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『ありきたりな話』 作者: ポルターガイスト

ありきたりな話

作品集: 29 投稿日時: 2011/11/23 19:51:27 更新日時: 2011/11/24 04:51:27
静葉
「お姉ちゃん、今日私出掛けて来るから。日が変わらないうちに帰るけど、あんまり遅くなるようなら、先に寝ててね。去年なんかビックリしたよ。帰ってきたら、寝ないで待ってるんだから。」

「そう言えば、今日だったわね。霊夢との約束。まあ、でも穣子が心配だからね。」

「ごめんね、一緒に行けなくて。」

「ううん、いいの。気をつけてね。」

 穣子が行ってしまって、ひとりだけの空間。今まであった温もりはすっかり冷めている。椅子に座り込んで、色々と思いを馳せてみる。

妹の穣子は最近霊夢と仲がいい。あの博麗の巫女が誰かと仲良くしている姿なんて、想像できない。そう思っていた時期が私にもあった。実際に穣子と戯れている姿を見るまでは。なんか悔しい。穣子は私の妹なんだけどな。ずっと二人一緒だよ、と誓い合った日々が遠い記憶の彼方だ。お姉ちゃん、寂しいよ。

「とか言いつつ、今日は私も呼ばれたんだけどね。」

 ぼそっとひとりごと。そう私は紅葉を司る神。もう山々は赤いベールに包まれてもいい頃合いだ。だから、私がそれを促してあげる必要がある。だから、収穫も終わって、暇が出来た穣子とは違い、私はこれから仕事を始めなければならない。

「私も行きたかったな。宴会。」

 何でもあの八雲紫が冬眠の支度に入る前のこの時期に、霊夢の肝煎りで行われているそうだが、私は未だに参加したことがない。否、参加できない。秋姉妹が揃わぬなんて、そんなの秋姉妹じゃないやい。そうは思っていても、私は言葉にすることができない。霊夢から延期の申出もしばしばあったが、そんな時はいつも丁重に断っている。何か悪いからな、紫にも霊夢にも。あんまり遅くなれば、色々と調整が難しくなるよね。

「それと、穣子にも。」

 霊夢と一緒の時の穣子はほんとに嬉しそうだ。あんなに笑っている穣子の顔、初めて見た。胸がチクリと痛んだのは、多分気のせいじゃない。そうだよね。私は穣子みたいにうまく笑えないから。快活で、皆に好かれて、影が薄い薄いってよく言われているけど、私ほどじゃない。冬が来ても、あの子はもう然程暗くならなくなった。霊夢のおかげなんだよね。

「さみしいって言葉。もっとはっきり言えたら、何かが変わるのだろうかな。」
 
 考えても詮無きことだ。心を語らば、角が立つ。得てして言わぬが花なり。私は自分の気持ちを隠し続けなければいけないのだ。そう全ては穣子のために。私はあの子の邪魔にならないよう生きていく。

「そうは思っても、心は着いてきてくれないか。」

胸が痛む。憐みを乞うつもりは一切ない。でも、さみしさだけは真実だから。だから、今日も私はひとり泣く。

「いっそ涙も枯れ果ててしまえばいいのに……。」

ああ、穣子。こんなにも愚かな姉を許して。あなたを妹として愛するに飽き足らず、邪まな思いを寄せる私を。今は泣かせて欲しい。

穣子
 全くお姉ちゃんは意地っ張りなんだから。そりゃ、自分の仕事が忙しいのはわかるけど、別に宴会くらいは来てもいいと思うな。まあ、それは良いとして、今日はお土産を持参している。私のワイナリーで作った、今年の新酒。霊夢には最初に飲んで欲しい。

「霊夢、喜んでくれるかな。」

 今からちょっとドキドキする。霊夢のはしゃぐ顔が見られるのが嬉しいから。それとね、今日こそ、霊夢に私の気持ちを伝えるの。時間が早いから、まだ誰も来ていないだろうし。

「霊夢……。」

 空を飛んでいるというのに、心なしか顔が火照る。霊夢の色々な顔を知っているけど、まだ、羞恥で真っ赤になるところは見たことない。ふふ、楽しみだ。 

 博麗神社に着くと、霊夢がひとり準備にかかっている。急いで、私も手伝わなくちゃ。

霊夢
 余り期待はしていなかったけど、今年も静葉は来ないらしい。穣子が持ってきてくれたお土産は凄く嬉しかった。でもね、静葉。あなたが来てくれたら、その喜びは何倍にもなったのよ。もしかしてまだ拗ねているの?あなたのことをうっかり失念して、宴会の日程をあなたの忙しい時期にぶつかるところに決めてしまったことはホントに申し訳なかったと思っている。私も気がついて愕然としたくらいだから。でも、一度くらい顔を見せてくれてもいいじゃない。再三、時期の変更も提案したし、許してちょうだいよ。それとも何か他に来たくない理由があるの?

 それと、穣子から告白された。あの子ったら、ほんと顔を真っ赤にして、好きの一言をどもりながら言うもんだから、こっちが恥ずかしかったわ。

 ねえ、静葉。これがもしあなただったら、私はどんな反応したのかしら。穣子のこともとても可愛いと思っているわ。でも、一目逢ったときから、私はあなたに魅了されたの。誰にも靡かぬ私の心が、あなたにだけ魅かれたの。だから、私にその顔をよく見せて欲しい。

 切ないの。あなたに嫌われているんじゃないかって思うだけで、胸が苦しいの。でもそんな姿、穣子には見せられない。それじゃ、穣子の気持ちを踏みにじってしまいそうだから。怖い。どうしたらいいかわからなくて怖い。行き場のない気持ちが私を押しつぶそうとする。どうしよう。ごめんね、穣子。あなたの気持ちには応えられそうにない。

 私はありのままを言うしかないの。あなたより静葉が好きだって。残酷な仕打ちをどうか許して欲しい。

 その晩、穣子は静葉を刺殺してしまった。静葉の訃報を知った霊夢はそれ以来、誰にも心を開かなくなった。穣子は姉殺しの罪で幻想郷を追われ、信仰を喪い、隠れた。
霊穣で穏やかな話を書こうとして、吹っ飛んだ方向に行ってしまった。でもこういう一方通行な三角関係ものって、切なくなるよね。今回は穣子ざまあでしたが。霊静もきっと流行る。
ポルターガイスト
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/11/23 19:51:27
更新日時:
2011/11/24 04:51:27
分類
霊夢
秋姉妹
出落ち
1. NutsIn先任曹長 ■2011/11/24 06:49:43
単純で、複雑な人間模様。
別に、命を落とす者、罪人になる者、悲しみに暮れる者を、誰が演じても構わない。

もし、静葉が宴会に出席していたら。もし、もっと早く霊夢が胸の内を明らかにしていたら。もし、穣子が静葉に霊夢が好きなことを話していたら……。

暢気に日常をたらたらと過ごしているうちに、いつの間にか取り返しの付かない所まで来ていた三人。

出会いと別れの人間模様。
つらいものですね……。
恋愛なんて、もう、怖くてできない……。
2. 名無し ■2011/11/24 13:16:54
結末がちょっと唐突すぎるかなー
この3人での三角関係ってのは珍しいが案外絵になるな…
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