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『幻想侵略記10』 作者: IMAMI

幻想侵略記10

作品集: 23 投稿日時: 2011/01/14 00:50:27 更新日時: 2011/01/14 09:50:27
「おや、騒がしいわね」

幻想郷にある数少ない幻想入りした拳銃、エンフィールドリボルバーの手入れをしながら小兎姫は外の様子に気をやった。

「小兎姫さんそれ何?」

「拳銃よ。ナイフや刀よりずっと強い武器。メギャン!ってね」

小兎姫は横から訪ねてきたリリカに答えて拳銃を構えて見せる。フル装填の回転式拳銃を。

『小兎姫。いるな?』

そんなやり取りをしていると理香子が小兎姫宅を訪ねてきたらしい。

「どうしたの?」

「里の北口に来てほしい。自警団が集まっている」

どうやら騒ぎとはこれらしい。小兎姫は十二単擬き姿で理香子と共に里の北口へと向かった。

北口には丁度慧音が自警団の男に連れられていた。

「慧音さん。こちらです!」

「これは……」

入り口につくと見慣れない物が映った。目玉に羽を生やしたような怪物のような禍々しいデザインの何かが人里の入り口にあった。
見たところ人工物らしく、微弱な魔力が感じ取れる。

「知っているのか?慧音」

「ああ。飛行戦車イビルアイΣだ」

妹紅に慧音が応える。

「里香という人間の少女が作った兵器だ。………博麗霊夢と仲が良い」

「そうか。一応警戒体制に入る」

妹紅の言葉で自警団がイビルアイを取り囲む。と、そこでイビルアイの側面が開いた。そしてそこから二人の人間が現れた。

小兎姫と理香子はひとまず様子を見ることにした。

「………里香と、明羅だな」

慧音が二人の姿をみてそう声をかける。

「ええ。そうなのです」

慧音の呼び掛けに応えると里香はゆっくり慧音に近寄った。

「ちょっと慧音さんに用があるのです。霊夢のことで」

「ふむ。霊夢の事でか」

「はい。霊夢は今イビルアイの中に居ます」

「何だと!?」

自警団の間でどよめきが起きる。

「小兎姫。聞いたか?」

「ええ………!」

小兎姫の手に力が入る。

「どうしたのですか?霊夢が来ただけで何を騒いでいるのです?」

「当たり前だろう!お前霊夢のこと知らないのか!?」

「はい。知ってますよ。今まで妖怪の手から守ってきた人間にテロの容疑をかけられている。と」

「なら、話は早い。霊夢を引き渡せ」

「引き渡してどうするつもりですか?磔にして火炙りにでもするんですかね?そこに立っている下品な男共に犯させたあとで」

「何……!?」

慧音は里香の物言いに言葉に詰まってしまう。

「なぜ、そんなことをなさるのですか?」

「決まっているだろう!あいつは幻想郷の反逆者だ!」

「かといっても、霊夢の行動の現場を見た方なんていないと思いますよ?」

「だが、奴に殺された四季映姫殿には博麗の術による傷が──」

「博麗の術を使うのは霊夢だけではないでしょう?」

「………話にならんな」

慧音が首を振る。

「どういうことかしら?」

話を聞いていた小兎姫が理香子に訊いた。

「……なるほどね。なかなか面白い発想じゃないか」

理香子は何かを掴んだらしくしきりに頷いた。

「話にならないのはこちらです。あなたの歴史の中で博麗の術を使える人は霊夢だけなんですか?」

里香に言われて慧音は考える。たしかに博麗の術を使う者は霊夢一人だけではない。歴代の神社の神官──神主や宮司、巫女も博麗の術を使った。だが、それは──

「それは、歴史の中の存在だ」

今生きている博麗の術を使う者は博麗霊夢ただ一人だ。

「ねぇ、そこの白衣の方?」

「なに?」

突然里香は後ろで聞いていた理香子に話を振った。理香子に注目が集まる。

「魔法に詳しいですよね?」

「………詳しい」

理香子の答えには間があった。

「魔法の中に死者を蘇らせるものはありますか?」

「………言いたいことはわかった」

恐らく、この少女はこう言いたいのだ。

侵略者は先代の博麗の人間の中でも霊力に長けた者を魔術など何らかの方法で蘇らせたのだと。

「死者を蘇らせることはできる。しかし、閻魔を倒す程の実力者、それも博麗の血を持つ者を蘇らせることは現実的ではない。
それなりの対価が必要だ」

「どの程度の対価が必要なのですか?」

「生きた人間だ。それも、特殊な力を持った人間、例えにしたくはないが東風谷早苗や、十六夜咲夜程の人間が一人必要だ。
写真や断片的な情報を見る限りでは侵略者の尖兵の男はただの人間にあとから能力や武器をつけたと見ていいだろう。そんなことをするということは外の世界に先天的な能力を持つ人間はいないということになる」

「なるほど………しかしそれなら出てきましたね」

里香が頷いた。

「対価が居れば別の博麗が存在する可能性は十分にあるのです」

「だが……」

「それに考えてもみてください。霊夢が侵略者なら、あたいか霊夢のどちらかがやられてますよ」

「こっちはお前らも霊夢側なんじゃないかと言っているんだ!」

妹紅が耐えかねて里香の胸ぐらを掴んだ。

「やめろ妹紅!」

「里香!」

慧音が妹紅を引き剥がすが妹紅は止まらない。

「だいたいなんださっきからその口調は!?人をバカにしたような饅頭みたいな面しやがって!」

「………もし霊夢が侵略者で、あたいが霊夢側についたらこの里をイビルアイで焼き払っているのです」

「なにっ……?」

「ずっと里を守ってきた友人なのに、はっきりとした証拠もなく疑われているのですよ。一人でも、多数でも何も出来ない里の人間に」

「里香……」

里香の声が震えているのを聞いて、明羅が止めようとするが、里香は続けて言った。

「霊夢を処刑する理由だって、そんな里の人間を満足させるためなのですよね」

広場がシン──と静まり返る。里香の弾劾に誰もが言い返せないでいた。

「うむ……彼女の言うことも最もだろう」

そんな静寂を切り裂いたのは里長だった。そう大きくもない声なのに、とてもよく響いた。

「皆の者。席を外しなさい」

「里長!」

自警団の一人は里長に反発した。

「そんな……もし信じて里が滅びるようなことになったら──」

「霊夢殿と話す席を今夜設けたい。よろしいか?
もちろん、君たち二人を交えてだ」

そう言われたら自警団は黙るしかない。里長の決定だ。自警団は愚痴りながらもぞろぞろと持ち場へと帰っていく。

「戻ろうか?」

「あなた達は待っててください」

里香は帰ろうとする理香子と小兎姫を止めた。

「まだ用があるのかい?」

「用があるのはお巡りさんの方ですよ」

「………ええ」

里香に見透かされていたようだ。小兎姫は頷く。

「明羅」

「わかった」

明羅がイビルアイの中に入り、ほどなくして霊夢を伴って出てきた。

「霊夢……!」

小兎姫が霊夢に駆け寄る。

「……小兎姫」

「霊夢。聞こえていたな。
夜にまた会談がある。護衛に小兎姫をつけたいがよろしいか?」

「うん……小兎姫なら。
でも、明羅さんは……?」

「私と里香はまだ仕事がある。
小兎姫もいいな?」

「ええ」

里香と明羅がイビルアイで来た方向を戻っていくのを見届けると、霊夢は小兎姫に向き直った。

「小兎姫は私のこと…」

「信じてたわ。当然よ。
私の仕事場に泊まって貰うわ」

さらりと小兎姫が言って霊夢を自分の仕事場、牢獄へと連れていった──
















里香と明羅が博麗神社に戻ると、丁度金髪の男が神社の本殿から出てきた。

バラララララララ!

それを見るや否や里香はイビルアイから機銃を金髪の男に上空から放った。

「!?」

金髪の男は自分の足元に銃弾が降り注ぐのを見て足を止める。

「………なんか用かよ」

イビルアイがゆっくりと着陸し、中から明羅だけが現れる。

「……神社で何をしていた?」

明羅が刀を正眼に構えて言う。

「そういきなり撃ってきて怖い顔しないでくれよ。
ちょっと欲しいものがあったんだよ」

金髪の男がそう答えて笑った。

「どうやらやる気みたいだな」

『ええ。もちろん』

「刀の錆にしてやる」

二人とも戦闘体勢に入る。金髪の男はマントの下に仕込んでいたらしいグリモワールを開いた。

「悪いな。俺はまた別の仕事があるんだ。
こいつと遊んでてくれ」

グリモワールに込めた魔力を解放すると、焦気が金髪の男を中心に立ち込め、その焦気の中から緑髪の女が現れた。

「なっ……!?」

深海のような碧色のローブと同じ色の三角帽子。
そして飾り気のない曲刀──

『魅魔………!』

博麗神社に封印された悪霊、魅魔その人だった。

「博麗霊夢は居なかったが、こいつはなかなかの収穫だったぜ。
早速使い魔にしたが疲れちまった。だから遊んでてくれ」

金髪の男は魔力を使って中に浮き、空へと逃げていく。

「……ム……レイム……」

魅魔の目にはもう正気はなかった。月の夜の沼のようなどろりと濁った瞳で二人を睨む。

「里香。あの金髪の男を追え。
魅魔は私が」

『──わかったのです。どうか、死なないで』

「当たり前だ。
勘違いするな。お前のためじゃない。霊夢のためだ」

『わかってるのですよ』

里香がそう返事をすると、イビルアイは猛スピードで金髪の男を追っていった。

「……とは言ったがな、魅魔」

「……ア、ア、ア…………………マリサ…マリサ…」

「私は生き残る気はない。
お前程の奴と戦って生き残ろうとは思わん。
霊夢は、あの警察官や魔法使いに譲ろう。私は霊夢が欲しいんじゃない。霊夢が幸せになってくれればいい」

「………ステハミ……マリサ……」

ガキン!

重い重い、明羅の一撃が魅魔の剣に受け止められる。

「魅魔。知っているか?覚悟をした人間はな──」

明羅はつばぜり合いとなった魅魔の剣を捌いて、魅魔の胴体に斬撃を入れる。

「ゴゲェェェェ!」

──残心。

斬り抜いたあと直ぐに明羅は魅魔に向き直る。

「何よりも強いんだ。妖怪よりも、神よりも」

「ギギギ……ゴオッ……」

「今の私なら、神だって斬れるぞ」

すると魅魔は、血を流しながらも剣を放り出して、代わりに杖を取り出した。

「本気になったみたいだな」

杖の先端から魔力の気弾が放たれる。だが明羅がそれが自分の身体を打ち据えようと魅魔に斬撃を叩き込む。

「アアアアアア゛ッ!」

袈裟懸けに斬られた魅魔は、耐えかねて片膝をつく。

「どうした魅魔?私よりも先に膝をつくとは。
私はまだ笑っていられるぐらいだぞ?」

明羅は本気に微笑みを浮かべて言う。

「イギッ、ガァッ!」

魅魔が杖で明羅に殴りかかる。明羅はそれをかわし、魅魔の喉をその刀で突き刺し貫いた。だが───

ボキュッ!

魅魔の魔力を込めた拳も同時に魅魔のがら空きの腹にめり込んだ。

「ゴブッ……」

内臓が潰れる感触。血混じりの胃の中の内容物を明羅は吐き出した。

「がはっ……
さすがだな、魅魔。だがもうお前も、辛いんじゃないか?」

血の嘔吐はしたものの、明羅は意識はおろか姿勢まで保っていたため刀は魅魔の喉に刺さったままだ。

魅魔はもう喋れず、口から空気の漏れる音のような声を出すのみだ。

ガボッ!

すると、魅魔は魔力を込めた拳を明羅の顔面に叩き込んだ。これにはたまらず明羅は吹っ飛ばされて土をなめた。その拍子に刀も魅魔から抜けた。

「ぐっ…」

顔面の右半分の骨が砕けて醜く腫れ上がって歪み、眼球が垂れ下がる。その姿はまるで悪霊のようだった。

(ははは…これでもう、霊夢には会えないな。人と好き合うことも出来ん………)

明羅は垂れ下がる眼球を引き抜き、立ち上がった。

(だが、これで完全に吹っ切れた)

魅魔は再びゆっくりと正眼に刀を構えた。

(おのれっ……
感覚が麻痺してきた……)

次の斬撃が最後だろう。仕留めるしかない。

魅魔は喉を破壊されながらも口だけを動かして何かを言っている。マリサ。と言っているのはわかるがその先が不明瞭だ。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァァァ!」

砕けた顎を動かし、明羅は渾身の太刀を魅魔に放つ。

魅魔も重傷でろくに動けないだろう。なら魅魔は受けるしかない。だからこの一撃は、魅魔の杖ごと断ち切るつもりでいた。

ザシュッ──!

だが、魅魔は──

(──!?)

両腕を垂らしたまま杖で受けることはなく、明羅の太刀によって首を跳ねられた。

(何故だっ……)

もう残心する気力もなく、明羅は石畳に倒れ込む。自分の役目はこれで終わりだ。悪霊といえども実体を持った状態で首を跳ねられては生きてはいるまい。

(魅魔……)

ドサッ

宙を舞った魅魔の首が石畳に落下する。左目の視界の端に魅魔の首が映る。

「………!………!」

魅魔が唇を動かして明羅に伝えようとしている。明羅はそれを混濁した意識で必死に読み取る。もう数分も意識を保っていられまい。

恐らく、魅魔にも意識があったのだ。自分が敵の僕になって弟子やその友人を傷つけるのは耐えられない。だから、明羅に斬られることを選んだのだ。

やがて魅魔の唇の動きが完全に止まる。最後まで伝えることが出来なかったが、明羅にはそれだけで十分だ。

(誰か伝えてくれ…)

明羅は血文字で魅魔からの情報を石畳に書く。きっと、これを彼女が見れば──



「困るんだよな。そんなことされちゃあ」



ズシャッ───!
















里香はイビルアイで金髪の男を追って妖怪の山までたどりついた。

(見失ったのです…)

金髪の男は凄まじいスピードで飛び去ってしまった。

(引き返すのです)

里香は早々と見切りをつけ、明羅の加勢に向かうことにした。そのとき──

(!?)

イビルアイの上に誰かが立っているのが感覚で里香は感知した。いつの間に?

気のせいかも知れない。が本当に立っていたら大変だ。

里香は左右にイビルアイを振って何者かを振り落とそうとした。

ビーッ ビーッ ビーッ!

「えっ……?」

イビルアイの内部で警報が鳴り響く。エンジントラブルだ。

(何か悪さをされましたね)

里香は天井を睨んでバランスを崩す機体を制御しながら轟音をたててイビルアイを着陸させた。


ドゴォォォォォォォォォン!!


「ぐっ……!」

着陸の衝撃が里香を襲う。だが、すぐにモニターで周りの様子を確認した。

「……あれは?」

モニターから判断するにイビルアイの真後ろにそれはいた。

メイド服に身を包み、刺突剣を構えた緑髪の少女。無表情のままゆっくりと近づいてくる。

おそらく、イビルアイの上に乗ってエンジンを破壊したのは彼女だろう。

(後ろからならやられないと思っているのですね…)

イビルアイは後ろにも機銃がある。里香はメイド服の少女が十分に近づいてきたのを見計らって機銃を放った。機銃が少女のその華奢な身体を打ち据え、粉々に砕く。───はずだった。

「!?」

メイド服の少女は跳躍して機銃をかわしながらイビルアイに接近してレイピアでその扉を切り開いた。

密室だったイビルアイの内部に日光が差し込む。

「うそっ……」

メイド服の少女は無言でイビルアイの内部に手をねじ込み、里香の胸ぐらを掴んで、イビルアイから引き摺り出した。

「しまっ──」

そしてそのまま斜面の上から下へ投げ飛ばされる。土の地面を転がる里香。
里香は戦車技師だ。生身の肉体による戦闘能力は全くない。

メイド服の少女は声を出す機能を持ち合わせていないかのようにレイピアを振りかざし、切っ先を里香の心臓部に定め、降り下ろした!

「ぐうっ!」

里香はとっさに腕で胸元を庇い、心臓を貫かれることは免れたが、腕を貫かれ、うめき声を上げる。

「ぎっ…こなくそっ!」

レイピアによって肉が裂け、骨が軋むのを堪えて里香は貫かれた左腕でレイピアを払った。

「死ねぇっ!」

パン!

そして右袖の隠し持っていたパーカッション式デリンジャーの銃口をメイド服の少女の頭部に合わせて引き金を弾いた。

小さいが確かな威力を持つ銃弾がメイド服の少女の額を穿ち、その衝撃で吹っ飛ばされてレイピアが里香の腕から抜ける。

立ち上がり、痛みを堪えて走り出す。イビルアイに乗り込まなくては。

バラララララララッ!

「あぐう゛っ!?」

だが、程なくしてメイド服の少女が隠し持っていたウージーの弾丸に全身を穿たれ、口から血を溢しながら地面に倒れ伏した。

「ぐうっ…かはっ……!」

血がどんどん流れていく。感覚が消えていく。

(頭を撃ったのに!?
人間じゃ…なかったのですか………!)

撃たれた衝撃で銃は手放してしまった。そうでなくても頭を撃ってもウージーを放つ敵には役に立たないだろうが。

(ごめんなさい…明羅)

何も出来ない不甲斐なさに里香の目から涙が流れる。それでも事態は変わらない。メイド服の少女はゆっくりと死に体の里香に近寄る。

パララララララッ!

残忍なウージーの弾丸が里香の頭を粉砕した───

















「はぁっ、はぁっ……」

妖怪の山の麓で息を切らす鈴仙の頭上をイビルアイが横切った。

「ふっ……はぁっ……!」

鈴仙は逃げてきたのだ。
てゐは眼を覚まして自分のしたことを永琳に伝えただろう。もうあそこには戻れない。

「なんで……こんなことにっ……!」

もし捕まれば間違いなく永琳の手で処刑される。鈴仙は考えた。自分が協力者となった侵略者に保護してもらおう。永遠亭周辺にいるよりは安全だ。

「なんで……なんでよっ!」

我ながら浅ましい考え方だった。しかし、自分とてゐは生き残る権利がある。ならそれは最大限に利用してやる。

バシュッ!

「!?」

鈴仙がそう決意して更に歩みを進めようとすると足元が突然爆ぜた。

「ここにくるだろうと思ったよ。鈴仙」

ゆっくりと、物陰からズボン姿の少女が現れた。

「……妹紅」

「永琳に頼まれたよ。制裁しろってな。
やってくれたな。裏切り者め!」

三人目の蓬莱人、藤原妹紅が真紅の炎を纏い、激昂する。永琳が妹紅に伝えたのだ。

「何か言い残すことはあるかい?」

「待って!
……その、あなたも助けて貰えるように頼むから……!」

「何っ?」

「あなたも、殺さないようにあの人達に頼むから……だから……!」

鈴仙が震えながら懇願する。

「妹紅なら幻想郷じゃなくても、どこかの世界で暮らしていけるし……だから……!」

鈴仙が侵略者に自分も鈴仙やてゐと同じように助けるように頼むから、だから見逃せ。

鈴仙はそう言っているのだ。

「なんだよ、それっ……!」

フッ、と妹紅の炎が消えた。

「ふざけるな……お前はそんな奴だったのかよ……!」

膝をついた妹紅の眼から涙が熱された地面にポタポタと零れた。

「どうして……そんなことしたんだよ!そんなことしてまでお前は生き延びたいのかよ!?」

「妹紅……」

「殺したくないよ……お前を殺したくない!
心の中では、お前達に憧れていたんだ。輝夜も永琳もお前もてゐもみんな楽しそうで……
私にも慧音がいた。でも慧音しか居なかった。慧音にはいろいろな奴がいる。輝夜にすらお前達がいた!」

絞り出すような声を上げる妹紅。

「……本当に残念だよ。鈴仙」

再び妹紅が炎を纏った。

「焼き殺すよ。お前を」

「いやっ………!」

鈴仙の眼が紅く輝く。だが、光は妹紅の纏った炎によって屈折し、波長をずらされる。

ドスッ!

「あぐぅっ!」

妹紅は鈴仙の腹に拳をめり込ませ、ブレザーについていた月の記章を奪い取った。そして殴り倒して腹に足を乗せる。

「お前を始末した証に貰うよ」

「もこ……!」

「何か言い残すことは?」

「いや……やめて……!」

なんで自分が殺されなきゃいけないんだ。

鈴仙の妹紅には届くことのない紅い瞳にはそう書いてあった。

たしかに鈴仙の行動な責められることではない。強大な敵に襲われ、どうすることも出来ずに自分が助かるために仲間を敵に差し出して寝返る。

人妖限らず、自分が大事だ。それは永琳も妹紅もわかっていた。わかっているが、許せなかった。

「妹紅……許して!妹紅も助かるから!」

「うっ、うわあああああぁぁぁぁぁぁっ───!」

妹紅は自分を中心に火柱を作り出した。それにより妹紅に踏まれていた鈴仙の身体は炎に蹂躙され、焼け爛れていく。

「ヒギァアアアアアァァァァァァア!」

鈴仙は十秒間も叫べなかった。焼かれ、燃やされ、声帯も眼球も燃え尽きて、黒く焼け焦げた。

「………」

鈴仙が絶命したことを火柱の中で確認すると妹紅は火柱を消す。妹紅の足元には真っ黒な塊のみがあった。

「くそっ……!」

涙を堪えて手の中の月の記章を見つめる。永琳は何と言うだろうか……

「あーあ。気の毒なもんだ」

「!?」

妹紅は背後からの声に振り向いた。

「まぁ、岡崎のことだからこうなる算段だったんだろうが」

肥満体の男が抜き身の刀を肩に担いで立っていた。

「お前は……!」

「さて、老いもせず、死にもしない人間か。殺せって言われてるから、死んで貰うぞ」

肥満体の男のそのセリフが妹紅の言葉への答えとなった。妹紅が再び炎を纏う。

「やっぱり火か。火ってモノから人類は始まったんだよな。なんだっけか。コレを言った学者先生は───と」

肥満体は刀の背を軽く撫でた。すると、肥満体の周りに白い何かが立ち込めた。

「霧──!!」

それは霧だった。
微弱な魔力を帯びた霧が辺りに立ち込めたのだ。

「それがお前の能力か?」

「この刀、見覚えがないか?道具屋の兄ちゃんから拝借したものなんだが」

刃紋を見せつけるように刀を突き出す肥満体の男。

「霧雨の…剣」

妹紅はその刀の名を知っていた。以前、好事家の輝夜から聞いて道具屋に見に行ったことがあった。

「ご名答。正式には草薙の剣だ」

ひゅっ。と肥満体は霧を切りながら刀を振り立てる。すると漂う霧降り頻る雨に変わった。それによって妹紅の炎も多少勢いが殺さる。

「この霧や雨はこの剣の力だ。どうやら剣が所有者を認めたときにこの力を発揮するらしい。
俺はこの剣に俺を認めさせた──」

「……!」

その言葉に凄みを感じ、妹紅は一方後退りする。

「これが俺に与えられた能力。剣を操る能力だ」

肥満体が刀を正眼に構える。

(大丈夫だ……まだこちらは不死身だ)

妹紅は炎を纏い、肥満体を睨む。肥満体が動いた。雨を纏いながら突進してくる。妹紅は炎を放って向かえ討った。

ゴオッ──!

雨の中で力が弱まっているとはいえ、相手は能力を持っていても所詮人間だ。火には耐えられまい。

そう妹紅が思っていると、火の中を突ききった肥満体が現れた。服が焼けた様子すらない。

「なっ──!?」

「はあっ!」

肥満体の斬撃を妹紅は身体を捻ってかわそうとする。が、反応が遅れて背中を斬られてしまった。

「ぐうっ……!」

ぬかるんだ地面に倒れる妹紅。

「特殊な繊維で作った耐火服だ。ちょっとやそっとじゃ効かないぞ。緩衝や防刃性能もある」

妹紅は背中の斬られたあたりに手をやった。斬られて血は出ているものの、傷は完全に塞がっている。妹紅は立ち上がり、言い放つ。

「あいにくだけど、こっちは死ぬことはない。お前がいかに優れた剣士でいかに優れた刀があってもお前じゃ私は倒せない」

妹紅の纏っていた炎が鳳凰を形づくる。

「お前が疲れはてるまで私は戦う!」

不死『火の鳥 鳳翼天翔』

文字通りの火の鳥が真っ直ぐ肥満体に向かっていく。そのとき───

ザッ──

「がっ!」

妹紅の腹部に小刀が刺さった。あの肥満体が投げた物だ。

(いまさらそんなもの──えっ?)

妹紅が小刀を抜こうとしたとき、ある違和感に気付いた。

(まさか………!)
正規ナンバー作品が10作目となりました。IMAMIです。
もこたんの口調が全然安定しないなぁ…
久々に敵さんがまともに出てきました。この世界の人たちは「〜程度の能力」って言い回しはしないそうですね。ここのどなたかの作品のあとがきでそうおっしゃってました。
魅魔様もうちょっと寝返り組として活躍させてやりたかったなぁ…

魅魔 金髪の男に操られ、魅魔に討たれる。
明羅 魅魔を討って重傷を負ったのち、何者かによって殺される。
里香 金髪の男を追跡中、緑髪のる〜ことによって殺害される。
鈴仙・U・イナバ 幻想郷を裏切ったことにより、妹紅によって始末される。
IMAMI
作品情報
作品集:
23
投稿日時:
2011/01/14 00:50:27
更新日時:
2011/01/14 09:50:27
1. 名無し ■2011/01/14 10:38:04
うどんげえええ!!
2. NutsIn先任曹長 ■2011/01/14 12:45:40
裏切り者の末路にふさわしい、鈴仙の最期。
もう蓬莱人対策が完成したのか!?
旧作組の犠牲者も増えてきましたね。
お巡りさんはそんな中折れ式の骨董品で霊夢を護れるのか!?
それは逆転の切り札か!?魅魔様のダイイング・メッセージは魔理沙に伝わるのか!?

こうなったら…、夜伽に出てくるような『幻想を無効化する程度の能力』を持った男衆に
戦闘訓練を施して、『こっちの幻想郷』に送り込むしかないか…。

能力に『程度の』と付けない、己の力を過信した敵に勝利は無い!!
赤いおべべの教授殿、天才ならではの盲点を突かれて間抜けな最期を迎えんことを…。
壊滅必死の『この幻想郷』に酒の神様の御加護があらんことを…。
3. 名無し ■2011/01/29 23:59:12
もこーもやられるのか!?
4. IMAMI ■2011/02/04 22:33:37
>1
うどんげの悪だくみはここで終ってしまった!
>2
幻想郷の短銃なんてこんなもんです。しかし、お巡りさんには銃に知識がある!つまり…
さすがに酒の人をデウスエクスマキナにするわけにはいかんでしょうw
>3
なんでもできる人には敵わない・・・
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