先任として教えられることはそんなにないけれどね。

作品集: 25 投稿日時: 2011/04/21 00:10:46 更新日時: 2011/04/21 00:10:46
 誰かに呼ばれたような気がして十六夜咲夜はまどろみから目覚めた。

 窓から斜めに差し込んでくる光。そろそろ夕方かと寝起きの霞がかった頭でぼんやりと考え、焦点の定まらぬ目の尻を擦る。どうして自分はこんなところで眠っていたのか、立ち上がりつつ思い出そうとするがそれには二呼吸分ほどの時間がかかった。掃除の途中でなんだか少し立ち眩みをおぼえ、小休止と椅子に腰をかけたのだった。壁にかけられた時計に視線を向ければ掃除を始めてから二時間ほどが過ぎていた。小休止と言うには長すぎる時間。窓の外に目をやると少し傾いたお日様が見えた。夜までまだ三時間ほどあるが、あれやこれや仕事をしていればあっという間だ。もっともこの時を操る程度の力を持つメイドには時間なんてものは関係がなかった。兎に角、さっさと仕事を済ませよう、そう咲夜は立ち上がり、

「っ…」

 めまいを、覚えた。
 ホワイトアウトする視界。疼くこめかみ。まっすぐ立っていられなくなり、とっさに壁に手を付いた。
 そうしてそのまま咲夜はじっと項垂れてしまった。意識しないと上手く呼吸が出来ない。そんな気分。ものの数秒で目眩は収まったが、まだどこか体の歯車というか回路というか、そういったものの調子がおかしいように感じられた。

「咲夜〜咲夜〜」

 そんな声が屋敷の入口の方から聞こえてきた。どうやら、惰眠から目覚めるきっかけは幻聴ではなかったらしい。はい、と咲夜は声を上げて/






「御用でしょうか、お嬢さま」

 屋敷のエントランスの大扉の前で立っていたレミリア・スカーレットの前に瞬間移動したようにいきなり姿を表した。なんてことはない。時を止めて主人の元へ急ぎ足で赴いただけだ。その前に身だしなみを整えることも忘れずに。

「いいえ、用はないわ咲夜」

 レミリアも咲夜の特技には慣れたものでさして驚いたりもせず、そう返す。

「でしたら、なんでしょう?」
「ちょっとね、出かけようと思って」
「成程。ゼロ秒お待ちください」

 一歩下がりレミリアに頭を下げる咲夜。また時を止めてその間に準備してこようというのだ。けれど、それに先んじてレミリアが声をかける。

「咲夜、貴女は優秀なメイドだけれど、女としてはあまり優秀じゃないようね」
「と、言いますと?」

 すこし呆れ顔でそう咲夜に言うレミリア。咲夜は小首を傾げる。

「見ての通り、私は一人で出かける用意をしたわ。日傘に鞄。香水も持ったし、お化粧も済んでるわ」

 もちろん、スキンもね、とレミリアはいたずらっぽい笑みを浮かべて説明する。けれど、まだまだ咲夜は自分の主人が言わんとしていることがわからなかった。はぁ、と曖昧に頷く。

「もう、ニブチンね。今日は私は一人で出かけたいの。貴女は優秀なメイドだけれど、今日、ついてこられてもお邪魔虫でしかないわ」
「そうでしょうか。炊事掃除の家事全般、お屋敷の経理から人事の管理。誘拐・拷問・脅迫・洗脳・懐柔・賄賂・暗殺のセプテットを奏でれますし、弾幕ごっこも得意ですわ」

 どんな仕事でも完璧にこなしてみせますわ、と咲夜は胸を張った。対してレミリアは頭痛がするのか、指先で軽く額を抑えていた。

「もう、みなまで言わないと駄目なのね。第一、こんなに夕方早くから私が、ナイトウォーカーの私が起きている時点で察しなさいよ。今日は貴女みたいなデイウォーカー、人間の所に行きたいの。もちろん、一人でね」
「…狩り(マンハント)でしょうか。それでしたらなおのこと証拠隠滅のために私がついていかないと…」
「あーっ、もう!」

 ぶん、と怒りも顕に腕を振るレミリア。頬をふくらませ、咲夜を睨みつける。

「今日はね! 私は! 神社に! 霊夢のところに行くの! 宴会とか弾幕ごっこなら貴女を連れていくけれど、今日は違うの! 二人っきりになりたいんだから、付いてこないで! 邪魔なだけだから! そう言ってるのよ! わかった、咲夜!」

 がー、とバンパイアらしく鋭い犬歯を口から覗かせながら吠えるレミリア。さしもの咲夜も怒られたとあっては涼しい顔ではいられない。僅かに顔を歪ませ、レミリアの怒鳴り声を聞き入るしかなかった。

「それじゃあね、行ってくるから! 今日は帰って来ないと思うから夕食はいらないわ! ええ、朝食もね! じゃあね、咲夜!」

 ひとしきり、言いたいことを言うとそれ以上は何も言うことはないと有無を言わせぬ雰囲気で咲夜に背を向けるレミリア。日傘をさし、勢いよく戸を開けると赤く染まり始めている外へと出かけて言った。いつもより一拍遅れで行ってらっしゃいませ、と頭を下げる咲夜。だが、顔はまだどこか狐につままれたように呆けている。

「あちゃー、アレは不味かったですねぇメイド長」

 一人、エントランスホールに取り残されていた咲夜にそんな声が後ろからかけられた。振り返る咲夜。けれど、そこには誰もいない。と、咲夜が顔を上げるとそこには分厚い本を何冊も両手で抱えたまま、背中の小さな翼をパタパタと動かし宙に浮かんでいる小悪魔のこぁの姿があった。

「あそこはヤッパリ、気を利かせて『行ってらっしゃいませ、お嬢さま』と見送るべきでしたね。ああ、それでその後、お嬢さまが後ろをむたらこう、こっそりエールを送るべきだったんですよ」

 ホールの床の上に小さく音を立てながら降りてくる小悪魔。魔法の力か、抱えていた本を宙に浮かせると握りこぶしを作り、親指を内側に人差し指と中指の間から出し、それを付き出してくる。じとー、とそんな小悪魔の様子を咲夜は半目で眺めた。

「あっ、それとも分かっていてあんな態度をとっていたとか!
  良家のお嬢さまに想いを寄せるメイド。けれど、お嬢さまには意中の相手が…いつしか淡い恋心は恋慕へと変わり、そして、嫉妬の炎を纏うようになる! あぁ、お嬢さまのことは私が一番良く存じているのにっ! 燃え上がった嫉妬の炎は殺意へと変わり、メイドは毒酒を手に恋敵を亡き者にする! そうとは知らず、意中の相手との死別に悲哀にくれるお嬢さま。メイドがその心の隙間に忍び込むにはわけなかった。意中の相手ととって替わりお嬢さまとついに相思相愛になるメイド。けれど、まだメイドの心には不安があった。自分とお嬢さまはあまりに身分が違いすぎる。それにお嬢さまはまた自分以外の別の誰かを好きになってしまうかも知れない。永遠に、永遠にお嬢さまを愛し続けるにはお嬢さまを独占するしか術はなかった。メイドはどんな傷でもたちどころに塞ぐ霊薬を手に入れると皆が寝静まった深夜、お嬢さまの部屋へ一人赴く。手にはもうひとつ、凶悪な輝きを放つ鉈を握りしめて。それを知らずにお嬢さまはいつものように情愛を交わそうとメイドを自分の部屋へ。そうして、メイドは素早い動きでお嬢さまの自由を奪うと、悲鳴が洩れぬよう猿轡を咬ませその手足を…
 数日後、メイドはお嬢さまが行方不明になり上へ下への大騒ぎの中、ご当主さまにお暇を戴きたいと申し出る。お嬢さまのお部屋のベッドの上に残された大量の血痕。未だお嬢さまは見つかっていませんが、あの血の量ですと…みなまで言わず、涙を流すメイド。そのまま嗚咽を漏らしながらご当主さまに訴えかけます。お嬢さまとの思い出がつまったこの屋敷で帰ってこないお嬢さまを待つのは辛すぎます。どうか、どうか、今日限りでお屋敷の仕事は終わりにして戴けませんか! うむ、うむ、と涙ぐみながら頷くご当主さま。ご当主さまは現実主義者。娘はもう帰ってこないのだと当に諦めています。だからこそメイドの辛さも分っているつもりでした。私はお前も実の娘のように想っている。何かあったら遠慮なく私を頼ってくれ。そうメイドを送り出すご当主さま。メイドは何度も深々と頭を下げ、長年奉公してきたお屋敷を後にします。大きな、大きな、とっても大きな人の胴体一つぐらいなら入りそうな鞄を掲げたまま…
 って、展開ですか?」
「長いわ。くたばれ」

 かっこーん、と小気味いい音を立てて仰け反る小悪魔。その眉間には銀のナイフが深々と突き刺さっていた。咲夜が投擲したものだ。そのまま小悪魔は後ろへワイヤーで引っ張られたようにすっ飛んでいき、階段の手すりに当たってやっととまった。

「痛いですよメイド長」

 頭にナイフを突き刺したまま、顔をどくどくと流れる赤い血に汚しながら小悪魔は体を起こした。

「こーゆーのって美鈴さんの役目じゃないんですかぁ?」
「私に対してボケをとる輩全ての役目よ」

 もう一本欲しいの、と問いかけるよう手の中で銀のナイフを弄ぶさまを見せつける咲夜。ひぃ、と短い悲鳴を上げ、すいませんでしたと頭を下げた。

「で、ホントの所、どうなんですかメイド長」

 フッ飛ばされた距離を戻りながらそう咲夜に問いかける小悪魔。無造作にナイフの柄を握り引き抜くとべったりと顔を汚している血糊をハンケチで丁寧に拭った。その後にはもう、穴が穿たれた眉間も砕かれた頭蓋も覗く脳漿もなかった。小さく可愛くても悪魔と言うことか。この程度の傷、蚊に刺された程度なのだろう。

「どうって」
「お嬢さまとその意中の相手、霊夢さんについてですよ」
「あぁ」

 咲夜に顔を寄せ下世話そうな笑みを浮かべる小悪魔。咲夜が眉を顰めたのははたして、質問自体に嫌悪を催したのか、それともそんな質問を投げかけてきた小悪魔に対してだったのか。

「お嬢さま、猛烈に霊夢さんにアタックかけてますからねー」

 ここで言うアタックは物理攻撃…の意味ではなく、恋愛のそれだ。
 紅霧異変解決後、レミリアは自分をこてんぱんにのした人間・博麗霊夢に幾度となく再戦を挑んだ。下等な人間に自分が敗れるはずがないというプライドと幻想郷内では“無敵”とされる博麗の巫女の力に興味を抱いたからだ。だが、そんな感情を持っていたのは最初だけで次第にその妖怪でも滅多にいないような飄々とした雰囲気を纏う霊夢自身に興味を抱くようになった。
 そうして弾幕ごっこの後、暖かなお茶やおいしい茶菓子を出してくれたり、お話ししている内に興味は確かな想いへと変わっていった。500年生きてきた中で新しく生れた人間に対する感情…食料でも僕でもない、第三の想い、恋心だった。
 自分自身の奥底に生れていた感情に気がついた後はレミリアは一直線だった。ことあるごとに霊夢の元を訪れ、果敢に距離を縮めようと努力していた。霊夢を狙っている人妖は自分以外にも沢山いて早くしなければ先を越されることが分りきっていたからだ。

 そんな事を思い出しながら小悪魔は問いかける。少しだけ変わっているけれど所詮ただの人間なのに吸血鬼であるレミリアの側に居続ける咲夜に。

「…ハァ」

 暫く悩むような呆れるような、そんな顔を浮かべた後、咲夜はあからさまに大きなため息をついた。

「私も出かけてくるわ。お嬢さまが召し上がらないんだったら久しぶりに大蒜を使った料理にしましょう。美鈴にも手伝わせるから」

 咲夜は小悪魔の質問に答えず、半ば無視する形で出口の方へと歩いて行った。ちょっと、メイド長〜と小悪魔は未練がましく声を上げるがとりつく島もない。さっさと宣言通り、咲夜は出かけていってしまった。

「…もう、面白くないなぁ。傲慢、大食、色欲、憤怒、強欲、怠惰、それに嫉妬は私たち悪魔の大好物なのに」

 ちぇーと、唇を尖らせる小悪魔。

「ところでメイド長、フランちゃんのご飯はどうするんだろう?」

 もう、当に咲夜は空を飛んで集落に向かっており応えてくれる者は誰もいなかった。









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――








「あれは…」

 八百屋で購入する大蒜の品定めを行っている最中、咲夜はふと往来の真ん中で見知った紅白の色合いを見つけた。
 霊夢だ。どうやら霊夢もこの集落に買物に来ていた様で、手に籠を持ち、誰かと話しているようだった。相手は背の高い女性で明るい感じの笑みを浮かべていた。対して霊夢は何処か借りてきた猫のような雰囲気をしている。
 
「それじゃあね」
「はい、さようなら」

 暫くすると相手の女性は別れの挨拶か、手を振りながら霊夢から離れて行った。霊夢は丁寧になんども頭を下げ、女性が人ごみにまぎれて見えなくなるまでずっとそんな体勢だった。

「珍しい。貴女が頭を下げるなんて」
「…私だって目上の人には頭ぐらい下げるわよ」

 霊夢が顔を上げたタイミングを見計らって咲夜はそう声をかけた。別段驚きもせず、咲夜の言葉に僅かばかりむっとしながら応える霊夢。

「ああ、でも、貴女がここに居るって事は、お嬢さまはどうやら骨折り損だったようね。お嬢さまは骨を折ったぐらいじゃどうってことないけれど」
「嫌な予感はあんたんトコの吸血令嬢だったか」

 咲夜の言葉に更に怪訝そうに霊夢は眉をしかめた。
 なんか、虫の知らせめいたもんを感じたから買い物ついでに神社から出てきたんだけど、と霊夢。どうやら半ば勘であったがレミリアから逃げるために出かけたらしい。

「あんたんとこのおぜうでしょ。何とかしてよもう」

 咲夜に詰め寄る霊夢。レミリアは霊夢に果敢にアタックを仕掛けているようだったが、霊夢のこの態度から察するにあまり成果は上がっていないようだった。どうやら霊夢は咲夜からレミリアにおつき合いするつもりはないと遠まわしでもいいから言ってやって欲しいようだった。

「そう言われても。“人の恋路の邪魔をする奴はリグルに蹴られて死んでしまえ”と言うし。どう?ああ見えて結構、可愛らしいところもあるのよ、うちのお嬢さまは」
「可愛いのは………まぁ、同意するけど。巫女が吸血鬼と仲良くなるなんて、今時三文小説(ライトノベル)でもなかなかないわよ」
「一時は多かったけれどね」

 頼まれたとは言え流石に主人の意向に反することを行うのは気がひけるのか、咲夜は話題逸らしにかかった。けれどこの話題では方向修正は無理なようで、一昨日もね、と霊夢は咲夜にレミリアの文句を言おうとした。

「そう言えば、先程の女性は? さっきも言ったけれど、貴女が他人に頭を下げるのは本当に珍しし」

 何処かに助け舟は、と咲夜は頭をめぐらし先程の背の高い女性の事を思い出した。と言っても話題逸らしだけではなく本当にこの飄々とした態度で人妖貴賎の隔てなく接する霊夢がへりくだった態度を見せていたのが珍しかったのだ。霊夢が謙譲する相手とは一体何者なのだろう、と興味が湧いてきたのだ。

「あの人は先代よ」
「先代?」
「前の代」
「それは分る。なんの?」
「博麗の巫女よ」

 博麗の巫女。その名前を聞いた途端、咲夜は自分の瞳孔が開くのを確かに感じた。

「へ、博麗の巫女? 先代って存命だったの?」

 思わずそんなことを質問してしまう。霊夢は呆れた様子で頭を振るいそうよ、と答えた。

「…勝手に激闘の果てに死体も残らないような死に方をしたと思っていたわ」
「ん、まぁ、そういう巫女もいたでしょうけど」

 成程、と咲夜は思い直す。先代の巫女なら確かに霊夢といえど頭は上がらないだろう。自分が今やっていることをやり終えた人物なのだから。それに思い返せばあの何処か浮き世離れした雰囲気は霊夢とよく似ていた。

「死ねば代が替わる仕組みじゃないのね」
「よくは知らないけど、博麗の巫女としての力がなくなればお役御免よ」

 それは別段、博麗の巫女に限らず当然のことだろう。仕事が出来なくなれば代替わりする。それには当然、殉職も含まれている。あの霊夢と話していた先代はそうはならず、力だけを失いただの一般人に成り下がったのだろう。

「今はなんか強者との戦いを求めて世界各地を旅してるみたい」
「巫女から一転格闘家ねぇ。波乱万丈な人生ね」

 肩をすくめる咲夜。霊夢もこの前もオーガだったか殺人鬼だったかとやりあったって話してたわ、とまるで珍獣でも見たような口振りだ。

「まぁ、役目を終えた後は自分のしたいことをしながら生きる、ってのは世間一般から見ればかなりいい人生じゃないの」
「そうね。よくわからないけど」

 霊夢の言葉に咲夜は曖昧に頷く。

「私は巫女をやめても縁側でお茶を啜るような人生を送りたいわ」
「若いのに年寄りみたいなことを。まぁ、それもいい人生かもね」
「あんたは? メイド」

 と、霊夢が唇を尖らせながらそんなことを訪ねてきた。咲夜は唇に手を当て、瞳を上向きに、そうねぇ、と考えを巡らせる。けれど…

「どうにもメイドをやっている以外の自分の姿が想像できないわ」
「仕事人間ね」
「紅魔館は終身雇用だからね」

 回答はそんなものだった。もとより過去の一切を捨て去り、化物に忠誠を誓った身。身に余る考えは愚か、自分の考えというものを持たずひたすらに主の意向に従う、というメイドらしい考えを体の芯まで覚えこませている。そのメイドを辞めることなんて考えは咲夜はけし粒一つ分ほども思いつかなかった。それに…

「まぁ、これはこれで楽よ。衣食住には困らないもの。あの先代さんのように生きるにしたって路銀を稼がなきゃならないでしょうしね。貴女の望みにしたって、叶えようとするならそれなりの蓄えが必要なんじゃない」
「夢のない話だけれどそりゃそうね。人生には勇気と想像力。それとほんのちょっぴりの金が必要だわ」

 はん、と自嘲と皮肉、世を斜に見るように鼻を鳴らす霊夢。道行く商人風の男がその声に反応して一瞬、霊夢の方へ視線を向けてきたが、ほんの一瞬だけだった。

「まったく。うら若い乙女が買い物かご片手にするような話じゃないわね。やめやめ。でさ、話、戻すけれど、やっぱりあんたんトコのお嬢さま、本当にどうにかしてよ」
「そう言われても…」

 結局話を戻され、咲夜は能面のような表情を張付けつつ、内心では盛大に溜息を漏らした。どうやら咲夜にとって今日は聞きたくもない話を聞かされる一日のようだった。

「巫女が吸血鬼と仲良くなるなんてありえないわ。紅白に赤なんて、どんだけ赤くするつもりよ。真っ赤っかじゃない。いや、そりゃ、こ、好意を寄せてくれるのは…その、まんざらでもないけど、兎に角、私は退治する方。吸血鬼は退治される方。相性が合うはずないじゃない。それなのに何考えてるのかしらね、あのバンパイアは。まったく」
「………」

 もはや黙って聞くしかないか、と諦めの境地に達する咲夜。まぁ、出来る限り聞き流そうと肩の力を抜いて、

「……?」

 力が必要以上に抜けた。
 ふらり、と足をもつれさせる咲夜。慌てて霊夢が介抱する。

「どうしたの? 大丈夫?」
「ええ、ちょっと目眩が…」

 霊夢の質問に答えながらも咲夜は青い顔をしていた。寒いのか、体もすこし震えている。

「風邪ね。今日はもう帰ったほうがいいわよ」
「…そうさせてもらうわ」

 それじゃあ、と咲夜は頭を下げて紅魔館の方へと歩いて行った。その背中を見送る霊夢。足取りはしっかりしていたが、どこかしっかりと地面を踏みつけていないように見えた。

「――余裕、なさそうね」

 霊夢から十分離れて、ポツリと咲夜は呟いた。








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――








 誰かに呼ばれたような気がして博麗霊夢はまどろみから目覚めた。

 ゆらめきぼんやりとした光。ここはどこだろうとぼんやりとした頭で考え、焦点の定まらぬ目の尻を擦る。どうして自分はこんなところで眠っていたのか、霊夢は体を起こしつつ思い出そうとするが二呼吸分ほどの時間をかけても思い出せなかった。ここが何処なのかも思い当たらなかった。
 そこはレンガ造りの埃っぽい部屋だった。窓らしきものはなく、光源といえば机の上に無造作に置かれた真鍮製のランプだけだった。ランプ油の燃える匂いとかび臭さ、埃っぽさが鼻についた。なんとなく地下牢を思わせる作りの部屋だ。本当に地下にあるのかも知れなかった。ちうちう、と鼠が部屋の隅に置かれたタンスの裏から飛び出してきて、どこかへと走り去っていった。
 霊夢は固いベッドの上で眠っていたようで、体の節々が痛んだ。特に首の後と肩こりが酷い。体を起こした霊夢は肩をコキコキと鳴らし、そうして…

「ナニコレ?」

 首に何か輪っかのようなものが嵌められていることに気がついた。金属でできているらしく、肩こりはその重量のせいのようだ。霊夢はそれを外そうとガチャガチャといじくり回したが霊夢の細腕ではどうしようもなかった。外すには何か鍵か特殊な器具が必要なのかもしれない。もしくは…

「あーっ、もう。誰のイタズラよコレ!」

 首輪を外すのを諦め大声を上げる霊夢。だけど、返ってきたのは煉瓦の壁に反響した自分の声だけで応えてくれるものは皆無だった。

「こんな首輪付けて、こんなとこに閉じ込めて…着替えまでさせて。手が込んでるわね、ホント」

 嫌味ったらしく状況を口にする。今、霊夢が着ているのは麻でできた粗末なシャツとズボンだった。いつもの巫女服ではない。脱がされたであろうそれも見当たらなかった。
 霊夢はベッド脇に揃えられていたスリッパを履くと立ち上がり、取り敢えずランプを手に自分が閉じ込められている部屋を見て回った。五、六畳のほどの狭い部屋にベッドと小さなテーブルとタンスが一つ置かれているだけ。一応、出入口らしき扉はあるが鍵が開いているとはとても思えなかった。ほかに何かないかなとテーブルの回りを一周してみるが他にめぼしいものは見当たらなかった。タンスの中もあらためてみたが着替えや下着、タオルが数枚入っているだけだった。

「どうしたものかしらね」

 首輪が気になるのか、それを弄りながらふむと唸る霊夢。
 と、

――レイム

 そんな風に自分を呼ぶような声が聞こえてきた。ノイズ混じりの声。肉声ではない。レコード盤か磁気テープか、何かしらの記録メディアに録音された声を再生しているような音だった。

「何? なんなの?」

 流石に機械相手に怒鳴るつもりは起きなかったのか、霊夢は投げやりげに言葉を返しただけだった。当然、返事は聞こえてこない。ヤレヤレ、と溜息をつくと、

――レイム

 もう一度、音声が聞こえてきた。今度は返事もせず無視を決め込む霊夢。相手をするのも面倒だとベッドに腰を下ろす。

「ん?」

 どうしようかとため息をついたところでまた別の異音が聞こえてきた。しかも今度はすぐ近く。部屋の中。いや、もっと近く。音は霊夢の首にはめられた首輪から聞こえてきているようだった。

「もう! なんなの!?」

 首輪を押さえる霊夢。それは小刻みに震えていた。どうやら側面にある小さな箱に何かしら仕掛けが施されているようだった。何が起こるのかと、顔をこわばらせる霊夢。いや、すでにそれは起こっているのだ。

「う…く、首輪が…!?」

 首輪を抑えていた指の先に圧迫感を覚え、堪らず手を離す霊夢。まさか、と思い再び首輪に触れると指の一本は簡単に入った首と輪の隙間が今ではその半分程度しかなかった。しかも、それは徐々に小さく、狭くなってきているのだ。きりきりきりと首輪から聞こえる音は輪が絞られ、経が小さくなっている音だったのだ。

「くっ、苦しい…」

 程なくして輪の内側が霊夢の首の皮に触れる。だが、それでも首輪は締め付けるのをやめなかった。更に輪の経は小さくなり、絞られる金属の輪に引っ張られ首の皮が引きつり、喉が押さえつけられ霊夢は息苦しさを覚える。

「あぁ、畜生!」

 首輪に両手の指をかけなんとか外そうと全身全霊の力を込める。だが、金属の輪は固く、先に指が参ってしまうほどだった。喉のあたりの骨がこきり、と鳴り、一瞬、霊夢は目眩を覚える。もしこのまま首輪の経がどんどん小さくなっていったら? 程なくして呼吸もままなならなくなり、喉の骨が折れ、気道が潰れることになる。そうして、もし、首輪の締め付ける力が馬のように強ければ最終的に待ち受けているのは熟れ過ぎた柿の実よろしく、胴体と永久にお別れしてしまった首だ。もっとも霊夢はその前に死を迎えるだろう。それは嫌だと、首輪を押さえながら霊夢はなんとか外す方法を探す。

――レイム

 そこへ三度、音声で自分を呼ぶ声を聞いた霊夢。なんなの、と霊夢は首輪を外す作業を中断し顔を上げる。声は扉のすぐ外から聞こえてきているようだった。
 と、

「わっ、わわわ!?」

 首輪の絞まる速度が一気に倍になった。きゅきゅきゅい、と耳障りな金属音を立てる首輪。巻き込まれ首の皮に擦過傷が出来る。喉はもう、声もあげられないほど絞めつけられていた。

「く――そ」

 この部屋にいてはどうあっても首輪は外せないと、霊夢は一か八かの望みをかけて立ち上がり、扉のノブに手をかけた。声は外から聞こえてきていた。その声がかかった瞬間、首輪の絞まる速度があがったのだ。何らかの関係性があるはず。この扉をなんとか開けれれば、或いは。一縷の望みを賭けてドアノブを回す。
 
「あ―?」

 と、霊夢の予想に反し、ドアはすんなりと開いた。誘拐されたのだから監禁されてしかるべき、そんな考えがあったのだ。一瞬、あっけにとられる霊夢。だが、首に迫った生命の危機にすぐさま我に返り、扉を開け放つ。はたして、そこにいたのは…

「な、に…コレ?」

 一体のマネキン人形だった。
 背丈は十もいかぬ子供程度でそれに似合ったフリルのたくさん付いた女児向けの洋服が着せられていた。変わったところと言えば頭の代わりに朝顔の花を思わせるスピーカーがついている事だろうか。そのスピーカー部分からがが、とノイズが聞こえてきたかと思うと四度目、いや、実際には五度目だろう。また霊夢を呼ぶ声が聞こえてきた。途端、更に首が締付けられる。いよいよもって息さえ出来なくなり霊夢はその場に跪いた。

「ぐ、ぇ…」

 蟾蜍を踏みつけたような悲鳴を上げる霊夢。瞳が見開かれ、僅かにでも気道を確保するためか霊夢は顎を上げた。まるで赦しを乞う罪人のような様。粗末な衣服がそれに拍車をかける。だが、そこには寛大な王も慈愛に満ちた聖者も存在していない。あるのはただ、マネキンだけだ。熟れすぎ腐り始めたトマトのように霊夢は顔を赤くさせ、締付けられた首に爪を立てる。首筋に縦に裂傷が出来る。吉川線。目尻から流れ落ちた涙が頬を伝わる。激しく胸が上下するが一握りの酸素とて肺には至らない。ついには霊夢は体を起こしていることさえままならなくなり、その場に伏した。赤を通り越し青黒くなった顔でもがき、苦しむ。陸に揚げられた深海魚の様。そうして…

「あ……?」

 ふと、見上げたマネキンに霊夢はソレを認めた。
 マネキンの首からぶら下げられたスイッチ。目立つよう赤々と点灯しているそれを。
 霊夢は声にならぬ声をあげながら体を起こすと、カンダタよろしく最後の希望をもって腕を伸ばした。瞬前、もう一度、スピーカーから自分を呼ぶ声が聞こえる。首輪が閉まる。ごきり、と首の骨が嫌な音を立てる。そうして…

「げはっ! はぁはぁはぁはぁはぁはぁ…ッ!!」

 間髪、死に至るより先に指先がスイッチに触れた。
 瞬間、それまでの拘束が嘘のように首輪が緩んだ。霊夢はその場に倒れ、肩を上下させながら暫くの間、断たれていた酸素を胸一杯に吸い込み始めた。青黒かった顔に赤みが戻り、霊夢は生気を取り戻す。

――アリガトウ レイム

 遅れてマネキンのスピーカーからそんな声が聞こえてきた。それ以外に反応らしい反応はない。

「はぁはぁ…なん、なのよ、もう…」

 絞首の怒りも露わに霊夢は血走り、涙の浮かんだ目でマネキンを睨み付ける。当然、感情など持っていないマネキンは静かなままだ。答えてくれるはずもない。代わりに…

――レイム

「!?」

 再び自分を呼ぶ声が聞こえてきた。まさか、また、と霊夢は自分に鞭打って体を起こす。程なくしてもう一回、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。このマネキンではない。別の場所からだ。間髪入れず、首輪が再びゆっくりと閉まり始める。そういうことか、と霊夢は顔を歪め歯を食いしばった。立ち上がり、急いで走り出す。

 部屋の外も煉瓦造り、窓のない廊下だった。そこを駆け回り、霊夢は片っ端から扉を開けていく。部屋の多くは埃が積もり蜘蛛の巣の張った長い間使われていない倉庫だったが、時折、片付けられ家具が並べられた部屋があったりもした。大抵の場合、その部屋には先程と同じく、洋服が着せられたスピーカー付のマネキンが立っていたが、首からかけられたスイッチは点灯しておらず、押しても無反応だった。舌打ちし、憤りを押し殺し次の部屋を、いや、マネキン人形を探す霊夢。

「はぁはぁはぁ…!」

 呼吸が荒々しいのは走っているからだけではないだろう。首輪が徐々にその径を縮め気道を圧迫してきているからだ。加え焦りが、またあの呼吸困難の地獄へ陥るのではという焦りが霊夢の心拍数を上昇させているのだ。そして…

「ッ、ここか!」

 廊下の角を曲った先にあった扉を開けたところで霊夢はスイッチが点灯しているマネキンを見つけた。その部屋は寝室のようで天蓋がかけられた大きなベッドが置かれており、そこに腰掛けるよう、マネキンは置かれていた。

――レイム

 マネキンに呼ばれると同時にまた首輪が急速に締まる。だが、霊夢は狼狽えない。もう、ルールが分っているからだ。肩を怒らせながらのしのしとマネキンに近づき、拳を握りしめると、マネキンの首にかけられたスイッチに勢いよく鉄拳を繰り出した。

「これでクリアね」

 拳の痛みなど、死の恐怖と無慈悲に殺される憤りからすればなんてことはなかった。アリガトウ、レイム、とノイズ混じりの録音音声で礼を言うマネキンを無視し、霊夢はベッドの足を力任せに蹴りつけた。





 この場所に閉じ込められている理由は分らなかったが、この場所で行われているゲームのルールを霊夢は理解した。
 各所に設置されたマネキンから霊夢を呼ぶ声が発せられると首輪が締まり始めるという仕組みだ。それは一度目はまだ大丈夫で二度目のコールから締まり始めるようになっており、回数を増すごとに締まる速度があがる。絞まる首輪を止め元の経に戻すにはマネキンの首にかけられたスイッチを押すしかない。首輪が閉まりきる前に自分を呼びつけているマネキンを見つけ、スイッチを押すというゲームだ。
 声を上げるマネキンとタイミングはランダムなようで、二度目のスイッチを押した後は霊夢の体感時間で二時間以上、マネキンからお呼びがかかることはなかった。その間に霊夢は自分が監禁されている場所がどういう所なのか、あわよくば逃げ出せないかと探索することにした。

 もっとも…

「やっぱり無理か…」

 全ての扉を開け、廊下の隅々まで歩き回ったが何処にも出口らしきものは見当たらなかった。窓はどの壁にも一切取り付けられておらず、また上は愚か下へ降る階段らしきものも見つからなかった。何処かに隠されているのだろうかと霊夢は丹念に壁を調べて回ったが、どの壁も蜘蛛の巣がはり埃がこびり付いており階段や窓などを隠しているような形跡は見られなかった。手の込んだ工事か、魔術、幻惑の術が施されているのかもしれない。
 部屋の中には厨房やトイレ、シャワー室などもあり、食料や水は一応、潤沢にあり生活に困るようなことはなさそうだった。
 問題なのは矢張…

――レイム

「チェッ、またか…」

 自分の首にしかけられたこの忌々しい装置とこっちの都合も知らずに呼び出してくるマネキンだった。トイレに行っていた霊夢は急いで用を済ませるとズボンとドロワーズをはき直し、小走りに呼びつけてきたマネキンを捜して歩き回った。今回は特に苦しい目に遭わなかったが、この日より、霊夢はマネキンに呼びつけられては首を絞められるという日常を過ごさなくてはならなくなってしまった。






「ぐぇッ!?」

 深夜…かどうかは分らないが、食事を終え、やることもなく早々に床についてから小一時間。霊夢は首を締付けられたことによって強制的に目を覚ました。完全に油断していた。この数日の観察でおおよそ呼び出しには山と谷があることは判明していた。詳しい時刻は分らないが今の時間は谷――呼び出しがない時間帯のはずだった。もちろん、それはただの統計で確かなことなど一つも言えなかったが、霊夢はその安全な時間帯をこうして睡眠時間に充てていたのだ。こんな事が起らないように、と思って。

「畜生…!」

 だが、思惑は外れた。裏切られた。霊夢は悪態をついてベッドから飛び起きた。暗闇の中、手探りでテーブルの上に手を伸ばしランプを取り火をつける。眩しさに目をやられつつも落ち着く間もなく外へと飛び出す。呼び出しは何回目だろうか、と霊夢は考える。首の苦しさからいって少なくとも三回は聞き逃している。堪えられて後二回。しかも、霊夢はまだどのマネキンが自分を呼びつけたのか把握していないのだ。この場所の地図を頭に描きながら霊夢は片っ端からマネキンのスイッチを一つ一つ確認していく。その間にも首輪はきりきりと霊夢の首を締付けてきた。

「っ、ここか!」

 呼びつけていたマネキンがあったのは書斎風の部屋に置かれたものだった。壁一面に並べられた本棚には紙魚の沸いた古い洋書が敷き詰められており、その部屋の中央に置かれている事務尽く柄にマネキンは置かれていた。いよいよもって耐え難くなってきた苦しさを何とか堪え霊夢はマネキンへ近づく。レイム、とマネキンがもう一度、呼びつけるのと同時に霊夢はスイッチを押した。

「ふぅ…」

 安堵のため息。いや、それもただの一回だけだ。霊夢は指が白くなるほど強く拳を握りしめた。

「いい加減にしてよ! 私には寝る間もないってことなの!? このッ…!」

 握った拳を振り上げる霊夢。
 それまで霊夢はマネキンには腹いせに暴力を振るわないよう心がけていた。もし万が一、スイッチを壊してしまいでもしたらどうなることか、スイッチの壊れたマネキンが自分を呼びつけてきたら、どうすればいいのか、その先が想像できない訳ではなかったからだ。だが、もうダメだった。堪忍袋の緒は切れ、怒りは決壊したダムが如くあふれ出してきている。ただの物に当たるだけではこの怒りは晴らすことは出来ない。霊夢はもう冷静さを失い後はどうにでもなれと言った面持ちで拳を振り下ろそうとした。その一瞬前――

――アリガトウ、レイム。ソコニ、オ薬、オイテアルカラ

 マネキンがいつものお礼に続き、そんなことを言ってきたのだ。えっ、と拳を振り上げたまま動きを止める霊夢。視線だけを動かすと確かに机の上に見慣れぬ小瓶が置かれているのに気がついた。

「………」

 しばし逡巡するよう迷い、やがて毒気が抜け落ちてしまったのかゆっくりと拳を降ろす霊夢。はぁ、と自嘲げにため息をついてから躊躇いがちに机の上の小瓶を取った。白いラベルに太く赤い十字架。それ以外にビンには何も貼られていなかったがそのマークだけでおおよそ中身の見当は付いた。蓋を開けてみる霊夢。中身は白い軟膏だった。匂いを嗅ぎ、少しだけ指に取って伸ばしてみる。永遠亭の兎が売っている物と同じ物だとすぐに分った。傷薬だ。

「………」

 霊夢は小瓶を手にしたままマネキンに視線を向けた。ずきり、と首が痛んだ。首輪によって締付けられたせいでそこには幾つもの擦過傷が出来上がっていた。

「まったく…お礼のつもり? だったらここから出してよね」

 そんなことを口にする霊夢。けれど、呆れてこそあれ、怒りはあまりそこには残っていなかった。霊夢は踵を返すと小瓶を手に部屋へと戻っていった。今日はこの薬のお陰で首の痛みには悩まされずには済みそうね、なんてことを考えながら。







――レイム

「はいはい」

 食事中、呼び出された霊夢は箸を置くと静かに立ち上がった。今の声の聞こえ方からして呼んだのは浴室のマネキンだろう。そう霊夢は当りをつけた。さして焦りもなく、早歩きに浴室へと向かうと案の定、湯は愚か水も出ない風呂桶に入れられているマネキンのスイッチが光っていた。もう一度、呼ばれるより先に霊夢はスイッチをオフにする。

 霊夢が拉致監禁されてから数週間が過ぎた。すっかり、ここでの生活に順応し、自分が寝ているときに呼ばれてもすぐに起きてどのマネキンが呼んでいるのか判別が付くようになった。

 その間、霊夢は埃だらけの各部屋を掃除して過ごしていた。隠された出口や首輪を外せれるノコギリのような物を探して、という訳ではない。もとより自分を拉致監禁し、これだけ用意周到で手の込んだくだらないゲームに付きあわせてくるような相手だ。ゲームのルールを覆すようなバグを残す。そんなヘマはしないだろうと霊夢は考えていた。だから、掃除はただの暇つぶしだった。

 が、それも長くは続かなかった。掃除が全て済んでしまったからだ。
 蜘蛛の巣を取り埃を払い、無造作に詰め込まれていた家具や美術品、その他よくわからないガラクタを分類ごとに分け、ついでに倉庫の奥で見つけた速乾性のコンクリートを使って鼠の穴を塞ぎ、鼠も退治し、地下室の掃除は完璧に終わってしまった。

「………ふぅ」

 食卓に戻ってきてため息。これからどうしようかと思ったのだ。いや、やることはある。ご飯を食べて食器を片付けて部屋の掃除をして、そして…
 だが、その後は? 永久にここに閉じ込められっぱなしという訳にはいかなかった。博麗の巫女である自分が長い間、神社を留守にするわけにはいかない。そろそろ脱出方法について考えを巡らさなくては。たしか、倉庫に古びたスコップがあったはず。それを使って上へ上へと掘り進めていけばいつかは地上へ出られるだろう。そう考える。

「はぁ…」

 けれど、霊夢は腰を上げなかった。食べた一気で動くのがしんどいからではない。ここから逃げ出す気がいまいち起きなかったのだ。確かに霊夢はいつ絞め殺されてもおかしくない立場にあるが、それも気を付けていればどうとでも回避できる危険だ。巫女をやって妖怪退治している方がよほど危険度は高い。食料も豊富にあり、雨にふられることもなく、炊事洗濯掃除さえやっておけば後は暇な一日。時折、マネキンに呼び出されるのが億劫だったが、それもトイレに行く程度のものになっていた。ある意味で霊夢はこの生活が気に入っていたのだ。



 それに、

「―――霊夢」

 予感めいたものがあった。

「……はいはい」

 自ら行動を起こさなくてもそろそろ出られる、という予感が。



 丁度、食器を片付け終えたところで霊夢は自分を呼ぶ声を聞いた。今までなら反響と声の大きさ具合からどの部屋のマネキンが呼んでいるのかすぐに分かったのだが、今回の聞こえ方は記憶しているどの呼び声とも該当しなかった。それにその声は今までのテープレコーダーに録音された音声ではなく人の喉から発せられた確かな肉声だった。

 霊夢は手を拭き、エプロンを脱ぐと厨房になっている部屋から出た。確かこっちの方から聞こえてきたわね、と廊下を進み、そこに見慣れないものを発見した。今までただの壁だった場所が開け、上方に向かって伸びる階段が廊下の真ん中に出来ていたのだ。霊夢にばれぬよう突貫工事で作った…訳はなかった。その場所もやはり廊下の他の部分と同じく埃が積もっていた。霊夢の足跡は残されておらず、霊夢には丁度階段の幅の分だけ廊下が延びているように感じられた。プリントをそうするよう空間を折りたたんで階段を見えないようにしていたのだろう。この幻想郷でそんなことが出来る人物など霊夢は一人しか思いつかなかった。その人物と拉致監禁の犯人像とはまったく同じであった。

「………」

 一瞬躊躇い、そうして霊夢は階段を昇り始めた。上は明るく差し込んでくる光を浴びて宙を舞う埃が燐光のように浮かび上がる。その中を霊夢は進んでいった。

「っ…」

 眩しさに目を細めながらも階段を上りきる。埃一つ落ちていない清潔な廊下。白い壁。綺麗に磨かれた窓。外に見える景色は山と空。ごく当たり前の風景。今では懐かしささえ憶える風景だった。

 建物は石とニス塗りの木材で作られており、洋風建築物であることが見て取れた。霊夢が監禁されていた場所は地下倉庫か、或いは地下牢だったのだろう。開けっ放しの木製の扉には手垢に汚れ鈍い光を放つ大きな南京錠がかけられていた。

「霊夢」
「………」

 霊夢は暫くぼうっと呆けたように辺りの風景を眺めていたが、再び聞こえてきた自分を呼ぶ声に我に返った。鼻を鳴らし、肩をすくめ声が聞こえた方へ歩いて行く。 石造りの螺旋階段を上り、二階…三階へ。そこから更に廊下を進んでいく。この先に待ち構えている声の主が拉致監禁の犯人なのは間違いない。その犯人ともう少しで顔を会わせることになる霊夢は何の表情も浮かべてはいなかった。普通なら自分を閉じ込めた相手を殴ってやりたいような気持ちに駆られてもおかしくないはずだろうに。むしろ、その気持はあるもののそれとは相反する赦免の気持ちも霊夢の中で渦巻いており、正負二つの感情が入り交じることによって霊夢はプラスマイナスゼロの表情を浮かべているのだった。

 霊夢の背丈の三倍の高さがあるガラス戸が並ぶ廊下を進む。斜めに差し込んでくる光は暖かく、夕暮れ時だからか朱色に染まっていた。

「霊夢」

 ガラス戸の一つがあいておりそこから流れこんでくる外気にのって声が聞こえてきた。外…バルコニーで待っているのだろう。縁側でなく残念だ、と霊夢は少しだけ思った。ガラス戸をくぐり外へ。そこには…

「来るのが遅いわよ、霊夢」

 沈む夕日に向かい合うよう十六夜咲夜が立っていた。くるり、と振り返り霊夢と向かい合う。三歩程度の距離。間には何もない。

「今回は首を締められなかったからね」
「呼んだらすぐに来るよう躾けたつもりだったんだけれど」
「必要があればね。さっきも言ったけれど、急ぐ必要がないから」
「自分本位だけれど、それだけ読めるなら優秀だと思うべきかしら。まぁ、勤勉な愚か者より、賢しい怠け者の方が使えるしね」

 概ね合格、と咲夜は笑んでみせた。霊夢は仏頂面で咲夜を薮睨みするだけだった。

「で、いつになったらこの首輪を外してくれるの? っていううか、このゲームは何? 実は魔理沙とか山の上の巫女とかも閉じ込められてて誰が一番最初に課題をクリアするか競いあうゲームだったとか?」
「それならむしろ全滅するまで続けて絞首にあう順番を当てるゲームをするわよ」

 じゃあ、と聞き返す霊夢に応えるためか、一歩、二歩と咲夜が近づいてきた。

「これはね霊夢。職業訓練よ」
「職業訓練? 頼んでないけれど」
「頼んだ憶えもないわ」

 売り言葉に買い言葉。いつものやりとりだ。
 霊夢に近づいた咲夜はすっと手を伸ばしその首に嵌められていた金属の輪に触れた。鍵を差し込んだわけでもないのに軽い音を立て、首輪は苦もなく霊夢の首から外れる。いや、それ以外にも…

「何この格好?」
「あら、思った以上によく似合っているわね」

 へぇ、と感心したように目を開く咲夜。その瞳に映っているのは自分と同じ意匠の給士服を着た霊夢だ。先程までの粗末な麻の上下ではない。

「馬子にも衣装ね」
「自分で言う台詞じゃないわよ」
「これも下らないゲームの続き?」
「だから職業訓練だって言ってるじゃない。まぁ、もう終わりよ。貴女は家事全般は出来るからね。呼び出されることに馴れれば殆どOK 後はそうね…紅茶を淹れる作法を憶えれば完璧よ」

 そう言って指し示すよう、自分の後方へゆっくりと手を振るう咲夜。次の瞬間、そこにはテーブルと椅子二脚、それにティーセット一式が現れていた。座って、教えてあげるから、と咲夜。霊夢は一瞬、迷うようティーセットと咲夜の顔を見比べたが結局、言われたように椅子に椅子に腰掛けた。よろしい、と咲夜はティーセットを並べポットの蓋を開け中に紅茶の葉を入れた。茶器は事前に温めておくこと、と注釈を挟みつつてきぱきとそれでいてあくせくしておらずあくまで優雅な動作でお茶の用意をしていく。霊夢は黙ってその一挙一動をじっと眺めていた。

「はい、これで完成。どう、憶えた?」
「ん、まぁ、大体は」
「パチュリー様の所にそういう作法について書かれた本もあるわ。それも目を通しておけば十分でしょ」

 さて、じゃあ、戴きますか、と咲夜はもう一脚の椅子を引いて霊夢の対面に腰を下ろす。自分が淹れたお茶を一口。基本、淹れる側ばかりなのだろうがその動きはとても様になっていた。遅れて霊夢も咲夜が淹れた紅茶を戴く。

「あ、おいしい…」

 自然とそんな感想が漏れてしまった。
 使っている葉っぱがいいものなのだろうか。いいや、それだけではない。咲夜の作法が完璧であるからこそ紅茶のおいしさが最大限以上に引き立っているのだ。

「どう。縁側で番茶じゃないけれど、バルコニーで紅茶もいいものでしょう」
「ん、まぁ、それは認めるけど…」

 紅茶のあまりのおいしさにぐうの音も出ないのか、カップから顔を上げつつも尻切れの悪い言葉を発する霊夢。

「結局、なんなのコレは。職業訓練って?」

 照れ隠しにか、残った紅茶を一息で飲干し、カップを乱暴にソーサーの上に戻して問い詰めるよう霊夢はそう咲夜に言った。咲夜はすぐには答えずもう一口、紅茶を飲み、そうして長く長くふぅーと息を吐いた。

「前、言ってたわよね。博麗の巫女を辞めたら縁側でお茶を飲んで過ごしたいって。それは実にいい人生の過ごし方だと思うけれど、残念ながらそんな風に気楽に暮らしていけるほど貴女に蓄えがあるようには見えないわね」
「こう見えて実は資産家の令嬢なのよワタシ」
「お正月にお賽銭が一円も入っていないってブチギレていたのは誰だったかしら」

 ぐぅ、と霊夢の顔が苦虫を噛み潰したように歪む。ほほほ、とわざとらしく咲夜が笑ってみせた。

「まぁ、だから、お節介だけれど仕事先を斡旋してあげようと思ってね。ここのメイド長はまぁ、それなりに忙しいけれどそれなりに楽よ。衣食住にはまず困らないわ」

 そう説明する咲夜。霊夢は仏頂面で聞き入っていた。

「それに貴女はお嬢さまのお気に入りだわ。きっと上手くやれると思うのだけれど」

 どうかしら、と咲夜は人差し指を立ててみせた。魅力的な提案でしょうと言わんばかりの笑顔。対して霊夢は騙されないぞと不審そうに眉を潜める詐欺被害者の顔をする。

「意図が読めないわね。何? ここのメイド長を辞めるつもりなの?」
「ええ、そうよ」

 霊夢が冗談半分で言った言葉に真面目腐った返事をする咲夜。冗談を冗談で返した…そんな雰囲気ではなかった。

「お暇を戴こうと思ってね。ああ、安心してお嬢さまにはもう伝えてあるから」
「事後承諾? よしてよ。大体、なんで辞めるっていうの。衣食住足りてるなら続けていけばいいじゃない。それとも何? レミリアに意地悪でもされたの? だったら私が…」

 霊夢は立ち上がり、そう囃したてる。それを中断するよう、違うわ、と咲夜が口を挟んできた。

「そろそろ辞め時かな、そう思っただけよ。辞めるなら辞めるで代わりの者を探しておかなきゃならないしね。立つ鳥跡を濁さず、って言うし」

 はぁ、と霊夢はため息混じりに頷いた。これ以上、咲夜に何かを言うのが嫌になったのだ。呆れた、と言い換えてもいい。

「そういう訳だから次のメイド長は貴女に頼むわ霊夢」
「だから勝手に話を進めないで!」

 霊夢の膝裏が当り椅子が音を立てて倒れた。今にも霊夢は咲夜に掴みかからんほど怒りを露わにしている。咲夜は、咲夜はお茶を飲み終えたカップをかたん、と音を立ててソーサーの上に戻した。手はテーブルの上に無造作に投げ出されている。カップの取っ手を摘む、その形のまま殆ど動いていなかった。

「………ごめんなさい」

 ぽつり、と呟くよう咲夜が口を開く。

「でも、これぐらいしか、これぐらいしか私にはもう、お嬢さまに、お嬢さまたちにしてあげられることがないのよ」
「…咲夜?」

 咲夜の言わんとしていることが分らず霊夢は怒りも何処かへやってしまい疑問符を浮かべた。咲夜はその疑問に答えず顔を上げ、テラスの入り口の方へと顔を向けた。

「お嬢さま、ご紹介致します。次のメイド長の霊夢、で御座います」

 はっ、と霊夢が振り向くとそこには紅魔館の当主であるレミリア・スカーレットが立っていた。その後ろに妹、フランドールが。更に後ろにはパチュリーや美鈴、こあが。ガラス戸の向こうにはたくさんの妖精メイドたちが控えていた。紅魔館に関わっている人物、全員がここに集っているようだった。

「まだ、至らぬところがあるかと思いますが、これからはこの霊夢を私の代わりだと思って使ってやってください」

 暗記した台本の内容を読み上げるよう、すらすらとレミリアに告げる咲夜。レミリアは頷きもせず黙って聞き入っていた。パチュリーも、美鈴も、他の妖精メイドたちも。霊夢だけが狼狽え、咲夜とレミリアたちを交互に見ていた。

「それではお嬢さま、長い間ありがとうございました。咲夜めはこれにてメイド長の任を終えようと思います」
「咲夜!」

 霊夢が大きな声を上げた。このままでは流されると抗ったのだ。だん、と手をテーブルに叩きつけ咲夜をきつく睨み付ける。けれど…

「っ…卑怯者」

 言えた言葉はそれだけだった。それ以上は何も言えなかった。言うまでもなかった。言ったところで聞いてくれるはずがなかった。何故なら咲夜はもう…

「私はまだ、するって言ってないのに。死んじゃうなんて…卑怯よ」

 椅子に腰掛けたまま居眠りするよう目蓋を閉じた咲夜はもう目を開くことがなかったからだ。


 咲夜が自分の命がもう長くないと気がついたのはつい一ヶ月ほど前のことだ。
 原因はよく分っていないが、咲夜は自分の時間を操る程度の能力のせいだと思っていた。やはり、人には過ぎた力だったのだろう。時間の理から外れたが故にむしろ逆に体は過剰に時間の制約を受け、普通の人間の四分の一程度以下の時間しか与えられなかったのだと。
 それは天命であり寿命であり期限であった。病気ではないが故にどんな薬も通用せず、欠陥でないが故にどんな治療も通用しない、回避不能の死だった。
 だからこそ咲夜は前述の通り自分が死んだ後の事を考え、準備し、霊夢を攫い自分の後継者になるよう育て上げたのだ。


「………」

 咲夜の最後を看取った霊夢の瞳から一滴、涙が流れ落ちる。
 小悪魔はおんおん声を上げ涙を流し、パチュリーは潤んだ瞳から涙をこぼさないようにするためか星が瞬き始めた空を見上げていた。美鈴も洟をすすりしきりに目頭を擦っている。その腕に抱かれたフランは何が起こっているのか今一理解できていない様子だったが、何かとても悲しい出来事が起きていると言うことだけは分っているのか、不安げな表情で皆の顔を見回していた。

「霊夢、さっそくで悪いのだけれど―――お茶を淹れてちょうだい」

 ただ一人、涙を流していないレミリアがそう霊夢に告げてきた。霊夢は涙を拭うと咲夜がかつてそうしていたように深々と頭を下げた。

「わかりましたお嬢さま。けれど、少々お待ちを。私にはまだ博麗の巫女の務めが残っておりますので。……それが終わり次第、すぐにでも」
「ええ、ええ、いいわよ。それぐらい、私にとって、私たちにとってはすぐだわ。その間―――」

 レミリアは眠ったままの咲夜の方へと近づいていった。手を伸ばし、その頭をそっと抱きかかえる。

「この子との思い出話でもみんなと語り合って過ごすことにするわ」

 幻想郷の夜空に流れ星が一筋、落ちていった。




END
春は出会いと別れの季節って事で一つ。

社会人も数年経験すると新人に仕事を教える、って所でそれを再確認するものです。まぁ、自分に部下なんていませんがね。
sako
http://www.pixiv.net/member.php?id=2347888
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/04/21 00:10:46
更新日時:
2011/04/21 00:10:46
分類
霊夢
咲夜
新人研修
絞首
1. NutsIn先任曹長 ■2011/04/21 00:35:58
咲夜さんは、後継者を見出す能力も一流ですね。
あの怠け者にメイド長の適正があると見抜いたのだから。

私が後に続く者にできる事と言ったら……、
そいつが気に入らないヤツだったら、私のことを『准尉殿』と呼ばせるぐらいですかね。
2. 名無し ■2011/04/21 18:58:09
霊夢の順応力半端ないな
3. 名無し ■2011/04/22 01:27:12
蓄えは無くても手に技持ってますから!

……妖怪にちょっかい掛けられて余計に財産無くしそうなスキルだけど。
4. 狂い ■2011/04/22 04:58:11
命を懸け、精根尽きた咲夜にレミリアは何を思うよ
咲夜の命を食い潰したレミリアは何を思うよ
5. 名無し ■2011/04/22 13:56:17
絞首ってエロくて素敵、首輪もエロくて素敵。あわさればもっと素敵。
メイド霊夢ももちろん素敵。非常にすばらしいお話でした。
能力的には十分だろうけど性格的にどうか、という疑念も最後の姿を見たら
なくなりますね。今後を想像すると萌えます。
6. 名無し ■2011/04/23 01:40:06
長年連れ添ってきた従者と、
人間なのに対等の立場で居てくれた友人を同時に失ったレミリア哀れ。
7. 名無し ■2011/04/24 17:56:55
従者であり対等の友人である相手を得たレミリアはきっと幸せでしょう。
レミリアにそれほどの幸せを与えられた咲夜もきっと……
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