明日無き無法者 前編

作品集: 23 投稿日時: 2011/01/30 00:22:05 更新日時: 2011/01/31 16:26:43
 1

  白昼の人里。強烈な太陽光線が地面を打ちつけ、流れた風が砂を巻き上げた。
 これだけ気温が上がった日は今まで何度あっただろうか。恐らくここ数年誰も経験しなかっただろう。
 それにも関わらず、何人かの子供達は道の真ん中で必死にボールを蹴り合って遊んでいた。
 汗を流した男の子が蹴ったボールが狙いを逸れ、あらぬ方向へと転がっていき、子供達が一目散にボールを追う。
 そんな子供達を横目に見ながら、アリス・マーガトロイドは道に出来た日陰をゆっくりと歩いていた。
  手で汗ばむ肌を仰ぎながらアリスは木製のドアを押して人里の中央付近に出来た銀行の中に入った。
 銀行の天井では大きな扇風機が回っており、ぬるい風が室内を駆け巡っていた。
 室内に居る順番待ちの数人が設置された長椅子に腰掛け目を擦ったり、うたた寝をしたりして時間を潰している。
 「いらっしゃいませ。どのような御用ですか?」
  正装をした若い男の店員が営業スマイルを振りまきながらアリスに問いかけた。
 「この袋の中のお金を円に両替して欲しいのだけど。」
  店員は小さな布袋を受け取り、中を覗き込んだ。
 「係りの者を呼んで参ります。少々お待ちください。」
 そう言われたアリスが窓際に置かれた長椅子に腰掛け一息付くと、近くに立っていた調子の良さそうな若者が近づいて
きた。
 「どうもお嬢さん。熱いですね今年の夏は・・・。気が狂ってしまいそうだ。」
 「そうね。でもここは涼しいわ。」
 「全く。今日からここに住もうかな。」
 「良い考えね。」
  若者もアリスの横に腰掛け、胸ポケットに差してあった扇子を広げた。
 「お嬢さん、喉渇いてない?よかったらこの後何か飲みに行かないかい?良い店を知ってるんだけど。」
 「いいえ、気持ちだけで結構よ。」
 「いいじゃないか。俺の奢りだよ。」
  アリスを口説く男の後ろで、新たな来客があった。小さな身長に黄色の髪。銀行に来るには少し身長の足りない
 彼女は、一目散に受付の方へと歩いて行った。
 「ちょっといい?」
 「・・・はぁ、どうされました?」
  小さな身長で店員を見上げるのは闇の妖怪、ルーミアだった。にっこりと笑うルーミアは、自分の反応を待つ店員
 をじっと見つめている。
 「ここは銀行だから。子供の繰るような場所じゃないんだよ。」
 「知ってるよ。」
 「じゃあ何をしに来たんだい?仕事の邪魔だよ。さっさと・・・」
  店員が言葉を止めた。入り口の扉が開き、そこから3人の武装した妖怪達が入ってきたのだ。
 「・・・なんだお前達は!」
  そう叫んだ店員が強い衝撃を受け、後方に吹き飛んで気絶した。
 ルーミアが彼を殴り飛ばし、店の奥に侵入したのだ。驚いた警備員がホルスターから拳銃を抜こうとした頃には、
 強盗団の銃口が彼に狙いをつけていた。
 「まさか・・・銀行強盗か・・・。」
  アリスを口説いていた男がそう言った。
 「おい・・・動かずじっとしているんだ・・・そうすれば危害は加えな・・・・」
  喋っていた若者の首元に鋭いナイフが突きつけられた。
 「何故だ・・・。」
 「何故って、銀行強盗よ。」
  そう言ったアリスが若者を突き飛ばし、室内に居る者達に言い放った。
 「始めるわよ。客と店員は隅に押し込めて見張って。ちょっとでも馬鹿な真似をしたら殺していいわ。」
  
 
  白昼堂々の銀行強盗が始まった。
 客と店員は部屋の隅に集められ、小銃を構えた白髪の妖怪によって見張られた。客達の手足は、半透明な糸でガッチリと
 縛られている。強盗団の一人である黒谷ヤマメの能力だった。ヤマメは客達を縛り上げた後、窓ガラスから外を
 見渡し、通行人たちに事を悟られていないかを確認した。外では相変わらずに、子供達がはしゃぎ回っている。
 「この男に金庫を開けさせるよ。」
  そう言ったのは、夜雀のミスティア・ローレライ。彼女もこの強盗団の一味だ。
 ミスティアの手には初老の銀行員の腕が握られている。
 「さっさと金庫を開けて。さもないと殺すよ。」
  ミスティアに刃物で脅され、銀行員は震えながら金庫を開け始める。ダイヤル式の鍵が静かになった店内に響きわたり、
 重い金属音を立てて金庫の扉が開かれた。それと同時にルーミアが金庫内に突入。金の入った麻袋を一つ肩に背負った。
 その時である。銀行の屋上に設置された鐘が突然鳴り始めたのだ。近くで羽休めをしていた鳥達が一斉に飛び立ち、
 何人かの人々が不思議そうにそれを見ている。銀行員が決められた順序を守らずに金庫を開けたため、警報装置が
 作動したのだった。
 「よくもやったわね。」
  ミスティアが銀行員の後頭部を殴りつけた。意識を失った銀行員が書類の積み上げられた机に音を立てて
 倒れこみ、何枚かの書類が宙を舞う。その後ミスティアも金庫の中に進入し、別の麻袋に保管されている紙幣を
 鷲づかみにして詰め込み始めた。
 「保安官が来た!」  
  客を見張っていた白髪の妖怪が声を上げた。すぐさまアリスも窓から外を見て、白髪の妖怪に合図をした。
 「椛、奴らは撃ってこれない。詰め込みが終わるまで時間を稼いで。」
  白髪の妖怪は千里眼の持ち主である犬走椛だった。椛が銀行の外に飛び出ると、200m程離れたところから二頭の馬が
 こちらに走って来ている。保安官だ。銀行の前には、突然鳴り出した鐘を見に来た野次馬や、さっきまで遊んでいた子供達
 が集まり、騒々しい人ごみが出来ていた。腰には刀を、腕にはボロキレを巻きつけられたリーエンフィールド小銃を握った
 椛が遠くから迫る保安官達に狙いをつける。椛の銃にスコープは必要ない。自らの目だけで、数百m先の目標を打ち抜くこ
 とが出来るからだ。銃を構える彼女を見た数人が、その場を後ずさる。
  人里に銃声が響いた。弾丸は保安官の胸に直撃し真赤な鮮血が傷口から噴出した。バランスを失った馬は、
 隣を走っていた同僚の馬に衝突し、撃たれた保安官が固い地面に投げ出された。椛が小銃のボルトを操作し、
 次弾を装填する。銃声を聞いた人々が一目散に駆け出し、銀行前の通りに悲鳴と混乱が生じた。椛がリアサイトを覗き、
 鋭い眼光を保安官に向けると共に二発目の弾丸が発射された。
 遠くの保安官が顔面から噴水のように血を流し、空に向けて拳銃の引き金を引いた。それが断末魔の叫びとなり、
 馬に跨ったまま彼は死亡した。主を失った馬は呆然と道を彷徨っていた。 
 
 「出るわよ!」
  銀行内のアリスが叫ぶ。
 強盗団達が一斉に騒がしくなった通りに出た。その瞬間何発もの銃声が響く。別の馬に乗った一団が人ごみを気にせず
 発砲してきたのだ。
 「撃ってきたぞ?・・・あいつら保安官じゃないな。」
 「賞金稼ぎよ。気にしてる暇は無いわ。直ぐに逃げるわよ。」
  五人が人ごみを掻き分け、猛暑の下を走る。飛び交う弾丸が逃げ惑う人々を貫き、辺りに彼らの血潮が飛び散った。
 走る五人はそのまま低空飛行に入り、一気に人里を抜けた。銀行前には撃たれた人々が地面に横たわっており、
 母を呼ぶ泣き声や悲鳴が絶えず飛び交っていた。

 2

  幻想郷の技術が著しく発展し始めたのは最近の事である。
 人里の知者達が研究してきた水蒸気や製鉄の技術を実用化した事に始まり、力を付けた人間達が山の河童に追いつく
 勢いで急速に成長を遂げたのだ。それに平行し、火薬を使った兵器の開発も盛んになり、外界に習った殺傷能力の高い武器
 が幾つも設計された。中でも、弾丸を連続で発射できるマシンガンは幻想郷中から注目を浴び、沢山の妖怪達がその恐ろし
 い威力に震え上がった。短距離から長距離まで様々な射程と威力を持つそれらの兵器の登場によって、もはや人間は妖怪に
 とって容易に襲える獲物では無くなっしまったのだ。
  
何時しか幻想郷第一号の蒸気機関車が開発された。
 これには山の河童たちも大絶賛を送り、河童と人間は協力体制を取って新技術の開発を始める事になった。
 貧弱だった人間達が少しづつ妖怪たちにその力を認められ始めたのだ。
  ある時、幾つかの勢力のリーダーが集まり、大規模な会議を開く事になった。内容は人間と妖怪達が全面的な協力体制
 を取り、幻想郷を発展させていこうと言うものだった。様々な意見が飛び交った会議の結果、――妖怪達は人間と協力して
 この世界での生活をより良くしていかなければならない。という歴史に残る決定がなされ、妖怪は人間を無闇に襲って死に
 至らしめてはならないと言う異例の取り決めも成された。
  しかし問題が残る。妖怪と人間達は、協力しながらも――人を襲う、妖怪を退治する、という関係を保たなければならな
 かった。今まで通りスペルカードルールで決闘をしていればそれでよかったのだが、そんな物はただの遊びで、本当の
 意味で人間を襲わなければ妖怪の威厳と存在意義が無くなってしまうと言う抗議の声が幾つも上がったのだ。
  すると新たな取り決めがなされた。年に一回、決められた時間に決められた内容の『異変』を起こすと言うのだ。
 もちろん人間達にもその日時は伝えられるが、肝心の内容は妖怪達が自由に決めて良いという物だ。何日かその異変が
続き、最後は人間である博麗の巫女がそれを鎮める。そうすれば、人妖の幻想郷での関係が保てるではないかと。
 結局その案が通り、年に一回の大イベント『異変』を開催することになった。
  その時から山の天狗達は人間を襲うことは無くなり、人食い妖怪達もレストランで出される豪勢な料理を好むよう
 になった。妖怪達は金を手に入れるために、商売をしたり、人里で働き始め、迷いの竹林ではそこを案内する兎の業者が
 現れた。永遠亭への安全なルートが拓かれ、神社への獣道も歩き易いように舗装された。
  
 妖怪の店で人間が働き、人間の工場で妖怪が働く。人里は一気に巨大化し、沢山の種族が共存する都市へと発展
していった。 

  だが全ての妖怪がその流れに則り、生活を始めたわけではなかった。
 確かに生活水準は良くなる上に、計画的に異変を起こし続ければ幻想郷のルール通りで理に適っている。
 しかし本当にそれが妖怪としての生き方なのかと疑問に思う者達が多く居た。何時しか幻想郷には昔の生き方を変え
 ようとしない無法者の妖怪達が現れるようになった。彼らは昔の様に妖怪らしく生きる事を望んだのだ。
 彼らは人間を襲い、金品や農作物を強奪して人間達と真っ向から対立した。その内、身内の妖怪達にも彼らは嫌われ始め、
 幻想郷の生活を脅かす犯罪者として世間に知られるようになっていった。
 
 
  人里の保安官事務所には何人かの賞金稼ぎ達が集まっていた。昼間に起こった騒動で、保安官二人が殉職し、一般人にも
 死傷者が出た。しかし一般人については賞金稼ぎ達の発砲が原因となったため、数人の男が保安官に逮捕されたのだった。
 「貴様ら、一般人に向かって容赦なく発砲しおって!クズどもが!いいか、今すぐに強盗団の首を討ち取って来い!
 嫌ならここに残れ。即逮捕で一生豚箱に入ってもらうからな。分かったらとっとと行け!!」
  口髭を生やした所長が怒鳴ると、男達はさっさと馬に跨り、手綱を引いた。
  賞金稼ぎ達が保安官事務所を出発した後、一人の少女がそこに降り立った。名は霧雨魔理沙と言った。
 魔理沙は跨ってきた箒を片手に、機嫌の悪い所長に言った。 
 「奴らの賞金はどうなった?」
 「リーダーの魔法使いの賞金が倍増した。それ以外のメンバーの賞金も上がってる。生け捕りにすれば一生遊んで
  暮らせるぞ。」
 「・・・生け捕りにした後は?」
 「もちろん絞首刑さ。そして死体を幻想郷中に晒す。別に死体で持ってきてもいいんだぞ。どっちにしたって
  結果は同じだからな。」
  魔理沙は帽子のつばを傾け、所長に別れを告げた。そして熱風の吹き荒れる広場に出て、目を光らせた。
 悪名高き強盗団の賞金がまた上がった。これで彼女らを追う者達の数がまた増えるだろう。魔理沙は箒に跨り、
地を蹴った。
 魔理沙は何としても強盗団を見つけなければならなかった。それは、賞金や名声を手に入れるためではない。
 とにかく会って話がしたかったのだ。なぜなら強盗団のメンバーは全員魔理沙の顔見知りなのだから。
 「必ず見つけてやる。・・・アリス・・・。」
  魔理沙が空を高速で進む。そんな彼女を地上から見ている一団があった。先ほど保安官事務所を出た賞金稼ぎ達だ。
 彼らは魔理沙が強盗団のメンバー達の知り合いだと言う情報を掴んでいたのだった。リーダーと思われる男が合図をすると
 数頭の馬が魔理沙の飛んでいった方向に走り出した。それを見送った後、リーダー達も別方向に馬を走らせた。

 
  蝉が泣き喚く森の中。人里から逃げた強盗団は、集合地点で休憩を取っていた。
 「賞金稼ぎどもは別の方向へ行ったわ。」
  木の上で辺りを見張っていた椛がアリスにそう告げた。
 「暫くは安全ね。」そう言うと、アリスは樹木の根に腰掛けた。ルーミアとミスティアが袋の中の札束を見つめ豪快に
 笑っている。ヤマメが出発前に隠していた酒をラッパ飲みして、仕事を成功させた満足感に浸り始めた。
 酒のビンは仲間達の手に順に回っていき、全員がそれで喉の渇きを潤した。
 「くっはー美味い!」酒好きのヤマメが歓喜の声を上げる。ルーミアが札束を何枚か掴み取り、空に向かって放り投げた。
 札束は風に乗り、ひらひらと宙を舞う。
 「ははは!札束のシャワーだ!」
  飛ばされた金が草木に引っかかり、贅沢なオブジェが出来上がった。
 「いいねぇ。」ヤマメが呟いた。


「アリスーこの後はどうするのー。」
  ルーミアがハンカチで汗を拭くアリスにそう問いかける。
 「森の中に集落があるわ。日が沈んでからそこに移動しましょう。」
 「安全なの?」ミスティアが言う。
 「人里よりは。」素っ気無く返したアリスの答えを聞いて他のメンバー達は笑いながら口々に「違いない。」と言った。
 アリスはそう言った後、静に頭を下げた。そして聞こえないように小さく溜息。
 「どうした?疲れてるの?」
  ヤマメがアリスの隣に腰掛けそう言った。手には空のビンを持っているが、あまり酔っている様子は無い。
 「別に・・・。なんとなくよ。」
 「アンタはその言葉が好きだねぇ。本当は何を考えてるのかしら。」
 「次の獲物かな。」
 「熱心だね。もしかして死ぬまでこれを続ける気かい?」
 「まぁね。」
 「じゃぁ長生きは出来ないね。」
 「これ以上長く生きる気は無いわ。」
 ヤマメは笑いながら苔の上に横になった。ぬるい風が木々を揺らし、落ち葉を舞い上がらせた。
 「なら一秒一秒を大切にするこった。」
 「一秒一秒・・・ね。」 
 強盗団達は虫の死骸を解体する働き蟻や、蜜を運ぶ蜂達を尻目に寝転がって日が沈むのを待った。風の音に乗って聞こ
 えてくるのはミスティアの歌声。普段の性格はえげつない彼女だが、歌声だけは天下一品だった。蝉の鳴き声を伴奏に
 淡々と詩が綴られていき、その内伴奏を無視して単独ソロライブが始まった。
  
  暫く時がたち、昼間の熱気も少しずつ収まってきた。ふと、風が草を揺らす音に不自然な茂みをかき分ける音が
混じった。
 「静に・・・。」
  いち早くそれに気づいた椛が小さく呟く。アリスとヤマメも異常に気づき、周囲を見渡す。誰かが近くに居るのだ。
 五人は素早い動きで木や草の陰に隠れた。金の入った袋はルーミアとミスティアがしっかりと抱いている。
 アリスがそっと椛の居る方へ這って行く。
 「何が見える?」
 「茂みの向こう、約30メートル位に銃を持った男が一人。」
 「装備は。」
 「あれは・・・・・猟師の装備じゃない・・・。名前は忘れたけど、連射が出来きて作動不良の少ないモデルです。腰のホルスター
 にSAAとその弾丸。恐らく賞金稼ぎ・・・。」
 「なら単独じゃないわ。最低でもあと一人仲間が居るはずよ。」
 「様子を見ましょう。」
  賞金稼ぎと思われる男は地面を見ながらゆっくりと歩いている。足跡を探しているのだ。その後ろからもう一人の男が
 付いてきた。彼も足跡を探しているらしく、地面を見ながら歩いている。
 「どうしますアリスさん?」
 「このままだと見つかるわ。始末しましょう。」
  アリスはそっとヤマメとルーミアに合図を出す。二人は音を立てないように陰から移動し、アリスの方までやって来た。
 金の入った袋はミスティアが見ている。アリスは二人に手でサインをして敵を始末するように合図した。
 ヤマメが草陰から抜け出し、木の陰に隠れた。先を歩く男はまもなくその木の場所までやってくるだろう。
 その後ルーミアも静に移動し、後から来た方を襲える位置に身を潜めた。チャンスは一度だ。まだ辺りは明るいのでほぼ
 同時に二人の男を始末しなければならなかった。ヤマメ達はじっと機を待つ。順番的には最初にヤマメが攻撃を仕掛ける
 事になる。そのためルーミアはヤマメの居る方向と迫る賞金稼ぎに集中していなければならなかった。
  最初の男がヤマメの糸の射程に入った。その瞬間、半透明な糸がトリガーに掛かる指と首に絡まった。男が体を逸らそ
 うと動き始める前に首の糸が強く締め上げられ、男の体は近くの木に縛り付けられた。それによって倒れた時の音を
 防いだのだ。殆ど音無く行われた襲撃に、後方を歩いていた男は全く気づかない。ここぞとばかりにルーミアが彼に
 飛び掛った。後ろから口を押さえ、首に噛み付く。男は悲鳴を上げる事も出来ずに持っていた銃を落とした。
  成功だ。二人の賞金稼ぎは音も無くこの世から立ち去った。強盗団たちの足跡を見つける寸前の出来事だった。
 「よーし上手くいったー。」ルーミアが思わず口を開く。他のメンバーは警戒しながら周囲を見回した。
  アリスが二人に戻って来いのサインを出す。
  二人が草陰に戻ろうとした時だった。茂みからもう一人の男が現れ、ルーミアと目が合った。
 風が流れ、鳥が羽ばたく。男は倒れた仲間を見てもう一度ルーミアを見た。
 
  そして一目散に逃走を開始した。 
 「逃がすな!!」
  ヤマメが叫ぶ。ルーミアは走る男を捕まえんと木々の間を潜り抜け後を追った。そしてその後ろにヤマメが続く。
 アリス達も男を追い、椛が出っ張った岩の上から小銃で狙いを定めた。だが突然視界に真っ黒な煙が現れる。
 男が何かを爆発させ煙幕を放ったのだ。追跡をしていた強盗団達は急に立ち込めた煙を払うように森の中を走る。
 その間にも男は待機していた馬に跨り、颯爽と駆け出した。彼の周りに煙は無く、夕方の近い空が確りと退路を照らし
 ていた。
  これで逃げ切ったと男が確信した時、背中に強い衝撃が走った。男は馬から転げ落ち、泥の上を転がった。
 必死に立ち上がろうとする男はそこで刀を抜いた椛を見た。他のメンバーの目は誤魔化せても彼女の目だけは欺く事が
 出来なかったようだ。椛が男の首を掴み上げその表情を見つめた。
 「・・・・・若いな。」
  恐らくまだ十代前半。子供だった。少年はただガタガタと震えて、迫る死の恐怖に必死に耐えていた。
 「命乞いはしないのか。」
  少年はなにも語らない。恐怖で口が竦んでいるのか、元から話す気など無いのか。椛は首を掴んでいた手を離した。
 少年の目には椛の冷たい瞳が映っていた。椛は刀を揺らしながらゆっくりと少年に言った。
 「逃がしてやるよ。お前なんかを殺したってどうにもならない。ただ中間達はそれを良しとしない。だからすぐに逃げる
  んだ。後ろの煙の中から一人でも出てきたら私はお前を殺さないといけなくなる。」

 アリス達の下へ椛が戻った。他のメンバーは椛が既に少年を追っていると気づき、待っていたようだ。
 「仕留めた?」アリスが言う。
 「ぶっ殺した。」椛は感情を込めずにそう言った。アリスは「そう。」とだけ言ってこの話について深くは
 聞かなかった。その後、アリスは仲間たちに出発の合図を出した。森から立ち込める煙を見た賞金稼ぎ達がそろそろ行動
 を開始する頃だろう。五人は早足で森の集落を目指した。

 3 

  魔理沙は夕暮れの山中で、殺害された二人の死体が運ばれていく様を見ていた。辺りでは猟師や賞金稼ぎ達が強盗団の
 行方について話し合っている。みな強盗団を捕まえ、一攫千金を狙っているのだ。
  魔理沙には強盗団の行方に幾つか心当たりがあった。魔理沙は昔からこの森で生活しているので、里で暮らしている
 者達の何倍も此処に詳しいのだ。魔理沙は一人獣道を歩き始めた。道に奴らの移動した形跡があるはずだ。
 見逃すわけにはいかない。
  
  魔理沙は何の情報もなしに強盗団を追っているわけではない。彼女は数日前にある妖怪に会っていた。名前は多々良子傘
 と言う。人里でお化け屋敷のアルバイトをしている所をひっ捕まえたのだ。魔理沙の予想は的中し、子傘はもと強盗団の
 仲間だった。しかし今は堅気の仕事に付き、人里で生計を立てているしがない妖怪の一人となっていた。
 日が暮れてから魔理沙は彼女をバーに誘い、何杯かの酒を入れて話しに入った。

 「教えて欲しいんだ。アリス達のこと。」
 「知ってどうするのさ・・・。」
 「後を追う。でも会ってからどうするかはは考えてない。とにかく話をしたいんだ。頼む子傘、何でも良い。
  お前の知ってることを教えてくれ。」
 「・・・・。」
  暫く黙り込んだ子傘は少しづつ重い口を開き始めた。魔理沙になら話しても良いのではないかと思ったのだ。

 「私はかなり早い段階からメンバーに入ってた。最初のメンバーはアリスさんとルーミア、ミスティアローレライ、この
  三人よ。その次が私。彼女らは町で行き場を無くしてた私に手を差し伸ばして一言こう言ったわ。―仲間になれ、と。
  私は付いていった。新しいルールが出来てから、私はたった一人の人間も脅かせずにいた。私は妖怪としての生き方
  を捨てなければ生きていく事は出来ないと悟ったわ。でもそうじゃなかった、顔も知らない奴らの言う事なんて聞く事は
  無い。今まで通りに生きていこうと三人に言われてね。妖怪は人間を困らせてなんぼの存在なんだから、って。
  私は嬉しかった。その後天狗の椛が仲間になったわ。彼女は威厳を失った天狗社会に絶望していたようよ。何度か話した
  けど、冷静で洞察力が凄い奴だったわ。しかも馬鹿みたいに目が良いの。みんな椛の事を頼りになる仲間だと言ってた
  し、私もそう思ったわ。」

 「人間に対抗するために仲間を集めていたのか。」
 
 「そう言う事ね。それから何度か物資を輸送する会社を襲撃したわ。非力な私は主に見張りで、顔が割れなかったから今
  こうして堅気の仕事をしていられるんだけど、それを続けていくうちに私じゃ彼らの力になれないと思うようになっ
  たわ。それと同時に昔の様に生きていく事がもう叶わない事も改めて知った。私が強盗団を辞めると言ったら、アリスさ
  んは、稼いだ金を袋に入れて渡してくれたわ。――それで生きていけ、って。袋の中には物凄い大金が入ってた。
  私は一人、人里に戻って夜に輝く町を見てたわ。そうして思ったの。ああ、もう昔の幻想郷じゃないんだなって。」

 「その後のことでなにか知ってることは?」

 「なにも。私の後任を探して何人か当たったらしいけど。」
 「誰に当たったか分かるか?」
 「えぇーと・・・ユウカって名前を聞いたっけ・・・。」
 「そうか・・・・ありがとう。」
  魔理沙は席を立った。そして子傘に酒代を渡し、バーを出た。
 ユウカ・・・幽香・・・何度か会った事がある。魔理沙は直ぐに箒に跨り風見幽香の住まいを目指した。
 彼女は今どんな生活をしているのだろう。そんな事を思いながら空を飛ぶスピードを上げた。時刻は夜中に近かった。 
  
  幽香の家のドアを数回叩く。しばらく経って、眠そうな表情の幽香が顔を出した。
 「よぅ夜分に失礼だけどちょっと話を聞きたいんだ。」幽香は快く家の中に魔理沙を招き入れた。

 「暫く会ってないうちに成長したわね。」
 「そうかぁ?自分じゃそんなつもりは無いけど。」
  そんな事を言っていると暖かいコーヒーが出てきた。応接室のソファーに腰掛けた魔理沙は冷ましながらそれを口に近づ
 ける。向かい側に座った幽香が魔理沙を見て言った。
 「それで?どうしたって言うの。」
 「アリス達について聞きたいんだ。」
 「・・・アリス・・・。有名になったわよね。」
 「何でもいい。とにかく知ってることは全部教えてくれ。」
 「まぁ・・・いいけど。」そう言って幽香もコーヒーを口に運んだ。

 「誰に私の事を聞いたの?」
 「子傘って奴だ。」
 「じゃあある程度は彼らについて知ってるのね。」
 「ああ。」
 「私の知ってることを話すわよ。アリスは一人で私の家に来たわ。私を仲間に誘うためにね。でも直ぐに断った。
  向こうも私にはあまり期待していなかった様子だったわ。それで直ぐにアリスは帰ろうとしたけど、家に上がって
  貰ったわ。話がしたかったし。お茶を出してここに座ると、彼女は上品にそれを飲んだわ。まるで悪党には見えなかっ
  た。そこで私は純粋な質問をしたわ。――なぜこんな事をしているのかってね・・・。」


 
 
  
 
 「これもおいしい!!あれもおいしい!ここは最高だー。」
  豪華な食事に沢山の酒、それらが夜の月明かりに照らされ、神々しい輝きを放っている。
 ルーミアはそれを一気に平らげ、満足そうに両手を広げて空を飛びまわっていた。
 他のメンバー達は呆れるようにそれを見ている。
 「ルーミアめ乾杯もせずに始めるとは食い意地張ってるな。」ヤマメが叫ぶ。
 強盗団は森の集落にあった宿の屋外で今日の成功を祝っていた。集落の規模はあまり大きくなく、木や藁で出来た家屋の窓
 が淡い光を放っている。ヤマメが酒の栓を抜き、五つのコップに注ぎ始めた。
 「おーいルーミア!乾杯よ!戻ってきなさい!」
 ミスティアが声を張り上げるとルーミアはそそくさと自分の定位置に戻り酒の入ったコップを持った。
 
 「今日の成功に。」―アリス
 「全員の生還に!」―ヤマメ
 「食い物に!」  ―ルーミア
 「金に!」    ―みすちー
 「私達に。」   ―椛

  全員が一気に酒を喉に流し込みグラスを机に強く叩き付けた。それが合図になり宴会が始まった。
 敵が近くに迫っているかもしれない、だがそんな事は気にしないのだ。彼女達は流れる時間の隅から隅まで自由に生きてい
 たいと思っていた。今日楽しめる事は今日のうちに楽しむ。どうせ狭い幻想郷だ、どこに隠れようがその内見つかってしま
 う。なら派手にやって派手に逃げれば良い。ただそれだけだった。
 「ぎゃははは!美味い!」
  宿の店主は大金を渡され、腕によりをかけて彼らの食事を作った。森で採れる野菜や山菜、家畜の肉などがふんだんに
 使われ、見ているだけで腹が減る程の豪華さだ。ならず者達は、それぞれのスタイルで料理を口に運んだ。
  五人が外で騒いでいると、集落に住む子供が集まり個性的な客達を楽しそうに観察し始めた。その内子供達も彼らの
 輪に入り、宴会はさらに規模を増した。何処からかやってきた三味線を持った男が演奏を開始し、辺りに陽気な音楽を
 振りまき始め、そうなれば当然ミスティアの泥酔ライブが幕を切る。美しい旋律が辺りに響き渡り、すっかり酒に飲まれ、
 子供と戯れるルーミアとヤマメが楽しそうに拍手を送った。
 「ははは、こりゃいいや!」
 「そーなのかー!」
  
  そんな大宴会の中心でアリスと椛が熱い日本酒を嗜みながら彼らを見ていた。
 「今じゃ何処に行ったってこんな宴会は見られないです。」椛が微笑みながら呟いた。
 「・・・昔を思い出すわね。」
 「古き良き幻想郷・・・・・ぐがっ・・・。」
 「・・・ちょっと大丈夫?」
  椛は頬を冷たいテーブルに付け、ぼんやりと目蓋を垂らしている。アリスの問い掛けに指を振って答えると、椛はコップ
 に入った酒を頭から被って静かな寝息を立て始めた。
 「飲みすぎよ。」そう言ってアリスは席を立った。 
 「どこにいくんだぁい?」
  顔を真赤に染めたヤマメがアリスに問いかけた。
 「シャワーを借りてくるわ。あったらだけど。」
 「そうかー。気を付けてね〜。」
  
  宴会は皆が疲れきって眠るまで続いた。シャワーで汗を流したアリスはぐっすり眠る仲間達に毛布をかけてやった。
  
  頭上のキャンパスには満点の星空が描かれ、辺りでは鈴虫の儚い泣き声が鳴り響く。
 アリスは、原っぱの上に乱雑に敷いたマットの上で空を見上げた。横に置いた蝋燭が湯気を立てるコーヒーと寝息を立てる
 中間達を照らしている。
 「この空はぜんぜん変わってない。」
  アリスふと昔を思い出す。沢山の桜が咲き乱れる中登った博麗神社の階段、紅葉に包まれた妖怪の山、雪の湖。
 それらはまだ残っているが、あの頃あった精神はとうに消え失せた。みな何かに追われる様に肩を落とし、這い蹲って歩き
 続ける。長い行列が誘惑の町へ続いていき、町の歯車の一つとして機能を始める。そして壊れたそれらはゴミとして、町の
 外に吐き出され、この世界を焦がしていく。一部の者は栄光を掴み取り、最高の生活を約束されるが、それ以外は文明のお
 こぼれをかじりながら犬の様に暮らす。首輪を付けられた彼らは一生奴隷として生きていくのだ。
 だがそれも悪くない。歴史はいつもその繰り返しだ。縛られた中で縛られた自由を貪る。それで満足できるのなら、誰も
 文句なんて言いはしない。そうして何時しか時が過ぎていく。一日より短い一週間が何度もグルグル回り、あっと言う間に
 一年が経つ。そして幻想は消え、儚い夢と虚しい希望だけが残るのだ。
  アリスは急に可笑しくなって小さく笑った。一口飲んだコーヒーが喉を伝っていくのが分かった。

 4

  時刻は午前0時を回り、集落の人々の殆どが眠りに付いた。闇に包まれた集落は音も無く不気味に森に佇んでいる様で
 少し気味が悪い。そんな漆黒の場所に近づく人影があった。彼女は小さなランタンで辺りを照らし、あまり音を立てないよ
 う慎重に歩いた。蝋燭の小さな光の灯る宿の入り口に着いた彼女はドアを開けようとポケットにしまわれた手をそっと出し
 、洒落た木のドアを前に押そうとした。だがその瞬間、首の後ろに冷たいものが突き立てられる。それと同時にゆっくりと
 撃鉄を下ろす音。拳銃だ。
 「誰を探しているの魔理沙?」冷たく冷静な声が背後から聞こえる。魔理沙は観念したようにその問い掛けに答えた。
 「お前だよ、アリス。」そう言って、魔理沙は突きつけられた銃口に怯える事も無く、振り返った。
 「こんなところで会うなんて、偶然かしら?」
 「いや違うよ。お前らを追ってきたんだ。」
  アリスは構えていた銃を下ろし、付いて来いと言わんばかりに一人歩き出した。魔理沙はそれを追う。
 「良い銃だな。お前がそんな物を使うなんて知らなかったぜ。」
 「こんな便利なもの人間だけに使わせておくのは勿体無いでしょ。」
 「・・・そうだな。」
  アリスはさっきまで横になっていたマットの上に座り、冷たくなった蝋燭に火を点した。
 「まぁ座りなさいよ。」
  魔理沙は素っ気無い返事を返して近くにあった石に腰掛けた。
 
 「喉は?」
 「乾いてない。」
 「よかった。出すものが無くてね。」
 「・・・アリス・・・・。」
 「なによ。」
  アリスはじっと魔理沙を見ていた。だが魔理沙はアリスと目を合わせようとはしない。淡い光に照らされた地面を見下ろ
 しているだけだった。今まで何としても会いたかったアリスが目の前に居て自分の言葉を待っているというのに、頭の中
 が完全にショートしてしまっているのだ。
 「いくらになった?」不意にアリスが聞いた。魔理沙は一瞬迷ったが直ぐにそれを口に出した。
 「倍になったってよ。」
 「へぇ。それで、アンタも一攫千金狙いなの?」
 「違う。私は金になんか興味は無い。」
 「じゃあ何故私達の前に現れたの?」
 「・・・・さぁ気まぐれだよ。急にお前に会いたくなったのさ。誰にだってそんな事くらいあるだろ。」
 「考えも無しに来ただけなの?なにか話したい事があったんじゃなくて?」
 「それもあるな。」
 「話せる事は教えてあげるわよ。」
 「・・・・じゃあ聞くぜ・・・・。――お前はなぜこんな事をしている?」
 「さぁなんとなく。」
 「ふざけるんじゃねぇ。どういうつもりなんだ?町じゃ、お前の首を狙ったゴロツキや賞金稼ぎでごった返してるんだぞ。
  奴ら、血眼になってお前らを探し回ってる。しかも日に日に賞金は上がっていくじゃないか。私にはお前が命を投げ出し
  ているようにしか見えん!」
  顔を赤くした魔理沙がスカートの裾を握り締めてそう言った。アリスはそんな魔理沙の話しを微動だにせず聞いている。
 「どこまで私達について知ってるの?」
 「いろいろ知ってるぜ。何人かの妖怪に聞き込んだからな。お前らがなぜこうなっちまったのか、寝る間も惜しんで何度も
  何度も考えたんだ。だが肝心なところが一つも分からない。だからここまで来たんだよ、私は!」
 「幽香のところにも行ったの?」
 「ああ行ったさ!幽香も私と同じ質問をしたらしいな。だがお前は答えなかった。しかし幽香はお前の思想を何となくだが
  理解できると言っていたよ。その推理を聞いて私はさらに眠れなくなった!それで分かったのさ、もう本人に問い詰める
  しかないってね。さぁ、私の納得がいくように喋ってもらうぞ!」
 「あんたねぇ、他人のあまり触れられたくない秘密を堂々と聞くんじゃないわよ。それに幽香に聞いたんならそれでいいじ
  ゃない。彼女だって私と似た思想を持っていたはずよ。違いは行動を起こさなかった事だけよ。」
 「言えよアリス。私を寝不足で殺す気か?私はな、頭も良くて、手も器用で、沢山の優れた魔法を使いこなす友人が非行に
  走った理由を知りたいんだよ。」
 「知ってどうするのよ。」
 「さぁな、自己満足だ。あぁ、もし良かったらそれを本にして売ってやるよ。題名は頭のいかれた人形遣いだ。ほら、言え
  よ!私を著名作家にさせてくれ!」  
 
  魔理沙は息を荒くして吐き捨てるように喋った。そしてアリスはそれを黙って見ていた。暫くして魔理沙は自分の心を落
 ち着けるように大きな溜息を付いた。
 「ごめんアリス。悪かった。こんなはずじゃなかったんだけど・・・だが次はお前が喋る番だぜ・・・。」
 「・・・そう?ずっと言いたかたんだけど、あなた身長が伸びたわね。体も随分育ったようだし?やっぱり人間の成長は早いわ
  ね。それにちょっとは頭も良くなったのかしら。口調は変わってないけど。」
 「舐めるなよ。」
 「お返しよ。」そう言ってアリスは微笑んだ。
 
 「私はこの道に進んでから、沢山の物を得て沢山の物を失ったわ。後悔している事もあるけど、全てがそうじゃない。自分
  のあり方について長い間考え、この世界のあり方についても考えた。その中で私は今まで知りえなかった自分って言う物
  を見つけたのよ。多くの人間は短い人生で自分の生きる意味を考えるわよね。まるで生きる意味を考えるために生きてい
  るかの様に。私はそれが悪い事だとは思わないわ。私だってそうだし、それは他の妖怪達にも言えることよ。
  みんな生きてる理由を欲しがる。自分と言う存在の理由を知ってしまったらもう自由な生活が出来きなくなると気づかず
  にね。ただ、これについては人それぞれの考え方があるわ。今言ったのはあくまでも私の考え方よ。」

 「はぁ。それでお前の見つけた本当の自分ってんのが、ならず者だったのか。」
 「結果的にはそうなってしまった。」
 「お前って奴の事が分からなくなってきた。」
 「これは魔法使い、というより妖怪の考え方よ。長い時間を生きる私達は、精神的な物の考え方をするの。」
 「私は人間だからそれは理解できないってんのか?」
 「長い時間を掛ければ可能かも。」
 「そうかい、じゃあ続きを聞かせてくれよ。」
 「この生活は毎日が刺激的よ。そんな中で一番堪えたのが毎日お風呂に入れない事と生活習慣が滅茶苦茶になることよ。」
 「そうじゃない。どういう考えに至って、お前がグレちまったのかを知りたいんだよ。」
 「それはまだ言えない。」
 「なんだと・・・ここまで喋っておいて・・・。なら私が答えやすいように具体的な質問をやるよ。幻想郷の生活水準はどんどん
  上がってる。空に線が走って、遠くに居る奴と話が出来るようになったんだぜ。凄い事だ。お前なら直ぐにそれらを使い
  こなして、誰よりも良い生活ができたはずだ。なのに何故そうしなかった?」
 「その電話線の上空での弾幕ごっこは禁止されたのよね。果たしてそれが本当の幻想郷の姿と言えるのかしら?」
 「・・・・なるほど、そう来たか。だが昔と比べて出来る事が一気に増えたんだぞ。弾幕ごっこだって別の場所でやればいいじ
  ゃないか。」
 「そこが短い時間しか生きられない人間の思想なのよ!」
 「もう!何が気に入らないんだよ!文明の発展に否定的なのは良くないぞ!いいかっ私はな・・・お前に・・・。」
 
  魔理沙がムキになって喋り続けていると、真っ暗な森から馬の甲高い鳴き声が響いた。アリスは反射的に森の方に振り向
  き、もう一度魔理沙を見た。

 「・・・・魔理沙・・・つけられたわね・・・・!」
 「えっ!?まさか・・・。」
  魔理沙が立ち上がるより早く、アリスは既に寝ている仲間たちの下へと向かっていた。
 「おい!まだ話しは終わってないぞ!」
 「そんな事言ってる場合じゃないわ!」     
 
  銃声が響いた。それと同時に何頭もの馬が一斉に駆け始める音。
 「起きて!敵襲よ!」
  さっきまで深い眠りに落ちていた椛とミスティアがアリスの声と銃声によって飛び起きた。椛は咄嗟に銃を、ミスティア
 は帽子を被り直し、慌てて辺りを見渡した。さらに数発の銃声が響き、近くの岩に当たった弾丸が兆弾による高い音を発し
 た。皆、背を低くし、暗闇から迫る敵に備えた。
 「魔理沙!蝋燭の火を消して!」
  慌てふためく魔理沙はアリスに言われた通りに、近くで燃えていた蝋燭の炎を消し、周りの者達に習って頭を低くした。
 再び銃声。しかし今度のそれはアリスの拳銃の発砲音だ。飛び出た弾丸は眩い光を放ちながら遠くに居る賞金稼ぎ達を照ら
 した。光を放つ魔法の力を弾丸に込めて発射したのだ。ここぞと椛が小銃の引き金を引いた。
 硝煙と共に鋭い弾丸が撃ち出され、再び闇に消えた賞金稼ぎの一人に命中した。それが合図になったのか、賞金稼ぎ達は一
 斉に集落に向けて突撃を開始した。宙を飛び交う弾丸が行く手を阻む物全てを粉砕し、アリス達に木や石の破片を降りか
 けた。
  散開した賞金稼ぎ達が集落に突入してくる。銃声に飛び起きた住人達は武器を手に取り、目に付く目標との交戦を
 開始した。
 「ルーミア!ヤマメ!起きろ!敵よ!!!」ミスティアに叩き起こされた二人が辺りを見て唖然とする。次の瞬間、ミステ
 ィアが大きく後ろにジャンプし、後方に迫る賞金稼ぎを馬から引き摺り下ろした。
 「死ね!」ミスティアが爪を振るうと、賞金稼ぎの首から夥しい量の血が噴出し、声も無く彼は崩れ落ちていった。
  放たれた弾丸が家のレンガを砕き、散弾銃の散弾が家を瓦礫に変えていった。何人かの人間が血を流しながら
 地面に蹲っており、その中には子供の姿もある。二階のある家の窓からは火縄銃が顔を出し、走り回る馬達を仕留めようと
 何発もの弾丸を放っている。
 「椛!敵を一人残らず殺すのよ!」椛は狙撃は続いている。弾倉内の残弾が底を尽き、ボルトに直接弾丸を装填しながら
 椛は撃てるだけの弾丸を撃ち放った。
  椛を討ち取ろうとした男が拳銃の引き金を引き続ける。馬から撃たれる弾丸を寸前のところで回避した椛は倒れ様にの賞
 金稼ぎの胴を打ち抜いた。彼は悲鳴を上げて馬から転げ落ち、馬に引きずられながら死を迎えた。
 「くそっ・・・頭痛てぇ・・・飲みすぎた・・・。」毒づくヤマメに拳銃の銃口が迫る。ルーミアが警告の声を上げるより早く、ヤマ
 メの背後に糸が張り巡らされ、馬は音を立てて転倒し、騎手はその下敷きとなった。その後ルーミアとヤマメは銃弾を避け
 ながら急いでアリスの下へと走った。走るヤマメは目がぼやけ、気づくと目の前に今まさに銃の引き金を引こうとしている
 敵が居る事に気がつかなかった。
 「うわぇっ!椛!助けて!」
 「伏せろ!!」ルーミア達の目の前で賞金稼ぎが血を吹いて吹き飛んだ。暴れる馬の後ろ足がその遺体を蹴り飛ばし、男は
 無残に地に伏せた。
 「椛!助かったよ!」ヤマメが椛の元へ駆け込んだ。
 「いや、いい。それより弾がもう殆ど残ってない。」 
 
 「アリスー!大丈夫かー!」アリスの隣に伏せたルーミアがアリスを気遣う。
 「おんや?向こうにいるのは見た事がある顔だな。」同じくアリスの元に到着したヤマメが言う。
 「ルーミアにヤマメか。久しぶりだな。」
 「あー!なにしてるの魔理沙!?食い殺されに来たのか!」
 「まさか!でもこのままじゃ奴らに蜂の巣にされちまうよ!」
  魔理沙の帽子の天辺を弾丸が貫き、ぽっかりと穴を開けた。アリスが発砲し、暗闇に閃光が走った。
 「ああっ・・・弾が詰ったわ!!」
 「そんなオンボロ銃捨てちゃえよ!」ルーミアがそう叫ぶとアリスはそれを近くの賞金稼ぎに向けて投擲した。
 詠唱と共に小さな鉄の塊は突然炎を上げ、馬と騎手の体を焼いた。魔法による即席の手投げ弾である。
 集落の彼方此方に炎が灯り、暴れまわる賞金稼ぎ達を照らす。民家の陰で散弾銃に弾を込める男にミスティアが飛び掛り、
 銃を奪い取った。腰のホルスターを抜こうとした男より早く、ミスティアが銃の引き金を引き、沢山の弾が男を数メートル
 後ろに吹き飛ばした。「遅いわね!そんなんじゃ私は殺せないよ!」そう叫んで、ミスティアもアリス達の居る場所を
 目指した。宿の近くでは、集合した強盗団のメンバーが、遠くで待機していた賞金稼ぎ達と死闘を繰り広げている。
 「アリスさん、銃の弾が切れました。」椛が叫ぶ。
 「くっ・・・これでこっちには銃がなくなったって事ね。でも奴らはそれを知らないわ。今の内に撤退の準備をしましょう。
  ヤマメは私と来て荷物をまとめるわよ。あとはここに待機。」
 「ちょっ待てよアリス!!」
  帽子を押さえながら魔理沙が走り出す。外に残ったメンバーは口々に言う。
 「今思い出したけど、彼女は確か、霧雨魔理沙・・・?」「まりさ?誰だっけ。」「泥棒だよ。」
  兆弾の音が響く。沢山の弾丸が泥を巻き上て襲いかかり、三人は近くにある岩に潜んだ。
 「アリス!待て!置いて行くな!!」「付いて来るな!!」「ぎゃあ!」
  魔理沙の足にヤマメの糸が絡み付いて、大きく前に倒れた。そのスキにアリス達は宿の外の宴会跡まで戻る。 
  
  宿の主人が銃を持って頭を低くしながら出てきた。「お客さん!危ないですよ!?」荷物をまとめていたアリスは急いで
 主人の方へ 駆けて行った。
 「悪かったわね。あいつら私達を追ってきたのよ。迷惑代を払うわ。」そう言ってアリスは主人の手に札束を乗せた。
 「こんなに・・・・やはり、あなた方は町から逃げてきた強盗団なのですか?」
 「そうかもね。」
 「・・・よかった。味方しますぞ。我々は町の奴らとは仲が悪いのです。」
  宿の中からライフルを持った青年が走ってくる。
 「こいつはワシの孫です。こいつが敵を引きつけている間に逃げなされ。」
 「・・・・悪いわね。そうさせてもらうわ。」
  合図を受けたヤマメが待機している三人を呼び寄せる。彼らの退路を宿の主人と青年が援護した。
 「出るわよ!」
  強盗団は集落の中央を走る。途中倒れた人々と顔があったが、彼らは何も言わなかった。集落の数人がアリス達に松明を
 差し出した。後方では絶えず銃声が鳴り響いている。
 「アリス、賞金稼ぎどもはしつこい。私が戻って始末してくる。」
 「・・・・。いいわミスティア、ここは貴方の戦場よ。」
  ミスティアが逃げる数人から離脱する。三人の賞金稼ぎ達は銃に弾を込め直し、集落を迂回するように、逃げるアリス達
 の後を追おうとしていた。そこへ集落の男達が草むらを進み、銃を構える。
 「あそこだ撃て!」古めかしい火縄銃が賞金稼ぎ達を捉える。だが彼らの銃の火種からは常に小さな光りが漏れており、
  それが自らの居場所を賞金稼ぎ達に知らせることになった。馬上から弾丸が発射され、その数発が銃を構える男に命中し
 た。賞金稼ぎ達の持つレバーアクション式のライフルは連続で14発の弾を打ち出す事ができた。撃つごとに装填が必要な
 火縄銃で、彼らの兵器に太刀打ちするには少々役不足だ。
  賞金稼ぎが一人の男に狙いを付けた時、突然視界が闇に染まり正面から強烈な衝撃を受けた。彼は馬から転落し、真っ暗
 な視界の中、辺りを彷徨った。中間達が彼の異変に気づくと同時に、彼の胸から鋭い爪が突き出た。悲鳴と共に賞金稼ぎの
 男が口から血を吐く。ミスティアの右手の爪による物だった。他の賞金稼ぎ達が彼女に向けてありったけの弾丸を
 叩き込んだが、胸を刺された男がその弾丸を避ける盾に使われ、千切れた肉と血が辺りに散乱した。
  銃に弾を込め直すと同時に後ろの森に後退する賞金稼ぎ達に死体を振り払ったミスティアが飛びついた。鋭い爪が馬上の
 男の銃を持つ手を切り裂き、馬が大きな悲鳴を上げる。隣に居た男がミスティアを狙ってライフルの引き金を引いたが、弾
 は反れ、仲間の乗る馬の足を貫き、驚いた馬は馬上で苦しむ男を地に放り投げてしまった。
 「今楽にしてあげるよ!」手首から血を流す男に再びミスティアが飛び掛る。爪は男の首を真横に切り裂き、男は血の噴水
 の中に沈んでいった。ライフルのレバーを操作する音が鳴り響く。数メートル後ろから最後の賞金稼ぎがミスティアの胴体
 に狙いを付ける。この距離なら馬鹿でも外さないほどの至近距離だった。
  ミスティアが振り返ると同時に銃声が鳴った。賞金稼ぎは胴から血を噴出し、絶命した。草むらから一人の男が顔を
 出す。「ここは僕達に任せてください。」少し擦れているが若々しい声。宿の主人の孫だった。
 「・・・人間にしてはやるね。貸しにしておいてあげるよ。」
  
  青年と少し見つめあった後、直ぐにミスティアは中間達の後を追った。背の高い草むらを通り抜け、集落から飛び立とう
 とした時ミスティアは誰かに突然足を掴まれた。
 「ちょっ誰だ!」
 「私だ!!」魔理沙だった。何とか足に絡まった糸を解いて追いかけてきたのだ。
 「何するのよ魔理沙!離しなさい!」
 「嫌だ!私も連れて行け!」
 「なに寝言言ってるのよ!」
  魔理沙の視界が真っ暗になり、思わずミスティアの足を離してしまう。ここぞとばかりにミスティアが空高く飛び上がっ
 た。魔理沙は尻餅を付いて、視界が復活するのを苛立ちながら待った。戦闘が終わった集落にざわめきが起こり、沢山の火
 が灯っている。肌寒い風が辺りを虚しく駆け抜けていった。


  暗い森の奥。ミスティアを待つ強盗団が大木の下で立ち往生していた。
 「アリス、寝てないんだろう。朝になるまで寝ておきなよ。見張りは私達がやるからさ。」
  ヤマメがぼんやりと座るアリスにそう言った。
 「大丈夫よ。寝なくても死にはしないわ。」
 「でも、寝たほうが体にいい。」
 「・・・そうね。」
  アリスは草の上に寝転がり、木の根を枕にした。椛は木の上に上がり辺りを偵察し、ヤマメとルーミアは痛む頭を引きず
 りながら周囲を見張った。アリスは目を瞑りながら魔理沙に言われた事を思い出した。――言えよアリス!私を寝不足で殺
 す気か?――どうしてなのか、まだ言わなかった。もしも、もう一度魔理沙に会うことがあればその時教えようと思った。 
 その後アリスは直ぐに眠りに落ちた。他のメンバーはそれを見て安心したかのように肩を落とした。
  暫くしてミスティアの姿を見つけた椛が周囲を警戒しながら、木から飛び上がった。
 数分後ミスティアが椛に連れられてやってきた。
 「みすちー怪我は無い?」
 「まぁね。」
 「夜明けまでここで待機だよ。休みたければ休むといい。」
  ヤマメにそう言われ、ミスティアも木にもたれ掛かって寝息を立てた。夜はまだしばらく続くだろう・・・。
  
 

  小鳥の囀り、鋭い朝日。黒一色に染まっていた森が除々に色を取り戻し始めた。
 その頃には皆眠りから覚め、集落で買った堅いパンをかじっていた。ヤマメが背負っていたバックから水の入ったビンを取
 り出し、二つしかないコップに注ぐと、水面が日光を反射して眩しい光を放った。
 「武器の弾がいるね。」パンを口に突っ込みながらルーミアが言った。   
 「この近くで安全に武器を手に入れられる場所は?」
  椛の問い掛けにアリスが答えた。
 「紅魔館ね。今日の昼までにそこに行きましょう。」
  五人は急いで朝食を済ませた。落ちたパンの粉を突付く小鳥達を見ながら、五人は森を出発した。
 
  5

  落ち葉と苔の道を抜け、五人はついに森の外に出た。木の葉に遮られていた日の光が一斉に五人の目をしばたかせた。
 空に雲は無く、ひたすら真っ青な大海原が広がっているだけだった。一行はゆっくりと空を低空飛行しながら紅魔館を目指
 した。しばらくすると五人の前に大きな古い屋敷が現れた。騒霊屋敷である。
 「あの屋敷に住んでる奴らを知ってる?三人とも音楽家で昔合同でコンサートをした事がある。」
  懐かしそうにミスティアが昔の出来事を語った。 
 「遠くの町のバーで演奏してるらしいよ。」ルーミアが言う。「いつかまた一緒にやりたいなぁ・・・。」
  騒霊屋敷を通り過ぎた彼らは、紅魔館を目指して飛び続けた。
 「遠いね・・・まだなの?」ヤマメは他の者達に聞いた。
 「まだよ。私の目には映り始めたけど。」
 「奇妙ね。昔はもっと近いと思っていたのに。」
 一時間程飛んで、ようやく大きな湖が見えてきた。昔は妖精達が飛び交い、たまにやって来た妖怪や人間を驚かせて遊んで
 いた。だが今ではそんな姿はあまり見なくなった。近くに大きな鉄道の駅ができ、そこを中心に小さな町が出来ていた。
 その開発によって辺りの木々が切り倒され、緑が少なくなってしまったのが原因かもしれない。
 紅魔館はそこから湖を半周したところにあった。辺りにはまだ緑が溢れ、その中にある異様なほど目立つ館の周りだけは、
 昔と殆ど変わっていなかった。
  五人が紅魔館の入り口に立つと、門番が声を掛けてきた。
 「おや?あなた方ですか。お久しぶりです。」
 「美鈴。貴方のご主人に話をしにきたの。」
 「少々お待ちを・・・。」
  美鈴は部下の妖精を館に向かわせ、愛想笑いを振りまいた。
 「すぐに咲夜さんがいらっしゃいますよ。」
  その数分後、五人の前に何の前触れも無く咲夜が立っていた。深々と礼をした後、咲夜は言った。
 「お嬢様がお待ちです。着いてきてください。」
  
  紅魔館の庭には見事な赤いチューリップが咲き誇り、撒かれた水の水滴がキラキラと輝いていた。
 「見事なチューリップね。」アリスが言った。
 「ありがとうございます。」咲夜は無表情ながらも少し嬉しそうだった。
  五人は紅魔館の応接室に入った。驚くほど豪華である。真赤なソファーに、光り輝くテーブル。壁には高そうな骨董品や
 絵画が飾ってある。フカフカなソファーに座ってこの館の主人、レミリア・スカーレットが来るのを待った。
 「凄いソファーだ。埋もれちゃうよ。」ヤマメは背負っていた荷物を置き、声を上げながらのびをした。
 
  五人が部屋に入って直ぐに咲夜が紅茶を持ってきた。ティーカップは六つあり、最後の一つを置くと同時にレミリアが
 姿を現した。五人の向かいにある椅子に腰掛けると、足を組んで彼女はこう言った。
 「ようこそ、歓迎するわ。どうぞお茶を飲んで。」
  幼い吸血鬼は何も変わっていなかった。五人はティーカップを手に取り、少しずつ味を確かめるように味わった。
 「おいしいわ。」アリスが言った。ティーカップを置くと、体を前に傾け話をする体制になった。
 「武器を買いたいの。」
 「ほう。それでここに?・・・いい選択よ。ここには世界中の兵器がある。見て行ってもらって結構。どうする?直ぐに見に行
  く?」
 「そうするわ。」
 「なら部下に案内させるわ。家のガンスミスは幻想郷一だからね。」
 「恩に着るわ。料金は・・・」
 「その話はお昼に豪華な食事をしながら話しましょう。咲夜。」
  レミリアのすぐ横に立っていた咲夜がパッと消えた。昼食の準備をしにいったのだろう。それと入れ違いで小悪魔が
 応接室に入ってきた。レミリアは指でサインをして、小悪魔は小さく頷いた。
 「みなさん着いてきてください。私が案内をします。」
 「さぁ、見ていきなさい。」レミリアは自慢げに言った。
  五人は小悪魔に連れられ、紅魔館の一階の一番奥の部屋に入った。鉄製の柵の南京錠を解き、横に引くと、奥には古今東
 西、結界の外、魔界などから集められたありとあらゆる兵器が収められていた。
 「お・・・おおおっ・・・。」「これは・・・。」「すげぇぇ!!」
 「どうぞ見ていってください。でも勝手に触って壊さないでくださいね。」
  ルーミアとミスティアが子供の様に駆け出した。かなりの大きさの部屋には、奥に向かって四列の棚が伸びており、沢山
 の銃器や剣、槍、斧、ナイフ。奥には大砲やマシンガンが眠っていた。
 
 「この銃を見てほしいのだけど。」椛が背中に担いだ銃を小悪魔に差し出した。
 「おや、リーエンフィールドですか?これは素晴らしい銃です。しっかりと整備しておきましょう。」
 「弾も欲しいわ。」
 「三番目の棚の奥に有る筈です。持っていってください。」
  小悪魔は椛の銃を机に置き、アリスに声を掛けた。
 「何かご希望の武器はありますか?貴方にあった物を探しますけど。」
 「・・・そうね。前使った拳銃は弾が詰りやすくてね。コンパクトで使いやすいモデルが欲しいんだけど。」
 「なるほど、こちらに。」小悪魔が歩き出し、近くの棚から小型の自動拳銃を取り出した。
 「ブローニングM1910と言うモデルです。装弾数は七発。作動不良も少なく信頼できる銃ですよ。」
 「いいわ。弾丸をガンベルトに付けれるだけと、弾倉一つ分貰うことにする。」
 「わかりました。動作チェックをしてからお渡しします。」
 「気が利くわね。」
 
  部屋の中央で走り回っていたミスティアが急に立ち止まった。
 「これいいなぁ。」彼女の視線の先にはは壁に掛けられた鉄製の鉤爪があった。手袋の親指以外の指先に鋭利な刃物が四本
 付いた危険な武器である。刃の切れ味は少し触れただけでもパックリといってしまいそうな程だった。
 「これで爪の手入れが楽になるかもね〜。」
 「うえーなんか趣味悪いよ。」
 「そんなわけない。」
  嬉しそうにミスティアが鉄の爪を見つめる様を見て、ルーミアが声を上げた。
 「おーい鉄砲鍛冶ー!超強い武器を頂戴!」
 「はい、ただいま。」どこからか小悪魔が現れてルーミアの前に立った。
 「拳銃がほしい。デカイ奴。」
 「いい物が有ります。」小悪魔は奥の棚の方へと歩いていく。ルーミアとミスティアがそれを追った。
  棚から黒光りする大型の拳銃を小悪魔が差し出した。それを手に取ったルーミアが珍しそうにそれを覗き込んだ。
 「トカレフと言う拳銃です。これなら妖怪の硬い肌も打ち抜くことが出来ますよ。」
  木製グリップの真っ黒なトカレフを構えたルーミアが銃口をミスティアに向ける。
 「その爪でこいつの弾丸を防いでみろよ。」
 「・・・やるかい?」
 「・・・・ちょ・・・お止めください・・・・。」
 「冗談だって。もう一丁頂戴。」ルーミアは二丁目のトカレフを貰い、嬉しそうに笑った。
 「腰に巻くガンベルトと弾丸を貰ってくよ。」
 「分かりました。動作チェックをしますので・・・」
 「大丈夫、大丈夫。壊れたらまた別のを貰うからさ。」
  そう言って、ルーミアはガンベルトへ銃をしまい、それを肩に掛けてアリス達の下へ向かった。
 「あ、この鉄の爪もらってくよ。」ミスティアもその後に続いた。
 「もう・・・・。」

 アリス、ヤマメ、椛の三人はルーミア達と合流した後、昼食の準備が出来るまで応接室で暇を潰す事にした。
 「ははは!またおいしい料理が食べれる!」
  ルーミアがソファーの上で跳ねながら言う。
 「おい止めなよ。見っとも無いぞ。」
  いつの間にかアリスは席を外しており、椛もシャワーを借りに何処かへ行ってしまった。
  応接室から出たアリスは、真赤な紅魔館の廊下を歩いた。この中なら追っ手も来られないだろう。アリスは久しぶ
 りに安心間を感じていた。歩く先には、何度か来た事がある図書館の扉。そっと手をあて前に押すと、小さな音を立て
 て懐かしい本の山が顔を出した。そしてその本に埋もれながら読書を楽しむパチュリーの姿が目に入った。
  初めて来た時のように回りを見渡しながら、アリスはパチュリーの机の向かい側に腰掛けた。
 「アリス・マーガトロイド。まだ生きていたとはね。」本から目を離したパチュリーが、ゆっくりと口を開いた。
 「そう簡単には殺されないわ。」机の上に肘をついて、アリスがそう言った。
 「会いたかったわ。」
 「私もよ。」
 「何を話す?」パチュリーはそう言ってから、電気ポットからティーカップにお湯を注ぎ、ティーパックをそこに沈めた。
 「安物だけど我慢して。」
 「ありがとう。」
 「これ電気ポットって言うのよ。科学の力ね。」
 「科学・・・か。」
 「時間は掛かるだろうけど、いつか科学が魔法を越えるわよ。」
 「そうかもね。って魔法使いの貴方がそんな事言うの?」
 「貴方だってそうでしょ?・・・最近はあまり強力な魔法は使ってないようね。」
 「意識するより早く飛んでくる銃弾は、魔法で打ち落とすより、当たらないように身を隠す方が良いの。」
 「そう?」 
  二人は昨日会ったばかりのように親しく話した。紅茶がいい具合になってから、アリスは一口それを飲んだ。
 「こんな物か・・・。」
 「しかたないわ。」
 「・・・・・最近気になることは?」間を置いてアリスがそう聞いた。パチュリーは少し考えた様な表情をした後、
 真剣な様子で話し始めた。
 
 「何人かは気づき始めてるけど・・・・幻想郷の肥大化。これよ・・・・。」
 「やっぱりね。広くなってる。と言うより、膨張していると言うべきかしら。」
 「原因は一度に沢山の物が幻想入りしたからかしら。」
 「まぁそんなところじゃない?ここの面積が増えるたびに結界がどんどん薄くなってるようね。霊夢はその管理に付きっ切
 りで私たちの事まで面倒を見てくれないのよ。」
 「いいじゃないの。好きにやれて。」
 「まぁね。」
  アリスは少し薄い紅茶を口に運んだ。安っぽいが、飲めないと言うわけではなかった。
 「このままこの状況が進むとどうなるのかしら?」
 「・・・・全てが幻想になる・・・。」
 「その時結界の外は?」
 「どうなっているのかしらね・・・。」
  二人は微笑んだ。
 「そう言えば、あなたが預けていたもの。」
 「ああ。」
  パチュリーは窓の方を指差した。そこにはアリスが昔作った上海人形と蓬莱人形が頭を垂れて座っていた。
 「カビとか生えてない?」
 「大丈夫だと思うけど。」
 「それならいいわ。もう少しここに置いて上げて。」
 「連れて行きなさいよ。あの子達だってそれを望むはずよ。」
 「でも私はそれを望まない。あの子達が汚れていくところを見たくないもの・・・。」 
 「悪党のくせに・・・・。」パチュリーが優しく笑った。それから二人は雑談をしながら、埃臭い図書館内を散歩した。
  アリスは、今までの体験談をパチュリーに話し続けた。パチュリーもそれを興味深そうに聞いていた。
 
  ゆっくりと午前が過ぎていく。二人は時間を忘れて話し合った。

  咲夜が図書館にやって来た。
 「食事の用意が出来ましたよ。」どうやら昼食の準備が出来たらしい。
 「もうそんな時間か・・・じゃあ行こうかしら。」
 「咲夜、私はここで食べるわ。」
 「はい、畏まりました。ではアリスさん、」
 「ええ。」
  アリスは咲夜と並ぶように明るい廊下を歩いた。時刻は正午に近いので、気温も一段と上がっていた。
 「いい匂いね。また腕を上げたんじゃない?」
 「そうですか?そう言って貰えると嬉しいです。」
 「普通に話しなさいよ。」
 「いえ、今の貴方はお嬢様の大切なご友人なので。」
 「大した心がけね。感心するわ。」
  他のメンバー達はもう既にアリスを椅子の上で待っていることだろう。
 アリスは豪華な昼食に胸を膨らませながら、長い廊下を歩き続けた。




つづく  
かなり長くなったので、前後編に分けることにしました。
銃撃戦書くのは楽しかったけど、もう暫く書きたくないです・・・・。
その理由は後編で。

つづきは、24時間後に投稿します。

誤字修正しました。

1/31 午後
ゴミ箱の中に間違えて上書きする前のファイルを見つけました。
なんとか修正して、文字の間隔が開かないようにしました。
次回はこのような事が内容にしたいです。
十三
作品情報
作品集:
23
投稿日時:
2011/01/30 00:22:05
更新日時:
2011/01/31 16:26:43
分類
近未来/暴力/犯罪
アリス
ヤマメ
ミスティア
ルーミア
1. NutsIn先任曹長 ■2011/01/30 02:42:18
なんて素敵な無国籍アウトロー物!!
私も持っている、私の作品にも登場した銃器類のオンパレード!!
ここは私の望む幻想郷か!!

幻想郷の肥大化、か…。外の現実世界と逆転してしまう、なんてことになるとか…。

妖怪らしく、人間らしく。
幻想らしく、現実らしく。
幻想を守るためには、銃器類等の現実の力が必要で、
現実を生きるものの中で幻想を大事に思うものは、魔理沙や森の集落の人達等ほんの一握り…。

あのアリスがアウトローになってしまった理由とは…、
そんなもの無いかもしれませんが、生き様は魅せますね。

誤字報告:『仲間』が『中間』になってますよ。

続きを早く!!楽しみにしています!!
2. 名無し ■2011/01/30 09:11:15
すげえ面白い。でもタイトルでオチが見えちゃってるような……。
幻想郷に銃器が普及したら、一番割を食うのは魔法使いや弱小妖怪だろうね
鬼や吸血鬼なら、謂れもない銃で蜂の巣にされたくらいじゃどうってことないだろけど、魔法使いたちは長所が殺されるだけだもんなあ
3. 名無し ■2011/02/04 01:28:58
いい感じなアウトロー物語だなあ
しかし、題名もだがこの手のオチは決まってるのが悲しいな
子傘ちゃんにお金あげて生きろというアリスがかっこよかった
4. 名無し ■2011/02/07 00:08:56
紅魔館で切り詰めたBARでもアリスズ・ギャングが調達するかと思ったけれどそんな事はなかった。
強盗殺人犯というより語感としてはアウトローで、破滅的な結末が予想出来るだけに一層輝いて見える。
時代から時代への過渡期というのは何時も何処か切ないものですね。
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