フランドールの華麗なる日常2

作品集: 21 投稿日時: 2010/10/09 06:19:27 更新日時: 2010/11/03 13:39:15
※この話は「フランドールの華麗なる日常」の続編です
 前の作品を読まなくても大丈夫ですが、読んでからの方がよりお楽しみいただけるかも知れません


【物理法則への反抗】

この世界には摩擦力というものが存在する。
ある物体が他の物体と接した状態で運動を開始しようとする時、その接触面に発生する抵抗力の事だ。
物を引きずって運んだりする際には酷く煩わしいが、これのお陰で私達は普通に立つことができる。
摩擦力が無ければ物体は地面で静止する事すらできないのだ。
重力が存在するこの星で摩擦力は欠かせない存在である。
私は時にそんな物に逆らってみたくなる。



今私の目の前には金属製のキラキラ輝く床が広がっている。
紅魔館の床はほとんどが真っ赤な絨毯で覆われている為本来ならばこんな物は存在しない。
では何故こんな床があるのか?
答えは簡単、私が今勝手に作ったからだ。
錬金術とは実に便利な魔法である。
この床に洗剤をぶちまければ摩擦力から解放された世界を少しは体感できるというわけだ。
大量のバケツに用意した洗剤を金属の床にまき、モップで軽く広げる。
次いで服を脱いで裸になり、私も洗剤をかぶる。
人間の肌ならば多大なダメージを負う所だが吸血鬼の強靭なお肌は洗剤で荒れたりはしない。
これで準備完了、位置について……

「ィィィィイイイヤッホゥゥゥゥゥッッ!!!」

金属の床に勢い良く飛び込み、凄まじい速度で滑り出す私の体。
地面に接した状態で見慣れた紅魔館の景色が次々と流れて行く。
当然私が自分で飛んだ方が速い速度が出せるが、この遊びは地面の上を裸で滑っている事に意義があるのだ。
ああ、何という解放感!
私は今自由だ!!



その後、私は窓を突き破って直射日光を浴びるまで滑り続けた。
全治三日の負傷を負ったがあの楽しさと引き換えならばどうという事はない代償だ。
その後外出から帰ってきたお姉様は1ヘクタールの絨毯が金属に変わっていた事に流石に怒っていたが。



【蝙蝠がダンサーを産む】

私とお姉様はまだ眷属を増やした事がない。
理由は何とも情けない事に「少食すぎて相手の血を飲み干せないから」だ。
まあ私はそれ以前に力を加減するのが面倒だという理由もあるのだが。
お姉様はいつか眷属で一個師団を作り上げて見せると豪語しているがいつになるか分かったものではない。
そんな吸血鬼としては致命的と言っても過言では無い欠陥を抱えている私達だが、ここでちょっとした疑問がある。
果たして吸血鬼が眷属にできるのは人間だけなのか?
他の生物だって栄養の移動や呼吸に液状の物を用いているのだからそれを飲み干してしまえば眷属にできるのではないか?
今回の実験のテーマはこれだ。



まずは被験者を決めなくてはならない。
手始めに体格の小さいのメイド妖精に声をかけてみたが断固として拒否された。
当然と言えば当然だが。
続いてたまたま発見した蝶……身体が無事で済むはずがないな。
わざわざ動物を外で捕まえるのも面倒だし、う〜んどうしよう。

いや、待てよ。何も動物にこだわる必要はないのではないか?
植物だって頑張れば(?)吸血鬼になれるかも知れない。
そうと決まれば適当な植物を貰いに行こう。



「メイリーン!」

私は中庭で花に水遣りをしていた美鈴に声をかけた。
紅魔館の花畑を管理している彼女ならば何かいい植物を持っているに違いない。

「こんにちは、フランドール様。何か用ですか?」
「丈夫そうな植物が欲しいんだけど何かないかしら?
 できれば持ち運びができるサイズがいいんだけど」
「う〜ん、そうですね……なら、これなんかどうでしょう?」

そう言って美鈴が私に見せたのは植木鉢に入ったサボテンだった。
成る程これなら条件にピッタリだ。

「ありがとう、美鈴」
「いえいえ、大切にしてあげて下さいね」
「大丈夫、この子の死は無駄にしないわ」
「……」

美鈴が凄く悲しそうな顔をした。

「案ずるな美鈴。このサボテンは一度は死ぬけど、より強靭な肉体を身に付けて蘇る可能性があるかも分からないのよ」
「それそのまま死ぬかも知れないってことじゃないですか!」
「また会える時を楽しみに待ってなさい!」
「フランドール様〜!!」

さあ、帰って早速実験だ。



さて後は私がこのサボテンの中に入っている液体を飲み干せば良いのだが、このままかぶり付いてはそのまま喰い千切ってしまう。
しかし予め私のアゴの力を弱めておけばその問題も解決する。

「さてさてこいつの出番ですよ、『ゆるゆる君三号』〜」

私が取り出したのは昔作った特製の薬、鬼や吸血鬼のような強靭な肉体を持った妖怪用の筋弛緩剤だ。
ちなみに人間に飲ませると心筋までゆるゆるになって生きていられなくなるので絶対に飲ませてはいけない。

「薬を飲んで3分……よし」

私はサボテンの側面に噛み付き、中身を一気に吸い上げ、吸い上げ、すいあg……



まさか飲み干すのに30分もかかるとは思わなかった、あ〜腹がタプタプする。
頑張った甲斐あってサボテンは先程の瑞々しい姿から変わり果てすっかりミイラ状態だ。
あとは適当な場所においてしばらく待つのみ。

「いい吸血鬼になれるといいわね」

死体が吸血鬼になるまでの時間にはばらつきがあるがおおよそ1週間から3週間が普通だ。
最初はかなり貧弱だが血を摂取し続ければそのうち立派な吸血鬼になれる。
というわけでしばらくはする事がないので倉庫にしまってゆっくり待つ事にしよう。



あれから約1週間。
サボテンばどうなっただろうか。
まだ何も変化が起きていない可能性もあるが、一応様子を確認してみる事にした。

「どうなったかな……お、動いてる?」

サボテンのポーズがこの前とは変わっている。
針もよくよく見るとゆっくりうねうね動いているようだ。

「よしよし、とりあえず成功ね。
 あとは血をあげて元気になるのを待つだけ」

私の部屋には加工済の血しかないのでお姉様から新鮮な血を貰おう。
私は机から通信玉(仮)を取り出した。
以前お姉様が来た時に一つ渡しておいたのでこれで連絡を取る事ができる。

「ハロ〜マイラブリーシスター!!熱中症で死んだりしてないかしらお姉様?」
『生きてるわよ。何の用かしら?』
「加工前の血が欲しいんだけど持ってきてくれる?1リットル……いや500ミリリットルでいいから」
『まあ、それくらいならいいわよ』
「それじゃあ、なるべく早く頼むわ」

程なくしてお姉様が冷えたビンを持ってきた。

「あんまり変な事に使うんじゃないわよ」
「大丈夫よ、ありがとう。
 あと、しばらくは毎日加工前の血が欲しいんだけど大丈夫かしら?」
「昼時に持ってくればいいなら別にいいわよ」
「お願いするわ」

これで毎日サボテンに血をあげられる。
いや、サボテンってあんまり水飲まないんだっけ?
まあいいや、動けるんだから飲みきれなければ体で嫌がるだろう。

「さあご飯の時間よ」

ビンから血を注いでやるとサボテンは体を震わせてそれを受け止めた。
へえ、表皮から吸収できるのか。便利な能力だな。



それからさらに2週間。
私の目の前にはすっかり元気になり、全身をくねらせるサボテンの姿があった。

「あなた立派になったわね。お母さん嬉しいわ」

ガリガリのミイラだったサボテンの肌は張りを取り戻して美しく、逞しい体を取り戻した。
言い換えればほとんど死ぬ前と同じ状態に戻っただけなのだが、一つだけ目に見えて生前と変化した点があった。
サボテンの背に、私そっくりの歪な形をした羽が生えたのだ。

親の特徴を受け継ぐという話は無いわけではないが、ここまで分かりやすい変化が出たという話は聞いた事がなかったので私自身もびっくりだ。
残念ながらあっても役に立つ事はないのだが。

「まあちっちゃな羽で羽ばたく姿は可愛いけどね」

この発言は自画自賛になるのだろうか、いや多分違う。

これでこのサボテンは恐らく立派な私の眷属だ。
これからゆっくり教育して、私好みのいいサボテンに育てよう。
とりあえず美鈴がかなり心配していたので見せに行ってあげるか。

「あなた自分で付いて来れる?」

サボテンは私の声に反応して体を激しく揺さぶった。
なるほど、分からん。
仕方ないので試しに放置して部屋を出てみたが、全く付いて来なかった。
どうやら自力で移動することはできないようだ。

「まずは飛行魔法を教えないと駄目ね」

今回は私が植木鉢を抱えて移動しよう。
いや、ただ見せに行くだけでは面白くないな。
せっかく感動の再会を果たすのだ。派手に飾り付けて盛大に演出しようじゃないか。
私は倉庫の奥から小道具を引っ張り出し、サボテンを飾り付けてから美鈴の元へ向かった。



「メイリーン!!」
「こんにちはフランドール様、今日は何の用ですか?」

私はこの前と同じように水遣りをしている美鈴に声をかけた。
若干警戒しているのはやはりこの前の事があるからだろう。
だがこのサボテンを見せればきっと彼女も喜んでくれるはずだ。

「見なさい美鈴。これこの前のサボテンなのよ。
 立派な姿になったでしょう」

私の後ろから取り出したのはメキシコの魂が宿った帽子ソンブレロを被り、両手に持ったマラカスを振りながら華麗に踊るサボテンだ。
軽快な音と共に体を揺する様は非常に愛嬌があって微笑ましい。
やはりサボテンと言ったら南米だろう。ああタコスが食べたい。

「うわあ、随分可愛らしい姿に変わり果ててしまって」
「それじゃあ褒めてるのか貶してるのか分からないわよ」
「観葉植物の有り得ない変貌に戸惑ってるんですよ!!」
「酷いわ、美鈴。貴方が育ててたサボテンが立派なメキシカンダンサーになって戻って来たんだから少しぐらい喜んであげてもいいじゃない」
「いや無理ですよ。そもそもこの子に一体何があったんですか……」
「私の眷属にしたらこうなったわ」
「あなたが一体何者なのか私には未だにさっぱり分かりません」
「奇遇ね美鈴、私にも何がどうしてこうなったのかさっぱり分からないわ」
「あ〜……もういいです」

諦めたようにうなだれる美鈴。
そんな彼女を気遣うようにサボテンが肩を叩いてあげた。
うんうん、いい子じゃないの。
きっと美鈴が愛情を込めて育てたおかげね。



【蛯で太陽を釣る】

唐突に鳥肉が食べたくなった。
お姉様にリクエストしようかと思ったが、たまには自分で捕まえるのも良さそうだ。
というわけで、本等でよく見かける古典的な方法を試してみよう。
裏庭で一日中影に隠れている位置に陣取り錬金術を発動。
直径4メートル程の金属製のかごを作り、紐を結んだつっかえ棒を使って地から浮かせる。
その下に餌を撒いておけば準備完了だ。
より確実に捕まえる為に餌には睡眠薬を混ぜておいた。

「あれ、かご必要ないかな?まあいいや」

あとは分身に監視を任せておけば大丈夫だ。
美味しい鳥肉が獲れることを祈ろう。

それから3時間後。
分身から鳥を捕まえたという連絡が入り、私は現場に向かった。

「おお、立派な鴉ね!」

かごの下には丸々育った立派なカラスが気持ち良さそうに寝ていた。
この大きさはただの鴉ではないな。
まさか天狗がこんなアホな罠に引っ掛かるはずもないし、突然変異で太った鴉か妖獣だろう。
何にせよ、この大きさなら言うこと無しだ。
さあさっそく捕まえて、!!?

「ぁあっっっっづ!!!!」

鴉の体に私の手が触れた瞬間、その部分から想像を絶する熱が襲いかかった。
慌てて手を離したがこれはヤバい。何が起きたかは分からないが手から燃え広がるようにして熱がせり上がってくる。
久しぶりに身の危険を感じ、私は分身に命じて即座に腕を切断させた。
切り落とされた腕は灰も残さずに蒸発してしまった。

「あ〜危なかった……なんなのかしらこの鴉」

触れただけで私にこれ程の手傷を負わせるとはただ者ではない。
本人は先ほどから変わらずぐっすり眠っているので、これは鴉が意図的に起こした事象ではないようだ。
さらによく見てみると、私の腕は触れた瞬間に恐ろしい熱を感じたにも関わらず、地面には何の変化も起きていない。
どうやら先程の現象は私だけに対して起きたようだ。

「うーんなかなかそそられる鴉ね」

よし、慎重に捕獲して調べてみよう。
触れる事がないように慎重に動かさなくては。
私は鋼鉄製の箱を作って念動力で鴉を中に入れ、分身に箱を運ばせた。

無事部屋に到着。
鴉はまだ眠っている。
あまり意味はないと思うが起こす前に一応体温を計っておこう。
鳥の体温の計り方なぞ分からんので温度計を適当に脇に突っ込む。

「40度……高いわね」

鴉にしては高すぎるくらいだが、それでも私が触れて火傷するほどではない。
アレはやはり物理的要因によるものではないのだろう。

さて、これ以上寝かせたまま出来ることもないしそろそろ起こそう。
あまり暴れられても困るし……蓋を閉めて外から殴打するか。
多少心臓に悪いだろうが水をぶっかけるよりは良心的だろう。
せーの、

「ぼうや良い子だおっきしなー!!」
「うにゅにゅにゅー!!?」

箱を激しくぶっ叩くと中から妙な悲鳴が上がった。
どうやら目を覚ましたようだ。

「蓋を開けてみればあら不思議、鴉が翼の生えた少女に!
 皆さん盛大な拍手をお願いします!」

ノリが良いサボテンは手を叩いてくれた。
ちなみに彼(?)は既に飛行魔法を習得していて、根を植木鉢に突っ込んでいるが自在に移動することができる。

「う〜、なんなのよもう」

箱の中から少女が立ち上がった。
かなり背が高い、私より2、30cmはあるだろう。
人化が可能な妖獣か。
妖獣と言ってもピンキリだがこの鴉は少なくともある程度の実力の持ち主だろう。

「あなたは私の餌を食べて眠ったのよ、覚えてない?」
「ああ、そういえばなんか良い匂いを嗅いだような」
「あれは私が鳥を捕まえて食べるつもりで撒いた餌だったのよ」
「ええ!!私食べられちゃうの!?」
「その通り、マル焼きにして美味しくいただいた後残った骨は鳥がらにしてたっぷり出汁を取らせてもらう……つもりだったけど事情が変わったからそれはないわ」
「よかった……」

少し考えれば生かしたまま起こした時点で想像がつきそうなものだがあまり頭が回る奴ではないらしい。
鴉というともっと狡猾なイメージがあるのだが。

「その代わりちょっと付き合って欲しいんだけど」
「何?今日は仕事ないから良いけど」

驚いた事に彼女は職に就いているらしい。
私は彼女の評価を大幅に上方修正した。
何かの為に労働するという事は大きな美徳だと私は考えている。
少なくとも引きこもりの私よりは社会的に評価されて然るべきだろう。

「じゃあまずは自己紹介から始めましょうか。
 私は吸血鬼のフランドール・スカーレット、よろしく」
「私は地獄鴉の霊烏路空、よろしくフランドール」
「さて、挨拶が済んだ所でいくつか質問があるわ。あなた何か特別な能力持ってる?」
「よくぞ聞いてくれました!
 最近神様から八咫烏の能力を授けられて核融合を操る程度の能力を手に入れたのよ」

八咫烏……たしか太陽の化身として伝えられている神だ。
なるほど、吸血鬼の私がそんなモノに触れたらそりゃあ大火傷を負うだろう。
しかし核融合とは何だろうか?

「う〜ん、私もよく分からないけどとにかく熱くて凄い力」

自分で調べてみるか。
恐らく核分裂と似たようなものだと思うが。
私はお姉様に香霖堂で買ってきて貰った「現代用語の基礎知識2007」を引っ張り出した。

原子核反応:化学反応では、元素は組み合わせが変わるだけで破壊されないが、原子核反応では、元素(原子核)が破壊されて異なった元素(原子核)になる。
        この時質量が変化し、変化量に応じたエネルギーが放出される。
        「核分裂」と「核融合」がある。

核分裂:1つの原子核が2つの小さな原子核に割れること。
     重い原子核ほど分裂しやすいため、原子炉の燃料には最も重いウランの原子核が選ばれた。

核融合:水素や重水素、三重水素のような軽い原子核が2つ衝突して一つの重い原子核のに変わること。
     このときエネルギーが熱となって放出される。
     小さな原子核ほど融合しやすい。

反応そのものは核分裂とは真逆だが同様に莫大なエネルギーを得ることができるらしい。
なんとも物騒な力だ。
空が八雲紫に消されないことを祈ろう。
しかしそうなるとその「神様」とやらの目的は果たしてなんだ?

「あなたさっき神様が力をくれたって言ってたわよね。
 その神様ってだれ?」
「力をくれた神様はよく覚えてないけど……最近は金髪で変な帽子被った神様がよく見に来るわね。
 最近は間欠泉地下センターって所によく呼ばれるわ」

金髪、豊穣の神と紅葉の神か?
いやまさかそれはないだろう。第一あの二人が八咫烏を操って何をするんだ。

ダメだ、考えても埒があかない。
この事は今度お姉さまにでも聞いてみるとして、今は目の前にいる歩く核融合炉の調査に専念しよう。

「ところであなたどこから来たの?」
「旧地獄の灼熱地獄」
「旧地獄、ってことはもしかして地底妖怪?」
「そうそう、私は地底の地霊殿に住んでるの。
 私の飼い主は覚妖怪の古明寺さとり様よ」
「ああ、あの」

古明寺さとり、覚妖怪の末裔であり地底に封じられた妖怪の一人だ。
心を読む能力とそれを躊躇いなく行使する性格から恐れられていたと聞いている。
地底に封印されてからは閻魔から旧地獄の管理を任されていたはずだが、空の職場というのはそこだったのか。

「古明寺さとりはどんな妖怪なのかしら」
「私はあまり話さないからよく分からないけど、ひょろひょろしてて運動はあまり得意じゃなさそうかな、いつも浮いて移動してるし。
 あと話してる相手の心を必ず読みながら話すから初めて会う人はたいてい怖がって逃げちゃうの」
「う〜む、噂に違わない陰険そうな奴ね」

というかわざわざ嫌われるような真似をしているなんて孤立願望でもあるのだろうか?
まさか能力を見せても物怖じしない王子様が来るのを待ってるとか……んなわけないか。
お互いほとんど動かない身である以上会う事があるとも思えないが、一応弱点があるなら知っておきたい。

「古明寺さとりは何か苦手なものはある?」
「特にないと思うけど、強いて言えばこの前天狗に写真を撮られるのを嫌がってたわね。
 あと、肉弾戦も得意じゃないと思う。
 襲っちゃダメよ?」
「大丈夫、私も全然外に出かけないから多分会う事すらないわ」

天狗に写真を撮られるのを喜ぶ奴は滅多にいないだろうな。
流石に空も変な質問だと気付いているようなのでそろそろ話を戻そう。

「空はその能力を使って何かしてる?」
「灼熱地獄を暖めたり、温泉を沸かしたり、さっき言った間欠泉地下センターで色々やってるけど」
「一応有効活用してるみたいね。でもあんまり面白くないな。
 なんか私と他の事してみない?」
「あ、私冶金がやってみたい」
「夜勤?何、夜に働きたいの?」
「違う、違う、ほら鉄を溶かして物を作る」
「ああ、冶金ね。あなた意外と渋い趣味してるわね」
「そう?でもあれが出来ればたくさん物が売れて大儲け出来そうじゃん!」
「そういう魂胆か」

私は錬金術が使えるので必要ないといえばないのだが、新しい事に挑戦するのは悪い事ではないし本人がやりたがっているのだから協力してみてもいいだろう。

「じゃあ何から作る?」
「刀がいい」
「OK、じゃあ早速道具を準備しましょう」

刀か……かなり難しそうだがまあやってみるか。



やっぱ無理っぽい。
とりあえずここまでの挑戦をダイジェストでお送りします。

[一回目]
「フランドール、この釜溶けちゃったわよ」
「あらら、火力は加減できないの?」
「やってみる」

(結果)釜が昇天。

[二回目]
「ダメみたいね」
「うにゅう、ごめんなさい……」
「まあできないなら仕方ないわよ」

(結果)釜、再び死亡。
    空自身による火力の制御は不可能なようなので私が魔法で制御を試みる。

[三回目]
「よーしいい感じに溶けたわね。さあ早速形を整えるわよ」
「どうやって?」
「とりあえず細長い型を作って流し込んでみましょう」

(結果)固まって抜けなくなった。

[四回目]
「型も熱しとかないといけないのかな」
「でもそれじゃあ固まらないわよ」
「うーん、じゃあ薄い結界でくるんでみるか」

(結果)棒状の物体が完成。
    ここから熱しながら金槌で叩いて加工を試みる。

[続四回目]
「ハイホー♪ハイホー♪しごーとが好k(バキッ
「あ」

(結果)折れた。

[五回目]
「あーもう、強く叩きすぎたみたいね。どう加減したものやら」
「棒の方を持って台に叩きつけてみたら?」
「試してみましょう」

(結果)やっぱり折れた。

[六回目]
「押してダメなら引いてみろ、叩いてダメなら?」
「えーと、撫でてみろ?」
「よし、擦ってみよう」

(結果)一応完成。

[続六回目]
「うう……やめてあげた方がいいんじゃないの?」
「この道を通らなければこいつは売り物にできないわ」
「でも、絶対壊れちゃうよ!」
「獅子は子を千尋の谷に突き落とす!
 例え生存率が限りなくゼロに近かったとしても!!」

(結果)木を相手に試し斬りしたところ見事に粉砕、刀の方が。
    さらば完成品一号、君の事は忘れない。



以上、これまでの流れ。
その後、10本くらい刀を作ってみたがいずれも耐久力が弱く、試し斬りであっさり壊れてしまった。
これだけやれば素人には無理だという事が嫌でも分かる。
空は作ったものを何度も壊す作業に辟易してしまったようで最後の方はかなり辛そうにしていた。
破壊的な能力を持っている割には意外と繊細な奴である。もしかして物を作る経験をしたことがないのだろうか。
頑張って育てた家畜の屠殺とかさせたら自殺してしまいそうだ。

「もう、元気出しなさいよ。別に刀売らなきゃ死んじゃうわけでもないんだし」
「う〜、でもこんなにたくさん壊したのに全然できないなんて……」
「誰だって物作って失敗する経験ぐらいするわよ。
 いちいち気にしてたらきりがないわ」
「フランドールは今まで何度も失敗してるの?」
「そりゃあ数え切れないぐらいしてるわよ。
 小さい頃は実験で部屋が吹っ飛んだ事も物を壊した事も自分で大怪我負った事もあったわ。
 そうやって皆やっと成功させるのよ」
「私はあんまり失敗したことないな」
「それは失敗したことがないんじゃなくて、新しいことをあんまりしたことがないんじゃないの?
 色んなことしてみないと、生きててもつまんないと思うわよ」
「むむむ、分かった」

さて、そうは言ってもこのまま終わるのは少々癪である。
売るのは無理にしても一本ぐらいは立派な刀を作り上げてみたいが……

「鉄じゃあ脆すぎるのかな」

その時、私の呟きを近くで聞いていたサボテンが机から一本のナイフを持ってきた。
かつてとあるエクソシストが使用していたもので、切れ味が良く丈夫なため今では私が愛用している。

「そうか、ミスリル!
 これなら折らずに鍛えられるかも知れないわね」
「え、刀作れるの?」
「ミスリルだと流石に量産は無理だけど、刀を完成させることはできるかも知れないわよ」

さっそく倉庫から過去に紅魔館を襲撃したエクソシスト達が持っていた武器を引っ張りだして来よう。
 


今私の目の前にはそのまま使っても十分強力、というかむしろそのまま使った方が強力であろう洗礼武装が多数床に転がっている。
だが実験の為ならばこんな物は惜しくはない。

「これ本当に使っちゃっていいの?なんか凄そうな武器ばっかりだけど」
「いいの、いいの。とっといてもどうせ使わないんだし。
 こうして再利用した方が良いくらいよ。
 さあ、ミスリル――このピカピカの部分だけ焼き切ってちょうだい」
「分かった」

空が出した細い光線が武器を解体し、ミスリルの部分を切り取っていく。
本来ならば特殊な手段でしか加工できないはずの代物だが、空の炎は神の炎だ。加工できない道理はない。

切り取ったミスリルをかき集め、魔導合金用の特殊な釜に放り込んで準備完了。
後はこれをドロドロにして棒状に固めれば良い。

「空、今度はこの釜の中に直接炎を入れて」
「でも、そんな事したらまた釜が溶けちゃうんじゃないの?」
「大丈夫、これはかなり丈夫だから私が制御すればなんとかなるはずよ」

ミスリルを溶かすのには流石に時間がかかったが、それでも完全に溶かすことができた。
続いて型に結界を展開、溶けたミスリルを流し込んで包む。
しばらくするとミスリル製の棒が完成した。

「さあ問題はここからね」
「どうする?」
「まず棒をゆっくり加熱して」

空が炎で棒を包むと次第に棒が赤くなり始めた。
溶けない程度に熱が加わった所で空に炎を止めさせる。

今度は私が念動力で金槌を持ち上げ勢い良く叩きつけた。
流石ミスリル、鉄の時とは違って全く折れそうにない。
ミスリルの強度が確認できたところで金槌で棒を連打し、徐々に形を整えていく。
丈夫過ぎてむしろ形を変える事すら一苦労だったが、数時間かけて何とか刃らしきものを作り出すことができた。

「よし、後は刀を研いで斬れるようにすれば完成ね」
「あ、私がやってみたい」
「でもあなた腕にそんな物付けててできるの?」
「これは仕舞っておけるから大丈夫」

空がそう言うと右手の物体が消失した。
よく分からないが人間っぽい腕にもできるらしい。
空は棒を握ると先ほど余ったミスリルで作っておいた砥石で研ぎ始めた。
なかなか力強いが、あんなに気合を入れていて疲れないだろうか。

案の定空は30分程でへばってしまった。

「うにゅう、腕が疲れちゃった……」
「じゃあ、今度は私がやるから休んでなさい」

私はミスリルに直接触れることができないのでやはり念動力だが。

それから二人で交互に擦り続け、ついにミスリルの剣が完成した。
そう、剣が。

「よし、完成ね」
「完成はいいんだけど、これ刀じゃなくてバスタードソードよね?」
「え、そうなの?」
「いやそうなのって明らかに形が両刃でまっすぐで……気付かなかった私もアホね」
「まあ別にいいじゃない。刀も剣も似たようなものだし」

どうやら私も疲れていたようだ、こんな違いに気づかずに擦り続けていたとは。
当初の予定とは違い刃渡り1メートル程の巨大な剣が完成してしまったが、まあ本人が満足ならいいか。

「こらなら壊れないよね?」
「壊れることはないと思うわよ。早速試し斬りしてみましょう」


私達は庭に出て木の前やってきた。
以前の刀と同じように構え木に向かって斬りつける。

一瞬の停滞の後、見事木は倒れた。
剣の方には傷一つ付いていない。

「よ〜し、成功ね」
「やったあ!!」
「この剣どうする?これなら売り物にしても文句は出ないと思うわよ」
「ううん、売らない。これはとっておくわ。
 頑張って作ったんだもん」
「まあそうよね。じゃあ、これはあなたにあげるわ」
「え、私が貰っちゃっていいの?材料はフランドールが用意したのに」
「私が持ってても使わないしいいわよ。
 記念に取っときなさい」
「わ〜い、ありがとうフランドール!」
「ちょ、抱きつく、あっづ!!!」




抱きついてきた空で再び大火傷を負ってしまったが、なんとか一命は取り止めた。
次の実験では空に抱きつかれても大丈夫になる方法を考えなければ。

ベッドで全身を氷嚢で冷やしながら、私は空に大切なアドバイスをした。

「空、一つ言い忘れてたわ」
「何?」
「失敗するのは仕方ないけど、死んだらおしまいだから気を付けなさい。
 主に加害者にならないように」
「うん、分かった」

その後、私は空にミスリルソードと通信玉(仮)を持たせて送り出した。
核融合はまだ色々使い道があるだろうし、またいつか呼んでみよう。
「フランドールの華麗なる日常」の続きになります。
今回も色々と暴れさせたつもりですが、まだはじけ方が足りてないかも知れません。
もし、このフランドールにさせて欲しい事や会わせて欲しいキャラがいればコメントに書き込んでみて下さい。
可能ならば反映させてみます。
ではここまで読んで下さった皆さんありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。


参考文献:現代用語の基礎知識2007 自由国民社

10月11日コメント返信
皆さん感想ありがとうございました

>>1
言い方を変えただけでエロく見える、不思議!
本人にしてみればたまったものではないでしょうがw

>>NutsIn先任曹長さん
この話のフランドールはかなりユニークな性格となっていますが気に入っていただけのであれば嬉しいです。
サボテンは彼自身がメインになる話以外では存在を仄めかす程度にちょくちょく出すつもりです。

>>3
ありがとうございます!
これからも頑張って書き続けます。

>>4
このフランドールは他のキャラと話をするのが意外と好きなようです。
書いている自分も意識していませんでしたが、他のキャラと話している時とても楽しそうですねw

>>5
いえいえ、説明を入れられたのも参考文献のおかげですw
核融合は自分もあまり詳しいわけではありませんが、コストやら必要な火力やらで大変なようですね。
話も楽しんでいただけたようで嬉しいです。

>>6
ありがとうございます!
続けて読んでいただけて嬉しいです。

>>7
サボテンダーが分からなかったのでググってみましたが、可愛いキャラですねw
この話のサボテンの見た目は翼が生えていること以外は普通のサボテンです。

>>8
空はおまけテキストのセリフが可愛かったですね。
このフランドールは可愛いって柄ではありませんがそう言っていただけると多分本人も喜びますw

>>9
おお、ありがとうございます!
こんなに褒めていただけるなんて光栄です!
これからも頑張らせていただきます。

>>10
書いた当初はフランドールの身長は150cmぐらいを想定していたのですが、後から考えてみて流石に高すぎるかと思ったので一度この話に出てきたキャラの身長をしっかり決めてみました。

スカーレット姉妹……143cm
メイド妖精……約120cm〜150cm
美鈴……168cm
空……170cm
チルノ……132cm
サボテン……100cm(植木鉢も入れて)

こんな感じです。
果たして今後使う機会があるのか甚だ怪しい設定ではありますがw
機玉
作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/10/09 06:19:27
更新日時:
2010/11/03 13:39:15
分類
フランドール・スカーレット
サボテン
霊烏路空
短編連作
22.6KB
10月11日コメント返信
1. 名無し ■2010/10/09 08:16:36
お空に抱かれて悶えるフランちゃん、うふふ
2. NutsIn先任曹長 ■2010/10/09 09:28:50
天才でお馬鹿なフランちゃん。素敵。
フランちゃんの使い魔サボテン君はレギュラー化?
3. 名無し ■2010/10/09 11:11:23
これしばらく続いてほしい
4. 名無し ■2010/10/09 12:36:26
このフランちゃんは他人とのやりとりですごいイキイキするよなあw
美鈴とかお空とか前回のチルノとか、加えてサボテンまでw
5. 名無し ■2010/10/09 13:19:18
ずっと、核融合って何かなぁって思ってたんだけどね。
話も面白かったし、ありがとうございます♪

刀・・・いや、バスターソードの精製途中に昇天した窯のご冥福を祈ります。
6. 名無し ■2010/10/10 01:40:25
このシリーズおもしろいです。
7. 名無し ■2010/10/10 12:35:48
サボテンダー思い出したw
8. 名無し ■2010/10/10 14:25:05
うにゅうも可愛いなあぁ

ん、もちろんフランちゃんも可愛いよ!
9. 名無し ■2010/10/10 18:56:48
はじけかた足りなくないし、ほのぼの感の中の不思議っぷりが好きなのでこの調子で頑張ってください。
この面白さを維持、向上させて下さい!
10. 名無し ■2010/10/11 03:02:49
フランより20〜30cm背の高いお空?かなり背の高いって言ってるし(フラン、お空)として
(135,165)とか(140,165〜170)ってところかな?
11. 名無し ■2012/12/24 10:47:09
読んでいて非常に楽しいです。サボテン可愛いw
12. 名無し ■2013/03/15 18:35:19
思ったよりフランちゃんもアホなことするの好きなんじゃな…
サボテンのサイズが想像してたよりもデカかったw
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