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『【リレー小説】 着信アリス』 作者: 変態牧師→機玉→うらんふ→ウナル→灰々

【リレー小説】 着信アリス

作品集: 25 投稿日時: 2011/04/01 22:56:51 更新日時: 2011/04/02 07:56:51
■起(変態牧師)■


「明日、告白しよう」

魔理沙はそう決意した。
彼女の脳裏に浮かび、胸を締め付けるほど悩ませているのは一人の少女の存在。

青で纏められたワンピースと純白のケープ隠されている少女らしい肉付き。けれども、それは貧相と言う意味ではない。
程よく膨らんだ乳房や、抱きしめれば折れてしまいそうなくびれたウエスト。
そして、腰からなだらかな軌跡を描き、激しい自己主張をしている魅惑的な臀部は、あるいは女さえもむしゃぶりつきたくなるような魅力に溢れている。

「アリス……」

透き通るような青い瞳に見つめられると、吸血鬼の魔眼に魅入られてしまったかのように身体に痺れが走り、何も出来なくなってしまう。
ひらひらとしたフリル付きのカチューシャに抑えられた 艶やかに輝く薄い金のウェーブは、さらさらと流れるような手触りが心地よい。
何もかもが愛しく、愛らしいアリス・マーガトロイドの姿を思い浮かべ、魔理沙は意を決して立ち上がる。

「アリス……私は、お前のことが好きだ!」

シンと静まり返った部屋の中に、魔理沙の声が残響する。
彼女の頬は まるで本物のアリスの前で告白しているかのように高潮しきっていた。
心臓は、ドクン、ドクンと耳にまで聞こえるように激しい鼓動を繰り返している。

「……いや、ちょっとストレートすぎるか? いや、でももっとストレートなほうがいいかな――――」

気を取り直してもう一度、今度は別の言葉を繰り返す。
緊張しながらも、誰もが皆一度は経験があるはずのシャドー告白を繰り返す様は、まさに恋する乙女といったところであろう。
尤も、魔理沙とアリスであれば、二人の気質を比較した場合、男役はどちらかと言うと魔理沙のほうなのだが。

「アリス……お前が好きだ! お前が欲し――――」

タン――――……

「ひゃう!?」

部屋の中に響いた高音に、魔理沙は悲鳴をあげて周囲を見回した。
こんな姿、見られてしまったらたまったものではなかったが、幸いにも部屋の中には誰もいない。
窓にはカーテンをかけ、しっかりと鍵をかけてあるため音声が漏れる心配は無い。
では、一体何処からその音がしたのだろうか?


タンタンタンタン、タンタンタンタン……


静寂しきった部屋の中に、まるでオルゴールのような物悲しい音楽が響き渡る。
誰もいない部屋の中、機械的につむがれるその旋律は、魔理沙に不気味ささえ覚えさせた。

「なんだ、これ……」

整理整頓が得意でないため、部屋の中は乱雑に色々なものが散らかっており、音の源が何処にあるのかすぐにはわからない。
それでも、“それ”はある程度片付いている机の上に置いてあったため、比較的簡単に見つけ出すことが出来た。

「……これ、早苗のトコから借りてきた“携帯電話”だったか?」

怪訝な顔をしながら、魔理沙は机の上にあるストレート式の携帯電話に手を伸ばした。
そもそも、鳴らないし、鳴るはずがないと聞いていたが、何かの間違いなのだろうかと、魔理沙は考える。
ゆっくりと手を伸ばし、携帯に手が触れた瞬間、音がぷつっ、と消えた。

「『着信アリ』……?」

一瞬だけ戸惑うものの、魔理沙は携帯の文字盤の上に流れる文字に目を通した。
そして、それはゆっくりと左側に流れてゆき、新しい文字が魔理沙の眼前に現れる。

「3月31日……午後23時11分?」

魔理沙は壁に掛けてあった暦に視線を向ける。
肌寒さの残る今は、まだ3月の上旬だ。

「3週間後……?」

携帯電話を使用したことが無い魔理沙には、それが本来ありえない“未来からの着信”であるということがわからない。
増して、着信に1件の留守電の音声記録が残っていることもわかるはずが無い。

「ま、いっか……」

予定表のようなものか、と簡単に考え、魔理沙はそれについて大して気にすることなく、アリスへの告白の練習を続けることに専念する。
そして、それから3時間以上を要して告白の言葉を決めた後で、ベッドの上に身を横たえ、眠りについた。















魔理沙は知らなかった。
その物悲しいメロディが、死の宣告であることに。
有り得ないはずの未来からの着信……その留守番電話には、死を宣告されたものの断末の悲鳴が残される。
そして、宣告された者は その着信時間に確実に死ぬ。携帯に残された音声の通りの叫びを残して。

外の世界で恐れられた都市伝説――――“死を呼ぶ着信メロディ”は忘れ去られ、幻想郷に流れ込んできた。
それは、後に“着信アリス異変”と呼ばれる、幻想郷史上最凶最悪の物語の幕開けだった。





■承(機玉)■

魔理沙にメールが届いてから約4週間後。
彼女は自宅から死体の姿で霊夢によって発見された。
彼女の突然の死は知り合い達を大いに驚かせ、場合によっては悲しませた。
しかしこの事件は同時に多くの謎を残した。
まず一つ目は彼女の死因だ。
これは発見された死体の首に強く締め付けられた手の形の痕があったことから、絞殺による他殺であることが判明した。
しかも八意永琳による検死の結果、指紋や残留魔力がアリス・マーガトロイドの物と完全に一致する事が判明した。
ここまで聞いた第三者がいたとすれば、ここまで分かっているのに疑問の余地がどこにあるのかと首を傾げただろう。
そう、確かにここまで分かっていれば普通なら殺害した犯人はアリス以外に考えられないだろう。
しかし今回の事件ではその証拠があまりにも決定的「すぎる」のだ。
仮に彼女がこの殺人事件の犯人だとするならばこんなあからさまな証拠は残さないだろう。
実際本人もこの事件への関与を否定しており、周囲の者も特にそれを疑っていない。
そもそも彼女は死亡推定時刻にアリバイがあった、アリスは皮肉にも魔理沙が告白を決心した日から研究を進めるために長期間魔界に出かけていたのだ。
この場合はむしろ指紋があることがおかしい。

そして二つ目は魔理沙の顔だった。

「とても、幸せそうな顔ね」
「ええ、そうね」

傷痕を見れば他殺である事はほぼ間違いないにも関わらず魔理沙は何故か
非常に穏やかな表情をしていた(無論絞殺されているので顔の状態は酷いのだが)。
この表情が物語っている事を霊夢達は残念ながら読み取る事ができず、犯人の謎を深めるばかりであった。

「一応こんな所かしら」
「ご苦労様」

永琳による魔理沙の検死が終了した。
魔理沙の家の立地条件上犯人は妖怪である可能性が高い為、霊夢はこれから調査しなくてはならない。
魔理沙の葬儀などについては霖之助に任せ、霊夢は魔理沙の家を出た。

まず最初に向かったのは賽の河原。
死人に口無しという諺が必ずしも当てはまらないのが幻想郷、殺された本
人から証言を得られればこれ以上に楽な事はない。


しかし、

「霧雨魔理沙の裁判は既に完了しています。現在は地獄で服役中です」
「そう」

こうなっては流石に会うことは出来ない。
霊夢は地道に魔理沙の最近の行動を追う事にした。



さて、霊夢が事件の調査をしている頃、アリスは何故今回魔理沙の死体から自分の魔力や指紋が検出されたのか独自に調査を始めていた。
魔理沙の仇討ちのためというよりも、自身を装って魔理沙を殺した理由や精巧な偽装の方法などに興味が湧いたからだ。
本来の研究からは外れるが知識が増えるに越したことはない。
だがこれがなかなか容易ではなかった。
魔理沙の遺体からアリスの魔力(アリスを模した魔力)が検出されたので少なくとも犯人が魔力を使うことは間違いないだろうと踏み、魔理沙の自宅周辺から調査を開始したのだが。

「見事に何も見つからないわね……」

魔理沙の自宅周辺には犯人をたどる手がかりとなるものは一切無かった。

「さて、どうしようかしら」

手がかりが全く無くなり、アリスが悩んでいると、

「あんたこんな所で何してるの?」
「あ、霊夢。魔理沙の家の周りから何か見つからないかと思ったんだけど」
「何も無かったの?」
「ええ」
「ふ〜ん……これから魔理沙の家の中をもう一度調べるけど、あんたも来る?」
「いいの?」
「別にいいわよ、変な事しなければ」

肝心の事件現場は霊夢の手で厳重に封鎖されていた為入る事が出来なかったのだ(封鎖されていなかったとしても勝手に入るつもりはなかったが)。
中をもう一度見る事が出来れば何か分かるかも知れない。
アリスは霊夢と共に魔理沙の家の中に入った。

「家の中は特に荒らされていないようね」
「そうね」

魔法使いが真っ先に殺された場合、まず真っ先に考えられる原因は研究内容の強奪である。
しかし魔理沙の家は当初魔理沙の遺体以外に異常は見当たらず、荒らされた形跡はなかった。
次に考えられるのが怨恨による殺害だが、魔理沙は素行は決して良くなかったものの、本人の人付き合いと要領の良さから殺されるほどの恨みを買っているということも無かった。
今回の事件はアリスを偽装した殺害方法もだが、動機も謎に包まれたままなのだ。

「あ〜くそ、何かないかしら」
「ちょっとちょっと、そんなにいじって大丈夫なの?」
「大丈夫よ、元の位置は覚えてるから……あら?」
「どうしたの?」
「アリスこれって」
「ああ、携帯電話とかいう奴ね。大方魔理沙が早苗のとこから『借りてた』ものでしょ」
「そう、これで何か分からないかしら」
「一応早苗に聞いてみましょうか」

二人は携帯電話を持って早苗のもとに向かった。

「これ電源が入らないですね」
「でんげん?」
「ああ、これは中に電池っていう、まあ燃料代わりの物が入ってるんですが、それが切れているようです。全くつかないので壊れてしまっている可能性もあるのですが」
「その電池は補給できるの?」
「はい、ちょっと待ってください」

早苗はコンセントに充電器のプラグを挿し、携帯電話を入れた。

「これに繋げば……ダメですね、どうやら壊れてしまっているようです」
「直せる?」
「私には無理です。河童の方ならあるいは可能かもしれませんが」
「じゃあ河城にとりに頼んでみましょうか」
「分かったわ」
「私も行きます」

今度は3人で携帯電話を持ち、河城にとりのもとへ向かった。

「いらっしゃい、大勢で何の用かな?」
「これあんた直せる?」
「これは何?」
「携帯電話っていう外の世界の道具なんだけど」
「あ〜そういうのは専門外だから厳しいな。やってみてみてもいいけど保障はできない。それでもいいならバラしてみるけど」
「それはちょっと困るわね」
「ん〜ならこれと同じのを何個か探してきてくれる?何個か開けた後ならもしかするといけるかも」
「早苗、これと同じのあんた持ってる?」
「いえ、残念ながら持ってません」
「香霖堂ならもしかしてあるんじゃない?」
「ああ、確かに霖之助さんなら持ってそうね」
「じゃあ行ってみましょうか」

ひとまずにとりの家を出て、3人は香霖堂へ向かった。


3人から事情を聞いた霖之助は奥の倉庫へと案内した。

「これが今ある全部だ」
「ずいぶんたくさんあるのねえ」
「本当はもっとたくさん落ちていたのだがきりが無かったからな、状態が良い物だけを選んで拾ってきているんだ。僕だけでは少し厳しいから三人も手伝ってくれ」

霖之助と共に携帯電話の山をかき分け始めた三人。
早苗のデザインが多少違っていても製造元や型が同じならば役に立つかも知れないという発言を元に必要と思われる携帯電話を探し出す。
残った大量の携帯電話はとりあえずその場に放置し、3人はすぐににとりの元へ向かった。

後に残された携帯を妖精が持ち出し、これがさらなる事件の発端になる事を知る者はまだ誰もいなかった。



■転1(うらんふ)■

 電源の入っていない携帯電話。
 それは単なる「モノ」であり、つながることはないはずだ。

・・・そのはずだったのだが。

「なんだい、この音は?」

 届けられた携帯電話を調べていたにとりは、思わず声をあげた。鳴らないはずの電話が、けたたましく鳴っているのだ。
 携帯電話は音をあげながら震えていた。バイブ機能が働いているらしい。にとりは怪訝な表情を浮かべたままで、携帯電話を手に取った。

「どう使うんだろうねぇ」

 とりあえず手にはとったものの、使い方は分からない。
 色々と触っていると、偶然、にとりは通話ボタンに手を触れた。

「・・・もしもし」

 携帯から声が聞こえる。低い声だった。

「助けて・・・」

 聞き覚えのある声だ。よく聞いたことがある声だ。しかし、誰の声かは分からない。
 にとりは携帯電話を手に取ると、画面を見た。そこには、名前が表示されていた。

【河城にとり】

 そこに表示されていたのは、自分の名前だった。
 声に聞き覚えがあるはずだ。それは、自分の声だったのだから。

「何があったんだい!?」

 携帯に向かってかたりかける。あちらの声がこちらに届くなら、こちらの声もあちらに届くはずだ。
 必死になって語りかけるが、返事はなかった。
 やがて、携帯電話は切れた。

 誰もいないにとりの研究室の中で、にとりは、ただ手に携帯をもったまま立ちつくしていた。




 その頃。


 幻想郷中に、無数の携帯電話が散らばっていた。
 打ち捨ててあった携帯電話を、妖精たちが手にとって、様々な場所に運んでいたのだ。

 紅魔館。
 白玉楼。
 マヨヒガ。
 永遠亭。
 森矢の神社。
 地霊殿。
 命連寺。
 博麗神社。
 人間の里。

 ありとあらゆる所に、携帯電話は運ばれていく。

 その数は、アリスたちが見つけた数をはるかに凌駕していた。

 携帯電話は、増殖していた。

 どこで増えたのかは分からない。
 数だけはたくさんいる妖精たちのように、携帯電話はその数を増していた。

「あら」
「これは」
「何かしら」

 そして、その幻想卿に散らばった携帯電話が・・・一斉に鳴り始めた。





■転2(ウナル)■



幻想郷に未曾有の大異変が起っていた。
妖怪の山では河城にとりが焼殺された。
紅魔館ではパチュリー・ノーリッジが撲殺された。
白玉楼では魂魄妖夢が斬殺された。
マヨヒガでは橙が血を吐いて倒れ、永遠亭では鈴仙が顔の皮を剥がされ、地霊殿では古明地姉妹が目玉をくり抜かれ、命蓮寺では白蓮が耳から針を刺し込まれ、人間の里では霖之助が圧死した。

そして、博麗神社では――

「霊夢!!」

賽銭箱に寄りかかるようにして倒れ伏していた霊夢を起こした瞬間、湧き上がる嘔吐感がアリスの身体を支配した。
腹から顔を出す刻まれた肉のホース。血と汚物が混ざり合った確固たる死の匂いは、生たるアリスを拒絶する。
もはや魔法でも手の施しようがないほどに、霊夢の身体は破壊されていた。

「っ……誰がこんな!?」

そう言った瞬間、虚空をのぞいていた霊夢の目が動いた。
虫の這うようなわずかな動き。だがその眼は確かにアリスを見ていた。
ありったけの憎悪と殺意の感情を込めて。

「ころしてやる……!」
「っ!?」
「ころしてやる……! ころしてやる……! アリス! ころして……!」

憤怒に歪んだ表情のまま霊夢は力尽きた。
かしゃん、と軽い音を立てて袖口から落ちたのは一台の携帯電話。
そのスピーカーからは『ツーツー』と切断された電子音が流れていた。

「……ぅぁ」

腹をよじるような声を上げて、ようやくアリスは気付いた。
霊夢の腹に残る残留魔力。それは間違いなく自分、アリス・マーガトロイドの物であると。





妖怪の山にある崖の上にアリスは立つ。山からの風は金色の髪を溶かすように強い。
一歩前に出る。遥か地上は100メートル先だ。これなら間違いなく死ねる。

「私は――くっ!」

未練がましく開こうとする口をむりやりに封じ、アリスは天空へと足を踏み出した。
空に上げられたボールのように、アリスは地上へと引き寄せられていく。
万有引力。全てを訳隔てなく扱う無慈悲の力。魔法使いだろうと人間だろうとそれは区別しない。
大いなる地球の腕に身を任せ、アリスは己が身の最後を飾る。










「やめてよね。そんなの」


激突五秒前に突如響いた声。
一瞬の意識の空白の後、アリスは地上へ無事辿り着いていた。

「な、なんで……!」

見ればアリスの身体は、何重にも巻かれた糸のような物に支えられていた。
それがクッションとなり、アリスの身体を守ったのだ。

「だ、誰がこんなこと」
「私よ。アリス」
「っ!?」

そこに少女がいた。
金を溶かしたようなウェーブがかった金の髪。深遠な水底を思わせる青い瞳。青で纏められたワンピースとケープさえアリスと瓜二つ。
倒木の幹に腰かけるその少女は、アリスだった。

「こんにちはアリス」
「私が……もう一人?」

驚愕に目を見張るアリス。その様子に幹に座るアリスはくすりと笑った。

「だ、誰よあなた!」
「私はアリスよ。決まっているじゃない」
「アリスは私よ!」
「そうね。でも、私もアリスよ」


どこか達観めいた表情で、幹に座るアリスは足を組み替えてみせた。
そこで初めてアリスは目の前の少女との相違点を見つけた。
長くしなやかな指の先。
人形遣いであるアリスにとっては命とも言える指先が赤黒く染まっているのだ。

「これが気になる?」

その視線に気付いたのか、指先をひらひらと泳がせて見せるもう一人のアリス。
その体からは魔理沙の魔力が感じられた。

「……っ! この魔力!」
「気付いた? そう、霧雨魔理沙を殺したのは私」
「上海!!」

アリスが指を広げた瞬間、無数の人形が現れる。
七色の人形遣いとしての本領。ありとあらゆる角度から放たれる人形の攻撃は、例え天狗であっても避け切れるものではない。
手に手に槍を持ち、相手を睨む人形たち。
それを見てももう一人のアリスは、肩をすくめるばかりだ。

「……あなたが何者なんて知らない。ただやることをやるだけ。魔理沙に霊夢にその他大勢の仇、討たせてもらうわよ」
「えー、私がやったのは魔理沙だけよ」
「嘘をつくな! あなた以外に誰が……!」
「私よアリス」

ぎくりと身が固まる。
その声は目の前から聞こえたのではない。背後からだ。

「これは……なんの悪い夢?」

そこにはアリスがいた。
手に血のりのついた肉切り包丁を持ち、穏やかな笑みを浮かべている。

「……なに? 幻想郷じゃあ今ドッキリでも流行ってるの? その辺に魔理沙が隠れてて『騙されたなワトソン君!』なんてボード出してくれるの?」
「そうだったらよかったんだけどね」

さらに増える声。
木の上にアリスがいる。ガソリンと焼けた肉の匂いをさせて、アンニュイなため息をついている。

「……う、嘘でしょ」
「嘘じゃないわ」

さらに右からはバールを持ったアリスが歩いてきた。
左からは刀を持ったアリスが来る。
さらに増える足音。

毒瓶を持ったアリス。
五寸釘を持ったアリス。
ゴリアテに乗ったアリス。
銃を持ったアリス。
ペンチを持ったアリス。
ドリルを持ったアリス。
ハンマーを持ったアリス。
片腕を失ったアリス。
顔の半分が焼け爛れたアリス。
アリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリス。

無数のアリスがアリスを取り囲んでいた。

『こんにちはアリス。私たちの希望』





■結(灰々)■


無縁塚で携帯電話を拾う妖精たち。その中央に立って、それらを見渡す一人の人物。

「あなただったのね……」

アリスはその人物を見据えると、一言発した。













「私が、“希望”……?どういう意味?」

大勢の自分に囲まれながら、必死に冷静を装い返した一言。
その問いに答えたのは指先を赤黒く変色させた――魔理沙を殺した――アリスだった。

「あなただけが殺せるのよ。私たちを」

抑揚のない淡々とした口調。人形が発したような言葉に質問したアリスは面食らってしまう。

「殺す……私があなたたちを?それが希望だというの!?」

意味がわからないとアリスは周りの自分たちを見渡す。

「そう、この凄惨な事件の連鎖を断ち切ることのできるのはあなただけ。これ以上私たちのような存在が生まれてはいけないわ」
「どうしろっていうのよ!?」
「それは、あなたが――」













アリスの存在に気がついた早苗が話しかけてくる。

「あらあら、アリスさんじゃないですか。どうしたんですかこんなところで」
「その質問そっくりそのままあなたに返すわ。何をしているの、こんなところで」

アリスが怪訝そうな顔で問いかけてきたが、早苗は気にかける様子もなく返す。

「携帯電話を集めてるんですよ。事件解決の手がかりになるかもしれないでしょう?」
「ふぅん。もっともらしい理由ね。でも、もうそんな言い訳する必要はないわ」

「へぇ」と早苗は口元を僅かに歪め、アリスを見遣る。

「事件の犯人は私だからよ」

アリスははっきりと、そう言い切った。














「私が始めに魔理沙を手にかけた。それが不幸中の幸いだったのかもね」

赤黒く変色した指を見つめて彼女は囁くように語り始める。

「私たちは、元々実態を持たぬただの都市伝説。“着信アリ”という死の携帯電話の噂だった」
「そう」
「私たちに」
「実態は」
「なかった」

代わる代わるアリスが答える。

「魔理沙を殺したとき、私はアリスとしてこの世界に顕現できた。実態を持ったの」
「実態を……何で?どうやって!?」
「確かな理由はわからないわ。魔理沙の首を絞めるとき、彼女が意識を失う直前、確かに言ったの……アリスって」

それは、死の瞬間に発せられる脳内物質のせいなのか、はたまた、魔理沙が日々思い返すアリスの顔が走馬灯のように駆け巡ったのか。
理由は確かではない、だが確かに魔理沙は自分を絞め殺す何者かをアリスと認識したのだ。
その瞬間、“着信アリ”は“着信アリス”へとその姿を変えた。
実態を持たぬ姿無き殺人鬼はアリス・マーガトロイドという実態を持った美しき殺人鬼に変貌を遂げたのだ。

「だから、もう一度言うわ」
「ええ、お願い」
「私たちを止めて」
「これ以上増やさないで」
「殺して」
「私を」
「噂を」
「その為に」

『私たちの罪を被って。死の携帯電話なんてはじめから無かったことにして。全てはアリス・マーガトロイドによる殺人だったと証明して!』














「そう、全ては私がやった。魔理沙を絞殺し、にとりを焼き殺し、パチュリーを撲殺、妖夢を惨殺、橙に毒を盛り、古明寺姉妹の目玉を抉り、鈴仙の顔を剥ぎ、白蓮の耳に針を突き刺し、霖之助を圧迫し、霊夢の腹を裂いて殺したも全部私……」
「ははは、ご冗談を、アリスさんにはアリバイがあるじゃないですか。魔理沙さんが亡くなったとき、あなたは魔界にいた。それに今あげた方々の中には死亡時刻が被っている者もいますよ」
「……困るのかしら?この一連の事件が私一人の犯行だと証明されてしまったら」

アリスは早苗の反論を歯牙にもかけず、聞き返す。
「くくく」と観念したとでもいうような下卑た笑いが早苗の口から漏れる。

「ええ、困りますね。せっかくここまで育てた噂が効力を失ってしまうじゃないですか……」
「携帯電話を妖精にばら撒かせたのもあなた。死の携帯電話の噂を流したのもあなた。そうね?」
「ええ、噂を広め、呪いが人を殺めれるレベルにまで昇華させたのは私です。噂は神と同じですよ。信じるものがいればそれだけ強くなる。恐れれば恐れるだけ、恐ろしいものへと変わるんです。これを利用して幻想郷の邪魔者どもを一掃する計画だったんですがね……このままいけば蓬莱人も殺せるほどの力を持つはずなんですよ」
「でも、させないわ。だって」

アリスはポケットから携帯を取り出した。


タンタンタンタン、タンタンタンタン……


あの着信音が鳴り響く
その携帯電話を早苗に見えるように掲げる。。
ディスプレイに映し出された名前は東風谷早苗。
二分後からの着信。


「みんな私が殺したんですもの。魔理沙も、パチュリーもにとりも妖夢も橙も古明寺姉妹も鈴仙も白蓮も霖之助も霊夢も……二分後のあなたも!」

アリスが腕を振るう。無数の人形が早苗の四方八方から襲い掛かった。

「ふん!丁度いいです。遅かれ早かれあなたには死んでもらおうと思っていたんですよ!」

早苗は風を纏い、それらの人形を跳ね飛ばし、攻撃をかわす。

「実態の無い噂に実態を与えた……それ故にこの噂は不完全なのよ……!!」

アリスの指先がたけり狂ったピアニストのようにカタカタを動くと人形達からどこにしまっていたのか無数の鋭利な刃物が飛び出す。

「魔理沙の愛がつくってくれた隙。あいつがこの噂を不死から可死に変えた!」

人形の刃物がグルングルンと回転する。触れればたとえ体が鋼で出来ていても無事ではすまないほどの、ごつい刃物が目に追えぬスピードで回っている。

「ふふ、それも、あなたが死ねば完全なものになります。死んだアリスの呪い“着信アリス”なんて素敵じゃないですか!!」

早苗がお払い棒を振りかざすと暴風が吹き荒れる。それらは人形の重く冷たい金属の刃さえ紙切れのように切り裂く無数の風の刃と化して人形たちを切り刻んだ。

「さあ、これで終いです!死んで下さいアリスさんッ!!」

その刃は一つに纏まると巨大な風のギロチンとなってアリスに振り下ろされた。
アリスは残った人形を盾にするが、


グシャッ!!!!


その人形ごと、風のギロチンはアリスを真っ二つにしてしまった。


「はははははは!!これで、噂は完璧です。もうだれもこの死の着信音から逃れることはできせん!!“着信アリス”の完成ですッ!!!!」


ドスリ


肉を穿つ鈍い音。早苗の胸から突き出た冷たい刃物。


「そうね。死の着信音からは逃げられないわ……いいえ、私が逃がさない!」
「な、なんで……どうやって……」
「あなたが真っ二つにしたのは私にそっくりな人形だったのよ。これが、私が魔界にいながら、離れた二つの地点で同時に犯行を、あなたを背後から貫くことのできたトリックよ!!!」


ガハッ


刃物を引っこ抜かれた早苗は口から大量の血を吐き出して地面に倒れる。恨めしそうにアリスをにらみつけ、そのまま亡くなった。
アリスは妖精たちが集めた携帯電話を全て切り刻むと、早苗の死体を抱えて無縁塚を後にした。














アリスが自首したのは、事件に使われた全ての携帯電話を破壊してからだった。
魔界に行っていたのは自分の人形、魔理沙を殺したのは自分。その他も全て、アリスの説明で自身の犯行だと裏付けられた。


「これが、かの凄惨な連続殺人事件“着信アリス”の真相です」


アリス逮捕の事実はすぐに天狗の新聞によって幻想郷中に知れ渡った。














“あの、アリス・マーガトロイドが犯人だった。私は正直驚きを隠せない。彼女とは何度か酒を酌み交わしながら語り合ったことがある。彼女の人柄を知るものならこれら一連の事件を彼女が行ったとは到底信じられないだろう。アリス・マーガトロイドは気さくな人物とは確かに言いがたい。しかし、胸の奥に秘めた確かな慈悲の心と他者をおもいやるやさしさを持っていた……私はそう思っている。そんな彼女がこのような凶行に走ったのは一体いかなる理由があったのか。その動機についてはアリス・マーガトロイド自身が固く口を閉ざしている。私はこの事件にはなにか裏があるのではないかと思っている。いや、そうであってほしいと願ってやまない。この事件を調べているうちにいくつか不自然な点が出てきた。故に私はアリス・マーガトロイドが犯人……少なくとも犠牲者の全てを葬ったとは思わない、という確信めいた疑いを持っている。その不自然な点というのが以下の……”


4月18日付け、『文々。新聞』より抜粋。











おわり
やはりオチが一番苦労しますね。普段はしない推理小説の犯人を当てるような感覚でした。張られた伏線をできるだけ回収できる話を考えたつもりだったのですが……どうでしたでしょうか?今回このような企画に参加することができて非常にうれしく思います。5の倍数の日までが締め切りだったので、毎回その日にビクビクしながら、ギリギリでなんとか仕上げてました。しかし、とても楽しく書かせてもらいました。もし、また機会があればやりたいですね。でも、しばらくは締め切り無しでまったりやりたいですww

(灰々)
変態牧師→機玉→うらんふ→ウナル→灰々
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/04/01 22:56:51
更新日時:
2011/04/02 07:56:51
分類
リレー小説
1. うらんふ ■2011/04/02 10:04:50
もう、「着信アリス」という題名だけで一本です☆
私では考え付かない・・・
2. NutsIn先任曹長 ■2011/04/02 12:16:19
正体不明。
これぞ、恐怖。

正体が明らかになった時。
恐怖は唯の事象になる。

正体不明は、魔理沙によってアリスの姿を得た。
姿を持った恐怖は、その時点で恐怖ではなくなっていた。
早苗はその点を失念していた。
だから、恐怖の姿を持ったオリジナルのアリスに屠られ、
アリスの姿をした恐怖達もオリジナルのアリスによって殆どが消滅した。

僅かに残った恐怖は、残された者達への戒めとなるか。

アリスは黙して何も語らず。
犠牲者自身の着信メッセージは何を語るか。
3. ウナル ■2011/04/03 00:33:36
かなりの無茶振りをまとめた灰々さんすげえ!
脱帽です!!
4. 灰々 ■2011/04/03 21:14:52
ウナルさんありがとうございます。
回ってきた時はどうしたことかと頭を抱えましたが、なんとかまとめることができてよかったです。
5. 機玉 ■2011/04/03 22:28:45
自分は承担当ということでとりあえず携帯をばらまかせていただきましたが、凄まじい結末になりましたね。
多数の死者を出した幻想郷と全ての死と罪を被ったアリスはこれからどうなるのか……
6. 名無し ■2011/04/03 23:05:30
よく落とせたなあとまず素直に思いました。結までは複線が膨らんでってどうなるんだこれと思っていたので。
7. 幻想保査長 ■2011/04/04 17:49:10
上手くまとめた灰々さんすげぇや・・・。
そしてアリスかわいそ・・・魔理沙のせいでこんなことになったんだから。
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