星が見たい妹様

作品集: 19 投稿日時: 2010/08/05 11:40:07 更新日時: 2010/08/05 12:45:11
今まで何をしてきたか、そう問われても己は何も判りやしない。



ただただ朧気で蒙昧とした記憶の中で明瞭に浮かんでいる事実と云えば、生まれてこの方495年と言う月日を過ごして来た中、その365×495、換算するに即ち18万と少々の日々を何ら意味も成さずのうのうと呼吸を続けてきた事。
それから、物心ついた頃からこの真っ暗な地下室で一人人形と戯れていたと言う事だけだ。上等の絨毯が張られているが軽く一暴れするとその地の硬い無機質な石畳が剥き出しになる、それが何とはなしに嫌で有ったが、斯様な不快な状況等そう長らく続いた訳でもなく、恐らくは屋敷の中の誰かが魔法でも使ったのであろう、一晩眠れば元に戻っていた。外の景色を窺う事が出来るのは幾つか気持ちばかりに取り付けられた窓から―とは言え其処から外を覗いた所で庭しか見えぬが―、頭上に煌くシャンデリアが酷く頼りない光を降り注がせる。其れが己にとっての陽光だ。

太陽が昇り沈んで月が巡る、いたく単調な循環をぼんやりと過ごす日々は味気無いが、かと言って不満は無い。決まった時間に食事もお八つも出る、味は悪くない。寧ろ美味しい。玩具も壊れたら補充される。紅く染まった壁の生臭さも、綺麗に取り除かれる―赤黒さだけはこびりついて離れそうにも無いが、此方も周期的に魔法で塗り替えられる―。
不満は無い。
不満は無いから、外に出たいとも思わない。外を知りたいとも思わなかった。

それから何時だろうか、あの金髪の魔女に出逢ったのは。
初めて己が「またね」を言えた、あの彼女は、ひどく気紛れである。

ふらりと寄ってはふらりと去る、大抵は夜にやって来るがかと思って油断していると昼の未だ太陽が天辺に有る時分から突撃してくるのだから聊か紛らわしい。
しかしながら、彼女は悪びれもせずにきゃらきゃらと笑う。僅かな光をも其の恩恵を受け反射する細い波打つ金髪を揺らし、彼女は良く笑う。だから己もまた、笑う。弾幕ごっこもお喋りも、彼女とならば何時までも続けられる気がするのだ。
自慢の箒と八卦炉、それからエプロンドレスのポケットに沢山沢山、自分の知らぬ物を土産に詰め込んでやって来る。彼女の来訪の回数に反比例して、人形遊びがめっきり減った。そうして部屋に、「土産」が沢山転がる様になった。掃除にやって来るメイド長が「またガラクタを」等と渋い顔をするが、手は絶対に触れさせぬ。近頃綺麗な装飾を施した箱を姉から贈られたから、この中に「土産」を仕舞っては、暇な時には其れを眺めて過ごす。

外の空気を吸い、外の光を浴び、外の生き物と触れ合う魔理沙を知れば知る程に、未開の好奇心が一斉に芽吹きだす。
そんな彼女からの土産が、己と外の世界を繋ぐ、唯一の手段であり道標なのだから。









「星が見たいわ」

己に比べて数十倍は年月を経たに拘らず、不自然な程に真白く幼い華奢な手の中、色とりどりの金平糖の詰まった瓶を転がしていたフランドールの唐突な一言。シャンデリアに灯された明かりも消えた部屋の中、魔理沙は行儀悪くも胡坐を組んだ足首に手を掛けながらアーモンド型の瞳を丸めてはあ、と気の抜けた声を漏らした。
余りにも突然の発言に如何に反応すべきか困っているらしい、何度も大きな瞳を瞬かせながら首を捻る。

「またいきなりだな、妹様。何時もの事っちゃ何時もの事だが」
「だって見たいんだもの、これにそっくりなんでしょう?」

ずいと差し出されたのは、つい先日己が知人の店から拝借して来た金平糖であった―道具屋とは言うが、突拍子も無い物があそこは良く揃う―。小さく揺らす度からりと軽い音を立てて揺れる其れを見つめる瞳は幼子の其れと全く差分無い。甘い物に惹かれ知らぬ物に焦がれる純粋な好奇心が滲み出す紅い瞳には、ささやかな煌きが映し出されている。しかしなあ、と、渋る様に魔理沙は片手で後頭部を掻きながら背を逸らし、背後頭上に聳える天窓を振り仰いだ。

「窓から見えるだろ、星位なら」
「小さくて解らないわ」

空気の澄んだ幻想郷の夜空は明るい。星が煌きさえすれば外の世界など比べ物にならぬ程、其れは其れは鮮やかな輝きを見せる。だがしかし空が明るいからとは言え明瞭な姿を完全に捉えるなど千里眼が無い限りは途方も無く無理な話であり、更に言ってしまえば窓から覗いた所で所詮、意識に反映されるのは黒い紙に白い点を落としたかの様な様相だけだ。情緒有る人間様は其れを乙女や水瓶や一角獣に例えて妄想に耽るが、生憎魔理沙にもフランドールにも斯様な趣味は無い。

「でも綺麗なんでしょう、」
「まあ、そうだけど」
「魔理沙と飛んでみたいの」
「…お前さんを出したら、お前の『御姉様』に殺されかねんからなぁ」

フランドールは生まれつき少々気を遣っている。力の加減を知らぬ。ありとあらゆる物を破壊すると言う恐ろしく強大な力を持ちながら、其れを制御するだけの精神を持ち合わせていない。フランドールを相手に互角に戦えるだけの力を持ち合わせぬ儘、ただ純粋に遊び相手を欲しがった彼女に対峙し、そうして数え切れぬ命が散った。恐らくは姉にも勝り懐かれているであろう魔理沙と出逢ってからは、其れが僅かながら利く様にはなったかも知れぬ。しかしながら精神的な云々は完全には治癒しない。
外に出せば幻想郷一つを潰す事すら彼女はしかねぬのだ。其れを危惧して、そうしてまた己や住民の安全の為に、館の主であり彼女の姉であるレミリアは、実妹を地下に幽閉した。本来は禁じられている魔理沙の訪問自体は暗黙の了解で通っているが、彼女を外へ連れ出せばどうなるか解ったものではない。魔理沙とて自分の身は可愛い。自ら絞首台の階段を上る様な真似等したい訳が無い。


しかしながら同時に、フランドールの身の上は些か不憫でも有った。彼女の生活は生まれつき外を知らぬ籠の鳥と大差無い。495年と言う気の遠くなる様な年数を何も解らぬ儘ただ、呼吸を繰り返して過ごしてきた。これからも続けるであろう、其の生活は考えただけでも背筋が寒くなる。
如何にするべきか。魔理沙は腕を組んだ。紅魔館の連中は正直、あまり戦いたくは無い―無論単に面倒だからと言う理由でしか無いのだが―。しかし、まるで乾いた砂漠の砂に零れる雨粒の様に、新しい物を吸収しては其の都度満面の笑みを浮かべて喜ぶ、彼女の反応を見るのは嫌いではない。寧ろささやかな楽しみですら有る。何でも無い事に驚愕し、破顔する、混じり気無い態度は心地良いのだ。

どれ程時間が経ったろうか、瞬きも殆ど行わず、只管真っ直ぐ、文字通り穴が開く程見つめる彼女の視線がそろそろ痛くなって来た頃、魔理沙は一つ、拳で掌を打った。

「よし、なら見てろ」

何の事だか一切予想も付いていないらしい、真ん丸の団栗眼を何度も瞬かせながら首を傾げるフランドールに、にっ、と、猫の様な笑みを投げ掛けて魔理沙はポケットからお馴染みのミニ八卦炉を取り出した。そして何を思ったか、其の発射口と思しき陣を描いた面に唇を寄せ、何やらむにゃむにゃと唱え、床へと其れを置く。そうして足元に置いていた箒を掴んで跨り、フランドールへと手招きする。

「ほら、乗った乗った!」

矢鱈忙しない様子で急かす様に捲し立てる魔理沙に、半ば勢いに任せて立ち上がると自らも箒へと跨りその腰へと腕を回す。温かい。
ふわりと一瞬の浮遊感。そうして彼女御自慢の箒は、断りも無く一気に天井目掛けて急上昇する。油断すれば振り落とされかねぬばかりの勢いに、空を飛ぶ事など容易いにも拘らず腕へ力を込めて、フランドールは強くしがみ付く。




刹那、光が弾け飛んだ。




一瞬の閃光の爆発、真夜中に拘らず昼間を髣髴とさせる明るさにきつく眼を閉じると、反重力的な感覚が緩やかに収束する。瞼を突き抜けて虹彩を刺激する光がやがて柔くなるのを感じ取り、ゆるゆると瞼を持ち上げると。

「―――…わ、…」

遥か下に見下ろす八卦炉、空間に浮かび上がる小さな魔法陣から、数え切れぬ程の星が噴水の其れの如く噴射され、天井まで上っては緩やかに落下していく。黄色や白の星が蛍の其れの様な、穏やかながら鮮やかな光を惜し気も無く飛び散らせて舞い踊る。
御伽じみて現実離れした光景は、幼い感情にすら訴え掛けるだけの美しさを孕んでいる。自然と頬が紅潮し、呆然と開いた唇からは素直な感嘆の声が吐息混じりに漏れ出した。伸ばした掌にふわりと舞い降りる星を、そっと齧ってみる。甘い。


金平糖の様だ。

「凄いだろ」

背中越しに振り向いた魔理沙が、白い歯を覗かせて悪戯っぽく笑う。

「生憎本物の夜空は用意してやれないが、私の魔法をこんな風に味わえるなんてお前が初めてだぞ。出血大サービスだ」

止め処なく吹き出ては遥か高みのシャンデリアにまで達する高さまで上った星は、ふわふわと綿毛の様に舞い落ちて床に積もる。落ちて尚光を発する無数の星は雪を髣髴とさせ、床を星の野原に変えた。
柔らかな光に包まれた部屋が、何時か絵本の中で憧れた風景へと化して行く。

「……すてき、」

純粋な感動からか、か細く漏れ出したフランドールの声は何処か拙く舌足らずだ。続けざまにありがとう、と漏らされる素直な感謝の辞は普段の素行のお陰でどうにも慣れていないのか、魔理沙は照れ臭そうに頬を掻く。
そんな彼女の様子を笑いながら、フランドールは己よりも大きいながら、年齢相応の華奢な骨格を残す背中へと頬を寄せ、回した腕で服をきゅ、と掴み、再び口を開いた。




「魔理沙、だいすき」
フラマリのつもりだけどマリフラに見えるかも。
そもそもその前にただの友達にしか見えない気がする。

初めての東方。フランと魔理沙が好きな友人に贈ったものです(許可は取ってます)。この二人が幸せそうにキャッキャウフフしてる図が好き。カマトトエンドとか言わんといて。
でもえろいのはまだしも過激な話は多分書けそうにないです、ごめんなさい。

如何せん妹様まで辿り着けないド級の初心者なので、プレイ動画と色んなイラストから部屋だとか口調とかを想像しつつ書いたからか似非。でもフラマリ、大好きです。
よも
作品情報
作品集:
19
投稿日時:
2010/08/05 11:40:07
更新日時:
2010/08/05 12:45:11
分類
フラマリ
魔理沙
フランドール
エログロ無し
1. 名無し ■2010/08/05 14:18:33
東方はエログロより純粋物の方がいいと思うのは俺だけ?
まぁグロも好きっちゃ好きだが…(エロはあまり好かない)

あ、楽しかったッスよ^^
語り方も結構好き
2. 名無し ■2010/08/07 17:50:46
妹様に会うくらいなら誰でも出来る。
愛が足りない。
しかし結構地下室大きいのね。天井突き破ってお姉さまにボコボコにされるエンドかと思ってしまったわ
弾幕エフェクトの描写が細かめでいいですね
3. あーたん ■2015/08/19 16:51:23
なんか私が言うとちょっと上から目線になっちゃいますけど、もう少し改行したほうが読みやすいと思います。

話はめっちゃおもろかったです♪
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