はらぺこ霊夢の紅魔郷 それから

作品集: 29 投稿日時: 2011/09/04 02:20:38 更新日時: 2011/09/08 21:16:50
博麗霊夢の手によって解決された紅魔異変は多くの妖怪と霊夢自身に影響を与えました

しかし幻想郷にとってこれはひとつの語り話にしかならないでしょう、どんな事があろうと幻想郷は幻想郷のままに存在し続けます

そんな語り話のそれからをどうぞ。

















1.失敗は、より賢くやり直す機会に過ぎない。


 ぽかぽかと、優しく叩く温もりにチルノはぐぅぅと顔を歪ませながらゆっくりと、全身の痛みをチクチク感じながら瞼を上へと持ち上げる、霧がかかったように霞む目は夜明けを背に、座る緑色の何かを中心に見据えていた。

 チルノの頭はグルグルと緑色の何かを理解しようとして、そしてだんだんと思い出してきた、そうだあたいは知っている。あたいがお留守番をする前のあのみんながいた頃、あたいよりも背が高くて、他のみんなから群がられていた姿、特別にあだなをつけてやる!と何日も考えぬいたあだなを言ったら、なんだか男の子みたいだねって笑ったあの顔。

 そうだ、思い出した。

 「だい……ちゃん……?」

 いつもの元気もない、弱弱しい声でチルノは緑色の妖精に声を投げかける、返答はすぐだった。

 「そうだよ、チルノちゃん」

 はっきりとした、安堵と緊張とわずかな恐怖を秘めた鼻声で


 大妖精は“特別”だった、他の妖精が赤・黄・茶などの色で羽や服を彩っている中で彼女の羽と体の色はほとんどが緑一色で緑色の妖精は周りで彼女だけだった、更に体は普通の妖精よりも一回り大きく力も少し強かったので目立っていた、幸いにも彼女を邪険に扱う者はいなかった。妖精たちは彼女を大妖精と呼び、頼りにしていった、彼女自身もそれがいいと笑顔で振舞った。だけど心は寂しかった、他の妖精たちと対等になれず、遊ぼうとしても、話をしようとしても、他の妖精は彼女を特別扱いしてどこか遠慮がちだった。それが心の底から苦しかった、こんな体でなければこんな色でなければ力がなければ私はみんなと一緒になれるのにと、いつしか心は病み、憂鬱になっていた。

 そんな時大妖精の前に自分とは違う“特別”を持った妖精が現れた、その妖精は満面の笑みでチルノと名乗った、チルノの体と羽は真っ青で目立っていたし、他の妖精にはない強力な氷の魔力を持っていた、それでもチルノの顔には輝きが詰まっていて大妖精は不思議と心が暖かくなる気がした。それからチルノは大妖精にだいちゃんとあだ名を付け、一緒に遊び、話し合い、昼寝もした。そこには他の妖精にあった特別扱いも遠慮もなかった、自然体でいられた。本当の友達が出来たと心の底から大妖精は喜んだ、いつまでも仲良くしようという約束もした、大妖精にとっての幸せがそこにあった。

 そんなある日、チルノが湖を守ろうと妖怪と戦う姿に他の妖精たちがバケモノと呟く声が大妖精の耳に届いた、すぐに反論しようと口を開く、チルノちゃんは良い子なんだそんなの可愛そうだと、しかし妖精たちの耳には届かない、寸前で口を塞いだから、思わず逃げ出したから、何故なら


 あのバケモノは良い子だと

 信じられないほど自然に言いかけたから


 それから少し後、妖精たちが湖を去る時、一緒に行こうと大妖精に呼びかけてきた時、大妖精はすんなりとその後を追ってしまった、チルノとの約束を忘れようと、卑劣な最低な自分の存在を必死に消し去ろうとしながら、

 湖を去ってからの大妖精の脳はパンク寸前だった、これで良かったのかと、私はどうすればよかったのかと必死に悩みぬいた、地面に頭を叩きつけ、皮膚をボリボリと皮膚が切れて血が滲むまで掻き毟り、後悔の涙に溺れないように唇を噛み締め続けた。

 自傷行為に疲れ果てた頃、大妖精の思考は停止した、そしてほとんど無意識に大妖精の体は湖へとするすると吸い寄せられていった。ただ体が求めていた、本当の友達に会いたいと、自分の幸せの元に戻りたい、その思いだけが大妖精を動かして行った。

 大妖精はしばらくの間、湖の上に立つ久しぶりに見る友達の姿を木の陰からじっと眺め続けていた。かつての友達の孤独な姿、悲しそうな目を見るたびに大妖精は心の底から苦痛を感じた、感じる事しかしなかった、できなかった。それから何度も何度も湖を見に行った、もはや理由も意味もない、ただただチルノの姿が見つめていたかった。

 そして赤い霧のあの日、人間に倒されるチルノの姿を見てしまった。

 なにも出来なかった、人間から発せられる圧力に体は動かず、チルノの体が湖に沈み人間の姿が森へと消えるまで大妖精は木の陰で体を震わせうずくまっていた。

 それからようやく安全になったと大妖精はすぐに湖へと飛び込んだ、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。引き上げてからチルノが目覚めるまで大妖精は傍らから離れなかった、私が守ると、そばに居続けると。、かつてのチルノの姿を無意識に真似て。

そして今、大妖精にとって本当の罪滅ぼしの時がきていた。


 大妖精は羽が折れ、傷だらけのチルノをそっと抱き寄せると、ゆっくりと自分の罪を吐き出していった、チルノをバケモノと見て逃げ出した事、仲良くしようという約束を破った事、チルノが必死に湖を守ろうと戦っていたのに自分は何もしなかった事。

 いつしか鼻声は涙声へと変わり、大妖精はそれっきりごめんなさい、本当にごめんなさいと人形のように呟き続けた、しかしその謝罪はチルノの耳にはほとんど入っていなかった、ただひとつ確認したい事があったから、チルノにとって求め続けていたひとつの事実。

「ねぇ、だいちゃん。」

 小さな、だけどはっきりと聞こえた言葉に大妖精は何?とすぐに反応した、虚ろげな目と涙に濡れた目が重なった。

「あたいは、もう、お留守番しなくて、いいの?」

 途切れ途切れの怯えた声、大妖精は即座に理解した、そして後悔した、こんなにも優しい子を、こんなにも純粋な子を私は見捨てたんだと、

「もう、しなくていいのチルノちゃん!これからはずっと一緒にいるから……、今度こそ絶対にいなくならないから……、約束も絶対に破らないから……、他のみんなにも帰ってくるよう呼んでくるから、そうしたらまたみんなで遊べるから、大丈夫だから!大丈夫だから安心してチルノちゃん!」

 チルノをきつく抱き締めて大妖精は悲鳴をあげるように言い切った、その叫びを皮切りにチルノもわんわん泣き始めた、湖の川沿いで二人の妖精の泣き声がしばらく響き続けていた。

 悲しみや後悔はもうない、ほんの少し未来、幸せな妖精たちの姿がある明るい未来を思わせてくれる、そんな泣き声を。


2.自分自身を幸福だと思わない人は、決して幸福になれない


 「240食分の幸せをどうやって取り返せばいいのよ咲夜ぁ!?」

 「そこは180食の方が健康にいいわよ霊夢」キリッ
 
 霊夢が紅魔館から去ってから二ヶ月間、人里の茶屋で団子をむさぼる霊夢を見つけるまで咲夜はつくづく長い二ヶ月だったと思い返す、疲労に潰れそうになったりしたけれど、死を覚悟した事もあったけれど、それでも心の底ではとても充実していたと語っていた。

 その顔はとても晴れやかで、幸せそうだったという


 咲夜は霊夢が去ってからまずその場に電源が切れたかのように倒れ伏した、本当の所は妖精メイド達から休息を懇願されていたが、霊夢に馬鹿にされたくない一心で耐え抜いていた、それから数日眠り続けていった。

 ようやく意識が覚醒した時、咲夜がそっと気配がする方に首を曲げるとそこには自分の主であるレミリアお嬢様の一番の親友だと言われていたらしいパチュリー・ノーレッジの形をしたゾンビが「あなた今失礼な事考えているでしょう?」失礼致しました。

 「だけどパチュリー様、そんな落とし穴のように目全体に広がった黒い隈と、ムンクの叫びのようなほっぺたと、爆発にでも巻き込まれたようなもみくちゃな髪を見たら誰でもそう認識してしまいますよ」

 「そぉ、地獄へ二人仲良く逝かせた方が良いかもと思っていた数日前の自分に謝ってこようかしら」

 ぶすっとした顔でそう言い出した姿に咲夜はそんなつもりではとあたふたしているとパチュリーはふっと顔を緩めて呟いた、

 「冗談よ、ちなみに今悪いニュースが沢山と良いニュースがひとつだけあるけどどうするかしら?」ムキュン

 咲夜はこの前まで病弱な人だと思っていたパチュリーのたくましさに困惑しながらも良いニュースからゆっくりと状況を整理していった。

 パチュリーの長い治療のおかげでレミリアお嬢様と美鈴が地獄に落ちる事は免れた、が、レミリアは部屋に篭りっぱなし、美鈴は変態になり図書室は気が付いたらモンスターハウスになっていて、今現在はリトル(最近に命名したらしい)が妖精メイド達と共に、激闘しているとの事などエトセトラ。

 咲夜は外面は落ち着いた素振りで聞いていた、それはひょっとしてギャグでいっているんですかと言い出しそうになりながら。


 それからの咲夜は、紅魔館のために奮闘した。


 あとはよろしくとその場に倒れたパチュリーを自分の寝ていたベットに寝かしつけると、レミリアお嬢様とは最後にゆっくりと話そうと決め、まず図書室に向かった、そしてリトルと妖精メイド達と共に図書室をなんだか黒くて丸い物体やマッチョになるスライムなどから犠牲を出しながらも奪還、ついでにリトルと妖精メイド達から厚い信頼を掴み取った、しかしトラウマもできた。

 次に美鈴のいる門へ向かった咲夜は当初「変態になった」という意味が分かっていなかったがすぐに理解できた、豊満な胸をさらけだし、何故か泣いている部下の妖精に乳首辺りを殴らせている美鈴の姿が見えたからだ、時々「もっと力を込めろ!」と喝を入れる姿は変態というかシュールというかただのキチガイだった。

 呆然と殴られて揺れる美鈴の乳房を眺めていると、ちょうど近くに死んだ魚のような目で正座していた妖精がいた。呼び出して訳を聞くと咲夜は心底呆れ果てた、もう無視しようかと館に戻ろうとすると妖精からこのままだとおっぱいに殺される!という意味不明な説得を受け、その顔があまりにも悲壮感たっぷりで咲夜は思わず了承してしまった。

 何でもパチュリーから治療を受け復活した美鈴は「自分の敗因は乳首が弱かったからだ!」と宣言、美鈴の胸にいくらか嫉妬と嫌悪の念を持っていた貧乳の妖精メイドにとってそれからは地獄の日々だったという。

 その内容はとにかく乳首を殴れ、その為に最初の内は怒りに任せて付き合っていたが、段々とグロッキーになり、今となっては「修行の時間よ!」という一言と同時に胸をだす美鈴の姿にその場に嘔吐し許してくださいと悲鳴を上げる妖精が現れた程だそうだ、段々おっぱいに殺されるという気持ちが嫌々分かってきた、分かりたくなかった。

 鍛える所おかしいしいっそ切り落とせばいいんじゃあとかもうどうしようもなくね?とか色々なツッコミ所に混乱しながらも咲夜は仕方なく美鈴に話しかけてみる、本人の口からはお嬢様達を守る為にすべき事なんです!とか乳首を鍛えれば絶対に負けません!とか、心意気だけは満々なだけに面倒くさくなった咲夜は決めた。

 こいつ、いつかころそう

 よし、そうしようと挨拶もそこそこに美鈴と別れた咲夜は絶望にまみれた顔を向ける妖精達にそっと呟いた。

 「これもひとつのあなた達への修行だから頑張りなさい、いずれ助けてあげるから」キリッ 

 と、吐き捨てるように、無責任な笑顔を添えて


 そんな紆余曲折を経ておよそ一ヶ月、ようやく紅魔館に落ち着きが取り戻された頃(門辺りは除く)、咲夜はレミリアの部屋の前に佇んでいた。

 紅魔館の修繕や清掃も終わり、図書室も元通りになり、妖精メイド達も以前よりもどこか元気になっている(門辺りの妖精は除く)、今こそ咲夜はレミリアと向き合う事にした。
 これまでの一ヶ月、リトルやパチュリー、妖精メイド達と触れ合う内に(美鈴は除く)咲夜の心の内は変化していっていた、かつて妄信的にレミリアだけを求めていた自分を殺したあの日、それからの日々は生まれ変わったようだった、助け合った時、皆で食事をし合った時、図書室で色々な書物を読み、話し合った時、その時その時に自分は幸せだと実感できた(門関係は除く)、かつての日々よりも幸せに思えた、だからこそ足りなかった。

 このままレミリアお嬢様と決別するのもひとつの道かもしれない、それでも咲夜は立ち向かう事にした、かつてのあの紅白の言葉、向上心を胸に込めて。

 本当の幸せの形を手に入れる為に


3.逃げない、はればれと立ち向かう 


 コンコンと、上品に扉を叩いて数秒、咲夜は一言はきはきと「失礼致します、お嬢様」と言いドアノブを回し扉をゆっくりと開いていった、そうして出来た間に咲夜は体をスッと通すと背中を向けて小さく礼をすると丁寧に扉を閉めた。

 ガチャリと、まるで楽器のように良く響いた音を耳にして更に数秒、咲夜は最後の覚悟を決めて後ろを向いた、扉を開ける途中で垣間見えた、たくさんの赤い染みと家具の残骸へと向き合うために。

 そこはまるで廃墟の一室のように荒れ果てていた、絨毯は毛糸と布のような物に分解され、テーブルや棚もバラバラになり、赤い染みの付いた衣服などが部屋全体に飛び散っていた。そんな光景に確かな恐怖を感じながらも咲夜はゆっくりと奥へと歩を進める、一歩毎に木片のパキリと割れる音が響き、赤い染みはねっとりと余計な自己主張を咲夜の足元に行っていた。

 不快感と部屋全体に溢れる異様な雰囲気に全身が押さえつけられる錯覚を感じながらもようやく部屋の奥へと近づいた時、咲夜は見つけた。

 もはやぼろきれともいえる布を体に巻きつけながらベットの残骸にまみれて座り込んでいた、穴だらけの蝙蝠の羽根を背負った一ヶ月ぶりに見るあのレミリア・スカーレットの姿、布の切れ目から僅かに差し込む、紅い瞳の眼光を。

 紅い眼差しに体を貫かれながら、咲夜はまるで歯車が止まったかのように微動だにしなかった。そこには恐怖も、驚愕もなかった、ただただ愛おしかった。瞳の奥が熱く、頬は今にも崩れそうになる、だがまだ早い、今はまだ早い。咲夜はゆっくりと愛する人の元へ、いますぐにでも抱き締めたい衝動に駆られながらもゆっくりとレミリアの元へと歩を進める、反応はないが殺意が肌を突き刺した、今怯めば最後、咲夜は全てが終わる気がした。

 ようやく咲夜はレミリアの前へと辿り着く、まるで長い道のりを歩き続けたように全身から汗が溢れ、脳はまるで手でこねくり回されたかのようにズキズキとする、それでも咲夜は怯まなかった、レミリアの姿を視界から外さずに、ゆっくりと腰を下ろした。そして咲夜は慎重に息を整え静かに覚悟を決めた。


 今ここでレミリアお嬢様に殺されても、私は構わないと


4.誰の上にも雨は降るけど時々そしらぬ顔をして、チャンスも降ってくる。

  
 段々と咲夜は自らがようやくレミリアからの殺意に怯えてきているのに感づいた、芯の底から震えが溢れ、鼓動が速まり、嗚咽が漏れ出しそうになる。今すぐにでもこの場から去りたい、逃げ出したい心が片隅から表れたのを実感する、それでも咲夜は耐える、今が最後のチャンスなのだと、自分に心に言い聞かせながら、そして

 「お嬢様」

 レミリアと向き合った。

 咲夜の第一声は部屋全体へと反響し、ゆっくりと消えていった。そして完全に残響が無くなった瞬間に咲夜はもう一度

 「レミリア、お嬢様」

 と声を鳴らした。

 瞬間、何かが浮いたと思った途端

 咲夜の体は壁へと叩き付けられた

 「がぁ!…はぁ…ぁ…」

 背中から前へと奔る衝撃にまるで心臓が飛び出すような感覚に息が潰れ、咲夜の体はズルズルと落ちていった、強烈な眩暈に意識が持っていかれそうになる感覚に、咲夜は唇を噛み締めて耐え凌ぐ、覚悟は決めたんだ、屈する暇も無いと

 ようやく眩暈が抜け、意識がはっきりとした瞬間咲夜の眼前には一人の吸血鬼の姿がそびえ立っていた、頬はやつれ、ぼろぼろの服の間からは深い自傷の痕が見えていた、それでも瞳は紅く煌いていた。

 美しいな、と咲夜は自分でも場違いだと冷静に思った、気でも狂ったのだろうかと、いやそれなら好都合だ。今の私にはそれが似合う。ゴホゴホと喉を痛めつける咳に顔をしかめながら咲夜はフラフラと壁に体重をかけながら体を持ち上げた、無意識にレミリアと目線を合わせるように、咲夜は紅い瞳に対峙した。

 「ねぇ咲夜」

 吸血鬼の唇が揺れた、脳を舐めるかのように流れた声は咲夜の唇を動かす。

 「はいお嬢様」

 「咲夜」

 「はいお嬢様」

 何度かの同じ言葉の掛け合いののち、レミリアは俯きしばらくの間沈黙した、咲夜も呼吸を整え静かに自分の主の言葉を待った、途端

 「咲夜は今、一緒に、死のうと命令したらしてくれる?」

 上げた紅い眼が怯える子供のように震えていた。


 咲夜はかつての自分を想う、きっと喜んでとかお嬢様と共にならどこへでもなどとすぐに了承したであろうと、だけど今の私は違う、新しい世界を見つけた、そして今私がお嬢様を救うと、咲夜はゆっくりと

 「それは出来ません」

 そっと否定した。

 「どうして?咲夜は今まで私に永遠の忠誠を誓ってきたはずよ?私の存在が幸せだというのに、それを、簡単に否定してしまうの?」

 紅い瞳は揺れ続け、声には弱さが生まれ始めていた。

 「それは誤解ですお嬢様、今でも咲夜はお嬢様を愛し尊敬しています、だからこそ、そうだからこそ、今こそ咲夜はお嬢様に反抗します」

 「黙れ、私の事なんて何も知らない癖に調子に乗るな人間」

 声が荒げる、しかし咲夜には最早、強がりにしか感じられなかった。

 「ならば教えてくださいお嬢様、この瞬間までにあったお嬢様にあった事、想った事を出来る限り私にぶつけて下さい、私は悩み、考え、そして全てを受け入れます。だからお嬢様、お願いいたします」

 「この“紅魔館”メイド長、十六夜咲夜を頼ってください、全身全霊を込めて、私はお嬢様、そして紅魔館の為に全力を尽くします!」

 凛とした声で咲夜はレミリアに礼をした、一切の警戒をしなかった、必要なかった、自分の中で何かが解き放たれた気がした。

 「…ごめんなさい」

 かすれたような小さな声、それでも咲夜の耳には確かに響く、ゆっくりと顔を上げ咲夜はレミリアと向き合い目を見開いた。
 
 「ごめんなざい…、ごべんなざい…!」

 紅い眼から透明な涙がこぼれていた、両手でぼろぼろのスカートを握り締めながらひたすらに、声がなくなるかと思う程にレミリアは謝罪の言葉を流し続けた。

 しばらく咲夜は落ち着くまで、レミリアの背中を子供をあやすかのように撫で続けた、かつての自分なら絶対にしない、今の私だからこそお嬢様に出来る事だと、咲夜はどこか喜びを感じながらもレミリアの傍から離れなかった。

 そしてようやく落ち着いた頃、レミリアはゆっくりと語り始めた、出生、幸せな日々、フランの誕生、崩壊、復讐の日々、そして咲夜を手に入れた日の事、そして今現在に至るまで。

 咲夜は不思議と悲しみも憎しみも感じなかった、自分でも分からないぐらいの安らぎが心を包み込んでいた。

 フランドールの存在もこれまで存在だけの認識だったが、今こそ紅魔館の一員と、レミリアの妹だと認識できた、いつか彼女も取り返さなければと、新しい決意も生まれた。

 そんな中、全てを吐き出したレミリアはそれっきり口を縫ったかのように黙ってしまった、咲夜はしばらくそんなレミリアの弱弱しい姿を見つめていたが、ゆっくりと口を開いた。

 「お嬢様…、私はお嬢様の手で咲夜になった事に恨みの念はありません。確かにお嬢様の手で私の平穏は壊されたと言えます、それでも…、それでもお嬢様に尽くす日々は咲夜に力を与え、確かな幸せもありました。」

 レミリアの顔が自分に向く。
 
 「咲夜は…、咲夜は私を許してくれ「いいえ」!?」

 レミリアの縋るような言葉に咲夜ははっきりと言い返し、そして続ける。

 「お嬢様がしてきた事を私は一言に許す事は出来ないと思います、例え許した所で一人だけでは無意味です。罪から克服する事は不可能なんです、誰かが許してくれても他の誰かが憎み続ける、生きている内に、誰かが覚えている限り、一生背負い、想い続けなければいけないのです。私自身も多くの人生を殺していきました、そうして自分だけの幸福に還元して今現在まで生きていきました、善人が悪人になる事は容易ですが、悪人が善人になる事は困難なんです」 

 俯き、肩を震わせるレミリアに、そっと咲夜は両手をレミリアの両肩に乗せて続ける。

 「それでも、私は私達の存在が誰かの為になると思うんです、例え多くの存在に蔑まれても、何処かにいる少しの存在を助け、慕われ、共存すればそれだけで生きている、生きていく意味が出来ると私は、そう信じたいんです。」

 そっと咲夜は、レミリアの肩を持ちゆっくりと立ち上がらせると両手を取り、静かに目線を合わせ宣言する。

 「だから私はこの幻想郷で生まれ変わる事にしました、お嬢様だけではない、紅魔館だけではない、幻想郷の住人として、一人の人間として生きていこうと、だからお嬢様


 逃げるのはもうやめにしましょう。今こそ失った物を取り戻すチャンスの時なんです。」


 紅く揺れる瞳が止まった


 「咲夜」

 「はいお嬢様」

 「恥ずかしい所を見せたわね、忘れてくれる?」

 「それは出来ない命令ですね、それも含めてこそ私はお嬢様に忠誠を誓っていますから」

 「酷いメイドね、解雇しようかしら」

 「その時はメイド長としてではなく、ただの十六夜咲夜としてあなたの傍に居座りますよ」

 フフフとお互いに微笑み合い、レミリアはゆっくりと扉へと歩き出していく、その様はまだぎこちないが、確かにかつての気品さが戻ってきたと咲夜には観えた。

 「これからどうなさいますか?」

 「もちろん紅魔館を生まれ変わらせるわ、パチュリーや美鈴、妖精メイド達にも全て話す、フランの事も全て、それで軽蔑されるならそれも覚悟の内よ、それでも付いてきてくれるなら、今度は部下や道具としてではなく、本当の大切な仲間として受け入れるわ。」

 「大丈夫ですよお嬢様、きっと皆レミリアお嬢様の元から離れないはずですから」

 どうして?と呟くレミリアに咲夜はレミリアよりも先に扉の前に立つとドアノブに手を掛け

 「こういうことですよ!」

 一気にドアを開け放った


5.困難に立ち向かう一番確実な方法は、自分は不滅であると信ずること、そして一睡もしないで見守ってくれる友人があること、その友人は信じて委ねさえすれば私たちをじっと見守ってくれ、導いてくれることを信じることです。


 ドドドーとドアから何が雪崩れ込んだかと驚いたレミリアは、すぐにそれらが妖精メイドだと気づいた、妖精メイド達はイタターやらサクヤサンヒドイーとキャーレミリアサマーとそれぞれに自分勝手に喚いていた。

 「ねっねねねぇっえっ?咲夜これってえぇ!?」

 段々体が暑くなるのを感じながらレミリアはニコニコ顔の咲夜に問う。

 「見ての通りです、みんな廊下で待っていたんですよ(門辺りの連中は除く)」

 うえぇぇぇ!?と叫ぶレミリアに、扉の奥からひょっこり顔を出したのはパチュリーとリトル。

 「全く…、途中大きな音がしたから思わず突入しようかと焦ったわよ、まぁ一件落着になったようだし安心したわ。あとねレミィ、つのる話は今度静かな図書室で紅茶でも飲みながらゆっくりしましょう、私はいつでも待っているわよ」ムキュー

 「咲夜さんほどじゃないですが、私の紅茶も中々の物だと自負してますので、是非!いらした時は腕をふるいますからねぇー♪」コアー 

 と二人はニコニコと去っていった、ぇ−と呟くレミリアはふと自分の周りに妖精メイド達がずらずらと集まったいたのに気付いた、その顔は皆とても真剣で、レミリアは思わずたじたじになってしまった。

 ワーワー「レミリアサマ!ワタシタチハレミリアサマヒトスジナノデゴアンシンヲー!」「ダイジョウブデス!モンダイナイデス!」「ダイスキデスレミリアサマー」「レミリアサマアイラブユー!」「アンナオニミコナンテヤッツケテヤリマス!」「ヤッテヤルデス!」「レミ×サクサイコー!」「ソコハサク×レミダロジョウコー」ワイワイ

 何だか途中から聞いてはいけない事を言っていたような気がしたが、それでもレミリアは嬉しかった、自分が考えている以上に、この紅魔館は既に生まれ変わっていたんだと、目頭が熱くなるのをレミリアは感じた、だけど耐える、今する事はそうじゃないんだと。

 「皆…、全員聞け!」

 「「「「「「「「ハイ!」」」」」」」」

 「今!スカーレット家のレミリアは死んだ!それによってここはスカーレット家の紅魔館ではない!私こと!レミリアと十六夜咲夜!パチュリー・ノーレッジに本美鈴!そして今この場にいる妖精メイド達の為の紅魔館だ!そう今をもってここは


 幻想郷の!!!

 紅魔館だ!!!!!」


 「「「「「「「「オオッー!!!!!」」」」」」」」


 その様を部屋の隅で眺めていた咲夜は、今でも時々霊夢達にこう語る

 天狗のカメラが欲しかった、本当に欲しかった!と


 それからの紅魔館は大忙しだった、レミリアの部屋の掃除、本美鈴の説得(最終的にレミリアは諦めた)、数日後に待ってましたとばかりに突然図書室に現れた八雲紫というなんかごちゃごちゃした服装の女性との交渉(後日幻想郷の賢者だったと知り、リトルは卒倒、パチュリーは何故か目を輝かせて、レミリアはもう会いたくないと嘆いていた)、そして人里との交流(主に咲夜が買物などで出向いた為、今現在は中々の好印象)と色々と右往左往していく内に気付いた頃には一ヶ月近くが経過していた。

 そしてふと咲夜は霊夢に会いたいと自然に思った、あいつの事だろう、自分の神社でアホ面晒して寝てるんじゃないかと人里の村人から博麗神社の場所を聞いて向かった、しかしいなかった。

 段々と不安になった咲夜は他に行く所はないかと人里で情報収集をした、するとどうだろう、丁度とある茶屋に入る霊夢を見た者がいた、早速そこに向かった咲夜が見たのは

 団子を串ごとむさぼる腋巫女の姿があった。

 
6.君は君、我は我なり。されど仲よき


 ほとんど無意識に咲夜は霊夢の座る席に走ると、一気に霊夢の頭に拳骨を叩き込んだ、その間わずか3秒。「ごぺぇ!?」とおかしな声と共に団子と唾を噴出した霊夢に思わず咲夜はドン引きした。

 「何すんのよド畜生!私の大切な食事を邪魔するたぁ〜死にたいのあんた!?」

 「餌やりの間違いじゃないの?」

 「むっきー!悪かったわね!今日は異様にお腹が減って辛かったのよ、何故か神社の食料もほとんど無くなってたし、あんた達の紅魔館から帰ってきた時には十分にあったのにさー」

 「それはそうよ、あの日から結構時間が経ってたのに、途中で買い物でも行けばよかったじゃない」

 「何言ってんのよあんたは、あれから一日しか経ってないじゃない」

 霊夢の素っ頓狂な返答に咲夜は一瞬、は?と思ったがすぐに理解できた
 

 こいつ二ヶ月ずっと寝ていたんだと

 そして寝ながら食料を食べていたんだろうと


 はぁ〜と深い溜息を吐く咲夜に霊夢は?といった表情を向けていた。

 「霊夢、あれから何日経ったと思う?」

 「は?いちに「二ヶ月よ」…」

 「…………………………へっ?……………………………………」

 「………ねぇ大丈夫霊夢?」

 突然黙りこくった霊夢に咲夜は思わず心配そうに見つめる、その瞬間

 「240食分の幸せをどうやって取り返せばいいのよ咲夜ぁ!?」

 「そこは180食の方が健康にいいわよ霊夢」

 最初に考える事それ?しかも一日四食計算!?などのツッコミを飛ばして思わず自分の意見を言い放った咲夜は中々だとおもいます、マル 

 そういう事じゃないのよ〜(泣)と地団駄を踏む霊夢の姿を見て咲夜は確信する。

 彼女とはとても仲良しになれそうねと

 彼女がいなかったら到底出来なかったであろう満面の笑みと大笑いと共に

  
そしてEXへ

 二ヶ月です、色々な事がありました、申し訳ありませんでした
 丁度数日前にPC環境が何とかなり、排水口を覗いた所、一時閉鎖という文字に「まじかよやっべぇ!」とせめてこれだけでもと急いで書き上げたのが今回の後日談です、ちなみにそれぞれのそれからをまとめると

霊夢:二ヶ月の睡眠の後、空腹で起床、人里の団子をむさぼっている所で咲夜と再会する。

ルーミア:霊夢にやられたのち指は元通りになったが紅白模様にトラウマを持ち、人里の村人からは紅白模様がお守りになると言い伝わった。

チルノ:大妖精と再会、お留守番が終わった事に大喜び。

美鈴:乳首を無敵にするべく日夜特訓中、紅魔館の皆からは反対されているが聞く耳を持たない。

パチュリー:あれから自分の魔法を見つめ直そうとリトルと共に図書室で猛勉強中、時々美鈴やレミリアを実験体にしたりしている

リトル(小悪魔):あの日から名前をつけてもらい、毎日がハッピーデイ、パチュリーといつかラブチュッチュッな関係になりたいなぁとか考えている。

咲夜:今の自分に誇りを持ち、毎日のメイド長の仕事に生きがいを見出している、霊夢の事を少なからず尊敬しておりよくレミリアと一緒に会っている。

レミリア:スカーレットと決別しようとしているが、フランと向き合う事ができず、今だに苦悩し続けている。

フラン:紅魔館のここ最近の賑やかさに寂しさを感じながら一人地下室で眠っている。

 そんな所です、新しい産廃創想話が完成した時には改編版の本編とEXを投稿する予定です。

 9月8日 追記 コメント、本当に有難う御座います。

 NutsIn先任曹長さんへ

 いつもありがとうございます、今回はそれぞれに結論を見出し、思い思いに変わる事に成功した姿を描きました。私の考える霊夢は“思いのままに”をモットーとしてるので、自分の為だと感じた事に全力を尽くします、それが本能だと私は考えています。
 ちなみに魔理沙は後々の異変の中で現れます、その場面を印象的に表現できるよう精進いたしますのでよろしくお願いします。

 名無しさんへ
 
 ほっこりありがとうございます。霊夢がこの先色々な意味で成長していく様を楽しんでいただけたら光栄です。EXは紅魔館の残った物へのケジメをつける戦いです、次の舞台に立つ為にスッキリと〆られるように頑張ります。
ツナクマ
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/09/04 02:20:38
更新日時:
2011/09/08 21:16:50
分類
はらぺこ霊夢
十六夜咲夜
後日談
コメント返信
1. NutsIn先任曹長 ■2011/09/04 03:08:57
待ちに待っていた後日談が来ました。
自分勝手な連中が、幻想郷の一員になるのに十分な期間です。

パチュリーや咲夜、レミリアは毎日の食事のような平穏な日常を頂く事を楽しみだしましたか。
熱血美鈴は何か勘違いしてしまったようですが、まぁ、頑張れ。

えげつない事しながら、しっかり博麗の巫女の責務を果たした霊夢でした。
レクリエーションであり、『狩り』でしかなかったのでしょうね。霊夢にとって異変の解決ってヤツは。

何時までも停滞していられない。
無理ができなきゃ、できる奴が乗り込んでくる!!

出鱈目な強さと食欲を誇る紅白巫女の今後の活躍+妹様との絡みを、新生産廃で楽しみにしています!!

食事は楽しい。皆で食べるとより楽しい。うんうん。

確か、最初に魔理沙が登場したきりでしたが、食料として以外で彼女が活躍する事はあるのか!?
2. 名無し ■2011/09/04 18:54:21
本編を振り返れば、ぼくらの巫女さんがしたことは
指をちぎって食ったり、乳首をちぎって食ったりと、まさに妖怪じみた行動だったわけですが結果オーライを絵に描いたような後日談でほっこりしました。
EXが今から待ち遠しいですw
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