嘔吐目撃譚:小鈴

作品集: 32 投稿日時: 2014/11/11 20:40:21 更新日時: 2014/11/11 22:24:49
※注意1 主人公はほぼオリキャラ
無個性のザコ妖精です
このままお読みになる方は広い心でお進み下さい。

※注意2 作品集24<東方ゲロ娘『嘔吐目撃譚:小鈴』>
の続きです。
前作品をお読みでなくても問題は無いと思いますが、
いちおう設定は共有しております。



私が古本屋に入り浸るようになったのは、もう二ヶ月も前のことである。
忘れもしない、あの蛞蝓異変だ。
蛞蝓異変というのは単に私がそう呼んでいるだけで、幻想郷一般では特に異変とは認識されていない。
現に、巫女が解決に現れることはなかったのだから。
そもそもその出来事があったことすらあまり知られていない。


きっかけは紅い館の門番さんである。

私は以前、門番さんがメイド長さんのご飯を食べ過ぎて門前で嘔吐している様子を目撃した。
そして、魅せられた。
苦しむ門番さんの眉間に寄る皺に。
吐瀉物の滝が奏でる水流音に。
ボトボトと落ちる吐瀉物に膨らむ可愛い頬の曲線に。
嘔吐感に襲われて今すぐ吐こうと、まだ吐ききれずに残っている口腔内の吐瀉物を一旦飲み下す。
そして潰される蛙の悲鳴のごとく低く曇る喉の音に。

瞬間、門番さんに魅せられた。
言ってみれば、門番さんが好きになってしまったのだ。
以来、私は門番さんの下を頻繁に訪れるようになった。
彼女の横に勝手に並び一人前の顔で門番の真似事をしてみたり、
門番さんの脚にしがみついて頬ずりしたり。
私の強引な接触を、門番さんは拒まず受け入れてくれた。
溌剌とした気や一見して分かる拳の技量のみならず、お人好しな人柄が容易に伝わってくるタレ目、全力の抱擁を軽く受け止めてくれる温かな二の腕、花と土と汗の混ざりあったくらくらする香り……。

しかしそれは素直に喜べることではない。
私としてはかなり勇気を振り絞った(かなり下心のこもった)スキンシップのつもりだったのだが、あちらの方ではたかがザコ妖精の戯れと思っているようだった。
さりとて私のような力のないザコ妖精があんなに人のいい妖怪に付きまとっても殺されずに済んでいるのは、ひとえにそのような見方をしてもらっているからなのだ。
ともかく、私は後ろめたいものを感じつつ悶々と門番さんにくっついて日々を過ごしていた。


或る日の事。
いつもの様にしまりの無い表情を浮かべながら紅い館へ着くと、門の前に妖怪が集まって談笑していた。
人妖問わず門番さんにはファンが多いのだ。
閑話休題。
その時のように、人妖が彼女目当てに門前に集うことがままあるのだ。
その時の顔ぶれは……。
チルノ、ルーミア、リグル、大妖精。
他にも名は知らぬけれども、耳に去勢済証明のピアスをはめた化け猫や、コーヒーの香りを漂わせてもみあげが縦ドリルの妖精などなど。
いずれも見知った顔ばかりだ。
「はいみなさん、おはようございます!」
門番さんだ。
「今日は何してあそぶ?」
「絵本読んでー!」
「絵本ですかぁ……。絵本は紅魔館の図書室には無いんですよね……」
「じゃあドラゴンボールごっこ!」
今日のイベントが決定したらしい。
ドラゴンボールごっこというと、つまり流行の人物を利用したごっこ遊びだ。
つまらない。
元気でアクの強い面々の中では私は気圧されてしまう。
どうせまたヤジロベエだかプーアルだかいうキャラを押しつけられるに決まっている。
それにこれだけ大勢だと、門番さんにくっついていればただちに囃したてられるに違いない。
そもそも近くにすら寄れないかもしれない。

「門番さん、里に本屋さんってありますか?」
「あら妖精クン、う〜んそうですね〜。咲夜さんの話ではスズナーンというお店が珍品揃いで見応え有りという話でしたよ」
「スズナーン?」
「そう、鈴菜庵。私の名前<美鈴>の鈴に、<菜種><野菜>の菜、庵は…訓読みだとイオリって読むんですけど……まぁ鈴菜の部分だけで分かるでしょう!」

鈴菜庵。
そこに行けば絵本はあるのだろうか。
門番さんと一緒に遊べないのは少し惜しいけれど、今日はその鈴菜庵で絵本を手に入れてこよう。
門番さんに持っていったら、喜んでくれたりして。
何を考えてるんだおまえんたぁは。
あほちゃうか。


久しぶりに里に下りた。
人が多いところに行くと、やはり不安になる。
適当に進んだらだいたいの現在地も分からなくなるのは必定。
数区画進んでは人に聞いてを繰り返しながら進んでいく。
知らない人に話しかけるのは勇気が要るが、そうもいっていられない。


『鈴菜庵』
ここか。
ここが門番さんの言っていた古本屋さん。
半刻もかからないうちに着けた。
うん。
意を決して暖簾をくぐろうとすると


ドンっっ

痛っ


鼻の中が急激に熱くなる。
どうやら中から出てきた人物とぶつかったらしい。
刺すような激痛に目が開けていられない。


痛い。


涙で歪む目の前の景色を、弱々しい眼でどうにか見つめると、緑色が見える。
よもぎ色というのだろうか。
視界の下の方に帯が見える、どうやら着物のお腹あたりだ。
徐々に上へと視線をうつすと女の人の顔。
紫色の髪にはふわりと大きな花を差している。
茜色の上着、山吹色の着物に蓬色の帯。
和菓子のような彩りである。
気品あふれる雰囲気に、生まれの良さを感じる。
率直な感想ではあるが、美的感覚にも官能的にも美味しそうだ。
頬をひきつらせ、見開かれた目は私を見つめたまま固定されている。
店から出てきたところでいきなり激突してきた物を素早く確認したのだろう。
その時にはマズいところを見られて固まっているときの顔とも思われた。


何だ、妖精か


駆け足気味に女の人はその場を去り、足音はすぐに聞こえなくなった。
何だとは何だ。
ぶつかってきたのはそっちだって同じだろうに。
ぶっ殺すぞ。
そう凄んでみたところで私のごとき矮小なザコ妖精にはどだい無理な話だ。
そんな事は私自身が一番理解している。
心の声でつぶやくのが関の山だ。
痛みよりも熱さでジンジンとする鼻頭につい力が入ってしまい、店主に怪訝な顔をされはしないかと心配しながら、私は改めて暖簾をくぐった。


ごめんください


声が小さかっただろうか。
もう一度


ごめんくださァい……


返事は無い。
三度、四度繰り返してみたが、やはり返事は返ってこなかった。
留守なのだろうか。
周囲に目を移すと。
四角、四角、四角。
無数の四角だ。
いや、四角ではない。
これは棚だ。
棚といえば服か食器を入れたものしか見たことがなかった。
しかし、ここの棚には本が上までぎっしり詰まっている。
上へと視線をやっても、上の方の段に収められた書物は底板に隠れて見えもしない。
周りを見渡すと棚だらけ。
これはすごい。
さすがは古本屋、おそらくここにはありとあらゆる本が置かれているのだろう。
圧倒され、しばらく立ち尽くしてしまった。
ふと我に返り、とりあえず目に入った本に手をかける。


ぐぅ


…何だ?
唸った?
本が?
そんな訳がない。
唸る本なんて聞いたこともない。
気のせいか。
たぶん今まで見たことない景色で少し変になっているのだ。
気を取り直して本を手に取り、表紙に目をやる。

『スタンガン過剰使用ポリス太郎』

……?
試みに項をめくると、肌色が多い見開きの裸体に説明文が添えられていた。
「連日のサバトに強化された全裸中年男性に、ポリス太郎ご自慢のスタンガンも歯がたちません。」
…………??
そっと冊子を閉じて元の場所に戻し、とりあえず店の奥に進んだ。


おそるおそる進んでいくと棚の海が途絶え、視界が開けた。
突き当たりの壁沿いに、壁紙を隠すかのように棚が並んでいる。
年期が入りささくれだった棚が存在感を放ち、遠近感がはっきりしなくなってきた。
これだけたくさんの棚があるにも関わらずまだ本の置き場所が足りないと見え、棚の上にも本が乱雑に置かれているのが見える。
そこに寝かされた本はどれもまだらな鼠色がかっている。
本に埃がかかるとああいう風になるのか。
想像するに、触っただけで埃が舞いそうである。
すこし本が可哀想だなとも思ったが、埃のかぶり方の無様さが少し自分と似ている気もする。
圧倒されてばかりだったが、意外と居心地は悪くなさそうだった。


おぼぇっ


まただ。
唸り声が聞こえた。
この店は何なのだろう。
先ほどは居心地のよさを予感したが。
そうではないのか。
これだけ本が在るのだ。
妖怪の一つや二ついてもおかしくないではないか。
今すぐ帰るか。
いや、本当に本の妖怪が棲まうのなら、逃げた瞬間を追ってくるだろう。
私には戦う術はない。


壁の真ん中あたりには紋つきの暖簾が下がっており、さらに部屋が続いているようだった。
何が続いているのか気にはなったが、何故か入ってはいけない気がした。

またその脇で文机がちょこんと座を構えている。
店主はここに座って客を迎えるのだろうか。
背伸びして卓上を覗くと。
洋風カップ、眼鏡、大きめの冊子。
カップから広がる芳しい湯気に仄かな甘みが混ざっている
。この薫り……お昼の後で門番さんからする匂いに似ている。恐らく紅茶というものなのだろう。
大きめの冊子には文字がびっしりと書かれている。文字の波はしかし下半分の途中で途切れており、作業が中断されていることが分かった。上下逆に見ても分かる丸っこい文字から察するに、店主さんは女の子なのだろう。書いている途中に先ほどの女の子がやってきて応対したのだろう。そのまま楽しくきゃぴきゃぴと会話していたのだろうか。
そしてあの眼鏡。あのドリル妖精がたまにかけているものと似た形をしている。眼鏡というのは不思議な道具だ。眼鏡をかけると女の子はみんな可愛く見える。眼鏡をかけている時にはあのドリルに話しかけるときだって心の準備が必要なくらいだ。この店主もきっと可愛いに違いない。

ここまで考えてふと思った。

店主さんは。
いないのか。

紅茶から湯気が昇るということは、まだ煎れてから時間が経っていない。
つい先ほどまでここにいたのだ。
先ほどぶつかった女の子が店主さん?
いや、店主ならまず「あ、大丈夫ですかお客さん」だろう。
なにが「何だ妖精か」だよ。
殺すぞ。

店主さんがいないのなら、呼んでも返事がない訳だ。
いつ戻ってくるのだろう。
すぐには戻ってこない気がする。

なら、ちょっと遊んでみようかな。
椅子に座り、紅茶を飲んだり冊子を前に腕を組んで店主ごっこでもしよう。
文机の反対側にまわる。
丸椅子の上に、紫イモみたいな色の座布団が敷かれている。
椅子に乗ろうと座布団に手をかける。

温かい。


これは

店主さんの

お尻の


……。
左右に振り返る。
もちろん誰もいない。

これは。
チャンスだ。

座布団に鼻を密着させ、においを嗅ぐ。
温かい。ああいい匂い いい匂いだ。
たまらない。
こういう時注意しなければならないのは、布のにおいを嗅ぐとき密着したまま呼吸をしてしまうと、自分の息が布に染み込んでしまう。
口の汚い臭いが付いてしまうのだ。
息を吐くときはいちいち顔を放す。
これが鉄則。

はあはあ。ふうふう。
頭の中が真っ白になる。
一通りことが済んだ。
あとは座布団を舐めたら、まぁもうやめておこう。
べろんべろん舐める。
店主さんのお尻と座布団の間には、温もりを残すような薄さの着物でしか隔たっていなかった。
いってみれば、座布団とお尻はほぼ直に触れていたも同然なのだ。

だから
これはお尻だ

夢中で舐め続ける。
布が涎だらけになる。
舌がカピカピに渇き、座布団の布地が舌にざらざらとひっかかる。
こういう状態になって、やっと本番に入ったような気分になる。


ごぼっ


音がした。

店主さんか!
まずいまずいまずい
見られたか?

いや、妖怪がいたのだったか。
こちらに来る?
その妖怪に一部始終見られていたのだとしたら、私の人生は終わってしまった。

顔が熱くなり、体が動かない。


どぼんっどぼんっどぼんっ


ひぃっ

何の音だ?
そもそも音が聞こえてきたのは
足下

左下

女の子


女の子だ。
女の子が仰向けで床に倒れている。
茜色の髪、頭には鈴の髪止め。
この人が、店主さん?

袴は弾けており、下半身はすべて露わになっている。
下半身……。
肉が薄めの太股が荒い呼吸に合わせて開いては閉じ、開いては閉じしている。
普段なら帰宅後即床オナに走るべくこの情景を脳に焼き付けるところなのだが。
出来ない。

何故なら。
蛞蝓。
無数の蛞蝓。

うようようようよ

ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ

陰唇を無理に押し広げ、土手がバンバンに膨れあがり、中の蛞蝓の動きに合わせて腹部が波打っている。

前髪や腕で一部隠れているため表情は読みとれない。
口元は弛緩して顎が下に開いており、舌が規則的に出たり入ったりしていて、ひどく苦しそうに見える。
顔とその周りの床が白く濁った臭い液体で汚れている。
この人も。
この人も吐瀉物か。
あの日、口元を押さえた門番さんの指と指の間から吐瀉物が漏れ出す音が脳裏に響く。
そして何故か、私にだけ向けてくれた笑顔も一緒に思い浮かんだ。
この人も。
この人も、ひょっとすると。
普段は整っているだろう茜色の髪が荒れ地のススキみたいに乱れている。
前髪あたりにかかった吐瀉物が乾いて、数条の太い髪が白く固まっている。
小さい粒がいくつも混ざっているのを見ると、直前のご飯は米・人参・ごぼうか。
この人も、おいしそうにご飯を食べるに違いない。
場違いに暢気だが、何となくそう思った。

うぅ。
また唸り声。
愛する番を寝取られた犬か狼が出しそうな音である。
腹部が無数の蛞蝓の形に盛り上がり、中の蛞蝓の動きに合わせて蛞蝓形の膨らみがうぞうぞと蠢く。
どいつも左右の触角をバラバラに動かしている。


その時。

おっ……おぉおぉぉ……ぉごおおおぐぶぅ!
ちゅぽごぼおぉっ!!


ゲロだ

ゲロの噴水だ


仰向けの女の子の口から真上にゲロが噴き上がる。
それはそれは勢いのある噴水だった。
屋根のあたりに付きそうなところまで昇り静止するまで、5秒はかかったように感じた。

極大点で止まったゲロは、思い出したかのように重力に従って落ちていき。
そのまま。
女の子の顔へと。


危ない!!!


気づくと私は、女の子の顔の上に体をかぶせていた。
目をつぶり、じっとしていると。


びぢゃびぢゃびぢゃびぢゃびぢゃびぢゃ

あうっ


背中に落下したゲロが飛沫と化して八方に飛散した。
上空から見たら、まるで花のように広がったのではないだろうか。
などという感想だけみると余裕のようだが、もちろんそんな事はない。
現実感が無さすぎて一歩引いて観察するしかできないのだ。
第一、背中が痛い。
ゲロは意外と重量感があり、降りしきるゲロに背中を殴られたかのようにじんじんと沁みる。



「だ、大丈夫ですか……」

大丈夫な訳があるか。
馬鹿者が。
さっきから間抜けなのだ。
やはり返事はない。

新たに吐いたときに頭が動き、先ほどは前髪に隠れていた女の子の眼が見えた。
髪と同じ茜色の眼が、焦点の合わないその表面に私の姿をそのまま映している。
気絶しているのだろうか。

体内で蠢く蛞蝓は未だ女の子をいぢめるのをやめておらず、むしろゲロを吐くたびに喜んで元気になっているように思えた。
ザコ妖精ごときに何が出来ようか。
人に助けを呼ぶ? この命の灯火はいつ消えてもおかしくはないと思う。
内部の蛞蝓が暴れるさまは、女の子の腹部の皮膚が膨れ萎みの繰り返しで分かる。
風船の膨らみ方をしている。
いつ破裂しても不思議ではない。

私に出来ることなんて……。
女の子の手を取り。

「し、死んじゃダメですっっ!!!!!!」

頼りなく握り返す手のひらを両手で掴み。

「じきに助けは来ます! もう少しの辛抱です!!
 だ、だから!! 死んじゃダメです!!!!!!」

彼女に声をかけ続けるぐらいしかない。
それでも、何もせずにただこの女の子が畜生に蹂躙され続けるのを見届けるのは出来なかった。
助けは来るのか? そういえば入店時にぶつかったあの女の子は?
あいつは何をしている?
そもそもあいつは何をしにここへ来ていたのだろう。


まさか。


「あ、あきゅう……しぬ…あっ……」
「あきゅう? ぼ、僕はただのザコ妖精です!
 あ、あの!! でもダメです!!! 死んではいけません!!!
 気力です!!!!!」


あきゅう?
あの女の子はあきゅうと言うのか?
この子をこんな拷問に掛けたのは、あきゅうという女なのか?

あの女の子は、では残忍な殺人者ではないか…!
あいつ……こんな可憐な女の子に心ない陵辱を施し逃げるとは。
許されない。
殺さねば。
殺してやる。

いや、そんなことより。
この子を何とかして助けねば。
自分に何ができる? なめくじを一体一体破壊する?
そんなことをしたら、限界まで膨張し収縮を繰り返す店主さんのお腹が破裂してしまう!!!!!
意気地のない私は、相変わらず女の子の手を握り、勢いだけの浮わついた言葉をかけ続けることしか出来なかったのだった。


その時は突然やってきた。


遠くで騒がしい声が聞こえてきたと思うと、どんどん近づいてくる。


ぱたぱたぱたぱた……


店の前まで移動し、躊躇無く中へ入りこちらへ来た。

「はあっ、はあっ、はあ……間に合った…」

さっきの女だ。
人殺しと顔に書かれている。
実際にそう刻まれている訳ではないが、私にはその烙印がはっきりと読めた。

「間に合ってませんよ!! ほんとうに痛そうで……可哀想です!! あなたは何をしているのですか!!!!?」
「あぁもううるさいわね。これだから妖精は。とりあえず邪魔」
「なっ……」


ぼかっ


頭蓋の頂点に火でも着いたように熱い。
目の前が暗くなる。

私は。
店主さんのために何もできなかった。
店主さん、ごめんなさい……。
頭がぼーっとして、そのまま床に倒れた。



_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>

夢を見ていた。
真っ暗闇の中、あの店主さんとあきゅうとやらが、彩りは昼間のそれをとどめながら向き合っている。
椅子に座る店主さんと机越しに口論するあきゅう。
ひとしきり終わった後、そっぽを向いて一度離れたあきゅうが、大きなたらいを持って戻ってきた。
たらいの中では水がちゃぷちゃぷと柔らかい音をたてて揺れている。
いや。
白い。
あれは水じゃない。
あれはーー。

『あ、あきゅう! そのたらいの中なに? 何か白くてブヨブヨしてるんだけど……?』
『ふひひひ!! かわいいかわいいおまえはこれから蛞蝓の母として子を成すのです!!!』
『いやあああああ!! それ全部蛞蝓なの!!!?』
『股を開く!!!』
『イヤだイヤだイヤだ!!!!
あそこに蛞蝓詰めないでぇええええええええ!!!!!』
『んふふふ……可愛い♪ もっともっと詰めてあげる……たっくさんの蛞蝓があなたのあそこから生まれるの。
我も我もとあそこから這い出る蛞蝓の洪水の勢いに耐えきれず、あそこが裂けて、お腹が裂けて、お尻も大腸も胃も口腔も、全部あなたの子供でびっしり詰まっちゃうの。
あなたはあそこと口とお尻から蛞蝓を産む、肉穴未満のただの蛞蝓袋になるの!!!!』
『んぎひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!!!!
痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいっぁああああああ』

いけない!!
店主さんを助けるんだ!!!


『お、おまえは誰だ!』
『この子には何の罪も無いだろ!!! 悪は滅ぶのが世の理だ!!! 死ねぇ!!!!!』
『きゃあ! ちょっと何するのよこいつ!!! は、放せ!!!』
『あきゅう……よくもこんな気持ち悪い蛞蝓持ってきたわね……』
『げぇっ!! あんた、さっき詰めたやつは!!??』
『膣の力で全部潰したわよ……。それよりあんた、これを見てよ』
『……自動撹拌器?』
『ミキサーってやつよ。香霖堂さんで雑誌と一緒に買ったの。それよりね、これの中に蛞蝓を入れてね……』
ボトボトボト
『スイッチオン』
ゥィイイイイーーーーーーーーーーン
ブシュウウーーーーゥ
『はい、蛞蝓ジュースの完成ですっ♪』
『おえっ……ちょっとあんた何する気……?』
『さっきの仕返し。ほら、妖精クン。そいつをしっかり押さえててね』
『や、やだぁぁあああああ』
『はい、おいしいおいしい蛞蝓ジュースです♪ ほら口開けて』
『もうやだー!!! おうち帰るーーーーグボっ!!』
『おっ妖精クン、顎持って口開いてくれたのねー助かるーー。じゃあ流し込みまーす。ちゃんと味わってくださいねー♪♪♪』
『ガァっっ!!!! んぶっふーー ぶくぶくぶく むごっ、おぶっ…………』
『飲んで』
『…………んぶぐふっ』
『鼻つまむと息出来なくなって、空気と一緒に口の中のもの飲み込んじゃうって言うよね』
『おぼほぉ…………んっ……んんっっ……ごきゅっ…ごきゅっ……ごきゅっ……』
『すごい喉鳴ってる。おいしそうに飲むね』
『ごきゅ……ごきゅ……ごきゅ…。んぶ……。んぶ、んぼぶぅうぅうううううううう』
ぶしゃあああああああ
『あ〜あ、吐いちゃった。勿体ない。でも大丈夫、たらいの中の蛞蝓はまだまだあるから、吐いちゃった分はまたどんどん飲んでもらうからね!!』
『んごふぶふっ』
ぶしゃあああああ

『無限ゲロ製造マシーンの完成ね』
『ふぶふっ』
ぶしゃあああああ


悪夢だった。
触ったら弾けそうな女の子っぽさを惜しげもなく振りまく女の子たちが、蛞蝓の押しつけあい、吐瀉物の山。
ただ私は少し。
その光景をもう少し見ていたい気もした。
天国かと問われれば、それは間違いなく地獄なのだが、しかし。
薄々気づいてはいたのだ。
気づきたくなかったのだと思う。
しかし今はっきりと理解してしまった。
私は吐瀉物を吐く女の子の表情が大好きなのだ。
恐らく世界で一番。何よりも。

_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>_>


蛞蝓ジュースを吐きまくる地獄絵図を網膜に焼き付けるべく注視していた私の視界は、気がつくとぼんやり明るくなっていた。
屋根が見える。
左右から覗く顔が2つ。
紫色と茜色。

「あっ起きた起きた」
「もう、強く殴りすぎだよ阿求」

がばっと上半身を起こす。

「あれ、えっ、あ……大丈夫ですか!!! あっああああの、えっと……店主さん」
「はいはい弱小妖精は落ち着いて」
「ちょっと阿求、その言い方はないでしょう。一応私の命の恩人なんだし。ごめんなさい妖精クン」
「命の恩人は私でしょ、小鈴」


二人の少女、稗田阿求さん・本居小鈴さんから詳しく話を聞いた。
始まりは小鈴さんの妖魔本だったようだ。
まず小鈴さんのことはこの古本屋の店主さんだと思っていたが、実際は丁稚の役目もつとめる看板娘だったようだ。
一方、阿求さんは阿礼乙女という特別な家系の生まれで、幻想郷の歴史を記録・編纂・管理しているとのことだ。
二人は幼なじみで、また生業からお互いの能力を必要とするため、約束するでもなく勝手に集うようであった。

その小鈴さんは妖魔本なる魔法アイテムにご執心だそうだ。
ついつい中身を読みたくなる悪い癖があって幾度も騒動を起こし、博麗の巫女さんや霧雨魔法店の元気っ娘のお世話になった事も少なくないという。
今回も不用意に妖魔本を開き、中に封印されていた妖怪蛞蝓を解き放ってしまった。
ただその妖怪蛞蝓というのが厄介ということである。

「何でも処女の股の匂いに誘われ、中に強引に入ろうとするんだそうよ」
「気色悪いでしょう? ……妖精クンが見たのは、そいつらに私が襲われてるとこだったんです」
「…いやしかし、尋常な様子ではありませんでした。それこそ、下心とか吹き飛ぶくらいには」
「「……下心?」」
「えっ、あ、あいや、その……」

つい内心が漏れてしまった。
女性は疚しい心を敏感に察知するのだ。
取り繕う余裕もなく、私は下を向いて固まってしまった。

「「ふーん……♪」」

意味ありげに二人が笑う。

「で、いきなり小鈴に襲いかかったのを見て私だけだとどうにも出来そうになかったから助けを呼びに行った訳。三すくみで分かるとおり弱点は蛙だから、博麗神社の守矢神社分社にお願いしたら神奈子さんが出てきて諏訪子神ノ印入り破魔矢をくれたの。」
「霊夢さん文句言いそうですね」
「最初怒鳴られたけどこっちが必死だったから黙ってはくれたわよ。その破魔矢を小鈴のお腹に当てたら一瞬で蛞蝓は全部消えたわ」

何だ。
阿求さんは本当に小鈴さんを助ける準備をしていたのだった。
何度か殺意を燃やしていた気がするのでこっそり反省する。

「ほっ……そうだったんですか。僕はてっきり阿求さんが」
「私が?」

阿求さんの顔が急に至近距離に来た。
危うく唇と唇が触れそうになった。
あごの少し上に阿求さんの鼻息がかかる。

「私が何だって?」
「あっ、あっあっ」
「阿求……まだ早い」
「そうかな」

阿求さんの顔が離れていく。
みずみずしい唇が小さくなっていく。

「その蛞蝓なんだけどね、妖精クン」
「は、はい」
「……体中から出す液体はエッチな液体でね、女の子の大事なところを柔らかくして伸びるようにするんだってさ」
「の、伸びる?」
「女の子のあそこって小さいんですよ…。私、小指が入っただけですっごく痛いもん。でもその蛞蝓から出る汁を浴びたらね、私のあそこ、くにゃくにゃのくぽくぽになっちゃったんです…」
「く、くにゃくにゃのくぽくぽ……」

小鈴さんが背後に回りこみ、私の耳に吐息がかかるほど唇を近づけて語る。

「そしたら私、頭がぼーっとしちゃって……よく分かんなくなっちゃった。この蛞蝓たちがよちよち歩きしてる赤ちゃんみたいに思えてきちゃって。何でか分かんないけど。体がおかしくなると心もおかしくなって、心がおかしくなっても体がおかしくなるみたいなのかなって思うんです。今度はあそこの入り口だけじゃなくて、膣の中までぐにゅって伸びるようになって、蛞蝓たちがどんどん中に入ってきちゃった。でもぜんぜん潰れずに中で暴れるんです」

想像してみるがまったく現実味が湧かない。
それよりも、顔が熱くなるのが分かる。
この状況は何なんだ。

「膣が柔らかくなったらどんどん奥にいって、次は子宮の手前まで来たんです。子宮の入り口は子宮口っていって、壷の入り口が極端に狭まってるのを想像してくれたらいいかな? そこが蛞蝓の汁でもなかなか柔らかくならなくてね、ずっと固いままだったみたいで。あそこの入り口の方から蛞蝓はどんどん奥に入ろうと押してきて、子宮にものすごい力がかかってる感触がしました。私、このまま蛞蝓に子宮が押し潰されて弾けて、子宮の中の汁がぶちゅって噴いちゃうんじゃないかってぼんやり考えてました」

耳に唇が触れる。

「そこであなたが来たんです」
「ぼ、僕がですか」
「あなたが店にやってきた辺りで、蛞蝓の汁で子宮もほぐれたみたいで、子宮の中にどんどん蛞蝓が入ってきました。弛緩した子宮が、内側から引き延ばされ、まるで風船のみたいに伸びて膨らんでいったんです。もう自分の体じゃないみたいだし、痛いのかきもちいいのか分からないし、私壊れる寸前だったんですよ」

なぜ壮絶な描写を耳元で語るのかは分からなかった。

「私のこと呼んでましたよね? あなたが呼びかけてくれたり、手を握ってくれたから、私の心は犯されても壊れなかったんです」

耳の中に細い息が数秒吹き込む。
反射的に両肩がすくむ。

「ありがとう、妖精クン。大好き」

不意打ちの連続に、目線をあわせられない私は俯いたまま、言葉になる以前のただの音声をうぅっと洩らしながら上半身をくねらせる事しかできなかった。

「でもね」

小鈴さんの顔が離れ、こつこつとブーツの音をさせて綿sの目の前へ移動した。

「女の子の座ってた椅子の匂いを嗅ぐのはちょっとね」

忘れていた。
あの時床に寝ていた小鈴さんには、やはり見えていたのか。

「おやおや〜? 私が必死で神社に走ってる間にそんなことしてたの〜?」
「み、見てました?」
「はい! 上に置かれてるものを見ようと机の前でぴょんぴょん跳ねたり、椅子に座って腕組んで難しい顔つくったりして遊んでるとこから」

最初から最後までじゃないか。

「妖精クン、匂い嗅いだあと、一心不乱に舐めてたでしょ? 必死にミルク舐めてる子犬みたいで」

小鈴さんの顔がまた近づく。
頬に唇が当たり、水っぽくて柔らかいものが弾ける音がする。

「すっごく可愛かった」
「え」
「それにすごい量吐いちゃったとき、覆いかぶさって代わりにかぶってくれたよね」
「そりゃすごい! 確かに背中がすごい事になってるけど。小鈴、あんた愛されてるね」
「あ、愛、ですか?」
「妖精クン、私の吐いてるの見て、ちょっと興奮してたでしょ?」

違いない。
それは自分が一番分かっている。

「私のこと、好き?」
「え、う、あ」
「吐いてる私、どうだった?」
「うぅ」
「ちょっと小鈴! 抜け駆けはずるいわよ!!」

今度は阿求さんの顔が近づいた。
と思ったら、舌を思いっきり伸ばして私の頬をなぞるように一舐めした。

「私だって我慢してたんだから」
「ちょ、ちょっと二人とも、急にどうしたんですか? 急に何か、変ですよ?」
「「変なのは妖精クンの方でしょ?」」
「あうぅ」

「変態」
小鈴さんがキスをする。
「変態」
阿求さんがべろべろと頬を舐める。

二人とも目線を見下ろすように維持し、私にしゃぶりついてくる。

「喜んでる」
「変態」
「うぅ」
「可愛いね妖精クン」
「可愛くないです…」
「阿求、舌出して」
「小鈴…舌吸って」

小さく開かれた小鈴さんの唇に阿求さんの丸い舌の先端が入り、唇が尖り、吸いつく。

「阿求の舌おいしい」
「小鈴の唇やわらかい」
「…妖精クン、子犬みたいな顔になってる」
「可愛い」
「好き」
「大好き」

静寂の中、舐める音と吸う音が鈴菜庵に響く。
逃げられない。
しかし。
悪い気分ではない。
二人の女の子に挟まれ、キスされたり舐められたり、二人のおくちエッチを見せつけられたり。
門番さんのところに居着いていたけれど、ここも存外居心地がよいかもしれないと思ったのであった。
作品集24 東方ゲロ娘『嘔吐目撃譚:美鈴』 以来、投稿2作品目です。
友人のツイートで、東方鈴奈庵で稗田さんが本居さんの膣に蛞蝓を詰めまくるエピソードが登場したという旨を見かけたので、居ても立ってもいられず書いてみました。
オチが無くてごめんなさい。
あと、書き上げるだけで力尽きてるので、推敲してません。
余力があれば明日以降手を加えます。ごめんなさい。
もらいゲロさん太郎
作品情報
作品集:
32
投稿日時:
2014/11/11 20:40:21
更新日時:
2014/11/11 22:24:49
分類
小鈴
阿求
ゲロ
ナメクジ
主人公は名無し妖精
1. 爆撃! ■2014/11/12 00:24:19
蛞蝓つめつめうごうごは何だか僕の股間もうごうごしてしまいました
妖精さんの妄想が現実でも嬉しかった!
2. 名無し ■2014/11/12 02:42:10
ハートフルな結末でよかったです。
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