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『ブロッコリースターライト』 作者: 大宇宙の虚無

ブロッコリースターライト

作品集: 32 投稿日時: 2015/07/24 14:56:09 更新日時: 2015/07/24 23:56:09
恋する乙女の魔法には、時に無骨な工具も必要だったりするのです。
愛用のレンチが気持ちよくボキン!と折れてしまったので、魔理沙はホームセンターに新しいレンチを買いに行くことにしました。1年半という長い間お世話になったレンチ(スワロフスキーとキノコの絞り汁でデコレーション済)を失ってしまったのはとても悲しかったのですが、特に流れてもいない涙をぐい、と拭いて、レンチ売り場を探しました。
でも、探せど探せどレンチ売り場は見つかりません。このホームセンターに週4で来ている魔理沙のことですから、見つからないはずはなかったのですが、隅から隅まで探しても、レンチ売り場が無かったのです。まるで最初からレンチ売り場なんて無かったようでした。余談ですが、両替機が34台増えていました。全部新品ぴかぴかです。

おかしいな、と思って店員に声をかけたところ、なんとその店員はパチュリーでした。うっかり競馬でスリまくってしまったので、働いて地道に借金を返しているのでした。
パチュリーは、そもそもレンチという存在を理解していないようでした。使えません、ホームセンターの店員には向いていませんね。イラっとした魔理沙は、パチュリーに軽く5発程腹パンしてからその場を去りました。

魔理沙は困ってしまいました。レンチが無ければ研究を進められません。しかし、幻想郷にホームセンターはこの一軒しかありません。ここにレンチが無いなら、人里の道具屋や質屋を見て回る他ないのですが、もう日が傾いていたので、個人商店を回るのは明日にすることにしました。

なんだか中途半端な気分になった魔理沙は、何を思ったのか福袋を買いました。手ぶらで帰るのも嫌だったのでしょう。


家に帰ると、レンチのことなんてすっかり忘れて、彼女はうきうきしながら福袋を開けました。普通のホッチキス、型落ちの携帯電話の充電器、サイケデリックな柄のグラタン皿、針なしで綴じれるホッチキス、そして「ブロッコリースターライト」とラベルの貼ってある植物栽培キットが入っていました。
ブロッコリースターライトという名前を、魔理沙は初めて知りました。ラベルには簡単な育て方が書いてありました。どうやら食用にできるようです。2日に1回たっぷりと水をあげ、月の光を浴びるとよく育ち、充分に発酵させたBL同人誌を肥料に使う、とのことでした。ラベルの写真には、可愛らしく育ったブロッコリースターライトと思しきものが写っています。この写真に心を奪われ、魔理沙はすっかりこの植物を育てる気になったのでした。(後でわかったことですが、ラベルの写真に写っていたのはカイワレダイコンでした)


次の日から、魔理沙は早速ブロッコリースターライトを育てることにしました。プラスチックの容器に土を入れ、種を蒔き、水をあげると、それだけでなんだか嬉しくなってくるのでした。新しい友達ができたような気分だったのです。
毎日毎日、魔理沙はせっせと水をやったり、話しかけたり、月の光がよく当たる所に置いてあげたりと、ブロッコリースターライトに甲斐甲斐しく世話を焼いてやりました。芽が出た時などは大変な喜びようで、次の日の夕食にお赤飯を炊いた程でした。冷静に考えれば、おかしいくらいブロッコリースターライトにのめり込んでいました。何かおかしな力が働いていたのかもしれません。原因はわかりませんが、とにかく、魔理沙はその植物に夢中になってしまいました。
1ヶ月もすると、魔理沙の中心は完全にブロッコリースターライト中心になってしまいました。月の出と同時に起き、ブロッコリースターライトと夜を過ごし、日の出の頃に眠る生活が続きました。まるでどこぞの吸血鬼のようでした。


さて、その甲斐甲斐しいお世話の結果、ブロッコリースターライトは食べ頃になりました。女性に例えると小学校3年生、ピチピチフレッシュです。しかし、魔理沙は、食べることができませんでした。長い間世話をして、まるで親友のように思っていたからでした。

そんなこんなで数週間が経つと、ブロッコリースターライトに、花の蕾のようなものがつきました。
こうなっては、意地でも花の咲く所を見てみたい、と思うのが人情です。魔理沙はいよいよ寝食を忘れ、ブロッコリースターライトを見つめ続けました。


おおよその人間にとってはたった数日のことでしたが、魔理沙にとっては無限にも思えるような時間が流れました。


魔理沙が仮眠を終え、半分寝ながら蕾を見ていた時でした。突如、蕾から光が漏れ始めたのです。彼女は驚きましたが、まあ、そんな植物もあるのかな、と呑気に思っていました。それよりも大事なのは開花です。いよいよ待ちに待った花が咲くのです。一瞬たりとも見逃すまいと、魔理沙はできるだけまばたきをしないで頑張りました。光は徐々に明るさを増していきます。彼女も根性で目を開け続けました。

そして、蕾が一際強く光ったかと思うと、そこには美しい星が咲いていました。


絶対等級に直せば、1000等星にも満たない小さな小さな星でしたが、星を名前に冠する弾幕を放つ魔理沙には、まごう事なき星だとわかりました。

星にだって、帰巣本能があるのです。生まれたての星は、彼女の目の前で、ゆっくりゆっくり空へと昇っていきました。さよなら、と言うように瞬きを繰り返しながら、千葉県の方向へと向かっていったのです。


ほうけたように立ち尽くしていた魔理沙は、やがて塩の味がすることに気が付きました。そこで初めて、自分が涙を流していたと知りました。雨の日も、風の日も、槍の日も、ずっと一緒にいた相棒との別れだったのですから、無理もありません。彼女はその場に崩れ落ち、わんわん泣き始めました。

三日三晩泣き続けて、少し落ち着いた彼女は、ブロッコリースターライトに水をやっていないのを思い出しました。花はいなくなってしまっても、まだ草の方が残っている。そう思って、水をやりに行くことにしました。
様子を見に行くと、草はまだ元気なようでした。よく見ると種も残っています。これでまたブロッコリースターライトを栽培できるとわかり、彼女はちょっと安心しました。
そのせいなのでしょうか、彼女の頭の中で、小悪魔の囁きがみるみる膨れ上がっていきました。また育てることができるのだから、少しくらい味見してみても構わないのではないか、と。魔理沙は95秒程悩みました。今まで無二の親友のように暮らしてきたそれを食べるなんて、という思いと、親友だからこそ食べてみたいという気持ちが戦って、最終的には後者が勝ちました。
思い立ったら早速、少しだけ葉をちぎり、口に含んでみました。



…………そこから先の記憶が、魔理沙にはありません。気が付くと、彼女は全裸でソファーに寝転んでいました。お気に入りの敷物は愛液でグッショリです。何が起こったのかは、想像に難くありませんでした。

そうです、ブロッコリースターライトには、少々ヤバめの成分が入っていたのでした。


それからというもの、魔理沙はブロッコリースターライトをたくさん育てながら、虚ろな目で今日も楽しく生活しています。
植物を育てられる人が、本当に羨ましいです。
サボテンを放置しすぎて枯らしてしまったことがあるので、僕はもうダメだと思います。

それはそうと、女の子が一番輝いている時期って、小学校中学年ですよね。
大宇宙の虚無
作品情報
作品集:
32
投稿日時:
2015/07/24 14:56:09
更新日時:
2015/07/24 23:56:09
分類
魔理沙
レンチ
パートのパチュリー
植物栽培
1. 名無し ■2015/07/25 12:13:14
良い話でした。読後の余韻を味わいながらマウスホイールを上へと回して、こんなに短い話だったかと思いました。
6KB程度とは思えない濃厚さでした。
2. 名無し ■2015/07/26 14:00:03
咲いた星が空に帰るところで一緒になって感動してたらすんごいオチがあった。
とても面白かったです。
3. 名無し ■2015/07/26 22:36:44
きっとレンチも泣いている
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