もてもてもこたん 6 (終)

作品集: 19 投稿日時: 2010/08/02 23:49:37 更新日時: 2010/08/11 08:33:55
『なぁ、妹紅。』
『どうしたの、慧音?』
『お前にはちゃんと友人はいるか?』
『………………』
『私以外の誰かとも、交流を持っていかないとダメだぞ?』
『いいよ、私は蓬莱人だしね。』
『だが……』
『じゃあ、私は輝夜と戦いに行ってくるよ。』
『………ああ、行ってらっしゃい。』

慧音は頭を悩ましていた。
妹紅はいつまで経っても、自分以外に友人を持っていなかった。
自分は蓬莱人だ、といって妹紅は他人と深く関わろうとはしなかった。
(私は妹紅を残して死んでしまう。そうなったら、妹紅は………)
妹紅の苦しみを和らげてやりたい
少しでも長く、妹紅が楽しいときを過ごす事ができるようになってほしい。
慧音はそう願っていた。

そのせいもあって、慧音は幻想郷を変えようとした。
しかし慧音が助けようと思っていたのは、妹紅だけでなかった。
人間の男たちにすら犯されてしまう妖精や力の弱い妖怪。
本当は妹紅と分かり合いたいのに分かり合えない輝夜
友好度最悪と評され、人妖たちから距離を置かれている幽香。
封印された過去を未だに引き摺っている白蓮。
天人くずれであるために一人ぼっちとなってしまった天子。
人間たちに犯されて心が壊れた雛。
心を読む力を持っているせいで苦しんでいるさとりの姉妹。
互いに愛し合っているのに、すれ違い続ける吸血鬼の姉妹。
その他にも大勢の妖怪たちが苦しんでいた。

慧音は助けてあげたかった。
自分だけ人里で悠々と暮らしていることに慧音は耐えられなかった。
そして、人間が妖怪を蹂躙しようとしている状況を覆したかった。
そのためにはまず、人里にいる悪人たちを少しずつ排除する必要があった。
だから、慧音は自分が黒幕となってその悪人たちに人妖の女性たちを襲わせた。
妹紅に彼女たちを助けるよう仕向けたのも慧音だった。
命蓮寺を燃やし、それを人間の犯罪者たちの仕業にさせようとした。
天子を陵辱させて、人里の悪人たちを一掃するきっかけを作った。
これらは全て、慧音の計画の一環だった。

上手くいくはずだった。
白蓮や天子には悪いことをしていたが、いずれ傷は癒える。
自分の悪事もそろそろ知れ渡りだろうと予想していた。
慧音はもちろん、罰を受ける覚悟をしていた。


(まさか………まさか、妹紅が彼女たちを殺したいと思うようになるなんて!)
慧音は全速力で妹紅を追いかける。
行き先は間違いなく永遠亭。
寺子屋での妹紅の言葉から、慧音はそう判断した。
そこには今、たくさんの人妖たちが入院している。
このままでは、最悪の事態にもなりかねなかった。
「いざという時は、真実を話せば……!」
この時期に慧音が真実を話せば、幻想郷中が騒然とするだろう。
特に人里における混乱は収まらなくなる。
だが、そうでもしなければ妹紅を止めることはできない。
「それで妹紅が私を殺すというのなら………本望だ。」
慧音はすでに死を覚悟していた。
自分がやってきたことは全て失敗に終わってしまった。
妹紅の憎しみも簡単には収まらないだろう。
今の自分にできることはただ一つ。
妹紅から幻想郷の住人を一人でも多く守り、妹紅を止めることだった。

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「っ!?」
突然、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
慧音はその方向へと向かう。
「あづい、あづいぃ!こ、ころす!!ころしてやるぅぅぅ!!」
竹林の入り口近く、てゐが自分の顔についた火を消そうとしていた。
慧音はすぐさまてゐの傍へと駆け寄り、自分の上着を被せて火を消す。
何とか火を消すことはできたが、てゐの顔には火傷ができてしまった。
慧音はすぐ傍にあった川の水を使って、応急処置をする。

幸い意識はあったため、慧音は事情を聞いた。
「てゐ………何があったんだ?」
「………………」
てゐは慧音の顔から目を逸らす。
それも仕方が無いことだった。
妹紅は慧音の命令で動いている、てゐはそう思い込んでいたのだ。
慧音も薄々、てゐが自分を敵視していることに気づいていた。
「頼む………誰がこんなことをしたのか言ってくれ。」
慧音はてゐに懇願した。
てゐもその態度に心動かされたのか、慧音に自分が誰に襲われたのかを伝えた。
「妹紅が、私を………」
「………そうか。」
てゐは、慧音の表情が今まで見たことも無いものになるのを見ていた。
人里の人間が妖怪に殺される、人里の人間が大きな罪を犯す。
その時の慧音の表情なのだが、てゐは初めてそれを目の当たりにした。
「後は任せろ、てゐ。私が全部終わらしてくる。」
全ては自分の責任。
妹紅が道を誤ってしまったのは、自分が道を誤ってしまったから。
だから、妹紅は自分の手で止める。
その後、真実を話して自分は人間たちに裁かれる。
慧音は顔に火傷を負ったてゐを見て、そう決心した。
「私のことは気にしないで…………永遠亭に行って………」
てゐは慧音の姿を見て、慧音は大丈夫だと思ったのだろうか。
慧音が永遠亭に向かうのを止めなかった。
「………さらばだ、てゐ。」
慧音はてゐに別れを告げると、永遠亭へと向かっていった。


永遠亭では今、聖白蓮が目を覚ましたことで大騒ぎとなっていた。
白蓮がいる病室からは、泣き声が絶えなかった。
「聖!よかった、本当によかったよぉ!」
「ムラサ………心配かけて、ごめんなさい。」
「ふぇぇぇぇぇぇん!聖のばかぁ!」
「ぬえ……大丈夫、大丈夫だからね?」
「姐さん………まだまだ一緒にいられるわね。」
「ええ、一輪。私たちはずっとずっと一緒よ。」
「ふふ……よかったわね。」
永琳はその光景を見て、微笑んでいた。
しかし、さっきから鈴仙の帰りが遅いことを心配していた。
まさか、鈴仙がこんな時に治療をサボるわけがない。
厠にしては長すぎである。
「星はどこにいるのかしら?」
「そういえば………」
「きっと一人で悩んでいるのですよ。私が探してきます!」
水蜜はそう言って、白蓮の病室から出て行く。
そのとき、永琳は水蜜に一つ頼みを聞いてもらった。
「鈴仙も探してきてくれるかしら?ちょっと戻ってくるのが遅いのよ。」
「もちろんですよ。じゃあ、行ってきますね。」
水蜜は星と鈴仙を探しに行った。


水蜜は永遠亭の縁側を歩いていた。
さっきからずっと、彼女は泣いていた
「よかった……ぐすっ………聖が、目を覚まして……………」
涙を拭い、ふと庭の方に目をやる。
そこには星と鈴仙がいた。
「あ、星に鈴仙。」
空を見上げている鈴仙に、幽鬼のような足取りで後ろから近づく星。
その手には槍がしっかりと握られていた。
「…………え?」
水蜜は、星が槍を手にしていることに疑問を感じた。
どうして、槍を持つ必要があるのだろうか。
(まさか、私たちには秘密にして聖の仇を……?)
そのため、鈴仙にだけは自分がどこに行くのかを伝えようとしている。
そうだとしたら、白蓮が目を覚ましたことを早く伝えなければ。
水蜜はそう考えていた。

そして、星が鈴仙の胸を貫く光景を水蜜は目にした。

「………………?」
水蜜は自分の目を疑った。
白蓮が目を覚ましたことに浮かれすぎて、幻を見ているのかとも思った。
そして星は永遠亭の方に向かって弾幕のような何かを飛ばす。
それが当たった箇所に突然、火が燃え移った。
「え、えっと?しょ、星が………え、ええ?」
未だに水蜜は何が起こっているのか理解できていなかった。
その間、火は少しずつ燃え広がっていく。
「か、火事だーーーーーーー!!!」
水蜜がやっと状況を理解したのは、因幡兎の一人が悲鳴を上げたときだった。


「いくー、早くほうたいはずしてー!」
「もうすこしですからね、天子様。」
「え〜早くあそびたいよー」
衣玖は、退屈そうにしている天子の相手をしていた。
今まで衣玖は、我侭な天子の相手をしてきた。
うんざりすることもあり、正直天子のことを見限ろうともしていた。
だが、天子が幼児退行してしまった今になって気づく。
衣玖にとって、天子の我侭は必要なものだった。
天子は衣玖の大切な人だった。
そのことにやっと気づいた衣玖は後悔していた。
「ごめんなさい…………」
「どうしたの、いく?」
「い、いえ!何でもありませんよ。」
「仲良くしているところ、悪いわね。」
突然聞こえてきた女性の声に、衣玖は驚く。
その声の主は、八雲紫だった。
「ゆ、紫さん?」
「衣玖、天子を連れて私のところに来なさい。」
「と、突然ですね。別にそれは構いませんが、永琳さんたちが………」
衣玖は萃香の事件を知っていたが、紫が犯人だとは思っていなかった。
だから、衣玖は紫の突然の申し出を受け入れることだってできる。
しかし、永琳たちが紫をどう思っているのかはわかっていなかった。
そのことだけを衣玖は心配していた。
「貴方たち二人は必ず私が守るわ。今は私を信じて………お願い。」
「紫さん…………?」
紫は真剣だった。
普段は何を考えているか分からない雰囲気を醸し出しているが、
今の紫はどう見てもふざけているようには思えなかった。
「分かりました。貴方の言うことに従いましょう。」
「ありがとう、衣玖。天子………」
「おねえちゃん、だれー?」
天子は紫のことすら忘れていた。
覚えているのは、おそらく衣玖のことだけだろう。
「………紫よ、ゆかり。」
「ゆかりんおねえちゃん?はじめまして!」
「なっ!?」
紫は、ゆかりんおねえちゃんと言われて驚く。
正確には、おねえちゃんと呼ばれたことにとても喜んでいた。
「さ、さぁ!行くわよ、二人とも。」
照れ隠しをしながら、紫はスキマを展開する。
そして、紫は天子と衣玖の二人と一緒にスキマの中へと消えていった。
その数分後、この部屋は炎に包まれることになった。


紫たちは博麗神社に現れる。
そこには、霊夢、魔理沙、アリス、藍、幽々子、妖夢。
そして天子と同じく永遠亭に入院していた萃香と橙、命蓮寺の住人のナズーリンがいた。
しかし橙と妖夢はまだ治療中であり、布団の中で眠っていた。
「天子!?」
萃香は目に包帯を巻いている天子に駆け寄る。
そして、天子を思い切り抱きしめた。
「い、いたいよ!」
人間だったら、おそらく骨が折れていただろう。
だが、これぐらいのことを萃香は普段から天子にしていた。
「天子、大丈夫だったかい!?」
「い、いく!こ、このおねえちゃんはだれ?」
「て、天子?」
萃香も衣玖と同じように、天子の異変を見て困惑していた。
そして衣玖は、萃香に事情を説明した。

「てん………し…………くそぉぉぉぉ!!」
萃香は神社の壁を思い切り叩く。
神社が壊れると霊夢は思ったが、萃香の気持ちを十分に理解していたので口には出さなかった。
「萃香、今は落ち着いて。妖夢と橙の体にも悪いし、天子が怖がっているわ。」
萃香は天子の方を見る。
天子は衣玖の後ろに隠れて、ガタガタと震えていた。
「ご、ごめんよ!怖がらせてしまったね………」
萃香は頭を下げて天子に謝る。
その姿を見て、天子は少しだけ安心していた。
「さて、そろそろ本題に入りましょう。」
「紫さん、どうして私たちを連れ出したのですか?」
衣玖は一番疑問に思っていたことを紫にぶつける。
萃香も同じことを思っていた。
「私もそう思ってたよ。何で私たちだけなんだい?」
「貴方たちは、私を敵と見なしていない。ただそれだけよ。」
その答えは、萃香にとって気持ちのいいものではなかった。
「永琳たちはともかく、命蓮寺の連中も疑ってるのか?」
「そういうわけではないわ。それだったら、ナズーリンはここにはいないわ。
ただね、白蓮自身が私たちと深く関わると不味いのよ。」
「あ………」
萃香はハッと気づいた。
白蓮は人間たちに信仰されている。
その白蓮と紫が親しい関係にあると思われると、白蓮は迫害されかねない。
だから、紫は白蓮をあえて助けなかったのだ。
「そうだったね………ごめんよ、紫。」
「いいのよ、萃香。それで貴方たちを連れてきた理由は、
慧音の計画をここで止めて欲しいのよ。」
「やっぱり、慧音が………」
「間違いないわ。」
霊夢はそう断言した。
そして、黒焦げの紙切れを萃香と衣玖に見せる。
「ナズーリンがここに来たのよ。それで、この焦げた霊符を持ってきたわ。」
「命蓮寺が燃え尽きた跡を探していたんだ。何で火事が起こったかを調べるためにね。」
「それで………この霊符は誰の物なんですか?」
衣玖はナズーリンに尋ねた。
その問いかけには、ナズーリンではなく霊夢が答えた。
「上白沢慧音。」
「っ………!」
人里の守護者として評判もよく、
実際に会ってみても、慧音は評判どおりの人物だと衣玖は思っていた。
その気持ちを裏切られた衝撃を大きかった。
「紫の言うとおりだったんだね………」
萃香はあっさりと騙されたことを悔やんでいた。
それほど関わりのなかった人物を、紫以上に信用してしまったことを恥ずかしく思っていた。
「大丈夫よ。それで、慧音をどうやって止めるようかしら。」
「下手をすれば、霊夢が迫害されかねないわ。」
「私たち、人間が大変なんだぜ。」
「レミリアたちも妹紅と仲が良いのよね………」
「今や、かなりの人妖たちが妹紅と親しくなっているからな………」
霊夢、魔理沙、アリス、藍は悩んでいた。
下手に動くと、自分が殺されことだってありえる状況なのだ。
人間を味方につけている慧音が敵である今回の異変は、
今までの異変の中でもかなり辛いものだった。

沈黙が続く。
この場にいる全員が、この先何をすればいいのかで悩んでいた。
そして、その沈黙を破ったのは、幽々子だった。
「ちょっといいかしら。」
「どうしたの、幽々子?」
「慧音と妹紅と関わっていない勢力が一つあるじゃないかしら?」
「どこかあったか?」
「命蓮寺と親しい勢力も既に彼女たちと………」
「地下にも手が回って…………あ!」
アリスは確かに一つだけ二人と関わっていない勢力があることに気づいた。
「あの二人ならば、二人を倒すことだってできるわよ〜」
「神奈子に諏訪子……あの二人だったら、いざという時にも妹紅に対抗できるわね。」
守矢神社、そこの住人たちが妹紅や慧音と親しい関係があるとは聞いたことがなかった。
そこだけが慧音たちの手が回っていない勢力だろう。
「さすがね、幽々子。」
「…………貴方たちを傷つけた償いは、自分でしっかりとするわ。
妖夢が休んでいる間、私がしっかりしないとね。」
幽々子はそう言って、妖夢の頭を撫でる。
目には涙が浮かんでいた
そんな幽々子の頭を、紫は撫でていた。
「さぁ、霊夢。早速行くわよ。他のみんなはここにいなさい。
もしも誰かがここを襲撃してきたら、気絶だけで済ませなさいよ。」
「おう、任せておけ!」
「上海、がんばるわよ。」
「アリスハワタシガマモルー」
「手加減できるかどうかわからないけど、やってみるよ。」
「では、紫様。参りましょうか。」
藍も紫についていこうと立ち上がる。
しかし、紫は藍を制止した。
「ダメよ、貴方は橙の傍にいてあげなさい。」
「し、しかし……」
「傍にいてあげて。」
「………かしこまりました。」
紫の言葉を受け止め、藍は橙の看病ために残るに決めた。
「じゃあ、行ってくるわね。」
「言っておくけど、お賽銭は盗まないでよ。」
「分かってるわよ〜がんばってね〜」
幽々子はいつもののんきな声で、紫と霊夢に声をかけた。
そして、二人はスキマの中へと入っていった。

「神奈子ー!諏訪子ー!早苗ー!」
「あら、霊夢がそんな大声を出すなんて。」
「面倒だから、早く終わらせたいのよ。」
守矢神社に着いた霊夢と紫は、神奈子たちを呼んでいた。
しかし、一向に返事が返ってこない。
「おかしいわね………普段はここにいるはずなのに。」
「………まさか。」
「無いわよ、絶対に。」
「そうよね。」
「そうよ。」
霊夢と紫は、守矢神社の中へと無断で入っていった。
神社の通路の角を曲がろうとしたとき、
霊夢は特徴的な帽子を被った少女とばったり会った。
「あ、諏訪子。」
「霊夢に紫だー。どうしたの、二人ともー?」
諏訪子は子供みたいに首をかしげて、霊夢と紫に声をかける。
しかし、二人は油断していなかった。
もしかしたら、諏訪子すらも慧音の味方かもしれないのだ。
慧音のことを少しでも擁護するような発言をしたら、すぐに去る。
霊夢と紫はそう約束していた。
「あぁ、慧音のこと?大丈夫だよ、私たち慧音の味方じゃないよー」
諏訪子は、自分たちの不安を全て吹き飛ばす答えを言ってきた。
その言葉を聞いて、霊夢と紫は拍子抜けした。
「よ、よく分かったわね。」
「だって、この時期に私たちに用があるなんてこれぐらいだよー
今は私しかここにいないよー?」
「それでは幻想郷の管理者として、あなた方にお願いがあります。上白沢慧音による―――」
紫は畏まって、諏訪子に慧音の件についての協力を依頼した。
「ああ、そのことは心配しなくてもいいよ。」
「何ですって?」
紫は突然、自分の言葉を遮られたことに驚く。
「神奈子たちがそのことに決着をつけに行ったから。」
「何ですって!?」
霊夢は驚愕した。
せっかく守矢神社に来たというのに、その努力は全て無駄になってしまったのだ。
諏訪子たちにお賽銭を要求してやろうかと考えている。
「うん、人里で会議を開いてるよー」
「………早いわね。」
紫は少しだけ負けた気分になっていたが、
神奈子の対応の早さにはただただ脱帽した。
「でも、どうして慧音なの?」
「「え?」」
「慧音を裁いても意味がないじゃん。」
「な、何を言ってるのよ。」
「何って、一番悪いのはさ―――」

霊夢と紫は知らなかった。
神奈子が何を企んでいたかを。





紫が衣玖と天子を永遠亭から連れ出した数十分後のことである。

永遠亭は星の手によって、燃えていた。
しかし今回は命蓮寺のときとは違い、既に星を含めた全員が永遠亭から避難していた。
だが、命蓮寺の住人は自分たちがいる場所にまた火がつけられたのだ。
そのショックは小さくなかった
「何でまたなの!?みんな、そんなに聖が嫌いなの!?
どうして、そんなに私たちを殺したいの!?」
「ぬえ落ち着いて!」
ぬえはジタバタと暴れており、一輪に押さえつけられていた。
「ムラサ、それは本当なの!?星が、星が………!?」
「ひじりぃ………わたし、もうなにもわからないよぉ……こわいよ、ひじり………」
鈴仙を治療していた白蓮は、水蜜の言葉に驚く。
その水蜜は体を震わしながら、子供のように泣いていた。
星が鈴仙を刺し、永遠亭に火をつけたということ。
それは彼女にとっては、信じられないことだった。
だが、水蜜の様子から本当にその瞬間を見たのだと確信した。
「………星。」
白蓮は、地面に座っている星を見た。
星も永遠亭から脱出していた。
というのも、雲山が胸から血を流す鈴仙と近くで放心状態だった星を抱きかかえて逃げたのだ。
星は永遠亭から盗んだ劇薬で自害しようとしていたのだが、
雲山に抱きかかえられたときに落としてしまったのだ。
今は、如何にして自害しようかと考えていた。

そんな星の傍へと白蓮は歩み寄る。
「あぁ………聖…………私に、罰を与えに来たのですね………」
星は未だに白蓮が生きているとは思っていなかった。
自分に見かねた白蓮の亡霊が現れたのだと思いこんでいた。
「星、貴方は大きな罪を犯しました。その罪は許されるものではありません。」
「そうです…………私は、貴方の仇を…………」
「でも………それでも私は、貴方を見捨てたりはしません。」
「え?」
白蓮は星を抱きしめた。
それから白蓮は何も言わず、ただ星を抱きしめていた。
余分な言葉は何もいらない。
それだけで星に全てが伝わる。
白蓮はそう信じていた。
「あたた………かい…………ひじ、り?」
何度も何度も肌で感じてきた、白蓮の暖かさ。
亡霊からは感じ取れない、その暖かさを星は今も感じていた。
そしてついに、星は白蓮が生きていることに気づく。
「生き………て………た………?」
「星、これからもずっと一緒よ。」
「ひじりぃ!!わたしは、わたしはっ!!」
星は白蓮の胸の中で泣きつづけた。
「大丈夫よ、あの子も私が治療しておいたわ。月の兎だったから、助かっ!?」
突然、白蓮めがけて矢が飛んできた。
白蓮は瞬時にそれを避けつつ、星に当たらないようにした。

矢を放ったのは、永琳だった

「貴方だったのね、私の鈴仙を襲ったのは!」
「え、永琳さん………」
永琳は、星だけでなく、白蓮たちにも憎しみの目を向けていた。
命蓮寺の住人全員を殺そうとしている、白蓮はそう感じた。
「聖………私が全部悪いのです………だから、ここは私に………」
「だめよ。全ては私の責任。罰は私が受けるわ。」
「何を言ってるのよ、貴方たち全員に死んでもらうわよ。」
その言葉に反応した雲山は、永琳を叩き潰そうとする。
しかし、一輪がそれを遮った。
「雲山、やめて!」
「あら、殺されてもいいのかしら?」
永琳は一輪めがけて矢を放った
「うぁぁっ!」
「一輪!?」
一輪の背中に矢が刺さる。
幸い、急所も外れていたため大事には至っていないようだった。
だが一輪はその場に倒れてしまう。
雲山も一輪が傷を負ったことで、動きが鈍る。
「あはは………あはははは…………みんな、私たちのこと嫌いなんだ…………」
「ひじり、こわいよぉぉ!!助けてよ、ひじりぃぃl!!」
ぬえと水蜜は、度重なる不幸に精神が耐えられなくなっていた。

「星………一輪、水蜜、ぬえをお願い。」
「ひ、聖?」
「………彼女は私が止めてみせるわ。」
白蓮は、星に一輪たちを任せると永琳の元へと歩み寄っていく。
そして、永琳の暴挙を止めようと説得をし始めた。
「永琳さん、私と殺したければ私を殺してください。
それが私たちに対する罰というのならば、私は受け入れます。」
永琳は何も言わず、白蓮の腹に向けて矢を放つ。
白蓮はそれを避ける事さえしなかった。
腹部へと矢が深々と刺さる。
だが、矢が刺さっても白蓮は全く怯まなかった。
「ですが、今の貴方には他にせねばならないことがあります。
愛するお弟子さんの治療を行っていないのはなぜですか?」
そう、永琳はさっきから一度も鈴仙の傷を治そうしていない。
因幡兎たちは永琳に治療を頼んでいたが、耳を貸そうとしなかった。
白蓮の言葉に耳を貸すことなく、永琳は再び矢を放った。
その矢は、白蓮の右肩に刺さる。
「これで本当にいいのですか?私を殺して、彼女を見殺しにしてもいいのですか?」
再三、矢が放たれると白蓮の右膝に当たった。
しかし、白蓮は少しも怯まない。
「早く死になさい。」
「鈴仙さんを……貴方が愛していたお弟子さんを………救――」
「死ね。」
白蓮の頭めがけて、永琳は矢を放とうした。

そのときだった。
轟音が、どこかから響き渡ってきた。
突然聞こえてきた音に反応してしまったため、
永琳の放った矢は、白蓮の頭上を過ぎていった。
そして、輝夜の叫び声が聞こえてきた。
「もこぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
永琳は輝夜の声が聞こえる方を向く。
遠くで、輝夜と妹紅が殺し合いをしていたのだ
「かぐ、や?」
永琳は弓を落とし、その場に座り込む。
「仲良く、なったんじゃないの………?」
輝夜と妹紅が殺しあっていることに永琳はショックを受けた。
そのせいで、永琳は気力を失ってしまった。
白蓮はすぐさま、永琳の元へと駆け寄ろうとしたが、
永琳から受けた傷が深くて思うように動けなかった。
白蓮がその場で膝をつくと、なんと因幡兎たちが彼女の元へと近寄った。
そして、白蓮の治療を始めたのだ。
「みんな、がんばるよ!
「わ、私のことよりも永琳さんを!」
「医療道具はある!?」
「う、うん!鈴仙様が持ってるのが!!」
「み、みなさん!私は大丈夫ですから、永琳さんを!」
しかし、因幡兎たちは聞かなかった。

永琳は鈴仙の治療を一切しようとしなかった。
その態度に我慢できず、因幡兎たちは永琳を見限ってしまったのだ。
永琳をどうにかするよりも、鈴仙の治療をしてくれた白蓮たちを助けなければならない。
因幡兎たちはそう判断したのだ。
白蓮は因幡兎たちの治療を受けながらも、
因幡兎たちに永琳の傍に行ってもらおうと説得していた。
一輪の治療も水蜜、ぬえのケアも因幡兎たちは行っていた。
もちろん、鈴仙の治療も忘れていない。

「どうして、面倒ごとを増やすのよ……………どいつもこいつも………
私を苦しませたいのなら……………勝手にしなさいよ…………」
ぶつぶつと永琳はつぶやいていたが、何と言っているかは白蓮には分からなかった。
しかし、永琳のことを気にかけているのは白蓮だけだった。

永琳に一番近いところにいた因幡兎の耳にすら、
永琳の言葉は全く入っていなかった。




その少し前、妹紅は永遠亭へと辿り着いていた。
そこで妹紅が見たものは、炎に包まれた永遠亭だった。
「なんで………?」
妹紅は信じられなかった。
「あの永琳が住んでいる永遠亭が火事になるなんて………」
だが、妹紅にとっては運が良かった。
慧音を敵とみなしている者たちを一掃できるのだ。
「…………慧音のところに帰ろう。」
人里に戻ろうと後ろを振り向いたときだった。

蓬莱山輝夜が呆然と立ち尽くしていた。

「輝夜…………その………」
妹紅は、永遠亭が燃えている最中に輝夜を置いていくことには気が引けたが、
そのまま去ろうとする。
「貴方が………貴方って人は………!」
「え?」
突然、輝夜は妹紅に弾幕を放った。
妹紅は突然の攻撃に怯む。
その隙に輝夜は妹紅に近づき、喉に指を刺そうとする。
妹紅は、輝夜の腕を掴み、かろうじて輝夜の攻撃を阻止した。
「やめて、輝夜!!」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!!私の家族を、私の家を帰せぇぇぇぇぇ!!!」
「違う、私じゃない!輝夜、永遠亭を燃やしたのは私じゃない!!」
だが、輝夜は聞く耳を持とうとしなかった。
「貴方も………お前も慧音の手先だったのね!!」
輝夜も慧音を悪と見なしている。
その言葉から、妹紅はそう理解した。
そして、妹紅の怒りも頂点に達してしまった。
「お前を………お前を親友だと思った私がバカだったよ。」
「ふん!あんたみたいなクズなんかと一緒に寝たなんて、恥ずかしいわ!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ、かぐやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
妹紅は一瞬で輝夜の懐へと潜り込んだ。
そして、輝夜を抱きしめて一気に輝夜を燃やし尽くした。
「ぎゃぁあぁあぁああぁぁぁぁぁあぁっ!!」
輝夜は断末魔の叫び声をあげながら、地面へと倒れた。
数秒後、黒焦げになった輝夜の死体は再生した。
「………殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
「ふん、やれるものならやってみろ!!」
輝夜と妹紅は空へと飛び立った。
永遠亭が燃え盛っているのに、救助に向かおうともしない。

輝夜と妹紅は昔のように、殺し合いを始めていった。







同じ時刻のことである。
人里の会議場では今、里長たち人間と神奈子が緊急の会合を開いていた。
「里長殿、これでよろしいか?」
「反対するものは?」
手をあげるものは一人としていなかった。
「では、今回の異変に対する処置は神奈子様が仰る通りで行く。」
「それでは我々自警団は早速準備は行います。数十分で準備はできます。」
「私も準備はできているぞ。」
「それでは、一刻後に行動に出ることにする!」
一連の事件の決着を早くつけようと、人間たちは躍起になっていた。
それもそのはず、人間たちはある人物に裏切られた形になっていたのだ。
神奈子も驚く早さで、人間たちは討伐隊を結成していく。


「神奈子様。」
「あぁ、文かい。」
射命丸文が、会議場から出てきた神奈子に声をかける。
「私の写真……役に立ったのですか?」
「もちろんだ。あの写真のお陰で全部が上手くいく。」
「そうですか……」
「これも早苗の未来のためだ。慧音、お前には罰を受けてもらうぞ。」
そして神奈子は、討伐隊の元へと向かっていった。
神奈子を見送った後、文はすぐに妖怪の山へと帰っていった。
(何を考えているのかしら…………これは、捨てようと思ってたのに。
あんなの見せたら、話がややこしくなるだけなのを神奈子様は分かっているの……?)
文は、神奈子に渡した写真のネガを見つめながら、そんなことを思っていた。
「ともかく、私に飛び火しないように距離を置いておきますか。」
しばらくの間、神奈子や慧音には関わらないようにする。
それが今の文にとって、一番の保身術だった。


輝夜と妹紅の殺し合いは、永遠亭が完全に焼失するまで続いていた。
今回の勝者は妹紅だった。
不死者同士の殺し合いに勝敗もクソもあるかと言うかもしれない。
だが、今回は誰の目にも勝敗は明らかだった。
「もこ…………どう………して……………もこ…………」
「か、輝夜?」
「すき…………だった……………もこ…………」
「お、おい!」
輝夜の精神は壊れていたのだ。
最初、輝夜は妹紅を本気で憎んでいた。
だが、徐々に自分の思い違いなのかもしれないと思い改めたのだ。
ところが、妹紅はそんな輝夜の思いなど無視して残酷な方法で輝夜を殺し続けた。
輝夜が一切抵抗しなくなってからも、妹紅は輝夜を殺し続けた。
何度も何度も、輝夜は妹紅に謝り続けていた。
だが、妹紅は聞き入れようとしなかった。
そしてついに、輝夜の心は壊れてしまった。
「もこ………もこ…………すき…………もこ………」
心が壊れても、輝夜の妹紅に対する思いだけは消えていない。
妹紅の名前を輝夜は呼び続けていた。
「……………ど、どうせ明日にでも元気になっているだろう。」
妹紅は輝夜から目を背け、今度こそ慧音の元へと帰ろうとしていた。

そのときだった。

バチンッ!

「妹紅。」
慧音は、妹紅に平手打ちを食らわせる。
「慧音……?」
妹紅は一瞬、何が起こったか分かっていなかった。
「どうして、輝夜まで傷つけた?」
慧音は妹紅を冷たい目で見つめている。
「だって、慧音が全部悪いって………」
「だから、輝夜の心を壊したのか。」
「こ、壊してないよ!これぐらい、いつものことだし………」
妹紅は本当は、輝夜の精神が壊れていることに気づいていた。
自分のせいで輝夜は壊れてしまったことから、目を背けたかったのだ。
妹紅は二度と、輝夜と話をすることもないのだろう。
輝夜と一緒にご飯を食べることも、同じ布団で寝ることもないだろう。
「…………私は、お前に一人になってほしくなかった。」
「…………」
妹紅は黙って、慧音の言葉を聞いていた。
「確かに私のせいで、こんなことになってしまった。
お前が道を誤ってしまったのも、私のせいだろう。
だがな、妹紅………どうしてお前は、私以外の人妖を拒絶するんだ?」
「………………」
「自分が蓬莱人だからか?別れるのが悲しいからか?
だから、他人を傷つけるのか?だから、他人を殺すのか?
私のことを悪く言った者を全員、お前は殺すつもりか!?」
妹紅の胸倉をつかみ、慧音は怒鳴る。
慧音に本気で怒られたのがこれが初めてだった妹紅は、
どうすればいいのか分からなかった。
「……………何も語らないか。」
慧音は何かを悟ったかのような顔になる。
妹紅から手を離し、慧音は数秒間目を閉じた。
再び目を開けた慧音は妹紅にこう告げた。
「私は罰を受けに行く。」
「えっ!?」
先ほどから一回も声を出さなかった妹紅が大きな声を出して驚く。
無理も無い、妹紅は慧音が行ってきたことを何一つ知らないのだ。
「私が全ての元凶だった。お前は何も知らなかっただろうがな。
心配するな、お前の犯した罪も全て私の罪にしておくよ。
殺される直前に歴史を全て食べておくからな。」
「ま、待ってよ、慧音!」
「………傷つけてしまった者たちに、しっかりと償いをするんだぞ。」
「い、嫌だよ慧音!私、慧音がいないと何もできないよ!」
慧音は人里に向かおうとしていた。
妹紅は慧音を抱きしめ、引きとめようとする。
ちょうどそのとき、人里がある方向から何かの集団が押し寄せてきた。
そう人里で結成された、討伐隊だった。
その中には、慧音の見知った顔が多かった。
「あれは………山の上の神に………里長。自警団の者たちまで………」
ついに自分を捕らえる者が現れた。
これで自分の人生は終焉を向かえ、地獄で罪を償う時が始まる。
人里の子供たちを裏切ってしまったことだけが、慧音の心残りだった。

「「「いたぞ!」」」
人里の自警団たちが慧音のいる方に指を指す。
「……………そろそろ私は行くよ。」
そして、慧音は討伐隊の元へと向かっていった。
「妹紅………よき友を見つけるんだぞ。」
「慧音!行かないで!お願いだから、行かないで!」
「妹紅……………さらばだ!」
慧音は一歩ずつ、神奈子たちの元へと向かっていった。
幸せだった頃の日々が思い出されていく。


『お前の名前は?』
『……………妹紅だよ。藤原妹紅。』
『妹紅か。よろしくたのむぞ。』
『……………ああ。』

『なあ、妹紅。』
『どうしたの?』
『お前も何かをしたらどうだ?』
『嫌だ。』
『どうして?』
『だって、慧音の家の居心地がいいんだもん。』
『ま、全く…………』

『妹紅は男を作ったりはしないのか?』
『お、おとこ〜!?』
『はは、冗談だよ。』
『………慧音は?』
『わ、わわ、私!?』
『はは〜ん。もしかして、未経験?』
『うっ…………そ、そうだ!恋人ができたことだってない!!』

『慧音、これからもずっと一緒にいようね?』
『ああ。』
『もっと気の利いたことを言ってよ。』
『ど、どう言えばいいんだ?』
『自分で考えてよ、慧音。』
『…………わ、私たちの愛は永遠だぞ。』
『ぷっ!』
『わ、笑うな!』

慧音は、泣いていた。
もしかしたら、自分と妹紅はこれからも幸せな未来を過ごしていったかもしれない。
幻想郷が昔よりも、もっともっと良い世界になっていたかもしれない。
だが、慧音が道を誤ったせいでそれらは消え去った。
慧音も妹紅も、これからさらに苦しんでいかなければならない。
それでも、慧音にとっては今までの思い出だけで十分だった。
(ありがとう、妹紅…………)
そして、自分の両腕を神奈子たちの前へと差し伸べた。















































「さぁ、みんな。私を―――」
「皆の衆!藤原妹紅を捕らえよ!」
「捕まえてく……え?」
慧音は自警団の男が何を言ったのか理解できなかった。
「行くぞ!今の我らには軍神様がついておられるのだ!
妖怪だろうが不老不死者だろうが、我々の敵ではない!」
「「「「「おおーーーー!」」」」」
慧音は何が起こっているのか全く分かっていなかった。
自警団員たちはそれぞれ武器を構え、妹紅に立ち向かっていく。
それを先導するのが神奈子だった。
「心配するな、能力は私が抑えておく。」
神奈子はそう言って、妹紅の元へと向かっていった。
「慧音様、こちらへ!」
自警団の一人が慧音に声をかけたが、反応がなかった。
慧音の頭の中は真っ白になっていたのだ。


人里では、妹紅が悪と見なされていた。
射命丸文は、妹紅が橙を助けるために人間を燃やす姿を写真に撮っていたのだ。
しかも、その人間は年端もいかない子供であり、慧音の教え子だったのだ。
そして文が情報提供したことで、そのことが人里に知れ渡った。
しかも、その時期は命蓮寺放火で暴動が起ころうとしていたのだ。
人間の子供を燃やして殺す極悪非道な悪魔、藤原妹紅。
その妹紅が、命蓮寺を放火したに違いない。
人里の人間たちは全員、そう信じきっていた。
慧音が黒幕だと言われても、この状況では誰も信じないだろう。

神奈子は、一連の事件の黒幕は慧音だと確信していた。
問題は慧音が犯人となると、人間たちが混乱してしまうことだった。
だが、妹紅が人間の子供を殺したことを知ってから計画が変わった。
神奈子は、文に妹紅の行動を調べさせていた。
そして、妹紅が妖怪を守るために人間たちを殺害し続けていた事実が判明した。
幻想郷は人間のためだけの世界でもないが、妖怪のためだけの世界でもないのだ。
妹紅を捕らえる大義名分もしっかりとあった。
慧音を裁くよりも、妹紅の悪事を止めなければならない。
だから、神奈子は慧音に関することを今は黙止することに決めたのだ。
その方が慧音への罰としては効果的だった。
それに、人里の混乱を防いで信仰が薄れないようにすることもできたのだ。


妹紅はこの場から逃げ出そうとした。
そのために、自警団員に弾幕を放つ。
だが、それは神奈子によって簡単に防がれる。
ここから、一方的な虐殺が始まっていく。
妹紅は御柱に潰されていく。
慧音はその光景を見ていたが、未だに現実を受け止められなかった。
そのため、止めようとさえしなかった。
スペルカードを取り出して神奈子に対抗しようとしたが、
妹紅はそれすらもできなかった。
何回も何十回も妹紅は御柱に潰されていく。
神奈子に打ちのめされた妹紅を、自警団員たちは縛り上げる。
妹紅にはもう、抵抗する気力はなくなっていた。

「連れて行け。」
「はっ!」
「神奈子様、ありがとうございます!」
「少し、やりすぎたかもしれないな。」
「いえ、これぐらいしなければ不死者を捕らえるなど不可能です。」
「私は先に戻らせてもらうよ。」
「感謝いたします!さぁ、連れて行くぞ!」
神奈子はその場を後にした。
その直後、縄で縛られた妹紅が連れて行かれる。
その姿が目に入ってついに、慧音は正気を取り戻した。
「ま、待て!待つんだ、皆!」
「慧音様…………おい、止まれ。」
「はい!」
「妹紅………すまない……本当にすまない!」
「けい………ね………」
妹紅は息も絶え絶えに慧音の名前を口にする。
それは慧音に助けを求める――ものではなかった。
「ゆる……さない…………私を………うらぎ………た…………」
慧音への憎しみは、妹紅の中で大きくなっていた。
さらに、慧音に対する殺意すら芽生えていた。
「ち、ちがう…………違うんだ!」
「ゆるさない………ユルサナイ…………お前だけは殺す!!」
妹紅は最後の力を振り絞り、慧音を殺そうとする。
だが、自警団員たちに抑えられた妹紅である。
狙いは定まっておらず、炎は竹林の奥へと消えていった。
「こ、こいつ!慧音様まで殺そうとするなんて!」
「俺たちでも殺しておこうぜ!」
「ああ、もっと痛めつけないと黙ってくれないな!!」
その言葉をきっかけに、男たちは妹紅を虐殺し始める。

その様子はまさに地獄絵図だった。

妹紅は人里へと連れて行かれる最中、男たちに刀や斧で何百回と斬られていく。
その間、自警団員たちは交代で妹紅を縄で引き摺っていた

「ぐぎっ!!ぎぃぃっ!ぐばあぁっ!」
「この、このっ!!」
竹槍で妹紅の胸を何十回と刺す。

「がっ!ぐぁっ!やめっ!ぐぼおっ!」
「よくも俺たち人間をっ!」
百回近く、妹紅の顔面を殴る。

「や、やめべらろあががががががが!!」
「お前のせいで、俺たちは!!」
大きな木槌で、妹紅の顔は何回も潰す。

「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!や、やめてっ!!あべっ!ぎゃあっ!」
「死ね!死ねっ!死ねぇっ!!」
数十本の矢が、妹紅の体のあちらこちらに刺さる。

「んぐっ!?な、何を飲ませ………うっ!お、おげえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「苦しいか?だが、俺たちの苦しみはこんなもんじゃねぇ!」
妹紅の口に無理矢理、毒薬を流し込む。

「おほぼぼぼおおおおおおぉぉぉぉぉl!」
「慧音様に手を出すな、悪魔め!!」
硫酸を妹紅の体にかけていく。

男たちは、ただひたすらに妹紅を殺し続けていた。

「け………ね……………たす………けて…………」
妹紅は慧音に助けを求めて、手を伸ばす。
その手はもちろん、刀で切り取られてしまった。
「慧音様の名前を軽々しく語るな!」
男たちは再び妹紅を殺していく。
「たすけて、けいねぇぇぇぇ!!いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
妹紅は最後の力を振り絞って、慧音に助けを求めた。
しかし、その声が慧音に届くことはなかった。
断末魔の叫び声が、再び響き渡る。
人里に辿り着くまでに、妹紅が何回殺されたかなど、誰も気にしていなかった。



妹紅の虐殺が続いている間、
慧音は耳を塞いで、妹紅から目を逸らしていた。
「ごめん、妹紅………ごめん、妹紅………ごめん、妹紅………」
何度も何度も慧音は妹紅に謝罪し続けていた。

「目を背けたところで、どうにかなるのかしらね。」
慧音の耳元で、ある女性がそう囁いた。
「結局、どうにもならなかったわね。」
「紫………」
守矢神社で諏訪子の話を聞いた後、紫は慧音を監視していた。
妹紅と輝夜の殺し合いが終わった時から、紫はずっと様子を見ていた。
慧音が周りを見渡すと、そこはマヨヒガだった。
「貴方に言っておきたいことがあるから、ここに連れてきたのよ。
………貴方の真意は分かったわ。幻想郷を良くしようとしたのも分かった。」
「私は………私はただ………」
「けどね、無理に何かを変えようとしてはいけないわ。」
その言葉に慧音は反応する。
「全てをあるがままにしておけば、こうはならなかったわ。」
「なら、あのままでもよかったのか!?妹紅だけではない!
他の妖怪たちも苦しんでいたんだぞ!?人間を過保護に守る決まりを作ったせいで……!」
慧音は紫に反論する。
紫のやり方を否定しているわけではなかった。
ただ、妖怪が虐げられている状況を無視できなかったのだ
「お前は自分の周りの妖怪たちだけを助ければいいと思っていたのか!?」
「貴方の言ってることは立派よ。それが実現できたならば、幻想郷の管理を任せてもいいわ。
でもね…………所詮、結果が全てなのよ。」
「……………」
慧音は反論できなかった。
慧音の理想は紫のそれよりも輝いているのは間違いない。
だが、それは実現できなかった。
紫の理想は慧音ほど素晴らしいものではなかったが、現実的なものだった。
実際、紫は結果を残していた。
慧音の計画が実行されるまでの幻想郷を築き上げている。
不幸な暮らしを送る人妖たちは少なくなかったが、
大きな争いが起こったり、妹紅を虐殺するような暴徒が現れることもなかった。
「貴方に悪気はなかったみたいだし、殺さないでおくわ。
それに今の貴方にとっては、生きること自体が罰だしね。
人里に連れてってあげるから、後は勝手にしなさい。」
紫はスキマを慧音の足元に開こうとする。
「言っておくけど、自殺なんかしてみなさい。
私と幽々子で貴方を蘇らせてやるわ。その後、蓬莱の薬を飲ませるわよ?」
スキマを展開する前に、慧音にそう言った。
その時の紫の表情は、本気だった。
逃げられない。
紫は絶対に自分を逃がさない。
これから先、何を頼りにして生きていけばいいのだろうか。
自分のしてきたことも、いずれ人里中で知れ渡ってしまうだろう。
妹紅との関係も二度と元に戻らないだろう。
慧音は、未来に希望を持てなくなっていた。

「私は…………どうしたらよかったんだ?」

そして、慧音はスキマへと落ちていった。



紫もまた、慧音と同じようにスキマの中へと消えていく。
行き先は博麗神社だった。
博麗神社の境内へと降り立った紫。
そこで見たものは、目が見えないながらも境内を歩きまわる天子だった。
紫は天子の傍へと近づき、天子の頭を撫でる。
「危ないわよ、こんなところで。」
「ゆかりんおねえちゃん!」
「天子、こんなところで何してるの?」
「一人でも歩けるように、れんしゅうしてたの!」
「ふふ、がんばってるわね。それで、大丈夫だった?」
「うん!みんな、だいじょうぶだった!」
紫は天子を抱き上げる。
そして、霊夢たちが待つ神社の中へと入っていった。

紫は天子を抱えながら、霊夢と話をしていた。
「それで……どうだった?」
「あの子達は、二度とまともな生活を送れないでしょうね。」
「そう。」
霊夢は無関心であるような応答をする。
「………どうしたら、よかったのかしら。」
紫は少しだけ、悲しそうな目をした。
「………分からないわよ。」
霊夢は、縁側の方を見ていた。
「そうよね…………」
紫もまた、靈夢と同じ方向に目をやる。
「…………神奈子のことは、考えておくわ。」
「ええ、お願いね。」
「れいむおねえちゃんもゆかりんおねえちゃんも、何をはなしているの?」
二人の話を何となく聞いていた天子がそう言ってきた。
紫は微笑みながら、天子に答える。
「天子、そろそろ遊びましょうか?」
「あそぶの!?やったぁー!」
「………自分の思い通りの大人にしちゃダメよ。」
「もちろんよ。」
そして、紫は天子を抱きしめながら、立ち上がる。

「ゆかりんおねえちゃん、わたし歩く!」
「あら、一人でも大丈夫?」
「で、できるよ…………たぶん。」
「ふふ、手を繋ぐ?」
「いいの!?」
「ええ…………さぁ、行きましょう?」
紫と天子は、手を繋ぎながら衣玖や萃香たちがいる場所へと向かっていった。

(私はね、慧音。貴方とは違うのよ。)
紫は、そっと目を閉じる。
(私は、貴方と違う……………)
そして、唇を噛み締めた。
(私は、貴方と違って………何もできなかった、臆病者なのよ。)
ふと、紫はその場で立ち止まる。
「ゆかりんおねえちゃん………泣いてるの?」
天子は突然立ち止まった紫を心配して、声をかけた。
紫の目から、涙が一滴だけ流れた。
「ご、ごめんなさい。目にゴミが入っちゃったのよ〜」
「わたしがとってあげる!」
天子は腕を伸ばし、紫の目からゴミを取ろうとした。
「だ、大丈夫よ。ほら、もう取れたから。」
紫はすぐに自分の目を擦って、涙を拭った。
「それじゃあ、行きましょう?」
「うん!」
そして、紫と天子は再び歩き始める。








(慧音……いつか私も、貴方のように…………)
紫は、気づいていた。
遠い昔、自分が本当に作りたかった幻想郷。
それは―――慧音の目指した幻想郷と同じだったことに。
慧音はどうすればよかったのでしょうか?
そして、紫も慧音と同じ運命を辿ることになるのでしょうか?
上手く締める事ができなかったかもしれませんが、
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

それと、うpろだに慧音自殺EDのtxtを置いておきました。
http://thewaterducts.sakura.ne.jp/cgi-bin/up/src/fuku7924.txt


もしかしたら、後日談を作るかも…………
霊夢とか被害を受けていないキャラ全員を地獄に落とそうかな。

※ちょっと修正入れました

コメありがとうございます

>>1
みんな大好きもこたん!
後日談でも、もこたんはもてもて(の予定)ですよ

>>あかいぬさん
無意識のうちに、命蓮寺の住人は被害を少なくしようと思ってしまったせいで、
関係をぶち壊しきれなかった………迫害ネタと仲間割れネタも考えたのに…………

>>3
ご指摘ありがとうございます。
確かに無茶苦茶すぎたかも

>>4
ありがとうございます。
ちなみに、後日談で東方キャラが死ぬ予定は無いです
その代わり、「死んだほうがまし」という状況にするつもりです。

>>5
これも全て、アリスが(ry
>>時間がたって真相が浸透
その時には、妹紅を捕らえた人間たちはもういないでしょう。

>>6
喜びの叫びですね、わかります

>>7
永琳、輝夜、パチュリー、レミリア、フラン、さとり。
この6人は、後日談でちゃんと活躍しますよ。
救いはないですけどね。
上海専用便器
作品情報
作品集:
19
投稿日時:
2010/08/02 23:49:37
更新日時:
2010/08/11 08:33:55
分類
慧音
妹紅
白蓮
永琳
輝夜
霊夢
天子
神奈子
その他いろいろ
1. 名無し ■2010/08/03 03:21:10
最後ももこたんはもてもてでしたな(別の意味で)
2. あかいぬ ■2010/08/03 12:57:59
連載お疲れ様でした。
最初の方はほのぼのとした雰囲気が、後半から怒涛の勢いで崩れていく精神や関係が個人的にツボでした。
というかこんなことがあったのなら紫はもう何の行動も起こさないでしょうw頭がおかしくならない限りは。
しっかし、本当、もこたんは報われないなぁwww
3. 名無し ■2010/08/03 15:56:06
うーん、やっぱり自殺ENDの方が好きだな
今回は無理な展開が気になった
4. 名無し ■2010/08/03 21:06:25
こっちの方が面白かった
後日談楽しみにしてます
5. 名無し ■2010/08/04 01:29:34
連載お疲れ様です
両方のエンドとも楽しませてもらいました
他もそうだけど、もこたん可哀相すぎるw
慧音の思うように、時間がたって真相が浸透したとしても……なぁ

後日談……カモォォォオン!!
6. 名無し ■2010/08/05 12:05:46
妹紅がああああぁぁっぁぁぁぁああああああ!!!!!!
7. 名無し ■2010/08/07 11:13:05
永琳、輝夜など結構気になる状態で終わったな。
そういえば、パチュリーやスカーレット姉妹、さとり、なんかは終盤出てこなかった気がする。
少しキャラ数が多かったのかな? まぁ。後日談書くなら大丈夫かな……
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