産廃百物語A『There is something』

作品集: 28 投稿日時: 2011/08/20 17:56:16 更新日時: 2011/08/20 17:56:16
「うーっす霊夢。お茶たかりに来たぜー」

昼下がりの博霊神社。魔理沙が空気を切り裂く勢いで境内に着地した。

「………持ってくるわ」

縁側でお茶を飲んでいた霊夢は湯飲みを勝手から取ってきて急須から出涸らしのお茶を注いだ。

「サンキュ。出来れば冷たいお茶がいいんだけどな。氷入れて緑茶オンザロック!ブルーハーツ!」

「東洋医学では暑いときに熱いお茶を飲むと涼しくなるわよ」

魔理沙の渾身のギャグをスルーして霊夢が言う。

「私は西洋魔法使いだ」

「ここは東洋よ。………多分」

霊夢がそう言ったとき、勝手口から何かの気配がした。

「……?」

誰かが勝手口にいる。紫か?米びつの中に米すらないから用はない筈だが──

「ごめん。ちょっと」

霊夢は魔理沙に声をかけて勝手口へと向かう。物が落ちるとかと言うよりは何か作業をしている気配が続いている。

霊夢が勝手への引き戸に手をかけても気配が続く。

「紫?」

ガラッ

引き戸を開けた瞬間、気配が消えた。

「………?」

台所の中も先ほど湯飲みを取ってきた時と同じように特に変化がないように見える。

「気のせいかしら」

その割にはずいぶん気配が強かったが。しかし、見えないのなら気のせいなのだろう。

「疲れてるのね」

霊夢は魔理沙のいる縁側まで戻った。

「どうしたんだ?」

お茶を啜りながら魔理沙が訊く。

「なんでもないわ」

「そーか」

魔理沙はまだ熱湯のお茶を一気に飲み干すと、立て掛けてあった箒を取った。

「もう行くの?」

「ああ。白蓮のトコに行ってくる。稽古つけて貰うんだ。
私はアリスやパチュリーとは違うし、お前や咲夜や早苗とも違うからな」

「ううん。魔理沙は頑張ってるわ。人間と妖怪や神の差はあっても、違いなんてない」

「嬉しいこと言うじゃないか。
じゃあ行ってくるぜ」

魔理沙は箒に跨がって空へと飛び立った。それを見ながら霊夢は自分も修行しようかな。と境内へ降り立った。
















「三暗 リンシャンヅモ ドラ4。8000オールで紫様はトビですね」

「くぅっ!ここでそんな手!?」

「藍さま流石です!」

その夜霊夢は八雲一家と麻雀勝負に興じていた。

「うー…さっきから和了れないわ……」

「藍、何か能力使ってるでしょ」

霊夢が牌を紫が作ったスキマに放り込む。自動卓の代わりだ。

「滅相もない。
紫様。ウマの10000点と主催者トビボーナスを」

「ぐぬぬ…」

紫は懐からいくらかの紙幣を取り出して藍に渡した。

「もう一局行くか?まだ夜は長いぞ」

「ううん。いいわ。眠いし」

と、霊夢。そろそろ日付が変わった頃だろう。

「私も眠いです」

「そうね。じゃあ今日は霊夢のとこに泊まるわ」

「わかりました。それでは私はこれでお暇します。
それじゃあな霊夢。今日は楽しかったぞ」

「じゃあねー♪」

一人では広かった寝室に二人が布団の上に横たわる。
今日は修行に麻雀と疲れてしまった。早々と眠りに落ちるだろう。そう霊夢が無意識に目を閉じたとき──

──キシッ。

何かの気配が霊夢の感覚を刺激した。

キシッ キシッ キシッ

足音だ。恐らく昼間のあの気配の主と同じ者の。

(なんなのよ……)

起きて見てみようか。それが何だとしても負けることはないだろう。

キシッ キシッ キシ……

足音が止まった。
寝室の前で。

(………!!)

襖を一枚隔てた先に何者かがいる。こちらの様子を伺っているように。

落ち着け。私は巫女だ。悪霊だろうと恐れることはない。

「霊夢」

「っ!?」

突然声をかけられてすくむ霊夢。

「眠れないのかしら?それとも怖い夢でも見たの?」

紫が横になりながらこちらを見てそう言っていた。

「……別に」

バカにされたくはない。霊夢はそっけなくそっぽを向いて答える。

「……辛いのね」

紫はそっと霊夢を後ろから抱き締めた。

「霊夢もまだ20年も生きていない人間の女の子だもん。巫女じゃなきゃ妖怪を倒すことも、ここを守る重荷を受けることもないのにね……」

「そんなこと言われても、困るわよ……」

霊夢は応える。

「巫女じゃなきゃ、って言っても私は巫女だもん。幻想郷を守るのが私の仕事」

「うん。ごめんなさい。
でもね、辛いなら私に甘えてね」

もう少し強く抱きしめる紫。紫の香りが霊夢の鼻孔から感覚をくすぐる。

「やだ。紫笑うから」

「笑わないわ。ね?」

すると霊夢は紫に向き直り、霊夢からも紫を抱き締めた。暖かい。紫の温もり。紫の匂い。思えばこんな風に寝たのは初めてかもしれない。

「……紫ってあったかいのね」

いつの間にか、謎の気配は消えていた。
















「霊夢さん!」

翌日、霊夢が縁側でお茶を啜っていると、東風谷早苗がやってきた。

「あら、早苗。どうしたの?」

「うちで作った梅酒です。お裾分けに来ました」

早苗は霊夢に梅酒が入ったガロンサイズのビンを差し出した。琥珀色の梅酒が夏の日差しを浴びて美しく輝く。

「あら…おいしそうね。ありがたくいただくわ。上がりなさい」

と、霊夢が言うと早苗は霊夢の隣に座った。

「あなたも飲む?緑茶オンザロック」

魔理沙の発言からヒントを得て作ったそれを示して霊夢は訊いた。饅頭と引き換えに氷精に氷塊をいくつか生成してもらい、木箱に入れておいたのだ。

「いただきます」

霊夢はグラスに氷塊を入れ、濃い緑茶を注いだ。

「ねぇ、霊夢さん。好きな男性っていますか?」

早苗は突然霊夢に尋ねた。

「は?」

「好きな男性ですよ。どんな男性がタイプなんですか?」

「………そんなこと言われても」

霊夢は本心からそう答えた。そんなもの意識したことはない。

「霊夢さんの年頃なら恋愛に憧れたことない筈がないですよ!」

「それが本当にないんだってば」

「大丈夫!紫さんとかレミリアさんには言いませんから!私と霊夢さんだけの秘密です!」

早苗は目を爛々と輝かせて捲し立てる。

「ひょっとして霖之助さんですか?」

「あの人は……魔理沙のだから……」

「略奪愛ですよ!霊夢さんかわいいですから!」

「男からいわれたことないわ」

それに、女子が女子に言う"かわいい"には全く価値がない。って慧音が言ってたし。

「あっあっ、女子のかわいいには価値がないって思ってますね!?」

憤慨する早苗。

「本当に霊夢さんはかわいいですよ!」

キシッ───

「!!」

そのとき、またあの例の気配がした。

「あの、霊夢さん……?」

霊夢の突然の反応に早苗は困惑する。

「あの、お気に障りましたでしょうか……?」

「黙って」

お気に障りましたでしょうか。の"ました"のあたりで霊夢は早苗に言い放った。

「………」

キシッ キシッ キシッ

気配は縁側、つまり霊夢達のすぐ近くまできた。だが、霊夢の神力をこらしても姿は見えない。

「早苗」

「はいっ!?」

霊夢のさっきまでとは質が全く違う声に早苗は飛び上がる。

「……あなたは何か感じないの?」

「はい?えっと、何をですか?」

「え………その、何か、そう!何かよ!」

霊的なものが。とは巫女として風祝として訊けない。

「はぁ…何か。ですか?」

困惑する早苗。

「……霊夢さん、疲れているんですよ。お休みになったほうが」

「休みなら十分とってるわよ!」

つい霊夢は声を荒くしてしまった。そのあとしまった。と霊夢は口を押さえた。

「……ごめん」

自分は疲れているのだ。きっとそうなのだ。

「いえ。こちらこそ他人事のように……
お身体は大切にしてください。霊夢さんは幻想郷になくてはならない存在ですし、それに私個人にも大切な私の憧れの先輩ですから」

と、早苗。商魂逞しい神社の早苗がそんなことを言うなんて。と霊夢は驚くがすぐに気づく。早苗はもともと心優しい少女なのだ。

「ありがと。早苗」

「いえ。それじゃあ私もう行きますねっ」

早苗も照れ臭くなったのか、少し赤くなって空へと飛び立っていった。霊夢は早苗が見えなくなるまで早苗の姿を見ていた。
















「うー、疲れたっと」

霊夢は逢魔が時の中に沈む博麗神社の境内へと降り立つ。

あの後、人間の里の自警団から妖怪退治の応援の要請が来たため軽くターゲットを捻り潰して霊夢は報酬として玉露の茶葉を貰いホクホクとしていた。

だが───

「嘘っ………!?」

縁側から居間へと入ったときその顔が凍りついた。

「なんで…なんで剥がれてるのよ!?」

畳の上に散らばる破れた札を見て霊夢は思わず茶葉を取り落とした。

神社から離れるとき、霊夢は一応気になったため退魔の札を居間にの襖に貼り付けて結界を張ったのだ。

妖怪が触れても痛みを感じることはないが、並みの妖怪はもちろん、風見幽香や伊吹萃香のような大物でさえ神社の中に入れない。まして札を剥がせる筈などないのだ。

「………このっ!」

バン!と霊夢は手のひらで壁を叩いた。

「こそこそこそこそと!なんで正面から出てこないのよ!?」

何もない空間に怒鳴り付ける霊夢。

「何が目的よ!?本腰入れてぶちのめして──」

ガサッ──

「!!」

外から物音。勝手口からだ。
霊夢はお祓い棒を握りしめて勝手口へと向かう。

ガサッ──ガサッ──

ドアのそばで息を殺す霊夢。
ドアノブがゆっくりと外から回る。それを見て霊夢はほくそ笑んだ。やっとストレスの元とおさらばできる。

まるで紅魔館のメイド長の術の中のようにゆっくりとドアが外からひかれる。

「たぁっ!」

ドアが半分ぐらい開かれた瞬間、霊夢は飛び出してお祓い棒を振り立てた。

「きゃあっ!」

「うわっ!」

霊力を纏ったお祓い棒がドアの外の人物の頭をかち割らんとする手前で霊夢はその人物の正体に気付いてお祓い棒を止めた。

「………レミリアじゃない。どうしたのよ」

「こっちのセリフよぉ…」

下段カリスマガードの体勢でレミリアは言う。手には人里の食料品店のロゴ入りの紙袋。

「あ…ごめん。どうしたの?」

「うん。遊びに来た。上がるわよ」

カリスマガードを解いてレミリアは居間に紙袋を置いた。

「それで、そっちは?」

「う……ごめん。ちょっとね」

「? まぁいいわ。食べ物持ってきたわよ」

レミリアは紙袋から中身を広げて見せた。

「……野菜とか魚とかばっかじゃない」

ちゃぶ台に広がるそれを眺めて霊夢は呆れたように言う。

「それは食材っていうのよ」

「うん。私が作るから」

「あっそ───ってええっ!?」

レミリアの発言にすっとんきょうな声を上げる霊夢。

「……パチェと同じリアクションしないでよ。咲夜や妖精メイドに教わったもの。私物覚えいいのよ?」

物分かりは悪いけどね。と霊夢は心の中で付け加える。

「台所借りるわよ」

レミリアは食材を抱えて台所へと入っていく。霊夢はとりあえず様子を見ようと止めることもなく了承した。頭の中は違うことに支配されていた。

一体あの気配は何なのだろう。あの結界の札はとても強力な物だ。妖怪や怨霊、神ですらあの札に触れることも出来ないだろう。
だが、人間にはあの札の力は作用しない。

そう。早苗や魔理沙、そして咲夜のような人間には───

「ねぇレミリア。咲夜が昨日ここに来たんだけど」

霊夢は水瓶から水をとってお湯を沸かし始めたレミリアの背中に声をかけた?

「えっ?そうなの?
咲夜の匂いが全然しないからわからないわ。本当に来たの?」

不思議そうな顔をするレミリア。

「匂いって……あなた咲夜の匂いなんてわかるの?」

「当然よ。変な話だけど人間ってのは私達にすれば食べ物だし……咲夜の匂いは結構独特だし」

これで咲夜も候補から外れた。瞬間移動ができる咲夜が最有力だと思ったのだが。

「ふぅん……」

ならば人里の連中だろうか。しかし、真夜中に紫にすら感づかれないように神社に侵入できる人間がはたして人里にいるのだろうか。

人里の妹紅や慧音のようなの実力者はたしかにいる。しかし、そんな連中に紫を出し抜くことは不可能だろうか?

なら、紫本人か?
しかし何のために。それにあの札は紫なら剥がせるかもしれないがかなり苦労するはずだ。彼女はそんなデメリットを背負ってチンケな悪戯をする妖怪でもない。

「霊夢」

特にあの気配が現れる時間帯は決まっていない。真夜中でも真っ昼間でもここに来た。法則性もわからない。

「ねぇ!」

「!?」

レミリアに声をかけられて霊夢は飛び上がった。

「なっ、何よ…」

「出来たわよ」

「何が?」

「晩御飯」

言われてちゃぶ台を見ると茶碗に盛られた白米とぶり大根、お浸しが並んでいた。

「えっ、いつ出来たの!?早すぎ───」

「一時間弱かかったわよ」

どうやらそんな長い時間あの気配について考えていたらしい。

「もう、ぼぉっとし過ぎよ」

「ごめんごめん」

と霊夢は改めて料理を眺めた。なるほど。彼女から貸してもらったことのある漫画にあるようなよくわからない塊や消し炭の類いはない。

「ふふ。驚いてるわね。運命操作無しの私の実力よ」

「すごーい」

霊夢は大根を箸で切って口に運んだ。

「うん。ダシもとれてるしちゃんと煮えてるわ。器用なのねあなたって」

「由緒正しい吸血鬼の力よ」

「水とか平気なの?」

「霊夢のとこは水道引かれてないからね。流水じゃなきゃ平気よ」

「そう。レミリアも食べなさいよ。おいしく出来てるわよ」

「うん」

レミリアが霊夢の隣に座る。と、そのとき霊夢が立ち上がった。

「ちょっと障子開けるわよ。いいわね?」

「うん。夜だしね」

霊夢はレミリアの背中の障子戸を開け放った。心地よい夜風が二人を撫でる。月が静かに輝き、巫女と吸血鬼を照らす。

「開けた方がよかったわ」

境内を見回し、霊夢は再びレミリアの前に座った。

霊夢は人間で、妖怪退治を生業とするが、吸血鬼で、人間の敵のレミリアとは親友同士だ。

そんな友人とこうして楽しく食事をしているのだ。だから忘れよう。



障子戸に月影によって何者かの影がが浮かんでいたことぐらい。
















「………あら、どうしたの?」

霊夢が永遠亭の待合室に入ると受け付けに座る鈴仙が怪訝な顔をした。
あれから数日たったが、霊夢は未だに謎の気配に悩まされていた。いや、今ではいっそうそれが酷くなった。就寝中、枕元に"それ"がじいっと立ってたり、息づかいまでもを感じたりする。

「病院の待合室に来てすることは一つでしょ?」

霊夢の言葉に鈴仙は更に怪訝そうにする。

「ちゃんと食べれてないからって栄養剤や点滴を埋めて飲むことはおすすめ出来ないわよ」

「良いから永琳。いるんでしょ?ちょっと患者として話したいことがあるの」

「………?生理はもう始まってるわよねあなた」

「いいから永琳のとこ案内しなさい」

霊夢の目は冷やかしには見えない。鈴仙は不思議に思いながらも霊夢を永琳の診察室へ案内する。

「あなたにも悩みがあるのね」

と、鈴仙。

「あんたとは違うのよ」

「あら、私も悩みっぱなしよ。もう胃に穴が空きそう」

それは永琳の薬の人体実験による副作用だろう。と霊夢は心の中で突っ込みを入れた。

「師匠。患者です」

診察室で器具の手入れをしていた永琳がこちらを向いた。

「あら、あなたは博麗の」

永琳も意外そうな顔で霊夢を見た。

「ちょっと聞いてほしいことがあるの」

「ウドンゲ。席を外しなさい」

永琳は霊夢の腹心を察したのか、鈴仙にそう促すと鈴仙は素直に診察室から出ていった。

「座りなさい」

霊夢は永琳の前に座る。

「最近、変なものが見えたり聞こえたりするの」

「変なもの?どんな感じに?」

「………なんか、何日か前から人の足音が聞こえたり、そうじゃなくても気配がしたり───」

霊夢は不安げに答える。

「でもそれらしい正体はわからなくて、もしかしたら亡霊や妖怪の仕業ってのも考えたんだけど……」

霊夢は永琳に一枚の札を示した。レミリアが来た日に結界を張るのに使った護符だ。

「これで私、神社に結界を貼ったの。それもかなり強力なものよ。レミリアや幽々子でも神社に入れるかすら怪しいわ。なのに札が剥がされて引き裂かれてた」

「……八雲紫は?」

「紫でもこの札の破壊にはかなりの労力がいるわ。そんなめんどいことあいつはしない」

「………」

黙って話を聞く永琳。

「……ほんの数日でいいから入院させてくれないかしら。ここでもその、変なものが見えたら、それは多分私がまずいから」

「そうね。それがいいかも」

永琳は頷いた。

「入院の手続きをするわ。必要な生活用品を持ってきて」

「うん。ありがとう永琳。
それで…どれくらいかかるのかしら。入院費用」

おずおずと尋ねる霊夢。霊夢とてあまり裕福ではない。というよりかなり貧乏だ。

「取らないわよ」

「そう……そんなもんか───ってええっ!?取らないって!?」

驚きだ。そりゃ取らないでくれるのはありがたいが──

「ええ。あまりお金ないんでしょう?」

「そうだけど……いいの?」

「気にせずにゆっくり休みなさい」

と、永琳はそっと霊夢の頬に触れた。

「まだこんな歳なのに、八雲紫とこの世界を背負っているのだもの。そりゃ疲れちゃうわよね」

「……ありがと」

そうとしか霊夢は応えられなかった──
















「………何コレ」

結局、数日間入院したが特に何もなかった。
入院中、永遠亭の連中は何かと世話を焼いてくれた。あの因幡てゐは意外と優しく、常に霊夢を気にかけてくれ、
何より輝夜がそこまでぐうたらではないのに驚いた。若い妖怪兎に教育を施し、仲がわるい筈の妹紅とも霊夢が入院中見たところではそこまで険悪な雰囲気ではなかった。
永遠亭の意外な一面を見た。だが、問題は解決しなかった。

多少緩和されたがっかりした気持ちを抱えた霊夢を向かえたのは───

「退院おめでとう。霊夢」

巨大化した酒呑の二角鬼、伊吹萃香と───

「今壊れたトコを直してるからな」

銃弾に穿たれ、刀傷を刻まれた神社及び境内だった。
鳥居や石畳までもがズタズタである。幻想郷中の人妖で宴会をしてもこうまでは行くまい。

「………何があったのか三行でお願い」

その惨状に霊夢はそうとだけしか言えなかった。

「留守番の明羅。
パルって襲撃にきた小兎姫。
二人が喧嘩した」

まるで模型細工を組み立てるように神社を修復していく萃香。

「………わかりたくないけどわかったわ」

霊夢は神社の留守番を明羅に頼んでいた。

『任せてくれ!霊夢の神社なら何年、いや何十年!いやいや、神社を終の住みかにしても構わないぞ!』

そう明羅は意気込んでいた。

「霊夢はモテるからなぁ」

背後から声をかけられる。この声には覚えがあった。

「……魅魔ね」

振り向くとそこには緑髪の女性が立っていた。

「久しぶり。明羅から経緯は聞いたよ。何か神社にとりついたかも知れないんだってね。
あいにくだが、そんな気配は明羅に聞いても分からないそうだし、私にもわからなかったよ」

「そう……」

肩を落とす霊夢。
永遠亭でも謎の気配は全くなかった。これでは本当に原因が分からない。

「一昨日だったかな。眼を緑色に光らせた小兎姫が神社に襲撃に来たんだよ。神社壊されちゃたまらんし、はっきりいってやかましいからな。叩きのめして今制裁を加えているよ」

「制裁?」

「触手部屋に閉じ込めておいた」

ニヤッと笑う魅魔。まぁこの魅魔も基本的には悪い悪霊ではないのだから殺しはしないだろう。

「ふふ。今ごろは出来上がっているだろ───」

「───っっ!?」

そう話す魅魔の背後に見えたモノに霊夢は驚愕に目を見開いた。

「どうした!?」

「いた!アレよ!」

霊夢から見て、萃香が作業している神社の死角へと何者かが入っていった。間違いない、あの気配だ。

「何ッ!?」

二人で神社へ殺到する。

「いないねぇ……」

「中よ!」

霊夢が神社内に入る。内装も破壊されたらしく、萃香が修復したせいか少し綺麗になっていた。

「どうしたんだ霊夢」

屋根に開いた穴から萃香が霊夢に問いかけた。

「萃香!神社に何か近づかなかった!?」

「お前達以外でか?わからないよ。何も近づいてない」

「そんなっ……絶対に近づいたわよ!」

悲鳴混じりに叫ぶ霊夢。

「どんな感じのが近づいたんだい?」

「……はっきり見てないんだけど、金髪だった。長い金髪の女。まだ若いと思う」

霊夢はついさっき見た人影の特徴を思い出しながら話す。

「魔理沙みたいな感じか?」

「そうかもしれない……でも魔理沙じゃないの」

「まぁ、幻想郷には金髪なんて腐るほどいるからなぁ。日射しが弱いし。
今日ここに金髪の奴も来てないな。私と魅魔だけだ」

と、萃香。

「なんなのよ……もう」

外泊どころか、神社の建て直しを行ってもアレは現れた。自縛霊のような存在でもないだろう。

「よう霊夢。一応修復らしいことは終わらせたぞ。
あとは鳥居が残ってるけど明日とかでいいかい?」

萃香が声をかけてくる。

「あっ、うん………ありがとね。悪いけど今日はもう帰ってくれないかしら」

どっと疲れてしまった。もう今日はゆっくりしたい。

「そうか。わかった。それじゃな」

「じゃあこちらも帰るよ」

元の大きさに戻る萃香と魅魔。

その後ろ姿を見送ると、霊夢はすぐに寝室へと入った。寝ても解決しない。でも寝てしまおう。

と、そんな霊夢の視界にあるものが映った。

「手鏡?」

いつも使う化粧鏡の近くに手鏡が置いてあったのだ。
見覚えのあるものではない。

化粧鏡に置く手鏡といえば自分の髪の後ろを見るために使うが───

「明羅さんの、じゃないわよね……」

服装や髪型に無頓着な彼女がそんな鏡の使い方をする筈がない。霊夢は手鏡を手に取って自分の顔を見た。
ずいぶんやつれてしまった自分の顔。永遠亭での食生活は神社にいるときより豊かだったはずなのに。

「これじゃあ、どっちが幽霊かわからないわね…」

布団を敷いて寝間着に着替える。そのとき、霊夢の目にまた違う物が映り込んだ。

「……!!」

箪笥の上に飾られた写真立て。見覚えのない写真立て。手に取って見る。

同じデザインの服を着た何人かの若い男女がその中で微笑んでいる。その真ん中にいる、金髪の少女───

「いやぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

霊夢は堪らずその写真立てを箪笥に投げつけた。間違いない。あの気配の主だ。

写真立ては脆かったらしく、バラバラに砕け散る。写真が飛び出ると、霊夢はその写真を掴み、ありったけの霊力を込める。

ジュッ──

写真は一瞬で蒸発し、跡形もなくなった。

「はぁっ…はぁっ…」

何者なんだあの金髪は。見たことがない。幻想郷にあんな人間いただろうか。いや、そんなことより、なぜ気づかない内にあの写真が出現したのだろうか。考えても無駄だ。なら───

霊夢は結界の札を数枚取り出すと本殿へと走った。













「霊夢ー!」

天子が呼んでいる。だが、出る気はない。

もう常に感じるようになった気配に耐えながら霊夢は布団にくるまっていた。

布団にくるまっていても、アレは神社内をうろついている。恐怖のあまり発狂しそうだった。

「霊夢ー!上がるわよ!」

天子が神社の雨戸を開けて縁側から入ってくる。

「霊夢ー?霊夢よね?その布団は」


縁側を開けたらすぐ寝室があるため、霊夢は天子に簡単に見つかった。

「霊夢」

天子は布団の横に座った。

「体調でも悪いの霊夢?」

「……出ていって」

霊夢はそれだけ天子に言った。

「そう言わないでよ。友達がこうやって来たんだから」

「……友達じゃない」

「あなたはそんなこと言ってても私はあなたを友達だと思ってるから。だから友達」

「出ていって」

天子も元々人間であったため、彼女に結界の力はあまり作用していないらしい。

「私がこんなこと言うなんて珍しいのよ。レアエンカウントね霊夢」

「うるさい」

霊夢は素っ気ない。

「霊夢……どうしちゃったのよ本当に。
その……何かがいるっていうんでしょ?この神社に。天人もそういうのには割りと鋭いけど……何も感じないわよ」

「うるさい。聞きあきたわよそんなこと」

「霊夢ぅ…」

「出ていって」

とりつくしまもなく霊夢は言葉を天子に投げつける。

すると、新たに来客が神社に訪れた。

「霊夢…
あら、先客がいるようね…」

紫色のドレスに身を包んだ金髪の貴婦人、八雲紫がそこにいた。

「紫…!」

天子が紫の名を呼んでも霊夢に反応はない。

「ふふっ、スキマを使えないから久しぶりに歩いてここに来たわね…」

「大丈夫なの?顔色悪いわ」

「……正直きついわね。藍が止めるのもわかるわ」

紫も霊夢の布団の隣に座った。

「……出ていってよ。あんたの顔なんかみたくない」

「私は霊夢の顔見たいわ。かわいい霊夢の顔」

紫は結界に蝕まれ、ふらふらになりながらも霊夢にそう告げる。

「ごめんなさい。霊夢の気持ちがわからなくて。こんなに怖い想いしてるのにね」

がばっ!

そこで霊夢は布団から飛び起きた。だが、次の紫への行動は──

「このっ!」

ガッ!

枕元においてあったお祓い棒で紫を殴り付けることだった。

「きゃあっ!」

「ふざけるなっ!妖怪ババアっ!」

紫は殴られた頬を抑えて踞る。

「霊夢っ!?」

「狸ババアっ!出てけっつってるのがわからないのかよ!」

激昂し、丸まった紫を踏みつけるように蹴る霊夢。

「霊夢やめて!」

天子が霊夢を羽交い締めにするが、結界の力は多少作用しているらしく、霊夢を止めることが出来ない。

やがて霊夢は疲れ、息を切らせて座り込んだ。

「はぁっ…はぁっ…」

「……霊夢」

紫はアザだらけの顔を上げて霊夢を見る。

「いいのよ霊夢。あなたの気が済むならそれで。あなたの気持ちをわかってあげられないのだから、こんなことしかして上げられないのだから………」

紫はそう言って笑ってみせる。霊夢はその笑顔をも蹴りあげた。吹っ飛ばされて畳の上を滑る紫。

「紫ぃっ!」

「天子。そいつを持って出てけ」

「………!」

天子は霊夢の物言いに睨み付けると、紫を抱き抱えた。

「あんたがそんな奴だなんて思わなかった」

天子はそう冷たく哀しそうに言って紫を神社を後にした。
















真夜中、霊夢は目を覚ました。

しまった。こんな時間に目を覚ましたくなかった。また眠りたい。そう思っていても霊夢の精神はどんどん覚醒していく。喉もかわいた。

「………」

妙だ。感覚がいつもと違う。部屋の空気が軽いというか、何というか──

(……あいつがここにとりつく前みたい)

そう霊夢はこの空間に対して感じた。

前までの、自分の住みか。暢気に生きてる自分の場所。それが今ここにあった。

霊夢は立ち上がって天井から吊られた裸電球を点けた。闇に慣れた霊夢の瞳を電球の光が焼く。数十秒かけて霊夢は光に目を慣らした。最近は常に感じていたあの金髪の気配は全く感じない。

「終わった…の?」

そう霊夢が呟いたとき、見つけてしまった。あるものを。

「ひっ………!」

霊棚だ。
こんな場所には作っていない。

(みっ、みちゃダメよ……ダメ……)

すでに冷や汗でぐっしょり霊夢の身体は濡れていた。霊棚には必ずあれがある。神道では仏壇の位牌にあたる、霊璽が───

「ぅっ…ぅぅぅ…」

だが霊夢の目はゆっくりと霊棚へ向けられる。

(私は生きている。私は生きている。ワタシハイキテイルワタシハイキテイルワタシハイキテイルワタシハイキテイルワタシハイキテイルワタシハ────)

ガタガタと震える手で霊棚に祀られていた霊璽をとった。そこにはこう書いてあった。

『博麗霊夢刀自命』

「きゃあぁああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

絹を裂くような悲鳴を上げて霊璽を放り出す霊夢。自分の霊璽があの霊棚にあった。それはつまり───

「うっ、ああああああっ!」

霊夢は左手に霊力を込めて陰陽玉を練り上げ、霊棚を破壊しようとした。しかし───

「なっ、なんで……」

霊力が全く霊夢から沸いてこない。どんなに練り上げようとしてもだ。

「なんで!なんでなんでなんでなんでなんでぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

半狂乱になって左手を振り立てる霊夢。だが、その後に虚しくなり、霊夢は座り込んだ。

「ふふふ…はははははは、あははははは!」

そしてけたたましく笑いだす。まんまとあの金髪に釣られてしまった。やっと終わったと思ったら最悪だ。力を奪われてしまった。

「あはははは…はははははは……」

今晩、自分はとり殺されるのだろう。なら、いっそ───

ガラッ。

誰かが、入ってきた。ほぼ無意識に霊夢は襖の方を見た。

「………完全にこっちに来ちゃったのね。博麗霊夢」

巫女服を来た金髪の少女がそこにいた。手には何故か酒瓶と紙包みを下げている。

「あ…あ、あ……」

霊夢は動けない。こんなにはっきりとこの亡霊の姿を見るのは初めてだ。しかも明確にこちらに語りかけてきた。

「まぁ、何から話そうかしら。まず落ち着いてくれる?」

少女は霊夢の前に座って、包みを広げた。巻き寿司だ。

「えっとね、じゃあまずは名前。私は冴月麟。博麗の巫女のバックアップよ」

「………博麗霊夢」

霊夢も小さく名前を告げた。さえづきりん。聞いたことのない名前だ。

「しってるわよ。ここの巫女を10年前までやってたのよあなた」

「10年…前まで?どういうことよ………」

すると冴月は霊夢の胸元へ手を伸ばしてきた。

「なっ……!」

「こういうことよ」

冴月の手は霊夢の身体を捉えることなくすり抜けてしまった。

「なんで……!」

「あなた、死んでるの」

冴月はそう答える。

「ある妖怪と戦ってあなたは命を落としたわ。跡継ぎを作ることなくね。
だから外の世界にいる博麗の分家のこの冴月麟が博麗の巫女として連れられて来たの。六歳の時にね」

「…なに、言ってるのよ。私は今日の昼間に生きて天子や紫と会ったわ!
死んでるのはあんたよ……!」

霊夢は震えながら言う。

「それは霊の夢。生前のあなたの記憶」

と、冴月は懐から鏡を取り出し、霊夢の前に突きつけた。しかし──

「映って、いない………」

たしかに自分は存在する。なのに鏡に自分は映らない。鏡の中に自分の像がない。

「あなたは西行寺幽々子のような亡霊と違ってまだ亡霊になって日が浅いから実体はないの」

「………嘘よ。私死んでなんかいない!私が死ぬわけない!」

「そう。大抵の人間は死ぬなんて思わない内に死ぬ」

「ふざけないで!こんなことやめて!
あなたは紫が用意した人形ね!」

霊夢は冴月に掴みかかる。が虚しく霊夢の手は冴月の身体をすり抜けた。

「ぐぅぅぅう…このっ!」

封魔針も出ない。まるで自分ではないみたいだ。

「本当は博麗は亡霊になんかならないで死んだら魂は消失して彼岸にも行かないって聞いたんだけど……よっぽど未練があったのよね。うん。そうよね」

「ふざけるな!とっとと私の身体を戻せ悪霊め!」

「待って」

と、そこで冴月は霊夢の額に手をかざし、何かを唱えた。

「はいおっけ」

そのあと霊夢の頬に軽く触れた。冴月の温もりが霊夢に小さく伝わった。

「これであなたの実体を作ったわ。といっても能力は元に戻ってないけどね。いつまでもそのままだったら霧散しちゃうし───っと!」

冴月は霊夢が振り立てた拳を手首を握って止めた。

「まったく、実体作ったらコレ?実はもうあなた気づいてるんでしょ?自分が気づいてること」

やめろ──

霊夢の脳裏にあるビジョンが浮かんだ。人の姿をしていない怪物が仰向けに倒れた自分の腹部、内臓を旨そうに貪っている。自分はもう激痛に動くこともできずにただ自分が食われるのをみているだけ───

やめろ やめろ やめろ やめろ やめろ やめろ──

「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!」

全身をつかって霊夢は冴月に襲いかかる。嫌だった。認めたくなかったのだ。

パンッ──!!

鋭い音が響く。熱が頬に広がる。

「落ち着きなさい。博麗霊夢」

冴月は霊夢の頬を平手でうち据えて告げる。

「悪いけど、死んだ者は生前と同じ姿では蘇ることは出来ないわ。あなたの時間は止まったから歳も取らない」

「………ぅぅっ」

霊夢は崩れ落ちて泣き出した。

「あなたの友達に会う?
東風谷早苗やスカーレット家、伊吹萃香もちゃんと生きてるわよ。そして、森近魔理沙も」

その最後に出た名前に霊夢は顔をあげると冴月の顔はしまった!という様になる。

「魔理沙……霖之助さんと結婚したの?」

「……ええ。そうよ。
私とはあまり付き合ってないからどんな生活してるのか詳しく知らないけど」

「………そう」

再び霊夢は俯いた。

「よければみんなを呼ぶけど、いいかしら?」

「お願い」

その声は酷く小さなものではあったが、たしかに冴月に届いた───
















「ついたよ。香霖」

箒の後ろに森近霖之助を乗せた霧雨魔理沙、もとい森近魔理沙は博麗神社の境内へ降り立った。

「殆ど来なくなったからねここに」

「そう、だな」

境内の奥の神社には灯が灯り、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がっている。

「私たちが最後みたいよ香霖」

「ふふふ。トリが魔理沙か。これも運命なんだな」

魔理沙と霖之助の二人は縁側の方へ回る。宴の間となった居間の中に──いた。忘れることのない友人の姿が。
その友人は自分と同じく大人になった早苗と、変わらぬ見た目の萃香に挟まれて微笑んでいた。

「霊夢──」

その友人の名を呼ぶと皆がこちらを振り向いた。

「……魔理沙っ!」

霊夢は魔理沙にかけよって自分より背が高くなった女性、否、少女に抱きついた。

「魔理沙っ!まりさぁっ!」

「霊夢。久しぶり。本当に久しぶり」

魔理沙もそれに答えるように抱きしめる。

「ふふっ、文字通り10年来の再開ですね──」

早苗はその様子を見て微笑みながら紫のコップに酒を注いだ。

「あらあら、あんなに泣いちゃって。ママになるのに情けないわね魔理沙も」

「紫様もずいぶん泣いてましたよー?」

「………意地悪」

紫はぷいっと再び込み上げてきた涙を隠すようにそっぽを向いた。

「魔理沙。霖之助さんと結婚したのね。おめでとう。
しゃべり方も変えちゃって」

霊夢が魔理沙から離れてそう言うと魔理沙ははにかみながらも応えた。

「うん。そうよ。
あ、いや、このしゃべり方にしてもいいか?
お前といたときの、霧雨魔理沙のしゃべり方だ」

久しぶりに魔理沙はこの口調で喋った。

「実は子供いるんだよ。魔理沙のお腹の中にね」

霖之助も霊夢にそう告げる。

「ああ。妖怪のクォーターだな。もちろん、魔法使いに育てるつもりだぜ」

魔理沙はいとおしそうに自分の腹部を撫でた。

「魔理沙はともかく、霖之助さんの子ならいい子になりそうね」

「なんだとぉー!」

10年前にあったようなやり取りを眺めながら紫は冴月に言った。

「ねぇ、麟。出来る?」

「…ええ。出来ますよ」

冴月はそう応える。

「出来ないって答えて欲しかったですか?」

「とんでもない」

そう答える紫の声はいつも掴み所がないものと違ってとても悲しげに聞こえた。

「良かったわ。そう言ってくれて。私には、出来そうにないから……」

「巫女の仕事です。博麗の復元には数十年かかるんでしょう?いいですよ。一生巫女やります。時々戻れますし」

冴月も日本酒を煽る。
考えてみれば霊夢は自分と違って人外に好かれていた。人間とは付き合っていたため神社の賽銭はそれなりに増えたが、こうして妖怪が訪れることは殆どなかった。

「どちらがいいのかしらね……」

冴月は誰にも聞こえないような声で呟いた。そして妖怪の相手、手始めにあの自分と同じ金髪にリボンの少女と付き合ってみようかと考えた──
















「ただいま。麟」

「おかえり」

どこかへ行っていた霊夢が神社へと帰って来た。肩からクーラーボックスを下げている。

「お茶入れてくるわよ」

「あ、お願い」

霊夢がクーラーボックスを抱えたまま台所へと消えていった。
冴月はというと昨日の深夜まで続いた宴会の酒ですっかり二日酔いになっていた。これぐらいなら大丈夫だろうと思っていたのだが、やはり現代から来たからだろうか。身体がだるい。

(早く始末しなきゃいけないのに…)

もはや普通の人間程度の力しかない霊体となった霊夢が存在するのは次世代の博麗にとっては都合が悪いため、冴月はそろそろ霊夢を始末しようと考えていた。
術を解いてやれば霊夢はあっと言う間に霧散する。二日酔いでも出来ないことはないだろう。彼女には恨まれるだろうが。

(それにしても何かしらアレ)

霊夢が持っていたクーラーボックスだ。おそらく香霖堂にあったものだろう。

(スイカでも入ってたらありがたいんだけど)

「出来たわよー」

霊夢がクーラーボックスを下げたまま二人分の湯飲みを持ってこちらに来た。いやに早い。

「早いわね。どうしたの?」

「夏だから冷たいお茶にしたわよ。この茶葉は水でもお茶が出来るのよ」

と、霊夢は冴月に湯飲みを差し出した。緑茶の中に氷が浮かんでいる。きっとクーラーボックスには氷をいれていたのだろう。

「ありがとう。頂くわ」

冴月は中の冷たいお茶を疲れた胃と食道に一気に流し込んだ。

「どう」

「おいしいわ」

素直に答える冴月。



その手から湯飲みがこぼれ落ちた。



「えっ───」

とたんに冴月を襲う吐き気と目眩。

「あっはははははは!やったわ!やってやったわ!これでこの世界はおしまいよ!あっははははははははは!」

霊夢がけたたましく笑っている。わけがわからない。何が起こったのだろうか。

「ぐぅっ……霊、夢……?」

ちゃぶ台にもたれながら霊夢の豹変に驚愕する冴月。

「ああ。気になったでしょ?見せてやるわね」

霊夢はクーラーボックスを開けて二つの球状の物と一つの肉塊を取り出した。

「うっ、げぇぇぇぇぇっ!」

その球場の物が人の生首だと気付いた瞬間冴月は昨日の宴会で食べた物を全て吐き出した。

昨日、霊夢と抱き合い、変わらぬ友情を確かめあってた森近魔理沙と、その夫、霖之助の生首。そしてもう一つの肉塊に見えたそれは───

「うふふふふ。霖之助さんに似てかわいい赤ちゃんだわぁ!うふふふふふひゃははは!」

恐らく、魔理沙が身籠っていた霖之助の子供。

「あーあ。ゲロまみれできったなぁい!汚ないもの同士仲良くしてなさいよぉ!」

霊夢は魔理沙の首と胎児を吐瀉物にまみれた冴月に投げつけた。魔理沙が冴月の頭にぶつかり、胎児が吐瀉物を撒き散らす。

「か…あ……!」

動こうにも霊夢に盛られた毒で動けない。即効性のある猛毒だろうか。

「んっ、霖之助さぁん。本当は魔理沙じゃなくてあたしがいいんでしょ?霖之助さぁん!」

霊夢が霖之助の唇を舌でこじ開けて口内をねぶる。

「んんっ、ここもぉ……っ!」

霊夢は服を脱いでいき、一糸纏わぬ姿へとなると慎ましやかな乳房の頂点を霖之助の口に含ませた。あまりのおぞましさと、確実に訪れるであろう死に冴月は震えた。

昨日の霊夢のあれは恐らく、演技だったのだ。腹の中では文字通り幻想郷を焼き尽くすような嫉妬の炎が渦巻いていたのだ。

「………」

もう声も出ない。目も見えなくなってきた。

「んんっ!もうこっちもビショビショよ霖之助ぇっ!」

霊夢は液体が滴り出した性器に霖之助を持って行く。もう表情が変わることが霖之助の顔が霊夢の愛液にまみれていく。

自分が死ねば巫女のバックアップすら失った幻想郷の秩序は崩壊するだろう。力のある妖怪がここを支配し、人間や弱い妖怪は奴隷や家畜に成り下がるだろう。

(………ごめんなさい。紫様)
















ゴロッ。

尿と愛液にまみれた霖之助の首が畳を転がった。
すごい汚いエンドだろ?
ウソみたいだろ?
もともとハッピーエンドだったんだぜ。それで…
たいした理由もないのに、
ただ、ちょっと作者の虫の居所が悪かっただけで…
こんな話になったんだぜ。
な。
ウソみたいだろ。

ご精読ありがとうございました。夏コミにて東方神霊廟購入いたしました。一時間半照り焼きにされたのになぜあんなことになってしまったんだ。
もともと宴会の後霊夢が魔理沙や早苗にかこまれて消滅。その後神社に魔理沙がきて、かつての巫女にしたかのようにだべっていると妖精やルーミアのような野良妖怪が遊びに来て―――
みたいなEDだったんですがパンチが足りない(何年前の言葉だ)と思いましてこのような形になりました。
霊夢は愛され霊夢が一番かわいいよね。魔理沙はこれでいい。
IMAMI
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/20 17:56:16
更新日時:
2011/08/20 17:56:16
分類
産廃百物語A
霊夢
冴月麟
魔理沙
その他諸々
1. NutsIn先任曹長 ■2011/08/20 18:18:33
安酒を呷りつつ、夕食を頂きながら読ませていただきましたが……。
口と胃袋に入れたそれらをぶちまける事になりましたよ!!

まあ、実際、こんな事態は起きませんけどね。
なんせ、『彼女』は、こちらでは存在しませんから。
単なるデータの羅列。

もし、『彼女』が昔、自機に選ばれていたら、こんな悲劇が起きたかもしれませんが。
予定調和ってヤツです。
2. んh ■2011/08/21 20:04:43
『アザーズ』をちょっと想起しました。
やっぱり愛されクズ霊夢が大好き
3. ウナル ■2011/08/22 20:04:27
正統派どんでん返しかと思ったら……!
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