彼の地の思ひ出、故郷の願ひ

作品集: 23 投稿日時: 2011/01/23 19:13:53 更新日時: 2011/01/31 00:41:29
 




月(そら)を見上げる度――、



地球(だいち)を見下ろす度――、



私はあの女性(ひと)を思ふ――。










地球――、

地球にありながら、『表』から観測できない隠されたセカイ。

幻想郷。



楽園の素敵な巫女、博麗霊夢は、

博麗神社の裏手で焚き火をしながら、

堅物の姫によって月に留め置かれていた時の事を思い出していた。





月――、

月にありながら、『表』から観測できない隠されたセカイ。

月の都。



神霊の依り憑く月の姫、綿月依姫は、

豊かの海の浜辺で黄昏ながら、

月に穢れた巫女が滞在していた時の事を思い出していた。










月の使者のリーダーであり、都の治安を預かる綿月姉妹。

中でも妹の依姫は、不正を許さぬ堅物な性格であるため、政を行なう者や市井の民の一部から煙たがられていた。
綿月姉妹は月では極悪人とされている永琳の教え子であり、遠縁ではあるが血族であることも、
悪印象を根付かせる一因となっている。
さらに最近、『表』の月面から人間が持ち込んだ品が消失したり、月に住まう神々が何者かに召喚されることが頻繁に起きた。
トドメは謀反の噂で、その容疑者リストの上位に綿月家の名があった。



そんな状況を打破する手段が、穢れた大地から月に落ちてきた。
月の都を乗っ取るために、ロケットに乗ってやってきた――というより墜落してきた――レミリア達、月侵略軍である。
彼女達は、自分達が計画の真の目的を秘匿するためのおとりであることを、当然知らない。
予め、永琳から手紙で対抗策を授けられた綿月姉妹は、二手に分かれ、侵略者を迎え撃った。

依姫の担当は、賑々しくやって来た侵略者――どちらかというと遭難者――の迎撃であった。
自身の圧倒的な実力を見せ付け拘束し、極力人死にの出ない解決方法を模索していると、
黒白装束の少女、霧雨魔理沙が幻想郷流の無血の決闘、スペルカード・ルールを提案してきたので、
依姫はそのおあつらえ向きのお遊びに乗ることにした。

依姫は、幻想郷の四人の手練をたった一人で、敵の作ったルールで、悉く打ち破った。

咲夜はタネ無し手品のナイフ弾幕と時止めを行なったが、依姫に自分のナイフを向けられ、手品のタネを見破られ攻略された。
魔理沙は派手な攻撃を次々と繰り出し、依姫の目と舌を楽しませ、結局、依姫が手を下すまでも無く降参した。
レミリアは夜の王の名に相応しい恐怖を見せ付けたが、全て見物した依姫が天岩戸を開けた事で夜が明け、地に伏した。

最後の一人、博麗霊夢は、なんと神降ろしを行なう巫女であった。
だが、霊夢は神降ろしの術も戦闘技能も、依姫と比べて未熟であった。
修行が足りていない。
幻想郷では通用するかもしれないが、清浄なな月の都を守護する依姫と比較するのは酷なくらいの実力差であった。

そんな依姫に驕りが生じたとしても、誰が責めることが出来ようか。

不意に霊夢が放った大入袋を依姫は易々と切り捨てた。
それが何なのか確認もせずに。

袋には災厄の神である『大禍津日神』の穢れが封じられていた。

穢れ無き月が、穢れに汚染される。
汚染を防ぐには、

霊夢が放つ穢れの弾幕を、全て打ち消すより他無い!!

後は、弾幕を放つ者と切り捨てる者の持久戦になるかと思われた。

霊夢は忘れていたのか。
依姫は、八百万の神を降ろせると豪語していたことを。

依姫は、『大禍津日神』の厄災を直すべく生まれた神の一人である『伊豆能売』を召喚、
無数の穢れの弾幕を全て消去、霊夢は詰んでしまった。



こうして、レミリア一派は敗北、自分に割り振られた『用事』を済ませた依姫の姉、豊姫の『海と山を繋ぐ程度の能力』
――空間の位置置換能力――によって、帰還手段を失ったレミリア達を幻想郷に強制送還した。



霊夢を除いて。





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紅魔館の当主である紅い悪魔、レミリア・スカーレットが、
その溢れんばかりのカリスマと指導力を遺憾なく発揮して主導し、
レミリアの親友にして参謀である七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジが立案した、

『住吉月面侵略計画』(Project SUMIYOSHI)。

公式には、これが『第二次月面戦争』の計画とされている。
烏天狗が発行している新聞にもそう記述されている。

しかし、この計画は謎に包まれている。
当然、計画書は公開されていない。

レミリアと彼女の右腕であるメイド長、十六夜咲夜、
そして異変解決人の博麗霊夢と霧雨魔理沙の人間二名、
その他、供回りか支援要員だろうか、若干名のメイド妖精。

彼女達僅か数名で、紅魔館が独自開発したロケットで月に攻め込んだ。

そして敗北。

侵略軍は一名を除き全員生還。
幻想郷の重要人物である霊夢のみ、彼女達から一ヶ月程遅れて帰還した。

『第二次月面戦争』で判明していることは、これら事実が全てである。




幻想郷の賢者にして管理人、八雲紫は、博麗大結界が張られる遥か前に、月に攻め込んだことがあった。

これが『第一次月面戦争』である。

現在主流の平和的決闘手段、スペルカード・ルールなど存在しない、
相手を殺めることに躊躇の無い、神の如き力を持った原始の妖怪達。
紫はそんな彼らを率い、水面に映った月の虚像と実像の境界を操作して、月に奇襲をかけた。

結果は惨敗であった。

月の軍隊は妖怪達の奇襲を事前に察知、優れた科学力の恩恵で開発された兵器による洗礼を敵に浴びせかけた。
侵略軍の指揮官である紫は短時間の攻撃で月の戦力を把握、このままではなす術も無く全滅する事を悟った。
紫は直ちに撤退を指示した。
血気盛んな妖怪達を宥めすかし、あるいは敵中に取り残された者を見捨て、
九割以上の損害を出しながら紫と僅かな妖怪達は、何とか生きて地上に戻ることが出来た。
もし、紫の撤退指示が僅かでも遅れたなら、被害は十割となっていただろう。



『第一次月面戦争』後、千年の月日が流れた。
その間に幻想郷が出来、その中で妖怪達が暮らすようになっていた。

そんな平和を謳歌する幻想郷に降って湧いたような月への侵略計画。

幻想郷を維持する管理人である八雲紫は、この事を察知できなかったのだろうか。



否、紫は知っていた。
どころか、紫が月への侵略を主導した。
『住吉月面侵略計画』なぞ、『第二次月面戦争』のほんの一部を構成しているに過ぎない。

そういった意見もある。
よく酒処で、程よく出来上がった事情通が、訳知り顔で周囲に吹聴している類の話題である。



『第二次月面戦争』が決行される前、紫は精力的に動き回っていた。

異変以外では、お世辞にも活動的とは言い難いあの霊夢が、
巫女らしく神降ろしの修行をしていた。

時を同じくして、紫の名代である八雲藍は紅魔館や白玉楼を始め、各勢力の元を訪れていた。
緘口令が敷かれているのか、訪問の目的は明らかになっていない。

その頃からか、白玉楼の主、西行寺幽々子の懐刀を自称する若き剣士、魂魄妖夢の姿が紅魔館付近で見られるようになった。
それはまるで、紅魔館を監視しているかのようであった。
さらに、外界の品々を商う道具屋で書籍を読み漁ったり、博麗神社で霊夢や咲夜達と共に会話もしていた。
妖夢の剣士と幽霊の両方の見地から、『計画』に携わる者達に何らかの助言を行なったと考えられる。

妖夢の行動は、主の幽々子の命で行なったのだろう。
そして、幽々子は紫の友人である。

『第二次月面戦争』が、幻想郷に住まう者達の殆どが予想した通り、失敗に終わった後、

冬眠に入る前の紫が最後に目撃されたのは、

雪が降りしきる冬真っ只中の、紅魔館であった。

紅魔館には当然、レミリア達幹部がいたが、

その他に、

霊夢と魔理沙、
紫と幽々子、

そして、
永遠亭のトップである、月出身の蓬莱人、
八意永琳と蓬莱山輝夜、

『第二次月面戦争』の関係者及び関係すると思われる面々が、
侵略者の本拠地で一堂に会したのである。



結局、今回の侵略行為は、壮大な茶番だったのか。



以上は、事実とそれを基にした憶測である。



『第二次月面戦争』――、その真の目的は、

『計画』の黒幕――十中八九、八雲紫だろう――ぐらいしか知らないだろう。





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月の都で霊夢は、退屈をもてあましているようだ。

唯一人、敵地に取り残されるということは、かくも人を不安にさせることか。
霊夢は最初、そう思っていた。

見せしめの処刑、または幻想郷へのスパイとするための洗脳、
それらメインディッシュを食べる前に、情報収集またはストレス解消という名の拷問を前菜に行なうかも。
穢れた地からやって来た侵略者達の重要人物に相応しい、定番の末路。

霊夢は、これら非道な行いに対する対抗策を、博麗の巫女を襲名した時に習得していた。
ロケットのメインエンジンとして住吉三神を召喚しつつ、最悪の場合の覚悟も完了していた。

結局、対策も覚悟も、すべて無駄になった。

月の使者のリーダーである綿月姉妹は、霊夢を賓客同然に扱ったのである。

霊夢は武装解除もされず――真正面からかかって、綿月姉妹に勝てるとは思わないが――、
日中、依姫が付き添い、都の市中やお偉いさんの邸内での神降ろしの術をオーバーアクションで披露することを命じられたが、
それ以外は、綿月の屋敷を自由に動き回ることを許された。

綿月姉妹と食事を摂る時、世間話の一つとして色々聞かれるが、
霊夢は答えられる限りのことを包み隠さず答えた。
考えて見れは、レミリアや紫等から特に口止めはされていなかった。

少なくとも神社の自室よりも豪華で広い部屋があてがわれ、
美味過ぎて味気無いと感じるくらいの美酒美食が供され、
毎日、依姫のお説教があることを除き、
霊夢は、快適な幽閉生活を満喫していた。





月の都での依姫は、日常に混入された穢れに困惑していた。

霊夢はきっと、仲間達から引き離され、清浄な異郷で不安に駆られていることだろう。
依姫は最初、そう思っていた。

緊張を解きほぐし、こちらは危害を加えないと納得させるための話術、
怯えた彼女に身体で感じてもらう為の、滞在中の準国賓待遇。

依姫は、人身掌握術や客人に対する礼儀を、逐電した八意永琳に代わって使者のリーダーに就任する前から習得していた。

結局、霊夢には配下の玉兎に対するような、厳しい説教口調で接することになった。

月の使者のリーダーの一人であり、都の治安を預かる綿月依姫は、
知らず知らずのうちに霊夢のペースに巻き込まれていたのである。

最近、不正な神降ろしが行なわれ、それができる依姫が謀反を起こそうとしているとの噂が立った。
それは不穏分子の流した根も葉もないデマであったが、捨て置けば、現在の綿月姉妹の置かれた微妙な立場が、
さらに危ういものとなるだろう。

そんな時に、謀反人の候補者リストの筆頭に上がっている、綿月姉妹の恩師にして前任者、八意永琳から手紙が届いた。
そこには、姉妹以上に自分が危険視されていることを承知の上でこの手紙を送ったことと、
月を侵略者から守り、かつ姉妹に掛けられた嫌疑を払拭するための策が書かれていた。

それが、穢れた地の未熟な巫女、博麗霊夢による、神降ろしのパフォーマンスであった。

そもそも、依姫が謀反の疑いを掛けられたのは、月で神降ろしが出来る者が彼女一人であったからである。
神に対する敬意を持ち合わせていない、穢れた民である霊夢が神降ろしをやって見せることで、
依姫の普段からの品行方正な行動もあり、不穏な噂は鎮静化に向かう兆しを見せ始めた。





夜。

書斎で姉とレイセンの三人で行なった事務仕事を終えた依姫は、僅かに残った自分の雑務をこなすために二人と別れ、
自室で仕事をしていた。

一刻ほどかかって仕事を終えた依姫は小腹が空いたので、厨房に向かった。
厨房から明かりが漏れている。もう、料理人や小間使いは休んでいる時間帯である。
少し精神を集中しただけで、そこにいるのが誰か分かった。

月の民には無い、尋常ではない穢れを厨房内から感じた。

「まだ起きていたのですか? 霊夢」

厨房内の小間使い達が自身の食事を摂る時に使うテーブル席に腰掛けた霊夢が、
少し沈んだ表情をして、手酌で月の美酒を飲んでいた。

「まあね。今日は夕食前に居眠りをしたせいか目が冴えちゃって」

くいっ。

杯を呷る霊夢。

「お酒は程々になさい。余計に眠れなくなるわよ」

依姫は厨房の調理台がある方に歩いていき、壁に埋め込まれた冷蔵庫を開けた。

「あんたも寝る前につまみ食いすると、太るわよ」

依姫は苦笑して、

「その辺は考えて食べるわよ」

冷蔵庫から取り出したトマトとモッツアレラチーズをそれぞれ切って大皿に盛り付け、
オリーブオイルと酢と塩コショウを振りかけたサラダを作った。

依姫はサラダの皿とフォークを二本、杯を一つ持つと、霊夢の席の向かいに腰を下ろし、
手にした物をテーブルに置いた。

「どう、月の生活に慣れた?」

霊夢にフォークを差し出しながら、依姫は訪ねた。

「ん〜、なんか違和感があるのよね〜。あんた達は良くしてくれているのは分かるんだけれど……」

フォークを受け取り、自分と依姫の杯に酒を満たした。

「環境の違いね。貴方は穢れた地上の民だから、清い月の空気は肌に合わないのかしらね……。どうぞ」

依姫は霊夢の感じる違和感の原因をそう判断しつつ、霊夢にサラダを勧めた。

「ありがと。悪いわね、色々と気に掛けてくれて……」

そう、依姫は霊夢を気に掛けていた。
同じ神降ろしが出来る、年若い未熟者の霊夢を妹のように思っていたのだ。

依姫は自分が指導している玉兎兵達同様に、霊夢の素行の乱れを口うるさく注意をするだけではなく、
姉の豊姫同様に、霊夢に愚痴を言うことも最近増えてきた。

ちなみに現在霊夢が着ている服は、ロケットと共に海中に没した着替えの代わりに、依姫が自作した巫女服である。
大まかなデザインは最初に霊夢が着ていた物と同じだが、細かいデザインや腰の皮ベルトに綿月姉妹の服装との共通点が見られる。

霊夢も鈍感ではない。依姫の厚意に気づいていた。だから礼を言ったのである。


依姫は、なんだか面映い気分になった。
疲れ切ったところに飲んだ酒の酔いが回ったか。

「べ、別に……、貴方の自由を奪っているのですから、それくらいはさせて頂きます」

少し顔を赤らめながら、堅苦しい返答を返した依姫を見て、
霊夢は、くすりとした。



その後も世間話に花を咲かせ、気が付けば、そろそろ寝ないと明日の『見世物』に影響が出かねない時間となった。

「霊夢、片付けは私がやっておくから、貴方はもう寝なさい」

「ん……、ふわぁ……、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

二人は席を立ち、依姫は空いた食器や酒瓶を持って流しへ、
霊夢は厨房の出口に向かおうとして、

「依姫、あのさ……」

「ん、どうしたのですか?」

真剣な面持ちで依姫を呼び止めた。

「良かったら……、これからもおしゃべりに付き合ってもらえるかしら?
 豊姫はどことなく紫に似ているような気がして油断ならないし、
 あんた達のウサギは人見知りするし、あんたなら……、思ったより良い奴っぽいし……」

蛇足ではあるが、霊夢はかつて神社で保護した羽衣を持った妖怪兎が、
現在、綿月姉妹のペットをしているレイセンだと気付いていない。
だがレイセンは霊夢のことを覚えていたので、極力顔を合わせないようにしていたのだ。

依姫は一瞬、ポカンとしたが、

「……ええ、良いわよ。夜、仕事が終わった後なら時間が取れると思うから、今位の時間に私の部屋にいらっしゃい。
 お酒も用意しておいてあげるから」

微笑んで快諾した。

「ありがと!! じゃ、お休み!!」

霊夢は心底嬉しそうに破顔すると、自室に走っていった。



洗い物を終え、自室に戻った依姫は、ふと姿身に映った己を見た。

霊夢と同じ笑顔を浮かべていた。





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その日を境に、霊夢は周囲に笑顔を見せるようになった。

その日を境に、霊夢は神降ろしも楽しげに行なうようになった。

生き生きと舞い、神をその身に降ろす巫女。
それは、今まで嫌々やっていたものとは雲泥の差であった。

霊夢の神降ろしは、長きに渡る平穏で退屈に倦んでいた月の民達に評判となった。
月の都は霊夢の話題でもちきりとなった。
霊夢の神降ろしを見ようと、人間、玉兎を問わず、大挙してその会場に押しかけ、
綿月姉妹の元には、月の重鎮達からのお誘いが連日のようにあった。

霊夢は謙虚であった。

月の民達やお偉方の元に一度出向き神降ろしを披露した後、
感謝の言葉と共に、二度と月で神降ろしを行わぬ旨を告げた。

誇り高き月の皆様、私めの稚拙な技をご愛顧くださり有難うございます。
しかしながら、自分は穢れた大地からやってきた不浄の者。
この舞も、もともとは大恩ある綿月様達の不名誉な噂を払拭するため、皆様に披露した次第です。
綿月依姫様以外に神霊を降ろせる者がいることを、これでご理解いただけましたでしょうか。
私も皆様の前で舞えた事を光栄に戻ります。
しかしこれ以上は、慈愛に満ちた月の皆様を穢すことに、恩を仇で返すことになります。
まことに、まことに残念至極でございますが、これにて失礼させていただきます。

穢れを恐れる月の人々は、そう言われてしまうと無理に引き止めるわけには行かなかった。
なので、引き上げようとする穢れた地からやってきた素敵な巫女に対して、
皆は歓声と大量の投げ銭で別れを惜しんだ。



霊夢の活躍により、綿月姉妹の悪評は、数週間で完全に払拭された。



霊夢の幻想郷の帰還は、一週間後に決まった。
豊姫の能力であれば、今すぐにでも霊夢は帰ることは出来るが、
彼女は霊夢と妹に気を遣ったようだ。

のほほんとしているようでも流石、綿月の者。
後で霊夢が聞いたことだが、豊姫は戦闘抜きであの紫を屈服させたそうな。
そんな切れ者で妹思いの姉は、依姫と霊夢が友情を育んでいたことにも気付いていた。
二人の仲をより深めるようにと、依姫と霊夢に一週間の休暇を与えたのだ。
休暇期間分の依姫の仕事は、豊姫がレイセンと共に既に終わらせていた。



依姫は、姉の厚意を断ることは出来ないと理解した。





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都の一等地にある高級マンション。

その一室に、依姫と霊夢はお忍びでやってきた。

この部屋は、綿月姉妹の都での仕事が忙しく屋敷に帰る暇が無い場合に、寝に帰る場所として購入したものだ。
何時そういった事態が起きるか分からないので、定期的に人を遣って掃除や生活物資の補充を行なっている。
依姫と霊夢は休暇中、ここで過ごすこととなった。



「「かんぱ〜い!!」」

ち〜ん。



夜。

都の見物とショッピング――殆どウィンドウショッピングであったが――を楽しんだ依姫と霊夢は、
マンションに帰ると交代で入浴後、備え付けの室内着に着替え、購入した酒と惣菜で二人きりのパーティーを始めた。

パーティーといっても、愚痴やら取り留めの無い話を言い合う、
気の置けない会社の同僚と飲み屋で繰り広げられる光景と大差の無いものであった。

依姫はよく飲んだ。
普段は嗜む程度なのに、今日は早いピッチでグラスを干している。
霊夢は、またなみなみと酒が注がれたグラスを依姫から取り上げると、自分が飲み干した。

「あ゛〜〜〜〜〜、れいむぅ〜〜〜〜〜、かえひてよおぉぉぉぉぉ」

「依姫、飲みすぎ」

「あらひ、そんなにのんでまひぇんよおおおお」

空の酒瓶の本数を勘定する霊夢。
普段の依姫の酒量との差を、神社で行なわれる宴会で培った経験で分析して、

『危険』と判断した。

「飲んでるって。これ以上飲んだら、全身『穢れ』塗れになるわよ」

「いいも〜〜〜〜〜ん!! わらひ、穢れ塗れになってもいいも〜〜〜〜〜ん!!」

依姫はそう叫んで霊夢の両手を掴んで立ち上がると、リビングを二人でぐるぐると回りだした。

踊っているつもりか。

「ぐるぐるぐるぐるぐ〜〜〜〜〜る!!」

「ちょ、やめ!! 依姫!! 目が回る〜」

ぐるぐるぐる。

「わらひはおつきさまぁ!! れいむはちきゅ〜ね!!」

ぐるぐるぐる。

「ひぇ〜、目が目が目がま〜わ〜るぅ〜」

「つきはちきゅ〜のまわりをまわるもんなんらよ〜!!」

ぐるぐるぐる〜……、ぴた。

不意に回転運動が停止した。

まだ三半規管が悲鳴を上げている霊夢ではあったが、
依姫がいよいよ危険な状態になったことぐらい見て取れた。

「ぅ……、ぎぼじ、わ゛る゛い゛……」
「!!」

霊夢はふらつく足に鞭打ち、依姫を連れて迅速にかつ極力衝撃を与えないように、
曇り一つ無い、白磁が眩しい洋式便器が鎮座する水洗トイレに駆け込んだ。



う゛……う゛う゛、うおえ゛えええええええええぇぇぇぇぇえ゛ぇぇぇえ゛えぇぇぇ〜〜〜〜〜……。



「落ち着いた?」

「ごめんなさい……、とんだ無様を晒したようね……」

うがいと洗顔をした後、ソファに力なく座り込んだ依姫は、
霊夢が水道から汲んできた水を飲んで、ようやく正気付いた様だ。

「今日はもう、お開きにしましょう。立てる?」

「うん……、なんとか」

そう言ってはいるが危なっかしいので、霊夢は依姫に肩を貸して、寝室に向かった。

寝室には、大きなベッドが一つだけあった。
この部屋に泊まるのは、基本的に綿月姉妹のみなので、一つのベッドに二人が寝ても特に問題は無いのだろう。

「さあ、横になって……」
「霊夢も一緒に寝よ!!」

不意に依姫が霊夢に抱きついた。
霊夢よりも背の高い依姫が抱きついたため、霊夢は依姫と共にベッドにダイブすることになった。

「きゃ!?」

どさっ。

放心すること数秒。

ようやく我に帰った霊夢は、

「……離して」

未だにしがみついたままの依姫に何とか言うことができた。

ぎゅうううう。

依姫はより一層強く霊夢を抱きしめた。

霊夢の控えめな胸と依姫の豊満な胸。
二人の胸が重なり、潰れている。

「苦しい、よ……」
「……」

依姫は何も言わず、ただ、霊夢を抱きしめている。
霊夢はこれ以上何も言わず、ただ、依姫の好きにさせている。

依姫の目から、光るもの一つ。

ぽろり。

「依姫……、泣いてるの?」
「ぅ、ぅぅぅ……」

小さな嗚咽。これが返事であった。

ぽろり、ぽろり、ぽろ、ぽろ、ぽろぽろぽろ……。
依姫の両目から、光るものが際限無く……。

依姫の顔は、まるで母親に置いてけぼりを食らった幼子のように、
しわくちゃに歪んでいた。

「依姫……」
「う、ううぅぅぅ……、ぅぅぅ……」

依姫は、涙を流し、嗚咽をかみ殺し、相変わらず霊夢を抱きしめたまま、離してくれない。

離れようとしても駄目なら……。

ぎゅうっ。

霊夢も依姫を抱きしめた。

「うぅぅ……」

二人の胸がより潰れる。
眼前にはお互いの顔。

「う、う……」

依姫は顔を霊夢に近づけた。
霊夢も顔を依姫に近づけた。

顔を近づける際、お互いの鼻が接触しないように、若干顔を傾けた。

当然の結果として、

二人の顔の部位でお互いに最初に接触したのは、

唇だった。





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依姫が霊夢と過ごした、少々爛れた休暇は終わり、

霊夢が幻想郷に帰る時が訪れた。



その時既に、

依姫は月を守護する使者のリーダーに、

霊夢は幻想郷を守護する博麗の巫女に、

それぞれ戻っていた。



が、依姫の元に駆け寄った霊夢は、

ほんの刹那、

いたずらっ子の顔になり、

「よければ、穢れた監獄に遊びにいらっしゃい。月の使者様」

一言告げると、元の顔に戻り、



清浄な月から、

穢れた幻想郷へと、

帰っていった。





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月――、

月にありながら、『表』から観測できない隠されたセカイ。

月の都。



神霊の依り憑く月の姫、綿月依姫は、

豊かの海の浜辺で黄昏ながら、

月に穢れた巫女が滞在していた時の事を思い出していた。



少し、頬を染めながら、幻想郷の巫女である霊夢のことを思い出し、

幻想郷つながりで、恩師の永琳のことを思い出し、

永琳つながりで、永琳の元に身を寄せているというレイセンの前任者のことを思い出し、

逃げた、悪いことから、屋敷に保管していた千年物の古酒を盗み出した幻想郷の誰かさんに思いを馳せ、

「依姫」

「お姉様」

豊姫に声を掛けられたので、取り留めの無い思考を打ち切った。



「あなたは最近、豊かの海に来るようですね」

「なんとなく、懐かしいような気がして」

「その懐かしさは、綿月の家系とは関係無く、貴方個人が最近経験したことかしら?」

「……ええ、そうです。最近、この海に落ちた賊の事です」

「正確には、賊の一味の神降ろしを行なう巫女のことかしら?」

「……お姉さまには、敵いませんね」

豊姫に誤魔化しや言い逃れをすることは、時間の無駄だ。
依姫は早々に認めることにした。

認めたことで、依姫はずいぶん楽になった。
策士の姉はそれを狙っていたのか。

否。

豊姫は、依姫の予想を超えた大胆な事を考えていた。

「ねえ、八意様に会いに行かない?」

「は?」



「ああ、言い方が悪かったようね。
 穢れた地上で裏切り者、八意永琳が首魁を務める永遠亭なる施設の視察に向かいます。
 その際、先日、月に攻め込んだ不埒者達も反省しているか確認します。
 宜しいですね。依姫」



「はい!! お姉様!!」



やはり、姉には敵わない。





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地球――、

地球にありながら、『表』から観測できない隠されたセカイ。

幻想郷。



楽園の素敵な巫女、博麗霊夢は、

博麗神社の裏手で焚き火をしながら、

堅物の姫によって月に留め置かれていた時の事を思い出していた。



普段は厳格な月の使者のリーダーである綿月依姫。

彼女は重責やいわれの無い誹謗中傷によって、
その心はぼろぼろであった。

霊夢は彼女達の濡れ衣を晴らすと共に、依姫の心の支えとなった。

依姫は霊夢に心を開き、やがて……、

依姫と霊夢は結ばれることとなった。

あのクソ真面目な依姫の乱れ様。
とても初めてとは思えない依姫の愛撫に霊夢は何度も達し、
霊夢は依姫に濃密なお返しを行い、彼女も何度も達した。



うっ!!

霊夢は口を押さえた。

顔は真っ青だ。

うぅ……。

もう耐えられなかった。

霊夢は地面に両手を付くと、
胃の内容物を吐き出した。



う、げ、げえ゛ええええぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇ……、ごほっがはっ、げっ、げほっ、げほっ……。



う、うううっ、うぅぅ……。

続いて、目から涙が溢れた。

ぼたっ、ぼたぼたっ。

地面に水滴が何滴も何滴も吸い込まれていく。

霊夢は口元と目元を乱暴に拭うと、吐瀉物の後片付けをした。
片付けといっても、その上に土を乱暴に重ねただけだが。

ざっざっざっ。

箒で乱暴に土を被せる。

一通り作業を終えると、

箒を焚き火に叩きつけた。

バシィッ!!

その一撃で炎は一時的に拡散、まだ燃えていない枯葉やゴミが散らばった。

霊夢は己の不毛な癇癪の後始末をするため、箒で散らばったゴミを集め始めた。

かき集めたゴミの中に混じる紅白の布切れ。

月で着用していた依姫お手製の巫女服。
その成れの果てである。

ゴミは再度火中に投じられ、燃え尽きていった。

完全に燃え尽きたことを確認した後、
用意しておいた桶の水を掛けて完全に火を消した霊夢は、
神社に戻ろうとして、



裸でもつれ合い、互いの肢体に舌を這わせる霊夢と依姫のイメージが脳裏をよぎった。



うっ!!

再び口を押さえ、地面に蹲る霊夢。



げ、げぇぇ……、げえぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜……、げほ、げ、ほ……。



もう胃液しか出なかった。

代わりに、涙と嗚咽は先程よりも大量に地面に降り注いだ。



う、うう、ううぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜……、ううううう〜〜〜〜〜。
うわあああああぁぁぁぁぁんんん……、あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんん!!!!!
あああぁぁぁぁぁ……ん……。
ぁぁぁぁぁ…………。



吐き気と涙は止まったが、霊夢はまだ膝をついた状態で自身の身体を抱きしめるように両手を組み、震えていた。



「霊夢……」



霊夢は背中から何かに包まれた途端、体の震えが止まった。



「紫……」



妖怪の賢者にして幻想郷の管理人、八雲紫は、
身体を震わせて心の傷のうずきに苦しむ霊夢を、
背後から抱きしめていた。



霊夢は、体と心を暖める抱擁をしばしの間楽しんだ。
不意に、霊夢は首筋に水滴が触れるのを感じた。
最初は熱く、すぐに冷めるそれは……。

紫は、静かに泣いていた。
紫は、心の中で、声を上げて泣いていた。





霊夢のおかげで、『第二次月面戦争』の目的のひとつは達成された。

その代償に、霊夢は心に傷を負ってしまった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





『第二次月面戦争』――、

その真の目的は――、

実に幻想郷らしいものだった。



異変の発生。

異変の解決。

そして――。










月の幻想郷である『月の都』。

月での異変発生源である『地上の幻想郷』。

月で異変を解決する英雄『綿月姉妹』。



月の都に現れた異変。

異変を解決した綿月姉妹。

だが、それだけでは、



不足――。










深夜。

博麗神社。

季節は冬。

雨戸どころか障子も開け放たれている。



部屋の中から夜空を見上げる一つの影。

八雲紫と博麗霊夢。

布団の上で、生まれたままの姿で寄り添い、

二人で一つの月を眺めていた。










穢れた地上からの狡猾な侵略者達が起こした月の都の異変は、

綿月姉妹が見事に解決した。



霊夢は、『紫の予想通り』月の都にしばらく滞在することになった。



霊夢は、『紫の計画通り』綿月姉妹を初めとした月の民に、

穢れた大地に住まう者達全てが悪ではないことを認識させた。



霊夢は、『紫の反対を押し切って』綿月姉妹、特に依姫に、

変革の要因を植えつけることを試み、

現在、その成果の確認待ちである。



『変革の要因』――、

進化を促すもの――、

綺麗な衣装が欲しい、美味い物が食べたい、快適な環境に暮らしたい――、

短い命を楽しく生きる為の欲望――、

月の民はそれを『穢れ』と呼んでいる。



『大禍津日神』の穢れ。

霊夢は依姫との『弾幕ごっこ』でそれを武器として使用したが、

その真の目的は、

霊夢の胎内に仕込んだ『穢れ』を誤魔化すためであった。

もし、『大禍津日神』の強烈な穢れを使わなかったら、

依姫は霊夢から、他の地上から来た者達よりも強烈な穢れを感じ取ったことだろう。



霊夢は、綿月の屋敷を始め、月の都の人々が集まる場所、重鎮達の邸宅、公共施設に穢れを振りまいた。

さらに霊夢は依姫に接近、体を接触させることで、彼女に直接穢れを受け入れさせることに成功した。



依姫は霊夢に好意を抱いていた。

だが、霊夢は依姫に対して、特に何の感情も抱いていなかった。

――抱いていない、筈、である。



霊夢は依姫と、

宴会に出席した人妖に対するものと同じように、雑談に興じ、

なんとなく欲情して友人と戯れでしたのと同じように、愛撫をし合い、

異変解決に失敗して妖怪達に陵辱された時と同じように、性欲をぶつけ合った。



だが、体は大丈夫でも、自分を愛する相手を騙す事は、
年若い霊夢にとって、心的苦痛を伴うものであった。

幻想郷に戻ってきて、月での出来事を思い出す度、
その甘く優しい思い出は霊夢を痛めつけた。

射命丸文に月のことを取材された時、霊夢は一言話す度に顔を歪めて脂汗を流した。
文は、霊夢は月で拷問を受けた事を思い出したとでも勘違いしたのか、
取材を打ち切り、気を遣ってくれた。
以降、皆は霊夢の前で月の話題をしなくなった。

洗濯物を片付けていた時、依姫が仕立ててくれた衣装が出てきた。
霊夢はそれを手に取り、思い出し笑いをしながら、心が凍りついた。
霊夢は裁縫箱から裁ちばさみを取り出し、思い出の衣服を切り刻んだ。
そうして出来上がった無数の紅白の布切れは、他のゴミや落ち葉と共に燃やすことにした。

駄目だった。

心が締め付けられるような痛みは、かえって酷くなった様な気がした。

霊夢の心を締め付ける凍てついた鎖は、
胃まで締め上げ、
盛大に吐き戻してしまった。

もし、あの時、紫が冬眠中にも拘らず霊夢の元に駆けつけてくれなかったら、
霊夢は一晩中、燃えカスの前で震えていたことだろう。



霊夢は紫と一緒に風呂に入って、汚れを洗い流し、体を温め、
肌を重ね合わせることで、凍てついた心は解れていった。

紫は霊夢の無茶を危惧していた。
自らの胎に穢れを仕込み、月の使者にそれを移すなど、そこまで要求はしていなかった。
霊夢は度重なる異変を解決してきた実績はあるが、それは正攻法の正面突破の場合であり、
相手を篭絡するような、搦め手は経験が無かった。

霊夢は強い精神を持っている。
それは現在断交している地霊殿の覚り妖怪ですら、手も足も出ないだろう。
だが、相手の心を利用するとなると話は別である。
相手の心を操作する事は、自分の心を騙す事である。
自分に素直な霊夢には、それが耐えられなかったようだ。

いつもなら、この手の汚れ仕事は紫が自ら行なっていたが、月では紫は要注意人物であったため、
代わりに霊夢が志願して引き受けた。
そして霊夢がまたそれをやらざるを得ない事態は今後、少なからずあるだろう。

紫が霊夢にしてやれることは……。



「紫……」

「何……、霊夢……」

「ずっと……、そばに、いて……」

「ええ……」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





幻想郷が月に仕掛けた異変、

『第二次月面戦争』は、

成功裏に終了した。



幻想郷内の勢力は、

共闘の承諾が得られなかったにも拘らず、

相手のアドリブに任せたにも拘らず、

それぞれが自身の役割を演じきり、

幻想郷側にも月側にも一人の死者を出すことも無く、

幻想郷側にも月側にも一片の禍根を残すことも無く、

水も漏らさぬ警備を誇る月の都の、それも月の使者である綿月姉妹の屋敷から、

幻想郷勝利の記念に、古の美酒を盗み出した。



紅魔館は、念願のロケットを完成させ、夜の住人にとっての憧れである月にその足跡を残す偉業を成し遂げた。

白玉楼は、紫の残した道しるべに従い月の都に潜入、観光を楽しみつつ後腐れの無い『月面戦争勝利の証』を手に入れた。

永遠亭は、月と幻想郷両者の武力衝突の回避かつ、月の使者の後任である綿月姉妹の不穏な噂を払拭する工作を双方に行なった。
ただ、永琳の唯一つの誤算は、『戦争』の勝者が幻想郷側であることであった。
ステロタイプな美味さを誇る月の古酒を飲んだ時、驚愕と共にそれを認めざるを得なかった。

普通の魔法使い、霧雨魔理沙は、始終この『戦争』をうまく立ち回った。
ムードメーカーとして暴走気味なレミリアをあしらい、面倒くさがりの霊夢をそそのかした。
魔理沙の最大の功績は、生殺与奪の権を持った強者、綿月依姫にスペルカード・ルールによる決闘を承諾させたことである。
絶妙のタイミングでの提案は、魔理沙の臆病さと狡賢さがそうさせたのだろう。





幻想郷の守護者二名、八雲紫と博麗霊夢。

抱き合う二人。

情事の後の火照った体に、冬の冷気が心地良い。

焚き火や火鉢と異なり、愛しい人の温もりは、心まで温める。



二人が見つめる月。

月が涙を流した。

小さな小さな一滴の光の涙は、真っ直ぐ、幻想郷に落ちていった。





紫と霊夢はそれを見て、



まるで、



天上から堕ちた天使を仲間として迎え入れる悪魔のような、



友好的な貌で、



微笑んだ。










――幻想郷へ、ようこそ。




 
今回は、『東方儚月抄』で描かれている第二次月面戦争について、
幻想郷の面々は危険な思いをしてまで何故今更、月に攻め込んだのか、
私なりの独自解釈を行ないました。


2011年1月31日(月):コメントに対する返答追加

>1様
儚月抄3作品を読み返して書いた甲斐があります。

>2様
ゆかりん、土下座った甲斐がありました。

>3様
霊夢の苦悩、分かってくれましたか。

>4様
依姫、幻想郷の軍事顧問でもやればいいのに。
で、姉貴分として霊夢の修行に付き合ってやったり。

>イル・プリンチベ様
博麗の巫女と幻想郷の管理人が命の危険に晒されるリスキーな作戦、よほどのメリットが無きゃやってられませんよ。
妖怪は、人を驚かすのが商売みたいなもんですから。
ドッキリした月人間3人、今度は恐怖を楽しめるようにならなくては。
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
23
投稿日時:
2011/01/23 19:13:53
更新日時:
2011/01/31 00:41:29
分類
儚月抄
住吉ロケット組
綿月姉妹
よりれいむ……?
霊夢のケアをする紫
常に変化する須臾のセカイと変化の無い永遠のセカイ
住吉月面侵略計画は第二次月面戦争の一部
幻想郷は全てを受け入れる
1. 名無し ■2011/01/23 20:47:29
なんというよくわかる儚月抄
2. 名無し ■2011/01/24 23:57:29
あの紫BBAがあれだけで終わるとは思っていなかったが...なるほど
3. 名無し ■2011/01/26 21:10:27
霊夢って、儚月抄じゃ完全に巻き込まれただけで損だよなー、っと思っていたら、なるほど
霊夢自身も仕掛け人であったか
そして、思いがけず得てしまった依姫への想いを否定しきれない人間味のある霊夢は好きだな
4. 名無し ■2011/01/28 14:36:25
ヨリレイは良いものだ。
まあアレだよ裏ではいろいろな思惑があったとはいえ
二人が育んだ絆に偽りはないわけだし、気を取り直して
うまくやっていけば良いのではないかな。
よっちゃんの穢れは……うん、地上人らしい生き方も悪くない、と思うよ。
5. イル・プリンチベ ■2011/01/28 17:23:38
儚月抄がわかりやすく解釈されていて、読んでて面白かったです。
ゆかりんはタダでは転ばないし、霊夢は霊夢でちゃっかりやりたいことをやってる。
原作の儚月抄がアレだし、何をいいたいのかわかりにくいお話だったから、弱い頭のオイラでも儚月抄をより理解できましたよ。
一番痛い目に合ったのは、妖怪の怖さを味わう羽目になったえーりんと依姫と豊姫なのか?
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