないで」
今日まで何度も姉とその友人に麻酔が偽物であることを知らせようとした。しかし、小悪魔がそれを許さなかった
仮に伝えられたとしても、パーティーの期日に焦る二人が今の行いを止めてくれるかどうか怪しいため、今はもう完全に諦めていた
「うーーん。やっぱり念には念をいれておきましょうか」
フランドールのそんな心情を知ってか知らずか、小馬鹿にするように笑い、彼女の首に手をかけた
「チアノーゼ、ラララ♪ チアノーゼ、ラララ♪ きーみーの フェイスは〜スカイブル〜〜♪」
「ゥ・・・・ィ・・・・」
即興の歌を歌いながら、失神するまで締め上げた





「前よりも長い時間入れた分。溜まったわね」
「でもこのペースじゃパーティのお披露目には間に合わないわ」
フラスコの前で話すレミリアとパチュリーの顔は浮かない
「妹様をお連れしました」
「いつもみたいに、地下室まで運んで体力が回復するまで寝かせておいて頂戴、点滴を忘れないで」
「はーい」
小悪魔はフランドールを軽々と抱え図書館を出た

地下室の扉を開けると小悪魔はフランドールを乱暴に放り投げた
「ぐっ」
床に全身を強く打つ痛みでフランドールの意識が戻る
「やだ・・・もうやだ」
治っては壊される、ずっとその理不尽な仕打ちの繰り返しだった。食事は魔力回復を第一とするため点滴しか与えられず、つねに空腹感にみまわれる
「・・・・・・寒い」
極度の疲労で、体は睡眠を取ることを勧告している
「今日こそお布団で寝なくちゃ」
ここ最近、ベッドで寝かせてもらった記憶が無い
「んしょ、んしょ」
彼女が倒れている場所からベッドまでの距離は広い、それを知りながら、ろくに動かない手足を使い這いずって、ベッドまで辿りつこうとする
やがて疲労で体が動かなくなり、そこで進みは止まった
(いつまで続くんだろう)
終わりが見えないのが、彼女の苦痛を増幅させた。今の彼女には耐えることしか出来ない
(眠い)
やがて彼女の五感は、静かに闇の中に落ちて行った


「おや? ようやく寝ましたか?」
部屋の隅で読書に勤しんでいた小悪魔は立ち上がるとフランドールの頭に触れ、微弱な魔力を頭に流しはじめた






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気がつけば椅子に座り、机に向かっていた。ノートを広げ、ペンを握っている

夢というのは不思議なもので、用意された設定に逆らうことが出来ない
すぐ横で微笑む女性が、自分の母親で、勉強を教えてもらっているという出来事に何の疑問も感じない

「さあ今日も、魔方陣の描き方をお勉強しましょうか」

今回が5度目のレッスンだった

「今度こそ、魔方陣を何も見ないで描けるようになりましょうね」

魔方陣のつくりは複雑なスペルが入り混じり、円の曲線や中心の紋様に到るまですべてが難解だった
これまでずっと、それを暗記する指導を受けていた

そして今回。その成果が現れた

「よくできました」
優しく抱擁される
「お休みしたい」
「そうね、少し休憩しましょうか」

ベッドで横になる。それは彼女にとって至福の時間だった
体を密着させて眠っていると、母の手が背中や腹を優しく撫でてくれる
(あったかい)
一緒にいるときだけは彼女の心は安らぎ、体も正常でいられる
ここでなら現実の辛さから解放された

ずっと一緒に居たいと、心から思えた


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「さて。今日はここまで」
眠る彼女の手に魔方陣の書かれた紙を握らせてから、持ってきた通信機の本を広げた


「あー、あー。こちら小悪魔、神綺様。連絡とれますか?」







【 魔界 】

「魔方陣の準備は整いつつあります」

「ご苦労様」
神綺は本を通じて小悪魔からの報告を聞いていた
「それで。こちらの来てからの行動ですが・・・この紅魔館を一時的に拠点としましょう」
「館の人に許可は得ているの?」
「違います。強奪するんです」
その提案に神綺は首を振った
「暴力は、相手を傷つけることは許しません」
「なぜです? 神綺様のお力なら、相手を無傷で制すなど容易いことでは?」
「そういう問題じゃ・・・」
「私も小悪魔の意見に賛成です」
そう発言したのは、神綺の後ろに控えていた夢子だった
「魔方陣は紅魔館の地下室にしかない。ならばそこを活動の拠点にするのは最も理にかなってます」
「でもそこに住んでいる人たちはどうするの?」
「魔界に転送して、この城に住まわせるというのはいかがでしょうか? 超VIP待遇という扱いで」
「でも」
「どの道、紅魔館の地下室から外に出るまで、住人との衝突は必至です。それに神綺様を野宿させるわけにはいきません」

しばらく神綺は考え込んだ

「わかったわ。ただしこれだけは守って」
いつになく真剣な眼差しで夢子を見る
「紅魔館の人には絶対に怪我をさせない。ということを」
「お安い御用です」
メイドは胸に手を当て、深く深く頭を下げた
神綺は本に目を戻す
「私以外の子も通るけど、大丈夫かしら?」
「なんとかしてみます。ですが人数は少なめにお願いします」
「何人まで?」
「最大で4〜6人といったところでしょうか。あと魔方陣は何度も使えますが、一回使用としばらく使えなくなるのでご注意を」

そこで通信が切れ。小悪魔の顔が消えた

「では神綺様。人選を」
連れて行ける人数は少数。出来るだけ強く、力加減が上手な者を選ぶ必要があった
「そうね、誰にしましょうか」

その時だった

「「ただいま戻りました」」

二つで一つの声が部屋に響いた
黒い帽子と黒い服の魔法使いと、白い服と羽を持つ魔法使いの帰還だった

「あら? 二人は別々の場所に行ってたんじゃないの?」
数ヶ月前にユキは西へ、マイは東へ鍛錬に行ってくると言い出て行ったのを思い出す
鍛錬の動機は、姉妹に差をつけるため
「いや、それがさっきバッタリ玄関でコレに」
「いや、それがさっきバッタリ玄関でコレに」

「「・・・・・ん?」」

お互いを指で指しあったままの姿で静止する

「来週あたり、サラちゃんとルイズちゃんを呼びましょうか?」
「かしこまりました」

神綺は人選を決めた





【 紅魔館 】


(さて、予定してるよりも多くの魔力が必要になってきましたね)
その調達方法を小悪魔は考えあぐねていた

図書館に戻ると、レミリアとパチュリーはパーティーで必要な魔力についての相談をまだ続けていた
「このままじゃ間に合わないわ」
「どうにかならないの?」
「単純に搾取する回数を増やせばいいのだけど、無理をさせて使い潰してしまっては元も子もないわ」
綱引き加減が難しいとパチュリーは言う

「レミィも妹様のように、あの子達に魔力を吸わせれば間に合うんだけど・・・」
「私はパーティーの段取りで忙しいの。そんなことをしている時間は無いわ」
「実際のところ、準備は咲夜が取り仕切っているでしょうに」
「パーティーの決定権はすべて私にあるのよ? 私の承諾が必要なときに、その場に居られなかったら支障が出るでしょう?」

結局、フランドールに頑張ってもらうしかなかった

「もしもの話。今よりも回数を増やしたらどうなるの?」
少しだけ、レミリアは不安げな声で尋ねた
「麻酔があるから体の方は耐えられるかもしれない、でも心が先に潰れてしまうわ」
妖怪は体が頑丈でも、精神に異常をきたすと死ぬ場合がある。吸血鬼もその例に漏れない

「では、精神が死ななければ、搾取の回数を増やしても問題ないわけですね?」
小悪魔が二人の会話に割り込んだ
「ええ、まあ。極端に言えば」
決まりが悪そうにパチュリーは答える
「少し待っててもらえますか?」

小悪魔は図書館の奥まで走っていき、数分後に戻ってきた

「こんなのがあるんですよ」
紙袋を差し出した。中を開けると包装された錠剤や透明な液体がいくつも入っていた
「これは?」
「心が元気になる薬です」
「具体的な効果は?」
手の上で袋を遊ばせながらレミリアは訊いた
「精神の安定。痛みの鈍化。あと時々ドーパミンの分泌促進」
本当は今回の計画で使う予定は無かったが、それもまた一興だと思い、持ち出した
「そういうのは巷じゃ“麻薬”というらしいわよ? あの子を廃人にする気?」
パチュリーが難色を示した
「使うかどうかはお任せします」

「・・・・」

しばらくレミリアは無言だった。目を閉じて考え込む


「いいわ。それを・・・・使いましょう」

レミリアにとって今は妹より、紅魔館の面子と沽券が最優先だった






















小悪魔が勧める薬を服用しだして二週間が経ち、フランドールにとってその薬は手放せないものになっていた

この日も彼女は搾取を受けるが、その錠剤のおかげで、手足を潰される痛みはかなり和らいでいた
生殖器を這い回る甲虫。肛門から入り込むゲル状の粘菌。ヘソから管を通す触手。背中を歩く節足動物。口の中に入ろうともがく芋虫
乳首に吸い付く軟体動物。腕に噛み付き血を吸う醜い顔の哺乳類。首に管を刺す巨大な蛾。足に爪を立てる爬虫類
(くすぐったい)
生物にたかられても今までほど不快感は不思議と感じない
(頭がぼ〜〜ってする)
それはアルコールで酔うのに感覚が似ていた。体の浮くような心地良さを感じる
かつては放り込まれて1時間と理性は持たなかったが、最近は発狂しないで部屋を出ることが多くなった
(いいなあ、この薬)
薬は安寧を与える代価として、彼女から“正常”を奪って行った





部屋に入ってから一日も経たないで外に出られた。正気を保ったまま、しかも自分の足で部屋を出る
この日の食事は点滴ではなく、口から摂取できる温かい料理だった

地下室で食事を取っていると小悪魔がやってきた
「お嬢様がお見えです」
扉が開き、姉が入ってくる
姉妹で会ってまともに会話するのは久しぶりだった
「いつもご苦労様」
「・・・・・・うん」
紅茶を淹れる小悪魔が隣にいなければ、自分の知っていることを全部言いたかった
「新しい薬は効いたかしら?」
「い、一応は」
「そう」
紅茶を啜りながらレミリアは彼女をジッと見た
(まだまだ余力があるみたいね)
今のフランドールに疲れの色は無い
(薬で感覚を誤魔化しているからといっても、この適応能力は桁違いね。流石、我が妹といったところかしら)
目の前の少女のポテンシャルの高さに軽く舌を巻く
(これなら、もっとキツくしても大丈夫そうね)
今のペースならパーティーにはギリギリ間に合うといったところである
(魔力がギリギリ間に合ったとしても、リハーサルなしでやるのは不安だし)
可能なら搾取する量をもっと増やして期日に余裕を持たせたいというのが本音だった

その後、当たり障りの無い話を終え地下室を出る際、レミリアは小悪魔に耳打ちした
「あの錠剤を、まだ数はあるかしら?」

その言葉に、小悪魔は極上の笑みを浮かべた













二日後
(これ・・・・・・・どういうこと?)
あの部屋の扉を開けたフランドールが最初に思ったことがそれだった
部屋の中の生き物が増えていた。より醜く、より凶暴そうな姿のモノが
「すごいですねパチュリー様、どうしたんですかこれ?」
「レミィの要望で追加召喚したの。より効率よく集めるために」
(なんでなんでなんで!!? 今までので良かったじゃない!?)
今までの生物は傷つけることはあっても殺される可能性はゼロに等しかった。しかし、新しい生物はそんな生易しいものではない
「なんか牙とか爪とか持ったのがいますけど?」
「大丈夫、吸血鬼に比べたら圧倒的に弱小な生き物よ」
いつものように手足を焼かれた後、中に放り込まれた
(待って! ・・・・出して! 閉めないで!!)
非情にも扉は完全に締め切られた







半日たって小悪魔は部屋の中に足を踏み入れた
「うわぁ。これは酷いですね」
思わず顔をしかめた。たった今、踏んづけた肉片の感触に背筋を震わせる
生物たちは皆、小悪魔が入ると大人しくなった
フランドールは四肢をもがれていた。骨が所々露出した手足が部屋に散乱している
「・・・・ぐ、あぅ」
そんな姿になりながらも、彼女にはまだ意識があった
「い、だい。いたいの・・・」
うめき声だった
「でしょうね、そんな姿にされて平然としてるほうが異常です」
小悪魔の手に錠剤の袋が握られていたのを見て、目の色が変わる
「おくすりぃぃ・・・・・・・おくすりぃぃ」
痛みから逃れるには、もう薬しかなかった
「はいはいっと」
水に溶かして、注射器に入れ血管に直接流し込んだ
「あぅぅ」
一分ほどでフランドールの呼吸が安定し、穏やかな表情になった
「あはははは、えへへ」
(完全にジャンキーの目ですね)
小悪魔はそんなフランドールを担いで部屋を出た


「すごい。今までとは段違いに魔力が集まってる。これなら予定よりもずっと早く完成するわ」
すぐ近くのテーブルでパチュリーが興奮冷めやらぬ様子で、フラスコを覗き込んでいた
そんな魔女を小悪魔は鼻で笑ってから、その横を通り過ぎた



担ぎ、廊下を歩いている途中。唐突に話し出した
「私は先代の頃に召喚されましたからね、貴方たち姉妹とは直接な関わりこそなかったですが、良く知ってますよ」
いつもこの姉妹を観察していた、理由はこの上なく愉快だったから
「妹様、あたなは流しそうめんというものを知っていますか? あ、返事しなくてもいいです。勝手に話すので勝手に聞いててください」
その言葉の通り、同意を得ないまま話を続けた
「あれは、前に居れば居るほど、そうめんがたくさん食べられるんです。後の人は前の人が取らなければようやく回ってくるんです」
「・・・・・・」
「お二人は、ちょうどこの関係のようなモノ。『そうめん』を『幸せ』にでも置き換えてください」
「・・・・・・」
「お嬢様は食いしん坊ですからね、ご両親が流してくれたそうめんを全部たべちゃって、妹様にはほとんど流れて来ませんでしたよね?」
この姉妹の格差を小悪魔は知っている。無自覚に幸せを享受し続けることを許された姉と、それを羨望と憎悪の混ざった目で見上げ続けた妹
「当主はなんでも持ってます。お金も地位も権力も、なにもしなくても友達になってくれる人も・・・・・・そしてご両親の愛情も」
レミリアとフランドールがいたからこそ、魔界に帰らずに今日まで図書館に居座り続けたのだ






「ぐぐぐぐ・・・・・いがあかああぁぁぁあがあがッぁぁが!!」
地下室に着いた直後、フランドールは叫びのた打ち回った
「い゛た゛い゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃl!!!!」
効果が切れていた
「切れる時間が段々短くなりますね」
「薬ぃぃ! おくすりぃぃぃ!! あれがないとしんじゃう!」
小悪魔は錠剤を床にばら撒き、靴底で踏みけて粉々にした
「ハッ、ハッ、ハッ、んちゅ、うぎ、あ、あ」
フランドールは体を這わせて床舐めまわした
「もっとぉぉ! もっとぉぉぉ!! 痛いのぜんぜんおさまんない!!」
「これじゃあ百粒あっても、全然足りませんね」
薬が無くなった床を舐め続けるフランドールを見て、肩を竦めた
「まだいたい! まだいたい!! まだいたい!!!」
「あ〜〜あ。早く静かにならないかなぁ?」


椅子に腰掛け、指先に小さな魔力を灯した状態で、のた打ち回るフランドールを眺めていた


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今回のレッスンは、実際に魔方陣を床に描いてみるというものだった
今まで紙に書いていた魔方陣を、拡大して描くだけなのだが、実際にやってみると難易度は桁違いだった
ひたすら繰り返しコツを掴み、最後には成功させた

「すごいわ。完璧よ」
「えへへ」
頭を撫でて、額に口付けしてもらう
「ご褒美に何か欲しいものはある?」
「欲しいもの? なんでもいいの?」
「もっちろんよ。好きなものを言ってちょうだい」
ここでフランドールは困惑した
「そうしたの?」
その表情を読み取った神綺は尋ねた
「欲しいものがね・・・・思いつかない」
衣服、食べ物、玩具、装飾品、日用品、家具。どれもこれといって欲しいものが思い浮かばない
「じゃあお母さんにしてもらいたいこととか?」
「してほしいこと?」
少し考え込んでから、フランドールは部屋の本棚の許まで駆けて行く
「確かここに。あった」
それは薄い本だった。それを女性に渡す

「これは、絵本? 読んで欲しいの?」
「うん」
「でもフランちゃん。難しい小説をたくさん読むじゃない。こんな幼稚なのでいいの?」
無言で頷いた。『母親にして貰いたいことは?』と尋ねられたとき、何故か真っ先にコレが思い浮かんだ
「わかったわ」
神綺はベッドに腰掛て、膝をぽんぽんと叩いた
「おいで」


フランドールを膝に座らせてから、本を開き、文章を指でなぞりながら読み始めた






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楽しい夢と辛い現実

それを何度も何度も繰り返した










【 魔界 】

客間には召集の掛かった娘たちが円卓に掛けていた

全員が揃ってから神綺は口を開いた
「小悪魔ちゃんから実行の日が決まったと連絡がきたわ」
「嬉しいわ、またあっちへ観光にいけるのね」
ルイズは穏やかに笑う
「今回、もし少しでも危ないと感じたら・・・」
「その話はもう耳にタコが出来るくらい聞きましたよ」
神綺は今日まで、夢子たちに『幻想郷は危険な場所』だということを説いていた
抜けたい子はいつでも遠慮なく言うようにと勧めてきた
「じゃあマイはやめておいたほうがいいんじゃない?」
黒い帽子と服の魔法使いユキ
「それならユキはやめておいたほうがいいんじゃない?」
白い服と羽を持つ魔法使いマイ
二人は同時に、同じ言葉を口にした
「「む?」」
不機嫌な顔でお互いの顔を見る
「あなた達、二人。本当に仲がいいわね」
笑いを堪える口元を手で隠しながら夢子がちゃかした
「「仲なんて良くない!」」
また声が重なり、家族の間で笑いが生まれた
どうやら、全員で行くのは決定事項のようだった



「さて、それじゃあ。向うへ行ってからの計画を立てましょうか・・・・・でもその前に」
立ち上がり円卓の下からハンガーに掛かった服を取り出して掲げた
「幻想郷に行くにあたって、服を新調してみたの。衣装事体は全く同じなんだけど、カラーを小豆色から魔界神っぽく黒色に」
「似合ってますよ神綺様」
「でね。衣装に合わせて、黒い帽子も用意してみたの」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」

帽子を被った瞬間、一同が固まる
「どうしたの皆?」

(メーテル)
(メーテルだ)
(999だ)
(メーテルだよ)
(鉄郎ぉ・・・)

全員が沈黙した。娘同士、チラチラと気まずそうに視線を交差させている

「よろしいですか神綺様」
口火を切ったのは夢子だった。神妙な面持ちで挙手する
「普段の方が可愛いですよ」
「私もそう思う」
「私も」
「右に同じ」
「同意します」

「え?」

娘からの猛反対を受け、この衣装はお蔵入りすることになった







【 紅魔館の地下室 】


パーティーが一週間前となり
フランドールも薬を服用しだして一ヶ月以上が経とうとしていた

この日、レミリアとパチュリーはフランドールの部屋を訪れていた
「しかし、随分と醜くなったな」
妹を前にして姉は鉛のような思い溜息を吐いた
目に精気は無く。唇はまるで排水溝のパイプに張り付いた水垢のように捲れてガサガサ。歯はほとんど抜け落ちた
腕も栄養失調寸前の骨と皮だけとなり、顔は恐ろしいほどやつれて顔面蒼白、目の下には大きな隈、髪も簡単に抜けるようになった

かつての可愛らしい姿は面影程度にしか残っていなかった

「まるでゾンビね」
追加でさらに14回。フランドールは魔力の搾取を受けた
痛みを伴うため薬を愛飲。飲み続けなければ生活出来ないようになった
薬の効果が切れる度、今まで押し込めていた痛みがまとめて流れ込んできて、一晩中悶え苦しんだ
飲めば飲むほど耐性がついてしまうため、一度に摂取する量が自然と増えていくといった
食用不振で食事も自発的に取らなくなり、点滴も嫌がってしまうため絶食状態が続いている
最悪の循環だった






ここにやってきた目的を果たすために、パチュリーはフランドールの背後まで歩いた
魔力は十分に手に入った、あとは仕上げになるものが必要だった

「貴方から貰った魔力が、あのフラスコじゃあ納まりきらないのよ。だからこの羽を媒介にしようと思うの」
さまざまな色を放つ、鉱物のような羽を撫でた
「ひとつもらうわよ」
返事を待たずして、パチュリーが呪文を唱える。宝石と羽を繋ぐ部分に火が生まれ、焦げ付いた臭いが部屋に立ちこめた
「・・・・・・」
そんな状態にも関わらず、フランドールは虚空をただぼうと眺めていた

「終わったの?」
レミリアは羽の抱える友人に尋ねた
「これで全部揃った、パーティーには間に合うわ」
「良かったわ」
パチュリーは安堵した声で答えた。レミリアは変わり果てた姿の妹を見た
「終わったら、好きなもの買ってあげようと思っているのだけど、覚えてる?」
万力で妹の手を潰したときに口にした言葉だった
「・・・・・・・・・・・・・・」
(今の状態じゃあ、何も欲しがりそうにないわね)
今後妹をどう治療していくかで頭を悩ませた

「それじゃあパチェ、行きましょ・・・」
「お母様が欲しい」
「 ? 」
レミリアは足を止めて振り返った
「なにかしらフランドール?」
「優しいお母様が欲しい」
「はぁ?」
妹との言葉に、思わず愁眉をゆがめる
「他のにしなさい。装飾品、お菓子、玩具、家具。お金で買えるものよ」
「お母様しか欲しくない」
「無理よ」
「無理なら別にいいよ」
フランドールは折り曲げられた一枚の紙切れをポケットから取り出して広げた
「たまに会いに来てくれるから」
幸せそうに笑みを浮かべる
「なにその紙は?」
興味を持った二人は覗き込む
「パチェ、この魔方陣に見覚えは?」
「初めて見るサインね」
この魔方陣は小悪魔が独自に作成した完全オリジナルであるため、パチュリーはこれが魔界神の召喚陣だと気付けなかった
「これが一人で描けるとね。お母様は褒めてくれるの」
その言葉に二人は顔を見合わせた
「妄想に取り憑かれて、描いたみたいね」
パチュリーは憐れみの目で見た

「フランドール、良く聞きなさい。私たちの母様は昔に亡くなったでしょう」
「ううん。あんな女、私のお母様じゃないよ。一度も優しくしてくれなかったし、地下室に閉じ込めようって最初に言い出したし、触れようとさえしてくれなかった」
姉妹の母は二人を同等に見てはいなかった
「あれは吸血鬼の中でも最低の女」
「それ以上はやめなさい」
母を尊敬してやまないレミリアにとって、そこから先は言わせるわけにはいかなかった
「あんな女、ボロ雑巾以下の・・・」
レミリアは妹を殴っていた
「ちょっとレミィ!! 病人の戯言じゃない!」
「姉妹の問題に口出ししないで!」
パチュリーが静止をかけるが、彼女の怒りは収まらない。鼻血を流す妹をにらみつけた
「母上は厳格な人物だ、誇り高く吸血鬼の矜持を貫き、私が目指すべき人物。それを勝手な妄想で貶めるな!」
「ぶった! ぶった!! あいつと同じだ!! やっぱりお前もあいつの子だ! あの女の餓鬼だ」
「いい加減にしろ!!」
喉を締め上げる。その時、ポケットからさきほどの紙が見えた
「なにが『お母様が欲しい』よッ!」
「あ゛っ!?」
魔方陣の紙を強引に奪い取る
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
半狂乱になって叫んだ
「返してぇ!返してよぉ!」
宙吊りになった手足をばたつかせる
「返して欲しいなら、さっき言葉、すべてを取り消しなさい」
紙をを持つ手を後方にもっていき、妹から遠ざける
「返せ!!」
「じゃあ謝りなさい。母上に」
「あんなクズ女死んで当然だ!!」
「なんですって?」
レミリアの手で中で紙が裂かれた
「あああああああああああああ!!」
「ふん」
細切れになった紙を宙にばら撒く
手から解放されたフランドールは床を這いずりながら、必死にかき集めた
「直って! 直ってよぉぉぉ!!」
破片をジグソーパズルのピースのようにくっつけて復元をしようと試みる
「くっついて!! ねえくっついて!! おかあさまにおこられちゃう!!」
パズルのピースはまったく揃っていなかった
「パチェ。あの紙、燃やしてちょうだい」
「で、でも」
「いいから。早く」
フランドールの手の中でそれは燃え上がった

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

!!!!」

叩いて消そうとするが、火の勢いは強く。火が消えると塵しか残っていなかった
「行きましょう」
「え・・・・・ええ」
踵を返して、レミリアとパチュリーは部屋から出て行った

「ううううううううううううううううううううううううううううううう」

紙だったものを握り締め、フランドールは泣いていた

部屋の隅で控えていた小悪魔は、笑いを堪えるのに必死だった











図書館に戻ったパチュリーは早速、フランドールの羽にこれまで溜め込んだ魔力を注入した

「良かった。うまくいった」

先ほどの、度の過ぎた姉妹喧嘩の光景が脳裏にチラつき、集中力が途切れそうになりながらもなんとかやりきった
全身の筋肉が脱力するのを感じる
正直、もしも定着に失敗し魔力が消失でもしてしまったら、真剣に夜逃げを検討しているところだった

「お疲れ様でした」

小悪魔が彼女の前に淹れたての紅茶を置いた

「ありがとう。疲れた体にちょうど欲しかったの」
「そう仰ると思って。砂糖は多めにしておきました」
「あら、気が利くじゃない」

振り返れば、小悪魔はこの研究を何度も支えてくれた

「思えば、あなたは・・・」
言葉の途中で、パチュリーは額を机にぶつけた

「すーーすーーすーー」

そのまま小さな寝息を立てる

「睡眠薬は、疲れた体に良く効くでしょう?」

小悪魔はパチュリーを縄で縛ってから、机の上にあるフランドールの羽を持ち上げた




右手にフラスコ、左手に羽を持って悠々と廊下を歩く

(パチュリーは眠った。紅美鈴は門、主従は屋上でパーティーの打ち合わせ。大丈夫、今なら誰にも見つからない)

ここからフランドールのいる地下室までそう遠くは無い

(でももし、レミリア達が打ち合わせを早めに終えていたら? 美鈴が休憩時間に館の中に入ってきたら?)

小さな不安が過ぎる

(まあ、その時はその時で、危機を楽しみましょう)

地下室までいつもと同じ歩調来たはずなのに、なぜか長く感じられた
ベッドの中、蓑虫のように包まって嗚咽するフランドールに近づいた

「さあ、最後の夢ですよ」






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「どうしたの、悲しい声を出して?」
布団が取り払われ驚き、顔を上げると母が心配そうな顔で覗き込んでいた
「よしよし、泣かないで」
頭を撫でてから抱き寄せた

女性の手が彼女の頬を撫でる
「酷い顔、可愛いお顔が台無しよ?」
触れられた瞬間から、今まで感じていた息苦しさや体のだるさが無くなった
「はい、これで元通り♪」
手を離すと、そこには当時の健康な姿のフランドールがいた
骨と皮だった四肢に程よい脂肪が付き、肌に潤いが戻り、歯は生え揃い、髪と唇も艶を取り戻し、目の奥に光が灯る

「起きられる?」
フランドールの背中に手を入れて支え上半身を起こす
「・・・・・」
まだ体が回復したという自覚がない彼女は、自分の手をジっと見たまま静止していた
「気分はどうかしら?」
「私、治っている」
顔を上げてそうしてくれた張本人を見る
「気分はどう?」
質問には答えず抱きついた



「ごめ゛ん゛な゛ざい゛、おが、あさま゛のくれた紙、失くしじゃっだ」
泣きじゃくりながら謝った
「いいのよ気にしなくて。今まで大変だったのね」
ベッドに腰掛ける女性にしがみ付き、顔を胸に埋めている
「助けて! もう死んじゃう!」
心からの叫びだった
「ごめんね。力になれなくて。お母さんはここから外に出られないの」
「じゃあ、どうしたらずっと居てくれるの?」

この時、女性の口元が吊り上った

「フランちゃんに教えた魔方陣があるでしょう? あれを描いてくれれば、お母さんはずっといられる」
「え、でも。あの紙失くしちゃったから、もう・・・」
「大丈夫」
紙とペンを渡して、机にフランドールを座らせた
「もう自分で描けるでしょう? お母さんの前で何度も描いたじゃない?」
「でも・・・」
「自信を持って。お母さんと勉強したことを思い出して」
「・・・・うん」
「それじゃあ。描いてみましょうか」


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□




夢から覚めたフランドールは起き上がる、小悪魔がすぐ横に立っていた
小悪魔の足元にはフラスコと魔力の詰まったフランドールの羽の宝石部分が置かれていた

「詠唱やら発動の手続きなんかは全部私がやりますので。妹様は魔方陣を私のナビゲートに従って・・・」
言うより早く。フランドールはすでに行動していた
自分の人差し指に噛み付いて歯で皮膚を破き、出た血のインクでコンパスを使ったかのような精巧な丸を床に描く
(これは、わざわざ口出ししなくても良さそうですね)

「まだ私とお姉様が幼いとき、母と呼んでいた人がいた。でもその人はお姉様だけを見ていた、私が話しかけると露骨に嫌な顔をしていた」
ぶつぶつと一人。小悪魔にも聞こえない声で話しだした
「能力が危険視されて地下に幽閉されてから、ソレが私に会いに来たことは一度も無かった」

真の意味で彼女には家族と呼べる存在がいなかった
自分が地下でい取りで食事を取っているとき、姉は父と母に囲まれていた。ご馳走に舌鼓をうちながら他愛も無い話を続ける日常を送っていた
それが堪らなく羨ましかった。夢の中で神綺に絵本の読み聞かせをせがんだのも。姉が母親にしてもらっていたのをいつも羨ましく思っていたのが根底にあった

母はレミリアだけを溺愛した。まるでフランドールなどはじめから存在していなかったかのように扱った
ほんの少しでいいから自分のことも気にして欲しかった

「差別された、差別された、差別された」

それがどれほど深刻な傷を幼い心につけたのかは、想像に難くない
何時しか彼女は辛い現状から逃避するために、母親を母親だと思わなくなった
あの女はレミリアの母親で、自分の本当の母親は別のところにちゃんと存在している
抑圧され、心に節を作ったまま育った精神はそう信じ込むことで、自らを守った

「やっと会えた、ずっと待ってた」
血の出が悪くなったら、再び指先を噛み傷口を広げる。指先からは白い骨が覗いていた

「もうすぐ会える。もうすぐ会える。もうすぐ会える。もうすぐ会える。もうすぐ会える。もうすぐ会える。もうすぐ会える。もうすぐ会える・・・」

狂ったようにその言葉を繰り返して手を動かす

あっという間に魔方陣は完成した。小悪魔も準備を完了させた

「はい、今までお疲れ様でした」
彼女の脇腹を思い切り蹴り上げた
「うごぉ」
脆くなった彼女の骨は簡単に拉げた
「感謝してくださいよ。家庭内暴力を受け。愛さなかった貴方に、幸せな夢と希望を持たせてあげたんですから」
そのままベッドの下まで蹴飛ばすと、フランドールの姿は死角になって見えなくなった

「さて、邪魔者もいなくなったわけですし」

魔法陣が青色に輝き、辺りを包み込んだ。術式が成功したことの証だった

「魔界神ご一行の到着を待ちましょうか」








ベッドの下に青い光が差し込み。彼女は母親に思いをはせる
(やっと会える)

力を使い果たした彼女の体は緩やかな速度で崩壊を始めた

(私、ちゃんと出来たよ。偉い?)

これからの日々に期待で胸を膨らませる

(手、握って欲しいな)

両手は指先は既に無い

(頭、撫でてくれるかな)

右目は床に落ちて崩れた、額から顎にかけて大きなヒビが入っている

(お母様って、呼んでもいいかな)
そのまま目を閉じて動かなくなった。体から徐々に色を失っていった

「お母さんがすぐ近くにいるのに、気付いてもらえない。これ以上に最悪な死に方は無いですね」

小悪魔はベッドの下を覗き込んた

「495年間、私に笑いのネタを提供してくださって、ありがとうございました」






















「御初にお目にかかります、魔界の神と御子様方。私、名を小悪魔と申します」
「挨拶は後、この館の主戦力の場所は?」
挨拶の姿勢のまま静止する小悪魔に夢子は尋ねた

「はい。門番は門に。魔女は図書館に、主の吸血鬼とメイド長は時計台に」
かつて、もう一匹ここに吸血鬼がいたことを小悪魔以外知らない

「あ、図書館の魔女は薬で爆睡中なので戦う必要はありませんよ。もうふん縛ってあります」
小悪魔は誇らしげに胸を張った
「じゃあ私ら仕事無し?」
パチュリーを捕縛する予定だったユキとマイ
「それならユキちゃんとマイちゃんは一緒に来てちょうだい」
神綺の指示に、ユキとマイは不服そうな顔をする
「ではルイズ様、サラ様。門までご案内するのでこちらへ」
それぞれが目的地を目指して動き出した
「ん?」
地下室を出る直前、神綺は一度振り返った
「どうかしましたか?」
「あ、その。今、呼ばれたような気がして」
部屋を見渡すが誰もいない
「変ねえ?」
釈然としない何かを感じながら、神綺は一階に続く階段を登った









「貴様らは一体なんなんだ!?」
館の中から突然現れ、ほとんど奇襲に近い形で襲撃を受けた紅魔館の面々はあっさりと拘束された
レミリア、咲夜、パチュリー、美鈴は地下室に運ばれて神綺たちが移動に使った魔法陣の前に座らされていた
「私たちをどうする気?」
殺気に満ちた目で咲夜は襲撃者たちを睨みつける。その場に小悪魔は居なかった
「危害は加えないわ。私たちはちょっと幻想郷でやりたいことがあるの、いきなりごめんなさいね」

神綺は屈み、レミリアと同じ目線になると今回の動機を簡潔に説明した。ただし、魔界からこちら側に来た方法は伏せた



「これから皆さんを魔界にご招待いたします」
そこから先は夢子が神綺に変わり説明を始めた
「私たちがこちらにいる期間中、魔界の城を住まいとして提供します。観光や食べ物等の要望があれば遠慮なく仰ってください」
「だからその間、この紅魔館を貸して欲しいと? 随分と低姿勢な交渉ね。今の私たちの命なんてあなた達の気分一つでどうとでも出来るでしょう」
パチュリーは半ば呆れていた

「これから幻想郷に移住しようとしてるのに、血生臭い事件を起こすわけにはいきませんからね」
「・・・・・」
かつて幻想郷にやってきて暴れたレミリアにとってそれは皮肉に聞こえた
拘束された四人の中で、美鈴は一人せわしなく周囲を見回していた
「お前たち、妹様を・・・」
「美鈴」
レミリアがその言葉を中断させた
「あれのことはもう放っておけ」

吐き棄てるように言った

「よかろう。私たちは敗者だ。勝者の言う事に従うまで」
レミリアは神綺の提案を承諾した
「ありがとうございます。ではこれから皆さんを魔界に転送いたします。ルイズとサラの二人を世話役としてお付けしましょう」
名前を呼ばれた二人が軽く会釈をした
神綺が詠唱を終えると、魔方陣が輝きだす

「魔界を乗っ取られても吼え面かくなよ?」
転送される直前、レミリアはそう言った













「もうすぐ夜が明けるわ、ユキ、マイ出来るだけ急いで」
「そんなこと言ったって」
「こっちは召喚術は専門外なんだから」

夢子の指示で二人の魔法使いは魔方陣から魔界の眷属を次々と呼び出していた
すべて低級で戦闘ではほとんど役に立たない種族である

「こんなのを呼び出して何をするおつもりで?」
小悪魔が夢子に尋ねた
「これは偵察、侵入者の探知に役立つのよ。そんなことより、そっちは終わったの?」
「ばっちりです。これでメイド達は皆様方をここの主人だと思ってくれます」
紅魔館で働くメイドたちに催眠術をかけたことを自慢げに報告した







時計台の下。東の空が徐々に赤みを帯び始めた日の出間近の幻想郷を神綺は眺めていた

「幻想郷って思ったよりも広いわね」

大きく伸びをした

「アリスちゃん、元気にしてるかしら?」

心地の良い早朝の風が優しく神の頬を撫でた
前編がここまで
木質
作品情報
作品集:
18
投稿日時:
2010/07/06 17:55:26
更新日時:
2010/07/07 02:55:26
分類
神綺
夢子
フランドール
レミリア
パチュリー
小悪魔=黒幕
1. 名無し ■2010/07/07 06:59:32
神綺様見てると、どうも小悪魔の思惑通りにならない気が……
2. 砂時計 ■2010/07/07 07:26:16
神崎様がきっとフランを見て激怒するのかな?
でもどう考えてもハッピーエンドしか思いつかない
ハッピーだったら小悪魔涙目になりそうだ
3. 名無し ■2010/07/07 07:30:57
ふらんちゃーん
4. 名無し ■2010/07/07 08:07:28
差別されたんだ……差別、されたんだ……!
もう十分だ! 後編の為の下準備は十分だ! マーマ、早く助けてくれ!
あとレミリア様時折見せる自己満足の偽善と家族愛が癇に障るので死んでください。
5. 名無し ■2010/07/07 09:00:19
木質さんの、幸せな人々のギャグと不幸な人々のシリアスが交互にでて話が進むのが好きだ。
世の中そんなもんだよね
6. 名無し ■2010/07/07 12:03:41
レミリアの小物っぷりがいつもに増していいですね
このレミリアにフランが受けた仕打ちと全く同じ夢を見せたらどうなるのかな
胸張って生きてるかな
それとも自殺かな
7. 名無し ■2010/07/07 12:24:25
レミリアゴミクズすなあ
8. 名無し ■2010/07/07 14:07:37
一番邪悪なのは小悪魔だがな
何が「こぁ」だ!!
9. 名無し ■2010/07/07 15:03:35
小悪魔をミキサーにかけたい
10. ギョーザ ■2010/07/07 16:38:01
うおぉぉぉ!フランちゃーん!
小悪魔が普通に悪魔やってる。そして死亡フラグが立ってる気がする。
続編楽しみです。
11. 名無し ■2010/07/07 17:02:31
小悪魔どころじゃねえよ
悪魔だよこれ
12. 名無し ■2010/07/07 17:24:10
使い魔にまんまと騙されて正当性を盾に外道な手段を使う間抜けで下種なパチュリーさん
どんな破滅を迎えるか楽しみです
13. 名無し ■2010/07/07 19:46:19
きっと神綺様なら小悪魔に格の違いを見せてくれるに違いない
と思いつつもここまで小悪魔の思惑通りだからなぁ、どっちに転んでも続編が楽しみだ
14. 名無し ■2010/07/08 00:29:36
別段誰もゴミクズとか外道とか思わなかった俺はきっと心の広い天使様
いいぞもっとやれ
15. 天狗舞 ■2010/07/08 13:09:31
木質さんのssを読み果たした天狗舞の心は緩やかな速度で崩壊を始めた。
あぁ・・・フランちゃん・・・。
16. 名無し ■2010/07/08 17:08:44
神綺しゃまー!早くフランちゃん助けたげてー!!
17. 名無し ■2010/07/10 00:27:20
フランちゃんは苦難の果て神の元に召されました
一方、神は地上に遊びに行っておりました

あーめん
18. 名無し ■2010/07/10 20:34:04
つづきが
すんごく
気になる
19. 名無し ■2010/07/12 23:16:52
嗚呼・・フラン・・・
20. 名無し ■2011/09/12 21:59:35
最高!
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