残酷な布告

作品集: 27 投稿日時: 2011/07/31 02:58:43 更新日時: 2011/07/31 02:58:43
霧雨魔理沙は、普段と変わらず自分の家で魔法の研究をしていた。

天気は晴れ…だが、霧雨魔理沙は自室に篭もり、研究に没頭していた。

霧雨魔理沙は影の努力家だ。派手な魔法も弾幕も、全て計算と研究に裏付けられている。

まぁしかし、これらはどうでも良い事である。

日も天高く上がり、正午に差し掛かろうとした時、来客があった。

来客とは珍しいと、霧雨魔理沙は立ち上がり、ドアを開けた。

「何だ。アリスか」

扉を開けた向こうには友人、アリス・マーガトロイドが平然と立っていた。

「何だとはご挨拶ね。遊びに来てあげたのに」

と、軽く怒った口ぶりに霧雨魔理沙はすまんすまんと軽く笑った。

「まぁ、入って来れよ。何もないけどな。」

と、中があんまり片付いていない…というよりゴミだらけに近い家の中にアリス・マーガトロイドを招き入れた。






「―――でね、人里で―――それが―――」

霧雨魔理沙が魔道書とにらめっこしているよそで、アリス・マーガトロイドが世間話延々と続ける。

これが霧雨魔理沙にとっての日課というか日常であった。

あまり外に出ない霧雨魔理沙を補填するかのように、アリス・マーガトロイドが幻想郷で起きたことを喋り続ける。

その話を話半分に聞き流しながら、魔導書を読んでは目の前の薬瓶や実験器具へと視線を移す。



この一連が、霧雨魔理沙の一日であった。

たまに、外に出てみては、
魔法の素材を採取したり
博麗神社に茶化しに行ったり
紅魔館の大図書館に盗みに行ったり
人里で物資を買い込んだり
異変を解決したり

それが、霧雨魔理沙の生活であった。





幻想郷に異常が起きたのはその数日後の事。


いつものように霧雨魔理沙が、自分の家で、研究に没頭していた事。

研究も煮詰まり、外に出てみるかと、立ち上がり、背伸びをし、外を窓越しから見た。

どうやら、昼頃である。これなら何かあるだろうと期待を込めて、霧雨魔理沙は愛用の箒を持って外出した。




「今日も風が気持ち良いぜー」

適度な速度を出しながら、箒で空をとぶ魔理沙、そこからの眺めは幻想郷を一望出来る空を飛ぶものの特権だ。

最初は人里で買い物しなきゃなと、事前に書いておいたメモを再度確かめながら、人里へと飛んでいった。






「いやー、買った買ったっと…」

食料やら日用品を買えるだけ買って、袋に詰めて人里を歩く。

人里の商店も今日も賑わっている。数少ない、物を売る場所だ。物を求め、人でごった返している。

時折、人でない、人妖やら、害のない下級妖怪が混じっているが、幻想郷の人里、そんなことは関係ないようである。

物を売る場所といえば、と思い出したかのように、霧雨魔理沙は友人の店へと出向く事に決めた。

そう考えつつ、ちょっとした広場で、飛び立てるよう箒に跨ろうとしたとき、霧雨魔理沙は、後方から視線を感じた。

バッと振り返ると、そこにはただ、人の流れがあるだけで、こちらの見ている者は誰も居なかった。

「…気のせいか…。」

ふぅ、と息をついて、霧雨魔理沙は空へと飛び立った。





「―――で、僕の所に来たのかい?」

単調な声で、店の奥で豪華そうな椅子に腰掛けている男が、霧雨魔理沙の来客にそう投げかけた。

「あぁ、そうだぜ。こーりん。」

その男の名は霖之助、半妖で、辺境の土地に店を構えている所謂変人だ。

霧雨魔理沙は買った袋を適当な机に置いて、霖之助の淹れた茶を勝手に飲んだ。

「それは、僕のなんだが…」

面倒臭そうに、本を見ながら注意するが、霧雨魔理沙はそれを聞かない。

「まぁ、そんなに気にするなよこーりん。私とこーりんの仲じゃないか」

「それとこれとは、別じゃないんじゃないかな…飲んだら代わりを淹れてくれよ」

霖之助の面倒臭そうな意見を無視して、霧雨魔理沙は、何か新しい外の世界の物品が置いてないか店内を隈なく探した。

「何か入ってないのかこーりん?」

「何にも、最近は何も手に入らないんだ。商売上がったりってヤツだよ。」

いつもの事だけどねと付け加える、本を読む霖之助の言葉を聞き、霧雨魔理沙は軽く笑うと、窓の外が薄暗くなっている事に気づいた。

「もう…こんな時間か…もう私は帰るぜこーりん。」

ああ、分かったと、店の奥から言葉が返って来る。

じゃあ、帰るかと、机に置いておいた袋を手にして、帰ろうと、ドアに手をかけた時、また声が返ってきた。

「そういえば魔理沙」

ドアノブから手を離し、振り返る。

「何だ?」

いや、大した話じゃないんだけど、と店の奥から聞こえる。

「何だよ。言うならはっきり言ってくれ」

「今日は2回も来たけど、君も珍しい事あるもんだなって…思っただけだよ、普通は1日1回来たきりだからね」

えっ、と霧雨魔理沙の口から漏れる。

一瞬、霧雨魔理沙は霖之助が言っている意味が理解出来なかった。

「えっ…私は今日1回しか来なかった…ぜ?」

「魔理沙、寝ぼけているのかい?確かに僕は今日2回見たよ。」

ますます混乱する。

「その時…の私はどうしていたんだ?」

霧雨魔理沙が聞き返すと、店の奥からは、冷静な声が飛んでくる。

「普通だったよ、特に何もしていなかったが…?自分の事も覚えていないのかい?」

そこまで聞いて、霧雨魔理沙は無造作にドアを開け放ち、外へと出た。

「…?どうしたんだろうか」

霖之助は茶を淹れ直しながらそう思った。






日も完全に落ち、夜になった。

「はぁ…はぁ…」

香霖堂を出た後、霧雨魔理沙は箒を使わず徒歩で魔法の森を駆け抜けていた。

何故かだかは分からない。だが、『使ってはならない』という潜在的な意識が霧雨魔理沙を支配していた。

誰も通らないような獣道をひたすら走る。空を飛ぶ分には家までは早いが、徒歩ならその何倍もかかる。

すぐに家に帰らないと

「よォ…」

前方に人影があった。霧雨魔理沙は無我夢中に走っていた為、声を掛けられるまで人が居るとは気づかなかった。

「こんな所に人とは…はぁ…はぁ…珍しいぜ…」

走るのをやめ、人影を注視する。

「お前が『霧雨魔理沙』って奴だロ?」

その声色、誰かに似ている。

「あ…あぁそうだぜ」

若干ひきつった声で霧雨魔理沙が答える。

「探したゼ、アンタ」

「探した?何でだぜ?」

人影がゆっくりとこちらに近づいてくる。暗がりでよく分からないが、平均身長より低いその背丈と風貌は何処か見覚えがあった。

「何でかって?私が『霧雨魔理沙』になるために決まってるだろ?」

木々の隙間から漏れる月光に照らされたその人影の格好…その姿に霧雨魔理沙は絶句する。

「おま…お前…」

「そうだぜ、私も「マリサ」なんだ。」

瓜二つのその風貌に霧雨魔理沙は声が出ない。

モノマネというレベルではない。服装から顔、身長まで全てが霧雨魔理沙と同じだった。

「ドッペルゲンガー…って奴なの…か?」

霧雨魔理沙が少し後ずさりしながら言った。だが、マリサは首を振り、こちらをじっと見た。

「違うぜ、私もお前も『キリサメマリサ』という事には代わりはないが…ドッペルゲンガーじゃあない。」

ニヤリとマリサが笑う。

「どっ…どういう事だよ…」

「つまりは、今お前の前に立っているこの私『マリサ』は"霧雨魔理沙"になる可能性だったマリサだったんだ」

「はっ?」

訳がわからない顔をする霧雨魔理沙

「そりゃ、そんな顔もするよな。私もそう聞かされた時はそう思った。だがこれは真実なんだ。」

「訳がわからないぜ。つまり一体どういう事なんだよ!」

「『霧雨魔理沙今まで1782回死んでいる』」

呪文のように紡がれる意味不明な言葉

「まさか…私が死ぬ訳がないだろう?元に今生きている。」

自らの胸に手を当てそう答える霧雨魔理沙

「だろうな、だから簡単に殺されてしまうんだぜ、霧雨魔理沙…参考までに言っておこうか、今まで『アリス・マーガトロイドから暴行を受けた末に死亡―18件』『不慮の事故で死亡―129件』『アリス・マーガトロイドから一方的な恋愛感情の末殺される―493件』『実験失敗―43件』『弾幕ごっこでの不注意での死亡―38件』『人里の男から集団暴行を受けて死亡―34件』…」

「もういい…やめてくれ…それが事実だとしても、お前は!私の前に立っているお前はどうなるんだ!?」

「私?そうだな、私はお前の『換え』だよ」

換えという言葉に、恐怖を感じる霧雨魔理沙

「換え…だと…?」

「そうだ、今の霧雨魔理沙はもう駄目だろう。このままだと死ぬ。だから、先に運命を知っている我々『マリサ』がお前に成り代わって運命を変える。それだけだぜ」

「つまり私は殺されるって訳かよ」

「そうだ」

「なら…」

なら?と復唱するマリサ。

「逃げるが勝ちだぜ!」

踵を返し、脱兎の如く森の中に消える霧雨魔理沙

それを見送るような形になるマリサは溜息を一つついた。

「まったく手間をかけさせないで欲しいぜ」

右手に隠し持っていたソレを両手に持ち替えながら、マリサは後を追った。








「どうなってるんだよ…」

夜の魔法の森を駆け抜けながら、霧雨魔理沙は自問自答する

「このままじゃ殺される…それだけは避けないと…確かこの先を抜ければ…」

獣道を突っ走り、逃走ルートを必死に模索する。

だが

「遅かったじゃないか。結構足が遅いんだな」

ピタリと霧雨魔理沙の足が止まる。

そう、霧雨魔理沙の前には、逃げ切ったと思ったマリサが切り株に座って待っていたのである。

「なん…」

「残念だったな、じゃあ死んでもらうぜ?」

そう言うとマリサは右手のモノを霧雨魔理沙に向ける。

光々と月の光を浴びて銀色に光るその日本刀はとても美しい輝きを放っていた。

「ちょっと待てよ!何故私が死ななきゃならない!何で!私は何もしていないじゃないか!どうして!私が何か悪いことでもしたのか!私は真っ当に生きてきたはずだぜ?どうして!どうして!」

霧雨魔理沙が叫ぶが、マリサは聞く耳を持たない。

「仕方ないじゃないか、どの道お前は死ぬのだから、後で苦しむより今ここで痛みも無く死んだ方がマシだろう?大丈夫、私の剣の腕はあの魂魄妖夢とも互角だ、綺麗に斬ってやるぜ」

と、マリサは刀を上段に構え今にも霧雨魔理沙を斬首しようと構えている。

「何でだよ…何で…!」

疲れ果て、泣き崩れる霧雨魔理沙。

「それが運命…運命なんだよ」

諭すような口調でマリサはそう言うと、霧雨魔理沙の横に立ち、斬首の形を取った。

「じゃあ、な。あんまり自分を斬るのも気持ちの良いものじゃないが、これも霧雨魔理沙の為だ悪く思わないでくれよっと…」

最後の言葉を言うか言わないかの刹那、マリサが刀を振り下げる。

「私は…うおおおおおおおおおおおお!!!!」

マリサが振り下げた刀が霧雨魔理沙の首を刎ねる前、霧雨魔理沙がそう叫ぶと右足をバネに、マリサの腹に飛び込むように飛んだ。

ぐぅと霧雨魔理沙の頭の上から漏れる音

「はぁ…はぁ…」

間一髪、霧雨魔理沙は死なずに済んだ。

マリサより先に霧雨魔理沙は立ち上がると、マリサがタックルを受けた衝撃で手から離れた刀を震える両手で持った。

「…はぁ…はぁ…」

逆に刃を向けられ、マリサは立ち上がらず静かに霧雨魔理沙を見た。

「またその道を選ぶのか霧雨魔理沙、それじゃまた同じ道を選ぶぜ?」

「私は…死より生を選ぶ…選ぶんだああああああああああ!!!!」

霧雨魔理沙は吠え、刀を無茶苦茶な太刀筋でマリサの肩口を斬り裂いた。

その刃は深々と刺さり、マリサは数度機械的に震えると程なくして絶命した。

返り血を浴び、ハッと我に返る霧雨魔理沙。

「…隠さないと…バレちゃ駄目だよな…」

冷静に証拠隠滅をするため、マリサの死体と刀を自分の家に運んだ。








そして、翌日の昼

霧雨魔理沙は疲れの取れない身体を無理矢理起こしてベットから起きた。

「死体…バレて…無い…よな?」

起きて真っ先にそう思い、霧雨魔理沙は昨日殺したマリサの死体が埋まっている裏庭に行ったが掘り返した痕は何もなかった。

「私は悪くない…私は悪くない…」

自己暗示をかけるように自分に言い聞かせる霧雨魔理沙。


「魔理沙ー居るんでしょう?開けてよ。」

コンコンと玄関を叩く音が聞こえ、霧雨魔理沙がいつもの来客だなと今さっきまでの事を一旦忘れて玄関に出た。

案の定、来客はアリス・マーガトロイドだった。

「アリス、今日は早いな」

「えぇ、今日は早く起きたからね」

と笑って、アリスは答える。

「魔理沙、今起きたばかりでしょう?髪がぼさぼさよ。コーヒー入れてあげるわね。」

「あっ…あぁ頼むぜ」

一瞬、何かを悟られたかと思ったが、アリスの様子からは疑いの念は感じられなかった。

些末な台所へと向かうアリス


何もなかった。

霧雨魔理沙は夜の事を忘れようと椅子に腰掛けそう思った。

「運命なんてクソ食らえ、だ。」













「砂糖、要らなかったわよね?」




台所からアリスの声が聞こえる。




ああ、そうだぜと霧雨魔理沙は答えた。




アリスは熱々のコーヒーを可愛らしいマグカップに注いでいる。




波々と注がれたコーヒー




「魔理沙、もうすぐ出来るからね」




そうか、早く頼むぜと、霧雨魔理沙の声がしてアリスは微笑む。

















そしてアリスは懐から―――














END
百物語に出せば良かったかな?
そこまでじゃないかな…

それはそうと私はガリガリ君よりチューペット派です。
スレイプニル
https://twitter.com/#!/_Sleipnir
作品情報
作品集:
27
投稿日時:
2011/07/31 02:58:43
更新日時:
2011/07/31 02:58:43
分類
魔理沙
アリス
1. NutsIn先任曹長 ■2011/07/31 11:36:45
運命は変えられる。
魔理沙がマリサがもたらした死から逃れたように。

天命は変えられない。
魔理沙も、マリサも、どうせ××されるのだから。

コンビニで、凍らせたチューペットを単品で売っていれば良いのだが……。
2. 名無し ■2011/08/01 08:52:49
マリサが出たから《残酷な布告/Cruel Edict》は防げたけど、油断して横になったから《暗殺/Assassinate》は防げなかったと。つまりはそう言う事ですね!
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