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『メイドセメタリー』 作者: sako

メイドセメタリー

作品集: 21 投稿日時: 2010/10/25 18:30:27 更新日時: 2010/10/26 03:30:27
「わわわ…ど、どうしよう」

 ここは幻想郷にある大きな洋風のお屋敷、紅魔館の地下にあるフランちゃんのお部屋。その部屋の隅っこでフランちゃんは困ったような顔をして狼狽えているじゃありませんか。一体どうしたのでしょう。

「困ったなぁ」

 お人形さんのように可愛らしい顔を両方の手でおおい、フランちゃんは強く頭を振るっています。
 フランちゃんの前には沢山のお人形が小さな山になるほど積まれています。ボタンのおめめをしたくまさん。ふかふかのひつじさん。赤い髪の毛の双子ちゃん。それにメイド服の咲夜さんがそこに寝ています。
 おっと、咲夜さんはお人形さんではありません。人形さんたちと一緒に壁にもたれ掛かっていますが咲夜さんはれっきとした人間です。紅魔館のメイド長をやっています。
 眠っているのでしょうか。うつむき加減にじっとして、うすく目を閉じています。

「ねぇ、咲夜ぁ、起きてよ」

 むぅ、と唇を尖らせながらフランちゃんは眠っている咲夜さんの体を揺すります。ぐらぐらと咲夜さんの頭が揺れますが咲夜さんは起きようとはしません。よっぽど、ぐっすりと眠ってしまっているのでしょう。

 と、フランちゃんが強く揺さぶりすぎてしまったせいで咲夜さんは横に倒れてしまいました。団子大家族のお人形さんの中へ頭を埋めてしまいます。腰も捻ってとても苦しそうな体勢です。でも、咲夜さんはまだ起きません。まだまだ起きません。ずっと起きません。

「うーん、やっぱり、強くやりすぎちゃったのかなぁ」

 咲夜さんを起こすことを諦めて肩を落としてため息をつくフランちゃん。その可愛らしいお手々は血に染まって真っ赤っかです。まるで吸血鬼みたいですね。
 よく見ると咲夜さんのお腹も同じ色に汚れています。

 じつはフランちゃんはさっき、咲夜さんと遊んでいて咲夜さんのお腹の中の大事なところをぎゅっ、として、どっかーん☆ としてしまったのです。

 大事な大事な所をぐっちゃぐちゃのめっためったのぎったぎたにされて咲夜さんはお腹からたくさん血を流して、息も出来なくなり、心臓も止っちゃってなにも考えられなくなってしまったのです。だから、咲夜さんはフランちゃんに揺さぶられても、ヘンな体勢になってしまっても目を覚まさなかったのです。

 どうすれば咲夜さんが目を覚ますのか、フランちゃんは必死に考えますが思いつきません。

「どうしよう。どうしよう。どうしよう」

 うろうろと部屋の中を行ったり来たり。フランちゃんは考えを巡らせます。

「あ、そうだ」

 と、フランちゃんの頭の上に豆電球のマークが光り輝きました。どうやら何か思いついたようです。

「人工呼吸すればいいんだ」

 この前見たアニメの内容を思い出し、フランちゃんはぽん、と手を叩きます。まだまだまだまだ目覚めない咲夜さんに近づくとフランちゃんは無造作に咲夜さんの上に積み上げていた人形をぽっぽーいと投げ捨ててしまいます。そうして、咲夜さんの体を人形の山から引っ張り出すと床の上に寝っ転がらせ、顔のすぐ側に腰を下ろしました。

「えっと、たしかワコはこうやって…」

 記憶を辿りながら咲夜さんの顎を持ち上げて、仰け反るような感じに。口を開かせるとフランちゃんはすぅぅぅぅっとめいいっぱい空気を吸い込み、咲夜さんの冷たくなり始めたお口に自分の口を押し当て、息を吹き込んであげました。けれど、これがなかなか難しいようで、口と口の隙間からせっかく吹き込んだ空気が逃げていってしまいます。

「もう一回」

 すぅぅぅぅ―――ふぅーーーっ。
 コツが分かってきたのか、今度はさっきより少しだけマシでした。それを二回、三回と繰り返します。

「苦しくなっちゃった。咲夜、大丈夫? 起きた?」

 何度も大きく息を吸っては吐いてを繰り返したせいで、すっかり息が上がってしまったフランちゃん。はぁはぁ、と肩で息をしながら咲夜さんを揺さぶります。けれど、やっぱりやっぱりやっぱり咲夜さんは目覚めませんでした。

「おかしいなぁ。タクトはこれで起きたのに…むぅ、咲夜のばかーっ」

 なかなか上手くいかないことにフランちゃんはすっかりご機嫌斜めのようです。でも、だからといって投げ出すわけにはいきません。フランちゃんは床にお尻をついたままうーん、と腕組みをして考えます。

「応急処置じゃだめなんだ、きっと。じゃあ…」

 む、とフランちゃんはその可愛らしい眉毛をへの字に曲げます。よし、と頷くとフランちゃんはおもむろに咲夜さんのメイド服を脱がせ始めました。

「手術すればきっと咲夜は起きるはず。間違いない」

 リボンを解き、ボタンを外してベストを脱がせ、血が乾いてにかわのように張り付いてしまったシャツは破いてしまいます。黒のレースのブラジャーを少し羨ましそうにながめてから、フランちゃんはそれも脱がせ、咲夜さんを上半身裸にします。大人の女性の綺麗なお胸と白い肌。それとお腹に開いた穴の周りにこびり付いている黒い血の塊。それらをじっと眺めてよし、とフランちゃんは気合いを入れ直しました。手術の始まりです。

「肝臓? 腎臓? うーん、ああ、心臓だ。心臓。咲夜は心臓が止っちゃってるみたいなのでまずは心臓マッサージをします」

 メス、と誰もいない方に手のひらを上向けに差し出すフランちゃん。もちろん、誰も切れ味鋭いメスは差し出してくれませんでしたが、代りに人差し指の爪を鋭く伸ばします。吸血鬼の力です。それをきらりと室内灯の光に輝かせるとぷすり、とカボチャの煮物の出来具合を確かめるように咲夜さんのおへその下に突き刺しました。そうしてそのまま胸の方まで爪を持っていきます。本物のメスよりよく切れるようです。当然でしょう。吸血鬼の爪は人を襲うためについているのですから。お腹の皮もその下の脂肪も内臓も、骨や筋肉だってお豆腐を切るみたいにすっぱりと切っていきます。

「ふぅ、これだけ切れば心臓を探すのも簡単ね」

 喉の手前までいっきに切ったところでフランちゃんは爪を普通の長さに戻しながら引き抜きました。心臓が止っているので余り血は流れ出ません。
 フランちゃんは切り開いた咲夜さんのお腹の中へ無造作に指を突っ込むとその中をまさぐり始めました。ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ。まるで泥遊びをしているような音が鳴ります。

「うーん、心臓って、どれだろう」

 それが人間の体の中でも一番大事な部分だと言うことは家庭教師の慧音先生に教えてもらいましたが、フランちゃんはそれがどの辺りにあるのかをすっかり忘れてしまったのです。復習はきちんとしないと駄目ですね。

「もうっ、邪魔」

 そう言ってフランちゃんは咲夜さんのお腹の中からゴムホースみたいな腸を引っ張り出します。これで咲夜さんのお腹の中は殆ど空っぽになりました。フランちゃんは爪を伸ばすともう少しだけ咲夜さんの体を…綺麗な形のお胸の下あたりを肋骨に沿って切りました。お魚をさばいているみたいです。

「んっと、コレが腎臓で、コレが肝臓。こっちに入ってるのが子宮かな…?」

 ぐちゃりぐちゃりとフランちゃんは名前が分かっている内蔵を引っ張り出していきます。健や骨が引っかかっているものは爪で切り裂き、臓器から伸びているくだはぶちっ、とちぎってしまいます。けれど、心臓はなかなかでてきません。たしか、まんなかあたりにあったと思うんだけどな〜とフランちゃんはほとんど空っぽになってしまった咲夜さんのお腹の中へ手を突っ込んで探します。

「………もしかして、これかなぁ」

 そう言ってフランちゃんが咲夜さんのお腹の中から取り出したのは赤黒いぐちゃぐちゃの塊でした。お台所のゴミ箱の中に捨ててあるお肉の食べられない部分みたいです。何本か、他の臓器よりも太いくだが伸びていてフランちゃんの手からぶら下がってぶらぶらとゆれてます。

「私がぎゅっとしてどっかーん☆ しちゃったのって咲夜の心臓だったんだ…」

 これは困りました。心臓マッサージをして咲夜さんを起こしてあげようと思っていたのにまさかその心臓がめちゃくちゃのぐちゃぐちゃに壊れてしまっていたなんて。フランちゃんはただの赤黒い肉の塊に成り果ててしまった咲夜さんの心臓をもったまま途方にくれます。

「そ、そうだ。なにか心臓の代わりになるものをいれてあげればいいんだ」

 ぱっとまたフランちゃんの頭の上に電球マークが輝きます。

「けーね先生は心臓はポンプのやくわりをはたしてる、って言ってたからポンプを入れてあげればいいんだ」

 そう言ってフランちゃんは咲夜さんの心臓だったものを投げ捨てるとおもちゃ箱の中を引っ掻き回し始めます。

「あった、これだ」

 おもちゃ箱の中から取り出したのは黄色い空気入れでした。足でふみつけて空気を送り込む、うきわなんかをふくらませるための空気入れです。

「これをいれてあげれば咲夜はきっと起きるね」

 フランちゃんは空気入れを手に咲夜さんの所へ戻ろうとして…途中で自分の学習机の方へ向きを変え、二番目の引き出しからお裁縫セットももってきます。手術が終わったら次は縫合ですからね。

「よいしょ、よいしょ、っと」

 咲夜さんの空っぽのお腹に空気入れを詰め込み、青い蛇腹のホースは喉の方へ。他の臓器も思い出せる限り元の位置へ戻していきます。けれど、血と脂でぬめぬめの臓器は滑ってなかなか上手くお腹の中へ入ってくれません。フランちゃんは四苦八苦しながら何とか咲夜さんのお腹の肉をもとにもどします。

 さぁ、次は縫合です。
 フランちゃんは縫い針を一本、針山から抜き出すとそこへお気に入りの赤い糸を通しました。フランちゃんはこう見えて手先が器用なのですぐに糸は小さな針の穴を通り抜けます。あとはソーイングセットのおまけの図解糸の結び方とにらめっこしながらなんとか縫い針から縫い糸が外れないようしっかりと結びつけます。これで準備は万全です。フランちゃんは咲夜さんの切り開いたお腹のお肉を押さえるとそこへぷすりと針を刺しました。フランちゃん自慢の爪と違ってちょっと刺しにくいです。へんに差し込むと針が曲ってしまったり、糸が切れたりします。

「あいたっ!? 指さした…」

 それでもフランちゃんは何とか切り開いた咲夜さんのお腹を縫い合わせていきます。右に刺して左から抜いて折り返して左に刺して右に抜いて、順繰りに段々に縫っていきます。

「できたっ」

 途中で何度も針や糸を変えて最後までやり遂げました。えらいですね。両手をあげてばんざーいとフランちゃんは大喜びです。

「ふふふ〜ん」

 上機嫌に床の上であぐらをかいて咲夜さんが目を覚ますのを待ちます。
 けれど…

「あれ…咲夜…?」

 やっぱり、咲夜さんは起きません。どうして、心臓の代りもいれたのに、とフランちゃんは不安げな表情。咲夜さんの体を揺さぶって起こそうとします。フランちゃんの考えではこれでばっちり咲夜さんは治って、目を覚ますはずだったのに。

 けれど、やっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱり咲夜さんは目覚めません。

 と、ぷつり、と音を立てて咲夜さんのお腹を縫い付けていた糸が切れてしまいました。やっぱり、普通の縫い糸で人間の肉を縫い合わせるのには無理があったのでしょう。それに咲夜さんのお腹はフランちゃんがてきとうに内蔵とポンプを詰め込んだせいで一杯です。糸が切れてほどけたところから大腸が飛び出してきました。慌ててフランちゃんは手で押さえますがもう、無理です。こっちを押さえればあっちから、あっちを押さえればこっちから。咲夜さんのお腹の中に詰め込んだ物は次々と飛び出てきます。どれだけやっても上手くいかず、フランちゃんは諦めるよう、尻餅をついてしまいました。
 咲夜さんのお腹からは小腸と大腸がこぼれ落ち、たくさんの血で床も汚れています。

「あ…」

 それを見てフランちゃんは小さく声を上げます。目を丸く、お口もまぁるく開けて呆然とした顔になってしまいます。
 また、失敗してしまったからでしょうか?
 いいえ、違います。

「……………咲夜、起きないの?」

[散らばった臓物/床に広がる血液/内容物/リンパ液/無造作に捨てられた子宮とそこから伸びる卵巣/汚れた銀糸/潰れた心臓/切り裂かれた腹に見える脂肪の白い層/髄液が漏れる骨/虚ろな瞳/青白い顔/赤い縫い糸/赤い水たまりに捨てられている銀色の針/ペイルライダーの蹄音]

 もう、ぜったい、何をしても咲夜さんは目覚めないんだと分かったからです。

「ど、どうしよう、ほ、ほんとにどうしよう。お姉さまに怒られちゃう…!」

 あわわわ、と震え出すフランちゃん。
 咲夜さんはフランちゃんのお姉さん、レミリアお姉さんのお気に入りのメイドです。それがこうして永久に眠ったままで、絶対に起き上がらず、けっして動かないのを知ればどうなることでしょう。きっと、ものすごく怒ってフランちゃんをぶん殴ってしまうかも知れません。ああ見えてレミリアお姉さんはとってもこわい生き物なのです。

「うう〜う、あっ、ああっ、そうだ!!」

 またまたフランちゃんの頭の上に豆電球マークが灯ります。けれど、今度の光はどこか弱々しい感じ。

「も、もう、こうなったら隠しちゃおう…うん、ばれなきゃいいんだ」

 フランちゃんの心の中のわるいアクマがそう提案してきました。フランちゃんはすぐにそれを飲んでしまいます。咲夜さんをどこかにかくして、あとは知らんぷりを決め込もうと考えたのです。

「とりあえず…」

 フランちゃんは自分のお部屋を見回して、咲夜さんをいったん、隠しておく場所を探します。今はお部屋に置いておいて、みんなが寝静まったお昼頃に本格的に咲夜さんを隠しにいこうと計画をたてます。湖か山の方へ持って行けば絶対にみつかりません。

「こっちに隠しておけば大丈夫かな」

 隠し場所に決めたのはお人形さんを置いてある場所でした。最初に咲夜さんが倒れていた場所です。お人形さんはたくさんあるのでその下に咲夜さんを埋めてもきっとだれも気がつかないでしょう。フランちゃんは咲夜さんの手をとってそのまま、元あった場所へ、お人形さんが置いてある一角の方へ引っ張っていきます。
 途中、お腹を縫い付けていた糸がもっとほつれてどろり、とせっかく詰め直した咲夜さんのハラワタがこぼれ落ちてしまいますがかまいません。また詰め直すことはないのですから。

 咲夜さんをお人形さんの山に押し込み、上にもお人形さんを並べていきます。最初とよく似た光景に。いえ、もっと本格的に、たくさんのお人形さんたちに囲まれてその子たちをお布団に眠っているように…していきます。


―――トントン、トントン

 と、その途中でまるでフランちゃんを邪魔するよう、お部屋の扉をノックする音が聞こえてきました。びっくりしてフランちゃんは猫みたいに飛び上がります。

『フラン、いるの?』

 どうやらフランちゃんのお部屋にやって来たのはレミリアお姉さんのようです。これはまずいです。なぜなら、一番来て欲しくない相手が一番来て欲しくないタイミングで来たからです。

「う、うん!」

 つい、フランちゃんは同様のあまり返事をしてしまいました。声を上げた後、しまった、と思ってももう後の祭です。

「あっ、お、お姉さまちょっとまって」

 すぐに自分の失敗をなんとかフォローします。ぽぽいのぽーい、と人形を咲夜さんの上に投げてぞんざいに咲夜さんを隠します。これで咲夜さんはOK。あとは…床の上に広がっている咲夜さんの血や臓物をどうにかしないと。

「なにしてるのフラン? 入っちゃ駄目なの?」
「そんなことないけど、ちょっと待ってってば」

 ここでヘタに入ってこないで、なんて言えばレミリアお姉ちゃんが意地でも入ってこようとする姿が目に見えます。フランちゃんはレミリアお姉ちゃんの裏をかいて扉の向こうに向けてそう言って、ええいままよ、と腕を振ってスペカを発動させました。術式が描かれた符が霧散し魔法力の粒子が煌めき、ごぅ、と大気を熱し轟かせる炎の剣がフランちゃんの手の中に現れます。フランちゃんの十八番スペル、魔剣『レーヴァティン』です。巨人族の王が持つ、神々の黄昏で世界を一度滅ぼした業火を纏う剣。それを模したスペルカードをフランちゃんは横に一振り。強力な熱に床の上に散らばっていた咲夜さんの血やハラワタは全部、燃えかすになってしまいます。残った灰や消し炭は足で払って何とか証拠らしい証拠は全部隠滅しました。

「うーん、あとは…」 

 レーヴァティンを片付けるようにけして、フランちゃんは咲夜さんの手術を行った場所に目を向けます。焼け焦げた跡が残る床がちょっと目立つので、フランちゃんはそれを隠すためにベッドのシーツをひっつかみました。
 けれど…

「もう、フラン。何してるのよ」

 レミリアお姉さんがフランちゃんの了解も得ずに入ってきてしまいました。大変です。急いで床の焦げ跡を隠そうとフランちゃんはシーツを掴んだまま走り出し、そうして、つい、シーツを踏んづけてしまいびたーんと顔から倒れてしまいました。つよく、鼻を打ってフランちゃん涙目です。

「ちょっと、大丈夫、フラン?」

 レミリアお姉さんが駆け寄ってきます。言葉はいつも通りですけれど、顔には妹のフランちゃんを心配する色が出ています。

「う、うん…」

 ぶつけた鼻を押さえながらフランちゃんは応えます。幸い、鼻血は出ていないようです。よかったね、フランちゃん。

「そう。ところでフラン。咲夜を知らないかしら。美鈴に聞いたら貴女の所にいるっていわれたのだけれど」
「っ!?」

 今度こそフランちゃんはびっくり。一番来て欲しくない人が一番来て欲しくないタイミングで一番聞いて欲しくないことを聞いてきたのですから。また、フランちゃんは動揺して咲夜さんを隠してあるお人形さんスペースの方へ目を向けてしまいます。そこでフランちゃんが目にしたのは…

「あ」

 適当に乗っけたからでしょう。頭の辺りに乗っけていた人形が崩れて、お人形さんの布団から咲夜さんの頭だけがぴょっこりと出てしまっているじゃありませんか。
 とうぜん、つられるようにレミリアお姉さんもそっちの方へ顔を向けます。

「やっぱり、ここにいたのね。咲夜、って…」

 咲夜さんの姿を見つけて呼ぼうとしたレミリアお姉さんの顔に少しだけ影が差します。違和感に気がついたのでしょう。しまった、ばれてしまった、とフランちゃんは脅えて体を小さくさせます。

「………」

 お人形さんの布団に埋もれたまま全く動かない咲夜さんとシーツの端っこを掴んだまま俯いているフランちゃんをレミリアお姉さんは交互に見比べます。
 時間にしてほんの数秒。だけど、フランちゃんには永遠のように感じられました。誰だって嫌なことが起きる前、例えばテスト開始の五分前だとか予防注射を打ってもらうために並ぶ時とかアルバイトの面接の前だとか、そういう時間は長く感じられるものです。それが怒られる時ならなおさら。

 もう、言い訳も誤魔化す方法も考えられないままフランちゃんは俯いて震えます。

「フラン…貴女…」

 すぅぅ、とレミリアお姉さんが手を上げます。
 叩かれる、と思ってフランちゃんはぎゅ、っと目を瞑りました。レミリアお姉さんのげんこつはとっても痛いです。頭蓋骨が陥没して脳漿が潰れて首の骨が折れるぐらい、とっても。あんな痛いのはごめんです。でも、あまんじてうけるしかありません。フランちゃんは訪れる痛みに耐えるため、きつく奥歯を噛みしめて…

「フラン…」

 けれど、いつまで経っても目の奥に火花が飛ぶような衝撃は訪れず、代りに耳の横からすっと髪の毛の間に指を優しく入れられました。えっ、とフランちゃんは顔を上げます。

「お姉さま…」
「咲夜は…貴女と遊んでいる内に寝ちゃったのかしら。しかたのないメイドね」

 レミリアお姉さんはそんなことを言ってきます。フランちゃんが全く考えていなかった展開です。レミリアお姉さんはお人形さんに囲まれて浅く目蓋を閉じてじっと身動き一つ取らない咲夜さんをどうやら眠ってしまっているのだと勘違いしてしまったみたいです。愚かですね、永遠に眠っているだけですのに。

「あの、お姉さま…」

 でも、フランちゃんは逆に戸惑ってしまっています。怒られるものだとばっかり思っていたのに。

「まぁ、でも、この処、疲れているみたいだったしね。今日ぐらいは大目に見てあげましょう。貴女に免じてね、フラン」
「えっ?」

 レミリアお姉さんの言っていることがよく分からなくてクエスチョンマークを浮かべるフランちゃん。どうして、『貴女に免じて』なのでしょうか。フランちゃんはレミリアお姉さんにおずおずと説明を求めて視線をなげかけます。けれど、レミリアお姉さんが疑問に答えてくれません。代りに、フランちゃんの金髪に差し入れていた手をすぅっと引き抜くと、

「あっ…」
「いい子ね、フラン」

 フランちゃんの頭をなで始めました。
 優しい手つき。低いけれどレミリアお姉さんの温かさが確かに伝わってきます。

「そのシーツ、咲夜の為に持ってきてあげたんでしょ。人形のベッドも貴女の作品かしら。ええ、咲夜はいつも私たちのために働いてくれているからね。たまには私たちの方から咲夜の為になにかしてあげないと…ふふっ、妹に教えられるなんて私もまだスカーレット家当主失格ね」

 そういいながらフランちゃんの頭をなでるレミリアお姉さん。フランちゃんが咲夜さんのためにしてあげたと、後半は自分自身に言い聞かせるみたいに、感激しているようです。

「っ…お姉さま」

 何でしょう、頭を撫でられているのにフランちゃんは何処か辛そうな顔を浮かべています。まるでハートに小さな骨が刺さったみたいに。むず痒いを通り越して、何だが喉にできたおできに苦しめられているような。そんな違和感と痛み。
 そんなフランちゃんの様子を照れ隠しだと思ったのかレミリアお姉ちゃんはもう少しだけフランちゃんの頭を撫でてあげました。

 それからレミリアお姉さんはにっこりとフランちゃんに微笑みかけると手を離しました。

「本当は咲夜に用事があったのだけれど、いいわ。大した用じゃないし。咲夜が後で起きても言わなくていいわ」

 レミリアお姉ちゃんはそう説明すると、くるりと踵を返して帰ろうとします。足音はとっても静かに。声もフランちゃんにだけ聞こえるようとっても小さく。妹を見習って私も、といった様子です。

「それじゃあね、フラン。また、夕食の時にでも」
「あ…まっ、まって、お姉さま」

 と、扉を開けて帰ろうとするレミリアお姉ちゃんを呼び止めるフランちゃん。
 と、すぐにフランちゃんはじっとレミリアお姉ちゃんの背中を見ていた目をそらしてしまいます。どうして、自分でも呼び止めたのか分からなかったからです。

「なに、フラン?」

 足を止めてまた振り返って、レミリアお姉ちゃんは問いかけます。でも、フランちゃんにも分からないのです。
 立ち上がって、俯いて、シーツを強く握りしめてフランちゃんは考えます。
 レミリアお姉ちゃんに頭を撫でられていた時、とっても胸が痛くて苦しかったその理由を。

 レミリアお姉さんはフランちゃんが『いいことをした』と思って褒めてくれていたのです。頭を優しくなでてくれていたのです。
 でも、本当はフランちゃんは悪い子です。咲夜さんをぎゅっとしてどっかーん☆ してしまい、その後も誰かに助けを求めたりせず自分だけの浅はかな考えで治そうとしたり、あまつさえ治せなかったから動かなくなった咲夜さんを隠して証拠隠滅を計ろうとしたり。
 フランちゃんの胸の痛みはそのズレでした。自分は悪いことをしているのに他人からいいことをしていると褒められることが。コインの裏表のようにいいこととわるいことは一緒にはできません。もし、一緒にしようとするとやっぱり、どこかに歪みができてしまいます。それがフランちゃんの胸の痛みの原因です。ほら、体の何処かを歪むよう無理にひねれば痛いでしょう。それと一緒でフランちゃんの心がいいこととわるいことの歪みに痛みを訴えたのです。
 いたたまれない気持ち、というものです。
 この時フランちゃんはやっと理解しました。こんなヘンな気持ちになるのなら、ちゃんと謝って怒られた方がずっとマシだと。
 怒られずにすんだなんてぜんぜん、微塵も考えられませんでした。

「………言いたいことがないならもう行くけれど」

 ずっと考え込んでいるフランちゃんにしびれを切らしてレミリアお姉ちゃんは今度こそ帰ろうとします。

 けれど、帰してはいけません。

 ここで帰してしまえば、今言わなければ、今言わないとなにも意味がなく、フランちゃんがせっかく理解した大切なことが全部無駄になってしまうからです。

 フランちゃんはぎゅっと両手を握りしめると、きちんと謝ろうと、きちんと謝ってちゃんと怒られようと決意を固めました。
















「ごめんなさいお姉さま。咲夜、殺しちゃったの、私」
















END
<メイド大募集>

紅魔館では現在、炊事火事事務掃除全般を行えるメイドを募集しています。
美少女であれば年齢、種族、性別は問いません。




(※ただし、以下の技能を有している方のみに限定させていただきます。
フィーリングファクター、もしくはそれと同等程度の再生能力、不死性
sako
http://www.pixiv.net/member.php?id=2347888
作品情報
作品集:
21
投稿日時:
2010/10/25 18:30:27
更新日時:
2010/10/26 03:30:27
分類
フランドール
咲夜
レミリア
はらわたをブチ撒けろ
1. 名無し ■2010/10/26 06:07:27
秋姉妹、紅魔館へ出稼ぎに行くの巻
おねぇちゃん!住み込みのバイト見つけたよ! ←サブタイ
2. 名無し ■2010/10/26 07:29:10
いい感じに狂気じみたフランちゃんうふふ
最後にいい子になったフランちゃんうふふ

輝夜の就職先はここかなと思ったけど、根本的部分でアウトだという…
それともまさかのもこフラか
3. NutsIn先任曹長 ■2010/10/26 07:53:48
フランちゃん、いい子。
最後にはちゃんとごめんなさいを言えました。

ペイルライダーって…。
映画『ドーンオブザデッド』のオープニングや、
『TVドラマ版ターミネーター』でFBIのSWATがプールに放り込まれるシーンで
流れた曲が脳内で再生されましたよ。
4. 名無し ■2010/10/26 08:55:07
フランちゃんなんでポンプなんか持ってたのかなウフフ
5. 名無し ■2010/10/26 08:55:13
いけないことしたらごめんなさいっていえる心って大事だよね
咲夜さんもあの世で感動にむせび泣いてるだろう
6. 名無し ■2010/10/26 10:42:43
もちろんこの後悪い子フランちゃんは産廃的にメチャメチャのギタギタにされるんですね。わかります
7. 名無し ■2010/10/26 10:55:21
このフランちゃん可愛い、マジ可愛い
8. 名無し ■2010/10/26 22:43:52
咲夜2号、3号の出番ですね!

きっと『咲夜』という名前は代々メイド長にのみ受け継がれてきた名前なんよ
9. Explorer ■2010/10/27 06:03:08
>美少女であれば年齢、種族、性別は問いません。
矛盾を感じたのは俺だけでしょうか?
10. 名無し ■2010/10/27 19:40:33
>9
大丈夫だ、問題ない。男の娘、と考えるんだ
11. 名無し ■2010/10/29 01:29:59
>フランちゃんはぎゅっと両手を握りしめると

レミィをもどっかーん?
12. 名無し ■2010/12/26 14:10:43
咲夜さんの子宮に、んほおおおおおお!!!
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