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『肉を食べる日』 作者: ただの屍

肉を食べる日

作品集: 29 投稿日時: 2011/09/11 10:17:23 更新日時: 2011/09/12 08:30:13
 博麗霊夢は今日も今日とてその日暮らしの生活を送っていた。異変もなく平穏な幻想郷での日常に不満はない。だから霊夢は今日の昼飯のことを考えた。
 昼飯は肉がいい、霊夢はそう思った。そう思っただけである。博麗神社には冷蔵庫もなければ干し肉の蓄えも供物もない。今からわざわざ狩りに出掛ける気もない。それらについては霊夢自身が一番よく分かっている。ならばこの願望はないものねだりであってどうしようもないことのように思えるがどうせすぐに実体を得ることになる。霊夢は自分の人並み外れた勘や超人的な幸運を自覚している。もはや誰かが肉を持ってここを訪れることは霊夢にとっては確定事項であった。
 霊夢は座敷の囲炉裏に薪を並べ火を入れた。座敷内の気温の上昇を遮るため四方の障子は開かれており、そこから緩やかな風が常に入り込み快適な空間が保たれているが風によって火が消えたり灰が飛び散るようなことは一度として起きたことはない。実に良く出来た空間であった。
 薪の十分の一程が炭化した頃、霊夢が外を見やると丁度そこに人影が現れた。左手に箒を持ったその少女は右手に持った一匹の兎を軽く前に突き出して言った。「兎が罠に掛かってたもんだから、焼いて肉でも食べようかと思ったんだが」
 霊夢が魔理沙を招き入れると、魔理沙は靴を脱ぎ箒を置いてから縁側に上がり座敷を一つ越え、霊夢のいる囲炉裏のある座敷にやって来た。
 魔理沙は霊夢の右斜めに座り兎を霊夢に手渡した。「どうだこいつは。丸々と太ってて随分と美味そうじゃないか」
 霊夢はその言葉に微笑みを返した後、兎を両手で包み込むように持ち、底に新聞を敷いたダンボール箱の上へ両手を持っていく、両の親指を兎の背骨の真横に背骨と平行になるように置き他の指を兎の腹に添えた。それから両の親指をそれぞれ外側に引っ張ると兎の皮が背骨に沿って裂けていき、兎の抜け殻とその中身とに分かれた。霊夢はその赤身だけを先程と同じように抱える。今度は腹に添えた指に力を込めて兎の腹を裂く。すると裂け目から兎の血や内臓や骨等だけがひとりでにぼろぼろと箱の中に零れ落ちた。
 霊夢が箱を閉じ、片づけを始めると魔理沙は唸った。「やっぱり何度見ても凄いな。霊夢はほんと綺麗な結果に愛されてるよなあ。私がやったら毛や血の処理やらでしち面倒くさいことになるっていうのに」
 霊夢はナイフを手に取り微笑んでいるのかそうでないのか判断のつかぬ表情で兎肉を切り分け串に通し囲炉裏の火にかけた。
 それから肉の焼ける何とも言えない良い匂いが漂い始めると二人は串を手に取り兎肉に胡椒を掛けた。現在魔理沙が注目している魔法だとか研究中の幾つかの魔法の話をしながら二人は兎肉を食べる。完成目前まで進んでいるとある魔法の話になった時、二人は兎肉を食べ終え、霊夢は囲炉裏の火を消した。
 「それで、完成まであとどれくらいなの。そのテレキネシスとかいう魔法は」霊夢は適当な相槌を打つ。
 「もうすぐ完成だ。一時期はスランプに嵌っていたが飛翔の考え方を導入した途端そっからとんとん拍子。本当はもう完成してると言ってもいいんだけど、世に出す前にやらなきゃいかん作業が幾つか残ってる」
 霊夢は纏まった串とナイフを布に包みながら言った。「ふうん、それじゃあ後は頑張るだけね」
 「なあ、見せてやろうか」突然、魔理沙はそんなことを言い出した。
 霊夢が魔理沙の顔を見ると魔理沙はにこやかに笑っていてこういう顔をしているときの魔理沙は魔法を見せたくて仕方がないのだと分かっていたので霊夢はその魔法を見せて欲しいと答えた。
 「よし、それじゃあいくぞ」そう言って魔理沙が人差し指を立てた腕を振るうと、縁側に置いてあった箒が横になったままの姿勢で空に浮かび上がり柄の先をこちらに向け風を切るように突進し箒の柄が魔理沙の頭部に垂直に突き刺さりそのまま貫通し魔理沙は絶命した。
 「霊夢、異変が起きた!」突如外に現れた魔理沙がそう叫びながら座敷に上がり込んできた。
 幻想郷において平和と異変というのは明らかに隣接していながらもその境界は障子紙よりも脆く、その為住民は小さなはずみによってその両者を度々行き来させられた。だから博麗の巫女である霊夢は誰よりも異変に対して敏感であった。
 「分かってるわ、今行く」霊夢は素早く立ち上がり、囲炉裏の座敷を出て自室へと色々な道具を取りに行く。
 魔理沙は魔理沙の屍体からゆっくりと箒を抜き取り柄に付着した魔理沙の血液を横たわる魔理沙の洋服で丁寧に拭き取りながら霊夢の支度を待った。
 霊夢が支度を終えると二人はすぐに飛び立つ。幻想郷の空を霊夢は自身の勘に従って飛び、魔理沙はその霊夢に従って飛ぶ。それから数分後、二人は何の変哲もない野原に降り立った。
 「ここか……」魔理沙は辺りを見回す。魔理沙はここへ魔法薬の材料として野草や動物の糞を採取しに来ることがある。勝手を知っている場所なので少しばかり気が大きくなる。
 鼻息も少々荒い魔理沙の前に立つ霊夢が黙ったまま右手をすっと上げて魔理沙に沈黙を促す。霊夢は既に臨戦態勢に入っていてそれを見た魔理沙はすぐに自身の態度を改める。それから二人は神経を摩り減らすかのような緊張を保つ。
 その緊張を破ったのは魔理沙であった。突如二人の目の前に魔理沙が現れたかと思うと、すぐさまその魔理沙が上空に飛びあがり強烈な熱線を二人に浴びせかけた。その熱線は最大限の出力であるならばドラゴンメテオとも呼ばれ山をも焼き払う威力を持つが今は二人の人間を焼き殺すのに丁度良い具合に調整されていた。そのため、霊夢と魔理沙は抵抗らしい抵抗もできずにあっけなく焼き殺された。
 魔理沙は二人が焼け死んだのを遠目に確認すると、二人の屍体に近づきもう一度生死の確認をしてから二人の衣服を全て剥ぎ取りそれから縄を取り出して箒に二人の屍体を結び付け、博麗神社へ向けて飛び立った。
 魔理沙が博麗神社に到着した時、もう既に宴は始まっていた。建前としての開始時間は二十時であり、まだ一時間ほどの余裕があったのだが皆いい加減な性格なので誰かがという訳でもなくあちこちで自然に酒が開けられた。
 「相変わらずだなあ」そう呟いてから魔理沙は持参した肉を箒から取り外し、霊夢の下へ向かう。人間二人分の肉となると数十キログラムはあり一人の人間が容易に運ぶことのできる重さではないが、魔理沙は完成目前まで漕ぎつけているテレキネシスという魔法を用いていたので一匹の兎であるかのように軽々と運ぶことができた。
 霊夢は二人の屍体を受け取りその屍体を板の上に寝かせた。霊夢が屍体の一つに向かい、その額に人差し指を当てると髪が一塊になってかつらのように剥がれ落ちる。それから霊夢が指を額から局部まで走らせると皮膚がひとりでに裂ける。霊夢が裂け目をこじ開け両手を差し入れ肉を掴んで引っ張り上げる。すると肉だけが出てくる。肉が血や内臓や骨等をすり抜けるのである。
 「お見事」その様子を見ていた一匹の妖怪が手を叩きながら言った。
 「俺もそんな特技が欲しいよ」黙って見ていた別の妖怪が羨ましそうに言った。
 更に別の妖怪が笑った。「馬鹿野郎、お前みたい奴にこんな便利なことができたら『グヘヘ……人間を食べるのが簡単になったぜえ』なんて馬鹿言いながらその日の内に人間を食い尽くすに決まってらあ」
 「そんでもってその日の内に退治されると」笑われた妖怪がそう言って笑い返した。
 その笑い声の輪の外で霊夢は黙々と肉を切り分ける。霊夢は肉の一切れを味見する。「これ冷めてるわ。温めなおした方がいいかしら」
 その願いともいえない願いを聞き届けたのは魔理沙であった。突如魔理沙が空を飛んでやって来て現れたかと思うと、博麗神社にドラゴンメテオを放ったのだ。勿論その熱線は最大出力であるから山をも焼き払う威力を持つ。その為博麗神社にいた者全員が抵抗らしい抵抗もできずにあっけなく焼け殺されたのである。
やりたい事が山のようにある。そのためにやらねばならぬ事が山のようにある。
誰かが全てを焼き払ってはくれないだろうか。
というような話ではありません。
ただの屍
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/09/11 10:17:23
更新日時:
2011/09/12 08:30:13
分類
普通の話
1. NutsIn先任曹長 ■2011/09/12 01:02:40
運命が混沌としていますね。
魔理沙はある意味最強と化していますが、この話では道具でしかない、と。

いつも、いつまでも、殺し、殺され、食い、食われる存在。
人間の一生がごちゃ混ぜに詰まっているような感じ。

クソみたいな現実だか幻想だか知りませんが、真理はある。
願望と言い換えてもいいかな。

ただ一つ。
別に難しく考える必要は無かった。

ただ、人の温もりが欲しかった。

言いたいことは、ただ、それだけじゃないですか。
2. 名無し ■2011/09/20 07:26:34
なんとまぁ爽やかな読後感
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