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『Mを求めて』 作者: NutsIn先任曹長

Mを求めて

作品集: 24 投稿日時: 2011/02/06 16:07:40 更新日時: 2011/04/05 00:00:20
 




誰にも言えずに幻想郷中を彷徨った彼女は、以前耳にした眉唾物の噂に縋った。





ふう。

ようやく終わった。

かなりの時間と労力を費やして、霧雨魔理沙の家から、その中にぎっしり詰まった品々の殆どを屋外に出した。

屋内の家財道具、マジックアイテム、書籍、薬品、大量のキノコ、
エトセトラ、エトセトラ、それらをチェックしつつ外に運び出した。

これらの中に、目的のブツは無かった。

魔理沙にとってはお宝かもしれないが、彼女にとってはガラクタでしかない。
売れば、多少の金になるものもあるかもしれないが、そんなことをしている暇はない。

彼女は、とにかく、大金が欲しかった。



「チルノちゃん……」



期日は今日中。

大妖精は、親友の身代金に充てるため、

魔理沙の隠し資産、

通称『M資金』に縋るしかなかった。



大妖精は疲弊した体に鞭打って、

一ヶ月前から無人となり、さらにたった今家財道具も屋外に出され、がらんとした魔理沙邸の中に入り、

あるかどうかも怪しい財宝を探し続けた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





大妖精が『M資金』の話を聞いたのは、一ヶ月前のことだった。

チルノとかくれんぼをしていて、鬼になった大妖精は、
行動範囲が幻想郷中に及ぶチルノを探しに博麗神社に来ていた。

神社の周囲を見渡し、素敵な賽銭箱の中を除きこみ、リンゴの木を見上げ、
居住部の庭先の茂みの中を四つんばいになって、チルノを探した。
地道な、無為といっても良い様な作業ではあるが、
几帳面な大妖精は、遊びでも決して手は抜かなかった。
こういうのを、要領が悪いというのである。

で、そんなときに耳にしたのだ。

『M資金』の話を。

博麗神社の居住部の縁側で、魔理沙は博麗霊夢とお茶を飲んでいた。



『M資金』。

符丁めいた言葉が魔理沙の口から漏れ、霊夢が相槌を打った。

かなりの金額になった。
幻想郷だって買える。
苦労した甲斐があったぜ。
他言無用。
無駄に使うな。
私を誰だと思っていやがる。
あんただから心配しているのよ。



どうやら魔理沙の貯金のようなものらしい。

魔理沙の評判は、友人達からあまり宜しくないものを大妖精は聞き及んでいた。

魔理沙には窃盗癖があるそうで、しばしば湖のほとりの紅いお屋敷や、評判が良い方の魔法使い宅から、
しばしば物を『死ぬまで借りて行く』そうである。

本来ならそういったものにかける費用は、当然自由になる。
貯金していても不思議ではない。
魔理沙が『借りた』品々は膨大な量になっているそうだ。
当然、溜め込んだ金額もそれに比例する。

大妖精は、そんなことをつらつら思いながら、友人を探しに広大な遊び場である幻想郷の空へ飛翔した。



魔理沙の姿を見かけなくなったのは、その頃からであった。





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「無い……」

床を這うように進む大妖精は、未だにお宝を見つけられずにいた。

がらんとした屋内は、大妖精によって掃除された。

どこかにあるかも知れない隠し部屋や隠し金庫も見落とさないように、
大妖精が魔理沙の予備の飛行用箒でゴミや埃を掃き、
使い古されたドロワーズを雑巾として床や壁、ついでに窓ガラスを磨き上げた。
万年床と化したベッドの下やマットレスの隙間を探り、
シーツの染みが宝の地図に見え、よく見ようと屋外に放り出した汚れた魔理沙の衣服と共に洗濯した。



別に魔理沙の家を掃除しに来たわけではない。
それら所業は、大妖精の几帳面な性格と空き巣まがいの行為に対する罪悪感、
後若干の潔癖症が、このような余計な重労働を強いたのであった。



ピカピカの室内。

一転の曇りも無い窓からは、万国旗のように翻る、干された洗濯物が見える。

相変わらず、『M資金』はおろか、小銭一つ見つからない。

ここには無いのか。

大妖精は、塵一つ落ちていない床にへたり込んでいた。

「チルノちゃん……、チルノちゃん……、ごめんね……、う、ううぅ……」

ぐすっ、ぐすっ。

大妖精はべそをかいた。

友達一人助けられない、己の無力さに涙が出てきた。



「どこ……、どこなの……

 『M資金』は一体、どこにあるの……」



口に出せば出てくるとでも思ったのか、
大妖精は泣きながら、そう呟いていた。



「ああ、ここにあるぜ」



返事が返ってきた。



大妖精は、開け放たれたままの玄関のほうを見た。



白黒魔法少女が立っていた。





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「魔理沙……さん……?」

「ああ、そうだぜ?」



間違いない。

一ヶ月前に行方不明になった、

人間の、普通の魔法使い、

霧雨魔理沙が、

自宅に帰ってきたのだ。



だが、魔理沙は、先程、大妖精にとって、

衝撃的なことを告げていた。



「ほんと……、ですか……?」

大妖精は、魔理沙に確認を取った。

「『M資金』だろ? 今手元にあるぜ。おまえ、一体誰からアレのことを聞いた……」
「お願いします!! チルノちゃんを!! チルノちゃんを助けて!!」
「お、おい!?」
「お願いします!! チルノちゃんを助けるのにお金がいっぱい必要なんです!!」

大妖精は魔理沙に縋り付き、涙と鼻水で可愛らしい顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。



「チルノなら……、ほら」



魔理沙は、自分の背後を親指で指し示した。



「え……」



そこには、

アリス・マーガトロイドと手を繋いだ、

チルノが、

三角形にカットしたスイカを模したアイスバーをパクついていた。



「あ、大ちゃん。どうしたの? 戻ってこないから心配したぞ〜」

「ち、チルノちゃん……、チルノちゃ〜〜〜〜〜ん!!」



大妖精は、チルノに抱きついた。

妖精としては大柄な大妖精が勢いよく飛びついたので、チルノは押し倒された格好になった。
それでもチルノはアイスバーを手放さなかったのは、天晴れと言うより他に無かった。

「チルノちゃん、チルノちゃ〜ん!! うぐ、う、うぇ、えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」

「大ちゃん……、大ちゃんが泣くと、あたいまで、う、ぐすっ、大ちゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

二人の妖精は抱き合い、大声で泣き出してしまった。

悲しいからではない。

友人との僅か数時間ぶりの再会を喜ぶ、嬉し泣きである。





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ミスティア・ローレライが経営するヤツメウナギ料理の屋台の手伝いをした大妖精は、お給料をもらった。
ほんの一晩ヘルプしただけの報酬なので額としては微々たる物だが、
金銭に無頓着な妖精にとっては大金であった。

大妖精はチルノにご馳走することにした。

遊び仲間から聞いた、人間、妖怪、妖精を差別しないことで有名な店に行き、
二人はそれぞれ、美味しそうな物を手にした。

だが、その品の代金は、法外なものであった。
しかも、チルノは既に口をつけてしまった。
もう、返品も出来ない。



「はい、百万円」



駄菓子屋を経営する老婦人は、ジョークで通貨単位を『万円』にして代金を請求した。



大妖精は、本気にした。



「ご、ごめん!! お金、忘れちゃった!! ちょっと取りに行って来ます!!」

大妖精は、ツケでいいよ、というおばあちゃんの言葉も聞かずに、半ば逃げるように走り出した。





魔界から一月ぶりに幻想郷に帰ってきた魔理沙とアリスは、
人里の銀行でまとまった金額を引き出した後、休憩しようと駄菓子屋を訪れた。

二人は霜がびっしり張り付いた冷凍庫から適当なアイスを取り、
代金を払って店内のイート・インのスペースに向かうと、
チルノが椅子に腰掛け、退屈をもてあましていた。

チルノから、大妖精がアイス代を取りに行ったきり戻らないので暇をしていることを聞いた魔理沙達は、
とりあえずチルノが食べた分とさらに二本のアイス――チルノのお代わりと大妖精の分――を奢り、
魔理沙の家に荷物を置いた後、大妖精を探しに行くことにした。



そして、魔理沙の家に着いた三人は、大掃除をする大妖精を目撃することとなった。





以上が、事の顛末である。





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「――てなことがあってな」

「ふ〜ん、妖精にも生真面目な奴がいるもんね」

「霊夢にとって、妖精は悪戯好きの連中という認識なのね」

「実際そうでしょ。特に、よくちょっかいをかけてくる三人組の妖精。
 最近、悪知恵が付いてきたみたいなのよ。
 いずれ、退治しなきゃいけないわね」

そういって、霊夢は茂みの一点を睨みつけた。

「「「ひっ!!」」」

霊夢の視線の先から短い悲鳴と何かが飛び立つ音、誰かがこけたような音が聞こえてきた。

ぱりん。

霊夢は何事も無かったかのような表情に戻り、魔理沙とアリスが持ってきた、魔界土産の煎餅を一口齧った。



博麗神社。

居住部の縁側。



アリスの実家で、魔理沙はアリスの家族に制裁に近いおもてなしを受けたが、
無事に二人の結婚を認めてもらい、
生きて幻想郷の土を再び踏むことが出来た。

魔理沙とアリスは、
幻想郷に戻り、銀行から『M資金』を下ろした後に遭遇した出来事について、
お土産を届けたついでに霊夢に話していた。



「まあ、私は家が片付き、助かったぜ」

「あの二人、本当に仲良しだったわね」



あの後、事情を知った大妖精は魔理沙に平謝りして、魔理沙は鷹揚に頷き許してやった。
ゴミ屋敷を掃除してくれて、感謝したいぐらいだった。



帰路につく二人の妖精。

一方の手にはアイスバー。

チルノはスイカ型のアイス。
大妖精は、まるでチルノみたいな色をしたソーダ味のアイス。

もう一方には、友の手が、しっかりと握られていた。



今でもその光景は、魔理沙とアリスの記憶に焼きついている。
いつか、その時のことをこの子に話してやろう。
魔理沙が見つめ、アリスが手を当てている、アリスの腹部。





結婚(Marriage)資金――通称『M資金』が発端となり、

大妖精が勘違い(Mistake)をしたせいで、まさか、こんな騒動が起きるとは。

おかげで、チルノと大妖精が相性ピッタシ(Match)だということが分かった。

不思議(Mistery)に溢れた幻想郷。

今回の一件は、二組のカップルにとって、良き思い出(Memory)となるだろう。




 
『魔理沙の隠し資産』をテーマにお送りする、愛と感動のSSをどうぞ。


2011年2月15日(火):コメントの返答追加

>1様
大ちゃんは、なんか要領が悪そうなイメージがあります。
ハッピーエンドも良いものでしょう。

>2様
良いハッピーエンドでしょう。
大ちゃんは、なんかウッカリさんなイメージがあります。

>イル・プリンチベ様
大ちゃんは、なんか二次でキャラが立っているようなイメージがあります。
終わり良ければ全て良しでしょう。


2011年3月7日(月):コメントの返答追加

>4様
愚直な友達思いの大ちゃん、可愛いでしょう。


2011年4月5日(火):三度、コメントへの返答を追加させていただきます。

>5様
産廃でも、たまにはほのぼのも良いものでしょう?

>マジックフレークス様
日常話でサプライズを試みたら、こんなんなってしまいました。
大ちゃん、冗談が通じなさそうと思っておばちゃんジョークをかましてみました。
もともと、『M資金』って言葉が脳裏をよぎったのが始まりでした。
ラスト、Mでこじつけるのに苦労しました。
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/02/06 16:07:40
更新日時:
2011/04/05 00:00:20
分類
大妖精
チルノ
M資金
魔理沙
アリス
マリアリ
霊夢
Mで始まる単語探しに苦労しました
1. 名無し ■2011/02/07 20:56:58
 相変わらず大ちゃんが健気過ぎて・・・
全員が幸せで終わるENDもいいなと
2. 名無し ■2011/02/07 22:09:47
いいハッピーエンドでした
大ちゃんドジっ娘だなぁ
3. イル・プリンチベ ■2011/02/10 20:30:13
大ちゃんが可愛いなぁ。
原作でも大ちゃんは優遇されるべきかもです。
みんな幸せな終わり方もいいですね。
4. 名無し ■2011/02/26 12:57:33
この大ちゃんはほんと可愛いなあ
5. 名無し ■2011/03/29 09:40:19
なごんだ
6. マジックフレークス ■2011/04/02 11:14:44
不意打ちでした
話が予想外過ぎです。大ちゃん可愛すぎです。おばあちゃんお茶目すぎ(関西人か!?)
しかしMを求めていたのはある意味で曹長さん自身だったとはw
7. あーたん ■2015/09/01 16:18:29
あっMってそっちのMだったんですか。
い、いや別にSとMのMだとは思ってませんよ?(汗)

しかしいい話ですね〜(ほのぼの)
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