白い恐怖

作品集: 27 投稿日時: 2011/07/03 13:17:26 更新日時: 2011/07/03 13:17:26
朝、秋風が骨身に染みわたる、冬目前の、寒い十一月の事だ。
とある神社のとある少女、博麗霊夢は妙な違和感を感じていた。
例えるならピースが1つ2つ抜け落ちたパズルと言ったところか。何かが足りないような気がするのだ。

秋は寂しいものだ。これまで青々としていた草木は枯れ、景色は茶色くなってゆく。冬を目前としている十一月ならなおさらだ。しかしこれは、心がそう感じるだけなのだが、どうも寂し過ぎる。
この寂しさの原因を突き止めなければ、どうもむず痒い。こう見えて博麗霊夢は完璧主義者なのだ。気にかかったことをほったらかして生活し続けられるほど気楽ではなかった。

まあ、とにかく原因が知りたいのである。もし何らかの異変でおかしな事になっているなら、解決するだけだ。そう思っていた。
だから博麗霊夢は、障子を開けた。世界を見るために。真実を知る為に。

「ぁ・・・」

ほぼ言葉にならなかった。それほどまでにこの時博麗霊夢が見た光景は異常だったのである。

あの博麗霊夢をも驚かせ、絶句させた景色。それは実に単純だった。
とにかく、神社以外の場所が、全て、真白に染まっていたのである。山も空も大地も。全て。
真白と言えど、雪ではない。雪ほどの輝きもない、ただただ無機質な『白』がそこにあった。
白絵の具の原液の方が、よっぽど情緒がある。そう思わせるほどだ。

これは何かの異変だろうか。そう思った途端、博麗の巫女としての使命感が燃えたぎった。
空を飛び、原因を探ろうとする。

しかし

「え?」

分からなかった。異変の原因が、ではない。飛び方が、能力の出し方が分からなかった。
昨日まで乗れていた自転車に今日いきなり乗れなくなる。そんな感覚だった。まあ幻想郷に自転車はないのだが。

これも異変の一部か。ならば、少しでも手がかりを。博麗霊夢はそう考え、出来る範囲で捜索をする事にした。





まず最初に、大声で、来てくれそうな知り合いの名前を叫んでみた。
紫。魔理沙。アリス。咲夜。萃香。妖夢。レミリア。聖。早苗。
順番もこの神社からの距離も関係なく、とりあえず様々な人、妖怪、幽霊などを呼んだ。
しかし誰も答えない。自分の立てる音以外聞こえない。妙に不気味だった。





そして次に、この気色の悪い『白』の正体を探る事にした。
境内に落ちていた小石を一つ摘み上げ、『白』に向かって投げ込む。すると、音もなく、小石は消え去った。
どうやら、この『白』は中に入ってきたものを塗り潰すかのように消してしまうようだ。
ここにきて初めて、いや、もっと始めから感じていたかもしれないが、恐怖を感じた。
もし自分があの中に入ってしまったら。そう考えるだけで寒気がした。





それから3時間ほど経過した。
流石に腹が減った。しかし、食欲がわかなかった。自分でも嫌になるくらいの、壮絶な矛盾である。
だから博麗霊夢は、気分と空腹を紛らわせるために、眠ることにした。
色々心配だったが、次に起きれば元通り、次に起きれば元通り、と自己暗示をかけて、無理やり眠りについた。





目が覚めた。気分は最悪だ。
しかし、自己暗示によれば、『次に起きれば元通り』だ。希望がある。
だから博麗霊夢は、再び閉じていた障子を開けた。

「ぁ・・・」

初見の時と同じ声。喉がカラカラで声が上手く出ない。

博麗霊夢が驚くのも無理はない。なぜなら、自分が無くなると思っていた忌々しい『白』が、未だそこに在ったからだ。
そして更に最悪な事に、先程まで見えていた朱色の鳥居が無くなっていた。おそらく『白』に塗り潰されたのだろう。よくよく考えれば、境内が狭くなった気がする。間違いない。『白』は浸食してきている。

それを意識した途端、一瞬目眩がした。そして博麗霊夢は、発狂した。



文章で表わすなど到底不可能な程の汚らしい叫び声だった。だからここには書かない。いや、書けない。だが、例えるなら全ての不浄を一か所に掻き集めたかのような叫びだった。
そしてその不浄な叫びの中には、人間というものが顕著に表れていた。

まだ生きたい。死にたくない。私が何をした。全ての責任は自分以外の何かにある。誰がこんな事をした。出てこい。殺してやる。

とまあ、大体このような意味の事を叫んでいた。
何とも醜い、人間の本性である。まあ、かく云う作者もその汚らしい人間の一人なのだが。



そして、『白』が動いた。

博麗霊夢の狂気、絶望、もしくはその他に反応したのだろうか。妙に早い勢いで、神社を侵食し始めた。
数分で境内は消え、また数分で神社もほぼ消え、残すは博麗霊夢の自室のみとなった。

それでも浸食は止まらず、遂に『白』は博麗霊夢の体に触れた。
痛みはなかった。だが、触れてしまった部分から順に感覚が無くなっていった。
ただ死ぬのではなく、虚無に還ってしまう。その事実の方が、博麗霊夢にとって怖かった。
そして更に浸食が進み、首だけが残ったころ、博麗霊夢はもう声も出さずに、こう思っていた。
何よりも恐ろしいのは、虚無であると。無くなってしまう事であると。

そうして博麗霊夢は『白』に塗り潰され、虚無に還った。死後の世界にも行けず、転生も出来ない。
なんとも哀しい最期だった。

もう博麗霊夢の行方を知る者はいない。
なぜなら、幻想郷もまた、『白』に塗り潰されたからだ。
どうも、天屋です。
詩の進みが妙に悪いので、気分転換がてらこんなものを書いてみました。
次回こそは詩を投稿する(筈)です。

一応文学を目指しました。しかし所詮は初心者。文学『風味』で留まってしまった感じがあります。
精進したいものです。


追記:前作、前々作共にコメ返しを行いました。よろしければご覧になってください。
天屋
作品情報
作品集:
27
投稿日時:
2011/07/03 13:17:26
更新日時:
2011/07/03 13:17:26
分類
博麗霊夢
文学風
1. NutsIn先任曹長 ■2011/07/03 15:02:08
ホラーか!? 詩集とはまた毛色の違う作品ですね。

訳の分からない現象に、博麗の巫女もなす術無し。
いつか来る消滅の時が、とうとう来たといったところか。
止まらない消滅を目の前にして、たった一人でいた場合のケース。
あっという間でしたね。
美しいとか醜いとか、関係ない滅び。

と、まあ、グダグダと書きましたが、この作品も唸ってしまう面白さでした。
2. 名無し ■2011/07/23 00:58:15
ネバーエンディングストーリーを読んだ子供の頃「虚無」と呼ばれているモノがやたらと薄気味悪く感じられた事を思い出しました。
文章もある意味「白」に近い文体でさっぱりしました。
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