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『Eternal Full moon 第二話』 作者: イル・プリンチベ

Eternal Full moon 第二話

作品集: 26 投稿日時: 2011/06/12 07:34:37 更新日時: 2011/06/12 16:34:37
―9― 藤原妹紅の忠告




 「おい妖怪詐欺兎、こんなところで一人でうろつくなんて一体どうしたっていうんだい?」


 あたしが腹いせに人間達からお金を巻き上げようと人里に向かおうとした所に私を呼びとめた奴がいた。


 「なんだ、妹紅じゃないか。あたしはちょっとやることがあるから、今はあんたと話している暇はないんだよ。」


 そいつは私達と同じ迷いの竹林に住んでいる藤原妹紅で、一応私の友人の一人なんだけどうちの姫様とはどういうわけか犬猿の仲だから、兎にも角にも事あるたびに“殺し合い”をし続けているんだ。二人とも死なないのに殺し合っているんだから、あたしから見たらこれまた滑稽に見えてしまうよ。


 こいつも人間の癖に何をやろうが決して死なない上に妖術を身につけているから、あたしみたいなあんまり力の強くない妖怪じゃ歯が立たない位の強さを持っているんだ。口調はアレでも性根は私と違って凄くいい奴で、出来れば私もこういう妖怪兎になりたいといつも思うんだ。


 「なんだとはなんだ。人様が呼んでるのにそういう態度はないだろう?お前さんが何かと忙しいのはわかるが、またロクでもない事をしでかすんじゃないだろうかと心配でならないんだ。」


 「さっき人里に行って慧音にあったんだけど、人里の連中はお前さんを退治しようというからなにがあったかを聞いたところ、散々金をだまし取られたうえにブービートラップにはまったうえに命を落とした者がいると聞いたもんだからな。」


 「悪い事は言わんが今は迂闊に動かない方がいい。私もそこそこ無駄に長く生きてきたんだが、友人を失うのは流石に耐えられた代物じゃないんでね。つい老婆心が先走りお前さんに忠告せざるを得ない気分になっちまったんだよ。」


 慧音っていうのは妹紅の親友で人里の寺小屋で教師をしている半人半妖の上白沢慧音の事で、普段の見た目人間でも満月を見るとワーハクタクの姿に変身してしまう奴なんだ。


 以前寺小屋に行った時に慧音の授業に出た事があるんだけど、口調が堅苦しくて退屈に感じてしまうんだが本気で相手の事を考えてくれるいい奴なんだ。唯一の欠点はワーハクタクになると見るが耐えられない位キモイってことさ。


 妹紅はさっき私がぞんざいな態度を取ったことが気に食わないみたいだけど、人里の人間があたしの事を退治しようとするのを教えてくれたようだな。本来妹紅は私の事を退治してもおかしくないのに、こうやって危険を顧みずに忠告をしてくれた上に逃がしてくれるようにしてくれたんだから有り難いと思ったよ。


 「ありがとう。だけど何で妹紅はあたしの事を退治しないのさ?今の幻想郷で妖怪退治をしたら、人里でも英雄扱いされるじゃないの。」


 あたしは妹紅にお礼を言うと共に何故私の事を退治しないのか聞いたところ、


 「私が妖怪退治をするのは人間を襲っている奴なんだ。お前さんはあからさまに人間を襲っていないから、私の手を煩わせることがないってことさ。」


 妹紅はあたしが予測できない事を言ってきたんだ。その上、


 「それに私は死なない人間だから、人里の一部の連中には妖怪扱いされているんだ。だから私はこうやって身をひそめながら生きているのさね。」


 「だけどそれは、お前さんの所の輝夜と永琳とほとんど変わらないっていうのが皮肉すぎて笑えないんだがな。」


 妹紅は自分が人里の一部の人間に妖怪扱いされている事をあたしに言ってきたんだけど、今の話を始めて聞いたもんだから驚いてしまったね。


 「妹紅が妖怪扱いされているなんていままであたしは知らなかったよ…。あたしが知らないところで妹紅はいろんなところで差別視されてきたんだね。」


 さっき私は妹紅にぞんざいな態度を取ってしまった事に後悔をしたんだけど、


 「気にすんな。私がこういう扱いを受け続けているのは生まれてからずっとさ。そんな事はどうでもいいからさっさと逃げた方が身のためだ。お前を怨む奴や兎の足を欲しがっている奴がわんさかやってきてるから、今のところは素直に永遠亭に帰るこったな。」


 あたしは妹紅が知らないところで苦労していると始めて知ったので、ついいたたまれない思いがしてならなかった。そしてその好意を無駄にしたくない一心で急いで永遠亭に戻ることにしたんだよ。



―10― 狩人の追跡をかわすあたし



 「はぁ…、はぁ…、はぁ…。」


 (本当に今日に限って本当にこいつらしつこいったらありゃしないよ!いつもだったらもう諦めて人里に戻っているのに、一体どうしたっていうんだい!?)


 いつものことなんだけどあたしが必死になって逃げている理由は、あたしを退治しようという人間達の追手を振り払うためだ。いつもだったらあっさり逃げれているというのに、今日に限って人間どもを振りきれていないのは私を退治しようという人間が大勢この迷いの竹林にやってきたからだ。


 皮肉なことにあたしは妹紅と別れてからまもなくして人間達に襲われてしまったんだ。しかもあいつらときたら、私一人に対し大勢で立ち向かってくるんだから卑劣極まりないと思うね。れーせんが人間を嫌っているのがなんとなくわかるし、あんな強欲な連中相手に関わりを持ちたくないという妹紅の気持ちがわかるような気がするね。


 「おらー!でっかい妖怪兎をとっ捕まえるぞー!!!」


 「親父の敵!此処であったが百年目だっ!」


 「ラッキーアイテム!レアアイテム!マストアイテム!こいつは金になりそうだ!」


 「いい加減当たれよこの野郎!」


 人間どもはあたしを捕まえたいがために目をギラギラ輝かせているんだ。兎一匹捕まえるために必死すぎて笑えちゃうんだけど、連中の攻撃はより一層激しくなっているからあたしも必死になって逃げているところさ。


 パーン!


 鉄砲を持った人間のおっさんがあたしの足に狙いを定めて銃を放つも、不幸中の幸い当たりはしなかったよ。銃弾に当たる確率は低いという事は解っていても、怖い物は怖いし嫌なものは嫌だってことに変わりはないんだ。


 銃声が辺り一帯に響き渡り他の兎達は慌てふためき逃げ出すけど、幸いなことに誰も被弾していないのが唯一の救いだね。それにあたしも普通の兎だった頃に流れ弾に当たりそうになって死にそうだったから、人間が作る武器の恐さを十二分に知っているつもりだよ。


 あたしも日々の鬱憤を晴らすために迷いの竹林のあちらこちらにブービートラップを仕掛けているし、人里付近に出かけて人間達に賽銭詐欺をしてお金を騙し取ったりしてきたから、こうやって襲われるのが自業自得だと最近になって感じてしまうんだ。


 「当たれっ!」


 ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!


 前方の方角から私の足元目掛けて矢が降りかかってきた。危うく被弾しそうだったけど、幸いあたしの能力が作動したのか何とかして回避することができたよ。いつどこで飛び道具というプレゼントをくれるんだから、真面目に油断も隙もあったもんじゃないよね。


 「相変わらず逃げ足だけは速いな。だが、今日はいつものように逃がしはしないさ!」


 「俺達はあいつを生けどりにして、今までの仕返しをしてやるんだ!」


 「詐欺兎め!弁償して貰うからな。覚悟していろよ!」


 人間達はあらかじめあたしを待ち伏せしていたのか、私が永遠亭にたどり着くためのルートのひとつを潰してくれたみたいだね。あー、人間って奴は妙に頭が働くから、本当に付き合いきれなくて嫌になっちゃうよ。


 今のあたしの状況は絶体絶命というもので、後ろはおろか右も前も逃げ場がないから左に行くしかないという非常に厄介で困ったことになっているんだ。まさか、これって、人間達にこうなるように仕組まれていると思うと、ゾッとしてしまうね。


「大人しく捕まらんか!人を騙し続ける詐欺兎めっ!わしが今まで払ってきた金を返さんかい!」


 ビュン!


 初老の男性が私を罵倒してきた上に矢を放ってきやがった。確かに私はあんたからお金を騙し取ったのは事実だけど、騙されるあんたもあんたで悪いんじゃないかなと思うよ。とにかく私を怨むのは筋違いじゃないかな?


 「父さんの敵、今日こそ取ってやる!」


 ビュン!


 まだ大人になりきっていない若者もあたしを父の敵と見ているようだ。その上敵である私に生意気にも矢を放ってきやがった。


 たぶん彼の父親はあたしの仕掛けておいたブービートラップにひっかっかって死んだ馬鹿な人間の子供のようだけど、父親が死んだのは間違いなく周囲に注意を払っていないことが原因でこうなったと思うね。私を父の敵としてみなすのはそもそもの間違いだと思うな。


 「妖怪兎の足を売れば相当金になるぞ!こいつの足を売れば、借金のすべてに片がつくぞ!一攫千金を手にするのはこの俺だっ!」


 ビュン!


 オッサンもあたしの足に狙いを定めて矢を放ってきやがった。おぞましい事に私の足を売りつけて、多額の借金を支払いきろうとしているようだね。


 借金を作って首が回らなくなったのはあんた自身のせいだと思うし、あんたのことだからまた新たな借金が出来ているだろうさ。


 「はぁ、はぁ、はぁ…。」


 もう少しで永遠亭。あと少しの辛抱よ…。頑張れあたし!私は永遠亭目指して西の方角目指して走っていたんだけど、


 「今だ!矢を放て!」


 人間のリーダーらしきおっさんが号令をかけると、


 ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!


 岩山に待機していたと思われる人間達があたしに向かって一斉に矢を放ってきた!


 まさに矢の雨を浴びる格好になった私は幸運にも直撃を喰らわずに済んだけど、お気に入りのピンクのワンピースはボロ雑巾になり果ててしまい、右腕と左足にかすり傷を負ってしまったんだ。


 「この詐欺兎!今日こそ捕まえてやる!」


 「今日の晩御飯は兎鍋だ!」


 「ご馳走!ご馳走!兎肉っ!阿求さんに食べさせてあげたいなッ!」


 人間達はあたしを追い詰めようとしてきたんだけど、幸いなことに私があらかじめ仕掛けておいた永遠亭に向かう秘密の隠し通路があって、それは到底人間の大人が大勢で入れないからあたしは子供一人が入れる洞窟に駆け込むと、


 「畜生っ!あの詐欺兎めっ!あと一歩のところで退治で来たのにっ!逃げ足だけは超一流だっ!クソッ、クソッ、クソッ!」


 「親父の敵と取れると思ったのにっ!」


 「妖怪兎の鍋を食べそこなっちまったよ。あー、今日は普通の兎鍋で我慢するしかないな。」


 「あー、なんてこった。阿求さんに妖怪兎の肉を食べさせてあげれないじゃないか。」


 「レアアイテムを手にし損ねちまったぜ。これで俺様の一獲千金の夢が…、とほほ…。」


 人間どもはあたしを捕まえられなかったことが悔しくてたまらなかったみたいだけど、あたしだってこうやって生きているもんだからそう簡単に捕まるわけにはいかないのさ。


 今日のところは辛うじて逃げ切れたんだけど、次も必ず逃げ切れる保証がないから当面の間は“賽銭詐欺”や“カラー兎の香具師”を自重するしかないみたいだね。それにしてもあたしの行動ってみんな注目していると思うと、こりゃ悪いことはできなさそうだ。



―11― れーせんに思いっきりおしおきされるあたし



 あたしが秘密の隠し通路から永遠亭に戻ってきて間もなくすると、


 「あーあ。何で地上の人間どもは診察時間が終わったっていうのに、急患だから見て欲しいといった厚かましい態度を取ってくるのよ。あんな穢れきった連中と話をしないといけないと思うと、永遠亭が穢れでおかしくなってしまうわ。」


 あたしが永遠亭に戻ってくる前にれーせんの話を聞いたところ、急患を求めている人間達を追い払っていたようだね。確かに今の時間帯はもうすぐ夕食の時間あたりだから、八意診療所の診察時間に終わりを告げる頃だろうさ。


 あたしはれーせんに見つからないように屋敷の中に入ろうとしたら、


 「あっ、ちょっとてゐ!あんたどこ行ってたのよ!あんたが勝手にほっつき歩いているから私の仕事が余計に増えたじゃないの!」


 今日のあたしは人間どもの追手から逃げのびて大変な思いをしたっていうのに、夜はれーせんに教育を施されるから“厄日”でしかないようだね。
 

 事あるたびにれーせんがあたしに向かってヒステリーを起こすのはいつものことで、酷い時はあたしを死なない程度に痛めつけてくるから嫌で仕方ないし、何よりも“地上”出身であることをいつも馬鹿にしてくるからあえて無視をしているんだ。


 「てゐ!私を無視するの!?穢れて愚劣な地上出身の兎の癖に、偉大で高貴な月の兎の私に向かって歯向かうっていうの!?」


 バギッ!


 れーせんは本気でキレているようみたいで、逃げ出そうとしているあたしを先回りすると顔面めがけて殴りつけてきたんだ。


 「てゐ、私に謝りなさい!あんたがやる仕事をすべて私がハメになったのよ!」


 ヒステリーを起こしたれーせんは、例の如く地べたに這いつくばっているあたしに向かって見下す視線をするんだな。あー、本当に夜になっちゃうね。


 あたしはその現場にいなかったからどうこう言える権利はないし、ここじゃ地上の兎のリーダーでしかないからどうこう言う事はしないけど、急患でやってきた患者さんを無碍に追い払っちゃいけないと思うよ。


 「御免なさい。勝手に出かけた私を許してください…。」


 確かに誰の許可なく勝手に出かけたあたしが悪いといえば悪いんだけど、ここまで暴力的なやり方をしなくてもいいと感じるね。あたしがこの場で出来る事といったら、れーせんに土下座をして自分の非を認めるしかないのが悔しくてたまらないんだ。


 ドガッ!


 「ぐっ!」


 土下座をしながら謝っているあたしに対し、なんとれーせんときたらサッカーボールキックをぶちかましてきたんだよね。いくらあたしが地上出身だからといっても、ここまで酷い事をしなくてもいいと思うんだけどね。


 「てゐ、あんたにとっておきのお仕置きをしてあげる。」


 れーせんはあたしのポケットの中には言っている財布を没収すると、例外なく中を調べ始めたんだ。あの中には500万円ほど入っていて、あたしの“カラー兎”研究所に投資する予定のものだ。


 「こんなに入ってるじゃない!なんであんたはこれを姫様に献上しないのよ!私達の生活がこんなに苦しんでいるのに、あんた一人が美味しいご馳走を食べるなんて許せないわ!てゐ、これは没収しておくからね!」


 あたしから財布を没収したれーせんはこれを姫様と師匠に献上するんだろうけど、必要以上に自分の功績を主張すると思うから、自分の事を誇大して主張するれーせんに痛々しさすら感じてしまうんだ。
 

 「れーせん!それを返して!それだけは堪忍して下さい…。」


 あたしは懸命にれーせんに財布を返すように訴えたんだけど、


 「うるさいっ!」


 ドガッ!


 今の幻想郷において永遠亭の立場が良くないのは、姫様が無理難題をやり通す事がそもそもの原因なんだ。師匠とれーせんが商売って物と政治的な配慮って奴に関して何もわかっていない事もそれに拍車をかけていると思うんだ。


 あーあ、なんてこった!確かにあたしは悪い事をして人間や他の妖怪どもからお金をだまし取っていたんだけど、悪い事をして稼いだお金って身にならないって本当だったんだね。これからはまじめにやった方がいいのかねぇ…。


 「てゐの財布って結構重いのね。どれだけ入っているのかしら…。どれどれ?こ、こんな大金今まで見たことないわ!これだけあれば間違いなく永遠亭の財政がだいぶ潤う筈だし、姫様とお師匠様からお小遣いをもらえるかもしれないじゃないのっ!」


 れーせんだってあたしからお金を奪い取る形で獲得したんだから、どうせすぐに自分の身からいとも簡単に離れてしまうだろうよ。それを自分のみで経験したあたしが言うんだから間違いないさね。


 「これで姫様に兎鍋を食べさせずに済むわ!これだけあれば、今日は鶏肉か豚肉を使った料理をだせるじゃないの!てゐ、あなたの手元にもっとお金があるんでしょ?それを姫様と師匠と私に献上しなさい、わかったわね!?」


 思いがけない臨終収入を手にしたれーせんは姫様と師匠にこのお金を差し出すけど、月出身という割には私のような地上出身の生きものとそんなにあんまり変わらないから、よりワンランク上の贅沢を求め挙げ句の果てには海の生き物を求めてしまうだろうよ。そもそも幻想郷には海がないからあたし達にとって十分すぎるぐらい無理難題だし、あの姫様のことだから幻想郷で手にはいらないものをひたすら求め続けるんだろうさ。



―12― 無理難題を求め続ける姫様



 れーせんが私から奪い取ったお金を姫様と師匠に差し出すと、案の定二人は狂喜乱舞するぐらい大喜びしてから姫様は師匠とれーせんに霜降り肉と高級ワインを買ってくるように命じてきた。


 今日も例の如く兎鍋と妖精3匹から奪い取った酒虫からでてくる酒が食卓に並ぶ予定だったのに、“臨時収入”があったからあいつらときたら月にいた頃の贅沢をもう一度味わいたいと思ったために今日の晩御飯は牛ステーキとワインが出てきた。ただし、これは姫様と師匠二人限定っていうのが永遠亭の習わしって奴よ。


 「イナバ、よくやったじゃないのっ!どこでこんな大金を手に入れたっていうのよ?これで新しいパソコンが買えるわ!」


 姫様が牛肉のステーキを美味しそうに頬張りながら1万円紙幣を10枚取り出し、それを団扇状にまとめてから永琳師匠に向かって扇ぎだすと、


 「姫様、私の新薬の研究にも提供していただけないでしょうか?」


 師匠はいくらかを新薬の研究費に投資して欲しいと姫様に願い出るも、お札から出てくる風を気持ちよさそうに受けているんだ。


 「それにしても凄いじゃないのウドンゲ。あなたはどうやってこの大金を手にしたの?」


 あいつらじゃ到底稼ぎだせない大金なもんだから、師匠はれーせんをほめたたえると共にどうやって手に入れたかをれーせんに聞くと、


 「これは永遠亭に侵入してきた族から奪い取ったお金でございます姫様。」


 れーせんが姫様と師匠にあたしから奪い取ったお金を案の定差し出したんだ。れーせんは臆病で嘘つきの癖に自分がいい子ちゃんでいたいから、自分が何か手柄をあげるとそれを誇張していく癖があるんだ。


 やっぱりれーせんは食卓に兎鍋が出てこない事が嬉しいようだね。だって顔に「兎鍋を撲滅させる運動がやっと実を結んだ!」って書いているんだからね。


 「これだけのお金があれば明日は海鮮寿司が食べれそうだわっ!なんたって、マグロの大トロとイセエビの御造りとタイの天ぷらが欠かせないわよっ!明日はこれで決まりっ!」


 うわー、姫様。まさかとは思ってたけど、やっぱりそうきましたか!ここは幻想郷でっせ!海の幸を求めるなんて、贅沢も何も私達がどうあがいても手にはいらない代物だよ。たぶん姫様が海の幸の食べ物を要求するのは、以前紅魔館に招待されたパーティで運よく魚料理を食べてその美味しさが忘れられないってことだね。


 「ひ、姫様。今何とおっしゃったのですか?ま、まさか…、海鮮寿司ですと?」


 師匠が姫様の無理難題ぶりを聞いて驚愕すると、あまりの驚きによってすっかり目を丸くしてしまったんだ。幻想郷の食材で実現可能な寿司は、ちらし寿司か稲荷寿司ぐらいだね。あたしだって姫様の要求に驚いてしまったんだから、永琳師匠のこんなリアクションを取ってしまうのも別におかしくはないさ。


 「す、す、す、寿司ですか!?ま、ま、ま、ま、ま、マグロの大トロですか!?」


 れーせんも姫様の無茶苦茶っぷりに驚きを隠せずに目を丸くしてしまったようだね。はぁー、いい子ちゃんのれーせんは姫様の要求に何が何でも応えなくてはならないと解っていても、これじゃあ期待に応えたくても逆に失望させてしまうというオチが目に見えているんだろうよ。


 師匠も驚けば弟子も驚くんだから、この師あってこの弟子ありという言葉か出てしまうものだね。あたしもこの無茶苦茶な要求をしてきた姫様を殴り飛ばしてやりたいし、自分でやってみろと言いたいもんだよ。
 

 姫様を調子づかせると絶対無理難題を周りの者に要求するのはいつものことで、その度に永遠亭の住人達が酷く振り回されてしまうんだよ。姫様はあらかじめ自分が決めた方針を変えるのはいつものことで、姫様の鶴の一声ですべてが180度ひっくり返ってしまいその度にみんな気が動転しちゃうんだ。


 「えーりん、ウドンゲ。明日は寿司パーティを永遠亭で開くわよっ!」


 姫様は必殺奥義の“無理難題”を発動させやがりました。しかも海の幸をふんだんに使った寿司パーティを開きたいという理由で、これを実現させないとあさって以降生きていきける保証がないと思うとぞっとしてならないね。


 姫様の無理難題にこたえるために師匠とれーせんが動き、その煽りを受けてあたしのような妖怪兎にとばっちりが来るんだからたまったものじゃない。本当にやめて欲しいと切に願っても、あのわがままな姫様相手にそれを要求するのは“無理難題”ってもんよ。


 「姫様、こればかりは勘弁してください。私達が魚介類を手にするためにはボーダー商事を経由しないと手に入りません。」


 師匠は姫様の無理難題を辞めるように発言したのは、不倶戴天の仇敵である八雲紫に頭を垂れないといけないからさ。


 「そうですよ姫さま。師匠のいうとおりに今回は自重なさってください。」


 流石の“イエスウーマン”のれーせんもこれには参ったようで、姫様と師匠があの八雲紫に土下座をする姿を見るのが耐えられないからなんだ。


 「なによ!なんなのよ、あんた達!えーりん、ウドンゲ!私の命令が聞けないっていうの!」


 あーあ、最悪だぁ…。今まで上機嫌だった姫様が急に機嫌を悪くしちゃったよ。


 バギッ!


 バギッ!


 姫様が癇癪を起して師匠とれーせんを思い切り殴りつけてしまったね。


 「なんであんたも私に従わなないのよっ!」


 バギッ!


 なんてこった!あいにくこのあたしもとばっちりを受けて殴られちまったよ。本当にこの姫様は困った人だよ。本当に誰かコイツを止めて欲しいね…。どのような手段を使って殺そうとしても物凄くしぶとすぎて絶対に死なないから、間違いなく凄く性質が悪いってことは確かだよね。


 「明日の晩御飯は絶対に寿司パーティをやると決めたから、あんた達は寿司ネタをどんな手段を使ってもいいから確保して来なさい!わかったわね!?南マグロの大トロと、天然物のマダイと伊勢海老とキングサーモンは絶対確保するのね!」


 牛肉のステーキを完食した姫様は、寿司パーティをやるために私達に寿司ネタに使う魚を確保するように言ってから部屋に戻って行こうとしたら、


 「ひ、姫様…。それ絶対無理です…。せめて二週間後にしてください…。」


 永琳師匠は姫様の無理難題ぶりに愕然としたのか、“穢れた地上”の地べたを這いつくばるかのように力なくしゃがみこんじゃうと、


 「食材をボーダー商事に注文しても、絶対にボッタクリ価格で買わされますよ。明日は絶対に無理ですし、何とかして自力で手に入れますので、一ヶ月ほど時間を下さいませ…。」


 れーせんも永琳師匠と同じく、“穢れた地上”に叩き落とされたかのように倒れこんでしまったんだ。


 「仕方ないわねぇ。えーりんとウドンゲがそこまで言うんじゃ、いくら私でも譲歩するしかないのよね。わかったわ。寿司パーティは一週間後に絶対にやるから、それまでに私の言った食材を確保して来なさい!」


 姫様は一週間後に寿司パーティを開くことを宣言すると部屋に戻ってしまい、取り残された永琳師匠とれーせんとあたしは一週間後に迫る悪夢にただ怯えるしかなかったんだ。


 今の外の世界だったら山奥でも新鮮な魚介類が手に入ると思うんだけど、ここは博麗大結界によって密室空間と化した幻想郷だから、魚介類の類を手に入れるのは裏ルートでもない限り絶対にできやしないってことさ!



―13― 八雲紫に交渉しに行くあたし



 「じゃあ、あたしが紫さんの所に行って食材を調達しに行くウサ。使えない月出身のあんた達は大人しく地べたに這い付くばっているがいいさ。」


 戦力にならない二人を一瞥したあたしは、台所に行ってから急いで“稲荷寿司”を作ってから永遠亭を慌ただしく飛び出すと、秘密の研究所にある金庫から1500万円分のお金を取りだしてから、“新作のカラー兎”を黒籠に入れたんだ。


 「あたしは絶対に交渉を成功させてみせるウサ。これであたしの株が上がる筈ウサ。いや、永遠亭のヒエラルキーを逆転させてみせるウサね。ケッケッケッケ!」


 “稲荷寿司”と“新作のカラー兎”はボーダー商事と取引をするために絶対に必要なマストアイテムで、あたしが幻想郷で生き延びれたのも日々の食生活以外にもこういう政治的かつ経済的な配慮をし続けたからなんだ。


 「永琳師匠もれーせんも馬鹿であることに変わりないねぇ…。ここは地上にある幻想郷だよ。やり方は月と違うウサ。」


 「傑作だねぇ…。うちの姫様と師匠とれーせんがあの八雲紫に土下座をする日は本当に近いだろうねぇ…。あたしがそうさせてやるウサ!」


 幻想郷の住人達が魚介類を入手するためには、幻想郷の政治経済のすべてを掌握している八雲紫が経営する“ボーダー商事”の通販を通じないと手に入れることができない代物だけど、なんたって姫様と師匠は八雲紫と仲が悪いから普通に買おうとしたらボッタクリ価格で取引をさせられるっていうのが目に見えてるさね。


 「紫さん、藍さん。いないですか〜?因幡の白兎が呼んでいるウサ〜。」


 幻想郷で八雲紫に逆らえる妖怪がいない理由として、いざとなればその強大な能力によって幻想郷そのものを潰せる圧倒的な妖力と、銀河を股に駆けれるほどの莫大な資本力によってみんな黙らざるを得なくなるんだ。


 「うちの姫様と師匠がいまなお紫さんに逆らっていますが、あたしは紫さんに逆らう気は一切ありやせんぜ。」


 姫様と師匠は八雲紫に思い切り楯突いちゃったから、永遠亭は必要以上に警戒されて今なお幻想郷の公的な医療機関として認めてもらえないんだよ。ここで上手くやっていくには、ここのルールに従ってナンバーワンになることを諦めてそれなりの地位で満足するしかないのよ。


 「紫さんにお渡ししたいものがありますから、どうかこれ以上永遠亭を迫害しないで下さいな。守矢神社の連中みたいに不用意なことはしませんから、どうかお願いできないでしょうか。」


 話を変えるんだけど、ちょっと前に守矢神社の八坂神奈子や洩矢諏訪子も勝手に地獄烏の霊烏寺空に八汰烏の力を与えちゃったから、その後の守矢神社は八雲紫の派閥に睨まれて信仰を失ってちまう目にあわされたんだな。


 「これから私達は紫さんの意向に従いますから、あたし達の忠誠心を信じてください。永遠亭はこれから毎年紫様に税を納めますので、八意診療所を公的医療機関として認めてくださいませませ。」


 何とか守矢神社が以前の同レベルの信仰を手に出来たのは、八雲紫に一切反抗しないということと、守矢神社の営業活動から得た利益をボーダー商事に納めなくてはならないということと、余計なことは一切しないという条件付きでなんとか生き延びることができたのさ。


 「紫様が私達を疑っていられるなら、“悪魔の契約書”にサインする覚悟があるウサ。」


 紅魔館のレミリア・スカーレットに、白玉楼の西行寺幽々子に、地霊殿の古明地さとりに、鬼の伊吹萃香と星熊勇儀に、妖怪の山の天狗連中に、命蓮寺の聖白蓮や、在野妖怪最強のいじめっ子の風見幽香あたりの権力者達が、あれこれ画策しても八雲紫に逆らえないのはある意味必然的ってこと。


 「今日のところはあえなかったウサね。」


 みんな八雲紫に逆らわないように“悪魔の契約書”にサインをしている代わりに、それぞれのジャンルで経済的だったり宗教的だったり文化的な活動なんかを行っているんだ。


 「明日また会いに来ますので、よろしくお願いしますね。」


 幻想郷を表から牛耳っている博麗の巫女だって、実際裏から操っているのは八雲紫だという事は幻想郷にいれば知らない者は誰一人としていないよ。ボーダー商事を中心として形成されている幻想郷の事情を知らないのは、今もかつての栄光に酔いしれているうちの姫様と師匠とれーせんぐらいなもんさ。


 巫女と吸血鬼達が月に行ったって話は人づてで聞いて、あの時あたしは姫様と師匠についてよかったと言ったのはあの場を取り繕う方便で、実際のところは幻想郷に住んでいる以上八雲紫に逆らう真似はしない方がいいとあたしは思うんだ。
―あとがき―


 永遠亭の連中だけで話が進むと思いきや、どうやら他の面子が絡んできそうです。次回はボーダー商事の連中が出てきそうで、ひと問題起こるんじゃないかなという臭いをさせて終わらせることにしました。


 
イル・プリンチベ
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/06/12 07:34:37
更新日時:
2011/06/12 16:34:37
分類
因幡てゐ
永遠亭
ブラック企業
1. NutsIn先任曹長 ■2011/06/12 16:53:27
ビーフジャーキーとノザキのコンビーフとウィスキーのストレートをグラス二杯飲りながら、読ませていただきました。

相変わらず、ブラック企業シリーズの主人公は、読者に感情移入させようとしているのか、
それとも見限らせようとしているのか、独善的な思考をしますね。

次回、てゐは何? 幻想郷勢力の後ろ盾を得て、月の連中を造反するのかな?
八雲には藍経由で話を持って行くようですが、ひょっとして、藍のブラック企業物の複線になったりして……。

てゐが、もうド汚い事をしない結末を期待しています。
2. 幻想保査長 ■2011/06/23 08:47:25
よくてゐは過労死しないな・・・訓練されてんな
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