Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『今夜のおゆはん』 作者: んh

今夜のおゆはん

作品集: 20 投稿日時: 2010/08/27 12:35:27 更新日時: 2010/08/28 15:07:41
「咲夜、経血が飲みたいわ。」

紅魔館のお茶会は、例の如くレミリア・スカーレットの無理難題で始まった。
いつものように主の横に立つ十六夜咲夜は、鮮やかな手つきで紅茶を淹れると、ティーカップと共に主人へ言葉を差し出した。

「しかしお嬢様、以前経血は生臭くて好みでないと。」
「そんなことないわよ!それにパチェが言うには処女のは生臭くないんだって!」

鮮やかな手つきはそのままに、咲夜はレミリアの向かいで耽読するパチュリー・ノーレッジにティーカップを差し出す。

「まあ、本当ですか、パチュリー様?」
「確証はないわ。」

本の中から小さな声が返ってくる。続いてメイド長はケーキを切り始めた。会話の最中もその手を休めることはない。

「ただ本に書いてあっただけ。飲んだこともないし飲みたくもないわそんなもの。私は今度やる魔術の実験で欲しいだけなのよ、ない?」
「パチェ、この私を騙したのか?」

今日はレアチーズケーキである。瀟洒なナイフ捌きはできたてのホールケーキをたちまち三角形へと切り分けていく。等分ではなく、片方がわずかに大きくなるように。

「レミィが好物だって自慢したから言ったんじゃない、嘘つきはそっちでしょ。」
「うるさい!」

そして大きな方のケーキが主人の前へと置かれる。こうしないと機嫌が悪くなるのだ。

「大変申し訳ないのですが、現在『生きた』処女は屋敷におりません。」
「そう、別にいいわ、今度手に入ったときに知らせてちょうだい。」
「パチェはどうでもいい。私が処女の経血を飲みたいの!」

レミリアは頬を膨らませると、椅子に腰掛けたまま羽根と脚をばたつかせた。


「承知しました。できるだけ早く用意いたします。何か他に召し上がりたいものはありますか、お嬢様?」

指示に従うだけでは主人の機嫌は直らぬと踏んだのだろう。咲夜は間をおくことなくレミリアに問いかけた。



「ん、そうか?ならそうだな、じゃあ久しぶりに“正統”なやつを食べたいな。」

わがままな主人は悪戯っぽく笑みを浮かべながらケーキにぱくついた。チーズの爽やかな酸味と、血のソースのコクが口の中で溶け合う。

“正統”のところでパチュリーは思わず苦笑した。ようやく本から顔を上げると、そのまま咲夜に同情の視線を向ける。

「ご苦労様ね。」
「そんなことはありませんわ。では少し準備のため外出しますので。」

咲夜は落ち着き払った姿勢を崩さぬまま、音も立てずに茶器を下げる。


「ああ、そう、別に貴女のでもいいのよ?経血。」


パチュリーは正に部屋を出んとする咲夜にそう尋ねた。完璧なメイド長には珍しく、一瞬腕を組んで思案した後、瀟洒なたたずまいはそのままにこう返した。


「女性同士の交わりというのはこの場合どうなるのでしょうか?デモロギィ的に。」








紅魔館は今日も平和である。

















咲夜が博麗神社に着いたのはそれから1分も経たぬうちであったろう。晩餐に間に合わせるため、無駄な時間は使えない。


「あらメイドじゃない。お賽銭箱はあっちよ。」
「よう珍しいな、咲夜が一人で神社参りなんて。宗旨替えか?」


縁側には神社の巫女である博麗霊夢、そして霧雨魔理沙と八雲紫がいた。大体いつも通りの面子である。


「丁度良かったわ、紫さん、貴女に相談したいことがありますの。」

咲夜は二人の挨拶とも言えないような挨拶には答えず、その後ろでいつものようにスキマから上半身だけを出していた八雲紫に声をかける。

「お嬢様が“正統”な西洋料理を召し上がりたいとのことでして。」

紫は扇子でそっと口元を隠す。それでも彼女が笑っているのは明らかだった。

「あんたんとこのお嬢様のわがままも大概ね。今時そんなもの食べたがるの貴女達ぐらいよ。」


「主人のわがままは従者の愉しみですわ。」


咲夜は躊躇なくそう返した。一瞬気落とされたように紫の笑みが消える。そしてその姿勢に満足したのか、扇子をぱちりと閉じてまた微笑む。


「うちの式の口からもそんな言葉が出ないものかしらね。いいわ、私は持ってないけれど里にないか聞いてみましょう。」
「私もすぐに行きますのでお願いします。」






「そう、貴女達、今生理?」

二人の会話などそっちのけで縁側でくつろいでいた霊夢も、たまらずお茶を吹きだした。

「お嬢様が経血をご所望なのよ。」
「莫迦、早く里でも何処でも行きなさいこの変態。でないとぶっとばすわよ!」
「ああ、でも処女でないといけないらしいわ。基準となるのは破瓜の有無。だから女性同士でも――」
「あらぁ、じゃぁ駄目よおぉ。」

霊夢の威嚇などどこ吹く風といった感じで説明を続ける咲夜を、とっくに里へ行ったはずの紫の甲高い声が遮った。

「だって霊夢の破瓜はわたs――」

陰陽玉が強かに紫の笑顔にめり込んだ。

「うっさい!!おまえらでてけ!!」


「――なあ、ケイケツってなんだ?」


殺気立つ神社に響いたのは、あまりに無垢な魔法少女の疑問。魔理沙は発育が遅いのだ、なにもかも。

「はぁ…もういいわ。里で余計なことすんじゃないわよ。」

気を殺がれたのか、霊夢は手を降ろすとそのまま縁側に突っ伏した。

「別にたいしたものではないわ、魔理沙。後であの人形遣いにでも聞きなさい。それより貴女には別に取り寄せて欲しいものがあるのだけれど――」









里に着いた咲夜は、とりあえず必要な食材を買うことにした。紫は里の関係者と相談している頃だろう。

「あら、咲夜さんじゃないですか。」
「あ、いつかのメイドさんだ。どうもこんにちは。」


市場の真ん中にいたのは、いつだか縁起の編纂で顔を合わせた稗田阿求と、守矢神社の巫女である東風谷早苗だった。


「お久しぶり。ところで貴女達今生理?」

挨拶もそこそこに咲夜は二人に尋ねる。


「な、な、な、何言ってるんですか貴女は!」
「すみません。私は縁起の編纂を終えて儀式をしなければ子を産める体にならないのですよ。」

顔を真っ赤にしてたじろぐ早苗を余所に阿求は平然と答える。

「あらそれは失礼。そちらの巫女さんは如何?相手が男女関係なく破瓜をしていると駄目らしいから、あの神様達に寝込み襲われたりしてると駄目なんだけど。」
「八坂様も洩矢様もそんなことしません!!」

幻想郷では常識にとらわれてはいけない。日々そのことを痛感する早苗であった。

「あら優しいのね。まあいいわ、じゃあ処女なの?」
「それは、そうですけど…今は…ぁ…あの日じゃないです…」

消え入りそうな声を出す早苗の横から、ぬうっと現れたのは紫の上半身だった。


「あ、いたいた。咲夜、ごめんダメ、今は全然予定がないらしいわ。」
「困りましたわねぇ……」


さすがの咲夜も腕を組んで考え込んでしまった。ここが駄目となると後は地底あたりに聞いてみるしか――

「どうしたんですか?」

そんな瀟洒な困り顔を見て、つい先ほどまでしどろもどろしていた早苗はすかさず問いかけた。
些細な困り事にも相談に乗ることが信仰に繋がる。それが守矢の巫女のポリシーであった。

「いえね、こちらの屋敷で今晩夕食用に子供が必要なんですって。」

考え込むメイド長に変わって紫が答える。

「ああ、それで里の間引きの予定を聞いていたんですね。」
「そうなの阿求、貴女知らない?死にそうな子供とか曲子とか。」
「うーん最近聞きませんねぇ……」

里の有力者も知らないらしい。4人に重い沈黙が流れる。



外界から“食糧”を持ってくるのは主に紫の仕事だった。しかし紫が連れてくるのは「死ぬ価値のない人間」である。
この基準に赤子や幼子が含まれるはずがない。

故にそれらは幻想郷に住む妖怪達にとって滅多に手に入らぬ高級食材だった。




「山の加工場に行ってみてはどうでしょう。何かあるかもしれません。」
「何それ?」

この停滞した雰囲気を破ったのは東風谷早苗だった。なんとかして悩みを解決しなければ、守矢の威光を轟かさねば、という焦りがこの風祝を動かしていた。

「ああ、咲夜は知らないわね。外から持ってきた食糧をそこで捌いて卸しているの。妖怪の住処や里にね。」
「里にも?」
「ええ、縁起にも書きましたが、最近はこの里でも妖怪と人間が酒を飲み交わす機会が増えましてね……それで妖怪用にと欲しがるお店が出てきまして。」
「表向きの理由としては、里の客が酔っぱらった妖怪の肴にならないように、なんだけどね。そんな野暮なことする妖怪なんて幻想郷にはいないわ。大方そちらの方が儲かるんでしょうね。」
「まあこちらとしては信仰にも繋がって助かっているのですが……天狗や河童達も理由には呆れています。そういったどうしようもない嘘をつくから鬼神様に愛想を尽かされるんだ、って。」

紅魔館には契約上、外界からの食糧が優先的に直接届けられることになっている。故に咲夜もそういった新しい流通システムについては疎かった。

「ふーん。で、そこにはいそうなの?」
「はっきりとは。ただ、先日河童達に聞いたところだと、養殖するシステムがどうだとか言っていたので。」
「それは面白そうですね。次の縁起に追加したいところです。」
「なるほど、養殖ができるのならいてもおかしくないわね。紫さん、そちらにお伺いしても結構かしら?」
「山の施設は私の管轄外。ただ、そちらの現人神がいいって言うのなら大丈夫でしょう。」
「あら、では頼まれてくれるかしら?」
「はい、もちろんです咲夜さん!山のことは守矢にお任せ下さい!!」


早苗の明るい声が往来にこだました。














「おー山の巫女様と、あんたは確か紅魔館の…」
「ええ、紅魔館のメイド長をしております、十六夜咲夜ですわ。」
「今日もお疲れ様ですにとりさん。実はですね、こちらの咲夜さんが赤子を探していまして。」
「あー赤子かー。うーん。」

工場の入り口で二人を出迎えた河城にとりは、それまでの笑顔を一変させ、顔をくもらせた。


「こちらの巫女さんからね、養殖のことを聞いて来てみたの。」
「ああ、うん、人間の子供を養殖する、人工授精って言うらしいんだけどね、結構いい線まで入ってるんだけど……ただなんせ人間の赤子は育つまでに時間がかかる!十月十日だからね。今外から送られてくる数じゃあ、量産が軌道に乗るまでなかなか時間がかかるんだよ。」


にとりは頭を掻きながら二人に現状を説明をする。
芳しくない成果に流石の咲夜の顔にも先ほどまでの余裕は失せているように見えた。


   ――なんとかしなければ、このまま帰しては守矢の名が廃る。なんとか――



「あ、あの、そういえば、咲夜さんは時間を操る程度の能力でしたよね?なら、それを使えば――」

「「あ。」」

にとりと咲夜はまったく同じように口を開けた。



早苗は追いつめられるとできる子なのだ。










咲夜は月時計を手元で遊ばせていた。目の前には仰向けのまま転がされた全裸の女が一人。それは部屋に立つ咲夜や早苗と同年代のように見えた。
最早抵抗する意思すらないのか、虚ろな眼を宙に泳がせながらピクリともせず、二人の少女にあられもない姿を見下ろされていた。

「で、これは処女なの?」
「えーと、搬入時の簡易検査ではそうなっています。」

咲夜の問いに、にとりからもらった書類に目を通しながら早苗は答える。

「ま、採取前にこちらで確認しますわ。」

そう言うと、時計を巻き付けていた指をよどみなく『これ』の秘所に突き刺す。何の反応もなかった裸体がビクンと跳ねた。

「大丈夫そうね」

そしてそのまま指先に力をこめる。少なくとも早苗にはそう見えた。一瞬の後、咲夜は指を引き抜いてまとわりつく粘液を確認する。おりもので月経周期を確認しているのだろう。
もう一度指を入れ、ゆっくりと掻き出すと、朱に染まった体液がドロリと秘所から溢れ出る。

「無事とれましたね♪」
「ええ、とりあえず一つ確保ね。」
「それにしても器用ですね。体の一部だけ時間を進めることもできるのですか。」

手際よく経血をガラス瓶に入れると、再び指を突き立てる。

「まあ慣れればなんてことないわ。直接触れられれば楽なんだけどね。対象をイメージして力を送り込むというか。」

咲夜も同年代の娘に素直に感心されるなんてことはあまりないのだろう、珍しく饒舌だった。なんせ知り合いの人妖は皮肉屋しかいない。





その時後ろの扉が開いて、にとりが入ってきた。

「遅かったですね、何か問題でも?」
「いやすまない巫女様、なんせこっちに来る食糧はまともなのがいなくてね、種になりそうなのを探すのも一苦労さ。」
「健康ならば何でもいいわ。こっちは準備万端よ。ちょうど排卵日。」

指をハンカチで拭いながら咲夜は二人の会話に割り込む。にとりの後ろには全裸の男が下腹部を隆起させながら立っていた。

「こちらも準備万端さ。強精剤と興奮剤をかがせたしね。竹林の薬師のだから効きはバッチリさね。」
「副作用が心配ね。変な味にならなきゃいいけど。」

咲夜の一言に準備をしていた二人も思わず苦笑いをもらす。


「さ、そちらのもさっさと入ってあそこで転がってるのと子を為して下さい。にとりさん、準備できました?」
「ばっちりだよ。貴重な交配実験だからね、ちゃんとデータとらないと。」

早苗の事務的な指示に、男は全裸の女の方へ歩を進める。ただ絞められるだけだと思っていたであろう彼女は、突然の展開に思わず後ずさった。

「あー逃げちゃダメだよ、誰か――」

にとりが言うが早いか、咲夜は女を羽交い締めにして押し倒した。その首筋にはナイフが輝く。

「悪いけどこっちは時間がないの。さっさと終わらせてちょうだい。」
「種の方も早く。刃向かったりこっちに手を出したらどうなるかぐらいは理解しているでしょう?」


男は早苗に突き飛ばされるように女にのしかかると、怒張した陰茎をそのまま秘所へと押し込んだ。声を上げる間もなく処女を散らしたその女は、そのまま同年代の少女に見られながら知りもしない男に犯される。
男はかまわず腰を打ち付けはじめた。陰部同士が当たる音と漏れ出る吐息が部屋を満たしていく。


「すみません手を患わせてしまって。」
「構いませんわ。こっちが頼んだんだことですし。それより貴女も慣れたものね。もうすっかり順応してる。」
「まあ…最初はびっくりし通しでたけれど。でも私が一生懸命頑張らないと、八坂様と洩矢様のために。私はお二人にお仕えするために此処にいるんです。」


男が打ち付ける腰の速度が上がりはじめた。吐息も荒いものへと変わっていく。


「あの…咲夜さん、この実験が成功したら養殖技術の確立のためにお手伝い願えませんか?そうすれば――」
「残念だけど、それはできないわ。私が仕えるのはレミリア・スカーレットただ一人。山に協力する気はないわ。貴女ならわかるはずよ、守矢の巫女?」

咲夜にぴしゃりと言われた。ああ、この人は本当に骨の髄から従者なのだ。私はまだまだダメだなあ、と早苗は思う。


足下ではその動きがいっそう激しさを増していた。終わりが近いのだろう。


「ほら気を遣ってるんじゃないの。早く終わらせなさい。」

そう言って咲夜が男の尻を踏みつけると、そのまま腰をガクガクとふるわせながら男は絶頂した。

「あっ、終わったみたいですね。ちゃんと受精したかな。」

早苗が脚で男を引きはがすと、膣内に射精され小刻みに震える少女がいた。秘所からは紅白の液体が滴り落ちる。

「さてここからが本番ね。」

咲夜はその女の腹に手を当てると、再び力をこめた。するとみるみるうちに女の腹が膨れていく。まるで風船にボンベで空気を入れるように。

「やった!成功だ。」
「すごいです。やりましたね咲夜さん!」
「まだまだ、一気に出産まで持っていくわ。」

更に力をこめると女が呻きだした。どうやら陣痛が始まったらしい。データをとっていたにとりが慌てて産婆となり、腹の子を引きずり出した。産子の鳴き声が部屋にこだまする。

「いやはやたいしたもんだねぇ。」
「ほんとすごいです。」
「あと九つほど欲しいの。急ぎましょう。それぐらいの数ならこれももつでしょう。」


破瓜から五分も経たぬうちに子を出産した『これ』は涙とよだれでグシャグシャになっているようだった。













「本当にありがとうございました。」
「いやなになに、他ならぬ盟友の頼みだ。当然ってものさね。」

加工場の入り口で恭しく礼をする咲夜に、にとりも思わず礼で返す。

「貴女も本当にありがとう。今度近くに来たら是非お茶会にでもいらして。」
「いえ、私は何も…っていうか、さっきは思慮のないことをいってすみませんでした。」

自信家の早苗には珍しく、咲夜に深々と頭を下げ、彼女は続けた。

「私もいきなり命蓮寺にお勤めしろっていわれたらイヤですもん…あの、えっと、なんというか今まであんまり話す機会がなかったけれど、咲夜さんと話せてよかったです。カッコイイというか、仕える身の人間として憧れるというか…」

それこそ無配慮に思いっきり恥ずかしいことを言う早苗を前にいたたまれないにとりを置いてけぼりにしつつ、咲夜はこれまた珍しく満面の笑みで返した。

「ありがとう、でも私は悪魔の犬よ?巫女が憧れるのはお勧めしないわ。」
「あ、うぅ…そう言われると確かにそうかも…」
「ふふっ、貴女面白いわね、早苗さん。」

そう言って踵を返そうとしたメイド長は、何かを思い出したように足を止めた。

「そう言えばあの話、さっきは断ったけれど、考え直す余地はあるわね。」
「え?」
「幻想郷には相手に言うことを聞かせる、問答無用のルールがあるじゃない?」

そう言ってナイフとカードを出した咲夜は、すっかりいつもの冷えた、無慈悲な顔に戻っていた。


「そうでしたね…それが幻想郷の常識でした。私もまだまだ慣れていませんね。」

そう返してカードを提示した早苗の顔にも、すっかりいつもの不遜さが戻っていた。これこそが彼女たちの『会話』なのだ。




「では早苗が勝ったら私が加工場の手伝いをする。私が勝ったら――」














     


「すまないわね、後でお礼に肉をお裾分けするわ。」

10体分の赤子は、咲夜には大荷物過ぎた。運搬を手伝ってもらった非番の犬走椛にそう声を掛けて、咲夜は紅魔館に戻ってきた。

「美鈴、これ厨房まで運んでくれる?」
「お疲れ様です咲夜さん。すごい量ですねえ。」
「今日使うのは骨だけよ。肉は後でコンフィにして保存用にするわ。貴女達の夜食ね。」
「わあ、乳飲み子の肉なんて久方ぶりですよ。ご馳走だなぁ。」
「だからちゃんと番をなさいな。」
「はい!!あと咲夜さん、魔理沙から珍しく届け物がありました。」





そう、方々を飛び回ってメイド長が探していたのは赤子の骨なのである。悪魔の料理といえば人間の丸焼き、というのは誤解である。
もちろんそういった料理もあるが、あれは格下の連中に悪魔の権威を見せつけるため、あるいは食料の恐怖を喰って精神的満腹を得るための場合が多く、同格の悪魔同士や身内のご馳走は人間と似たようなものが多い。
というよりも、人間に調理技術を教えたのは悪魔なのだから、この表現は本来逆なのだが。

その悪魔がもたらした西洋料理において最も重要なのがソースであり、そしてソースの肝となるのがフォン、すなわち出汁である。仔牛の骨を使ったフォン・ド・ヴォーなどが人間の料理ではよく使われる。
大人の牛の骨をつかったフォン・ド・ブッフなどもあるが、繊細なソースのベースとしてはやはり仔牛が適している。
同様に伝統的な悪魔料理では、フォンに幼子の骨を使う。しかしここに大きな問題がある。幻想郷では先ほども述べたように子供は滅多に手に入らぬ食材であり、それ故本格的なフォンは滅多に作られず、代用品としてフォン・ド・ヴォーなどをそのまま使ったり、あるいは大人の人骨から作ったグラスドビアンを加えて風味を似せるといったことをする。



だが、やはり本格的なフォン・ド・アンファンの味には及ばない。







「さーて忙しい忙しい。」

そうは言いながらも、咲夜は手を休めることなく調理を行う。レシピは以前図書館で見たことはあったが、実際に作るのは初めてであった。


・まず、骨にこびりついた肉を丁寧にこそげ落とし、同じく肉を取った腱と共に、オーブンで焼く。
・途中何度か余分な油を捨てながら、焦げつかないように注意してローストする。
・続いてミルポアを切って骨とは別にオーブンで焼く。今回は紅魔館の庭で育てたセロリ、ネギ、ニンジンを使った。この焼き色が、フォンに色と深い味を加える。
・焼いた骨とミルポアを一旦上げ、焼いた鉄板に水を入れて肉と野菜の旨味をこそげ取り、骨と一緒に鍋に入れ水から煮る。
・沸騰したら火を弱め、トマトとミルポワを加えて、灰汁を丁寧に取りながら、時おり熱湯を加えつつ半分ぐらいになるまで煮込む。
・ニンニクを入れることもあるが、吸血鬼用なので今回は使わない。また、フォンには普通ブーケガルニを入れるが、悪魔にハーブは縁起が悪いのでここでは入れないことにする。
・煮込んだら丁寧に濾す。これで一番フォンの出来上がり。続いて二番フォンを作る。
・別のミルポアを炒め、先ほどの一番フォンで濾した残骸を水から煮て、さらに新しく炒めたミルポアを入れ、灰汁を丁寧に取りながらじっくり煮込む。
・やはり丁寧に濾して二番フォンの出来上がり。一番フォンと二番フォンをあわせてから煮立ててなじませ、フォン・ド・アンファンの出来上がりとなる。


ここまで大体2日ほどかかる。もっとも咲夜は時間を止めていたので、傍目にはすぐできたのだが。

倉庫から肉を取り出す。1週間前に絞めた処女の肉だ。やはり食べるには若い、子供を産んでいない女の肉が一番良いらしい。今回は臀部に近い腿肉をシンプルにソテーする。

続いて魔理沙が持ってきた袋を空ける。芳醇な香りと共に、黒い塊が転がりでた。

「いいトリュフね。やっぱりキノコは魔理沙に限るわ。」

刻んだトリュフを炒めてからマディラ酒を入れて香りを移しながら煮詰め、更に先ほど作ったフォンを加える。仕上げにバターと血液でとろみをつける。
バターも当然人の母乳から作ったものだが、なにせ母乳は量が採れないため、これも超貴重品である。加工場で無理を言って分けてもらったものだ。



















「おーい咲夜、今日のメイン・ディッシュは何かな?」

ワイングラスを傾かせながら、意地悪い笑みを浮かべたレミリアは、答えのわかった問いを咲夜に投げかけた。

「お待たせいたしました。処女肉のソティ・ソースペリグー、ポム・ギャレットを添えました。」

言葉とともにクロッシュが外される。白い皿の上には深いブラウンのソースをまとったピンクの肉が佇んでいた。黒い粒がアクセントとしてその赤を引き立たせ、その後ろにそびえ立つ三角形のガルニチュールが料理に奥行きを与える。
それは見ただけで完璧なものであることを示しているようだった。

満足げに微笑んだ紅魔の主は、咲夜の作品にナイフとフォークをあてる。そっと撫でただけで切れた肉は、そのままレミリアの口の中に進んでいった。それは舌の上ではらはらとほぐれ、ソースの香りが鼻腔を優しくくすぐる。
いつもの饒舌さが嘘のように、レミリアは言葉なくふた口めを運ぶ。ただ聞こえるのはナイフとフォークが踊る音だけ。この静寂こそ主人による従者への最大級の賛辞であることを、同席したパチュリーもよくわかっていた。



なぜなら彼女もまた言葉のために口を使う気にはならなかったから。











「しかし――」

あっという間に料理を平らげたレミリアは、ナプキンで口を拭いながら、久方ぶりに声を出した。

「このフォンは新生児からとったな?少し風味が軽すぎる。フォンをとるには2,3才のものが一番良い。よく覚えておけ咲夜。」
「はい、申し訳ありません。」
「あら、私はそうは思わないわ。」

皿に残るソースを丁寧にパンで拭い取りながら、パチュリーはいつものようにレミリアに噛みついた。

「このトリュフは魔法の森で採れる、最高の質のものであるけれど、ヨーロッパ産の『トリュフ』ではなく、いわゆる西洋松露。東洋の地で育った松露はやはりトリュフの持つ鮮烈な香りには及ばない。それに合わせてソース・ペリグーを作るとしたら、この骨の選択はベストと言えるわね。」
「それにこのポム・ギャレットにはあらかじめ白ワインでのばした脳みそで下味が付けてある。仕事が細かいわね。このガルニチュールと併せて食べることで、軽いソースにコクが加わる。全体のバランスとしても申し分ないわ。」

「相変わらずパチェはグチグチとうるさいなあ。」
「あら、最初にうんちくを垂れたのはレミィ、貴女よ?無駄なことを喋る暇があったら、濃い味にしか美味しさを感じないそのお子様舌をまずどうにかしなさい。」
「ふんだ、パチェなんかどうだっていい。それより咲夜、こんな新鮮な新生児が手に入るのなら、一ついい料理を教えてやろう。」

レミリアは今日一番の顔して、咲夜の方を向いた。メインの後のチーズがテーブルの上へと並べられていく。

「まず生きた臨月の女を用意する。膣から塩と胡椒を擦り込んだら、開かないようにしっかりと穴を縫いつけて塞ぐ。そしたら遠火でゆっくり生きたまま妊婦を焼くんだ。すると中のガキが羊水で蒸し茹でになる。これが実にうまい。新生児を食うにはこれが一番だな。」
「まあ美味しそうですね。」
「ほんとレミィってそういう豪快で仰々しい料理が好きね。」

ワインを片手に皮肉を言うパチュリーを無視して、レミリアはフォークに刺さったチーズを振りながら饒舌に続ける。

「コツは縫い方と火加減だ。ギリギリまで母体を殺してはならないが、破水をしたら意味がない。確か図書館にレシピがあったはずだからパチェ、探しておいて。」
「私はどうでもいいんじゃなかったの?」
「わかりました。是非次回のパーティーで振る舞いましょう。皆さん喜んで下さいますわ。」
「うんうん、そうしよう。頼むぞ咲夜。」

まるで子供のような一杯の笑顔を振りまいて、主人は従者の名を呼んだ。素晴らしい料理は素晴らしい笑顔をもたらす。従者としてこれほどの愉楽はない。






「しかしながらお嬢様…なぜこのような料理をご所望で?他にもお好きなものはおありですのに。ハンバーグとかオムライスとか。」

突然の咲夜の質問に、先ほどまでの笑顔を歪めたレミリアは目をそらしたまま答えない。横にいたパチュリーはニヤニヤと笑みを浮かべながら友人をこづいた。

「ほら、何照れてるの。早く言いなさいよ。」

尚も口を真一文字につむんだまま答えぬ主人に小首を傾げるメイド長。その姿に耐えきれなくなったのは魔女であった。

「この料理ね、実は妹様の好物なのよ。最近遊んでやってないからってレミィがね――」
「うるさいうるさい!!まったくパチェはホントおしゃべりだな…」

肘をついて大声を上げるレミリア。

「まあまあ、そう言って下されば、晩餐にお呼びしましたのに…」
「大方目の前ではこっぱずかしいんでしょ。夜の王が聞いて泣くわ。」
「あらあら、では冷めないうちに早速フランお嬢様の所へお持ち致しますわ。お嬢様からとお伝えして。」
「咲夜ものるな!くそまったく…それよりデザートはまだか!」

顔を真っ赤にしてテーブルを指で叩く夜の王の前には、いつの間にかデザートが差し出されていた。

「新鮮なフルーツにシャンパンと経血のジュレを浮かべました。ミントを効かせてよく冷やしましたので臭みも気にならないかと。」
「お、経血あったのか!!やっぱり咲夜は使えるな!処女のか?」

くるくると表情を変える愛しい主人に対して、完全で瀟洒なメイド長はいつもと変わらぬ口調で答えた。


「はいもちろん、処女の現人神のものにございます。」












紅魔館は今日も平和である。
百物語お疲れ様でした。皆様お世話になりました。
他の方々の作品を読んで即興で飛び入りしたことを悔いました。

勢いを借りて書きかけだったものをまとめてみました。ほのぼのガールズトークを書こうとしたら早苗さんが負け犬になってた。あと特に詳しいわけではないので料理のところはけっこう適当です。

8/28*誤字修正しました。指摘ありがとうございます。
んh
作品情報
作品集:
20
投稿日時:
2010/08/27 12:35:27
更新日時:
2010/08/28 15:07:41
分類
咲夜
紅魔館
早苗
他多数
レシピ付き
1. おうじ ■2010/08/27 22:39:32
脱帽。良い意味で。
2. 名無し ■2010/08/27 23:04:01
時間進めて赤ん坊を作ったとしても栄養不足で育たないんじゃね?とかふと思った
あと蓬莱の薬使えたら色々と楽になりそうだね
3. 名無し ■2010/08/27 23:39:15
妖怪と人間の価値観の違いが面白い。メイド長は妖怪側で。でもにとりには盟友扱いされてる辺り、それなりに信頼されてそう。
現人神のは、食べると頭を壊しそう。

>故にそれらは幻想強に住む妖怪達にとって
幻想郷
4. 名無し ■2010/08/28 01:20:57
すっかり幻想郷に染まった早苗さんが珍しく活躍した話でした。

よくこんなグロいシチュエーションを軽快な読み口に仕上げましたね。
あなたはシェフですか?
5. 名無し ■2010/08/28 02:19:51
まさに妖怪
6. 名無し ■2010/08/28 04:32:26
こりゃすげえ
7. 上海専用便器 ■2010/08/28 08:30:57
早苗の経血………じゅるり
8. 名無し ■2010/08/28 09:05:19
ちんこおっきした。
9. 名無し ■2010/08/28 12:00:23
読んでてお腹が空いて来た
10. 名無し ■2010/08/28 19:32:21
>魔理沙は発育が遅いのだ、なにもかも。
吹いたw
早苗さんもいい感じで和んでるなー、経血取られちまったがw
11. 名無し ■2010/08/28 22:00:51
久しぶりにココに来たら
このクオリティだよ!!
12. 名無し ■2010/08/29 23:41:46
まいったなぁ。涎が出てきた。
文章が上手いってのもあるけれど、
赤子の蒸し茹でがすごく美味そうに感じてしまったよ。
13. 名無し ■2010/08/30 16:59:03
無性に洋食が食いたくなった
14. 名無し ■2010/08/30 19:55:49
腹減ったお
15. 名無し ■2010/08/31 23:33:20
こないだフランス料理本読んだがあれは解らんね謎過ぎる
悪魔が教えたはなるほど

全面的にごろごろ喉を鳴らして纏わり付きたくなる。アルコールのようで酩酊する大好きだ
が、まだ確信的じゃないのかしらという雰囲気も
16. 名無し ■2010/09/04 09:57:40
言葉にならない。
なにもかも最高に俺得でした。ありがとう。
17. 名無し ■2010/09/13 21:25:01
何かおなか減ってきたな
18. 名無し ■2010/10/05 21:09:03
理系としては、にとりの技術力にゃぁ脱帽
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード