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『早苗とサニー』 作者: 紅魚群

早苗とサニー

作品集: 30 投稿日時: 2012/04/03 21:59:37 更新日時: 2012/04/07 06:05:39
※警告:キャラ崩壊 設定改変 暴力表現 グロ 百合 長文 サニーちゃん愛









私、東風谷早苗は今、博麗神社に来ています。
別に呼ばれたわけでも用があったわけでもなく、ただなんとなく来ているだけです。
霊夢さんの隣にいる魔理沙さんも、おそらくは同じ事情でここにいるのでしょう。
霊夢さんに出していただいた薄いお茶を飲みながら、縁側で他愛も無い話をする。
特に盛り上がりも無くだらだらとした時間でしたが、私はこの時間が大好きでした。

私は二人に気付かれないように、霊夢さんの膨らみかけの胸や体のラインに目線を送ります。
私には人には言えない特殊な性癖が二つありました。
ひとつは霊夢さんのような少女、あるいはもっと幼い女の子が大好きだということ。
ふたつめはその女の子が泣き叫んだり、酷い事をされたりするのを考えるのが大好きだということです。
自分でも最低の趣味だと思います。
でも、もちろん妄想と現実の区別はちゃんとできています。実際にそのような行為に及んだことはありません。
私がこの時間を大好きだといったのも、こうやって可愛い霊夢さんを観察してインスピレーションを養えるからです。

「それでアリスの奴がすげー怒ってさぁ」

魔理沙さんがまた大きな声でしゃべっています。
魔理沙さんは年齢も体格も霊夢さんと大して変わらないようですが、どうも下品な感じがして好きになれません。
私は健康的で飾らない感じの女の子らしい女の子が好きなのです。

しばらくそのまま魔理沙さんのバカ話を聞いていると、不意に遠くから誰かの声が聞こえました。

「あ、いた!魔理沙さーん!」

私達3人が声のほうを見ると、赤いスカートに赤みがかった金髪の女の子がとてとて走って来ました。
その後ろに白い服に薄い金髪の子と、青い服に長い黒髪の子が笑顔でついてきます。
昆虫のような大きく透明な羽を3人とも生やしているあたり、妖精さんなんでしょうか?

「おう、どうしたんだ?」
「魔理沙さん、これ食べられるキノコですか?」

赤いスカートの子がはきはきとした元気な声でそう言うと、ポケットからなにやら白っぽい小さなキノコを取り出しました。
魔理沙さんはそれを受け取ると、まじまじと目を凝らして見たり、端っこをかじってペッとやったりしてから言いました。

「ニガクリタケだな。毒抜きして食えなくもないが、まあやめておいたほうがいいと思うぜ」
「えー、せっかくたくさん生えてるところを見つけたのに。毒抜きどうやるのか教えてくださいよ」
「まあ教えてやってもいいが…。失敗しても知らんぞ」
「やった!」

その子が嬉しそうに体を揺らすと、赤いリボンで留めた小さなツインテールがぽんぽんと跳ねました。
私はしばらく、その子に見とれていました。
弾けるような無邪気な笑顔。十にも満たない幼い容姿。口からチラリと覗かせる小さな八重歯。
それらすべてが、あまりにも可愛すぎたからです。一目惚れというやつかもしれません。

「早苗、お茶のおかわりいる?」

なので霊夢さんに話しかけられていることにも、全く気付きませんでした。

「ねえ早苗?早苗ってばっ!」
「わっ!ど、どうしたんですか霊夢さん、大きな声出して。びっくりするじゃないですか」
「それはこっちの台詞よ。どうしたのよ、ぼーっとしちゃって」
「いや…その…。なんでも……」

先ほどの赤いスカートの子の方を見ると、魔理沙さんのしったかぶり講釈がちょうど終わったところのようでした。
その子と取り巻きの白と青の妖精さんは魔理沙さんにお礼を言うと、ばいばいと手を振りながら仲良く森の中へと消えていきました。

「全く世話がやけるぜあいつらには」

なんだかんだで嬉しそうに苦笑する魔理沙さんに、私はズイッと単刀直入に聞きました。

「あの赤いスカートに金髪の女の子、誰ですか?」
「ん、サニーのことか。この辺に住んでる妖精だよ。中々面白い奴らだぜ」

サニーちゃん、太陽みたいに元気なあの子にぴったりの名前ですね。
その後もしばらく三人でダベってましたが、サニーちゃんのことが頭から離れずあまり話に集中することが出来ませんでした。



その日家に帰ってからも、ずっと彼女のことで悶々としていました。
それで頭が一杯になってしまって、お茶碗を取り落として割ってしまったときは本気で神奈子様と諏訪子様に心配されてしまいました。

「早苗どうしたんだい?なんか顔も赤いし、熱でもあるのかい?」
「お医者さん呼んだほうがいいかな?」
「いえ、大丈夫です…すいません…。ごちそうさまでした」

私はまだおかずの残っている自分のお皿を片付け、足早に自分の部屋に帰りました。
神奈子様たちにいらぬ心配までかけてしまいました。
もう私自身も、この気持ちをどうしたらいいのかわかりません。
何をするにも気が逸れてしまいそうだったので、まだ早い時間でしたが私は電気を消して布団の中にもぐりこみました。
今日は早く寝てしまおう。
そうやってこの気持ちを誤魔化すつもりでしたが、布団の中に入ってからはより悶々が酷くなりました。
こういったことが今までに無かったわけではありませんが、今回のはことさら酷いです。とっても、とっても切ないです。
青い空をバックにサニーちゃんの太陽のような笑顔と、赤いリボンのついた白いブラウス、風になびく赤いスカートが頭の中に浮かびます。
私が名前を呼ぶと、サニーちゃんは嬉しそうに私の方へと駆け寄ってきました。
私はサニーちゃんの体を抱きしめます。そして、隠し持っていたナイフでその背中を思い切り刺しました。
鮮血がブシュッと飛び散り、サニーちゃんが大きな悲鳴を上げます。
私はナイフを一旦引き抜いてサニーちゃんを押し倒すと、仰向けになったサニーちゃんの体に再び何度もナイフを突き立てました。
痛みで歪むサニーちゃんの顔。泣き叫ぶ声。「どうして…?」とでも言いたげなサニーちゃんの瞳。
私はそれらを存分に堪能した後、最後にサニーちゃんの喉に抉るようにしてナイフを差しました。
そうして絶望の表情のまま事切れたサニーちゃんの唇に、私は優しくキスをするのでした…。

……そんなドス黒い妄想が次々と沸き起こってきます。
私はうつ伏せになって枕に顔を埋めて、足をバタバタさせました。
どうして私はこうなんでしょうか。普通の思考の女の子に生まれてれば、こんな思いしなくて済んだのに。
切なくて、切なくて、たまらないです。ああサニーちゃん、いますぐあなたに会いたい。会って、あなたを滅茶苦茶にしたい。
妄想じゃなくて、現実に行えたらどれだけ幸せなんでしょうか。

でも、それはいけないことです。
私が外の世界にいた頃も猟奇的な内容の本やホームページをいくつも見てきましたが、それらに決まって掲げられていたルールは『現実の世界で行ってはならない』です。
言われるまでもなく、それは当たり前の話です。
そんなことは被害者の人権を完全に無視した行為ですし、そもそも犯罪なんで捕まっちゃいます…。

…あれ、そういえば幻想郷には法律も警察もありませんでしたっけ?
スペルカードルールとか吸血鬼条約とかは知ってますけど、妖精殺害罪で逮捕なんて話聞いたこともないです。
むしろ未だに妖怪が人間を襲うという事件や、その逆だってよく聞く話です。
これが意味することは、幻想郷では私がいた世界とは全く道徳観やルールが違うということ他なりません。
そのこと自体は私だって前から気付いていたつもりでしたが、私の中の常識に囚われすぎていて解釈を間違って―――

いや、まさか。
私は、自分の心臓がものすごく高鳴っていることに気付きました。
つまりどういうことでしょうか?私がサニーちゃんに何をしたって、誰も私を咎めることはできないし、それは幻想郷で許されていることだから私も良心をいためる必要はないということですか?
つまり現実に、サニーちゃんに"あんな事"が出来るということですか?

私は布団の中で必死に考えました。
私に出来ることなのか、いつ、どこで、どうやってサニーちゃんにあんな事をするか。
勿論許されることだったとしても、誰にもバレないようにする必要もあります。
私は現人神という立場ですし、私の性癖を知っていい顔をする人なんているはずがありません。バレないに越したことはありません。
やっぱりサニーちゃんを捕まえるなら人目の付きにくい森の中ですかね。サニーちゃん自身の行動範囲も、森の中がメインでしょうし…。
こうやって考えれば考えるほど、計画に現実味が感じられてきます。
わたしは完全に興奮してしまって、眠ることが出来ませんでした。



次の日の朝になって私はいてもたっても居られなくなったので、日の出早々魔理沙さんの家に行きました。
「図書館に行きたいから連れて行ってほしい」と言うと、魔理沙さんは眠そうに目を擦りながらも出かける準備をしてくれました。
魔理沙さんは私の好みではありませんが、こういった面倒見の良さは嫌いじゃありません。
図書館に行くのも、昨日の夜考えた計画のひとつです。
まずは妖精の生態や特徴を知ることから始めた方がいいと思ったからです。
サニーちゃんを捕まえるときや、あんな事をする上でその情報が役に立つに違いありません。

「図書館に何しに行くんだよ」
「そりゃあ本を読みに行くんですよ」
「こんな早くからか…。別に私がいなくてもいいような気もするが」
「私、紅魔館にはまだ一回しか行ったことないですし、流石にひとりで通してもらう自信ないですよぉ」
「ああそうかい…」

そんな会話をしながら飛んでいると、目的の図書館のある紅魔館が見えてきました。
その門前に着くと、魔理沙さんは壁にもたれて寝ている門番の美鈴さんの肩を叩いて起こしました。

「むにゃ…あら、今日は早いですね」
「いや…早苗がなんかこんな時間から図書館に行きたいとか言うから…。ふぁ〜」

魔理沙さんが大きなあくびをしました。
私も少し非常識な時間に来てしまったとは思いますが、我慢できなかったのでしょうがありません。
美鈴さんに門を開けてもらい堂々と正面から紅魔館に入った私達は、まっすぐ図書館に向かいました。
図書館の中では、こんな朝早くだというのにパチュリーさんはもう椅子に座って本を読んでいます。

「パチュリ〜。早苗が本読みたいとか言ってるけどいいよな?」
「好きにしたら」

パチュリーさんは短くそういって私の顔を見ると、すぐ読んでる本の方へ視線を戻しました。陰気臭い女性ですが、顔は中々可愛いかもしれません。
私は早速目的の本を探すために本棚の森の中を探索しました。
調べたいのは妖精ですから、自然や生物関連の棚でしょうか?いやしかし、これは一体どういう整理の仕方になっているんでしょう?
ほとんどの本が日本語や英語ですらない上に、そのわずかながらの日本語の本もてんで整頓されているような位置ではありません。
料理の本のすぐ隣に、科学の本があるといった具合です。
私はあまりに困り果てたので、先ほどから本棚の森をちょこちょこ行ったり来たりしている赤い髪の司書さんらしき人に聞いてみました。

「あの、すいません。妖精の生態に関して書いてる本を探しているんですけど、どこにあるんでしょうか?」
「妖精に関する本ですか?ちょっと待っててくださいね」

司書さんはそう言うと、ささっと本棚の角を曲がって見えなくなりました。
背中や頭から悪魔みたいな羽を生やしていたので怖い人だったらとも思いましたが、優しい人で安心しました。
しばらくそのまま待っていると、司書さんが一冊の古そうな本を持って戻ってきました。

「日本語の本はこれしかなかったですけど…日本語でよかったですよね?」
「はい、ありがとうございます」

私はお礼を言って司書さんから本を受け取りました。
すぐそこにあった椅子に座ってから表紙を見てみると『お家で出来る妖精駆除』と書いてあります。
シロアリやネズミの駆除みたいなノリなんでしょうか?
私の求めていた本とは少し毛色が違う気もしましたが、中を読んでみると私が知りたかった妖精に関する基本的なことも書いてありました。
一部を列挙すると、妖精は死んでも数日程で復活すること。死んだ際、死体は消えること。
復活したとき、死んだときとその近辺の記憶を失っていること。などなど…、他にも妖精について事細かに書いてありました。
妖精は個体差が大きいのでこの性質に当てはまらないものもいる、という気持ち悪い一文も付いていましたが、とりあえずこれで私も妖精博士の仲間入りですね。
この本から得た知識を元に、本格的に計画を立てることにしましょう。
魔理沙さんはいつも平気で本を持って帰ってますが、図書館の本は原則持出し禁止らしいので、私は気になる内容を書き写してから司書さんに本をお返ししました。
目的も達成できたのでそろそろ帰ろうかと魔理沙さんのところに戻ると、パチュリーさんと一緒の机で本を読んでいました。
私に気付いて魔理沙さんが振り向きます。

「おう早苗。読みたかった本は見つかったのか?」
「はい。とりあえずやることは終わったのでそろそろ御暇しようかと思ってたところです」
「せっかく来たのにもう帰るのかよ。まあ好きにしたらいいけどよ」

私が連れて来ておいて言うのも何ですが、魔理沙さんはこんな空気の悪くてカビくさい場所に一日中いるつもりなんでしょうか?
私はパチュリーさんにもお礼を言ってから(パチュリーさんは小さく頷いただけでした)、魔理沙さんにさよならを言って紅魔館を後にしました。



家に帰ってからすぐに部屋に籠って計画を立てたかったですが、前のように神奈子様や諏訪子様に心配をかけるのも気がひけたので、逸る気持ちを抑えてなるべくいつも通りに振る舞うことにしました。
計画そのものはその日の内に立てることができました。

でもやはりというか、肝心の彼女達を見つけることは容易ではありませんでした。

次の日になって、とりあえず妖精のたくさんいそうな霧の湖近辺を探しましたが、見つかりませんでした。
2日目、魔法の森を探しましたが、広い上に見通しも悪いのでやはり見つかりませんでした。
3日目の今日、魔法の森は諦めて前に彼女達が現れた博麗神社近辺を捜索することにしました。
この辺りにはそもそも妖精がほとんどいないので、いればすぐに気付くことが出来そうですが…。

探し続けて昼過ぎ、森の上空を旋回していると、木々の少し開けた広場に白い服を着た妖精さんらしき人がこちらに背中を向けて座り込んでいるのを見つけました。
あの三日月みたいな形の透明な羽は、どこか見覚えがあります。
そっと後ろから近づいて確認してみると、間違いありません。あの日サニーちゃんと一緒に神社に来た白い服の妖精さんでした。
とうとう見つけました。直接サニーちゃんを見つけることが出来なかったのは残念ですが、この子から芋づる式にたどり着けるでしょう。
座り込んでいる白い服の妖精さんはどうやら地面に生えている山菜を採取しているようです。
妖精は物を食べなくても生きていけるはずですが、前のキノコの毒抜きの件といい、この子達は食い意地が張ってるようですねぇ。

「こんにちは」

まさかいきなり逃げたりしないでしょうし、普通に挨拶してみます。
私の声に白い服の妖精さんがびくっと肩を揺らして、慌ててこちらを振り向きました。
そのまま立ち上がって体をこちらに向けると、手に持っていたゼンマイのような山菜をサッと体の後ろに隠しました。

「え…あの…。こんにちは…」

おどおどと挨拶を返してくれました。
別に山菜取りをしてたところを見られただけで、そんなにビクつかなくてもいいと思うんですけど。
私が山菜保護連盟の役員か何かに見えるんでしょうか(そんなものがあるかは知りませんが)。
とりあえず普通に会話は出来そうなので、早速探りを入れてみることにします。

「今日はひとりなんですね。サニーちゃんたちはどうしたんですか?」
「へ?」

どうしてサニーたちを知ってるの?とでも言いたげに妖精さんは目を丸くしました。
博麗神社で一度私と会っていることは忘れてるみたいですね。
サニーちゃんの名前を出したおかげかは分からないですが、少し妖精さんの警戒心が薄れたような気がしました。

「えっと、今はサニーたちとは別行動で…晩御飯のおかずを探してるんです」

なるほど。たしかにそういう理由なら別行動の方が効率はいいでしょうね。
でもそうなると、サニーちゃんが今どこにいるのかこの子も把握してないでしょうから面倒ですね。
妖精さんは続けて言いました。

「あのそれで、私に何か用ですか?」
「それは置いといて、あなた、お名前は?」
「え、…ルナです」

ルナちゃんですか、可愛い名前ですね。
サニーちゃん目当てでしたが、よくよく見るとこの子も相当タイプかもしれません。
ルナちゃんは私の意図が分からないせいか、またビクついた表情になってきました。
そんないじめたくなるような表情しないでくださいよ。予定が狂っちゃいそうです。
仕方ないので、私が何の用があってルナちゃんに話しかけてるのか教えることにします。

「実はですね私、サニーちゃんに会いたいんですよ」
「え、サニーに?どうして?」

私はルナちゃんの質問を無視しました。

「それであなたにサニーちゃんが住んでるお家の場所を教えてほしいんですけど、知ってますよね?」
「どうしてサニーに会いたいんですか?」
「黙って私の質問に答えて下さい」

私はそう言ってから、しまったと思いました。あきらかに高圧的なこの言い方に、ルナちゃんの顔が引きつったからです。
やばい。逃げられるかもしれません。
私はルナちゃんが行動を起こす前に、飛び込むようにダッシュしてルナちゃんとの距離を詰めました。ルナちゃんが「ひっ!」と声をあげます。
突然のことにルナちゃんは体がすくんじゃったみたいです。我ながらいい判断でした。私はそのまま両手で、ルナちゃんの体を思いきり抱き締めました。

「逃げたら駄目ですよー」
「はっ、離してくださいっ!」

すでに涙目のルナちゃんが私の体を突っ張りながらバタバタともがきました。
離したら逃げちゃうでしょう?いや、でもこの体勢なら…
私が言われたとおりパッといきなり手を離すと、予想通りルナちゃんは勢いあまって仰向けに倒れてしまいました。

「いたっ…」

地面に背中を打ってルナちゃんが痛みで身をよじりました。
ああ、なんという光景。私のすぐ目の前で、ちっちゃくて可愛い女の子が仰向けで倒れています。
そのあまりに無防備な姿に、私の中の、サニーちゃんのためにとっておいた真っ黒な感情がドボドボと溢れてきました。
思わず周りを確認します。ルナちゃんと私以外誰もいません。
心臓から伝わってくるドキドキが、私の喉から飛び出してきそうでした。もう、我慢もその必要もありません。
私は右足を振り上げると、それでルナちゃんのお腹を踏みつけました。

「やだっ!ごめんなさいごめんなさい!」
「どうして謝るんですか?」
「ひっ…だって…」

一瞬にしてルナちゃんの目はこれまでにないほどの恐怖の色に染まっていました。本当に臆病な子なんですね。
そんなルナちゃんの顔を見ているだけで、私自身も顔がにやけてしまいました。
今まで十数年抑えるに抑えて妄想で済ませてきたことを、今現実に行っているのです。これが楽しくないわけがありません。
私は体の重心を前に移動させ、踏みつけている足にぐいっと体重をかけました。

「あがっ…!ぐるじいぃいい!!やめでぇ!!!」

ルナちゃんの小さな体に、私の足がめり込みます。私は声を上げて笑いたくなるのを必死に堪えました。
こんなに面白いことを今までやらなかったなんて、私はなんて馬鹿なんでしょうか。
本当に、楽しくて楽しくてたまらないです。
ずっとルナちゃんを踏みつけながらその反応を見ていたいです。
とはいっても、いつまでもこの子で楽しんでいる訳にはいきません。
ルナちゃんはあくまで前菜。本命のサニーちゃんにたどり着くための糧にすぎないのですから。
次のプランに、そろそろ移行しましょうか。
私はお腹にかけている体重を少し緩めました。するとルナちゃんの喘ぎ声は止み、ヒューヒューと呼吸を整える音が聞こえ始めました。
少し落ち着くのを待ってから、私は優しい声で聞きました。

「ルナちゃん、聞こえますよね?もう一度聞きますけど、サニーちゃんのお家はどこにあるんですか?」
「………」

だんまりですか。まあ私だってすぐに答えてくれるとは思っていません。
むしろあっさり答えちゃったら面白くないと思ってました。
私はゆっくりと、少しずつ、またお腹の上に体重を乗せ始めました。
途端にルナちゃんの顔が青くなりました。うふふ、これを何回かやったら、いずれは喋ってくれるでしょう。

「やだっ、やめて!言うから!!教えるからっ!」

と思ったら今度は予想外にあっさり折れちゃいました。そんなに苦しかったんでしょうか?拍子抜けです。
ルナちゃんは少し躊躇うように間を置いてから、続けて言いました。

「…霊夢さんの神社の…裏を少し進んだところ…に……大きな木があって……」
「その木がサニーちゃんのお家なんですね?」
「サニーの家というか…私達の家です……」
「一緒に住んでるんですか?えっと、あなたとサニーちゃんとあの青い服の子の3人で?」
「ぐすっ……はい……」

本には妖精は基本的に単独で行動して単独で生活するとありましたが、この子たちはそうではないみたいですね。
神社で見たときも本当に仲が良さそうでしたから、きっと素敵な仲間関係を築いているんでしょう。
住んでいる物に関しては本で読んだ通りしたが、風とか音とか訳の分からないものに住んでいる妖精もいるようだったので、とりあえず目に見えるものに住んでてくれて安心です。
ルナちゃんは多分嘘はついていないと思いますが、いかんせん説明が大雑把なので一応案内してもらうことにしましょう。
そういう意向を告げるとルナちゃんはまた少し顔を青くしましたが、抵抗しても無駄だと分かっているようで小さく頷いてくれました。



私達は森の中を、ルナちゃん達の家を目指して歩きました。

「いいですか?もし逃げたらひどいですよ」

右手でルナちゃんの透明な左羽を掴んでいるのでそう簡単には逃げられないと思いますが、一応念を押して言っておきます。
ルナちゃんが「はひっ…!」と裏返った声で返事をしました。逃げるつもりだったんでしょうか。
逃がすつもりはありませんが、逃げたところを追いかけるのもまた面白かったかもしれません。
しばらくそのまま歩いていると、突然ルナちゃんが足を止めました。

「どうしたんですか?」

私はそう聞きながらルナちゃんの目線を追うと、少し先の茂みの向こうに誰かの姿が見えました。
その誰かもこちらに気付いたようで、箒に跨ったままスイッとこちらに近づいてきました。

「早苗とルナじゃないか。なんだ、珍しい組み合わせだな」

あまり今会いたくない人に会ってしまいました。魔理沙さんです。
魔理沙さんは、観察するように私達をジロジロ見ながら言いました。

「そういや前に図書館で妖精駆除がどうのとかいう本を見てたらしいな。妖精に興味でもあるのか?」

それ以上余計なことを言うと口を縫いあわせますよ、魔理沙さん。
"妖精駆除"という単語に反応して、ルナちゃんがガタガタ震えながら私の方を見ました。
よくない状況です。ルナちゃんの様子を魔理沙さんが不審に思うでしょうし、そこに付け込んでルナちゃんが魔理沙さんに助けを求めたりしたらとても面倒です。
とりあえず会話を繋げて、策を練りつつその隙を与えないようにしましょう。

「私とルナちゃんはお友達なんですよ。今も一緒に山菜を探してたんです。ね?」
「え…?」

私は『話を合わせろ』という意思をこめて、ルナちゃんの背中のお肉を軽くつねりました。
ルナちゃんが「ひっ!」と短い悲鳴をあげたせいで魔理沙さんが怪訝な顔をしましたが、ルナちゃんはすぐそれを取り繕うように言いました。

「そ、そうなんです!」
「ふ〜ん。お前達がそんなに仲良かったとは、知らなかったなぁ」

魔理沙さんはどこか怪しんでいるような感じではありました。
でもとりあえずルナちゃんが私に話を合わせてくれたので一安心です。
この状況で魔理沙さんに助けを求められてたら私としてはどうしようもなかったんですが、その辺は妖精の頭の悪さに救われた感じでしょうか。

「山菜を探してるんなら私も手伝ってやろうか?いい場所知ってるぜ」

魔理沙さんがまた厄介なことを言いました。今は面倒見の良さが非常にうっとおしいです。
どうしましょうか。魔理沙さんを追い払う口実を考えましたが、言えば言うほど怪しまれそうです。
こうやって一緒にいる間にも、いつルナちゃんが魔理沙さんに助けを求めるかもわかりません。
もう強行突破することにしましょう。私はルナちゃんにこっそり耳打ちしました。

「走りますよ」

ルナちゃんは「えっ?」といった顔をしましたが、私は右手でルナちゃんの左手を引くと。魔理沙さんの横を騒然と走りぬけました。

「あっ、おい待てよ!」

後ろで魔理沙さんの声がします。私は振り返らず、木の間をぬって走り続けました。
ここは森の中ですから、30メートルも離れれば私達の姿は完全に見えなくなるはずです。
たまに右に。そして左に。目的地に近づけたかはわかりませんが、どうやら上手く撒くことはできたみたいです。
私は魔理沙さんが追いかけてきていないことを確認しながら、右手の座り込んでいるルナちゃんを見ました。
私の走る速さにルナちゃんは合わせられなかったようです。
走ってるときの右手の感覚からも分かりましたが、全身をひきずったり振り回されて体を木にぶつけたりしたんでしょう。
服は擦り切れたようにボロボロで、破れた袖口からは切り傷や打ち身が見えました。
羽も右側がちぎれてしまっています。これはもう飛べないかもしれないですね。いや、羽で飛んでいるならの話ですが。
もうちょっとルナちゃんのことを考えてあげたらよかった…とは思いませんが、走る前からこの結果を予想していたわけではなかったので、ちょっとびっくりしました。

「ルナちゃん、大丈夫ですか?」

私がそう聞くと、ルナちゃんは黙ったまま、少しうつむいて首をふるふる横に振りました。
泣いてはいませんでしたが、その気力すらないほど創痍な状態のようにも見えました。
しかしそれでは困りますよ。まだサニーちゃんのお家まで案内してもらってないのですから。
私はルナちゃんの腕を上に吊り上げるように引っ張り、無理矢理立たせようとしました。
そしてルナちゃんが立った姿勢になったので手の力を緩めましたが、ルナちゃんは「いぎっ」と声を上げてまたぺたりと座り込んでしまいました。
どうも様子がおかしいので、私はルナちゃんの白いスカートをめくってみました。

ああ、なるほど。右足がパンパンに腫れていますね。骨折しているんでしょう。
私もルナちゃんをずいぶん乱雑に扱ったとは思いますが、それでも妖精の体が脆いことを実感せざるを得ません。
私は面白そうだったので、ルナちゃんの骨折した部分を指で押してみました。

「ぎぃいいいぃい!!!」

ルナちゃんは歯を食いしばって、口の端からよだれを垂らしながら叫びました。
まあこうなりますよね。痛いに決まってます。

「またこうされたくなかったら、早くお家まで案内してくださいね。自分の足で歩くんですよ」

我ながらすごい酷いことを言っていると思います。
おぶって連れて行くことも考えましたが、それは今はやめておきます。
足を引きずって痛みを我慢しながら歩く健気なルナちゃんを見るのも、また一興でしょう。

私の言葉を聞いたルナちゃんは、細い木の幹を右手で握って体を支えながら、ゆっくりと立ち上がりました。
そして折れている右足に体重がかからないようしながらに、左足でけんけんするように少しずつ前進しだしました。
かなりの苦痛だと思うんですが、意外とすんなり言うことを聞いてくれましたね。
まあ最初の仕打ちで「言うことを聞かなかったらこの人は本当にやる」と思っているんでしょう。実際そうですし。

そう思っていたんですが、ほんの3メートルほど進んだところで、ルナちゃんが悲痛な声を上げました。

「いだい…無理ぃ…むりだよぉ……!」

あらら、やっぱりダメでしたか。
折れているのは右足だけとはいえ、体を支えている手や左足もアザだらけですからねぇ。
ルナちゃんは今はもう目にいっぱい涙を溜めて泣いていました。
最高に可愛い光景です。この状態で折れた足をつついたら、一体どうなるんでしょうか。

「無理なら無理でいいですけど、じゃあ約束通りまた足をつんつんしますね」
「やだ!やめて…!痛いんです…ほんとに痛いんです……!」
「だーめ」

私はかろうじて立っているルナちゃんに近づくと、つま先で折れた足を思い切りドスッと蹴りました。

「ぎゃあああ゙あああ゙あ゙あああ゙ああ!!!!!!!!!!」

こんな小さな体からこんな大きな声が出るんですね。すばらしい絶叫です。
ルナちゃんは受身も取らずそのまま崩れるように倒れました。
顔を見てみると白目を向いており、口から今度は泡の混じったよだれをたらたら溢しています。
これはさすがにやりすぎたかもしれません。口がきけなくなってしまったら、案内もできないじゃないですか。
少しばかり後悔しながら、私はルナちゃんの体をゆすりました。

「ルナちゃん、しっかりしっかり」
「………や…だ……。…たすけ…て…………」

良かった、まだ意識はあるようです。
これ以上は本当に歩けなさそうですし、しょうがないので私はルナちゃんの体を起こすと、お姫様だっこの要領で抱きかかえました。

「私がこんなことしてあげるなんて大サービスですよ。じゃあ、案内の方よろしくです」
「ぅ……」
「ほら、早く案内してください。またさっきのやってほしいんですか?」
「い…言うから…。ちゃんとするから…」

ルナちゃんはどうにか首だけを回して辺りを見回すと、少し間を置いてから「あっち…です」と弱々しく指をさしました。
私にはここがどこだかもさっぱり分かんないですけど、妖精は自分のテリトリーのことをちゃんと把握しているんですね。
ルナちゃんを抱いたまま、あっちと言われた方向に進み続けると、大して歩かない内に開けた場所に出ました。
森の中にぽっかりとある広場。その中央には、大きな木がありました。

「ここ…です…」

なんと、この大木がサニーちゃん達のお家ですか?
はへー、随分と大きく立派な木ですね。首が疲れるほどの高さに加えて、青々と茂る葉が大きな影を作っています。
雑魚妖精にはもったいないくらいの豪邸に違いありません。
といっても、本に書いてあった通り私にはただの木にしか見えませんが…。

「案内したから…もう許してください…」

私に抱かれているルナちゃんが、少しおそるおそるといった感じで言いました。
許すも何もルナちゃんは何も悪いことはしてないんですけどね。
ルナちゃんがこんなにボロボロになってるのも、こんなに泣いてるのも、悪いのは全部私なんですよ。
まあ誰が良いとか悪いとかなんて話はどーでもいいですけど。最高に無意味ですから。

私はルナちゃんの体をそっと地面に置きました。ルナちゃんがほんのり安堵した表情になります。
そして私が懐から一枚のお札を取り出すと、ルナちゃんの表情がすぐさま陰りました。
また何かするの?とでも思ったんでしょう。ええ、その通りですよ。
このお札はある意味この計画の要とも言えるものです。
例の『お家で出来る妖精駆除』の本に載ってたのをメモ書きまでして作ったものですから。
本来はサニーちゃん以外の妖精が邪魔だったり妨害してきたりしたときのために用意していたものでしたが、このままルナちゃんを解放してサニーちゃんに告げ口されると警戒されて困りますから、使っておきましょう。

まあ早い話、これは妖精を"殺す"お札です。

私はゆっくりと、そのお札をルナちゃんの胸に近づけました。

「ひっ…なっ、なんですかそれ…?」
「いいからじっとしててください」

私も実際にお札の効果を試したわけではありませんから、ちゃんと効くかどうか不安ではあります。
怯えたルナちゃんの胸に服の上からお札を貼り付けました。
貼り付けるとすぐに、お札は淡く緑色に光りだしました。一応本に書いてあった通りの挙動です。
でもこの先どうなるかは具体的には書いていませんでした。爆発でもしたら困るので少し離れます。
ルナちゃんは恐怖で歯をカチカチと言わせていました。体も小刻みに震えています。
…?いや、ちょっと様子がおかしいですよ?

「さ、寒い……」

寒い?歯を鳴らしていたのは恐怖からではなく寒かったからみたいです。

「ぁ…さむ…ぃ……ぁ…」

どうやらこれがお札の効果みたいです。
ルナちゃんはしばらく歯をカチカチいわせていましたが、それも次第に聞こえなくなってきました。
口も声を出さずパクパクとさせるだけになり、1分も経つ頃には全く動かなくなりました。
死んだんでしょうか?ためしに折れてる方の足を踏みつけてみましたが、ピクリとも動きませんでした。
目は眠ったように閉じていて、口は半分開けたままです。
体を触ってみるとまだ温かかったですが、心臓の鼓動や脈はありませんでした。
どうやらお札は上手く出来ていたみたいです。さすが私。
妖精は本来の死に方をすると死体は消えて転生しますから、こうやって死体が残っているのが何よりの成功の証です。

ルナちゃん、死んじゃったんですね。
ああ、さっきまで喋って、泣いて、温かかったモノが、今目の前で失われました。
私の気まぐれな行動が、この小さな可愛いらしい命を奪ったのです。
私の心にぽっかり穴が開いて、そこに幸せな液体が満たされていくような、なんともいえない気持ちになりました。
ルナちゃん、私、あなたのことは忘れません。あなたと過ごした幸せな時間は、永遠に私の宝物にします。

そんな感慨深いルナちゃんの死体を見ながら、私はいいことを思いつきました。
私は冷たくなっていくルナちゃんの死体を抱きかかえると、彼女達のお家である大木の根元まで行きました。
そこにルナちゃんの死体を木にもたれるように座らせて、ルナちゃんが見える位置の草むらに移動しじっと身を潜めました。
このまましばらく待つことにします。きっと面白いものが見れるはずです。


どのくらい待ったでしょうか。それほど長い時間ではなかったはずです。
誰かが来ました。
サニーちゃんとルナちゃんのお友達のもうひとりの妖精さんです。
青い服に黒い長い髪。頭にも青いリボンをつけています。
両手で大きなカボチャのようなものを抱えながら、よいしょよいしょとそれを運んでいます。
大木のすぐそばで足を止めました。ルナちゃんに気付いたようです。

「ルナ、何してるの?」

青い服の妖精さんはカボチャをどすんと地面に置くと、ルナちゃんの死体に歩み寄りました。
あひひ。たぶん今私の顔は、ものすごく醜く歪んで笑っているとおもいます。
無差別殺人の爆弾魔とかは、こういう気持ちなんでしょうかね。
あのルナちゃんの死体という爆弾がどう爆発するのか、楽しみで仕方が無いです。
青い服の妖精さんはルナちゃんの姿をよく見るなり、顔に両手を当てて驚きました。
私が引きずり回したりしたせいで服がボロボロだったり傷だらけだったりするので無理もないです。

「どうしたのルナッ!?しっかりして!」

そう言いながら妖精さんはルナちゃんの肩に触れて、すぐに手をひっこめました。多分冷たかったんでしょう。
そして妖精さんは振り向いてまっすぐこちらの方を見ました。
妖精さんが、急にこっちの方を見たのです。私の心臓がぴくんと跳ねました。

「そこにいるのは誰…?」

明らかに私がここにいることに気付いています。どうしてバレたんでしょうか。
結構距離はありますし、ちゃんと草で体は隠れていたはずですが。
バレたものは仕方ないので、私は潔く茂みから立ち上がって言いました。

「どうして私がいるのに気付いたんですか?」
「ルナの体がおかしいんですけど、あなたが何かしたんですか?」

この子も素直に質問に答えてくれないですね。どうも妖精相手にはQ&Aが成立しにくいようです。
まあルナちゃんがあんな状態になってて、そこから見える草むらに私がこうやって隠れてたら私が怪しいというのも至極当然ですけども。
ともかく、私がここに隠れているのがバレた原因が気になります。まさか勘とか言うんじゃないでしょうね。

「私の質問が先ですよ。どうしてここに私がいるのが分かったんですか」
「……私の能力で、生きとし生ける物の場所が分かるんです。でもルナはここにいるのに、いないんです」

そりゃ死んでますから…というツッコミよりも、驚きのほうが勝りました。
こんな雑魚妖精でも、そんなそれっぽい能力を持っているんですか?
本にも妖精は固有の能力を持っていることがあるとは書いてありましたが、例として載っていたのは小さな花を咲かせたりとか、虫の声を真似したりとかどうでもよさそうなものばかりでした。
そんな実用性のある能力を持っているなんて、ちょっと妖精を舐めてましたね。

「今度は私の質問の番ですよ。ルナに何をしたんですか!?」

お友達パワーでちょっと強気になってるのかもしれませんが、この妖精さんはルナちゃんと違ってあまりおどおどしていませんね。
しかも証拠もないのにもう私をルナちゃんをああした犯人だと決め付けています。
シラを切ることも考えましたが、別に私が犯人だとバレたところでたいした問題もなさそうなのでこのままいきましょう。

「いやあ、ごめんなさいね。ルナちゃんは私が殺しちゃいました」

私がこう言うと、青い服の妖精さんの顔が強張りました。
てへぺろポーズで冗談めかして言いましたが、妖精さんには冗談には聞こえなかったようです。
まあご自身の能力で本当に死んでいることは確認できているみたいですからね。

「で、でもなんで体が…」

その疑問も当然のものでしょう。さっきも言いましたが妖精は死んだら体は消えてしまいますから。
妖精さんは続けて言いました。

「妖精は、一回休み…いえ、死んじゃったら体は消えちゃうはずです!」
「知ってますよ。でもルナちゃんには特別な殺し方をしましたから」
「え、特別って…」

妖精さんの声がわずかに震えたのを私は聞き逃しませんでした。
本当はやっぱり私のことが怖いんですね。この妖精さんはああも強気でしたが、やはり妖精の本質は臆病です。
私は草むらから出て、妖精さんの方に歩み寄りました。
妖精さんは一歩だけ引きましたが、逃げたりはしませんでした。
ルナちゃんをこのまま放っておけないんでしょう。私もそういう気持ちがあるのを分かってたからこそ、こうやって堂々と近づいたわけですが。
私は妖精さんのほんの2メートルほどまで近づいてから言いました。

「あなた、お名前は?」
「ひぃ…!ス…スターです!スターサファイアです!」

この距離まで近づいたら、強気のメッキが完全に剥がれてしまいました。
やっぱり小さな子がこうやって怯える姿はとっても可愛いですね。さて、スターちゃんをどうしてくれましょう。

「あの…ルナは…」

スターちゃんがルナちゃんみたいにもじもじしながら言いました。
額も汗がびっしょりで髪が張り付いています。本当は逃げ出したくてたまらないんでしょう。
私は畳み掛けるように先ほどのお札を懐から取り出して言いました。

「よく聞いて下さいね。このお札の力でルナちゃんは完全に死んじゃいました。もう二度と復活しませんし、元に戻すこともできません」
「え?そ、そんなの…」

信じられない、とでも言おうとしたのでしょうか。でも状況的に信じてもらうしかないんですけど。
冷たくなったルナちゃんの死体が残っていることや、何よりこのお札がルナちゃんの胸に張り付いていることや…。
そう思っていると、スターちゃんが急にあらぬ方向を見ました。
何でしょうか。私もその方向を見てみると…ただ茂った森が見えるだけです。
しかし、枝を踏んだり草を掻き分けたりして誰かが近づいてくる音がたしかに聞こえます。
まさか今度はサニーちゃん?いや、魔理沙さんかもしれません。
魔理沙さんだったとしたら、さっきとは比べ物にならないほど面倒くさいことになります。
ルナちゃんの死体の存在もそうですが、スターちゃんは魔理沙さんに助けを求める公算大です。
急がなくてはいけません。とってももったいないですが、仕方ありません。
私は手に持っていたお札を、スターちゃんに投げつけました。
スターちゃんがぎょっとした表情をしました。お札はぱちっと胸に命中して、また淡い緑色に光りだしました。
スターちゃんはもうおしまいです。何もしないまま殺してしまうなんて本当にもったいないです。

「これ、ルナのっ…!やだっ!やだぁ!!」

スターちゃんは半狂乱になりながら必死でお札を剥がそうとしてました。そんなことしても勿論剥がれません。
その間に私は、音が近づいてくるのとは逆の方向の草むらに隠れます。
私が草むらに隠れてからすぐでした。
私が隠れているのとは反対側のほうから、魔理沙さんではなく、とうとうあの子が姿を現しました。
サニーちゃんです。可愛らしいツインテールのリボンがへにゃりと垂れているように見えました。
手ぶらですし、どうやら今晩のおかずを見つけることが出来なかったようです。
なんだ、とんだとりこし苦労でした。スターちゃんを殺してしまったのは早計でした。

「私が食事当番かぁ…」

なにやらぶつぶつ言っていますが、すぐに今は倒れているスターちゃんの存在に気付きました。

「スター?どしたの?」

サニーちゃんはとことこ駆け寄って、スターちゃんを抱き起こしました。

「さ…に……さむ……ぃ……」
「え、え、どうしたの!?しっかりして!」

ああ、サニーちゃん。こうやって見ているだけでも本当に可愛いです。
スターちゃんを心配するその表情も、明るいサニーちゃんとのギャップがあってたまらなくいいです。

「スター!スター!!」

サニーちゃんがスターちゃんの体を揺すりながら一生懸命呼びかけています。
スターちゃんはもう死んじゃったんでしょう。
しばらくはスターちゃんにそうやって呼びかけていましたが、少ししてからルナちゃんの死体にも気付きました。
スターちゃんはこれといった外傷はありませんが、ルナちゃんはボロボロの傷だらけです。

「ルナっ!!」

当然サニーちゃんはルナちゃんのほうに飛ぶように駆け寄りました。
そしてルナちゃんの体に触れて、スターちゃんと同じようにすぐ手を引きました。
冷たい体に触るのは初めてですか?サニーちゃん。
私も両親やおじいちゃんのお葬式で硬く冷たくなった体に触ったことはありますが、あまり気持ちのいいものではありませんよね。
サニーちゃんは先ほどの冷たさを確かめるように自分の手のひらを見つめ、またルナちゃんの方を見ました。

「…?」

そして、何かに気付いたようです。またルナちゃんの方へ手を伸ばしました。
あ、いけません。もしかしたら胸に貼り付いているお札に気付いたのかもしれません。
一度効果を発揮したお札がその効力を失っているかどうかを知らないので、そのお札を手に取ったサニーちゃんの命すら奪ってしまうかもしれません。

「ストップ!サニーちゃん!!」

私は草むらから飛び出して、サニーちゃんに呼びかけました。
サニーちゃんはひどく驚いたようで、ぺたんと尻餅をついてからこちらのほうを向きました。

「は、え?誰?」

サニーちゃんの大きくまん丸な目が私の姿を捉えます。
私はサニーちゃんのそばまで駆け寄って、ルナちゃんのとスターちゃんの胸のお札を剥がして回収しました。
こうやって手に取ったら分かりましたが、今はもうただの紙切れになっているみたいですね。
またまたとりこし苦労でしたが、万が一を考えると私の行動は間違ってはいません。
サニーちゃんが死んじゃったら、なんのためにここまで頑張ったのかわかんなくなっちゃいます。

サニーちゃんはいきなり現れた私のことや、胸に貼ってあったお札を剥がした意味がわからず、きょとんとしていました。
それも無理もないですが、そんな怪しい私になんとサニーちゃんは助けを求めてきました。

「ルナとスターが…私の友達がおかしいんです。死んじゃったみたいに冷たくなって…」

そりゃ死んでますから。って、さっきもこれ言いましたね。
それはそうと、サニーちゃんはきれいで可愛い声をしていますね。
ぜひぜひ、私の名前、呼んでほしいなぁ。

「サニーちゃん。私、早苗って言うんですけど、名前で呼んでくれますか?」
「へ?さ、早苗さん…?」

くううう!タマランチ!
あの夢にまで見たサニーちゃんに名前で呼んでもらえるなんて、たまらない幸福です。
私がもだえていると、サニーちゃんは私が逸らした話を元に戻しました。

「それで、ルナとスターが…」
「はいはい、この子達の様子がおかしいんでしょう?わかりますよ」
「2人ともどうしちゃったんですか!?病気だったら、治す薬とか教えてもらえませんか?」
「薬じゃ治りませんが、私なら治し方を知ってますよ。勿論タダじゃダメですけど」
「え?でも私、お金持ってない…」

サニーちゃんがしゅんっとしました。
ああ、サニーちゃん。お金なんていらないんですよ。サニーちゃんにはその可愛いお顔があるじゃないですか。
親父臭い言い方ですが、体で払ったらいいんです。

「しょうがないですね。じゃあ代わりに私の言うことを一日聞いてくれたら、二人を元に戻してあげますよ」
「ほ、ほんと?」
「ええ、嘘は言いません」

まあ嘘ですけど。
あのお札で死んだ妖精はどんなことをしても二度と復活しないので、本当にもうどうしようもありません。
サニーちゃんは間も置かず、すぐに返事をしました。

「わかった、何をすればいいの?」

素直ないい子ですね。
といったものの、何をさせましょうか。色々やらせたいことは考えてありますが、選択肢が多くて迷っちゃいますね。
と、その前に、スターちゃんのようにサニーちゃんにも特別な能力がないか確認しておきましょう。計画の幅が広がるかもしれません。

「じゃあサニーちゃん、あなたは何ができるんですか?スターちゃんみたいに能力とかないんですか?」
「え…その、光を屈折させたりとか…」

光を屈折?妖精のくせに難しい言葉を知ってますね。
平たく言うと光を曲げることができるということでしょうが、それが何になるというんでしょうか。いわゆる妖精特有のどうでもいい系の能力かもしれません。

「それで…姿を消したり」
「え、今なんて言いました?」
「光を曲げて、姿を消したりできます…」

な、な、なんと。姿を消すことができる?透明人間とは、人類共通の憧れですよ?にとりさんの工学迷彩ですら完全作ではないというのに。
いやでも、実際見てみるまでちょっと信じられません。

「じゃ、じゃあ、ちょっとやってみて下さい!」
「え?あ、はい」

サニーちゃんがそう言った直後、その姿がスウッと目の前から消えてしまいました。
慌てて手を伸ばして触れてみると、たしかにそこにサニーちゃんの体はありました。
私の手も一緒になって消えてるあたり、透明人間というよりは本当に光を屈折させて姿を消しているようです。
よ〜〜く見ると背景がわずかに歪んでいますが、こんなの知ってて且つすぐ近くじゃないとわかりっこありません。
私がもういいと言うと、すぐにサニーちゃんの姿が現れました。
恐るべきことです。こうやって間近で体感しても、やはり信じられません。妖精のくせにこんな素晴らしい能力を持っているなんて。
これは計画を大幅に書き変えないといけませんね。
サニーちゃんに色々する前に、この能力を使って面白いことができそうです。

「すごいじゃないですか!こんな能力あったら盗みも悪戯もやり放題ですよ!」
「あ、まあ、便利ですケド…」

サニーちゃんは少し照れくさそうに頭を掻きました。満更でもないみたいです。

「でも…姿を消して霊夢さんにも色々悪戯したことはありますけど、あまり上手くいったこともなくて…」
「そんなの能力の活用がなってないんですよ」

本当にそう思います。こんな能力があったら、その気になったら何だって出来ますよ。
ここはサニーちゃんの雪辱を果たす意味も込めて、私がお手本を見せてあげましょう。
ちょうどここから博麗神社はその屋根が見えるほど近いようですし、何よりあの可愛い霊夢さんが相手ならターゲットとして申し分ありません。

「じゃあ今から神社に行って私がお手本を見せてあげますよ。と、その前に…」

私はサニーちゃんの後ろに回りこむと、後ろからギュッと抱きしめました。

「わわわ!なんですかっ!?」
「こうやって密着してたほうが能力も使いやすいでしょう?」
「まあ…そうですけど…」

私が言った理由も勿論ありますが、本当は単にサニーちゃんを抱きしめたかっただけです。
サニーちゃんの髪から、石鹸みたいな匂いがします。妖精もちゃんとお風呂に入ってるんですね。
身だしなみも気にしてるサニーちゃん。やっぱり、妖精でも女の子ですね。

「で、でも、一旦ちょっと離してください。ルナとスターが…」

2人がどうかしたんですか?
…ああ、座った姿勢のルナちゃんはともかく、スターちゃんは地面に寝かしたまま放置してましたから、サニーちゃんはそれが気になるんでしょう。
仕方ないので一旦離してやると、サニーちゃんはスターちゃんのほうに駆け寄って、その体を担いで大木の方に運びました。

「スターの体も冷たくなってる…」
「大丈夫ですよ。後でちゃんと治してあげますから」
「うん…」

サニーちゃんは2人を家の中のベッドに寝かせたかったそうですが、私は家の中に入れないので治すとき不便だと言うと納得して、とりあえずスターちゃんもルナちゃんの隣に座らせておくことにしました。
その作業が終わってから、私は再びサニーちゃんを後ろから抱きました。温かくて、小さくて、抱き心地がいいですね。ドキドキします。

「うふふ、それじゃあ行きましょうか。そういえばどのくらい姿を消していられるんですか?」
「疲れるまでだったら、ずっと……」
「じゃあずっとでお願いします」

私はそう言ってから、博麗神社を目指して飛び立ちました。

「あの…どうやって2人を治すんですか?」

飛んでる間に、サニーちゃんが聞いてきました。
まあ気になるところでしょうし、適当に答えておいてあげます。

「最近妖精を石にする悪戯魔法が流行ってるんですよ。その対抗呪文のお札が、我守矢に伝わる秘術でのみ作ることができます」

超適当です。それでもサニーちゃんは納得したようで、「わかりました。そのときはよろしくお願いします」と丁寧な口調で言いました。
礼儀正しいですねサニーちゃんは。本当に非のつけどころがない良い子です。

神社を見下ろせる位置までいくと、境内に霊夢さんの姿はありませんでしたが、縁側に誰かが座っているのが確認できました。
少し下降してみると、それはあの吸血鬼のレミリアさんです。
退屈そうに足をぷらぷらさせて、何かを待っているかのようでした。霊夢さんは神社にいないんでしょうか?
もう少し近づく前に、一応確認をとっておきます。

「本当に今私達の姿は消えてるんですよね?」
「たぶん…。私の能力が通用しなかった相手もいますけど…」

そういうことを今になって言わないでください。
レミリアさんは一応吸血鬼という大妖怪ですから、考えようによっては妖精ごときの悪戯能力なんて通用しないかもしれません。
それでもまあ、現時点では何も悪さはしていないので、今能力が通用しなかったとしても問題はないと思いましょう。
私はおもいきって、境内に足がつくほどの高さまで一気に下降しました。目の前すぐにレミリアさんが座っています。
しかしレミリアさんは私達の存在に気付いている様子もなく、ふぁーっと呑気にあくびをしました。
よしよし、無能な吸血鬼で助かりました。

「(声は出さないで下さいね)」

私が超小音量の声でサニーちゃんの耳に言いました。サニーちゃんは黙って頷きます。
私は少し離れて地面に落ちている石を拾うと、ぽいっとレミリアさんの顔目掛けて投げました。

「あいたっ!」

石は額に命中したようで、レミリアさんがマヌケな声をあげました。
実はこれもまた確認作業のひとつでもあります。
ぼーっとしてるときじゃなく、ちょっと警戒心が上がった状態でも私達の姿が見えないかどうか…のです。

「そこにいるのは誰!?」

レミリアさんは私達がいる位置から3メートルほど離れた草むらを睨みつけました。
やっぱり私達のことには気付いていません。無理もないかもしれませんが、バカですね。
バカですけど、実は私、レミリアさんのことも結構気に入ってるんですよ。
容姿はちっちゃい女の子ですし、顔立ちも普通に可愛いですし、高慢でわがままですがそれが空振っちゃってる感じもまた可愛いですよね。
霊夢さんの前に、レミリアさんにも何か悪戯をしてあげたくなりました。
私がそんなことを考えている間にレミリアさんは縁側から立ち上がると、日の当たるのもお構いなしに境内に出て草むらの方へ近づきました。
吸血鬼は日の光が苦手なはずですが、少々日に当たるくらいなら平気みたいですね。

「誰もいない?おかしいわね……」

レミリアさんが草陰を覗きながら首をかしげました。
ここでわたしは、ピーンと閃きました。サニーちゃんの能力は、光を屈折させることができますが…。
私は小声で言いました。

「サニーちゃん。周りの光を一箇所に集めることって出来ますよね?」
「え?できると思いますけど…」
「じゃあここら一帯のありったけの光を集めて、レミリアさんに浴びせてください」

小学校の理科の実験でやった虫眼鏡で火をつけるの原理です。
ただの直射日光がある程度我慢できても、それを何倍にも濃縮したらどうなるでしょうか。
サニーちゃんは私の意図が読めないのか、よくわからないといった表情をしてましたが、光を集め始めました。
辺りが皆既日食のようにすうっと暗くなります。
レミリアさんも薄暗くなったことに気付いて不思議そうに辺りを見回しています。
次の瞬間、ボシュっという高温の鉄を水につけたときのような音と共に、レミリアさんの体が強烈に発光しました。
眩しくて何が起こってるのかさっぱりわかりません。これは予想以上の威力です。

「もういいです!ストップストップ!」

思わず普通の声で言ってしまいました。私がそう言うと、サニーちゃんは言われた通り光を集めるのをやめました。
ほんの数秒でしたが、一体どのぐらいの範囲の光を集めたんでしょうか。吸血鬼じゃなくても今のは相当やばそうな気がします。
まだ目にあの強烈な光の残像が残っていますが、少しずつレミリアさんの今の状態が把握できてきました。
まず体が2つに分かれています。
集中した光はお腹のあたりを直撃したようで、腰から下と胸から上が分かれて境内の地面に横たわっていました。
どちらの断面も黒く焦げたようになっており、今も血がボコボコとこぼれ煙をあげながらくすぶっています。
顔や腕などの露出していた肌は日照りが続いた田んぼのようにヒビ割れて、もはや元の可愛らしい面影はありませんでした。

「わ、私…」

サニーちゃんは自分の能力がこの結果を招いたことにとても驚いているようです。
しょせん妖精の頭ですから仕方ありませんが、もっと自分の能力の強さを自覚すべきですよ。
と言ってもこの結果は私も予想以上です。相性の問題もあるとはいえ、吸血鬼が妖精に負けてしまうなんて。

「レミリアー。できたわよ」

神社の中から声がして、霊夢さんが天ぷらか何かの乗ったお皿を持って現れました。いいタイミングです。
というか、霊夢さんいたんですね。レミリアさんにその天ぷらを振舞うために台所に引っ込んでただけだったようです。
ですがすぐにその天ぷらのお皿は床に落下して、パリンと割れてしまいました。

「っ!?どうしたの!?」

お皿を取り落とした霊夢さんは飛ぶようにレミリアさんの元に駆け寄ると、その凄惨たる光景に驚愕の表情をしました。
そして霊夢さんは血が付くことも構わずレミリアさんの上半身を抱きかかえて、急いで縁側の日陰に移動させました。
私達もその様子がよく見える場所に移動します。
その間もレミリアさんは目を薄く開いたまま、ぴくりとも動きませんでした。もしかしてもう死んでしまっているんでしょうか?

「レミリア、レミリアぁ…」

涙声になりながら霊夢さんがレミリアさんの体をゆすっています。
なんだかさっきのサニーちゃんの光景とダブりますが、いつも見ている霊夢さんのこの姿はまた違う新鮮さがありますね。
あんな顔の霊夢さん初めて見ます。命の危機というシチュエーションはやはり普段見れない感情を引き出してくれるようです。
霊夢さんは何か思い立ったように懐に手を入れて、いつも妖怪退治に使っているであろう針を取り出しました。
え、まさかレミリアさんにトドメを刺すつもりですか?と思いましたがさすがにそれはありませんでした。
霊夢さんは躊躇いなくそれを自分の手に刺すと、そこから零れた血をレミリアさんの口に垂らしました。
吸血鬼は人間の血を生きる糧にしているらしいですから、これは効果あるかもしれないですね。
良かったですねレミリアさん。霊夢さんの血なんて、こんなことでもないと一生飲めないですよ。

霊夢さんの身を削る看護もあってか、レミリアさんは大分回復したようでした。
胸から下の断面からの出血も止まり、肌のひび割れもなくなっています。やはり再生能力だけはピカイチですね。
霊夢さんの表情にも安堵の色が浮かびます。
霊夢さんにこれだけ思われているなんて、レミリアさんは幸せ者ですよ。私がそんな状況になっても、はたして同じくらい心配してくれるんでしょうか。
それでも、レミリアさんの意識はまだ戻らないようでした。

「萃香ー!紫ー!!」

霊夢さんが急に叫んだのでびっくりしました。
まあこの状況、誰かの助けはほしいですよね。医者や紅魔館の人を呼ぶにしても、このままレミリアさんを放っておくこともできませんし、この日中レミリアさんを抱いて運ぶのも難しそうです。
霊夢さんが名前を呼んでも、誰からも返事は返ってきませんでした。
幸い2人ともいないようです。鬼っ子の方はともかく、紫さんには私達の存在がバレる気がしてなりません。

「ごめんねレミリア、ちょっとだけ待ってて」

霊夢さんが意識があるかもわからないレミリアさんに言いました。
誰かを呼びに行くつもりみたいです。
このまま行かせると、帰ってくるのにも時間がかかるでしょうし、連れてきた人によっては悪戯がしにくくなるかもしれません。
私は周囲に目を走らせました。雨戸の脇に、竹製の物干し竿が何本か立てかけてあります。
うん、これで十分でしょう。
私はそれを2本手にとって、サニーちゃんにも1本渡しました。

「なんですかこれ?」
「物干し竿です」

サニーちゃんがそういう意味で聞いたのではないのは分かっていましたが、面倒ですしそれほど時間もないのでそう答えました。
私は物干し竿を握ったままサニーちゃんと一緒に霊夢さんに近づくと、今にも飛びたたんと境内に下りた霊夢さんの右肩あたりに、思い切り振り下ろしました。

「あがっ!?」

霊夢さんが地面にずっこけました。感触では骨までイッたかどうかわかりませんが、手ごたえありです。
霊夢さんはすぐに体を起こして、殴られた右肩を左手で押さえながら辺りを見渡しました。

「な、何?誰…?」

博麗の巫女の勘もたいしたことないですね。目の前にいますよ。
霊夢さんも攻撃態勢に入ろうとお札を取り出そうとしたので、その左腕にまた思い切り竿を振り下ろしました。

『バキッ』
「きゃああああああ!」

今度はあきらかに骨が折れた感触がしました。霊夢さんが悲鳴を上げます。
右肩と左腕がもう使えませんから、霊夢さんはもう抵抗の手段がありません。
私は地面に横たわる霊夢さんの体に、再び竿を打ち付けました。
そのたびに、霊夢さんが生々しく悲鳴をあげてくれます。
最高に興奮します。非現実的感がたまらないです。
いつも一緒にお茶を飲んでいる霊夢さんを、それこそ命の危険があるレベルで殴りつけているなんて。

「ほら、サニーちゃんも殴ってください」
「で、でも…」
「私の言うことが聞けないんですか?約束約束!」
「わ、わかりました」

サニーちゃんは少しよろけながら竿を振り上げると、パシンと霊夢さんの横腹を叩きました。

「うぐっ…」

悲鳴が弱いですね。パワーが足りないですよ。
私はこうやるんですと言わんばかりに、霊夢さんのふくらはぎ辺りに打ち下ろしました。

「いだい゙いい゙いいい!!!」

また骨が折れた感触がしました。
足も手も使えないんじゃ、もう霊夢さんはどうしようもありませんね。
そこをさらに追い討ちするように、殴ります、殴ります、殴ります!
そうやっても適当に殴り続けていると、サニーちゃんが私の袖を引きました。

「もうやめてあげようよ…霊夢さんが可哀想だよ…」

サニーちゃんはあれ以来一向に殴っていなかったので、そろそろそういうことを言ってくると思っていました。
サニーちゃんは優しいですね。後でちゅっちゅしてあげますよ。
まあ私だって殺すつもりはありません。殺してしまったら、それからずっと霊夢さんの反応が見れないじゃないですか。
霊夢さんは服の下からも出血しているようでした。
内臓あたりがやられてたら命の危険もあるかもしれませんが、その辺はあまり考えないようにしましょう。
博麗の巫女の無様な姿。私達の完全勝利ですよ、サニーちゃん。悪戯大成功です!

霊夢さんは今は浅く呼吸をしながら、ただじっとしていました。
顔も気付けば涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、たまに何かうわごとのようなことを言っています。
何を言っているのか気になったので、霊夢さんの口元に顔を近づけてみました。

「誰か…助けて…。まりさ……さなえ……」

うわぁ!今霊夢さん私の名前を言いましたよ!これは嬉しいです!
もっと頼りになりそうなアリスさんや紫さんじゃないあたり、同年代の人間の女の子にはそれなりに親近感があったのかもしれませんね。
いやあごめんなさいね、霊夢さん。犯人は私なんですけど、私のこと嫌いにならないでくださいね。

霊夢さんへの悪戯はこの辺にすることにして、私はサニーちゃんの竿も取り上げて地面に投げ捨てると、再びサニーちゃんを後ろから抱っこしました。
サニーちゃんは、ちょっと震えているようでした。
レミリアさんにせよ、霊夢さんにせよ、やっぱりやりすぎでしたかね?
まあサニーちゃんももうちょっと待っててください。やること終わったらちゃんとサニーちゃんにも"悪戯"してあげますからね。

私は靴のまま神社に上がって、たんすや戸棚のある畳の居間の部屋に行きました。
そして手当たりしだいに引き出しを引き抜いて、中のものをぶちまけました。

「え、え、なにしてるの?」
「一応強盗なり妖精なりの仕業に見せかけておくんですよ。そうしておけば私はまず疑われませんから。ほら、サニーちゃんも手伝って下さい」
「うん…」

サニーちゃんも戸棚を開けて、中の物を畳の上に置き始めました。
こうやって漁るのも中々楽しいですね。霊夢さんの着替えや、小物や、妖怪退治用の道具やら何やらから、なんともいえないリアルな生活感が漂ってきます。
おや、これはなんでしょう。いかにも高級そうな紫色の布に包まれたナニカを見つけました。
開いてみると、なんとお金です!
しかも結構な額ありますよ。これだけあったら1年間は遊んで暮らせそうです。
いつもお賽銭がどうのとか言ってましたが、お金もたくさん持ってるじゃないですか。
どうやってこのお金を作ったのか知りませんが、貰っておくことにしましょう。強盗を装うんなら、それが自然です。

「お金なんてどうするの?」

サニーちゃんがお馬鹿なことを言っています。どうするの?じゃないでしょう。
サニーちゃん自身がさっきお金が無くて困ったように、お金はあるに越したことはありません。
お洋服を買ったり、美味しいものを食べたり、使い道なんていくらでもあるんですよ。
それに、お金がなくなったときの霊夢さんがどんな反応をするのか楽しみでもあります。
私が何か料理でも作って持って行ってあげたら、泣いて喜ぶかもしれないですね。霊夢さんはかわいい可能性をいっぱい持っています。

思わぬ収穫もあったので、私はほくほく顔で先ほどの縁側に戻りました。
相変わらずレミリアさんも霊夢さんも横たわったままです。

「れ、霊夢…」

おっと、レミリアさんは意識を取り戻したようですよ。
下半身はありませんから、両腕を使って霊夢さんの倒れている方へと体の向きを変えました。
これアレですよ。なんか都市伝説か何かに出てくるテケテケの妖怪ですね。
そういう連想をするとなんだか可愛くありません。

「サニーちゃん、さっきの光を集めるやつ、もう一回レミリアさんにしてください」

私がそう言うと、サニーちゃんは首をぶんぶん振って拒否しました。この反応はちょっと予想してました。

「どうしたんですか。約束忘れたんですか?」
「だって…これ以上やったら本当に死んじゃいますよ…。それにもう夕方だから、力もそれほど強くないですし…」

力が弱まってるなら別にやったって構わないじゃないですか。断る言い訳が下手糞ですね。
でももう夕方だというのは注目すべきポイントです。
本当はもっと色々したかったですが、日が落ちる前に家に帰らないと夕飯の支度とかありますし、また神奈子様達に心配かけちゃいます。
そろそろお待ちかねのメインディッシュといきますか。

「そうですね、じゃあヤメときましょう。私もそろそろ帰らないと行けないので、ルナちゃんとスターちゃんも治してあげますよ」
「は、はい!ありがとうございます!」

サニーちゃんは本当に嬉しそうです。いやあ、この顔がこの後どういう風に歪むかと思うとわくわくしますね。
私達は例の大木に戻るために飛び立ちました。

「霊夢さん放っておいても大丈夫でしょうか…?」
「レミリアさんの意識は戻ってるみたいでしたから、きっと大丈夫ですよ」

また適当に答えておきます。
それでもやはりサニーちゃんは納得したようでした。今はそれよりもあの2人が治ることで頭がいっぱいなんでしょう。

あっという間に大木まで戻ると、サニーちゃんは今か今かと2人の死体の横に立って待ち構えました。
うーん、どういう風にサニーちゃんに伝えましょうか。オーソドックスに行くのが無難ですかね。
私は醜い笑顔になるのを必死で堪え、微笑みながら中腰になってサニーちゃんに言いました。

「実はですね、サニーちゃん。2人を元に戻せるって言ったの、アレ全部嘘なんですよ」
「え?」

サニーちゃんは私が何を言っているのかわからないといった表情をしました。
もう少し分かりやすく言ってあげます。

「ルナちゃんとスターちゃんには、もう二度と会えません。サニーちゃんはこれからずっと、ひとりで生きていくんですよ」

私は満面の笑みでサニーちゃんにそういいました。
そう言われてもサニーちゃんはしばらくぽかんとしてましたが、だんだんとその目じりに光るものがあふれてきました。

「嘘だよ、ちゃんと言うこと聞いたよ?約束したじゃないですか」
「うん、そうですね。でも全部嘘なんですよ、ごめんなさいね。というより…」

私は先ほどの使ったお札と、まだ使ってない新品のお札を取り出して見せました。

「ルナちゃんとスターちゃんをああした犯人は私なんですよ。このお札を使われた妖精は死んじゃうんです」
「……」
「もう二度と復活もしないですし、生き返ることも絶対ありません。一緒にお話したり遊んだりは、残念ですがもう出来ないんですよ」

私がそう言い切ると、サニーちゃんの目じりにもっと涙が溜まってきました。
私の全身を痺れるような快感が走ります。サニーちゃんの希望や幸福を全力で踏みにじっているこの瞬間、たまりません。

「やだっ…やだよ。約束だよ…2人を元に戻してよぉ…」

意味を理解したサニーちゃんが涙声で私の服を引っ張りました。
なんという可愛さ。なんという幸せ。
私が犯人だと言ったにもかかわらず、サニーちゃんは怒りの感情もつゆとも出しません。
ただただ、2人を元に戻してほしいと懇願しました。

「お願いだから…何でもするから…」

サニーちゃんの大きくて可愛らしい両目からとうとうぽろぽろと涙が零れました。
本当に2人のことが大好きだったんですね。でも、その2人にはもうずっと会えません。
勿論サニーちゃん自身にはこのお札を使う予定はありません。
ずっと3人一緒だったのに、急にひとりぼっち。これからサニーちゃんはどんな気持ちで生きていくのか、それも気になりますから。
でも、ここらで少しだけ希望の糸を下ろしてみます。かなり悪趣味な糸です。

「本当に何でもするんですか?」
「はい…だから…」
「じゃあ何かナイフ…、果物ナイフでもいいですから、持ってきてもらえますか?」
「え、は、はい…」

ナイフという単語にサニーちゃんはギクリとしましたが、当然ここは素直に言うことは聞いてきます。
サニーちゃんは大木の中に溶け込むように(私にそう見えただけですが)入っていって、ナイフを持ってまた戻ってきました。

「あの…これ」
「私には渡さなくていいですよ。そのナイフで自分の目を刺してください」
「え?」

私自身もこんな言葉を口に出来る日が来るなんて思っていませんでした。
サニーちゃんはまたきょとんとしています。

「あの…なんて…?」
「自分の目を刺してくださいと言ったんです」

サニーちゃんが泣き顔になりました。
が、これだけ過酷な要求にもかかわらず、サニーちゃんは涙声ながらも言いました。

「やったら本当に2人を元に戻してくれますか…?」
「戻します戻します」

サニーちゃんは一途に私のことを信じているのに、私は最低の人間ですね。さっきから嘘しか言っていません。
それにしてもいい度胸ですね。まあ実際にやるまでは分かりませんが。
サニーちゃんはナイフを両手で逆手に持つと、ゆっくりと自身の左目に近づけていきました。
しかし残り2センチほどのところで止まり、そこから一向に進まなくなりました。

「うぃ…ひっぐ…。こわいよぉ……」

そのままの姿勢で泣き出すサニーちゃん。可愛いですが、時間は押してるんですよね。
1分ほど待ってもそのままだったので、しょうがないから手助けしてあげることにします。

「あと10秒以内にやらなかったら2人はずっとあのままですよ」

そんな…といった顔でサニーちゃんがこちらを見ましたが、私が「9、8、7」とカウントをとると、残り5秒のあたりでサニーちゃんが勇気を出しました。

「ぎぃぃいい゙ぃい゙い゙い゙!!!」

おお、本当にやりました。ナイフは左の眼球に2センチほど突き刺さっているようです。
妖精なんで後遺症的なことはあまり考えなくてもいいのかもしれませんが、それでも自分の目に刃物を差すなんて早々できることではありません。
この勇気は素直にほめてあげましょう。偉いですよ、サニーちゃん。

「や゙り…ました…」

サニーちゃんがナイフを引き抜いて言いました。
左目は瞑っているためどうなっているかよくわかりませんが、文字通り血の涙を流しています。

「よくできました。それじゃあ右目もがんばってくださいね」
「え…」
「あれ?私片目だけだなんて言ってないですよ?当然両目ですよ」
「もうやだぁ…お願いです…許してください……」
「10、9、8、7…」
「ひっ…やだっ!やめて!やめてよぉ…!」

サニーちゃんがまた私の服を引っ張りましたが、私は無視してカウントを続けました。

「5、4、3…」

ほら、時間がないですよサニーちゃん。急いで急いで。
サニーちゃんは慌ててまたナイフを逆手に持って右目に刃先を合わせました。
私がゼロと言うのと同時くらいに、サニーちゃんは右目にもナイフを突き刺しました。

「いだいぃぃぃい゙い!!!」
「はいタイムアーップ」

私はサニーちゃんの悲鳴にかぶせるように言いました。
厳密には間に合っていたかどうかはわかりませんが、アウトということにしといたほうが面白そうです。

「これ…で……やくそく…」
「聞こえませんでした?タイムアップですよ。時間切れです」
「そんなの…ひどい、ひどいよぉ!ちゃんとやったのに…!」

サニーちゃんが両目から血の涙を流しながら悲痛な声色で言いました。
サニーちゃんがどんどん壊れて行きます。もっともっと壊しましょう。

「まあタイムアップというのは冗談ですよ」
「じゃあ…」
「無駄な努力お疲れ様でした。最初に言ったじゃないですか。もう元に戻せないって」
「ぁ…う…」
「私自身が救いたくてももう無理なんですよ。ルナちゃんとスターちゃんは、何をしようがずっとあのままです」
「ひどい…ひどいよ…あ、あ゙あ゙ああ゙あ゙あ゙ああ゙あ゙あ゙ー!!」

もう反論もせずサニーちゃんは大声で泣き出しちゃいました。
精神はもう完全に崩壊しちゃったみたいです。
私はサニーちゃんが変な気を起こす前にナイフを取り上げてから、サニーちゃんを突き飛ばして押し倒しました。
もうサニーちゃんは大した反応もしません。
ここからが本当のメインディッシュ。夢にまでみた、本当の行為です。
私はナイフを握った腕を、サニーちゃんのお腹辺りに振り下ろしました。
初めてのナイフを刺すときの感覚は、"グサッ"というよりは"ぬるっ"とした感じでした。
刺した瞬間も、思ったより血は出てきません。
しかしそのナイフを引き抜いたら、ぶわっとサニーちゃんの白いブラウスが赤く染まりました。

「ぎゃあああああああああ!!!」

サニーちゃんが、らしからぬ声で絶叫します。
私の興奮も最高潮に達しました。目の前がくらくらチカチカして、まるで夢の中にいるみたいです。
私はサニーちゃんの服を破いて剥ぐと、今度は横腹の辺りにナイフを入れて、横一文字に反対側の横腹まで割裂きました。
サニーちゃんが先ほどよりもひどい声で絶叫しました。
傷口からはぶしゅっと音がして、腸か何かの内臓がぼろんと飛び出して来ました。同時にすさまじい量の血が噴出し、私の服も真っ赤に染めます。
まさにグロの具現。画面は真っ赤っかです。

「うっ」

私の声です。
ここまで来て信じられないことに、なんだか猛烈に気持ち悪いという感情が沸き起こってきました。
写真や絵だと全然平気だったんですが、実際にこういうものに触っているとひどい血の臭いとか肉の感触とかが伝わってきて、すごい吐き気がしてきます。
グロ耐性あると思ってたんですが、現実だとそうはいかなかったですね…。
まだまだ私も青二才でした。こういったベリーハードな方法は、私には向いていなかったようです。
私は一旦離れて深呼吸をした後、サニーちゃんのところに戻りました。
サニーちゃんは血の流れる目を閉じて、わずかに胸を上下させています。
ばっくりぼろんと開いたお腹からものすごい量の失血もしていますから、もう長くはないでしょう。
このまま放っておいても死ぬでしょうが、最後は私の手でトドメを刺したいと思います。

私はナイフの先をサニーちゃんの首に定めました。
このまま突き下せば、サニーちゃんは間違いなく即死するでしょう。
さよなら、サニーちゃん。妖精が本来の死に方をするだけなので、一回休みで済みますけどね。

しかし手に力を込めようとしますが、いつまでたってもナイフはサニーちゃんの首に刺さりませんでした。
刺せない。私の体が、最後の一突きを拒絶していました。
視界がじんわりと歪んできます。私は泣いているようです。
何故?今更ナイフを一突きするくらい、ここまでやってきた行為と比べたらどうということはないはずですが。
直接命を奪う行為…。お札を貼り付けることだってそうですが、この人間を殺めるのと同じ方法だからこそ、体が生理的に反応しているのかもしれません。
私の中の善の心の存在。
私はこんな趣味を持ってこそいますが、お父さんやお母さん、神奈子様や諏訪子様に愛されて育てられてきました。
困ってる人を助けたいと思うことだってありますし、救える命を救いたいと思うことだってあります。
それです。そのごく普通の感情が、この涙の原因に違いありません。

でも、ここまでやってきたことに後悔はしていません。
今幸せなのか、悲しいのか、自分でもわかりません。
ただ、とても珍しい感情にめぐりあっているというこの瞬間は、たまらなく貴重であると実感できました。

「…さ…な……ぇ……」

サニーちゃんが聞き取れるかどうかといった声で漏らしました。私の名前、覚えててくれたんですね…。
…刺しましょう。どうせこのまま放っておいたって、死ぬんですから。
ケジメという言葉はあまり好きではありませんが、この刺すという行為には、それに近いものがある気がしました。

私はナイフを持った手を、強い意志をもって突き下ろしました。
今度は何の障害もありませんでした。ナイフはすんなりと、サニーちゃんの喉に食い込みました。

「がっ…」

サニーちゃんの口から最後の音が出ました。
その後、すぐにサニーちゃんの体がだんだんと薄くなっていきます。
これが妖精本来の死ぬ瞬間なんですね。私の服についていた血も、サニーちゃんの体が消えて行くにつれて薄くなってきました。
涙を拭いました。私らしくもないセンチな気分です。でも、達成感もありました。
私が涙を拭い終わった頃には、サニーちゃんの姿はもうありませんでした。





家に帰ってから私は出来るだけ普通に振舞おうとしましたが、やはりというか無理でした。
ご飯は喉を通らないし、心ここにあらずといった感じになってしまいマトモにお話もできません。

「早苗、本当に最近大丈夫かい?」
「今度こそお医者さんに診てもらおうよ」

神奈子様と諏訪子様が心配そうに言います。
私はお礼を言ってから、ただの風邪だから寝たら治りますと誤魔化して部屋に戻りました。

私は布団の中に潜り込んで今日あったことを舐めるように思い出しながら、ある期待をしていました。
それは妖精は死ぬと、死ぬ前の記憶を一部失うということです。
どの程度忘れてくれるのかは分かりませんが、サニーちゃんが私と会ったことも忘れてくれたらこれほど都合のいいことはありません。
そんなことを気にしていたら、やはりその日も眠れませんでした。
こんな調子じゃ、不眠症で本当に体調を崩してしまうかもしれませんね。




次の日の朝になって、私はすぐにサニーちゃんのお家に行きました。
妖精は早ければ一日で復活するので、もしかしたらもうサニーちゃんも復活しているかもしれません。
例の大木まで行くと、相変わらずあるルナちゃんとスターちゃんの死体の前に誰か居ました。
他でもないサニーちゃんです。
ああ、サニーちゃん!サニーちゃん!!!
昨日の今日ですので、こうやって元気な体のサニーちゃんを見ると胸に来るものがあります。
目も体もちゃんと治っているようですね。それよりも問題は記憶です。

「おはようございます」

私が笑顔で後ろから挨拶すると、サニーちゃんはゆっくりとこちらを振り向きました。
目には涙が溜まっています。

「誰ですか…?」

私はあまりの愉快さにまた汚い笑顔をしてしまうところでした。

サニーちゃんは完全に私のことを忘れています。

うふっ…あはは…!笑いが堪えきれません。昨日のセンチな気分などもうどこにもありません。
またサニーちゃんに色々できる。それだけで、私の中にまたドス黒い感情がドロドロ沸き起こってきました。
もう私はどうしようもないですね。善の心?そんなものなんてありません。糞くらえです。

「あの…なんか私一回休みになってて、戻ってきたらルナとスターの様子がおかしいんです…!」

うんうん分かりますよサニーちゃん。
あと何回この台詞を言うことが出来るんでしょうか。私は満面の笑みを湛えながら、言いました。

「私の言うことを聞いてくれたら、二人を治してあげますよ」




END



みんなもっとサニーちゃんの魅力に気付くべき。え、早苗がメイン?知らんな。

4/7 誤字とか修正&追記
これほど理不尽というか不条理な内容だったにもかかわらず、好意的なたくさんのコメント、ありがとうございます。
サニー、ルナ、スター、早苗、霊夢、レミリア。誰にせよ"(可哀想だけど)かわいい"という部分を感じ取っていただけたのなら、これほど嬉しいことはありません。
話がまとまりそうならそれとなく続編も考えています。
次のSS投下がいつになるかは分かりませんが、そのときも読んでくれたら…うれしいな!
紅魚群
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/04/03 21:59:37
更新日時:
2012/04/07 06:05:39
分類
早苗
サニー
ルナ
スター
霊夢
レミリア
グロ
1. NutsIn先任曹長 ■2012/04/04 13:08:04
昼飯がまずくなるほどの、早苗のゲスっぷりでした。

早苗が霊夢にやったことって、『平時にしょっちゅうやられている、生命の危険が無い事』ですよね。だから勘も働かなかったと。
それをやったヤツがどうなったか、サニーから聞いてないですよね〜。

周りに指紋をベタベタ残して、おまけにレミリアや霊夢を半死半生の目に遭わせ、霊夢の金を盗むという大罪を犯したんですから、
早苗が今後どうなるか、楽しみです。
2. 名無し ■2012/04/04 17:32:42
久々でも相変わらずの面白さでした。
氏の霊夢とレミリアのコンビが何気に好きです。
3. んh ■2012/04/04 19:53:34
この早苗懐かしい。でもまだ底に沈みきってない感じがちょっと新鮮でした
ルナちゃんの死体ください
4. 名無し ■2012/04/04 22:51:08
久々に平常運転の早苗を見た。右拳が熱くなるな。
5. 糞団子 ■2012/04/04 23:42:01
この後早苗はレミリアと霊夢にぶっ殺されるんですね。
こういう作品みるとどうしても被害者助けてはあげたくなる俺はまだまだ未熟です。
6. 名無し ■2012/04/05 00:57:25
長かったけどすんなり読めた
すごいの一言
7. 名無し ■2012/04/05 04:06:07
これから早苗がサニーとどれだけ戯れようと
もうルナとスターは笑わない、泣かない
もう皆とは一緒にはいられないんだ
俺はそれが悲しいよ…


ああ、あとレミリアさん
いきなり太陽光線で腹をぶち抜かれて御愁傷様です
8. 名無し ■2012/04/05 11:15:57
サニーはかわいいから仕方ないね。とは言い切れないほどのこのゲスさ、最低だ。素晴らしい。
設定的にあれ?という所はありますけど、ゲスさが全てを上回ってます。
サニーの今後が見てみたいですね。
9. 名無し ■2012/04/05 16:27:05
霊夢がかわいくてかわいくてしょうがない!! レミリアに血を飲ませてやるシーンは俺の霊夢像にピタリだなあ。
早苗がひでぇように見えるけど、本編でも妖精は普通にやばい悪戯するし魔理沙あたりは妖精使って霊夢にちょっかいだしてたし
幻想郷の感覚に染まっただけのことなんだろうな。まあ、簡単につぶされないように頑張ってほしいものだ。
10. おにく ■2012/04/06 07:03:26
やっぱり早苗さんはすごい。
神に近い。
11. box ■2012/04/06 16:15:08
早苗がすがすがしいほどにクズで、抱きしめてやりたくなったのは私だけ?
12. あらあら ■2012/04/07 00:11:08
早苗エグイわー。
サニー騙して蹂躙するトコなんかもうね…。
氏の想像力・表現力なんでしょうね、恐ろしす。
あと、最後いい〆だと思います。
このあと早苗が飽きるまでいろいろなバリエーションで蹂躙されるのが容易に思い浮かぶ…。

イカレてる中にも心の葛藤があるのはなかなか興味深いところです。
13. 名無し ■2012/04/07 14:41:43
サニーはもちろん、早苗さん含めた全キャラのアクションがかわいかったです
早苗さんがただのゲスってわけじゃなくて、それを自覚しつつも肉親への情や普通の感性も持ち合わせていたのがいいですね(強盗したけど)
性癖さえなければ…っていうのは異常性癖持ってる人特有の悩みなんでしょうか。誰にも相談なんてできないでしょうし。
そりゃこんな格好の的がいたらやっちゃうよなぁ…しかも無限ループなんておいしすぎる

個人的にこの早苗さんの前向きさ加減が好きなので、続編があるのなら振り切っちゃった早苗さんによる業の深いプレイをお願いしたい
14. 名無し ■2012/04/07 14:44:18
お久しぶりです。紅魚群さんはもう来ないんだと半ば諦めていた所でした。
やっぱり読みやすくて、早苗さんがゲ早苗なのが最高でした!
共感できる悪役って難しいんですよね…。
15. 名無し ■2012/04/08 00:34:38
純粋にキャラを愛していないとこれほどの作品は生み出せないでしょうね。
久しぶりに紅魚群さんの作品を読んだら自分も何か書きたくなりました。
産廃作品に共通しているのは、愛の表現法としての暴力や陵辱だと思います。

自分も、本当に好きなキャラだったら、幸せや笑顔を願うだけでは足りないんですよ。
泣き顔や怒った顔、恐怖、嫌悪、絶望に歪んだ表情すらも欲しくなる。
次第に腐敗していくルナとスターを眺めるサニーちゃんを想像すると興奮しますね。
16. 名無し ■2012/04/09 11:24:43
最初は、妖精をいじめるだけ(実際これは幻想郷においてはなんの罪にもあたらない)のつもりが
だんだん霊夢とかレミリアとか、手出ししたらヤバイ連中にも手が及んでいくあたりがリアル。
こんな風にして引き返せなくなっていくんだろうなー、って思いました。
ラストシーンの早苗は、自分の末路が近いことを感じながらももはや引き返せないという感じで、切ないものを感じました。彼女の行く末に(産廃的な意味で)幸あれ。
17. 名無し ■2013/02/04 18:41:17
さなえに助けを求める霊夢にグッときた
この早苗は人間じゃない
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