産廃百物語B『卯海に沈む夢の王国と、夢の郷からやってきた巫女』

作品集: 30 投稿日時: 2012/08/20 02:39:33 更新日時: 2012/09/02 20:47:38
その日は、夏休み間近の平日だった。



家族三人揃っての夕食時、

一杯目のご飯を平らげた大企業に勤める母は、専業主夫である父に茶碗を渡して、ご飯がよそわれている間、私に――父にも聞こえるように――話しかけてきた。

「ねぇ」
「ん、なぁに、ママ?」(ムグムグ)



「あなたにねぇ、お姉さんがいる話、したっけ?」



ごっくん。



「…………なに?」



口中のご飯を咀嚼、嚥下した後、私は一言発した。

母の言ったことが聞こえなかった、否、理解できなかったのだ。

「いえね、あなたに姉がいるって話、したっけな〜って……」
「してないと思うけど」

いつもの砕けた口調で、先程とさして変わっていない内容を言う母と、
私の代わりに返事をしつつ、おかわりのご飯をよそった茶碗を母に渡す父。

「どうしたんだい、藪から棒に」
「今度、仕事でこっちに来るんですって、あの娘」
「へぇ……。ウチに泊まるのかい?」
「私はそうして欲しいけどね。でも、ほら、この娘、初対面じゃない」
「ああ、そうだね……。いろいろと複雑な心境だろうし……」



たんっ!!



両親が話しているうちに、私はよく女らしくないと短大の友人から揶揄される、喉を鳴らしながらの飲みっぷりでビールを干し、空になったコップを食卓にわざと音を立てて置いた。

話を中断した両親は私を見た。

注目を集めることに成功した私は、言うべき事を言った。



「ママ、パパ、ドウイウコト?」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





暗がりに止められた電動RV車。

砂地には、そこから伸びた二種類の足跡の破線。

『立ち入り禁止』と書かれた札の下がった鎖の阻止線でも断ち切られること無く、海に繋がっていた。

その破線の延長線上にある月明かりに照らされた海では、若い男女が水着姿で水しぶきを上げ、戯れていた。



ばしゃばしゃっ!!

恐らく実年齢は少女といっても良い、ガラパゴス化した『旧都』で絶滅を免れている、水で落ちないほどの厚化粧をしたケバい女が、爪に極彩色の絵が描かれた両手で海水を掬っては撒き散らしていた。

「きゃははっ!! ほ〜ら!!」
「よせよ〜っ!! ほらっ反撃〜!!」

ばっしゃばっしゃ!!

天然の太陽には出せない小麦色の肌をした金髪男性は連れの女性に負けないように、『旧都』では打撃武器としても使用される銀のごつい指輪をはめた手で、豪快に海の水で飛沫を作った。

「いや〜ん、つめた〜い!!」
「へへっ、ほれほれ〜」

ばしゃしゃしゃしゃっ!!

「え〜い!! これでもくらえ〜!!」

ぽふっ。

「え……!?」

女性の投げつけた、二つの面積の小さな布地が繋がった物体を手に取り眺めた。

どう見ても、ビキニのブラであった。

男性は女性を見る。

幼さが残る笑顔。
その下に視線を移す。
女性の証である豊満な双丘が、その先端の敏感な突起が、窮屈な拘束から開放されて嬉しそうに震えていた。

「じゃあ……、俺からのお返しだ」

ぱいっ。

女性は目の前に落ちたやはり少ない布地の物体を海面から拾い上げた。

男性の穿いていたビキニパンツである。
女性が今穿いている物よりも際どい。



静かに女性のほうに歩み寄る男性。

女性は水中にしゃがみこんだ。

「?……、っ!?」

ざっぱ〜〜〜〜〜んっ!!

男は水しぶきを上げて転倒した。

その時、男の股間に女の頭があったような……。

ざぱーーーーーっ。

男と女は固く抱きしめあい、互いの唇を啄ばみながら海面に浮上した。

そして、横向きに海に倒れこんだ。

ざぶ〜〜〜ん。

ぶくぶく……。

ぱちゃばちゃ。

ばっちゃばっちゃ。

……。



ざぶっ!!

「た、たすけ――」

必死の形相の女。

がぼっ!!

女は海中に『沈められた』。



ぶく……、ぶく……。



静かな海面。

水面に漂うブラとビキニパンツが、月光と波に洗われていた……。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





私、母、父、そして『姉』。

御馳走満載の四角い食卓。

四人分の席が、久々に満席になった。



来客用の席に座っている、茶色がかった若干癖のある長い黒髪の、どこかで見たような綺麗な女性。
Tシャツに細身のデニムパンツといったラフないでたちの、私より若干……かと思ったら十歳以上年上のお姉さん。



「始めまして。博麗 霊夢よ。よろしく」

私の対面に座った、私達家族と同じ苗字を持つ霊夢と名乗った女性は、そっけない挨拶をしてきた。

「よろしく……」

私もそっけなく会釈した。

「さ、堅苦しい挨拶はそれぐらいにして――」

母は豊満な胸を見せびらかすかのように両手を広げた。

父はお盆に栓を抜いた無数のビール瓶を満載して持ってきた。

「――乾杯といきましょう!!」

全員の手には、ビールが注がれたグラス。

「では、霊夢との久々の再会を祝して」

母の言葉に対して、

「母様、父様との久々の再会と、可愛い妹との出会いを祝して」

霊夢さんは私の顔を見て微笑みながら、祝いの返礼を口にした。



「「「「乾杯!!」」」」



私達は、グラスを打ち鳴らし、一息に干した。

「ふぅ……」

一息ついた私のグラスに注がれるビール。

絶妙のタイミングでお酌したのは、素敵な大人の笑みを浮かべた霊夢さんだった。

「どうぞ」
「ど、ども……」

そのビールも飲み干し、今更ながら、私も霊夢さんにお酌すべきだと後悔した。
霊夢さんが見事な酒豪振りを発揮してくれたおかげで、すぐにその機会は巡ってきたが。



私達は酒を酌み交わし、父の手料理に舌鼓を打った。

僅か30分ほどで、私と霊夢姉さんはすっかり打ち解けることができた。

最初は「霊夢さん」と呼んでいたが、既に「霊夢姉さん」という呼び方が私の中で定着してしまった。



夕食を一通り片付けた私達は、酒を酌み交わしながら駄弁っていた。

女三人、日本酒を嘗めながら身の上話をするのも乙なものだ。

ちなみに父は、キッチンで食器洗いと酒のアテ作りを同時にこなしている。



霊夢姉さんはネットもケータイも通じないような、有線電話すら普及していない、遠く離れた人外魔境のド田舎で神職に就いているそうだ。

かつて母はそこで巫女さんをやっていたそうで、超有名な多国籍大企業であるボーダー商事がらみの留学制度か何かで、かの地を訪れていた父と恋に落ち、結婚。
相変わらず巫女を勤める母と、婿に入った父との間に霊夢姉さんを儲けたそうだ。
姉さんが一通りの神事をこなせるようになった頃、ボーダー商事から母に高待遇での転職のお誘いがあった。
母は姉さんに巫女の座を譲ると、姉さんを神社に一人残し、父と共にボーダー商事本社の城下町の一角にある、博麗の一族が住む地区――つまり、今、私達家族が住むここに移り住んだのであった。

――って、母が若干誇張と惚気を交えながら語った。
台所から、父の補足説明や合いの手も聞こえてきた。

私達博麗の一族はボーダー商事の創始者と深い繋がりがあるそうで、その半数以上がボーダー商事関連の仕事に就いている。
ちなみに残りは姉さんやかつての母のように神社仏閣で働いていたり、占い師をやっていたり、中には警察や国防機関に勤務する者も少なからずいたりするのだった。

母からは巫女としての技術を、父からは家事全般を伝授された姉さんは、まだ少女の身でありながら独り立ちを余儀なくされ、
別離から二十年以上経った今日、涙の……は無いか……、笑顔で再会することが叶ったのであった。

――てな事を、霊夢姉さんと、いつもより酒量の多い母は、顔を赤らめながら話してくれた。

母の口からは私の知らない情報がずいぶんと出てきた。
母が巫女だというのは、母自身や父から聞いたことがあるが、信じたのはこれが始めてである。
てっきり巫女さんコスをした女子プロレスラーか何かだと思っていた。
傷がうっすらと残る引き締まった母の体を見て育った私に、若かりし頃の母がお払い棒を振り回して祝詞を唱える光景を思い浮かべろと言うのは、無茶振り以外の何物でもない。

母と霊夢姉さんの刺激的な話題に対して、私が語ったのは、自身の略歴ぐらいだ。
平々凡々な女子として生を受け、今は『都内』の私立短期大学でサボりながらテキトーに経済やセクレ(秘書)になるためのお勉強をしていることを話した。

迂闊だった。

安くない学費を払ってくださっているお母様が同席していたのだった。

霊夢姉さんの気安い雰囲気に呑まれてすっかり忘れていた。

かくして、私は笑顔の母から拳骨をおつむに頂戴したのだった。

酒の麻酔が効果を成さなくて、涙目になる私。
ケラケラ笑う、姉さんと母。



家事を終え、キッチンを離れていた父がダイニングにやって来た。

お風呂が沸いたので入るようにとの事だ。

母は新しい杯を用意しつつ、私達に先に入浴するように促した。
母と父の夫婦水入らずの晩酌タイムを邪魔するのも無粋なので、私は霊夢姉さんを誘って、いっしょにお風呂を頂くことにした。





かぽーん。(風呂場の効果音)



「あんた……」
「何、姉さん?」

今、私は霊夢姉さんに背中を流してもらっている。
曇り止めが施された鏡に映る、石鹸の泡塗れの私と姉さん。
客観的に見て、顔は確かに私と姉さんはよく似ている。
霊夢姉さんをどこかで見たと思ったら、鏡の中の自分の顔だった。

むに。

「――!?」

れ、霊夢姉さんが、私の背中に身体を押し付け、両手で私の、む、胸を!?

「ここは、母様に似たのね……。やっぱ、こっちの栄養のあるモン食ってるからこんなに育ったのかしらね……。
 私に遺伝したって良いじゃない……。妬ましい……」

一瞬、鏡の中の姉さんの瞳が、緑色に妖しく光った――!?

小学生高学年頃から大きくなって、異性同性から色々と注目されたバストである。
昔は嫌な事ばかりだったが、成人した現在は努めて気にはしないようにしている。
だが、流石に揉まれるのは、ちょっと……。

「れ、霊夢姉さんだって――」

姉さんはスレンダーな体をしていて、若干筋肉質だった。
そして、目立たないが母同様に体中に傷跡があった。
私の背中に押し付けられている姉さんの胸は、確かに大きいわけではない。標準より若干小さいぐらいか。
でも、張りがあって形は整っていた。私みたいに垂れる心配や肩こりの悩みとは無縁だろう。

「あんた、何か失礼なこと考えたぁ? うりうり〜」

もみもみっ!!

「あっ!? ひゃんっ!! ねえさんっ!! ちょ!! やめっ!! あひっ!? あぁんっ!!」

霊夢姉さん、なんて上手なの!?
今まで胸で感じたことなんて無かったのに……!?
薬指にシンプルな指輪をした左手が、若干力強いような……。

「ねっ姉さん!!」
「ん?」

私の両胸の霊夢姉さんの両手に、私の両手を重ねた。
姉さんは揉むのをやめた。
手はバストからどかしてくれないが。

「結婚……、してるの?」
「ん? あ、ええ、一応」
「知らなかった」
「あれ? 言ってなかったっけ? 母様と父様に言ったから、あんたにも言った気になってたわ」
「だったら……」

私は振り向き、相変わらず胸に指をめり込ませてホールドしている霊夢姉さんの顔を見た。
かなり無理な姿勢だったが、姉さんがわざわざ顔を私に向けてくれた。

「こーいう、はしたない、のは、ちょっと、あの、いかがなものかと……」
「ああ、これ?」

キスできる寸前まで顔を近づけ、微笑む霊夢姉さん。

もみもみもみっ!!

再開される、霊夢姉さんの胸揉み攻撃!!

「ああんっ!!」
「い〜じゃない、私んトコでは挨拶みたいなもんよ。『すきんしっぷ』ってヤツね」
「あぁ……、でも……」
「昔、越してきたこっち出身の娘も最初はあんたみたいな反応だったけど、『常識に囚われてはいけないのですね』とか言って直ぐに慣れたわ」

もみっもみっもみっ!!

なおも続く霊夢姉さんの攻め。

駄目……、私、堕ちちゃう……。



「あ――、あぁぁぁぁぁ――――っ」





静かに酒を嗜む先代巫女夫妻。
風呂場の姦しい騒ぎは、何を話しているかまでは分からないが、ダイニングまで聞こえてきていた。

「霊夢、あの娘と仲良くやっているようだね」
「ええ、あなた。やっぱり姉妹ね〜」



二人は風呂場のほうを見ていたので、

テーブルの上に置かれた一輪挿しから、

百合の花が茎からポトリと落ちたのに気付かなかった……。





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夜の堤防。

一人の太公望が釣り糸を垂れていた。

かつて、この海はヘドロとゴミに塗れ、転落でもしようものなら大量の薬を飲まないと命にかかわる程であった。

だが、古の都が再び首都になった現在。

『旧都』の顔であったウォーターフロント。
水没してビルが若干顔を出しているここは、今やゴーストタウンを通り越して歴史的価値のある遺跡と化していた。

釣り人は何時ものように立ち入り禁止の封鎖線を乗り越え、穴場であるこの場所で江戸前の魚を釣り上げていた。
生憎と、彼の息子は骨の無い合成物のほうが好きなようで、妻も手間のかかる魚の調理を敬遠していた。
必然的に、料理するのも食べるのも彼一人のみであった。美味いのに。

また釣れた。

小さい。ハゼだ。

彼は仕掛けから魚を外すと、ビチビチと活きの良いそれを椅子代わりにしているクーラーボックスの傍らに置いた。

なーご。

何時の頃からか、釣り人の釣果や夜食の弁当のおこぼれ目当てで、一匹の三毛猫が傍らで寛ぐようになっていた。

あぐっあぐっ。

美味そうに雑魚を平らげる猫。

釣り人は目を細めてそれを見ながら、ウィスキーの小瓶をチビリと飲った。

釣り人は、食事の終わった猫と共に、星空よりも濃い闇を湛えた海面を眺めていた。

猫が何の気なしに堤防の端まで行き、闇に漂う鮮やかな色調の浮きを見て、手を伸ばした。

ちょい、ちょい。

届くわけ無い。
そんなに身を乗り出すと――、

ぼちゃんっ!!

――海に落っこちる、と釣り人が思った時には、それは現実のものとなっていた。

急いで猫をタモ網で掬って、救ってやったから、最悪の事態は避けられた。

堤防に上げられた猫は、ずぶ濡れの体を震わせて水滴を大雑把に跳ね飛ばすと、クーラーボックスの物陰に隠れてしまった。

釣り人は堤防の端に胡坐をかき、顔だけ出してこちらを窺っている猫に呆れながら、またウィスキーを呷った。



猫、何か、俺の背後を見ているみたい――。



釣り人の背後、つまり海から――、



しゅるるるるっ!!



――何かが出てきて釣り人の首に巻きつくと、素早く彼を海に引きずり込んだ!!



ざぶんっ!!
ばちゃばちゃっ!!

ばちゃんばちゃんっ!!


ごきぐき、めきゃっ!!



ばちゃ……、ばちゃ……。



ブク……、ブク……。



……、……。





堤防の上に、割れた小瓶から飛び散ったウィスキーの香りが広がった。

だが直ぐに、生臭い匂いがウィスキーを打ち負かして一帯に立ち込めた。

その悪臭は、先程猫が召し上がった魚の食いカスが発するそれの何百倍も酷かった。



フウゥゥゥゥゥ――ッ!!



猫は、ただ、唸りながら、毛を逆立てながら、髭をおっ立てながら、

惨状を見守ることしかできなかった。





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目覚めると、知らない天井が見えた。

そりゃ普通、家の住人が客間で寝る機会なんて、そう無いからね。

霊夢姉さんとの入浴ですっかりのぼせた(と、自らに言い聞かせた)私は、居間でしばらく姉さんと駄弁っていた。

夜も更けてきたので私達は、霊夢姉さんの寝床が用意された客間に移動した。
私の部屋は、その、かなりアレな状況なので……。
父に頼めば掃除してもらえるかも知れないが、親には見せられない物も部屋中に転がっているもので……。
そういうわけで、姉さんの布団の隣に私の分を敷き、その上に寝転がり、夜通し取り留めの無い話に花を咲かせたのでした。

霊夢姉さんはとても聞き上手だった。
恐らく姉さんは神社の巫女さんだから、村内の揉め事の調停役として働いているからだろう。

私の隣の布団は畳んであった。
当然、霊夢姉さんの姿は無い。
枕元の目覚まし時計に目をやると、丁度鳴り出したので、私はアラームを止めるとその隣に置いた携帯端末を掴み、客間を出た。
昨日、夜更かししたのに、私の目覚めは爽快なものだった。



洗面所で歯を磨いていると、朝のランニングから帰ってきた母が入ってきた。

「おはおー」(シャカシャカ)←歯を磨く音
「おはよう」(シャカシャカ)←音楽プレーヤーとして使っている携帯端末のイヤホンからの音漏れ

母は両耳からイヤホンを外し、長髪を後ろで束ねていたゴムバンドを外し、グラマラスな肢体を押し込めていたシャツ、短パン、下着をパパパイッと洗濯機に放り込むと、隣の浴室に入っていった。

ダイニングに入ると、霊夢姉さんは父と一緒に料理をしていた。

「ほう、霊夢は上手に焼けるようになったね」
「父様に仕込まれましたから。この玉子焼き、あの人や神社に来る連中に好評なのよ」

『あの人』とは、霊夢姉さんの旦那さんだろうな……。

「ほら、あなたも父様のお手伝いをなさい」
「へぃへぃ。パパ、じゃあ、できたヤツからテーブルに並べるわね」
「頼むよ」

合成米に合成味噌で作ったおみおつけ、一際光る本物の卵で作った玉子焼きと、やはり本物の糠床から取り出した本物のナスのお漬物。
朝からオカズが『本物』だらけの御馳走だ。

配膳が終わったところで、仕事着であるスーツを着込んだ母がダイニングに現れた。

全員席に着き、母のいただきますの声で、私達は箸を取り、雑談をしながら朝食を楽しんだ。



朝食後、後片付けを父と私に頼んだ霊夢姉さんは客間に戻り、しばらくすると母と同様にスーツを着て現れた。

「あれ、姉さん、どうしたの?」
「どうしたって……、一応、私はこっちに仕事できたのよ」

ああ、すっかり忘れてた。

……って、何で巫女さんがスーツ?

「ちょっと、会社のプロジェクトでお祓いをしてもらうのよ。今日はその打ち合わせ」

姉さんの横に立った母が私の心の中の疑問に答え、姉さんはコクコクと首を縦に振っている。

「姉さん、スーツ、似合ってますね」

スレンダーな体型の霊夢姉さんには、新品のピシッとしたスーツは意外とマッチしていた。

「あなたの大きなリボンも似合っているわよ」

嬉しい。
私は子供の頃からリボンが好きだった。
子供っぽいとは思うが、親も友人達も何も言わないので――高校の時、先生に一度注意されたことはあったが――、この年になってもずっと頭に着け続けた。

「姉さん、ありがと……」
「私も若い頃は、あんたみたいなリボンを着けててね〜。良人の友人から『紅白の蝶』だとか言われたもんよ〜」
「へぇ……。私もよくリボンちゃんだとかチョーさんだとか呼ばれることがあります」

まだ少女だった頃の霊夢姉さん……。
頭には縁に白いレースをあしらった赤いリボン。
可愛かったろうな……。
しばし、私は巫女服にリボンの霊夢姉さんを夢想した。

腕時計をちらと見た母。

「それじゃ、いってきます。あなた、夕飯はいつもどおり。霊夢の分もね」
「分かった。じゃ、いってらっしゃい。霊夢、勝手が分からなかったら母様に聞くんだよ」
「大丈夫。私はもう一人前の『博麗の巫女』よ。じゃ、いってきます」
「いってらっさ〜い」

玄関から出て行く二人に手を振る私に、父が話しかけた。

「ところで、今日、講義は午前からじゃなかったっけ?」
「あ゛――」

私はエプロンをかなぐり捨て、一旦自室に戻りかばんを引っつかむと再びキッチンに戻り、私の分のお弁当――既に母と霊夢姉さんは自分達の分を持って行ったようだ――を引っつかみ、挨拶もそこそこに家を飛び出した。

「いってらっしゃい」

いつもの父のちょっとのんびりした声を、勢いよく開け閉めした扉の音でかき消すという非礼を行い、その無礼は弁当の完食を以って詫びようと心で誓いつつ、私は最寄のバス停まで疾駆するのであった。





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株式会社ボーダー商事。

『商事』と銘打っていはいるが、商行為以外にも様々な事業を手広く行なっている。

それらを統括する本社ビルは巨大な塔のように聳え立ち、見る者を圧倒し、そこに勤める者はそれに相応しい者であるように襟を正すのであった。

鉄道の最寄り駅を出てすぐに目にしたこの巨塔を口をポカンと開けて見上げる霊夢を、この会社の要職を務める先代・博麗の巫女である母は微笑みながら眺めていた。



先代巫女は自分の、霊夢はビジター用のIDを、それぞれ首から下げ、エレベーターで75階に上がった。

そのフロアは、丸々一つの部署が占有していた。

会長室総括本部。

この部署は、ボーダー商事CEOである八雲 紫の直轄であり、ここの部員達は、こっちのセカイや霊夢のすむセカイ――『幻想郷』で紫の手足となって働いていた。

大勢の部員達に挨拶をしながらフロアを歩く先代と霊夢。
彼らは、この部署の長である先代巫女の部下であり、先代や『良人』および『良人の秘書』の使いで幻想郷に来たことのある何人かは、結婚して『良人』の家で暮らすようになった霊夢と顔見知りであった。



先代巫女と霊夢がたどり着いたのは、透明なパーテーションで四角く仕切られて部屋の体裁を取っている一角であった。
特に機密事項で無い会議は、ここで行なうのであろう。
既に何人かがこの『部屋』で談笑しているのが見えた。

部長である先代巫女と霊夢が入室すると、彼らは席から立ち上がり一礼した。
先代が片手で着席するよう促すと、彼らはその通りにした。
彼らに遅れて先代と霊夢が着席すると、末席の若い男性部員が駆けてきて、魔法瓶から注いだ冷茶と生八橋が乗っかった小皿を二人の前に置いた。

先代は口を冷たいお茶で潤すと、早速会議を始めた。

最近、東京湾で急増している、人々が『神隠し』になる『異変』の対策会議を。



ホワイトボードに張られた複数のポートレート。
横には被写体の素性が大まかに書かれていた。
被写体は、まちまち。
アベック、家族連れ、釣り人、会社員、漁師、学生、エトセトラ、エトセトラ。
併記された日付は、『異変』がらみと思われる失踪事件の発生日時。
古いものは霊夢が『こっち』に来る一月ほど前で、霊夢が呼ばれる数日前から『失踪者数』が激増していた。
写真に写った人達と思われる名前の横に、赤マーカーで×印が多々付けられていた。
印がついてるのは、殆どが男性だった。

プロジェクターに映し出される航空画像。
かなり詳細に写りこんでいるこれは航空機ではなく、ボーダー商事所有の観測衛星で撮影されたものである。
画像は、何処かの沿岸地域のものだった。
無数の赤い光点が、岸や海上に灯った。

北の入り組んだ湾内から、南の陸と半島を繋ぐ道路の崩落した辺りまでに、光点が集中していた。

「――で、あるからして、失踪者は東京湾内、旧浦安地区からアクアライン遺跡の範囲に集中しています。
 海上で回収された遺留品の分布状態を海流を考慮して分析すると――」

眼鏡を掛けた部員が端末を操作すると、湾の岸に近い海上を囲う円が描かれた。

「『目標』は、ここに潜伏していると思われます」

部員の発言中、先代は霊夢とひそひそ話をしていた。

「……霊夢、どうかしら?」
「こっちに移住させるには……、ちょっと血なまぐさそうなヤツね……」
「『人食い』も『殺戮者』も、幻想郷じゃ、まだ普通よね?」
「『人食い』にしては知恵があり、『殺戮者』にしては荒っぽ過ぎるわ。もう数百年くらい経てば、あるいは……」
「『今』は、ダメってことね。じゃあ、あなたには説得じゃなくて……」
「『退治』をやる事になっちゃうわけね……。はぁ……、折角の外界なのに……、結局はいつもと同じ……」

霊夢がため息をつくと、丁度、小難しい状況説明が終わったようだ。

霊夢と話しつつ、部下の発言も聞いていた先代は立ち上がった。

「分かりました。直ちに東京府警、海上保安庁、自衛隊、消防庁、その他諸々に手を回してちょうだい。
 その区域に何人たりとも立ち入らせないように」

霊夢以外の全員が立ち上がった。

「以上、解散!!」



部員達が退室し、会議室には先代巫女と、残った茶菓を平らげて立ち上がった霊夢だけとなった。

「――水中戦になるけど、大丈夫? 霊夢」
「護符が溶けたり針が錆びたりする事は無いけど……、海で戦闘(や)るのは初めて」

不敵な顔で不安なことをのたまう娘に、母はにっこりと微笑んだ。

「そんな事もあろうかと、母さん、良い物を用意しておいたわ」

不遜な霊夢の表情を伝う一筋の汗。
先代巫女の笑み。
まだ巫女になる前、幼い頃から霊夢は散々見てきた。



その表情は、先代巫女が新しい特訓という名の虐待を思いついた時の物だ。





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霊夢姉さんが我が家に寝泊りするようになってから数日が経った。

姉さんは父の作った朝食に舌鼓を打っていた。
私が3杯目のご飯をよそってあげると、姉さんは受け取ったそれに海苔の佃煮を付けて、すぐさまかき込みはじめた。

霊夢姉さんがボーダー商事に通うようになった次の日は、姉さんはこんな風に食事を摂る事などできなかった。
固形物を全く受け付けなくなっていたのだ。
姉さんは何か特殊な訓練を受けたとかで、グロッキー状態だった。
一体何処で神事をやらせようとしているのだろうか?
近々、宇宙に建設される研究施設に神社が併設されると噂で聞いたことがあるから、まさか宇宙飛行士の訓練でもやらせているとか!?
姉さんと母に尋ねても、『企業秘密』とやらで全然教えてくれなかった。
でも、こうやって健啖振りを発揮しているから、霊夢姉さんは訓練とやらに順応できたのだろうな……。

食後のお茶を済ませた母と霊夢姉さんは、いつも通り出立の挨拶を父と私にして、颯爽と玄関から出て行った。

さて、私は今日は遅出だから、父のお手伝いでもしますか。





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霊夢と先代巫女はいつものように、ボーダー商事75階のオフィスでミーティングを済ませると、今度は地下3階に下りた。

地下3階には、駐車場とボーダー商事の関連会社である『TWD』がある。
『TWD』――『The Water Ducts』社は、水周りのトラブルを電話一本で駆けつけ迅速確実に解決する、世間で比較的有名な会社である。

――表向きは。



広大な地下駐車場。
『TWD』のロゴが描かれた、清掃用具満載のワンボックス車が数台駐車してある一角。
そこに『TWD』の事務所があった。

『TWD』の社長も兼務する先代巫女と霊夢は事務所に入ると、窓口でお客さんの応対をしている社員達を尻目にずかずかと奥に進んでいった。
引っ切り無しに鳴る電話に応対する者や、デスクワークをする者、清掃用具を手入れする者、ホースやブラシを担いで、先代達に一礼してその脇を走りぬける者達。
仕事場の喧騒を抜け、最奥の静かな一角に出た先代と霊夢。

『特殊清掃用具置き場』

そう書かれた大きな扉。
その前に立つ、二人の警備員。

「失礼します」

警備員の一人がそう言って、先代と霊夢のIDカードを携えていた端末装置のスリットに通した。
機械の表示装置を一瞥すると、もう一人の警備員を呼んだ。

もう一人は、コンビニのレジに付いているバーコードリーダーのような機械を先代の目に向けた。
赤い光が先代の両目をなぞる。
続いて霊夢にも同様の事をした。

ピッ!!

「どうぞ、お通りください」

それぞれの携えた機械を弄った警備員達は扉の両脇にどいた。
先代と霊夢は大扉を開け、その部屋に入っていった。

部屋の中は、用具置き場の名に反して、がらんとしていた。

壁の一角をスライドさせるとテンキーが出てきた。
先代は何桁かの番号を入力すると、壁が開いた。

先代と霊夢はその中に入っていった。
いつものように。



銃声。

連続した音。
不連続の音。
大きな音。
小さな音。

射撃場から、様々な銃火器の奏でる音楽のような不協和音が聞こえてきた。

ここは『TWD』の本体。

民間軍事会社『THE WATER DUCTS』。

『THE WATER DUCTS』は、剣呑なトラブルを電話一本で駆けつけ迅速確実に解決する、このスジでかなり有名な会社である。

ボーダー商事CEOの私兵でもある精鋭達の活躍の場は『このセカイ』に留まらない。
彼らは毎日、『常識の通じない敵性目標』に対する攻撃、防御の考案、訓練、実践に余念が無い。

霊夢がここ数日間、毎日受けている訓練は、比較的『まとも』な部類に入った。

清潔な小部屋。

歯医者にあるようなリクライニング・チェア。
御丁寧に、椅子に座ったままで使える、歯医者にあるような簡易的な水周りが備え付けてあった。

霊夢は、下着姿でこの椅子に座り、否、ベッド状にした椅子に横たわり、顔を殆ど覆ったヘルメットを被り、体のあちこちに電極を付けられていた。

まるで低周波治療器を付けられたかのように、たまに痙攣をする霊夢。

霊夢の痙攣が大きくなったが、手足胴体をマジックテープのベルトで椅子に固定してあるので転げ落ちることは無い。

「ぁ……ぁあぁ……っ」

霊夢の苦しげな声が、ヘルメットからのぞく口から漏れた。



「はい、よく、で・き・ま・し・た……、と」

霊夢が横たわる小部屋の隣の小部屋。

マジックミラーと監視カメラで霊夢の様子を、スーパーコンピュータに接続された端末のモニターで霊夢が『体験している』様子を、それぞれ見守った先代は、端末のキーをいくつか叩いた。

悪夢にうなされていたような霊夢は、たちまち落ち着いたようだ。

先代巫女が霊夢の部屋に入ると、丁度助手を務めた女性スタッフが霊夢の拘束を解き終えたところだった。

「ごくろうさま。まあ、及第点ね」
「母様、御挨拶じゃない」

女性スタッフから受け取ったタオルで顔の汗と涎を拭う霊夢は、先代巫女に減らず口を叩いた。

「初日から僅かな日数で、もう適応、攻略するとは……。さすが、私の娘ね」

霊夢は苦笑しながら、うっすらと痣のある、腕のベルトを巻かれていた箇所を擦っていた。



霊夢を拘束していた、隣室の機器も含めた装置一式。

これは薬物と電気信号を使用した、いわゆる『擬似体験装置』である。

テレビゲームや3D映画など比較にもならない、現実同然の危険を体験できるステキな機械である。

初日、この機械初体験の霊夢は、早速死にかけた。

部屋の外にまで聞こえた悲鳴。
引き千切られたベルト。
流される血の涙。
口から泡を吹き、糞尿を垂れ流した霊夢は、ついに気を失ってしまったのだった。

次の日も、霊夢専用の地獄は続いた。
この日からオムツ着用である。

三日目、霊夢は地獄を制した。
なので先代は、地獄の難易度を遠慮なく上げた。

それから僅かな日数で、霊夢は最高難易度のルナティックレベルをクリアして見せた。

すでにオムツは卒業だ。



「どう、海は?」
「新婚旅行で行ったビーチとはえらい違いね」

昼、自販機が数台置かれた休憩スペース。

そこで父手作りの弁当を賞味する霊夢と先代巫女。

「私達が行く場所は、元・観光地よ。現・観光地と比較しないで頂戴」
「まさに、悪夢の国だったわ……」

霊夢が『装置』で体験したのは、海中にある『目標』の本拠地に潜水具無しで強襲を掛けるという、合衆国海軍特殊部隊も真っ青の軍事行動であった。
『目標』の根城は、度重なる地震による地盤の液状化と水没によって放棄された、広大な娯楽施設と判明した。
現在、『目標』が具体的に施設の何処に潜伏しているか、まだ判明していないので、とりあえず施設全域での見敵必殺の演習IN海中を霊夢にやらせたのだった。

霊夢の暮らすセカイ、幻想郷には広い湖や河川があり、その上や水中の戦闘経験は霊夢にはあった。
だが、海となると勝手がまるで違った。

異なる浮力。
異なる水流。
異なる水圧。
場所毎に異なる視界。
おまけに、広大な敷地全てがキルハウスときた。
『目標』の位置はランダムに更新されるので、その度にその場で攻略法を考えなければならなかった。
初日は、霊夢は何がなんだか分からないうちに触手の群れに陵辱され、身体を引き裂かれ、海の藻屑にされてしまった。

しかし今では、霊夢は飛び切り最悪の場合を想定した悪夢の帝国を制し、『目標』を3回撃破できるまでになった。

「じゃ、午後からは、私も悪夢の国の観光に付き合うわね」
「げ!? 母様もやるの!?」

先代は心外そうな顔をした。



「本番では、『目標』の『退治』は私とあなた、二人でやるのよ」
「げ!?」
「何よ。もっと嬉しそうになさい」
「何で『博麗の巫女』を引退した母様が……?」

嫌さ半分、驚き半分、ほんの僅かの喜びをミックスしたような表情の霊夢に、母である先代巫女は答えてやった。

「東京湾に最近『大物』の反応が出たから、現役であるあなたをこっちに呼んだのは理解しているわよね」
「ええ……。人目につきやすい場所であり、『まだ生きている者』がいるかも知れないから、仰々しい武器や大勢の兵隊での力押しができないからよね……?」

通常、こっちのセカイでいわゆる妖怪がらみの『事件』が起きた場合は、軍隊そのものである『TWD』が極秘裏に『処理』している。
だが、今回の現場は人目を気にする必要の無い山奥でも絶海の孤島でもなく、独自文化を形成している『東京府民』達が今なお崇拝している聖地である、東京湾である。
彼らは、20世紀末の繁栄の象徴の地である『旧都』や、度重なる災害で壊滅した湾岸地域に思い入れがあり、離れたがらない。

だからこそ、『異変』レベルの事件を起こすほどの『大物妖怪』が巣食ったのかも知れないが。

「いちおう、私は外界の異変解決人よ。小物ぐらいなら一人で処理できるわよ」
「今さっき、『大物』って言ったじゃない。引退した母様に手に負える相手じゃ……」
「だから、相手は主にあなたにしてもらうわよ。私の役目はあなたの道案内と支援ね」

そういった先代は、右手の指を鉄砲の形にして、BANG!! というアクションをしてみせた。

「……わかったわ。アテにさせてもらいます。母様」
「任せて!! じゃ、テレビゲームでたのしい親子プレイと参りますか!!」

二人は空の弁当箱を片すと、休憩スペースを出て行った。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「――ム、レイム」

「なに――」



なにやら騒々しいな……。

私は少し目を開け――、眩しい!!

部屋を照らすLED照明の明かりが目に刺さった。

「あら、起こしちゃったわね」
「……ママ?」

明るさに目を慣らしつつ薄目を開けると、枕元に仕事着姿の母が座り込んでいた。

ついでに目覚まし時計に目をやると、そろそろ夏の早い夜明けが始まろうかという時間だった。

照明がつけられた客間。
私の隣で寝ていた霊夢姉さんは、敷きっぱなしの布団にパジャマを脱ぎ捨て、スーツに着替えている真っ最中だった。

「姉さん……?」
「あ、まだ寝てていいわよ」

丁度着替え終わった霊夢姉さんは私を気遣ってくれた。

「ちょっとママと霊夢に急な仕事が入っちゃってね。急遽、東京まで行かなきゃならなくなったのよ」
「そういうわけで、行ってくるわね」

慌しく客間を出て行く母と姉さん。

パチン。

「行ってらっしゃい……」

照明は消され、私はもう少し睡眠をとることにした。



「――ヒロシゲ2号の切符を取れたわ」
「へ〜、53分で行けるんだ――」

夢現の中、母と霊夢姉さんの話し声がかすかに聞こえた……。





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カレイドスクリーンの車窓を楽しみながらの列車の旅を終えた先代巫女と霊夢は『TWD』東京支部の人員と合流し、新東京港からボーダー商事所有の観測船に乗り込んだ。

観測船と銘打ってはいるがこの船は実質的に、武装を撤去して明るめの色に塗装した、回転翼航空機搭載可能な駆逐艦である。

この船から飛び立ったSH−60K対潜哨戒ヘリコプター(民間機に偽装した塗装が成されている)がライブ映像を送信してきた。

霊夢、先代巫女、そして海洋調査員のジャケットを着た『TWD』の兵士達は、食堂に特設された大画面を息を飲んで凝視した。



海上に特設されたコンサート会場。

――だったらしい、処刑場。



ヘリに搭載された特注の光学機器は、浮島状のステージや浜辺に設けられた即席の観客席に飛び散った血痕や肉片、内臓らしきものを詳細に捉え、観測船に送信し続けた。



「母様……、『問題』って、コレ?」

「ええ、そうよ……」





早朝、先代巫女の携帯端末に飛び込んだ緊急連絡。
封鎖した区域で問題が発生したと、本社の連絡要員が伝えてきた。

『旧都』でカルトな人気を誇る音楽家が、海上ゲリラライブを強行したのだ。

監視の目をかいくぐり、大勢のスタッフ達があっという間に海上の設営を完了した。

『TWD』の監視要員が気付いたのは、封鎖区域から轟く爆音の如き音楽と歓声を耳にした時であった。

そして、それらが悲鳴と怒号に変わるのに、大した時間はかからなかった。

そして、百人近くいた不法侵入者達が全員静かになるのにも、それほどの時間は要しなかった。



先代巫女は直ちに霊夢を起こして、卯酉新幹線『ヒロシゲ』の始発に飛び乗った。
僅か一時間足らずの道中であったが、先代の携帯には続々と情報が入ってきた。



しかし、彼らの犠牲は無駄ではなかった。

今回襲われた人数は、今までよりも多い。
したがって、今回の『拉致された生存者』も多い。

事件発生から間もないおかげで、拉致された者達は索敵を開始した時点で、まだかなり生きていたようだ。
東京湾に急行した観測船と搭載ヘリによって、生体反応の検出に成功した。
しかも観測地点からさらに奥まった場所に、一瞬、特大の反応があった。
だが、すぐに反応は消失した。結界か何かで遮断したのだろうというのが、先代巫女と霊夢の見解である。
獲物が大漁だったので、ご機嫌な『目標』は隠蔽作業を疎かにしたのだろうか。



まあ、何はともあれ、『生存者』と『目標』の位置はおおよその見当がついた。

食堂のテーブルに広げられた地図。

『TWD』の隊長でもある先代巫女は、地図の中央に描かれた、西洋の城のような絵に、掌を叩きつけた。





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もうすぐお昼になろうかという時間帯。

学校の授業は朝の一限だけで終わり、特に用も無かったので私は早々に自宅に戻り、リビングのテレビでお昼のニュースを見ていた。



『本日未明に発生した、東京湾の有毒ガス発生事故により、現地住民に犠牲者が出ました――』



何か、人死にが大勢出てるみたい。

立体CGによる懇切丁寧な解説によると、かつて東京や千葉と呼ばれた地域の水没した沿岸部。
海底には、かつてこの国の工業を支えたコンビナートが眠っている。
だが、たまに寝ぼけて、石油タンクや工場跡から有毒化学物質が漏れ出すそうだ。

母と姉さんは急いで東京に向かったようだけど、ここで会社の人に不幸でもあったのかな……。



「おーい!! 暇なら、お昼ご飯作るの手伝ってくれ」

私の思索を打ち切らせた父の声。

「今日、何ーっ?」

ソファーに寝そべり、昼食のメニューを問い合わせる私。

「焼きうどんだよ」

じゅ〜〜〜〜〜っ!!

言葉と共に、ソースの焦げる匂いがリビングまで漂ってきた。

「は〜〜〜〜〜い!!」

手伝って、早くあの匂いの源を食したいと思い、素直な私はキッチンの父の元にはせ参じた。
と言っても、手伝うことは既に盛り付けの終わった食器を並べるぐらいしか無かったが。

配膳した私の元に、父がフライパンを持ってやってきた。
フライパンの中には、手早く作った目玉焼きがあった。
それを焼きうどんの上に乗っけて、グレードをアップしてくれた。

「そうだ、折角だから飲もうか?」

冷蔵庫から、ご機嫌に冷えた缶ビールを取り出す父。

「やった〜っ!! パパ、だ〜い好きッ!!」

感激のあまり、父に抱きついてしまった。

父は困りながらも満更じゃない顔をしている。



楽しい父とのランチタイム。

無粋なニュースは終わり、テレビからは知らなくてもいいようなお得情報が漏れ聞こえてきた。





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がこんっ!!

鉄の蓋が外され、マンホールから身を乗り出した先代巫女が用心深くショットガンを構えながら周囲を警戒している。

ひとしきり周囲を見渡すと、先代巫女はマンホールから飛び出し、傍らで銃を構えて片膝をついた。
すぐに、霊夢が音も無く飛び出すと両手に呪符をかまえて、母同様に周りを警戒した。



ウェットスーツを着込み、スキューバを装備した先代巫女と霊夢は、観測船の底のハッチからダイビングを行い、目標地点まで通じている排水溝に潜入した。

空気のある場所まで浮上すると潜水装備を脱ぎ捨て、二人は戦装束に着替えた。

先代巫女はカーゴパンツとブーツを履き、タンクトップの上にポーチをいくつか付けたプレートキャリアを身に着けた。

一方、霊夢は腋むき出しの『いつもの巫女服』を身に纏った。



先代巫女が携えた、戦闘用ショットガンのフォアエンドに装着したライトで行く手を照らし、二人はじめじめして、薄ら寒い廊下を進んだ。
かつては老いも若きもネズミの耳を模した被り物をして、姦しく歩いたり走ったりした通路だろうが、海底に没した今では、彼女達以外には『目標』ぐらいしかここを通っていないだろう。



程なく、二人は大扉の前に到着した。

先代は手にした小さな機械を見た。

二人が今いる『城』の内部図が表示されており、大扉の向こうにあるはずの広間の箇所には小さな光点がいくつか点灯していた。

大きい光は――、広間の奥にでんと構えていた。

先代と霊夢は、見つめあい、うなづいた。



さて、どうやって踏み込もうかと考え込む、肉体派の先代巫女。



ギギギギギ……。



重厚な大扉が、勝手に、開いた。



再び見つめ合う母娘。



そして、やはり先程と同様にうなづくと、恐る恐る、しかししっかりとした足取りで、見通しの利かない闇に包まれた大広間に入っていくのだった。





「あ……アアアァァァァァ〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
「ひぎぃっ!? ふ、太いぃぃぃっ!!!」
「いひっ、ぎひひひひひ――――」
「やだ、やべでぇぇぇぇぇっ!!!!! も、もう、イぎだぐない゛いいいいいっ!!!!!」



先代巫女と霊夢の眼前には、『予想通り』の地獄絵図が繰り広げられていた。



失踪現場で発見された遺体(の一部)が、殆ど男性のものであることから、この展開は予想の範疇であった。



行方不明の女性達が、粘液らしきもので壁に貼り付けられ、無数の触手を口と性器と肛門に突き入れられ、陵辱されていた。



その内の一人の女性から、触手が抜き取られた。
彼女は腹が巨大なボールのようになっていた。
妊婦にしても、異常な大きさだ。
その腹が、うごめき始めた。



「おお……!? アオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ――ッッッ!!!!!」



べり……、メキブチャ……、グチャ……!!



「アギャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ――――!!」



グリメキバリボキメキャブチブチグキィッッッ!!!!!



女性の性器、いや、下半身から、身体が裂けた。



べちゃっ。


女性の身体を破壊して誕生した『ソレ』は、はっきり言って、醜悪だった。



小学生低学年くらいの子供のような体躯であるが、辛うじて人型をしているだけであって、断じて人間ではなかった。

灰色の体。
頭がイソギンチャク。
手足が触手。



ズドンッ!!

イソギンチャクヘッドが弾け飛んだ。

『ソレ』はしばらく床をのた打ち回っていたが、やがて動かなくなった。

先代巫女が、ショットガンを発砲したのだ。





「あらあら、私のベイベーに何してくれちゃったのかしらぁ?」



広間に轟く、舌足らずな少女の声。

先代と霊夢は声のしたほうを向いた、というか、見上げた。



広間の最奥。

うごめく触手の山の頂上。

王冠を被り、純白のドレスを着た、絵本から抜け出したようなお姫様のナリをした少女が立っていた。



先代巫女はショットガンを構え、マウントされたドットサイトの光点を少女に合わせた。

霊夢は自分の周囲に幾つもの陰陽玉を展開し、呪符と退魔針を構えた。



「まあ、こいつ等から生まれたベイベーちゃん達は、すぐに死んじゃうンだけどね〜」

少女の言葉の後、触手の群れが女性の残骸と『ベイベーちゃん』の死体に殺到して、あっという間に片付けてしまった。



「母様、何アレ?」
「海魔の一種らしいけど……、『核』は『ここのお姫様』の姿を模しているみたいね」

ヒソヒソ話をする母娘。

二人とも、『少女』の部分は触手の化け物の中枢部分だと、既に看破していた。

「子作りは下手なくせにヤりたがる所から見て……、まだ若造ね」

『博麗の巫女』として様々な妖怪と接してきた霊夢の見立てでは、この化け物は、まだ存在が確固としたものではないのだろう。
人間の捕食、女性との性交による精気の吸収と受肉した子孫を設けることで、この世にあり続けようとしているようだ。

だが、周囲の惨状と『少女』自身の発言から、その試みはうまく行っていないようだ。

「だ・け・どぉ……」

壁面の女性達が、あっという間に触手の大群に飲み込まれ、全員消滅した。

「素敵な霊力ぅ!! 『ゆりかご』は、あなた達二人いれば十分みたいねぇ、うふ」

女性達を喰らって食欲を満たした『彼女』は、今度は霊夢達で性欲を満たそうと考えているようだ。

先端から先走りの粘液を滴らせた無数の触手が鎌首をもたげた。



触手共のど真ん中に放り込まれる手榴弾。



爆発を合図に、霊夢は弾幕を撃ちまくりながら、化け物の本体である『彼女』に向かって突撃した!!





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「お、おーい!! 東京湾のアレ、何かあったみたいだぞ〜」
「すぐ行く〜!!」

東京湾の大量の死者を出した事故。
特番を組んで実況中継をしているテレビ局が、ただ一局だけあった。

ボーダー商事が出資している局だ。

父は母の勤め先の関係からか、よくここの番組を見ている。

私は、二つのマグカップに注いだ淹れ立てのコーヒーと適当な茶菓子の袋を携えて、父の待つリビングに戻った。



「で、どうなったの?」
「うん、周りが立ち入り禁止になったって」

私が渡したカップのブラックコーヒーを啜りながら、父はテレビを指差した。

レポーターが東京湾をバックに、なにやら熱心にくっちゃべっている。

別のアングルからの映像や、空からの映像がたまに流れるが、全て昼のニュースで見た物だった。



「ママと姉さん、大丈夫かな?」

合成ビスケットを砂糖とミルクをたっぷりぶち込んだコーヒーで腹に流し込んだ私は、母と霊夢姉さんの身を案じた。

「大丈夫さ」

父は相変わらず暢気だった。

母の出張先では、どういうわけか、よく事故や事件が起きている。

その度に父は大丈夫と言い続けてきた。

確かに、母は毎回ピンピンして、お土産を携えて帰ってきたが。

今回は、逢って間もない肉親の姉も同行している。

心配だ……。



私はテレビを見つめた。

今のところ、身元の判明した犠牲者に、母と霊夢姉さんの名は無かった。





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「やっぱり素敵ね、あなた達ぃ!! 私、イッちゃうかと思ったわぁ!!」



海底に聳え立つ『城』。

半ば崩壊した大広間。

若干の浸水があるが、大広間を水没させるほどではなかった。

そして、広間を覆い尽くすのではないかというくらいに大量の触手の残骸。



全部、先代巫女と霊夢の二人がやったのだ。



「でもぉ〜、やっぱり私には敵わなかったわねぇ!! ねぇ、悔しい?」

二人から返事は無い。

「あはぁっ!! 母娘で乳繰り合うのに夢中なようね!! 私の最後の慈悲はお気に召したかしらァ、この変態!!」



触手に絡み取られ、武器も衣服も剥ぎ取られた先代巫女と霊夢は、互いの体と触手を擦り付けられ、粘液塗れになっていた。

二人の頭に触手が絡みつき、母娘の唇を無理矢理重ね合わせた。

「ふぐっ!? むちゅ、ちゅっ!!」
「ふっ、ぐぅ!? ちゅ、ぶちゅぅっ!!」

さらに二人の胸の谷間から太い触手が突き出され、母娘の接吻の邪魔をすると、今度はその生臭い粘液を滴らせる先端部を、二人は口と舌で奉仕させられた。

「ちゅぶっ、げっ!? ぶちゅうっ、ちゅっ!!」
「嫌ッ!! ちゅっ、ちゅっ、れろっ、はむぅっ!!」



「さぁて、いい具合に出来上がったことだしィ、お遊戯の時間は終わりよォ!! いよいよメイン・ディーーーーーッシュぅ!!!!!」

無理矢理やらされた母娘同士の愛撫と触手への奉仕で、荒い呼吸を繰り返すのみで抵抗などできない様子の先代巫女と霊夢。

触手に宙吊りにされたまま、『彼女』の前に連れてこられた。

「私直々に、あなた達を愛してア・ゲ・ル!!」

『彼女』は両手でつまむように、スカートの裾をたくし上げた。

そこに足は無かった。

無数の触手が『本体』である山のような巨体に繋がっていた。

その中の飛び切り太い6本の触手が、『彼女』の股間部分にそそり立った。



「じゃ、いっただきま〜〜〜〜〜っす!!!!!」

先代巫女と霊夢に、極太触手が3本ずつ、襲い掛かった。



最初は、秘所。

ジュブッ!!

「ぐ!!」

ズブッ!!

「嫌ぁ!!」



次にアナル。

グプッ!!

「う゛っ!!」

メリィ!!

「ぎゃ、は……」



最後に口。

ブチュゥ!!

「ぶふっ!?」

ズプリッ!!

「ふごっ!?」



「さ、サイコーーーーーよォ!!!!! あなた達ィ!!!!!」

目を潤ませ、口から涎を垂らしながら、『彼女』は叫んだ。

「霊力がぁ……、五臓六腑に染み渡るわぁ……」

ドレスの胸元をはだけ、薄いバストを自身の手で愛撫しながら、『彼女』は銘酒を飲んだおっさんみたいな感想を述べた。



「もっとぉ……、もっと、もっともっともっと!! 力も、快感も、もっと頂戴ィィィィィッッッ!!!!!」

激しくうごめきだす、先代と霊夢の肉穴を貫いている触手達!!



「ぶごおぉぉぉぉぉっ!?」
「ぶぎぃあ゛がぁぁぁぁっっっ!!」

ぐちゅぎゅちゅぶちゅぅぅぅっ!!
にちゃぬちゃぶちゃめきょぉっ!!


人が発したとは思えない絶叫。
人が発すると命にかかわる、触手が穴でのたうつ音。


「きんもち、イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!!!」

一人、快感に酔いしれる『彼女』。

僅か一分ほど経過しただけで――触手に蹂躙されている先代と霊夢にとっては地獄の一分であったが――、『彼女』は絶頂した。





ブッバアアアアアアアアアアァァァァァァアァァアアァァァ――ッッッ!!!!!



ボゴオオオオオォォォッッッ!!

はちきれんばかりに膨らむ、先代巫女と霊夢の腹。

穴と触手の接合箇所から噴水のように漏れだす白濁した粘液。

二人は声も無く――口は塞がれているから当たり前――、この地獄の攻めに白目を剥くことしかできなかった。



二人の三穴から引き抜かれる触手。

ジュッッッブンッ!!

「ぉ……、がぁ……」
「ぇぅ……、ぉえぇぇ……」

開きっぱなしの穴から滴り落ちる粘液。

『彼女』は先代巫女と霊夢の惨状を見て、劣情しか催さなかった。



「ほんっとに、素敵ねあなた達ィ!! 並みの雌なら一突きでバラバラよォ!!」

丈夫な『ゆりかご』にして『玩具』を手に入れて御満悦の彼女。

自分にピッタリのガラスの靴を手に入れたお姫様のような、邪気の無い笑顔を意識がトびかけている二人に向けた。





無数の触手に覆われる、先代巫女と霊夢。

『彼女』からは、二人の陵辱に使用した物と同種の極太触手がさらに数本生えてきた。



「あなた達は、私とベイベー達に囲まれて、幸せに暮らすのよ……」

『彼女』は、王子様に愛を囁くお姫様のように、触手に覆われた二人に語りかけた。



「永遠にねぇ……。――ッ、キャ〜〜〜〜〜ッハッハッハアアアアアッッッ!!!!! 毎日、ファック三昧よォォォォォッッッ!!!!!」

『彼女』は、お姫様に毒リンゴを食わせることに成功した魔女のばあさんのような高笑いを発した。



ギ……ギギギ……ギィィィィィ……、バタンッ!!










『城』に、静寂が戻った。










こうして、

楽園からやってきた巫女と、

楽園を旅立った元・巫女は、

かつて、夢の王国と呼ばれた海底で、

海魔の姫と、快楽に満ちた毎日を送ることになるのでした。



どっとはらい。










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海に立ち上る、水柱。





私と父は、食い入るようにテレビを見た。





画面は東京湾からスタジオに変わり、

ニュースキャスターが、何か爆発が起きたと、見りゃ分かることを尤もらしく喋っていた。










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悪夢の御伽噺は、エクストラステージに突入した。





閉ざされた大広間の扉。





内側から弾けとんだ!!





どっっっ……ごおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――んんんっっっ!!!!!





べちゃんっ。





扉の残骸の破砕音に比べれば、小さな小さな、何かが地べたに落ちた音。





「かひゅ〜……、かひゅ〜……」

息も絶え絶えの、半裸の少女。

海魔の姫を気取っていた『彼女』は、無様を晒していた。



頭の王冠は失われ、

手入れされていた金髪はボサボサ、

ドレスは隠しどころを隠せない襤褸と化し、

触手の山と接合され、自慢の『逸物』が無数に生えていた下半身は失われ、

この状態だと大怪我した人間の少女に見える。



ぺた……ぺた……。

ぺたぺた……ぺた……。



誰かが二人、裸足で『彼女』の方へ歩いてきている。

「ひ……、ひぃぃ……」

つい数分前まで、己の絶大な力と快楽に溺れた笑みを浮かべていた美少女の顔には、今や恐怖しか張り付いていなかった。



ずり……ずり……。

見た目通りの、瀕死の少女程度の力しか出せない『彼女』。

ぺたぺたぺた……。
ぺたぺたぺた……。

彼女の元に向かう足音は、全然急いでいなかった。

ずり……ずり……。

どんっ!!

「ぐぇっ!?」

這っていた『彼女』は、頭を踏みつけられた。

「何処行くのかしら?」
「何時までも一緒……って言ってなかったっけ?」

『彼女』に恐怖を与えた二人の女性。

「ご……、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃ……」

『彼女』には、謝罪しか口に出すことができなかった。

「何謝ってるのかしらね〜」
「霊力を欲しがっていたようだから、お姉さん、お腹が破裂するまでたっぷりサービスしてあげたのにね〜」



そう。

霊夢は、『博麗の巫女』の霊力をたっぷりと『彼女』に御馳走してあげたのだ。霊撃として。



「お嬢ちゃん、私達を愛してくれるんじゃなかったの? おばさん、大人のテクニックを披露してあげたのにねぇ」



そう。

先代巫女は、『博麗の巫女』時代から現在に至るまでに培った、呪術を交えた戦闘技術をたっぷりと味あわせてあげたのだ。

巫女時代に比べれば枯渇したとはいえ、このセカイでは比類なき霊力をまだ持っている先代巫女は、手足にそれを纏わせて刃物や鈍器とすることができた。
銃火器の使用は、相手に対するハンデでしかない。



「お土産も貰ったし――」
「おばさん達、そろそろ帰ろうと思うの〜」
「は、はいぃ!! どうぞお帰りくださいぃぃぃっ!!」



そう。

先代巫女と霊夢の目的は、『彼女』から『お土産』――精液だか卵だか種子だか――を貰うことだった。

そうでなければ、『彼女』のような小物に玩ばれたりするものか。

でも、まあ、おかげで結界を張った身体の中に貴重なサンプルを採取することができた。



「じゃ、さよなら」



だから――。



「永遠にね」



『彼女』は、用済みだ。



先代巫女は、『彼女』の頭を踏みつけた素足に力を込めていく。

ぐぐっ、メキメキメキィ!!

「いだいいだいいだいぃぃぃっ!! ごべんだざいごべんだざい!! もう、おいたはじばぜんがら、ぼうゆるじでぐだざい!! じにだくありばぜん!!! いたぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

『彼女』は、少々悪さをしすぎた。

だから――。



ぐしゃっ。









「――状況終了。じゃ、やって頂戴」

無線機を拾い上げ、海上の部下とやり取りをする先代巫女。

「この後、どうすんの」

霊夢は先代に尋ねた。

二人とも全裸だ。

いい加減、帰りたい。

「この真上を飛んでいるヘリに魚雷を投下させたわ。ここは完全に破壊するわよ」
「大変じゃない。急いで逃げないと」
「……あ〜、そのことだけど……」

急に口ごもる先代巫女。

「……どうしたの、母様?」

先代は黙って、進入経路だった方角を指差した。

完全に瓦礫に埋まっていた。

『彼女』が二人に逃げられないように、再び侵入者を許さないように、破壊したようだ。



「良かったわね、霊夢。地獄の特訓が無駄にならないわよ〜」



霊夢は、闇に包まれた天井を仰ぎ見た。



対潜ヘリから投下された二発の魚雷は、見事に仕事を成し遂げた。










海中から、生身で、全裸で、水圧と爆発に晒されながら、霊夢と先代巫女は、見事に生還を果たした。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





明日には、仕事を終えた霊夢姉さんは帰ってしまう。

なので、今日の夕飯は、父が腕によりをかけて準備した、すき焼きだ。



今は夕方。

姉さんは、リビングのソファに腰掛けて、ソワソワしている。

今夜のすき焼きパーティーに、霊夢姉さんの旦那さんが来るそうだ。



「姉さん」
「はいぃっ!!」

ビックリした姉さん。

「落ち着いたら?」
「お、落ち着いていますですよ、はい」

そういっているが、さっきからテレビを見ているようで見ていない。

テレビでは、先日起きた東京湾大量死事故の調査の進捗についてやっている。
まあ、お上が宜しくやってくれるでしょ。

次のニュースは……、あ、家とちょびっと関係あるかな。

母が勤める大企業、ボーダー商事のCEO、八雲 紫がお忍びで外出したのを追跡取材しているそうだ。

八雲 紫といえば、美貌と辣腕で有名な女経営者として有名で、また、かなりの遊び人としても有名で、彼女に食われた男性、女性は数知れず。

だが、そんな紫サマが本気になった相手がいるとの噂が流れた。
いつの間にか、紫サマの指に嵌った婚約指輪。
ひょっとしたら、今日、その幸運な相手の正体が明らかになるかもしれない。

テレビには、紫サマのリムジン及びそれを追跡している数台のバイクを上空から撮影した画像が映し出されている。

……どっかで見た場所だな。

それに、さっきからヘリの爆音がうるさい。

閑静な住宅街を走っていたリムジンが、とある一軒の家の前に停車した。

……どっかで見た家だな。



「会長ったら霊夢に会いたいからって、首相との夕食会の約束をすっぽかしたんですって。藍が、予定の調整が大変だったって愚痴ってたわ」
「紫さんは相変わらずだね。でも大切な人や物は命をかけてでも守ってくれる人だから。霊夢、良い旦那さんと結婚したね」
「父様……、ありがと……」



私は、ギギギと首を曲げ、仲睦まじい、両親と霊夢姉さんの方を向いた。

三人も私の方を向いた。

注目を集めた私は、言うべき事を言った。



「パパ、ママ、レイムネエサン、ドウイウコト?」





ピンポーン。



チャイムの音。



テレビには、我が家の玄関のチャイムを鳴らす、花束を持った金髪美女と、その秘書らしき美女が映っていた。




 
いちおう、百物語参加作品です。

しかし、ホラー要素は申し訳程度にしかありません。
過度な期待はしないでください。


2012年9月2日(日):コメントへの返答追加

>1様
霊夢と紫は互いにベタ惚れです。

>穀潰し様
百物語なのに、どうしてエロになったのやら、自分でも分からん……。
『廃棄物13号』は、コミックの原案も、映画のDVDも見ました。
場所以外、被害者が襲われる条件とか特に無いけどね。

>アキラメタ様
百物語参加条件はホラーなのでおどろおどろしい物を書こうとしたら、B級アクションホラーになってしまいました……。

>4様
外界は秘封倶楽部のセカイのつもりです。
首都圏は湾岸部は壊滅状態、遷都後の『東京府住民』達は21世紀初頭で時が止まったようなイメージ。
滅んだ夢の国は化け物の巣が似合うかな〜と思って設定しました。
かの国に喧嘩を売るつもりは毛頭ありません。
縮み上がるホラーを目指すつもりが、どうして大きくなっちゃった!?
ちなみにこの作品の霊夢は、少女時代よりは出るべき箇所のボリュームは若干UPしています。若干ね。
ついでに先代巫女は、よくあるイメージイラストそのまんまだとお考えください。
紫が霊夢妹に手を出した日にゃ……、早速離婚の危機!! 後、霊夢を交えての3Pか!?

>紅魚群様
日常パートは、いつものように、脳内で設定を与えたキャラ達を勝手に行動させて書きました。
非日常パートは、趣味の厨設定全開バリバリで……。
ジークゆかれいむ!!

>6様
十代、つまり今の霊夢だと、書きたかった親子姉妹で酒を酌み交わすシーンに無理が出てしまうので断念しました。

>キーハック様
いずれ、魔理沙が信じなかった天を突く高さの塔も幻想入りしそう。
百物語なのに、痛快作品になってしまった……。
私の作品に登場するボーダー商事は、まあ、そういった非常識な超法規的国際組織だとお考えください。

>8様
百物語としては、確かに……。
普通の作品としては高評価を頂きまして恐縮です。

>ギョウヘルインニ様
脳内でキャラに設定を施し、環境を整え、GOサインを出すと、彼女達のセカイが『見えて』くるんですよ。
気が乗らない時は、セカイが見えなくなりますけどね。

>まいん様
自分の感知しない所で事態が進展して、日常が崩れ去る事こそ、最大の恐怖です。





多数の御意見、有難うございました。
予想した通り、ホラーとしては低評価でした。
次回の百物語では、他の作者様に負けないような本格ホラーを目指したいと思います。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/08/20 02:39:33
更新日時:
2012/09/02 20:47:38
分類
産廃百物語B
外界に来た霊夢
霊夢の家族である、先代巫女夫妻と初対面の妹
東京湾連続失踪事件
ボーダー商事
民間軍事会社『THE
WATER
DUCTS』
母娘触手陵辱
シメはやっぱり、ゆかれいむ
1. 名無し ■2012/08/20 10:45:18
霊夢の旦那は誰かと思ったが作者の趣味とタグ通りだった。
夢の国は夢がなきゃ生きていけないのか。
霊夢の為には何もかも放り投げる紫さんかわいい!
2. 穀潰し ■2012/08/21 00:09:02
先任曹長殿の陵辱シーンで今日も飯が旨い。
にしても強者しか居なさそうな民間軍事会社ですね!!
どうでもいいけど、この作品を読んでいて『廃棄物13号』が出てきた私はもういい歳。
3. アキラメタ ■2012/08/21 09:58:53
ガンアクションに陵辱にゆかれいと、専任曹長さんの趣味盛りだくさんの作品ですね。
さすが霊夢!触手なんか敵じゃないぜ!
4. 名無し ■2012/08/21 15:44:40
やべえ…凌辱シーンを読んでても危機感を覚えなくなったw
今回一番ドキドキしたのが「まさか今回のやられ役って某著作権王国キャラのリスペクトなのか!?」
だった俺は明らかにズレてきている…と、それはさておき。

2人とも捉えられて母娘なのに無理矢理キスさせられるとかもう最高だよね!
一方で風呂場での姉妹丼とか定番中の定番だけどやっぱ避けて通れないよね!
…原作での姉妹ネタはそこまで大好物ってわけでもないのに
霊夢の独自設定での近親モノは何故こうもそそるのでしょうか(爆
妹さんはこの後で義兄様ことゆかりんのテクニックを存分に堪能するといいと思うよ!

…でもごめんなさい、俺ん中じゃ三十路霊夢は紫と同等かそれ以上のナイスバディなんだ(バカ
5. 紅魚群 ■2012/08/23 00:47:35
オリジナリティある壮大な世界観が面白い。未来世紀末な外界、ボーダー商事、TWD、そして博麗一族。先代巫女と姉霊夢がとてもかっこよかったです。そんな二人が陵辱されるシーンもなんとも…。いやぁ、霊夢の旦那さんが羨ましいですね。え、旦那さんは女性?それゆかりんじゃないですかーやったー!()

ゆかれいむ万歳!
6. 名無し ■2012/08/24 22:15:29
発想が凄くいい。けど霊夢ちゃんが十代じゃないんだ。
二次元は若い子の方が純粋に良い(妄言)
7. キーハック ■2012/08/27 00:22:43
東京も今や幻想となりましたか。
避けて通れない運命のようにも感じます。

楽しませて頂きました。いやぁビールがうまい。
ボーダー商事はスピードワゴン財団やハウンドのようですねぇ。
8. 名無し ■2012/08/27 20:02:08
確かにホラー要素は欠片ほどもないから百物語として読むならいまいちだけど、単品で見ればわくわくしながら楽しく読める話だった。
アクションとエロスとロマンスという押さえるところをしっかり押さえた、ひたすら読みやすい良作ですな。口当たりがいい。
9. ギョウヘルインニ ■2012/08/31 03:19:28
世界観がすごいです。
見えているものが違うのでしょう。
すごかったです!
10. まいん ■2012/08/31 20:19:36
何がホラーかと言ったら
20余年姉がいる事を知らず、姉の夫が世界有数の大企業の最高責任者で
その夫が自身の家に来る様子を実況生中継している所だったと思う。
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