Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『産廃百物語『置き手紙』』 作者: んh

産廃百物語『置き手紙』

作品集: 20 投稿日時: 2010/08/22 13:03:45 更新日時: 2010/08/22 22:04:18
3年ほど前、大学の夏休みに実家のN県に帰省していた時に、友人のA子に起こった話です。


2つ年下の友人A子とは元々近所に住んでいたこともあり、まるで妹のように面倒を見てきた間柄でした。
ただ、私が京都の大学へ進学したため、直に顔を合わせるのは久しぶりのことでした。
A子はクラスのリーダーグループに一人はいるタイプと言いましょうか、なかなかかわいらしく、あからさまに目立たないけれど明るい娘といった感じです。
しかし、再会したA子の顔は青白く、すっかり痩せこけてしまっていました。


私が心配すると、A子は震える声で「助けて欲しい」と言い出すのです。
どこか変な男にでも引っかかったのかと思っていると、A子は絞り出すように妙なことを言い出しました。

「○○兄(私です)はさ、呪いって信じる?私……わたし…呪われてるのかも……」

私は物理学を専攻していることもありまして、こういった話は一切興味ないのですが、元々私たちの住んでいた土地に、昔立派な神様がいらしたとかで、何かあるとそういうことを言い出す輩が多いのです。A子もどこかそういうところがありました。
精神的な不調を心配した私は、呪いなど存在しないこと、精神疾患の可能性と治療の必要性を説きました。

「なにかストレスを感じているのなら話してみな。話すことで楽になることもあるしさ。」

その一言で堰が解けたのか、A子はこんな話をはじめました。






A子は地元の高校に通っていましたが、そこでも、まあどこでもあることですがいじめというものがあったそうです。

そのいじめられていた娘、仮にSとしましょう、その子は私もよく知っていました。何でも有名な神社の娘だったらしいのですが、分かりやすく言えば「電波系」といった感じでしょうかね、奇跡がどうだら神がどうだら言うかと思えば、何もないところに向かってブツブツ呟いたりするタイプの子でした。
それでも見た目はかわいらしく成績もよかったらしいので、男子や教員には結構人気があったのですね。スイッチさえ入らなければ普通の子でしたし。


そういう子が同級生の女子からどういう扱いを受けるかは言うまでもないと思います。


彼女は中学時代から有名で、私も上級生の時から知っていました。ただそれはその電波っぷりというより、彼女の起こした事件についてでした。
A子によると、彼女は中学の時もクラスの女子にいじめを受けていたらしいのですが、そのいじめのリーダー格の子にSが刃向かったらしいのです。と言っても手を出したわけでなく、何か訳のわからない呪文を唱えただけだったらしいのですが。


まあそれだけならなんてことはなかったのですが、翌日そのリーダーの子が突風で倒れた木の下敷きになって大怪我をしたそうなのです。それ以来Sは「呪い」が使えると学校中で評判になり、誰も彼女をいじめなくなりましたが近づきもしなくなりました。中学生らしいうわさ話と言えばそれまでですが。



高校に上がっても地元の子はみんなSの悪評を知っていたので、誰も近寄らなかったらしいのですが、2年時のクラス替えで隣町の中学から来た女子達とS、そしてA子が同じクラスになったそうなのです。
その隣町の女子、まあ仮にB子とC子とします。A子によると典型的なクラスの女王タイプだったそうです。彼女たちにとってSは格好のターゲットだったでしょうね。

A子もSのことは中学時代から好きではなかったようですが、例の事件以降すっかり怯えてSには近づかないようにしていたそうです。ただ、B子とC子の命令には逆らえなかったというか、自分がターゲットになりたくなかったというか、まあ皆さんはわかってもらえるでしょうが。
そんなこんなでA子もいじめに加わらざるを得なくなりました。といっても内容は無視する、仲間はずれ、物を隠す、用事を押しつけるといったものだったらしいですが。

Sも今回は特に刃向かったりはせずただ耐えるだけだったらしいのですが、ある日体育の着替えの時にSの髪留めを盗って捨てたらしいんですね。A子が言うには何か生き物の形のような気味の悪い髪留めだったらしいんですが。
そうしたらSが突然半狂乱になったそうで、「お守りがない!――子様に顔向けできない!」と喚きだしたそうなんです。ちなみに――子様というのはA子もよく聞き取れなかったらしいのですが、よくSの独り言に出てくる名前に似ていたそうです。

滅多に反応しないSの慌てっぷりが面白かったのでしょう。B子とC子がさらになじったらしいのです。「ああ、あれあんたのだったの?何か気持ち悪いから捨てちゃった〜アハハッあんな気味の悪いのよくつけてられるよね。」みたいな感じで。
その時のSの形相を、A子は忘れられないそうです。「あの方達に…それだけは許さない」みたいなことを呟きながら、怒りというよりもっと冷え冷えとしてどす黒い顔をしていたとか。

そして最後にただこう言ったそうです。それは普段のSの声とは明らかに違うものでした。






        お ま え ら み ん な 祟 っ て や る






と。その日からSは学校に来なくなりました。







それから一週間ほど経つと、A子達に妙なことが起こり始めたそうです。物音や人の声といったよくあるものから、部屋に毎日カエルが入り込んでいるといったよくわからないものもありました。まあ田舎ですし不思議ではないんですが年頃の女の子には気持ちの良いものではないかもしれませんね。
それだけなら気味悪い話ですんだでしょうが、それだけではなかったのです。



3日前にA子とB子,C子に手紙が送られてきたそうなのです。それぞれ二枚ずつ、一枚は皆同じで訳のわからないことが書いてある手紙、そしてもう一枚は真っ赤な字でそれぞれ別のことが書いてあったそうです。


B子は「けんじゃへ」、C子は「やまへ」、そしてA子には「かみさまへ」と。

この紙をもらった後、3人が3人とも奇妙な夢を見たともいっていました。内容はそれぞれ違っていて、B子は金髪で傘を差した女性に襲われる夢、C子は天狗と河童の宴会の夢、そしてA子は柱に縛りつけられる夢でした。
それが妙にリアルで恐ろしかったようで、それ以降A子は完全に参ってしまったらしいのです。

A子は私にその赤い字が塗り込められた紙ともう一枚の紙を見せてくれました。その手紙にはいかめしい字でこんなことが書いてありました。




すみません Sです
わたしの かみさまがあなたたち を
のろってしまいました
たすかるため には
みを きよめて ください

とぎ汁を よういしてください
この紙に 酒をふきかけてからとぎ汁で洗います
しっかり あらったら 神社へいきましょう
えんを 境内にかいて 中心にかみをうめてください
にんげんに はみられないように

たいへんですが あなたならできます 
たすけてください みんなを
らいしゅう がおすすめ
れいが でてきたら
ようじん して




確かに気味の悪い手紙ですが、例の電波とやらが出てきたのだとしたらたいしたものではないなと思い、Sに連絡して謝ることを提案しました。するとA子は電話してもでないし、自宅に行ったら昨日から出掛けていて会えない、というのです。
すっかり怯えきってしまったA子に、私は何かあったらすぐ連絡すること、親御さんにはよろしく言って私もA子のうちに泊まるから今日は帰ってすぐ寝ること、明日一番に病院とSの所に一緒に行ってやるといって話をつけました。
紙については気味が悪いので私が預かることにして、私たちはA子のうちに向かいました。親御さんとも知り合いだったので、その晩は寝ずの番も兼ねてA子の両親と雑談をしていました。さすがに年頃の女性と同じ部屋に寝るわけにはいきませんでしたし。






しかしA子は姿を消してしまったのです。




朝部屋に行くと彼女はいませんでした。部屋にも窓にも鍵を掛けていたし、物音は何も聞こえませんでした。何かあれば声を上げるようにいっていたんですが、物音一つなかったのです。
A子の両親はすっかり狼狽し、警察にも駆け込みましたが、手がかりは掴めず、今も行方はわかっていません。
しかも警察で聞いた話ではB子とC子、そしてSも行方不明になっているそうです。一時期地元では「少女達の神隠し」として騒ぎになりました。





今まで霊だの神だの全く信じていなかった私も、さすがにこの事件には参りました。おそらくA子やその友人達を救えなかった罪滅ぼしなのかもしれません。Sももしかしたらその「かみさま」とやらの怒りに触れたのでは…彼女は私たちに何か伝えたかったのではと思うと辛い気持ちで一杯になりました。
せめてと思い、この地方で一番大きな神社に足を運び、Sが残したおまじまいを実行することにしました。そこは今では参拝する者も途絶え、神錆びた地という言葉がぴったりでした。
私はそこに住んでいる神様にひとしきり挨拶すると、書かれたとおりに紙を埋めました。
私にはどういう意味なのかさっぱりわかりませんが、こうすることで彼女たちが報われるならば、とのせめてもの思いです。

今度同じ物理学科の友人にまじないの意味を聞いてみたいと思っています。なんでも彼女はあやしげなオカルトサークルをしているらしいですし。
――神奈子様、大天狗様に引っ越しのご挨拶にいってきます。

――おおそうか、私は引っ越しの案内人にちょっと礼を言ってくるから帰るのが遅くなる。あと天狗への土産を忘れるなよ。

――はい、もちろん♪

――あと諏訪子は寝かしておいてやれ。贄があったと言え久々に力を使ったからな。
んh
作品情報
作品集:
20
投稿日時:
2010/08/22 13:03:45
更新日時:
2010/08/22 22:04:18
分類
産廃百物語
オリキャラ
ひっこしそば
ねこだいすき
1. 名無し ■2010/08/23 00:39:49
それぞれ手土産や贄になったか。
んでおまじない実行しちゃったのね…
2. 名無し ■2010/08/23 03:54:31
足のほうから千切りにしてひっこしそば打つまで見た
怖すぎる
3. 名無し ■2010/08/23 07:44:46
素敵な縦読みメッセージ。

Sちゃんは奇跡より呪いのほうが良く似合います。
4. 上海専用便器 ■2010/08/23 19:45:51
何だろう、普通に怖い
5. うらんふ ■2010/08/23 22:27:42
諏訪に生れるとこうなるのかなぁ・・・
6. 名無し ■2010/08/24 00:27:20
お憑かれさまでした的なアレかと思ったら( ;゚д゚)
7. 機玉 ■2010/08/24 23:46:40
ああ、神様に手を出したりするから……
タグのひっこしそばが読み終わったあとだと笑えてきますねw
8. 灰々 ■2010/08/27 04:17:59
洒落にならない怖い話風でスラスラ読めてしまいました。
やはり、いいものですね。
早苗とわかっているのに怖く感じてしまう。
皆、貢物になってしまったんですね……よかった。
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード