産廃百物語B『触らぬ箱に祟り無し』

作品集: 30 投稿日時: 2012/08/21 01:57:34 更新日時: 2012/08/25 01:56:48
1つ賭をしよう。
コレを此処に置いておく。
紅が取れば君の勝ち。黒が取れば僕の勝ちだ。
どちらが勝っても子供達には良い薬になるだろう。



魔理沙がそれを見つけたのは、いつものように中古品(がらくたとも言う)を扱っている馴染みの店を家探ししていた時だった。
一見したところそれは、両手に収まる大きさの箱である。全体に複雑な文様が掘ってあるその箱は上下左右の区別が非常に付き辛い。

「なぁこーりん。これ何だ?」

魔理沙はそれを店主へと差し出した。店主は自身の能力を使用し、その箱の名前と使用目的を探り出す。

「これはチッポウというらしいね。何かを入れる為に作られたようだ」
「そりゃ箱なんだから物を入れるだろうさ。で、その『何か』ってのは何なんだ?」
「僕が聞きたいね。中に入れていた物もチッポウという名であることは判るけど」
「チッポウバコってことか?」
「いや、別の名前もあるようだけど……」

そういって店主が箱を魔理沙へ突き返した。受け取った箱を弄くり回す魔理沙。
どうやら複雑な文様は絡繰りとなっているようで、箱は簡単には開かない。
その箱のそっけない態度が魔理沙の探究心を大いに刺激した。もとより、知識の吸収や研究には一も二も無く飛びつく少女である。

「面白そうだな。それじゃこーりん、これ借りていくぜ。私が正体を突き止めてやるよ」

だから店主が魔理沙の言い放った言葉を理解する前に、彼女はは箒に跨り店の外へと飛び出した。
吹き飛ばされた扉が地面に落ちる音と、舞い上がるほこりを置き土産にして。

「……またか、ツケは高く付くからね」

魔理沙の巻き起こした埃で咳き込みながら、店主は諦めたように一言呟いた。



帰宅した魔理沙は、帽子から箱を取り出すと早速弄くり回し始めた。

「お……こいつは……なかなか……」

右に滑らせ、左にはめ込み、上へずらし、下へ持ち上げる。複雑な文様の1つ1つが絡繰りとなっており、手順を1つ間違えると途端に振り出しへと戻ってしまう。
何時しか魔理沙はその箱を開けることに躍起になっていた。
夕方に帰宅したはずなのに、気付けば外は月が中天へと昇っている。しかし、それだけの時間を掛けても箱は開くどころか、開け方の見当さえ付かなかった。

「あーもうっ!!」

観念した魔理沙は机の上へと箱を放り出し、そのままの勢いでベッドへと倒れ込む。
晩ご飯を食べていないことに気が付いたが、不思議と空腹ではなかった。それより、ずっと箱を見つめて弄くり回していた所為だろうか、手と目がジンジンと滲むように痛む。
う〜だのあ〜だのぐだらぐだらとした声をあげながら、痛む目と手を揉み解しているうちに、鳴りを潜めていた疲れがぶり返したのだろう。
明日は誰かに知恵でも貸して貰うか、と誰と無しに呟いた魔理沙は、その言葉を最後にそのまま意識を手放した。


次の日、未だ違和感を覚える目と手を無視して、魔理沙は妖怪の山へと向かっていた。彼女は絡繰り箱が自分の手に余ると考え、工作好きの河童へ助言を求めようとしている。
箒でひとっ飛び、とまではいかないにしても、何度か山を訪れたことのある魔理沙にとっては勝手知ったる地形だ。すぐにお目当ての川と、そこでくつろぐ河童を見つける。

「よ、にとり」
「あ、魔理沙。どうかした?」

地面へと降り立った魔理沙に気が付いたのか、にとりと呼ばれた河童も軽く挨拶を返す。
お互いに機械・魔法と畑違いではあるものの、その技術に関しての向上心と学習意欲は通じる物がある。
そんな訳でこの2人は暇があるとこうして出会い話し合う程度の仲だった。

「いやな、面白そうな物見つけたんだけど、これが手強くてな。お前さんだったらなんか判るかと思ったんだが」

そう言って魔理沙は帽子から件の箱を取り出し、にとりへと手渡す。それを受け取ったにとりは物珍しそうに眺め、やがて目を輝かせる。

「おおっと、こりゃ凄いね。私達河童も手先が器用だとは自負してるけどさ、人間ってのは時々凄いモノを作るもんだ」
「そんなに凄いのか」

機械、特に絡繰りに関しては幻想郷内でも自他共に一番と認める河童である彼女が、手放しに褒めている。それだけに目の前の捻くれた絡繰り箱に集約された技術力の高さが伺えるという物。

「絡繰りだけでもかなり複雑なのに、この小ささに収めるってのが凄いんだ。しかも私達みたいに機械があるわけじゃない。手作業でこれを作るってのは、相当手間がかかるよ。これどこで手に入れたのさ?」
「さあ。馴染みのがらくた屋で見つけただけだしな。でもまぁそうなのか? 私にはただ単に手慰みの箱にしか思えないけど」
「にしてもこの絡繰りのややこしさはちょっと異常だけどね。まるで開けさせたくないような……」

魔理沙と会話を続けている間も、にとりは箱を弄り続けていた。

「魔理沙、これちょっと借りても良い? この絡繰りに技術者魂が燃え上がった」
「おいおい、そんなこと言って。まさかコレクションに加えるとか言わないだろうな?」
「魔理沙じゃあるまいし、そこの所は大丈夫だ。幾ら何でも盟友の持ち物を盗もうとは思わない」
「まぁお前が嘘を付くとは思えないけどな。貸すのは良いが壊さないでくれよ?」
「それは保証しかねるね」
「おい」

互いに笑い合いながらの会話。しばらくしたらまた来てよ、というにとりの言葉に頷いた魔理沙は、再び箒に跨り空へと飛び出した。
その後馴染みの魔女とお茶を嗜み、ついでに魔導書を何冊か『借りて』帰宅した魔理沙。
予想以上のお土産にホクホク顔だった彼女を小さな異常が襲う。

「おう?」

ふらりと立ちくらみを起こした魔理沙は慌てて机に手を突いて身体を支えた。
しばしじっとしていると、気分も良くなってきた。今日は飛び回りすぎたか、と反省した魔理沙は晩ご飯と入浴もそこそこに寝床へと入り込んだ。



「どんなもんだ?」
「いやぁやっぱり手強いね。仲間にも試させてみたけど悉く返り討ちだよ」
「お前さんだけじゃなく、他の河童もか。こいつはますますあの箱を開けてみたくなるな」

川の縁でくつろぎながら、にとりと魔理沙は談笑していた。話題に上るのは巷の噂や自分の持つ技術、そしてあの箱のこと。
魔理沙があの箱をにとりに預けてから数日が経過した。しかし『幻想郷一器用な種族』を自負する河童の彼女にかかっても、箱は素直にその口を開かない。

「これはもしかすると、よほどの物があの中に収められているんじゃないかな」

異常とも言える複雑の絡繰りを有する箱に、そしてその中身に、今も弄くり回し続けるにとりは思いを馳せる。
その楽しそうな横顔を眺めていた魔理沙は、ふと彼女の変化に気が付いた。

「なぁにとり。何だかお前、顔色が悪くないか?」

魔理沙の言葉に、にとりは苦笑を浮かべる。それは肯定の意味だった。

「最近腹調子が悪くてね……その所為か貧血も起こしやすくなったし」
「おいおい、じゃあこんな所でくつろいでないで医者にでも行ったらどうなんだ?」
「それがねぇ……」

言葉を濁すにとり。彼女が困ったように頬を掻く仕草を見て、魔理沙も合点がいった。
何のことはない、ただ単に彼女は恥ずかしいのだ。
河童にとっては妖怪の山の外に出るだけでも大事なのに、それが医者にかかってあまつさえ「お腹の調子が……」などと言った日には何処ぞの烏天狗が嬉々として食い付いてくるに違いない。
それが理解でき、にとりの気持ちを察せたからこそ、魔理沙はそれ以上何も言わなかった。

「それじゃあ私もそろそろお暇させて貰うぜ。また暇があったら寄るよ」
「今度魔理沙が来る時には、あの箱開けておくよ」
「期待しないで待ってるぜ」
「言ってくれるね」

にとりの体調を慮ってだろう。魔理沙はそう軽口を叩くと山を後にした。
それを見届けて、にとりも自分の住処へと帰っていく。
彼女が立ち上がった瞬間ふらりと蹌踉けたことに、本人を除いて誰も気が付かなかった。



もしこのとき、にとりが素直に魔理沙の言葉に従い、自身の体調不良を誰かに相談していたら。



あるいは結末は別のモノとなっていたのだろうか。



「魔理沙、あの箱開いたよ」

しばらくして再び妖怪の山を訪れた魔理沙をにとりの第一声が向かえた。
しかし、魔理沙はそれを手放しに喜べなかった。何故ならにとりが目の下に濃い隈を作っていたからだ。
それだけなら、熱中しすぎだ、と魔理沙も笑って済ましただろう。
しかし痩けた頬に土気色の顔色、落ち窪んだ目。妖怪に対し人間の健康判断基準などあてにならないが、にとりの状態は魔理沙の目から見て良いものとは思えなかった。

「酷い顔色だな。そんなにそいつにご執心だったのか」

内心の動揺を隠すよう、努めて軽く言い放つ魔理沙。だがその頬が僅かにひくついていたのを彼女は自認した。

「最近体調不良に加えて妙な夢を見るようになってねぇ。赤ん坊を抱いてるんだけど、それが誰か判らないんだ。私かも知れないし、他人かも知れないし」
「夢は深層心理の現れだっていうぜ? 案外お前さんの赤ん坊が欲しいって願望だったりしてな」
「私にはまだ早い話だ」

ふたりとも口調は努めて軽かったが、魔理沙の言葉の端々に動揺が見え隠れしていた。しかしにとりはそのことにも気付かず、ぼんやりとした視線を魔理沙に向けたまま、手に持っていた物を渡す。

「その箱、こんな物が入っていた」

そう言ってにとりが渡してきた物。それは一見したところ短く切られた干瓢に近かった。そして一寸程の長さのそれが一本、にとりの掌の上に乗っていた。
勿論魔理沙もにとりも、見た目どおりの干瓢とは露ほども思わなかった。

「なんだこりゃ? あの厳重さから見れば随分と貧相なお宝だな」
「私にも正体は判らない。でも箱の中にそれが七本程あったって事は、何か大事な物じゃないのかな?」
「ふーん……」

しげしげとそれを眺める魔理沙ににとりが箱を突き返す。それはしっかりと蓋が閉めてあった。

「何でまた閉めたんだ? これじゃ二度手間じゃないか」
「開けた状態と閉めた状態じゃ、絡繰りの動きも違ってくる。中身はそれだけだったから別にいいでしょ? まあ七本の内一本は開けた記念として私が貰っておくけどね」

にとりの言葉に魔理沙は一応の納得を見せる。家に帰ったら私も挑戦してみるさ、という魔理沙の言葉に、にとりも頷いた。
手に負えなくなったら何時でもどうぞ、と挑戦的に言うにとりに、魔理沙も笑みを返して山を後にした。
そして魔理沙が去った数時間後。
河城にとりは突発的な吐血と下血、そして『何か』による無数の外傷によって死に至った。
彼女の手には干涸らびた干瓢のような物が一本握られていた。



にとりに起きた異変など知るよしもない魔理沙は、相も変わらず夜分まで箱と格闘し、結局敗者となった。ジンジンと痛む目と指を無視して、八つ当たり気味に箱を机に放り投げ、風呂へと歩を進めていた彼女を再び違和感が襲う。

「……今月はもう来たはずなのに」

下腹部に走る鈍い痛み。同時に顔から血の気の引いていく感覚。軽い立ちくらみまで併発したそれは所謂月の物だった。
便意や尿意と違って腹の中に溜めておける物ではない。急いで対処しないと下着を汚してしまう。トイレへと駆け込んだ魔理沙は襲い来る鈍い痛みに耐えながら処置を行う。
と言っても下着にナプキンを当てるだけだ。竹林の医者に行けば痛み止めぐらいはくれるだろうが、わざわざ箒に跨って遠出するより、家でじっとしている方が刺激は少ない。
風呂は諦めて服だけ着替えた魔理沙はそのままベッドへと身を投げた。



それは奇妙な夢だった。
それは自分なのか他人なのか判らない。
ただ赤ん坊を抱いていたことは確かだ。

「ゆるしておくれ」

自分か他人か判らない。
でも誰かがそう言った。

「ゆるしておくれ」

次の瞬間には腕に抱いていた赤ん坊は、ただの赤い塊へと変化していた。



次の日彼女は顔に感じる奇妙な感触で目を覚ました。寝惚け眼で洗面台へと向かい、鏡を覗き込んで彼女の眠気は一発で吹き飛んだ。

「うわっ!? なんだこりゃ!?」

彼女の顔面は紅で斑模様に彩られていたのだ。慌ててベッドを確認すると、枕の部分が自分の顔と同じような模様に彩れている。その状況に魔理沙は身に覚えがあった。
眠りながら鼻血出すなんて赤ん坊かよ、と呆れながらもとりあえず洗面台で顔を洗う。顔にこびりついていた血が落とされたことによっていくらかスッキリもしたが、未だ下腹部に残る鈍い痛みと、汚れたシーツの洗濯を思い浮かべて、それも相殺された。
朝っぱらから陰気な溜息をつきながら服を着替えた魔理沙。
何だか食欲が湧かないと思いながらも、テーブルにつき、朝食を口に押し込んでいく。今朝見た変な夢の所為かと、もそもそと口を動かしていると、誰かがドアを叩く音が聞こえた。

「魔理沙さん!! 魔理沙さん、居ますか!! 文です! 清く正しい射命丸文でへぶっ!!」

何事かとドアを開けた魔理沙の目に、顔面を抑え蹲る射命丸文の姿が映った。どうやら魔理沙が勢いよく開いたドアに顔面を強打されたらしい。
プルプル震える姿が面白くてしばらく放っておく魔理沙。見せ物にされていると気付いた文がやおら立ち上がる。

「痛いじゃないですか! 何する……ってあややや、魔理沙さん随分と顔色が悪いですね。悪いキノコでも食べたんじゃないんですか?」
「挨拶も無しに人の顔を貶すとは烏天狗ってのは随分と躾がなってないな……で、朝っぱらから人の家の玄関を叩きまくるのは天狗の習慣か? それとも妖怪の山で流行ってるのか?」

挨拶代わりの軽口の応酬。しかしそれは血相を変えた文に途切れさせられた。

「そんなことはどうでもいいです! とにかくお話を聞かせてください!」
「自分から話を振っておいて酷い言いぐさだが、話って? 何の話だ? 珍しいキノコのことか? それともこーりんの所で見つけた……」
「そんなことはどうでもいいです! それよりにとりの死に方に何か思い当たる点は無いんですか!?」

文の言葉に、魔理沙は一瞬硬直する。彼女の脳が文の言葉を理解するのに数秒の時間が必要だった。

「待てって! 何だって? にとりが死んだ? そいつはタチの悪い冗談だぜ。何せ私は昨日そのにとりと会ってたんだからな」

誇張表現の過ぎる新聞を書くことで有名な射命丸文も遂に嘘を付くようになったか。
そう笑い飛ばそうとした魔理沙に、文は真剣な表情で手帳を広げ、一面を見せつける。
そこには多数のメモに紛れて、太文字で「河城にとり急死! 原因は新手の妖怪か、それとも未知の細菌によるものか!?」などと書かれていた。
魔理沙は顔を上げ文を見て、再び手帳に視線を落とし、そしてまた文へと顔を上げた。
魔理沙の目が顔を上げるたびに胡散臭い物を見るかのように細まっていく。
どこぞのスキマ妖怪を見るような目で見られた文が、慌てて否定する。

「信じてませんね!? 私だって驚いてるんですから。だいたい私はこんな不謹慎なネタ作って河童に喧嘩を売る気もありませんよ」
「じゃああれだな。最近は冷えてきたと思ってたのに、いつの間にかエイプリルフールとかいう日が来てたんだな」
「だから嘘じゃありませんって! 信じてください!!」

胡散臭そうに見つめてくる魔理沙に、いつもの軽い雰囲気を消して否定する文。いつもは得意の二枚舌で相手を手玉に取ることが得意な文が、今回に限り、その様子を欠片も見せない。
その反応に情報の真偽判断を一旦保留した魔理沙は、手帳をつつきながら文へと質問する。

「しかしこの未知の細菌ってのは穏やかじゃないな。にとりの死因は何なんだ? 妖怪に襲われたんじゃないのか?」
「それが……その……」

途端に口を噤む文。普段の彼女の滑らかすぎる口を知っている者なら異常に思う程、その口が動きを止めていた。

「私も実際にその場に居合わせたのではないのですが……河童仲間が言うには、昨晩にとりの家を尋ねると既に死んでいたそうです。吐血と下血、それにいくつかの傷を負っていたようでして、遺体を見た仲間の河童が何人も吐いていた所をから察するに、相当酷い状態だったのではないかと。彼女、手に何か握っていたようですが……」

その光景を想像し、陰鬱たる気分に陥った魔理沙。珍しく写真がないのも、見る者の反応を予測しての処置だからだろう。
誰だって朝一番に配られる新聞に、血と糞尿でまみれた死体を載せられたら気分が悪くなるに決まっている。

「なんだってそんなことに……にとりに何か異常はなかったのか?」
「それを聞きに来たんですよ。にとりは死ぬ数時間前に貴女と会っていたはずです。その時のにとりの様子を教えて頂きたいんです。隠さずにきりきり吐いてくださいよ」
「隠すつもりなんか端から無いが……疑われてるとあっちゃ魔理沙さんも安心してベッドに入れないな。お前この後なにか用があるか?」
「いえ。貴女から情報を聞き次第編集作業に戻らなくては行けませんが……」
「じゃあちょっと上がっていけよ。玄関口で話すような気軽なもんじゃないだろ」

その言葉に文は少し思案した後、お邪魔しますと魔理沙の家へと入り込んだ。一旦台所へ引っ込んだ魔理沙がティーポットとカップを持ってきた時には、彼女は既に机へと着いて手帳を開いていた。
紅茶を注いだカップを文の前に置きながら、魔理沙も着席する。

「頂きますね……それで、実際の所貴女と出会った直後ににとりは変死しました。河童の中には貴女がにとりに何かをしたんじゃないかと疑う者も出ています。どうなんですか?」

普段の他人を煽るような取材の態度でない文に、多少面食らいながらも、魔理沙は身に覚えがないと答える。
それに、それはそうでしょうね、と文はどこか諦めたような口調で同意した。

「貴女がにとりを何かの実験台にした、ということも考えましたがメリットが存在しませんし、下手をしたら河童全体を敵に回すことになります。それに何かの毒物が原因だとしても貴女だけが無事なのもおかしな話ですからね。まぁこの点は竹林の医者の診断待ちですが……」

一息に話しきって文はカップに残っていた紅茶を飲み干した。まだ新聞が完成していないにも関わらず、ここまで魔理沙に情報を開示すると言うことは、文は新聞を完成させるより、変死の原因を探りたいと考えているのだろう。
まあ自分の目と鼻の先で知人がのたうち回って死んだと聞けば、誰だって原因を探ろうとする。
だから魔理沙も文の目を見据え尋ねた。

「私からも聞きたいんだが」
「何でしょう?」
「にとりが死んだ時、あいつは何か持っていたって言わなかったか? それは何なんだ?」
「血まみれでしたけど……他の河童が言うには一寸程の干物のような物……」

文がそう言った途端魔理沙が机の上に残っていた箱に目をやった。そこで文もようやく見たこともない箱が転がっていることに気が付いた。

「魔理沙さん、その箱は一体……」
「にとりが持っていた干物ってのは……この箱の中にあったらしい」

そこまで言われた勘の良い文は悟った。この箱ににとり変死の原因があるはずだと。
だがそれと同時に疑問も浮かぶ。にとりは変死したのに、箱を身近に置いている魔理沙は無事なのか。
その思考が視線に乗っていたのであろう、見つめられていた魔理沙が手を振って答えた。

「まあちょっとアレの不順はあったが……少なくとものたうち回りはしてないぜ」

僅かに頬を染めてアレと言い放った魔理沙に文は納得したと頷く。お互い年は違うと言っても女性であることに代わりはない。

「そうですか。しかし原因がないとも考えられません。一度その箱を竹林の医者にでも診て貰ってはどうですか?」
「医者が絡繰り箱を診察するってのも笑い話だな」

軽い口調でそう言い放った魔理沙だが、顔は笑っていなかった。彼女も薄々感づいてはいるのだ。目の前に転がる絡繰り箱に『何か』あるということが。
魔理沙からの証言を手帳に纏めていた文がそれとなく箱へと手を伸ばした。恐る恐る指先でつつき、異常がないと判るとそっと持ち上げる。

「……どうだ?」

知らず知らずのうちに手を握っていた魔理沙が尋ねる。それに文は、何もおかしな所はないですね、と応え箱を机に戻した。
一見すればただの絡繰り箱。しかし一度でもそれに対して嫌な感情を抱いた魔理沙は、もうそれを只の絡繰り箱とは思わなかった。
例えて言うなら毒キノコか、実験中の器具に近い。出来るだけ触りたくなかった。
それでもこのまま放置するわけにはいかないと、箱を布で包むと席を立つ。

「私はこれから永遠亭に行くが、文、お前はどうするんだ?」
「私は一旦御山へ戻ります。折を見て竹林の方へも寄らせて頂きますよ」

そう言うと文は魔理沙より一足早く家を飛び出していた。彼女の名残である舞い落ちる黒羽を目にしながら魔理沙も箒へと跨り空へ舞う。
その箒の先には布で包まれた箱がぶら下がっていた。



「異常なしね」

箱を手に検査室から戻ってきた永琳の言葉は、魔理沙の予測通りの物だった。

「あの河童さんの死に方を引き起こすような細菌、毒物は一切感知されず、よ」
「そりゃそうだろうな。そもそも未知の細菌や毒物が原因なら真っ先に私がやられている。でもそれじゃ、にとりがやられた理由はなんなんだ?」
「それは判らない。箱自体に異常はないわ。ただその中に入っているっていう代物に関しては何ともいえない。よほど密閉性が高いのか中を診ることも出来ないし、素直に開けようと思ってもこの絡繰りはどうにもならないわ」
「お前さんでも駄目なのか」

月の頭脳の異名をとる八意永琳を持ってして、どうにもならない絡繰りとは一体どれほどの物なのか。

「時間を掛ければ可能でしょうね。でも私が智者と呼ばれるのは、ただ単に膨大な経験と知識に能力を合わせているから。そもそも絡繰り箱と触れ合うような生活を送っていなければ意味を成さないわ。それに対する経験がないんですもの」

腕を組みながら溜息をつく永琳。

「貴女の話を聞く限りじゃその箱と言うより、中身に問題がありそうね。かといって下手に箱を壊して取り出して事態を悪化させたくないわ。幾ら不死とは言え、あんな死に方は御免よ」

にとりの死に様を思い出したのだろう。永琳はその端正な顔を僅かに歪める。そんなに酷かったのか? という魔理沙の問に、簡潔に答える。

「私でもしばらくは食事を遠慮する程度よ」

永遠と言うに相応しい時間を過ごしてきた彼女は、その時間の中で幾多の死を見てきたことだろう。そしてもはやそれに慣れてしまっているはずだ。
そんな彼女が二度と見たくないと言うのは、一体どれ程無惨な死に方であったのだろうか。
僅か十数年程しか生きていない魔理沙にはとても想像できなかった。

「もし私にも判らない細菌や毒物による物だとしたら、一番手っ取り早い対処手段は、その箱ごと焼き払う事ね。貴女の魔法なら消し炭も残さずに焼き払えるでしょう。被害をこれ以上広げず、尚かつ処理すると言ったらそれぐらいしか思いつかないわ。もしくは根本的に別の原因があると考えるか」
「別の原因?」
「呪い、祟り、魔法、いくらでも原因は予測できるし、それならば医者に特化した私が感知できないのも道理ではなくて?」

その言葉に魔理沙は手を打った。どうして今まで気が付かなかったのか。

「なるほどな……魔法だったら私にわかる。となると」
「呪いか祟りか。どちらにせよここから先は私の領分ではないわ。博霊か守矢の巫女さんに頼んでみなさい。まぁ守矢のは厳密には巫女ではないようだけど」

そう言って永琳は魔理沙が持ってきた時以上に厳重に包まれた箱を返す。それを箒の先に括り付けながら礼を述べる魔理沙。

「そうだな……助かったぜ永琳。診察料はツケといてくれ」
「ツケは信頼されてるお客がする物だけど……今回に限り代金は入らないわ。結局の所私は医者としての仕事は一切していないのだから」

永琳の言葉には病人を救えず、あまつさえ原因を突き止められない悔しさが滲んでいた。
魔理沙とて友人が死んでいる。その気持ちは痛い程理解できた。
一言じゃあな、と残し、魔理沙は既に月が輝きだした空へと飛び出した。



提灯も要らないほど月の明るい夜だった。その中を幻想郷でも1、2を争う速度をもって夜空を駆け抜ける魔理沙は、ただ博霊神社へと急いでいた。
彼女は永琳が箱から原因を見つけられなかった時点で、変死の原因が毒物や細菌だとは考えていなかった。
そして永琳が挙げた新たな原因。
何故今まで気が付かなかったのかと自分でも呆れる程、それは身近な物だった。
魔法に呪いに祟り。幻想郷では意外と身近にある物だ。現に知り合いである都会派魔女は、呪術師としての一面もある。彼女だって時には人形を使って悪戯程度の呪いを掛けたりしていた。
そこから推測するに、この箱には何か呪いのような物が掛けてあったのではないか。
もしくはこの箱の中身にだろうか。
そうであるならば、四六時中箱を身近に置いていた自分よりも、その箱の中身を直接触れたにとりの方に影響が大きかったのも納得できる。
そして呪いや祟りと言えば巫女である霊夢の出番だろう。普段の態度は置いておくとして、霊夢の実力は折り紙付きである。おそらくこの箱、もしくは中身に掛けられた呪いも解いてくれるだろう。
自分ではどうしようもなかった事態を、霊無が片手間に解決する姿を脳裏に抱いて、魔理沙は複雑な感情をその胸に宿した。
何時もこうだ。私がやっと一歩進めたと思ったら、あいつはもうずっと前を歩いている。
それらは羨望であり、持って生まれた才能の差に感じる嫉妬であり、霊夢の実力に対する憧れであり、自身の力の無さに感じる怒りだった。
と、魔理沙の注意が一瞬逸れたその時だった。

「いっ!?」

彼女の両目に鋭い痛みが走った。虫でも飛び込んだかと目を擦ってみる物の、痛みは一向に治まらず、むしろ増すようだった。
それだけではない。
箒を握る手も、何時しかジンジンと痛み出していた。感じたことのあるその痛みを思い出し、魔理沙の背中に冷や汗が浮かぶ。
それは数日前に箱を弄っていた時に感じた痛みを同じ物。
あの時は只の疲れだと考えていた。だが今は?
ことここに至ってようやく魔理沙も理解した。それらは全て、この箱の影響だったのだと。
そうだ。幾らにとりの方に影響が大きかったからと言って、それで私が無事に済む保証はない。下手をすれば……。
そこまで考えて魔理沙の脳裏ににとりの死に様が浮かぶ。騒ぎ立てることを生き甲斐とする文と、数百数千の死に方に触れ、慣れているであろう永琳が、そろって口を噤むような死に様。
決して体験したいとは思わない。
急げ、と魔理沙は自身に力を込めた。神社にさえ着けばいい。こんな夜中にたたき起こされるであろう霊夢の不機嫌も、今の私の身体に起きている異変に比べれば小さな物だ。
しかし、魔理沙の急かしに反して箒の速度は一切上がらなかった。それどころか徐々に落ちている。
まさか、と痛みの為浮かんできた涙に滲んだ視界で、魔理沙は箒の先端に吊された箱を目にする。

「……嘘だろ」

箒の先端にぶら下げられた箱。そこから黒い靄のようなものが立ち上っていた。
普段の魔理沙であれば目の錯覚で済ます程度だ。でも、今の状況でそんな脳天気なことは言っていられない。
箒の速度が目に見えて落ちてきたのもコイツの所為か、と魔理沙は歯噛みした。
正確に言えば、箱が魔力を奪っているのではなく、魔理沙の身体自体がもう魔力を使えなくなっているのだが、焦りだした彼女にその事はわからない。
ただひたすら神社へと急いでいた。
しかし、その努力も無駄だった。

「!? しまっ……」

酷くなった目と手の痛みによって魔理沙の集中力は途切れ、その結果飛行魔法は消え去り、彼女は地面へと投げ出された。
辛うじてシールドを張る程度は出来たものの、今までの飛行で付いた速度までは殺せない。
ゴロゴロと地面を転がり、箒と箱から数メートル放されて魔理沙は地面へと横たわった。

「うう……くそったれ……」

体中擦り傷だらけで、もはや何処が痛いのかよく解らない。顔面も強打したのだろう、鼻血も出ている。
そして少し離れた場所に箱。もはや素手で触るのも嫌なそれは落下したにも関わらず布に包まれたままだ。
その箱に向かって魔理沙はミニ八卦炉を構えた。もっとも名称こそ同じものの、普段の弾幕ごっことで使う物とは少し違う。発動まで時間がかかる替わりに威力は桁違いだ。それこそ山が抉れる程度だ。
今回の事件は幻想郷全体で見れば些細なことだったのだろう。妖怪の一匹が不自然な死に方をした、それだけだ。
そこに奇妙な絡繰り箱さえ関わっていなければ、そしてそれを見つけだしたのが自分自身でなければ、魔理沙はこんな深夜に箱に向かって八卦炉を構えるという珍妙なポーズをとっていなかっただろう。
でも、それも終わりだ。この箱はここで焼き払う。媒介となる物が無くなりゃ、呪いだって存在できないはずだ。
少なくなった魔力をかき集め、八卦炉へと注入。有る男性に作ってもらったそれが鮮やかに輝き出すと、魔理沙は鍵となるスペル名を言い放つ。

「ファイナル! マスタァァー! スパァァアアクッ!!」

もしこの時上空から見ている者がいたとしたら、その者の目には、一本の光の道が映っていたことだろう。比喩でも大袈裟でもなく、魔理沙を起点にして箱を通過し、その奥の森と山を消し飛ばして一本の道が出来ていた。
極太の光の奔流はそのただ中にある物全てを存在すら許さず消し去った。
その光が収まった徒には半円形に抉れて白熱した大地と、ぽっかりと中腹に穴を開けた山が1つ。
そして殆どの魔力を使い果たした魔理沙は、存在していたであろう箱が綺麗さっぱり消滅しているのを見て、よしっ! と拳を握った。



だから気が付かなかった。

確かに箱は消滅した。

でもそれは入れ物と『カタチ』が壊れただけで。

中に入っていた『モノ』は何も影響を受けていなかった事に。



「はは……やった……」

自分のしでかした痕跡に満足そうに頷く魔理沙。
腹の底から何か沸き上がってくるような感覚。喜びの感情だろうか。
それを魔理沙は声に出そうとして。

ごぽり。

替わりに出てきたのは血の塊だった。

「………ぁえ?」

ごぼごぼと嫌な音を立てて魔理沙の口から血が零れた。まるでもともと口の中一杯に血を溜めていたかと思う程の吐血。

「うぇ……げぼっ……ぐぅぇえ」

ぺたと腰を落とし、魔理沙は口を押さえた。自分の身に起こっていることが一切理解できず、溢れ出る血を押し戻そうとする。
しかしそれだけではなかった。
ぐちゃり、と尻の下で嫌な音がした。
大量の吐血によって既に真っ青な顔のまま、魔理沙は視線を下に向ける。そして音の原因を探る為そっとスカートを持ち上げた。

「ひぃっ!?」

彼女の目に飛び込んできたのは真っ赤に染まったドロワーズだった。肛門と子宮からの出血によってそれは既に下着の役割を果たしていない。
それを認識した瞬間彼女を別の異変が襲った。
ぎゅるるるると、腹部から聞こえる音。
こんな異常事態だというのに、便意だけはすこぶる快調だった。いやこんな状況だからこそ異常と言うべきか。
ただ1つ普段と違うところをあげるとすれば。
魔理沙に耐えきる体力がなかったこと。

「ぅぁ……やだぁ……やだよ」

必死で肛門へ力を込める。しかしへたり込んだままと大量の出血によって意識が緩んだ瞬間。

ぶりゅ。

「ぃぁ……」

僅かながら漏れた感触を感じ魔理沙は思わず涙を零した。
『車と出かかった物は急には止められない』とは誰の言葉だったか。魔理沙は今まさにその状況だった。
一度『出た』と認識した肛門の自律神経は『既に排泄準備を整えた』と勘違いし、その内包物を一気に解き放つ。

ぶびゅっ! べちゃっ! みちみちぶりゅ! ぶりゅりゅりゅりゅりゅ……。

「ひぃあ……」

ぽろぽろと涙を零しながらもはや魔理沙は言葉もなかった。彼女とて年頃の女性だ。それがよりにもよって糞尿を漏らしてしまうなど顔から火が出るなどというレベルではない。幸いなことに誰か見る者がいるわけではないが、それで魔理沙の泣き出す程の羞恥心が消えることはない。
しかし彼女に自分の失態を泣いている余裕はなかった。

「………いぎぁっ!?」

下腹部を唐突に襲った激痛に魔理沙は声を上げる。下痢や生理とは違う、純粋な激痛。
まるで内臓を握りつぶされるかのような痛みに、思わず腹を押させてうずくまる。反対に持ち上がった尻からは未だに糞尿が垂れ流されており、それに血が混ざり始めたが、今の魔理沙に気付く余裕はない。

「な、な゛んだ、よ゛……いった゛ぃぁああぁあ゛ああ゛!!」

吐血も下血も既に気にする余裕もなく、魔理沙は襲い来る激痛に息も絶え絶えだった。
しかし、痛みが治まることはない。むしろ強くなる。

「いぎゃ! あぎゃっぁぁあぐああ゛あ゛あ゛っ!!」

内蔵を掻き回されるような痛みに、自分の撒き散らした血と糞尿で汚れるのも構わず、魔理沙は涙を零しながら、髪を振り乱しながら、転げ回る。
痛みに悶えながら何とか服を捲った魔理沙が見た物は、自分の滑らかな腹部がぼこりぼこりと音を立てて動いている様子だった。
それはまるで脱皮を控え蠢く昆虫のようであり。
そして動き回る魔理沙の腹は、みちり、みちり、と音を立て、その表面へ血の滴を浮かべている。
その光景に、すぐに訪れるであろう未来を予測した魔理沙が泣き叫ぶ。

「いやぎゃぁああ!! ぐぁぇええぇ!!」

痛みと恐怖でバタバタと暴れる脚。千切れそうになる意識をかき集め、魔理沙は腹を押さえた。それが何の役に立つわけでもないのに、彼女はそうせざるを得なかった。

(嫌だ、嫌だいやだ嫌だイヤだ……なんだこれ、何なんだこれっ!!)

理解できない、自分の身に何が起こっているのかわからない。けれどもこれからどうなるかは、もはや未来予知のレベルで理解できる。
だから彼女はみちりみちりと音を当てる自身の腹部を抑え、ただひたすらに拒絶の言葉を吐き転げまわる。

(やだやだやだやだやだだれかたすけてれいむありすぱちゅりーかみさまほとけさまだれでもいいからたすけやだしにたくたすけいたいたいたいなにこたすけ……!!)

声すら出せず、ただ転げまわるだけの魔理沙。
ふと。
ぶちり、と何か致命的な音が頭に響いた。
思わず動きを止めた魔理沙は、今までの痛みなど忘れ、恐る恐る自分の腹部へと目をやった。
視線の先、音がした場所、腹部は小さく裂け、そこからは小さな、とても小さな。



手が生えていた。



「ひ――――ぎゃああああああアアアアアアアアアアァァッ!!!! うわぁああああ゛あ゛あ゛!!! あぎゃぁあああああああ!!」

魔理沙の叫び声はもはや言葉ではなかった。まるで動物の鳴き声のように、叫び続ける。
その声に惹かれるように、そしてまるで昆虫が土から出てくるように、魔理沙の腹の中からそれは出てくる。

ぶち、みち、ぐりゅぐちゅじゅびゅぶじゅぎゅりゅぶじゅる――――

皮膚を引き千切り、内臓を引っ張り、血と脂肪でぬめぬめと光りながらそれは姿を現した。
それは人間の赤子だった。
小さな紅葉のような手、丸々と肥えた身体に、愛らしい顔。それはとても可愛かったことだろう。
血と内臓にまみれて、腹を突き破って出てこなければ。

(……たひゅ……たひゅ……け……)

吐血によって気管を塞がれ、大量の出血と痛みによるショックで魔理沙は既に手遅れだった。それでも最期の最期まで助けを求めようとした彼女に。
腹から這い出た赤ん坊が内臓を引きずったまま彼女の顔へと近づいてきて舌足らずな声でこう言った。

「まぁま」



次の日。
顔面は口から漏れた血に覆われ、腹部に大穴を開け内容物を四方八方に撒き散らし、肛門からは血便が垂れ流した死体が発見された。
その死に様はとても酷く、発見者が悉く胃の内容物を戻すほどだった。
服装から被害者は霧雨魔理沙と判明。また付近を魔法によって攻撃した形跡があることから、何物かに襲われた可能性が高いと判断された。
しかし、魔理沙を襲ったとされる犯人の痕跡は一切発見されなかった。
いや、後々1つだけ見付かった。
それは小さな、小さな、紅葉のような手形だった。それがあったのは魔理沙の頬だった。
それはまるで、魔理沙が赤ん坊を抱き上げ、喜んだ赤ん坊が魔理沙の頬に触ったかのように。
くっきりと、そしてべったりと残っていた。



「だからツケは高く付くと言っただろう」
「結局あれは何でしたの?」
「おや、妖怪の賢者でも分からない物があるのかい?」
「この世界のことでしたら知らないことなど何一つありませんわ。でも外の世界の、ましてや人間が作った呪いの道具など、流石に私にも」
「あの呪いは少し特殊でね。『ある存在』にしか作用しないんだ。まあ中に入っていた『モノ』は……少々嫌なモノだけどね」
「しかしこの賭は成立しないのではなくて? 貴方はあの箱の名前を偽ったでしょう?」
「嘘とは失敬だな。ボクは嘘を付いたんじゃない、ただ言わなかっただけだ。聞かれたら答えていたさ。あの箱には別の名前があるってことを」
「あら、チッポウという名ではないの?」
「それも1つの呼び名ではある。でも本質的にはこちらの呼び名の方が近いね」
「それは?」
「コトリバコ、あの箱はそう言う名前だ」
「マキャベリは?」
「ホラーじゃないからお蔵入りした」

初めまして、もしくはお久しぶりです。筆者の穀潰しです。まずはここまでお読み頂き有難うございます。
今回は上記の理由にて過去に書いた物を改訂して掲載させて頂きました。それ故、ご覧になられた方もいらっしゃると思いますが、まぁ、『ああ、ネタ切れなんだな』とでもご容赦ください。
さて、元ネタは有名な『コトリバコ』。もはや説明不要と存じますので名前の紹介だけにて。
ただし呪いや死に方などには筆者の独断と偏見(というなの欲望)が大いに混じっておりますので、話半分と受け取りください。
それでは、僅かでもお暇潰しになれば幸いです。


>NutsIn先任曹長殿
その頃からお読み頂いていたとは、有難うございます。
そして興味本位で検索して後悔したのは私もです、はい。

>2様
そこであえてパチェさんを選択する貴方に惚れる。
たぶんゆかりんがスキマに捨てて全部解決すると思います(丸投げ

>3様
有難うございます。正直お茶を濁した感の強い今回の投稿。
ただホラーということで慌てて差し出した作品でした。

>キーハック様
有難うございます。
私にとっても随分と遠い昔に思えます。
あの頃はこんな話がごろごろしてましたね……
穀潰し
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/08/21 01:57:34
更新日時:
2012/08/25 01:56:48
分類
産廃百物語B
霧雨魔理沙
東方百物語元ネタ『チッポウ』
返信
1. NutsIn先任曹長 ■2012/08/21 02:08:43
懐かしいですね〜。
前のバージョンのヤツ読んで、『それ』を検索したんですよ〜。

ええ、後悔しましたとも。
2. 名無し ■2012/08/21 09:13:28
「箱」を失った「モノ」はこれからどうなるのだろうか……
「箱」に触れた者全員に祟りがあるんだっけか。
どうにかしてぱちぇも中身撒き散らして死ぬといいね!
死に瀕する魔理沙は母親かわいい!
3. 名無し ■2012/08/21 22:46:13
一度見た事があると思ったらなるほど改訂だったのですね
とても好きな話です
4. キーハック ■2012/08/22 00:33:00
記憶の彼方に過ぎ去っていた日々をちょっただけ思い出しました。
そう、あの時…私も読んでいました。コトリバコ。無論、氏の作品も。
チッポウ
5. 紅魚群 ■2012/08/25 11:45:34
コトリバコ…読んだことはありませんが、名前は聞いたことあります。それは凶悪な呪いを持ったものなのに、絡繰り箱であるが故にそうとは知らずべたべたと触ってしまうというのがたまらなく怖ろしいですね。魔理沙と知り合いだったせいで死んでしまったにとりが哀れで仕方ありません。"紅"がこの箱を拾ってればもう少しマシな展開になったのでしょうか。とても強力な呪いのようなので、そうとは限らないかもしれませんが…。
6. 名無し ■2012/08/28 19:39:29
ああ、前に読んだ読んだ。覚えてます。魔理沙の死に様が印象的で。
7. 名無し ■2012/08/29 19:43:35
コトリバコは読みません今もこれからも。
ただ、この作品でも私の背筋を凍らせるには十分すぎる話でした。
8. ギョウヘルインニ ■2013/09/10 23:05:08
魔理沙は命をかけて出産した偉いお母さんですね。
生まれてきたものよ、お母さんの分まめしっかり生きるんだぞ。
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