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『濃霧異変1』 作者: 乙樽

濃霧異変1

作品集: 23 投稿日時: 2011/01/23 14:01:46 更新日時: 2011/01/25 09:27:37
幻想郷にいつの間にか現れた色の無い濃霧は、今もその濃さを増し続けている。

やがて濃霧は幻想郷のすべてを覆い尽くすだろう・・・


事の発端であるが、里から一人の猟師が森へ向い、二週間経っても戻らなかった。

捜索隊が結成され、大規模な捜索が行われた。

上白沢慧音も捜索に参加したが、里に戻ったのは彼女だけだった。

彼女は憔悴しきっており、血にまみれ異様な様子だった。里の長の問いに対し、彼女はこう答えた。


突然霧が発生し、右も左も分からず、空も飛べなくなった。

霧の中から獣の不気味な咆哮が聞こえ、隊の者の悲鳴が響いた。

弾幕も放てず、隊の多くは失われ、瀕死の者を背負い何とか逃れた、と。

そしてこう付け加えた。

人は霧の中で獣に魂を喰われ、正気を失った。

共に逃れた者も、すぐに狂ってしまった。

ここもすぐに霧で覆われる。霧から逃れなくてはならない。


言い終えると、彼女は意識を失い、恐怖と絶望が里を襲った。



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冥界、白玉楼。



自宅で熟睡していた霧雨魔理沙は、寝巻き姿のまま硬い畳の上に叩きつけられた。


「全員揃ったようね。」

魔理沙は寝惚け眼をこすりながら顔をあげると、目の前には八雲紫と西行寺幽々子が座っていた。
2人とも神妙な面持ちで、どう見てもふざけている様子ではない。

それがどうにも可笑しくて、先程の理不尽な仕打ちと相まって彼女は思わず吹き出してしまった。


「一体どういうことだか説明してくれ。」


寝起きで頭が混乱していて、そう言うのが精いっぱいだった。

紫が口を開いた。


「あなたたち、今朝の新聞は読んだかしら。」


魔理沙は理不尽な呼び出され方をしたのが自分一人ではないことに気がついた。


見ると、魔理沙の隣には博霊霊夢、さらに隣には東風谷早苗、反対の隣には十六夜咲夜、魂魄妖夢、そして蓬莱山輝夜が、同じように神妙な面持ちで座っていた。

皆朝が早いのか、寝巻き姿なのは自分だけであった。いや、もう一人寝巻き姿でむくれた顔をしている者がいた。輝夜である。


「そう、読んでないのは魔理沙と輝夜だけね。まあ、どちらにしろ今何が起きているのかを確認する必要があるわ。」


異変だ。しかもいつになく厄介な異変が発生したのだ。魔理沙はそう理解した。


「今から3週間前、閻魔が最初に異変に気がついたわ。死者の魂が河を渡ってこなくなったとか。それで、彼女はここに様子を見に来たのだけど、その時は特に変わった様子はなかったのよね?」


ええ、と幽々子が答え、妖夢も合わせて頷いた。


「私がここに遊びに来た時、幽々子からその話を聞いたのだけど、なぜだかとても嫌な予感がしたのよ。それで紅魔の魔法使いに連絡をとったわ。その時は状況が大雑把過ぎて、原因は分からなかったんだけど、何かあったら互いに連絡をとるようにお願いしたわ。他にも何か知っていそうなのに片っ端から聞いたのだけど、皆駄目だった。」


紫は6人の顔を一瞥し、再び話し始めた。


「昨日の事よ。冥界にたくさんいた幽霊が急にいなくなった。私はすぐに結界を張りなおすことにしたわ。ちょうどそのとき、魔法使いから連絡があって、湖の周囲の霧が異様に深くなっていること、氷精たちの姿が見えないことを門番が不思議がっていたこと、里からの捜索隊がいまだに戻っていないことを聞かされた。
そして、彼女にここでの出来事を伝えたら、異変の原因が浮かび上がったよ。


遥か昔に色のない濃霧とともに現れ、世界を滅亡へと追いやった古の獣。

何者かがその眠りを覚ましたらしいわ。

最初は半信半疑だったのだけど、今朝の新聞で確信したわ。

古の獣は僕となるデーモンたちを使って人々からソウル、魂を奪い続けている。

このままでは幻想郷は濃霧の中に消失してしまう・・・。


そこで、あなたたちに頼みがあります。」


彼女はもう一度6人を見渡すと、改まって言った。


「古の獣にソウルを供給しているデーモンをすべて倒し、ソウルを奪い返してほしいの。

なにか質問はあるかしら?」

「ねえちょっと!なんで私がやらなきゃいけないのよ!?」


紫の話が終わると同時に輝夜は言い放った。


「永琳にはやって貰う仕事が山ほどあるし、そのアシスタントも必要よ。彼女に聞いたら、あなたを推薦してくれたわ。それに、不死身というのはそれだけで心強いものなのよ。特に今回は。まあソウルを奪われなければの話だけれど。」

「ソウルを奪われるとどうなるんですか?」


と早苗。


「正気を失うわ。ソウルとは精神の力そのもの、つまり魂ね。残された肉体はソウルを求めて彷徨い、奪われたソウルは成仏することもできず、永遠にデーモンによって使役されることになるわ。」


紫は皆の表情が強張るのを感じてか、こう付け加えた。


「安心して。あなたたちのソウルがデーモンに奪われることはないわ。私の頼みを聞いてくれるならだけどね。別に帰りたいのなら帰ってもいいのよ。ただし、結界の外はすでに霧で満たされていて、生身の人間はすぐにソウルを奪われてしまうわ。」


霊夢が口を開いた。


「この異変、解決出来る見込みはあるの?」

「なんとも言えないわ。ただ、あなたたちが最も解決できる確率が高いと私は思っているわ。本当は妹紅にも頼めると良かったのだけど、残念な事にすでに連絡がつかなくなっていたわ。

霧の中では、あらゆる妖怪は力を失うわ。スキマだって使えない。それだけじゃなく、弾幕や普段幻想郷で使っているようなあらゆる能力が使えなくなっているの。

そのかわり、素養のある者はソウルの業、すなわち魔法や奇跡を使えるわ。霧の中ではソウルの強さが大事なのよ。妖怪のソウルは大抵が脆く、崩れやすいけれど、人間のソウルはしっかりとした形を持っているわ。これはとても大事なことなの。まあ妖夢は半人半霊だけど、あなたの半霊と剣の腕はきっと役に立つと思うわ。

さて、こんなところかしら。それじゃあ具体的な方法について説明するわね。
といっても、デーモンの倒し方は私には分りません。

まず、幽々子の力と私の術を使って、あなたたちのソウルをこの白玉楼に結びつけます。これによって、あなたたちのソウルはデーモンに奪われることなく、
肉体が滅んでも魂は白玉楼へと戻ってくることが出来るわ。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。さっきから何か、"死ぬこと前提"というか、死んで当然のような言い方をしてるが、私は何度も死ぬのはごめんだぜ。」

「魔理沙、落ち着いて頂戴。これはあくまで保険なのよ。それに、魂を結びつけておかないと、デーモンに触れることなく魂を奪われてしまうわ。」

「紫、私たちひょっとして、異変が解決するまで永遠に死に続けるの?」

「それは違うわ霊夢。これは一種のゲームのようなものよ。どんなに難易度が高くても、少しずつ進んでいつかはクリアできる、そういうものなのよ。」


紫の弁解は苦しいものであったが、6人とも、自分たちがやるしかないという事に薄々ながら気づいていた。

真先に紫に意思を伝えたのは、寝巻き姿で膨れっ面をしていた輝夜であった。


「分かったわ。私やるわ。幻想郷の明日ため、私の力を使わせて貰います。」


その場にいた全員が、信じられないといったような顔をした。


「輝夜。私は正直言ってあなたの事をここまで頼もしいと感じたことは無いわ。幻想郷の未曾有の危機に対して、あなたが力を貸してくれることをとてもうれしく思います。本当にありがとう。」

「まあ、私に任せておきなさい。こんな異変、ぱぱっと解決してみせるわ。」


輝夜は照れ隠しにそう言ったが、紫に感謝されて悪い気はしなかった。正直なところ、紫の、ゲームのようなもの、という一言で大分気が楽になっていたのだ。

輝夜は、いわゆるヘビーゲーマーであった。キングスフィールドやシャドウタワーの主人公に比べたら、自分の今の状況は幾分かマシなものに思えたのだ。


「私もやります!」

「わ、私もやります!」

「やらせて頂きますわ。」


早苗、妖夢、咲夜も次々に承諾した。この3人関しては、紫は事前にそれぞれの主に承諾をとっており、本人もそのことを知っていたためそもそも断ることなどあり得ないのだが、それでも若干の躊躇いがあったのだろう。


「やれやれ、これじゃあ私だけ断るってわけにはいかないわね。仕方ない。私もやるわ。」


少し間をおいて、霊夢も承諾した。残るは魔理沙だけである。


「なあ、ひょっとして5人もいれば十分なんじゃないか?それに、能力が使えないとして、生身で一番弱いのはどう見ても私だぜ。私が参加する意味なんてあるのか?」

「あなたには魔法の素養があるわ。それに、何人いれば十分というものではないのよ。それともあなたは他の5人が頑張っている間、一人でのほほんとお茶を啜って待っているつもりなのかしら。

・・・どうやら、納得がいかないといった感じね。仕方ない。こんなもの見せるの本当は嫌なのだけど・・。」


紫が懐から一枚の新聞紙を取り出した。

「幻想郷の現在の行方不明者リストよ。あなたのお友達の名前もあるわ・・・。」


現在の行方不明者一覧

 ・
秋 静葉
秋 穣子
 ・
アリス マーガトロイド
 ・
犬走 椛
 ・
 ・
鍵山 雛
風見 幽香
 ・
 ・
 ・
ミスティア ローレライ
 ・
 ・
藤原 妹紅
 ・
 ・

他、妖怪、妖精、人間多数。


「そんな・・・。アリスが・・・幽香まで・・。」


魔理沙は言葉を失った。紫が続ける。


「ここには書いてないけれど、恐らく地底は全滅だと思うわ。そしてこのリストを作った射命丸文も今は行方が分からない・・。

この子たちはデーモンにソウルを奪われたのよ。奪われたソウルを救うにはデーモンを倒すしかないの。肉体が朽ちていなければ、幽々子の力によってソウルを元の体に戻すこともできる・・・。この子たちを救うことが出来るわ。」


アリス。世話好きなアリス。腹が減ったら、困ったような、それでいて嬉しそうな顔をしていつも食事を用意してくれた。私は彼女の本をよく盗んだが、アリスはいつもちょっと怒ったふりをするだけ。私は彼女に迷惑をかけてばかりだった。

魔理沙の頭に浮かんだのは、アリスの笑顔と彼女の暖かい食事であった。今度は私の番だ。そう思った。


「分かった。私、やるよ。」


小さいが、はっきりと聞こえる声でそう言った。


「これで全員ね。まず、あなたたちの申し出に対して改めて礼を言うわ。

本当にありがとう。

さて、具体的な方法の続きだけど、まず、あなたたちにはこの札を体のどこかに貼ってもらいます。この札が、あなたたちのソウルを白玉楼に結びつけてくれるわ。

いい?この札は何があっても絶対に剥がしてはだめよ。

まあ、ちょっとやそっとのことでは剥がれないからそんなに神経質になることはないわ。」


紫の言葉を受け、それぞれが思い思いの場所に札を貼っていく。


「次に、デーモンの居場所まで向かう必要があるわ。これには私のスキマを使って行きます。さっき言ったとおり、霧の中ではスキマは使えないのだけど、既に幻想郷の要となる場所に、霧の侵入を防ぐ結界を張ってあるわ。
あまり長くは持ちそうにないけれど、まずはスキマで要の場所まで送って、そこ
からデーモンの居場所まで徒歩で行ってもらうことになるわ。

結界の場所は、白玉楼、博霊神社、紅魔館、霧雨魔法店、間欠泉センター、守矢
神社、命蓮寺、永遠亭の8カ所よ。

それぞれの場所について現状を説明しておくわね。
まず、博霊神社だけど、普段通り閑散といていて特に変わった点はないわね。
紅魔館では、魔法使いがソウルの業と、古の獣の封印方法について研究してくれているから、詳しく知りたければ彼女に会うといいわ。
霧雨魔法店は魔理沙の自宅ね。
間欠泉センターでは河童たちがデーモンに有効な様々な武器や装備を開発してくれることになっているわ。
そして守矢神社には、山の妖怪たちが大勢避難してきているわ。
命蓮寺には聖白蓮がいて、彼女はソウルの力から奇跡を生み出す方法を研究してくれているわ。人里からも避難者が多数やって来ているようね。
最後に、永遠亭は竹林に最も近いわ。永琳には河童と共同で武器の開発や、負傷者の治療にあたってもらうわ。
白玉楼は見ての通りよ。まあこんなところね。」

「あの、着替えたいので一度家に帰して貰えるかしら・・・。」

「私もさすがにこのままじゃ、命がいくつあっても足りないぜ。」


言い終えるや否や視界が暗転し、次の瞬間には魔理沙は自宅のベッドの上に放り出されていた。どこからともなく紫の声が聞こえた。


「着替えが済んだら、次は紅魔館に行ってもらうわ。魔法使いがあなたに伝えたいことがあるそうよ。」


魔理沙は起き上がり、ふと窓に目をやると、普段見慣れた緑の世界はそこには無く、あるのは一面に広がる、白い闇、視界は霧によって完全に遮られていた。


再び白玉楼。


「霊夢、早苗、あなたたちは丸腰ではさすがに辛いでしょうから、間欠泉センターに行って河童から適当な武器を貰ってくるといいわ。

さて、咲夜と妖夢には、早速デーモン退治に出発してもらうけど、心の準備は出来ているかしら。」

「いつでも大丈夫ですわ。」


緊張した面持ちでこくりと頷く妖夢に対し、咲夜は表情一つ変えずに答えた。若干の緊張は感じられるものの、どこか余裕すら感じさせるその態度に紫は感心した。

まだ人間の中でも若い部類に入るこの少女が、死の危険を前にここまで覚悟を決められるものなのか。
やはり自分の勘は正しかった。彼女達は強いソウルを持っているのだ。


「それでは2人とも、まずは命蓮寺から人間の里へ向かって、そこにいるはずの
デーモンを倒してくるのよ。」


2人がスキマに足を踏み入れようとしたとき、妖夢は主の呼びかけに振り向いた。


「妖夢、気をつけて。あなたの祖父が、あなたに託した剣と、その腕、そしてあなたの半霊、なによりあなた自身を信じてね。どんな時でも、自分を見失ってはだめよ。」


幽々子は妖夢を抱きよせ、妖夢は彼女にその身を委ねた。亡霊であるはずの主の体が、なぜだかとても温かく感じられた。


「まあ、例えやられたとしても、魂はまたここに戻ってくる。半霊が私と同じ全霊になるだけよ。私はいつでもここで待っているわ。だから精一杯、ね。
咲夜さんもどうか気をつけて。」


咲夜は暖かい主の愛を目の前にして、無意識に自分の主と比較してしまったことを恥じた。戦いを前に研ぎ澄まされた精神を、確実に蝕むことになってしまった。

しかし、もうそんな事を考えている余裕は無くなるだろう。

なぜなら自分たちはこれから死にに行くのだから。



目の前にぽっかりと開くスキマに、2人は勢いよく飛びこんだ。
初投稿です。

プロジェクトダークがあまりにも待ち遠しかったので、つい書いてしまいました。
とりあえず輝夜さんは青ニートさんポジで。




ダークファンタジーは好きですか?
乙樽
作品情報
作品集:
23
投稿日時:
2011/01/23 14:01:46
更新日時:
2011/01/25 09:27:37
分類
デモンズソウル
フロム
輝夜
妖夢
魔理沙
1. 名無し ■2011/01/23 23:37:54
能力が使えなくなって、代わりに別の力が使えるようになると
これじゃ名前だけ同じオリキャラなんじゃ……
2. 名無し ■2011/01/24 00:36:43
さてさて、恒例の落下死は誰が最初かな?
3. 名無し ■2011/01/24 01:10:00
…改行が読みづらいのが、1つ目
※1が、2つ目
今後の展開次第、ただかなり難しいよってのが、3つ目
期待してるよってのが、4つ目
4. 乙樽 ■2011/01/24 04:24:58
書いてる時は何も感じなかったのに、言われてみると確かにその通りですね。

米1、まあそうなんですけど、やっぱりデーモンにマスパ撃ったらだめだと思うんですよ。
うーん、難しい。なんとか違和感なく書けるといいです。

次からやっと殺せるので、僕、満足。
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