情緒不安定のI

作品集: 31 投稿日時: 2012/12/02 00:38:09 更新日時: 2012/12/02 00:38:09
「魔理沙っ」

私の名前を呼んで無邪気に笑う姿は、とてもじゃないが悪魔の妹と呼ばれる吸血鬼になんて見えない。
であった当初の気がふれているような言動も、大分落ち着いてきた。
本当は気がふれている、というよりも情緒不安定に近いとパチュリーが言っていたが、それは最近の話だ。
初めてフランと出会って弾幕勝負をしたときは勢いのままに勝ったが、今思えば何もかもがあべこべだった。
泣きそうな顔をして楽しげに話すから感情が読めない。
それなのに機嫌の悪いときは弾幕勝負のルールも忘れて、避けられない弾幕に追い詰められる事もあった。
そのフランがどうして大人しくなったのかはわからないが、普通にしていれば吸血鬼とはいえただの子供だ。
今は屋敷の中ならばある程度自由に出歩いても良いらしい。

今ではすっかり懐かれてしまい、本を借りに来ただけのはずが気が付くとフランの部屋で寝る前の絵本を読んでやっていたりする。
機嫌のいい時はパチュリーに本を貸すようかけあってくれたりもするが、基本は弾幕ごっこ。
時々、こちらが向こうに気が付く前に本気の弾幕を放つあたりは少々厄介だ。

それでも私が訪ねていったときに喜ぶフランの反応が嬉しかったり、なんだかんだで、私にとってはかわいい妹分みたいなもんだった。少々危険ではあるが。



□■□



最近、フランのわがままが増えてきた。
「いくよ、魔理沙!」
有無を言わさずに始まる弾幕勝負の確率が上がった。
私が帰ろうとすると引き止める行動もエスカレートしてきた。

「じゃあ、私はそろそろ帰るぜ」
「え、帰っちゃうの?」
「これでも私は人間なんでな、さすがの魔理沙さんも夜に出歩くのはちょっとまずい」
「それなら今日はお泊りしない?ご飯も食べていけるよ」
「それは少し心惹かれるが、調べ物が途中だしなあ」
「じゃあ、えっと、魔理沙が欲しい本なんでもパチュリーにお願いしてみるから!ねっ」
「うーん」
「おねがい、遊ぼう?」

フランはかわいい。私の腰くらいの身長だから、近付くと自然に上目遣いになる。
その状況で、さらに涙目で抱きつかれてしまっては、振り払えない。

「明日の昼には帰るぜ?」
「ほんとう?ありがと、魔理沙だいすきっ!あのねあのね、読んで欲しいご本があるの」
「わかったよ、寝る前にな」
「えへへ、うれしい」
「あと言っておくが欲しい本、じゃなくて借りたい本、だぜ」
「はーい!」



□■□



「もう帰っちゃうの?」

またきた。
懐いてくれていることに悪い気はしないが、正直、最近はちょっと困っている。
帰ろうとすると駄々をこねるし、次に来る約束はなにがあっても守らないといけない。
来ると言っていた日がちょっとした嵐みたいな日で、外出が危険な日だったと言っても約束を破ったと不機嫌になる。
私よりずっと長く生きているけれどフランの精神は見た目通り子供だ。
だから少しくらいのわがままは許していたけれど、こうも私にべったりでは困る。
私にだって魔法の研究や異変の解決で知り合った人間や妖怪のところへ行く用事があるんだ、縛り付けないで欲しい。

「ああ、帰るよ」
「もうちょっとだけ遊ぼう?」
「駄目だ」
「すこしだけ」
「駄目」
「お願い、」
「ああもううるさいな私は帰る!帰るったら帰る、いい加減邪魔しないでくれ!」

つい声が大きくなって、怒鳴りつけてしまった。

「・・・ぁ、」

びくりと震えて、フランの身体が凍りつく。
しまった、と思ったときには遅かった。
見開いた目がどんどん潤んで、喉がひゅっと鳴る。
瞳の容量をオーバーした涙が、柔らかい頬を伝って、ぽたぽたとこぼれる。

「フラン、」
「ぁっ、ご、ごめんなさい怒らないでぶたないでっごめんなさい」
「おい、」
「わたしちゃんといい子になるから、きっきらいにならないで、やだよ、」
「いや、私も流石に言い過ぎた、あれはなかったよな、な?」
「もうわがまま言わないから、だからおねがいやだっやだやだぁ!」
「ごめん、ほんとにごめん」
「ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい、ごめんなさい」
「もういい、怒ってないから、な?」
「ひとりはやだよぉ、やだ、いや」

少しずつ、謝る声に抑揚が無くなり目は虚ろに伏せられた。
こうなってしまったフランには、私の声は届かない。
気まずさにフランの部屋を飛び出しても、後ろからごめんなさい、ごめんなさいと空っぽの声だけが追いかけてきて、フランは部屋から出られない。
ああ、子供相手に怒鳴るなんて大人気なかった。
フランは悪気があったわけじゃない、それはわかっていた。
ただ私と一緒の時間が欲しかっただけなんだ。



□■□



でも、たまにはすっぽかしたくなる気持ちも分かってくれ。

「魔理沙のうそつき!きらい!いじわる!」
「ちょ、おい、危ないだろっ」
「昨日きてくれるって言ったもん!おやつもたくさん用意してもらったのに!」
「悪かった、それは悪かったって!」

「咲夜にお願いして、く、クッキーの作り方だって、ならって、わた、私、がんばったのに、う、ひっく、」
「フ、フラン?な、私が悪かった!悪かったから泣かなくても、」
「ひっ、まりさのばか、いじわるっ、きらい、・・・・・・さみしかったよぉ」

「あー、ほら顔拭いて、な、今度は約束守るから、クッキーもさ、惜しいことしたな」
「ぅ、ほんと?ぐすっ、あのね、もっもう一回作ったらたべてくれる?」
「ああ、楽しみにしてる」
「・・・うん」

苛立ちにまかせてフランを泣かせてしまう度に、私の胸は罪悪感でいっぱいになって、どちらも幸せになれない。
そう思う、思うよ、思うのに。



□■□



「この間はごめん!急に用事が出来て、本当なんだフラン!」
「・・・嘘つき」
「悪かった!そのかわり今日ちゃんと埋め合わ「うそつき」

「魔理沙、最近はずっとそうだよ」
「わかるもん、魔理沙私のことちょっときらいになったからでしょ、知ってるよ」
「でもね、もういいの」
「だってお詫びに、壊れるまで遊んでくれるのよね?」


フランの眼が、獲物を狩るときの猫のように鋭いものに変わる。翼が空気を裂く度に、肌がぴりぴりする。
まるで初めて出会ったときみたいだ。もしかしたらそれよりも。
直感で分かる。これは、相当にまずい。

「だって、壊れなかったら魔理沙どこかに行っちゃうもの、もうコンティニューなんてさせてあげない!」

フランを中心に、膨大な量の魔力。無数の赤い光弾で出来た弾幕が現れる。
避けられるはずのない密度は、弾幕ごっこではご法度だ。威力もきっとルール違反。
つまりこれは、ごっこなんかじゃない本気の、

「っひ、あ、うあ、ぁああああぁああ!!」

敵うはずもない。



激痛。魔力が肌を焼く。
落下。焼けた箒に振り落とされる。
激痛。空中から壁へ叩きつけられる。
激痛。床にべしゃりと落ちる。
激痛。腹を蹴られる。
嘔吐。胃が勝手に痙攣する。
激痛。吐瀉物に頭を叩きつけられる。
衝撃。息が出来ない。
激痛。脚がひしゃげている。
悲鳴。あしが、ひしゃげている。
激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。
激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。
激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。
暗転。



□■□



「目が覚めた?」
「さ、咲夜・・・?」
「あなた、妹様に殺されるところだったのよ。五日も目を覚まさなかった」
「あ、フラン、に、」
「流石に今回はお嬢様も見過ごせない。妹様はまたしばらく地下室に」
「そ、こまでしなくても」
「それは自分の状態を分かった上で言うべきね」
「なんだと・・・痛っ、うあ」
「左半身は壊れた天井の下敷き。擦り傷に切り傷、一部火傷、全身打撲」
「う、わ、」
「内臓が破裂しなかったのは不幸中の幸いね、でも左腕は捻挫、左足は骨折で全治二ヶ月だそうよ」
「い、いや、むしろそれだけですんで良かったと私は言うぜ」
「・・・あなたにはもう何を言っても無駄のようね」
「わかってるじゃないか」

確かに私は辛い思いをしたさ。思い出そうとすると金縛りにあったように動けなくなる。
私の意識にとってはついさっきのことだ、フランに会うのは正直怖い。
でも、フランは私よりもずっと傷ついて、悩んでいるんだ。
壊したいものも壊したくないものもまとめて壊し続けた495年間、あいつはずっとひとりぼっちだったんだ。
わかるんだ。だって、家を飛び出したばかりの私も一人だった。



□■□



「フラン?」
そっとドアをノックする。
扉には、封印の魔法がかけられていて開ける事は出来ない。
ちくりと胸が痛んだが、今はそれでよかったとも思う。
あれから数日たった今でもまだ、扉を叩く手は恐怖に震えていたし、左足はぐるぐる巻きに固定されている。
包帯だらけの身体で焦げた箒を杖代わりに歩く、そんな姿をフランには見られたくなかった。
だって、きっと、悲しい顔をさせてしまう。

「まりさ?」
「ああそうだ私だぜ、元気か?」
「ご、ごめんなさい魔理沙、ごめんなさい!」
「気にするな、この前私が怒鳴ったのとでおあいこにしよう」
「でも、わたし、魔理沙を壊しちゃうところだった、ううん、咲夜とお姉さまが止めてくれなかったら、きっと、あ、あああぁあ」
「いいんだ」
「だめだよ、わたし、魔理沙にひどいことし、して、」
「約束を破った私も悪かったんだ、お互い様だぜ」
「ちがうよ、」
「わざとじゃないだろ?」
「でも、」
「なおしていけばいいさ、」
「・・・まりさぁ」
「ん?」
「ごめんなさい、で、も、きらわれるのやだよぉ」
「嫌わないさ」
「ぁ、まりさ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

ごめんなさいを繰り返すその声には、前と違って感情があった。
私はフランを泣かせてばっかりだな、でも何も言わずに我慢するよりはきっといいさ。

私が壊れたらきっと、幽閉だとかそれ以前にフランの心が壊れてしまう。
それは仲の良いお友達、というには行き過ぎているのだという自覚はある。
フランの為には、たとえ一時憎まれてでも私の側から離れるべきだ。
でも、それじゃあ、私がフランに会えない。そんなのはごめんなんだ。
もしも、二度と会えなくなってしまったら、私の方がおかしくなる。
考えただけで震えが止まらない。フランは私の大切な妹分だ。離れるなんてありえない。
そう、離れるなんてあってはいけない。だって私は、っ。
それでも今はまだ人間の私は、フランより早く死ぬだろう。そうなったら置いてきぼりにされたフランは。
ああ、どうしよう。どうしたらいい?





取り返しがつかなくなる前に、誰か。
フランちゃんは自分をコントロールできずに。
魔理沙はちょっと異常かなと気付きながら。
典型的な共倒れのありがちな終わりを。

フラマリが好き。
フランちゃんがヤンデレというよりメンヘラになってしまうのは仕様です。・・・なのだろうか。
snk
作品情報
作品集:
31
投稿日時:
2012/12/02 00:38:09
更新日時:
2012/12/02 00:38:09
分類
フランドール
魔理沙
DV
(愛と相と哀と私)
1. NutsIn先任曹長 ■2012/12/02 03:43:44
二人とも病んでいたのか……。
最初は壊れている少女に、愛ゆえに自分が壊される話かと思ったら……。
少女を壊さないように、愛ゆえに自分が壊れることを怖れる話だったのか。

タイトルは、そういう意味だったのか……。
2. 名無し ■2012/12/03 03:39:07
共依存の悪い例
自分がいなければ〜に囚われて助けるのをやめられないのは、反面それで自分の価値を充足しているから
3. 名無し ■2012/12/21 17:02:00
歪んだ愛、しかし歪むことにしっかりとした理由がある。正気を残しながらも狂っていく様が悲しくも美しいです。
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