Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『Mウィルス』 作者: ウナル→うらんふ→筒教信者→零雨

Mウィルス

作品集: 29 投稿日時: 2011/12/05 11:22:22 更新日時: 2011/12/05 20:22:22
<リレー小説ルール>
1:小説の起承転結の各パートを一つずつ書いて、次の人に回す
2:どんな無茶振りでも必ず続けて書く
3:書き出しは「魔理沙が増えた」






















『起:ウナル』



 魔理沙が増えた。
 今の幻想郷の危機を現すに、これほど的確な言葉は無い。
 前を向いても魔理沙。
 後ろを向いても魔理沙。
 右を向いても魔理沙。
 左を向いても魔理沙。
 幻想郷の至る所に魔理沙は蔓延っていた。
 今、幻想郷は魔理沙によって滅びようとしていた。





 ――紅魔館、地下――
「や、やめて魔理沙!! 本を、本を持っていかないで!!」

 紅魔館に響くパチュリーの悲痛な叫び。
 魔理沙が本を借りていくなど日常茶飯事だったはずなのに、その顔には絶望にも似た色がある。
 それも当然だ。本の一冊二冊ならパチュリーも渋い顔をしない。いずれ力ずくで奪い返すだけだ。だが今、紅魔館地下に侵入している魔理沙は優に百を超える。
 無数の魔理沙が箒に乗って図書館の本を奪い去っていく。

「「「「「「「「「「ケチケチするんじゃないぜ。死ぬまで借りていくだけだぜ」」」」」」」」」」
「いやあああっ!! 私の本が! 本が――――っ!!」

 幾度と無く魔理沙に襲撃されたパチュリーの図書館は、もはや本一つない不毛の地と化していた。




 ――博麗神社――

「性懲りも無く、来たわね!!」
「「「「「「「「「「霊夢、茶を飲みに来たぜ」」」」」」」」」」

 まるで異常繁殖したイナゴ群れのように、博麗神社へと飛来する魔理沙。
 霊夢は弾幕によって応戦するものの多勢に無勢。一人二人倒した所で意味はなく、あっという間に博麗神社に隠してあった茶請けと茶葉は魔理沙に飲み干される。

「「「「「「「「「「また来るぜー」」」」」」」」」」
「二度と繰るんじゃないわよっ!!」

 霊夢の言葉もどこ吹く風、いつも通りの傍若無人さで魔理沙は博麗神社から飛び去る。



 ――妖怪の山――

「「「「「「「「「「おおっ! このキノコはうまそうだぜ!」」」」」」」」」」
「だめえ! そ、そんなに採ったらキノコがなくなるよお!!」

 穣子の叫びも虚しく、まるで軍隊蟻のように地を埋め尽くした魔理沙は辺りにあったキノコを狩り尽されてしまう。
 マツタケ、シイタケ、ブナシメジにキクラゲ、一切の区別なくキノコと名のつくものは魔理沙によって奪われた。

「お、お姉ちゃん……わ、私もうダメ……かも」
「しっかりしなさい穣子! 貴方は神様でしょ!」
「もう一度、お姉ちゃんの栗ご飯が食べたかっ……た」
「穣子―――――っ!!」










 ――魔理沙対策本部(旧博麗神社)――

 かつて居間と呼ばれた畳部屋に集ったのは、かつて幻想郷の勢力図を担った面々である。
 そんな彼女らが部屋の中央に置かれたちゃぶ台に並び、沈痛な面持ちを晒している。
 彼女らに共通していることは唯一つ、魔理沙によって苦しめられているということ。
 全員が揃ったことを確認し、博麗霊夢は話を切り出した。

「また、村が一つ魔理沙に飲まれたわ。霧の湖にあった集落よ。もはや一刻の猶予もない。早急に魔理沙に対策を打たねばならないわ」

 その言葉に面々は顔色に苦味を滲ませる。魔理沙は着々と勢力を拡大し、今や幻想郷の四分の一は魔理沙である。表面にこそ出ていないものの、潜在的な魔理沙はより広範囲に広がっているだろう。

「まずは現在の魔理沙について具体的な説明を。永琳」

 霊夢に名を呼ばれ、部屋の隅で待機していた永琳が立ち上がる。追従するようにうどんげとてゐも立ち上がり、寺子屋から持ち出した黒板を壁へと運ぶ。
 一度、咳払いをして永琳は語り出す。

「かつて、ペストという病気があったわ。この病気は猛威を奮い、何万人という人間を殺した。今、この幻想郷を襲っているのはこのペストに極めて近い病気よ」

 永琳はまずそう切り出した。そして黒板に白いチョークを走らせた。とんがり帽子と棒人間を描き、その下に『マリサ』と書く。

「発端は我々の知る人間である所の魔理沙――仮に『ゼロマリサ』とでも呼称しましょうか――彼女にある種の菌が感染したことよ。この菌はゼロマリサ内で爆発的に増殖し、彼女のあらゆる部位に広がった」

 しゃっ、と棒人間を白い丸で囲み、『魔理沙菌』と書き足す。

「この菌は旺盛な繁殖力を維持し続け、ゼロマリサだけでなくその外側にも行動範囲を広げようとする。そして遂にゼロマリサだけでなく彼女に接触した者にも感染するようになった。現状を鑑みるに感染力は極めて強いと言わざるを得ない。恐らく接触しただけでこの菌がうつるわ」
「んー? ちょっと待ってもらえるかしら」

 永琳の説明を遮ったのは幽々子だ。
 扇子を口に当てる優雅な仕草はそのままだが、その表情には些か余裕がない。

「魔理沙と接触した者がその菌に感染する、そこまではいいわ。でも私たちの疑問はそこではないの。何故、魔理沙と接触した者まで魔理沙になっていくのか、なの」

 そうなのだ。魔理沙に傷を付けられた者は魔理沙になる。それが今幻想郷を襲っている魔理沙災害の正体だった。
 魔理沙に触れた者、触れられた者。全ての者が魔理沙になっていく。魔理沙となった者は自身を魔理沙と思い込み、その習慣を真似するかのように行動を始める。これは通常の病気とはあまりにかけ離れた症状だった。
 永琳は紫の質問に重々しく頷いた。

「そう、この菌が極めて特殊なのはその点よ。通常の細菌やウイルスならば適していない環境では繁殖できない。しかしこの菌は逆。傲慢にも適した状態に周囲の環境を変えていくの。恐らくこの菌は魔理沙の肉体と精神が最適な環境なのだわ。だからこそ、繁殖先の肉体も精神も魔理沙に変えていく」

 ごくり、と誰かがツバを飲んだ。
 魔理沙になってしまう。これほど恐ろしい事が他にあるだろうか。

「でもおかしいわね。私やパチュリーもそれなりに魔理沙と接触したけれど未だ魔理沙になっていない。恐らく霊夢だって相当に接触している。それにも関わらず魔理沙になっていないのは何故?」

 レミリアの言葉に周囲から同意の声が上がる。
 幻想郷は狭い。ただでさえ魔理沙は行動範囲も広く、活動的であり多くの人間と接している。だが実際に魔理沙になっている者の多くは人里の人間だった。

「簡単なこと。貴方たちの身体と精神が変えにくかったというだけの話」

 事も無げに永琳は言葉を返す。

「統計上のデータでもそれは明らか。妖怪よりも人間が、人間でも男よりも女の方が素早く繁殖が始まり魔理沙に変異することが確認されているわ。魔理沙の肉体よりもかけ離れていればいるほど菌による肉体改変は遅れると見て間違いない。それに加え霊夢のような異能を持つ者は菌も手出ししにくいということよ」
「……なるほどね」
「逆に言えば、発症していないだけですでに魔理沙菌を体内に保菌している者はこの中にも大勢いるはずよ。ううん、もう魔理沙菌に感染していない者はいないと考えた方が良い」

 すっ、とちゃぶ台に手を置き、永琳は居並ぶ参列者たちを見回す。

「わかってもらえたかしら? もはや一刻の猶予も無いのよ。少なくとも私は他の誰かになってしまうことなんて耐えられない」

 押し黙る皆々。思いは一緒なのだろう。
 すっ、と紫と霊夢が立ち上がる。その眼には幻想郷を守護する番人としての思いが燃えている。

「永琳。この病気の治療法は?」
「残念だけどまだ見つかっていないわ。ただ可能性として一つ」
「なにかしら?」
「魔理沙となった者達の行動があまりに統率が取れ過ぎている。まるで誰かに操られているように。恐らくはブレーンとなる存在がある」
「それは」
「始まりの魔理沙。原初の魔理沙。全ての魔理沙の母となった魔理沙。すなわち――」

 永琳の言葉を最後まで聞かず、紫と霊夢は拳を天に向けた。

「魔理沙に抗う者は武器を持て!」
「魔理沙となりたくなければ戦え!」
「敵は魔法の森! 霧雨魔法店にあり!」
「我ら一騎当千の力を持ってすれば恐れるに足りない!」

 霊夢と紫。二人の声が並び、博麗神社に響き渡る。

「「ゼロマリサを討て! 未来に進む道はそれしかない!!」」
 
 こうして、幻想郷連合軍と魔理沙軍団の戦いは幕を開けたのだった。




『承』うらんふ

「……やっぱり魔理沙には勝てなかったよ」

 幻想郷VSゼロマリサの戦いは、魔理沙の勝利に終わった。
 単純な数の暴力だった。
 確かに、幻想郷の妖怪たちは強い。もしも一対一で戦ったならば、元が村人である魔理沙に勝てる道理はない。

 しかし、数の差が圧倒的すぎるのだ。

 1人やられても。
 5人やられても。
 10人やられても。
 100人やられても。

 最後の1人が勝てば、それで魔理沙の勝ちなのだ。

 そして敗北した妖怪は、より強力な「魔理沙」となって甦る。

 ひとたび勢いが魔理沙側についた後は、もはや一方的な展開となっていた。
 見渡す限りの魔理沙が、残った妖怪たちを駆逐していったのだ。

 こうして、幻想郷は、魔理沙に埋め尽くされた。


 ……が。

 それで特に変わったこともなく、再び平穏な時間が幻想郷に訪れた。

 無理もない。

 右を見ても。
 左を見ても。

 全員、魔理沙なのだ。

 種族・人間が、種族・魔理沙に変わっただけのようなものだ。

 むしろ、思考方法までもが統一されたおかげで、幻想郷に安定が訪れたほどであった。
 物事を決めるのに、多数決をとる必要もないのだ。

 全員魔理沙なのだから、意見を集める必要すらない。

 まさに、すべての意志が統一された、ユートピアが出現したともいえる。

 ……

 ……

 昔、ある人がいった。

「平和とは何か?教えてやろう。それは戦争と戦争の間の期間のことだ」

 と。

 ある種、この言葉は真理であったともいえる。

 平和であった幻想郷に、再び争いの種が巻き起こったのだ。

 それは……

『キノコの欠乏』

 であった。

 考えてみれば、無理もない。

 すべての魔理沙が、キノコを欲するのだ。
 今までの幻想郷は、いくら魔理沙がキノコを欲しようとも、魔理沙が一人しかいなかったおかげで問題が起こらなかった。
 需要に対し、十分以上な供給源が確保されていたのだ。

 しかし、今は、幻想郷すべての存在が、魔理沙なのだ。

 当然の帰結として、需要に対し、供給が圧倒的に足りない。

 結果は火をみるよりも明らかだった。

 この場合、問題を解決する手段は二つしかない。

@ 供給を増やす
A 需要を減らす

 もちろん、@は「キノコを増やす」ことであり、Aは「魔理沙を減らす」ことである。

 こうして、今度は「魔理沙同士」による、壮絶なバトルロイヤルが始まった。

 同族嫌悪という言葉がある。
 血のつながりや、親しいものこそ、より激しく、深く憎み合うというものだ。

 今回の魔理沙が、まさにそれにあたった。

 敵はすべて「自分」なのだ。
 これ以上の「同族」はいない。

 激しい戦いが繰り広げられ……ついに……

 二人の魔理沙だけが残った。

 すなわち。

『全ての始まりである』ゼロマリサ

『最後に生まれた』ラストマリサ

 の二人である。

 今、幻想郷の運命をかけた、魔理沙同士のラストバトルが始まった……


『転』筒教信者


 二人の魔理沙が激突した場所は、人間の里の上空であった。
 互いの弾幕を躱すたびに、地表はえぐれ、家屋が粉砕されていく。金平糖のような星型の弾幕は、しかし相手の生命を奪わんとする凶器だ。
 当然それに巻き込まれるとひとたまりもないのだが、その相手が既に幻想郷には存在していない。
 人間の里を破壊しているのだから、すぐさま飛んできそうな人里の守護者も、もう居ないのだ。彼女もきっと魔理沙に変わり、何処かで命を落としたのだろう。
 おかげで二人の魔理沙は、全力でぶつかり合うことが出来た。
 命を賭した戦いで生み出される弾幕は恐ろしいほどに美しく、それを客観的に見るものが居ないことが惜しまれるほどである。

「お前がもともと何処の誰だったかは知らないが、偽物が本物に勝てる道理はないんだぜ!」
「偽物だの本物だの関係ない! 私は、今は間違いなく魔理沙なんだ! それでも偽物だって言うなら、お前を倒して私が本物になってるさ!! そうしてキノコは全部私のものだ!」

 叫びながらも二人は攻撃の手を休めることはなく、風を切り裂きながら縦横無尽に飛び回る。その軌跡をなぞるように、真昼の空に星が撒き散らされていった。
 ゼロマリサの星とラストマリサの星がぶつかり合い、爆発を起こす。
 灼熱の業火と爆風に服と髪を焦がしながら、しかし直撃は受けずに二人は吹き飛ばされた。
 ラストマリサは上空へ、ゼロマリサは地面に叩き付けられるよりも早く、何とか体制を立て直す。
 踏ん張った足が悲鳴を上げるが、それには顔を歪まえるだけですぐさま懐へと手を突っ込んだ。
 取り出したのはミニ八卦炉。
 紛れも無く、彼女がオリジナルのゼロマリサである証だ。今は亡き霖之助が作ってくれた、世界でただひとつの道具。
 それへと魔力を目一杯叩きこむ。これは弾幕ごっこではなく殺しあいだ。送り込む魔力は膨大で、ミシミシと音を立てているミニ八卦炉が持つのかゼロマリサには予想が出来なかった。

「だから、使いたくなかったんだけどな……!」

 もう、この世界にこれを直せる者は居ない。
 ミニ八卦炉をこれまで使おうとしなかったのは、それを否が応にも自覚させられるからだ。
 何処かで聞こえたヒビの入る音は、果たしてミニ八卦炉からだったのだろうか。

「……もう、どうでもいいんだよっ!」

 魔理沙たちが、いや自分がキノコをめぐってという実にくだらない理由でバトルロイヤルを始めた時に、ゼロマリサは一度そう思っていた。
 幻想郷の全てを滅茶苦茶にしておきながら、『自分』が取った行動。
 それをまざまざと見せつけられた時に、ゼロマリサは絶望したのだ。それでも生きているのは、自分が撒いた種を自分で何とかするためであり……。

 ――違う、怖かったんだ。

 否定する。
 自分で、自分の一生に幕を引くのが怖かった。それに誰かに殺されるのも嫌だったというだけの、ただの我侭である。
 だから彼女は自分で全てに決着を付けてから、ゆっくりと、ゆっくりと自分の犯したことの重さを知りながら死んでいくつもりだった。
 そんな思惑を知ってか知らずか、上空のラストマリサもスペルを使おうとしていた。

 彗星「ブレイジングスター」
 
 彼女が魔理沙となった時に手に入れたそれは、ミニ八卦炉と違って全ての魔理沙が手に入れたものだ。
 位置エネルギーを載せた一撃を食らえばひとたまりもないだろう。
 高らかに宣言しそれを発動させると、目にも留まらぬスピードで突っ込んできた。

「これでトドメだぁぁぁぁぁーっ!!」

 切り裂かれる空気が轟音となって襲いかかる。それに一歩遅れて、叫び声も飛んできた。
 それに向かってゼロマリサはミニ八卦炉を掲げた。
 
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 注入したエネルギーを一息に解放する。
 その瞬間、魔理沙の視界が光に染まった



『結』零雨


 光に染まったゼロマリサの視界が戻っていく。
 そこに、ラストマリサはいなかった。
 残ったのは、ラストマリサが乗っていた箒の破片のみ。

「ああ……。ついに終わったんだな……。」

 ゼロマリサ、いや魔理沙が感じたのは、達成感でもなんでもなく、ただ圧倒的な無気力感。
 自分で始めて、自分で幕を閉じる……。
 結局は一人遊びで終わってしまった。
 幻想郷を破壊して手に入れられたものは、自分の無力さと弱さを知ったことだけ。
 それに比べて、失ったものはあまりにも多すぎた。
 もう魔理沙には住む場所も、友人も、何もかも残っていない。

「はは……。こんなことってあるんだな……。何も…がもが夢だっだら…いいの…に…なぁっ……!」

 自分がしてしまったことに耐え切れなくなったのか、泣き始めた魔理沙。
 しかし、彼女が泣いたところで事態は何も好転しない。
 そのことにも気が付けず、魔理沙はただ泣いている。

「私っ…・・・ごれから…どうずれば…いいのがなっ……!」

「それは私と一緒に考えましょう?ねえ、魔理沙?」

 突如として、魔理沙の頭上の空間が裂ける。
 そこから、八雲紫が現れた。
 何故紫が魔理沙菌の脅威から逃れられたのか?その謎の答えは、魔理沙菌の繁殖力にあった。
 魔理沙菌の繁殖力は恐ろしいものだったが、同時に1つ1つの菌の命が短いことの裏返し。
 ゼロマリサとラストマリサの戦いが繰り広げられている間に、ほとんどの菌は死滅していた。
 そして、一部の力の強い妖怪達は、魔理沙菌が死滅するまで紫のスキマに避難していたというわけだ。
 予想もしなかった事態に、魔理沙は激しく動揺した。
 動揺している魔理沙に紫は容赦しなかった。
 巨大なスキマが紫ごと、魔理沙を飲み込む。
 魔理沙が最後に見たのは、無限に広がる空間と、失望したような紫の目だった……。



 幻想郷の被害は甚大だった。
 魔理沙菌から逃れて、紫のスキマで死滅を待つことが出来たのは本の一握りの妖怪だけ。
 紅魔館からはレミリアとフランドール、白玉楼からは幽々子、マヨヒガは紫と藍、永遠亭は輝夜と永琳。
 山は神奈子と諏訪子を除いて全滅し、地霊殿はさとりだけだ。
 命蓮寺も生き残ったのは聖とぬえだけ……。後は閻魔と竹林の妹紅くらいか。
 残った幻想郷の重鎮達は、腸が煮えくり返る思いだった。
 もちろん、紫とて冷静ではいられなかった。
 そして、その怒りの矛先は全て魔理沙に向けられる。
 血の気の多い幻想郷の面子の中でも、比較的温和な聖でさえ額に青筋を立てているほどだ。

「で、これからどうするつもりなの?」

 かつて魔理沙対策本部、と呼ばれていたところに集まった一同。
 その中でレミリアが苛立った口調で紫に問いかける。

「幻想郷なら、まだなんとかやり直せるわ。幸い、建物はそれほど壊れていないしね。」

「違う、私が言いたいのはそんなことじゃない。あの小娘をどう処分するつもりなのか、それを聞いてるんだ。」

「流石に、今回ばかりは私も容赦はしないわ。私の箱庭を散々荒らしまわってくれた罰は死すら生ぬるい。」

 レミリアにそう言うと、紫は永琳に目配せした。
 永琳は頷くと、懐からあるものを取り出した。

「これは、蓬莱の薬を薄めたもの。不老不死とまでは行かないけど、数百年は死ねなくなるでしょうね。」

 その薬を、永琳は注射器に入れる。何に使うかは、みんな分かっていた。
 その行為に意味がないことも、失われたモノは帰ってこないことも頭では理解していた。
 しかし、体はもう怒りを抑えることができなかった。
 何かに急かされるように、全員が立ち上がる。
 スキマに飲み込まれ、気を失っていた魔理沙は紅魔館の地下、かつてフランドールが閉じ込められていた場所に放り込んであった。
 絶望と、悲しみと、そして怒りが混ざり合った感情が一同を包む。
 何が起こるかはわかっていても、それを止めようとするものは一人も居なかった……。



 魔理沙は暗い地下室で、その体を削られていた。
 もう、声は枯れ果て、瞳には生気が宿っていない。
 ただただ、暴虐に耐えるだけだ。
 いや、既に耐え切れず壊れてしまったのか。
 ゴリゴリと、骨を削る嫌な音が魔理沙の耳に届く。
 血は絶え間なく流れ出し、石の床を染め上げている。

 しかし、死ねない。

 骨を削られようが、首を斬り落とされようが、水に沈められようが、死ぬことは出来ない。
 魔理沙の足が削られて、形を失っていく。
 激しい痛みに魔理沙は呻くが、それでも体を削る手の動きが緩められることはなかった。
 そんな中、魔理沙の心には復讐心が燃え上がっていた。
 残虐な行為が繰り返される日々、最初は仕方ないと受け入れていた魔理沙だったが、日に日に鬱憤が溜まっていった。
 蚊の鳴くような声で、魔理沙は自分を削る者に対して血を吐きながら叫んだ。

「お前らなんか…私がもう一度…増えたら……ひねり潰してやる……!」

 魔理沙の叫びは、暗い部屋の中で虚しく地に落ちた……。





 その時、床に溜まった血液が一瞬ゾワリと動いたように見えた。






おわり
魔理沙が悲惨な目にあうのは仕方ないですよね!
書くのはかなり苦労しました!まあ、苦労したからこそ楽しいのかな。
とにかく楽しかったです!無茶振りは怖い!

(零雨)
ウナル→うらんふ→筒教信者→零雨
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/12/05 11:22:22
更新日時:
2011/12/05 20:22:22
分類
東方
リレー小説
1. 筒教信者 ■2011/12/06 00:40:52
魔理沙ちゃん、自分のまいた種は自分で何とかしてね!
2. NutsIn先任曹長 ■2011/12/06 01:53:19
おい魔理沙!! また『種』を蒔こうとするんじゃない!!

大勢の魔理沙で始まり、一人の魔理沙で……、再び、始まる、のか?
3. 名無し ■2011/12/06 17:07:30
初めからの出落ちっぷりに吹いたwww
4. ウナル ■2011/12/07 21:04:16
魔理沙と妖怪連合の戦いが始まる……という展開を予想していただけに、リレー小説の醍醐味を味わうばかりです。
そして、魔理沙。またくり返すというのか
5. 機玉 ■2011/12/11 02:04:52
本人達にしてみれば悪夢以外の何者でもないであろう光景なのにはたから見ているとギャグにしか見えない不思議。
復活した魔理沙の復讐劇に期待したい。
今度始まったらそれこそ幻想郷終わっちゃうんだろうなあ……
6. んh ■2012/01/12 00:33:59
急転直下な展開がとてもリレーっぽくて面白かったです。落ちもこれぞという感じでした
魔理沙は絶対に譲り合うと化しなさそうだもんなぁ
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード