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『産廃百物語B 「さがしもの」』 作者: 零雨

産廃百物語B 「さがしもの」

作品集: 30 投稿日時: 2012/08/21 10:58:40 更新日時: 2012/08/21 20:28:21
「あれ……?おかしいわね……」

「ん?どうかしたのか、アリス?」

私がそう問いかけると、アリスは困ったような顔をして、自分の頭を指差した。
一瞬何をしているのか分からなかったが、よく見てみると違和感を感じた。
アリスがいつも頭につけているカチューシャがないのだ。
しかし、何故今になって気が付いたのだろうか?私がアリスの家に来たのは2時間ほど前だ。
それからずっと、ここで魔法使い同士優雅なティータイムと洒落込んでいたのだが。
疑問に思って聞いてみると、思いもしない答えが帰ってきた。

「朝、髪の毛をセットしてから必ずつけてるのよ。で、今日も当然つけたわ。なのに何故か無くなってるのよ」

「ふうん?それはなんとも不思議な話だな。まああれだ、寝ぼけてつけたと思い込んでたってとこじゃないのか?」

「そんなことはないと思うんだけど……」

一応、自分の部屋を確認してくるわと言い残し、アリスは自室に向かった。
手持ち無沙汰になってしまった私は、とりあえずアリスが戻ってくるまで自分が持ってきた魔道書でも読むことにする。
パチュリーからかっぱらった、もとい借りた魔道書だ。
何度も図書館に訪れている私だったが、こんな魔道書は今までに見たことなかった。
小悪魔ほどではないが、私も何処にどんな本があるかは大体覚えている。そんな私が始めて見る魔道書だったのだ。これで気にならないほうがおかしい。
黒く重厚な表紙に、血のような紅色で目玉の模様が描かれている。タイトルは文字がかすれていて読み取ることができなかった。
分厚く重たいその魔道書を机の上に置く。そして、ゆっくりとページを開く。
その瞬間、魔道書から禍々しい光が溢れ出す。慌てて飛びのいた私だったが、光を真正面から受けてしまった。
平衡感覚が保てなくなり、その場に倒れこんでしまう。
だが、それ以上の何かがあるわけでもなく、光はだんだん薄れていき、何事もなかったかのように消えた。
しばらくその場に倒れこんでいた私だったが、感覚も戻り始めてきたのでのろのろと立ち上がる。
私が先程まで座っていた椅子に座りなおすとほぼ同時に、アリスが自室から戻ってきた。
アリスはこちらを見ると、恥ずかしそうに顔を背けた。その手には赤いカチューシャがある。

「やっぱり寝ぼけてたのか。まあ、そんなことだろうとは思ってたけどな」

私がからかうような口調で言うと、アリスは顔を真っ赤にして反論する。
その反論もいつもの冷静なアリスからは考えられないほど稚拙なもので、私はそれを適当にあしらうと、机の上に置きっぱなしだった魔道書を引っつかんで逃げるようにアリスの家を出る。
また明日来るからお茶を用意しといてくれよと去り際にそう告げて、颯爽と飛び立つ。
飛んでいく私に対して、アリスが何かを呟いていように見えたが、風の音にかき消されて聞くことはできなかった。





無事自宅に帰ってきた私だったが、帰る途中に食料が減っていることを思い出し、人里で少し買い物をしたせいですっかり日が暮れてしまった。
人里で偶然出会った慧音や咲夜と話をしたり、色々と疲れる一日だった。
帰ってきたら魔法の研究でもしようと思っていたが、そんな体力はもう残っていない。
適当に作った夕食を食べ、ベッドに潜りこむ。そして、アリスの家では碌に読むことのできなかった魔道書を開く。
今度は、魔道書を開いても光は出てこなかった。これで、安心して読むことができる。
どうやら、夢に関係する魔道書のようだ。半分ほど読んだが、私が期待していたような面白い魔法や、役に立つことは載っていない。
残りのページにも私の関心を惹くようなことは載っていないだろう。
眠気がひどくなってきたことだし、今日はもう寝よう……。


ふわふわとした独特の浮遊感。どうやら私は夢を見ているらしい。
ここはどこだ?夢の中で辺りを見渡す。鬱蒼と生い茂った森。そして見覚えのある家。
アリスの家の前にいるようだ。現津でもアリスに会い、夢の中でもアリスに会うのか……。
とりあえず、特にやることもないのでアリスの家に入ることにする。
夢の中なのでノックなどせずにそのまま扉に手をかけ、勢いよく開ける。
バァンと大きな音が家の中に響き、バタバタとアリスが2階から降りてくる音が聞こえる。

「よう、アリス。夢の中でも来てやったぜ」

「はいはい、よく来たわね。ノック位しなさいよ……。それで、早速だけど帰ってもいいわよ」

「なんだよ、冷たいなぁ。そんなんじゃ他人に嫌われるぜ?」

「趣味に集中してたところを邪魔されたら誰でもこうなるわよ……。で、何か用があってきたの?」

「いや、特に用はないんだがな。……ん?アリス、お前カチューシャはどうした?夢の中でも寝ぼけてるのか?」

私がそう指摘すると、慌ててアリスが自分の頭を確認する。
そして、カチューシャをがついていないことに気が付くと驚愕の表情を浮かべた。
夢はその日起こった出来事を整理する時間と聞いたことがあるが、本当にそうらしいな、と私はため息をついた。
夢の中のアリスも、現実世界のアリスと同じように二階にカチューシャを探しに行った。
どうせこの後はカチューシャを持ったアリスが顔を真っ赤にして戻って来るのだろう。
結末が分かっている推理小説を読んだような気分になりながらも、他にすることがないのでアリスが戻ってくるのを待つ。
しばらくして、アリスが戻ってきた。だが、その手にも頭にもカチューシャはない。
アリスはこちらを見ると、悲哀の漂う表情で質問をしてきた。

「ねぇ、魔理沙。あなたが私のカチューシャを盗ったなんてことは…流石にないわよね」

「はぁ?そんなこと私がするわけないだろ。なんだ?カチューシャがなかったのか?」

「そうなのよ……。どこにもない……」

どうやら、現実と全く同じ展開ではないらしい。そちらのほうが私にとっても嬉しい。ほとんど同じ光景を二回も見たくはない。
しかし、夢とは思えないくらいリアルな感覚だ。先程までの現実が夢だと思えるくらいに。

「悪いんだけど魔理沙。ちょっとカチューシャを探すの手伝ってくれない?」

「あぁ、それくらいお安い御用だ。もちろん、私がカチューシャを見つけたら魔道書と交換だぜ?」

「……一冊くらいならいいわ。見つけてくれるならね」

その言葉を聞いて少しやる気が出てきた。と言っても、夢の中で魔道書を貰ってもそこまで役には立たないが。
まあ慈善事業だと思って探すとしよう。

「で?なくした場所に心当たりはあるのか?」

「あったらそこを探してるわよ……」

これは参った。全くの手がかりがないようだ。早くもやる気がなくなってきた。
とりあえず、室内はアリスに任せるとして、私は外を探すことにしよう。
目的が決まったら早速行動だ。アリスに外に行くことを伝え、家から飛び出す。

「しっかし夢の中でもカチューシャを失くすだなんてな……。アリスのやつ、案外抜けてるのか……?」

やれやれと、ため息混じりにそう呟く。
アリスの家の周りをぐるぐると旋回して、やる気なさげにカチューシャを探す。
当然、そんな探し方で見つかるわけもなく、いたずらに時間だけが過ぎていく。

「はぁ……。見つからねーな……」

気が付けば空が薄暗くなりつつある。まだ20分かそこいらしか経っていないように感じるのに、数時間経ったかのような空模様だ。
夜の魔法の森を飛び回るのは、魔法が使える私といえどもかなり危険だ。
一旦、アリスの家に引き返すことにしよう。
そう思いアリスの家に向かって飛ぼうとしたとき、体に違和感を感じた。
何かに引っ張られるような感覚。飛んでいるはずなのに落ちているような、そんな不思議な感覚だ。
私の体が引っ張られるのと同じように、周りの景色も何かに引っ張られて歪んでいく。
それだけではなく、視界から色が失われ、白に染まっていく。
この感覚は何度か体験したことがある。
今までの経験からすれば、この状態に陥ると高確率で目が覚める。
アリスのカチューシャを見つけられないまま、夢が終わるようだ。
薄れる意識の中、ぼんやりとそんなことを考えていた……。





窓から差し込む太陽の光が眩しい。この暖かさに包まれたままもう少し寝ていたいが、そういうわけにもいかない。
まだ覚醒しきっていない頭と体を何とか動かし、もぞもぞとベッドから脱出する。
芋虫のようにのろのろとした動きではあったが、暖かいベッドの誘惑から逃れることができた。
寝ぼけ眼をこすりながら、朝食の準備に取り掛かる。
いつも通り、朝食はきのこスープだ。魔法の森で取れたきのこをふんだんに使ってある。
それを食べ終えると、ようやく頭も普段の調子に戻ってきた。
空腹が満たされてほどよい満足感に浸りながら、外出の準備をする。
外出先はアリスの家。昨日の宣言どおり、お茶を飲むついでに雑談でもしに行こう。
慣れた手つきで外出の準備を終え、アリスの家へ向かって飛び立つ。

薄暗い森を超え、アリスの家の前にたどり着く。
夢の中で怒られたので、今度はちゃんとノックしてから入ろう。
ノックはしたが、アリスが反応する前に扉を開けて家に入る。

「宣言どおり、今日も来てやったぜ。お茶の準備はできてるんだろうな?」

アリスの家に入ると同時に、家中に聞こえるような大声でそう言い放つ。
だが、アリスの反応はない。まだ寝ているのだろうか。

「おーい、アリスー?寝てるのかー?それとも、閉じこもって人形でも作ってるのか?」

そう呼びかけてみるも、やはりアリスの反応はない。
何か嫌な予感がする。いつもなら、ここでアリスは何かしらの反応をしてくれるはずだ。

「……もしかけて出かけてるのか?」

アリスが私を置いて、人里や紅魔館に出かけた可能性もある。
だが念のため、アリスの部屋に行ってみることにしよう。そこで、アリスがいなかったら、帰ってくるまで待って文句でも言ってやろう。
どたどたと、大きな音を立てながら階段を上る。階段を上がってすぐのところに、アリスの部屋が見える。アリスにしては珍しく、扉は開け放たれている。
ノックなどせずに勢いよく部屋に飛び込む。
予想とは違い、アリスは部屋にいた。ベッドの上で安らかな寝息を立てている。

「なんだ……。あれだけ呼んだのにまだ寝てたのか……。よっぽど疲れが溜まってるのか……?」

苦笑しながら、アリスを揺り起こそうと手を伸ばす。アリスの体に触れた瞬間、私は背筋が凍った。
アリスの体が石ころのように冷たくなっているのだ。しかし、死んでいるわけではない。呼吸音はこうしてる今も、私の耳に届いている。

「アリス!?おい!大丈夫か!?」

大声でそう呼びかけながら体を揺さぶっても反応はない。
死んではいないようだが、異常な状態だ。大至急永遠亭に運んだほうがいいだろう。
こんなことになるならもっと筋力をつければよかったと、ぼやきながらアリスを背負う。
眠ったままのアリスをなんとか家の外まで運び出す。
アリスには悪いが、このまま運ぶのは難しい。私の体に紐で縛って固定する。
そこそこ大きめな胸が縛られて大変なことになっているが、そんなことを気にしていられる状況ではない。
いつもとは違い、二人乗りなせいでバランスをとるのが難しい。

途中に何度か箒から転落しそうになったり、アリスを縛っている紐が解けかけたりしたが、何とか無傷で永遠亭までたどり着くことができた。
永琳にアリスを任せたところでようやく緊張が解け、体中の力が一気に抜ける。
そのまま、疲労もあいまってその場でへたり込んで眠ってしまった。

永琳が気を利かせてくれたのか、私は永遠亭の一室に運ばれていた。
ゆっくりと起き上がり、布団から出る。どうやらもう日が沈みかけているようだ。
アリスの家に行ったのは昼前だったから、数時間は眠っていたらしい。
部屋を出たのはいいものの、私がどこに行くべきか迷っていると、ちょうど永琳が別の部屋から出てきた。

「永琳!アリスはどうなったんだ……?」

私が恐る恐る問うと、永琳は悔しそうな顔をして首を横に振った。

「色々と試してみたけど、どれも駄目だったわ。おそらく、病気じゃない別の何かね。魔理沙、何か心当たりはない?」

「心当たり……?」

永琳に聞かれて、昨日の魔道書のことを思い出す。
しかし、あれは私が光を浴びただけでアリスには何も影響はなかったはずだ。
そこで、もう一つ重要なことを思い出した。
あの魔道書は夢に関する魔道書だった。そして、私は今日アリスの夢を見ている。
もしかすると、何か関係があるのかもしれない。

「私が持ってる魔道書が関係してるのかもしれない……。今からそれを聞きに言ってくるぜ」

「分かったわ。……魔理沙、あなたにプレッシャーを掛けるわけじゃないけど、このままだとアリスは死ぬわよ」

永琳の口から信じられない言葉が飛び出した。アリスが死ぬ……?

「ど、どういうことだよ!アリスは眠ってるだけじゃないか!」

「眠り続けてるだけでも十分異常なんだけどね……。それに加えて、呼吸がだんだん弱ってきているわ。このままだと、持って3日ってとこかしらね……」

「そんな……」

私のせいでアリスが死ぬ……?いや、まだ死ぬと決まったわけじゃない。
パチュリーに聞けば、きっと解決するはずだ。パチュリーは私より魔道所に詳しい。解決してくれるに決まっている。
何にせよ、急いで紅魔館に行かなければならない。
永琳に別れを告げ、永遠亭を出る。迷いの竹林を抜けてすぐ、箒に飛び乗って紅魔館を目指す。



「そんな本私は知らないわよ。一体どこから持ってきたの……?」

パチュリーに魔道書を見せて、返ってきた言葉がこれだった。
最初は私をからかっているのかと思ったが、食い入るように魔道書の表紙を見つめているパチュリーを見て、本当に知らないのだと確信した。
ここでこの魔道書を開いて、もう一度あの光が出てきたら困る。
パチュリーが勝手に開かないように、魔道所を懐にしまう。

「ここの図書館にあったんだが、パチュリーも知らない魔道書だなんてな……。小悪魔は知ってるか?」

「え?あ、いいえ、私もこんな魔道書は見たことありません……」

「で、魔理沙。私に魔道書を見せに来たってことは何かあったの?そうでもないと、あなたが私の図書館にあった魔道書を持ってくることなんてしないでしょう?」

流石と言うべきか、パチュリーは何かがあったことを察したらしい。
私は手短に、この図書館に来た理由をパチュリーに説明する。
すると、パチュリーは少し考え込んだかと思うと、小悪魔に一冊の本を取りに行かせた。
パチュリーに言われ、小悪魔が持ってきた本は呪いに関係する本のようだ。

「確か、この本にあなたが言っていたのと似たような出来事がのっていたはずよ。ほら、ここに書いてあるわ」

そう言って、パチュリーがこちらに本を差し出してきた。
夢の中で探し物をするという、私と同じ状況に陥った者の話が書いてある。

「この本によると、夢の中で探し物をして見つけられなかったのが原因のようね……。でも、あなたとは少し境遇が違うみたいよ」

パチュリーが私に見せてきた本の中では、探し物を見つけられなかった者が目覚めなくなっている。
つまり、私が目覚めなくなるはずだったということだ。

「ここに書いてある呪いの亜種といったところかしら。色々と面倒な呪いねぇ……」

「で、どうすればアリスは目覚めるんだ!?それもそこに書いてあるんだろう?」

私が期待しながらそう尋ねるが、パチュリーは答えず、渋い顔をするだけだった。
何か迷っていたようだが、パチュリーが重い口を開く。

「……残念ながら、アリスを助ける方法は書いてないわ。おそらく、助からないでしょうね」

「……え?」

パチュリーは一体何を言っているんだ?アリスが助からない……?
脳がパチュリーの言葉を理解するのを放棄したかのようだった。
不意に、パチュリーが視界から消える。
どうやら、私はその場にへたり込んでしまったらしい。
もう、自分のことですらよく分からない。立ち上がろうという気力すら湧かない。
頭がどうにかなってしまいそうだった。
そんな私にパチュリーが現実を突きつける。

「……魔理沙、多分今日も夢を見ることになると思うわ」

「……そうか。……で、私はどうすればいいんだ?また、夢を見て、誰かが目覚めなくなるのを指をくわえて見てればいいのか?」

「いえ、夢の中で探し物を見つけさえすれば、無事に目覚められるみたいよ……」

「……その本に書いてあることが正しくて、無事に起きられたとしよう。……私が夢の中で失敗したら、誰かが目覚めなくなる。そんな生活が一体いつまで続くんだ?」

「それは……」

パチュリーが言い淀む。当然だ。答えられるわけがない。
いつ終わるかなんて、そこの本には書いてなかったのだから。

「……もういいんだ、パチュリー。解決方法がないんなら、無駄な足掻きはしたくない……。他の誰かが目覚めなくなるだなんて考えたくもない……」

そう言って私は懐から八卦炉を取り出す。いきなり八卦炉を取り出した私に驚いたのか、パチュリーが身構える。
私はそんなパチュリーを気にも留めず、八卦炉を構えて魔力を溜める。
そして、そのまま溜めた魔力を解放した。
パチュリーと小悪魔の悲鳴と共に、図書館が眩い光の渦に包まれる。





「魔理沙……」

光の渦が消えた後に残ったものは、ズタズタになった魔理沙と焼け焦げた床。
パチュリーと小悪魔には傷一つない。

「解決方法がなかったから死ぬだなんて、いつものあなたらしくないわよ……。醜く生にしがみ付く、それがあなただった。それなのに、そうなるはずだったのに!何よこの終わり方は!」

床に倒れて動かない魔理沙を見て、パチュリーが叫ぶ。
その隣では、小悪魔が倒れている魔理沙を哀れむような表情で見つめている。

「どうしましょうパチュリー様。魔理沙さんを永遠亭に運んだほうがいいですかね?」

「その必要はないわ……。連れて行ったところで、何も変わらないのだから」

「むむ、まだ生きているかもしれませんよ?……まあ、パチュリー様がそう言うなら私はそれに従いますが」

「利口ね、小悪魔。さて、魔理沙から魔道書を回収するとしましょうか」

いつの間にか魔理沙の傍に移動していたパチュリーが、魔理沙の懐から魔道書を取り出す。
魔理沙と共に光の渦に巻き込まれたはずのその本は、まるで何事もなかったかのように綺麗なままだ。

「それにしても恐ろしい魔道書ねぇ……。一体何処からこんなものを持ってきたのよ、小悪魔?」

「うふふ、それは秘密ですよ。私とて悪魔の端くれ。色々と繋がりがあるのです。あ、気をつけてくださいね。魔道書を開いたら呪われますよ」

「はいはい、分かってるわよ。まあ、あなたのおかげで魔理沙に復讐が出来たんだし、私はそれで満足だわ」

魔道書を回収したパチュリーが、自分の椅子に戻ろうとする。が、その動きが不意に止まる。
突然動きを止めたパチュリーを訝しげに見つめる小悪魔。すぐその原因に気がついた。
小悪魔の顔が青ざめる。何故なら、パチュリーの足には死んだと思っていた魔理沙がしがみ付いていたからだ。
ひぃ、と小悪魔が小さく悲鳴を上げたかと思うと、主であるパチュリーを置いて図書館の奥へと走り去っていく。

「……話は聞いたぞパチュリー。……全てお前のせいだったのか」

地の底から響くような低い声で魔理沙が言う。
パチュリーの足を握っている力が一層強くなり、ミシミシと嫌な音が聞こえる。
掴んでいる手を引き剥がそうと、足を振り回すパチュリー。だが、魔理沙の手を引き剥がすことは出来ず、バランスを崩してその場に倒れるパチュリー。
パチュリーが手に持っていた魔道書が、その手を離れ床へと落下していく。
慌ててパチュリーが手を伸ばすも、虚しく空を切るだけだった。
偶然か、はたまた運命か。パチュリーの目の前で、落下した魔道書が開く。
開いた魔道書から、魔理沙が最初に開いたときと同じように眩い光が溢れ出す。

「私が味わった苦しみをお前も味わうんだな……」

パチュリーの足を握っていた力が一際強くなったかと思うと、フッと消える。
魔理沙の執念と言ったところだろうか。魔理沙に握られていたパチュリーの足には赤黒い痣が出来ている。
動かなくなった魔理沙の手を振りほどきながら、パチュリーは思う。
自分が眠れば、他の者を永遠の眠りにつかせることが出来る。
これはこれで悪くないのかもしれないと。
新しいおもちゃを手に入れた子供のような笑顔を浮かべながら、魔理沙の死体を処分するパチュリー。
そのパチュリー後姿は、小悪魔でさえ見たことのないような、愉悦と達成感に満ち溢れたものだった……。
元にした都市伝説は『小指を探す老婆』
もっと怪談っぽい話になるはずだった……
本当に恐ろしいのは幽霊より人間なんじゃないかな……
零雨
作品情報
作品集:
30
投稿日時:
2012/08/21 10:58:40
更新日時:
2012/08/21 20:28:21
分類
産廃百物語B
魔理沙
アリス
パチュリー
1. 紅魚群 ■2012/08/21 20:58:51
そうして呪いは無限に連鎖する…。この呪いの嫌らしいところは、受けている本人自身には実害はないという点でしょうか。優しい魔理沙には耐えられない呪いだけれど、醜悪なパチュリーにとっては何も困ることではない。理不尽であることが、寧ろ呪いの無慈悲さを引き立てていると思いました。アリスちゃんさよなら…
2. NutsIn先任曹長 ■2012/08/21 21:35:36
永遠の眠りに付いた魔理沙は、一体、誰の夢を見るんだろうね……。
寝る間際に憎悪を抱いた誰かさんだったりね。
3. 名無し ■2012/08/23 17:32:46
人を呪わば穴二つ。まさにその通りだった。
まあありすはとばっちりだけどさ。
目的を果たせてご満悦のぱちぇは愚直かわいい!
4. 名無し ■2012/08/24 00:15:00
パチュリーわるいやつだなー
あわれなアリスかわいい
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