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『幻想の空に『栄』の音が響くとき〜中篇〜』 作者: いぬうえ

幻想の空に『栄』の音が響くとき〜中篇〜

作品集: 26 投稿日時: 2011/06/10 17:42:55 更新日時: 2011/06/12 22:42:11
時代の波は世界の均衡を大きく狂わせる。

古きものは淘汰され、新しき力を持った者だけが生き残る。
いや、そもそも世界とはそういうものである。

弱い者は皆、虐げられ、
支配され、搾取され尽くす。

この国とて例外ではない。
古来よりこの国は様々な外敵から狙われ、
そして自らも外敵になることがあった。

...元寇、秀吉の朝鮮出兵、黒船ペリー.....。

考えただけでもキリがない。
なぜなら、


今日までのこの国の歴史とは、戦いの歴史だからである。


そして、今。
この大東亜戦争も、その一部となりつつある――――
























自分は本当は死んでいるのではないだろうか?
そんなことが頭に浮かぶ。

ここは日本でもなんでもなく、
ただ単にあの世の世界なのではないだろうか。

だがオカシイ、三途の川は全く見えない。

いや、目の前にいるこの少女に阻まれて見えないだけかも知れぬ。
本当はすぐそこに三途の川がサラサラと...。


「あぁ、もう。さっさとここから立ち去りなさいよ!!」


前言撤回。
やはりここはあの世でもなんでもないようだ。

なぜなら目の前にいる少女が俺に向かって、
大きな氷の柱を勢い良く投げつけてきたのだから!


「さっさと出て行けぇぇぇッ!」

「や、やめろ、落ち着け!」


少女は手を大きく広げると、
そこには先ほどのような氷の柱が無数に現れた。

不味い。


氷の柱が先ほどまで俺が寄りかかっていた木を粉々に粉砕する。


全く動けなかった。
無数の氷の柱が糸を引くように俺の身体を――


「アンタにも言ってるのよ...闇妖怪!」


――すり抜けていった。

慌てて後ろを振り向き、
先ほどまで木があった場所を見てみると...

そこには、
まるで夜の闇をそのまま切り抜いたかのようなドス黒い球体が存在していた。

そう、少女が攻撃したのはこの球体だったのだ。


「あらあら、お頭が弱い貴女がよく私に気づけたわね。褒めてあげてもいいわよ」


「ふんっ! アンタに褒められるくらいなら厠に頭突っ込んだほうがマシね」


「あらあらあらぁ。言うじゃない...なにか良いことでもあったのかしらぁ?」


突然黒い球体から声がしたかと思うと、
球体は真っ二つに裂け、中から長い金髪を携えた女が現れた。

どう見ても西洋人のようではあるが、
やはり話している言語は日本語のようである。


「なにしに来やがった。ココは私のテリトリーだろーが」

「あらぁ、誰がそんなこと決めたのぉ? それに私、他人の物奪うの大好きなのぉん」


ウフフと下品に笑ったその顔は俺の方を向く。

耳まで裂けるのではないかというくらいに口を歪ませ、
まるで御馳走を目の前にした獣のようにタラリと涎が糸を引く。


「クスクス... 美味しそうな臭いがすると思って来てみれば... 
まさか、アンタが一人で喰べちゃうつもりだったのかしらぁ?」


「お前みたいな三流妖怪と一緒にしないでもらえる? 気持ち悪い...!」


「フフフハハハッ!...言うじゃない、このションベンたれの糞ガキッ!!」


瞬間、目の前を黒い何かが通り過ぎたかと思うと、
一瞬のうちにその何かは青髪の少女の頭を簡単に吹き飛ばした。

ブチブチッ―――

あまりの速さと突然の出来事に、
俺は、背中に氷の塊を入れられたかのように恐怖で身動きが取れなくなっていた。

黒い何か、
それは黒い女の腕そのものであった。

目にも止まらぬ速さでその腕は俺の前を通過し、
青髪の少女の首元を突き刺し、そのまま抉った。
物凄い力で。


「う...うぅぁ....!?」


恐怖のあまり声を上げてしまった俺の方を、
顔中血まみれになった、黒い女の紅い目が睨みつけた。


「あらあら、可愛い声上げちゃって...
怖がらなくていいわ。一瞬だから何も分からないもの。
...フフ、フフフフハハハハハハグギャギャギャギャッ!!!!!」

「ひぃッ!!?」


自分でも恥ずかしくなるような悲鳴と理解する。

だが、声を上げずにはいられない。

戦場で見るような死とはまるで違う。

俺が今見たものはそんなものではない!
人間がする殺しなどではない!


「あ〜あ、久々に遊んだからお腹空いたわぁ、さっさと喰べちゃいましょっと...」


喰われる...!?
この女に、この、バケモノに―――


「――余所見すんな」

「なッ―――!?」


女は吹き飛んだ。

一直線にぶっ飛んでいった。

見覚えのある氷の柱に貫かれながら――――



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



今日もまたJAPの戦闘機とバトルしたぜ。

結果は圧勝、
この様子じゃ戦争ももうすぐ終わるな。

ん?どうしたマルチオーネ軍曹。

...なに?
相手のジークが突然消えた?

まさか、あいつらお得意のクイック・ループだろ。
...視界から完全に、レーダーからもだと?

なぁに、きっと墜落したんだろう。

それにしてもお前さんが被弾とは珍しいな。

...完全に捕捉してきた?そのジークが?
高速のP−51を、しかも高高度で?

ほう、一度戦ってみたかったぜ、
その謎のジークとよ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ちょっとアンタ、早くここから離れたほうがいいわ」

「えっ! ....あ、あぁ.....」


気がつくと俺は腰を地面に下ろし空を眺めていた。

正確に言えば『腰が抜けていた』といったところだが...。


...本当にここはどこなのだろうか。

まず、俺の知っている世界ではないことは確かだ。
人間が、ましてや女があんな恐ろしい力を使うなど、見たことも聞いたこともない。

チルノ・クレイオと名乗った少女はこう言った、

『ここは幻想郷よ』

幻想郷...それがこの世界の名称なのだろうか。

そうだとしたら、
こんな場所早くおさらばしたいものだ。


「――聞いてんのッ?! 早く行かないとアイツがまた来るわよ!」

「なっ...お前...死んだんじゃないのか!?
と、というか、何故生きてるんだ!?」


そ、そうだ!
何を馬鹿みたいなことを言っているのだ俺は...!

こいつ、さっきあの女に首を抉られて―――


「なんでって...私は天下の大妖精様よ?
死ぬわけないじゃない、何故かは知らないけどね」


.....ダメだ。
ますます状況が読み込めん。

妖精?
生憎、SF小説は嫌いな類いだ。


だが、この少女の頭を抉ったあの女....。


『アンタにも言ってるのよ...闇妖怪!』


闇妖怪...
確かに少女はそう言ったはずだ。

妖怪...?妖精?

お伽話の世界じゃあるまいに、
何故今になってそんな幼稚なものを....。

...お伽話の世界....?

俺も見たはずだ。
巨大な氷の柱、見たこともない闇の球体。
死んだはずなのに生きている者....。

どれも妖怪やら妖精やらで説明がつくのではないか?

『事実は小説よりも奇なり』

現実では小説なぞよりもさらに奇妙なことが起こりうる。

まさに俺が見てきたこと全てがそれだ。

信じたくない、信じたくはないが、
信じなければ頭が狂ってしまいそうだ。

悪い夢ならば覚めて欲しいが、


「ああぁ〜もうっ! どっか行かないとまたお見舞いするわよ!!」


やはり夢ではないのか...!!


大きな氷の柱が俺に降りかかろうとした刹那、
俺の前で何かが弾け、辺りが光に包まれた。


「うにゃぁ!?まぶしっ!」


「こっち!さぁ、早く早く!」

「ぐぅ...」


眩しい光に包まれた俺は、
光の中から声のする方へと導かれるようにその場を駆けた。


















「危なかったねぇ、盟友」

「はぁ、はぁ、はぁ....すまない」


転びかけながらも必死に走り抜いた。
...ここはどうやら、どこかの清流のようだ。

自分でも信じられないくらいの急な山道を登ってきたことに驚く。


「礼を言わせてもらいたい。ご助力、感謝いたします」

「ハハハ、律儀な盟友だねぇ!そのカッコにその訛り、外の世界の人だろ?」


外の...世界?


「まぁ、突然迷い込んだんだ、無理もない。
アンタみたいなのが暮らす世界を私たちは『外の世界』と言うんだ」

「!」


やはり、ここは俺の知っている世界とはまた違う場所、
『幻想郷』というわけか...。


「言い忘れてたね、私は谷河童の河城にとり。 アンタは?」

「...俺?俺は.....」


........


「...武藤だ。武藤と呼んでくれればいい」

「よし!それじゃあ盟友って呼ばせてもらうね! よろしく盟友」

「ちょっと待て」





















河城にとり。
河童だそうだ。

河童といえば芥川龍之介氏の『河童』がある。

芥川龍之介が死の直前に執筆したというこの話に、
以下のように河童の外見が説明されている。

『頭に短い毛のあるのはもちろん、手足に水掻きがついてる、
身長もざっと一メエトルを越えるか越えないかくらい、頭のまん中には大楕円形の皿があり、
人間のように一定の皮膚の色を持っておらず、カメレオンのように色を変える。
 西国の河童は緑色、東北の河童は赤い....』


この『河童』の記述に関しては、
柳田國男氏の『遠野物語』が深く関わっているとされている。



確かに記述のような不思議な部分はあるものの、
どうみても人間の容姿そのものだ。
この河城にとり、という人...いや、河童は。




そう言えば一つ聞き忘れていたことがあった。

にとりが俺を助け出してくれた(本当は仲間の河童が襲われていると勘違いしたらしい)ときに、
一瞬にして辺りを光で包んだ謎の物である。


「聞いて良いだろうか」

「ん、なんだい?」

「さっきの...その、眩い光は一体なんだったのだ?」

「あぁ、アレね。 アレは私の自信作!『閃光手榴弾』さ」


閃光...手榴弾。
確かに彼女はそう言った。


「すごいだろぉ? これはまだ外の世界でも作られてない代物だよ」


そういって彼女は例の閃光手榴弾とやらを見せ付けてきた。
形は...自分が見たことのある手榴弾と違い、
細長い形状だった。

一体どのような仕掛けになっているのか気になるが、
まずは今この現状を理解することが先決であろう。


「ところで、ここ、清流まで来たのには何か理由が?」

「ん〜まあ、助けるのに必死だったからねぇ。 
どうしようか...ま、天狗の奴等に見つかるよりはマシかな?」


天狗、と言ったか?
河童もいれば天狗もいるのか、ここは。


にとりは俺を滝壺まで案内すると、
直前のところで急に立ち止まった。


滝壺の近くの岩肌に奇妙なレバーのような物があることに気づくと、
勢いよく、彼女はそのレバーを手前へ倒した。


「さあ、いらっしゃい。 これが...河城にとりの秘密基地!」


ゴゴゴゴゴ...
という音と共に滝が裂け、
中から大きな収納庫のようなものが現れた。


「さあさあ、入った入った」


彼女の言うままに俺は中へと入っていった。

















「くっそぅ...!目が見えにくいし耳も聞こえにくいし、
なんなのよ、もう!!」


八つ当たりに私は近くの木に向けて氷柱を投げつけた。
木は粉々になり、同時に氷柱も霧のようになって消えた。


「今日は最悪の日だわ!せっかく気持ち良くお昼寝してたのに、
空から大きな鳥と一緒に人間が降ってくるし。
 挙句の果てにあの三流妖怪相手に一乙喰らうわ、
変なカンシャク玉のせいで...なにもかもメチャクチャよ!!」


イライラする!もう全てにだ。
人間にも妖怪にも妖精にも神にも植物にもなにもかも!
全部、全部、ゼンブ、ぜんぶ、ぜんぶ!!




....私は..幻想郷中の嫌われ者だ。




人間からは作物を凍らす疫病神と煙たがられる。

妖怪からは力が強いだけの木偶の坊と言われる。

同属は怖がっているのか誰も話しかけてくれない。

神様は...会ったことがないや。



「....ぐすっ」


なんか目から出てきた。
あのカンシャク玉のせいだ、きっと。


「...ふん! 私は最強の氷の大妖精。
私に敵う奴なんて、この幻想郷にいるものか!」


私は上っ面だけの元気を見せつける。
誰に見せるわけでもない。

そうやって私はやってきたのだ。

今までも、これからも!

私は最強なのだ。

最強でなければ、いけないのだ。



「あら、一人ではしゃいでいるの?」

「え...! ゆ、幽香!?」


驚いた。
まさか奴がここに来るとは...。

風見幽香。
時折私のところに訪ねてくる花の妖怪だ。

変わり者の多い幻想郷でも、
彼女の名を知らない者はまずいないだろう。

文句のつけ様のない上級妖怪だ。


「いつもいつも大変ね。あなた」

「う、五月蝿い!」


構わず私は氷柱を投げつける。
だがそれは彼女を通り過ぎていくだけだった。


「...元気がいいのは良いけれど、
あなた、このままじゃ死ぬわよ?」

「死ぬ?私が? アンタ、頭オカシイんじゃないの!」


私はコイツが嫌いだ。
いつもここに来るたび見透かしたようなことを言う。


「私は最強よ!本当ならアンタなんて一捻りで... ッ!?」

「そういうところが、あなたの死ぬ原因だと言ってるの」


幽香は目にも止まらぬ速さで私の目の前に、
傘の先端を突き立てていた。


「驕り高ぶるのも大概にしなさい。本当は誰よりも心が最弱のくせに」

「.....」

「...まあ、私が今日ここい来たのはあなたにお説教する為じゃあないわ」


ゆっくりと幽香は持っている傘を下ろしていく。


「力を貸しなさい。今、幻想郷でも外の世界でも大変なことが起きているわ」

「な、なんでアンタなんかに力を...」

「外の世界の魂がこちらにも多く流れ着いているそうよ」

「アンタ、人の話聞いてるの?」

「....あなたに話しても理解できないかもしれないけど」

「?」



彼女は静かに、そして重々しく口を開いた。


「このまま行くと、幻想郷が冥界に飲み込まれるかもしれないわ」


季節は夏。

木の葉は緑一色に染まり、
蝉や他の生き物の声が辺り一面を覆い尽くしていた。
















秘密基地の中に入った俺は今、
『開いた口が塞がらない』
状況に陥っていた。


「これ、は....」

「えへへ!どうだい盟友」


そこに在ったのは翼。白銀の翼だった。

忘れるはずもない。
俺が初めて見たときと何ら変わらない。

俺の記憶を切り抜いたかのような機体がそこにあった。


「つい最近幻想入りしてきてねぇ。生憎エンジンの方はダメだったけど、
その他は全くと言って良いほど無傷だったよ。
 んで、つい今朝のことだ。湖のほうで『鉄の鳥が落ちた』って知らせを聞いてね。
シメタ!と思ってそいつのとっからエンジンを持ってきてコイツにくっ付けたのさ。
 ま、仕事も終わったんで残りの残骸を漁ろうと思ってまた山を下りたときに、
妖精に襲われてたってのがアンタってわけよ」


そのことからすると俺はかなりの時間寝ていたことになる。

だが、今はそんなことはどうでもいい。
目の前にあるこの機体から目を離せない。

何故か。


にとりが最近『幻想入り』したとか、
恐らく俺の乗っていた機体からエンジンを取り外し付け替えたとか言うこの機体は、



今は無き零式艦上戦闘機一一型だったのだ。
長らく失踪しておりました。
待っていた方がいられたらすみませんの一言です^^;

なんだかんだで、そんなに長い文でもないのに引き伸ばしにしちゃうのは悪い癖ですね...
次回で最終回です。

〜コメント返信〜

>NutsIn先任曹長さま 
 一一型はほぼ中国戦線でしか使用されていないうえに、生産も66号機で終わってしまいますからねw でも機体の軽さは零戦シリーズの中でも一、二位を争います。もし五二型の『栄』1,130馬力のエンジンを積んでいたら...という妄想なわけですww

>2.さま
 まあ、そのところは河童の技術は世界一ィィィ!!を駆使すれば(ry はい、その通りでございますw『歴史群像コミックス』より頂きましたww
いぬうえ
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/06/10 17:42:55
更新日時:
2011/06/12 22:42:11
分類
大東亜戦争
大人チルノ
大人ルーミア
にとり
幽香
オリキャラ
1. NutsIn先任曹長 ■2011/06/11 03:05:44
自分のSSを書きつつ一杯飲りながら、気分転換に来てみれば……!!
待ち焦がれた続編があるじゃあ〜りませんか!!

登場する氷精や闇妖は、現在とは何か違うようですね。
一体、『この時』に何があったのか!?

結局名前で呼んでもらえない彼は、翼を手に入れましたね!!
Wikiで調べましたが、こりゃまた伝説の代物ですね〜!!
試作三号機以降と同等スペックになったのかな?

さあ、彼が飛翔するのは何のためか!?
御国の為?
己の戦闘衝動の為?
幻想郷の少女達の為?

最終回、銀翼の舞を魅る事を楽しみにさせていただきます。
2. 名無し ■2011/06/11 12:59:24
久しぶりじゃないか

零戦の改造ってのはロマンあっていいとは思うんだが
あちらいじるとこちらの立たん零戦をいじって大丈夫だろうか
まあこまけぇことは(ry とは思うが
つかそれよりも高出力価のハイオク有鉛燃料と点火プラグをだな…

ときに前作のラヴォチキンの下りがまんま零戦伝説で妙に懐かしかった
3. 幻想保査長 ■2011/06/16 09:06:13
戦闘機乗りは地上は似合わない。空が一番似合うぜ。

どうせなら「烈風」「震電」を幻想入りしようぜ!
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