魔界の母と悪魔の妹 5

作品集: 19 投稿日時: 2010/07/25 18:22:12 更新日時: 2010/07/25 18:22:12
【紅魔館】

古明地さとり、星熊勇儀、風見幽香は玄関から入ってすぐのエントランスホールにいた


さとりと勇儀は夢子の後押しもあり、加勢することを神綺は認めた
その際『時間を稼いでくれるだけで構わない。無理はしないで欲しい』と何度も念を押された

「こんなところに三人も固まってていいの?」
他の部分が手薄になることを心配して幽香はさとりに尋ねる
「ここからしか敵は入って来れないように細工したと、夢子さんは言ってました」
「つまりここが最前線になるわけね」
「『楽しみ』ですか、なんとも心強いお言葉で」
幽香の心を読み口にする、読まれた当人は不敵に笑って答えた
「それにしても・・・」
「どうかしたの?」
「先ほど、小悪魔という者から、おかしな声が聞こえまして」
さとりはここに来た際、夢子と一緒にいた小悪魔について思い出していた
「へえ、どんな?」
「『潰す』だの『消す』、『帰さない』などの物騒な言葉が色々と」
距離が離れていたため、断片的なものしか聞こえず、言葉の真意はわからない
「何か良からぬことを考えているのではと・・・」
「さとりは心配性だなぁ。何か不安なことが無いと逆に落ち着かないタチかい?」
アッハッハと勇儀は豪快に笑った。手に盃を持ち、大きな酒樽に背中を預けている
「ちょっと、なんでこの状況で酒が飲めるわけ?」
幽香は地底の鬼に怒りよりも呆れを感じていた
「少し酒が入ってたほうが私は力が出せるんだよ。だよな、さとり?」
「否定が出来ないのが悲しいです」
自信満々に言い放つ勇儀のその言葉に、頭痛でも患うかのように、頭に手を当てて同意する
「ちなみに勇儀さん、このお酒はどこから?」
「ああ、ここの厨房の隣に部屋にたっくさん。良いお屋敷だけあって、色んな種類の酒が樽単位で貯蔵されてたよ」
それらは本来レミリアが予定していたパーティのために用意されていたもので、招待客に振舞われるものだった
「それにしても飲みすぎじゃないですか?」
「地底じゃまずお目にかかれない、超高級品ばっかりだからついね」
「敵が来るまで幾許もないのに。その緊張感の無さはどうかと思います」
「そう怒るなって」
「ちょっと」
近寄り、さとりの腰に手を回して抱き寄せる。その時も盃は決して手放さない
「なんだい? えらく固くなって、ひょっとして緊張してるのかい?」
「当然でしょう、これから相手にするのは、その辺の雑魚を相手にするのとはワケが違うんですよ」
さとりは幽香や勇儀のように戦いが得意ではない、後方で相手の心を読み、二人をサポートするのを己の役割とするつもりだった
「なに。いざとなったら私が守ってやるから。心配すんなって。なー?」
(もうホロ酔いを通り越して、完全に出来上がってますね)
酒臭い息に耐えかねて鼻を押さえた
「さとりもちょっとだけ飲んでリラックスした方がいい。そんな風にシャチホコ張ってちゃ、出来ることも出来なくなるよ?」
「うぶっ」
手にしていた盃をさとりの口につけて無理矢理流し込もうとする
「ちょっと!」
慌てて振り払った。数滴だが口に入った、鼻でも嗅いでしまった
「ん・・・?」
勇儀が気に入るだけあって、やはり度数の高い酒はだったらしく。軽い立ちくらみと似た感覚がさとりを襲う
「あう・・・・・」
「平気? あなたお酒が強そうに見えないけど」
幽香がさとりを心配して肩に手を触れる
「おぅとっと」
それだけでさとりの体はバランスを崩した。そして
「あぎゃああああ!!」
瓶に躓いて、蓋の開いた樽に頭からつっこんだ。慌てて幽香が体を引っ張り出して救出する
「ぶはっ!! おえっぷ、は、鼻に、目に・・・」
さとりの上半身は酒で塗れになる
「大丈夫?」
「ええ。問題ありません・・・・・・だから」
「だから?」
「肴になるものを持ってきて欲しいです」
据わった目のさとりは幽香の顔を平手でペチペチと叩いた











【 湖畔 】

紫、神奈子、永琳、妖夢、天子、アリスの眼前には紅魔館

「みんな、準備はいいわね?」
紅魔館を眺めつつ紫は仲間に向けて言った
「全員で、正面の扉から入ります。他は罠や結界が張ってあって侵入は難しいわ」
「それって相手が待ち伏せしてるところに飛び込むってことですか?」
妖夢は不安を隠し切れなかった
「ええ。でも、この集まりならどんな不測の事態になっても対応できるはずよ。急ぎましょう、相手にこれ以上準備の時間を与えたくないわ」
警戒の度合いを見るに、敵は既にこちらを補足していると考えるのが自然だった

門をくぐり、庭に足を踏み入れる。罠に警戒して、一人一人が一定の間隔をあけて歩いたが、それは取り越し苦労に終わった。あっという間に玄関までたどり着く
「妙ね、普通ならここで襲撃の一つでもあるのが普通なんだけれど」
紫は違和感を覚えた
「確かに、私が館の司令官なら真っ先にここに誰か配置するわ」
永琳も同意見だった

「開けますね」
紫と永琳が重く大きな扉に付いた取っ手をそれぞれ握った
目配せして、ゆっくりと開ける。手入れがちゃんとされているため、扉は雑音一つ無く動いた
数センチの隙間から室内の光が差し込む

「この臭いは?」
その僅かな隙間からむせ返る空気が流れ込んできて、紫は顔をしかめた
「まさか毒ガス!?」
天子が慌てて袖で口元を防ぐ
「違う、アルコールよ。ただしかなり高濃度の」
取っ手を握ったまま体をずらし永琳が中の様子を窺った


「もう一杯いこうか!」
「まあまあ、そう嫌がらず」
「ガボッガボッ!!!」
勇儀に羽交い絞めにされ、さとりに酒瓶を口に突っ込まれている幽香の姿が見えた

「・・・・・」

隙間から顔を外す

「疲れてるのかしら? この場に似つかわしくないものが見えたわ」
目頭を押さえる。他の者も順々に中を覗き込む

「これは一体? なぜ幽香さんに、地底のお二人が?」
理解できないという顔の妖夢
「恐らくは・・・・彼女たちは魔界側について私たちを迎え撃つ算段だった。しかし鬼が酒を飲みだして止まらなくなり、
 注意したさとり妖怪も巻き込まれて酒を飲まされ酔っ払い、風見幽香に絡んでいる・・・・・というところかしら」
現場の状況から月の頭脳は完璧な答えをはじき出す
「あの二人に絡まれるなんて。幽香、気の毒に」
アリスは、心の中で黙祷を捧げる。酔っ払った鬼四天王の一角とさとり妖怪の相手をするのが何を意味しているか、結果など容易に想像できた

「おや?」
さとりが永琳たちの視線に気付いた
「とうとう紫さん達がやってきたようです」
「神さんの指令は『時間を稼いで欲しい』だっけ?」
「あれ? 『皆殺しにしろ』って言われたような気も・・・・ああ違う、それは誰の思考でしたっけ?」
勇儀とさとりは考え事をしたため手の力が緩んだ
(よし)
それを好機とみて、幽香は脱出して、紫たちの元まで走って行く


「幽香がこっちに来た!」
「ちょっと! あの二人なんとかして! すんごい酒乱なのよ!! 酒癖が悪いにも程があるわ!!」
幽香が扉を掴みこじ開けようとする

「コイツ、私たちを巻き込む気だ!」
「閉めろ!! こっち入れるな!」

扉を閉めて、六人がかりで思いっきり押さえた
「こうしましょう! 私ソッチに寝返るから、全員であの二人をぶちのめしましょう!!」
「あーーあーー、ゆかりん何にも聞こえなーい。扉の防音効果のおかげて聞こえなーい」
聞こえないふりをする一同
「お願い、見捨てないで!!」
「あらあら、幽香さん。逃げちゃ駄目ですよ?」
さとりが幽香の肩を掴み、引っ張る
「こうなったら!!」

道連れにしてやると幽香が指を鳴らす。紫たちの背後の庭から巨大な植物の蔓が突き出し、それが鞭のようにしなり玄関の扉を押さえる彼女らを一打ちした
「ぎゃあ」
扉を破壊して、全員中まで飛ばされる

「痛たたた・・・・ティラノサウルスの尻尾並の威力ね」
「喰らったことあるんですか永琳さん?」
「おい、そこのお前、なんか隣に水饅頭みないのがふわふわしてるヤツ」
「 ? 」

目の前に勇儀がいた

「注げ」
唐突に盃を突き出してきた
「は、はい!」
断ったら何をされるかわかったものではないので、言われた通りにする。なみなみと注がれた酒を勇儀は飲み干して、大きく息を吐く
「あんた若そうだね。まだ100年生きてないだろ?」
「ええまあ」
「魔界の神さんは、出来るなら私たちには戦って欲しくないそうだ。私も、お前みたいな未来あるヤツの将来を奪うような真似はしたくない」
真っ赤な顔が少しだけ真面目になっていた
「そうなんですか?」
「お願いです。ここは矛を納めて、一度魔界の神と話し合いの場を設けてはいただけませんか?」
幽香の口に酒を流し込みながらさとりは言った。幽香が床を何度もタップしていることに気付いていない
「お断りするわ」
紫は手をかざして隙間を展開する。館の中は普通に能力を使うことが出来るようだった
「まあ何にせよ。酔っ払っていてくれて好都合だ」
神奈子が御柱を槍投げの要領で構える
「その千鳥足でどこまでやれるかしら? まあ命までは取らないから心配しないで」
永琳が弓矢を引き絞る

「紫奥義『弾幕結・・・ 」
「仕方ありませんね。想起『テリブルスーヴニール』」
先にさとりが宣言していた
「では予定通り“魔界の援軍が来るまで時間稼ぎ”させていただきます。さあ、アナタ方のトラウマを掘り起こしてあげましょう」

三人の視界が歪む

―――ご友人から結婚式の招待状が届いてます
―――今日って敬老の日なんですよ
―――いつもより化粧が濃いわね?
―――あれ? 目の下にそんなシワあったけ?
―――この部屋なんか香水臭い
―――え? 独身なの?
―――ちょっと、横は入りしたら駄目でしょオバサン

過去にいわれて傷ついた言葉が浮かんでは消えていく

「「「ぐはあッ!!」」」

紫たちは片膝をついた
「なんて残酷な精神攻撃」
人外の者は物理的な攻撃に強いが精神攻撃には脆い。それは彼女たちとて例外ではなかった

(今のうちに・・・・)
天子とアリスは気付かれぬよう静かに足で次の部屋に向かおうとする
「ん?」
アリスは足に違和感を感じて下を見た
つま先から小さな双葉が発芽し、瞬く間に成長、支柱に絡まりアサガオのように二人の足を覆った
「なにこれっ!?」
「どこに行くのかしら? 宴会の途中退場は許さないわよ」
風見幽香は笑っていた
口に無理矢理突っ込まれていた酒瓶は、すでに空になっていた








【 博麗神社 】

霧雨魔理沙は神社を訪れていた
「お、やっぱり起きてたか」
縁側に座り、夜空を見上げる霊夢を見つける
「なんで紫たちと一緒に行かなかったんだ?」
魔理沙も紫から声が掛かっていたが、断っていた
「博麗の巫女の出番だろ、異変じゃないのか?」
それとも他に役割でもあるのだろうか、と魔理沙は一瞬思った
「これは単なる妖怪同士の縄張り争いよ。なんでわざわざ博麗の巫女がそんなのに出っ張っていかないといけないのよ?」
「じゃあ、なんだ。霊夢に魔界神を退治する気は無いのか?」
「今のところはね」
「そうか」
魔理沙のその顔には、どこか安堵のようなものが感じられた
「どうしたの? なんかホッとしたように見えるけど?」
霊夢は覗き込みながら尋ねた
「いや、今日向かった連中の中にアリスもいるんだ。それが少しだけ心配で」
「それなら。今夜中に魔界神は答えを出しそうね」
立ち上がると、霊夢は部屋の中に戻っていく
「おいおい、もう寝るのか? あいつらがドンパチやるのはこれからなんだろ。神綺がマジギレして幻想郷消滅なんてことだって・・・」
「心配ないわ。魔理沙も早く寝たほうがいいわよ」
それだけ言うと襖をピシャリと閉めた




【 紅魔館 エントランスホール 】

ホールの中央の酔っ払い三人を前にして六人は戦慄していた
「鬼と修羅と夜叉がいる」
神奈子は勇儀、さとり、幽香を順々に見た。三人とも見事に酔っていた

「通りたいですか紫さん?」
「当たり前でしょう」
「ではこれをどうぞ」
さとりは紫の前に布の包みを放った
「なにこれ? セーラー服? しかも三人分?」
「着ろよ。ババア共」
さとりがドスの聞いた声で言った
「え?」
「だから着ろよ」
「着たら通してくれるの?」
「お前等次第だね。酒が旨く感じられたらそれでいいさ」
勇儀が豪快に笑う
断えばまたさとりにトラウマを呼び起こされるので、渋々言うことを聞いた



「ねえあなた達」
幽香はワインボトルの首を親指で捻り潰して栓を開け、豪快に飲み干してから、アリス、天子、妖夢の三人を見る
「この先に進みたい?」
「当然です」
そう言ったのは妖夢だった。幽香の一歩前に出る
「退屈だからこれ読んで頂戴。私が満足したら通してあげるわ」
頭を揺らしながら、妖夢に一冊の本を渡す
「これは・・・・・か、官能小説!?」
表紙の絵を見て、彼女は頬を鬼灯のように赤らめる
「付箋が張ってあるところから10p朗読しなさい。音読じゃくて朗読よ」
「ええ・・・・」
軽く目を通す。穢れを知らない無垢な少女と、酸いも甘いも知り尽くした妖艶な熟女の濃厚なレズセックスシーンだった
「こ、これを読むんですか?」
「そうよ。あと“少女”の部分を“妖夢”に、“熟女”を“幽々子”に変えて読みなさい」
「そんな!!」
幽香が傘の先を妖夢に向けた
「魂魄妖夢の照り焼きまであと5・・・4・・・3・・・2・・」
カウントダウンの度、傘の先がだんだんと輝きだし、急ぎ本を読む
「『うわぁ幽々子さんの肌、すごく綺麗。ブラジャーを外した幽々子を見て、思ったことをそのまま口にした
 ふふふ妖夢ちゃんには負けるわ、この瑞々しさ羨ましいわね。あん・・・。幽々子は妖夢の薄い乳房をなで上げられ、それだけで妖夢のク、クリト、リ・・・」
「全然聞こえないんだけど? もう一回最初から読む?」
「『それだけで妖夢のクリトリスは固くなり。切ない吐息を吐いた。あら?ここを触って欲しいの?でもここはまだだぁめ・・・ふふ、なにその物欲しそうな目・・・仕方ないわね』」
「もっと大きな声で。じゃないとこんがり焼くわよ」
「『幽々子は妖夢の最も敏感なところを指で軽く弾いた! 妖夢は子犬が鳴いたような嬌声をあげて涎を垂らした! これなんだかわかる?と幽々子は黒光りするディルドーを!!』」
妖夢は半ばやけくそで文章を声に出した




【 紅魔館地下室 】


メイドたちの避難誘導の仕事を終えた小悪魔はこの場所に来ていた

「さてと」

小悪魔は本を広げて魔界と交信する

「どなたかいらっしゃいますか?」
『あなたはえーと、小悪魔だったけ?』
応対したのはサラだった
「そちらの状況は?」
魔界の城で暴れているレミリアたちのことを聞いた
『何とか拿捕して、全員牢にぶちこんだよ』
「被害は?」
『ユキとマイがレミリアと交戦して負傷。あの吸血鬼、けっこう強かったよ』
「吸血鬼側の怪我人は?」
『とりあえずは全員生きてる。吸血鬼に至っては、ユキとマイが二人がかりでボッコボコにしたけど、他は比較的軽症だね』
ユキとマイの怪我は、レミリアの最後の足掻きを不覚にも受けてしまったことが原因だった
「こちらに援軍は送れそうですか?」
『増援の準備はルイズの指揮のもともうすぐ整う、でもまだ魔法陣が使用可能時間じゃないからね』
魔法陣には一度使うとしばらく使えないという制約があった
「わかりました、神綺様からの指示があるまで、増援の方々は待機でお願いします。次の連絡をお待ち下さい」
『了解』

そこで小悪魔は本を閉じた
「まあ、次なんて無いですけどね」
小悪魔の短い詠唱の後、魔界と人間界を繋ぐ本が燃え上がる
火は本を瞬く間に包み込み、灰も残らずに消失させた
これで、魔界と連絡を取る手段はなくなった
「えーと次は」
床に描かれている魔法陣を見て袖を捲くった






【 エントランスホール 】

そこには酔い潰れて眠るさとり、勇儀、幽香の姿があった
強い酒を短時間で飲んだため、泥酔状態になるのも早かった

「な、なんとか。耐え切った」
セーラー服姿の紫がへたりこんだ。丈の短いスカートの端をぎゅっと握りながら
「こっちもなんとか」
幽香たちを相手にしていた天子たちがやってくる
「永琳さんと神奈子さんは?」
「二人ならあそこに」
神奈子は部屋の隅で体育座りして俯いていた
「早苗が通ってた学校の制服とデザインが滅茶苦茶似てるんだけどこれ」
永琳は飾ってある花瓶の花に向かって呟いている
「たまにね、ウドンゲの制服見て、まだ私も着れるんじゃないかな〜〜って思うのよ。それって女の子として当然でしょ? ねえそうでしょ?」
二人とも、目に生気が無かった。ただぶつぶつと小声を漏らす
「さとりの『制服着て、まだまだイケるんじゃね?って思ってますね。キモすぎます。ププッ』という言葉でああなったわ」
「きつなーそれ」
永琳、神奈子。脱落

「こっちも妖夢がそんな感じよ」
アリスが見る先に、床に寝転がり赤ん坊のように指をしゃぶる妖夢の姿があった


無事なのは、紫、天子、アリスの三人だけだった
「尊い犠牲が出たけれど先に進み・・・がっ!」
酒瓶で紫の頭をアリスは後から殴った
「なぜ?・・・まさか初めから裏切る気で・・・」
「ごめんなさい」
もう一度殴られ、そこで紫は意識を失った

「後はあなただけね」
五指を動かすと、鞄が開き中に押し込められていた人形が解放される
人形たちは統率の取れた動きで天子に体を向ける
「最初からこうする算段だったわけ? もともと魔界側のスパイとして」
「違うわ。魔界神を魔界に帰したいのは私も同じ」
「じゃあどうして?」
「今回の騒動は私の身内が起こした不始末。だから私自身の手で決着をつけたいの。わがままな考えなのは重々承知してる」
神綺は争うことを望んでいない。このまま紫たちが進み、戦うことになれば本当に取り返しの付かない事態まで発展する
それを阻止したかった
だからアリスにとって討伐隊に参加するメリットは大きかった。神綺にも挑めて、あわよくば今回のように部外者も排除できる
「母さんは私が責任を持って魔界に送り帰す。だから道を譲って欲しいの」
「そちらの事情はわかったわ。私も家族のゴタゴタで面倒なことを経験してるから、あなたの言いたいことも良くわかる」
一族まとめて天人に昇格を受け、彼女は地子から天子に名前を改名した過去がある。その際、家族間で多くの厄介ごとに見舞われたのを思い出していた
「でもね。はいそうですかって通すほど、私も柔軟じゃないの」
緋想の剣を軽く振るう
「勝ったほうが先に進みましょう。それで恨みっこ無しよ」
「ありがとう」

僅かな敵意と敬意を織り交ぜた瞳で天子を見つめる。両手の指を開くと人形が一斉に動き出した

そのときだった

「 ? 」
「 ! 」

二人の中間の位置に、剣が飛んできて床に刺さった
剣を投げたのは官能小説のショックから立ち直った妖夢だった

「・・・・ではこうしませんか、アリスさん?」







【 ダンスフロア 】

コツリコツリと暗闇が支配する広い会場に靴音が響く

ここは本来、パーティを開く際に利用する場所で、舞台にはイベントの垂れ幕が掛かっている

「やはり上がってきたのはアナタだったのね」
足音の持ち主を夢子は迎える
「夢子姉さんを倒せば、母さんのところまで行けるのかしら?」
上海人形を抱えてアリスは微笑んだ。背後には武装した人形が12体浮遊していた
「まさか、アナタは超VIP待遇よ」
夢子は体の向きを変えてダンスフロアの奥の通路へ手を向けた
「神綺様には『もしアリスちゃんが来たらそのまま通すように』と承ったわ。娘の成長が見たくてしょうがないようね」
「そう」
アリスが夢子の前を通り過ぎようとしたとき、剣戟の音が交錯した
「なんのつもり、夢子姉さん?」
夢子の短剣が、アリスに向けられ、その短剣を一体の人形が受け止めていた
「そのまま通してくれんじゃないの? 姉さんにとって、母さんの命令は絶対じゃなかった?」
「あなたが絡めば事情が少し変わるわ。私も妹の成長が見たいのよ。だから神綺様の前に少し摘ませてもらうわ」
「やっぱりそうなるのね。良かったわ妖夢の提案を受けておいて」
「 ? 」
怪訝な顔をする夢子。その直後、新しい足音がフロアに響いた
「二人。姉さんに用があるみたいよ」

新たに響く足音は二つ。比那名居天子と魂魄妖夢

「てっきりあなた一人で来ると思ってたわ」
「私は母さんに用がある、二人は姉さんに用がある。利害の一致ね」
「いや、そうじゃなくて。友達いたんだなって意味で」
「・・・・」
軽く心が傷ついた

「いつぞやの借り。返させてもらうぞ」
左手で腰に差した白楼剣の柄を逆手で握り抜刀、手首のスナップで剣を半回転し正手に持ち変える
右手で背中に担ぐ長刀の楼観剣を一息で抜ききる
「いやあ、ダフ屋から高い金だして招待状買ったかいがあったわ。おかげでこんなにも楽しいパーティに呼ばれたんだから
 素敵なダンスホールだし、惜しむべくはギャラリーと伴奏者がいないことくらいね」
肩に担いでいた緋想の剣を翻して、切っ先を夢子に向ける
「ソコナお姉さん、私たちと一曲踊ってもらえないかしら?」
「あなたに再戦を申し込む。受けていただけますね?」
二人から切っ先を向けられると、夢子はスカートの両端を摘み、右足を後に回してお辞儀した
「アリスのお友達からのお誘いとあらば。謹んでお受けいたしましょう。一曲とケチなことは言わず、夜が明けるまででも」

アリスは姉の横を悠々と通り抜け、母親が待つ時計台へと向かった












【 時計台 】

長い廊下を渡り階段を登った先にある扉を開けて、アリスは屋上に出た
「・・・・・・」
母親が一人。ただぼうと月を眺めていた
「ここは良い所ね。魔界には無いものが沢山あって」
背を向けたままアリスに話しかけた
「魔界神なんだから、さっさと自分の世界に帰って創ればいいじゃない」
「創造したものがどう“成長”するのか、それは神が与り知る領分じゃないわ。私はね“種”を蒔くだけ」
振り向いた母は、見た目相応の少女のように可愛らしく微笑んでいた
「勝負よ母さん。私が勝ったら、即刻魔界に帰ってもらうわ」
「いいわ、果たしてアリスちゃんは私がカナダに旅行に行った時に偶然見つけた最強のバーコードに勝てるかしら?」
「ちょっと待って。なんで勝負方法がバーコードバトラー?」
「駄目?」
「絶対に駄目」
「む〜〜〜」
「そんな顔をしても駄目」
今の今まで感じていた母の威厳が台無しだった
(昔っからちっとも変わってない)
絶大な力を持ち魔界を統括する神という一面と、どこか抜けていて、誰かが付いていないと不安になる愛らしい一面
驕らず、慢心せず、魔界の住人と常の同じ目線に立ち続ける優しい母にアリスは憧れ、ずっと尊敬していた
そんな相手に自分は今、初めて挑もうとしている

「幻想郷じゃこういう時、弾幕ごっこなんでしょ?」
「知ってるの?」
魔界に弾幕ごっこというルールは無い。母の言葉に眉をひそめた
「ええ、紫さんに教えてもらったわ。練習は一回しかしてないけど、ルールもわかってる」
「じゃあ。弾幕ごっこでいいわね。私が勝ったら出て行ってもらうわ」
「お母さんだけ負けたら幻想郷を出て行くだと、不公平じゃない?」
「それもそうね」
もっともだとアリスは思う
「だから私が勝ったら、アリスちゃんは荷物を纏めて幻想郷を出て・・・」
「わかった。魔界に帰る、それでフェアに・・・」
「いいえ。ホグワーツ魔法魔術学校に入学してもらいます」
「ええーー」
「ふふふ。組分け帽子で一喜一憂するといいわ」
「この野郎」

かくして、親子の弾幕ごっこが始まった







【 ダンスフロア 】

「うおりゃっ!」
「でぇい!」
正面と背後。別々の角度から迫り来る天子と妖夢の一撃を、夢子は造作もなく両手の短剣でそれぞれ受け止めていなす
返す刃が二人の急所を狙う
「危なっ!」
天子はのけぞるが間に合わず服の一部を切り裂かれた
「くっ」
妖夢は咄嗟に体を捻って腰に差してあった鞘で辛うじて防御に成功した
「なによコイツ、後ろに目でもあるわけ!?」
「油断しないでください!」

二人は後に跳び距離をとった。天子が夢子の正面、妖夢が背後に立ち彼女を挟み撃ちにできる位置に立ち警戒する

「どうしたんですか。折角あなた達の得意分野で相手をして差し上げているのに、この体たらく」
夢子の短剣は十六夜咲夜が使用するナイフのよりも刃が20センチほど長く、剣術としても投擲用として使用可能な刃渡りだった
「うっさい! あんただってどうせこれが得意分野なんでしょ!」
中指を立て、唾を飛ばす天子
天子が派手に動く裏で、妖夢は静かに夢子の背後ににじり寄る
「ぇい!!」
妖夢が斬りかかると同時に天子も攻撃を仕掛けた
(またその戦法)
夢子は床を蹴る。浮かせた靴底の真下を妖夢の楼観剣が。左耳スレスレを緋想の剣が通過した

回避した体勢のまま二人に一本ずつ剣を投擲
「いてっ」
一本は天子は胸に命中するが、天人の固い体に弾かれて地面に落ちた
妖夢に投げた方は、白楼剣で弾かれて明後日の方向へ飛んでいった

「こん畜生!」
天子は胸に当たった短剣の痛みに耐えながら剣を球児のようにフルスイング
「・・・」
夢子は剣を一本だけ精製して受け止めた。動きの止まった夢子に妖夢は剣を寝かせて突きを放った
「せぇやぁッ!」
(攻めのタイミングは良いけど、遅い)
突き出された刃の腹を拳で叩き、軌道をずらす。天子に当たりそうになり妖夢は慌てて剣を引いた
「突きを殴ってかわすとか、どんな動体視力してんのよ!?」
その回避方法に二人は仰天する

この時、仰天する二人を余所に、夢子は歯がゆさを感じていた
(しかしやりづらい・・・)
天子の方は攻撃が大雑把で反撃しやすいが、天人の強固な体で大体の攻撃が無力化されてしまう
対して妖夢は慎重で、防御に徹しながらも隙があれば積極的に狙ってくる
一対一なら攻略のしようはいくらでもあるが、同時に相手にするとこの上なく厄介だった


「あーもうっ。どうやったら手傷を負うのよアンタはっ!」
地団駄を踏む天子。涼しい顔の夢子を前に二人もまた焦っていた
自分たちの決死の一撃は児戯扱い。未だに強さの底が見えない
再び天子が正面、妖夢が背後を取るために動く
「さっきから挟み撃ちばかり。まるで芸が無いわね」
斬り合いのはじまった最初こそ、二人はそれぞれ自分の好きなように動き夢子に斬りかかっていた
しかし途中から今のように息を合わせるようになった

「んん? そうやって挑発するということは、今の戦法はやり辛いってことでオーケー?」
「ならこのまま、続けさせていただきます」
一瞬の目配せしたあと同時に動いた。天子は大上段から、妖夢は剣を横なぎに
今まで通り前後の剣を夢子は受け止めた
(踏み込みが、今までで一番深い・・・)
腕に掛かる重さから二人は勝負に出たのだと理解する
「そこっ!」
妖夢の半霊が人型に姿を変える。今まで防御にのみ使っていた白楼剣を妖夢から受け取り、無防備な背中を狙い剣を振った
(まずい)
夢子は無理矢理に体勢を変えて素早く床を転がった。背中への致命傷は避けたが、肩に剣先が触れる
「くっ」
痛みで顔を顰める。手傷を負わせた半霊はまた霊魂の形に戻り妖夢の背後についた
「よし!」
「このまま押し切る!」
転がり体勢の悪い夢子に襲い掛かる
「剣を精製する時間は与えません!」
「大丈夫よ、今拾ったから」
夢子の手には一本短剣が握られている。先ほど、二人に投擲した物の内の一本だった、床を転がった際に入手していた
それを妖夢の方に向かい素早く飛ばした。天子の体では効果は望めないとわかっていた
「くっ!」
体を沈めてギリギリで回避した

はずだった、

「ぐぅ・・・」
妖夢はそのまま前のめりに倒れた、彼女自身に外傷らしい外傷は無いが、背後で半霊がのた打ち回っていた
半霊の半透明な身に短剣が深々と突き刺さっていた
(やられたっ)
激痛の中で妖夢は歯噛みした。偶然半霊に刺さったのか、はじめからそれを狙ったのかまでは分からない
(でも)
天子に期待を託した
(今のアナタは丸腰)
緋想の剣はすでに振り下ろされていた。短剣を全て投げた直後であるため、回避は間に合わない
夢子は左手の掌をかざした
「げっ! こいつ!?」
左手を犠牲にして致命傷を防いだ。手の平に緋想の剣の刃がズブズブと沈んでいく。中指と薬指が切断されて落ちた
「でもまあ、左手はいただ・・・・・・え?」
手の傷などものともせず夢子は残った指で剣を掴んだ、間髪入れず、自由になっている右手を開き、指を天子の片目に突き入れた
「ぐゃああああああ!!」
「やっぱり目も硬いわね。眼軸ごと抉り取ってやろうと思ったんだけど」
引き抜いた指には透明な液と真っ赤な血が付着していた

潰された目を押さえて膝を突き悶絶する天子を無視して、夢子は倒れる妖夢のもとまで歩いた
気絶する妖夢の髪を掴み、浮かせる
「くっくくくくくく・・・」
「 ? 」
突然。天子は不気味に笑い出した
「目が潰れて気でも違った?」
「いいえ。到って正常よ。クククク」
敗北必至の状況にも関わらず天子の笑みは消えない
「アンタ、そいつを殺すと一生後悔するわよ?」
「なにわけの分からないことを」

「このふたなりフェチ」
「ッ!!?」

その言葉に夢子の心臓が跳ね上がった
「一体何の・・・」
「とぼけたって無駄よ。私の緋想の剣は相手の気質を読む。今さっきアンタが自分から剣を掴んでくれたお陰で、アンタの性癖を知ることが出来た
 あんたは重度のふたなりフェチ。しかもレズビアンから派生して目覚めた、後天的なもの」
(当たってる)
完全に的中していた

夢子は神綺を全力で愛していた。ある日『あー神綺様におちんぽが生えていたらアルティメットなのに』という思いが肥大・膨張して今の性癖が備わった
しかし魔界にふたなりが居ない。魔界神にその趣味が無かったため存在していない
抑圧されればされるほど、夢子の中の妄想は膨れ上がった
幻想郷に来たとき、あわよくばふたなりになる薬を手に入れて神綺に飲ませたいと考えていた背景がこれである

「そこで寝ている娘。実はふたなり娘なの」
「なんですって?」
「私とも3回くらい遊んだわ」
「・・・」
ゴクリと喉が鳴った
「アンタも遊んだら? 気絶している今、犯りたい放題よ?」
(し、しかし私には神綺様が。神綺様以外のおちんぽを受け入れるわけには、そのために処女を守ってきたわけで・・・・・・でもまぁ見るだけなら、今後の参考として、そうよ参考として)
(こいつ、何考えているのかしら?)
無事なほうの目で夢子を見る。無表情でブツブツと独り言を喋っており、それが不気味でしょうがなかった
「睾丸は?」
仰向けになった妖夢のスカートを摘みそわそわしながら訊いた
「はい?」
「キンタマは付いてるの? いつもしてる妄想だと竿しかなかったから」
「スカート捲くって自分で確認すればいいでしょうが」
「そんな破廉恥な」
そう言いつつ、視線は常にスカートに送られている
(うわあ、すっごい興味深々だよコイツ。微妙に息荒いし)
とてもじゃないが自分たちを追い詰めていた者と同一視できなかった
夢子は、静かに静かに捲くった
「ん?」
妖夢の白の下着には何の膨らみも無かった
「く・・・・・騙したのね?」
憤慨し短剣を握り締める
「落ち着きなさい」
「落ち着けですって? 私の純情な思いを踏みにじっておいて。殺・・・」
「股で挟んで。お尻側に隠してあるのよ」
「っ!!」
夢子は目を大きく見開いて、口元を押さえた
(私としたことが、そんな典型的なシチュエーションを忘れていたなんて・・・・)
今ほど自分を許せないことはなかった。早速、妖夢をうつ伏せにしてまたスカートを捲くった
「あれ?」
しかし膨らみなどは無かった
「テーピングしてあるのかしら?」
手でまさぐるがそんなものは無い
「うーーん?」

「異常性癖者がっ! 真に受けてんじゃないわよ!!」

呆ける夢子の隙を見逃さず、片目から血を流しながら剣を携え飛び掛る
「やっぱり嘘だったのね!」
「気付けよ馬鹿!」
夢子は咄嗟に剣を投擲する
「ぐっ!」
天子の剣が夢子の左肘から先を千切り飛ばした
「ぎっ!」
夢子が投げた短剣が天子の無傷だった方の目に命中した
「両目の見えない貴方と、まだ右手が使える私、勝負は・・・・っ?」
無事だと思っていた右手に違和感を感じた

白楼剣を逆手に握る妖夢が真横にいた。天子が斬りかかったのに合わせて起き上がり、白楼剣を抜き夢子の右手首を切り落とした
夢子の右手がべちゃりと落ちたのを見届けてから床に倒れこむ


「あなた何時から目が覚めてたの?」
血の涙が流れる両目を押さえながら天子は訊いた
「スカートを捲くられたときに、ビックリしてその・・・・」
言葉の途中。妖夢の頭に固いものが当たった
「まさか両手とも斬られるなんて」
夢子の靴底だった。妖夢は死を悟った
(煮るなり焼くなり好きなようにしたらいい)
もう抵抗する力は無い。今、起き上がったのが最後の力だった
(どの道。生きて帰れても、幽々子様の命を背いたのだ。結末などはじめから決まっている)
切腹する気で妖夢は参加した。だからここで果てても悔いはなかった
(やるなら、一思いにやるがいい)
トドメを待っていると、急に足が離れた。何を思ったか夢子はフロアの外に向かい歩きだした
それが妖夢には信じられなかった
「おい、待て! どこにいく!? 私はまだ生きているぞ!?」
無視して彼女は部屋を出て行った







「目が見えないから状況説明して頂戴」
「私は半霊が負傷したせいでもう動けません。半死半生の状態です」
「それは元からでしょうが。それでアイツは?」
「どこかへ行ってしまいました」
「あっそう」
「この状況は私たちの勝ちってことでしょうか? それとも負けなのでしょうか?」
「・・・・」
その問いに天子は答えない
「天子さん? あの天子さん?」
どれだけ問いかけても、返事はなかった。やがて妖夢も力尽きて気を失った












両手から溢れ続ける血を気にも留めず夢子は廊下を歩く
「変わったダイエット方法ですね?」
小悪魔が口の両端を吊り上げて廊下の真ん中に立ち、夢子を見ていた
ちょうどフランドールが眠る部屋の前だった
「あなたもやってみる? すぐに軽くなれるわよ」
「いいえ、遠慮しておきます。死ぬのは御免ですから」
「それで何? 手負いの私にトドメでも刺しに来たの?」
「まさかまさか。最強の魔界人たるあなたに挑むなんて滅相も無い」
胸の前で指を交差させた
「仮に両手足を切り落とし、両目を抉り取るハンデがあっても、勝てるかどうかわかりませんから」
「そう」
会話をそこで終わらせて、先に進んだ
夢子が見えない位置まで行ったら、小悪魔はフランドールの部屋に入っていった






【 時計台 】


アリスと神綺は激しい弾幕戦を繰り広げていた

「ねぇ今、被弾したでしょ?」
「してないよ。グレイズだよ?」
「いや、腰にゴチッてすごい音がしたよね母さん?」
「・・・・・すみません。誤魔化そうとしてました」
神綺は負けを認めた
「あーあー。負けちゃった」
被弾した脇腹を見る
「勝つ気でいたんだけどなー」
実際。勝利はどちらの手に転がりこむのかわからなかった
(とてもじゃないけど、弾幕ごっこを知ったばかりの者の動きじゃ無かったわ)
最後の最後で、経験の差が勝敗を分けた
神綺があとほんの少し弾幕ごっこの練習をしていたら、立場は逆になっていたかもしれない
「うん。成長したわね、アリスちゃん」
「当たり前よ、何年たったと思ってるの」
「そうね。これで安心して魔界に帰れるわ」

そのまま踵を返し、階段へと向かう

「それじゃあ、もう行くわね」
「うん、さよなら。みんなによろしくね」

弾幕ごっこで十分に語り合い、これ以上の話は必要なかった

「あ、最後に」
「 ? 」
気恥ずかしいので別れ際に言おうと決めていた言葉があった

「妖怪の山で、私が人質に取られたとき。姉さんと本気で怒ってくれてありがとう。その少し・・・・・・・すごくうれしかった」



















屋上を降りる階段の途中、夢子と出会い。両手の無い姿を見て慌てて駆け寄った

「大丈夫!? すぐに治すから!」
腕の断面に手をかざし、力を送ろうとする
神綺なら、夢子の手を再生させることが可能だった
「腕は簡単に生やせるのに・・・」
「 ? 」
奇妙なメイドの言葉に首をかしげる
「いえ、なんでもないです・・・・・・治療は魔界に帰ってからで構いません。止血だけでお願いします」
「いいの?」
「はい。向うに戻ってからのほうが神綺様もやりやすいでしょうし」
幻想郷は魔界のように神綺は力を100パーセント出し切ることが出来ない
(せめて、二人の名前を聞いておくべきだったわ)
手を治さないのは、神綺に対する気遣いもあったが妖夢と天子に対する敬意の表れでもあった
「とりあえず止血と痛み止めはしといたけど、他に怪我はない?」
「ええ。問題ありません」
「良かった」
ほうと胸を撫で下ろした

「ねえ夢子ちゃん」
「はい」
「帰りましょうか」
「かしこまりました」

重大発表にもかかわらず、あっさりと夢子は頷いた

















魔方陣で魔界へ戻るため、地下室を目指し廊下を歩いていると、小悪魔に出くわした
「なんでその子を連れてるの?」
毛布に包まれたフランドールを抱えていることを指摘する
「旗色が悪いので。逃げる準備を、いつ大部隊がここに攻め込んでくるかわかりませんし」
「その必要は無いわ」
「はい?」
小悪魔はもの問いたしげな顔をする
「もう帰るのよ」
「は? なにを仰ってるのですか? 何もかも、これからじゃないですか?」
「もういいのよ、小悪魔」
「あなたのお陰で、たくさん楽しい思い出ができたわ。そのお礼がしたいの、良ければ私たちと一緒に魔界に帰らない?」
これまで裏で暗躍していたのは知っている。しかし、彼女がいなければ幻想郷に来られなかったというのも事実だった
「労いなんて要りませんよ」

話しているうちに地下室までたどり着いた

「どうして?」
そこに描かれているはずの魔法陣が消えていた
無意識のうちに夢子は小悪魔を睨んでいた
「私にはわかりません。なんででしょうね?」
「じゃあもう一度、小悪魔ちゃん描いてくれないかしら?」
「お断りします。幻想郷を滅ぼすために援軍を呼ぶというのならば話は別ですが」
ここに来て、神綺は小悪魔の目的を理解する
「あなたの望みは戦争? 魔界と幻想郷がぶつかって殺しあう。それが見たいの?」
「まあ端的に言えば」
「何度も言ったでしょう。私はここの人たちと争う気は無い。それはこれからも絶対に変わらない」
「では楽しい逃亡生活の始まりですね。不肖小悪魔、お供させていただきます」

魔界へ帰れないのなら戦うしかない。神綺が力を使い果たすのが先か、幻想郷が滅ぶのが先か

「そんなことをして、あなたに何の得があるの?」
「得なら十分あります。私はですね、人が不幸になるのを見るが堪らなく大好きなんです。質量保存の法則ってありますよね?
 あれは心も例外じゃないんですよ。誰かが悲しい思いをしたとき、その悲しい思いをした分だけ、誰かが幸せな気持ちになるんです
 私は誰かを陥れて不幸にしたとき、その分だけ私の心は幸せに満ち溢れるんです。他人の不幸は悪魔にとっての養分なんです」
それだけが目的だった。深い理由も背景も無い。悪魔の性質とも呼べる純粋な感情だけが彼女の原動力だった
「そんなモノのために? ここまで大仰なことをやったの」
「そうです。『そんなモノのために』今回の騒ぎが起きたんです。フランドールが干物になりかけたのも、妖怪の山でひと悶着起きて討伐隊が編成されたのも、みんな」
そのために小悪魔は危ない橋を何度も渡った
「もう良い、お前の魂胆はわかった。消えろ」
手が使えずとも、夢子には小悪魔を殺す方法などいくらでもあった
「いいんですか? 私が死んだらもう魔法陣は一生かけませんよ。なにせ描けるのはそれを考えた私しかいないのですから」
余裕の表情の小悪魔。魔法陣を掌握する彼女は完全に二人よりも優位な位置に立っていた
「私も、それ、かけるよ」
「!?」
それを崩したのはフランドールだった。神綺たちがどうしても言うことを聞かない場合の人質として彼女は連れてこられていた
「いっぱいいっぱい、お勉強したから」
(いつの間に声を? まさかこのタイミングで喉が・・・)
「今もちゃんと覚えてるよ、だってたくさん、褒められたから。魔法陣の描き方」
「妹様少し黙っ・・・」
フランドールを黙らせようとする小悪魔の腹に、夢子は足を当てそのまま壁に押し付けた
「最後の最後で、切るカードを間違えたわね」
殺意を露にし、小悪魔の体を圧迫する。フランドールの体は神綺のもとに渡った

「ねえ、小悪魔ちゃん。最後に一つ聞いてもいいかしら?」
夢子とは対照的に神綺は優しい表情のまま語りかけた
「ええ、なんなりと」
万力のように締め付けられる腹の痛みに耐え、表情を崩さないように努めた
「今回の件で心は痛まなかったの?」
その問いを小悪魔は鼻で笑った
「私は悪魔ですよ? 愛だの慈しみだの道徳だの、そんな気色の悪いものは生来持ち合わせていません」
「最初は持っていなくても、これまで貴方に優しくしてくれた人は何人もいたでしょう。そこから何か学んだり感じなかった?」
「まさか。私の心に、そんな不純物が芽生える土壌などありませんよ」
「そう。あなたの本音の一部が聞けてよかった」
抱えていたフランドールを床に優しく寝かせてから、魔界の神は右手を肩の高さまで挙げて、手のひらに魔力を込めだした
膨大な魔力の奔流を感じ、小悪魔は観念し目を閉じた
「ずーと、ずーと昔から。その小悪魔っていう名前にコンプレックスがあったんです」
意外にも、恐怖はなかった
「悪事を一つ一つ丁寧に積み重ねていけば、いつか“小悪魔”から“悪魔”の位置に手が届く気がしてたんですが……まだまだ積みが足りなかったようですね」
「永劫、貴方は小悪魔よ。貴方に大事を成すことは出来ない」
その証拠に幻想郷の住人にも、魔界の住人にも怪我人はいても死亡者はまだ誰一人いない
「これからだったんです。これから、全部全部。陰惨な出来事が起こるのは…」

「完璧な悪魔になろうとした小さな悪魔。あなたには、それ相応の罰を与えましょう」

間違いを犯した我が子を諭すような、優しい口調だった
「罰ですか? もとはと言えば、神綺様が『幻想郷に行きたい』なんて言ったのが発端でしょう? 全ての元凶が・・・ぐぅ」
足で小悪魔の内臓を押し上げて、言葉を止めさせた
「戯言に耳を貸す必要はありません神綺様。コイツさえ居なければもっと穏便にことは進んでいました。フランドールのような被害者を出なかったでしょう」
「それは違うわ夢子ちゃん」
神綺は静かに首を振り、彼女の言葉を否定した
「小悪魔ちゃんに依頼をしてしまった、全ての責任は私にある。フランちゃんを苦しめたのも、幻想郷の皆さんに迷惑をかけたのも。元を辿れば全部」
「流石は魔界神、よくわかってらっしゃ・・・・・がぁぁぁ!」
「もう喋るな」
骨の軋む音がした
「私もいずれ償いましょう。ですがまず、あなたが先よ」
優しい表情は変わらない
「悪魔であるアナタにとって、これは最も残酷なペナルティとなるでしょう」
神綺の手の平の上に、小さな種が浮かんでいた
「残酷? 無間地獄に勝る永遠の苦痛でも授けてくれるのですか? 大歓迎ですよ。悪魔の箔が付くというものです」
「そんなあなただからこそ、私は罰に“コレ”を選んだ」
「御託はいいです。どんな苦痛も恐怖も、私は揺るぎません。這い上がって見せます」
挑発的に笑う小悪魔の胸に神綺は自らの手を突き刺した
(なんでしょう・・・・これは・・・?)
血も出ず痛みをまったく感じなかったが生理的な嫌悪感があった
彼女の勘が逃亡を選択している。死ぬことよりも恐ろしいことが待っている気がして
(大丈夫、冷静に、気付かれないように・・・)
小悪魔はそっとポケットに手を入れてハンカチを掴む
苦しむ振りをして、ハンカチを落とした
そのことに少し離れた位置から見ていたフランドールだけが気付いた。床に落ちて広がったそれには、小さな魔法陣が書かれていた
「そいつ逃げる!」
「もう遅いですよ妹様」
小悪魔の意図を理解し叫ぶが、余裕の表情で小悪魔はハンカチを踏む
「ちょっと忘れ物をしたので失礼しますね♪」
彼女の体は、魔法陣の中に吸い込まれるようにその場から消えた
「あの魔法陣は、空間転移のもの。陣自体はあまり大きくないからそんなに遠くにはいけないはず」
パチュリーが使ったのを何度も見ているからわかった
「ありがとうフランちゃん」
神綺は腕を魔法陣の上に置くと、腕だけを魔法陣の中に入り込ませた
「捕まえた」
腕を引き抜くと、小悪魔も一緒になって出てきた。彼女の頭、両肩と魔法陣から出てくる
「滅茶苦茶ですね。手だけ転移させて私を掴み連れ戻すなんて」
「忘れ物は見つかったかしら?」
「ええ」
小悪魔は勢いよく腕を振った、その手には緋想の剣。天子たちがいるところまで転移して拾ってきたものだった
「いくら魔界神でも、これなら効くでしょう?」
グジュリという柔らかい物が潰れる音がして、鮮血が舞った
「・・・・・自身の命も顧みず、主を守る。私には理解できませんね」
神綺にあたるはずだった剣は、夢子の肩にめり込んでいた
「ごふっ」
緋想の剣の影響で、両目の眼球がはじけて、耳と鼻から血が噴出し、吐血した
「手が無いのになんで庇うんですか? 虚栄心? それともそう刷り込まれてるんですか?」
「・・・・・ダ…マレ。コレ・・・・ハ、ワタ・・・・・シノ、イシ・・・・ダ」
夢子の蹴りが小悪魔の鳩尾に突き刺さる
「おごっ・・・アっ!!」
「・・・・・・・・モウ、シネ」
「ぐ、ぎゃ、オゴ、アガ!」
容赦なく、それだけをこなす機械のように、夢子は小悪魔を蹴り続ける
激しく体を揺すったせいで皮一枚で辛うじて繋がっていた耳が落ち、眼球の残骸が目から流れ出て、口が逆流する血で詰まり呼吸できなくなっても夢子は止まらない
「うぐ、ぎっ、ごおぉ!!」
「シネ、シネ、シネ、シンキサマノテキハシネ」
「もういいから!」
神綺が夢子の顔を抱え込んだ
「もう大丈夫だから」
その言葉の後、夢子の体から力が抜けてガクリと気絶し、神綺の胸に倒れこんだ

ザクロのようになった夢子の顔を応急処置する
「その人・・・・もう」
「魔界に帰ればまだ十分に助かるわ」
そこならば自身の力を完全にふるうことが出来る
「だから魔法陣書き方を教えてちょうだい。時間が無い」
「うん。紙とペンある?」
「ええ」
机の上にあったのを手に取り、渡した
「・・・・・」
フランドールの動きが止まった。魔法陣は完璧に書ききる自信がある、けれどまだ体の治りが不十分であるため指先が満足に動かない
「大丈夫?」
「あ」
フランドールの手に神綺の手が重なった
「支えてあげるから、頑張って」
かつて夢で見たのと同じ光景だった
支えを得たことで手が動せるようになる。ゆっくり丁寧に、確実に描いていく

「いいんですかそれで?」

部屋の隅で血まみれの小悪魔が言った。体が動かせないのか、壁に向かったまま喋りだした
「それが完成したら、あなたはお母様と一生離れ離れですよ。一人で過ごす日々に逆戻りですよ? 姉にすら気にとめられず、そのままひっそりと緩やかに死んでいくだけの毎日がこれから延々と・・・・・・ゴホッ」
血の混じった咳をして、小悪魔はそれ以上言葉を紡げなかった
「・・・・・」
フランドールは無視して描き続ける、小悪魔は舌打ちしてから意識を手放した




「できた」
紙の上に魔法陣をかき上げた
「これを床に大きく描けば、完成なのね」
部屋にあったチョークを使い。神綺は正確に模写した
その上に神綺は乗る
「ありがとう。夜が明ける頃には、向うに居るお姉さん達も帰ってくると思うから」
もっとゆっくりと別れの挨拶をしたかったが、夢子の命が掛かっている以上、長居は出来ない
それがわかっていても尚、フランドールは神綺の手を握った
「もう少しだけ、お話ししたい」
「ごめんなさい。私の子が、今、大変な状態だから」
神綺の腕の中には、顔と肩の再構築を終えた夢子がいる
「・・・・・そうだよね」
水が器から零れ落ちるように、袖から手が力なく離れた
「また・・・・会いましょう。あとのことは小悪魔ちゃんが上手く取り繕ってくれるはずよ」
「でも、あいつは」
今回の首謀者。大罪をいくつも犯した
「大丈夫。あの子はもう・・・・」
言葉の途中で魔法陣の上から神綺と夢子の姿は消え、その場にはフランドールと気絶した小悪魔が残された

(そういえば。お母様って、一回も呼べなかったな)
絵本も結局、途中で終わってしまっていた

「さようなら」

もう会う事が出来ないのは、なんとなく理解していた






こうして。魔界神が幻想郷で巻き起こした騒動は幕を閉じた
フランちゃんが最初の時点で死んでたら、小悪魔の思惑通り、今頃バットエンドルートに直行してました
次回の後日談で最後です
木質
作品情報
作品集:
19
投稿日時:
2010/07/25 18:22:12
更新日時:
2010/07/25 18:22:12
分類
神綺
夢子
アリス
フランドール
ババア
天子
妖夢
小悪魔=黒幕
さとり=ババアキラー
幽香=いじめっこ
勇儀
1. 名無し ■2010/07/25 18:34:10
さとりん、最強じゃねぇかw
よくやったな、フランちゃん

さて、この後レミリアたちはどうなるか
2. 名無し ■2010/07/25 22:28:48
こあの外道っぷりが素晴らしい
この巫山戯た幻想郷で染まらなかったんだから筋金入りだな
それとゆうかりんが可愛くて仕方ない。
最後に聖様の事も時々でいいから思い出してください…
3. 名無し ■2010/07/25 23:33:13
ガチバトルで死人が出ると思ってたがそんなことはなかったぜ!
酒の力は偉大だなあ
天子、妖夢VS夢子は三人ともふざけつつかっこよくてすごく面白かった
小悪魔に行ったらしい「罰」に期待だな
4. 名無し ■2010/07/26 08:43:19
>小悪魔に行ったらしい「罰」に期待だな
なんとなく「罰」の内容が予想できるがここは次回作がくるまで発言は控えとこう

そして緋想の剣、マジ強い
5. 名無し ■2010/07/26 11:09:52
ババアいじめはよくない。
ババアも昔は乙女だったんだ!
6. 天狗舞 ■2010/07/26 15:13:36
シリアスな展開なのにギャグを混ぜれるトコがすごいです!
見習いたい!
それにしても、さとりんと緋想の剣がチートすぎるw
7. 名無し ■2010/07/26 17:28:49
素晴らしい展開とその終息でした。
邪悪な方向ではあるけれど、意志を貫く強さとしてはレミリアは元より紫達すらコントロールすることで、その強大さを見せた小悪魔マジ漢前。
だからこそ余計に「貴方に大事を成すことは出来ない」という言葉が彼女の限界を表しているようで、悲しく響きますね。
最後のフランと神綺が一緒に魔法陣を書くシーンは切なさ満点でした。
いいシーンだった。感動した! ……けど! もうちょっとフランちゃんウフフって幸せ噛み締める展開あったっていいじゃないですかァー!
無敵の魔界神パワーでなんとかしてくださいよォォォーーーッ!!
8. 名無し ■2010/07/26 21:36:19
フランちゃんどうなるんだ・・・・・
9. 名無し ■2010/07/27 23:16:00
そういやひじりんは?
10. 名無し ■2010/08/13 17:13:25
ガチバトルが有るかと身構えていたら別にそんなことはなかったぜ!www
11. 名無し ■2010/08/14 11:06:53
強キャラ同士のバトルだとありきたりなものになりがちだから
コッチの展開のほうが個人的に好きだ

そして天子がカッコイイ
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