モルモットフラン 〜仕組まれた実験と復讐〜

作品集: 28 投稿日時: 2011/08/05 00:44:07 更新日時: 2011/08/09 23:03:31
「パチェの薦めてきたこの本、理論や理屈ばかりで全然面白くないわ」
レミリアは読んでいた本を閉じ、それをやや乱暴にテーブルに放った。
放った手で紅茶の入ったカップを取り、最後の一口を飲み干す。
「理論や理屈。パチュリー様の好みそうな内容ですね」
時間を止めて紅茶を注いでやる。
「迂闊だったわ」
砂糖をたっぷり入れたはずなのに、苦虫を噛み潰したような顔を向けてきた。

「さて、と」
とうとうやることを失ったのか、主人は大きく伸びをした。
「そろそろお休みになられては? もう遅・・・」
「いいえ、夜はまだまだこれからよ」
言葉を遮り、レミリアは席を立つ。
「面白いものを見せてあげる」
そう言ってクローゼットを開ける、そこから自分と同じ肩幅ほどの大きさの箱を取り出し戻ってきた。
机の上に置き箱を開ける。

「・・・・腕、ですか?」
「驚かないのね?」
「ここに居たらそんなの慣れっこですから」

箱の中には肘から指先までの部分が二本入っていた。
色白な右腕と左腕。大きさから子供のものだとわかる。
手首と指の関節すべてが金具で固定されており、動く隙間を与えていなかった。

「触ってみなさい」

そう命じられて箱に手を伸ばす。
詳細のわからない腕を、なんの躊躇いも物怖じもせずに触れた。
主人を信頼しているからできる行動であった。

「!?」

腕が脈打っていることに驚く。もう片方の腕も同様に脈打っていた。
期待通りの反応をしてくれて嬉しかったのか、主人は満足気な顔をしていた。
「この腕は一体?」
問いかけに答えてくれないまま箱を閉じてしまった。
「知りたいのなら、ついて来なさい。ああ、その箱も持ってきて」
そう命じてレミリアは先に廊下に出ていった。




地下室へと続く階段を降りる。
この場所へやってきた時点で、箱の中の腕が誰のものか察しがついた。
「その箱の中身はフランドールの物よ」
心を見透かしたようにレミリアは明かす。
「どのような理由で?」
「最近、私に対して少し反抗的だったから、身の程を教えてあげたのよ」

ちょうどそこで階段を下り終えた。

「ここにこのような部屋ありましたっけ?」
知らない部屋があることに気付く。
地下にはフランドールの部屋しかないはずだった。
「急ごしらえで作ったのよ。パチェに頼んで」
「仰っていただけたら、私の能力で広くしましたのに」
自らが空間を操作すれば、もっと楽に作れたはずである。
「いいのよ。極力、誰にも知られたくなかったから」

レミリアは新しい部屋の前で止まり、重苦しい造りの扉を開いた。

前後左右。大股で歩けば十数歩で終わってしまうような狭い部屋であった。
四面すべての壁に日常生活ではまず用いない道具が飾られ、余隅には人を傷つけるためだけに開発された器具が並べられていた。
「御機嫌よう。新しい部屋は気に入ってくれたかしら?」
レミリアはドロワーズとキャミソール一枚だけのはしたない姿で天井から吊るされている妹に話しかける。
天井に設置された滑車からのびる鎖がフランドールの両足首に結ばれており、それが彼女を逆さに吊っていた。
両手は肘から先が無いためその部位は何の拘束も受けていない。

「ーーーーッ!! ーーーーーッ!!」

口にはリング状の金具が嵌め込まれており、自らの意思で口を閉じることが出来ず、涎が際限なく垂れている。
「可愛い顔が台無しね」
殺意の篭った目で睨みつけてくる妹の鼻を摘んで小馬鹿にした。

「さあ、今日も私のために啼いて頂戴」

キャミソールの中に手を滑り込ませる。
「ンン゛」
隙間からレミリアの指先が乳首に開けられたピアスを摘んでいるのが見えた。
「昨日空けたばかりだから、まだ体に馴染んでないんでしょう?」
「オ゛ッ!」
ピアスを爪弾き、捻り、強く引っ張っる。キャミソールのその部分にうっすらと血がにじむ。
「顔が真っ赤よ? 咲夜が見ているからかしら?」

手を離し指に付いた妹の血を舐めてから、壁に掛かっている男性器を模した木の張り型を取る。

「今日はこれで遊んであげる」
O型のリングの中にそれを突っ込んだ。
「ォエ!」
張り型がフランドールの喉を抉る。
「逆さまになってるから普通よりも奥に行きそうね」
先端がフランドールの食道に到達する。出し入れするたび、カポカポと卑猥な音がした。
「ァエェェェ゛!」
涙目でえずく妹の顔を堪能してからようやく引き抜いた。棒は胃液と唾液でベダベタだった。
「これくらい濡らせば大丈夫ね」
咲夜に目配せをしてきた、意図を察して壁の横に取り付けられたハンドルを回す。
すると天井の滑車が回転し、フランドールの頭がさらに床に近づいた。
「もういいわ」
頭が地面スレスレの場所に来てようやくハンドルを止める合図を送ってきた。
レミリアはドロワーズを引き裂き、露になった未発達の幼い女性器。その入り口部分に張り型をあてがう。
「股を開きなさい」
足を揃えた状態で吊られているため、フランドールが自分の意思で開かないことには挿入出来ない。
当然、フランドールは足をぴったりと閉じて、張り型の侵入を拒んでいた。

「私に似て強情ね・・・・・咲夜」
「はい」
「ナイフを貸しなさい、一本くらい持っているでしょう?」
言われた通りにナイフを渡すと、レミリアは腕が入っている箱を開けた。
「不思議だと思わない? 切断された肘から先が再生しないことに。切断された腕が灰にならないことに」
「ええ、まあ」
なんとなく少し気になっていた事だった。
「答えは簡単、腕は“まだ”繋がっているからよ」
ナイフを腕に突き立てた。柄を握る手が円を描き、傷口を抉っている。

「ッッッッッッッ!!」

激しく体を揺するフランドール。レミリアの言う通り、本当に腕の痛みを感じているようだった。
「腕の断面に魔法陣が浮かんでいるでしょ? パチェに頼んだのよ。切断面を流れる血も神経も、離れていてもちゃんと通い合っているわ」
「隙間妖怪の能力みたいですね」
「そこまで万能じゃないわ。離れ過ぎると魔法陣は効力を失い、腕は本当に切れてしまうから」

ナイフは抜かないまま、妹のもとまでやってきて屈み同じ目線になる。

「足を開きなさい。そしたら抜いてあげるわよ?」
その問いかけの後、殺意を込めた瞳はそのままに、足の力を緩めた。
「良い子ね」
慣らすことなく、一気に挿入した。
「ッ!!」
フランドールの指がピンと張った。柄の部分しか外に残っていない。
「ァッ・・・・! ・・・ォ゛ッ!!」
目からボロボロと涙を流すことから、それが激痛であることを教えてくれた。
「素敵よフランドール」
痛みで歪む妹の頬を見下しつつ、張り型を掻き回す。
「オッ! グッ! フッ!」
ナイフを抜くという約束を忘れて、張り型で妹を責め続けた。















「そろそろお暇するわ」
満足したレミリアは、妹をまた逆さに吊ってから部屋を出る。
「大丈夫なのですかこのままで?」
逆さ吊りで長時間放置することを心配する。人間なら血管破裂や、吐瀉物による窒息死の危険性があったので進言した。
「平気よ、吸血鬼がその程度でどうにかなるわけないわ。いいから行くわよ」
レミリアが先に部屋を出たため、扉を閉める役割が回ってきた。
(うっ・・・・)
扉を閉める際、逆さになったフランドールと目があった。
心の底から助けを訴えるその瞳に、良心の呵責でも感じたのか、眩暈がして立ちくらみを起こしてしまう。
「どうしたの? 早く行くわよ」
「はい、ただいま」
主の声で身を持ち直す。
(申し訳ありません。私がお嬢様に意見することは出来ないのです)
閉めた扉にお辞儀をして、主人のあとを追った。


地上を目指し階段を上る途中、主人の背中に問いかけた。
「なぜあのような事を?」
「最初に言わなかったかしら? アレが生意気だからよ。どちらが上か改めてわからせてやろうと思って」
「・・・・・・」
その回答に納得できなかった。どう見ても、レミリア自身が楽しむためにやっているようにしか見えなかった。だから言ってやった。
「嘘ですよね、それ」
「ええ。ただの建前よ」
「本音は?」
「私の趣味よ」
あっさりとバラしてきた。レミリアは足を止めて振り返った。
「アナタこの前、私とフランドールは姉妹だけあって顔立ちが似てるって言ってたわよね?」
「ええ、覚えています」
以前、何の気なしに言った言葉だった。

「きっかけは、そんな些細な言葉よ」

レミリアは語り出す。

「吸血鬼はね、鏡に写らないのよ」
故にレミリアは自分自身の顔を知らない。だから咲夜の言葉が心に深く刺さっていた。
「それである日、あの子に私の服を着て、髪も一時的に染めてもらうように頼んだの」
自分自身の素顔を知りたいレミリアは、妹を使い自分の顔を知ろうと思った。
「『面白そう』と言って、フランドールはすぐに承諾したわ」
妹がする自分の姿に、落雷にも似た衝撃を受けた。
「あの子の姿を見て思ったのよ。『嗚呼、これが私の顔なんだ。姿なんだ』って」
そう直感させる何かが妹の変装にはあった。
その時からフランドールを見る目が変わった。
「昔からそうだった。あの子が悲しい思いをしたら私まで悲しくなった。ケガをした部分を見ていると、私もその部分が痛んだ」
自分と妹は心の奥底で繋がっているような錯覚に陥り、それはやがてお互いが同一の存在であるという間違った確信を持たせた。
「私はね、相手を一方的に痛めつけると興奮するわ。でも、酷い目に合う自分の姿を想像して悦に浸ることも出来るの」
恥ずかしげも無く自分の性癖を暴露する。
「私(レミリア)が私(フランドール)で遊べば、両方の快楽を同時に味わえると思った」
日に日にその好奇心は強まり、抑えきれなくなった性欲が暴走して実行に移させた。
腕を奪ったのは、彼女の能力を封じるのと脱走防止の意味があった。



「・・・・」
あまりにも盲目で一方的な思い込みだと思った。
「他に訊きたいことはあるかしら?」
「いえ」
「そう」
レミリアは正面を向きなおし、階段を上り始める。
「すみません。やはりもう一つだけ」
「どうぞ」
背中を向ける主人から許可が出る。
「本日なぜ私をここへ?」
「自分自身が見られて興奮する性質なのか知りたかったのよ、でもあの様子じゃその性質は無さそうね」

そこで会話は途切れ、別れるまで無言だった。












翌日。
昨日のことがあったせいか、体に不調を感じていた。
フランドールが別れ際、扉を閉める直前に見せたあの救いを求める目が網膜に焼き付いて離れない。
何度も思い出してしまい、そのせいで集中力が欠けて、仕事も手に付かなかった。

「あっ」

皿を洗っている最中の出来事だった
瀟洒を自称する者としては珍しいミス。うっかり手を滑らせて皿を一枚落としてしまう。
時間を止める間もなく、皿は床で割れてしまった。
「ああ、またお母さんに怒られちゃう・・・・・・・・お母さん?」
自分自身が口に出したその言葉に首を傾げる。
「私、一体何を言っ・・・・痛っ」
軽い頭痛と眩暈を感じ、その場にしゃがみ込む。
昨日、フランドールとの別れ際にした痛みと似ていた。
(何これは?)
脳裏をよぎるのは、幻想郷に来る前の、外の世界で暮らしていた頃の記憶だった。
温かい両親の元で何不自由の無い生活を送っていた幼少時代の思い出。

(そんなはず無い)

頭を振って否定する。
自分はこの異能のせいで孤独の身だった。そんな浮浪児だった自分を拾ってくれたのが今の主人レミリア・スカーレットである。
そして今は紅魔館のメイド長として名誉ある役職に就き、充実した生活を送っている。
それが自分自身の生い立ちのはずである。

(忘れよう、きっと過去に見た夢でも思い出しただけよ)

洗い物を終えると、夕飯の準備に取り掛かるため台所を出た。
向かった先は館の最奥にある、床も壁も天井も石で出来た部屋。
部屋の中央に置かれたテーブルに人間の死体が無傷のまま横たわっていた。
この死体にどのような経緯があるのかなど興味は無い。これは主人のために運ばれてきた食材。それ以上でもそれ以下でもない。
首筋に刃物で切り込みを入れて、ある程度血が抜けたらノコギリと斧を使い関節ごとに切り分ける。

淡々とそれらの作業をこなしている間も先ほどの映像が頭から離れなかった。

(私に両親なんているはず無い。紅魔館こそが私の家)

考えれば考えるほど、記憶の映像がより鮮明に蘇るようになってきた。
自身の能力を知って尚、受け入れて惜しみない愛情を注いでくれた両親の笑顔。
レミリアから自分を最後まで庇い命を落とした両親の亡骸。

(そして私は、お嬢様に記憶を書き換えられて・・・)

思い出し、両手にあった凶器がすべり落ちる。

「ぅップ」

その場で胃にあったものをすべて吐き出す。胸元と口を押さえた手が汚れた。
今の今まで淡々とこなしていた同胞を捌く作業に猛烈な嫌悪感が湧いてきた。
これまではレミリアに対する忠誠心が麻薬となり、感覚を麻痺させていた。
(お嬢様が両親を殺して、洗脳した私を紅魔館へ連れてきた)
はっきりと思い出した今、その忠誠心は崩れ去った。
「ぁぅ」
空っぽになっても胃は収縮を繰り返す。
(けれど、とにかく今は準備を)

食事の用意をいなければならないため、吐き気を堪えながら作業を続けた。





その日の分の仕事をなんとか終わらせて自室に戻ると荷造りを始めた。
(逃げよう。ここから)
全てを知ってしまった以上、もう今の生活を続けることは出来ない。
レミリアに仕えることも、人間の死体を捌くことも御免だった。
(でも、それだけで、逃げるだけでいいの?)
ふいにそう思い、荷物をまとめる手が止まった。
(それで私の気が済むの?)
両親の命と自身の人生を奪った悪魔をこのまま野放しにしてしまっていいのか。と自問する。
(復讐しよう。二人の仇を、ちゃんと討とう)
答えはすぐに出た。忠誠心はそのまま殺意へと反転し、吸血鬼に復讐する決意を固める。
殺さなければ自分のこの気持ちが晴れることは無い。新しい人生を歩める気がしなかった。
眠気は吹き飛び、レミリア殺害を実現するためにはどうしたら良いかを考える。
(まずは吸血鬼の弱点を探らないと)
思い立ったが吉日とでもいわんばかりに、足を図書館に向けた。
吸血鬼に関する資料を探すのが目的だった。









咲夜が復讐を誓った頃、レミリアは妹を監禁している部屋に訪れていた。
毎日、この時間になるとレミリアはフランドールを犯しにやって来る。

「良い眺めね」
猿轡で発言権を奪ったフランドールに自分の洋服を着せていた。
妹は両足首に結ばれたつっかえ棒のせいで股をこじ開けられており、下着も着けていないため、捲くれ上がったスカートから性器があられもなく露出している。
そんな妹の痴態を鑑賞し楽しんでいた。
「服だけじゃ物足りないわね」
手の平から蝙蝠を生み出して妹の羽と髪に付着させる。
宝石と枝だった羽は自分と同じ蝙蝠を象徴した形に、髪は青白く変色した。
「こんばんは私」
実の妹をそう呼んだ。

「いつも私が一方的に責めるばかりじゃ悪いから、今日はこれよ」
部屋の壁に掛けられた器具の中から双頭になっているディルドを取る。
太さは大人の親指四本分、長さは片側が三十センチ、合計で六十センチある。
片方を自らの秘所にあてがう。
「は、っ、ううう」
深呼吸の後、一気に膣に押し込んだ。
「あ、が、ぎぃ」
何の準備もせず無理やり押し込んだため、生じた抵抗と摩擦が内側をえぐる。
「痛・・・・ぁ、ぃ」
棒の先端が奥に到達した頃、顔中に脂汗が滲んでいた。
「もっとぉ、奥に、ぃ」
しかし同時に快楽も得ていた。
「はぁ・・・う、ん」
ついに限界まで到達した。痛みはすぐに引いた。
「さあ。一緒に」
今日まで散々虐め抜いた妹の性器に自分の股から生えている棒を前戯もせずに押し込んだ。
「ぁ、あ゛ッ、ィ゛イ゛」
轡の隙間から漏れる苦痛の声。
「痛い? 痛いわよね? そっち側の棒だけ、素材に銀がほんのちょっとだけど混じってるのだから」
激痛でフランドールが身をよじり体を動かすたび、その振動はこちらの中にも直接伝わる。
「もっと動いて」
両腕を背中に回し、足を腰に絡めて密着する。
妹が感じる激痛こそが自分の快楽だった。
「こうすれば、もっと」
抱きかかえることで、二人の全体重を妹の膣に集中させる。
「い゛、は、ぁぁっ!」
フランドールの体は跳ね上がり、それによって今日最大の刺激が自分にもやってくる。
姉は快楽によって、妹は痛みによって。姉妹は同時に果てた。
悲惨な表情の妹の顔を優しく撫でる。
「アナタ、最高よ」
轡越しに妹の唇を吸った。
「は、あ・・・ん」
接吻で再び火照った体は妹が起きるのも待たず勝手に動き出し、自身と妹の膣を虐めはじめた。

床に二人の体液がシミとして残るまで、腰を振って快楽を貪り続けた。













(収穫は無し、か)

図書館に足を運び、眠るパチュリーを起こさないように慎重に吸血鬼に関する本を漁ったが、目的の記述を見つけることは出来なかった。
どうしたものかと考えながら廊下を歩いていると、
「あら、咲夜じゃない」
「お、お嬢様!?」
突然現れた復讐対象に心臓が大きく跳ね上がる。
「失礼ね、そこまで驚くことじゃないでしょう」
「申し訳ありません」
「まあいいわ。夜更かしも程々になさいね」
自分の横を通り過ぎ、自室に戻っていった。
(あっちは確か)
レミリアがやって来た方向を見る。
そこにはフランドールがいる地下室に続く通路しかなかった。
(一つ、試してみようかしら)
吸血鬼の弱点を探る妙案をひとつ思い付き、地下室に向かった。




昨日訪れた部屋の前に立ち。誰にも尾行されていないことを確認して中に入る。
フランドールは足を皮ベルトで括られ、猿轡をされた姿勢で床に転がされていた。
それ以外の物は身に着けておらず、露出した秘所から見える出血がなんとも痛々しかった。
「大丈夫ですか?」
引き起し、頬を叩いて意識の覚醒を促す。
「ぃ・・・う゛っ」
目蓋がピクリと動き、ゆっくりと目が開いた。

「わかりますか? 咲夜です」

レミリアでないとわかった瞬間、顔を左右に振りはじめた。それが『口枷を外せ』という意思表示だとわかり解いてやる。

「ぷはっ、ハーーーーーァ、ハーーーーーーァ」

何度も何度も深呼吸する。

「殺してやる!壊してやる!消してやる!砕いてやる!潰してやる!焼いてやる!千切ってやる!沈めてやる!溶かしてやる!裂いてやる!否定してやる!埋めてやる!」

今まで溜め込んでいたこと外気に解き放った。

「はぁーはぁー」

吐きだし終えるとまた息を整え始めた。
そんな彼女を見て、脳裏にある考えが浮かぶ。
(やっぱりこの子は利用できそうね)
自分の考えた案は十分実現可能だと判断した。

「妹様、私と取引しましょう」
「取引?」
「私にも妹様の体を自由にさせていただけませんか? 一週間だけで構いません」
いきなりそう持ちかけた。
「はぁ?」
「私、今の妹様のお姿に非常にそそられておりまして。私、サディストなんですよ。妹様をものすごく虐めたいのです」
狂人のフリをする。
「馬鹿なこと言ってないで・・・あぐッ」
口答えするフランドールの顔を殴りつける。自分の方が圧倒的に有利だと教え込む。
復讐完遂のため、なんとしても彼女の首を縦に振らせる必要があった。
「今の御自分の立場を理解してお話したほうが賢明ですよ?」
「ぺっ」
お返しに唾を吐かれた。それが銀色の髪にかかった。
「行儀がなってませんね」
「ぐ!!」
フランドールの腹をつま先で蹴飛ばす。体を丸めて蹲る彼女に何度も踵を落とした。
「ん゛っぐっ、あ゛」
自慢の髪を汚された怒りに任せて手加減無しでやった。
「私に協力してください。そうしたら、お嬢様から腕を取り返してきます。もうこんな生活は嫌なのでしょう? 一週間で終わります。その期間だけの辛抱です」
腕を餌にしてみると、フランドールの顔色が若干変わった。
「どうです? 悪い話じゃないでしょう?」
一旦、足を止めて答えを聞いてみる。
「誰が、アンタなんかに・・・」
相変わらず反抗的な目だった。
「そうですか。残念です」
乳首に取り付けられていたピアスを引き千切ってやった。
「ヒィギァァァァァァァァァァァァァ!」
神経の集中する乳房への傷は、他の部位よりも遥かに激痛だということを同じ女だから知っている。
「もう片方も」
まだ無事なほうのピアスに手を摘まむ。
「ア、ギィ」
千切れるか千切れないかの瀬戸際まで引っ張った。
「これで最後です。私に虐められてみませんか?」
「わ゛、わ゛がっだがら゛、する゛、言う゛とおり゛にす、るから」
「ありがとうございます」

フランドールの体を自由にする言質を取ったので、指を離す。
言質と言ってもまだ契約といえるほどの効力はないが、今日のところはこれで満足する。切っ掛けさえ掴めれば良かった。
「それでは、また明日参りますね」
軽く手当てをし、ピアスも埋めなおしてやり、最初に見た状態に縛ってから部屋を出た。






自室に戻りベッドに体を沈ませる。
(妹の体を使い、レミリアを殺す方法を探ろう)
吸血鬼に弱点は多いが、何がどれだけ有効なのかというのはわかっていない。
挑むなら即死させる方法でなければならない。仕損じれば一瞬でレミリアは傷を癒し、反撃してくる。
戦闘になれば確実に自分が殺される。そうなれば復讐は果たせない。
ゆえに同じ体質の妹でそれをこれから試していこうと考えた。
今の状態のフランドールは吸血鬼の弱点を調べる実験体として恰好のサンプルだった。
腕を取り返すと言っておけば、レミリアに告げ口されることもない。
両親を殺した仇の妹、一切の手加減も容赦もするつもりは無かった。
むしろ妹が死んだら、それと同じ方法でレミリアも殺せば良いのだ。

「 ? 」

寝返りをうったとき、下腹部に違和感を感じた。
「濡れてる」
下着に手を入れて秘所に触れてみる。
「糸・・・・引いてる」
戸惑いながらも、今日フランドールにしたことを思い出すと気分が高揚して、分泌される液の量は増えた。
「演技で言ったつもりだったのだけど」
自分にもサディストの才覚が眠っているのだろうかと思いつつ眠りについた。










【一日目:銀ナイフ】

実験はレミリアが部屋を去った後に行なうことにした。
今日はまず銀がどれだけ吸血鬼に効くのかを試すつもりだった。


「ん・・・・ぶ、ぐ・・・ア・・・」
部屋に入るとフランドールはドロワーズ一枚だけの姿で逆さに吊るされていた。今日も口には轡が噛まされている。昨日千切ったピアスの痕は綺麗に消えていた。
逆さはそのままで、轡だけ外してやる。
「何しに来たの?」
衰弱していたが、目には怒りが満ちていた。
「さっさと消えて。ニ度と姿を見せないで」
「おかしいですね? 昨日、契約したのをお忘れですか?」
「あんなやり方で結んだモノなんて無効よ」
「左様で」
部屋の隅には蛇口が一つ取り付けられており、ここまで水が通っていた。
バケツに水を張り彼女の真下に置く。
ハンドルを回して彼女の頭をバケツの中に浸した。

「ゴ、モガッ、ブッ!」

頭がバケツにすっぽりと納まった、顔をどう振っても逃れることが出来ない。
二分経過したところで一旦引き揚げる。
「どうですか? 思い出しました?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
呼吸を整えるので精一杯な様子だった。
上下逆の姿勢での水責めという、過去体験したことの無い責めに、酸素を激しく消耗するのだろう。
そんなことはお構いなしにハンドルを再度回す。
「ま、待って、・・・」
言葉の途中。再び彼女の頭をバケツの中に落とした。





「ごめんな゛、さい、許し、でください゛、私が・・・・・悪かったで、す」
十四回目の入水で彼女の意思は膝を付いた。
「では、正式に契約といきましょう。口を開けてください」
彼女は逆さまのまま口を開いた。靴を脱ぎ、そこにつま先を押し込んだ。
「忠誠の誓いに、舐めなさい」
舌を懸命に動かしているのを感じて、両頬の筋肉が無意識に収縮する。
相手を支配している喜びを、この時確かに感じていた。





正式に約束を取り付けたフランドールを床に降ろし、戒めを全て解いた。
「これをつけてください」
新たに首輪を付けさせる、それ以外の着用は許可しなかったため、全裸に首輪という出で立ちだった。
首輪の鎖は天井の滑車を経由しており、ハンドルに連動して上に引っ張られる仕組みになっていた。
「それでは、始めましょうか」
「うぐっ」
ハンドルを回して彼女の踵が浮かせる。
「あ、く゛、ぉ」
彼女のつま先が床にギリギリ触れる高さになったところでハンドルを止める。
日々、姉から責め苦を受けている今のフランドールには、自分の体重を支えるのがやっとの体力しか残っていないようで、飛ぼうとする素振りは見せなかった。


フランドールを中心にして円を描くように、彼女の周りをグルグルと歩く。
「う、あっ・・・・く」
必死に上を向き、気道を確保するフランドールはこちらを見る余裕すら無いようだった。
そんな彼女に向け、ナイフを一本投擲した。
「う゛ッ」
ナイフは腹部に刺さる。
(次は足)
別の位置からもう一本投げる。
「あぐぅ」
狙い通り太ももに刺さった。
動かない的にナイフを投げ続ける。
合計で十本。胸に二本、両肩に一本ずつ、腹部に三本、背中に一本、羽の付け根に一本ずつナイフを刺した。
足元にはすでに血溜まりができている。SMプレイの領域を完全に無視した所業えあった。


体中にナイフが刺さりながらもその痛みに耐え、首を吊らぬよう自分の体を必死に支えるフランドール。
(これくらい刺せばいいわね)
「ァグゥ・・・」
フランドールの体から、ナイフを抜いていく。
投げたナイフの内五本がステンレス製、もう五本が銀製のナイフだった。
性質の違うナイフで出来た刺し傷をそれぞれ見比べる。
ステンレスナイフでの傷口は表面に薄皮が張られているのに対し、銀で出来た方はまだ塞がってすらいなかった。

(やはり銀のほうが治りが遅いわね)

刺さっていた全てのナイフを抜き捨てて、銀のナイフを一本握った。
刃を先を寝かせて肋骨と肋骨の上下の隙間に切っ先をあてがう。
ナイフ越しに彼女の心臓の鼓動が直に伝わってくる。
フランドールは目で止めて欲しいと懇願していたが、その目が合図になった。
柄を両手で握り直し、全体重をかけて体を前に押し込んだ。

「ッォアッ!!」

銀のナイフが心臓を貫いた。そのままの姿勢を維持しながら経過を観察する。

(これで死んでくれたら良いのだけれど)

そうなれば同じ方法でレミリアも殺せる。時間の止まった世界ではそんなこと造作もない。

「ッ!」

ナイフを握る手に違和感を感じた。
驚くことに心臓がナイフを吐き出そうと押し戻してきたのだ。
ナイフが抜け、血が傷口から一瞬だけ噴出して服に掛かった。
直後に心臓の傷は完全に消えていた。

(やっぱり、これじゃあ殺せないわね)

下級の野良吸血鬼ならいざ知らず、自分が相手にしているのは吸血鬼の中でも最高峰の存在。認識が甘かったようだ。
即死させられないのなら、この殺害方法は諦めて、他の手段を探す必要があった。

首輪を外すとフランドールは前のめりに倒れてきて、それを受け止める。
「はぁぁぁぁぁ、はぁぁぁぁぁ、はぁぁぁぁぁ」
息も絶え絶えだった。そんな状態の彼女を床に寝かせて、足に滑車の鎖を巻いていく。
このまま去ってはレミリアに自分が居たことが知られてしまうため、最初の状態に戻す必要があるのだ。

「お疲れ様でした。また明日参ります」
「待って、お願い、休ませて」
「それはできません」

懇願を一蹴しハンドルを回す。足、膝、腰、背中、肩と順番に浮いていき彼女の体がどこにも触れなくなる。

「五分、五分でいいから横になって寝たいの」
「その姿勢でお休みください。これもプレイの一環です」
「そんなのムリ、出来な・・・」
フランドールの顔を思い切り殴りつけて意識を飛ばした。

「これから片付けをしなければならないのですから、我が侭を言わないで下さい」

床の血をホースで洗い流し、返り血を浴びた服を着替えて部屋を出た。
実験一日目はこうして終了した。



「まただわ」
帰りの途中の廊下で、太ももまで粘ついた液体が垂れていることに気付く。
部屋に戻りスカートをまくり上げると下着が濡れそぼっていた。

「ふっ・・・・ん」
自然と手がそこに伸びる。
手に残る心臓を刺した感触を思い出しながら、自慰にふけった。







【二日目:炎】

この日のフランドールは、目隠しと耳栓をされ、全身をラバースーツでコーティングされていた。
相当窮屈なのか、しきりにうめき声をあげている。
そのせいで部屋に入ってきてもこちらに気付いていなかった。

(吸血鬼は火に弱いと言われているけど、どの程度かしら?)

銀のナイフでは殺しきれないとわかったため、今日は火を試すことにした。
炎は浄化の作用があり。吸血鬼はこれを嫌うという説がある。
ちょうど部屋にはそれを試すのにうってつけの物があった。
「実在したんですね。ファラリスの雄牛」
牛をかたどった真鍮製の処刑器具。
その横腹には取っ手があり、そこを引くと横腹が開く仕組みになっている。
牛の中は人を入れるための空間が広がっていた。
(レプリカじゃない、本物ね)
最初は油を掛けて火達磨にするつもりだったが、良いものを見つけたのでこれを使用することにした。

時間を止め、その間にフランドールを牛の中に押し込み、蓋をして閉じ込めた。
拘束具まで燃やすわけにはいかなかったので入れる直前にそれらは外しておいた。

「ねえ何これ! ねえ!?」
自分に何が起きたのか分からずうろたえる。
拘束するものが無くなったとしても、両手が無いフランドールにこの牛から脱出する術は無かった。

牛の中で彼女が暴れる音を聞きながら、壁に掛かっているカードの束をとった。
「お借りしますねパチュリー様」
壁にはパチュリーのスペルカードが全種類備え付けられている。
レミリアがこの部屋をパチュリーに作らせた際、何枚か纏めて譲ってもらったのだろうと推測する。
束の中から火符を選び、それを真鍮で出来た牛に貼り付ける。
貼り付けた箇所から徐々に牛が赤くなっていき、やがてそれは全体に広がった。
「ああああああああああ!!」
フランドールは炙られる苦痛に悶え、牛の中を跳ね回る。
「出して! 出して! 出して!! 出してよぉぉぉぉぉぉ!!」
暴れるが雄牛を破壊するには至らない。
(もうこれ以上はここにいられないわね)
部屋全体がサウナ室のように熱くなってきたので、部屋を出てフランドールの部屋に移り、吸血鬼に関係する書物がないか漁ることにした。
『ボォーーーゥ、ゴォォォォ』
「 ? 」
廊下に出た瞬間、そんな奇妙な音が聞こえてきた。
牛の中で必死に呼吸するフランドールの声は、空洞で反響し雄牛が鳴いているようだった。





牛が沈黙して五分ほど経って戻ってきた。結局探していた書物は見つからなかった。
火符の効果はすでに切れているようだった。
火傷をしないよう手袋をしてから火符を剥がし牛の胴体を開ける。漂う異臭に顔をしかめた。

中には黒コゲになった人型があった。

「ヒューヒューヒュー」
しかし外気に触れた瞬間呼吸をはじめ、炭化していた部分が徐々に治り始めていく。
(これも殺すには至らないか)
炙られる時の熱よりも吸血鬼の再生能力のほうが上だったようだ。
(火符の数をもっと増やせばあるいは)
この道具を使いレミリアを殺せるのではと考えていた。
火符一枚でこれだけ追い詰めることが出来るのなら、複数枚でやれば可能な気がした。
フランドールにした事と同様、時間を止めて手足を使えない状態にしてからこの中に放り込み、大量の火符で炙る。
不可能なことではない。
しかし、カードの束から火符を探すと残りはたったの二枚しかなかった。
(パチュリー様から貰う? いいえ無理だわ)
パチュリーから火符を融通してもらえる上手な口実が思いつかない。惜しいが、この方法は保留にするしかなかった。

「一応、痕跡だけは消しておかないと」
天井のダクトを開き換気を促した。もともと異臭の漂う部屋だ、今更肉がこげた臭いが追加されたところでさして気にならないが念のためだ。
「牛も綺麗にしないと」
まだ湯気の出るフランドールを牛から引っ張り出す。
牛の内側にホースで水をかけて、こびりついた彼女の皮膚を落とした。
(ついでにこっちも洗うか)
床に寝かせたフランドールにホースで水を掛けた。
「ギィアっ!!」
水の掛かった部分がまるで内出血を起こしたかのように真っ青になり、慌てて水をとめた。
吸血鬼は流水にも弱いことを失念していた。
「大丈夫ですか?」
自分でやっておいて酷い言い草だとは思いつつ駆け寄る。
「・・・・・・」
返事は無く、ただ虚空を見つめていた。
もしかしたら、自分の身に何が起きていてのかすらまだ理解出来ていないのかもしれない。

体の様子を観察する。まだ所々炭化している部位があり、それが未だに治っていない。
「再生能力が落ちた?」
連日、レミリアから責め続けられ、それに自分まで加わったのだ、いくら吸血鬼といえど許容範囲を超えていて不思議ではない。
(それとも、いまやった流水のせい?)
今後は流水についても試す必要がありそうだった。
しかし今はフランドールの手当てに専念する。
「しばしお待ちを」
濡らしたタオルを彼女の体に貼り付けてから、彼女の部屋のベッドから布団を運んで来てその上に寝かせた。
「ふかふか」
吊るされるか、石畳の床で横になるの二つしかないフランドールにとって、柔らかな布の感触は何よりも得難いものだった。
(これ以上衰弱されても困る)
布団はそう考えての行動だった。
(だから、情けをかけたわけじゃない)
そう自分に言い聞かせて自らも布団の上で横たわる。
ここで朝を迎えて、仕事に出る前にフランドールを最初の縛られた状態で戻しておけば、それだけ彼女を休ませることが出来ると考えた。

「 ? 」
牛から引っ張り出されて以降、意識の朦朧としていたフランドールが這って寄ってきた。
足に頭を乗せて来た。どうやら枕代わりにしようとしているらしい。
(これじゃあ私が眠れない)
睡眠欲が頭の大半を占めている今、枕を取りに行く気にもなれず、渋々腕を枕として貸し出した。
噛まれるのを警戒して、口にタオルを噛ませてから眠りにつく。腕枕しているため自然と添い寝する形になっていた。

この時、体が火照っていたが、フランドールがいる手前、自慰行為は控えた。

結果、翌朝になり溜まった分を何度も処理する羽目になった。




【三日目:雷】


「まるで弓ね」
扉を開けた第一声がそれだった。
フランドールは海老反りにさせられた状態で、首と両足首を一本の縄で縛られていた。
足を少しでも動かすと首が絞まるため、放置するのに適した緊縛の方法だった。
フランドールはコレを早く外して欲しいという意味の視線を飛ばす。
口は酸素を求めて金魚のようにパクつかせる。

しかしあえてそれを無視する。床を転がりチアノーゼするかしないかの境目を彷徨う彼女を尻目に、今日の道具を選びはじめた。
今日は特に試すものを考えていなかった。
しいて言うなら殺傷力の高そうな物を探していた。この部屋の中にある器具でレミリアを殺すに至る品があるのでは、と考えた。

「なんでしょうかねこれは?」

見慣れないものを見つけた。
プラスティック性の小さな箱。それは見た目に反して重く、中に特殊な溶液が入っているようだった。
見た目からして外の世界から流れてきた物だということは容易に想像できる。
説明書が貼りついていたので、そこに書かれている図解を読んだ。
「バッテリー? 電気を生み出す?」
読んだがいまいちピンと来なかった。
何度も読み返してようやく、これが人工的に雷を作り出す装置だと理解できた。

ここでやっとフランドールを見た。

ロープを解いてやる。
反る姿勢を長時間強要させられていた反動からか、フランドールは体を伸ばした姿勢になる。
相当疲労を蓄積させていたのか、ぐったりとしてそれから微動だにしない。
そんな状態の彼女の体に、説明書の手順に従って準備を進めて行く。

両足首と首に金属の輪を着けて、その輪にコードを繋ぎ終える。
(さほど複雑ではないわね、編み物のほうがまだ大変だわ)
難しそうに思えたそれも、紙に書いてあることに従えば以外と簡単だった。
(あとはツマミで強さを調節して押すだけ)
書かれている箇所のスイッチを押してみた。
「・・・・・・」
しかしフランドールに変化はない。
「このスイッチじゃないのかしら?」
かといってそれ以外のスイッチは見当たらない。
ちゃんと充電できていることを知らせるランプは緑色に点灯している。
「電力が足りないのかしら?」
中間で止めていたツマミを最大まで回した。
「・・・・・・」
それでもフランドールは悲鳴ひとつ上げない。
「何よ壊れてるじゃない」
時間の無駄、そう思い小さな苛立ちをこめてバッテリーを小突いた。
その時だった。

「 !? 」

全身を何かが駆け巡る。
幸い、指先がプラグ部分を偶然かすめただけだったのですぐに解放された。
「え? うそ?」
生まれて初めて『感電』を経験して理解した。
(動けないんだ。感電すると)
腕が感電した時、その箇所は言うことを聞かずただ痙攣していた。
ビリビリと音がして、骨が透けて見えるという表現は誤った情報であることを知る。

フランドールの体を注意深く見ると、その体からうっすらと湯気が出ていることに気付いた。
現在進行形で電気が彼女を内側から焼き、血液などを蒸発させている。
爆竹が一本だけ爆ぜるような音がして両目が飛び出した。

そこでスイッチを切った。

近づくと感電すると思い、距離を置いて彼女の様子を窺う。
胸が上下しているため、辛うじて生きているのがわかる。飛び出した目玉も、ずるずると繋がっている神経に引っ張られて元の位置に戻っていった。
(すごいけど。これは使えそうにないわね)
殺傷力は申し分ないが、使い勝手が悪く、実用的ではなかった。
(もう一回通電させてみ・・・・・・いえ、今は実験が最優先。無駄な消耗は避けないと)
日に日に増すフランドールを『もっと苦しめたい』という感情が鎌首もたげてきて、それを押さえ込んだ。




感電の心配がないことを確認してからフランドールを抱きかかえ、布団に寝かせる。
この日も、運び込んだ布団でフランドールと共に就寝することにした。
「ねえ咲夜」
口にタオルを噛ませる直前に尋ねられた。
「これを一週間耐えれば。腕はちゃんと取り返してくれるんだよね?」
この条件だからこそ、フランドールは咲夜のすることを受け入れてる。
「もちろんです」
「それってアイツを裏切ることにならない?」
「なりますね」
「そうまでして、私を虐めたいの?」
「はい、それだけの魅力が妹様にはあります」
適当に言ってあしらう。正直、レミリア絡みの話は不快になるのでしたくないのが本音だった。
「腕を取り返したら。アイツだけじゃなく、自分も復讐されるって考えないの?」
「妹様を一週間好きにできて、殺されるのなら本望です」
「バッカみたい」
「お好きなように罵ってください」
口にタオルを噛ませた。
「早くおやすみください。寝ないなら元気があるとみなして天井に吊りますよ」
それを聞くや否や、腕の中のフランドールは慌てて目を閉じた。
(馬鹿な子)
吸血鬼のひんやりとした体を抱き締めながら思う。
(復讐のためにただ利用されていることも知らないで。好きな相手を死の一歩手前まで傷つけるわけないじゃない)

フランドールの顔を覗き込むと、穏やかな表情で眠っていた。







【四日目:流水、硫酸、聖水】



レミリアにとって、最も楽しい時間がやってくる。
分娩台に座らされて、足を強制的に開かされたフランドール。上半身だけ自分の洋服を着せ、下半身は裸に剥いた。
顔はラバーマスクで覆われ、頭蓋骨の輪郭がはっきりとわかる。
口の部分だけはゴムが取り払われているため、声だけは出せるようになっていた。

「パイカッターっていうのよ。知ってる?」
ピザカッターの先端が丸い車輪ではなく、ギザギザしたものになっている調理器具。
本来の用途は、焼いたパイの生地に切れ込みを入れるための物である。
「料理されるのはアナタだけど」
フランドールの性器にギザギザの車輪が横断させる。
「ひぎっ!」
入り口の粘膜からヒダの裏にかけて、隅々まで執拗になぞり、クリトリスを通過する際は強めの力をかけた。
「あン、やっ、ック」
赤く腫れたクリトリスを何度も鋭利な先端で突く。
「もっと強い刺激が欲しいんじゃない?」
クリトリスから会陰まで勢い良く車輪を振り下ろしてやった。
「アギャァ!!」
フランドールは腰を浮かせた、性器からは小水が迸った。

全身で息をするフランドールを満足気に見ながら次の玩具を探し始めた。
壁に掛かっている数ある鞭の中の一つを気紛れで選ぶ。
大蛇のように長く太い、枝分かれの無い一本の鞭で、先端がコブ状になっている。
腕を肩の高さまで挙げて、手首のスナップを利かせて振るう。
通常の鞭打ちプレイなら背中や二の腕など、体の中で比較的頑丈な部分を叩くのがルールであり、それ以外の場所は固く禁じられている。
しかし、お互いは吸血鬼。そんなものは考慮しない。容赦なく腹を狙った。

「あぎぃ!」

しかし狙いは外れて妹の太ももを叩いた。
「チッ」
聞こえない音で舌打ちする。
いくら規格外の膂力があっても体格が小さく腕が短いため、長い一本鞭の扱いに苦戦する。
叩かれた太ももから激しい出血が見受けられた。
鞭の先端のコブ状の部分が紙ヤスリのようにザラザラになっている。
より相手に痛みを与えられるようにと、自分で考案した仕掛けだった。

再度振りかぶる。

「ぃぎぃ!」

今度はちゃんと狙っていた腹に当たった。
叩かれた箇所から、まるで源泉のように血が湧き出てきた。
「距離感さえ掴めば狙い通りね」
もう一度振るう。今度は的の小さい右の乳首を狙ってみた。
「お゛ッ!」
凹凸の無い乳房が削り取られる。
バランスを整えるために、無事なほうの乳首も狙いピアスごとそぎ落とす。
「かはぁ!!」
胸だった部分は肋骨が露出した肉片に変わった。
握りを両手で持ち、今までで一番大きく振りかぶった、勢い良く振り回した先にパイカッターで散々いたぶった女性器がある。
「ギヒィィィィィィィッ!!!」
全身を痙攣させながら失神した。性器からは血なのか尿なのか判別できない液体が流れ出ていた。
「もう気絶? まだたったの五発よ?」
鞭の先端にはヒダ状の皮がベロリと張り付いていた。
それを剥がして口に含むと咀嚼する。なんとも言えない甘美な味がした。




「また明日もよろしくね」
フランドールの体力的に、そろそろお開きにしようと考える。
「今日はどんな恰好で放置しようかしら」
部屋を見渡して道具を吟味する。
「鉤爪なんて楽しそうね、脇腹に直接引っ掛けて、それだけで吊・・・・・ん?」
部屋に配置されている道具。その置き場所に違和感を覚えた。
「気のせいかしら? 前はここにあったような、変ねぇ」
他にもおかしな部分がないか探すことにした。















レミリアがいないことを確認してから部屋に入る。
「ンっ! ・・・・ンンッ!!」
フランドールはラバー製の寝袋に窮屈そうに押し込まれていた。
ジッパーを開けて、フランドールを救出する。全裸で身に着けているものは口にはめ込まれた猿轡だけだった。
「時間も惜しいですし、早速はじめましょうか」
足を縛った状態で部屋の角に座らせる。猿轡はあえて外さなかった。
「ジッとしててください、抵抗したら駄目ですよ。その時はもっと酷いことをしますからね」
そう前置きした後、蛇口を捻りホースから勢いよく水を出した。
吸血鬼は川や海など流れる水を超えられないとされており、今日はそれを試そうとした。

「んんっ!!」
流水で彼女の体を叩く。
(効いてるのかしら?)
見た目は変わらないが、どこか苦しそうな表情を浮かべている。
一旦水を止めて体を見る。特に出血や痣などは見当たらない。
「痛かったですか?」
そう尋ねたら、フランドールは頷いた。
(流水は怯む程度しか効果はなさそうね)
次のものを試すことにする。
今度は部屋の中央まで移動させて、うつ伏せになるよう命令した。
フランドールは抵抗することなくその姿勢になった。
「んっ」
乳首のピアスが床に擦れて一瞬だけ苦悶の表情を浮かべる。
「いきますよ」
その背中に液体の入ったビンを傾け、真っ白なその背中に一滴だけ垂らした。
「いい゛ぃ!」
タバコの火を押し付けられたような痛みが落下点を走る。
(吸血鬼も人間と同じような効果なのかしら?)
瓶の中身は硫酸だった。
「妹様、これは硫酸と言われる薬品でして。触れると皮膚が溶けます。化学火傷といって、蝋燭や火とはまた違った痛みでしょう?」
あえて口にすることで痛みを想像しやすくしてから、お猪口一杯分の量を垂らした。
「う゛う゛!」
白い煙をあげて溶液は蒸発した。かかった箇所の皮膚はただれて歪なシワが残った。

(もう再生しようとしてる)

火傷痕は見る見る内に新しい皮膚へと生まれ変わり、白さを取り戻した。

(これは吸血鬼退治には向かないわね)

残念そうな顔に思いながら瓶の中身をすべて零した。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

一リットルはあろう多量の液がフランドールの背中を蹂躙する。
荒野のようになってしまった背中、しかしそれも時間を追って回復していく。
(まあいいでしょう。本番はこれからですし)
もう一つ瓶を出す。ただし硫酸の瓶とは違い、インテリアと呼んでも十分通用する洒落たデザインの容器だった。
流水も硫酸もいわば“コレ”を使うための前座に過ぎなかった。
図書館の奥、パチュリーが厳重に保管していた聖水がこの容器の中身である。
『紅魔館に聖水など持っての他だ! 処分しろ!』と狂人のように喚き散らす演技をすると、パチュリーはうんざりした顔でそれを譲ってくれた。

(さて、効果のほどは・・・)

期待に胸躍らせながら容器を傾けた。
数滴を膝に垂らす、そこの皮膚が溶け落ちて骨が見えた。骨も脆くなり膝から下がボキリと折れて灰に変わった。
「お゛ぅ!」
フランドールの顔は恐怖で引き攣っていた。明らかに焦っている様子だった。
(見つけた)
聖水は立派な弱点の一つだと判明した。
(良かった)
ようやく成果をあげられたことに安堵する。これ以上、聖水を無駄にしたくなかったため使用は控えることにする。











「それでは、横になりましょうか」
「うん」
口枷を外し、寝巻きを着せた彼女を布団に寝かせた時だった。
「咲夜」
今日もフランドールは話しかけてきた。
「あの件はどうなってるの?」
言葉がぼかされていたが、思い当たることは一つしかなかった。
「約束は守りますよ。明後日には腕を取り返してさしあげましょう」
「どうして明後日なの?」
「明後日が約束の一週間じゃないですか?」
「一週間・・・」
フランドールは頭の中で数を数える。
「ああ。そういうこと」
納得してコクコクと頷いて見せた。
「 ? 」
フランドールが何を考えているのかイマイチ掴めなかった。
「ところで咲夜はお姉様のメイドなんだよね?」
「当然です」
「じゃあ、お姉様の命令には絶対に服従なんだよね?」
「その通りですが、それが何か?」
なぜそんなことを訊いてくるのかと疑問に思う。
「隠れてこんなことをしてるって知られたら、咲夜はどうなっちゃうの? お姉様は、自分の楽しみを邪魔する奴に容赦しないよ? いくら自分の専属でも」
「なんだか、昨日したのと同じような質問ですね?」
「そうだっけ?」
「 ? 」
今日のフランドールは様子がおかしい気がした。なんとなく会話が噛み合わない。
(情緒不安定ってこういうコトなのかしら?)
とりあえず話を再開させる。
「お嬢様のことですから、きっとシャレにならない罰になるでしょうね」
「その覚悟はあるの?」
「さあ、どうでしょうかね?」
適当に流す。
「もし本当に知られたら、どうするの? ここを逃げ出す?」
「・・・・」
「捕まったら、私みたいにされちゃうかもね」
その言葉に何故かカチンと来た。復讐が失敗した時の自分の姿を想像させられたためだ。
ただでさえレミリアという名を聞くとハラワタが煮えくり返る気持ちになるのにその言葉が追い討ちとなった。
「私も一緒に謝れば、もしかしたら許してく・・・」
「妹様」
少し語気を強めたため、フランドールはビクりと身を強張らせた。
「止めていただけませんか、二人きりの時に他の方のお話をするのは?」
自分をこんな不快な気持ちにさせた彼女にペナルティを与えたくなった。
そう思いたって身を起こし、部屋にある道具の中から細長い針とインクを持ってくる。刺青を彫るために職人が使う本格的な道具である。
「どうするのそれ?」
「・・・・・」
答えない、無言で下着を脱いで丸めてフランドールの口に詰め込み、それを口枷の代わりにした。
腰に跨り自由を奪い、仰向けにさせて服を捲くる。
「ん゛ん゛ッ!!」
針の先にインクを着けてフランドールの腹を刺す、抜いたらインクをつけてまた刺す。
その作業を延々と繰り返す。
この時、彼女が苦痛で歪む度、自分が愉悦の表情を浮かべているのを自覚していた。

三十分かけて仕置きは完了した。
「できました。良く頑張りましたね」
フランドールは目を真っ赤に晴らして、鼻息で荒い呼吸を繰り化している。
「絵心がないので、こんなことしかできませんが」
彼女の腹には『SAKUYA’S SLAVE』という文字が刻まれていた。





刺青の痛みが治まってフランドールが眠ったのは、それから一時間後の事だった。
せっかく寝たばかりの彼女を起こさぬよう注意しながら部屋を抜け出た。
復讐を果たすのに必要なアイテム、聖水を部屋に戻すためだ。

自室に戻り、金庫に聖水を保管する。
それから例によってフランドールを責めている時のことを思い出して自慰を行う。
刺青を彫られている時の彼女の顔を想像してするとこの一週間で一番興奮できた。
自慰を終えて頭が少しだけクリアになると、ふと気がついた。
(あの刺青はマズイ!)
あんなのを残したら、レミリアにすぐに気付かれてしまう。
一時の興奮に身を任せた行いを後悔する。
硫酸を手に一目散に地下室を目指した。

「そんなに急いでどうしたの?」
運が悪いことに、部屋を出てすぐにレミリアと鉢合わせしてしまった。
想定外の事態に思考が停止する。

「なぜ急いでるのかを訊いているのだけれど?」
「え、あ。そ、その」

言葉に詰まりしどろもどろになる。

「さ、さっき窓が割れる音がしまして、侵入者が来たのではと思いまして」
脳みそからなんとか搾り出した苦しい言い訳を口にする。
「そんな音聞こえなかったわよ?」
「そうですか、ならば私の聞き違いのようです。お騒がせしました」
「最近働き詰めで過敏になっているのよ。少しは休みなさい。それじゃあ」
「はい、お休みなさいませ」
欠伸をかみ殺しながら去っていくレミリア。その後姿が見えなくなるまで見送った。


冷や汗をかきながら地下まで戻ってくる。
扉を開けると穏やかな寝息を立てるフランドールの姿があった。
寝返りを打たせて腹部を見る。
「消えてる?」
自分が彫った『SAKUYA’S SLAVE』が跡形もなく消えてた。
さすがは吸血鬼だと感嘆する。まさか刺青まで消してしまうのは予想外だった。
皮膚をまるまる焼くために持ってきた予備の硫酸は無駄になった。
「良かった」
面倒ごとが減ったと喜んだが、自分の所有物を誇示ものがあっさりと消えてしまったのは少し残念だった。








【五日目:毒】

午前中から自室で頭を悩ませていた。
聖水が有効な手段だとわかったが、それだけでは心許無い気がして他の方法も探すことにした。
しかしまだ妙案が出てこない。
「他に何か・・・」
もう一手欲しくて、脳を必死に働かせる。
「毒・・・・・そうだ毒殺できれば」
そんなことを思いつき、顔をあげた。
これまでの実験で、吸血鬼に外傷を与えることは困難であることを嫌というほど見せられた。
ならば内側から壊せないかと考えた。
「探してみる価値はありそうね」
さっそく行動に移した。



かつてレミリアに福寿草の紅茶を出したことがあるが、あれよりもずっと強力な毒が必要だった。
植物の毒についての知識はある程度あった。
紅魔館の庭園で怪しげな植物をパチュリーが魔法の実験目的で栽培しており、その管理の一部を任されているからだ。

庭園までやってきたが自分が管理しているスペースではなく、美鈴が管理している花壇に足を踏み入れた。
美鈴の花壇のほうが危険な植物が多いのだ。
「こっちは結構えげつない物を育ててるのね」
人間が乗れるほど大きな花が咲いた植物、蔦や葉で昆虫をお襲い食す植物、近くを通ると奇声を発する花など不気味な植物が多数存在する空間だった。
「これって確か」
その中から見知った猛毒植物を見つけた。たくさん生えている箇所から優先的に引き抜き、目撃者がいないことを確認して自分の部屋まで持って帰った。

植物同定の本を手に無断で採った植物の名を確認する。
「やっぱりトリカブトだった」
毒性の項目を指でなぞる。
「一本の根っこで五十人以上の人間を殺せる・・・・・か」
まさに自分が理想とする毒だった
根っこの時間を進めて乾燥させて、すり潰し粉末状にする。
それを紅茶に混ぜて匂いを嗅いだ。特に異臭はしなかった。
(さすがに味見はできないわね)
レミリアの味覚は敏感である。口を付けた瞬間に気付かれるかもしれない。
「とりあえず、毒の効き目とどんな味がするのかを確認しないと」
それらをフランドールで検証する必要があった。




深夜、レミリアが去ったことを確認してから地下室に入る。

「今日は何をするの?」
「今日はお休みです」
時間を止めて、ティーセットの乗ったテーブル、椅子を用意して、そこにフランドールをかけさせる。
「わぁ」
思いもしない光景に目を彼女は輝かせた。
「最近は紅茶やお菓子なんて召し上がってないでしょう? 今までの疲れを取る意味で、今日は休息です」
カップに紅茶を注ぎ、彼女が見ている前で堂々と毒を混ぜてスプーンで掻き回す。ついでに砂糖もたっぷりといれた。
「どうぞ」
手が無いため自力で飲めないフランドールの口に、カップを運んでやる。
「良い香りでしょう?」
「そうだね」
なんの躊躇いもなくカップを傾けた。
「ンク、ンク」
おいしそうに紅茶を飲み干していく。
「ごちそうさま」
一口で彼女は全てを飲みきった。
「お粗末様です。おいしかったですか?」
「うん、甘くて飲みやすかったよ」
(それなら大丈夫か)
味や匂いで毒と勘付かれる心配はなさそうだった。



壁に背中を預け、彼女を膝の上に座らせた。
毒の効き目を確認するために、間近で見る必要があった。
「この体勢だと疲れが早く取れるらしいですよ」
「そうなんだ」
適当なことを言ってフランドールをこの姿勢に誘導した。
「今までお疲れ様でした」
金色の髪を撫でる。
「どうしたのとつぜ・・・ぁ」
フランドールの目蓋が下がり、眠いのを我慢する幼子のように、こっくりをはじめた。
徐々に彼女の体から力が抜けていくのを抱える腕から感じていた。

(もしかしたら、これが今生の別れかもしれない)

背中から伝わる彼女の鼓動が徐々に弱まっていくのがわかる。
日焼けを知らない白い肌が、このまま透明になってしまうのかと錯覚してしまうほど、彼女の肌は色を失っていく。
(せめて穏やかな最期を)
身勝手な事を考えつつ、最後にもう一度だけ彼女の頭を撫でる。
うっすらと開いていた目も、今はもう完全に閉じられていた。
成長の兆しの無い薄い胸に手を当てると、心臓は動いていなかった。

彼女は眠りにつくように息を引き取った。

(死んでしまった)

自分の復讐を果たすために、復讐対象の妹という接点だけで、何の罪もない少女を利用して死に追いやった。
しかし罪悪感も、彼女に対する謝罪の念も、気の毒だと思う気持ちも湧いてこなかった。
そんな感情があるのなら、復讐などという馬鹿げたことをしようとは思わない。直接関係無い子に対して残虐非道の限りを尽すはずなどない。
フランドールを利用すると決めた時点で、これは必然だった。故に心は動かない。

ただ。

(もったいない)

もうあの苦痛に歪む表情も、仕草も、叫びも二度と感じられないことを思うと、口惜しさで胸が一杯になる。

(もっともっと、この子を味わいたかった)

極上の素材をこんなにもあっさりと手放してしまったことに対しての後悔だけはあった。

(しかしこれでレミリアを殺す方法が見つかっ・・・・?)

フランドールの足の先がピクリと動いたように見えた。
(まさか)
脈拍を取ると微かだがあった。
(蘇生した)
次第に鼓動は強くなり、やがてそれは正常に戻った。
「ん・・・・?」
目を開けたフランドールは眠そうに体を揺する
「あれ、私、寝ちゃってた?」
本人はうたた寝をしていたと思っているようだった。
「まだ寝てて構いませんよ」
「じゃあ、そうする」
耳元で優しく言って髪を手で梳いてやると、フランドールはまた目を閉じて眠りの世界へと落ちて行った。

(死んでなかった)

肺にあった空気を全部吐き出した。
喜びでも安堵でもない、区別のつかないモヤモヤとした感情が心中を渦巻いていた。


朝が来るまで、この姿勢でフランドールと過ごした。












【六日目:無題】

レミリアへの復讐は明日実行することにした。
今日はその準備に当てるつもりだった。

計画は聖水と毒。この二つを使用する。
毒は濃度を凝縮させて、昨日よりも強力なモノを使うつもりでいた。





「出来た」
深夜、ようやく復讐な必要な物を揃え終えた。
紅魔館からすぐに逃げ出せるように荷造りも完了している。
チラリと時計を見た。いつもならこのぐらいの時間にフランドールの元を訪れていた。


「・・・・」
もう来る必要など無いはずなのに地下室やって来てしまった。
「失礼しますね」
今日はどんな姿で晒されているのかを楽しみにしながら扉を開ける。

最初に飛び込んできたのは椅子に座されている全裸のフランドールだった。今日は轡をしていない。
足の指には拷問用の万力が付けられており、爪の色はすべて紫色に変色していた。
座らされているのはただの椅子ではなく、体が触れる箇所すべてに三角錐状の棘が満遍なく敷かれていた。
彼女が立ち上がるのを防ぐために、椅子に備え付けられたベルトが足と胸に掛かっている。

首輪からぶら下がる鉄球が、彼女の膝の上に乗っており、棘の痛みを倍増させていた。

「あ・・・・・は」
奥歯を噛み締めて痛みに耐えるフランドール
「さぞお辛いでしょう」
フランドールの両肩に手を置くと体重を掛け始めた。
「い゛、た・・・・い、やめ、おねが、い」
椅子の足に彼女が流した血が溜まり始めていた。
自分のほうが先にだるくなってようやく手をどけた。肩には食い込んだ自分の爪の跡が痛々しく残っていた。
椅子の下にはコップ一杯分の血痕が出来ていた。
「起こしますね」
ベルトを外しても自力で立ち上がれないため手を貸した。
傷口が棘から解放されたその時から、体は再生を始める。
「今日は何をするの?」
足の万力のネジを外してくれている最中に尋ねられた。
「これなんてどうでしょう?」

長さも太さも、裁縫針とは比べ物にならない大きさの針を取り出す。

床に仰向けさせて足を開くように命じる。
「畳針といいまして。日本のニンジャが暗殺に用います」
「ひぅ!」
刺さるか、刺さらないかの力で先端をクリトリスに当てる
尿道に針を差込み、内側を傷つけながら奥へ奥へと進めていく。
「ぎっ! がっ!! ひぃ!」
針の半分を彼女の尿道は飲み込んだ。
「これでは終わりませんよ」
空いている方の手には火の付いた蝋燭があり、それを垂らす。
「熱っ!」
フランドールの性器に次々と滴り、彼女の皮膚に触れた瞬間、粘膜を焼いてから蝋が冷え固まる。
やがて性器は蝋でコーティングされ、尿道に挿入されている針も一緒に固められた。

「仕上げに」
尿道に刺さったままの畳針、それに先日使用した電気を発生させるバッテリーのプラグを繋ぐ。
前回の使用から、加減の仕方を学んでいた。苦痛を感じるレベルまで電圧を調整する。
「アギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
スイッチを入れると、フランドールは悲鳴をあげる間もなく失神した。

「続けましょうか。今日で最後なんです。楽には終わらせませんよ」

最後の夜。彼女の体を目一杯楽しむことにした。








【七日目:計画実行】


殺す準備は整い。あとは実行に移すだけだった。
計画は単純。レミリアと二人きりの時に毒入りの紅茶を飲ませる。それだけ。
仮に用意した毒が致死量に届かずとも、駄目押しの聖水があった。
(これで全部終わり)
難しいことなど何一つ無い。いつもの動作にほんの一手間を加えるだけなのだから。





紅茶の入ったポッドとクッキーの乗ったカートを押してレミリアの部屋までやってきて、ノックをする。
「咲夜です。紅茶をお持ちしました」
「あら、ありがとう。入っていいわ」
部屋の中央にあるテーブルにポッドと皿を置いた。
毒入りの紅茶をカップに注ごうとした時だった。
「そろそろ、フランドールを解放してあげようと思うの」
彼女の名を挙げられて、僅かに動揺した。
「だからこれから仲直りの証として、あの子とお茶会を開きたいの」
「なぜ妹様を手放そうと?」
「飽きちゃった。やっぱりアレはただの私の妄想だったわ」
「そうでしたか」

口ではそう言ったものの、心の中で釈然としないものを感じていた。





腕の入った箱を持たされて、フランドールが監禁されている部屋にやってくる。
「体を綺麗にしたら、隣の部屋に連れてきなさい。そこでお茶会をするわ」
「かしこまりました」
レミリアは妹の部屋に先に向かった。





茶会なるものはフランドールの部屋で行なわれた。
姉妹が向かい会う形で小さなテーブルに腰掛ける。
「いきなり解放なんて、一体どういった心境の変化なのかしらお姉様?」
「別に、ただ飽きちゃっただけよ。それともまだ続けて欲しかったのかしら?」
「ハッ冗談言わないで」
膝で机の底を打った。上に乗っていたものが一斉にジャンプする。
「はしたないわよ。そんなんじゃまだ腕は返せないわね」

フランドールの腕はまだ箱に入ったままだった。

姉妹が言葉の応酬を交わしている間、紅茶の準備をしていた。
時間が空きすぎてしまったため、また最初から淹れ直している。

(妹との最後の会話、せいぜい悔いの無いようにしなさい)

紅茶を注いだカップにまるで砂糖でも混ぜるかのような自然な手つきで粉末を混入させる。
「失礼します」
復讐の成果をレミリアの前にそっと置いた。
「私ではなく先にフランドールに」
「え?」
「何を驚いているの咲夜? これは仲直りのためのお茶会よ。私が少しでも誠意を見せないでどうするのよ」
「紅茶を譲るくらいで恩着せがましいわね。ところで、腕の無い私にどう飲めというのかしら?」
肘までしかない腕を振ってアピールする。
「咲夜、飲ませてあげなさい」
「で、では。お嬢様に紅茶を淹れてから・・・」
「その子には長期間、碌に水分を与えていなかったから早く飲ませてあげたいの」
「かしこまりました」
毒入りのカップを取りフランドールの頭に手を添える。
「少し傾けますね」
「早く頂戴」
フランドールは口を開けた。

(この毒は遅効性。飲んですぐフランドールが死ぬことは無い。問題無い。じきにレミリアも飲む)

幸い、まだ毒のストックは残っている。計画に支障は無い。
だからさっさとフランドールに飲み干させて、レミリアにも毒入りの紅茶を差し出せば良い。

そのはずなのだが。

「咲夜?」
フランドールに飲ませる事を躊躇っていた。
昨日だって半ば死ぬと予想しておいて飲ませたはずなのに、何故か出来ない。
「・・・・」
時間を止めた。
口の開いているフランドールの喉を、テーブルにあったスプーンで突いてから時間を進めた。

「ゴホッ、ゴホッ!」
「きゃっ」

フランドールが咳き込んだタイミングに合わせて、カップをわざと床に落とした。
「ご、ごめんね咲夜」
「お気になさらず」
石の床の上でカップは粉々になっていた。
「興が削がれたわ。不愉快よ」
レミリアは苛立ちを露にして立ち上がる。
「解放の話は白紙。咲夜、フランドールを吊っておきなさい」
妹の腕が入った箱を抱えて扉へ向かう。
「吊って、ここの片づけが済んだら私の部屋に来ること。いいわね?」
扉を閉める際、そう命じられた。



「クソッ! 何よアイツ、何がしたいのか全然わかんない!」
縛っている最中にフランドールが悪態をついた。
「キツくないですか?」
「もっと緩めて」
「しかしこれ以上そうすると足が抜けてしまいます」
見た目だけの拘束でしかなかった。
「今夜も来るんでしょう? だからその時までは楽な姿勢でいたいの」
「・・・・わかりました」
フランドールに何の拘束も施さず、部屋を出た。
(絶好の機会だったのに、どうしてあの時・・・・)
途中の廊下で、自分は何故フランドールに紅茶を飲ませなかったのかを考えたが、明確な答えは出てこなかった。








言われた通り、レミリアの部屋にやってきた。
「思ったよりも遅かったわね」
「申し訳ありません。人を縛ったり吊ったりするのは初めてで、思ったよりも難航しました」
本当は。自分の部屋に寄り、色々と準備をしてきたため時間がかかった。
「いいわ、気にして無いから。ご苦労様」
先ほど部屋を出た時とは様子が違い、レミリアの表情に怒りの色は無かった。
「単刀直入に訊くわ。妹と何度か密会したわね?」
「はい」
今更シラを切れないと思い正直に答えた。
お茶会の途中から、薄々バレているような気がしていた

やはり、先ほどの茶会というのは咲夜を糾弾する場のようだった。

「いつお気づきに?」
「使った痕跡を丁寧に消してたみたいだけど、あの部屋は私がデザインしたのよ。僅かな変化でもすぐにわかるわ。だからあなたの行動を不審に思って入れ替わってみたの」
服をまくりお腹を見せた。
「それは」
レミリアの腹部に『SAKUYA’S SLAVE』の刺青があった。
「妹に化けるなんて簡単なことよ」
レミリアが髪を指先で絡めると、その部分から色素が抜けていき、やがて髪全体が金色へ変わって行った。
指を鳴らすと、彼女の体から蝙蝠が飛びたち背中の羽に纏わりつき、羽は宝石の飾りがついた枝に変わる。

そこにはレミリアに良く似た少女が立っていた。
両手を広げてクルリと一周する。
「どう? 髪色と背中の羽をいじれば見分けがつかないでしょう? 腕なんてその気になれば一時的に霧にして消すこともできるわ」
胸をはだけさせると、フランドールと同じピアスが施されていた。

あの日、聖水を試していた相手は、フランドールではなく殺害対象のレミリアだった。
「だからあの時『あの件はどうなってるの?』なんて曖昧な表現で尋ねてきたのですね」
「そう。カマをかけたら、あっさり喋ってくれて拍子抜けだわ」
「通りでイラついたわけです。それに変だと思っていたんですよ『アイツ』って読んだ次の日に『お姉様』と呼んでいたことに」

咲夜が聖水を戻しに一旦その場を離れた時にレミリアは隣の部屋で寝かせていたフランドールと入れ替わっていた。
そして地下室に戻ってくる咲夜とわざと出くわして『そんなに急いでどうしたの?』と白々しく尋ねた。


「全部、お嬢様の手の平の上だったわけですね」
会話をしつつ懐中時計に手を伸ばす。隙を見て時を止めようとした。
しかしその瞬間を見逃さず、レミリアは弾丸のような速度で詰め寄ってきた。
「逃がさないわよ」
「ぐっ」
喉輪を掴み床に押し倒していた。
「勘違いしないで咲夜、私はこれっぽっちも怒ってなんかいないわ。むしろアナタがますます気に入ったわ」
獲物を捕えた獣のようなギラついた目で従者を見る。
「あなたの責め、容赦がなくて最高だったわ。あの子は幸せ者ね、私だけじゃなくてアナタからも可愛がられたのだから」
足でナイフを持つ手を踏みつけられて、反撃を封じられる。
「ねえ、他にどんなプレイをしたの? ファラリスの雄牛も使ったんでしょう? バッテリーの液体も減っていたわ。人間はエゲつない方法を沢山考えることの出来る生き物でしょう? 詳しく聞かせてちょうだい」
身を捩じらせながらレミリアは興奮気味に捲くし立てる。
「でも、フランドールを独占しようとしたのはいただけないわ。私から腕を取り返して、あの子の機嫌を取るつもりだったのでしょう? さっきの紅茶、睡眠薬でも入っていた

のかしら?」
「フッ」
見当違いな推論に思わず笑ってしまった。
「違いますよ」
「違うって何が?」
「紅茶の中身です。入っていたのは睡眠薬ではなく、猛毒ですよ。吸血鬼を殺すのに十分な」
その回答にレミリアは眉根を寄せる。
「話が見えないわね。何故私とフランドールを殺そうとしたの? 殺されるほど、恨みを買うようなことを私達がした?」
「狙いはお嬢様だけですよ。妹様はついでです」
「わかるように言いなさい」
レミリアの瞳が真紅に染まり、両目を覗き込んできた。
「両親の仇を討つために、この一週間妹様の体を使い吸血鬼を殺す方法を探っていたのです」
「両親? なんの話をしている?」
相変わらず瞳を凝視し続けながら話を聞く。
「とぼけないでください。全部思い出したのです。両親を殺害したアナタは私の記憶を書き換え、紅魔館のメイドとして迎え入れたことを」
「なるほど、そういうこと」
納得した表情のレミリアを見て、抑えていた殺気を解放した。
一度時間を止め、まだ押さえつけられていない方の手で、空間を操作して拡張したスカートの中から容器を取り出して空中に放る。
そして時を再開させた。

「ふんっ!」

頭上から振ってきた物をレミリアは気配で察知して咄嗟に爪で払う。
ガラスの割れる音を聞いた瞬間、彼女は後悔に包まれた。
「わかりますよね? つい先日、同じものを浴びたのですから」
容器の中身は聖水だった。
「うっ・・・があああ゛ぁぁ!」
払った腕全体が聖水で濡れて、あっという間に溶かし崩していく。
しかしそれでもレミリアは床に押さえつける状態を解かない。

「じっと・・・してなさい。すぐに済むから」

牙を剥き出しにして首筋に顔を近づいてくる。
「止めろ! その汚らわしい牙を近づけるな!!」
自由になった手でレミリアをナイフで刺し続けるが、それでも怯まずに牙は首筋に迫ってくる。
「大丈夫よ、ちょっと血を抜くだけだから。終われば全部元通りよ」
記憶を書き換えて、これからもメイド長として働いてもらう。という意味に聞こえた。
「ぐぅ」
牙の先端が刺さる。レミリアの喉が鳴り、血を吸われているのがわかる。
(駄目、意識が遠のく。このままじゃまた記憶を・・・)
せっかく取り戻した記憶を失うことが辛かった。
(ああ、そうか)
薄れ行く意識の中でぼんやりと思った。
(妹様もそうだったんだ)
取り戻した今の記憶、死んだと思ったら生きていたフランドール。どちらも『一度失い戻ってきてくれた』存在。
そんな奇跡を自らの意思で手放すのが堪らなく嫌だったのだ。
だから先ほどの茶会でフランドールに飲ませることが自分には出来なかった。

(そんなつまらない理由で、追い詰められるなんて・・・)

吸血の効果で急激な眠気が襲ってきて、それに意識を委ねかけたその時だった。
「ぅっぷ」
レミリアの顔が青ざめた。身を引いて、床に蹲る。
「ゴホッ、な、に・・・・を?」
レミリアは体の内側をガラス片が流れているような激痛に襲われていた。
「お嬢様に血を吸われる事は予想していました。だから事前に自分の血に聖水を混ぜておいたのです」
身を起こし、頭を振ってぼやける視界に渇を入れた。
「聖・・・・水? でもどうやって」
「輸血する血が無いときの緊急手段を知っていますか?」
この部屋に来る直前、聖水に食塩を混ぜて生理食塩水に変えて自身の血管に注射していた。
「なかなか良い発想だと思いませんか? 有効時間は短いですが」
吐血し、歯はボロボロになり奥歯から順番に抜け始めた。
「ご、あ・・・・ぅ」
今のレミリアが満身創痍なのは明らかだった。
(これで仇を討てる・・・)
ナイフを握り、その脆くなった体に投擲する。

しかし、それが命中することはなかった。

「ご苦労様、咲夜」
部屋に侵入してきた何者かに蹴り上げられたレミリアは、枕のように軽々と吹き飛び壁に叩きつけられた。投擲されたナイフは獲物を失い床に刺さった。
「妹様?」
飛び込んできたのは両手の無いフランドールだった。
「私が乱入できるちょっとの隙を作ってくれるだけで良かったのに、まさかここまでしてくれるなんて」
「何故ここに?」
「咲夜は、その子に暗示を掛けられていたのよ。アナタは利用されていた」
壁に寄りかかりながら身を起こしたレミリアがそう告げた。
「暗示とはちょっと違うかなぁ、うーん、なんて言えばいいんだろう」
体を傾けてフランドールは唸った。
「待ってください! 私の身に何が・・・・痛ッ!」
激しい頭痛に見舞われる。過去の光景がフラッシュバックし、何が偽りで何が本当かが明確になる。
「どうやら正しい記憶を取り戻したみたいね」
「お嬢様、私は・・・」
「フランドールに騙されていたのよ。さっきの吸血は暗示を解くためにしたの」

今なら正常な判断が下せた。
家族をレミリアに殺された方の記憶こそが偽物だったことを知る。

「いつどこで、私に暗示なんか?」
まだ引かない頭痛に耐えながらフランドールを見た。
「咲夜が初めてあの部屋に来た日、逆さ吊りの私と別れ際に目があったでしょう?」
あの時とその翌日に感じた眩暈の正体がそれだった。
「私も咄嗟だったから『レミリアに殺意を抱く偽物の記憶』を植えつけることが精一杯で、記憶の内容までは選べなかったけど」
フランドールは自分の腕が入った箱を探しながら解説してくれた。
「目なんて脳みそと直結してるから、一瞬でも眼が合えばそれで十分」
姉の机を蹴り壊す。砕けた引き出しからは、これからフランドールに使うはずだった玩具が飛び出してきた。
「でもまさか私の体を使ってコイツの殺害方法を探ってくるのは予想外だったなぁ・・・・・お、あったあった」
蹴破ったクローゼットの中から目的の箱を見つける。
箱を踏み砕くことで腕の戒めが解け、離ればなれだった肉体はまた一つに戻る。

「これが無いお陰で、体が痒いときは本当に辛かったわ。目にゴミが入っても取れなかったし」

手のひらを開閉させて、動作を確認する。
異常がないとわかったら、その手を満身創痍のレミリアに向けた。
「どかーーん」
手を握るとレミリアの右足が爆ぜた
「ぐぅ」
それだけではフランドールの手は止まらず、何度も手を開いては握る。その度にレミリアの体の一部が潰れた。
「が・・・・・あ」
手を止めた時、レミリアの四肢と羽が消失していた。

「うん、ちょっと清々した」

今度は咲夜の方を見る。
咲夜は怯むことなく、フランドールを睨み返した。
「私を利用したのですね」
「だってコイツのあのつまんない拷問から逃れる方法なんてアレくらいしかなかったんだよ」
悪びれることなく言う。
「第一、悪いのは私を監禁調教しようとしたコイツだし」
「そうかもしれませんが」
「そもそも、散々私をいたぶっておいて被害者面しないでくれる?」

怒気を孕んだ言葉の後、咲夜は胸倉を掴まれる。

「いっぱい痛かったよ?」
殺されると直感した。
「でもさっき、毒の紅茶から庇ってくれたでしょ? すごく嬉しかった。だから許してあげる」
彼女はあっさりとその手を離してくれた。
「・・・・・けど、コイツは駄目」
芋虫のような姿に変わり果てたレミリアを見る。
「つまんないお遊びに延々と付き合わされて、こっちはウンザリしてたの」
「待ってください!」
姉妹の間に割って入る。記憶が正常に戻ったことで忠誠心が蘇る。
「私が妙なことをお嬢様に吹き込んだが故に、今回の騒動は起きました。裁くなら私を」
「コレを許せっていうの?」
「お願いします」
持っている者を全て捨てて正座し、瓦礫と埃だらけの床に額を擦りつけた。
「む〜〜。咲夜がいうなら許してあげなくもないけど、一個条件がある」
「条件?」
「今までは悲劇のお姫様を演じてたから、面に出さなかったけど。私もねアイツと一緒、ううん、あいつ以上に・・・」
最後まで言うのをやめて、咲夜の両手を握った。
「私たち、良いパートナーになれると思うの」
今までの状況を楽しんでいたのはレミリアと咲夜の二人だけではなかった。
「実は私ね、本当は死の一歩手前までいかないと興奮できない、アイツの責めみたいな生温いのじゃ全然満足できない筋金入りの嗜好を持ってるの」
姉ですら知らなかった自分の異常性を咲夜に打ち明ける。
「だから、咲夜が私で実験してくれた一週間は五百年近く生きてきて最高の日々だったわ」
被害者を装い無力な少女を演じ、怯えた表情の裏で、切り取られた皮膚の下で、潰された臓器の奥底で、フランドールは満たされていた。
「いくら腕を返すといわれても、あんな死ぬ一歩手前まで何度も痛めつけられて抵抗しないなんて、普通有り得ないでしょ?」
復讐の魂胆を知り、自身も楽しめると思ったから、あえて利用されていた。
「あ、優しくされるのも普通に好きだよ? そこは間違えないでね」
レミリア以上にこの妹は狂っていた。
「咲夜にはすごい才能があるわ。だからそれで私をこれからも満足させて欲しいの、一週間なんて言わないでもっと延長して」
まるで遊びに誘うかのような口調だった。
フランドールが浮かべた笑みは、どんな怪物より悪魔より妖怪より人間よりもおぞましいものだった。
(続ける? まだこの関係を?)
脳がそう理解した時、ありえない量の脳内麻薬が咲夜の神経に注入された。
姉妹二人から太鼓判を押されたことで、咲夜の中で眠っていた才覚ははっきりと形になった。

「はい。仰せのままに」

フランドールに負けない笑みで咲夜は答えた。

























紅魔館の地下室。
フランドールの部屋とは別に、もう一つ部屋があった。
相手の自由を奪い、傷つけ、死に至らしめることを目的として作られた道具しか置かれていない空間。

その部屋に最初に入ってきたのはフランドールだった。
着ている服をすべて脱ぎ、壁から伸びる手枷を自ら捕えられ、両手の自由を放棄する。
「今日こそは一番最初だと思ったんだけど」
「あら、お姉様」
しばらくしてレミリアがやってきた。
彼女も服を脱ぎ、部屋の中にある拘束具から自分が使うものを品定めする。
「これにしようかしら?」
首と手を同時に拘束できる木板を選んだ。
「これ。一人じゃセットできないのね。手伝ってくれない?」
「無理。もう捕まってるもん」

鍵はすべてこの部屋の主人が管理しているため、主人の許可が無ければ開かない。

「ていうか、なんで勝手に入ってくるの?」
「いいじゃない。ここは元々私が用意した部屋よ・・・・今日はこれでいいか」

足をラバー製の筒に突っ込みベルトをキツく絞めてから、鎖つきの首輪をはめてフランドールの隣にあるフックに繋げる。
姉妹が並ぶ。

「私の責めじゃ満足できなかったの?」
「腕を奪うのは素敵だったけど、その後が全部駄目。あんな独りよがりなヌルいプレイ、オナニー見せられてるようなものよ、何度殺してやろうと思ったか。やるなら処刑する気でやってくれないと」
「・・・理解できないわ」
「しなくて結構よ」

やがて扉が開き。この部屋の主人が最後にやってくる。
主従、快楽、良識、この部屋では全てが反転する。

「今晩はお嬢様方、今宵はどんな責めをご希望ですか?」

「乱暴に犯して頂戴。泣いても血が出ても決してやめないで」
「グチャグチャにして、いっそ死を望むくらいに悲惨な目にあわせて欲しいの」

「お任せくださいませ」

姉妹から期待の眼差しを向けられて、メイド長は妖艶に口元を歪め恭しく頭を下げた。
作中でのフランちゃんの心境。
お嬢様→そっちばっかり気持ち良いだけで、私全然気持ちよくないんだけど!?→殺意
咲夜さん→相性ぴったりな上、テクニシャンなのね! もっと抱いて!→デレる

大体こんな感じ。

※SMプレイは信頼する相手と合意のうえでやりましょう。

2011/8/9 ご指摘くださった、誤字脱字を修正しました。ありがとうございます。

今回コメントをくださった皆様、本当にありがとうございます。

>>1.NutsIn先任曹長 様

一言でいえばこれは茶番なのでしょうね。

>>2. 名無し 様

ありがとうございます。これ系のSSはまた書きたいと思います。大好きなので。

>>3. 狂い 様

オチをちょっと捻ってみました。気に入ってきただけたら幸いです。

>>4. Pa 様

ありがとうございます。自分の過去SSでお気に召すものがあれば良いのですが・・・

>>5. 名無し 様

毎日フランちゃんのこと考えているとこうなります。

>>6. 名無し 様

全力で同意です。それがこのSSの原動力です。

>>7. pnp 様

けれど、pnpさんのストーリー構成力には敵いません。

>>8. しゅず 様

過去SSから散々痛い目にあわせているので適応したのかもしれません。

>>9. 紅のカリスマ 様

色んなフランちゃんが好きですが、
マゾっ子フランちゃんはその中でもかなりそそるジャンルです。

>>10. あまぎ 様

こちらこそあまぎさんの拷問作品からは色んなものを吸収させていただいています。

>>11. 名無し 様

今回の主役は咲夜なので、咲夜中心の描写にしました。
この件に関わらなかっためーりんと小悪魔はきっと一番幸せなのです。

>>12. 筒教信者 様

この姉妹は虐められると真価を発揮すると勝手に思っています。

>>13. 名無し 様

ちょっとピエロ的な役回りになってしまったので、そういう意味では酷い目に遭ってます。

>>14. 名無し 様

体の表面を撫でるような責めではなく、
命を削るハードな責めじゃないとこのフランちゃんは満足しないのです。
おっしゃる通り、鞭で叩かれながら「下手糞」って思ってます。

>>15. 名無し 様

その認識で間違いありません。

>>16. 名無し 様

自分も変わってほしいです。

>>17. Neumann 様

淡々と容赦ないことを繰り返す咲夜さんを書いてみたいというのが、このSSを書いた動機のひとつです。
そこを評価していただけると書いて良かったと心から思えます。

>>18. 名無し 様

楽しんでいただけて本当にうれしいです。

>>19. 名無し 様

自分に絵心があれば・・・

>>20. 名無し 様

珍しく姉妹そろってハッピーエンドな雰囲気で終わった気がします。

>>21. 名無し 様

これからもエクセレントと言っていただけるSSを書けるよう頑張ります。

>>22. 名無し 様

ご指摘ありがとうございました。修正しました。

>>23. 名無し 様

『咲夜さんを主軸にした三人称視点』をイメージしてこのSSを書いたのですが、分かり辛かったですよね。
次回はもっと読みやすい文章にできるよう心がけます。
木質
http://mokusitsu.blog118.fc2.com/
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/05 00:44:07
更新日時:
2011/08/09 23:03:31
分類
フランドール
咲夜
レミリア
拷問
処刑器具
SM
8/9誤字修正、コメント返し
1. NutsIn先任曹長 ■2011/08/05 01:56:05
これは、自分をいたぶる理由(Reason)を欲した女主人の物語。
これは、自分をクソッタレな状況(Fuck)に置く事に快感を覚えた不死の少女の物語。
これは、自分の仇敵に死ねと願う事に輝き(Shine)を求めた従者の物語。

素敵な実験ショーでした。
素敵なSMショーでした。
素敵な茶番劇でした。

素敵な紅魔館の物語でした!!
2. 名無し ■2011/08/05 02:22:25
個人的に、産廃以外も含めて、今年度で見た東方SSで一番おもしろかったです。
ストーリ構成がとても面白く、基本的な鞭のルールとか、かなりマニアックな知識が豊富でした。
途中まで、ずっとフランが被害者だと思っていましたが、まさか、こうなるとは、第一印象で加害者であった、おぜう様がとんだピエロに・・・。
てかフランちゃん、パネエ。

東方&SM作品は、おもしろいのが多いので又機会あったらお願いします。
3. 狂い ■2011/08/05 04:08:31
レミリアが紛れていたのは想像がついたが
そこからまた転換させるなんて。引きずり込まれるように読んでしまいました
4. Pa ■2011/08/05 05:22:36
相手が吸血鬼ならではの、ハードな拷問紛いのSMプレイの描写もさることながら、
読者に色々予想させる材料を提示しながら、想像もつかない落ちで締めくくるという
全盛期の綾辻を彷彿させるストーリー構成が秀逸でした
思わず、今まで投稿なさってた作品全て読み漁ってしまい、気がつけばこんな時間に・・・w
5. 名無し ■2011/08/05 07:49:38
最高でした。咲夜がslaveと刺青を入れるところと実は刺青を入れた相手はレミリアだったところが秀逸でした。
どうやったらこんな展開を思いつくのか・・・・・・脱帽です
6. 名無し ■2011/08/05 08:11:55
虐められるフランちゃんは やっぱり かわいい な
7. pnp ■2011/08/05 08:43:40
おもしろかったです。
8. しゅず ■2011/08/05 09:57:04
とてもよかったです。
交錯するそれぞれの思惑、どんでん返しの秀逸なミステリー展開。
そして何よりも、吸血鬼であるが故の極限のマゾヒズムに目覚めているフランちゃんがツボ過ぎました。
9. 紅のカリスマ ■2011/08/05 11:04:06
マゾヒスティックなフランちゃん可愛い。
10. あまぎ ■2011/08/05 13:16:27
>「私(レミリア)が私(フランドール)で遊べば、両方の快楽を同時に味わえると思った」
『吸血鬼は鏡に映らない』という設定を、ここまで上手くストーリーに組み込んだ作品は初めて見ました。

あと、『SAKUYA’S SLAVE』。
これを半角ではなく、わざわざ全角にして描写したのは、素人の刺青による文字の独特なゆがみ具合を表現しているのですよね、多分。
いやぁ、勉強になります。素晴らしい作品をありがとうございました!
11. 名無し ■2011/08/05 15:05:29
めーりんふらん みたいに、咲夜以外の描写がないなーと思ったら、そういう事でしたか
全く名前が出てこない、めーりん 気の毒に
12. 筒教信者 ■2011/08/05 22:09:54
エロとグロが高水準で纏まっていて、夢中になって読みました。
やっぱりスカーレット姉妹はいじめられている姿が似合いますね。
素晴らしい作品をありがとうございました。
13. 名無し ■2011/08/05 23:57:15
木質さんの作品にしては、最後にレミリアがあんまり酷い目に遭ってなかった。
いや、遭ってると言えば遭ってるんだけど

あとフランがとにかくかわいい
14. 名無し ■2011/08/06 14:54:27
下手っぴなレミィとか新鮮だなあ
責められてる内心で童貞めとか毒づいてるフランちゃんを想像したらマジ可愛い
15. 名無し ■2011/08/06 17:40:30
レミリア→ ソフトM
フラン→  超ハードM
咲夜→   ハードS
             って認識でいいのか?
16. 名無し ■2011/08/06 17:42:06
レミリア←オナニー乙と言われても泰然自若なお嬢様マジカリスマ

フランちゃん←責められてる姿可愛いすぎ。被虐大好きなフランドールもありですなあ

咲夜さん←おいメイド長そのポジション代われ、いや、代わって下さい
17. Neumann ■2011/08/06 20:26:10
刻まれた刺青の意味は、「咲夜の奴隷」……非常にぞっとしました。
この咲夜さんはとても素敵。
18. 名無し ■2011/08/07 00:03:37
エロ描写はないのにものすごくエロくてすごく抜けました
よかったです
19. 名無し ■2011/08/07 09:51:36
挿絵付けて本にしたら絶対売れる
20. 名無し ■2011/08/07 20:45:21
あともう一回くらい姉妹逆でしたーなんて事があるのかと思ってあとがきまで身構えていたがハッピーエンドで良かった
21. 名無し ■2011/08/09 13:46:14
ハッハー!エクセレントッ!
22. 名無し ■2011/08/09 19:47:28
たっぷり愉しんだフランちゃんとベッドで一緒におねむか…完璧だな

なんか所々視点が飛んで「?」となりました。
導入で咲夜さんがレミリアとフランドールって呼び捨てするのは新鮮だなと感じつつ、途中からは展開的にそっちの方が自然になってなるほどと会得しました。でも実際普段はどうなんだろう。
23. 名無し ■2011/08/13 13:16:15
めでたしハッピーエンド!
これで明日の三日目乗り越えられそうです。肥えた肥えた。
24. 名無し ■2011/08/23 22:13:45
何とも意外な展開
しかもまさかの大団円とは…感服しました
25. 名無し ■2013/08/28 14:54:55
すばらしい!
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