産廃百物語A『埋火』

作品集: 28 投稿日時: 2011/08/19 00:37:08 更新日時: 2012/01/09 18:20:23
 
 
ノラ
 
 ええと、じゃあちょっと長くなるけど、真面目に聞いてね。ちょっと笑わないでよ蓮子、私真剣なんだから。

 この間ね、また夢を見たの。いや、いつもどおりの夢。最初は特に妙なこととかは起こらなかったわ。
 場所は確か森で、もう真っ暗で、空気はあんまりよくなかったかな……なんだかどんよりしててねえ。
 えーと、その森をしばらく歩いたらぼろっちい家があったの。そこに女の子が住んでて、いやその子は普通だったのよ。違うって、お化けでもお婆さんでもないって。もうちゃんと聞いてよ。
 んとね、なんか変な、ハロウィンの仮装服みたいな格好してて、そうそう、黒い服に大きな三角帽子……でも普通の女の子だったの。



 迷ったって言ったら快く家に入れてくれた。で、外は危ないから今日はここに泊まってけって言われたのよ。
 でもその部屋、っていうかその家の中どこもかしこもなんだけどさ、もうメチャクチャ汚くて、物とか本がそこら中に転がってて。
 うんそうね……こう言っちゃ失礼だけどあんまり居心地はよくなかったかなぁ。
 まあ外に出ていつもみたいに化け物に追われるのもいやだったし、とりあえず従ったのよ。




 で、実験がどうとか言って、その女の子は別の部屋に行っちゃった。
 実験っていうのにちょっと興味あったんだけど、なんせホントに足の踏み場もないのよ。
 下手に動き回ると物が崩れて私が生き埋めになっちゃいそうで、仕方なく一番安全そうだったベッドに腰掛けて帰ってくるの待つことにしたのよね。


 薄暗い部屋、やけにしんとしてて、変な感じだった。外を彷徨ってたときに聞こえたはずの獣の声とかも全く聞こえない。
 どれくらいそこで待ってたのかなあ。ふっと気配を感じたの。部屋には私しか居ないはず。顔を上げて思わずぎょっとした。


 部屋の真ん中にね、女の子がいたの。「こんばんは。綺麗な人だなあ……」
 そうそう別の。ちがうちがう。白い着物でも長い黒髪でもないって。もっと幼い、小学生ぐらいの背格好した娘。「小学生ってなんだろ? でも私そんな子供じゃないよ、うふふ」
 ごめんね、貌はよく覚えていないの。でもにこにこ笑ってて、なんかとっても人懐っこそうだったのは覚えてる。「えへへー」
 暗くて細かいところはよく見えなかったんだけど、やっぱりつばの広い、黒っぽい丸帽子を被ってて、それでなんかすごくひらひらした、けっこう派手な服着てたわ。うん、洋服。ドレスみたいなやつ。「これお気に入りなんだ。お姉ちゃんがくれたの」
 知らない娘だったけど、あの女の子の妹かなんかかなあと最初思ったの。いや今になってよく考えてみたらおかしいじゃない? 突然部屋の真ん中に小さな子が立ってたとかさ。「魔理沙の妹? ちがうよー 魔理沙はお友達。でも魔理沙がお姉ちゃんっていうのもいいかもね♪」
 でもその時はなんとも思わなかったのよ。なんでかな、全然怖いと思わなかった。まあ夢だしね。「それはそうだよ。私が本能を操作してるんだから。みんな私に会うと怯えるんだもん。こうしないとお話もできないんだ」
 その娘、とてとてーって私の方に駆け寄ってきて、そのまんま私の横にちょこんと腰掛けてね。「うふふ、かわいいなあ。綺麗な金髪。私も金髪が良かったなあ」
 じーっと私の方見てるの。なんか気まずいじゃない? 私が勝手に押しかけてきたわけだしさ、だから、「そんなことないよ。私だって勝手に押しかけてるわけだしね。優しい人なんだね。うふっ、かわいいなあ」
「はじめまして」「挨拶されちゃった。綺麗な声なんだね。小鳥みたい。前飼ってたんだ。飽きたから殺しちゃったけど。ああそうだ、こういう時は挨拶しないといけないだっけ?」
って挨拶したの。その娘もお行儀よく頭を下げてきて、「前お姉ちゃんや魔理沙に言われたなあ。えーと、なんて言おっかなぁ……」
「こんばんは。貴女はだぁれ?」「こんな感じでいいのかな? お名前を訊くんだよねふつう。心が読めればそんなのすぐ分かっちゃうんだけど、もう私には分からないし」
って訊かれたの。だから一応名乗ったんだけど、ほら私の名前言いにくいじゃない?「ううんと、マリベリ……? 難しいなあ。下にはそういう名前の人あんましいないし、それに名前覚えるの得意じゃないんだよね」
 なんかむこうも困った顔してたから、「じゃあメリーでいいですよ」ってね。「メリーかぁ。かわいい名前だね。ああ本当にかわいいなあ。メリー、メリー」
 そしたら向こうもぱぁっと明るい顔して、「はじめまして、メリー」って。「メリーも笑ってくれた。うれしいのかな? メリーは私といるとうれしい?」
 その娘の名前? ああ、ちゃんと教えてもらったはずなんだけど、なんだっけなぁ……なぜか覚えてないのよね。「ああひどいなぁ。ちゃんと言ったじゃない? 私の名前。ちゃんと覚えててよね、メリー」
 変わった名前だった気がしたんだけど、まあ夢だとよくあるのよ。例の大きな三角帽の女の子も名前教えてもらったんだけど覚えてないし。「あの子は魔理沙。私の友達。いつか地霊殿に連れて帰るんだ。そこで飼うの。なかなか言うこと聞いてくれないんだけどね、うふふっ」
 それでどうしたかって? いや別に何にもないの。襲ってきたとかないって。「襲ったりなんかしないよ。メリーは私の大切な人だもん。大事に、だぁいじにしないとね」
 その女の子、ずっと私の横に引っ付いてて、なんだか懐かれちゃったのかしらね。こっち向いてにこにこーって。「うん、私メリー気に入っちゃった。大好き。大好きだよ」
 ……うーん、気持ち悪かったって印象はなかったと思うわよ。その笑顔自体にはね。「ああ、なんか胸がドキドキしちゃう。メリーのこともっと知りたいなあ。ねぇ、教えて? メリーのこと、もっともっと」
 まあそんな感じだったからさ、私も特に話したりとかしないで、ただ微笑み返してたぐらいで。そしたらいきなりその娘が、「メリーの髪きれい。お肌も白くて、指も細くて、声もかわいくて、唇もピンクで、あとのそのおめめ。とっても綺麗。変わった力があるんだね。後天的じゃなくて先天的な力なのかな。面白いものが見えるのかな。どんなものが見えるんだろう?」
「メリーのおめめ、変わってるのね。」「私は自分の瞳を閉じちゃったから、心が見えなくなって、でも無意識が見えるようになった。メリーは何が見えてるのかな? その眼を抉ったら、メリーは何が見えるようになるのかな? どんな声で泣くのかな? やっぱりかわいい声なのかな? ああ、私もっと世界のこと、メリーのこと知りたい!」
って。そこでちょっとヤバイと思ったのね。そういえばここは妙な生き物が居る世界だったんだって。「妙……そうだね、覚は嫌われ者だもんね。メリーも私のこと嫌いになっちゃうのかなあそんなのイヤだなあ」
 ほら、よくあるじゃない。子供の幽霊が家に住み着いてるとかさ。そういうのかなあと思ったの。死んでるのを自覚してないタイプは危ないっていうわよね?「あはは幽霊なんかじゃないよ。覚は妖怪。人を食べちゃうこわぁい生き物。でも私はメリーを食べたりなんかしないよ。メリーのこと大好きだもん。だからいつまでもいつまでもメリーと一緒にいたい。みんな私のこと避けて一緒にいてくれないんだもん」
 その娘もそれ言ったきり。うん。横に座ったまま、笑みを絶やさない。顔はこっち向けてるんだけど、全然違うものを見てるような。返事なんか待ってない、そんな感じ。「ああメリー、メリーと一緒にいたい。メリーをお部屋にいつまでも飾っておきたい。どこに飾ろうかなぁ。ベッド? ドア? 天井に飾りましょうか、そうすればお休みする時にずっとメリーの綺麗なおめめを見ていられる」
 ああどうしよう、助けを呼ばなきゃと思ってたらさ、何でかな、また怖くなくなったのよ。すぅーって。「あれ、メリー怖い? 大丈夫だよ。本能を操作して恐怖を消してあげるね。ほら、怖くなくなったでしょう? 平気だよ、私と一緒なら何にも怖くない。無意識の中なら怖いものなんて何にもないんだ」
 ほんとほんと、もうまったく。不安とか焦りとかみんななくなって。「そう、不安も畏れも、なんにもない。ねえ行こうよメリー。大丈夫だよ。ねえ……あ、魔理沙が帰ってくる」
 そしたらその娘が、「ごめんねメリー。今すぐは無理になっちゃった。魔理沙に見つかるとまた怒られちゃうかもしれない。こないだも素敵な人間を連れて帰ってペットにしたら魔理沙や霊夢に怒られちゃったんだ。ちょっと待っててね。でも突然帰ったら嫌われちゃうかなぁ? なんか言わないと。お別れの挨拶」
「ああ、もういかなくちゃ。ごめんね。ねぇメリー、また遊んでくれる?」「こんな感じでいいのかな? また嫌がられちゃうかな、やだな、メリー、メリーとは別れたくないな」
って言ってきたの。相変わらず満面の笑みでさ。だから私も「また嫌われちゃうのかな。私なんかと遊んでくれないのかな。メリーにはもう会えないのかな。悲しいな。そんなのいやだな。メリー、メリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー」
「う、うん、いいよ」「……え、ほんと? ほんとにいいの? 私なんかといてくれるの? ……メリーありがとう。メリー、メリーは本当に優しいんだね……」
って言っちゃったのよね。いやあの笑顔は無理よ。だってあんないたいけな顔した子供にそんなこと言われたら誰だって思わずそう言っちゃうって。その娘うれしそうに、「そんなことないよ。みんな私のこと嫌がるんだ。こないだペットにした人間だって結局私のこと嫌いになっちゃったんだ。みんなそうなんだ。だからそいつは捨てちゃった。メリーは違う。メリーだけだよ。そんなこと言ってくれたの」
「やったぁ。じゃあね、また会おうね、メリー」「本当にありがとうメリー。大好きだよメリー。絶対に会いに行くからね。そしたら一緒に地霊殿に行こうね。お姉ちゃんにも見せてあげよう。私の大事な友達なんだって、自慢しちゃおう。こんなかわいいペット、お姉ちゃんだって持ってないもんね。メリー、お燐やおくうも紹介してあげるね」
って言いながらドアから出て行ったわ。ちゃんと開けてよ。突然消えるとかすり抜けるとかじゃなくて。「絶対迎えに行くからね。約束するから。メリー、ごめんね」
 そしたら、例の三角帽子を被った女の子が入れ違いみたいな感じで入ってきてね。「ああ魔理沙だ。ちゃんと気配を消さないと魔理沙にはばれちゃう。魔理沙も一緒に連れてってあげるよメリー。魔理沙も私のお友達、メリーと同じお友達」
「悪い悪い、飯にしようや」「魔理沙も私に優しいの。私なんかとも仲良くしてくれる素敵な人間。だからいつか魔理沙も地霊殿にお持ち帰りするんだ。メリーと一緒だね。魔理沙はどこに飾ろうかな。メリーと並べてみようか。魔理沙の腸で文様を描いて、メリーの周りを囲む感じにしようかな。なんか壮大な感じだね。あとでお燐に相談しよっと♪」
って話しかけてきた。だから私も「妹さんは一緒じゃないの?」って訊いたのよ。「魔理沙も綺麗な金髪。私も金髪に生まれたかった。こんな色してるからバカにされたんだ。気持ち悪いちかよるなこの化け物めって心の中で。魔理沙もメリーもそんなこと言わないよね」
 姉妹だったら一緒に食べるはずでしょう? 入れ違いだったんだから会わないわけないし。でも一人しかいなかったから。「今まで連れて帰った奴らもみんなおんなじこと言ったんだ。気持ち悪い、お前なんか嫌いだって。なんでだろう? 私はみんなのこと大好きだったのに、みんな私のこと嫌がるんだ。だから私も嫌いになった。みんな殺してペットに食わせた」
 でも私がそう言ったらその子すっごい怪訝な顔して、「でもメリーも魔理沙も違うんだ。私のこと大好きでいてくれる。だからいつまでも一緒にいたい。いつまでも一緒でいられるように殺して飾っておきたい」
「妹? お前何言ってんだ?」「そりゃそうだよねぇ。魔理沙に妹なんかいないんだもの。でも本当にメリーと魔理沙の妹になれたらいいのになー」
って。ああやっぱり変な霊だったのかなと思いながら、事情を話したの。「だから幽霊じゃないよぉ。うふふ、私は妖怪だって」
 その子さ、それまでずっと人を食ったような明るい感じだったのに、みるみる固い表情になっちゃって。「魔理沙大丈夫? なんだか怯えてるみたいだよ? ねえ、怖い顔しないで?」
 いやそりゃ私だって不安になるわよ。終いには向こう頭抱え出したんだから。しばらく黙ったままだったその子が、「メリーもそんな顔しないで。私はここにいるよ。うふふっ、でもメリーのそんな顔もかわいいね。魔理沙もかわいい。ああ二人ともどんな顔するのかなあ。毎日一緒にいたらきっとまだ私が見たことのない顔をするんだろうなあ。見たいなぁ」
「わかった。予定変更だ。今すぐ出かけるぞ」「あれ? どこ行くの? ご飯は食べなくていいのかなぁ。まあいいや。メリー大丈夫だよ。私も一緒に行くからね」
って言って私の腕引っ張っていってね。で……ああ蓮子本当に笑わないでね。それで私、その、箒に乗って飛んでいったの……空を。
 もうだから笑わないでって言ってるでしょう! ホントなんだって。その子が箒にまたがって、で私がその子の背中にしがみついてね、箒で空飛んだの。
 ああやっぱり信じてない。もういいわ。
「そんなに笑うことじゃないのにねぇ。でも箒で飛ぶなんて魔理沙だけだから、確かに面白いのかもね。メリーや魔理沙と一緒にお空を散歩……楽しいなあ」
 でね、とりあえず神社に連れてかれたのよ。結構立派な神社。当然夜遅かったから閉まってたんだけど、その三角帽の子そんなこと一切気にしないって感じでさ、慌てた様子で雨戸どんどん叩いて。「博麗神社に行きたかったんだね。ここにも私のお友達がいるんだよメリー。でももう今は寝ちゃってるかもね」
 しばらくしたら巫女さんが出てきた。なんだか仏頂面で、はっきり言って愛想はよくなかったわね。寝ようとしてたとこ無理やり起こされたからだったのかな。そんな格好してたし。「ああ霊夢だ。こんばんは霊夢。ふふっ、相変わらず霊夢は欲動に素直だねぇ。睡眠をジャマされて不機嫌でいっぱいだ。霊夢もね、私を嫌ったりしないのよメリー」
 ただその帽子の女の子の話を聞いてたら段々険しい表情に変わっていって、二人でひそひそ話しながら、こっちをじろじろ見るのよ。「みんなとおんなじふうに扱ってくれるの! だから霊夢のことも大好き! いつか霊夢も地霊殿に連れて帰るんだ。お姉ちゃんも霊夢のことほしがってたけど、霊夢は私のペットなの」
 「×××はあてにならない……」とか「姉も無理だ……」とか色々言ってたけど、要するに他の助けは望めないって結論に至ったみたいね。「お姉ちゃんは頼りにならないもんね。お友達が3人も。うれしいなぁ! どうやって飾ろうかなぁ。エントランスに霊夢と魔理沙……大丈夫、メリーは私のお部屋に絶対飾ったげるからね、うふふ」
 その巫女さん一旦奥に引っ込んだんだけど、すぐ巫女服来て戻ってきた。変な巫女服だったけどね。頭にリボンつけてたし、フリルついてたし……あああと笑わないでね、腋があいてたわ。もうやっぱり笑ってる!「そうだね、なんで霊夢の巫女服って腋があいてるんだろう。私は好きだけどね。地霊殿に行ったらメリーにもこの服着させてあげる。魔理沙の服とかも似合うかなぁ。お姉ちゃんに頼めばどんな服だって用意できるよ。メリーだったらなに着ても似合うもんね」
「あんたこっちの人間じゃないわね?」「あ、そうなんだ……メリーは幻想郷の人間じゃないんだ……困ったなぁ、それじゃあ連れて帰れないのかなあ。うーんどうしよう……」
 いきなり面と向かって言われたのがこうだった。すっごい怖い顔で。「今ここで霊夢と魔理沙殺して持って帰ろうか……でも2人とも私のお友達だし、でも3人一緒に連れて帰るのは大変だしなあ……」
 そもそも"こっち"って何よと思いつつ、まあ思い当たる節もあったから頷いたわ。
 それでこっちの事情を話してみたの。夢の話とかね。てっきりバカにされるかと思ったけど、結構信じてくれたみたいね。
「やっぱり外の人なのかあ、ううんどうしよう……」
 ついでに気になったから訊いてみたのよ。「あの、やっぱりあの娘……マズイものなんですか?」って。そしたら、「じゃあメリーを殺す?……ダメだ、メリーはまだ死体にしたくない。一緒にお話したい。まだまだ遊びたいこといっぱいあるもん」
「あんまりいいモノじゃないわ。知らないほうがいい。」「ねえメリー私と一緒に行こう? メリーと別れたくなんかない。約束したじゃない? また遊んでくれるって。いやだよ。これでお別れなんかいや。メリーは嘘吐きなんかじゃない、メリーは私のお友達なんだ」
 それだけだった。私が返事する前にその巫女さん、「あんた名前は?」って訊いてきてね、だから「マエリベリー・ハーンです」って答えたの。「……違うよ。メリーだよ」
 そしたらぐっと肩を掴まれて、こんなこと言われた。「そんな名前じゃないもん。メリーだもん。ねぇメリー? メリーはメリーだよね?」
「メリー? メリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー」

「いい、ハーンさん。あんたはハーンさんだからね。それを忘れないで。あんたを元の世界に返してあげるけど、でも今すぐは無理。多分あいつはあんたのこと気にいってまだ近くにいる。夜が明ければ力は弱まるはずだから、それまではここで我慢して。外は私達が守る。だからあんたはマエリベリー・ハーンであることを忘れないで。」「メリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー」
 ぞっとした。もちろんまだ"いる"っていうも怖かったんだけど、それ以上に巫女さんの言ってることの意味が分からなくて。「メリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー」
 私が私を忘れるなって、いったいどういうことなのかしら、そう思ったのよ。「メリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー」
 そのまま神社の奥に連れて行かれた。問答無用よ。それで巫女さんと帽子の娘から、「ダメだよ。メリーは行かせない。絶対に連れて帰るんだ。メリー、帰っちゃやだよ。帰らないで。一緒に帰ろう?」
「この部屋を封印するからハーンは夜が明けるまで絶対にここから出ないように。誰に声を掛けられても答えないように。私達は外で見張っているから」「そんなものは効くもんか。メリーと一緒にいるんだ。メリーは私のお友達なんだ」
とだけ言われて戸を閉められた。「大丈夫。お部屋には私もいるから。メリーと離れ離れになんかなりたくない。ずっと一緒だよ」
 貰ったのは小さなお守りと、簡単な食べ物、それで蝋燭が何本かと、あとお札ね。戸を閉めたらこれで内側からも塞げと。「こんなところに閉じ込められて……メリーかわいそう、早く私のお部屋に行こう? もっと美味しいもの食べさせてあげる。メリーはどんなお肉が好き? 鴉? 猫? それとも人間?」
 部屋の中にはご神体とかもなくて、ホント何にもない殺風景な部屋。「でも私がいるよ。メリーと二人っきり、なんかドキドキしちゃうなあ、なんでだろ」
 でもよく見るとそこら中にお札が貼ってあって、気味悪かったわ。「ほんとだ。お札がいっぱい。ああ……私も能力をちゃんと使うことはできないみたい。でもいいよ」
 床は板張りで、動くたびにギイギイ軋むの。結界の切れ目を探してみたんだけど、ヒビどころか針の穴一つなくて、息苦しささえ感じた。「ここにはメリーがいる。それだけで幸せなんだ……」
 仕方ないからそこでうずくまって、もらった食べ物少しだけ胃に押し込んで……でもやることないのよねえ。「メリーといられるだけで幸せ。メリーを見ているだけで幸せ」
 あの娘は結局なんだったんだろうって考えてた。やっぱりたちの悪い幽霊だったのかなあって。「ああ、私のこと考えてくれてるんだねぇ、少しずつ本能的な恐怖が甦ってる」
 子供の幽霊に魅入られて、地獄に引きずり込まれる……どっかで聞いたような怪談話の主人公になってると思うと、いくら夢とはいえねぇ。蓮子もそう思う?「うれしいな、メリーが私のこと考えてくれてる。私のこと思い出してくれてるんだ」
 でもこっからホントに怖かったんだから。「ああやっぱりメリーに会いたい! メリーとお話したい、メリーに触れたい、メリーと愛し合いたい! メリーメリーメリー! 大好きメリー! ああ出られない、実体化できないよ。あの結界のせいだ。霊夢ったら、私とメリーの仲を邪魔して、あとでちゃんと言っとかないとね。私とメリーはもう友達なんだって、遊ぶ約束したんだって。ああ、くそぅ、顕在化できないよ。メリーに私のこと感じてもらえないよ。そんなのやだよ。メリーに会いたいよ。メリー、お願い気付いてメリー、メリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー」
 いつごろだったかな。もう夜更けすぎだったのは確か。ちょっとだけうつらうつらしてたの。そしたら"いる"のよ。すぐ横に。「……メリー、私のこと気付いてくれたんだね!? 本当に気付いてくれたんだ。ああメリー、大好きだよメリー!」
 そう、小さな子供みたいな気配がね。ううん見てはいない。「姿は、見えないのね……でも私のこと感じてくれてるんだ。ああダメだ触れない。あのお守りのせいだ」
 でも、こうなんていうかなぁ。肩越しから撫でられるような、そういうぞっとする感覚。それが少しずつ大きくなっていくの。「メリーが震えてる。ほっぺがふるふるって……なんてかわいいの。ああ、もっと怖がらせたらどんな顔するんだろう? もっと痛めつけたら、もっとひどいことしたら、どんな声出すんだろう?」
 顔なんて上げられないって。横にそいつが立ってて、じーっと見られてる気がした。「もっとメリーのこと知りたい。ねぇメリー、こっち向いて? メリーのお顔、もっと見たいよ。メリーはどんな顔して泣くの? なんて叫んでくれるの?」
 お守りぎゅっと握って、もうガタガタよ。ホントにいるんだもん。息づかいまで聞こえてくるようで。「メリーの内臓はどんな色しているの? メリーのお肉はどんな味がするの?」
 終いには床の軋む音までするのよ。私の周りをぐるぐる回ってるみたいな音を立てて。「メリーの血はあったかいの? メリーはいまわの際になんてさえずるの?」
 どれくらい続いたのかなあ。なんだかわかんないけど、ずっとそいつは私から離れない。いつまでも。そんな気がして。生きた心地しなかった。「ああ知りたい知りたい。メリーのこともっと知りたい! ねえメリー、もっと私のこと感じて? メリー、もっとお話したい、いろんなことしたい、殺したい、犯したい、愛したい
 ……ああ、メリー泣いちゃいそう。メリーの泣き顔ももっと見たいけど、でも笑ってる顔も見たいな。私メリーを悲しませたくないから。そうだ、メリーを落ち着かせてあげなきゃ。メリーが安心できるように、私頑張ろう」

 そしたらね、扉ごしに声を掛けられたの。「メリーの無意識から、今一番会いたい人の、聞きたい声を呼び出して、それを聴かせてあげるね。元気出してメリー。お願い」
 誰からだと思う? あんたよあんた。蓮子。「メリー、大丈夫?」ってね。「蓮子って言うんだね。どんな人なのかなあ。メリーの愛が伝わってくる。蓮子って人への愛」
 私跳ねるみたいに顔上げてさ、思わず声の方を見たわ。「いいなあ、私もこうやって愛されたい。メリー? 私のこと愛してくれる? 蓮子みたいに」
 とんとんって扉を叩く音がして、「メリー、もう平気よ。私がいるから。」ってずっと蓮子が励ましてくれるの。「大丈夫だよ。メリーが蓮子を大好きなら、私も蓮子のこと大好きになれるから」
 ホントに嬉しかったのよ。ああよかった、蓮子が助けに来てくれたんだって。私もなにか返事しようとして口を開きかけた瞬間思い出した。「だから、メリーが会いたいならいつでも蓮子に会わせてあげる。無意識の世界で。だって集合的無意識は全ての存在に共通する無意識。そこを辿っていけばいつでも蓮子に会えるから。メリーに寂しい思いなんかさせないよ」
 今自分がどこにいるか。あの巫女からなんて言われたか。「だから大丈夫。この幻想郷にいてもいつでも蓮子に会えるよ。そんな不安にならないで。ああまたメリー辛そう。本能が怯えを見せてる。さっきはあんなに愛が満ちていたのに。メリー落ち着いて、私がいるよ」
 嫌な汗がだらだら垂れてくる。「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」
 "そいつ"はずっと蓮子の声で私に呼びかけるの。「メリー大丈夫? 私がいるよ」って。「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」
 私に返事させようと、私に扉を開けさせようと。「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」「メリー大丈夫? 私がいるよ」
 次はあの大きな三角帽の女の子の声、それに巫女さんの声まで聞こえてきた。「もう大丈夫よ、開けて」って。「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」
 まだ夜は明けてないのに。「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」「もう大丈夫よ、開けて」
 蝋燭の光がつくる影が壁に当たった。「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」
 私の影の横に立ってるの。あの、つばの広い、大きな丸帽子を被った、小柄な影が。薄い影、陽炎みたいなね。「お願い気付いて。メリー気付いて。」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」
 あの時ぐらい神様にすがったことはなかったわ。「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」「お願い気付いて。メリー気付いて」「もう大丈夫よ、開けて」「メリー、私がいるよ」
 巫女さんに言われた言葉を思い出した。私はマエリベリー・ハーンなんだ、マエリベリー・ハーンなんだ、メリーじゃないんだって……いやバカみたいかもしれないけど、それぐらいしかすがれるものがなかったのよ。「メリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリーメリー」



 気付いたら夜が明けてた。寝ちゃったのかな。
 上の方に小窓があって、まあそこもお札でぴっちり封がされてたんだけど、そこから朝日が漏れてきて。
 太陽の光ってあんなに人を元気付けるもんなんだってはじめて知ったわ。体から力が抜けちゃってね。
 そしたら突然扉が開いて、入ってきたのは巫女だった。

「お疲れさん。よく頑張ったわね。」

 そう言われながら抱きしめられた。なんだか涙が出てきて……そのまま眠っちゃったみたい。
 眼を覚ましたら我が家のベッドだった。そんな感じ。

















     ――みぃつけた♪







「……どう思う、蓮子?」
「会いたかったよメリー。ずっと会いたかった」
 そこまで言い終えたメリーは、おずおずと宇佐見蓮子の方を覗きみた。こちらは特に表情を変えることもなく、頬杖の上で柔らかな笑顔をつくる。
「ずっと探してたんだよ。集合的無意識の海をたどって、メリーの声を辿って。やっと見つけた」
「まあ、よくある怪談ね。私としてはなかなか楽しめたけど」
「ああ、この子が蓮子だね。はじめまして蓮子」
 ちょっと茶化すような蓮子の返事に、メリーはむすったれたような顔を向けた。
 「うふふメリーかわいい。そんな顔もするんだねぇ。もっといろんな顔をするんだろうなぁ。見たいなぁ見たい見たい見たい」
「蓮子なんかに話すんじゃなかったかなぁ」「蓮子は見たことある? メリーの怯えきった表情。私は見たんだ。いいでしょ?」
「そんなこと言わないでよ。メリーの夢の報告は大事なサークル活動でしょ?」「蓮子しか知らないメリーもあるのかなあ。私しか知らないメリー……ふふっ♪ ねえメリー、もっと私のこと思い出して?」
 二人が座っていたのは大学構内のカフェ。方々のテーブルから飛び交う学生の弾むような声が、交じり合い、反響し、協奏曲を奏でている。「ここは私たちには生き辛い。ここじゃ実体化も難しい」
 そんな空気とは一線を画す不機嫌っぷりに、蓮子もすまなそうにはにかむ。「でもね、メリーが私のことをはっきりと思い出してくれたら、きっとメリーの前に姿を現すことができる。またメリーとお話して、一緒にいられる」
「ごめんって。そこまでメリーが深刻に考えてたなんて思ってなかったから。でももう大丈夫なんじゃないの? だって、無事こっちの世界に帰ってこられたわけだし。」
「そこは気にしてないの。」
「私の名前を思い出して。私の顔思い出して。早く帰ろう、幻想郷へ、そして地底の、地霊殿。私のおうちへ。」

 メリーはすげなく返した。こちらは何とかご機嫌を取ろうと、話題をひねり出す。
「あはは、蓮子もメリーのことが大事なんだね。優しさが伝わってくる。メリーへの愛情が。私たち一緒だね」
「でもほら、よくあるじゃない。怖いものに襲われた夢をもう一度見ると今度こそ助からないってタイプの怪談がさ。そういうのなのかもしれないわよ。」
「そうなればまだ面白いんだけどね。残念なことにあの日から"夢"を見ないのよ。それだけじゃない。結界の切れ目も最近見えにくくなってる。」
「霊夢が意地悪をしたんだ。帰す前にメリーの力を封じちゃった。記憶も抑圧してある。だから私のこと、よく思い出せないんだよね?」
 どうやらメリーは怯えているのではなく焦っているらしかった。確かに夢も境界も見れないとなると、秘封倶楽部の活動に障る。
「メリーも困るよね? そんな意地悪されたらさ。今度霊夢をとっちめないとなぁ」
「ああなるほど。それはね、怪談話によくある互酬性ってやつよ。例の女の子が、いやもしかしたらその巫女さんがあんたの能力を奪っていったのかもしれない。こっちの世界に戻してあげた引き換えにね。」「蓮子もかわいいなあ。金髪もいいけど黒髪も素敵。ああ、蓮子も変わったおめめをしてるんだね。とっても綺麗。蓮子は何が見えるの?」
 蓮子はしばし真剣な表情で考え込んでから、メリーに言った。「そういう真面目な顔大好きだよ。ああ素敵、やっぱりメリーの大切なお友達だもんね。いい娘だなあ」
 確かにその夢がメリーのよく迷い込む世界での出来事であるならば、また"そいつ"と遭遇しないという保証はないのかもしれない。「蓮子ともお話してみたい。きっと私の知らないようなこと、いっぱい知ってるんだろうな。聞きたいな、いろんなお話」
「なんか他に言ってなかった? その巫女さんや魔女っ子がさ。こうしろとか、逆にこうするなとか。なんかあるのかもよ。色々向こうのしきたりみたいなもんがさ。」
「覚えてないなあ。それにこっちの世界に戻ってからは全く何も感じないし。」
「ごめんね、メリーのおめめもちゃんと元に戻すよ。だから帰ろう?」
「じゃあ問題ないでしょ。」「簡単なことなんだ。ただ私のことを思い出してさえくれれば、そんな封印簡単に解けちゃうから。ね? だから、早く思い出してメリー。私のこと、もっと考えて?」
 間を置かず切り返してきたメリーに、蓮子はそう優しく説いた。それでも案じ顔は解けぬふうである。とうとう我慢できなくなったといった感じで、彼女は呟く。
「うふふ、メリーかわいいなぁ。メリーの愛が伝わってくる。蓮子と一緒にいたいっていう愛が」
「でもさ、やっぱ問題あるでしょ……蓮子だって、ほらいろいろと……」「私も同じだよ。メリーと一緒にいたい」
「そうねえ、確かにこれじゃあしばらくサークル活動はお休みかなあ……」「いつまでもいつまでも……ずっと一緒に、死ぬまで、死んでも、その後もずっと。メリーもそうだよね?」
 メリーの顔がさっと青くなった。どうやらずっと気にしていたのはそのことらしい。「私のこと、感じて。ここにいるよ。ほら、ここにいるから。いつまでも待ってるから、思い出して。私の名前を。」
「え、いや、待ってよ蓮子――」「大丈夫だよメリー。メリーと蓮子を引き離したりなんかしないから。私は霊夢みたいに意地悪しない」
「夢の世界探索はメリーが回復するまでお休み。別のネタ探さないとね。何にしよっか?」「安心して、蓮子も連れて帰るから。大丈夫。みんな一緒だよ? いつまでも、いつまでも……」
と蓮子はあくまで無邪気に続けた。そのニブチンっぷりに呆れたようにため息をついたメリーだったが、しかしその顔には安堵の色が滲み出ている。「そう、大丈夫だから。いつまでも一緒だから。だから不安にならないで? みんないつまでも一緒にいられるから。」
「……やっぱり蓮子に話すんじゃなかったわね」「うふふ、照れてるの? かわいいなあメリー。やっぱりメリーのこと大好き」
「そんなことないわよ。それよかさ、お昼どうする? メリーも時間空いてるでしょ」「蓮子も大好きだよ。一目見て気に入っちゃった。私たちよく似てる」
「じゃあこないだ見つけたケーキ屋さん。もちろん蓮子のおごりで」「三人で帰ろう。地霊殿へ、私のお部屋に招待するよ。いつまでもそこで暮らそう。絶対に帰さない。一生みんなで仲良く過ごすんだ。ペットとしてね」
 メリーは湧き立つ気持ちを逃がすように立ち上がると、さっさとカフェを出て行ってしまった。蓮子は慌てて追いかける。「あ、メリー待って! どこ行くのよもう。絶対に離れたりしないんだからね、もう絶対に!」
「ちょ、待ってよメリーってば。なんでそんな機嫌悪いのさ?」「ずっと待ってるよ。メリーが私のこと思い出すまで」
「知らないわよそんなの、もう!」「いつまでも待ってる。明日も明後日も、来年も再来年も……何十年でも待つよ。私はそれくらい平気で待てるから。だから思い出して? ねぇメリー」
 大またでキャンパスをずんずん進むメリーに、蓮子は帽子を押さえながらなんとか追いすがる。しばし無言のまま歩いていた二人だったが、突然足を止めたのは少し前を歩いていたメリーだった。「ずっとついていくから。ずっと側にいるから。もうメリーの無意識は捕らえた。どこへ行っても、どれだけ離れていようとも、私はメリーのこと感じていられる。だから、メリー。あとは貴女が私のこと思い出してくれさえすれば、それでいいんだよ」
「ああそう言えば、ひとつ思い出したわ。」「思い出して? メリー、思い出して。私の名前を、お願いメリー。私の名前思い出して? 私の名前、早く思い出して? 待ってるから、私の名前思い出して? いつまでも待つから、私の名前思い出して? ねぇメリー、私の名前思い出して? お願い、私の名前思い出して? 私の名前思い出して? 私の名前思い出して? 私の名前思い出して? 」
 一瞬遅れて急停止したせいでつんのめった蓮子へ、メリーは額に人差し指を当て、したり顔で笑いかける。こういう気紛れにもとうに慣れているらしい蓮子は、帽子をくるりと手の中で回しながら相手の言葉を待つ。「メリー、大丈夫だよ。必ず思い出せる。メリーのおめめは強いんだ。メリーが思ってるよりその力はずっと強い。だから、大丈夫。そんな封印なんかに絶対負けないんだから。メリーならこっちの世界でも私の姿が"見える"ようになるよ」
「あの巫女さんに言われたのよ。『向こうの世界に帰ったら、もう"あいつ"のことを考えないように。このことを誰かに話したりしないように』とかなんとか」「ダメだよ、そんなことはない。メリーは思い出せる。だからもっと話して、感じて、思って。そうすればいつかきっと記憶は戻る」
 蓮子の背中になにか冷たいものがすっと流れた。メリーは淡々と続ける。「ほら、今の私にはメリーの手助けはできないけれど、ずっと側にいるからさ。メリーが少しでも私のこと感じられるように、ずっと一緒にいるから……」
「巫女さんがね、『あんたが"越えやすい"人間なのは分かる。もしまだあっちの人間でいたいなら、極力こっちを意識してはいけない』って……まずかった?」「私を無意識から引き上げて。メリーの力で、メリーの境界を見る力で、私に道を示して。無意識から、そちらの意識へ進むための道を」
 そこまで言ったところで、メリーはちょっとすまなそうに蓮子の方を覗きみる。こちらは慌てて笑みを作り直す。「そうすればきっと会える。この間の続き、今度はもっと話したい。色々遊びたい。メリーのいろんな情動を感じて、メリーのいろんな顔が見たい」
「たいそうまずいわね。」「笑った顔、喜ぶ顔、楽しい顔、苦しい顔、悲しい顔、痛いときの顔、泣いた顔、悶える顔、怒った顔、死んだ顔……」
「やっぱりそう?」「メリーを飾りたい、お部屋にいつまでも。怨霊にして、いつまでも地霊殿においておきたい。私達はいつまでも一緒」
 向けられた悪気のない笑みに、今度は蓮子がため息をつく。「大丈夫だよ。メリー。メリーだけじゃない。蓮子も連れて行くからね。一人じゃないよ」
「そういう怪談話ってさ、たいてい読んだり聞いちゃった方にも呪いが伝染するの。だから私もやばいかもね。」
「なんだ、そういうことか」
「みんな一緒。いつまでも一緒。メリーに淋しい想いはさせないよ。大好きな蓮子と、いつまでも一緒に飾ってあげるからね」
 メリーはくるりと回った。紫のドレスがふわりと浮き上がって円を描く。時折り見せるこういう無邪気なそぶりは卑怯だと、蓮子はいつも思っていた。「メリーも聞きたいよね? 蓮子の悲鳴。泣き叫ぶ声。見たいでしょ? 蓮子が苦しむところ、ひどい目にあうところ」
「蓮子と一緒なら何とかなるでしょ。平気平気。」「だってメリーは蓮子が大好きだもんね。見たいよね? それにねメリー、蓮子もメリーのこと大好きなんだよ。私にも思いが伝わってくる。表層意識なんかじゃない。もっと深いところからの愛情が伝わってくるの」
 そしてにこっと笑いかけてくる。真っ赤になったのは蓮子だった。「だからきっと蓮子も見たがってると思うよ。メリーの苦しむ姿を、メリーが私と遊ぶ姿を。いっぱい見せてあげるからね。蓮子が、メリーが、大切なお友達がオブジェになるところ、全部見せてあげるから」
「はいはい。どこまでもお供しますよ。メリーさん。」「どこまでも一緒、死んでも私達は一緒だから。だから早く思い出して」






             私の名前は古明地こいし


 
携帯電話では正常に見られない可能性が高いと思われます。
*今私の携帯(i-mode)から確認したところ、やはりうまくいきませんでした。

大変申し訳ありませんが、PCで読んで頂けると助かります。


8/24 コメントありがとうございます


>穀潰し 様
わかりにくいギミックで申し訳ないです
一応白部分でも怪談っぽくなるようにしたかったんですが…

>Sfinx 様
ありがとうございます
縦書きは誰かやってくれるだろうと思ってたので、これをやってみました

>ギョウヘルインニ 様
黒の方が若干気付きやすいかなと思ったのです

>狂い 様
どうもありがとうございます
括弧はブラフのつもりでした

>NutsIn先任曹長 様
こいしちゃんがいつも側にいると思うだけで生きやすくなりますよね

>零雨 様
やっぱり全文丸見えでしたでしょうか。
一度読んだらすげえ読みにくくて逆に怖かったような。括弧を二重にすればまだよかったかな

>ハッピー横町 様
そうか、すぐ気付かれてしまうというのもありえますよね…
事前の予想としては大体目を通してから気付くとちょうどいいかなあという感じですが、
読者の方の状況も当然多様ですものね。うーん

こいしちゃんは相当根に持つ女な気がします

>9 様
どうもありがとうございます
子供っぽい残酷さが出せればいいなと思いました

>ウナル 様
ネットでSS書き始めた時からやりたいと思っていたギミックだったんですが、一番最先端のメディアである携帯だと見づらいというのに時代の変化を感じました

>エイエイ 様
恐がり役を誰にしようかと悩んで、魔理沙早苗の次に使いやすそうなメリ連にしました
そしたら意外と使いづらかったです

>筒教信者 様
気付くの遅れてすみませんでした。ギミックでいうとマジックフレークスさんのあれがすごくて、ああいうのやりたいと思ってました
んh
http://twitter.com/sakamata53
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/19 00:37:08
更新日時:
2012/01/09 18:20:23
分類
産廃百物語A
マエリベリー・ハーン
1/9コメント返信
1. んh ■2011/08/19 00:47:33
こんなところまで読んでくれてありがとうございます

Ctrl+Aでこいしちゃんに会えるよ!
2. 穀潰し ■2011/08/19 01:15:56
成る程。まったく分からない。何が分からないのか分からない。



それが怖い。
3. Sfinx ■2011/08/19 02:01:02
こんな大作が投稿された直後にアホ面であんな作品を投稿していたのか…
わたくし恥ずかしくて死にそう

一度目は全く気づきませんでした。
4. ギョウヘルインニ ■2011/08/19 22:17:44
黒!最初は気付きませんでした!
5. 狂い ■2011/08/20 03:31:10
これは鳥肌が立ちましたわ

かっこ内の透かしだけと思ったら……
6. NutsIn先任曹長 ■2011/08/20 03:57:34
黒文字に真実が!!
そうきましたか!!



誰かが側に『居』るけれど、誰だか分からない『あの子』。
目を凝らしても『視』えない。耳を澄ましても『聴』こえない。
にっちもさっちもいかなくなったから、『噺』そう。『あの子』のことを。

簡単な事だった。『あの子』に『遭』うことは。

永遠に、一緒だよ。

煉獄の、炎の中でなぁ!!
7. 零雨 ■2011/08/20 09:43:56
かっこの中だけだと思っていたら……

一回目は携帯で読んだので全く違う印象を受けました
8. ハッピー横町 ■2011/08/21 18:00:12
うーむ……かなり早い段階で気付いちゃったから初見でドラッグして読んだけど、一回普通に読んでからドラッグしてみても良かったかもしれないなぁ。

こいしちゃんの執着に思わずゾクッときました。
9. 名無し ■2011/08/21 22:19:25
ctrl+Aでようやくわかった

こいしちゃんが妖怪らしさがものすごく良かったです
10. ウナル ■2011/08/22 15:54:16
こう演出はデジタル媒体ならではですよね。新しい時代の創作を感じます。
偏執的なこいしちゃん怖い
11. エイエイ ■2011/08/22 16:03:24
怖すぎて口が半開きになりました。
作品書くのも忘れて読みふけってしまいましたよ。
メリーと蓮子かぁ・・・ホラーにこの二人を登場させるあたり眼のつけどころがいいですねえ。
自分の文章力じゃあ二人の人格を再現できそうに無いけどw
12. 筒教信者 ■2011/10/31 23:23:22
ギミックの使い方が上手い…
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