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『東方奇黒球 ~ mission8 (終盤戦)』 作者: ヨーグルト

東方奇黒球 ~ mission8 (終盤戦)

作品集: 29 投稿日時: 2011/12/16 07:34:53 更新日時: 2011/12/16 16:35:38
「だらああぁぁっしゃああああぁぁ!!」
「でかい図体で軽々と避けよって!」
「終わりや!!」

幻想郷のメンバーは実力的にも空気的にも置き去りにされていた。
大阪から来た実力派の勢力は全て本物であった。

チームワークとしては幻想郷側が勝っているが。

しかし、こんな状況でも、幻想郷側も大阪側も本ミッションの真の目的を忘れていた。

そう、ぬらりひょんの存在を。



「これで終わったか?」

この広い場所も、小型の星人と大型の星人で敷き詰められた事を考えると、とても気持ち悪いものだった。
両メンバー側からは嘔吐してる人もいる。

「まだ、いるんじゃないかな、100が」
「ん?」

岡崎が霊夢の顔を覗き込む。

「過去にさ、大阪の方のミッションで100点の奴が出たんだけど、それでメンバーが大量に減った」
「それで、今の主力メンバーが残ってる訳なのだが」

そんな事が本当にあったのなら、今残っている大阪メンバーの実力は計り知れない。
リーダー格と受け取れる岡崎。
そのサポート役だと思われるちゆり。
遠距離からの攻撃が完璧な魅魔。
奇襲にぬかりの無いハーン。
接近戦のエキスパートの星。
トリッキーな動きで星人を翻弄する水蜜。
星人の攻撃をいとも容易く躱すエリー。

「いや、他にも居たけどね、それ以外は前に出た100の奴で死んだよ」
「100は蓮子がやっちまったけどな」

100点。
その言葉を耳にしてから、霊夢の様子は少し変わった。
他の幻想郷メンバーも同じで、100点の星人を殺せば……なんてことを考えた。

「100点の奴を殺す事が出来れば、魔理沙も生き返らせる事が出来る!」
「本気で言っているの? 言ったじゃん、前に出たときは今のメンバーとそれ以外のをちょこっと残して殆ど死んだって」
「私は表では実力派の巫女だもの」

岡崎の眉がぴくりと動く。
それから霊夢に睨みをきかせるが、霊夢はそれに動じない。

「やってみなよ…」
「やってやるわよ…」

霊夢は他の皆を引き連れてその場を去った。
それから数十分後、そこにある星人が現れ、大惨劇が発生するのは後から知る事だった。




















































「あいつは実力あるからって調子に乗りすぎ…」
「まあまあ、…あっ?」
「どうかしたの?」
「あ、あれ…」

愚痴を吐き捨て続けている岡崎の少し後ろに何者かが現れたのに気付いて、魅魔が銃を向けた。
異常事態なのかと疑問に思ったハーンも銃を掲げる。

岡崎達の前方に居たのは裸体とも呼べる格好をした巨大な星人であった。
こんな容姿の星人は、岡崎達は目撃していない。

ならば、一体何処から現れたと言うのか。

「お、岡崎さん、下がって下さい!」

水蜜と星がガンツソードを構え、岡崎達に指示した。
前からはその巨大な星人がゆっくりと歩みを進めている。

「あいつ、なんかヤバそうです…。でも、私と星ならやれます、岡崎さんが出るまでもないです!」
「言ったわね…知らないよ」

岡崎はショットガンを星人の方向に向けながら後退する。
それに続いて、ちゆり、魅魔、ハーンもそれぞれ銃を向けながら後ろに下がっていく。

ハーンは物陰に身を潜めて、様子を窺う事にした。

水蜜と星はガンツソードを少し伸ばし、居合い切りでも対応できる様な構えになる。

「私と二人ならやれる」
「二人なら、ねぇ…」
「いくよ!!」

水蜜が爆音の様な声を張り上げ、目の前の星人に向かって突進した。
星も続いて突進した。

二人が同時にソードを振るう。

その二本の刃は星人の四肢を切断し、空中分解した様に星人の体がバラバラになった。

しかし、そのバラバラの部位は一瞬のうちに形成し、それぞれからまた別の星人が出現した。
その姿はガンツの在る部屋で見た、ぬらりひょんである。

「……おおお?」
「化け物が……ああぁ!!!」

星が横から刀を振り抜く。
その攻撃を躱したおかげで、ぬらりひょんの体が宙に浮き、無防備な状態になる。

それを狙い、水蜜が頭上から刀を鉄槌の如く振り下ろす。

しかし、ぬらりひょんは空中で無防備だった筈の体を翻し、その黒い刃をひらりと避けた。
ぬらりひょんは水蜜の頭に手を置いて身を立て直し、地面に着地した。

「倒せない……………?」
「何バカな事を…」
「倒せる気がしないからあとは星に任せるよ」

「やってやるって」

何を勘違いしたのか、星がガンツソードを投げ捨てて無手の状態になる。

「はああぁぁっ!!」

そして、後ろからぬらりひょんを両手で捕捉、スーツの力を最大限まで高めて完全に動きを止めさせた。

「うわ、すっご…」

水蜜は星の様子を冷や汗垂らしながら見ている。

このぬらりひょんが今回のミッションのターゲット、加えにもしも100点の敵なら、油断してはいけない。
ましてや、無駄に接近戦で仕掛けない方がいい。

ガンツソードならいい、素手で挑むのはいかなものだろうか。
水蜜の頭の中はその不安でいっぱいだった。

「あ、あれは…?!」

そんな頃、霊夢が単身でそこに駆けつけた。
とは言っても、ターゲットの直ぐ近くではなく、物陰に隠れている岡崎達の横だった。

「ああ、まだ生きていたのか」
「何で隠れてるの、応援はしなくていいの?!」
「いや何、あいつら二人でやれるって言ってたから…」

大阪側では、連係プレーはとっても人を助けるなどと言う事は滅多にしない。
ましてや、一般人を助ける事など、タブーと言える程に行われる事など無かった。

「もしアイツらがやられても、私たち含めて最強が居るから。蓮子がね」
「あっ!?」

岡崎達が目を離している隙に、向こうで闘っている二人に異変が起きた。
星が拘束していたぬらりひょんが突如変化し、肌色に変態、瞬く間に巨大化して星を包み込んだ。

遠目から見ていると、それは人間の形にも見えた。

「うぉ、うおおおおおぉぉぉおおおぉ!!?」
「ほ、星ー?!」

肌色のそいつに、星の体は徐々に取り込まれていく。
その最中、星は自分のソードに手を伸ばして、取り外した。

攻撃まで持ち込んだと思ったその瞬間に、巨大化したぬらりひょんは数十メートルものサイズになった。
人間が何人も集合した様な感じで、そいつは人間が組み合わさって出来た『ヒト』とも受け取れる。

「星、星!?」
「あいつが簡単にやられる訳がっ…?!」

霊夢や岡崎達が前に出ようとした瞬間、ぬらりひょんの体のスキマから黒くて細い棒の様なものが飛び出してきた。
それはよく見ると、ガンツソード。
星がかろうじてそれで反撃をしていたのだ。

「おおーっ、生きていた…」
「やっぱりな…あいつが簡単にやられる訳が…」

ぬらりひょんがその巨大な手を前方に差し出す。
その手の平の上に、小さな物体が乗っかっていた。

それが地面に零れ落ちる。
反撃する程の力が残っていた筈の、星の頭が、頭だけが、落ちてきた。

意識など、ある筈が無い。

「うおおおぉお!!」

瞬間、ぬらりひょんの腕が水蜜を襲った。

それをしゃがんで躱す。
避けた先に拳が振り下ろされる。

後ろに手を付いて、避けた。

変化したぬらりひょんのその動きは、巨大さに関わらずに速く、避けるのも至難の業であった。

「ちょちょ、その人数無理! 一人できてよ!! ぉおお!?」

後ろを向いて逃げ出した瞬間、ぬらりひょんに水蜜は拘束された。
そのまま本体に吸い込まれる様に体が動かなくなった。

顔面はかろうじて出ていて、息が出来る。

「くっ、まさかっ…」

霊夢はショットガンを持って、物陰から出た。
岡崎達は文句も言わずにいた。

「無理だろ」
「私はやれる」

ぬらりひょんの近くまで来た霊夢の上から水蜜が落ちてきた。
四肢が千切り取られ、歩行は愚か武器を手に取る事すら出来ない。

霊夢は水蜜の体を受け止めた。
その体を岡崎に渡した。

「私は私のやりたい様にやる」

ショットガン引金に指を掛け、退治しているぬらりひょんの頭に狙いを定めた。



「にとりさんがいない」

文は霊夢を除いた幻想郷のメンバーと合流していた。
主力の妖夢、美鈴達の強力なサポートによって、雑魚と呼べる様な星人は殲滅できていた。

にとりが居なくてもスムーズに持ち込める様になったのは事実だが、居た方が安心できるのは不思議であった。

「高得点の奴でも狙ってるんだろ」
「死なないといいけれど…」

妖夢はコントローラーの画面を見て、確信した様な顔になった。

「星人は残り一体のようです」
「じゃあそいつを倒せば終わり?」
「先程から戦闘してる様な音が聞こえているので、恐らく、霊夢さん達がやってくれてるでしょう」
「大阪の奴らも実力的には大丈夫そうだしな」

勇儀は壁に寄っかかって休んでいた小悪魔の体を抱え、歩き出した。

「だったら、他にも星人がいないか見回りをしないか?」
「……………そうですね」



引金に力を込めた。
ただそれだけ。

ショットガンから放たれたものはあっさりと避けられた。

ぬらりひょんの連続攻撃を躱しながら、霊夢はショットガンの引金をもう一度引いた。

その間にも、攻撃は絶え間なく繰り返される。
霊夢はそれを持ち前の実力と経験で避け続ける。

バンッ

様子をちらりとうかがった瞬間に、ぬらりひょんの頭部が爆砕された。

「あっ!」
「えっ、噓!」

横から迫り来る足、屈んで避ける。

その次には前から足がきた。

ーーーーー蹴る?

そう考えていた霊夢は横に避けようとしたが、予想とは大きく違っていた。
足を形成していた人間の体が、霊夢の体を拘束しようとしていた。

逃げ切るしか無い。

そう判断して、霊夢は後ろに体を全体的に捻って状態を前に倒した。
ショットガンを捨て、可能な限りの速さで拘束から逃れる。

ーーー捕まえて転送がグッド…!

霊夢はホルスターからYガンを外し、地面に体を転がせながらぬらりひょんに銃口を向けた。

アンカーが放たれ、それらのアンカーから伸びたワイヤーがぬらりひょんを絡めとる。
しかし、ぬらりひょんは体をばらして拘束を解除させた。

ーーー効かない!

次に霊夢はガンツソードを構え、大きく上に振り上げた。

避けられる。

振る。

刃が深くぬらりひょんの体を切り刻んだ。

ーーーーーー私は……

尚も続く応酬。
しかし、霊夢はこの闘いに勝たなければならない。

さもなくば、もとの生活は戻ってこない。

そう直感していた。

ーーーーーーーーー絶対に帰っ…

後ろに下がろうとしたその瞬間、霊夢の体をヌラリヒョンは捕らえた。
一瞬のうちに身動きができなくなり、霊夢の体は自由が利かなくなった。

「ここまでかぁ…」

岡崎が立ち上がり、ショットガンをぬらりひょんに向ける。

しかし。

霊夢を拘束していたぬらりひょんの体が突如、重力に押しつぶされたかのように消滅した。
まだ腕が残っている。

「隙があったよ」
「!?」

先今で誰もいなかったそこに、にとりが姿を現した。
コントローラーで姿を消していた。

そして、いつ手に入れたのか、大阪のメンバーが所持している筈のあの巨大な銃を持っていた。
既に使い方は覚えた様だ。

「霊夢…!」

ちゆりが霊夢のもとに駆け寄り、ぬらりひょんの手から霊夢を引っ張りだす。
しかし、にとりが銃を二人の方向に構えた。

「何?!」
「くっそっ!!」

脱出。
霊夢とちゆりの二人はぎりぎりでにとりの攻撃を躱した。

にとりはそれ以上撃とうとはしなかった。

「あんたなァ! こっちまで一緒に潰すつもりだったの?!!」
「いやいや、お前とか関係ねーし、念の為に腕もつぶしただけだっての」
「何にせよ、終わったみたいだからいいじゃん…?」

物陰に身を潜めていた岡崎達は立ち上がって、転送されるのを待っていた。

しかし、いっこうに転送される気配はない。
にとりは不信感を覚え、銃を下ろした。

「おーい、ガンツ、転送〜」
「あ、待って!」

ちゆりが血だまりの方向を指差す。

そこからは、死んだ筈のぬらりひょんが形態を変えて地面から湧き出る様に出てきていた。
姿は。先程の人間の塊ではない。

本の中や物語で聞く様な竜の姿を象っている。

竜と呼ぶにはほど遠いだろうが、それが一番似合っている様にも思えた。

「何なの、これ…勝てる訳が無い…よ…」
「ふん…」

にとりが再び姿を消す。
ぬらりひょんの隙を見て不意打ちを仕掛けるつもりなのだろう。

ぬらりひょんは不気味に笑う。

「ふふふふふふふふふふふふ……ふふふふふふふ…ふふふ…」

ちゆりがふと横を見る。

違和感がそこにはあった。

「う`ああぁあ あああぁあっぁぁああああああ!!」

姿を消した筈のにとりが、何故かいた。
自分から姿を現したのではなく、現された。

にとりの体中に電流が走る。

次の瞬間にはにとりの右腕は肉片となって飛び散った。
パッと見では判らないぐらいの細かさで、骨片と肉片をまき散らし、血飛沫が噴水の様に流れた。

「痛えええぇええええええッ………!!」
「……!」

ーーーーーこっちを見た…?

ぬらりひょんが霊夢を見下ろした様にも見えた。
しかし、そんなことで戸惑っていてはにとりのようになってしまう。

ーーーこの場は逃げるしか…!

霊夢はちゆりの腕を掴み、地面で悶えているにとりの体を抱えて大きく跳躍した。
スーツの力のおかげもあって、直ぐさまにその場から退避できた。

足が地面からはなれた瞬間、その場が爆砕された。

「危ない…」
「今はあっちを見てる場合じゃないわよ。先ず退避。にとりの腕、止血しないと」

ぬらりひょんとの距離を取った霊夢は、にとりを背負って鈴仙のもとに向かった。
止血ぐらいは出来ると信じて。



ピンっ

「あっ」

ピンポロパンポンピンポロパンポン

文がふと足を止めた。
一瞬だけ、警告音とも思える様な音が響いた。

「これって、何?」
「にとりさんと魔理沙さんから聞いた事なのですが、ミッションでは制限時間の他に戦闘域も決まっているらしいです。指定域内からはみ出ると先程の様な警告音が鳴り、尚も無視すると頭の中の爆弾が爆発するそうです」
「やっぱり逃げ切れないかー…」

だったら仕方ないなと勇儀が溜息を漏らす。
ここに居る現存メンバーが実際に、他のメンバーがそうなったところを見た事がある訳ではなかった。

だから、にとりの話が確実に信用できる訳ではなく、半信半疑であった。

しかし、彼女の言う事はほぼ外れが無い。
噓でない限り、それを信じた方がミッションで死ぬ確率や、ミッション外でも死ぬ事は殆どない。

信じるしか無かった。

「仕方ない、ここは引き返すしかないね」

そう思ってメンバーは後ろを向いてもと来た道を戻ろうと行こうとした。

しかし、

そこにはぬらりひょんがいた。
先程の闘いから場所を移したのだろうか、何故かこんなところに出没している。

「……皆でやれば、倒せるんじゃないですか…?」

文の目は泳いでいる。

「待って、この星人の上を飛び越えれば無事に帰れる…」
「弱腰ですね、あくまでも」
「死ぬよりかはマシさ」

小悪魔の体を背負っている勇儀は、戦闘して安全を確保するよりも退避した方が良作だと考えている。
無駄な怪我をこれ以上負いたくないから。

このままでは小悪魔が死ぬ可能性がある。
自分の安全より小悪魔の安全を確保したい考えがあった。

「じゃあ私が、…」

萃香が一番最初に実行しようとする。

「……あ、あれ?」

思い通りに体が動かない。
体を揺すったりしているが、他の人から見れば何が起こっていて何をやっているか判らない。

やがて、異変は起きた。

萃香のスーツの首元から、ゲル状の液体が漏れだした。

スーツの力がいつの間にか失われていたらしい。

次の瞬間には、萃香の腕は何かの機械に操作された様に、あり得ない方向に曲がっていった。

「うああぁあああああああああああ!!」

破裂。
萃香の強制的に捻られた両腕は、次の瞬間にはスーツごと爆砕された。
そのまま萃香は地面に横たわった。

武器を手に取って抵抗する事は出来ない。

「うっ!?」
「何だよ…これ!!」

メンバーは騒然として逃げ出す。
しかし、一同が逃げた方向は、先程の警告音が鳴った方向だった。

このままぬらりひょんと同じ方向に逃げ続ければ爆砕される。
妖夢の頭にはそれが自然と浮かんだ。

他のメンバーはそれをほぼ忘れている。

「そっちに逃げたらダメです!! 死んでしまう!!」

ピンポロパンポン

警告音が鳴り始める。
メンバーは恐怖にまとわりつかれ、逃げる事しか考えていない。
ぬらりひょんは追いかけてきている。

ピンポロパンポン

「うらああぁッ!!」

そんな中、勇儀は小悪魔を抱えたままぬらりひょんの脇を飛び越えて、警告音が鳴らない場所に退避した。
文は無効に飛び越えられそうかと様子を窺っている。



ーーー頭の中の爆弾で死ぬぐらいなら、ここを飛び越えて生き延びた方がいい。


文は全身に力を込め、元の身体能力とスーツの力を相乗させ、大跳躍した。

ぬらりひょんの上を通過する。

ーーー助かった…!

そう思った瞬間、文の腕やら脚やらが萃香と同じ様に砕け散った。
安全な着地態勢がとれなくなった文は、地面に叩き付けられ、血肉をまき散らしながら転がった。

「文さんまで…」

萃香の体を抱え、妖夢は飛び越える態勢に入る。
警告音が鳴り響く中で疑問に思ったのは、いつまでたっても自分たちの体が破裂しない事だった。

何故?

ふと横を見ると、ルナサが逃げようともせずに、ぬらりひょんと向かい合う様に立っていた。
目から耳から、全身から血を噴き出してもなお倒れようともしない。

「私が止めてる、その間に皆はアレを飛び越えて…!」
「ルナサさん?!」
「お姉ちゃん!?」
「早く行って!! どうせ誰かが犠牲にならなくちゃいけない闘いなら、私が止める! だから、早く行って!」

ルナサの声に押され、まだ飛び越えていないメンバーは一斉に走り出し、足に力を込める。
妖夢たちは次々とぬらりひょんの上を飛び越えていく。

「早く、メルラン、リリカ!!」
「リリカ…ッ」

動かないリリカの手を強引に取るが、リリカは動こうとしない。

「巫山戯ないでッ!! あんたも一緒に死にたいの?!」

メルランの腕を振りほどく様な事はしないが、その場から一歩も引こうとしない。

「お姉ちゃんを一人に出来ない!!」
「死にたくないならあいつの上を飛び越えなよ!!」

メルランがリリカの腕を強引に引き、全力でリリカの体を空高く放り上げた。

空中を舞うリリカの体は上手くぬらりひょんの上を飛び越えた。
続いてメルランもぬらりひょんを飛び越える。



文と萃香以外の皆が無事にぬらりひょんを凌いだその瞬間に、ルナサの体は跡形も無く砕け散った。



「どうするの?」

一方そのころでは、ぬらりひょんとの戦闘を一時的に回避した霊夢達が策を練っていた。
強力な武器によっても再生してしまうぬらりひょんの回復能力を、どうやって対処するか、それを考えていた。

「あんな奴は今までに出てこなかった気がする…」
「だよね」

にとりは右腕を押さえながら言った。
止血は済ませてあるが、スーツの力が失われたにとりには何も出来そうになかった。

「後は妖夢たちが合流してくれれば助かるんだけど」
「うん、たぶん。大阪の私たちでこんなになるなんてね、こりゃ、他の人の力を借りるしかないわ?」
「あ、そういえば」

霊夢には思い当たる事があった。

「あんたらが言っていた『蓮子』は今どうしてるの?」
「知らないよ」

岡崎は即答する。

「あいつが今何処でどのように闘ってるかなんて私は知らない。大阪ではそれが普通だから。
宇佐見蓮子もその一例、あいつがどうやって生き残ってるかもね」

岡崎は続ける。

「そもそも、どういう訳なのか、人の事を気にしたり、助けたり、そんな事を考えている奴は闘う資格など無い…って感じかな。そんな考えがあるみたい」
「……」

変な空気にしてしまった、ごめん、と言ってから岡崎は立ち上がった。

「とりま、倒そうよ、ぬらりひょん。そうすれば終わるし」
「異星人によるカタストロフィ」

にとりが突然、聞いた事も無い言葉を口にした。
その言葉にその場に居た全員が驚愕の顔をするが、岡崎だけは驚かなかった。

まるで、予想でもしていたかのように。

「……にとりだっけ?」
「……」
「あんたはそこまで簡単に予想がつくんだねぇ…天才だよ」
「私がミッションに参加してから…そうだね、復活してから聞かされてからの予想だよ。最初こそは私たちを攻撃しようなんて考えてなかったかもね。でも、私たちが星人を滅ぼそうとしてからだ、星人達が本気を出し始めたのは」
「じゃあ、何で不可視効果がないのも予想はついてるよね」
「数が多すぎる、だからだよね?」
「ご名答。実は、こっちでは前回のミッションも不可視効果がなかったんだよね」
「ガンツの異常、だと考えてもいいかな」

霊夢達は話に付いて行けない。

「いいね」
「そんなことより、今はぬらりひょんの殲滅。これだよ」
「うん」

ちゆりが切り出した。

今、メンバーは星人との戦闘を強いられている。
そんな状況で、この状態を打開するには、星人を完全に殲滅するしか無かった。

「妖夢たちも来たみたいだよ」

にとりが荒く息を吐きながらそう言った。
全員の視線の先には、ボロボロとなった文と小悪魔と萃香を抱えながらも、ほぼ無事に帰還した妖夢達の姿が有った。

欠けているのはプリズムリバー三姉妹のうちの一人、ルナサ。
メルランは霊夢達に先程までの状況を事細かに説明した。

聞き終えた霊夢は溜め息を吐き「結局はやることになるのね…」とひと言言った。

「作戦練り直すわよ」

負傷者は戦闘に参加しない前提で、ぬらりひょん討伐の作戦構築が始まった。



「……」

物陰に身を潜め、ぬらりひょんがいないかを確認する。
その行動を起こしているのは、妖夢とハーン、そしてエリー。
この三人は新しく考えられた作戦により、接近戦の担当となった。

勿論、死を覚悟で。

この三人の中で一番『死にたくない』と思っているのは妖夢かも知れない。
それとも、大阪側のハーンとエリーだろうか。

死んだらみっともないと考えるか、それとも、死んだら会いたい人に会えなくなると言う考えの妖夢だろうか。

「コントローラーで確認、ぬらりひょんと思われる対象はこちらへ向かっているようです」
「衝突は約…十分後」

妖夢達三人に課せられた役目は『奇襲』。
出来るだけぬらりひょんの意識を近くだけに向けさせると言うもの。

「恐らく、とどめを刺すのは霊夢さんだと思います。一番、責任感が思いから、あの人…」

妖夢はガンツソードのグリップを何度も握り直す。

「え、それっておいしいとこだけを…」
「一番、死んでも星人を倒そうと思っているのも霊夢さんだと思います」
「……え?」
「魔理沙さんを助けたいって言うのもあるけど、やっぱり一番のその理由は…巫女として、幻想郷を救いたいって言うのが…」

沈黙が続く。
時間が経つにつれ、妖夢たちの鼓動ははやくなり、同時に、コントローラーの中のマーカーは近づいて来る。

ぬらりひょんとの戦闘がもうそろそろ始まる。
たったの十分と思っていたが、十分もその場に居ると、一時間は経ったんじゃないかと思える長さであった。

「そろそろだね…覚悟は…?」
「出来てる」

ハーンとエリーはそれぞれガンツソードを手に取って、自分の背丈以上に刃を出した。

「来たよ」

前方五十メートル、ぬらりひょんが姿を現した。
不気味に笑いながら、妖夢達の方向に向かって来る。

「はあッ!!」

三人一斉に飛び出す。
妖夢は正面、ハーンとエリーはそれぞれ左右に分かれて突進した。

ぬらりひょんが動きを止める。
三人の存在に気付いた。

腕が振りかざされる。

「今だよッ!」
「よっしゃあッ!!」

次の瞬間、近くにあった民家の影から魅魔と空がショットガンを持って飛び出してきた。
スライドを最大まで動かし、銃口をぬらりひょんに向けて構えた。

ぬらりひょんの顔は魅魔と空の二人に向けられた。
振りかざされた腕はその二人に振り下ろされた。

その隙を見計らって、妖夢はぬらりひょんの足下まで一瞬で距離を詰め、二本の刀でその足に斬撃を繰り出した。
コンマ一秒差で、ハーンとエリーも攻撃を開始する。

束の間、ぬらりひょんの腕は魅魔と空に当たらずに、ほんの数十センチ前で爆砕された。

「あっはあぁッ、当たったね!」

岡崎が屋根の上からショットガンで狙撃した。

魅魔と空は銃口をぬらりひょんのもう片方の腕に向ける。
その腕が高く上がる。

「させないって」

岡崎がその腕に狙いをつける。
隣では、重傷を負ったにとりが同じ様にショットガンで援護射撃をしていた。

「こんなんで倒せるのかね…」

そんな愚痴をこぼしている。

足下で闘っている妖夢とエリーが吹き飛ばされる。
二人の体は魅魔と空の方向に投げ出された。

「ちょちょっ…!」

二人の体を受け止め損ねた魅魔と空は一緒になって吹っ飛ばされる。
それに気を取られたハーンは不意に隙をつかれ、腹のど真ん中に一撃を入れられた。

「あ、がぁあッ…」
「手を緩めるなって…」

二人分の間延びした銃声がなり続ける。
その攻撃をお構い無しに、ぬらりひょんは岡崎達の方向に歩み寄って来る。

体の一部分が次々と飛び散っているのにも関わらず。

「化け物か…あ、当然か」
「退くよっ!!」

岡崎がにとりの腕を掴み、ぬらりひょんの歩く方向と同じ方向に飛んで退いた。
跳び退いた次の瞬間には、さっきまで居た場所が一瞬のうちに砕け散った。

「あーこれはやばいわ」
「ふふ…ふふふふふふふふ……ふふふ…ふふっふふふふふふふふふふふ……………」
「霊夢、早く助けにこいよ」

ーーーーーあいつが助けにくるのは、絶好のチャンスやぬらりひょんが弱ったときじゃない。

にとりはショットガンのグリップを握り直した。

ーーーーーー奴の意識が完全に、私たちに向けられて尚かつ他のとこに意識が向かなくなってからだ。

着地。
にとりはホルスターからYガンを取り外し、ぬらりひょんに一発放った。

ワイヤーが展開され、ぬらりひょんを拘束しようとするが、瞬時にそれが切断される。

「やっぱ無理か」
「怯むなよ!!!!!」

一斉に、他のメンバーが銃やら何やらを持って奇襲を仕掛け始めた。
その中には、今までまともに姿を見せていなかったメンバーが混じっている。

「私がやるしかないわね?」
「あっ!!」

ぬらりひょんの後ろに黒い人影が降り立った。
顔が見えない。
その姿は人間と呼べるかどうかが判らず、腕は大木の様に太かった。

「あれは…?」
「れ、蓮子さん!!」
「待たせたわね」

ぬれりひょんの顔は蓮子に向けられていない。
しかし、意識はまだ全方位に向けられていた。

腕が横から、蓮子に迫った。



「……」

銃の重みを一身に感じながら、霊夢は外の様子をうかがった。
外ではぬらりひょんと、自分たちの仲間が命を懸けて闘っている。

自分に課せられたのは、ぬらりひょんへのトドメ。
それ以外は禁止。

この銃の使い方は、作戦構築時に岡崎達から聞いた。

「大丈夫、大丈夫……?」

もう一度顔をのぞかせると、外での戦闘が一時的に止んでいた。
メンバーが死滅されたり、ぬらりひょんが活動を止めた訳でもない様だ。

見れば、ぬらりひょんと会話している様にも見える。
ぬらりひょんの巨大な腕を、全身黒の誰かが受け止め、堪えている。

顔は見えない。

しかし今なら、ぬらりひょんにとどめをさせると思った。

霊夢は立ち上がり、銃を左手に持ち直して歩き出した。

距離方向共に良好。

霊夢は銃を掲げた。

ーーーーー今だ…

意識は完全に、他のメンバーに向けられている。

ーーーやるなら今…!

最後に、気休めに姿を隠す。
ステルス状態になり、細心の注意を払う。

ーーー終わり…よ!

銃の引金を引く。

それと同時にぬらりひょんが円形状の何かに押しつぶされる。

ーーーーまだまだ…!

何度も引金を引く。
何度も何度も何度も何度も。

引金を引くにつれ、ぬらりひょんは原形をとどめない程に押しつぶされていく。
死ぬまで。
意識が霊夢に向けられたら終わり。

引金を三十回は退いた頃、遠くに居る妖夢からストップサインが掛かった。

様子を見る。

復活の兆しは無い。
勝ったかもしれない。

そのまま十分が経過する。
遂に、ぬらりひょんは復活しなくなった、再生をしない。

「あ」

体が輪っか状になる。

転送だった。



































































「そっか、お疲れさまだったな」
「何よその言い草!! 大変だったのよ!」

復活した魔理沙は以前と変わらず元気だった。
その姿を見て、嬉しいのかどうなのかは判らないが、霊夢はより一層元気になっていた。

にとりは詰まらなさそうに頬杖を付いていた。

「これが何時まで続くやらねぇ…」
「あー、ネガティブね」
「違うよ」

あの闘いの後、文は100点を取って、解放を選択した。
星人の圧倒的な数のおかげで、メルランもリリカも100点を取る事が出来た。

メルランは解放を選んだが、リリカは闘い続ける事を選んだ。

「後一回ぐらいはミッション無いとなまるわな」
「あーん? にとり、魔理沙が生き返ったからには、得点は私と魔理沙が持っていくわよ?」
「ごじゆーに」

空に浮かんだ満月を見ながら、にとりは微笑した。
転送されていく足先と手先を見ながら、勝利に笑みを浮かべた。



「今回は絶対に弱いな」
今日は仕事が休みなのでずっと書いてました。

はい、少し早めです。
無駄に行稼ぎな気がして止まないです。
そして、住人の方には迷惑なんじゃないかと思い始めてます。

無事ぬらりひょんとの闘いを終えた霊夢達は、どう過ごすのか。
見物ではないです、多分。

次回から、カタストロフィに入ります。
流れは、ちょっとしたミッション(戦闘描写無し)→日常編→カタストロフィの始まり。
と言った感じです。

ではでは。

P.S.
『約束』の次回作はイミテーションに投稿予定です。
ヨーグルト
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/12/16 07:34:53
更新日時:
2011/12/16 16:35:38
分類
ぬらりひょん戦終わり
1. NutsIn先任曹長 ■2011/12/16 22:31:56
やはり、霊夢はおいしいところを持っていくのが、よく似合う。

今回はバトルオンリーでしたね。手に汗握る展開でした。
次回の日常パートを期待しています。

あと、『あっち』に投稿するヤツも楽しみに待っています。
2. n ■2011/12/18 16:07:10
東方死手帳の続きはいつ頃でしょうか?
場違いなコメントすいません。
3. ヨーグルト ■2012/01/19 19:58:38
>先任曹長様
段々文章力は低下している上に語彙力もあれなので、日常パートは遅くなります。
別の奴はどうなるかは…

>n様
あの作品はあまりどうでもいいと思われてると思っていたので放置していました…
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