真夏日にはクーラーを、熱帯夜にはモヒートを

作品集: 20 投稿日時: 2010/09/23 03:15:05 更新日時: 2010/09/25 21:19:15
 蝉の鳴き声が五月蠅く、開けっ放しの戸から見える中庭には陽炎が昇っていた。降り注ぐ太陽光線は殺人的で、暖められた大気はそれこそ湯のように暑く、いるだけで体力と水分を無駄に浪費させてくる。

「あつい…」

 こうなると動くことすらできない。
 博麗霊夢は畳の上に、上着を脱いだだらしのない格好で寝転がり、虚ろげながらも恨めしそうな瞳を外へ向けていた。

 体中からは汗がとめどなく溢れている。胸に巻かれているさらしは湿り気をおび、首筋には触れれば手をべったりと濡らすよう汗が浮き出ている。畳にそれが染みこんでいた。
 ちゃぶ台の上には真鍮の水差しとコップが置かれているがどちらも空だ。水分補給にと飲んでいたが、ものの一時間ほどで1リットル近い水は全て霊夢の身体の中へ、。お代わりを井戸まで汲みなおしに行く体力とやる気はなかった。

「あつい…」

 もはや、何十、何百回目の意味のない吐露をついて、あう、と気怠げに寝返りを打つ。頬に畳の痕がついていたが、そこも汗で汚れていた。

「水浴び…ううん、氷風呂に入りたい気分…」

 久方ぶりにあ、と、つ、と、い、を続ける言葉以外を口にし、霊夢は目を瞬かさせた。汗で汚れた身体を洗い流し、冷たい風呂につかるという涼しげなイメージが浮かぶ。
 と、霊夢は唐突にがばちょ、と身体を起こした。

「そうだわ。アレなら…」

 どうやら何か思いついたようである。












――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――









「やった、十匹目〜♥」

 この夏の盛りでも子供たちは元気である。
 河原ではしゃぎ、野山を駆け巡り、泥だらけになりながら日が暮れるまで遊んでいる。それは精神構造が子供と同じぐらいの妖怪や妖精連中も一緒でいつもつるんでいる大妖精たちは網を片手に、首から籠をぶら下げ山でセミ取りをしていた。

 狭い籠の中にひしめくように入れられている蝉を更に追加してご満悦の大妖精。じじじ、と蝉たちは抗議の声を上げている。

「わっ、すごいね。一杯だ。でも、私の勝ちだね」

 そう言って大妖精に近づいてきたのはミスティだ。こちらも籠の中には蝉がひしめいているが一匹、違う虫が入っている。

「ほら、でっかいカブトムシ。そこの楢の木のところでとったんだ」

 自慢するよう見せつけてくるミスティ。大妖精は、わぁ、すごいね、と目を輝かせ、籠の中でぎちぎちと動いている黒光りする甲冑を着込んだ虫に見入る。

「二人とも虫取り上手だね。僕はやっぱり、あんまりだなぁ」

 虫たちを一杯詰め込んだ籠を見せ合っている二人の所へリグルがやってきた。こちらは言うように籠には申し訳程度に何匹か虫が入っているだけだ。

「残念」
「うーん、立場上、どうしてもね。あ、でも」

 そう言って虫かごを開けて中から一匹、虫を取り出すリグル。それを見てわぁっ、と大妖精とミスティは声を上げた。

「おっきなオニヤンマ」
「へへへ、こいつを捕まえるのに時間がかかったんだ」

 リグルに捕まえらればたばたと大きな羽をばたつかせる大型の蜻蛉。殆ど目だけの頭を小刻みに動かして、暴れている。

「あっ!」

 と、リグルの捕まえ方が悪かったのか、蜻蛉はその手を逃れ天高く飛び上がって行ってしまった。

「残念」
「へへへ、逃げられちゃった」

 逃げ出した蜻蛉が見えなくなるまで見送るよう、視線で追い続ける三人。

「この子たちも後で逃がしてあげようね」

 籠を抱えたままそういう大妖精。ミスティもリグルもうん、と頷く。

「そう言えばチルノちゃんは何を捕まえたの?」

 そこで大妖精はまだ虫取りの成果を聞いていない親友に話を振った。あの氷精はいつもこう言う場合、ヘンな見慣れない虫を捕まえてきたり、逆にまったく捕まえられなくて大声で泣き出したりと話にオチをつけてくれる。ある意味ではそんなことを期待して、そう大妖精は話を振ったのだが…

「あれ? チルノちゃん…?」

 いつもそこに当然のようにいるあの青髪の妖精の姿がない。きょろきょろと三人は辺りに視線を向けるが野原にも木陰にも、橋の下にもその姿は見当たらない。何処に行ったんだろうと辺りを手分けして探してみるがその姿は煙のように消え失せていた。

「チルノちゃん…?」

 日は高く、気温は午後にかけてまだ上がりそうな気配を見せていた。












――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










―――!?




 チルノが目を覚ますとそこは水中だった。いや、彼女がその事に気がつくまではもう数秒を有する。
 全身を覆う圧迫感。大気とは明らかに違う圧力。曇った音に歪んだ視界。けれど、それらの情報を処理を処理するより先に鼻と口から入り込んだ水が肺を浸し、生命の危機を感じさせた。

 もがき、あばれ、何とか水面から顔を出すチルノ。運が良かったのは彼女がうつぶせに沈められていたと言うことだった。檜の床板を押し、大量の水を押しのけながら身体を起こす。酸素を求めるより先に肺に溜った水を咳き込んで吐き出した。

「な、なんっ…!?」

 そうして、久方ぶりの一呼吸をした瞬間。またもチルノは水中へ没した。後ろから押さえつけられたのである。
 水をはね飛ばし暴れるチルノ。だが、押さえつける力はぞんがいに強く、いくら暴れても再び空を拝むことはなかった。肺に入り込んだ水を吐き出そうと横隔膜も命一杯暴れる。それのせいで閉じていた口が開かれ、肺にも胃にも出鱈目にまた水が流れ込んでくる。最悪循環。目の裏の神経が軋みを上げ、三半規管に流れ込んだ水が嵐のような音を立てる。足りなくなった酸素に頭がぼうっとし始め、暴れる腕から力が喪われ始めたところで…

「ッあ…がはっげほっごほっ…」

 頭を鷲づかみに、無理矢理水面から引き上げられた。
 激しく咳き込み、内臓に溜った水を吐き出す。今度は少しだけ長い。けれど、それを確認している余裕はまるでなかった。空気以外は全て異物と捉える肺が酷く痛み、何度も咳き込んだせいで声帯と喉が傷つく。こめかみに引き絞るような痛みが走り、血走った目はとめどなく涙を流している。

「げほっげほっ、れ、霊夢?」
「や」

 それでもチルノは何とか我を取り戻し、自分を沈めたのが誰なのかを知って…

「っ!?」
「もうちょっとかな」

 また、また、沈められた。
 
 今度はチルノは闇雲にもがくのではなく、自分の後頭部を押さえている霊夢の腕に掴みかかった。爪を立てひっかき、何とか引きはがそうとする。背中の羽も無造作に動かし、底板を蹴り飛ばし、暴れ回る。

「あっ、ちょ、じっとしなさい!」

 霊夢の怒声も聞こえない。瞬間、弱まった力に散るのは眼を瞑ったまま何とか頭を上げる。酸素、酸素。頭はもう、息をすることで一杯だった。その頭を…殴打される。火花が散る。星が飛ぶ。悲鳴の代りに出たのは水混じりの咳だった。そうして、ひるんだ隙にまた沈められる。難易度アップ。チルノの幼い身体をまたぐような格好になった霊夢は両手を使って沈めにかかる。反撃封じに片腕を押さえつけ、もう片手で後頭部を真上から押体重をかけて押さえつける。床板に顔を押しつけられる。水圧が鼓膜を圧迫する。ごぽごぽとチルノの鼻から気泡が幾つも立ち上っては水面で爆ぜ消えた。チルノの腕を押さえつけている霊夢の手から血が、水の雫と一緒に水面へ落ち、消え広がる。引掻かれた痕だ。泡と血。沈める者と沈む者。制止と止。死。ぐったと、押さえつけていた腕が暴れなくなったところで霊夢はチルノを押さえつけるのをやめた。代りに今度は助けるよう、水底からチルノの身体を引っ張り上げる。

「えほっ…えほっ…」

 力なく咳き込むチルノ。霊夢はそのままチルノのぬれ雑巾のようにぐったりとしている身体を湯船の外へと押し出し、板張りの床へと投げ捨てる。湯船、そう、ここは博麗神社の風呂場だ。檜造りの風呂桶には湯の代りにぬるい水が張られ、チルノが暴れたせいか床や壁はすっかり濡れていた。
 追いかけるよう霊夢も湯船から上がる。その格好は真っ裸で、そうして…

「ん、こっちの具合もいいわね」

 股間からは肉棒がその存在を誇示するよう、鎌首を持ち上げる蛇よろしく、角度を持っていた。巫女の力、神卸には肉体変化を伴うものもある。剛力を得たり、鷹の目を授けられたり、立派な魔羅をそそり立たせる事もできるのだ。

「はぁはぁ…」

 力なく床の上に身体を横たえているチルノ。呼吸は速く、時折、思い出したように咳き込み、飲み込んだ水を吐き出している。その格好も真っ裸。攫ってきた後、チルノが気を失っている間に霊夢が脱がしたのだ。その後、霊夢は気絶しているチルノを冒頭のように湯船の沈めたのだ。酷い仕打ち。いや、それはこれから始まるのだ。子供のようにまだ華奢なチルノの裸体を見て、霊夢の股間のソレが鎌首を持ち上げるよう、角度を上げる。堅さを増し、鈴口からは淫水がその雫を垂らし始めている。多淫も卸した神の力だ。霊夢は唇の周りを舐めるとチルノの側に歩み寄り、そうして…

「ッ!? ゲホッ!! えホッ!?」

 そのお腹を蹴りつけた。身体をくの字に折り曲げ、激しく咳き込むチルノ。

「じっと…って言わなくても暴れる元気もないわね」

 言ってチルノの身体を仰向けに、両足を広げさせる。溺れ、蹴られ、チルノは既に抵抗する気力を失っていた。湯船に沈めたのはその為だ。蹴りつけたのは余分な動作だったが、股間から滾る獣欲は暴力も発露先になっているのだ。
 両足を広げられ、未成熟な女性器をさらけ出されるチルノ。スリットは当然無毛でぴったりと閉じられている。そこへ霊夢は自分の暑く滾る剛直を押し当てた。淫水がチルノの冷たい肌にぬるり、と張り付く。

「霊夢…何すんだ…」

 首だけを起こし、涙の浮いた瞳で霊夢を睨み付けるチルノ。それが精一杯の抵抗だった。無駄よ、と応える代り、チルノの質問に霊夢は行動を持って応えた。

「!?」

 みちり、と剛直の切っ先が無理矢理押し込まれ、チルノの固く閉ざされた陰唇を押し割る。幼いそこは狭く固く、まだどう見ても雄を受け入れる様をなしてはいなかった。否、だからこそ無理矢理だ。皮膚が裂け、血が流れ出す。それも潤滑油に、ゆっくりとゆっくりと霊夢は木の根が時に巌の隙間を押し割る事があるようにチルノの膣孔へと剛直を押し入れていく。

「やめ…痛い、痛いよぉ」

 泣いて懇願するチルノ。けれど、霊夢は止めようともしないし、その言葉に耳も貸さない。その幼い身体を乱暴に犯していく。やがて突き入れた剛直が止る。入っている部分は親指の長さほど。霊夢の股間部分から生える剛直の長さがそれだけしかないのではない。チルノの身体がそれだけしか迎え入れることができないのだ。
 鈴口から溢れる淫水と破瓜の血に濡れた剛直が引き抜かれ、それで終わりかとチルノは身体を痙攣させながら啜り泣く。見開かれた目には僅かに安堵の色が浮かぶ。その希望をぶちこわす。

「あうっ!?」

 二度目の挿入は開拓済みだからか、勢いづいていた。一度、男を受け入れたそこは曲がりなりにも道が整備されているよう、多少はスムーズに霊夢の剛直を受け入れている。最奥のそここそはまだまだしっかりと閉じられている壁に切っ先がぶつかり、チルノの腸を内側から押しつぶし、それ以上はどうやっても挿入らないと言ったところでまた引き抜かれる。三度目の挿入は更に円滑に行われた。四度目も、五度目も。突き出す速度は上がり、身体が揺さぶられる度にチルノは短く力ない悲鳴を上げる。ずちゅりずちゅりと血と淫水が混じったものが泡立ち、床板のつなぎ目に沿って流れる。繰り返される出入。淫猥な水音と霊夢の激しい呼吸、チルノの短い悲鳴が風呂場の壁にこだまする。

「やめて、やめてよ…いたい、いたい、霊夢っ…」

 チルノの懇願も耳に遠い。
 いや、

「止めて欲しい?」

 霊夢はチルノに顔を寄せるとそう囁いた。その間も腰の動きは止らず、すすり泣きに合わせるようチルノの身体を震わせている。

「う、うん」

 霊夢の言葉に小さく頷くチルノ。霊夢はそれに満足したのか、そう、と口にする。

「じゃあ、なんでも私の言うことを聞く」

 頷く。

「いいわ、だったら―――出したら終わりにしてあげるわ」

 えっ、とチルノが声を上げるが早く、霊夢はその幼い身体を抱き上げた。腋の下に腕を通し、まるで幼子に高い高いをするような格好にする。霊夢の股の肉棒は切っ先だけがチルノの陰唇を割っている形。そうして、そのまま霊夢は…チルノの身体を落とした。

「!?」

 声にならない悲鳴。今度こそチルノは剛直で完全に貫かれる。固く閉ざされていた子宮口を破るよう剛直の切っ先が突き刺さり、最奥の更に奥まで進入する。そのタイミングで霊夢は自分につけられた新しい器官から迸るような快感を覚えた。背筋を駆け上り、直接脳髄を蕩けさせるような快感。

「っ、イく…」

 顔をしかめさせる霊夢。チルノを串刺しにした剛直が爆ぜたのだ。肉厚に押しつぶされながらも狭い尿道を白濁液が駆け上り、勢いよく鈴口から迸り、チルノの胎内を汚濁で満たす。あつい、と力なく身体を震わせながら呟くチルノ。腰を浮かすよう、剛直の先をチルノの中へねじり込んだ霊夢は作られた精を全て出し終えると、そのまま無造作にチルノの身体を投げ捨てる。ぞぶり、と引き抜かれた萎えた男性器は白濁と血に汚れていた。

「じゃあ、しっかりと働いて貰うわよチルノ」

 返事などあるはずがなかった。








「きもちイイ〜」

 幸せそうな呆けた顔を浮かべ、霊夢は湯船に身体を横たえていた。風呂桶の縁に腕を置いてふんぞり返っている。対面にはチルノが。まるで借りてきた猫のように大人しく、膝を折り曲げ三角座りをしている。

「一発ヌいた後の風呂は格別ね。特に今日のは冷たくて気持ちがいいわ」

 そう言って湯船を掬い、それで顔を洗う霊夢。湯船、と書いたが風呂に張られた水は井戸から汲み上げてきたばかりのように冷たかった。
 さっぱりとした面持ちで霊夢はそのまま鼻歌なんぞを歌い始める。

「む、チルノ。ぬるくなってきたわよ」

 暫くして、霊夢はそう言いながらチルノを足で小突く。びくり、と驚き身を小さくさせるチルノ。足の間を固く閉じ、霊夢から少しでも逃れるよう、身体を横向ける。その様子が小動物を虐めているみたいで面白かったのか、霊夢はサディスティックな笑みを浮かべると足を伸ばし、チルノの股の間を突いた。霊夢によって処女を散らされたそこには治癒の札が貼り付けられていたが、まだまだ痛むのか、その周りは赤く腫れていた。そこを重点的に霊夢は攻める。先ほどの非道な行いをチルノに思い出させるために。

「ほら、もうちょっと冷たくしなさい」
「わかったよぉ。だから痛いのはやめてよ…」

 覇気なく応えるチルノ。それでも霊夢は小突くのを止めなかった。ううっ、とチルノは肩をちぢこませ、震える。頭の悪いチルノでもだいたい分かってきた。霊夢は下手な言い訳よりも実際に行動で示さなければ納得しないタイプなのだと。

 チルノは背中から生える水晶を思わせる形の羽を少しだけ広げると、ぎゅっと強く手を握った。その様子を魔道や呪術に心得がある者や魔眼持ちが見たのならば青い輝きがチルノの身体から溢れ出てくるのを捕らえることができるだろう。それは冷気。水を凍らせ、気温を下げ、弾幕を固める停止する分子運動だ。



『冷気を操る程度の能力』

 連日の暑さに参った霊夢はチルノのその能力に目をつけた。
 冬場なら忌み嫌われるその力も、この暑さでは逆に天からの恵みに思える。霊夢はこの夏を乗り切るため、言うなればクーラーとして使うためにチルノを攫い、そして更に言うことを聞かせるために、馬鹿で自分勝手なこの子でも従順に言うことを聞くようにさせるため、あんな酷いことをしたのだ。

 効果は覿面だったようだ。今ではチルノは霊夢に対し何かしらの反対意見を思い描くことさえできなくなっている。聞き分けの言い従順な氷精/ボタン一つで冷気を吐き出すクーラー。そこに違いはあまりない。むしろ使い勝手で言えば前者の方が上だ。チルノが少し力を使っただけでぬるくなった風呂の水は山間から流れ出てきた川のように冷たくなった。いいわぁ、とだらけた様子で霊夢は肩まで冷たい水風呂に沈める。

「あ、そうだ。これも冷やして」

 そう言って霊夢は手を伸ばし、風呂場の隅に置いてあったガラス瓶を取り出す。中身は無色透明な液体だが水ではない。お酒だ。霊夢から酒瓶を受け取ったチルノはそれを風呂の水より冷たく冷やす。瞬く間に上等の日本酒が冷酒で出てくる。チルノから酒瓶を返して貰うと霊夢はこれまた涼しげな氷を思わせる作りのグラスに酒をとくとくと注いだ。
 そして一献。
 氷のように冷たい液体が喉を伝わってお腹の中まで流れ落ち、そうして、遅れて思い出すようにアルコールの熱がその流れた後に浮かび上がってくる。二度の温度変化は普通の飲物では味わえない何とも奇妙な飲み心地で、酒の旨さも相まって霊夢を良い気分にさせた。



 夏の暑い日の午後に水風呂に浸かりながら一杯。最高の贅沢だった。











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――








 それから一頻り酒と行水を楽しんだ霊夢はいい加減、身体がふやけてきたのを感じ取り、風呂から上がることにした。丁寧に身体を拭い、ついでにチルノの身体もぞんざいに拭いてやり、下着を身につけただけの格好で脱衣所から出て、廊下へ。チルノにもいつものワンピースを着せてあげたが、下は御札を貼り付けているだけだ。

「うわっ、暑い…」

 外に出るなり霊夢は悲鳴のような声を上げた。チルノのお陰ですっかり冷えて秋口か春先の様をしていた風呂場とは違い、廊下は季節通り、夏の暑さを湛えていた。
 せっかく冷たい水で洗い流した身体から絞るように汗が滲み出てくる。これは溜らんと霊夢は今一、自主的に動かなくなったチルノの手を引いて居間へと戻った。

「ひぃぃ、暑い。暑いわ」

 西日が差し込む居間の暑さは廊下の比ではなかった。まるで、鉄でも溶け出してしまいそうな暑さが立ちこめているよう。室内なのに陽炎の幻覚を見てしまうほどだ。霊夢は暑い暑いと分かりきったことを連呼しながら障子や襖を閉め始める。

「霊夢?」

 暑いのにどうして、とチルノが訪ねる。障子と襖、全てを閉じ終えた霊夢は空っぽになった水差しを手にまた廊下へと戻ろうとする。と、霊夢は入り口にぼうっと突っ立ったままのチルノにすれ違い様にまた命令した。

「ちょっと水を汲んでくるからその間に、部屋を涼しくしておくのよ。わかった」


 きつく言いつけて、霊夢は部屋を後に…しようと半歩、廊下へ足を踏み出したところでまた部屋の中へ戻る。

「ああ、そうそう。ちょっと手、出しなさい」
「?」

 そう言われ、チルノは霊夢に自分の腕を差し出す。霊夢は細い手首を無造作に掴むと、それを障子の取っ手の所まで引っ張った。いつの間に貼り付けたのだろう、そこには赤い御札が貼られていた。霊夢はチルノの手を御札に近づけ、そして、指先の綺麗に切られた丸い爪が御札が触れるか触れないかまでの距離に近づいた瞬間、御札はばちりと乾いた音を立て、火花を散らせた。驚き、霊夢の手を振り払って腕を引っ込めるチルノ。一秒経って、指先の痛みと共に失敗したとチルノを恐怖が襲ったが、霊夢は怒り、腕を振り上げるような真似はしなかった。代りに出来の悪い…いや、本当に出来が悪いのだが、出来の悪い生徒に半ば諦めながらも物事を教えようとする教師のように火花が散った理由を説明した。

「いいこと。部屋の障子と襖には全部、簡単に開けられないよう結界用の札を貼り付けてあるから、逃げられないわよ。分かったら、大人しく部屋を涼しくしておくのよ」

 確かに見れば部屋の四つの壁、縁側に通じる障子にも隣の部屋とを区切っている襖にも全て火花を散らせたものと同じ赤い御札が貼り付けられていた。一見、簡単に飽きそうに見える襖たちは今は電流を流し続ける鉄格子も同じなのだ。この期に及んでもまだ、霊夢はチルノに絶望を与えるつもりだった。

 わかった、と一度だけ念を押して、霊夢は水差し片手にぴしゃりと襖を閉めて廊下へと出て行った。チルノは言われたとおり、水晶の羽を広げ、強烈な冷気を放ち始めた。




「ああ、涼しい〜」

 襖を開けて戻ってきた霊夢の顔が、苦痛を訴える農奴のそれから楽園の使徒のそれに様変わりする。居間の気温はすっかり下がり、寧ろ寒いほどだった。けれど、灼熱地獄と言っても過言ではない外から戻ってきた霊夢にとってはここも極寒地獄も天国同然だった。水差しをちゃぶ台の上に置くと、早速、とくとくとコップに水を注ぎ、座椅子に腰を下ろして一気に飲み干してしまう。外で汗を流し、ついでに風呂場で吞んだ酒のせいですっかり乾いていた身体に冷たい水は格別だった。もう一杯、と霊夢はコップに水を注ぎ、sこで羨ましそうに自分の方を見ているチルノに気がついた。

「何よ?」
「霊夢、その…アタイもお水…」
「駄目よ。いいからアンタはせっせと部屋を涼しくしなさい」

 チルノの懇願をにべもなく切り捨てる霊夢。腰を下ろそうとするチルノをただの一睨みだけで制止させる。甘くするつもりは毛の頭程もないようだった。それは今の今まで霊夢がチルノにお礼の一つも言っていないことからも伺える。

「まぁ、これでどんなに外が暑くても問題ないわね。流石私だわ」

 座椅子に深く腰掛け、自分だけを褒め称えるような言葉を口にする霊夢。ドロワーズにさらしを巻いただけの格好で髪の毛は濡れ、肌には汗が浮いたままだったが、心地のいい涼しさと風呂場で吞んだアルコール、それとチルノを攫い痛めつけるまで動きづくめで疲れたせいか、すっかり霊夢は倦怠感に包まれ、動くのも億劫だと言わんばかりの調子だった。ふわぁあぁ、と大きな欠伸をして、涙が浮いてきた目を擦り上げる。暫く霊夢はその姿勢のまま船をこぎ始める。

「んっ…」

 気がつくと霊夢は冒頭のように畳の上に身体を横たえた。その格好は最初より、裸に近かったが、心地よさでは比にならなかった。

 立ったままのチルノは霊夢の言いつけ通り、ずっと強い冷気を放ち続けた。












 吹きすさぶ強風。吹き付ける風。一面は銀世界。岩も木も小屋も人も何もかも雪の下に埋もれていってしまっている。
 目深に被ったフードから覗く鼻は赤く、酷い凍傷にかかっている。

 けれど、痛みはない。既に神経さえも凍り付き死に至っているからだ。雪を踏みしめる足先も、雪をかき分ける指先も同様。薄く開けた唇は当に腐り、歯の隙間から絞り出すように呼吸を繰り返している。唾液と吐息に含まれる水分が瞬く間に凍りつき、歯の隙間を埋めていく。舌なめずりなどできやしない。したところで濡れた舌が氷に張り付き、薄皮を持っていかれるだけだからだ。

 雪は深く、まるで底なし沼の中を歩いているようだった。踏み出した足が膝上まで雪に埋もれ、必死の体で引っ張り上げたところで次の一歩で又雪に沈む。吹き付ける雪は容赦なく体温を奪い、自分を一個の氷像に変えようと上から上から石膏でも塗り固めるようにまとわりついてくる。すでに引きはがすような体力もない。今はただ、前に向かって必死に歩き続けることのみに尽力が要求される。

 畜生。けれど、けれど、これは一体、いつになったら終わりを告げるのだ。いつ
になったら温かなスープと分厚い毛布にありつけるのだ。それとも雪の女王に謁見するほか、私には残されていないのだろうか。

 ああ、吹雪の向こうに豊満な身体をした雪女の姿が見える………









「っ、あ…」

 霊夢は自分が雪深い山中を彷徨い歩いている夢を見ていたところで、パキリと何かが破砕音を耳にして目を覚ました。僅かにぼんやりする頭であの膝まで埋まるような雪は夢だったのかと覚るが、身体の震えは止らない。酷い凍傷にかかり、血が通わなくなった指先がリアルに感じられる。

「さむい…?」

 いや、凍えているのは現実だった。
 歯の根がかみ合わず、がたがたと音を立てている。むき出しの二の腕には気味が悪いほど鳥肌が立ち、寝起きにしても異様なほど、集中力というものが発揮できていなかった。体中の筋肉も同様。霊夢は身体を起こそうとして、二度、失敗した。全て寒さのせいだった。

「なん…で…」

 ゆっくりと、ゆっくりと止っていた血の巡りを復活させ、なんとか身体を起こす。髪の毛が畳に張り付いていて、身体を起こすときに何本か千切れた。見れば畳の目に沿って薄く氷が張っている。髪の毛はそれに張り付いていたのだ。風呂から上がった後もしっかりと乾かさないでいた髪の毛にまとわりついていた水分が畳に吸い込まれる前に凍り付いてしまったのだろうか。まさか、と思うが現実的にはそれしか考えられなかった。
 原因もすぐに思い当たる。

「チルノ…寒すぎる、わ」

 身体を抱き、部屋の気温を下げているクーラー代わりの氷精に告げる。歯の根が全く噛み合わず、呂律が回っていなかったが、それでも狭い部屋だ。聞こえないことはないだろう。

「チルノ…?」

 だというのに返事はなかった。あれだけ痛めつけたのだ。今やチルノは自分のいい奴隷だと思い込んでいた霊夢は肩すかしを食らったように心に怒りを沸き上がらせる。けれど、それ以上に身を凍えさせる寒気がまっとうな感情でさえも体調同様、殺してしまっていた。
 霊夢は億劫に見える緩慢な動作でチルノを捜すために顔を上げた。狭い部屋だ。加えて部屋の出入り口には全て結界が張ってある。何処かへ逃げられるわけはないのだ。
 案の定、チルノの姿はすぐに見つけられた。
 いや、探すまでもない。チルノは霊夢が眠る前にいた所に同じようにいたのだ。

「え…氷?」

 人よりも大きな氷の塊の中、母胎で眠る稚児のように身体を丸めながら、そこに浅く眼を瞑り、収まっていた。その姿はさながら眠姫か、はたまた棺桶に収められた屍姫か。一刹那ながら霊夢は気を取られてしまった。

「っ、そんな場合じゃ…」

 何とか立ち上がり、氷の中で眠るチルノを起こそうと氷塊を叩く。
 けれど、氷塊は花崗岩の岩盤のように固く、そうして、怖ろしいほどに冷たかった。部屋を凍えるほど寒くさせている原因はどう考えてもこれだった。部屋を冷やすように霊夢に命令されたチルノは恐怖心も相まってか、己の能力の限界以上の冷気を放ち続けた。結果、その力は暴走し、スペルカードも使わず局地的な寒冷化現象、パーフェクトフリーズを引き起こしていた。

 今や室温は氷点下十度以下。真冬でも早々に記録することのない気温だ。じっとしているだけで足下から、いや、全身の体温を奪おうと冷気が忍び寄ってくる。とても下着姿では耐えられる温度ではない。霊夢は交互に畳を踏みつけながら何度も何度も氷塊を叩き、チルノを起こそうとした。精一杯声を張り上げ、お願いだからと懇願する。裸に近い格好で、寒さに震え縮こまりながら、先ほど屈服させた相手に頭を下げているのは、余りに情けないのか、霊夢の目頭に涙が浮かんできた。その涙が、ばりばりと凍り始める。

「っ、寒い、寒いさむい、サムイ」

 温度が更に低下したようだ。がたがたと意識しても奥歯の震えが止らない。足の指先が血が通わなくなったように白く鳴り始め、肌が締め付けられるような痛みを思える。寒さの余り、部屋の湿気が凍結し始め、怖ろしい早さで部屋が乾燥状態になってきたからだ。鼻の穴をふさぐよう、鼻から出た息に含まれる水分も凍り始める。鼻の頭が痛い。

「チルノ、やめて、さむい、さむい、から。もう、いいから」

 どんどん、どん、どんどん、どん、…、どん。
 氷を叩く頻度も落ちてくる。身体がまるで言うことを聞いてくれない。
 今や霊夢の肌は雪の様に白く、唇は酷い紫色をしている。氷を叩き続けたせいか、利き腕が酷い凍傷にかかる。皮が剥がれ、氷に張り付く。流れ出た血が氷の表面で固まり、鋭い突起になる。そうとは気づかず霊夢はその上へ腕を振り下ろし、更に擦過傷を作る。そうして、また血が凍り付き、その繰り返し。止めればいいのに。その判断もつかないほどに霊夢は寒さに頭をやられていた。手足の感覚は失われつつある。

「あぁぁぁぁ、そ、そうだ…外、外に、にげ、にげれば…」

 やっとの事でその事に思い当たり、霊夢は緩慢な動作で踵を返す。
 びっこを引き、ほうぼうの体で障子へと歩み寄るその姿はまさしく遭難者だった。部屋の気温はマイナス三十度にかかろうとしている。直接、生死に関わるような気温だ。霊夢は地獄の亡者のような動作で救いを求めるよう、障子に手を伸ばし、そうして、

「ッ!? しま…た」

 凍り付き始めた障子に張られた結界用の護符に電撃を喰らう。術式はこの低音の中でも問題なく発動する。解除の術を組もうと霊夢は呪文を唱え始めるが寒さの余り、唇が上手く動かず、術式は途中でただの神通力の残滓となって消え失せてしまう。焦りばかりが募り、寒さの余り、次第にその術の手順さえも忘却の彼方へ追いやられていく。

「ああああ…っ」

 まどろっこしさに嫌気がさしたのか、再び霊夢は手を伸ばす。バチバチと目に見えるほどの電撃が霊夢の身体を襲う。それを堪え、霊夢は直接的に御札を剥がしにかかった。御札は白米をすりつぶして作った糊で簡単にひっつけられているだけだったが、術式でその接着力も強化されている。僅かに剥がれた角を摘み、ゆっくりと破らないように、けれど、急いで剥がす。猛烈な寒さと電撃。いや、寧ろ電撃のお陰で多少は身体が動くようになった。

「あと…少し…」

 電撃にもはや指先は麻痺寸前だった。身体もこれ以上の寒さにはとても耐えられそうにない。障子の向こうに見える夕日が今は懐かしくさえ思えた。茹だるような暑さ。五月蠅い蝉の鳴き声。立ち上る陽炎。夏の風物詩。やはり、無理矢理な方法で涼をとってはいけないのだと霊夢は覚る。

「や…った」

 そうして、やっと御札を剥がすことに成功した。
 間髪入れず、障子を押し倒し、そのまま縁側へ倒れるように出る霊夢。
 外は日暮が鳴き始める時分だったがまだまだ暑く、四十度近い気温だった。

「あ―――」

 そうして、チルノの力で過剰に冷やされた部屋はマイナス五十度を大きく下回るという地球上の極地もかくやという気温まで下がっていた。その差分は絶対値で九十九度。鍋に張った水を沸騰させるに近いエネルギー差があった。

 そんな急激な温度差。生身の身体が耐えられるはずもない。
 標高数千を数える霊峰に登るとき、人は段階を踏んで山を登り、身体を慣らしつつ頂上を目指す。また、深海へ潜るときや逆に鳥も飛ばぬような高高度へ登るときは減圧室など科学の力を借りて身体を馴れさせるそうだ。余りに違いすぎる環境は人の身体を壊し、時に死に至らしめることさえあるのだ。

「―――が」





 居間の中央。ちゃぶ台の上に置かれていたグラスが外から流れ込んできた暑い大気を受け、急激な温度変化に砕け散る。
 縁側から転げ落ち、熱したフライパンのように暑くなった庭の踏み石の上へ身体を横たえている霊夢も―――


 チルノの身体を包んでいた氷にも僅かに融解の兆しが見える。
 幻想郷の暑い夏はまだまだ続きそうだった。


END
 幻想郷の少女にとって誘拐・監禁・拷問・脅迫の四重奏(カルテット)を奏でるのは朝飯前。
 ナズ、イクさん、さっきゅんあたり幻想郷のデキる女になると“監視・脅迫・誘拐・監禁・拷問・洗脳/暗殺”の七重奏(セプテット)を奏でるようになります。みょんとか門番とか星くんとかは別に。
sako
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作品情報
作品集:
20
投稿日時:
2010/09/23 03:15:05
更新日時:
2010/09/25 21:19:15
分類
霊夢
チルノ
猛暑対策
博麗霊プ
1. 名無し ■2010/09/23 03:20:16
後書きで吹いてしまったじゃないかw
2. 名無し ■2010/09/23 03:37:05
これはいい霊夢ざまあw
しかし冷気はまじこええよなあ
最後の超冷房病(笑)と合わせ楽しませてもらったぜ
3. NutsIn先任曹長 ■2010/09/23 03:48:15
思慮と思いやりの足りない霊夢は、最後にレクイエムでRockn'Rollしてしまったと。
どいつもこいつも、能力目当てに攫ってきた格下の相手にしっぺ返しを食いやがる。
4. 名無し ■2010/09/23 09:06:34
これはナノスーツが必要だ
5. おうじ ■2010/09/23 21:05:25
霊夢ざまあwww
このチルノ欲しい
6. 名無し ■2010/09/24 00:10:34
ちるのつええええw
7. 名無し ■2010/09/24 21:00:13
霊夢は他者にやられることは絶対にないけど
こういうアホな自滅はバンバンしそうなイメージがある。
8. 名無し ■2010/09/28 00:28:41
これはとてもよい死に方です
9. 名無し ■2010/09/30 18:11:27
Hにやられてら・・・
でも死なない妖精vs人間の図式だ、よくみたら。
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