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『発展途上』 作者: ただの屍

発展途上

作品集: 29 投稿日時: 2011/11/02 20:59:48 更新日時: 2011/11/03 06:00:35
 科学ほど面白い学問はない。河城にとりはそう言う。
 だがにとりはそれ以上を語ろうとはしない。
 にとりは黙々と自分の研究を進める。その完成は間近である。

 年度の初め、上白沢慧音は外来者向けの科学入門の講義を開講する。
 だが一言に科学と言っても幻想郷の科学は外界における科学、いわゆるサイエンスとは大きく異なる。
 その昔、幻想郷においての科学とは妖学のことだった。妖学とは妖怪が己の術を高めるために生まれた学問だった。その妖学から魔学と工学が派生し更には無数の学問が生まれていった。今日の幻想郷においてはそれらを総称してを科学と呼んでいる。
 妖学とは妖術を法則化するための学問なのだが正に妖怪のための学問であり人間で妖学を修めた者は一人もいない。妖怪の世の法則と人間の世の法則が一致しない為、人間ではどうしても矛盾を解消できない。例え巨視的な観点からの理解はできても微視的な観点からの理解ができない。
 魔学も妖術を法則化し誰でも扱えるようにするための学問なのだが人間の学者もそれなりに存在する。魔術の動力は魔力であり魔力は体力と違って簡単に身に付けられるものではないにしてもだ。なぜなら魔術は人間の理解する自然世界の法則に基づいている術だけを取り扱っているので趣味として魔学の理論を学ぶ者がいるのである。その場合、魔学は外界における自然科学に近いものとなる。最近では魔力を用いない魔術も研究されており、魔学はある程度は人間に開かれた学問となっている。
 工学は妖術あるいは魔術を広く法則化し社会によりよく還元するための学問である。工学は人間にも理解を得られているし工学を学んでいる人間も数多く存在している。工学、魔学、妖学は相互に影響し利用し合っているので一概には言えないが大多数の人間の生活に一番の恩恵を与えているのは工学であろう。
 余談だが、幻想郷で化学(ばけがく)といえば変化学(へんげがく)のことを差す。変化学は文字通り変化を取り扱うための学問である。変化学に二ッ岩マミゾウが新規参入したことにより、今では全身変化ではなく部分変化も可能になった。その部分変化の永久化を目指すために生まれた一つの学問が化粧学である。化粧学が部分変化を何に用いるのかというと、身体の染みに皺に弛みに浮腫みに隈に一重に顔色に脂肪に無駄毛に黒ずみに骨格に臓器に赤子に遺伝子に……。

 幻想郷には次のような歌がある。
 『擬音瀟洒の金の肥 症状無情の痒みあり
  キャラ少女の肌の色 調査必須の理をあらはす
  奢れる人も久しからず ただ春の夜の鷹のごとし
  はだけし者もつひには叫びぬ ひとへに風の前の癜に罹る』
 分析学者である木林氏によればこの歌は幻想郷では医者が一番偉いという事実を示しているらしい。つまり永遠亭の連中が常に偉そうな顔をして周りを見下しているのは不老不死故の奢りではなく事実偉いからなのである。しかし新参者である命蓮寺の連中が、人里ならまだしも妖怪の山において人妖平等を盾にして偉そうな顔をしているのは己らが人妖平等を掲げている故の奢りであり他者に対する傲慢である。今や命蓮寺は方針と実体とが完全に乖離している。命蓮寺は守谷神社を見習い自己批判を行うべきである。(『文々。新聞』 第二九○一号)

 何が自己批判か。己を棚に上げてのその言動には呆れるばかりである。どの嘴をどのように鳴らせばそのような言葉が出てくるのだろうか教えてほしいものである。それが種としての鴉天狗の鳴き声であるならば仕方あるまいが。
 どうやら妖怪の山に住む鴉天狗は火を起こす事に夢中のあまり己の身体が煤で真っ黒に汚れている事に気が付いていないようである。
 一度休暇を取り我が命蓮寺の修業を受け体中の全ての穢れを雪いでみてはいかがだろうか。相手がいかに鴉天狗であろうと我が命蓮寺は差別を行いません故。(『聖京新聞』 第八八二号)

 言うまでもなくパチュリー・ノーレッジは差別主義者である。
 一応、体面を気にしてか人前では何事もなく振る舞うが、非学者と話をする時は心中で相手を消費者と罵っている。自分の喘息が治らないのも消費者のせいだと深く呪っていた。
 ある日紅魔館で豪勢なパーティーが開かれた。招待された客は皆非学者であった。とうとうパチュリーはその席の最中、招待された人妖達を激しく罵倒した。
 やい、ぼけなす。手前らのことだ。それとなく顔を左右に振ったりして辺りを見回している手前ら低能のことだ。気付かれまいとでも思ったか。自分のことではない筈だと思っている厚顔無恥な手前らのことだ。これだけ言ってもまだ分からない無能な手前らのことだ。理解したら顔でも赤くしてみたらいいのに、それすらもできない手前ら畜生のことだ。いいや、手前等は餓鬼だ。地獄だ。所詮お前らは与えられた物しか口にできない、顎のがたがたの老いぼれだ。もはや手前らは丁寧に噛み砕かれたどろどろの流動食しか摂取できないくたばりぞこないの死にぞこないだ。怒ったのなら何か言い返せばいいのだが蓄えられた知能もない手前らが言い返せることは一つとしてない。そのような手前らでも自分は馬鹿だからと開き直ればまあ可愛げもあるのだが、手前らは頑なに自分が下等であることを認めたがらない。今の自分を捨てないからそこから一歩たりとも動けない。正に今の手前らそのものだ。これだけ言っても向コウガ何カ言ッテルヨドウシテ怒ッテイルノカナ僕達ニハ分カラナイネ等と思考は停止したまま答えだけを強く欲している正に今の手前らそのものだ。ほれ、殴りかかってみたらどうだ。どうせ、無教養の手前ら原始人の手前らが取れる手段といえば暴力をおいて他にないのだからな。……かかってこないのか。まあ、殴りかかってきたところで手前らの拳が私に届くことなどなく空を切ることすらない。現在私の周りは不活性だからな。……ん? 魔術だ? 結界だ? ……手前らの馬鹿さ加減にはほとほと呆れる。やっと我々の言葉を喋ったかと思えば全くの的外れだ。ノイズだ。白痴言語だ。魔女だから魔術を用いているというその悲しいほどに単純な答えには憐みすら覚えるがそれでも自分なりの答えを出したことに免じて三点やってもよい。いいか、これは妖術だ。科学部妖学科二次創作系の河城みとりという学者のあらゆるものを禁止するという妖術をみとり自身が法則化したものでな、2008年のことだ。その年彼女はオーベル妖学賞も受賞した。まあ、私の原子半径の空の軌道が手前らのローンペアを受け取り配位結合を形成したことで安定化したからお前らは私を殴ることができないのだ、と私が人間の言葉でこれだけ分かりやすい例えを用いたとしても畜生であるお前らは口を開けるだけでありこちらが親切に流し込んでやり胃を動かしてやり美味しいねと耳元で囁いてやらない限り脳みそを働かせようとはしないだろうがな。……ごほごほ。ぜえぜえ。糞が。私の喘息が酷いのも、手前ら消費者が未来構造を想像しない予想しない語らないからだ。手前ら退化猿のマスっかき共め。……ぜえぜえ。糞にたかる蛆虫の排泄物の寄せ集めどもめ。死ぬまで白目をむきながら涎を糞便を垂れ流していろ。
 喘息に苦しめられ遂に倒れたパチュリーがその場を去った後も、最悪の空気のまま場は進行した。
 罵られたほうは表面上パチュリーの行動を華麗に受け流したように見えたが腹の底では腸が捻じれ引き千切られ煮えくりかえっていた。

 普通の魔法使いである霧雨魔理沙ならば我々の気持ちを理解してくれるであろう、というのが彼らの言い分であった。
 魔理沙の元に、パチュリーに罵られた者が集まり、学者達の傲慢さを訴えてきた。それぞれが述べた学者への恨みつらみはパチュリーのそれにも劣らなかった。あんたも人間だろうがあんたも人の子であろうがあんたにも無関係ではないだろうがそれともあんたは無関係だというつもりかあんたも奴と同じかあんたも学者様なのかあんたも我々を蔑むのかあんたも我々を消費者と呼ぶのかあんたは我々を見放すのかいいや言い逃れさせない無関係ではいさせないあんたも消費者である筈だ奴らもそうである筈だそうだ人妖平等だ人妖平等なのだそうだ我々は間違ってなどいない。言外に渦巻く彼らのどす黒い執念は彼らを取り巻く事実を尽く捻じ曲げていた。
 人々の嘆願が休まると、魔理沙は了承する旨を彼らに伝えた。恐らくそうするしかなかったのであろう。
 魔理沙は虐げられた人々を連れて紅魔館を取り囲み、パチュリーへ謝罪と賠償を要求した。彼らは門番を無視する。
 彼らはパチュリーが現れるまで徹底的にやるつもりであったが、パチュリーはその日の内に姿を現した。歩いて出てきたパチュリーは彼らと十分な距離を取って立ち止まり人差し指ほどの太さの光線を放った。それは威嚇射撃でも誤射でも無かった。彼らはそう捉えた。彼らに死者が出ていた。もう魔理沙でも彼らを止められなかった。彼らの一部が咄嗟に門に掴みかかったが門に触れた途端後方に弾き飛ばされ失神した。

 先日、パチュリー・ノーレッジが紅魔館を取り囲む人妖から死者を出した事件とその発端である罵倒についてであるが紅魔館の方針とは一切の関係がなくパチュリー・ノーレッジが個人的に行ったことである。よって紅魔館に謝罪と賠償を要求しても紅魔館はこれに一切応えない。要求は紅魔館を通してではなく直接パチュリー・ノーレッジ本人に行ってもらいたい。なお紅魔館に立ち入る場合、門番から必ず許可を貰うこと。以前通り、紅魔館の敷地に許可なく立ち入った者は警告なく身柄を拘束するのでよくよく注意されたし。(『紅盟党日報』 第四○三○号)

 幻想郷の地下に存在する地霊殿。古明寺さとりは地上に出る準備をしている。
 もうすぐ戦争が始まるわよ、と言っても私達がその撃鉄を上げるのだけれど。
 まあ、言うなれば触媒ね。活性化エネルギーを下げるための。一度反応が進行してしまえばもう安定なる戦争よ。
 そうね。私達が動かなくても戦争は必ず始まるわ。でも横のしがらみなんかや安全のためにもね。まあ皆が早い開戦を望んでいるでしょうし、戦争が起きたところで今までばらばらだった死因が全て戦死に変わるだけだろうし。そんな事よりも研究がデータを得ておよそ数十年分の飛躍を遂げるほうが大事でしょうね。勿論、私達にとっても。
 さあ、行くわよこいし。妖怪として。心理学者として。

 にとりは東風谷早苗に対して自分の研究の説明を行っている。こういうとき、にとりの目はきらきらと輝いている。
 やあ、今日呼んだのは私の研究を今度の戦争に持ち込んでほしくてさあ。いや、別に本筋はもう出来上がってるんだけど研究途中で仮説が生まれて。まあ、私はいわゆるテレポーテション装置を完成させたんだけど。うん、テレポーテーションは完成。100%だよ。1000‰。でさあ、説明を端折るけど私のテレポーテーションは一度身体がばらばらになるんだよね。ああ、大丈夫だよ。……う〜ん、人間の言葉では説明しにくいんだけどばらばらになるのは肉体だけであって魂とかアートマンのようなものは無事だから。むしろ肉体を捨てて魂とかだけになるっていうのがこのテレポーテーションの意義だから。だから、うん、うん。大丈夫だって。1000000ppm。ちゃんと試験もしました。生きてました。無事でした。蠅人間にはなりませんでした。本当です。いい加減にしないとそろそろ怒るよ。でさ、これについて考えてみたんだけどこれってさ、霊夢の夢想転生に似てない? 肉体を捨てた状態を自分の意思で維持できるようになり肉体の復活も自分で出来るようになればさ。まあ、弾も撃たなきゃいけないけど。え? だから、それができるかどうかを調べるために協力してほしいんだよ。一応、理屈の上ではできることになってるよ。いくらなんでも成功の見込みが一分もなけりゃ守谷神社様の東風谷早苗さんにこんなこと頼まないでしょ。まあ、確かに一度自分で試そうかと思ったんだけどやっぱり霊夢と同じ巫女である早苗にやってもらったほうが確かなデータを得られると思うんだよね。自分でその状態をスイッチできるようになれば後は早苗の好きにしていいからさ。うん、うん。恐らくこの術は貧弱な人妖には扱えない代物だと思う。ちょっと大変そう。だから早苗に頼んだ訳で。

 早苗はにとりの講義を受けている。
 最初にとりの話を聞いたとき、博麗霊夢の専売特許とも言える夢想転生をそう簡単に真似れるわけがないと思った。それは守谷神社が長い間考え続けてきた問題であった。
 博麗神社をいずれ攻略するつもりである守谷神社の前にいつだって立ちふさがる壁は博麗霊夢のその絶対性であった。霊夢の絶対性を奪うために夢想転生の無敵神話を破壊するつもりであった。そうなれば残るのは欠点だらけの腋巫女のみである。そのためには夢想転生を法則化しなければならない。
 しかし今までの守谷神社は結界術の方向から夢想転生に当たっていたから、にとりの仮説は守谷神社が見当していなかったものであった。守谷神社としては確かめてみたい仮説である。しかし外部から何やかやと手を出されては煩わしいので大っぴらに自分達の内情を曝け出すわけにもいかないし、無断で研究を拝借するわけにもいかない。自分はどこぞの普通の魔法使いのような人格を疑われるような行動を取ってはならないのである。
 早苗は適切かつ妥当と思われる態度でにとりの話を聞いていく。

 実験を受け終えた早苗を見たとき、にとりは驚愕した。
 テレポーテーションの段階での失敗はないと判断でき早苗の肉体は無事そのものであったが、夢想転生の段階で失敗が生じたことは明らかであった。
 早苗の背後から垣間見えるのは、雲のように見える微生物の群れ、蟻、蠅、鈴虫、蜻蛉、蝉、雀、蛙、鴉、鳩、猫、蛇、犬、狼、狐、狸、猪、人、熊。未完成時のテレポーテーション装置によって死に至らしめられた者達である筈であった。
 早苗が跳躍する気配を見せたとき、にとりは早苗を撃ち殺していた。殺さなければ止まりそうに思えなかった。止めなければ自分が殺されるだろうと思った。
 早苗が動かないのを確認すると、にとりは地獄に電話を掛ける。自分が早苗を殺したと知られるのはあまりよろしくない。死んだ早苗を現世に呼び戻さなければならない。問題である。
 向こうからの返事は問題を大問題にした。にとりが葬った動物達と早苗とが複雑に絡み合い混じり合っており、現在の地獄学では対処しきれなかったのである。

 この戦争には有利も不利もない。現状、八雲紫はそう判断せざるを得ない。
 何故ならこの戦争は学者達による実験に過ぎないからである。大事な検体を減らさぬよう周りが勝手に双方に気を遣いすぎるほど気を遣っている。むしろ戦場よりも戦場外での死者の方が多い。現在の幻想郷において戦場ほど安全な場所はないとも言える。
 今日も戦場が安全であることを確認すると、紫は睡眠に入る。戦場が危険となったときに双方に有無を言わせず停戦を結ばせることが自分の役目であるからである。

 戦争が長引く中、妖怪の山に良いニュースが届けられた。
 河城にとり氏と守谷神社が共同で開発を行っていた技術がオーベル地獄賞を受賞した。この賞は地獄に最も貢献した技術に贈られる賞でありこの度新たに開発された死霊の分離法により今まで保留されてきた死霊の八割が裁かれ、保留に使われていた土地が大幅に減少した。河城氏は、救われて本当に良かったと安心した表情を見せた。(『文々。新聞』 第三一九三号)
読みにくいかも。
ただの屍
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/11/02 20:59:48
更新日時:
2011/11/03 06:00:35
分類
産廃らしからぬ話
1. NutsIn先任曹長 ■2011/11/03 07:21:20
彼らは、自分の主義主張を押し通したいだけなのだろう。
ずいぶんと小難しい言葉を並べ立てても、フィルターで漉したら僅かばかりの単純な動機が残った。
全員が他人を見下し、自分が可愛いと思っている、そんな住人が大部分を占め、
僅かな例外は、我関せずの絶対中立を謳う最強者。

素晴らしき哉、幻想郷!!

気安く、Ultima Ratioに頼るな。
2. んh ■2011/11/04 19:56:11
憎しみあって戦争してないと科学は進歩しないですよね
持続的発展の為もっと殺しあわないと
3. 名無し ■2011/11/05 13:38:18
科学と哲学と宗教は内容が違うだけで進む方向は一緒かもしれません。
その狂気を知らないで消費者である方が凡人には楽かもしれませんね。
そして、区別する事を差別主義者と言って憎まれ役を買うパチュリーちゃんカワイイ
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