幻想郷讃歌 第五話

作品集: 24 投稿日時: 2011/03/04 00:13:58 更新日時: 2011/03/04 03:03:36
 
 







――ここに住む生き物に罪がないはずがありません。地上に住む 生きる 死ぬ それだけで罪なのです。
                                   「東方儚月抄:綿月豊姫」








「おねえさまっ!」

フランドール・スカーレットが目を覚ますと、そこは見慣れないベッドの上だった。体の上に掛けられた白い布をはねのけて、フランは自分の脇腹をまさぐった。そこに傷はない。
消毒液の臭いが漂う部屋がフランの目に飛び込んできた。色とりどりのガラス瓶が、殺風景な空間に馴染めない様子で棚に並んでいる。

「あ、起きた?」

白いカーテンが開いて、鈴仙・優曇鼻院・イナバが姿を見せた。いつものブレザーの上にとってつけたような白衣をまとった彼女は、フランの脇腹と顔色を簡単に診察すると、小さく頷いた。

「うん、もう大丈夫そうね。これ一応薬。精神が大分弱ってたみたいだから。」

鈴仙は後ろの診察机に置いてあった黒い丸薬をフランに手渡した。しばし口を半開きにしてぽけーっと鈴仙の顔を見ていたフランの脳裏に、次第に昨晩の記憶が甦り始める。おぼろげだった輝夜の姿が鮮明な形となって像を結ぶ前に、フランはその記憶と共に丸薬を飲み込んだ。

「うぇ、にがぁ……」
「ああ、お水持ってきたのに。」
「ここって、竹林のお屋敷?」

フランは探るような口調で、鈴仙に尋ねた。

「ええ。ここは永遠亭。」
「私、どうやってきたんだっけ?」
「……ああ、記憶が曖昧なんだ。朝うちのイナバが玄関先に倒れてる貴方を見つけて、ここまで運んだの。ひどく弱ってたから。貴方……吸血鬼よね?」

今度は鈴仙が探るような調子で、フランに尋ねた。

「うん、まあ。……あんた鈴仙?」
「え、あ、うん。そうだけど……」

いきなり名前も知らない吸血鬼から名指しで呼ばれて、鈴仙は戸惑いがちに答えた。

「やっぱりそっか。これあんたにって、手紙。」

フランは胸元から書簡を出して鈴仙に渡した。それは輝夜にもらったあの書簡だった。

「あ、どうもって……誰から?」
「知らない。髪が黒くて長い……なんか気持ち悪い奴。そいつがこれを鈴仙に渡せって。耳をビンビンにして短いスカートでせんじょー的に男を誘ってなんとかしてるウサギにって――」
「ああわかった。誰からか分かったから大丈夫。」

鈴仙は頭を抱えてフランの説明を遮った。宇宙広しと言えど、そんなしょうもない説明を他人に吹き込む人物には二人しか心当たりはなく、そのうち一人は銀髪である。鈴仙はうんざりした顔をして書簡を開いた。この分ではまた碌でもないことが書いてあるのだろうと、最初は思っていた。だから読み進めるにつれ青くなる鈴仙の顔に、横にいたフランですら心配になった。

「これ……どういうこと?」





 ■ ■ ■





「八坂様、洩矢様。ただ今帰りました。」

麓から護衛を受けた白狼天狗を前後に従えて、東風谷早苗は深々と頭を下げた。山の中腹にある妖怪達の里の入り口では、八坂神奈子と洩矢諏訪子が彼女の帰りを待っていた。二柱は憔悴しきっていた顔をほころばせる。頭を上げた早苗の顔がきらきらと輝いていたことに、神奈子は名状しがたい思いに囚われた。

「よく頑張ったね、早苗。」
「はい、ありがとうございます……洩矢様。」

肩を叩いて自分をねぎらってくれる諏訪子に、早苗は感極まった様子で答えた。横に立つ神奈子はなんと声を掛ければいいか悩んでいた。この子のなしたことを素直に讃えるべきか、彼女は分からなかった。

「……うん、無事でよかった。おかえり早苗。」
「はい。ご心配を掛けました、八坂様。」

神奈子はぎこちない笑顔で早苗を抱き寄せた。早苗は諏訪子へ向けたのと同じ表情で神奈子へ返礼する。神奈子は必死でそれに応えようと、口角を引っ張り上げた。
少し離れたところに立っていた河城にとりは、そんな三柱を見て思わず安堵する。

「にとりさんも来て下さったんですね。うれしいです。私がここにいるのは貴方のおかげです。本当にありがとう。」
「あ、いやなんか恥ずかしいな、あはは……でもよかった、早苗が無事で……」

遠くから眺めているだけだったにとりの姿を見つけた早苗は、駆け寄って彼女の手を取った。予想外だにしない言葉に、にとりはしどろもどろして顔を赤らめる。

「よかったですな、八坂様、洩矢様」

二柱に歩み寄ったのは、大天狗長だった。しわが深く刻み込まれた顔を少し緩めて、彼は二柱に小さく会釈する。深々と頷いた諏訪子とは対照的に、神奈子は小さく目を伏せて彼の謝辞を受け止めた。早苗も大天狗長の存在に気付いたようだ。にとりにもう一度感謝の言葉を述べて、彼女は大男へ駆け寄ると畏まった礼をした。

「なんとか山に勝利の錦を持ち帰ることが出来ました。これも大天狗長様のお力添えの賜物です。本当にありがとうございました。」
「いえいえ、感謝しなければならないのはこちらの方です東風谷様。見事な武勲でした。我々山の妖怪も、立派な神様をまた一柱山に迎え入れられると誇らしく思っております。」

彼の言葉に、早苗はぐっと目を閉じ、じっくりと喜びをかみしめていた。彼女は受け入れられたのだ。現人神としてではなく守矢の一柱として、早苗はこの山にいていいのだ。
もう一度大天狗長に深々と頭を下げ、彼女は妖怪の里に凱旋した。大勢の天狗と河童が拍手で彼女を迎えた。早苗は零れそうになる涙を必死でこらえながら、彼らの出迎えに何度も頭を下げた。

「ありがとうございます……ほんとうにありがとう。」

天狗を代表して犬走椛が早苗に花束を手渡す。早苗は自分の体が見えなくなるほど大きな花束にびっくりした様子で、それを懸命に抱きかかえようとする。苦闘する早苗に周囲の天狗や河童達から思わず温かな笑いが上がった。慌てて椛が近寄って早苗ごと花束を抱える。

「すみません、椛さん。こんなことまで……」
「いいえ東風谷様。これしきのことは当然です。今や東風谷様はあの吸血鬼を成敗した英雄なのですから。」
「ありがとう……椛さんもおめでとうございます。親衛隊に昇進なされたと聞きました。」
「いえいえ。東風谷様と比べれば些細なことです。」

恐縮する早苗に、椛はあくまでゆとりある態度で応対した。それは今までの彼女とは違う、風格のようなものを感じさせた。

「でも、あの命蓮寺の件を暴いたのは貴方と聞きます。捕まりながらも単身敵に立ち向かい、逆賊を討ったと。」
「私はいつも通り報告役に徹しただけですよ。今の私があるのも大天狗様をはじめとした同胞達のおかげです。」

ゆったりとして自信に満ちた椛の言葉に、早苗は身の引き締まる思いがした。
そう、自分もそうなのだ。山にいる多くの妖怪達の支えがあって、今自分はここにいられるのだ――早苗ぐっと頷いて、そこにいる皆に届くような明快な声で宣言した。

「皆様、本日はこのような盛大なお出迎え、本当にありがとうございました。これからも守矢神社の一柱である東風谷早苗は、山に住む信者の方のために、神として粉骨砕身応えていきたいと思います。どうかこれからもよろしくお願いします。」


その力強い宣言を、神奈子は少し離れたところから眺めていた。早苗に注がれる満場の拍手から逃げるように、彼女は顔を背ける。そこには諏訪子の顔があった。
無言のまま見つめあう二柱、引きつった表情をただ投げかける神奈子に、諏訪子はぼそりと呟いた。

「これで、よかったんだよ」

神奈子は何も答えなかった。そっと諏訪子の手を取って、静かに握りしめただけだった。





 ■ ■ ■





比那名居天子は、小首を傾げながら妖怪の山目指して飛んでいた。なんで自分がこんなことをしているのか、ふと疑問に思ったのだ。
そもそも天界を飛び出してきたのは、父親と喧嘩して家出してきたからだ。今日こそ公務を休んで一緒に出かけてくれると言ったのに、見事にすっぽかされたのだ。
そんなこんなで家出してきたとはいっても、天子に行く当てなど無い。とりあえず博麗神社あたりに転がり込もうかなと思ったのがあそこへいった理由だった。元々大した目的もないことに気付いた天子は、まあ暇潰しになるならいいかという結論に至った。彼女は基本行き当たりばったりである。

改めて視線を前に向けた天子の目の前では、先に飛んでいったチルノとサニーミルクがなにやら口論していた。

「バカチルノ! なんでレティさんに詳しい場所聞いてこなかったのよ?」
「うっせえアホサニー! 先に飛んだのはお前だろうが!」

低レベルな口論に、天子と一緒に飛んできた大妖精とスターサファイアが止めに入った。天子は横にいたルナチャイルドと首をすくめあう。

「どうかしたんですか?」

ふいに後ろから声が掛けられた。天子が振り向くとそこには金髪の少女がいた。スカートの裾がほつれたみたいになっていたが、よく見るとそれは落ち葉でできているらしい。

「だれあんた?」
「私は秋静葉。この山の神様よ。ひひひ」

突然出てきた神様に天子は怪訝な表情を向ける。神様にしてはどう見ても弱そうだった。そんな天子の疑念を余所に、ルナは静葉へ訊いた。

「神様なの? じゃあさ、ここら辺に穀物の神様がいるの知らない?」
「穀物……もしかして妹の穣子のことかな? 豊穣神って言って、作物の豊作を祝う神様なんだけど。」
「穣子……ああそうよ。レティさんが言ってたのと同じ名前だわ! サニー、スター、早くこっち来て! この神様が例の穣子さんのこと知ってるって!」
「穣子に会いたいの? じゃあ私が案内してあげる。ひひひ」




秋姉妹を祀った神社は、山の一番裾野にあった。ここらへんは天狗や河童の警戒も緩い。もともと里にも信仰されていた神様だからこの辺りの方が都合がよかったらしい。

「はいは〜い。お姉ちゃんやっと帰ってきたのね……と思ったら妖精かい。」

ノックを聞いて弾むように扉を開けた秋穣子は、客人の妖精と他一名を見てたちまち落胆した。妖精達はそんなことを気にすることもなく、元気に挨拶して部屋に上がり込む。

「で、なんの用かしら?」
「くいもんよこせ!」

椅子の上に立って高らかに宣言したチルノを、ルナがはっ叩いた。埒があかないと思った天子が代わりに説明する。

「宴会をしようと思っててね、お酒を造りたいのよ。だからお米を分けてくれないかなと。」
「はぁ……ずいぶんとまた悠長な話だね。いいけどさ。じゃあどぶろくってこと? それとも清酒?」
「え、ま……それはこれから考えようと……」
「なんだそりゃ。じゃあどこで造るの、あと麹とか蔵とか。」
「こーじ?」

穣子は嫌な予感がした。こいつらとんでもないバカなんじゃないかと思ったからだ。

「ほら、お酒を造るときに使うでしょ。発酵させるために入れるやつ。」
「はっこう? 日本酒ってお米と水を甕に入れておけばできるんじゃないの?」

穣子は頭を抱えた。予想通りのバカだったからだ。妖精達はもう酒ができたかのようにはしゃいでいる。

「ちょっと……どういうことよ。酒造ろうとかこの妖精共が言い出したってこと?」
「いやぁ〜、多分そうですね。あは、あはは」

小声で問いつめる穣子に、天子は目をそらしてとぼけた。天を仰いだ穣子は一つ息を吐いて立ち上がる。

「しゃーない。手伝ってあげるわよ。里に行けば麹とかは分けてもらえるかもしれないし。」
「ありがとう!」
「「「なんだかわからんがやったー」」」
「はは……ハァ。まあいいわ。丁度お姉ちゃん捜しに行かなきゃなって思ってたところだったし。」
「お姉さんって静葉って人?」

天子の言葉に穣子の顔が光った。

「そう! いや、今年の収穫祭に行く行かないとかでちょっと喧嘩しちゃってね。また家飛び出してどっか行っちゃったものだから。まあいつものことなんだけど……たはは」
「あいつならさっき私たちを案内して……あれ?」

天子が振り向くと、玄関の所まで一緒にいたはずの静葉の姿がなかった。天子は玄関の扉を開けて外を見回したものの、やはり姿は見えない。

「いーよいーよ。どうせまた拗ねてどっか行っちゃったんでしょ。そのうち出てくるって。さ、早く行こう。」
「「「「「おー」」」」」




玄関を出た穣子一行は、五分程進んだところで鍵山雛に出会った。

「雛こんちはー」
「あら穣子じゃない。静葉見つかった?」

くるくると回りながら穣子に話しかける雛に、妖精はたちまち興味を示し始めたようだ。サニーは一緒に回り出す。

「いや。なんかこいつらが見たらしいんだけどね。どうもこの時季は外出する気になれなくて、ダラダラしすぎたわ。」
「ずいぶんと妖精さん達を連れているのね。」

天子は雛を見た瞬間に彼女が穢れを持っていることに気付いたが、特に気にせず話しかけることにした。天人としては色々問題があるが、彼女は不良天人である。

「あんた厄神?」
「そう。貴方は妖精ではないのね。ちょっと気をつけて。最近厄の量がすごいのよ。もう大忙し。」

雛が回るたびに、辺りの厄が吸い寄せられ、舞い上がり、ふつと消える。横で一緒に回っていたサニーの三半規管が限界に達した辺りで、雛は妖精達をたしなめた。

「あなた達も離れて。多すぎる厄は妖精の行動も狂わしてしまう。私はえんがちょの向こう側の存在だから、あなた達と一緒にいてはいけないの。」
「そんなの気にすんなって! お前気に入った。宴会芸係としてあたいが"かんじ"の最強宴会メンバーに入れてやろう!」

チルノが雛のスカートをぐいと引っ張った。雛は回転を止められる。しばしぽかんとチルノの顔を見ていた雛だったが、やがて静かに微笑んだ。

「そう、じゃあ仕事が暇になったらお邪魔するわ。その時になったら教えて頂戴。」
「よっしゃまかしとけ!」

チルノは胸を叩いた。雛は賑やかな一団へ手を振って見送った。誰もいない森の奥で、彼女はまた一人回転を始める。くるくると穢れを引き寄せる回転運動、しかしそれは優しい動きだった。





 ■ ■ ■





「げへへ、紫ちゃーん、ちょっと遊ぼうよぉ」

旧地獄の中心にある広場に、八雲紫は立っていた。身にまとっているのは粗末な白襦袢一枚、周りを取り囲む下品で酒臭い妖怪達の声に、紫は無言のまま目をそらしていた。ごろつき共は紫になれなれしく声を掛けながら、その肩、腰、尻の辺りを撫で回す。もし地上でこんな狼藉をする輩がいれば、当然五体満足では帰れまい。

「ねぇってばさ、紫ちゃん。オイ答えろやオラ」

目の前にいた巨体の妖怪が、紫の頬を強かに殴りつけた。しかし紫は抵抗しない。それは彼の嗜虐心を満たしたのかもしれなかったが、反応がないことは不満のようだった。

「すましてンじゃねぇぞこのクソアマァ!」
「うぇーん、おうおう……」

続けて紫の腹に拳がめり込んだ。結界一つ張らない紫はさすがにこらえきれず胃液を吐いてその場にうずくまる。取り囲む酔っぱらいどもはむせる彼女を肴にせせら笑った。
紫の体にはなんの拘束具もない。一応申し訳程度といった感じで脚に鎖が一本ついているが、紫でなくても切れそうなただの鎖だった。それが重要だった。容易に抵抗・脱走できる状態で、絶対に抵抗せず、往来を進む住人の要求を全て受け入れる――それが勇儀達が紫に課したみそぎだった。これでも一番楽な方である。あとは大抵死ぬかかたわ者になるような刑しかない。

「びぇ〜〜〜ん」
「へへっ、めんどくせえ、ここで犯っちまうか。オラ股開けよ紫ちゃん」
「おーんおんおん、グスッ、う゛ぇーーーんヒック」
「……」

紫の襦袢を引きはがそうとした妖怪達は、自分たちを奮い立たせるように下卑た声を上げる。しかし広場にこだまする泣き声はそれ以上にやかましかった。再び気を取り直そうと彼らは紫の裸体をまさぐる。

「げっへっへ、いい体してんじゃねぇかオメェ」
「あ゛〜〜〜〜ん グズッ ゴクゴク……プハァ えーーーん」
「……ああもうやめだチキショウ!!」

男達は苛立たしげに立ち上がった。そのまま後ろでびぃびぃ泣きながら酒を呷る伊吹萃香をひと睨みして、彼らはそそくさと往来の中へ消えていった。他の連中も泣きながら呑みまくる萃香に近づけず、遠巻きからその珍妙な光景を見ていた。あんな状態であっても鬼の四天王の一角である。絡まれたら怖い。

「あのー……萃香?」
「おーんおん……ズビビッ ふぁあゆかりぃ? ごめんよぉーゆかりー」
「あのね、そこで泣かれるとね……なんというか……」
「ふにゃ? ああごめんなんか邪魔した? どんぞどんぞ、私のことは気にしないで。グビグビ……」
「いや、助かってはいるんだけどね。」

紫の曖昧な言葉など気にも掛けず、萃香は伊吹瓢を思い切り呷ると、またわめき出した。

「聞いてよ、聞いてくれよゆかりぃー。負けちゃったんだよ、ごめんねぇ……ヒック紫に人間一匹お土産で持ってこようと思ったのに……まけちゃったんだよぉ、えーーーん」
「別にいいって、そんなことしなくても」
「でもさぁ、霊夢もさぁ、あの蓬莱人もさぁすっげえつよいんだよ。もうすんげぇ強くてさあ、私すっごくうれしくて、人間強くなったなあ、よかったなぁってすっごくうれしくてさあ……ズビッ」

紫の声はへべれけになった萃香の耳には届いていないようだった。これまで何度もこの鬼と酒を酌み交わしている紫だが、こんなに泣き上戸だったとは初めて知った。

「ぐすん、それなのにね、聞ぃてよ紫。あいつら私に勝ったのに、ちゃんと退治してくんないんだよ。倒すだけ倒してほっぽっちゃうんだよ。こっちはせーせーどーどーちゃんと勝負してんのに、鬼の相手してくんないんだよお。びえーーーん人間のバカヤローーーー……ちくしょぅ……人間ばんざーーーーーい」
「ねえ萃香? おーいすいかー」

じたばたと地面の上をもがくと、萃香はまた酒を呷りだした。紫は溜息をつく。困った友人だと思ってたが、こんな風に助けられるとは思っていなかった。おそらく向こうにそういうつもりは一切ないのだろうが。全く予定外の行動だったが、まあこういうイレギュラーは悪くないのかもしれないと紫は思った。





「橙ちゃーん ほぉら気持ちいいでちゅかー」

硬い表情の橙を膝に抱えて、火焔猫燐はうなじに唇を這わせる。そろりと腕をのばして、内股の柔らかい部分を長い爪で円を描くようになぞった。橙はその不快な感触に耐えようと、必死に歯を食いしばっていた。その抵抗すら愉しむように、お燐は逃げる橙の顔を引き寄せる。

「こういうのはいやかなー ん?」
「んんっ……」

耳をちろちろと舐めるお燐に、橙は顔を背けて抵抗する。お燐はわざとらしくがっかりした顔をして、橙の耳元に囁きかける。

「あたい悲しいなぁ。せっかく橙ちゃんと仲良しになりたいと思ったのにぃ。きっと悲しくて晩ご飯も進まないだろうなぁ。そしたらさとり様があたいのこと心配して心を読んじゃうんだろうなあ。そしたら橙ちゃんがあたいに構ってくれないことがバレちゃってすっごく怒っちゃうんだろうなあ。そしたら紫おねえさんとか藍おねえさんとか――」
「やめてっ、藍様や紫様に非道いことしないで……あたしなら、あたしならなんでもするから……」
「あははっ、いい子だねぇ橙ちゃんは。じゃあもっと仲良くしよーね。ほぉら力抜いて――」
「これお燐」

古明地さとりのスリッパがお燐の頭を叩いた。ペチンという音が地霊殿に響く。

「いたっ、ひどいですよさとり様ぁ〜」
「非道いのは貴方です。大丈夫ですか橙。ごめんなさいね。お燐は年中発情期で。」
「あたいはただ猫同士の親睦をですねぇ」
「お燐のばかぁっ」

続いてお燐の頭を叩いたのは霊烏路空の制御棒だった。ゴチンという音が地霊殿に響く。

「い゛でぇっ!」
「また浮気してっ! 私というものがありながら……」
「だからこれはあくまで猫同士の軽い親睦であってね。ほら、あたいはおくう一筋だから。ね♪」
「また調子いいこと言って。聞いて下さいよさとり様、こないだも別の――」
「ええ、知ってますよおくう。確かにちょっとお仕置きが必要ですね。今日のご飯は抜きにしましょうか。」
「そんなぁ、おくう助けてよお。おくう愛してるからぁ、あたいにはおくうしか頼れる人がいないんだよぉ」

むくれっ面の空に腕を巻きつけて、お燐は頬ずりしながら媚びた。二人はいつもこんな感じである。言葉や体でいっぱい愛を振りまけば、空はたちまち機嫌を直す。そしてそのまま数日経てばお燐の不貞すら忘れてしまう。またしばらくするとお燐が別の子にちょっかい出して空にどやされる。その繰り返しだった。
さとりはバカップルぶりを見せつけるペット達に呆れ顔を向けて、橙を起こし上げた。

「すみませんね、うちのペットが失礼なことをして。やっぱりもうちょっと躾ないとダメですね。」
「いえ、平気です。」
「そんなに緊張しないで。別に貴方に危害を加える気なんかありません。もうすぐ貴方の大切な主人がこちらに来ますよ。一緒に来ますか?……ええ、そう。その藍様です。うふふ。」





八雲藍は星熊勇儀に先導され地霊殿の門をくぐった。
緊張の色を隠せない藍を余所に、勇儀は鼻歌交じりにエントランスを通る。そこでは古明地こいしが二人の到着を待っていた。不慣れな様子でぴょこりと頭を下げるこいしに、勇儀は懐かしい顔を見たという風に手をあげて挨拶をする。

「おや、古明地の妹さんじゃないか。久しぶりのご帰宅かね?」
「うん。ちょっとこっちに用事があったの。でも最近忙しくて。勇儀さん達の案内をしたらまた出掛けないといけないのよ。」
「家出してフラフラするのが忙しいとは、なかなか面白い表現だね。お姉さんが泣くよ。」
「えー私だってやることいっぱいあるんだよー、ふふふっ。」
「わるいわるい。言い過ぎたよ。ところで首にかけてるそのおもちゃ、お姉さんに買ってもらったのかい? ここいらでは見たことないが。」
「ああこれ? 違うよ。お友達からもらったの。とっても面白いんだよ。今度勇儀さんにも貸してあげるね。」
「ははは。楽しみにしとくよ。」

勇儀とこいしの談笑を藍は物憂げに聞いていた。切実さからは程遠いやり取りは、藍のイメージしていた地底にはない一幕だった。こいしは藍の姿にようやく気付いたようだ。もう一度ぺこりと頭を下げなおして、邪気のない笑顔を向ける。

「ああごめんなさい、勇儀さんとばっかりしゃべっちゃって御挨拶が遅れました。はじめまして、八雲藍さん。」
「お邪魔致します。」
「ようこそ地霊殿へ。じゃあ立ち話もなんだから今お部屋へ案内するね。もうお姉ちゃん待ってるよ。」

こいしはにこにこと笑いながら勇儀と藍を応接間へと案内する。そこには既にさとりと橙がいた。橙の姿を見て、藍は初めて険しかった表情を崩した。

「橙……無事か?」
「はい。藍様こそ……」
「あらあら、信頼がないのですねえ私たちは。まあ固い絆故の挨拶ということでしょうか、うふふ。」
「ほら、藍。そんなとこに突っ立ってるなって。掛けなよ。」

勇儀に促されて、藍は腰掛けた。だがその顔から警戒は未だ解けていないようだった。

「さて、まずは藍さんの疑問に答えましょうか。……ここに貴方を呼んだ理由、そしてあなた方への処罰の内容、その二つでいいでしょうか?」

藍は無言のままだった。さとりは首肯する心の声をしっかりと聞きとげて、静かに語り出した。

「まず最も基本的なことからいきましょうか。この地下に来た経緯を、貴方は聞かされていないようですから。」
「どういうことでしょうか?」
「まあ焦らないで。こちらへ来たのは貴方の主人、八雲紫様が望んだことなのですよ。あの方は自分から望んでここへ来られたようなのです。」
「そんなバカな……だって」
「ええ。貴方と紫様は天狗と人間にはめられてここに追放された。それが貴方の理解ですね。でも貴方の主人はそうなることをある程度計算した上でここに来たようなのです。天狗と人間の不穏な動きについては、例の枢密院が開催される前から私の方へもほのめかされていました。」
「そんなことは信じられません……」

唖然とする藍をさとりの目が覗き込んだ。さとりはゆっくりと時間を掛けて、藍の心を揉みしだくように言葉を連ねる。

「残念ですが、あの方の目的について私も詳しく知っているわけではありません。だから私を詰問して何らかの真相を得たいという、貴方の思いに応えることはできないことを予め断っておかねばなりません。
 ただ、先日の裁判ごっこの最中に紫様が私に伝えたところによれば、今地上では秘かに反攻の機が整えられつつあるとのことです。あの方のご友人である……ええそう。貴方もよくご存じのようですね、西行寺幽々子という方が何かを企てているようです。詳細については紫様も教えて下さりませんでしたが。」
「あの裁判の最中に紫様と貴方はそんなことを?」
「まああんなものは余興ですからね。適当な言葉を並べただけで観衆は喜びます。彼らにとって内容は無意味ですから、別に心を読まなくともなんとでもなるのですよ。まあもちろん、余興を台無しにしてしまった私はまた嫌われるでしょうねぇ、ふふっ。
 でも別に構いません。嫌われるのは慣れていますし、もう私もあんなことはしたくなかったのです。それに私を怨めばあなた方への怒りの矛先も緩むでしょうから。」
「ということは……」
「そう。さとりは観客に矛先を向けて場に水をぶっかけることで、あんたらの刑が必要以上に重くならないようにしたんだよ。私があんなところで横やり入れたのも予定通りってわけだ。」

さとりの代わりに勇儀が口を開く。さとりは藍の思考をその都度丁寧に確認しながら、疑念を解きほぐしていく。

「……ええそうです。貴方が思っているほど、地底の妖怪達はあなた方を嫌ってはいないのですよ。もちろん月のことや一連の結界について、多くの妖怪は貴方の主人を赦していないし、怨嗟の念を抱き続けています。しかしそれももはや形式的な恨みに近いのです。
 裁判の時も言ったように、我々はそれなりに規律を持って好きなように生きているのです。別に地上への憧憬も口で言うほどには持っていない。満足しているのですよ今の生活にね。まあ地上の妖怪にそんなことを言われれば顔を真っ赤にして怒るでしょうが、実際もう過去のことにたいした関心はないと言ってもいい。そういう屈折した存在なのです、分かっていただけますか。」

さとりは自嘲気味に微笑んだ。勇儀も頷いて藍に理解を求める。

「ああやっと心の警戒を緩めて下さいましたね。うれしいです。今日貴方をお呼び立てしたのはこのことを理解して欲しかったからです。紫様にも貴方にもそれなりの刑に服していただきますが、それは悪意からではない。一応形だけでも謝罪のポーズをとっていただくことで、これ以上わだかまりを作りたくなかっただけなのです。言ったでしょう? 私は憎しみを連鎖させたくないと。」
「血の気が多いのばかりだからね。一旦火がつくと何するか分かったもんじゃないけど、ああやってさとりが釘を刺したし、私も鬼の頭角として無茶はさせないように言うから、もう危なっかしいことを言い出すのもいないだろう。だからしばらく我慢しとくれないか。」
「……わかりました。では――」
「ええ、橙さんはこちらで預からせていただきます。やはり旧都は慣れないとそれなりに危ないですからね。地上がどう動くのかは様子見ですが、その時には我々も微力ながらお手伝いさせていただきますよ。」
「申し訳ありません。でもなぜ――」
「……ふふっ、こんなに協力的な理由ですか? 私はただ無駄な殺生を好まないだけですよ。それに勇儀達鬼は怒っているのです。天狗の謀反にね。」
「山を預けたときはもっとまっとうな連中だと思ってたんだけどね。本当にあんたらの言う通りなら情けない話だ。地上に出られるんならぶん殴りに行くところだよ。」
「残念ですが……我々を何らかの理由で貶めようとしたのは事実です。」

勇儀は顔を下に向けて大きく息を吐いた。さとりは一度ゆっくりまばたきをして、藍の手を取る。

「では、これから貴方はしばらく地下深くの採掘場で働いていただきます。危険がないと言えば嘘ですが、現場では鬼にしっかり監督させます。貴方ほどの力があれば体力的にも問題はないでしょう。何かあればすぐ連絡しますので。……ああ、そんなに自責の念にばかりとらわれないで下さい。貴方が人間を殺したのが事実としても、こうなったのは貴方のせいではありませんよ、うふふ」





 ■ ■ ■





大妖精は、ずっと違和感を持ちながらチルノの横を飛んでいた。
彼女はチルノのしょうもない企てに付き合うことが多い。そしてそれは大抵何も起こらずに気付いたら終わっている。
この前は幻想郷中の蛙を全て凍らせて山の上の蛙神を倒すと言い出したチルノに付き合った。結局冬で蛙が見つからず、気付いたら妖精達のかくれんぼになっていた。
別の日には寺子屋の子供たちをきんきんに冷やして里を恐怖のどん底に落とすと言い出したチルノに付き合った。その日は季節外れの猛暑で、逆にチルノは子供たちの人気者となった。寺子屋の先生にはこっぴどく怒られたが、結局そのあと子供たちと一日中遊んで帰った。チルノが言い出す最強の計画とはいつもそういうものだった。

だが今日の宴会計画は違うのだ。大妖精は自分たちの前を飛ぶ村紗水密という舟幽霊に視線をやった。酒造りに必要な何かを取りにいくため、里に向かおうと言い出した秋穣子の前に突然現れたのが、このムラサという妖怪だった。彼女によれば里まで行かずとも麹やら何やらを確実に手に入れる方法があるという。それならばと、穣子も案内を頼んだのだった。
周りの妖精達はそんなやり取りも露知らず、酒ができるとはしゃいでいる。でも大妖精はちょっと気がかりだった。チルノが言い出した企てがこんなにトントン拍子で進んでいくのは初めてのことだった。

「どうしたのさそんな顔して。もうお酒ができるんだよ!」

渋い顔の大妖精に、サニーミルクが明るく声を掛ける。彼女はもう酒を呑んでできあがったかのように上機嫌だった。見ればチルノも同じような様子である。大妖精はごくりと唾を飲みこんだ。彼女は妖精達の集まりで盛り上がりに水を差してしまうことが多かった。
今日もみんな盛り上がっている、自分がここで変なことを言ってはいけないんだ――大妖精はそう考えた。

「ううん、なんでもないよ。たのしみだねー」
「あははっ。どんなお酒ができるのかなー」

サニーは楽しそうに旋回した。これでいいのだろう。大妖精は納得する。


「ひひひ、ここだよ。ここ。」

ムラサは持っていた柄杓で地面を指す。そこには大きな空洞があった。どうやら洞窟の入り口らしい。

「ここ? こんなとこにその麹ってのがあるの?」
「そう。持ってる奴がいるのよ。ちょっと中に行けば会えると思うよ。ひひひ」

比那名居天子の怪訝そうな表情に、ムラサは軽妙な調子で答える。妖精達はその言葉を待たずどんどん奥へと進んでいった。少し警戒していた穣子も意を決したようにそれに続く。


「おい、だれかいないかーー!?」
「誰だいこんなご時世に。」

洞窟に反響するチルノの声で揺り落ちてきたかのように、上から逆さまの格好で下りてきたのは土蜘蛛の黒谷ヤマメだった。続いてもう一つ上から降ってくる。桶に入ったキスメだった。

「あたいはしがない最強の"かんじ"だ。」
「妖精かい。ここら辺は危ないよ。早くお帰り。」
「ねえ貴方がヤマメさん?」

初対面の穣子に名前で呼ばれて、ヤマメは少し驚いたような顔で彼女の方を見遣る。

「そうだけど、何か用かね?」
「日本酒を造る為の麹を貴方が持ってるって、ムラサっていう舟幽霊から聞いたんだけど。」
「ムラサ……? はて誰だっけ。」
「ほら、この間、地上に行った、船長さん」

キスメの言葉に、ヤマメは手をポンと叩いて得心した。

「ああ、あの船長さんね。なるほど、地下の者の紹介か。じゃあ協力してやらんといけないかな。」
「それで、本当に持ってるの? その麹っての。」

訝しげなままの天子にヤマメはウインクを返した。

「酒を造るにはねえ、目に見えないような小さな生き物の力がいるんだ。そいつがただの穀物の汁を、酒に変えてくれる。」
「「「おーなんかよくわかんないけどすげぇなそいつ」」」
「でだ、私は病原菌を操れる。まあ分かりやすく言うと病気の元になる目に見えないような小さな生き物だ。」
「「「げぇーばっちー」」」
「最後まで聞きな妖精。でもね、病気を起こす菌類と酒を造る菌類は仲間としては近いんだ。酒を造る微生物の大部分は人間には有害じゃないけど、病気になる生物は他にもいっぱいいる。いい酒を造るものの中には妖怪や獣にとっての病原菌がいるんだよ。」

そう言ってヤマメは手を握った。手のひらがぽっと明るくなる。すると拳の中からサラサラとした粉のようなものが流れ出た。ヤマメはその粉を瓶に詰めると、蓋を閉める。

「はい。これが酒を造るもと、麹菌だよ。」
「「「この粉が?」」」
「そうさ。日本酒だったね。作り方はわかるかい。」
「どうせ妖精のお遊びだからねぇ、どぶろくでいいでしょ。大丈夫大丈夫。」
「はいよ。じゃあもっておいき。」
「「「わーい完成だー」」」

説明もろくに聞かず再びはしゃぎ回る妖精達に、ヤマメも思わず苦笑いを浮かべた。穣子も同じような顔をしながら、その瓶を受け取る。

「そうだ。あんたら甕はあるのかね。」
「いや、それもこれから探そうと思ってたのよ。」

天子の言葉に、ヤマメとキスメは目配せした。

「じゃあキスメが大きなのを持ってるから使えばいいよ。」
「いいよ、すこしふるいやつだけど、あげる。これなら、爆発しないし」

桶の中からはにかむキスメに、宴会一行も思わず微笑み返した。飛び跳ねる妖精を余所に、穣子と天子が二人の地底妖怪に礼をする。

「そーだ。なんか分からんがお前達も宴会にこいよ。協力者だもんな。」

チルノの提案に、ずっと穏和だったヤマメの顔が渋くなった。

「うーん。宴会は大歓迎だけどねぇ……今は難しいだろう。」
「気にすんなって。」
「今回はよしとくよ。あたしらこれからやらなきゃいけないこともあるしね。」
「ごめんね」

キスメもぺこりと頭を下げる。

「どこでやんだい? 行けるようになったら行くよ。」
「えーと。考えてねえや。」

一同がずっこける。チルノはそんな反応を気に掛けることなく、ヤマメとキスメに手を振って地下を後にした。

「これでなんとかお酒できそうね。」
「さっきのムラサって奴のおかげね。そういやあいつどこ行ったんだろう。」

洞窟を出た天子は辺りを見回す。他の連中も天子の動きに続いたが、ムラサの姿はどこにも見当たらなかった。大妖精の胸に、またちくりと違和感が刺さる。

「おや、チルノじゃないですか。」

入れ替わりに彼女たちの前に現れたのは、紅魔館の門番紅美鈴だった。彼女は仕事柄チルノや妖精達とは顔なじみである。久々にあった顔に、妖精達も飛びついた。

「めーりんじゃん。何やってんのこんなとこで。」
「あーまたサボってるんでしょう?」
「いや、違いますよ。ひひひ、サボってるんじゃないです。」
「うそくさいわー」

スターサファイアの追究に、美鈴はたじたじといった様子だった。彼女は話をそらすように尋ねる。

「皆さんは何をしているんですか?」
「んー、宴会やろうと思ってね。お酒作る準備してたんだけど。」
「あたいが"かんじ"やるんだ。めーりんもこいよ」
「ひひひ、それは面白そうですね。」

胸を張るチルノに、美鈴はいつもの人なつっこい顔を浮かべる。自信満々のチルノをこづきながら、ルナチャイルドは美鈴に愚痴をこぼす。

「でもこのバカ場所すら決めてなかったのよ。ったくなんにもできないんだから。」
「なんだと!」
「ほらほら喧嘩しちゃダメですよ。そうだ、紅魔館でやるというのはどうですか。お嬢様も妖精が造ったお酒なんて面白がって下さるかもしれませんし。」
「おお、それいいな。正にあたいの最強の宴会にふさわしい。」
「紅魔館ってこないだでっかい花火あげてたよね。宴会場として最高じゃん!」

サニーもチルノに同意した。他の連中も特に異存ないようだ。

「じゃあ私からお嬢様に伝えておきますので、準備ができたらいらして下さい。ひひひ」

美鈴はそう言って飛び立っていった。なんでも早く帰らないと咲夜にどやされるらしい。皆笑顔でそれを見送った。次第に宴会が形になっていく。美鈴と妖精のやり取りと見ていた天子にとってもそれは信じられないことであった。

「よーし、後必要なのは――」
「食べ物と……」
「音楽と……」
「お花ね!」

三月精がテンポよく続く。チルノは誇らしげに皆に指示を出した。

「よし、じゃあ三つに別れるぞ。音楽はちんどん屋だろ。花は……あのこわいヒマワリねーちゃんに酒を奢って頼もう。で、食い物は何食いたい?」
「「タケノコー!」」
「そうね。他のは森で準備できるけど、タケノコは採ってこないとダメよねー」
「じゃあ竹林に行こう。あのあっちい火の鳥ねーちゃんに頼めばタケノコくれるはずだ。じゃあいくぞー!」
「「「「「おー!!」」」」」





 ■ ■ ■



「咲夜。喉かわいたー」
「お待たせ致しましたお嬢様、パチュリー様。本日はセイロン、お菓子はパウンドケーキです。」
「じゃあミルクティーにしようかしら。」
「私はいつも通りでいいよ。」
「あーお姉さまずるーい。あたしもそのケーキ食べたーい。」
「ちょ、なんでフランがここにいるの。出てきちゃダメっていってるでしょう。」
「私がお呼びしたんですの。お茶会はみんな一緒の方がいいかと思いまして。」
「ぶーぶー、いいじゃん。お姉さまのケチー」
「いいじゃないレミィ、せこいこと言ってるとまた身長縮むわよ。ひひひ」
「縮んでないやい! 紅魔の王は日々すくすくと成長してるんだ。あと300年ぐらいでパチェよりグラマーになるもんねー」
「はいはい」
「じゃああたしはいつかお姉さまよりボンキュッポンになるー ひひひ」
「あらまあ。ではお洋服を仕立て直さないといけませんわ。300年分。」
「咲夜さーん。お腹減りましたぁ……」
「美鈴。門番に休憩はないわよ。さあ仕事場に戻った戻った。」
「そんなぁ〜せめてなんか食べさせて下さいよぉ〜 ひひひ」
「いいじゃない咲夜。せこいこと言ってるとまた胸小さくなるわよ。」
「フランがいいんだったら美鈴だっていいじゃん。ひひひ」
「……そうですか。まあお嬢様がそう仰るなら。今追加のケーキとお茶持ってきますね。パチュリー様の分は抜きで。」
「やったー。何か食べれるー。ひひひ」
「どうして私だけ抜きにされるのか理解に苦しむわ……ひひひ」
「咲夜さん。新しく焼いたケーキ、おもちしました。」
「あらこあ、本の整理終わったの?」
「いえ、まだです……すみません。今すぐやりますので。ひひひ」
「いいじゃんパチェ。せこいこと言ってるとまた太るよ。ひひひ」
「まあそれは大変ですわ。やっぱりケーキは抜きにしましょう。」
「むきゅー こあ、みんながいじめるわ。助けて頂戴。ひひひ。」
「わーいみんなでケーキ♪ 咲夜、お姉さまより大きく切ってね。ひひひ」
「もちろんですわ、フランお嬢様。」
「うー 咲夜がいじめる。おい咲夜なんとかしろ。ひひひ。」
「わひゃひがおたひゅけひまひょうか。ムシャムシャひひひ」
「美鈴、貴方はまず口の中のものをどうにかしなさい。」
「あの咲夜さん、ケーキはこれでいいですか? ひひひ」
「あら、貴方の分がないじゃない? 貴方もお茶会の一員よ。さあ早く座って。」
「そうよこあ。早くこっち来て座りなさい。ひひひ」
「あ、ありがとうございます。パチュリー様、咲夜さん。ひひひ」



 ■ ■ ■





博麗霊夢は昼食を手早くすませて、里長の所へ向かった。まだ所々体は痛むが、これが済めばとりあえず一段落だ。早く里に引いた温泉とやらに浸かって、一杯引っかけながらのんびりしたかった。霊夢が働き者ではないことは自他共に認めるところである。

「これはこれは、お疲れ様でした。博麗の巫女様。」

珍しく柔和な顔立ちを向けて、新里長である霧雨商店の店主は霊夢を出迎えた。部屋の中には上白沢慧音の姿も見えた。こちらも晴れ晴れとした表情ではあったが、どこか心ここにあらずといった風にも見えた。慧音は跳ね起きたように顔を上げて、部屋に入ってきた霊夢をねぎらう。

「ご苦労だった、博麗の巫女。」
「ホントにご苦労だったわ。まあ私は結界張ってぶっ倒れただけだから、そんなに誇れる立場じゃないけど。」
「いや、そんなことはありません。魔女共の暴走を食い止めたのは紛れもなく巫女様の御力。隕石をそらし、被害をあの屋敷だけに留めたのですから。」

霧雨翁の言葉に、霊夢は微妙な表情だけ返した。本気の魔理沙に対して全力の結界を張ってから、彼女の記憶はない。そのまま力を使い果たして倒れてしまったらしい。魂魄妖夢に運ばれて、霊夢は気を失ったままの状態で里に帰ってきた。そのまま丸一昼夜寝ていたらしい。

「さあどうだかね。で、あいつらはみんな死んだわけ?」

霊夢は呟くように訊いた。

「レミリア・スカーレットについては東風谷様が確実に仕留めました。十六夜咲夜も昏倒させ、無事里に連れ戻しました。魂魄殿によると、紅美鈴なる妖怪も仕留めたそうです。また蓬莱山殿によれば、フランドールという吸血鬼の片割れも始末したとのこと。」
「そう、じゃあ魔理沙達は分からないのね。」
「東風谷様と魂魄殿があの後捜索したそうなのですが、なにせガレキが多く魔法遣い達の死体を発見することはできなかったとのことでした。まあ我々の目的は人間の奪回と紅魔の討伐なのですから、これで十分でしょう。」

淡々と説明する霧雨翁に、霊夢は薄ぼんやりした声を投げた。

「残念だけど、魔理沙は――」
「ええ、知っていました。討伐隊を編成する前から。」

霧雨翁は待ちかまえていたように、霊夢の声をきっぱりと断ち切った。

「妖怪となれば、もうどうともなりますまい。巫女様のお心遣いは有難いですが、あれとはもう縁を切ってありました。気になさらずとも。」
「そう……」

少しの沈黙が二人の間に流れた。霊夢は淀んだ空気を振り払おうと、動かない頭を絞って話題を探す。

「そういえば妹紅は?」
「それが……わからないんだ。」

次に消え入りそうな声を出したのは慧音だった。霊夢は変わらない空気に少しばかり絶望を覚える。

「里に帰ってもいないし、妖夢達も見ていないという……どうやら鬼と戦っていたそうなんだが、その後なぜか忽然と姿を消してしまって……」
「あいつは死なないから、どっかにぶっ飛ばされて倒れてるとか?」
「あるいは鬼に攫われたのかもしれない。今捜索隊を組んでいるが……心配でどうしたらいいかと」

泣き出しそうな慧音に、霊夢はその話題を振ったことを後悔した。バツの悪そうな顔のまま、彼女は必死に悩むしぐさをする。

「地下にいないかについて後日確認を取りたいとは思っているのですが……掟がある関係上、少々難しいかと。」

霧雨翁も苦しげに言葉を出す。当分温泉は先になりそうだという漠然とした予感が霊夢の頭をかすめた。

「わかった。それについては後で私も協力する。で、咲夜は今どうしてるの。」
「それが……」

次に口ごもったのは霧雨翁だった。どういう話題を持ってきてもこうなることに、霊夢は心の中で自嘲するしかなかった。

「こちらに来た直後は、出された食事にも手をつけず、眉一つ動かさず、まるで死んだようにずっとうずくまっていたのですが、一昨日ぐらいからでしょうか、急に元気になったと言いますか……」
「いいことじゃない。なら今会える?」
「いや、元気と言っても少し事情が違いまして……かつて一緒に住んでいた妖怪達の名を呼びながら部屋の中で一人、給仕の真似事をしているのです。何もない部屋の中で、茶を供したり、家事をしたり、物語を読み聞かせるふりをしたりと。まるで彼女にだけ誰かが見えているようにずっとです。加えて部屋の中から動物の鳴き声がするというのです。猿と申す者もおりますし、ツグミとも、狸とも申す者もおります。それがのべつ幕なし聞こえるので皆気味悪がって近寄りません。」
「つまりそれって、イカれたってこと?」
「まあ平たく言えばそういうことになるやもしれません……」

霊夢は大きく溜息をついた。咲夜がまともに里に順応するとは思っていなかったが、こうもあっさり正気を失うとも思わなかった。霊夢は彼女のことをそれなりに強い人間だと思っていた。

「――ごめん、もう今日は帰るわ。なんか疲れた。」

どっと疲れが押し寄せた。霊夢はのっそりと立ち上がると、口をへの字にしたまま玄関へ向かった。慧音と霧雨翁への挨拶もそこそこに、彼女は戸を荒っぽく引く。

「ああ、博麗の巫女様。丁度いいところに。大変です!」

それは里の見張りをしている退魔師のようだった。霊夢は有無を言わさず引っ張られる。どうやら彼女に安息が与えられることはないらしい。

「空から、船が下りてきたのです。私たちにはどうしたらいいか……」





里に降り立った船とそこから出てきた人物を見て、霊夢は唖然とした。
体を覆っていた疲れもすっかり吹き飛んでしまった。回復したわけではない。今の疲労を上回るストレスが霊夢の体を支配したからに過ぎなかった。

「お久しぶりですね。地球の巫女。」

頼りなさげに耳を揺らす玉兎のレイセンに先導されて、綿月豊姫は霊夢へ懇ろに声を掛けた。その後ろに立つ妹の綿月依姫は憮然としたまま霊夢をじろりと睨みつける。

「……なんで?」
「こちらの代表の方に重要なお話があります。是非お通しして下さらないかしら。」

豊姫はいつもと変わらぬあのつかみ所のない笑みを浮かべて、霊夢にゆっくりと詰め寄る。気品に満ちた佇まいであったが、それは月人の傲慢さも満ちていた。




結局霊夢は霧雨翁と慧音の二人とまた顔を合わせることとなった。場所は博麗神社の分社、指定してきたのは訪問者の方だった。対峙する霧雨翁にもさすがに緊張の色がうかがえた。豊姫は早速交渉に入る。

「貴方がこちらの代表の方ということでよろしいのかしら。」
「はい、僭越ながらこの里の長をしております、霧雨と申します。」
「そうですか。私は綿月豊姫と申します。皆様が常日頃仰ぎ見ていらっしゃるであろうあの月の代表として、今回は霧雨様におりいって願い上げたいことがあって参りました。」
「私は綿月依姫、豊姫君の補佐として今回は同行した次第です。こちらは部下のレイセンとなります。」

レイセンは無言で礼をする。里の三人もそれに返した。

「して、豊姫様。ご用件というのは如何なるものでしょうか?」
「ええ、最近こちらの情勢に大きな変化があったという報告を得ましてね。その中に少々気になる情報がありまして。」

豊姫は口角を引き上げて笑みを作る。心にもない笑みに霊夢は思わず拳を握りしめた。

「なんであんたがそんなことを知って――」
「幻想郷と月は現在休戦状態にあります。月は常に敵の動向に監視の目を光らせ、些細な情報も逐一チェックしているのです。」

依姫は切り捨てるように言った。豊姫は無愛想な妹を諫めるように一つ息を入れて、説明を続ける。

「気になる、というのは八雲紫なる妖怪についてです。情報によれば八雲はここで謀反を起こし、追放されたと聞きうかがっておりますが。」
「確かに。あれは地下に追放された。現在の幻想郷ではあれはただの犯罪者だよ。」

幾分とげとげしさを含んだ慧音の返答に、豊姫は満足げに頷いた。

「では西行寺幽々子は?」
「現在冥界にいる。幻想郷はそれぞれの種族ごとの交流を断った。亡霊の近況など、人間である私たちの知るところではない。」
「では、西行寺も現在あなた方にとって重要な存在ではないということですね。」
「言っている意味が分からんな。」

いぶかる慧音を諭すように、豊姫は眼を閉じたまま必要以上にやんわりとした口調で言葉を紡ぐ。

「霧雨様は月と幻想郷の妖怪との間で起こった戦争についてご存じでしょうか。」
「文献を通してではありますが、最低限のことは承知しております。」
「それは話が早くて助かります。千年前とつい最近、最近の方はそちらの巫女も関わっておいでですから記憶に新しいやも知れませんが、幻想郷の妖と月の民による、無益で陰惨な戦いがありました。」
「妖怪の狼藉沙汰なぞ我々人間にとっては何の関わりもないことだ。」
「どうか気を急がずに。その戦いがこの大地の民の間でどう語られているかは存じ上げません。ですが我々としてはあの出来事を看過する気など毛頭ありません。月としては、あの戦争を引き起こした責任者を決して許すつもりはない。」

豊姫は閉じていた目を開いた。

「第二次月面戦争後にですね、月では両戦争の首謀者と目される八雲紫、西行寺幽々子両名に対し、戦争犯罪者として指名手配が出されたのですよ。」
「つまり、我々の要求はこうだ。指名手配犯である八雲紫、西行寺幽々子が失脚し、この大地で特権的な地位を剥奪された。であれば革命後の代表者の一人として、彼ら犯罪者共の身柄受け渡しに協力してはくれまいか。」

話の長くなりそうな姉に代わって、依姫が簡潔に説明した。大事なところをとられたと少し不満げに唇を突き出した豊姫が、渋々依姫の説明を引き継ぐ。

「もちろん、犯罪者の身柄受け渡しには国交というものが必要です。聞けばあなた方幻想郷の人間達は八雲紫の干渉を排し、独立した権利を得たとのこと。であるからこそ、あなた方のことを見込んでまず御相談してみようと考えたのです。悪しき妖怪の引き渡しをね。当然それに伴って我々は和睦を結ぶわけですから、こちらからも皆様へ惜しみない援助を送りたいと思います。月が持つ優れた技術を皆様には惜しみなく提供しましょう。埃臭い妖怪など一蹴できるほどの智慧をね。」

三人の地球人は固まっていた。霧雨翁も慧音も、豊姫の依頼に目を丸くしてあっけにとられていたが、その表情の底には鈍い輝きがあった。霊夢だけが、月人の落ち着き払った態度の裏をほじくり回すようにじろじろと視線を遣っていた。

「言ってることはまあわからなくはないけど、いきなりそんなこと言われても到底信じられないわ。」
「大変申し訳ありませんが、私も博麗の巫女と同じく、あまりにも急な御話で戸惑っているというのが実際のところです。」
「それは当然です。我々月としても早急に返事を求めるような無粋なことは考えておりません。」

ようやく口を動かした霧雨翁へ、豊姫は包み込むような笑顔を投げる。少し緩んだ空気に、慧音も続いた。

「失礼な質問と承知の上でお尋ねしたいのだが、その……月の技術というのは具体的にどういうものなのか?」
「あらとんでもありませんわ。当然の疑問です。」

豊姫は笑みを絶やすことなく小さく頷く。それに続いて依姫がそらんじるように慧音の疑問に答える。

「基礎科学については習得に多少時間も掛かりましょうから、必要であれば月への手厚い留学制度を設けます。実学については各分野の専門家をこちらへ派遣しましょう。医学や工学が例として挙げられましょう。もちろん機械や畜農といった分野もあります。食糧開発から軍事兵器まで。」
「軍事兵器?」
「あら、そちらに御興味がおあり?」

依姫の最後の言葉に食いついた慧音に、豊姫が食いつき返した。見れば霧雨翁の石のような面立ちにもほんのわずか興奮の色がうかがえる。

「そうですわ。もし兵器関連に関心がおありならこういうのは如何でしょう。確か船には護身用ということで簡単な武器が積んであったはず。それが実際にどんなものか見てみるというのは。百聞は一見にしかず、そちらの方が早いと思いますわ。」
「そ、それは確かに興味深いが……」
「もし刑の執行待ちの妖怪などがいらしたらお貸しくださいませ。試し撃ちなども可能です。」

豊姫は霧雨翁へ妖艶な笑みを向ける。戯れが過ぎると依姫が止めに入ろうとしたがそれも無駄なようだった。豊姫にいざなわれた人間達に、提案を拒否する余地はなさそうに見えた。




 ■ ■ ■




雲居一輪は縛られたまま地面に転がされた。里の中央通りにある大きな広場には、一輪を囲むように人垣ができていた。彼女を引っ張ってきた慧音が、その生贄の頬を踏みつぶす。その衝撃で猿ぐつわが少し緩んだようだ。一輪は自分の遥か上に並ぶ人間達へ憎悪を込めた視線を投げつけながら、振り絞るように叫んだ。

「死ね! 貴様らみんな死んでしまえ! よくも姐さんを……死ね!」
「こいつどうしたの。」
「お前が紅魔館から帰ってきて前後不倒になっていた時に単身里に乗り込んできてな。これから処分しようと思っていたところだったのだ。」

慧音の返答を聞きながら、霊夢は興味なさげに一輪へ視線を落とした。彼女はずっと何か叫んでいたが、霊夢の耳には入ってこなかった。それはもうどうでもいいことだった。見物人の人垣もますます増えているようだ。彼らもなにやら盛り上がっているようだったが、それも霊夢の耳には雑音としてしか入ってこなかった。

「お待たせ致しました。」

龍神様の像の後ろから、豊姫達が入場する。並んで入ってきた霧雨翁に、彼女は船から持ってきた銃を手渡す。
それは彼のよく知る火縄銃と形こそ似ていたが、手から伝わる感触も、重さも全く違った。子供でも持てそうな軽さに、硬質で力強く、それでいて吸い付くようなグリップ。もともと大柄の彼は、それを手にすることでさらに大きくなったように見えた。
銃をしげしげと見つめる霧雨翁の手を取って、豊姫は説明を始める。

「使い方をお教えしましょう。そちらのレバーを手前に引くと実体用、奥に引くと霊体などの非実体用に効果を持つようになります。あの妖怪であれば実体用ですね。」

豊姫は説明をしながらレバーを倒す。構えをとる霧雨翁の胸に飛び込むように、彼女は体を寄せる。

「そうです。こちらのスコープで標的を一度捕らえれば、どれだけ敵が動こうと銃が勝手に狙いをつけてくれます。あとはこちらの引き金を引くだけ、簡単でしょう?」
「ええ、確かに。よくできておりますな。」

スコープを覗く霧雨翁に、豊姫も顔を寄せて一緒に小さいスコープを覗く。大きな白い帽子が、彼の額を優しく包み、柔らかな少女の頬が男の固いほお骨に吸い付く。スコープに当たって跳ね返った吐息が、甘い匂いと共に男の唇をくすぐった。豊姫は指を絡めるように、霧雨翁の指を引き金へ運びながら引くそぶりだけをする。そのまま離れることなく、豊姫は向かい側に立つ慧音に声を投げ掛けた。

「そうですわ。上白沢様、それの縄をほどいて下さい。」
「そっ、そんなことはできん。危険だ。」
「大丈夫です。月の技術を信頼下さい。万一外したしても、ここには依姫がおりますわ。皆様には絶対に傷一つ負わせません。」

依姫は無言で慧音へ頷きかけた。慧音の視線を待つことなく霊夢も頷く。慧音は渋々一輪の捕縛を解くと、彼女を広場の中央に蹴り飛ばした。

「お前らのせいなんだ、みんなお前らのっ! 姐さんの仇……死ね、お前らみんな死ねえっ!!」

人垣全てを呪った一輪は、誘われたかのように霧雨翁と豊姫の方へ飛びかかっていった。
ゆっくりと、しかし確実に、小さなスコープが顔をグシャグシャに歪めた入道遣いを捉えた。余裕たっぷりの女に支えられて、険しい顔の男は引き金を引く。

音はなかった。ただチカッと光っただけのように慧音には見えた。しかし同時に視界に入った一輪は、胸元から腿の付け根に掛けての一切を吹き飛ばされていた。

「うんざあぁぁん、いけえええぇぇぇっ!!」

声帯を使い潰すように、一輪は金切り声を上げて手にあった金輪を振り上げた。広場がたちまち暗くなる。彼女の最期の声を引き受けるように、雲山は広場を囲う野次馬全てを覆うほど肥大化させた拳を、地面に向かって振り下ろす。

「――っ!!」

しかしその拳は、皆の頭上よりかなり高いところで止まった。いつ抜いたのかすらわからぬ刀を空へ掲げて、依姫は表情一つ変えずにその拳を受け止めていた。一瞬肝を冷やした慧音の横で、霊夢は札を手にすることもなく、ただそのやり取りをぼんやりと眺めていた。手を貸す必要など一切ないことは、そこにいた人間の中で霊夢が一番よく知っていた。

「これはなんですか、依姫君?」
「入道という妖怪です豊姫君。地上の穢れた大気が集まってできたものと聞いております。」
「あら。では霧雨様、レバーを逆へ倒して下さい。そしてグリップのところについているそのボタンを押しながら引き金を引いて下さい。広範囲への拡散連射が可能となります。」

豊姫は上空を覆う拳など歯牙にもかけぬそぶりで、丁寧に使い方をレクチャーする。言われた通りにしながら、霧雨翁は銃口を空へ向けた。
また音はなかった。ただ先ほど一輪を抉ったような穴をいくつも空けて、雲山は正に霧のように消えてなくなっていった。

「お見事。大変お上手ですわ。」
「これ、は……」

パチパチと小さい拍手を送る豊姫の前で、霧雨翁は手にあった銃をまじまじと見つめていた。向かいに立つ慧音も呆然とした様子であった。一瞬の静寂をおいて上がったのは雪崩のような拍手。それは人垣からだった。恐ろしい妖怪をまるで蟻を潰すように屠った光景は、それこそ手品か大道芸にしか見えなかった。
無表情のまま刀を鞘に納める依姫とは対照的に、人間達の反応がたいそうお気に召した様子の豊姫は、そこにいるもの全てに届くような明快な声を霧雨翁へ向かって囁きかけた。

「如何でしたか。お気に召していただけたでしょうか。あいにくそれは一般兵に持たせているもので、最新式ではないことをお詫びせねばなりません。ただ、この有意義かつ歴史的な会談に参席して下さった皆様に感謝の意を込めて、粗末なものではありますがそちらと同型の銃を五丁、里の皆様に献上したいと思います。」
「我々の滞在予定は五日です。それまでにこちらの要求に応じて下されば、より本格的な技術提供を約束しましょう。」





 ■ ■ ■





香霖堂は重苦しい空気に包まれていた。

「して、その話呑んだのか?」

客の途絶えた道具屋の一番奥まったところにある部屋に響いたのは、大天狗長の声だった。堂々たる体躯には、湿気を一杯に含んだ魔法の森の空気がへばりついている。

「いや、検討するとだけ言っておいた。期限はあと四日だ。」

向かいに座る霧雨翁は、これまた湿気をたっぷり吸った髭をひくひくさせながら、大天狗に答えた。不快指数の高い部屋の中で、二人の大男は居心地悪そうに椅子の上で体を揺すっている。

「まあ妥当ね。だけどその顔を見るに引き渡しに応じる気満々といった印象だけど。」

その湿気を愉しむように、洩矢諏訪子は霧雨翁をあげつらう。じとじとした森の空気は、蛙神である諏訪子にとって一番好ましい環境なのだろう。

「お前、月と交渉する気か?」

大天狗長は返答に窮する霧雨翁をじろりと睨んだ。それにたじろぐことなく、人間はさばさばした顔付きで神と妖怪に告白した。

「里全体としては、そういう意見が多いのは事実だ。だからこそこうして頼んでいるんだ。地底とコネを持つのはあなた方を置いて他にいない。こちらからも条件ははずむ。流しのレート、そちらの値をのもう。」

大天狗長は小さく舌打ちをして頭を抱えた。神である諏訪子はそんな妖怪に眉をひそめつつ、人間を試す。

「まあとりあえず地霊殿に問い合わせることはできるかもしれないけれど、貴方にしてはずいぶんと政治交渉に乗り気ね。もうけでしか動かない貴方が。」
「里長なんぞになるといやでもそうなるのです。妖怪への対抗心を少々煽りすぎた結果かもしれません。血気盛んなことを言う輩が多くなりましてな。」
「そういうのを止めるのがぬしの役目だろう。」
「大天狗、少し落ち着きなさい。じゃあ里内部にある強硬意見の沈静化だけなのね、貴方が引き渡しを受けようとする理由は?」
「はい、そうです。」

よどみのない返事に、諏訪子は満足げに頷いた。

「まあ、核融合施設の取り分については私の方で調整できるけれど。」
「洩矢様!」

一瞬場に生まれた隙を逃さぬように、霧雨翁は間を置かず切り込む。

「それと鼻高天狗様に掛け合って是非曲直庁経由で圧力を掛けることはできないでしょうか? 今でも旧地獄と新地獄の鬼達は裏でやり取りがあると聞きうかがっております。古明地も鬼から突き上げをくらえばさすがに焦りましょう。」
「さあどうなのかしら、大天狗?」

諏訪子は他人事のように大天狗長に問いを振る。

「洩矢様、あの古明地を軽く見てはいけません。きゃつは想像以上に厄介なのです。できるだけ関わらない様にと、ずっと努めてきたのですよ。」

柄にもなくうろたえたような様子を見せる大天狗長に、霧雨翁は思わず顔をしかめる。それに気付いた大天狗長も、目の前の人間へ苦々しい顔を向けた。諏訪子は不穏な空気すら堪能するように、ゆっくりと息を吸い込む。

「そもそもだ、その月の連中が信用に値するとは思えん。なにかよからぬ企みがあるのではないか? 混乱に乗じて攻め込んできたともとれるだろう。」
「それなら我々に引き渡しの要求などと、まわりくどいことはせんだろう。向こうは幻想郷との和睦も望んでいるんだ。それにだ、あれはこちらにとっても得な話だぞ。最大の危険分子をまとめて厄介払いできるのだからな。」
「隙をついてということもあるだろう。永遠亭の連中が月と通じているという噂もあるではないか。」
「永遠亭の連中には厳重に監視を付けさせてある。これまでも接触はないし、今後も一切接触はさせん。」

畳み掛けるような大天狗長に一歩も引くことなく、霧雨翁も丁々発止で応じる。諏訪子は髪留めをいじりながらその応酬にうっとりと耳を傾けていた。

「やつらは今どこにいるんだ? 怪しい動きは?」
「博麗に預けている。噂で聞いていたほど敵対的でもない。今はおとなしくしている。」
「武装はしていないんだな?」
「武装はしていない。護衛が二人いるだけの、ただの親善大使だ。」

霧雨翁はきっぱりと言った。その答えに諏訪子はまた含み笑いをした。ひん曲がった顔をした二人の男に挟まれて、彼女はどこまでも愉しそうだった。



結局密会は明確な合意点に達しないまま、一種なし崩し的に地底への打診を試みるという結論に至った。大天狗長はぎりぎりまで渋っていたが、里と山との裏流しについて霧雨側が大幅に譲歩したことで、話を呑まざるを得なかった。天魔へのクーデターにあたって、河童の協力を取りつけるのに苦心していた大天狗長にとっても、それは見過ごせない条件だったからだ。

「オヤジさん、終わりましたか?」

闇に消えていった諏訪子と大天狗長に頭を下げていた霧雨翁の前に、森近霖之助が姿を現す。どこか浮世離れした暢気な弟子のかけ声に、霧雨翁は困ったような笑みを浮かべて、それに答える。

「まあな。邪魔してすまなかった。」
「いえ、そんなことは……」

霖之助は目をそらす。霧雨翁は知っていた。彼がこういうしぐさをするときは、なにか言いたいことを言えないでいる時だった。

「なんだ。なにか話があるのか?」
「あ、その……」

霖之助はそこで一瞬詰まった。だが意を決したように顔を上げる。

「魔理沙のことなのですが。」
「知っておるよ。あいつは死んだ。」

にべもない師の言葉に、霖之助はまたうつむいて胸を詰まらせる。

「花を、手向けに行こうかと思っているのです……」
「そんなことなんの意味がある。死んだ者を弔うのは、生き残った者がその弱さを誤魔化すためだ。」
「……すみません」
「お前がそうしたいというなら止めん。しかしそうしたからといってお前の心は晴れんぞ。それだけは確かだ。」

まとわりつく湿気を振り払うように、霧雨翁はそうはっきりと告げると、弟子の返事を待たずに闇の中にとけていった。





 ■ ■ ■





「ふーん、あいつら来たの」

蓬莱山輝夜は言った。息をするついでになんとなく声帯を震わせてみた、そんな感情のない口調だった。輝夜の向かいに座る八意永琳もそうした反応は織り込み済みだったのか、淡々とした様子で話題を続ける。

「ええ、さっき外に出たらみなその話題で持ちきりだったわ。」

輝夜は長い長い黒の髪を玩んでいた。そんな輝夜を見て、永琳はそれた話を戻す。

「ああごめんなさい輝夜、話の腰を折ってしまって。で、結局あの吸血鬼は、貴方の永遠を壊せなかったの?」
「ええ。駄目だったみたい。最後、追い詰めるだけ追い詰めてどういう反応をするか確かめてみたかったんだけどね。」

たちまち輝夜は口を開いた。それは決して大きくはないが、生命感のある声だった。

「最後の須臾に、ありうる可能世界を一万通りぐらい試したんだけど、大抵は広範囲にわたって物理的に破壊するか、あの子自身の破壊だった。私の根本的破壊や、幻想郷という概念そのものの破壊は一つもなかったわ。」
「つまりまだ抽象的な観念を破壊することはできなかったということね。」
「そういうことみたい。あと数百年くらい成長すればと思って、二人きり永遠の世界で過ごすっていう可能性も試してはいるんだけど。」
「まああの子の精神がもたないでしょうね、その分じゃ。」

残念そうな顔を付き合わせた二人だったが、それこそが収穫だったともいえる。輝夜に「残念」という感情が宿ること自体、それは素晴らしいことなのだと永琳は思っていた。今回の可能世界探索で暇をつぶせれば、輝夜はまたしばらく生き生きとした表情をしていられるだろう。それで十分とせねばならない。

「失礼します。」

襖の向こうから魂魄妖夢の声が聞こえた。部屋の中の二人は、無言でもって妖夢の入室をうながす。

「御布団の支度が整ったとのことですが、いかがなされますか?
「あらありがとう。そういえば、あの阿求さんとやらはどうしたの。」
「体調が優れないとのことで先にお休みになられました。もともと阿求さんはお体が強くないということで。」

輝夜は口だけをひんまげて呆れたような顔を造る。永琳はたしなめるように、輝夜に近寄った。

「失礼ですよ姫。さあ早くお休みなさいな。まだ先日の疲れも抜けていないでしょう?」
「あら、いたわってくれるのはうれしいけれど、その言葉が何よりも必要なのはそこの剣士さんでないかしら。」

おちょくるような目で、輝夜は妖夢に視線を送る。妖夢はほんの少し体を震わせたが、その反応すら今の彼女には苦しげに見えた。憔悴しきった顔立ちのまま、妖夢は輝夜への返答をひねり出す。

「いえ、私は大丈夫です。それより、お二方こそ大丈夫なのですか、あの――」
「豊姫と依姫のことかしら?」

おぼつかない口調の妖夢に代わって月からの使者の名を呼んだのは永琳だった。妖夢はどう言ったものか迷っているようだ。

「別に問題ないわよ。私達が呼んだんだし。」
「そう、なのですか……? でもどうやって――」
「あら、"私達"の中には貴方も入っているのだけれど。」

虚ろだった妖夢の目が、初めて永琳をしっかりととらえた。それまで同意を求めるような顔をしていた永琳は、敗北感にまみれた目の前の庭師を見て、自責の念をごまかすように軽く微笑む。

「ああ、そうだったわね。貴方が超のつくほどまじめで、前しか見ない子だというのを失念していたわ。あの子達を呼ぶのに私達、姫や貴方も関わったけれど、正確に言えば呼ぼうとしたのは貴方の主人。あの冥界のお嬢様よ。」
「幽々子様が? それってまさか……」

永琳はひとつ頷いて妖夢の頭に浮かんだ予想を肯定する。

「そう、あれはあのお嬢様が考えた逆転の一手。貴方はその一手を繋ぐためにここへ来たのよ。かつての幻想郷を取り戻す、大事な大事な一手をつなぐため。あの手紙は紅魔館を経て、ウドンゲの元に行った。月と交信できる、あの子の元へね。わかったでしょう、貴方は主人から信頼され、何よりも重い役割を担って里へやって来たのよ。私がウドンゲを永遠亭に置いてきたのと同じく。」

永琳の言葉を聞き終え、妖夢は正座のまま深々と土下座した。肩をわななかせて、どこか遠くへ向かって償うようにずっと頭を下げていた。永琳は思わず溜息を漏らす。それは妖夢だけへ向けたものではなかったのだろう。
そんな師と従者からは別世界に腰掛けていた輝夜は、突然痙攣するように忍び笑いをはじめた。何が面白かったのか、彼女はどこか遠くに投げ捨てるように声を上げる。それはたいそう愉しそうではあったが、生命感のかけらもない声だった。

「大丈夫、もうその一手とやらは指し終わって、後は詰め将棋だけ。よくある手だもの。貴方もいずれ里に帰ることになるでしょうから、支度ぐらいはしておきなさいな。まず折れた刀ぐらいは直さないとね。」





 ■ ■ ■





博麗霊夢はどう話を切り出したものか迷っていた。やはりまだ疲れが抜けていないのだろう、頭が回っていなかった。ぴょこぴょことせわしない様子で家財道具を運搬するレイセンを、霊夢は渋い顔つきのまま眺めていた。

「やっぱりこの大地は狭いわね。それに体が重いし。」
「お姉様やはり桃の食べすぎなのでは?」

妹である綿月依姫の嫌みを無視して、綿月豊姫はぴょんぴょん飛び跳ねながら六倍の重力に愚痴を漏らしていた。博麗神社の分社がそのたびにきしむ音を立てる。さすがに我慢の限界を超えたのか、霊夢は豊姫のおてんばを制した。

「もうやめて。そんなにジャンプしたいんならあんたらの船の中でやんなさい。」
「あら、あんなところでは眠れないわ。」

この分社を宿泊場所に指定してきたのは彼女達の方だった。なんでも一番穢れが少ないらしい。霊夢としてはそんなことは知ったことではない。ただ安眠できなくなることが確実な申し出に頭を抱えただけだった。
レイセンにちょっかいを出し始めた姉をうんざりした視線で見ながら、依姫は霊夢の方に向き直った。

「我々が狭苦しい思いをするのはたいしたことではないのです。しかし八意様がこんなところにおられるのかと思うと心が痛む。」
「あいつは里で一番広い屋敷にいるわよ。」
「八意様が住まわれるのであれば、この里全てを覆う屋敷でも足りません。」

大真面目な顔をしてとんでもないことをのたまう依姫に、霊夢は頭を抱えた。やはり安寧は得られそうにない。

「もう依姫ったら、相変わらず八意様大好きねえ。いいじゃない、これだけ狭かったらきっと小さなお布団の中で八意様と一緒にお休みできるわよ。」
「おっ、お姉様は何を言っているのです……私はそのようなふしだらな――」
「あら、じゃあ私も一緒に寝てあげる。三人一緒におねんねしましょう♪」

刀を腰に差しながら顔を真っ赤にする依姫を、豊姫は扇子越しの微笑みでからかった。こんなやり取りをするコンビが幻想郷にもいたなと、霊夢は訳もなく思い出した。

「そういうことを言っているのではありません。大体お姉様はおふざけが過ぎます。先ほどもあんな下等で穢れた地上の獣に触れて……もう少し月の民としての――」
「あら、あの方いい男だったじゃない。一昔前なら寵愛を授けて一国の王にしてやってもいいくらいだわ。」

くすくすと、扇子の向こうで笑う豊姫に依姫は掛ける言葉をなくしたようだ。彼女は髪の毛をかきあげてレイセンを呼びつけた。

「そうだレイセン。あれはちゃんと渡したのか。」
「はい依姫様。約束通りあの銃を五丁、里長の方に。」

動かしていた手を止めて、レイセンは畏まった様子で答えた。依姫は小さく頷く。銃の話題にたちまち怪訝な表情をする霊夢へ、豊姫は依姫へ向けていたのと同じ表情のまま問いかけた。

「ところで貴方、ずいぶん変わったのね。前月にいた時はもっと精悍な印象があったのだけれど。」
「は? 私が? 残念だけどいつもこんなもんよ。月にいた時は曲りなりに緊張してたんじゃないの。」
「いや、そういうことではありません。一度手合わせした者から見ても、貴方は変わったように見える。腑抜けたように思えます。」

依姫もそれまでの生真面目な口調のままさらりと言った。口調にこそ表れていないものの、その侮るような物言いに霊夢の返事にもトゲが混じる。

「はっ、ずいぶんな口の利き方ね。あいつら連れてくだけじゃ物足りず、私までいびり倒そうっての?」
「いいえ。我々はそういうひねた考えは持っておりません。それに八雲紫を月へ連れて行くのは、貴方にとってこの上ない話でしょう。」

今度は少しばかりあげつらうような口ぶりで、豊姫が霊夢に言葉を投げた。霊夢はそれまで向けていた鋭い視線を思わずそらす。その隙につけこむように、豊姫は閉じた扇子の先を霊夢に向けた。

「言いましたよね、幻想郷の出来事は絶えず監視していると。それは公的な事柄に留まりませんのよ。」
「地獄耳が…… でもそれは、昔の、そうもう終わった話。所詮相容れない仲だったってことよ。」

歯切れ悪く、精一杯の声を絞り上げる霊夢に、豊姫は聞こえるか聞こえないかという溜息だけを返す。

「埃臭い連中の仲違いなど興味もないですが、その顔を見る限り呆けたのは確かなようですね。」

依姫はぼそりと呟いた。霊夢は何も答えなかった。怒りを表すこともなく、彼女はただ小さくなったまま、そこに座っていた。

「あんたらなんかに、何がわかるのよ……」
「地上の民のことなど、何もわかりませんわ。」

霊夢の独り言に、豊姫もまた一人呟くように言葉を重ねる。まるで会話をしていないように、彼女達は互いに目を合わせることなく言葉を交わす。

「ただ、私は貴方のことを評価していただけ。それも過去の話ということなのでしょうかね。自らを偽る者に振り向いてくれる者などいませんもの。」

場に押し寄せた静寂を断ち切るように、霊夢は頭をバリバリと掻きながら立ち上がった。こんな連中でも一応客である。食べ物ぐらいは出さねばならない。久しぶりに客人と囲む夕食は食べる前から最悪が約束されていた。

「私もあんたらが食えるものなんて知ったこっちゃないから、いつもと同じものしか出せないけど、文句はないわよね。」
「ええ、貴方達がなにを食しているか、こちらとしても興味があります。ただ……」

そこで意味ありげに言葉を切った豊姫に、霊夢は思わず振り返った。

「ここはネズミが多いですわ。もう少しどうにかなりませんこと?」

視線は霊夢へ置いたまま、豊姫は閉じていた扇子を開き、静かにあおいだ。タンスの影にいたネズミが、扇子の風を受けて素粒子レベルで分解される。その様子を特に感慨もなく見ていた霊夢は、再び頭を掻いた。

「ネズミぐらい我慢しろ。地上の風流のひとつよ。」
「あらまあ。」
「ふっ、やはり私の見立ては間違っていないようですね。」

残念そうに小首を傾げる豊姫と、勝ち誇ったような依姫を背中に置きながら、霊夢は台所へ向かっていった。





 ■ ■ ■





「つまり、そちも収穫なしか。」

大天狗長は顔をゆがめた。しわの深く刻まれた顔面は、その表情のせいで丸めた紙屑のようだった。しわの中に埋もれていた眼だけをギラギラさせて、彼は向かいに座る鼻高天狗長へ視線を向ける。

「ええ、是非曲直庁経由で地底に圧力を掛けてはみたのですが、のれんに腕押しといった感じでしてな。」
「そうか。こちらも直接掛け合ってみたがぴしゃりと言われたよ。『お互いが干渉しあわないのが今の幻想郷でしょう?』とな。」

苛立たしげに口元を歪める大天狗長に同調するように、鼻高天狗長はその大きな鼻を掻いた。職業柄というべきか、やり場のない思いをごまかすために手にあった書類の束をいじっていた鼻高天狗は、その中から是非曲直庁とのやり取りを示す報告書を取り出すと、それを大天狗長に手渡した。
彼岸とのやり取りは事務方の鼻高天狗の務めであり、大天狗は直接関わっていない。大天狗長も鬱屈した感情を紛らすように、今交わした言葉がただややこしく書いてあるだけの報告書にしばし目を通していた。だがそれも長くはもたなかった。生来そういうものはこの大男の性分ではないのだろう、半分ほど目を通したところで彼はその書類をテーブルに投げた。

「まったく、人間風情が余計なことを持ち込んできよって……この大事なときに」

大天狗長の愚痴に、鼻高天狗長は無言でもって応えた。
こうは言っているものの、里が流しに関して大幅に譲歩してくれたおかげで河童から望みどおり、いやそれ以上の条件で協力を取り付けることができたのは動かしようのない事実だった。それを思えば彼の愚痴も一時の感情でつい口をついただけだろう、鼻高天狗はそう考えていた。であればただ言わせておいたほうがいい。

「もう一歩、もう一歩のところであの役立たずを追い出せるところだというのに……」


大天狗長の言葉通り彼らは重要な局面を迎えていた。天魔へのクーデターに向けて外堀は着実に埋まりつつあった。すでに長老格は説き伏せ、長引いていた河童との交渉も決着し、後は八坂神奈子だけだった。その神奈子も先日の交渉決裂以来、天魔との連絡を一切遮断させているせいで、確実に心証を悪化させている。あれで実は遊郭通いをしているだけと知れば、問題なくこちらに賛同すると踏んでいた。

「落ち着くんだ大天狗。もうあいつにつく奴などいやしないよ。烏天狗も山伏天狗もとうにあの穀潰しには愛想を尽かしている。八雲に日和って天狗の地位を失墜させた逆賊だぞ。そう急かずとも勝利は約束されている。」
「それはわかっている。ただ余計なちょっかいを出されたくないだけだ。」

彼もまた自分の思い通りにいかぬのが好きではないのだろう。大天狗長はまた吐き捨てるような口調で答えたが、それも「わかっている」までだった。鼻高天狗長の言葉に幾分か落ち着きを取り戻した彼は、すべて言い終わるころにはまたいつもの険しい顔に戻っていた。
鼻高天狗長はそれを見て安堵する。やはり今回の計画にはこの大男の指導力が不可欠なのだ。大天狗長に余計な気を揉まれるのは、彼としても避けたいところだった。

「よし、こちらからも引き続き手は尽くす。そちらも倒れん範囲でしっかり頼むぞ。」
「馬鹿にするな。倒れなどするか。」

柄でもない軽口を叩きながら応接室を出る鼻高天狗長に、大天狗長も険しい口元を一瞬緩ませて見送った。一人きりになった応接室で、彼は深く椅子にもたれかかる。
また愚痴が口から漏れそうになったが、彼はそれをぐっと飲み込んだ。そんなことをしている暇はないのだ。宿願がすぐ手の届くところにまで迫っているというのに、愚痴などこぼしたらそれが手からすり抜けてしまう、そんな気がした。

代わりに一つ息を吐いて、思い切り椅子から跳ね上がろうとした大天狗長の背後に、よく知った気配がひとつ迫る。

「洩矢様、ですか。」

洩矢諏訪子は振り返った大天狗長に柔らかな笑みを向けた。もはや部屋に断りなく入ってくる妖怪もめっきり減ったが、そうでなくとも諏訪子の気配は大天狗長には一目瞭然だった。湿っぽく重い、ぞっとする気配――それは一度味わえば決して忘れ得ないものに違いなかった。

「どう、って顔を見ればわかるわね。酷い顔だこと。」

先ほどまで鼻高天狗長が座っていた向かいの席に、諏訪子は断りなく腰掛けた。大天狗長も再び椅子へ深く身を沈める。髪留めをいじりながら、諏訪子は大天狗長の困り顔を新しいおもちゃを与えられた子供のような目で眺めていた。

「地霊殿の連中はまったく話に乗ってきません。あの掟を盾に、八雲紫を梃子でも渡さないといった様子です。」
「でも里は提示した条件を盾に貴方に迫ってくるわけだ。」
「ええ、こちらとしても里が示した取引の条件は捨てがたく……」

諏訪子はこうして板ばさみにあう信者を見るたびに不思議に思う。もちろん神から矛盾の答えを示すことはしない。暗示めいた言葉でそういうことをするのが好きな神もいるが、それは過ぎた行いだというのが諏訪子の考えであった。

「ねえ大天狗、貴方が最初に私の元に願を掛けに来た時、あなたは私になんと願ったかしら?」

だから大天狗長に向かって助け舟を出そうとしている自分が、諏訪子には不可解だった。気紛れ故とはいえ、自説を曲げるなんてそうないことだったからである。
だが不可解だからこそ諏訪子はそうしたのかもしれない。最初に立てた神への願を何故彼らはこうもたやすく忘れてしまうのか、歪めてしまうのか――諏訪子は昔からその振る舞いが理解できなかった。

「天魔を打倒する為に、御力を貸していただきたいと……」
「違うわ、そうじゃない。よく思い出して、ねぇ?」

諏訪子はテーブルに身を乗り出して、大天狗にずいと顔を近づけた。顔立ちだけ見れば年端もいかぬ少女のような諏訪子が、しわの深く刻み込まれた大天狗に迫る。まるで唇を重ねたような格好で、くりっとした少女の瞳が筋張った顔を仰ぎ見る。二人を隔つ僅かな空間に、男と女の吐息が溶け合い交じり合う。

「……天狗の力を再び幻想郷に轟かせたい。かつての姿を取り戻し、天狗こそが最強の種族であると示したい。そう願をかけました。」
「正解。だから、貴方は神である私を信じ、ただそう願えばいいの。さすれば神としてその願いに応えましょう。」

諏訪子は顔を引いていたずらっぽく笑みを浮かべた。大天狗長は軽く身震いする。今少女が告げた言葉の含意は、彼ほどの者であっても思わず慄然とする内容を含んでいた。

「よもや、地底も里も、月すら屈服させるおつもりですか?」
「『神を試してはならぬ』――邪教の教えよ。貴方は私の腹づもりなど気にせず、ただ信仰し、己が願いを示せばよい。私はそれによってしか何も為しえないのだから。」




帰途に着く諏訪子を呼び止めたのはナズーリンだった。主人の表情を見て、ナズーリンは一瞬掛けるべき言葉に戸惑う。それは一見いつも通りの愉しげな顔に見えたが、よく見てみると淋しさを包み隠した表情にも見えたからである。

「……ご主人、よろしいかな。」
「ああ、どうしたのこんなところで。」
「いや、実は困ったことになってね。偵察に出していた里のネズミが皆墜とされた。あの月の奴ら、やはり相当の切れ者だ。」

膝をついて深々と頭を下げるナズーリンに、諏訪子は乾いた笑顔のまま、頭を上げるよう促す。

「気にすることはないわ。仕方ないわよ。トヨタマビメにタマヨリビメ……まったくここにいるとタイムスリップしたような感覚になるわね。で、永遠亭の連中とは接触していないのね。」
「それはない。永遠亭の二人はほとんど外に出ていない。月の連中も博麗神社に篭りきりだ。」

それは霧雨翁の言葉通りだった。諏訪子は一つ頷いてからなおも硬い表情のままのナズーリンに尋ねる。

「そう。じゃあ他に何か懸念材料でも?」
「うむ、どうやら月の武器をいくつか里に送ったようなんだ。和睦の件もこちらに聞かされているものとは別の条件があるのではないかと思って色々探っていたのだが。」
「なぁるほど」

諏訪子はくすくすと嗤い出した。それは愉しいときに奏でる嗤い声だった。ナズーリンもつられるように頬を少し緩める。

「天狗を裏切り、神をたばかるか。いいわ、そういうの大好きよ。でも一応神としては神罰で以て応えなくはならないわね。」

活き活きと、囃子に合わせて踊るように思案していた諏訪子は、やがて艶っぽく、だがぞっとするような冷たい声でナズーリンの名を呼んだ。小さな賢将はそれに動じることなく、同じく静かな笑みを浮かべて主人の命を待った。

「鍵山雛という厄神を連れてきてほしいのだけれど。」





 ■ ■ ■





八雲藍は疲れの残る体を目覚めさせるように、地霊殿のドアをノックした。
採掘場での労働は確かに楽なものではなかったが、かつて九尾の狐としてその名を轟かせた彼女であれば十分こなせるレベルの作業だった。だが力のない同僚――彼らもまた罪人であったが――が倒れ、或いは事故に巻き込まれるのをこの短い間に何度か見ると、決して気楽な気持ちにはなれなかった。もし八雲の姓を拝していないころの自分であれば果たしてもったのだろうか、藍はことあるごとに自問した。

「はーい今開けますよん。おや狐のおねえさんかい。」

扉を開けたのは地霊殿のペットである火炎猫燐だった。おどろおどろしい外観をした屋敷に似合わぬ、人当たりのよい媚びた顔が藍を出迎える。どう返していいか戸惑う藍を余所に、お燐は藍を引っ張って応接室に連れて行く。

「ひとつ尋ねたいんだが、橙は元気か?」
「ああ橙ちゃん? もうすっかりなじんでるよ。最近はお手伝いまでさせちゃって、悪いねぇ。」

ようやく問いを搾り出した藍に、お燐は快活な表情そのままに元気に返した。その顔を見るとずっと自分の式のことを心配していた自分が滑稽にさえ思える。

「いや、いいんだ。元気ならそれでいい。」

藍がそう返したころには、すでに応接室の扉の前だった。ステンドグラスを透過した色とりどりの光が騒ぎあう地霊殿において、その部屋だけは一種落ち着きに似た静謐さがあった。それは主人の趣味なのか、客人への配慮なのか、藍がとりとめもなく考えていると、向こうから扉が開いた。

「ここの光が穏やかなのは、その両方です。この屋敷を訪ねる者は皆、あの光に心の中で戸惑いや不快感を覚えるものでして、私の指示でこうさせました。そういった声を聞きながら客と接するのは私の趣味ではありませんから。さ、早く中へどうぞ。」

一礼して藍を出迎えた古明地さとりは聞かれてもいない疑問にさらさら答えた。後ろで忍び笑いをするお燐に茶を淹れてくるよう言いつけたさとりは、藍に腰掛けるように促す。胸から下がった第三の瞳と目があった藍は、射すくめられるようにその指示に従った。
畏れも嫌悪感もすべて見透かすこの少女と対峙して、そういった感情を隠そうとするのは逆効果だと、藍は何度かさとりと顔を合わせるうちに会得していた。

「そう、自身が抱く負の感情を否定せず、そういうものだと受け入れさえすれば私の能力など別にたいした脅威ではないのですよね、ふふふ。しかしなかなかそういったことができないものなんですよ。貴方のような優秀な方は別としてね。」

さとりは椅子に軽く肘をついて、藍を賞賛する。この会話とはいえない会話にも次第に藍は慣れはじめていた。

「……ええ、今日お呼び立てした理由ですね。実はあれから進展がありまして、それをお知らせしようと。」
「どういった進展ですか?」

それだけ藍に言わせようと少しだけ間を作って、さとりは話を続ける。

「どうやら月の使者が幻想郷に来たそうです。私は名前を聞かされておりませんが……ああ貴方には心当たりがあるのですね。綿月というのですか。なるほど。」
「彼らが何のために?」
「どうやら月面戦争の下手人として紫様を月へ引き渡せ、そう申し出ているようです。それで山の連中が私の方へ圧力を掛けてきましてね。どういう取引をあったのかは知りませんが、まあおそらく月から魅力的な話でも吹っかけられたのでしょう。」
「余裕がおありのようですが、圧力というのは交わし切れるものなのですか。」
「問題ありません。なにせ我々には盾が、彼らが作ってくれた……そう、さすが察しがいいですね、あの掟がありますから。まったく問題ありませんよ。」

藍は心の中で感心した。確かにこれならば実際のところ圧力を掛けられているのは地底ではなく山の方だろう。月と地底、その双方から責め立てられているのだから。

「ええその通り。地上を謳歌する連中は、はるか高きところから不相応に誘惑され、片やそれまで足蹴にしてきた連中から至極まっとうな理由で拒絶されているのですから。……ああ、すみません。私もこの後の展開に関してはよくわかりかねます。貴方の考えていることと私の予想はそう変わりませんが、今天狗からもらっている情報ではなんとも判断しかねますね。ただ、貴方の想像通り、彼らの自滅を待つという策には変わりないでしょう。」

再びノックがして扉が開いた。茶器を持ってきたお燐の横には、橙が付き従っていた。藍は気配を感じて思わず振り返る。

「橙、元気か?」
「はい藍様。」
「だーかーらー、さっきあたいが元気だって言ったじゃないの。あ、橙ちゃんそっちのカップとって。」

数え切れないほどの想いを込めて、互いに視線を交わす藍と橙、その間でお燐はあくまでおちゃらけた調子で同じ猫である橙に指示を投げる。といってもそれは権力を帯びた力強いものではなく、気のおけない者同志が交わすお願いといった感じだった。お燐の指示にしたがって紅茶の準備を手伝う橙へ、さとりがなだめるような声を掛ける。

「せっかくお久しぶりに大切な主人に会えたのだから、橙も手を休めてこちらにいらっしゃいな。そもそもお燐もそんなに手伝わせるものではありません。」
「えー、いいじゃないですか。仕事しろ仕事しろといつもうるさいのはさとり様ですよ。それに橙ちゃんを連れてきたあたいの――」
「はいはい。その判断は確かに素晴らしいです。後で褒美を……そんなものはダメです。」

「ちぇー」とお燐が指を弾くころには橙が紅茶を淹れ終わっていた。さとりと藍へ湯気の浮かぶカップを供して、お盆を手にした橙はぺこりと一礼する。

「橙、お前紅茶淹れられるようになったのか。」
「はい、お燐さんに教えてもらいました。」
「橙は本当に飲み込みが早いのです。こちらとしても助かっているのですよ。お燐とも仲良くしているようですし。」
「さとり様ー。橙ちゃんもだけど、あたいの教えっぷりも褒めてよぉー」

お燐はさとりの膝の上に擦り寄って甘えたような声を出す。さとりは呆れたような顔をしながら、口つけていたカップをテーブルの上に置いた。
そんな光景を微笑ましげに見ていた橙に、藍も思わず顔をほころばせる。

「そうですよ。藍さん。貴方は少し思いつめ過ぎです。」

黒猫に戻ったお燐を膝の上で撫でながら、さとりは藍へ向かって言った。

「いつもあの広場を通っては紫様の様子を確認しているのでしょう。今も頭の中は、式と主人への謝罪の念ばかり。貴方があの人間を殺さなければ、奴らにつけこまれることは無かった、今回の事態を招いたのは自分だ、そう考えたくなるのはわかります。しかしそれは物事を一面からしか見ていない。奴らは口実さえあればよかったのですよ。」

目を伏せてさとりの話に耳を傾けていた藍に、橙が思わず寄り添った。さとりは二人をもう一度三つの目で見つめると、諭しかけるように橙の思いを代弁した。

「今は雌伏の時です。だからその時が訪れるまで、まああんなところであなた方に刑を加えている私が言えた義理ではありませんが、あまり自分を責めないでくださいな。紫様はあの鬼のおかげかそれほど手ひどいことはされていないようですし、橙は元気に成長しています。いずれ時は来ます。我々の時間がね。」



 
というわけであいつら登場です。化かし合いは書く分には楽しいんですが、整合性取れてるか自信が持てないという。

あと二名出せないことが確定しました。どうでもいいですね。
んh
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/03/04 00:13:58
更新日時:
2011/03/04 03:03:36
分類
旧都
チルノ
オリキャラ
1. NutsIn先任曹長 ■2011/03/04 01:11:16
わくわく。
わくわくわくわく。
わくわくわくわくわくわく。

畜生!! んhさん!! 私を眠らせないつもりですか!! 明日も…もう今日ですけれど、仕事なんですよ!!

八雲一家の境遇は一瞬、ギョッとしましたけれど、なるほど、あらゆる所に『耳』や『目』がありますからね〜。

さて、私好みの痛快展開前の状況になりました!!
今までの布石が落ち物ゲームの如く、連鎖を始めましたね!!
お空からの勢力。
在野の歯牙にもかけられない勢力。
そして、トリックスター。

今回の話で興奮して、
続きが楽しみで、
もう眠れない!!

で、その出せないキャラ、エピローグか何かで出せませんかね?
2. 名無し ■2011/03/04 08:10:12
このボリュームでこのペースとクオリティはすごい。
月の介入と妖々夢、永夜勢の計画で物語がどう動くか……。
魔理沙も生存フラグがビンビンだし、いよいよもって目が離せない。

、妖精たちはともかくとして、紅魔勢の状況を知っている咲夜がああなるのに違和感があるけけど、これも複線なのか……?
このままだと紅魔勢が、反抗作戦からハブられた挙句自爆しただけになっちゃうので、そうであってくれという願望なんだけど。
とにかく、次回も期待してます。
3. 名無し ■2011/03/04 19:23:05
ここまで真っ当でかっこいい綿月姉妹を見れるのは珍しいので嬉しい。
ぱっと見だと反抗勢力側がかなり優位のように見えるけど、現権力側も
このままではおわらなさそうな感じだし、今後が楽しみだ。
4. 名無し ■2011/03/14 12:15:58
この綿月姉妹が理想的すぎて困る
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