Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『崩れ行く幻想 中編』 作者: 上海専用便器

崩れ行く幻想 中編

作品集: 19 投稿日時: 2010/08/12 09:49:18 更新日時: 2010/08/12 18:49:18
※かなり無茶な展開が続きます。
























妖怪の山の頂上に存在する守矢神社。
そこに、黒色の翼を持つ天狗が一人降り立った。
「また、何かを書かせるのかしら…………」
射命丸文は、今は神奈子と会うことを避けたかった。
だが、天魔と親しい関係を持つ神奈子からの申し出を断ったとしたら。
あっという間に、天狗たちにそのことが知れ渡る。
そして、自分は迫害されてしまうだろう。
文はそのことを恐れていたため、渋々神奈子の言うことを聞いていた。
(自分の信仰のことしか考えてない女の言いなりになるなんて…………)

神奈子に妹紅の悪事の写真を渡した後、文は活動を自粛しようとした。
だが、神奈子は妹紅が捕まったことを書いた新聞の発刊を強制した。
妹紅の悪事を膨張するような記事を書くことも嫌だったのだが、
神奈子の言うことは妖怪の山の住人として、聞かなければならない。
文の目には、神奈子の行為の全てが守矢神社の信仰のためのものに見えていた。
神奈子が妹紅を陥れ、妹紅を捕まえた手柄を自分の物にする。
そして、人間の信仰を手に入れる。
これが神奈子の企てと考えていた。

「おおーい!そんなところで立ってないで、入ってこいよー!」
神奈子は文を見つけると、大きな声で呼びかける。
その声を聞くと、文はすぐに神奈子の傍に近づいた。
「神奈子様、射命丸文ただいま参上しました。」
文は、わざと事務的な対応を取る。
それは神奈子に対する、ささやかな反抗だった。
文は上下関係をそれほど気にしないところがあった。
だが、逆にそこを気に入る人妖たちは多かった。
神奈子もその一人であり、文もこのことを自覚していた。
だから、あえて冷たい対応を取ったのだ。
「どうした?最近、記事を書くのに疲れたのか?」
文の態度が変わったことを神奈子は見逃さない。
冷淡な対応のことをほのめかすように話した。
「す、すいません………………」
文は申し訳なさそうな顔をして、頭を下げた。
狼狽しているような態度を取り、神奈子の警戒を解こうとした。
「まあいい。それで、お前に頼みたいことがある。」
神奈子は文の態度のことは気にしていないようだった。
何事も無かったかのように、文は顔をすぐに上げる。
そして、神奈子は文に用件を伝えた。
「妹紅を裏で操っていた人物が判明した。」
また誰かを犯人に仕立て上げようとしているのでは、と文は考えた。
「『上白沢慧音』だ。彼女が黒幕であることを記事にしてくれ。」
人里の守護者である慧音が、一連の事件の黒幕とは文は思わなかった。
何度も何度も彼女を取材して、その姿を目にしてきたから断言できることだった。
しかし、妹紅と慧音は親友である。
そこを突けば、慧音に罪を負わせることは容易だ。
文はそう考えていた。
「慧音さんが、ですか。」
「慧音が命蓮寺の火災の犯人だとも分かった。証拠もある。」
(それで、捏造した証拠のことも記事にしろってことね。)
文は神奈子に一言言ってやりたいと思ったが、
上下関係の問題があるためできるわけがなかった。
「では、頼むぞ。」
「………分かりました。」
神奈子は守矢神社の奥へと消えていった。
文も神奈子を見送った後、守矢神社から去っていく。

文は自宅へと向かっていた。
暗い顔のまま、あることを思い出していた。
「私は、何のために新聞を…………」
真実を伝えたい。
文はその一心で、新聞を書き始めた。
だが、現実はそう甘くはなかった。
真実を書けば、権力に押しつぶされる。
そのために、文は何度も苦しんできた。
そして今回もまた、文は権力に押しつぶされようとしていた。

――だが、今回は話が違っていた。
「…………上等じゃない。」
突然、何かが吹っ切れた。
「神様でも、天魔でもかかってきなさいよ。殺すのなら、殺しなさい。
その前に、私は私が書きたい新聞を勝手に書かせてもらうわ。」
文は、見るからに悪女、と思わせるような笑みを浮かべていた。
「フフフ、こうなったらやりたい放題やらせてもらうわ…………!」
文はさらに速度をあげて、自宅へと向かっていった。


文は今までにない早さで、記事を書き上げていった。
「出来たわ!」
文は自宅で歓喜の声を上げる。
生きてきた中で一番よくできた新聞を作れた、と文は思っていた。
「これなら、これならば!」
その新聞の見出しは、こう書かれていた。

『命蓮寺放火と藤原妹紅による人間殺害事件 
その全ては、守矢神社による謀略だった!?』

もちろん証拠も何も無く、信憑性は皆無の記事である。
文自身も、命蓮寺の火災が神奈子の手によるものとは思っていなかった。
だが、神奈子がこれらの事件を利用して、人間たちの信仰を手に入れたことだけは確信していた。
「見てなさい………これからどうなっていくか………!」
この新聞をなぜか一部だけしか持たずに、文はどこかへと飛んでいった。



その新聞をいち早く見つけたのは、東風谷早苗だった。
朝早く起きて、身なりを整えた早苗は、家事をしようとした。
その時、文の新聞が守矢神社の前に落ちていることに気づく。
「文さんの新聞ですか。早速、神奈子様に………なっ!?」
しかし、早苗は一面の大見出しを見ると動きを止めた。
「何ですか、これ………!」
早苗は怒った。
文の新聞に書かれてある記事を読む。
(神奈子様がまさか、こんなことをするはずがない!)
早苗は、前から文を嫌っていた。
不正が嫌いな早苗にとって、新聞で嘘をたくさん書いていた文は敵だった。
その嘘が、文の意志とは反するものであるなど関係なかった。
「……神奈子様に報告すれば、気分を害されます。私一人で、解決しましょう。」
早苗は文の作った新聞を手にして、文を探し始めた。

これこそ、射命丸文の謀略だった。
もっとも、文にとっても早苗にとっても、予想外の出来事がこれから起こってしまうが。
しかし、文は上白沢慧音が真犯人であるとは全く信じていなかった。
それが反って、文にとっては良い方向へと進んでいくことになる。





「眠い…………」
「眠たいぜ………」
霊夢と魔理沙は博麗神社で布団に入っていた。
この日、彼女たちは夜遅くまで起きていた。
恋愛の話だの、霖之助のツケの話だの、話題が途絶えなかったのだ。。
「おやすみ…………」
「また明日な………」
二人が深い眠りに入ろうとする。
すると、誰かが博麗神社の廊下をドタドタと歩く音が聞こえてきた。
瞬間、霊夢の顔は不機嫌なものとなる。
「殺る…………」
「落ち着けよ、霊夢………」
魔理沙は、針を持ち出した霊夢をゴロゴロしながら説得した。
「霊夢、私を法界まで連れてってください!」
星は霊夢と魔理沙がいる部屋に入るや否や、大声で霊夢にそう言った。
不機嫌だった霊夢の顔が真剣なものとなる。
というのも、なぜ星が法界に行くのかが疑問だったからだ。
聖白蓮がまた封印されたのか、霊夢はそう考えた。
米を恵んでくれたりしていたので、霊夢にとっては大事な人だった。
白蓮の身に何かがあると困るから、霊夢は真面目になったのだ。
「どうしたのよ、何があったの?」
「そ、その………勤行を行うために…………」
「勤行?何で、勤行をしに行くのよ。」
「そうだぜ、白蓮たちはいるんだろ?」
魔理沙も気になり、体を起こして星に尋ねる。
「その……………あまり言いたくないので…………」
「ダメよ。」
霊夢は断る。
理由も聞かずに結界を開けることは、避けるべきだった。
「ちゃんと理由を言いなさい。でないと、結界は開けないわよ。」
「うっ…………」
星はたじろぐ。
鈴仙に重症を負わせ、永遠亭に放火してしまった。
そんな自分への罰の意味をこめて、白蓮の元から離れるのが目的だった。
白蓮は、こんな自分すらも許す。
そのために、いつか白蓮は自分の罪の全てを引き受けてしまう。
それで、人間たちに迫害されるのではないか。
星はそれを心配したのだ。
「お願いです!どうか行かせてください!」
「………心配しないで。余程のことじゃなければ、紫に報告なんてしないわ。」
霊夢は、穏やかな口調で星にこう言った。
無理矢理吐かせるよりは、暴露しやすい状況を作ればいい。
そういう態度を霊夢はとった
「さ、教えて?」
「霊夢………………分かりました。」
すると、星は自分の身に起こったことを細かく伝える。
魔理沙も星の話を聞くことにした。


いつの間にか、空は薄明るくなっていた
霊夢と魔理沙は思った。
((聞くべきじゃなかった。))
星の話は全然終わりが見えなかった。
何しろ、白蓮との出会いの話など昔話を何回も持ち出してくるのだ。
そのため、法界に行く理由を未だに聞き出せていないのだ。
何度も何度も霊夢と魔理沙は、寝そうになった。
最悪なことに、二人は星に無理矢理起こされていたのだ。
しかし、霊夢も魔理沙も既に限界だった。
「もう無理……………おやす………み………」
「れ、霊夢!?まだ話は………」
しかし、霊夢は星の言葉を聞かずに布団に入る。
数秒後、彼女は寝息を立てていた。
「じゃあ、私も……………続きは後で………」
「魔理沙!?」
魔理沙も霊夢と同じように、床に就いた。
あっという間に、二人は眠ってしまった。
「ど、どうしましょう…………」
星はおどおどしていた。
無理に起こすのは申し訳ないが、霊夢がいなければ法界には行けない。
「うう………二人が起きるまで待ちましょう………」
星は、部屋の隅で霊夢が目を覚ますまで居座ることにした。

博麗霊夢は、人里に召喚されていた。
「藤原妹紅の処罰についての会合に、博麗の巫女も参加してほしい。」
里長から、霊夢はこう頼まれた。
食料を恵んでもらっている身でもあり、別に断る理由はなかったので、霊夢は承諾した。
そのため、霊夢は朝から人里に行く必要があった。
けれど、星の愚痴に付き合わされたせいで、霊夢は完全に寝坊をしてしまうことになる。

このことが、霊夢の命を救うことになるとは誰が思っただろうか。

人里が霊夢を呼び出した本当の理由。
霊夢に、霊夢と親しい妖怪を退治させる。
そして、霊夢が人間寄りなのか妖怪寄りなのかをはっきりさせるためだった。
博麗霊夢は、自分の住処に鬼や吸血鬼を泊める。
人里の人間の間でも、有名な話だった。
妖怪排除の風潮が広まった今の人里では、重大なことだった。

空は、薄明るくなりはじめた。
早くも会議場には、人が集まっていた。
博麗の巫女を捕らえる準備を行うためだ。
「いいか、容赦するな。妖怪寄りと分かったら、すぐに捕まえろ。」
「はっ!」
自警団員たちは、里長の言葉をしっかりと受け止める。
博麗の巫女は幻想郷の中でもかなりの実力者であることは、人間たちもよく理解していた。
しかし立場上、霊夢は容易に人を殺してはならない。
そのために、数で攻めれば、霊夢を捕らえることなどたやすいと里長は考えた。
だから、里長は自警団員の殆どを会議場に忍ばせていた。

その代わり、自警団の警備は薄くなっていた。
日が昇るまで、自警団員たちは人里の周りを見回っている。
しかし、この日に限っては、見回りの数は極端に少なくなっていた。
そのため、妖怪が人里に足を踏み入れるのがかなり簡単になってしまった。
(さとり様、人間たちがいませんね。)
さとりは、お燐の心を読む。
「そうね………でも用心しなさい。」
(はーい。)
なるべく声を出さないようにするために、声が大きくなりやすいお燐は猫の形態になっていた。
そして、さとりがお燐を抱きかかえる。
さとりの言葉に応答する時も、鳴き声一つ上げていなかった。

さとりとお燐は、人里の牢屋がある場所へと向かっていた。
自警団員たちは会議場に集まっていたため、さとりとお燐が忍びこむのは容易だった。
二人がこのようなことをする理由はもちろん、
自分と妹を救ってくれた親友の妹紅を、人間たちに良い様にされるわけにはいかなかった。
(たとえ、心が壊れていても………)
さとりの手が震える。
さとりに抱えられていたお燐は、すぐに気づいた。
そんなさとりの手から、お燐は離れる。
そして、人型に戻ったお燐はさとりの手を握った。
「さとり様………大丈夫ですよ。妹紅は、大丈夫です。」
「お燐…………」
お燐の手の温もりを感じたさとりは、少しだけ元気を取り戻す。
今までの自分なら、ペットから手を握られることなんて無かっただろう。
妹紅と出会って、妹紅と仲良くなり、妹紅が自分を救ってくれてから全ては変わった。
妹とも仲が良くなり、妹紅を助け行こうとする中、ペットが自分を励ますようになった。
(お燐のためにも、お空のためにも、こいしのためにも………)
さとりは、拳を強く握る。
妹紅を、自分の大切な人を、家族たちの大切な人を、助けなければならない。
「行きましょう、お燐。」
「……はい!」
お燐は猫の姿に戻り、またさとりに抱きかかえられる。
そして、二人は牢屋へと向かい始めた。
(帰ったら、こいしを探さないとね。それでみんな揃ったら、パーティーを開きましょう。)

こいしの現状を、さとりはまだ知らない。
だから、さとりは幸せな未来を想像することができていた。
自分と妹、ペットたちに、妹紅。
みんなが笑顔で地霊殿に暮らす日々。
さとりは、そんな明日を夢見ていた。





「姐さん、姐さん。」
「んぅ……………おはよう、一輪…………」
白蓮は一輪に揺さぶられて、目を覚ます。
「どうしたの?」
「お客人が来ています。」
寝起きだった白蓮はその言葉を聞くと、すぐに魔法で身なりを整える。
そのままでも、十分美人だったが。
「誰かしら、こんな時間に」
「レミリア・スカーレットさんと十六夜咲夜さんです。」
「レミリアと咲夜?なるほど、夜が活動期間だからね。」
そして、白蓮は一輪に連れられ、二人の元へと向かっていった。

レミリアは咲夜と雑談をしながら、白蓮を待っていた。
そして、白蓮は二人と挨拶を交わす。
「十分なお出迎えもできずに、申し訳ありません。」
「別にいいわよ。何も伝えてないのだから。」
「それで…………」
「調べさせてもらうわよ。」
「え?」
その言葉に反応した雲山は、姿を現そうとした。
だが、一輪に押さえられた。
「待ちなさい、雲山。」
「ごめんなさい、言い方が悪かったわね。
魔女狩りの話よ、魔女狩りの話。」
「っ…………!」
様々な事件が立て続けに起こったためか、すっかり魔女狩りの話を忘れていた。
誰が命蓮寺に放火したかも気にしていなかったのだ。
「まあ、私は貴方たちを気に入っているからね。だから、助けてあげようって話よ。
…………この寺、ところどころ焦げているけど大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ。」
「何かあったら、私たちが助けるわ。それで、調査をしてもいいわよね?」
咲夜がそう付け足した。
白蓮は不安そうな顔をしたが、すぐに了承した。

「それにしても、仲が良さそうで羨ましいわね。」
「い、いえ………」
レミリアは、白蓮の寝室を覗く。
本来、そこは白蓮一人が寝るための部屋だった。
だが、水蜜とぬえが白蓮の布団に入っていたのだ。
「咲夜もしてみなさ………咲夜?」
「はっ!お、お嬢様!?」
いつの間にか、咲夜は鼻血を流していた。
レミリアのベットに忍び込む姿を想像したためだった。
レミリアはまたか、とため息をつく。
「咲夜、鼻血を止めながらついてきなさい。」
「も、申し訳ありません…………」
そして、レミリアと咲夜、白蓮、一輪は命蓮寺の至る所を調べる。
誰かが何かしらの罠などを仕掛けていないかを調べていた。

しばらくの間、床下も含めてあらゆる場所を調べたが何も見つからなかった。
「無いわね。ま、時々ここに寄らせてもらうわ。」
「ありがとうございます。」
「感謝する必要はないわ。私が好き勝手にやっているだけよ。」
「お嬢様、それでは帰りましょうか。夜が明けます。」
「そうね。それじゃあ、しっかりやりなさいよ。」
「分かりました。では、また…………」
レミリアと咲夜は命蓮寺を後にした。
白蓮と一輪もまた、命蓮寺の中へと戻っていく。
「ひじり〜………どこ〜…………」
寝ぼけたぬえは、目を擦りながら白蓮を探していた。
目を覚ましたとき、白蓮がいなくなっていたからだ。
「ぬえ、ここよ。」
白蓮はぬえにそう声をかけると、ぬえを優しく抱きしめた。
「ひじりぃ、星みたいにどこかにいかないでよぉ…………」
「ごめんね、ぬえ。」
ぬえが起きたのをきっかけに、ムラサもナズーリンも目を覚ます。
そして、白蓮も表情を明るくした。
自分が暗くなっていては、家族たちも暗くなってしまうかもしれない。
これからも苦難はたくさんあるだろうけど、今は前を向いて歩くしかない。
白蓮はついさっきまで起こっていたことを吹っ切れて、
大切な家族たちと一緒に、毎日を生きていこうと決心した。

その時である。
「聖さん!聖さん!!」
鈴仙の慌てた声が命蓮寺中に響き渡る。
白蓮はすぐに、鈴仙の声のする方に向かった。
「どうしました?」
「師匠と姫様が……師匠と姫様が!!」
鈴仙の様子から、ただ事ではないことと白蓮は悟る。
「お二人に何があったのですか?」
「師匠と姫様が、部屋にいないんです!」
その言葉を聞いた命蓮寺の住人たちから、眠気が一気に吹き飛んだ。
「命蓮寺のどこかにいる可能性はあるんじゃないか?」
ナズーリンは鈴仙にそう言った。
だが、鈴仙は首を横に振る。
「てゐと私で寺の中を探し回りましたが、どこにも………」
「そのてゐはどこにいるんだ?」
「命蓮寺の外に出ています。他の子たちも一緒に探していますが………」
「どこに行ったか、思い当たりはありますか?」
「い、いえ……私には………」
白蓮は思案をめぐらす。
精神が崩壊していると言っても過言ではない二人が、
自らの意志でどこかに向かうとすればどこなのだろうか。
「頭がおかしかったら、行き先なんて決まってないだろうし、
あの二人が行きたいと思う場所なんてあるのかな?」
水蜜はそんなことを口にした。
その言葉を聞いた白蓮や鈴仙は、ハッと気がついた。
「永遠亭!」
「そ、そうでした!師匠と姫様が行くことができる場所は、あそこですよ!」
そして、白蓮は外出の準備を行う。
「鈴仙さん、私と一緒に来てください。他のみんなはここに残ってて。」
「危ないよ、聖!誰かが聖の命を狙っているのかもしれないよ!?」
ぬえは白蓮に抱きつき、引きとめようとした。
「ぬえ………大丈夫よ、私はもう離れないからね?」
「ひじりぃ…………」
「ぬえ、聖を信じるのよ。」
水蜜は、ぬえの手を握り締めた。
白蓮もぬえの頭を優しく撫でる。
「行ってくるわね、ぬえ、みんな。」
「…………怪我をしないで、ここに帰ってきて。」
「もちろんよ。さぁ、鈴仙さん。」
「は、はい。」
そして、鈴仙と白蓮は永遠亭のあった場所へと向かっていった。





レミリアと咲夜は、陽が昇る前に紅魔館に帰還していた。
門番の務めをこなしていた美鈴は、二人を迎える。
「お嬢様、お帰りなさい!」
「美鈴、お疲れ様。さ、昼寝してもいいわよ。」
「い、いえ!そ、そんな…………」
「私が館にいる間は、貴方は寝てるだけで十分よ。」
「私のいる前でできるかどうかは知らないけどね。」
「さ、咲夜さ〜ん………」
「咲夜、美鈴を苛めないの。」
「も、申し訳ありません。」
レミリアと咲夜と美鈴は、笑顔でこんなやり取りをしていた。
いつもと変わらない一日を、今日もまた過ごせると美鈴は思っていた。
「フランたちは大丈夫?」
「そ、そうだ!」
美鈴は新聞のことを思い出し、すぐにレミリアにそれを見せた。
「それは、新聞?やっと来たのね!」
「フラン様は、パチュリー様と一緒に………お嬢様?」
「お嬢様、どうなさいました?」
美鈴と咲夜の言葉は、新聞を読んだレミリアの耳には入っていなかった。

『妹紅が、人間たちに捕らえられた。』

レミリアは、人間を信用していなかった。
霊夢や魔理沙、咲夜などは特別なのである。
レミリアが人間を排除しようとしなかったのは、吸血鬼条約があるからだった。
この条約が無ければ、霊夢と咲夜以外の人間を全員殺していただろう。
彼女にとって人間は、自分のことしか考えない心を持ったゴミ屑なのだ。
そんな人間に、自分の恩人が捕らえられた。

レミリアは後悔した。
魔女狩りは全て嘘。
魔女狩りの噂を流した目的は、魔女狩りに目を向けさせるため。
人間たちが妹紅を捕らえることに目を向けさせないため。
そんなことも見抜けなかった自分を責めていた。
何故、妹紅が捕らえられたか分かっていなかったが、
レミリアにとって、それはどうでもいいことだった。
妹紅が『人間』に捕まったことが重大だっだ。

「……………………咲夜。」
「どうなさいました………?」
「もしも帰ってこなければ、フランを当主にしなさい。」
「え…………?」
それは、レミリアにとっての遺言だった。
人間たちを虐殺すれば、紫と霊夢が動き出す。
この二人に勝てる自信は無かった。
だが、自分の恩人が人間に捕まったのをやすやすと見過ごすわけにはいかなかった。
レミリアは、咲夜が手にしていた日傘を奪い、全速力で飛び立っていった。
あっという間に、姿は見えなくなっていた。
「お、お嬢様!?美鈴、また門番をお願いね!」
「は、はい!」
咲夜は飛び去っていったレミリアの後を追う。

美鈴は二人を見送った後、何か恐ろしいものを肌に感じていた。
(何だろう………よく分からないけど、大変なことが起こりそう…………)
「フラン様たちも………大丈夫かな……………」
美鈴は不安になり、フランの元に行こうとした。
だが、門番という立場上、持ち場を離れることはできなかった。
そんな美鈴に声をかける妖精が現れる。
「門番長。」
「あ、みんな?休憩したいのなら、全然いいわよ。
徹夜で門番の仕事は、大変だろうし………」
門番隊の妖精たちが全員集まっていた。
美鈴は、休みたいと言いにきたのだろう、と思っていた。
もちろん、妖精たちはそんなことを言いにきたのではない。
「門番長、私たちがここを守ります。
だから、門番長の好きなようにしてください。」
「え?」
「お嬢様たちが心配ならば、行ってあげてください。
門番長が優しいお人なのは皆知っています。
だから、お嬢様たちのところに行ってあげてください!」
妖精たちは、美鈴に心配をかけないように声をかける。
美鈴も妖精たちの思いに応えるため、自分も行動に出る決心をした。
「みんな、紅魔館をお願い!」
「「「「「はい!!」」」」」
美鈴は駆け出す。
目指す場所は、まずフランの向かったであろう慧音の家。
その後はフランたちと一緒に、レミリアと咲夜を探す。
(皆さん、私は紅魔館の門番です。私は、皆さんのためだけの門番です。
だから………何かがあったら………何かがあったら、命に代えてでも、私は!!)

紅魔館の住人たちを守るために、自分の大切な人々の笑顔を守るために。
美鈴は止まることなく、奔走していた。

上白沢慧音の家に、パチュリーたちは着いていた。
「斥候しましょうか。」
「ええ、お願いするわ。」
「パチュリー、まだー?」
「静かにしなさい。」
「は〜い。」
フランは、忠実にパチュリーの言うことを聞く。
妹紅を苛めた人間たちを壊す。
そのためになら何でもする、とフランは決めていた。
「こぁ………慧音がいるかどうか確かめなさい。」
「分かりました。それでは………」
小悪魔は何かの魔術を唱えると、姿を消した。
そして、慧音の家の近くにまで移動する。
「ねーねー、パチュリー」
「どうしたの?」
「妹紅はどうするのー?」
「…………後で助けるわ。」
「分かったー」
パチュリーと会話をする間、フランは手を開いては閉じていた。
能力をいつでも使えるように練習していたのだ。
もちろん、パチュリーは練習しているなどと思っていない。
自分の手を弄んでいるようにしか見えていなかった。

そして、小悪魔が姿を現した。
「パチュリー様、上白沢慧音は机に伏して寝ていました。
完全に無防備みたいなので、簡単に忍び込めますよ。」
「そう、じゃあ入るわよ。」
「うん!」
「夜も、明けはじめてきたわね。」
パチュリーは、薄明るくなった空を見上げてそうつぶやいた。
「パチュリー様、しっかりと日傘は用意してあります。」
小悪魔は、どこからか日傘をすぐに取り出す。
「……さすがね。」
「ねーねー、まだー?」
フランはパチュリーの体を揺さぶって、そう尋ねた。
そんなフランの頭をパチュリーは撫でてこう言った。
「こぁ、妹様、行くわよ。」
「はい。」
「は〜い!」
小悪魔とフランは、首を縦に振った。

その時、フランの体は震えていた。
心配したパチュリーはフランの手を握った。
「心配しないで、妹様。私の言うとおりにすれば大丈夫よ。」
「…………うん!」
そう言って、パチュリーはフランの震えを取ろうとした。
だが、フランの震えは恐怖のための震えではない。
もうちょっとで、妹紅を苛める人間を殺すことができる。
そのことに早くも快感を覚えてからだ。
フランの震えは段々と強くなってくる。
パチュリーもそのことに気づいたため、フランの手を強く握り、頭を撫でた。
(壊してもいいのかな?私の手を握って、安心させてるんだよね?
………もういいんだよね、この家の人間を壊しても!)
フランがそう思ってしまうのも、仕方が無かった。
そして、パチュリーたちは慧音の家へと足を踏み入れる。

その瞬間を、美鈴は遠くから目にしていた。
(よかった………他に気配を感じないし、誰かに狙われていることはないわね。)
安心した美鈴は、パチュリーたちが外に出てくるまで見張ることにした。
その時、彼女はかすかな殺気を家の中から感じた。
「……………家に、入っても大丈夫ですよね?」
急に心配になった美鈴は、家の中にそっと入る。

「上白沢慧音…………こいつのせいで、ね。」
「パチュリー様、どうします?」
「まずは、この家を調べるわ。妹紅の件についての証拠があるかもしれない。」
パチュリーと小悪魔は、慧音の家の物色を始めていた。
フランはもちろん、こういうことは手伝わない。
「ねーねー、パチュリー」
「どうしたの、妹様?」
「好きにしてもいい?」
退屈しているのだろう、とパチュリーは思った。
だから、パチュリーは彼女を自由にさせる。
「ええ、いいわよ………」
「ほんと!?じゃあ、やるね!」
「やる………?「」
『好きにしてもいい』の言葉の本当の意味を理解するのは、すぐ後だった。
フランは手のひらを、慧音の頭に向ける。
「妹紅を苛める奴なんか…………苛める奴なんか!!」
そして、ゆっくりと手を閉じていく。
「だめ、妹様!!!」
パチュリーは、大声でフランを止めようとする。
だが、フランは聞かない。
パチュリーは魔法を唱えて、フランを吹き飛ばそうとした。
だが、いくらレベルの低い魔法でも詠唱には少し時間がかかってしまう。
そのため、フランが手を閉じるまでには間に合わなかった。

そして、手は閉じられた。
慧音の家に、爆発音が鳴り響く。
パチュリーはその音に驚き、詠唱は中断してしまった。
小悪魔はすぐに、爆発音の聞こえた方へと向かった。
家の中に、肉片が飛び散る。
それは、フランの体中に付着した。
床には血溜まりができていた。
「な、何だ!?」
爆発音のせいで目を覚ました慧音の声を、フランは耳にした。
「ま、まだ壊れてないの!?もう一回………美鈴?」
フランは自分の手を掴まれているのに気づいた。
パチュリーと小悪魔は、ガタガタと体を震わしていた。
「フラ、ンさ、ま…………だめ、で、すよ………」
「めーりん?」
美鈴の左胸が、消滅していた。
フランは何が起こったのか全く分かっていなかった。

美鈴は慧音を庇おうとしたのではない。
ただフランに無益な殺生をさせまいと、手のひらを上に向けようとしたのだ。
狙いを外そうとしたのだが、フランは手を閉じてしまう。
その時、手のひらは美鈴の左胸に向いていた。
見るも無残な姿となった美鈴は、それでも残った右手でフランの手を掴む。
そして、無理に笑顔を作っていた。
「めーりん?何でそんなことになってるの?」
「パチュ、リー、さま………けい、ねさんを………せめない、で………」
そう言い残した美鈴は力を無くして、地面に倒れた。
「ねぇ、美鈴?お留守番してたんじゃないの?ねぇ、起きてよ美鈴。
ねぇ………美鈴、おきて。おきてよ、めーりん。ねぇ、ねぇ、ねぇ。」
フランはずっと美鈴に声をかけ続けていた。
だが、美鈴の口が開くことはなかった
パチュリーと小悪魔はすぐに美鈴の元に近づき、彼女の治療を始める。

その光景を、慧音は愕然として見ていた。
自分のせいで、罪の無い人妖たちが苦しんでいく。
自分がいなければ、全て良い結果になっていた。
自分が生まれてきたから、幻想郷はこんなことになってしまった。
慧音の精神は、ついに限界が来てしまった。

だが、パチュリーたちはそんな慧音には目もくれない。
慧音のことを忘れているかのようだった。
今は大切な家族の一人の命を救おうと必死になっていた。

「めーりん、こわれちゃったんだ………わたしのだいすきな、めーりん………」
「妹様、大丈夫よ。絶対に助かるわ。」
パチュリーはフランに声をかけていく。
フランが美鈴を傷つけてしまったことで思い悩み、
狂ってしまうことがないように。
「めーりん、ごめんね。これもぜんぶ、にんげんたちがわるいんだ。」
「い、妹様?」
小悪魔は、フランの言っていることがだんだんとおかしくなっていることに気づく。
「めーりん、わたしがめーりんのかたきをうつよ。みんなみんな、ぶち壊してあげるから。」
パチュリーと小悪魔は、本能で危機を感じる。
フランが完全に狂ってしまうと実感した。
「こ、小悪魔!妹様を押さえなさい!!」
小悪魔はパチュリーの命令を受けて、すぐにフランを押さえようとした。
だが、フランはその前に慧音の家から飛び去ってしまった。
「パチュリー、わたし行ってくるねー!」
「妹様、妹様!!」
フランを追いかけようと家の外に出るパチュリー。
しかし、もう姿を見失ってしまった。
「ど、どうしましょうか?」
「くっ……美鈴を死なるわけにもいかないわ。小悪魔、追いかけて。」
「はいっ!」
その言葉を聞いた小悪魔は、慧音の家から出ていく。
どこに行ったかは見当がついていた。
(人里ですね………!)
フランは、人間がどうこう、とかいう話を出している。
ならば、向かう先として一番可能性が高いのは人里だと判断した。
小悪魔は、自分の持てる力の全てを出し、人里へと向かっていった。

パチュリーは美鈴の治療を再開した。
それからというもの、パチュリーには常に不安が付き纏っていた。
(何もかもが無茶苦茶になってるじゃない……どうなるのよ、この世界は。)
これからの自分たちには、暗い未来しか残されていない。
そう思わずにはいられなかった。






竹林の奥にある、永遠亭の焼け跡近く。
そこでは、秋を象徴する神の秋姉妹が、
ぐっすり寝ているチルノ、大妖精、ミスティア、リグルを守っていた。
「すぅ……すぅ……」
「大丈夫よ。今は、ゆっくり休みなさい。」
静葉に抱きしめられた大妖精は、寝息を立てていた。
「こっちも寝ているわ。みんな、大丈夫みたいよ。」
「あった………かい……………」
「ん………………んぅ…………」
穣子は、チルノとリグルに膝枕をしていた。
しかし、ミスティアは怪我を治療したばかりなので、
穣子の隣に寝かせて、安静にしていた。

その数十分後。
穣子の治療の甲斐もあってか、ミスティアが目を覚ます。
「んぅ…………あれ………私………」
「気がついた?」
穣子は、ミスティアに優しく微笑んだ。
ミスティアは現状を掴めていなかった。
「私、人間に………」
「人間?」
「人間との間で、何かあったの?」
静葉と穣子は、ミスティアの言葉を聞き逃さなかった。
「助けて、くれたのですか?」
「この娘たちがここに呆然と立っていてね。
そのときに、たまたま私たちが傍を通りかかったのよ。」
「ありがとうございます!でも、ここは…………」
あたり一面を見回したミスティア。
そして、焼け落ちた永遠亭を目にした。
「え、永遠亭が!?」
「…………なぜかは分からないけど、こうなっていたわ。」
「そ、そんな……………」
ミスティアも涙を流す。
「大丈夫よ、死体は一つもなかったわ。」
穣子は、ミスティアの頭を撫でて慰める。
「えぐっ………ぐすっ…………てゐ………鈴仙………!」
「心配しないで、私たちが探してあげるから。」
「姉さん?」
「何を言ってるの、私は本気よ。」
「……分かったわよ、私も手伝うわ。まったく、いつもいつも………」
穣子は、静葉に愚痴を言いながらも、
ミスティアが泣き止むまで彼女の頭を撫で続けていた。
ふと穣子は空を見上げる。
竹林の中は暗かったが、空はぼんやりと明るくなっていた。
すると、誰かが永遠亭跡の近くに現れる。
「あら………貴方たちは?」
「れ、鈴仙!?」
「ミスティア?」
白蓮と鈴仙は、秋姉妹たちのいる元に辿りついた。
「貴方は命蓮寺の………?」
「はい。貴方たちは、秋静葉様と秋穣子様ですね。」
「鈴仙!!」
「きゃっ!」
穣子に頭を撫でられていたミスティアは、鈴仙に抱きついた。
「よかった、無事でよかった………」
「ミスティア……大丈夫よ、てゐも無事だから。」
「鈴仙…………」
「皆さんは、ここで何を?」
そして、秋姉妹とミスティアは事情を全て話す。



「人間が………?」
「何が何だが分からなかったけど、いきなり………」
「そう、ですか………」
胸を締め付けられるような思いだった。
人間と妖怪が皆、仲良く平等に暮らせる世界を目指す白蓮にとって、
ミスティアが人間に襲われることはショックだった。
「それで気づいたら、チルノたちがここまで運んでいたのね。」
「ええ、おそらくこの娘を助けようとして、永遠亭に運ぼうとしたのでしょう。」
「でも、永遠亭がこんなことになってたから………」
鈴仙は途中で言い詰まり、涙を流した。
「鈴仙さん、大丈夫ですよ………いつか必ず、建て直しますから。」
「ご、ごめんなさい。私ったら、つい………」
「でも、二人はどうしてここに?」
「あ、そうだ!師匠と姫様は見てない!?」
「えっと………」
ミスティアは鈴仙にそう尋ねられたが、答えることはできなかった。
何しろ、先ほどまで寝ていたからだ。
「私と穣子は見ていないわ。」
「そうね、この娘たちしか周りにはいなかったわ。」
「ここにいると思ったのに…………姫様、師匠、どこに行………あれ?」
鈴仙は何かに気づく。
「どうしました、鈴仙さん?」
「これって………」
白蓮に呼びかけられたのも、鈴仙は無視した。
そして、永遠亭の焼け跡の近くに落ちていた黒色の箱を見る。
「これは確か………」
鈴仙は、永琳とこの箱について話をしたのを思い出した。

『師匠、その箱は何ですか?』
『ウドンゲ、これは私の失敗作を入れておくものよ。』
『へぇ〜、師匠でも失敗することがあるんですね。』
『…………ウドンゲ、絶対にこの箱には触れないでね。』
『え?何でですか?』
『私がまだ若かったころに作ったものなのよ。それ以上は、何も聞かないで。』
『師匠………分かりました。』

「師匠、この箱の中身を取り出して、何を…………あれ?」
鈴仙は、箱の中に一つだけ一ビンが残っていることに気づいた。
そのビンのラベルを、鈴仙は目にする。
「VX?VXって、確か…………っ!」
VXが意味するものを理解した鈴仙は、血の気が引いていくのを感じた。
「鈴仙さん、それは?」
疑問に思った白蓮が、鈴仙に尋ねる。
「た、大変です!師匠が、師匠が!」
「落ち着いて、鈴仙さん。永琳さんたちは、その薬を持っていったの?」
鈴仙の様子から、白蓮はそう判断した。
「早く師匠を見つけないと!」
「一体、どうしたの?その薬はどういう薬なの?」
静葉は、鈴仙がなぜ慌てているのか分からなかった。
たが、穣子は鈴仙の様子からその薬がどういうものなのかを何となく気づいた。
「毒、じゃないわよね?」
「…………毒です。それも、猛毒の。」
その言葉を聞いた白蓮たちは、冷汗をかいた。
しかも、永琳たちを止めようにも彼女たちがどこにいるのか、全く検討がついていなかった。
普段は冷静な白蓮も、平静を保っているように見えているが、内心では焦り始めている。
「………彼女たちが一番恨みに思う人物は?」
「師匠と姫様が恨む人………妹紅とは、仲良くなったし…………あ!!」
鈴仙は、妹紅の名前を口にした途端、頭に浮かび上がった。
自分の師匠は、誰を殺すために毒を撒こうとしているのか。
「人間です!妹紅を捕まえた人間を師匠と姫様は!」
鈴仙の予想は間違っていなかった。
しかし、鈴仙はそのことを今、口にするべきではなかった。
白蓮がいる場所では、決して話してはならなかった。
藤原妹紅が人間たちに捕まったことを、白蓮は知らなかったのだ。


「妹紅が………捕まった?」
白蓮の体が震え始める。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
穣子は心配して、白蓮に声をかけた。
だが、白蓮からの反応が全く無い。
「どう、して…………どうして、妹紅が…………?」
彼女は、人間と妖怪の双方を受け入れてくれた
本当の自分を理解してくれた。
そんな妹紅が、人間たちに捕らえられる。
「私は…………私は…………」
人間と妖怪が共存する世界を目指した白蓮。
しかし、実際には何一つ結果を残せていない。
だから、人間の妖怪に対する偏見は未だに残っていた。
妹紅が捕まるなんてことが起きてしまったのも、そのせいである。
白蓮は、そう思い込んでしまった。
「もう…………無理なのね………人間と妖怪の平等なんて……」
自分のことを、星やムラサよりも早くに理解してくれた妹紅。
その妹紅に何もしてやれなかったショックは、あまりにも大きすぎた。
それが、今まで自分の身に降りかかった災難の上に重なる。
白蓮はもう、耐えることができなくなってしまった。

自分は幻想郷にとって、不必要な生物。
幻想郷にいてはならない。
生まれてきてはいけなかった。
命蓮寺の住人たちと、一緒にいてはいけなかった。
自分がいるから、妹紅は苦しんでしまった。

そう思ってしまうのも、仕方のないことだった。
仰向けで地面に倒れてしまった白蓮に、3人は近づく。
「聖さん、聖さん!?どうしたんですか!?」
「大丈夫?何かあったのなら、私たちに言いなさい。」
「貴方もしっかりしないと、人間たちを救えないわよ!」
鈴仙、静葉、穣子の声が聞こえる。
だが、今の白蓮にはその言葉を理解するだけの気力はなかった。
(命蓮………こんなことなら、貴方と一緒に死んでおけばよかったわね………)
弟のことを思い出した後、白蓮はそのまま目を瞑ってしまった。

白蓮はついに、世の中に絶望してしまった。
いつまで経っても無くならない、人間と妖怪の壁。
それを取り除くことが夢だった白蓮。
その夢を諦めてしまうことは、彼女にとって死同然だった。




















夜が明け始めた。
薄暗かった空は、だんだんと明るくなる。
いろいろと大変なことになってきたぞー
誰か助けてー
上海専用便器
作品情報
作品集:
19
投稿日時:
2010/08/12 09:49:18
更新日時:
2010/08/12 18:49:18
分類
『もてもてもこたん』の後日談
1. 名無し ■2010/08/12 22:01:48
次で終わるのか?
2. 名無し ■2010/08/13 00:10:00
もはや崩壊は止まらないのか???続きが楽しみだ
3. 名無し ■2010/08/13 02:44:30
光だ、何でもいいから誰か光を寄越してくれ!
何も見えないんだ!畜生!!
4. 名無し ■2010/08/13 04:19:01
霊夢の危機回避能力が発動したということは、人里で起きる予定の惨劇には不介入となりますね。
もっとも今回の件では、人間にも妖怪にも与することが許されない巫女さんが調停に乗り出したとしても、下手したら霊夢も慧音や紫みたいに絶望して腑抜けになってしまうかも知れませんから、出番は全てが終わった後の事後処理ぐらいですかね。
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード