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『東方奇黒球 ~ mission5』 作者: ヨーグルト

東方奇黒球 ~ mission5

作品集: 26 投稿日時: 2011/06/09 10:12:31 更新日時: 2011/06/15 19:42:46
.........................レポート内容........

幻想郷の各地で長期間に渡っての破壊活動と失踪者発生。
これは一連の異変として捉えていたが、博麗の巫女と八雲の大賢者が異変でないと判断。
藤原妹紅を含めた自警団たちの捜査は難航。
博麗霊夢らには関連性が無いとする。
魔法の森に住む霧雨魔理沙も不定期ごとに、晩に居なくなっているとの報告を受けた。
本人は一連の事件と自分の関係性を否定。
それに加え、幻想郷各地での破壊活動などの事についても知らないと関与を否定。
八雲紫の証言だと、外の世界でも破壊活動が起きているらしいが、捜査は不可能とされている。

--------------------------------------------------稗田阿求

「阿求様」

稗田家の屋敷。
そこに住まう、幻想郷の歴史を纏め上げている少女……稗田御阿礼、稗田阿求。
稗田家では今の今まで転生を何度も繰り返し、そのたびに記憶が失われ、そのたびに新しい阿礼乙女が生まれている。この阿礼乙女、阿求はかれこれ九代目である。阿礼乙女特有の能力、見たものを忘れない能力は各代受け継がれていて、彼女もまた、その能力を有しているのである。

阿求は自分を呼んだ使用人に顔を向けた。

「お客様です」
「誰ですか……?」

本人は正直見当はついていた。だが、そのまま客人の名前を言えば若干ながら気味悪がられる。
それは今に越した事ではないが、本人はほんのちょっとだけ気にしていた。

「上白沢慧音様です」
「通して良いですよ……」

使用人はペコリと頭を下げ、書斎の引き戸を開けた。使用人はもう一度頭を、慧音に礼を交わして部屋を出て行った。慧音もその使用人に挨拶を返した。
阿求は書きかけの書類を纏める作業を一旦止め、慧音の方に向き直った。阿求が座るようにと言ったが、慧音はそのままで良いと立ったままでいる。

「博麗神社、守矢神社、それに加え、修復作業途中だった命蓮寺でまたも破壊活動だそうだ」
「……」
「知らなかったのか?」
「初耳です」
「紫……さぼってるのか?阿求にはあれほど知らせろと……」

窓に目をやり、再び慧音に戻す。

「私も独自に捜査を進めていたのですが、少しおかしなことが」
「おかしな事?」
「あ、別におかしなことは有りませんでした」
「おい」
「まず、自分の所有する工房で爆死をしたと見られる河城にとり。彼女はその次の晩に何ごとも無かったかのように姿を現したのは知っていますよね」
「ああ」
「それで、にとりさんがめずらしく散歩をしていた事が判ったので、コースで待ち伏せして話をしてみたんですが、はぐらかされました。その次の日から、にとりさんが姿を見せなくなったんです」
「それで」
「おかしな事ってわけではないと思いますが、その次の日には大量に失踪して、その人数分、魔理沙さんを除いた皆が戻ってこなかったそうです」

慧音が顎に手を当てる。

「つまり、魔理沙はそれらの事について何か知っていると言う事か?」
「絶対ではないと思いますが」
「でも、そのうち魔理沙も姿を見せなくなったら?手は有るのか?」
「他にも失踪しているうちで、帰って来ている人は居ますのでその人に聞けば良いと思います」
「だが……」
「私が調べますので、慧音さんは子どもを見守るなり妹紅さんと作戦でもたてておいて下さい」



東方奇黒球



今回のメンバーは魔理沙 鈴仙 妖夢 文 椛 レミリア アリス 空 一輪 雲山 ルナサ 燐。
一人だけ新メンバーが居た。
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。


『そーれいっちにいさん!!』

魔理沙は100点をぱっぱと取って、戦う事そのものを楽しく感じる為に『より強い武器が与えられる』を選ぶつもりで居る。その事を他のメンバーに話しては居るのだが、それを避難したり、否定したりする人はいなかった。此処の闘いでは、それぞれ個人は他人にかまっている余裕など無い人が居る。例外ももちろん居るのだが。

『てめえ達はこの方をヤッつけに行って下ちい』

魔理沙達全員はガンツ玉を凝視する。咲夜はボーッとしたようにガンツを見つめている。

『ねずみ星人
 特徴:人気もの あぶない ねずみ ゆかい
 得意なこと:こどもをしあわせにする
 口癖:ハハッ☆』

ガンツ玉のラックに掛かっている武器は前回などのミッションとは違うようで、いつも通りにXガンとYガン、ガンツソードにショットガンがセットされていた。魔理沙は内心ホッとし、戦闘のよろしくの合図でガンとガンツソードを抜き取った。他の皆も同じようにする。鈴仙はホルスターにYガンを収めると、右手左手にそれぞれショットガンを持った。咲夜はガンツソードだけを手に取って戦闘の準備を整えた。その後、アタッシュケースを持って部屋の奥に消えた。

「咲夜……さん、たしか姿を消していたことが有ったそうです」
「は?」
「これがそれなら経験者ってことですよね」

咲夜はスーツを着終えて、部屋の奥から戻って来た。

「魔理沙」

突然、咲夜は振り返って魔理沙を呼んだ。

「これから、何か始まるの?」
「……」

『行って下ちい
 01:00:00』

そのタイムカウントが表示されると同時に、咲夜の両腕が消え始めた。

「あら」
「鼠狩りをする気はないか?」

魔理沙のその問いかけに、咲夜は満面の笑みを浮かべた。どういうわけか。
二人は向かい合ってお互いに頷くと、親指を立てた。

部屋から全員の姿が見えなくなると、ガンツの表面に表示されている制限時間がカウントされ始めた。



「ちょっと!!どうなってるのよ!!」
「へ、部屋になだれ込んだ集団は咲夜さんを襲ったようですが……脱出した形跡も有りませんし……!」
「でも死体も見つからないじゃない!!」

騒然としている紅魔館。
咲夜がガンツ部屋に転送されて来た理由の一つが、そこで起きていた。少し前、紅魔館に謎の集団が来訪。来るなりパチュリーと咲夜の居た部屋に押し掛け、強襲した。間一髪の所で咲夜はパチュリーを脱出させることに成功したが、本人は逃げることに失敗。パチュリー達が確認した訳ではないが殺されたと見るのが、妖精メイド達の意見だった。

「血が無いじゃないの!」
「でも、パチュリー様が外に出てからドアは直ぐに閉められましたし、窓から出た形跡も有りませんし……集団が去ってからだと考えても戻ってこないじゃないですか」
「……」



ガンツメンバーが転送され終わり、辺りを見渡せばそこは廃墟だった。幻想郷の住民なら知る人ぞ知る廃墟。そこは、プリズムリバー三姉妹が楽器の練習をしているとされていたり、その三姉妹が住んで居るともされている場所だった。ルナサは少しだけ寂しそうな顔をしたが、直ぐにいつもの無表情に戻った。

「ターゲットは?」
「とりあえず近くには五体居るようです」

妖夢はガンツソードを両手に構えながら鈴仙に問いかけた。今回コントローラーを所持し、扱うのは鈴仙の役目となっている。コントローラーの画面の表示を確認した鈴仙はYガンを両手に持ち直した。他のメンバーも武器を構える。もともと、こういった室内では、近距離武器が向いている。使えないという訳ではないが、できるだけ建物などを破壊したくないのが魔理沙達の作戦だった。

「あ、出て来ましたよ」
「あれか」

文が今回のターゲットを発見したようだ。
魔理沙達のいる広い部屋の隣に繋がる通路にターゲットが三体確認できた。武器は持っていないようだ。

「なめてますね、私に任せて下さい」

言うなり鈴仙はYガンをねずみ星人に向け、トリガーを引いた。しかし、銃口から放たれたアンカーを軽々と避けられる。

「ハハッ☆」
「キミはそれで僕を倒そうと言うのかい?」
「キミの判断が許しても僕が許さないよ☆」

奇妙な言葉を発し、ねずみ星人ら三体は鈴仙に飛びかかった。それをステップで躱し、両手のYガンで二体の鼠を仕留めようとする。

「何!?」
「ハハッ☆結構やるねえ☆」

一体のねずみ星人はワイヤーに捕らえられて身動きができなくなるが、もう一体は天井ぎりぎりまで跳躍して避けた。咲夜と妖夢はガンツソードの刃を出し、地面に着地した鼠に切り掛かった。残りの一体は一輪と雲山に襲いかかった。

「雲山!」
「ふっふっふっ」

襲いかかって来た鼠を雲山は両拳で捕まえ、スーツのパワーで握りつぶそうとする。そんな雲山の拳の中で拘束を逃れようと、鼠がもがき始める。しかし、その強力な力から逃れることができなかったようだ。鼠は雲山に握りつぶされた。血と体液が拳の中から零れ落ちる。

「一匹目!」

咲夜がねずみ星人の胴体を両断し、倒れている体の上から串刺しにした。そのまま、刃に刺さった星人の体を差し上げた。そこから投げ捨てた。
その三体が処理されると、通路の奥からわらわらとねずみ星人が大量発生し始めた。メンバーは身構えた。今回のターゲットはあまりにも数が多すぎた。

「ハハッ☆」「ハハッ☆」「ハハッ☆」「ハハッ☆」「ハハッ☆」「ハハッ☆」「ハハッ☆」「ハハッ☆」
「何体?」
「コントローラーには大体、三十体……行けると思います」

鈴仙はYガンを構え直し、集団に向けて放った。
それが戦闘の合図。妖夢と咲夜はガンツソードを振り抜き、星人の集団へ突っ込んだ。そのうちの二体はワイヤーに拘束され、転送される。

「僕を倒すのかい?」
「死ねッ!!」

挑発して来たねずみ星人に咲夜は切り掛かるが、ジャンプで躱される。それに繋げて、鼠が咲夜を踏みつぶそうとする。咲夜はその両足をソードで受け止め、後ろに押し流した。その先には一輪と燐が居た。

「うわっ!」

突然飛んできた体を咄嗟に避けてしまう。

「何避けてんだ!」

魔理沙はXガンを、先程のねずみ星人に向けて発砲した。



今回のステージの廃墟。
この廃墟は元々六階建+屋上で、幻想郷にしては珍しい建物だったのである。もちろん、外の世界から流れて来たものでは有るのだが、紅魔館のことを考えても大分珍しい建物として扱われた。廃墟のまま入って来たものであるから、元はどんな建物だったのかは判っていない。

「……」

その廃墟の屋上に一人の影。
プリズムリバー三姉妹の長女、ルナサはXガンを両手で構えて目の前の存在と対峙していた。
今回のミッションのボス、ねずみ星人……。容姿はナズーリンそのものであった。

「……メルランもリリカも、私の手で取り戻す。だからあんたは此処で死ぬんだ」

ルナサは銃の引き金を引き、X状のユニットを出現させる。
その行動に応じたのか、星人であるナズーリンの周りにペンデュラムが大量に出現する。

バッ!

ナズーリンの体が宙に浮き、ペンデュラムが高速で回転し始める。それをXガンで捉え、一個ずつ破壊して行く。破壊した後回転しているペンデュラムに突っ込んで行き、ルナサが元居たポジションに飛んできた弾幕を回避した。ガンツソードを振り抜いて、風のような速さのペンデュラムを両断した。

「くらえっ」

走った勢いでルナサは体を反転させ、Xガンの銃口をナズーリンに向けた。それを察知し、その体が虚空に消えた。

「!?」

それと同時に、破壊したはずのルナサの周りのペンデュラムが再生し始めた。ペンデュラムの再生が終わると、そこから小さなレーザーが連発された。

「くっ!」

屈んで避けると、床に体を這わせて転がって、円陣を取ったペンデュラムの群れを回避した。体を起こして銃でロックオンし、存在している限りのペンデュラムを粉塵と化させた。
それが終わり、目の前にナズーリンが鳥の羽のようにゆっくりと降り立った。

銃を構える。

向かい合う二人の間を風が吹き抜け、一瞬の間が出来る。
刹那、ナズーリンがロッドを二つ構えてルナサに突進した。そのロッドをソードで受け止め、後ろに弾き飛ばした。
ザザザ!
ナズーリンは見事に足から着地し、その靴を傷だらけの床と摩擦させてもの凄い音を出した。
反撃が始まる。
二つのロッドがルナサの右と左を通り抜け、後ろにある、屋内に通じるドアに突き刺さった。そこからレーザーが放たれ、ルナサの左右の回避ルートを断ち切った。前から攻撃が来ることを察知したルナサはXガンを正面に構えた。案の定、目の前からペンデュラムが迫って来る。反射神経で銃の引き金を引き、眼前に迫るペンデュラムを破壊する。

「勝てると思ったのか……!」

横にガンツソードを振り抜き、一直線のルートに沿ってナズーリンに突っ込んだ。走ってる間もなお、ペンデュラムが連続で迫って来る。それらをどんどん切り捨てて行く。
そのうち二つの体の距離はすぐそこまでの距離に近づいた。
ルナサは上に刀を振り上げ、ナズーリンに振り下ろそうとする。突っ込んで来たルナサの体を肩を掴んで受け止め、ナズーリンはその体を後方に大きく吹き飛ばした。その体は先程のドアに激突し、地面にへたり込んだ。そこにペンデュラムが叩き込まれる。咄嗟に反応してXガンを上げてトリガーを引いた。
それのお陰で、眼前ぎりぎりでペンデュラムが破砕された。



「これで、最後ッ!!」

咲夜と妖夢の声が重なり、皆が居たフロアのねずみ星人の存在が消滅する。
魔理沙はショットガンを下ろし、コントローラを手に取った。

「もう存在は無いな……ボスが居るなら別だと思うが」
「暗算的にですけど、今の星人は百五十体は居ましたよ」
「そんなに倒したのか……」

主に倒したのは魔理沙、妖夢、咲夜だが。

「あれ、ルナサは?」
「え」

戦っていないメンバーも含めて、その言葉でルナサがいないことにようやく気づいた。
それから、全員の空気が凍り付くように、たった一人の存在が恐怖心を煽った。



ギリリ……。
ルナサはYガンのトリガーに指を掛けているが、手ががたがたと震えていてなかなか力を込めることが出来ない。そうではない。力がこもりすぎて、逆に引金を引くことが出来ないのである。狙いを定める必要が無いYガンも銃口がナズーリンに向いていない。
そんなナズーリンはワイヤーで拘束されているのだが、抵抗する気配も見せずに顔を地面に向けている。

「ルナサさん!!」
「……?!」

ルナサの後ろから甲高い文の声が届いて来た。後ろを振り向こうとしたが、そのような隙だけでも見せたら、向こうの星人が脱出して襲ってくるのではないかと思うと、文達の方を向けなかった。
魔理沙が一歩前へ出てルナサに声をかけた。

「捕まえたんだろ?早くその銃の引き金をもう一回引くんだ、それだけでそいつは消える」
「……」
「力がこもっていて……いや、こもりすぎて引けないのなら別だが?」
「…………引ける…ッ」

ルナサが引き金を引くのと同時に、星人であるナズーリンの体は頭部から消え始めた。

「文、星人の反応は?」
「無しです」



ねずみ星人約40体との戦闘が終わり、ガンツ部屋に集まったメンバーは全員無事の状態だった。中でも魔理沙は一番の余裕の表情でいた。

『それぢはちいてんをはぢぬる』

皆がガンツを見る。

『まりさ
 50てん
 TOTAL131てん
 100てんめにゅ〜から選んで下ちい』

部屋中の空気が張り詰める。
魔理沙は前に出て、ガンツに呼びかける。

「より強い武器が欲しい」

『2、より強い武器が与えられる』

魔理沙の言葉に呼応し、そのメニューと入れ替わりに武器の一覧が表示される。

『より強い武器 今回はこちらから
 1、Xガンあさると
 2、Xサブマシンガン
 3、弱強化スーツ
 4、ガンツシールド
 5、Zガン
 6、強化ガンツスーツ
 7、改造ガンツソード
 8、ガンツナイフ
 9、まりさ専用武器』

「……1番」



『れいせん
 15てん
 TOTAL45てん
 あと55てんでおわり』

『あや
 0てん
 ほかのひとにゆずらないこと
 TOTAL5てん
 あと95てんでおわり』

『もみじ
 35てん
 TOTAL40てん
 あと60てんでおわり』

『るなさ
 37てん
 TOTAL37てん
 あと63てんでおわり』

『りん
 20てん
 TOTAL25てん
 あと75てんでおわり』

『ようむ
 35てん
 TOTAL85てん
 あと15てんでおわり』

『さくや
 45てん 今も変わらない
 TOTAL45てん
 あと55てんでおわり』

『ありす
 0てん またか
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』

『うつほ
 0てん おまえもか
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』

『いちりん
 0てん うごこうよ
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』

『うんざん
 5てん
 TOTAL5てん
 あと95てんでおわり』

『れみりあ
 0てん ろんがい
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』



二日後。
咲夜は魔理沙を紅魔館に呼び出し、いつも以上の扱いでもてなした。聞かれてはまずい話をする予定だったので、パチュリーとその他のメイドは寄せ付けないようにした。

「咲夜はどうするんだ?」
「美鈴と小悪魔。フランドール様を生き返らせるまで戦いますよ。それには、強い武器を手に入れなくては」
「つまり、最初の100点は新しい武器を手に入れるのか」
「そういうことね」

今日は偶然にもパチュリーが風邪を引いたため、咲夜はいつも以上に世話をしなければいけなかったのだが、彼女が「お客様を優先させて」と言ったので、魔理沙との打ち合わせを優先させている。次、ガンツに呼ばれた際の対策と言っても良いのだが、するかは判らない。

「私はあと一回二回100点取って武器手に入れたら、誰かを復活させる」
「誰かって?」
「さあ、知らない」
「自分のことなのに……」

咲夜はちらっと時計を見た。
今、昼を過ぎてちょうど、子どもならおやつの時間とでもいう時間帯だった。そもそも、おやつの時間は二回あったらしく、現在では『三時のおやつ』が定着しているらしい。

「魔理沙は、誰かの為に戦うってことを考えないの?」
「……」

それは予想外の質問だった。
最初は自分で解放されようとも考えたし、誰かを生き返らせようとも思っていた。だが、今は少し違う。この闘いを楽しみ、飽きないようにパターンを変える。たまには誰かを復活させるのも良いんじゃないかと考えている。魔理沙は誰かの為と言うより、自分の為であった。

「さっきも言った通りさ。誰かを助けるのはまだ難しいさ」
「でしょうね。でも、そのうちは変わるかも」
「だろうよ」



博麗神社は少し前の闘いでぼろぼろになっていた。
破壊活動が有ったその晩、霊夢本人はそこにいて、自分の神社がどんどん破壊されて行くのをその目で見て体験していた。
今は稗田家の家に泊めてもらっている。

「本当についていないわよ」
「でも、何で貴方方の神社が破壊されたのでしょう……誰かは判りませんが、神社を壊す目的が有りません」
「山の上の神社もどっかのお寺もね、同じよ…」
「ええ」

阿求は一息置いた。

「そういえば、魔理沙さんを一晩だけ神社に泊めたそうですね」
「うん」
「夜になる頃、魔理沙さんの姿が消えた。そう仰っていませんでした?」

霊夢は思い出したように手をポンと叩いた。

「そうなのよ。魔理沙が何処にいるか判んなくなったから、探してたんだけど……部屋に帽子が置いてあるだけだったのよ」
「……帰ったとか?」
「たぶんね。次の日になったらあいつは自分の家にいたし」

魔理沙の動向は前に比べて、大分怪しまれていた。



『そーれいっちにいさん!!』

ガンツからその歌が流れるより前に、魔理沙はスーツに着替え終わっていた。
というより、自宅で前もって着ておいた、と言う方が正しい。
魔理沙以外のメンバーはちゃんとスーツを着ていて、レミリアは大分渋っていたが着てくれた。
今回のメンバーは前回と変わらず、魔理沙 鈴仙 妖夢 文 椛 レミリア アリス 空 一輪 雲山 ルナサ 燐 咲夜だった。
新しいメンバーは補充されないようだ。

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい』

ガンツに表示されたのは誰もが見たことある容姿をしていた。

『さるの星人
 特徴:ちいきょう つめたい まる6
 好きなもの:かえろ こおい だいさゃん
 口癖:あたりってば、ちいきょーわ』

ガンツのラックが開かれ、部屋に居る全員に戦闘を促す。
昨日と変わらない、少しだけ変わっているかも知れない装備で、出発した。

『行って下ちい
 00:45:00』



「……」

今回転送された場所は霧の湖の畔。
それほど面積は広くないが、霧が濃く、視界が悪い所で知られている。辺りは木が生い茂っていて、近くには紅魔館が存在する。

魔理沙はコントローラーを確認した。

「今、星人らしき反応は十一体。おそらく、さっきの星人を含めてだと思う」
「だといいけど」

咲夜はガンツソードの柄を強く握った。
妖夢もソードを取り出し、両手にいつものように番えると、刃を出し、戦闘態勢へと入った。
ガンツメンバー全員の目の前、正確に言うと、霧の湖の中心の水面の少し上に、人一人分ぐらいの大きさの氷塊が浮遊していた。その周りを取り囲むように、弾幕戦でよく見る雑魚妖精がくるくると、ダンスをするように回っている。メンバーに気付いてはいるだろうが、攻撃を仕掛けてこようとはしない。
そんな中、攻撃を仕掛けようともしなかったメンバーから鈴仙が前に出て、ショットガンを構えた。最初はYガンで捕獲しようとも考えたのだが、妖精達が水面上に浮遊している以上、捕獲が出来ないのだ。

「まだ、いいんじゃないか?」
「捕獲できない以上、撃破します」
「仕方ない……」

魔理沙もXガンを構え、ふよふよしている妖精を狙撃する。

「いいか?」
「はい」

魔理沙と鈴仙が同時にトリガーを引く。
ギョォォォン、ギョォォォン、ギョォォォン。
間延びした銃声がした瞬間、氷塊を取り囲んでいた妖精が一斉に散り始めた。本人達の感覚上、今の銃撃は少なくとも三体には当たっていると予想した。先程、氷塊を取り囲んでいたのは十体。ならば残りは七体のはず。

バアァンッ!!バアァンッ!!バアァンッ!!

案の定、逃げ出した妖精のうち三体が破裂した。
残りの七体を追うように、魔理沙はXガンをそいつらに向けたが、直ぐに下ろした。それから後ろを向いて、残りのメンバーに指示を出した。

「私と鈴仙。あと、咲夜と妖夢であの氷塊の奴をぶっ殺すから、残りの皆は散った妖精を殺してくれ!」



バァン!!

レミリアが狙った妖精が弾けた。そのまま他の妖精に飛びかかり、湖に沈めて息が出来ないようにする。そして懐からガンツソードを抜き取ると、持ち手を逆にし、刃を出して妖精の首筋を切り取った。

バァン!!バァン!!
バァン!!バァン!!

残りを文と椛と空がどんどん仕留めて行く。
残りの一体は攻撃しようとせず、ただ逃げ回っているだけだった。

「ぬんっ!!」

雲山がその妖精を捕まえ、握りつぶした。



「で」

魔理沙はXガンを下ろした。他の三人も同じようにする。

「あれを壊せば良いんじゃないですかね?」
「だろうな」

引金を二回程引いた。魔理沙の放ったそれは氷塊を捉えた。

バキイイィィィィン!!!

数秒のタイムラグの後、氷塊が破砕された。

「あれか」

魔理沙達四人の視線の先に、氷塊の中から出て来た今回のターゲットが現れた。その姿はガンツ部屋で見た物と一致していて、どこからどうみてもチルノだった。

「きっ!」

大きく跳躍し、妖夢はガンツソードをチルノに向けて振り下ろした。
ガキィン!!
しかし、その二本の刀はチルノの数ピクト手前で受け止められてしまった。その二つの刃は、目の前に出現した氷の防護壁で防がれていたのだ。
妖夢はその場から退散しようとしたが、後ろに下がった妖夢にチルノが小さい氷槍を連発した。それを二本のソードで切り落として行くが、勢いを忘れて湖に落下した。ショットガン二丁をチルノに向けて構え、鈴仙は狙撃体制に入る。

「ぷっはぁ!!」

その頃、妖夢は水面から出て魔理沙達の居る水辺に辿り着いた。
それを合図に鈴仙はショットガンのトリガーを連続で引いた。しかしチルノはそれを瞬時に躱し、後ろに回り込んで来た。

「させるかっ!」

魔理沙のガンツソードがチルノの羽を剃り落とす。その羽は湖に落ちた。鈴仙が前に出る。

「魔理沙さん、しゃがんで!!」
「!」

その後ろでは鈴仙がXガンをチルノに向けていた。
ギョォォンという銃声が数回、魔理沙の頭上を通り過ぎる。
バリイイイイィィィィィィィィィィン!!!
しかし、破裂したのはチルノではなく、本体を護る為に発生した氷の防護壁だった。その破片が飛び散ったかと思うと、その氷片が空中で変形を始め、最終的には刃のような形状となった。それらの小さな刃物が四人を含む、ガンツメンバー全員に向けられた。

「くるぞっ!!」
「皆、護る体勢を取って!!」

妖夢と咲夜の二人と魔理沙はガンツソードを振り抜き、飛んで来る氷の刃を高速で切り落としていく。刃がその氷を破壊するたびに氷片が辺りに飛び散る。時々混ざっている大きめの氷片は文と椛、それと鈴仙が銃で対応している。他のメンバーは主力の後ろでダメージを受けないように伏せている。

「あたいってば、さいきょーね!!」
「!?」

メンバーが氷刃を凌いでいく中で、チルノ目の前には謎の魔力がだんだんと掌握されていくのが判った。それはまだ形を成していない。
レミリアは何とか立ち上がりXガンをその塊に向けて闇雲に乱射する。

「(どうだ?!)」

その塊は瞬時に砕け、さらに氷片を辺りに飛び散らせた。
その氷片は先程と同じように氷の刃と化した。

「仕事を増やすなよ!」
「仕方ないじゃないの!!判んなくてやったことなんだからっ!!」

魔理沙は追加武器であるXガンアサルトを速攻で構え、引金を引いた。
ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョォォォォン
トリガーを引きっぱなしの間、間抜けとも言えるあの間延びした銃声が絶え間も無く鳴り響いた。
それらの斜線は綺麗に、形に成ろうとしている氷片を捉え、全てを破砕した。

「いよし!」
「もーらい!!」

魔理沙がトドメをさそうとした瞬間、その横を咲夜が通り抜け、ガンツソードでチルノに切り掛かった。それに追いつくように魔理沙もソードでチルノに切り掛かった。

「私のだ!!」
「私のよ!!」



ザバアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!

その瞬間、湖の水面が急に上昇し、そこから何かがせり上がって来た。
『それ』から太い触手のようなものが魔理沙と咲夜を襲い、二人を皆が居る岸に弾き飛ばした。咲夜は体を反転させて見事に着地したが、魔理沙は受け身をミスして体を引きずらせた。それからゆっくり立ち上がり、Xガンを『そいつ』に向けた。

「何だ……こいつ……」
「こんなの、予想なんて出来ない……!」

メンバー全員の目の前には、色が全体的に青黒いボディの蛸のような存在があった。そして、今まで戦っていたはずのチルノがその蛸に飲み込まれたところだった。仲間の星人なら食い合いはしないはずだが、今までのチルノは囮のようなものだったようだ。
蛸は四本の触手を湖の水辺に叩き付け、自分の体をそこに固定させた。

「こいつがボスのようだな」
「そのようね」
「ちょっと待って下さい!火力は足りると思うんですか!?」
「「足りる」」

鈴仙が止めようとするが、魔理沙と咲夜はそれを無視するかのように銃を構えた。魔理沙は自分が手に入れた新しい武器を、咲夜は両手にXガンを……それぞれ目の前の蛸に向けて構えた。そして二人は二手に分かれて駆け出した。鈴仙の横を通り抜け、妖夢はその後を追う。
魔理沙と妖夢は右手前の触手から、咲夜は左手前の触手から本体に接近した。魔理沙はアサルトを蛸に向け、引金を引いた。その銃声が鳴り止んだ数秒後に、蛸の触手の根元が破砕されたが、少し抉れただけでほとんどダメージにならなかった。

「うっ!」

それで蛸が怒ったのか、魔理沙と妖夢の乗っている右触手を大きく振るって、二人を空中高く放り上げた。二人は武器を構えるが、その二人の距離と蛸の距離は急激に縮まっていく。
咲夜はそれに咄嗟に反応し、両手に構えたXガンを蛸の目の辺りに乱射した後、二つの銃を岸に向かって投げ捨て、代わりに取り出したガンツソードで蛸の顔面を深く切り刻んでいった。その攻撃に蛸は怯み、右の触手を再び岸に戻した。
その頃、魔理沙と妖夢の二人は蛸の頭部の膨らみの部分に落下した。
妖夢は急いでガンツソードを二つ、蛸の方に刃を向けると、刃を伸ばして自分の立っている部分に深く突き刺した。自分の持っている二つの刀を引き抜くと、乱舞のように振るって蛸のその部分をズタボロにしていった。魔理沙もそれに負けじとアサルトを乱射し、頭部にどんどん穴を空けていく。
咲夜というと、自分の持っていたガンツソードで触手を一本一本、切断目的で切り刻んでいく。他のメンバー、文、椛、レミリア、アリス、空、一輪、雲山、ルナサ、燐たちも呼びかけられ 、それぞれ自分の持っている武器で触手を破壊し始めた。
その攻撃で当然、巨大な蛸は苦しみ始める。
本体を乗っ取っている三人を除いたガンツメンバーはXガンやらショットガンやらでどんどん触手を破壊していき、残りの三人が本体の頭部から体液を垂れ流しにさせる頃には、既に触手が一本切り離されていた。

「らあああああああぁぁぁあ!!!」

ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョォォォン

青白い光が連続で放たれ、間延びした銃声が絶え間なく響き渡った。その後の数秒のタイムラグの後、魔理沙が打ち込んだ部分に大きな穴が空き、おぞましい程大量の内蔵がむき出しとなった。さらにその内蔵を狙い易いように、周りの皮の部分をアサルトでぼろぼろにしていく。やがて破裂。内蔵をむき出しにした広さは軽く、人が五十人は入るであろう程になった。それを見計らったのか、咲夜が駆けつけ、むき出しになった内蔵部分に侵入してガンツソードで料理をするように切り刻んでいく。魔理沙と妖夢も同じようにソードで切り掛かった。どうやら、幻想郷にはほとんどないが、この蛸の内蔵は外界のそれとは内蔵の作りが違うようで、見たこと無いようなものも中には幾つか有った。
しかしそれはメンバー達に取ってはどうでもいこと。
全員が総攻撃を畳み掛ける中で、巨大な蛸の動きは弱まっていき、少し経つ頃には動かなくなっていた。



チーン。

『それぢはちいてんをはぢぬる』

メンバー全員は一息つき、何人かは武器を仕舞ってスーツを脱ぎ、ガンツの在る部屋に戻って来た。
その頃にはちょうど、採点が始まる頃だった。

『まりさ
 4てん
 TOTAL35てん
 あと65てんでおわり』

『れいせん
 2てん
 TOTAL47てん
 あと53てんでおわり』

『あや
 4てん
 TOTAL9てん
 あと91てんでおわり』

『もみじ
 4てん
 TOTAL46てん
 あと54てんでおわり』

『るなさ
 0てん
 とどめ、させなかったね
 TOTAL37てん
 あと63てんでおわり』

『りん
 0てん
 同じく
 TOTAL25てん
 あと75てんでおわり』

『ようむ
 0てん
 横取りすれば良い得点
 TOTAL85てん
 あと15てんでおわり』

『さくや
 40てん
 TOTAL85てん
 あと15てんでおわり』

『ありす
 0てん ぷっ
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』

『うつほ
 0てん だいぶださい
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』

『いちりん
 0てん うごいたね
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』

『うんざん
 2てん うんどうしたね
 TOTAL5てん
 あと95てんでおわり』

『れみりあ
 4てん しごとしたね
 TOTAL4てん
 あと96てんでおわり』

妖夢は自分の点数を見つめ、後少しで闘いが楽になることを悟った。



次の日の朝。
パチュリーは自分の額に手を当てて、熱が完全に下がっていることを認識した。ただこういう場合、咲夜は「あまり無理をしないで下さいね」という。本人はそのことに理解は有るし、自分から自殺行為のような馬鹿行動はしないようにしている。図書館を出たパチュリーは廊下を歩き、咲夜のいそうなところを歩き巡った。
少し歩いた頃、廊下の向こうから咲夜が、ティーカップを載せたおぼんを持って歩いてくるのが判った。パチュリーと咲夜は互いに見えたようで、それぞれ近づいた。

「おはようございます。と言っても、今しがた朝の時間帯である十時を十五分程過ぎたところですが」
「おはよう」
「もう大丈夫なのですか?」
「大丈夫かどうか判らない人に紅茶は無いんじゃない?」
「いや、そう言う意味ではございませんので」

パチュリーはあっそと言って、おぼんを受け取った。
それから咲夜の方を向いた。

「魔理沙は……」
「は?」
「魔理沙は来てないの……?」
「来てませんけど……まさか」
「違うわよ」



その頃、魔理沙は文と椛とで妖怪の山にある、河城工房に来ていた。
写真でも見せてもらったことが通り、内部は焼けただれている感じで少しだけ焦げ臭いような匂いがする。この状況は新聞でちらっと読んだ程度だが、一応知っていた。ただ、魔理沙はそれを生で見たいとも考えていた。

「これで、にとりはあの部屋に」
「そうだったんですか……爆発音がしたから駆けつけたんですけど、誰も見つからなかったんですけど……あの部屋に送られてたんですか」
「そうなるな」

その日に何があったかは詳しくは知らないが、その爆発で何もかもを吹っ飛ばしたようだ。
ただ、ここまで綺麗さっぱりに消し去る爆発などあるものだろうか。それこそ、幻想郷で唯一の科学技術を駆使するにとりと言ったところか。

「咲夜は喋らないだろうな……」
「だといいですけど」
「たぶん大丈夫ですよ。経験者らしいですし」

椛は信頼しているらしく、そう言った。
もちろん、魔理沙はガンツについてのルールを知っていて、ガンツのことを誰かに話したりしたら自分が死んでしまう。そのことを判っているから、誰にも話すはずがない。ただし、霊夢と紫は大分探りを入れようとしているので、油断が出来ない。

「危なくなったら殺すか?」

魔理沙のその発言に、文と椛はドキッとした。



『そーれいっちにいさん!!』

メンバーが全員スーツに着替え終わった頃、戦闘準備の曲、ラジオ体操の歌が流れ終わった。

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい』

入れ替わりに今回のターゲットがガンツに表示される。

『たかむら星人
 特徴:さいきょう 野獣 変態 リーゼント
 好きなもの:後輩イジメ こすぷれ』

メンバーは変わらない。
だが少しだけ、この時は魔理沙は油断していた。



「……」

魔理沙を含めたガンツメンバーは辺りを見渡して驚いた。
周りに有るのは森や山のような自然、人里が有ったりするような景色ではなかった。自然の代わりに在るのは、騒音、人、人、人。更に在るのは見たこと無い建物、人、人、人、乗り物。どうやらメンバーは外の世界に来てしまったようだ。

「待て……今まで変なところに来たことは無かったじゃないか」
「でも魔理沙、ここは少なくとも幻想郷ではないはずよ?」

咲夜はガンツソードの刃を出したり仕舞ったりして遊んでいる。
文は前に出て、天井にぶら下がっているものを見つめた。

現在、魔理沙らガンツメンバーは屋内に居る。

「ひがし……みやこ……え…き………?」
「文?」
「東京駅……とうきょうえき……か」
「とうきょう?」
「外の世界には電車と呼ばれるものが有って、それらは駅と駅の間を電気の力で動くそうです。ここがそう、駅のようです」
「ふーん、知らないけど」

今、東京駅を利用している人間は居るには居るが、それほど多くはなく、まばらであった。何人かは魔理沙達を通り過ぎるが、誰もが気付いていないようだ。そんな中、咲夜はXガンを取り出して魔理沙に向いた。

「いいからさっさとさっきの星人を倒しちゃいましょうよ」

咲夜はそう言って一人で走り出した。その後を一輪と雲山、燐が追う。
しかし、次の瞬間、その三人の走り出した先に大量の人影が現れ始めた。その影は近くの階段をゾロゾロと上がっていき、それらの影が全て階段を上りきると、そいつらは咲夜達の方向に向き直った。そいつらは全員、俗に云うヤンキーと呼ばれるような格好をしていて、頭はガンツ部屋で見た通りのリーゼントとなっている。
たかむら星人は両手にメリケンサックなるものを装着し、咲夜立ちに向かって駆け出した。
その拳をXガンで受け止める。

が、

メリケンサックは易々とXガンのボディに食い込み、銃身を粉々にした。

「!?」
「こいつっ……!!」

燐がガンツソードで、そいつに横から切り掛かる。
しかし、その攻撃は腕で阻められた。ソードの刃を掴んだ手にだんだんと力が込められ、やがてその刃も破砕された。そんなたかむら星人の手からは血が一滴も流れていない。

「野郎……」
「全ての攻撃を無効化するのかしら」

目の前の星人に咲夜の拳が叩き付けられる。その顔は横に少し曲がっただけだった。

「!」

咲夜にたかむら星人の拳が迫る。それを横ステップで避ける。
ソードを前に突き出す。
回避。
星人の拳を、首を傾けて避ける。そしてバックステップで後退。
咲夜のその行動を合図に、メンバーも後ろに何歩か下がった。

「皆、散開!!ここじゃあまともな戦いが出来ないわ!!」
「うらあっ!」
「?!」

魔理沙がたかむら星人の足下に向かってXガンを放った。そのまま駆け出し、4番ホームに向かった。それに続くように一輪と雲山、アリスと空が後を追う。それに咲夜と鈴仙が付いて行こうとするが、その行く手を七体のたかむら星人が阻んだ。

「あぁ〜面倒くさい……」

そいつらの後ろの九体が、魔理沙達を追いかけていくのが見えた。
だがそんなことは関係なく、咲夜達(文と椛、鈴仙と妖夢とルナサとレミリアと燐)は武器を構え、目の前の星人達を倒すことに専念した。狭いところでの戦闘を有効に進める為に、燐以外はガンツソードを構えた。燐は代わりにYガンを手に取った。

メンバーが走り出すのと同時に、たかむら星人たち六体も走り出した。



今は夜だけ有って、利用客はゼロに等しかった。だがそれでも何人かは居る。魔理沙は振り返り、公共物破壊お構い無しにアサルトのトリガーを引いて、たかむら星人達が降りて来る階段に向かって放った。数秒後に被弾した部分は爆発するのだが、そのコンマ数秒前にたかむら星人達は跳躍し、階段を何段飛ばしもして魔理沙達の前に着地した。
着地の次には、たかむら星人の拳が魔理沙に向かって放たれているところだった。

「くっ!」

屈んで避け、足払いをした。
それは決まった。魔理沙は後ろを向いて駆け出し、列車で言う最後尾車両の止まる位置まで行って止まった。その魔理沙の行動に気付き、九体のたかむら星人が走り出した。
空がその集団に向けてXガンを乱射する。魔理沙はガンツソードを振り抜き、二体のたかむら星人の足を払った。



ガアアアアアアァァァアン!!!

たかむら星人の体がスーツの力に寄って大きく吹き飛ばされ、メンバーの近くにあった柱に大きな窪みを付けた。ルナサはスーツを着た自分の体を見て、今の力が何処から出たのか信じられない目で居た。

「一体!」
「助かったわ……うわっとぉ!」

燐七体のうちの一体の転送に成功した。咲夜はメンバーを褒めてはいるものの、たかむら星人二体の攻撃をぎりぎりで避けながら仲間を応援している。少し前のXガンを破壊した攻撃を見たところ、その攻撃を一回でも喰らったら最低スーツの効果無効、または死亡のどちらかが予測できた。
咲夜はガンツソードをおもむろに振り、たかむら星人二体を怯ませた。その隙を見て、地面を転がって集団攻めを回避しする。地面に片膝をつき、体を反転させている状態からガンツソードを取り出すと、足に力を込め、たかむら星人二体の両足を切り落とした。その星人の体を蹴り飛ばして、文と椛が交戦していたたかむら星人にぶつけた。

一方、妖夢とレミリアは一体のたかむら星人と戦闘中であった。レミリアのガンツソードが屈んだたかむら星人の頭の上すれすれを通り抜け、妖夢の二本の刀が星人の首すれすれと腹すれすれを翳めた。服に微妙な切れ目が入るが、それは影響なかったようだ。たかむら星人の拳がレミリアの腹にクリーンヒットし、後ろに大きく、壁にぶつかるまでその体が吹き飛んだ。
壁にぶつかり、少しの瓦礫が崩れる音とともに、レミリアのうめき声が鳴った。

「……ああぁぁああ!」

レミリアの着ているスーツのリング状の部分からゲル状の液体が流れ出した。それはスーツの効果が失われたことを教えるもので、死ぬ確率が格段に上がることを知らせるものだった。レミリアは立ち上がり、追撃しようとするたかむら星人に背を向けて逃げ出した。もちろんそれを星人が追う。

「させるかっ!」

妖夢は背中からソードで切り掛かり、行く手を阻んだ。その攻撃にたかむら星人が振り返るが、そのまま斬撃を続け、動かなくなるまで切り込みを入れ続ける。その体が地面に倒れ伏して動かなくなるのを確認したレミリアは、逃げるのを止めた。(残り五体)

壁から体を起こしたたかむら星人はルナサに突進した。

「……!!」

突進しながらメリケンサックをはめた腕を突き出して突進して来る。その手首を掴んで動きを止めさせ、ルナサは力を込め始めた。力を込めるにつれ、スーツのリング状の部分が徐々に青白い光を点し始め、ルナサの着ているスーツが膨れ、ボディビルダーのように体が大きくなった。それに一瞬戸惑いつつも、ルナサは更に力を込め、握っていたたかむら星人の両手首を破砕した。
目の前の踞っているたかむら星人を、スーツの力も利用して全力で蹴り飛ばす。ルナサの相手をしていたたかむら星人は階段の壁にぶつかり、口から血を吐いて動かなくなった。

ブンッ!!ブンッ!!
ビュビュビュビュビュビュゥゥゥッ!!

「くっ……はあぁぁぁっ……ぁっ…………」

妖夢は全力で二刀のガンツソードを交互に、相手に隙を与えないように振るってはいるものの、相手をしているたかむら星人は易々と避ける。だが、戦い始めた頃よりはそのたかむら星人の動きは少しばかり鈍くなっている。もう少しでトドメがさせると妖夢は考えていた。

「だああ!!」

戦闘開始五分、ついに妖夢の二本の刀がたかむら星人を捉えた。



バンッ!

闇雲に放ったアリスのXガンが魔理沙と組んでいたたかむら星人にヒットし、閃光とともに爆発した(残り八体)。
足が切断されている二体は何とか攻撃しようとしているが、数十センチ這ったところで上から空に叩き潰された(残り六体)。

「ふっ」

傾いた魔理沙の頭のすぐ横をたかむら星人の拳が吹き抜け、張り紙が貼られている柱にその拳が叩き付けられた。辺りに破片と粉塵をまき散らし、近くに居た女性の利用客を心底驚かせた。その女性客は階段に走って逃げ出そうとしたが、先程魔理沙がアサルトで破壊したところだったので、そこの階段が利用できない。

「あーあ、一般人が……どうしようか」
「いや!どうしようもこうも!」

アリスは魔理沙を押しのけて、ちょうど、女性客の方に向かってダッシュしていたたかむら星人をタックルではね飛ばした。たかむら星人が線路に落下した瞬間、アナウンスが流れた。

『まもなく、4番線に列車が参ります。危ないですので、黄色い線の内側までお下がりください』

「!」

そのアナウンスを聞いて、アリスが線路に乗り出した。このままたかむら星人をぎりぎりまで取り押さえて、電車が来たらたかむら星人を轢かせる。点は入らないかも知れないが、こっち側のリスクが減るだけでも十分なチャンスであった。
アリスが飛びかかって押さえつけようとすると、線路に倒れていたたかむら星人は起き上がって抵抗を始めた。取っ組み合いの形となり、当たるたびに痛みが生じる線路を転がったりなどしている。十数秒もすれば、線路の奥の方から電車の明が照らされ始めた。それを察したのかはどうか知らないが、たかむら星人が抵抗をより一層強くする。アリスもそれに負けまいと力を込め、スーツのリング状の部分から青白い光を点す。体が膨れ上がる。アリスは右手でたかむら星人の両手を押さえつけたまま、左手で首を締め付けるように押さえる。
やがて、電車の光がアリスたちを照らし始める。もちろん、電車の運転手にも周りの人にもアリスとたかむら星人の姿は見えていない。

「アリスさんっ!!」
「アリスッ!」
「判ってるわよッ!」

アリスは線路から飛び退き、体を転がらせて隣の線路に移った。
そして、たかむら星人が起き上がって誰かしらを襲おうとした瞬間、電車がパァァァと音を鳴らした。



ビシュッ!!

その頃、咲夜と妖夢との活躍により、階段際に居たたかむら星人は全滅し、そこだけに平穏を取り戻した。だが終わっていない。急いで魔理沙たちを助けに急行せねばならなかった。スーツの効果が無くなったレミリアを守るように鈴仙が前に立ち、それより前を咲夜と妖夢が船頭になり、後ろから他のメンバーが付いて行く。

やがて着くと、妖夢達の目の前にたかむら星人の体が突然飛んできた。咄嗟に反応して、妖夢はガンツソードを前に突き出してその体を静止させた。刃の方が上だったから、そのままたかむら星人の体を引き裂いた。それがドサッと地面に落ちた。(残り四体)
咲夜がいきなり跳躍し、空と交戦していたたかむら星人の首を横から刀を振って、綺麗に刎ね飛ばした。(残り三体)

「横取りかよッ!!」

魔理沙が笑顔でそう言う。

「いいえ、ただの手助けです」
「横取りだろ!」

その後、残りの三体は咲夜と妖夢、それと、魔理沙らが倒し、ホームでの戦闘は手早く終わった。



乾いたベルの音。
採点が始まった。

『まりさ
 17てん
 TOTAL52てん
 あと48てんでおわり』

『れいせん
 0てん めずらしくかつやくしなかったね
 TOTAL47てん
 あと53てんでおわり』

『あや
 0てん
 TOTAL9てん
 あと91てんでおわり』

『もみじ
 0てん
 TOTAL46てん
 あと54てんでおわり』

『るなさ
 17てん
 TOTAL54てん
 あと46てんでおわり』

『りん
 17てん
 TOTAL42てん
 あと58てんでおわり』

『ようむ
 85てん
 TOTAL170てん
 100点めにゅ〜から選んで下ちい』

「あ」

妖夢はその表示を見るなり、心底驚いた。
しかし、このまま自分は魔理沙達を置いて解放されてしまうのか……そんなことを考えてしまう。もちろん、それは悪いことではない。
だが。

「ガンツ。メニューをお願いします」

『100点めにゅ〜

 1、記憶を消されて解放される

 2、より強力な武器が与えられる

 3、好きな人を生き返らせる』

「ぜ、絶対解放ですよ!」

文が言う。
しかし、妖夢はそれを拒否する。

「私はどんなことがあろうと最後まで戦い抜きます……ガンツ、新しい武器を」

妖夢のその言葉に応えたのか、メニューの3番だけが表示され、それと同時に妖夢の所持点数が減らされていく。
そして、100点分を消費したところで止まった。

「私は一人前にはなれずとも、一人前の人のようには努力できるはずです。だから」
「……」

『さくや
 68てん
 TOTA153てん
 100点めにゅ〜から選んで下ちい』

「ふっ」

誇ったように咲夜が鼻を鳴らした。
それに反応したように、ガンツの表面にメニューが表示される。

『100点めにゅ〜

 1、記憶を消されて解放される

 2、より強力な武器が与えられる

 3、好きな人を生き返らせる』

「仕事と同じ……私もね、乗った船には最後まで乗る人間よ」
「……」
「3番を」

『より強力な武器が与えられる』

咲夜はにっこりと微笑んだ

『ありす
 17てん
 TOTAL17てん
 あと83てんでおわり』

『うつほ
 34てん
 TOTAL34てん
 あと66てんでおわり』

『いちりん
 0てん なむ〜
 TOTAL0てん
 あと100てんでおわり』

『うんざん
 0てん みっかぼうず
 TOTAL5てん
 あと95てんでおわり』

『れみりあ
 0てん スーツこわされてやんの
 TOTAL4てん
 あと96てんでおわり』

ルナサはアタッシュケースを大事そうに抱え、早く三姉妹そろって笑顔で暮らしたいと思った。
魔理沙はその姿を目を細めて見つめた。



咲夜は廊下にある窓から外を眺め、花畑で会話している魔理沙とパチュリーの様子を観察していた。

「あ!魔理沙!!」
「おう、パチュリー。いくら病み上がりだからって走ったり大声上げちゃ駄目だろ」
「でも……」
「せめて普通にしてくれ。お前、喘息だし」

パチュリーの頭の上に手を乗せ、ポンポンと叩く。
それを見てわずかに微笑むと、踵を返してレミリアの居る部屋へと向かった。

次の100点は何を取るか、もう決めたのであった。
たぶん。今回一番短かったのはたかむら星人戦じゃないでしょうか。
本気出そうと思ったら途中でエネルギー切れです、です。

ガンツアサルト:追加武器。破壊力はやや、Xガンを上回る。
   一度に出来る連射はおおよそ三十発と言ったところ。撃ち終わると、エネルギー再充填に三十秒掛かる。

ねずみ星人:体数は文章の通りで、ボスのナズーリンは一体。
   一体5点ぐらい。ナズーリンは37点だと思います。

さるの星人:チルノは30点。雑魚妖精は一体2点ぐらい。

たかむら星人:一体17点。

というわけで、原作から大きく脱線してしまっているストーリー第五話です。
各メンバーの力の差が書けずに嘆いています。
このままでは大阪編が書けるかどうか判りません。

*今後の予定(既にアップしたものは除く)*
古代神星人編→武者星人編→にとり星人編→吸血鬼星人編→死神星人編→黒服星人編
→パチュリー編→大阪編(やるかどうかは判りません)→未定→ラストミッション
→カタストロフィ(幾つかにわける)→???

九割型ネタバレです。上の奴が。

それでは次回でお会いできたらお会いしましょう。
長文失礼しました。

(引き続き星人の募集。暇すぎて死にそうな人だけお願いします。他の項目は勝手に適当に付け足しちゃッて下さい)
名前「」
特徴「」

それでは
ヨーグルト
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/06/09 10:12:31
更新日時:
2011/06/15 19:42:46
分類
魔理沙
咲夜
妖夢
1. NutsIn先任曹長 ■2011/06/09 20:55:33
そろそろ皆、ゲームに慣れ始めましたね。
100点取った人は様々な理由で誰も『開放』を選ばず、手堅く『強力武器』を選択、と。
でも、100点取れる人と殆ど点の取れない人の落差が大きいような……。
他のメンバーのサポートに回っていたからなのか、それともヘタレなだけなのか。これは追々分かりますね。

ねずみ星人、いろいろな意味で『あぶない』。
『ぼくのかんがえたせいじん』の雄姿、しかと読ませていただきました。かっこい〜!!
ほう、ステージが外界というケースもあるのですか。

……その内、目撃者を消すミッションもあるのですね……。

魔理沙は『戦いの意義』ってヤツを見つけつつあるようですね。
今後の話での成長が楽しみです。

では、次のミッションでも戦死者が出ない事を祈らせていただきます。
2. 名無し ■2011/06/17 11:42:16
タエちゃんはパチュリーか
名前 メール
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