交換

作品集: 30 投稿日時: 2012/06/01 09:30:56 更新日時: 2012/06/01 09:33:47
ぺらり。

頁をめくる。

ぺらり。

乾いた紙の音。

私の手にある一冊の雑誌。開かれたそこには、色鮮やかな洋服を着た美しい女性たち。ぺらり。またぺらり。繰っても繰っても。満面の笑顔でポーズをとる女性たち。思わず小さく溜め息が漏れる。

私、犬走椛は悩んでいる。

皆さんは犬走椛、と聞いてどんな私を想像するだろうか。
銀糸、または白糸が美しく靡き、愛らしい獣の耳がぴょこりと顔を出している。真っ白な肌。節々がほんのり赤く色づき、細い身体を美しく魅せる。
そんな、私?
ぱっちりと開いた瞳を長い睫毛が縁取り、整った眉がきりっと力強く自己主張して。小さいながらも形の良い胸は女らしさを感じさせる。
そんな、私?

ぺらり。
この雑誌は読み終えてしまった。
そもそもファッション雑誌なんて、どこから流通してきたのだろうか。雑誌のなかの、小さく折り目がついたページをもう一度開く。小柄で愛らしい女性が、花柄のワンピースを着て立っている。白い生地に小さくまぶされた薄桃色の花がかわいい。長い黒髪の上に申し訳なさげに佇む麦藁帽子。きっちりと、まるで彼女のために誂えたように。似合っている。可愛い。私もこんな服が着てみたい。
なんて
私はモデルさんとは違いすぎる。わかっている。だから、言わない。出さない。言わない。


私、犬走椛は、全盛期以降、すっかり駄目な女になり下がっていた。まず容姿から簡潔に言うと、体重は25キロ近く増え、肌は荒れ、にきびがたくさん出来た。日に焼けた変に褐色がかった肌では白髪は余りに浮いてしまい、染めようとして失敗。髪は痛みぼそぼそ。傷みきって、さらに増えっぱなし。腹や頬、顎、尻、二の腕や太股。あらゆる場所にたっぷりと脂肪がつき、腫れたまぶたはかつてのそれとは余りに違う。そんな自分の身体を見るのが嫌で、風呂に入らなくなった。前回入ったのは3週間前くらいだろうか。頭を掻く。耽がびっしりと爪の間に入り込み、指先が脂でてかりと鈍く光る。べったりとした髪質。指で梳くと何本もの髪が纏わりついて抜ける。身体中が酷くべたついている。手を擦り合わせると粘度の高い垢がぽろぽろと落ちる。きたない。きたない。汚いのはわかっている。ああもしかしたら。もしかしたらというより、だいぶ高い確率で。身体を見たくないから、という理由よりも、面倒だから、が勝っているかもしれない。いや、勝っている。面倒だ。
不潔だとわかっていても面倒で身体が動かない。そんな状態。
外には出ない。掃除もしない。ただ毎日こうして、雑誌を見たり眠ったり、また雑誌を見たり。はたてが読み終わったのをたくさんくれるから、切れることはまずない。こうして毎日、一日を過ごして。


指先を見る。
歪に伸びた爪。間には垢や耽。
指を見る。関節の太い焼けた指。引きこもりなのに白くない。意味が分からない。
腕を見る。太い、濃い毛が生えている。もはや女の肌とは言えない。
胸を見る。膨らまず、そのくせ胸板は厚い。下着が合っていないのか、形が左右若干違う。なんだこれ。変な筋肉で固いし。
くびれを見る。くびれなんか無えよ。
腹を見る。汚い。産毛がたくさん。脂でてかてか。ブツブツ。
脚をー、

これ以上見たくなくてやめる。

溜息。

本当は。
スタイルが良かったら。可愛かったら。
この銀色の髪を美しく伸ばして、竹林の彼女のようなロングヘアを堪能したい。毎日ふりふりの、そうだなあ、紅魔館の主が着るようなドレスを着てお洒落したい。歌う小鳥のように、なにか自分の店を持ってみたりするのも憧れる。
そして何より。
彼女のように、誰よりも速く、高く。


飛び回りたい。飛びたい。誰よりも高く。



「あややー?」



びくり、と身体が強張る。いつしか私は彼女を避けるようになって。彼女と向き合うのを恐れている。
部屋にこもりきりだから、彼女の姿は長らく見ていない。ただ、声がきこえるだけで。私は駄目なんだ。

「はたて、居ないんですか?っと、おっかしーですねえ、」
独り言だろうか。戸が開いたり閉じたりする音。


あれ。


その時、ふと私の中に浮かぶものがあった。


今日の、彼女の服は。何を着ているのか。
雑誌を読んでいたせいか。何故だか異常に興味が湧いてくる。普段は視界に入れたくないほどに思う彼女。今、どんな格好をしているの?いつもの洋服?部屋着のスウェット?それともジャージ?余所行きのワンピース……いろいろな服を着た彼女が頭の中でくるくる踊る。見たい。知りたい。見たい。頭がぼうっとしてきて、徐に立ち上がる。一歩。また一歩。はたての部屋に行く以外に部屋を出ない私の脚は、筋肉は無い……のに、脂肪で無駄に丸い。

扉の前に立つ。 手をかけて、押す。頭の中がなんにもない。すんなりと、扉は開いた。
彼女が、いない。くるりと方向を変えてみる。いた。こちらを見ている。只でさえ大きな瞳がさらに見開かれて、こちらを向いている。

「椛、あ、えっと…ただいま」





















あ、



白い、花柄のワンピース。




















「あや、さま。」

わ、声、出る。暫く出してなかったから、もう出ないんじゃないかと思った。喉に手を添えて、「あ、あー、」と発声練習。夢中になって繰り返して、気付いた。いけないいけない。早くはじめないと。

「あや、さま?」

応えない彼女。これでいい。しっかりとベッドに括り付ける。まだ起きないで下さいね。彼女が、大の字に括り付けられている。できた。あれだけ避けていた彼女が、こんなに近い。

顔を見る。
自分とは違う、つるつるの肌。シミ一つ無い真っ白い頬。
髪を見る。
柔らかそうな、艶やかな黒髪。一本一本が繊細で、流れる黒は言い表せないほどに美しい。
胸を見る。服の上からでも解る膨らみ。ぼん、と突き出るそれ。ワンピースを脱がせてみる。脱がせ……面倒だから、はさみで切ってしまう。黒の大人っぽいブラジャーが現れる。真っ白な胸元。お椀型の胸の膨らみ。それらを締める黒い下着。全てが艶めかしい。
くびれを見る。見るまでもなく視界に飛び込んでくる。きゅっと、細く絞られたウエストは思わず撫で回したくなる衝動に駆られる程に、美しい曲線を描いている。全てが細く、女性らしく。

溜め息しか出ない。明らかに、全部が違いすぎる。同じ女だって。信じられない。自分の身体をまた見て、…………

………………思い付いた。




「交換、しましょう。」

ぞぶり。彼女の細くて柔らかい脚に、刃物を突き刺す。突き刺したままぐるりと円を描くように脚の周りを一周させる。白い肌にキリトリ線がついていく。中から真っ赤な液体が溢れ出す。わあ、綺麗。綺麗な女性は傷付けても綺麗。綺麗。いっぱい血が出てきた。まだ駄目。一周したけど、脚はとれない。筋肉や神経がぶちりぶちりと音をたてる。力任せに、引っ張る。引き剥がす。ぶちりぶちり。骨のせいでとれない。骨ってどうやって外すんだろう。ノコギリか。ぎこぎこって。

ぱちり。

睫が動く。

「………椛?私なにして……って、え、?」
なんだかとても驚いているみたい。まあそうか。自分の左足が血塗れだし。痛覚はちゃんと働いてる?反応薄いけど


まあ、いいや。
電動ノコギリ。友人の河童に借りたまま半年以上立ってるから錆が気になるけど、良い機会だから使おうと思います。文様、おとなしくしててね。
かち。
ヴイーンっと激しい音が、振動が伝わってくる。すっごいなこれ。

「え、ちょっと椛何してるんですか…?なに、それ…?」
大丈夫ですよ、文様。痛いのかな、これ。痛そう。早くやってあげないと。さっさと終わらせちゃおう。これを彼女のキリトリ線に押し当てる。

ヴイイイィイイイィイイイイイイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

「え、嫌、嘘」
嘘じゃないよ
「あ、あ、あ」
……
「嫌!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ああああああぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああひぎいいいいゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああァアアアァアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ガリガリガリと堅いものが削れていく音がして、確かな手応えを感じる。煩いけど、仕方ない。覚醒、痛み、驚愕、絶望、狼狽。なんて神秘的。
もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。もうちょっと。         ぶ ち    り    

ごとん。


とれた。とれた。とれた。
文様の綺麗な左足。手のひらで撫でてみる。すべすべと抵抗なく手のひらが走る。柔らかくて、あたたかくて。うっとりと眺める。色、形、全てにおいて極上。最高です、これを、貰う。大丈夫ですよ、全部貰ったら、私のをあげる。あは、は。全部交換。交換。あははははははははははははは。

「いたい、痛いんですって、椛、もうやめ…」
髪を振り乱す彼女。流れる黒髪。おなじ人間なのにこうも違うものか。この人は、凄く綺麗だ。
私は、こんなに醜いのに。

自分の脚を見る。膝だけ白い粉を噴いている焼けた太い脚。こんなのいらない。電動ノコギリ。ああいたいだろうなあ痛いだろうなあ。チェーンソーとかの方が楽かなあ。まあいいや。これで綺麗になれるんだから、我慢できるよ。かち。機械の音が煩い。震える手で、震えるそれを、押し当てる。

ギッ、ウィィィイイイイイイイイィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!!!!!!!


文様がこっちを見ている。驚いている。怖いものを見ているような目で。左足に鋭い痛みが走る。痛すぎると気絶するとか痛すぎると麻痺するとか嘘みたい、凄く痛いもん。滴る血液。あ、血は文様と一緒で、綺麗。人間内側は一緒なんだね。ああいたいいたいいたい。早くやらないと手が言うことを聞かなくなっちゃう。ぶちりぶちり、ゴトッ。


とれた。左足。這って文様の近くへ行く。太い糸で縫い合わせようとするけど、痛みのせいで身体がいうこときかない。糸が針に通らない。やっぱ無計画は駄目だね。しかたない。できるところまでやって、あとは永琳に頼もう。せーの。
















数時間後、帰ってきたはたてが見つけ、永遠亭に搬送。
お互いに左足が無く、右足は射命丸文のものだけ切り取られていた。射命丸の右腕にナイフが突き刺さっていたことから、次はここを切り取ろうとしたように見えるが、途中で失神したようだ。
なお、元は犬走椛のものと思われる左足にたくさんの針が刺されていた。(縫合しようとした?)


現在、射命丸は出血多量で昏睡状態。
犬走は、目覚めたその日に姿を消したという。
片足でそう遠くへ行ける筈無いのに、見つからないのだ。
あなたは綺麗な女性ではないですか?
また、あなたの恋人は?

椛がそちらへお邪魔していませんか?


どうもぼくですぼくぼく。
拷問が進まないから休憩に。なんかまとまらなかったなー。
ぼく
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/06/01 09:30:56
更新日時:
2012/06/01 09:33:47
分類
犬走椛
射命丸文
1. NutsIn先任曹長 ■2012/06/01 21:32:52
わんわんは、かあかあととりかえっこしようとしました。

試しにやって駄目でした、じゃないだろう!!
死ななかったのが奇跡ですね。

ノープランでおっぱじめるから、こうなった。
内に篭った駄犬は落ちぶれましたね。

真実は、古雑誌から得た情報だけって……。
ロマンもへったくれもねぇな……。
2. まいん ■2012/06/03 23:59:12
太る前を知っているからねぇ……。
痩せれば前の可愛い椛に戻れる。
一緒にダイエットしようじゃないか、その貴女の愛する文様に
ダイエット特集を纏めさせても良い。
私は諦めない、貴女を諦めさせたりもしない。
幻想郷に不可能な事はないんだ、だって外の世界の不可能が幻想として
入って来ているのだから。

最悪、僕の身体を使って、昔の美しい体に戻ってよ……。

だから、だから……戻って来てよぉぉぉぉぉ!!!
椛ぃぃぃぃいいい! come back!!!!!
3. 名無し ■2012/06/10 08:52:28
そういや、はたての部屋に行くときってはたてに会うんですか?
それではたてが綺麗なままだったら椛ははたてとも足を交換したがるはず・・・
文の足だけが欲しいというのならまだ分かりますが・・・
もしかしてはたても太っているんじゃ・・・
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