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『芋虫咲夜さん』 作者: みづき

芋虫咲夜さん

作品集: 23 投稿日時: 2011/01/21 14:26:41 更新日時: 2011/01/21 23:26:41
 肩を強く叩かれたような気がして、十六夜咲夜は後ろを振り返った。
 誰もいなかった。当然だろう。紅魔館の厨房は咲夜の城。つまみ食いをする輩はたとえお嬢さまと言えど千本ナイフが襲い掛かる要塞である。
 その要塞に、真っ赤な鮮血が迸り散っていた。

「え?」

 どこからこんなに血が吹き出しているのか、咲夜はわからなかった。今日は人間を捌く予定も無いので、厨房は綺麗さっぱり衛生的。床や壁や天井にまで血飛沫を散らすなどという真似を、メイド長は許さない。
 落ち着いてよくよく血飛沫の出所を視線で辿ると、異様に近かった。
 というか、咲夜の右肩からだった。
 咲夜の右肩から先にあるはずの腕が、切断されて床に転がっていた。

「――え?」

 ざんっ、と重い衝撃が今度は左肩を貫いた。体のバランスを崩し、咲夜は血塗られた床に膝をつく。
 ぶしゅっ、ぶしゅっ、と心臓の鼓動に合わせて左肩からもとめどなく血が噴出しだした。当然の如く、右肩同様左腕も見当たらなくなってしまっていた。

「あ――あ、わた、わたしの、わたしの、うで」
「よいしょっと」

 あまりの衝撃と出血からか、痛みすら感じない咲夜は呆然と立ち尽くすしかなかった。だから幼い声に反応することもできなかったし、背中を蹴られても抵抗する間もなく床に這うしかできなかった。

「動いちゃだめだよ。太腿には大きな血管があるの。それ傷つけたらさすがに死ぬから、ねっとぉ!」

 ばかんっ! と何か重いものを振り下ろしたような衝撃が、右膝の上あたりに響き渡った。
 混乱した咲夜は、とっさに時間を止めようとした。遅かった。酸素が足りない脳が繰り出した命令は、咲夜の能力を正常に作動させることができなかった。コマ送りのように一瞬時間が何度か停止しただけで、すぐに世界は秩序を戻す。

「最後の一本、っとぉ!」

 左脚に食い込んだ冷たい重みを最後に、咲夜は意識を失った。




※※※※※





 油の匂いと共に、じゅ〜、じゅ〜、という音が眠りに落ちた咲夜の耳の底に忍び込んできた。
 本来なら食欲をそそられる匂いなのだが、なぜか吐き気がする。そして、異様に頭が重い。
 ゆっくりと意識を取り戻す咲夜の意識に、少女たちの会話が割り込み始める。

「もうお燐ったら。それはまだ生焼けよ?」
「あたいはレアな死体が好みなのさ。だいたいおくうは焼きすぎだよ。それじゃ素材の旨みが飛んじゃうじゃないのさ」
「えー、そんなこと無いって。あ、さとり様、こいし様、こちら焼けてます。どうぞどうぞ」
「ありがとう、おくう」
「おくうは焼肉奉行だよねー。火加減見させたらうちのペット一だよ。うんうん」

 釣り針で無理矢理引き上げられるように覚醒した意識は、咲夜の頭蓋をずきずきと痛ませた。瞼を開いてもすぐ視界は広がらず、激しいめまいが少しずつ回復するにつれ、像を結んでゆく。
 食堂だった。五十人ばかりは座れそうな立派なパーティーテーブルになんらかの生き物の頭蓋骨を背もたれに飾った椅子がずらりと並ぶあたり、主の悪趣味がうかがえる。
 そんな広い食堂でなぜか床に七輪を置き、座布団を持ってきて各自床に座り込み、四人の少女たちが焼肉していた。
 特徴的な連中であった。
 一人は癖のある紫髪をショートヘアにした細目の少女。
 一人は灰緑のウェーブヘアを伸ばした少女。
 一人は燃えるような赤毛をおさげにして、頭頂部から猫耳を生やした少女。
 一人は床につくほどの豊かな黒髪をぼっさぼさにして、同じ鴉の濡れ羽色をした翼を背中から生やした大柄な少女。
 そのうち、明らかに人間ではない格好をした二人には見覚えがあった。

「はむっ。むぐむぐ……腿肉おいしー♪」
「うんうん、程よく脂が落ちていていいよねぇ。ちょっと銀臭いのが気になるけど」
「こんな良いものをおみやげに持ってきてくれたこいしには、感謝しないといけませんね」
「だって、お姉ちゃん紅魔館のメイド長、ペットにしたいって言ってたじゃない。今日、お姉ちゃんの誕生日でしょ? だからプレゼントだよ」
「うふふ、ありがとう」

 微笑ましい和気藹々とした雰囲気で、四人は焼肉をつっついていた。
 黒髪の少女は自分の傍に置いていた肉を取り、鼻歌交じりに網へと載せていく。まだ完全に焼けていない状態のものを取ろうとする赤毛の少女の箸が伸びるのも見逃さず、ばしりと叩き落とす。

「ちょっとおくう、いいじゃないのさ」
「だーめ。せっかくこいし様が手に入れたいいお肉なんだから、いい食べ方しないと」
「おくう、お燐は猫舌なのよ」
「そうかもしれないけどー……、あ、玉ねぎ焼けたかな。さとり様どうぞ」
「ありがとう」

 玉ねぎを紫髪の少女の皿に載せるその姿を見て、咲夜は彼女の名前を思い出した。

「霊烏路空……」
「うにゅ?」

 カボチャを美味しそうに頬張っていたおくうこと空は、名前を呼ばれて咲夜の方へと振り向いた。
 そうだ、確かこの二人は博麗神社でよく見かける動物たちである。特にこのカラスの方は超火力を能力としており、中華料理を作る時などには便利そうだなと思ったのだ。
 体調もほどほどに戻ってきた。状況がわからない咲夜は、椅子から立ち上がって事情を問い質そうとした。

「あ」

 空にさとりと呼ばれた少女が、箸と皿を投げ出してこちらへと駆け寄ってきた。襲い掛かってきたのか、と太腿のホルダーに差したナイフを引き抜こうと咲夜は腕を――

「あれ?」

 なんの反応も無かった。体の自由が利かなくなったのか。その証拠とでも言うかのように、立ち上がろうとした体はなぜかバランスが取れず椅子から転げ落ちた。このままでは床に顔面からダイブしてしまうだろう。
 だが、咲夜が立ち上がろうとする前に駆け出したさとりが咲夜の体を受け止めた。

「だめですよ。無理をしては」
「そうそう。手も足も無くなっちゃったんだから、大人しくした方がいいわよ?」
「はぁ、そうですか……って、ちょっと待った! いま、今なんて言ったのあなた!?」

 こいしと呼ばれた灰緑髪の少女を、咲夜は指差そうとする――が、やはり指差せない。さとりが意味深げに赤毛の少女――確か霊夢はお燐と呼んでいた――へと目配せし、席を立った。
 食堂の壁には、なぜか一枚の姿見が立てかけられていた。それを持ってきたお燐は、よっこいしょとさとりに抱かれた咲夜の前に置く。

「きゃああああああああああああああああああああ!!?」

 咲夜が叫び声を上げると、鏡に映った銀髪の娘もこの世の終わりのような形相で悲鳴を上げた。
 彼女は、手足を失っていた。
 ドレスの袖から伸びているはずの腕も、スカートの下から覗くはずの脚も、全く無い。冗談みたいに小さくなった、まるでぬいぐるみのように抱かれた自分の姿が、そこには映っていた。

「うそ、うそうそうそ!? なんで!? あ、あ、あし、うで、ああ!?」
「え? 脚と腕? これのこと?」

 網に置こうとしていた肉を、おくうは純粋な瞳で咲夜に差し出す。その意味を、一瞬咲夜は理解できなかった。常人なら説明されるまで理解できなかっただろう。
 だが咲夜は、レミリアやフランドールのために人間をバラして料理して出していたから、理解できた。

「な、なななな、なんて、こと――ああ! 食べないでよ! 私の手足、食べちゃだめ!」
「え? そう言われても……」

 生焼けの肉片を咥えたまま、お燐はばつが悪そうに周囲の顔色を伺う。
 そして、焼肉の正体を知った咲夜は四人の少女を睨みつけ、半狂乱になりながら叫び散らした。

「なんてことするのよ! どうしてくれるのよ!? こんな有様じゃあ、お嬢さまのお茶を淹れたりお屋敷の掃除ができないじゃない!」
「その心配はいりませんよ。あなたは私のペットになったんですから」

 今にも噛みつきそうな咲夜の頭を撫で、さとりは口元を緩めた。
 その言葉の意味がわからず、オウム返しにたずね返してしまう。

「ペット……?」
「はい。いえね、あなたのことはこいしから聞いて以来、ずっとペットにしたかったの。人間でありながら吸血鬼に仕え、時間を操作し、たった一人で大きなお屋敷を切り盛りする幻想郷一のメイド。とても素晴らしい……あら『手足をもがれたら、メイドのお仕事もできないじゃない。バカじゃないの?』ですか。これはこいし、うっかりしてたわね」
「だって抵抗されると能力が能力だから逃げられちゃうもん。いいじゃない、手足、おいしいんだから」
「そうね。それにウチはこの子に働いてもらわなくても、おくうとお燐のおかげでちゃんと回っていますからね。え?『ふざけないで。それじゃ私はなんだってこんな目に遭わなきゃいけなかったのよ』ですか。大丈夫ですよ。私はあなたが働けなくても、役立たずの芋虫でも、ちゃんとペットとして世話をしますから」

 言おうとする台詞を先取りされ、咲夜は思いの丈をぶつけられず口を金魚みたいにぱくぱくさせることしかできなかった。
 そういえば、魔理沙に聞いたことがある。地底に住む妖怪サトリは人の心を読む能力を持ち、地底の住人にすら嫌われる筋金入りの嫌われ者だと。
 人間でありながら人間と群れることのできない自分ははぐれ者であるという自覚を、咲夜は持っていた。だが目の前にいる妖怪はその比ではないらしい。
 できることならばこの場からすぐ逃げ出したかった。もちろん、時間を停止させれば床を這って移動することくらいはできるだろう。だが、ドアを開けられないので結局は詰みなのだ。
 咲夜はここで、自分の能力は自分が健康体であるから有効利用できる類の能力だと思い知った。

「あ、顔面真っ青になっちゃったよ? もうお姉ちゃんったら、せっかくプレゼントしたペットなんだから、もっと丁重に可愛がってあげてよ」
「ふふ、ごめんなさい。私もついうっかりだったわ。人間のペットなんて、久しぶりに手に入ったから……」

 狂っているとしか思えない思想を共有した姉妹は、手足を切断された咲夜の前でにこやかに談笑していた。




※※※※※





 こうして、手足を失った紅魔館のメイド長は、地霊殿で飼われるさとりのペットの一員と成り下がった。
 とは言っても、咲夜の待遇は予想よりはるかに恵まれたものだった。

 食事はペットだからと言って手を抜いたものや残飯を与えるわけではない。毎日毎日紅魔館の住人のために美味しい食事を用意していた咲夜の舌をも納得させる、質素だが基礎のしっかりとした料理が三度三度きちんと出された。
 もちろんそれを一人で食べようとするのなら犬食いするしかないのだが、さとりは一口一口咲夜の口元へ箸を運んで食べさせてくれるのである。そして、その介護能力の高さに咲夜は舌を巻かされた。
 心を読めるのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、さとりは咲夜が次に食べたいと思った品を的確に適量取り、口の中のものを飲み込めば次の一口がちょうど運ばれるといった案配になるのである。

 ものを飲ませるのも上手い。ストローでも使わなければ手足の無い咲夜は水分もろくに補給できない有様であるのだが、さとりはコップや湯呑みの縁を下唇にフィットさせる要領を心得ている。もちろん、その後傾ける角度や速度も完璧だった。

 また、食事をすれば当然生理的欲求が発生するわけだが、これは口に出さずとも何も言わずにさとりは咲夜をトイレに入れ、下着を脱がせた後は個室から出る。そうして用を足して一息ついた頃合に処理をするのだ。その間咲夜は羞恥で震えているわけだが、これに対してさとりは是も非も言わないためどうにも突っかかる余地が無いのが難儀である。

 紅魔館の家事一切を仕切っていた咲夜が何も出来ず無為に流れる時間に退屈を覚えていると、さとりは色々と話をしたり咲夜を車椅子に乗せて散歩に出かけたりする。
 そうしたやりとりを咲夜は最初こそ棘のある言葉で返し、さとりや地霊殿の住人たちを詰る言葉を吐き捨て続けたのだが、心を読める相手に言葉で傷つけようとしても無駄なのだということを、咲夜は学ばさせられただけだった。そもそもさとりも地霊殿のペットたちも他人に嫌われるのは慣れているのだ。
 おまけに、皮肉を言いながらも見せられる光景や聞かせられる話の中に好奇心をくすぐるキーワードを混ぜられると、それをネタに結局は主導権をさとりに握り返させられてしまう。

 その他、寝ていれば寝返りもまともに打てない咲夜のために一晩中張りつき、傷口が完全に閉じていないため風呂に入れない咲夜の全身をタオルで清め、髪を洗ったり漉いたり、それはもう細々としたちょっとした所までさとりは咲夜の生活を支え続けた。
 地霊殿に攫われてから三日目。
 咲夜は今までとは別種の恐怖を覚え始めていた。




※※※※※





 ここがもし地上であったのなら咲夜も、主観時間で一週間地面を這うことになろうとも時間を止めて屋敷から脱出し、恥も外聞もかなぐり捨てて霊夢や魔理沙といった友人に助けを求めただろう。
 だがここは地底だ。それも地底の奥深くだ。どうあがいたとしても地上へと脱出する前に咲夜は時の凍った世界で衰弱死するだろう。
 だから、助けを待つしかなかった。

「そういえば地上ではあなたのことを探している方々がいるのかしら」

 揺り椅子に咲夜を座らせたさとりは、その傍で編み物をしながら話しかけてきた。
 咲夜はそれに答えない。心を読める相手に言葉を発するだけ体力の無駄だと理解したからだ。大体、喋ればその分喉は渇くし喉が渇けば水分を飲ませてくるし、水分を取ればトイレが近くなるわけでそのたび咲夜の精神は磨耗する。全てはさとりの手の内だ。

「疑り深いのね。私はただあなたを可愛がっているだけのつもりなのですけれど……。今まで心を読んだ感じ、あなたはこういった世話を焼かれるのに慣れていないみたいですね。メイドとしては、それでは二流ですよ。やはり自分の仕事が相手の心にどのような影響が出るかを心得ていなければ……おっと『だから大雑把なお嬢さまに仕えるのは相性が良かったのよ』ですか。やれやれ。私はまだ主人と認められていませんね。
『私の主人は今までもこれからもお嬢さまただ一人』ですか。そうですね。あなたの忠犬っぷりは素晴らしいものです。恐らく、メイドとしてのあなたの心を私は奪い取る事はできないでしょう。でもね。あなたはもう紅魔館のメイドではないのですよ。
『そんなことはないわ。もし誰かが私を助けに来て、永遠亭に連れて行ってくれたのなら、もしかすると手足を取り戻す術もあるかもしれない。そうしたらまたお嬢さまのメイドとして働くことができる』ですか。永遠亭の医療技術がいかなるものかは把握できませんが……そもそも、本当に助けなんて来るのでしょうかね」

「なんですって? まさか、お嬢さまたちにまで何かしたの!?」

 心を読ませるがままにしていた咲夜だが、さとりの不穏な言葉に動揺を隠せず、思わず口から追及の言葉が出ていた。
 さとりは首を振る。

「しませんよ。もし本当にあなたを迎えに来る方が地上からいらっしゃったのなら、客人として出迎え、あなたと面会させ、口惜しいですが返しましょう。もっとも、そこまでですけれどね。食べてしまった手足を返せとか、あなたを攫った妹に責任を負えというのでしたら、私も相応の対応をさせてもらいますが。
 ――ああ、心配はいりませんよ。本当に、今のところ全く音沙汰が無いのです。でも、考えてみればちょっと変ですね。紅魔館はあなたがいなければはっきり言って回らないような状態だと見受けていたのですが。ちょっとお燐に調べてもらっておいてもらおうかしら」




※※※※※





 そして次の日、咲夜に朝食を食べさせたさとりはああそうそうと思い出すかのように話を切り出した。

「今日、レミリア嬢があなたに会いに来るそうですよ」
「それは本当なの?」

 うなずいたさとりは咲夜の口元をハンカチで拭い、お茶を飲ませながら話を続ける。

「ええ、さすがは吸血鬼の住む館ね。忍び込ませたお燐があっさり見つかって、色々と絞られたみたいだわ。それで、面会という運びになりました」
「本当ですね? それじゃあ条件を付けさせてもらうわ。お嬢さまとは二人きりで話させてくださいませ。あなたの息のかかった者のいない個室で」
「『そこでなら、私の時間停止空間にお嬢さまを取り込める。そうしたのならどんな罠があったとしても切り抜けられるわ』ですか。疑り深いのね、本当に。吸血鬼をペットにするのならもっと庶民的な子を選びますから、ご心配なさらず。一応、信頼してもらうためにその通りにはしますけどね」

 そして、夕食前――地上では日が落ちてからの時間になってから、咲夜は地霊殿の客間に入れられた。
 動物の剥製や頭蓋骨に毛皮といったものが飾られた、やはり悪趣味な部屋である。アロマキャンドルが灯されているためか、甘い匂いが立ち込めていた。
 車椅子に腰掛けさせられた体勢のまま、咲夜はゆらゆらと揺らめくロウソクの火を見つめ続けていた。
 どれくらいたったであろうか。やがてドアノブが回り、一対のコウモリの翼を背中から伸ばした幼い吸血鬼が、咲夜の前に姿を現す。
 胸に生まれる深い感慨を押さえ、咲夜は主人に頭を下げた。

「お久しぶりです、お嬢さま。このような醜態を晒す無礼をお許しください」
「本当ね。なんなのその芋虫みたいな有様。私の許しも得ずに姿を消して挙句その様だなんて、一体なんのつもりなのよ、咲夜?」

 予想以上に険のある声色でレミリアは言うと、小汚い浮浪者でも見てしまったかのように咲夜から視線を逸らした。
 精神的に幼い主人は心配するより何より先に憤るであろうことを、咲夜は予測してはいた。だが目と目を合わすことすら厭われるとは思ってもみなかった。
 狼狽する心を押し隠し、平静な口調で咲夜はレミリアに謝罪する。

「申し開きのしようもありません」
「別にいいよそんなのは。一応それなりに愛着を持って飼ってきた人間だからね。こうしてわざわざ辛気臭い地底まで来てやったっていうのに、なおさら気分を悪くするなんてたまったもんじゃないわ」
「……お嬢さま?」
「何よその捨てられた犬みたいな目。あんたはもうここで飼われている芋虫なんだろう? 私に憐れみでもかけてほしいの?」
「ちょっと待ってくださいお嬢さま! どういうことなのか、話が読めません」
「腕と脚を失くして頭の巡りまで悪くなったの? あんたはもういらないって、私はそう言いに来たのよ」

 パチュリーから借りた本を読み終わったから返しておけと命令する時と同じ、感情も興味もこもっていない声だった。
 腕があれば、頭を抱えていただろう。
 それすらできなかった咲夜は、胴体だけになったこの体を押し潰そうとする現実を振り払うかのように、左右に首を振った。車椅子にもたれかかっていた体はバランスを崩して傾き、背もたれに頬をしたたかにぶつけてしまう。
 そんな咲夜の様子を見たレミリアは、あからさまに顔をしかめて席を立った。

「待って、待ってくださいお嬢さま! ご主人様!」
「私は犬は飼っていた覚えはあるけど、芋虫を飼った覚えなんかないのよ。そんな蛆虫みたいに這うことしかできない体で、一体私に何をしてくれるっていうの咲夜は? ああ、いいわ。何も言わなくていい。視界に入るだけで気持ち悪い。不快になるだけよ。ああ、それと、あんたにあげた名前、返上してもらうわ。私のものじゃなくなったんだから、当然でしょ?」
「そんな――お嬢さま! 私は十六夜咲夜です! レミリア・スカーレットの従者です! 見捨てないで! 行かないで! お嬢さま! お嬢さまああああ!!」

 客間のドアは静かに閉ざされた。
 咲夜は――十六夜咲夜とかつて呼ばれた少女は、涙に濡れた瞳で閉ざされたドアを、その向こうに消えていった主人の背中を幻視し続けた。
 甘い香りがいつまでも鼻の奥に残り続けていた。




※※※※※





 十六夜咲夜と名乗る前、少女はロンドンで五人ばかりの娼婦を切り刻み解体し臓器を持ち去り衆目の面前に晒して、疲れきっていた。
 少女はテムズ川の底よりも深く濁り腐り悪臭を放つ娼婦たちを憎んでいた。自分の人生を破滅させた原因を彼女たちに押しつけどうにか正気を保とうとして、その堤防も遂に決壊を迎えていたからこそ殺戮に望んだのだ。
 生まれがどこで、どの時代に生まれたのかすら少女にはわからない。ただ、無自覚に、そして無邪気に使っていた能力のせいで不気味がられ、悪魔の子だと囁かれた。親に捨てられ、居場所を失い、ようやく自分を受け入れてくれた優しい女性がいたかと思うと、娼館に売り飛ばされただけだった。
 それでも仕事があるのならと、少女は幼い身体で薄汚れた男たちの欲望を必死に受け止め働いた。性器が腫れ上がり子宮が体外にはみ出ても、時間を止めて休憩し働き続けたのだ。
 自分の居場所がここにあるのならと。
 たとえどんなに醜く汚れても、受け入れてくれる人がいるのならと。
 全ては年端も行かない子どもの頭で考えた馬鹿馬鹿しい幻想であった。結局、成長するに従い芽生えてきた生まれ持った美貌と客観時間から見れば脅威の回復力によって、一晩で両手の指に余る数の男を相手取ることのできる少女を年増の娼婦たちは妬み、いじめ抜いたのだ。
 あらぬ噂を流され娼館からすら追い出され、能力を窃盗にしか使わず生きているのか死んでいるのかわからない日々が続いた。
 そんなある日の夜、月明かりの下で自分をいじめていた娼婦を街角で見つけた時、少女の中の何かが切れた。
 気がつけば娼婦を殺めていた。時間を止めた環境下ではどんな大胆な犯行も簡単であった。
 少女は自分を突き動かす衝動が何かもわからないまま、怨みを持つ娼婦を殺し続けた。
 だが、それを面白おかしく騒ぎ立てる世間に気づいた時、もう自分はここにいるのが耐えられないと気づいた。
 人間の汚らしさに耐えられない。
 何より、自分が一番汚れている気がして、少女はロンドンからも逃げ出した。
 死にたかった。
 だが幾人もの娼婦を切り刻んだナイフを自分に向けるのは怖かった。
 せめて死に行く時くらいは、美しく死にたかった。誰にも迷惑をかけず、ひっそり逝きたかった。
 田舎へ田舎へと脚を運ぶうちに、少女は吸血鬼の館の噂を聞きつけた。

 ――そうだ、吸血鬼に殺してもらおう。

 それはとても綺麗で幻想的な死に方のように思えたので、少女は吸血鬼の館を探し出し、辿り着いた。
 少女を迎え入れた門番は東方の怪しい国の人のようだったが、人間のように打算的でない優しさを持っていた。
 噂の吸血鬼は想像以上に幼く、無垢で、威圧的で、圧倒的だった。

 ――お前の運命を変えてやるよ

 吸血鬼は笑いながらそう言った。

 ――お前が呪われていると思っている、その浅い人生を書き上げたふざけた運命を私が愉快なものにしてあげるのよ。
 ――その代償として、今までお前が使ってきた名前は運命と一緒に貰い受けるけれどね。
 ――お前の新しい名前は……

 少女は、紅く幼い吸血鬼の従者となった。
 人でありながら人の領域を踏み外した存在となったが、人の中にいるよりずっと満ち足りた人生だった。
 十六夜咲夜は幸せだった。
 十六夜咲夜でなくなった瞬間、十六夜咲夜と呼ばれた少女はかつての生きているのか死んでいるのかもわからない、腐ったドブ川に浸かった人生へと逆戻りした。




※※※※※





 思えばロンドンにもやってきたサーカス団の中にも、手足を失くしていたり頭が二つあったりする畸形の人間がいたそうだ。
 彼らにその呪われた人生をやり過ごす秘訣を聞いておけばよかったかもしれない。咲夜はレミリアに置いていかれた客間でただ一人、くつくつと笑っていた。
 咲夜の時間に介入する能力は止めたり早めたり緩めたり空間を隔離縮小拡張することはできても、戻すことはできない。失った時間もモノも、二度と取り戻すことはできないのだ。

「――――」

 咲夜は口を開き、幼児がお化けの真似でもするかのように舌を伸ばした。
 そして、顎にありったけの力を込め噛み切ろうとしたところで思い出した。
 舌を噛み切ったところで人は死ぬことなどできない。
 実行したところで今度は言葉も失って、さとりに治療されて飼い殺される日々が続くだろう。
 どうすればいいのか。そう考え思い浮かぶことは、どうすればこの五体不満足な体で確実に自らの命を断つことができるか、ということだけだった。
 部屋に視線を巡らし、使えそうな道具を探す。そうしている間にドアノブががちゃりと回った。
 はっ、としてそちらを振り向くと、幼い体つきの少女が廊下からの逆光でシルエットとして浮かび上がっていた。

「お嬢さま――」
「私よ」

 いつのまにか抱いていたわずかな期待を、落ち着いた陰鬱な声が打ち消した。
 さとりはドアを閉じようとした。その時、咲夜は天啓のように閃いた。

「!」

 咲夜の意図を読んださとりはとっさにこちらへと駆け寄ってきた。だが遅い。たとえ手足が無くとも、咲夜には時間を支配する能力がまだ残っている。

「死んじゃだめよ――」

 そう言いながらさとりは咲夜の小さくなった体を抱きかかえ、停止した。
 時間が止まったのだ。
 咲夜は唇を引き攣らせた。さとりの髪が顔にかかっている。細い腕が背中に回っている。薄い小さな胸が咲夜の鼓動を受け止めている。完全に捕まえられた。
 これでは、あのドアから抜け出して階段から転げ落ちて死ぬという自殺方法が、実行できない。

「でも、甘いですわ」

 乾いた声で咲夜はさとりに勝ち誇ってみせた。
 たとえさとりの腕から逃れられずとも、餓死するという方法がある。死と同時に通常の時間の流れを取り戻した世界の中で、さとりは糞尿を垂れ流して醜く干からびたミイラを抱きかかえているのだ。ざまあ見ろといったところだ。

「誰があなたの思い通りになんか……」

 咲夜はさとりの顔を覗きこんだ。死んだ自分を抱き締めて、どのような表情に歪むのか想像することだけが今となっては唯一の楽しみだ。
 それを見て、咲夜は声を失った。
 唇を噛み締め、何かに耐えるような表情でさとりは咲夜を抱き締めていた。
 ふと、さとりの能力を思い出す。彼女はどんなものの心でも読める。それはさとり自身に投げかけられた敵意や憎悪まで読めるのだから、彼女の性格が歪むのも当然だと思い込んでいた。
 だが、同時にさとりは三つめの目で見た者の自己嫌悪まで読み取れるのだ。万人が万人へと投げかける、人間同士の諍いの根源である『どうして自分を理解してくれない』という感情を、さとりに対してだけは抱く必要がない。
 さとりは全て知っている。
 咲夜の心の痛みも、十六夜咲夜だった頃の思い出も、未だに咲夜がレミリアに抱く忠誠も、何もかも知っている。
 自殺を望むほどの辛さを知り、痛みを共有しながらそれに耐え、死んではいけないと咲夜を抱き締めたのだ。

「…………ッ」

 一瞬、咲夜の胸から背筋にかけて途方もない想像という名の戦慄が駆け抜けた。
 このサトリ妖怪は、一体今までどれだけの者の嘆きと辛さを読み取ってきた? 心の中であげるこの世への怨み、断末魔を聞いてきたのだ? もしかすると、自分の辛さすらさとりの経験から見れば安いものでしかないのでは?
 だが、その瞬間咲夜は背中に回された腕の心強さ、胸に押し当てられた暖かさを再認識した。そして今までさとりが咲夜に焼いてくれた世話の数々を思い出す。
 四六時中傍に控え、食事も手ずから食べさせ、下の世話までするなど生半可な心持ちではすることなどできない。

「うぅ……」

 閻魔に言われてから押し殺してきた自分――冷静に冷酷に判断を司る自分が、咲夜の意識に語りかけてくる。

 ――それでも、さとりの妹が自分をこんな目に合わせた原因だ。
 ――大体、お嬢さまに捨てられたから乗りかえるようにこいつへと自分は尻尾を振るのか?
 ――レミリアに捧げた忠誠は、その程度のものだったのか?

 自問自答はいつまでも続いた。時間を止めているのだから介入する者がいるわけもない。
 飢えも渇きも耐えられると思っていた。
 だが時を止める直前に投げかけられた「死ぬな」という言葉とそれを体言する抱擁の暖かさが永遠に続くことは、耐えられなかった。

 ――このひとはわたしをうけとめてくれる

 ただ、その思いで頭の中が埋め尽くされた時、凍りついた時間は溶け、再び動き出した。

「さとり様! さとり様ぁ!」

 涙ぐみながら叫ぶ。その呼びかけに込みきられない想いも全て理解しているであろうさとりは何も言わず、より強く咲夜を抱き寄せた。
 ハンカチで咲夜の顔を拭いたさとりは抱擁を解き、正面から顔を合わせ笑顔を浮かべて、こう言った。

「そう。あなたは私の家族(ペット)よ」




※※※※※





「わー。地霊殿のお風呂って、本当に広いんですのね」

 素っ裸の状態でさとりに抱かれた咲夜は湯煙の向こうに広がる湯船の広さに圧倒された。
 紅魔館にももちろん豪勢なバスルームはある。一方地霊殿の浴槽は石造りで一見した華やかさには劣るが、その気になれば水泳大会でも開けそうな総面積を誇るのだ。

「釜戸火は神の火。設計と工事は鬼。地霊殿の自慢といったところかしら。中々あなたに見せられなくって、正直やきもきしていたんですよ」
「わーい」

 腕に抱えた咲夜に解説する姉を横から追い抜き、すっぽんぽんのこいしが濡れた床を器用に走り、浴槽へと頭からダイブした。
 ざぶーん、と吹き上がる水柱にさとりは額を片手で押さえる。

「うふふ、こいし様があのようにはしゃぐのも無理はありません。私とて手足があり、外聞を気にする必要がなければ同じことをしてみたい気分ですわ」
「きちんと湯浴みしてからお入りなさい」

 呆れるように言いつつも、さとりはどこか楽しげにして手桶を取る。
 そろそろ地霊殿に訪れて一ヶ月近くになるが、ようやく入浴できる程度に咲夜の傷口は塞がったのだ。
 そしてこの一ヶ月の間で、すっかり咲夜はさとりに懐いた。

「目を閉じて」
「はい、さとり様」

 熱い湯を肩から胴体にかけられ、次に頭から勢い良くかけられる。瞼の周りにたまった水滴をさとりは手で拭い、また顔のあちこちに引っかかった髪を後ろへとまとめてくれる。
 さとりは咲夜を抱きかかえたまま浴槽へと足を浸けた。階段状になった石組みに腰を下ろし、膝の上に乗せた咲夜の顔を覗き込んで困ったように眉を下げる。

「どの体勢が一番落ち着くか聞こうと思ったんですけどね。あなたはちょっと察しが良すぎるわ」
「やってくれないんですか?」
「もちろん、してあげますよ。全く、あなたはうちのペットでも一番の甘えん坊さんね」

 銀髪を撫で、さとりは咲夜の望んだ体勢――膝の上に乗せたまま、背中を胸に当てるという抱え方をした。
 肩甲骨にさとりの胸の鼓動を感じ取りながら、その小さな肩に咲夜は頭を預けた。

「やっぱりお風呂はいいものですね。さとり様に身体を拭いてもらうのも好きでしたけれど、こうしてお風呂に入れてもらうのはもっと大好きですわ」
「危機感が足りませんね。もし私がうっかりあなたを離してしまったら、手足のないあなたは湯船の底で溺れ死にますよ?」
「さとり様がそのような不手際をするわけがありませんし、故意にしたのなら私はさとり様に命を奪われたことを幸せに思います」
「あー、お姉ちゃん、またその子甘やかしてる!」

 遥か向こうで潜水状態から顔を出したこいしは、ざぶざぶとクロールで近づいてきた。
 そして咲夜が占有している方の反対側の姉の肩に縋りつき、眉を吊り上げる。

「そんな体勢で抱っこしたら、裸同士なんだからお姉ちゃんのおっぱいがその子にダイレクトアタックしてるじゃない!」
「女の子同士なんだから良いじゃない。それに、この子は別にいやらしい考えでこうして欲しいって言ったわけじゃないのよ」
「本当に?」
「本当に」
「本当に?」
「本当ですわ」
「確かめるわ」

 さとりと咲夜、それぞれに問いただしたこいしは姉の手から奪うように体を抱き寄せてきた。
 向かい合わせの体勢で抱かれた咲夜の乳房が、こいしの未発達な胸に押し潰された。こいしは咲夜の尻を抱えて上下に動かし、自分の乳首と咲夜の乳首を摺り合わせ始めた。
 無意識故に予測不可能なこの行為に、咲夜は慌てた。その狼狽を心の読めないこいしはどう感じたのか、妖しげに唇から舌を覗かせる。

「ちょっと顔が火照ってきたんじゃない? やっぱり、あなたは私たちみたいなおてしょ引っくり返したようなおっぱいが好きな変態さんだったのね」
「そ、そういうわけでは……さとり様っ」
「うーん……まぁ、私もこいしには変に疑いを持たれたくありませんし、妹とペットが仲良くしているだけですから。こいし、溺れさせないようそれだけは気をつけるんですよ」

 我関せずを決め込んださとりは顎まで深く浸かって幸せそうに目を閉じた。

「もう! 都合が悪くなったらお姉ちゃんにすぐ頼って! そんな悪い子はお仕置きしてあげるんだから」
「きゃっ!?」

 こいしはさらに強く咲夜を抱き寄せると、空けた片手の指を秘部に伸ばし、茂みの内部をうっすらと撫でた。
 悲鳴を上げる口をこいしの唇で塞がれ、逃げようとする舌を絡み取られる。引こうとする腰をこいしは強く掴み、今度は膣の中に中指を忍び込ませた。
 まずい。咲夜は心が読めているであろうさとりに救援を求め、アイコンタクトを取る。だがさとりの唯一開いた第三の目は、瞼を緩ませて妹とペットがじゃれる様子を慈母の瞳で見つめていた。
 咲夜の中を中指でまさぐるこいしは、開いた人差し指と親指でクリトリスを摘まむ。その衝撃に、咲夜は遂に快感を覚えてしまった。
 そして、事は起こった。

「んむ!?」

 咲夜の唇を奪ったまま性器を弄っていたこいしは、いきなり手の中に生まれたごっつい反応に驚き、身を引いた。
 支えるものが無くなった咲夜の体はぷかりと浮き、水面に仰向けでゆらゆらと漂う。

「……だから、だめだと……」

 腕があれば、咲夜は顔を覆っていただろう。いや、股間を先に覆っていたはずだ。
 少女三人が戯れていたはずの風呂場で、なぜか咲夜の股間から立派な男根が生えていた。

「前のご主人様の夜伽の相手もしていたんですよ。その子は」

 咲夜の心を読んで、全てを見透かしていたさとりは瞠目する妹に優しく声をかけた。
 湯を掻き分けて咲夜の下まで進んださとりは無造作な手つきでペニスを掴んだ。

「ひゃっ!?」
「性的快感を覚えると生えてくるようにしたみたいですね。あら? お嬢さまにはそんなことまで求められたの? なんでもできるメイドというのも大変だったようですね」
「い、いや……み、見ないでくださいさとり様っ」
「そう言いつついやらしいことを思い出してばかりいるのはあなたでしょうに。全く……『今』のご主人様が誰か、これは教育し直さなければいけませんね」

 さとりは咲夜のペニスごと体を引っ張り、湯船まで引き上げた。
 姉とペットの戯れを興味津々に観察していたこいしを手招きし、ペニスを指差す。

「こいしが生やしたちんちんよ。先に好きにさせてあげます」
「え? いいの?」
「私はこっちのしつけを先に済ませてしまいますので」
「お二人ともやめてくだしゃひぃ!?」

 咲夜の言い分など姉妹は聞く耳持たなかった。まずはこいしが亀頭を天頂に突き上げたままのペニスを小さな口に咥え込んだのだ。
 こいしは口中に含んだペニスの先端を、飴玉でも転がすように舌で丹念に舐める。本来存在するはずのない器官を攻められる感覚に、漏れ出そうになる喘ぎ声を咲夜は喉で押し殺した。
 その様子を見たさとりは咲夜の顔の傍で膝立ちし、銀髪を撫でた。

「そう、よく心得ているわ。売女のような鳴き声はみっともないものです。でも我慢し続けるのも苦しそうだから、私も協力してあげましょう」
「ちょぉっ!? さとりさm」

 咲夜の顔の上に跨ったさとりは自らの秘部を言葉を紡ぎかけていた唇の上に乗せた。目を白黒させ首を左右に振ろうとする咲夜の頭部を膝で固定し、唇を吊り上げる。

「ほらっ。私の膣の中でならいくらでも下品な嬌声や卑猥な言葉を解き放って良いのですよ。あなたのいやらしい心も言葉も、全部受け止めてあげますから」
「おにぇーひゃん、おふぃひほっひふひぇふぁいへ〜」
「こいし、ちゃんと喋――ああ、ごめんなさい。方向を変えてくれと」

 ジェスチャーで妹の言わんとしていることを察したさとりは、咲夜に跨ったまま百八十度反転し姉妹でお互い向かい合う姿勢になる。
 それは本人たち同士にとっては良いことなのだろうが、咲夜としてはさとりのお尻に鼻を潰される体勢になるのだ。そしてあいかわらず口はさとりの陰部で閉ざされている。
 つまり、窒息状態である。

「息苦しいのが嫌なんですか? そう言えば首を絞めると膣の締まりが良くなるという話もありますが、男根の方はどうなんでしょうかね。こいし、どう?」
「ふふー」
「何言ってるんだかわからないわ。さて、ほら芋虫さん。もっとちゃんと舐めてくださいませんか? 手足の無いあなたに濡らしてもらおうと思ったら、ここで気持ちよくしてもらうしかないですものね。がんばらないと、陸の上で溺死しますよ?」

 そう言いつつ、さとりは時折腰を上下に振って咲夜の呼吸期間を確保している。だが必要な酸素の絶対量が足りないため、結局息苦しいのは変わらない。むしろそうなるようさとりは調節しているのだ。
 一方こいしは喉の奥までペニスを咥えては唇がカリに当たるまで戻すといったピストン運動を繰り返しており、むくむくと尿道をこじ開けてせり上がる快感が咲夜を悩ませている。
 体の両端で味わう快感と苦しみに思考能力を奪われながらも、咲夜は主人への奉仕心をかき集めて震える舌を伸ばし、さとりの無毛の筋を舐めた。
 さとりの手が励ますように咲夜の髪を撫でる。射精を求め無意識に振りそうになる腰を意識だけで押さえつけ、咲夜はより内部へと舌を伸ばし、さとりの熱い内部を感じ取る。
 もっと、もっと奥に――さとりの中へより深く――そう咲夜が望んだ瞬間、こいしの攻めに耐え切れず、亀頭の先から爆発するように精液が飛散した。
 思わず尻を浮き上がらせて発射してしまった精液をこいしは口中で受け止めた。
咲夜が精液を吐き出しきってしまったことを悟るとペニスの根元に軽く歯を立て、尿道の奥にまで残っていた滴も全て掻き出す。
 そうして口を閉じたまま肩に首を回し、姉を手で押しのけ咲夜の唇を解放させるや否やすぐさまキスをしてきた。

「ん。むぅっ?」
「ん……んん……っ」

 咲夜の口中に、どろりとした青臭い鉄のような味が広がった。こいしの唾液と咲夜自身の精液の混合液が両者の舌の間で絡み合い、口移しされて行く。
 白っぽい糸を引きながらこいしは咲夜の唇から顔を上げた。
 咲夜は二人の姉妹に見下ろされていた。

「「飲みなさい」」

 嚥下した。
 そうして、まともな呼吸を再開した咲夜は決して豊かとは言えない胸を上下させて、ぜぇぜぇと荒い息をする。本当に溺れかかったようなほどに酸素不足だった。
 そんな咲夜の様子をいたずらっぽい笑みを浮かべて見下ろしていたこいしが問いかけてくる。

「自分の精液、おいしかった?」
「……あ、あまり良い味ではありませんでしたわ」
「嗜好はそれぞれです。合う口合わない口というのがあるでしょう。それでは私も一つ、賞味してみるとしましょうか」
「って、まだ終わってないんですか!?」

 てっきり解放されたのかと思いきや、既にさとりは萎れかかった咲夜のペニスに跨り、素股をして復活させようと試みている。
 このままでは骨まで食われるという危機感を覚えた咲夜は邪念を振り払おうとした。するとさとりは屈んで咲夜の背中に腕を回し、起き上がらせると互いの胸と胸を合わせ、きつく抱擁してきた。

「言ったでしょ? ご主人様が誰か、教育すると」

 ペニスの先端がさとりの膣口にあてがわれ、少しずつ挿入されていった。
 先ほどまで熱い湯に浸かっていたさとりの中は熱く、体格の小ささ故にきつかった。その、狭い膣に無理矢理ペニスを挿れさせられていく感覚は、咲夜にとってはある意味で懐かしい感覚だった。
 ぱしっ、と頬をはたかれた。さとりは拗ねるように頬を膨らませ、根元までペニスを挿入して行く。

「『きついけど、お嬢さまより少し楽かしら』ですか。あら、ふふ、ありがとう。切れたりしたりしないのか心配なのね。大丈夫ですよ。さあ、自分から動いてくれますか? 手足は無くても腰は動くでしょう?」
「は、はい……」

 さとりに保持されたまま咲夜は戸惑い気味に腰を前後に引き始める。
 その動きに合わせてさとりもまた動き出し、同時に鼓動の音も早くなり始めた。

「あはっ、やっぱり、肌と肌を重ね合わせると私の心も読まれてしまいますね。ドキドキしているのがわかりますか? ああ、もっと激しくしたいんですね……構いませんよ。好きに動いて、好きな時に出していいんです。全部合わせてあげますから……」

 そう言いながらさとりは巧みに抱き方を変え、より深く自らの中へと咲夜を導いた。
 自然に咲夜の動きは激しくなる。それがまるで自分が獣染みた、女性としての在り方も忘れたような卑しい行為だと一瞬恥じ入る気持ちが生まれると、さとりは咲夜の唇を奪い、乳房を握り締めた。
 心を読み解くさとりは、自分に求められる動きや行為を言葉を挟む必要も無く行動に起こせるため、性交が得手なのだろうということは納得できることだった。
 しかし咲夜は、今までレミリアと交わしてきた行いとは全く違うものを感じ始めていた。
 さとりの艶やかな舌は怯えるように引っ込もうとする咲夜の舌を絡め、より深く唇を貪る。対照的に咲夜のモノはさとりの小さな肉壷を何度も何度も貫き、肉と肉のぶつかるいやらしい音を風呂場に響かせていた。
 今なら、咲夜はさとりの心を読み取れるような気がした。
 彼女は心を読む能力を持つ。その能力で嫌われることもあったろうが、逆に好いてくれる者もいただろう。そしてさとりは、咲夜にそうしたようにその能力を癒すために使うこともできる。
 だが、そんなさとりの心を読み取ってくれる者は、もういないのだ。
 だからこうして互いに快感を求め合い、お互いの肉体を貪り合うだけの性交で得られる相手の反応の出方を見る行為を、自らの心を読まれているという欺瞞で補っているのである。
 今、咲夜の陰茎はさとりに呑まれていた。お前はペットで私は主人だと言い、無条件に咲夜の全てを全肯定して優しく世話をしてくれる彼女は母親のようであった。
 だが、同時に彼女は見た目通りの小さな少女のように弱い心も持ち合わせているのだ。
 咲夜にもう腕は無い。けれど今、咲夜はさとりに抱かれながらさとりを抱いていた。

「ごしゅじん……さまぁ……っ!」
「いいですよ……きて……っ」

 さとりは咲夜を今までに無く深く抱き寄せ、お互いの体を密着させた。
 咲夜の口から喘ぎ声が漏れ、同時に高く達した快感がさとりの中に熱いものを解き放った。

「あ……はぁ……あん……」

 痙攣するように震える咲夜の尻をさとりは強く抑えこみ、放たれた精液の一滴も残さず自らの中に受け入れてからようやく抱擁を緩めた。

「はぁ……良かったですよ。わたしのかわいい芋虫さん」
「はひ……ありがとう……ござい……ます……」

 未ださとりの思念が自分の脳内にこびりつき、混ざり合わさっているかのようで、咲夜は蕩けたような気持ちのまま礼を述べ、だらしなく弛緩した笑顔を浮かべた。




※※※※※





 一度線を踏み越えれば二度と戻れない関係というものがある。
 咲夜にとって、さとりとの関係はそういうものに分類された。

「だ、だめです、さとり様ぁ……っ」
「誘ってきたのはそちらでしょう? 頭の中で私を犯しておいて、口では嘘ばかり言う悪いペットには、お仕置きしなくちゃいけませんね」

 さとりの手には咲夜の陰茎が握られ、しごき上げられている。そして射精の気配を読み取るたびに手を休め、かわりに膣口に指を入れやはりイく寸前で陰茎に手を戻すのである。
 テーブルにはまだ手つかずの料理が残されたまま冷め、放置されていた。咲夜の体は椅子の上に押し付けられたまま、さとりに蹂躙され続けている。
 それもこれも、咲夜がヨーグルトを食べさせようとスプーンを運んできたさとりの口元や胸に目が行き、主人とまぐわった昨夜の出来事を思い出したのが原因である。
 四六時中さとりに世話を焼かれていた咲夜は、今や四六時中さとりとの淫行に耽る毎日を送っていた。さとりは望めば応えてくれる。口でどう拒否しようと本心を見抜き、全身を使ってありとあらゆるオーガズムを与えてくれるさとりを拒むことは、手足の無い咲夜には到底無理なことであった。

「『このままじゃダメ』って、何が駄目なんですか? ああ、セックス三味の自堕落な日々がいけないと? 何思っているのですか、食べて糞するしかない芋虫のくせに。そう思いながらご主人様にちんぽじゅぶじゅぶ挿れたり挿れられたりするのを期待しているくせに。建前で本心を隠すなんて、私の前で浅はかなことをしようとしたものです」
「ち、ちがいま……っ」
「ふふ、わかっていますよ。あなたが私を母親のように思い、慕ってくれた気持ちに嘘偽りの無いことなど、百も承知です。あなたは母親の記憶が無いのですね。だから私とこうして性を交わすたび、禁忌に似た快感を覚え、そこから抜けられなくなっていく自分がダメになると……。
 いいじゃありませんか。私はそんな風に悩みながら喘ぎ声を上げるあなたが、大好きなんですから」

 嗚呼、と咲夜は自分の胸にかけられた鎖がまた一つ、消え去るような感覚を覚えた。その鎖が何を封じているのかは、咲夜自身にもわからない。
だがいつか、そう遠くない未来、さとりに与えられる快感だけを求め、精液と愛液を撒き散らすだけの存在に成り果てた時、もはや自分は死んでいるも同然だと咲夜は恐れるのだ。
 それをも愛してくれるのがさとりだろう。
 けれど、咲夜がさとりに愛してほしいのは、今の自分なのだ。
 気がつけば咲夜はベッドの上で雌の鳴き声を上げながら、子宮に満たされる熱さを味わっていた。
 さとりは自らの股間から生やしたペニスを抜き、精液の滴を垂れ下げる逸物を咲夜の口元へと運んでくる。
 条件反射的にさとりのモノを咥え込み、体液で汚れたそれを丹念に舌で拭い取り始める。
 そんな咲夜を労うようにさとりは頭を撫で、寂しそうに微笑んだ。

「あなたは手足は無いけれど、本当に良く気が利くし主人思いのいいペットですよ。……ふふ。おまけに礼儀正しい。そう、そんな風に思ってくれるあなたがいつか、私に快楽だけしか求めない肉人形に成り下がったのなら、きっと私は残念だと思うでしょう。それでも、求められるとどうしても私は応じたくなるのです……」
「さとり様……」
「精根尽き果てた今が、今となってはまともに話せる数少ない機会ですね。ねぇ、幻想郷一のメイドとして名を馳せたあなたに、実は折り入って相談したいことがあったの」

 さとりの言葉に、咲夜は身と心が引き締まる思いがした。
 地霊殿に訪れてからどれくらいの時間が経ったのか、咲夜にもわからない。しかしさとりのペットとなってから、さとりの役に立つ機会は今まで無かったことは確かだった。
 この身に受け止めきれないほどの愛情を惜しみなく与えてくれた主人に、咲夜は全身全霊を持って報いようと、さとりの言葉を待った。

「そんなに畏まらなくていいんですよ。いえ、こいしの誕生日がもうすぐですから……何か、ささやかながらお祝いをしてあげたいだけ――え?」

 その主人の悩みに対して、咲夜は自分でもこれ以上ないと思えるほどのアイデアをとっさに思い浮かべた。それを読んださとりは目を丸くして、問いかけてきた。

「心が読める私が言うのも馬鹿馬鹿しいのですが。本気ですか?」
「もちろんですわ。ご主人様」




※※※※※





 こいしはうきうきわくわくスキップふみふみしながら地霊殿の廊下を駆けていた。
 誕生日に上げたプレゼントをさとりはいたくお気に召したらしく、熱を上げてあれやこれやと世話をしている。少し構ってくれなくてこいしとしては寂しい気持ちもあったが、姉の動物好きは長い付き合いで知っていたし、どうせ人間の寿命は短いのであまり気にしなかった。
 それでも、自分の誕生日を忘れずにお祝いしてくれるというのなら、やはり嬉しさを覚えずにはいられない。
 地霊殿の中でも、特に信頼されたペットか身内のものしか入れない小ぢんまりとした食堂の前でこいしは立ち止まり、勢い良くドアを開いた。

「お姉ちゃん、誕生日おめでとう!」
「こいし、あなたのでしょう。……全く、この子も笑ってますよ」

 エプロン姿のさとりはほかほかの湯気を立たせた寸胴鍋をテーブルの真ん中に置き、壁に視線をやった。
 こいしは姉の視線につられ無意識にそちらを見た。

「わぁ、素敵! どうしたのこれ? 理科の授業の蛙さんみたい!」

 そこには、かつて十六夜咲夜と呼ばれた少女の残骸が吊り下げられていた。
 腕を切断された傷口に返しの付いた杭を打ち込まれ、そこから鎖で壁に吊られているのである。そして、四肢は失っても残されていた内臓も今となっては伽藍堂の如しであった。
 心臓と肺は残されているものの慎ましやかだった乳房は切り落とされ、胸骨下の腹部は開かれ消化器循環器問わず、内臓という内臓は片っ端から取り除かれ虚ろな背骨を晒している。
 驚異的なことにそれでも彼女は生きているようで、口の端から血を零しながらも笑顔でこいしを見つめていた。

「全く、この子ったら手を抜くってことを許してくれなくて難儀だったわ。ふふ、驚きなさいこいし。このテーブルの料理、全部この子と私の合作なのよ」
「すごっ! って、でも手足も無いのに合作?」

 テーブルの上に並べられた数え切れないほどの皿には、名前もわからないがとにかくなんか豪華なんだな、と思わせる尋常ではない雰囲気を漂わせた料理が一つ残らず出来たての湯気を立てていた。
 さとりは悪戯っぽく笑いながら片目を閉じてみせた。

「この子が時間を止めてくれるからどんなに料理を作っても出来たてのまま保存できるのは便利だったわ。それに、素材を取り出すと喋れなくなったけど私の能力でこの子の心を読んで料理の手ほどきをしてもらえたからなんの問題も無かったの。未だかつてない良いコンビね、私たちは」
「素材って、もしかして」
「そう。この料理に使われているお肉、全部この子のなんですよ」



 咲夜の考えたこいしの誕生日を祝うさとりの手作りディナーは、この上ない好評で受け入れられ姉妹の口の中へと消えて行った。
 こいしはあんまりにも美味しいからか、火傷しそうなほどにがっついて食べる様子を咲夜が心配に思うと、さとりがやんわりとその思いを代弁してくれた。そうすると姉妹はくすくすと食卓に笑顔を咲かせるのである。
 咲夜は今、決して長いとは言えない生涯の中でもっとも満ち足りていた。
 さとりとの淫らな日々に溺れて生きるのも決して悪くは無かった。だが、咲夜はやはりメイドなのだ。たとえ手足がもがれようと、主人に奉仕しなければ本当の意味で救われることがない。
 だから、手足を「美味しい」と言って食べてくれた何よりも誰よりも敬愛する主人姉妹に、自分を美味しく食べてもらいたかった。
 肉も、骨も、内臓も、全て残らず美味しく調理する術を数え切れないほどの人間を捌き料理してきた咲夜は熟知している。だから自分がどのように調理すれば美味しいのかも、もちろんわかりきっている。
 この食卓には出しきれなかった材料に、残骸となって姉妹を見守る我が身の調理法も既にレシピ帳としてさとりに残しており、保存食として一欠片も残さずに食べきられることが約束されている。
 咲夜は文字通りの意味で、さとり姉妹と一つになりその人生を共に歩み続けるのだ。

「――――」
「――――」

 姉妹は何か、咲夜に対して声をかけた。既に八割以上死んでいる咲夜の耳にはその言葉の意味をとらえきれなかったが、今までにないほど明るく笑うさとりとこいしの様子から、暖かい心だけは伝わった。
 仲睦まじい家族の肖像に見守られながら、彼女は息を引き取った。




※※※※※





 日の届かない紅いお屋敷の地下室で、二人の少女がお茶を飲みながら駄弁っていた。
 一人は七色の宝石を吊り下げた枝のような羽根を持つ吸血鬼、フランドール・スカーレット。
 今一人は灰緑色のウェーブヘアーを垂らしたサトリ妖怪、古明地こいし。
 フランドールはぬるく香りの飛んだ紅茶を口に含み、残念そうにため息をついた。

「あーあ、咲夜はいつになったら帰ってくるのかしら。こんな不味い紅茶をお客様に出すなんて、ウチのメイドってホント使えない」
「いきなり行方不明になってからずいぶん経つよね」
「そうそう! お姉様ったら、それで真面目に探しゃしないんだから呆れてものも言えないわ」
「ふーん。吸血鬼ってやっぱり血も涙も無いのね」
「まぁ血は飲むけどね。お姉様ったら意地っ張りでさ。『あいつは私があげた運命が気に食わなければ、いつでも私の下から消えても良いという契約で飼っていただけ』とか言って、今頃幸せにしているかなー、とかぼーっとしてたまーに呟くのよ。そんなに気になるなら探せっていうの。ただでさえまともにお屋敷が回ってないってのに」
「メイドの教育、上手く行ってないの?」
「妖精はいくら仕込んでも無理よ。妖怪のメイドも最近は雇っているけど、咲夜の足元にも及ばない連中ばっか。そもそも私たちに対しての忠誠心ってのが無いのよね」
「それなら、私、お姉ちゃんにいい方法を教えてもらっているよ」
「へぇ? 聞かせてくれるかしら?」
「うん。あのね、お姉ちゃんいわく、ペットはまず何より愛情を持って真摯に世話をすることが重要なの」
「ペットじゃない! ウチに必要なのはメイドなの」
「いいからいいから。でね。いくら愛情をかけても懐かない子はもちろんいるわけで、そういう子は何かしら必ず一つ、既に信頼しているものがあるわけなの。それを可愛がりながら見極めたところで……」
「ところで?」
「信頼していたものに裏切られたという催眠術を、相手にかける」
「まぁ素敵」
「でしょ?」
「でも私もお姉様も催眠術なんて知らないわ。精神なら簡単にぶっ壊せるんだけどねぇ」
「だめだめ。なんでも壊すのは簡単だけど、元に戻すことは誰にもできないってお姉ちゃんが言ってたわ」

 そう言い終えたこいしは、生ぬるいティーカップを一気に傾けて中身を飲み干した。
さとり様に騎乗位で搾り取られたひ
みづき
作品情報
作品集:
23
投稿日時:
2011/01/21 14:26:41
更新日時:
2011/01/21 23:26:41
分類
咲夜
四肢切断
さとり
こいし
ふたなり
1. NutsIn先任曹長 ■2011/01/22 00:08:42
なんて素敵な達磨プレイ!!
なんて素敵なオチ!!

咲夜さんは幸せな最期を迎えました。それだけが救い。
咲夜さんに幸せを与えた奴らには、救いなど要らないか。

こいしちゃん、そのお茶が今の君達姉妹の置かれた状況だよ。
因果応報って言葉、知ってるかい?
君達も、やがて、幸せな最期を迎える。

咲夜さん、みたいになあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
2. 名無し ■2011/01/22 00:29:53
イイハナシダナー
芋虫咲夜俺も欲しいよ
3. 名無し ■2011/01/22 01:03:58
おにんにんフル勃起w
4. 名無し ■2011/01/22 01:50:10
読ませて頂いてありがとうございます。
際どい嗜好のオンパレードで、とてもではないが人様にお勧めできない、人によっては不快しか得られないかもしれない内容ですが、少なくとも私は大変充足致しました。
本当に良いものを見せて頂いた。
しばしの幸せをありがとうございました。
5. 名無し ■2011/01/22 04:03:53
レミィの態度でオチがわかってしまったorz

産廃の小説には正念場で陥落する子が多いね(´・ω・)
6. 名無し ■2011/01/22 19:15:23
すてき
7. 名無し ■2011/01/22 21:03:33
さとりんはやはり相手の心を侵食する話が一番輝いて見える
ふたなり芋虫はいいものだ!
8. 名無し ■2011/01/22 21:13:35
芋虫って響きだけでご飯三杯いけるわ
9. 名無し ■2011/01/22 21:44:49
ちね
10. 名無し ■2011/01/22 22:53:31
面会レミリアが偽なのは流石に分ってしまった。本物レミリア使えねぇw
抵抗出来ない状態で長時間弄られる咲夜さんとかふたなり属性が無い俺でもクる。最高。
後、ペットとしてはちゃんと面倒見が良い辺りも逆にエグくてさとりんらしくてファンタスティコォ
11. 名無し ■2011/01/26 19:51:21
そうか、これがメイドか、これが仕えるものか
咲夜さん、なんて献身なんだ! 
そしてこのさとりは外道というよりもうカリスマだな、一種の
オチの狂い妹二人の会話もいい味出してるぜ
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