産廃百物語A『永遠亭隔離病棟』

作品集: 28 投稿日時: 2011/08/22 14:59:41 更新日時: 2011/08/22 17:14:05
竹林を抜けて開いた場所に出ると、切り開かれた空き地に一軒の平屋がある。

本当にそれだけだ。

林の真ん中の、今、通り抜けてきた竹林と比べても何の変哲も無い場所を無作為に切り抜いて、屋敷は立っていた。

何の目的があってこんな辺鄙な場所に家を建てたのか、空でも飛ばない限り迷わずにたどり着くのは困難だろう。

しかもこれが診療所もかねた建物と知ったら、尚更、家を建てた者の正気を疑わずにはいられない。

「すっかり日が落ちてしまったわね・・・」

博麗霊夢が目を上げると生い茂る笹の隙間から月がちらちらと覗いている。

屋敷に近づくと遠目からは分からなかったが、かなり立派な建物で、

彼女の神社の造りとは構成する木材の一本一本からして違う様だ。

はあ・・・と、ため息をつき磨りガラスのはめ込まれた戸をトントンと叩く。

返事は無い。

少し強めに叩こうか、それとも声を出そうかと考えていると、奥から返事が返ってきた。

暫く間をおいて戸が開けられると、やつれた感じの女性が霊夢を迎えてくれた。

「大丈夫?随分顔色が悪いみたいだけど・・・」

「ありがとう・・・平気よ。幸い今は患者も少ないから。

 こんな時だし・・・忙しくなくて、助かっているのは確かだけれど。」

永琳に招かれて、永遠亭の長い廊下を二人並んで歩いていく。

前にこの屋敷に来た時は外観からは想像できない広さに驚いたが、

今は平凡な、まあ・・・高級な旅館を思わせる内装以外はいたって平凡な家屋である。

「あなた達が私を呼ぶなんてね・・・しかも御祓いが目的なんて。

 どんな理由で呼び出されても驚いたでしょうけど。」

「・・・詳しい話は客間でするわ。とにかく急いで解決して欲しいの。

 最初はウドンゲや、ウサギ達だけだったのだけれど・・・まさか姫様の様子までおかしくなるなんて。」

話の内容も穏やかでは無かったが、霊夢はむしろ空気から、この家の現状が差し迫った物だと感じていた。

博麗の巫女の感が告げている。

本当に不味い状況だと。






・・・





射命丸文は永遠亭の一室で横になっていた。

畳張りの床に布団が敷かれた病室は清潔感があるとは言いがたいが、

幻想郷にはシートがしかれた床が非常に少ないのも確かだ。

しかも襖を開けるとすぐ廊下になっているので、行き交う人の話し声が嫌でも耳に入ってくる。

・・・彼女にとってはむしろ好都合だったが。

患者としてではなく、記者としてここで寝ている文には危険を犯さずに情報を入手できる最高の状況だ。

大事な羽に、わざと傷をつけてまで永遠亭に侵入したのは勿論目星をつけての事。

人間の里の近くに住んでいる木こりから入手したものに、

永遠亭の住人が酷く体調を崩したと言う話があったのだ。

診察を終えて出てきた患者を手当たり次第問いただしたところ、

『何時もは永琳の傍で忙しく動いている助手の少女が最近姿を見せなくなった。』

『診察中に医者の先生がこぼした話によると、どうやら彼女が慕っている月の姫が大きな病気になったらしい。』

などと、興味深い話が次々出てくる。

医者の不摂生と言うが、不老不死を謳っている連中が体調を崩すとは並大抵の事ではない。

絶対に何かある。長年の、彼女の記者としての感がそう告げると、

もともと大胆な性格も後押しして凶行ともいえる取材に走らせたのだった。

耳をそばだてると廊下を踏みしめる音と、永琳の話し声ともう一人の会話の相手の声が聞こえてきた。

「・・・あらゆる可能性を考えてみた。私が知らないウイルスだって存在するでしょうし、

 新種の病原菌かも知れない。

 精神的なものなのかもってね・・・でもどの可能性も否定されたわ。これは私の仕事の範疇じゃ無かった。

 本当ならもっと早く貴方に連絡すべきだったわ。」

「何でも屋みたいに思われても困るわ。本当に無理なら私は手を引くわよ。」

霊夢の声は何時もどうり冷静そのもので、

だからこそ戦闘において彼女の評価は霊力の強さ以上のものとなっている。

「そんな・・・」

永琳の方は興奮した様子で、殆ど口論と言っていい。

「霊感って言うかね、まあ感よ。ちょっとした特技みたいなもんだけど・・・それがヤバイって言ってるのよね。

 つまり、相当危険な霊って事。片手まで済ませられる雑魚の怨霊とは違う訳。」

「じゃあ・・・もし無理だったら、彼女達はどうなるの?」

「間違いなく死ぬわね。」

「な・・・!?」

声を荒げる永琳の気持ちも分かる。

遠ざかっていく声を聞きながら文は霊夢の人情の無さに少しあきれたが、

長い付き合いだから霊夢の肩を持てば、彼女もその立場から相当なプレッシャーを感じているし、

(それにかまけて他人との関係をなおざりにしても良いとは言えないが・・・)

根は良い奴だと言っておきたい。

「そろそろかな・・・」

障子をスルスルとあけ、二人の後と真相を追う文だったが、

実のところさっきの話を聞いて霊夢の傍にいたくなったと言うのもある。

この屋敷にいる内はどこも安全とは言えないのだが・・・




・・・




「はあ、はあ。う、水・・・」


レイセンが横たわっている布団が敷かれた部屋は、霊夢達がいる階からは丁度真下の位置にある。

普通の患者達とは違い、永遠亭の住人はより精密な検査を受けられるようにと、

研究室が傍にあるという理由で地下室にいたのだ。

しかし、地下特有のかび臭さと窓の無い内装が彼女の気を滅入らせていた。

友人であるてゐも近くの部屋にいるはずだが、体力の低下と共に部屋を抜け出す機会も減り、

分厚い壁に阻まれて人の気配は感じ取れない。

よろよろと酷い頭痛に頭を抱えながら、水を求めて立ち上がった。

何時も傍においている瓶の水を切らしてしまったのだ。

最近は常に微熱があるような気がしていたし、全身の関節も痛む。

症状が日に日に強くなっていくのが自分でも分かる為、暗い部屋に一人でいると殆ど気が狂いそうになる。


がたっ・・・


「え?」

戸に手をかけようとしたレイセンだったが、物音に驚いてふりむいた。

もともとは空き部屋だったのを、人が就寝する為の家具を一式そろえた室内。

広いとはいいがたいが、研究の機材が隅に積まれているため人が隠れられない訳ではない。

「気のせい・・・ね。」

背筋が凍るような気分に襲われ、殆ど自分に言い聞かせるようにして声に出した。

逃げるように薄暗い暗い室内から出ようとした。

「あっ・・・!?」

しかし、突然のめまいに膝を突くと、次の瞬間猛烈な吐き気に襲われた。

そして何故か、ある考えが頭から離れなくなった。




『この部屋に自分以外の人間がいる。』




・・・




永琳としては輝夜を優先したかったのだが、やはり症状が出るのが早かったレイセンとてゐの二人が先決だった。

地下に降りるために廊下の突き当たりにある階段の前まで来ていたのだが、霊夢が永琳にストップをかけた。

「どうしたの?」

「貴方はここで待ってて、ここからは私ひとりで良い。」

「何を言ってるの。地下はかなり広いのよ。地上の建物と同じくらいね・・・

 二人の部屋の場所を貴方は知らないでしょう。」

「それぐらいの広さなら大体気配で分かる。今気付いたのだけれど、

 ヤバイ霊気が階下から凄い速さで昇ってきているの。

 いよいよ相手方の力が強まっているみたいね。」

「それなら尚更私も行かないと!」

「足手まとい。」

唐突に告げられた永琳がムッとした表情に変わる。

「・・・これでも腕には自身があるわよ。」

「大丈夫だからプロに任せなさい。知ってるでしょ?霊の扱いならお手の物よ。」

「でも・・・」

「仲間思いなのは結構よ。なら、尚更急いだ方がいいでしょう?

 ここに居なさい・・・命令よ。すぐに二人を連れてくるわ。」

「・・・分かったわ。」

長身の永琳を見上げ、安心させるようにニコッとわらって霊夢が階段をおりていく。

「まったく、なんて事なの・・・」

永琳は頭を振り、なぜこんな事になってしまったのかと嘆くのだった。



コツ、コツ、コツ・・・



霊夢が階段をおりて暫くすると、石畳がしかれた通路が左右に伸びる廊下に着いた。

「迷った時は左ね。」

薄暗い廊下を進むと廊下の隅にうずくまる人影を見つける。

「レイセン?」

「あ・・・霊夢さん?」

なぜここに巫女がいるのかとは当然の疑問だろうが、今は彼女もそれどころでは無い様子だ。

霊夢が近寄ってが肩に触れると死人と間違えるほど体温が低い。

全身をがたがた振るわせながらも弱々しく微笑むのだが、土色の顔色と酷い隈をつくった瞳を見てぞっとした。

「立てる?ここは危険よ。怨霊の気配がそこ等じゅうからしているし・・・

 それにここの空気は地獄の最深部のそれととても似ているわ。」

長髪の少女は一人では立てそうになかったので、霊夢が肩を貸して今来た道を戻っていく。

「あの、怨霊って?」

「悪人の霊よ。貴方の身体の不調もそいつ等のせいね。上の階はここよりも瘴気が薄いし、

 とりあえずそこまで運ぶわよ。」

しかし、少し進むと人の声が聞こえてきた。

すぐについさっき分かれた永琳のものだと気付く。

「あなたねぇ・・・」

「れ、霊夢、違うのよ。この娘がいきなり・・・今度の騒ぎの元凶が私だって言い出した挙句、

 ずうずうしく霊夢に会いに行くって聞かないのよ。」

「あややや・・・私は本当の事を言っただけですよ。ああ、どうも今晩は、霊夢さん。

 あなたの事だからどうせろくに話も聞かずに引き受けたんでしょうけど、

 少しは人を疑う事を覚えた方がいいですよ。だいたい・・・」

「余計なお世話よ。何でもいいからこの娘を連れてさっさと上に戻りなさい。話しなら後で聞くわ。」

イライラと霊夢が文の言葉をさえぎり、永琳にレイセンをあずけると再び奥に進んでいこうとする。

「ま、待ってください。私も付いていきます。」

文が霊夢の傍らにいそいそと擦り寄って行く。

「どうなっても知らないからね・・・」

「た、頼りにしてます。」

永琳たちは階上に引き上げていき霊夢と文だけが二人地下に残る事になった。

「・・・文、その羽の傷は?」

霊夢が文の背中に伸びる黒の翼の一方を指差して、包帯の巻かれている下の具合を尋ねた。

「え、ええ。それほどでも。」

通路を進みながら文は霊夢に手を絡ませてきょろきょろと辺りを見回している。

会話も上の空と言った感じだ。

「ま、たいした事無いならいいけど・・・あまり絡みつかないでよ。」

「はあ、でも博麗の巫女の傍なら安全かなぁって。」

言いつつ文の手が霊夢の体躯の方へだんだん近づいていく。

「ちょっと、お尻触らないでよ。」

「あははは。」

ビシッと手を叩くと慌てて引っ込ませる。

廊下を右に曲がり、部屋が左右に並ぶ一本道に出た。あまり手入れされていないらしく、

所々裸電球が消えかかっている。

「・・・で、さっきの話はどう言う事よ。」

「?・・・ああ、永琳さんがこの騒ぎの元凶って話ですね。いや、別に根拠があるわけじゃないんですよ。

 何やらうろたえている様子でしたので、かまをかけてみれば何か出てくるんじゃないかと。」

「やれやれ・・・」

「でも貴方も同じような事考えているんじゃないですか?」

「まあ、霊に憑かれる様な人間なはなにか後ろめたい事があるんじゃないかって言いたいんでしょうけど・・・」

「実際どうです?貴方の感では。」

「永琳は黒ね。他の連中は巻き添えを食ったってとこでしょう。」

「なるほど。いい記事が書けそうです。」

十五メートルほど歩き廊下の突き当たりにある部屋の前まで来ると、霊夢が手を伸ばして文の歩を止めた。

「?」

特に強い瘴気を感じた霊夢が一瞬進むのを躊躇する。

「前にあったウサギの気配がする。この部屋にいるわね。」

「そうですか、それじゃあ入りましょうか。」

「ええ・・・」

ドアを開けると部屋の中には薄明かりがついている。

ムッとする臭いが立ち込めているが、この部屋の荒れようの方が注意を引く。

家具が殆ど倒れている。

レイセンがいた場所と違って一応人が住む為に用意された部屋だったため箪笥や水道が設置してあった。

その部屋の真ん中でてゐは寝ている様だった。

「てゐ、起きてる?私は霊夢よ。博麗神社の巫女って言えば分かるわよね?貴方を迎えに来たの。」

文が布団に包まっているてゐに歩み寄り肩をゆすった。返事は無い。

「てゐさん・・・てゐさ・・・!?」

文が「ヒッ!」と短い声を上げて飛び退いた。

「な、なによ。どうしたの?」

「分かりません彼女の身体に触れたんですけど、なにか、肉が・・・不自然に沈み込んだような。」

「その手、手は大丈夫なの?」

「え?」

文の右手には粘着質の黄色い液体がネットリとへばりついていた。

慌てた様子で服が汚れるのも構わずシャツにこすり付けて取ろうとする。

「くっ、きたな・・・何これ、取れない・・・!」

粘液には所々にピンク色の固形物がついている、一際大きな塊を引き剥がした文が荒い呼吸を繰り返している。

「何ですか?冗談じゃないですよ・・・彼女変な病気何じゃないですか。

 私触っちゃいましたよ、冗談じゃないですよ・・・うつるやつだったらどうするんですか!」 

「お、落ち着きなさい、永琳が治してくれる筈だから・・・」

霊夢はそう言いつつも二人から距離を置く。

と、文の後ろで布団に包まったてゐがゆっくりと立ち上がった。

「あ、ああ・・・てゐ、立てるのね。」

霊夢の声に文は振り返り、立ち上がった少女の胸倉をぐっと掴んだ。

「どうしてくれるんですか!?冗談じゃないですよ・・・何で私が巻き込まれないといけないんだよ。

 あの医者、私達にこいつを押し付けて自分はのうのうと高みの見物とか、冗談じゃないですよ!」

てゐの身体はガクガクとゆすられ、彼女が重病人だとすればいかにも不味そうだ。

とはいえ頭から布団を被っている為、二人からはか細い息ずかいの他にてゐの様子をしるすべは無かったのだが。

霊夢は慌てて文を止めようとした。

ズボッ・・・

「へ、ひっ、ひぎゃああああああああああああぁあああああぁぁ!!!」

「え!?あ、文?」

グジュル

と言う音を立てて文の腹の肉が背中から抜け落ちた。

代わりに小さな腕が冗談のように背中から飛び出ている。土気色を更に黄色っぽくした様な腕だった。

霊夢がそれをてゐの手だと気付いたのは手が引っ込んで暫く経ってからだった。

「あああぁぁぁ・・・」

うずくまる文を見下ろすようにしていた少女の手がふたたび文の首筋に触れると、

その瞬間気を取り直した霊夢によって彼女の身体は後ろに吹き飛ばされた。

てゐの身体は三メートルほど飛んで、壁に当たって干物のように床に落ちた。

「はあ、はあ、はあ!」

「立って文。は、早く・・・戻るわよ。」

霊夢はうずくまる文の肩に手を回して立ち上がる。

腹に風穴が開いているが、文ほどの妖怪ならまだ何とかなるだろう。

戸を閉めて、部屋を後にする・・・

考えが甘かったようだ。もうあの兎の妖怪は手遅れなほど霊に侵食されている。

「うう、痛い、痛いぃ・・・」

「ほら、がんばって。とにかく地上に出ないと、ここにこれ以上いたら・・・私達もああなるわよ。」

だが、廊下を半ばまで進んだころ、背後でガチャリと戸の開く音がした。

「ひっ。」

「だ、大丈夫・・・あいつ、足は遅いわ・・・」

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・!」

「うっ、なんてこと・・・!身体が腐ってるわ。ああ、思ったより足は速いようね・・・」

「れ、霊夢・・・」

バシュッと言う霊撃の音がする。

「うそ・・・!力が・・・凄く弱まってる。なんで・・・」

「はあ、霊夢さん・・・ううっ」

「追いつかれる、文、もっと急いでよ!」

「うう、置いてかないで・・・」

「わ、分かってる・・・わよ。」

霊夢はズルズルと殆ど引きずるように文を担いで歩く、しかしどう考えても途中で追いつかれてしまうだろう。

「くそっ、ちくしょう・・・!」

バシュ、バシュ

霊劇の音が何回も地下の通路に木霊す。

「はあ、はあ、くっ・・・」

おそらく数十回は霊力の放出があっただろう。

文がチラッと背後を振り返ると、バラバラになった肉片がピクピクと動いているだけだった。

「ちくしょう、霊力を殆ど使っちゃったわ・・・みんなこの瘴気のせいよ。力が吸い取られる・・・」

「が、あああ・・・はあ、はあ・・・霊夢さん・・・私、何か変です。」

「あ、文。」

霊夢も肩越しに文の体温が非常に低いのを感じていた。

「だ、大丈夫?」

「何故でしょうか・・・痛みを感じません。」

「ま、まさか・・・」

壁に文の体をあずけると、そっと胸の辺りに耳を当てる。

「・・・!!!」

「霊夢さん?」

「貴方・・・あ、貴方はここで待っていて。」

「え?」

「こ、これ以上連れまわすのは危険だと思うの。貴方の体温、凄く低いわ。まるで死人みたいよ。

 すぐ、永琳を呼んで来るから。」

「分かりました、さっき霊夢さんは私を見捨てなかったから信じます。きっとすぐ戻ってくださいね。」

「分かったわ。」

上ずった声で答えると逃げる様に走り去った。

「なんて事、あ、文・・・あんたの心臓・・・動いてないよ・・・!」

ドタドタと、這い上がるように階段を駆け上がる。

膝から崩れ落ち、ゼエゼエと息を吐く。

地上に出てもまだ呼吸がおかしかったが、緊張による物だと霊夢は自分に言い聞かせた。

彼女が永琳と落ち合おうと、襖が並ぶ廊下をよろよろと進んで行くと、

途中でレイセンが廊下の真ん中に座っているのを見つけた。

「あ、ああ、霊夢さん。」

「レイセン、あ、ま、また後でね、今は忙しいの。」

彼女がまともかどうか分からない。

霊夢は逃げるように通り過ぎようとしが、袖をつかまれて思わず悲鳴を上げてしまった。

「待ってください、聞いてくださいよ・・・師匠ったら酷いんです。私の事を死人だって言うんですよ。

 馬鹿でしょう。死人に向かってお前は死んでいるだなんて・・・いかれてますよね?

 私は生きてるんです。ねえ、そうでしょ?霊夢さん。」 

霊夢がなんと答えていいか分からず絶句していると、襖の向こうからうめき声が聞こえてきた。

それも一つや二つではない。ここの入院患者だろうか?

「霊夢さん、聞いてます?」

「え、ええ。でも急いでるの。袖を離して頂戴。」

「質問に答えてくださいよ・・・師匠は最高の名医なんです。

 そんな人に死んでいるなんて言われたら私も不安になっちゃうじゃないですか。私の気持ち分かります?

 たぶん師匠は私の体温が凄く低くて、それに脈も無くて、

 心臓も止まっているから私が死んでいるって言ったんじゃないかなあ。

 私の心なんかこれっぽちも見てくれない。

 師匠は何時もそうなんですよ、わたしがどれだけ師匠のことを思っているかなんてぜんぜん知らないんです。

 霊夢さん・・・貴方もそう思うでしょう?」

彼女が話している間にも苦しそうな息ずかいの数はどんどん数を増していき、

今や祭りの夜の大通りの騒ぎに近い。

あまりのことに言葉を失う霊夢だったが、レイセンは袖を握って話そうとしない。

「貴方は、い、生きているし、永琳はきっと・・・あなたの事を慕っていると思うわ。」

それは苦し紛れに言った台詞だったが、レイセンは顔を輝かせ、

この世に悲しい事なんてないといった様子で笑い出した。

霊夢は喧騒から逃げ出すように廊下を走って行く。

もう、彼女はこの屋敷から逃げ出すことしか頭になくなっていた。

「う、ひぐっ・・・ぐすっ。」

狂ってしまった世界から逃げ出すように霊夢は走った。

途中で何度も足をもつれさせて転んでしまったが、涙をぬぐう事もせずにひたすら走った。

廊下を猛スピードで走りぬけ、この角を曲がればすぐ玄関だと言う所まで来る。


ドカッ


角を曲がった時に出会いがしらに誰かと衝突してしまった。

「ひぅ、ひいいぃ・・・」

「れ、霊夢?」

心配そうに彼女を見下ろしているのは永琳だった。

止まりそうだった心臓が少しずつ落ち着きを取り戻していく。

永琳の後ろには輝夜の姿もある。

「あ、ああ、永琳。よかった・・・あなたは無事だったのね。ごめんなさい、無理だったわ。

 てゐはもう手遅れで・・・文も置いてきてしまった。」

「霊夢、安心して。もう大丈夫、さっき皆解決したわ。」

「?・・・どういう意味。」

何が解決したのだろうか?まだこの屋敷は怨霊の気配で溢れている。てゐはもうどうやっても戻ってこない。

文やレイセンもまともには戻れまい。

「全ては気の持ちようだったのよ。文の言うとおり、今回怨霊がわいたのは私の責任なの。

 レイセンやてゐは、かけがいの無い家族。だからずっと一緒にいたかった。

 蓬莱の薬は地上では作れないけれど、

 生きた人間の霊魂を利用すれば半永久的に活動できる身体になれると思ったのよ。」

永琳は息を吐いて申し訳無さそうに頭を下げた。

「結果は見てのとおり、私はみんなを幸せにしたかったのに、ここはまるで地獄の様。

 肉体と精神が霊魂の残留思念の強さに耐えられずに崩壊をはじめたのね。 

 霊夢、貴方の体ももう、腐敗が始まっているわ。」

霊夢は頭を振り永琳の言葉を聞かないように耳をふさいだ。

「五月蝿い!そんなわけない!私は生きるのよ・・・私の家に、神社に戻るわ!」

永琳を押し倒して出口に向かおうとするが、静かだった輝夜が霊夢の前に立ちふさがる。

長い髪から覗くのは、血色の良い何時もの品のある顔だった.

「まあ、待ちなさい。どうせ貴方はもうすぐ死ぬわ。だからここに居なさい、客として丁重に迎えるわよ。」

「うるさいー!!!」

霊夢が輝夜の顔に向かって札を投げると、先ほどと違い、霊力は普段どおり滞りなく放出された。

それは輝夜のこめかみの辺りを通り過ぎ、ズルリと頭部の上半分が地に落ちる。

「あんたが、悪いのよ・・・あ、あんたが・・・」

ガクガクと震える指先を下ろし、霊夢は輝夜の眼球の上に出来た空間から外の景色を捉え、開放の喜びを味わった。

しかし脳の大部分を失っても輝夜の身体は倒れない。

「駄目よ、霊夢・・・姫様は不死の身体なのよ。その程度では肉体を滅ぼせないわ。」

永琳はくすくすと笑いながら床に落ちている輝夜の頭部を拾い上げ、

棒立ちの身体を後ろから抱きかかえるように支える。

そして、身長の低い輝夜の頭部の断面に顔を近づけた。

「このままだといろいろ具合が悪いものね。」

大きく開けられた永琳の口から黄色の嘔吐物が吐き出され、べチャべチャと輝夜の開いた頭部に落ちていく。

嘔吐の勢いは凄まじく、飛び散った液体が霊夢の顔にかかった。

「な、あ!!??」

液体が顔にかかるたびに凄まじいめまいに襲われ、何故か月の都の景色や、

今まで霊夢が見たことも無い人間の顔が浮かんでは消えていった。

嘔吐を終えると永琳は持っていた輝夜の頭部を、脳みそをこぼさない様に慎重に頭に乗せた。

「・・・あ、ああ。ふう、霊夢〜、酷いじゃない・・・」

「あが、あ、何、で?」

断面だった場所から黄色の嘔吐物を垂れ流しながら、何事も無かったかのように輝夜は話し出した。

「ありがとう永琳、貴方の魂を感じたわ。霊夢・・・貴方も体験してみる?

 さっき、ちっちゃな永琳の子供のころの記憶が見えたの。可愛かったなー。」

完全にいかれている。

さっき永琳の精神に触れて分かったのは、彼女の人生に常に付きまとっていた感情だった。

何時も孤独だったのだろう。

あらゆる人間が、この屋敷で彼女の人生の道連れにされて来た・・・

そして今は霊夢が彼女の孤独を一時忘れさせる為の玩具になろうとしていた。

「あ、あああああああぁ!」

霊夢は震える足で立ち上がり、出口に向かって歩き出した・・・

が、数歩歩いただけで腰が抜けて膝を突いてしまう。

屋敷を出れば何とかなる。

そんな淡い希望にすがり、殆ど這うように出口に向かっていく。

「あ、ああ・・・神様、あと少し、なの・・・あと少しで外に、ああ、神様・・・」

ゆっくりと輝夜の影が霊夢の背後に迫ると、手を伸ばして彼女の頭を捕らえた。

「あ、あう・・・もう、少し・・・なの。」




ぐちゃ・・・
まず遅れた事に謝罪します。
もしかして全国に一人くらいエイエイの作品を待っている人がいたらその人に「ごめんよ。」と伝えたいw
いや、謝罪って難しいですね。
・・・ごめんなさい。
作品ですけど最初の構想の5分の1くらいの長さにまとまりました。
ホラーを書くのって難しい!
気分が乗らないとだめですねぇ・・・後書きのこんなテンションの文章じゃあ論外ですし・・・
人生の8割が鬱な作者だから何とかなるかと思ってたんですけど、
気分が沈んでいるからといって暗い文章になるとは限らないですもんね。
皆さんの作品はどれも良作ぞろいなので緊張します・・・うう。

※誤字修正しました
エイエイ
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/22 14:59:41
更新日時:
2011/08/22 17:14:05
分類
産廃百物語A
霊夢
ホラー
1. 十三 ■2011/08/22 16:59:13
素晴らしかったです。
そしてホラーでした。十分なスリルを味わうことができました。
夏の暑い一時をこのように過ごせてよかったです。

人生の8割が鬱なら、残った2割を楽しむ努力をしなければなりませんね。
じゃないと、あなたの体にも悪霊が……
2. NutsIn先任曹長 ■2011/08/22 21:42:02
蓬莱人クラスの悪霊って……。

楽に逝けると思うなよ。
ああなった者達の末路。

名うての者も哀れ、悪霊の仲間入り。
大量の贄を得て、
呪いの力も倍々ゲーム。
上手くいったらお慰み。
死なば諸共、仲良しこよし。
労働三昧報われず。
逃げても結局、捕まった。
3. 穀潰し ■2011/08/23 00:22:48
異常な中において、正常こそ異常である。
あれー? でも文が酷い目にあっても全く心が痛まないのはなんででしょうね。
4. んh ■2011/08/23 19:05:58
これは素敵な正統派病院ものホラー
イっちゃった永琳より怖いものはないなあ
そして射命丸がこれぞ射命丸で安心しました
5. 幻想保査長 ■2011/08/24 21:55:28
正念場で気を抜くとは・・・情けない巫女だ
神なんてものを頼った時点で神は死んだんだよ!
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