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『霊夢と余生』 作者: トング

霊夢と余生

作品集: 24 投稿日時: 2011/02/22 16:31:54 更新日時: 2011/02/23 01:31:54
最終作から10年が経過して、霊夢は28歳になっていた。
巫女の力はとうの昔に消え去っていて、今は特に能の無い
中年手前の怠惰な女でしかない。

古くみすぼらしい長屋に住まい、食うために仕方なく勤める
食料品店の仕事を終えると真っ直ぐ帰宅して番茶と湿気た
煎餅を齧って独り誰とも話すことなく床に入り一日を終える

仕事の休日を迎えて、霊夢は平日ではあるが昔の顔見知り達
を訪ねて周ってみようと思い立ち、外出する

魔理沙はグリフィスと結婚して竹輪工場主の妻となり子供を
産んで立派に母親をしながら仕事にも精力的に励んでいる

咲夜は使用人の増えた紅魔館の切り盛りを一手に仕切る
執事のようなポジションに上がっていて、霊夢は柵越しから
遠目に彼女を見ることしかできなかった

早苗は自ら立ち上げた新興宗教の指導者として忙しくも
充実した日々を送っている。抜きん出た経済力を誇示する
かのように衣服も装飾品も車も住居も上等で大きくて豪奢な
物に囲まれる豊かな暮らしぶりが伺えた。霊夢にはもはや
目もくれない、というか忘れ去られているようだった

空も飛べなくなった霊夢は白玉楼を訪れることはできず、
あの桜は今年も咲いているのだろうかと想像するしかない
地続きの永遠亭や命蓮寺もまた、貧しい庶民である霊夢が
立ち入るのに気後れさせられるほど金のかかった建物や敷地
に高級車がズラリと並び金持ちの人妖が出入りしていた

幻想郷の地上にはもう、気兼ねなく会いにゆける知人は
いないと悟った霊夢は地底に行ってみようと歩を向けた
しかし自動車道の整備された地底への道のりは徒歩でゆく
にはあまりにも空気が悪く、舗装された車道は危険で、
長い道のりを早く快適に運んでくれるバスやタクシーに乗る
金も霊夢は支払えないのですぐ引き返した

歩き疲れた霊夢は最後に気力を振り絞ると、懐かしい博麗
神社を訪れる 夕暮れ時であるのに神社の境内は参拝客の
行き交う姿がまだあり、賑わっていた
当代の巫女らしき少女が、上品で凛としながらも親しみ易い
笑顔で客を応対している 売店には素面の萃香が礼儀正しい
佇まいで物販の仕事をこなしている

彼女らのを邪魔できないと思い、霊夢は声をかけず立ち去る

休日を朝から潰して一日中歩き回って、霊夢は結局誰とも
話す事はできないまま帰路に着いた

博麗神社の近所にある大木、そこにはもうあの三妖精たちは
住んでいない スターがサニーとルナに男のものをしゃぶら
せて稼いだ金で建てた、"おしゃぶり御殿"と呼ばれる屋敷
が人里の一等地に建っているのを霊夢は知っている

寂しくもみじめな気持ちになってはいても、霊夢は最後に
取っておいた望みを確かめてみようと、ついに香霖堂へと
やって来た 少し離れた場所に立ち止まって、しばらくの間
そこで躊躇ってから意を決した霊夢は戸を開けて中に入ろう
と歩き出す そこで、霊夢の意に沿わず戸が内側から開かれ
て中からは賑やかな少女らの喋り声と共に霖之助が、昔と
変わらない容姿に笑顔を浮かべて出てきた

霖之助の後にすぐ続いて、十代の前半くらいの年頃らしい
少女が二人店から出てきた 彼女達もまた笑顔で、霖之助に
何やら盛んに喋りかけると彼は気さくな風に応じるものだか
ら3人の会話はなかなか終わらなかった

霊夢は胸が飛び上がるような思いをして、とっさに木の陰に
隠れると顔の端っこだけをわずかに出すようにして店前の
3人の様子を覗き見た 少女二人の顔や手に店内から漏れる
照明の光が当り、若く瑞々しい肌が照り返してきらめくのが
暗がりからでもわかる 昔は自分もああだったのだ、と霊夢
は過去を想った

彼女らや、霖之助に見つかりはしないかと気を揉みながらも
霊夢はのぞき続けていると、十分以上も話し込んでようやく
二人の少女はどこかへ帰って行った。

霖之助はしばらくの間少女たちの背を見送っていたが、
霊夢の方に顔を向けることも無く店の中に戻ると鍵を
かけたらしい音を残してそのまま出てくることは無かった

霊夢は木の陰に隠れたまま、ぼうっと放心したように立ち
つくしていた これから戸を叩いて、霖之助に中へ入れて
もらおうかとか、脳内で色々と思いをなめた挙句に足音を
立てぬようその場を去った

霊夢が自宅の長屋に帰り着くと時刻は零時を過ぎていて、
日を跨いでいた 時計も置けない霊夢は夜空の星を見て
おおよその時刻を察すると、水代わりのお茶をざっと飲み
干してそのまま床に入り目を閉じる 4時間後には、また
辛く退屈な立ち仕事に明け暮れる一日が始まる

霊夢は瞼の裏に夢を想い浮かべながら、眠りをこんこんと
深めて沈んでいった

博麗の巫女を務めて神社に暮らし、顔見知りたちに囲まれ
ながらそれなりに楽しく暮らしていた

異変が起これば空を飛んで解決に赴き、弾幕勝負に幾度も
勝利をおさめてその度に小さな充実を心に得ていたのだった

「(今みたいな暮らしをすることになるとは)あの頃は、
 思ってもみなかった……」

自分の人生で一番良い時期、何を学ぶにも最高の身体と頭と
が揃っていた時代を、霊夢は何かに費やして終えてしまい
今に至っている 後悔を始める前に、霊夢は眠った。(終)
東方Project最終作後の霊夢、という思いつきでやってみました

霊夢「わたしは、博麗霊夢は、あの(自分にとって)最後の異変に決着をつけた時にもう死んでいたんだ」
トング
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/02/22 16:31:54
更新日時:
2011/02/23 01:31:54
分類
霊夢
その後
1. 名無し ■2011/02/23 07:21:49
グリフィスのせいで全部ぶちこわしだよ!
2. 名無し ■2011/02/23 12:12:07
俺も霊夢は余生って奴を幸せに遅れる気がしないんだよなあ。
異変解決できるうちに、異変の中で死ぬのが一番幸せな感じ。
3. 名無し ■2011/02/23 23:00:14
うわぁぁ・・・
それでも生きていく霊夢はやっぱり強い子だよ
4. 名無し ■2011/02/25 00:02:55
老いた時の道程は、若い内に備えないとなぁ
5. 名無し ■2011/02/25 20:26:39
おわああああぁぁああ
売れ残り取り残され霊夢超可愛い!!
霊夢はぼんやりとした不幸が似合うよね
博麗の力を失った途端、人妖から総すかん喰らうのとかマジカワイイ!!
6. 名無し ■2011/02/26 14:07:54
アリスなら・・・
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